説明

イタコン酸単独重合体又は共重合体を用いた金属表面の不動態化方法

【課題】イタコン酸単独重合体又は共重合体を用いた金属表面の不動態化方法を提供する。
【解決手段】金属表面を、少なくとも一種のイタコン酸単独重合体又は共重合体を含む酸性前処理液を用いて処理することにより、金属表面を不動態化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一種のイタコン酸の単独重合体又は共重合体を含む酸性の前処理液で金属表面を処理することによる金属表面を不動態化する方法に関する。さらに、本発明は、当該方法により得られる不動態化層及び金属表面に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の金属材料の腐食防止処理は、通常、多段式の操作で行われ、処理された金属表面は複数の異なる層を有する。
【0003】
腐食に対する金属成分の保護は、経済的な観点からは非常に重要である。同時に、当該腐食防止において必要とされる要求もまた、より一層、厳しくなっている。例えば、現在では、自動車の最新のモデルは、さびによる穿孔に対して最大で12年もの保障を必要とする。
【0004】
技術的及び経済的の双方において特に重要なものは、アルミニウム表面及び亜鉛めっきされた金属表面、特に電気化学的亜鉛めっき又は溶融亜鉛めっきされた鉄及びスチールの表面の腐食防止処理である。亜鉛を用いた腐食防止は、亜鉛が金属材料自体よりも卑であるため、亜鉛自体から腐食を受け始めるという事実に基づく。金属材料自体は、亜鉛の連続層によって被覆されている間はそのまま残存する。
【0005】
大気酸素の存在下では、初めに薄い酸化被膜がZn又はZn合金、Al又はAl合金の表面上に形成され、外的条件により程度の差はあっても、酸化被膜は金属の下層への腐食攻撃を遅らせる。
【0006】
このような酸化被膜の保護作用を強めるために、通常は、Al及びZnの表面をさらに不動態化処理する。このような処理の間に、保護されるべき金属の一部分が溶解し、すぐに金属表面上の酸化被膜中に再び取り込まれる。この膜は、いかなる場合にも存在する酸化膜と同じであるが、より大きな保護を呈する。通常、これは不動態化層と言われる。多くの場合、この不動態化層は金属に施される塗料層の密着性を改善する。したがって、“不動態化層”という用語に代わって、同意語として“化成コート”という用語もしばしば用いられ、また時には製造プロセス中で処理が行われる時点に基づき“前処理層”又は“後処理層”という用語も用いられる。不動態化層は比較的薄く、通常は3μm以下の薄さを有する。
【0007】
腐食保護を強めるために、さらなる(塗装)層が不動態化層に施されるのが通常である。このような形態には、通常、それぞれが異なる目的を果す二層以上の塗料層の組合わせを含む。これらは、腐食性のガス及び/又は液体に対して、また石がかけるなど物理的な損傷に対して不動態化層及び金属を保護する機能を有し、さらに外観上の目的も当然に果す。塗料層は、通常、不動態化層よりも非常に薄い。通常の薄さは、5μm〜400μmに及ぶ。
【0008】
不動態化は、永久的な腐食防止のため、あるいは一時的な腐食防止のためにのみ用いられる。一時的な防止は、金属シート若しくは他の金属製のワークピースの保管又は輸送のためにのみ用いられ、最終的な処理の前に再び除去される。
【0009】
亜鉛又はアルミニウム表面の不動態化層は、一般的にこれまでは、保護を要するワークピースをCrO3の酸性水溶液で処理することによって得られている。このような不動態化のメカニズムは複雑である。これは、表面からの金属のZn又はAlの溶解、及びそれぞれアモルファスの形態で亜鉛−クロム酸化物又はアルミニウム−クロム酸化物の再沈殿物を含む。しかしながら、当該層は、処理溶液からの余分なイオン及び/又は他の成分を含む。特にクロム酸を用いた処理の場合、特定の割合のCr(VI)の不動態化層への混和を除去することは不可能である。
【0010】
発癌性のCr(VI)溶液を用いた処理を回避するために、酸性のCr(III)水溶液を用いた金属表面の処理を実施する試みがなされている。参考例としては、特許文献1及び2が挙げられる。しかしながら、完全にクロムを含まない不動態化のための処理を必要としている消費者が、ますます市場に存在するようになっている。したがって、Cr(VI)及びCr(III)の使用を回避するためには、重合体の使用が次第に重要性を増している。
【0011】
特許文献3では、Zn又はAlの金属表面の化成コートを製造するためのクロム及びフッ化物を含まない方法が開示されている。不動態化のために用いられる酸性溶液は、水溶性重合体、リン酸、及びAlキレート錯体を含む。また任意に、(メタ)アクリル酸の重合体及び共重合体を使用することもできる。
【0012】
特許文献4では、Ti(IV)及び/又はZr(IV)のヘキサフルオロアニオン、バナジウムイオン、コバルトイオン、及びリン酸を含み、クロムを含まない水性腐食防止組成物が開示されている。また任意に、種々の膜形成重合体(アクリル酸/マレイン酸共重合体などのカルボキシル含有共重合体などが挙げられる)を添加することもできる。
【0013】
特許文献5では、家庭用電化製品における黒色ケースなどの製造用の黒色のスチール板の保護が開示されている。当該金属シートは、金属イオン、水溶性重合体、重合体水分散液、及び酸を含む塗料によって塗装される。一例としては、アクリル酸70%及びイタコン酸30%の水溶性重合体が開示されている。イタコン酸共重合体を用いた金属の不動態化は、引用文献5において開示されていない。
【0014】
特許文献6では、50質量%〜98質量%の重合体水分散液、金属イオン、水溶性重合体及び酸を用いた、金属表面、特に黒色ケースの上塗りが開示されている。一例としては、70%のアクリル酸及び30%のイタコン酸の水溶性重合体が開示されている。特許文献6では、イタコン酸共重合体を用いた金属の不動態化については開示されていない。
【0015】
特許文献7では、金属化合物、水溶性有機樹脂、及び酸からなる組成物を用いた亜鉛めっきスチールシートの処理方法が開示されている。前記重合体は、特に、カルボキシル含有単量体、及び他のカルボキシル含有単量体又はOH含有単量体から形成された共重合体を含む。例としては、70%のアクリル酸及び30%のイタコン酸の共重合体が開示されている。特許文献7では、どのように重合体を調製するかについては何ら開示されていない。
【0016】
本出願人の未公開の出願である(本出願の優先日では未公開)特許文献8では、50質量%〜99.9質量%の(メタ)アクリル酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸を含む0.1質量%〜50質量%の酸性コモノマー、及び任意に0質量%〜30質量%の他のコモノマーの共重合体を用いた金属表面の不動態化方法を開示している。ジカルボン酸としては、イタコン酸などが挙げられる。しかしながら、特許文献7では、イタコン酸重合体の特別な調製方法については何ら開示していない。
【0017】
非常に優れた腐食防止の達成のみならず、不動態化方法、特にクロムを含まない方法もまた直面している一連の技術分野において必要とされている。
【0018】
不動態化は、不動態化する必要があるワークピースを不動態化溶液中に浸漬させることによって行うことができる。この目的のため、ばらばらのワークピース(例えば、ネジなど)をドラム中に設置することもでき、当該ドラムを浸漬させる。また、より大きなワークピースはフレーム上に乗せることもでき、当該フレームを浸漬させる。この浸漬方法については、当業者であれば不動態化溶液と当該製品との接触時間を比較的、自由に決定することができ、したがってかなり薄い不動態化層でも得ることができる。接触時間は、分単位であり得る。この技術が用いられる場合、まず、より複雑なワークピースは、通常はスチール部材を初めに溶接して組み立てた後、全体を亜鉛めっき及び不動態化する。
【0019】
自動車部品、車体部品、計器箱、ファサード被覆金属板(facade cladding)、天井パネル又は窓枠など、シート状の金属製のワークピースを製造するためには、金属シートを打ち抜き、ドリルあけ、折り曲げ、プロファイリング及び/又は深絞りなどの適切な手段を用いて成形する。車体などの大きな部品は、任意に、多くの個々の部品をともに溶接することなどによって組み立てられる。当該目的のための原材料は、通常、長い金属ストリップからなる。これは金属を巻くことによって製造され、保管及び移送のためコイルと言われる形状に巻き取られる。
【0020】
このような金属ストリップの亜鉛めっき及び不動態化は、産業上では、連続式プラントで実施される。亜鉛めっきでは、まず初めに金属ストリップを溶融亜鉛中など亜鉛めっき装置に通過させた後、他の不動態化装置に通過させ、もしくは再びリンス装置などに通過させる。原則として、他の工程段階(例えば、洗浄又はリンス工程、又は不動態化層に第一の塗料層を施すなど)が連続的に実施される。金属ストリップを連続式プラントに通過させる通常の速度は、50〜100m/分である。これは、金属表面と不動態化に用いられる調製液との接触時間が短いことを意味する。通常は、数秒間だけが当該処理に適用される。したがって、産業的に好ましい方法では、短い接触時間のみに対して十分な効果を有しなければならない。
【0021】
【特許文献1】US4,384,902
【特許文献2】WO/40208
【特許文献3】DE−A 195 16 765
【特許文献4】DE−A 197 54 108
【特許文献5】JP−A2001−164377
【特許文献6】JP−A2001−158969
【特許文献7】JP−A2003−027202
【特許文献8】DE 103 53 845
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、本発明の目的は、従来の技術と比較して高い耐食性を付与することができ、十分な不動態化効果を達成するために金属表面と不動態化に用いられる前処理液との接触時間が短くてすむ、Zn、Zn合金、Al又はAl合金の金属表面の改善された(好ましくは塩素を含まない)不動態化方法を提供することである。特に、連続的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、少なくとも一種の水溶性イタコン酸単独重合体又は共重合体を含む酸性前処理液で、金属表面を処理する金属表面の不動態化方法であって、
前記重合体が、下記の単量体単位;
(A)0.1質量%〜100質量%のイタコン酸、
(B)0質量%〜99.9質量%の少なくとも一種のモノエチレン性不飽和モノカルボン酸、及び
(C)0質量%〜40質量%の、前記(A)及び前記(B)以外であって、酸性基を含む、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和単量体、
(D)0質量%〜30質量%の、前記(A)、前記(B)及び前記(C)以外の、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和単量体、及び/又は
(前記含有量は、共重合体に取り込まれた全ての単量体の全量に対するものである)
からなる構成されたものであり、
共重合体が、120℃未満の温度の水溶液中でのフリーラジカル重合により得られたものであることを特徴とする方法を提供する。
【0024】
本発明の一実施形態において、金属表面は金属ストリップの表面であり、さらに好ましくは不動態化を連続的な方法を用いて行う。
【0025】
さらに、本発明は、前記方法により得られた金属表面上の不動態化層、及び前記不動態化層などを有する金属表面を提供する。
【0026】
驚くべきことに、イタコン酸重合体を用いた本発明の方法により得られた金属表面は、アクリル酸−メタクリル酸共重合体などの公知の重合体を用いた場合と比べて、腐食に対して著しい耐性を有することを見出した。特に驚くべきことに、本発明により120℃未満で合成されたイタコン酸共重合体は、当該温度よりも高温で合成されたイタコン酸共重合体よりも非常に優れた耐食性を呈する。
【0027】
本発明により調製されたアクリル酸−イタコン酸共重合体は、アクリル酸−マレイン酸共重合体に対して非常に優れた不動態化をもたらす。前記イタコン酸共重合体は、相当するマレイン酸共重合体よりも低い残留単量体含有量を有する。イタコン酸をマレイン酸に置換することによって、本発明の重合体中のジカルボン酸の割合をより高くすることができる。さらに、これは不動態化特性には有利となる
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の方法により不動態化することができる金属表面は、特に卑金属表面である。当該表面は、例えば、鉄、スチール、Zn、Zn合金、Al又はAl合金などである。
【0029】
本発明の方法は、Zn、Zn合金、Al又はAl合金の金属表面の不動態化方法であるのが特に好ましい。これらは、すべてが前記金属又は前記合金からなる構造体又はワークピースの表面であってもよい。また、これらは、Zn、Zn合金、Al又はAl合金で被覆された構造体の表面であってもよく、この構造体は他の材料(他の材料、合金、重合体又は複合材料など)からなってもよい。前記表面は、特に亜鉛めっきされた鉄又はスチールからなる。本発明の特別な一実施形態では、金属ストリップ、特に電解亜鉛めっき又は溶融亜鉛めっきされたスチールの表面である。
【0030】
Zn合金又はAl合金は当業者に公知である。当業者は、目的とする最終用途に応じて合金化する組成の種類及び量を選択する。溶融法における亜鉛合金の通常の組成は、特に、Al、Pb、Si、Mg、Sn、Cu又はCdを含む。電解的に溶着させた亜鉛合金は、通常、Fe、Co、Ni又はMnを含む。アルミニウム合金の通常の組成は、特にMg、Mn、Si、Zn、Cr、Zr、Cu又はTiを含む。また、前記合金は、Al及びZnがほぼ等量で存在するAl/Zn合金であってもよい。このような合金で被覆されたスチールもまた商業的に利用できる。
【0031】
不動態化に用いられる前処理液は、構造体単位として、イタコン酸単位、必要であればモノエチレン性不飽和モノカルボン酸、また任意に他の単量体からなる一種以上の単独重合体及び/又は共重合体を含む。
【0032】
用いられる重合体は、水溶性、又は少なくとも水分散性である。本発明において“水溶性”という用語は、使用された一種又は複数の共重合体が均一に水に溶解することを意味することを意図している。“水分散性”という用語は、溶液が完全に透明ではないが、その中で重合体が均一に分散し、沈降していないことを意味する。水溶性である重合体が好ましい。
【0033】
用いられる共重合体は、水と高い混和性を有するのが好ましいが、これが全ての場合において絶対に必要というものではない。しかしながら、それらは本発明の方法による不動態化が可能となるような範囲で少なくとも水溶性でなければならない。
【0034】
原則として、使用される共重合体は、少なくとも50g/リットル、好ましくは100g/リットル、より好ましくは少なくとも200g/リットルの溶解性を有するべきである。
【0035】
水溶性重合体の分野における当業者は、水中のCOOH−含有重合体の溶解性はpHに依存し得ることを知っている。したがって、選択する基準点は、特定の最終用途に必要とされる各pHとするべきである。特定のpHで目的の用途には不適当な溶解性を示す共重合体でも、異なるpHでは適当な溶解性を有し得る。
【0036】
本発明において用いられる単独重合体又は共重合体の調製に用いられる単量体(A)は、イタコン酸である:
【0037】
【化1】

【0038】
イタコン酸は、その塩(例えば、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩)の形態で用いることも可能である。さらに、水溶液中で容易にイタコン酸に加水分解するイタコン酸の誘導体(例えば、相当する無水物、モノエステル若しくはジエステル、又は酸アミド)を使用することも可能である。このような誘導体の混合物を使用することも好ましい。
【0039】
本発明により用いられる重合体は、単独重合体、又は好ましくはイタコン酸の共重合体であり得る。
【0040】
重合体中のイタコン酸の量は、0.1質量%〜100質量%、好ましくは10質量%〜50質量%、より好ましくは15質量%〜45質量%、特に好ましくは20質量%〜40質量%、例えば25質量%〜35質量%であり、当該量は重合体中の全ての単量体の合計に基づく。
【0041】
本発明において用いられる重合体は、99.9質量%以下の一種以上の単量体(B)を含んでいてもよい。これらはモノエチレン性不飽和モノカルボン酸である。
【0042】
好ましいモノエチレン性不飽和モノカルボン酸(B)の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、若しくはモノエチレン性不飽和時カルボン酸のC1〜C4モノエステルが挙げられる。好ましい単量体はアクリル酸及びメタクリル酸であり、特に好ましくはアクリル酸である。
【0043】
二種以上の異なるモノエチレン性不飽和モノカルボン酸の混合物を用いるのも好ましい。
【0044】
全ての単量体(B)の量は、好ましくは50質量%〜90質量%、より好ましくは55質量%〜85質量%、特に好ましくは60質量%〜80質量%、例えば65質量%〜75質量%である。
【0045】
任意に本発明の共重合体は、0質量%〜40質量%の、(A)及び(B)とは異なる少なくとも一種の他のエチレン性不飽和単量体(C)をさらに含んでいてもよい。前記単量体(C)は、それぞれの場合において、少なくとも一種の酸性基を有する。それぞれの場合において、それらがモノエチレン性単量体であるのが特に好ましい。前記単量体(C)はフリーラジカル重合が可能である。
【0046】
単量体(C)は、例えば、カルボキシル−含有単量体(C1)、リン酸基及び/又はホスホン酸基を含む単量体(C2)、又はスルホン酸基を含む単量体(C3)であってもよい。
【0047】
また、単量体(C)は、それらの塩(例えば、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩)の形態で用いられてもよい。さらに、水溶液中で遊離酸に容易に加水分解する単量体(C)の誘導体(例えば、無水物、モノエステル若しくはジエステル、又は酸アミド)を使用することも可能である。また、当然のことながら、このような誘導体の混合物も使用することもできる。
【0048】
カルボキシル−含有単量体(C1)の例としては、特に、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸又はメチレンマロン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。好ましい単量体(C1)はマレイン酸及び/又はマレイン酸無水物である。
【0049】
好ましい単量体(C2)の例としては、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェイト、アリルホスホン酸、モノアリルホスフェイト、3−ブテニルホスホン酸、モノ−3−ブテニルホスフェイト、モノ(4−ビニルオキシブチル)ホスフェイト、ホスホンオキシエチルアクリレート、ホスホンオキシエチルメタクリレート、モノ(2−ヒドロキシ−3−ビニルオキシプロピル)ホスフェイト、モノ(1−ホスホンオキしメチル−2−ビニルオキシエチル)ホスフェイト、モノ(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ホスフェイト、モノ(2−アリルオキシ−1−ホスホンオキシメチルエチル)ホスフェイト、モノ(2−アリルオキシ−1−ホスホンオキシメチルエチル)ホスフェイト、2−ヒドロキシ−4−ビニルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホール、及び2−ヒドロキシ−4−アリルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホールなどが挙げられる。塩及び/又はエステル、特にC1〜C8のモノアルキル、ジアルキル、及び必要であればリン酸及び/又はホスホン酸基を含む単量体のトリアルキルエステルを使用することもできる。
【0050】
好ましい単量体(C2)は、ビニルホスホン酸又はそれらの加水分解型エステルである。
【0051】
スルホン酸基を含む単量体(C3)の例としては、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタアクリロイル)エチルスルホン酸、及びこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0052】
当然に2種以上の異なる単量体(C)の混合物もまた使用することができる。カルボキシル基を含む単量体(C1)、及びリン酸基及び/又はホスホン酸基を含む単量体(C2)が好ましい。
【0053】
単量体(C)が存在する場合、それらの量は、好ましくは0.1質量%〜20質量%、好ましくは0.2質量%〜15質量%、特に好ましくは0.5質量%〜10質量%である。
【0054】
単量体(C)がリン酸基及び/又はホスホン酸基、特にビニルホスホン酸を有する単量体を含む場合、5質量%〜40質量%、好ましくは10質量%〜30質量%、より好ましくは12質量%〜28質量%、特に好ましくは20質量%〜25質量%の量が適切であることが実証されている。
【0055】
さらに、任意に、共重合体は、(A)、(B)及び(C)とは異なる、0質量%〜30質量%の、少なくとも一種の他のフリーラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を含んでいてもよい。これの他には、他の単量体は用いられない。
【0056】
単量体(D)は共重合体の特性を微調整する機能を有する。それらは共重合体の所望する特性に従って当業者によって選択される。単量体(D)も同様にフリーラジカル重合ができる。
【0057】
これらも同様にモノエチレン性不飽和単量体であるのが好ましい。しかしながら、特別な場合において、二種以上の重合可能な基を有する単量体を少量、使用することもできる。これは単量体をわずかな程度で架橋させることができる。
【0058】
単量体(D)の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート又はブタン−1,4−ジオールモノアクリレートなど、(メタ)アクリル酸のC1〜C8のアルキルエステル又はC1〜C4のヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステル中のアルコール成分はアルコキシル化アルコールであってもよい。特に、2〜80モルのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、又はこれらの混合物を含むアルコキシル化C1〜C18アルコールである。このようなアルコキシル化生成物の例としては、メチルポリグリコール(メタ)アクリレート又は3、5、7、10又は30モルのエチレンオキサイドと反応したC13/C15オキソアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、及び/又はこれらの混合物、(メチル)スチレン、マレイミド、N−アルキルマレイミド、マレイン酸モノアミド又はマレイン酸モノエステルが挙げられる。
【0059】
また、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ビニル4−ヒドロキシブチルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、2−(ジ−n−ブチルアミノ)エチルビニルエーテル又はメチルジグリコールビニルエーテル、及び相当するアリル化合物などのビニル又はアリルエーテルが好ましい。同様に、酢酸ビニル又はプロピオン酸ビニールなどのビニルエステルからなるものも使用できる。
【0060】
塩基性単量体(basic monomers)の例としては、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、又はN−メチル(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド及びアルキル置換アクリルアミドが挙げられる。さらに、1−ビニルイミダゾール及びN−ビニルピロリドンなどの塩基性単量体を使用することもできる。
【0061】
架橋単量体の例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はブタン−1,4−ジオールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのポリ(メタ)アクリレート、又はジ−、トリ−又はテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のオリゴアルキレン又はポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートなどの二種以上のエチレン性不飽和基を有する分子が挙げられる。他の例としては、ビニル(メタ)アクリレート又はブタンジオールジビニルエーテルなどが挙げられる。
【0062】
当然のことながら、異なる単量体(D)の混合物を使用することもできる。共に用いられる全ての単量体(D)の量は、当該方法で用いられる全ての単量体の全量に対して、0質量%〜30質量%である。前記量は、好ましくは0質量%〜20質量%、より好ましくは0質量%〜15質量%、特に好ましくは0質量%〜10質量%である。架橋単量体(D)が存在する場合、それらの量は、当該方法で使用される全ての単量体の全量に対して、通常は5質量%以下、好ましくは2質量%以下である。前記量は、例えば10ppm〜1質量%であってもよい。
【0063】
目的とする不動態化において使用される単量体の性質及び量は当業者が選択する。その際に、重合体が水溶性又は水分散性であるべきかという事実を考慮に入れる。したがって、重合体の水溶性を損なう恐れのある単量体は、不利な作用が生じないような量でのみ当業者によって用いられる。
【0064】
特に好ましくは、約25質量%〜30質量%のイタコン酸及び約70質量%〜75質量%のアクリル酸、約26質量%〜28質量%のイタコン酸及び約72質量%〜74質量%のアクリル酸の共重合体である。
【0065】
さらに、特に好ましくは、約23質量%〜30質量%のイタコン酸、約67質量%〜75質量%のアクリル酸、及び約0.1質量%〜10質量%のビニルホスホン酸、特に約25質量%〜27質量%のイタコン酸、約68質量%〜70質量%のアクリル酸、及び約3質量%〜5質量%のビニルホスホン酸の三元重合体である。
【0066】
本発明の他の実施形態では、約10質量%〜30質量%のイタコン酸、約50質量%〜70質量%のアクリル酸、及び約10質量%〜30質量%のビニルホスホン酸、特に約15質量%〜25質量%のイタコン酸、約55質量%〜65質量%のアクリル酸、及び約15質量%〜25質量%のビニルホスホン酸の三元重合体も好ましいことが示された。
【0067】
使用される単量体は、水溶液中でフリーラジカル重合されている。
【0068】
“水溶”という用語は、用いられる溶媒又は希釈剤が主成分として水を含むことを意味する。しかしながら、水の他、水混和性の有機溶媒がわずかに含まれていてもよい。これは、反応媒体中での特定の単量体、特に単量体(D)の溶解性を改善するためなどに、必要とされ得る。
【0069】
使用される溶媒又は希釈剤は、溶媒の全量に対して、少なくとも50質量の水を適宜、含む。この他、一種以上の水混和性溶媒を使用することもできる。エタノール, プロパノール又はイソプロパノールなどのモノアルコール、グリコール、エチレングリコール又はポリアルキレングリコールなどのジアルコール、又はそれらの誘導体などのアルコールについて特に言及がなされる。好ましいアルコールは、プロパノール及びイソプロパノールである。水の割合は、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも80質量%、特に好ましくは少なくとも90質量%である。最も特に好ましくは水のみが用いられる。
【0070】
フリーラジカル付加重合の処理は、原理上は当業者に公知である。
【0071】
フリーラジカル付加重合は、適切な重合開始剤を用いることによって始められるのが好ましい。しかしながら、他の方法として、例えば、適切な放射線などを用いることによって引き起こされてもよい。フリーラジカル開始剤は、反応溶媒中で溶解すべきであり、好ましくは水溶解性であるべきである。
【0072】
熱活性化重合開始剤のうち、30〜150℃、特に50〜120℃の範囲内の熱分解温度を有する開始剤が好ましい。この温度形態は、通常、10時間半減期と言われる。
【0073】
開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸、特に、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、好ましくはペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ硫酸塩、ヒドロペルオキシド、過炭酸塩及び過酸化水素などの無機ペルオキソ化合物等、重合条件下でフリーラジカルに分解する全ての化合物を使用でき、これらはレドックス開始剤と呼ばれる。水溶性開始剤を使用するのが好ましい。特定の場合では、過酸化水素と、ペルオキソ二硫酸カリウム又はナトリウムとの混合物など、異なる開始剤の混合物を使用するのが好ましい。過酸化水素とペルオキソ二硫酸ナトリウムとの混合物を、望ましい割合で用いることができる。
【0074】
好ましい有機ペルオキソ化合物は、過酸化ジアセチル、ジ−tert−ブチルペルオキサイド、ジアミルペルオキシド、ジオクチルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(o−トルオイル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、tert−ブチルペルアセタート、tert−ブチルペルマレアート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペルビバル酸、tert−ブチルペルオクチル酸、tert−ブチルペルネオデカノエート、tert−ブチルペルペルベンゾアート、tert−ブチルペルオキサイド、tert−ブチルヒドロペルオキサイド(水溶性)、クメンヒドロペルオキサイド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサのアート、及びジイソプロピルペルオキしジカルバメイトなどである。
【0075】
さらに好ましい開始剤は、アゾ化合物である。同様に、これらは有機溶媒中で溶解性であってもよく、例えば、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオナート)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)である。しかしながら、好ましくは、それらは水中で溶解性であり、例えば、2,2'−アゾビス[2−(5メチル−2−イミダソリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]−二硫酸塩−ニ水和物、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]−四水和物、2,2'−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}−二塩酸塩、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]−二塩酸塩、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)−二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]−二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}である。
【0076】
さらに好ましい開始剤は、レドックス開始剤である。レドックス開始剤としては、酸化成分として、上述した少なくとも一種のペルオキソ化合物、及び還元成分として、アスコルビン酸、グルコース、ソルボース、アンモニウム又はアルカリ金属亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、次亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩又は硫化物又はヒドロキシメチルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。レドックス系触媒中の還元成分としては、アスコルビン酸又はピロ亜硫酸ナトリウムを用いるのが好ましい。重合において用いられる単量体の量に対して、レッドクス系触媒に用いられる還元成分の量は、1×10-5〜1モル%である。
【0077】
開始剤及び/又はレドックス開始剤化合物との組合わせでは、さらに、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム及びマンガンの相応する塩など、遷移金属触媒を使用することもできる。好ましい塩の例としては、硫酸鉄(II)、塩化コバルト(II)、硫酸ニッケル(II)、及び塩化銅(II)が挙げられる。還元遷移金属塩は、通常、単量体の合計に対して0.1〜1000ppmの量で使用される。特に好ましい組合わせは、単量体の全量に対してそれぞれ0.5質量%〜30質量%の過酸化水素と0.1質量%〜500ppmのFeSO4×7H2Oの組み合わせとして、過酸化水素と鉄(II)塩との組み合わせである。
【0078】
好ましい光開始剤の例としては、アセトフェノン、ベンゾインエーテル、ベンジルジアルキルケトン、及びこれらの誘導体である。これらは、水中で、不溶解性又は実質的に不溶解性であるが、アルコール中では溶解性であるのが好ましい。これにより、分散が達成される。
【0079】
熱重合開始剤を使用するのが好ましく、水溶性アゾ化合物及び水溶性ペルオキソ化合物などが好ましい。任意で0.1〜500ppmのFeSO4×7H2Oとの組み合わせで、無機ペルオキソ化合物、さらに過酸化水素、特にペルオキソ二硫酸ナトリウム又はそれらの混合物が特に好ましい。最も好ましくは過酸化水素である。
【0080】
特定の他の悪影響を与えない条件下で、異なる開始剤の混合物を用いることもできる。その量は、目的の共重合体に従って当業者により決定される。原則としては、全ての単量体の全量に対して、0.05質量%〜20質量%、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.2〜8質量%の開始剤が使用される。
【0081】
さらに、原理上は公知である方法において、メルカプトエタノールなどの適切な調整剤を使用することもできる。調整剤は用いないのが好ましい。
【0082】
また、重合を塩基の存在下で行うのが好ましい。当該手段によって、単量体の酸性基、特にカルボキシル基が、完全に又は部分的に中和されている。
【0083】
用いられる塩基としては、例えば、NaOH、KOH又はNH3などが挙げられる。アミンも同様に好ましい。
【0084】
好ましいアミンの例としては、直鎖状、環状及び/又は分岐状のC1〜C8モノ−、ジ−及びトリアルキルアミン、直鎖状及び/又は分岐状のC1〜C8モノ−、ジ−又はトリアルカノールアミン、特にモノ−、ジ−又はトリアルカノールアミン、直鎖状及び/又は分岐状のC1〜C8モノ−、ジ−又はトリアルカノールアミン、オリゴアミン及びポリアミン(例えば、ジエチレントリアミン又はポリエチレンイミン)の直鎖状及び/又は分岐状のC1〜C8アルキルエーテル、モルホリン、ピペラジン、イミダゾール及びピペリジンなどの複素環式アミン、又はベンゾトリアゾール又はトリルトリアゾールなどの特定の芳香族アミンなどが挙げられる。また、アミンは、アルコキシル化、特にエトキシル化されていてもよい。当該手段によって、比較的、長いアルキル鎖を有するアミンの水溶性を向上できる。
【0085】
当業者はアミンの中から適切な選択を行う。
【0086】
直鎖状及び/又は分岐状のC1〜C8モノ−、ジ−又はトリアルカノールアミンが好ましく、モノ−、ジ−及びトリエタノールアミン及び/又は相当するエトキシル化生成物が特に好ましい。
【0087】
塩基を用いた場合、中和度は、通常は、単量体の全ての酸性基の全量に対して、30モル%以下にすべきである。中和度は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0088】
最も特に好ましくは塩基を用いない。
【0089】
塩基は、重合の前又は間に添加することができる。重合の前に、又は重合の開始までに添加するのが好ましい。塩基は、一度に、又は最大限で全反応時間に相当する時間内に添加することができる。塩基は単量体供給材料に添加することもできる。塩基は、重合が開始する前の初充填において含まれているのが好ましい。
【0090】
本発明によれば、重合は120℃未満の温度で実施する。これとは別に、使用される単量体の性質、開始剤及び目的の結果に従って、温度は当業者によって広い制限内で変えることができる。当該事実において証明されているのは、約60℃の最低温度である。温度は、重合の間、一定に維持することができ、又は温度分布を操作することができる。重合温度は、75〜115℃、より好ましくは80〜110℃、特に好ましくは90〜108℃、最も好ましくは95〜105℃である。
【0091】
重合は、フリーラジカル付加重合用の通常の装置で実施することができる。水の沸点、又は水と他の溶媒との混合物の沸点を越えて操作する場合、操作は圧力容器中で行い、そうでない場合は大気圧で行う。重合は、大気圧で実施するのが好ましい。重合は、例えば、還流下で実施することができる。
【0092】
重合に関連して、初充填において水溶液中にイタコン酸及び/又はそれらの誘導体が含まれるのが好ましい。その後、水溶液中にモノカルボン酸及び開始剤を同様に適当に測量導入することができる。適切なことが証明された供給時間は、0.5時間〜24時間、好ましくは1時間〜12時間である。
【0093】
当該方法では、水溶液中でより高く反応するモノカルボン酸の濃度は比較的、低く維持する。これは、それ自体との反応に対するモノカルボン酸の性質を減じ、共重合体へイタコン酸単位のより均一な取り込みを生じる。用いられる単量体(C)及び/又は(D)がゆっくり反応する場合、同様に、これらはイタコン酸とともに初期充填時に含まれるのが好ましい。しかしながら、これらは、後に液状で添加することもできる。全ての単量体が測量充填された後、例えば、0.5〜3時間の後反応時間があってもよい。これは重合反応が可能な限り完了するように進行することを確実にする。
【0094】
当業者は、当然に、他の方法により当該重合を行うこともできる。
【0095】
合成された重合体は、当業者に公知の方法(例えば、当該溶液を蒸発させる方法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、又は沈殿法など)を用いて水溶液から分離される。
【0096】
しかしながら、特に好ましくは、重合の後、前記重合体は水溶液から完全に分離しないのが好ましい;代わりに、得られた重合体溶液をそのまま使用する。
【0097】
このような直接的な他の使用をより簡単にするために、水性溶媒の量を、溶媒中の重合体の濃度が最初から当該目的に適するような量にすべきである。特に好ましいことが証明された濃度は、全ての成分の合計に対して、15質量%〜70質量%;好ましくは20質量%〜65質量%、より好ましくは25質量%〜60質量%、例えば45質量%〜55質量%である。
【0098】
本発明の重合体は、水中で又は少なくとも50質量%の水含有量の水性混合溶媒中で、溶解性又は少なくとも分散性がある。当業者はCOOH−高含有重合体の溶解性は高いpH−依存性があることを知っている。したがって、ここでは重合体が不動態化に使用される際のpH値、言い換えると酸性溶液、特に0.5〜6の範囲のpHについて説明する。“水分散性”という用語は、溶液が完全に透明ではないが、溶液中で重合体が均一に分布し、沈降していないことを意味する。当該重合体は、水溶性の重合体であるのが好ましい。
【0099】
重合体溶液のpHは、通常は5未満であり、好ましくは4未満であり、より好ましくは3未満である。
【0100】
共重合体の分子量MW(質量平均)は、5000〜2,000,000g/モル、好ましくは少なくとも10,000g/モル。より好ましくは少なくとも15,000g/モルである。一般的に、MWは20,000g/モル〜1,000,000g/モル、好ましくは30,000g/モル〜900,000g/モル、より好ましくは40,000g/モル〜80,000g/モル、特に好ましくは50,000〜700,000g/モルである。これは、当業者により目的とする最終用途に応じて決定される。
【0101】
本発明において用いられる重合体又は共重合体の前処理液は、酸性の水溶性調製物である。
【0102】
本発明の重合体は、特に金属表面を処理するために用いることができる。当該目的のため、本発明の重合体は、特に相当する調製物の成分(例えば、洗浄剤、酸洗い溶液、腐食防止組成物及び/又は不動態化用調製物の成分など)として用いられる。
【0103】
本発明の共重合体は、金属表面の不動態化用に又は金属上への不動態化層の形成用に用いられるのが特に好ましい。“不動態化層”という用語に代えて、“化成コート”及び“前処理層”という用語も同意語としてしばしば用いられる。本発明の共重合体は、クロムを含まない不動態化に特に好適である。
【0104】
本発明の重合体を用いることによって、いかなる金属表面も処理する、特に不動態化することができる。しかしながら、当該表面は、低又は高合金スチールの表面又はZn、Zn合金、Al又はAl合金の表面であるのが好ましい。これらは、全てが前記金属及び/又は前記合金からなる構造体又はワークピースの表面であってもよい。代わりに、Zn、Zn合金、Al又はAl合金で被覆された構造体の表面であってもよく、前記構造体が他の材料(例えば、他の材料、合金、重合体又は複合材料)からなってもよい。当該表面は、特に亜鉛めっきされた鉄又はスチールからなってもよい。当該方法の特別な実施形態において、当該表面は、金属ストリップ、特に電解亜鉛めっき又は溶融亜鉛めっきされたスチールの表面である。他の好ましい実施形態において、当該表面は、自動車の車体の表面である。
【0105】
Zn合金又はAl合金は当業者に公知である。当業者は、目的の最終用途に応じて合金にする成分の種類及び性質を選択することができる。溶融処理用の亜鉛合金の通常の成分としては、特にAl、Pb、Si、Mg、Sn、Cu又はCdが挙げられる。電解で析出させたZn合金における通常の合金成分は、Ni、Fe、Co及びMnである。アルミニウム合金における通常の成分は、特に、Mg、Mn、Si、Zn、Cr、Zr、Cu又はTiである。
【0106】
また、前記合金は、Al及びZnをほぼ等量で含むAl/Zn合金であってもよい。このような合金で被覆されたスチールも商業的に利用できる。
【0107】
共重合体に用いられる溶媒及び希釈剤は、水又は少なくとも50質量%の水を含む水性混合溶媒である。水性混合溶媒を用いる場合、前記混合溶媒は、少なくとも65質量%、より好ましくは少なくとも80質量%、特に好ましくは少なくとも95質量%の水を含むのが好ましい。前記量は、それぞれ、全ての溶媒の全量に対する。混合溶媒の他の成分は、水混和性溶媒であればよい。例えば、メタノール、エタノール、又はプロパノールなどのモノアルコール、エチレングリコール又はポリエーテルポリオールなどの高級アルコール、及びブチルグリコール又はメトキシプロパノールなどのエーテルアルコールが挙げられる。
【0108】
好ましくは、溶媒として水のみを使用する。
【0109】
前処理液における共重合体の濃度は、目的とする最終用途に応じて当業者によって決定される。不動態化層の厚さは、例えば、選択した製造技術などによって決まるが、不動態化に使用される成分の粘度にも依存し得る。好ましい温度は、一般的には、0.01g/リットル〜500g/リットル、好ましくは0.1g/リットル〜200g/リットル、より好ましくは0.5g/リットル〜5g/リットルである。上述した濃度は、すぐに使用できる状態の前処理液に対する。通常は、初めに濃度を調整することができ、水又は任意に他の混合溶媒を用いて所望する濃度に希釈する。
【0110】
本発明において用いられる前処理液は酸性である。通常は、0.5〜6のpHを有し、用途の基板及び方法に従って、また表面を前処理液に曝す間の時間に従って、より狭いpH範囲の選択が可能となる。一例として、pHは、アルミニウム表面を処理するためには2〜4の範囲が好ましく、亜鉛又は亜鉛めっきされたスチールを処理する場合には1〜5の範囲に調整される。
【0111】
一方、前処理液のpHは、COOH−含有重合体又は共重合体の性質及び濃度を介して制御でき、これに応じて機械的に生じる。本発明において、前処理液の結果として、重合体中のCOOH基が特定の条件下で完全に又は部分的に中和されたものを概念に含む。
【0112】
代替の選択として、前記前処理液は少なくとも一種の有機酸若しくは無機酸、又はこれらの混合物をさらに含んでいてもよい。好ましい酸の例としては、リン酸、硫酸などのリン、硫黄又は窒素の酸、メタンスルホン酸、アミドスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸及びこれらの誘導体などのスルホン酸、硝酸、フッ化水素酸、塩化水素、ギ酸又は酢酸などが挙げられる。前記酸は、HNO3、H2SO4、H3PO4、ギ酸及び酢酸よりなる群から選択されるのが好ましい。H3PO4及び/又はHNO3が特に好ましい。また、好ましくは、異なる酸の混合物を使用することもできる。
【0113】
逆に、適切であれば、pHを高くするために塩基を用いてもよい。
【0114】
リン酸の例としては、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボキシル酸(PBTC)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)又はジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP)などが挙げられる。
【0115】
前記前処理液における酸の性質及び濃度は、目的とする最終用途及びpHに従って当業者により決定される。一般的には、0.01g/リットル〜30g/リットル、好ましくは0.05g/リットル〜3g/リットル、より好ましくは0.1g/リットル〜5g/リットルである。
【0116】
前記前処理液は、任意に他の記載したもの以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0117】
前記成分としては、例えば、Ce、Ni、Co、V、Fe、Zn、Zr、Ca、Mn、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Bi、Cr及び/又はランタノイドの遷移金属イオン及び遷移金属化合物などが挙げられる。また、前記成分は、例えば、Si及び/又はAlなどの主族元素の化合物であってもよい。前記化合物は、それぞれアクア錯体の形態などで使用することができる。しかしながら、それらは、Ti(IV)、Zr(IV)又はSi(IV)のフッ化物錯体、MoO42-又はWO42-などのオキソメタレートなどの他の配位子を有する錯体であってもよい。さらに、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)又はメチルグリシン二酢酸(MGDA)など、通常のキレート形成配位子を有する錯体を使用することもできる。
【0118】
他の任意の成分として、表面活性化合物、腐食防止剤又は通常の電気めっき助剤が挙げられる。目的とする用途に応じてそれらの量について、当業者が任意の成分の中から適切に選択することは、原理上は可能である。イタコン酸共重合体と組合わせて用いることができる特に好ましい腐食防止剤の例としては、ベンゾトリアゾール及び/又はトリルトリアゾールが挙げられる。
【0119】
その特性を適切に調整するために、前記調製物は、さらなる成分として他の水溶性重合体を含んでいてもよい。このような重合体の例としては、上述した成分に単に一致しないカルボキシレート基を含む重合体が特に挙げられる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と酸性基を含む他の単量体(例えば、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸又はビニル酢酸など)との共重合体などが挙げられる。このような他の(共)重合体の量は、当業者により不動態化層の所望する特性に従って決定される。しかしながら、前記量は、通常は、用いられる全ての重合体の量に対して、30質量%以下、好ましくは20質量%、より好ましくは10質量%である。
【0120】
不動態化は、実質的にクロムを含まない不動態化であるのが好ましい。これは、不動態化層の特性を微調整するために多くても少量のクロム化合物を添加できることを意味し得る。前記量は、前記成分の全ての構成要素に対して、2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下のクロムを含む。クロム化合物を用いる場合、Cr(III)化合物を用いるのが好ましい。しかしながら、それぞれの場合において、Cr(VI)の含有量を非常に低く維持すべきであり、不動態化金属におけるCr(VI)の量は1mg/m2以下である。
【0121】
特に好ましくは、不動態化はクロムを含まない不動態化であり;言い換えると、用いる前処理液がCr化合物を全く含まない。しかしながら、“クロムを含まない”という表現は、当該方法への少量のクロムの意図していない間接的な同伴自体を除外するものではない。本発明の方法が、Cr−含有スチールなど、合金化する成分としてクロムを含む不動態化合金を使用する場合、処理されるべき金属中の少量のクロムは、当該方法に用いられる前処理液に溶解され、意図的ではなく前処理液中へ移る限度内である。このような金属が用いられるそれぞれの場合では、得られた結果物とともに、当該方法は“クロムを含まない”と見なされるべきである。
【0122】
金属表面を不動態化する本発明の方法では、前記金属の表面を、スプレー法、ディッピング法、又はロール塗布法などにより、前処理液を用いて処理する。ディッピング操作の後、余分な処理溶液は、それをドリップドライすることによってワークピースから除去することができ;金属シート、金属箔の場合には、余分な処理溶液は、他の方法としてスクイージング又はスキージングなどによって除去することもできる。処理部の過程において、使用される少なくとも一種の重合体及び前処理液の他の成分は、金属表面によって化学吸着するので、前記表面と前記成分との間に固体結合が生じる。前記前処理液との処理は、通常、室温または室温以上で行われるが、これは原則としてより低い温度の可能性を除外するものではない。一般的には、前記処理は、20〜90℃、好ましくは25〜80℃、より好ましくは30〜60℃で行われる。当該目的のため、前記調製物を含む溶液を加熱することができるが、熱い金属の前記溶液中への浸水により、自動的に高温となり得る。
【0123】
処理の後、前記前処理液の残留物を前記表面から除去するために、洗浄液、特に水を用いて前記表面を洗浄処理することができる。
【0124】
前記処理は、他の方法として、洗浄しないで、処理溶液を処理後にすぐに乾燥機中で直接、乾燥させる、いわゆるノーリンス(no−rinse)処理であってもよい。
【0125】
前処理液及び架橋剤を用いた金属表面の処理は、不連続的に、又は特に連続的に行われる。連続的な方法は、特に金属ストリップを処理するのに好ましい。金属ストリップは、溝又は前処理液を用いた噴霧装置を通過させ、また任意に溝又は噴霧装置を経由させ、また任意に他の前処理又は後処理工程を経る。
【0126】
処理時間は、前記層の目的とする特性、処理に用いた成分、及び技術的な境界条件に従って当業者により特定される。処理時間は、1秒をほとんど満たしていなくともよく、又は2分以上であってもよい。連続的な方法の場合、前記表面を前処理液と、1〜60秒間、接触させるのが特に好ましいことが示された。
【0127】
前記処理の後、用いた溶媒を除去する。溶媒は、室温、空気中での簡単な蒸発により、室温で除去することができる。
【0128】
一方、溶媒の除去は、処理表面上への加熱及び/又はガス流、特に空気流の通過等によって、適当な補助装置を用いることにより促進される。前記溶媒の蒸発は、例えば、IRエミッター(IR emitter)を用いて、又はトンネル乾燥機中で乾燥させることによって促進させることができる。乾燥のためには、30〜160℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃の温度が好ましいことが示された。当該温度は、金属表面上の温度を意味する;これはより高い度合いでの乾燥温度を設定する必要があり得、これは当業者により適切に選択される。
【0129】
さらに、本発明の方法は、任意に、1種以上の前処理工程を有していてもよい。例えば、グリース又はオイルを除去するためなどに、不動態化の前に金属表面を本発明により使用される前処理液で洗浄することができる。また、酸化物沈着物、スケールの除去、一時的な腐食防止のためなどに、不動態化の前に前記表面を酸洗いすることもできる。必要であれば、このような前処理工程の後又は間に、前記表面を水で洗浄し、洗浄溶液又は酸洗い溶液を除去することがさらに必要である。
【0130】
不動態化層はさらに架橋されていてもよい。このため、架橋剤が前記前処理液では反応しないものであれば、前処理液に架橋剤を混合することができる。代わりの方法では、まず金属を前処理液で処理した後、例えば、架橋剤の溶液を噴霧するなど、適切な架橋剤で前記層を処理する。
【0131】
好ましい架橋剤は、水溶性、又は上述した水性混合溶媒中で少なくとも溶解するものでなければならない。好ましい架橋剤の例としては、アジラン(azirane)基、オキシラン基、又はチイラン基から選択される少なくとも二種の架橋基を有するものが特に挙げられる。好ましい架橋剤としては、さらなる説明は、本出願人の出願であるWO2005/042801に開示されており、参照することにより本願に組み込まれる。
【0132】
本発明の方法は、金属表面上に不動態化層を得ることを可能にする。不動態化層の精密な構造及び組成は本出願人が知っている。しかしながら、アルミニウム又は亜鉛、必要に応じて他の金属の通常のアモルファス酸化物、必要に応じて架橋剤及び/又は前処理液の他の成分に加えて、前記層は重合体の反応生成物を含む。不動態化層の成分は、通常は均質ではない;むしろ、前記成分は濃度勾配を呈するように見える。
【0133】
不動態化層の厚さは、前記層の目的の特性に従って当業者により調整される。通常、前記厚さは、0.01〜3μm、好ましくは0.1〜2.5μm、より好ましくは0.2〜2μm、最も好ましくは0.3〜1.5μm、例えば1〜2μmである。前記厚さは、用いた成分の性質及び量によって、また暴露時間によって左右され得る。さらに、例えば、過度に施された処理溶液を除去するためにローラー又はスキージーを用いるなど、前記厚さに影響を及ぼすために当該方法の技術的要素を使用することができる。
【0134】
前記層が1kg/リットルの比重を有するという仮定の下に、本発明の方法により用いた組成物に金属表面をさらす前及び後に重さが異なっていることで、前記層の厚さを決定することができる。以下、本明細書中では、“層厚さ”とは、前記層の実際の比重に関わりなく、当該方法により決定される変量を常に意味する。これらの薄い層は、優れた耐食性を有する。この種の薄い層は、不動態化されたワークピースの寸法を維持するのを確実にする。
【0135】
さらに、本明細書は、本発明の不動態化層を含む金属表面を提供する。不動態化層は、実際の金属表面上に直接に施される。好ましい実施形態において、金属表面はZn又はZn合金の塗膜を含むスチールの金属ストリップの表面であり、本発明の不動態化層が施される。また、前記表面は、本発明の不動態化層で被覆されている自動車の車体の表面であってもよい。
【0136】
当該不動態化層を有する金属表面は、原理上は、公知の方法において、一層以上の着色又は染色塗料層で上塗りされていてもよい。通常の塗料、その組成物、及び二層以上の塗料層の場合には通常の配列は、原理上は、当業者に公知である。
【0137】
本発明の不動態化は、異なる処理工程で用いることができる。例えば、スチール製造業者の施設内で行うことができる。この場合、スチール片を連続的な方法で亜鉛めっきすることができ、亜鉛めっきした後すぐに本発明により使用される前処理液を用いた処理により不動態化することができる。当該工程では、しばしば、不動態化を“後処理”とも当業者により言われる。
【0138】
不動態化は、保管の経過における及び/又は他の工程段階の間での腐食に対して保護する機能を一時的に与えるものであってもよいが、常置の腐食防止が施される前に再び除去される。アルカリ水溶液を用いた洗浄により、酸性の共重合体を表面から再び除去することができる。
【0139】
他の方法として、前記処理は、帯状物又は完全に形成されたワークピース上にとどまり、他の塗膜を付与する常置の腐食防止処理であってもよい。当該工程での不動態化は、しばしば当業者により“後処理”とも言われる。
【0140】
不動態化された、及び必要な場合には塗装された金属シート、帯状物又は他の半仕上げの金属製品を、例えば自動車の車体など、金属製のワークピースの形状にするため、さらなる処理をすることができる。これは、通常、少なくとも一種の分離工程及び一種の形成工程を必要とする。その後、各部品からよりより大きな部品を組み立てることもできる。形成は、通常は工具と接触させ、構成要素の形状の変形を含む。形成は、例えば、圧延又はエンボスなどの圧縮形成、低温延伸、深絞り、ロール曲げ又はプレス曲げなどの引張圧縮形成、伸ばす又は広げるなどの伸張形成、曲げる、エッジ曲げ又はエッジングなどの屈曲形成、及びねじり又は転移などのせん断形成などを含む。
【0141】
本発明の不動態化法は、比較的高い温度で得られたイタコン酸共重合体を用いた場合に、非常により優れた腐食防止を達成する。
【実施例】
【0142】
下記実施例は、本発明をより詳細に説明するためのものである:
測定方法:
K値は、25℃、1質量%強度の水溶液中、H.Fikentscher、Cellulose−Chemie、第13巻、58〜64及び71〜74ページ、(1932)の方法により測定した。MWはゲル透過クロマトグラフィーを用いて決定した。
【0143】
重合体の調製
比較例1:
75質量%のアクリル酸及び25質量%のマレイン酸の共重合体
アンカー撹拌棒、温度制御装置及び窒素注入口を有する6リットル加圧反応器に、脱イオン水1リットル中の無水マレイン酸480g及び硫酸鉄22.5mgを装填した。
【0144】
当該初期装填物を、窒素雰囲気下、115〜120℃で加熱した。当該温度に到達した時に、脱イオン水1.2リットル中のアクリル酸1670gを4時間の間に均一な速度で測量導入し、30%強度の過酸化水素溶液115g及び脱イオン水300mgを5時間の間に均一な速度で測量導入した。重合の間、慎重な圧力の開放により、圧力を3〜4バールに維持した。
【0145】
冷却により、45.6%の固形成分含有量及び26.0のK値(脱イオン水中1%)を有する、黄色がかった透明の重合体溶液を得た。
【0146】
比較例2:
アクリル酸/イタコン酸(73/27)の共重合体、加圧反応器中、120℃での重合
アンカー撹拌棒、温度制御装置、窒素注入口及び2個の供給口を有する6リットル加圧反応器に、イタコン酸444g、硫酸鉄七水化物15.5mg、及び脱イオン水889gを装填した。
【0147】
当該初期装填物を、窒素雰囲気下、120℃で加熱した。温度が到達した時に、アクリル酸1188.0g及び脱イオン水926gからなる供給流1を、5時間の間に均一な速度で測量導入し、過酸化水素(30%強度)81.6g及び脱イオン水177gからなる供給流2を、6時間の間に均一な速度で測量導入した。供給流1の終了後、脱イオン水133gをさらに添加した。反応混合物を120℃でさらに2時間、撹拌した。重合の間、慎重な圧力の開放により、圧力を3〜4バールに維持した。バッチを水で希釈した。
【0148】
冷却により、17.9%の固形成分含有量及び83.5のK値(脱イオン水中1%強度)を有する、黄色がかった透明の重合体溶液を得た。1H NMRスペクトルではイタコン酸は検出されなかった。
【0149】
実施例1
アクリル酸及びイタコン酸(73/27)の共重合体、100℃での未加圧重合
撹拌羽根及び内部温度計を有する撹拌されているるつぼ中で、イタコン酸111.0gを脱イオン水250gに溶解させ、硫酸鉄(II)七水化物3.875mgを添加した後、溶液をわずかな還流で加熱した(内部温度:98℃)。続いて、5時間の間にアクリル酸297.0g及び脱イオン水398.0gからなる供給流1、及び6時間の間に過硫酸ナトリウム6.12g及び水180gからなる供給流2を添加した。供給流1の終了後、系を98℃で、さらに2時間、撹拌した。これにより、36.4%の固形成分含有量及び59.6のK値(脱イオン水中1%強度)を有する、黄白色の透明の重合体溶液を得た。1H NMRスペクトルではイタコン酸は検出されなかった。
【0150】
実施例2
アクリル酸及びイタコン酸(73/27)共重合体;100℃での未加圧重合
撹拌羽根及び内部温度計を有する撹拌されているるつぼ中で、イタコン酸111.0gを脱イオン水250gに溶解させ、硫酸鉄(II)七水化物3.875gを添加した後、溶液をわずかな還流で加熱した(内部温度:98℃)。続いて、5時間の間にアクリル酸297.0g及び脱イオン水398.0gからなる供給流1、及び6時間の間に水180g中の過酸化水素(30%強度)20.4gからなる供給流2を添加した。供給流1の終了後、系を98℃で、さらに2時間、撹拌した。バッチを全量が750gの水で複数回に別けて希釈した。これにより、15.0%の固形成分含有量及び115.2のK値(脱イオン水中1%強度)を有する、黄白色の透明の重合体溶液を得た。1H NMRスペクトルではイタコン酸は検出されなかった。
【0151】
実施例3
アクリル酸、イタコン酸及びビニルホスホン酸(69/26/5)の三元重合体;100℃での未加圧重合
撹拌羽根及び内部温度計を有する撹拌されているるつぼ中で、イタコン酸111.0gを脱イオン水250gに溶解させ、硫酸鉄(II)七水化物3.875mgを添加した後、溶液をわずかな還流で加熱した(内部温度:98℃)。続いて、5時間の間にアクリル酸297.0g、ビニルホスホン酸22.7g及び脱イオン水346.0gからなる供給流1、及び6時間の間に水180g中の過酸化水素42.8gからなる供給流2を添加した。供給流1の終了後、系を98℃で、さらに2時間、撹拌した。バッチを全量が700gの水で複数回に別けて希釈した。これにより、21.2%の固形成分含有量及び37.8のK値(脱イオン水中1%強度)を有する、黄白色の透明の重合体溶液を得た。
【0152】
実施例4
アクリル酸、イタコン酸及びビニルホスホン酸の共重合体
撹拌羽根及び内部温度計を有する撹拌されているるつぼ中で、イタコン酸161.3g及びビニルホスホン酸152g(95%)を、脱イオン水200gに溶解させ、硫酸鉄(II)七水化物703mgを添加した後、溶液をわずかな還流で加熱した(内部温度:98℃)。続いて、5時間の間にアクリル酸430.0g及び脱イオン水455gからなる供給流1、及び6時間の間に水180g中の過硫酸ナトリウム42.5gからなる供給流2を添加した。供給流1の終了後、系を98℃で、さらに2時間、撹拌した。バッチを全量が700gの水で複数回に別けて希釈した。これにより、48.8%の固形成分含有量及び28.2のK値(脱イオン水中1%強度)を有する、黄白色の透明の重合体溶液を得た。
【0153】
金属表面の不動態化
金属表面及びその前処理:
それぞれアルカリ亜鉛めっき又は溶融亜鉛めっきしたスチールシート(約100×190×0.7mm;20μm 亜鉛添加)を用いて試験を実施した。
【0154】
アルカリ亜鉛めっきスチールシート(AV)を洗浄溶液(0.5%HCl+0.1%Lutensol(登録商標) AP 10、BASF社製)中に約5秒間浸し、脱イオン水ですぐに洗浄し、送風により乾燥させた。
【0155】
溶融亜鉛めっきスチールシート(HV)を50℃、120秒、アルカリ油性洗浄剤に浸し、脱イオン水ですぐに洗浄し、送風により乾燥させた。
【0156】
本発明の前処理液の使用
合成した重合体を水中に溶解し(固形成分含有量5質量%)、均一化して、ディップ槽に導入した。洗浄した金属シートを、50℃の温度に調整された前記重合体溶液中に直接、30秒間浸し、RTで乾燥させた。不動態化シートの端のマスクを除去した。
【0157】
差異の秤量
前記層が1kg/リットルの比重を有するという仮定の下で、金属表面を組成物に接触させた前と後とで質量の差異を量ることにより、各層の厚さを測定した。以下、本文中、常に“層厚さ”とは、前記層の実際の比重に関わりなく、当該方法により決定された変数を意味する。
【0158】
差異の秤量により決定された層厚さは、1.5〜3μmの間であった。
【0159】
耐性時間を塩水噴霧吹付け試験により決定した。
【0160】
試験方法
塩水噴霧試験
DIN 50021に準拠した塩水噴霧試験の結果を、腐食抑制効果の測定に使用した。腐食試験における耐性時間を、どのような腐食損傷が観察されるかによって規定した。
【0161】
−直径1mmを超える白点が通常、形成された場合(Zn酸化物又はAl酸化物、白錆として公知)、記録された耐性時間は、DIN EN ISO10289(2001年4月、annex B、19ページ)における評価レベル8に相当する損傷の出現後の時間である。
【0162】
−直径1mm未満の黒点が白色錆点の前に通常、形成された場合(特に亜鉛上に不動態化層を有する)、記録された耐性時間は、DIN EN ISO10289(2001年4月、annex A、19ページ)における評価レベル8に相当する損傷の出現後の時間である。
【0163】
試験燃焼室体積:400リットル
DINに準拠して測定された噴霧ミスト処理量:2.2ミリリットル/時間
試験の結果を表1に示す。
【0164】
【表1】

【0165】
実施例及び比較例では、120℃未満の重合温度でのイタコン酸重合体を用いた本発明の不動態化方法によれば、より高い温度での重合により調製されたイタコン酸重合体を用いた場合よりも、非常に優れた腐食防止が達成できることが示された。また、当該効果は、アクリル酸−マレイン酸共重合体の効果よりも高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のイタコン酸単独重合体又は共重合体を含む酸性前処理液で、金属表面を処理することによる、金属表面の不動態化方法であって、
前記重合体は、下記の単量体単位;
(A)0.1質量%〜100質量%のイタコン酸、
(B)0質量%〜99.9質量%の少なくとも一種のモノエチレン性不飽和モノカルボン酸、及び
(C)0質量%〜40質量%の、前記(A)及び前記(B)以外であって、酸性基を含む、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和単量体、及び/又は
(D)0質量%〜30質量%の、前記(A)、前記(B)及び前記(C)以外の、少なくとも一種の他のエチレン性不飽和単量体、
(前記含有量は、共重合体に組み込まれた全ての単量体の全量に対するものである)から構成されるものであり、且つ
前記重合体が120℃未満の温度で水溶液中におけるフリーラジカル重合により得られたものであることを特徴とする方法。
【請求項2】
イタコン酸の量が10質量%〜50質量%であり、モノエチレン性不飽和モノカルボン酸の量が50質量%〜90質量%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イタコン酸の量が20質量%〜45質量%である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
単量体(C)の量が、0.1質量%〜40質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
単量体(C)における酸性基が、カルボン酸基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
単量体(C)がビニルホスホン酸を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
重合体が、55質量%〜65質量%のアクリル酸、15質量%〜25質量%のイタコン酸、及び15質量%〜25質量%のビニルホスホン酸の三元重合体である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
重合が90〜105℃の温度で行われる請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
金属表面が、Zn、Al、又はこれらの合金からなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
実質的にクロムを含まない方法である請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
処理が、ロール塗布法、スプレー法、又はディッピング法を用いて行われる請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
金属表面が、金属ストリップの表面である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
金属ストリップが、電解亜鉛めっき又は溶融亜鉛めっきされたスチールである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
処理が連続法で行われる請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
表面を、1〜60秒間、前処理液と接触させる請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
調製物がベンゾトリアゾール及び/又はトリルトリアゾールをさらに含む請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の方法により得られた金属表面上の不動態化層。
【請求項18】
厚さが0.01〜3μmである請求項17に記載の不動態化層。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の不動態化層を有する金属表面。
【請求項20】
不動態化層の上に、交互に積層された一層以上の塗料層が設けられている請求項19に記載の金属表面。
【請求項21】
自動車車体の表面である請求項20に記載の金属表面。
【請求項22】
請求項19又は20に記載の表面を有し、Zn又はZn合金の塗装を有するスチールの金属ストリップ。

【公表番号】特表2008−510603(P2008−510603A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528660(P2007−528660)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008445
【国際公開番号】WO2006/021309
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】