説明

イソプラスタン低下剤

【課 題】天然の有効成分を含有する、イソプラスタン低下剤、及び腎機能改善剤を提供する。
【解決手段】以下の(a)又は(b)を含むイソプラスタン低下剤、腎機能改善剤、又は疲労改善剤。
(a) ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質
(b) 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプラスタン低下剤、及び腎機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプラスタン(Isoprostane;イソプロスタンと称されることもある。)は、細胞膜のリン脂質であるアラキドン酸が酸化されることにより生成するプロスタグランジン様の過酸化脂質である(非特許文献1)。細胞膜において生成したイソプラスタンは、細胞膜の流動性に悪影響を与え、ひいては、物質透過性、膜結合蛋白質機能のような細胞機能に障害を与える。
また、イソプラスタンは、肥満(非特許文献2)、高血糖(非特許文献3)、高血圧(非特許文献4)、脂質異常(非特許文献5)などのメタボリックシンドロームに関連する諸因子との相関性が報告されている。
また、イソプラスタンは、それ自体、腎臓に作用し、腎血流量の低下、糸球体ろ過速度の低下といった腎機能低下を引き起こすことが知られている(非特許文献6)。
また、加齢に伴い、体内のイソプラスタン濃度が増大することが知られている(非特許文献7)。
また、過度の運動によってイソプラスタン濃度が増大することが知られている(非特許文献8)。
なお、一般にイソプラスタンは生体の脂質酸化のバイオマーカーとして知られており、酸化ストレスの評価に用いられている。
従って、体内のイソプラスタン濃度を低下させる薬剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.D.morrow et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89: 10721-10725
【非特許文献2】H.Urakawa et.al.(2003)J.Clin.Endocrinol.Metab. 88: 4673-4676
【非特許文献3】G.Davi et al.(1999)Circulation 99: 224-229
【非特許文献4】J.A.Haas et al.(1999)Hypertension 34: 983-986
【非特許文献5】M.P.Reilly et al.(1998)Circulation 98: 2822-2828
【非特許文献6】J.D.marrow et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87: 9383-9387
【非特許文献7】Ward WF et al.(2005)J.Gerontol A Biol.Sci.Med.Sci. 60: 847-851
【非特許文献8】K.Margonis et al.(2003)Free Rad.BiolMed.43:901-910
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然の有効成分を含有する、イソプラスタン低下剤、及び腎機能改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、大豆由来のレシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を摂取することにより、血中及び尿中のイソプラスタン濃度が低下することを見出した。また、このグリセロリン脂質混合物には主要成分として、ホスファチジルセリン(以下、「PS」と略称することもある。)及びホスファチジルイノシトール(以下、「PI」と略称することもある。)が含まれることも見出した。
【0006】
本発明は、これらの知見に基づき完成されたものであり、以下の、イソプラスタン低下剤、腎機能改善剤を提供し、さらに疲労改善剤を提供しうるものである。
項1. ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む、イソプラスタン低下剤。
項2. グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである項1に記載のイソプラスタン低下剤。
項3. ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である項2に記載のイソプラスタン低下剤。
項4. 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む、イソプラスタン低下剤。
項5. ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む、腎機能改善剤。
項6. グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである項5に記載の腎機能改善剤。
項7. ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である項6に記載の腎機能改善剤。
項8. 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む、腎機能改善剤。
項9. ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む、疲労改善剤。
項10. グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである項9に記載の疲労改善剤。
項11. ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である項10に記載の疲労改善剤。
項12. 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む、疲労改善剤。
【発明の効果】
【0007】
PS、及びPIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むグリセロリン脂質混合物は、経口剤、注射剤、座剤などの有効成分として投与することによって、体内のイソプラスタン濃度を低下させることができる。それにより、イソプラスタンが引き起こす諸症状を改善することができ、代表的には腎機能障害を改善することができる。また、肥満、高血糖、高血圧、脂質異常などのメタボリックシンドロームの諸症状、加齢による諸症状、及び疲労、特に身体疲労による諸症状等を改善することが期待される。
また、このグリセロリン脂質は、大豆などの天然物由来の成分であるため安全であり、また自然に優しい方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】肥満モデルラットに、PS・PIを含有する食餌、PSを含有する食餌を与えた場合の血中イソプラスタン濃度を、対照と比較した図である。
【図2】肥満傾向にある人に、PS・PIを含有する製剤を投与した場合の尿中イソプラスタン濃度を、投与前の濃度と比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
(I)イソプラスタン低下剤
本発明の第1のイソプラスタン低下剤は、PS、及びPIからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を有効成分として含む。また、本発明の第2のイソプラスタン低下剤は、植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を有効成分として含む。
本発明の剤は、体内のイソプラスタン濃度、例えば、血液、尿、唾液、涙液、精液、特に、血液、尿のイソプラスタン濃度を低下させる。
【0010】
(1)グリセロリン脂質
本発明の第1のイソプラスタン低下剤において、グリセロリン脂質がPSとPIとの混合物である場合の、PSとPIとの重量比率については、乾燥重量に換算して、PS:PIが約0.5〜20:1であることが好ましく、約1〜10:1であることがより好ましく、約1〜4:1であることがさらにより好ましい。
PSは、SIGMA社、BIOMOL社、日油株式会社などから市販されている。PIは、BIOMOL社などから市販されている。PSとPIとの混合物は、これら市販品を混合することにより調製できる。
また、PIは、大豆、菜種、ひまわり、パームなどの植物由来のレシチンから単離することができる。PIは、また、SLP-WHITE(ホスファチジルコリン(以下、「PC」と略称することもある。)25.6重量%、ホスファチジルエタノールアミン(以下、「PE」と略称することもある。)24.1重量%、ホスファチジン酸(以下、「PA」と略称することもある。)8重量%、PI重量12%、その他約30重量%)、SLP-PIパウダー(PC18重量%、PE22重量%、PA8重量%、PI重量17%、その他約35重量%)(いずれも辻製油製)などの市販レシチンから単離することもできる。PIの単離は、各種のクロマトグラフィーで行うことができる。
【0011】
また、上記原料レシチン(植物由来レシチン及び上記市販レシチン)はPC及びPEを含むため、これらのレシチンにセリン及びホスホリパーゼD(以下、PLDと略称することもある。)を作用させ塩基交換をさせることにより、PSを含むグリセロリン脂質混合物を得ることができる。また、原料レシチンがさらにPIを含む場合、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物を得ることができる。PSを含むグリセロリン脂質混合物は、本発明の第1のイソプラスタン低下剤の有効成分として利用でき、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物は、本発明の第1及び第2のイソプラスタン低下剤の有効成分として利用できる。なお、PI及びPSは、それぞれ、その他のグリセロリン脂質などの夾雑物質が含まれた状態で製剤化することもできる。また、これらのグリセロリン脂質混合物からPS又はPIを単離することもできる。
【0012】
PSとPIとの重量比率(乾燥重量換算)がPS:PI=約0.5〜20:1であるグリセロリン脂質混合物は、出発原料となるレシチンとして、PI重量 に対するPCとPEとの合計重量の比率((PC+PE)/PI)が、乾燥重量に換算して、約25重量%であるものを用いて、上記塩基交換反応を行うことにより得ることができる。上記植物由来レシチン及び上記市販レシチンは、通常この範囲でPC、PE、及びPIを含むが、PC及びPEの含有量が少ない場合は、例えばSLPC55(辻製油製)のような高純度リン脂質を添加することにより、レシチン中のPI重量 に対するPCとPEとの合計重量の比率((PC+PE)/PI)(乾燥重量換算)を約25重量%に調整すればよい。
【0013】
レシチンの塩基交換反応は、例えば、特開2007-014270号公報に記載の方法で行うことができる。
即ち、塩基交換反応を行う前に、レシチンを有機溶媒相と水相からなる二相系中で攪拌すればよい。有機溶媒は特に限定されないが、脂肪族炭化水素、環状脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル類、エーテル類、ケトン類等の公知のものを使用すればよい。水相としては緩衝液が好ましい。緩衝液の酸、塩基及び塩の合計濃度は約0.1〜2Mが好ましい。上記二相系において、水は有機溶媒に対して20重量%以下であることが好ましい。二層系中での攪拌は約10〜40℃の温度で、約30分〜2時間行えばよい。これにより、通常、グリセロリン脂質と有機溶媒と水とのエマルジョンが形成される。
次いで、この混合物にセリン及びPLDを添加するが、塩基交換反応系中のグリセロリン脂質の濃度は約5〜40重量%であることが好ましい。また、本反応系中のセリンの濃度は約20〜40重量%が好ましい。
【0014】
ホスホリパーゼDは、特に限定されず、ナガセケムテックス社製のホスフォリパーゼD、Sigma社製のStreptomyces chromofuscus由来のホスフォリパーゼD、Streptomyces sp.由来のホスフォリパーゼDなどを利用できる。本反応系中におけるホスホリパーゼDの濃度は、グリセロリン脂質1gに対して約5〜200Uとすればよい。なお、1Uは、95%大豆ホスファチジルコリンを基質とし、基質濃度0.16%の0.2M酢酸緩衝液(pH4.0、10mMのCaCl2、1.3%のTriton X-100を含む)を37℃にて反応させた時、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。
塩基交換反応は、約3.5〜10のpH条件で、約10〜40℃の温度で、約1〜72時間行えばよい。
【0015】
上記塩基交換反応により、グリセロリン脂質中のPC、PE等とセリンとが反応してPSが生成する。PIは、上記塩基交換反応においてヒドロキシル基含有化合物と反応し難いので、原料のグリセロリン脂質に含まれるPIはほぼそのまま塩基交換反応後のリン脂質混合物中に含まれる。
塩基交換反応は、PLDを加熱失活させることにより、終了させればよい。さらに、遠心分離法等により有機溶媒相を得たあと、有機溶媒を減圧除去することによって反応混合物を濃縮すればよい。
次いで、アセトン又はエタノールで晶析を行い、固液分離によって固形物を得、乾燥することにより、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物を単離することができる。
【0016】
(2)製剤
本発明の剤には、医薬品、医薬部外品、食品組成物などが含まれる。
【0017】
経口投与剤
本発明のイソプラスタン低下剤が医薬品である場合の剤型としては、代表的には、経口投与製剤が挙げられる。経口投与用の固形製剤としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤などが挙げられ、液体製剤としては、乳剤、液剤、シロップ剤などが挙げられる。中でも、服用し易く味がよい点で、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、カプセル剤が好ましく、顆粒剤がより好ましい。
【0018】
固形製剤は、有効成分であるグリセロリン脂質又はその混合物に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合して調製される。例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニットのような賦形剤;アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースのような結合剤;カルメロース、デンプンのような崩壊剤;無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、グリセロールのような安定剤などが配合される。さらに、ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウなどでコーティングしたり、カプセル化したりしてもよい。また、液体製剤は、例えば、上記の有効成分を、水、エタノール、グリセリン、単シロップ、又はこれらの混液などに、溶解又は分散させることにより調製される。これらの製剤には、甘味料、防腐剤、粘滑剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、着色剤のような添加剤が添加されていてもよい。
【0019】
経口投与剤中のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、以下の通りである。
即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.005〜20重量%であることが好ましく、約0.01〜15重量%であることがより好ましく、約0.01〜10重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.001〜20重量%であることが好ましく、約0.005〜15重量%であることがより好ましく、約0.01〜10重量%であることがさらにより好ましい。
【0020】
また、本発明の第2のイソプラスタン低下剤の場合は、植物由来のレシチンとセリンとホスホリパーゼDとの反応により得られるグリセロリン脂質混合物に含まれるPS及びPIの合計含有量が、製剤全体に対して、乾燥重量に換算して、約0.001〜20重量%であることが好ましく、約0.005〜15重量%であることがより好ましく、約0.01〜10重量%であることがさらにより好ましい。
上記範囲であれば、適量の投与によって十分なイソプラスタン濃度低下作用が得られる。
【0021】
その他の剤型
また、本発明のイソプラスタン低下剤が医薬品である場合、注射剤や座剤などの剤型にすることもできる。
注射剤は、グリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を、注射用蒸留水または生理用食塩水などに溶解又は分散させることにより得ることができる。また、pH調整剤等として水溶性無機酸又はその塩、水溶性有機酸又はその塩、中性アミノ酸、酸性アミノ酸又はその塩、塩基性アミノ酸の塩などが含まれていてもよい。また、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤などが含まれていてもよい。
注射剤中のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、以下の通りである。即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.005〜2.5重量%であることが好ましく、約0.05〜1重量%であることがより好ましく、約0.1〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.002〜2.5重量%であることが好ましく、約0.02〜1重量%であることがより好ましく、約0.08〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。
【0022】
また、本発明の第2のイソプラスタン低下剤の場合は、植物由来のレシチンとセリンとホスホリパーゼDとの反応により得られるグリセロリン脂質混合物に含まれるPS及びPIの合計含有量が、製剤全体に対して、乾燥重量に換算して、約0.002〜2.5重量%であることが好ましく、約0.02〜1重量%であることがより好ましく、約0.08〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。
上記範囲であれば、適量の使用によって十分なイソプラスタン濃度低下作用が得られる。
【0023】
座剤は、グリセロリン脂質を、カルボポール及びポリカルボフィルのようなアクリル性高分子;ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース性高分子;アルギン酸ナトリウム及びキトサンのような天然高分子;脂肪酸ワックスなどの基剤に配合することにより調製できる。また、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラベンのような防腐剤;塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウムのようなpH調節剤;メチオニンのような安定化剤を配合してもよい。
座剤中のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、以下の通りである。即ち、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.1〜5重量%であることが好ましく、約0.2〜3重量%であることがより好ましく、約0.8〜2重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.05〜5重量%であることが好ましく、約0.1〜3重量%であることがより好ましく、約0.5〜2重量%であることがさらにより好ましい。
【0024】
また、本発明の第2のイソプラスタン低下剤の場合は、植物由来のレシチンとセリンとホスホリパーゼDとの反応により得られるグリセロリン脂質混合物に含まれるPS及びPIの合計含有量が、製剤全体に対して、乾燥重量に換算して、約0.05〜5重量%であることが好ましく、約0.1〜3重量%であることがより好ましく、約0.5〜2重量%であることがさらにより好ましい。
上記範囲であれば、適量の使用によって十分なイソプラスタン濃度低下作用が得られる。
【0025】
食品組成物
本発明のイソプラスタン低下剤が食品組成物である場合、組成物中の本発明のグリセロリン脂質の含有量は、約0.02〜30重量%であることが好ましく、約0.05〜20重量%であることがより好ましい。上記範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に、十分に体内イソプラスタン濃度を低下できるだけのグリセロリン脂質が含まれることになる。
【0026】
この食品組成物は、健康食品(サプリメント)として用いるのに適している。また、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)に好適である。
この食品組成物は、食品に通常用いられる賦形剤または添加剤を配合して、錠剤、タブレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤等の剤型に調製することができる。中でも、服用しやすく味が良い点で、錠剤、タブレット剤、顆粒剤が好ましく、顆粒剤がより好ましい。
食品に通常用いられる賦形剤としては、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンのような結合剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコールのような潤沢剤;ジャガイモ澱粉のような崩壊剤;ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤等が挙げられる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0027】
また、この食品組成物は、飲料(スポーツ飲料、ドリンク剤、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、炭酸飲料、野菜飲料、茶飲料等)、菓子類(クッキー等の焼き菓子、ゼリー、ガム、グミ、飴等)を含むものであってもよい。中でも、製剤化の点で、リン脂質との相性がよく、処方の調整が容易である点で、乳飲料が好ましい。
【0028】
(3)使用方法
医薬品
本発明のイソプラスタン低下剤の使用量は、対象の健康状態や年齢などにより異なるが、概ね以下の通りである。即ち、経口投与剤である場合は、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.02〜1.5gであることが好ましい。経口投与剤がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜1.5gであることが好ましい。本発明の第2のイソプラスタン低下剤の場合、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜1.5gとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
また、注射剤である場合は、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜100mgであることが好ましい。経口投与剤がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgであることが好ましい。本発明の第2のイソプラスタン低下剤の場合、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
【0029】
また、座剤である場合は、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜100mgであることが好ましい。経口投与剤がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgであることが好ましい。本発明の第2のイソプラスタン低下剤の場合、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
【0030】
食品組成物
本発明のイソプラスタン低下剤が食品組成物である場合の摂取量は、摂取者の体重や、健康状態、年齢などによって異なるが、PS又はPIの1日摂取量が、乾燥重量に換算して、約0.02〜1.5gであることが好ましい。この食品組成物がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計摂取量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜1.5gであることが好ましい。
【0031】
使用対象
使用対象は特に限定されないが、体内、例えば血液中、尿中のイソプラスタン濃度が高い人を好適な対象にすることができる。具体的には、腎機能障害を有する人や、肥満、高血糖、高血圧、脂質異常などのメタボリックシンドロームになっている人、高齢者、疲れを感じている人、運動等により疲労(特に、身体疲労、肉体疲労)した人(特に、疲労が蓄積した人)などが好適な対象となる。
本発明には、上記説明したグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を哺乳動物、特に人に投与する、体内イソプラスタン濃度低下方法も包含される。
【0032】
(II)腎機能改善剤・疲労改善剤
本発明の腎機能改善剤、及び疲労改善剤は、上記説明したグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を有効成分として含む。本発明の腎機能改善剤、及び疲労改善剤には、医薬品、医薬部外品、食品組成物などが含まれる。その他の構成は、イソプラスタン低下剤について説明した通りである。
また、本発明には、上記説明したグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を哺乳動物、特に人に投与する、腎機能改善方法、及び疲労改善方法も包含される。
本発明において、「改善」には、症状の緩和、治癒、予防(発症の抑制、症状進行の抑制など)等が包含される。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
製造例1(PI・PS含有リン脂質混合物の製造)
大豆レシチン(UltralecP(ADM社))7gをヘプタン・アセトン混合液(ヘプタン:アセトン=4:1)70mLと混合し、溶解させ、レシチン溶液を得た。これとは別に、セリン20g及びPLD(ナガセケムテックス社製)500Uを1M酢酸緩衝液(pH4.5)67mL中に含む酵素含有セリン溶液を調製した。
上記レシチン溶液に酵素含有セリン溶液を加え、30℃にて5時間攪拌した。次いで、この混合液に、上記ヘプタン・アセトン混合液75mL及び塩化ナトリウム20gを加え、1時間攪拌し、これを静置して、水相と有機溶媒相とを分離した後、有機相を回収し、PI及びPS含有有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液は固形分(グリセロリン脂質混合物)8gを含有していた。
その固形分の組成を下記条件のHPLCで調べたところ、次の通りであった。PS 32重量%、PI 21重量%、PC 2重量%、PE 9重量%、PA 13重量%。
【0034】
<HPLC条件>
使用カラム:ジーエルサイエンス社製 Unisil Q NH2(4.6mm I.D.×250mm)
移動相:アセトニトリル/メタノール/50mMリン酸二水素アンモニウム
=1856/874/270
流速:1.3mL/分
検出:UV 205nm
【0035】
製造例2(PS含有リン脂質混合物の製造)
大豆レシチンとしてLipoid S100(Lipoid社)を使用したこと以外は、製造例1と同様にして、PS含有有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液は固形分(グリセロリン脂質混合物)8gを含有していた。その組成を製造例1と同じ方法で調べたところ、次の通りであった。PS 93重量%、PC 0.5重量%、PA 4重量%。
【0036】
[実施例1]
(肥満ラットに対する血中イソプラスタン低下作用)
Zuckerラット(対照群n=5)に下記表1に組成を示すAIN76改変混餌(オリエンタル酵母株式会社製)を4週間与え、Zuckerラット(製造例1群n=5)に下記表1に組成を示すPI・PS含有リン脂質を2%含むAIN76改変混餌(同社製)を4週間与え、Zuckerラット(製造例2群n=6)に下記表1に組成を示すPI・PS含有リン脂質あるいはPS含有リン脂質を2%含むAIN76改変混餌(同社製)を4週間与えた。
【表1】

その後、エーテル麻酔下腹部大動脈から採血し、血清を得、イソプラスタン濃度をELISA(Cayman)で定量した。結果を図1に示す。
PI・PS含有リン脂質を投与した群(製造例1群)、及びPS含有リン脂質を投与した群(製造例2群)共に、対照群に比し、血中イソプラスタン濃度が有意に低かった(Bartlettの分散検定後、Dunnnett法で統計解析。p < 0.05)。
【0037】
[実施例2]
(肥満傾向の人に対する尿中イソプラスタン低下作用)
BMIが23〜30である男性9名に、製造例1のPI・PS含有リン脂質混合物を400mg含む顆粒製剤を、1日1回、8週間服用させた。服用前後の尿を採取し、イソプラスタン濃度を、ELISA(Cayman)で定量した。
結果を図2に示す。図中のイソプラスタン濃度は、イソプラスタン濃度測定値を、尿濃度による影響を補正するために尿中クレアチニン濃度(mg/mL)で割ることにより得られた補正値(ng/mg CRE)である。また、実線は9名の平均値を示す。
PI・PS含有リン脂質を服用することによって、イソプラスタン濃度が有意に低下したことが分かる。(Paired t-testで統計解析。p < 0.01)。
【0038】
処方例
【表2】

牛乳に製造例1と同様にして得られたPI・PS含有リン脂質混合物を混合し、室温で2分間、5000rpmでTKホモミクサーで攪拌した。乳化後、100℃、10分加熱処理した。
【0039】
【表3】

豆乳に上記組成を混合し、室温で2分間、5000rpmでTKホモミキサーで攪拌した。乳化後、100℃、10分加熱処理した。PI・PS含有リン脂質混合物は、製造例1と同様にして調製したものである。
【0040】
【表4】

上記の全ての成分を室温にて混合および撹拌して均一な溶液として、飲料を作製する。PI・PS含有リン脂質混合物は、製造例1と同様にして調製したものである。
【0041】
【表5】

PI・PS含有リン脂質混合物、乳糖、ジャガイモデンプンを均一に混合する。混合物にポリビニルアルコールの水溶液を加え、湿式顆粒造粒法により顆粒を調製する。顆粒を乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを混合し、圧縮打錠して重量300mgの錠剤を作製する。PI・PS含有リン脂質混合物は、製造例1と同様にして調製したものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の剤によれば、体内のイソプラスタン濃度を効果的に低下させることができ、それにより、代表的には腎機能を改善することができ、またメタボリックシンドローム、加齢症状、疲労症状などを改善することができる。従って、本発明の剤は、医薬品、医薬部外品、保健機能食品のような健康食品などとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む、イソプラスタン低下剤。
【請求項2】
グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである請求項1に記載のイソプラスタン低下剤。
【請求項3】
ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である請求項2に記載のイソプラスタン低下剤。
【請求項4】
植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む、イソプラスタン低下剤。
【請求項5】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む、腎機能改善剤。
【請求項6】
グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである請求項5に記載の腎機能改善剤。
【請求項7】
ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である請求項6に記載の腎機能改善剤。
【請求項8】
植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む、腎機能改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−163403(P2010−163403A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8693(P2009−8693)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】