説明

イミノ脂質を含む両性リポソーム

本発明は、アニオン性部分とカチオン性部分の混合物を含む外側表面であって、該カチオン性部分の少なくとも一部分が生理学的条件下で本質的に電荷イミノ部分である外側表面を有する脂質集合体、リポソーム、ならびに細胞の血清抵抗性トランスフェクションのためのその使用に関する。一部の実施形態では、脂質集合体に、ペグ化脂質も含まれ、かかる実施形態の好ましい態様では、工程(i)活性成分の存在下でのリポソームの形成および密封、ならびに工程(ii)前記工程(i)後のPEG−脂質の別個の添加を含む方法によってリポソームが作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、リポタンパク質媒介性取込み遮断が解決され得る脂質集合体またはリポソームに関する。より詳しくは、本発明は、カルボキシル頭基(carboxylic head group)またはリン酸頭基(phosphate head group)を極性領域内に有する負電荷脂質と、イミノ部分もしくはグアニド部分またはその誘導体を極性領域内に有する正電荷脂質の両方に含むリポソームの改善に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リポソームは、活性成分の担体として広く使用されている。中性または負電荷のリポソームは、多くの場合、小分子薬物の送達に使用されるが、正電荷の(カチオン性)または最近紹介された類型である両性のリポソームは、主に、プラスミドまたはオリゴヌクレオチドなどの核酸の送達に使用される。運搬体(cargo)核酸の送達に使用されているカチオン性リポソームの重要な例としては、限定されないが、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;de Fougerolles,Nat.Rev.Drug Discov.(2007)6:443−453;Kimら,Mol.Ther.(2006)14:343−350;Morrissey,Nat.Biotech.(2005)23:1002−1007;Peer,Science(2008)319:627−630およびSantel,Gene Ther.(2006)13:1222−1234が挙げられる。核酸の送達のための両性リポソームの適用は、Andreakosら,Arthritis Rheum.(2009)60:994−1005に示されている。
【0003】
両性リポソームはpH感受性リポソームの大ファミリーに属しており、該ファミリーには、さらに、pH感受性のアニオン性またはカチオン性のリポソームが含まれ、その基本型は、Laiら,Biochemistry(1985)24:1654−1661およびBudkerら,Nat.Biotech.(1996)14:760−764に示されている。pH感受性のアニオン性またはカチオン性のリポソームとは異なり、両性リポソームは複雑な構造であり、相補的な電荷を有する少なくとも1対の脂質を含む。特許文献1には、低pHと中性pHの両方において安定な相を有するという両性リポソームの枢要な特徴が開示されている。特許文献1および特許文献2には、低いpHから開始させる核酸のかかる粒子への負荷方法が記載されている。
【0004】
Hafezら(Biophys.J.2000,79(3),1438−1446)および特許文献1には、真に両性の性質を有する脂質混合物をどのようにして選択するのか、より詳しくは、等電点および膜融合の開始をどのようにして測定するのかに関するいくつかの手引きが示されている。中性脂質は、両性リポソームの付加的構成要素であり得る。1種類以上のかかる中性脂質が含まれると、特に、すべての成分の個々の量が変動し得るため、該混合物に複雑度が有意に付加される。可能な脂質の組合せの数が非常に多いことが、両性リポソームのより迅速な最適化に対する実用上のハードルとなっている。これに関して、特許文献3には、両性リポソームの安定性、膜融合性および細胞トランスフェクションの最適化のためのストラテジー、特に、どの脂質混合物が、高pHおよび低pHでは満足のいく安定なラメラ相を形成するが、中間pHでは膜融合性の、六方相を形成するかを予測する方法が示されている。
【0005】
前述の参考文献による両性リポソームは、強力な細胞トランスフェクト体である。しかしながら、一部のこのようなリポソームの機能は、特定の血清の添加によってブロックされ、それにより、潜在的に、インビボでの特定の細胞の標的化に対するこのようなリポソームの活性が制限されることがあり得ることが観察された。これを、本明細書において提示する実施例(例えば、実施例3)で、さらに例示する。
【0006】
種々の血清で観察される両性リポソームの取込みの阻害は、一見、最近公表されたリポタンパク質(この場合は、ApoE)との複合体形成によるカチオン性担体の活性化(Akincら,Mol.Ther.(2010),出版前に5月11日に電子公開,DOI:10.1038/mt.2010.85に示されている)と反対である。
【0007】
より詳細な研究により、リポタンパク質が、この阻害効果の媒介因子であることが明らかになった。本明細書において実施例4に示すように、リポタンパク質を欠乏させたヒト血清では、刺激負荷細胞へのsiRNAの機能性送達によって示されるように、リポソームの取込みは、もはや阻害され得なくなる。本発明者らは、驚くべきことに、そして予期せず、ここに、特定の種のカチオン性イミノ脂質を、カルボキシル部分またはリン酸部分を極性頭基内に有するアニオン性脂質と組み合わせることが、血清の存在下でのトランスフェクション活性の維持に特に好都合であることを見い出した。特定の利点は、前記脂質混合物から創出した脂質集合体またはリポソームを、本明細書および特許文献3に記載の方法に従って製剤化した場合、高頻度で観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第02/066012号
【特許文献2】国際公開第07/107304号
【特許文献3】国際公開第08/043575号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sempleら,Nat.Biotech.(2010)28:172−176
【非特許文献2】Akincら,Nat.Biotech.(2008)26:561−569
【非特許文献3】Chienら,Cancer Gene Ther.(2005)12:321−328
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的
したがって、本発明の目的は、種々の血清の存在下で細胞をトランスフェクトすることが可能な脂質集合体またはリポソームを提供することであった。
【0011】
本発明の別の目的は、活性薬剤または活性成分、例えば、核酸薬物(例えば、オリゴヌクレオチド)などの薬物およびプラスミドを細胞または組織に送達するための担体として、かかるリポソームを含む医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、脂質集合体、リポソームおよびその細胞トランスフェクションのための使用を提供する。ここで、前記脂質集合体は、アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質を含み、該カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分は、pH7.5で実質的に荷電したイミノ脂質であり、該アニオン性両親媒性物質はカルボキシル脂質またはリン酸脂質(phosphate lipid)であり、さらに、該カチオン性両親媒性物質と該アニオン性両親媒性物質との間の電荷比率は1.5以上である。
【0013】
本発明の種々の実施形態において、アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質を含む脂質集合体を提供し、ここで、該カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分は、生理学的条件下で実質的に荷電したイミノ脂質であり、さらに、該アニオン性両親媒性物質の少なくとも一部分はカルボキシル脂質、該カチオン性両親媒性物質と該アニオン性両親媒性物質との間の該比率は1.5であるか、またはそれより小さい。
【0014】
本発明のより具体的な態様では、カチオン性脂質とアニオン性脂質の脂質の組合せを含み、前記組合せの該カチオン性脂質がグアニド部分を含み、前記組合せの該アニオン性脂質がカルボキシル基を含む脂質集合体であって、さらに、該グアニド部分と該カルボキシル基間の該比率が1.5であるか、またはそれより小さいことを特徴とする脂質集合体を提供する。
【0015】
本発明の他の実施形態では、アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質を含み、該カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分が、生理学的条件下で実質的に荷電したイミノ脂質であり、さらに、該アニオン性両親媒性物質の少なくとも一部分がリン酸脂質であり、該カチオン性両親媒性物質と該アニオン性両親媒性物質との間の該比率が1.5であるか、またはそれより小さい脂質集合体を提供する。かかる実施形態のさらに好ましい態様では、イミノ脂質がグアニド脂質である。
【0016】
本発明のカチオン性両親媒性物質の荷電したイミノ基は、7.5より大きいpKを有し、イミン、アミジン、ピリジン、2−アミノピリジン、複素環式窒素塩基、グアニド部分、イソ尿素またはチオイソ尿素から選択される。好ましい実施形態では、カチオン性脂質は、PONA、CHOLGUA、GUADACA、MPDACAまたはSAINT−18の群から選択される。
【0017】
好ましい実施形態では、アニオン性脂質は、CHEMS、DMGS、DOGS、DOPAまたはPOPAの群から選択される。
【0018】
多くの実施形態では、本発明の脂質集合体はリポソームである。
【0019】
さらなる実施形態では、脂質集合体に、コレステロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンもしくはスフィンゴミエリンなど、またはその混合物の中性脂質も含まれる。
【0020】
好ましい実施形態では、中性脂質はコレステロールであり、脂質混合物中のコレステロールのモル分率は10〜50mol%である。
【0021】
一部の実施形態では、脂質集合体に、ペグ化脂質も含まれ、かかる実施形態の好ましい態様では、工程(i)活性成分の存在下でのリポソームの形成および密封、ならびに工程(ii)前記工程(i)後のPEG−脂質の別個の添加を含む方法によってリポソームが作製される。
【0022】
アニオン性とカチオン性部分の混合物を含む外側表面であって、該カチオン性部分の少なくとも一部分が生理学的条件下で本質的に電荷イミノ部分である外側表面を有する脂質集合体またはリポソームを用いると、血清抵抗性トランスフェクションを行なうことができることが予期せずに見い出された。数多くの実施形態において、本発明の脂質集合体およびリポソームは、WO08/043575に記載され、また、本明細書においてもより詳細に記載する方法を用いて製剤化される。
【0023】
発明の詳細な説明
脂質の化学
「荷電性の」により、両親媒性物質が4〜pH8の範囲のpKを有することを意図する。したがって、荷電性の両親媒性物質は弱酸または弱塩基であり得る。電荷両親媒性物質に関連する「安定な」は、pKがこの範囲外であり、pH4〜pH8の範囲で実質的に安定な電荷をもたらす強酸または強塩基を意味する。
【0024】
「両性」により、本発明では、アニオンの性質とカチオンの性質の両方をもつ電荷基をを含む物質、物質の混合物または超分子複合体(例えば、リポソーム)を意図し、ここで、
1)カチオン性両親媒性物質とアニオン性両親媒性物質の少なくとも一方、任意選択で両方が荷電性であり、少なくとも1つの電荷基を有し、pK4〜8である、
2)pH4ではカチオン電荷が優勢である、および
3)pH8ではアニオン電荷が優勢である。
【0025】
その結果、該物質または物質の混合物は、pH4〜pH8の中性の正味電荷の等電点を有する。両性イオンは上記の範囲内のpKをもたないため、この定義では、両性の性質は両性イオンの性質と異なる。結果として、両性イオンは、一連のpH値において本質的に中性電荷のものであり;ホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミンは、両性イオンの性質を有する中性脂質である。
【0026】
「電荷比率」または「C/A」により、本明細書では、カチオン性両親媒性物質とアニオン性両親媒性物質のそれぞれに通常割り当てられる公称電荷比率の絶対値または計数(modulus)を意図する。カルボキシル基の公称電荷は「−1」であり、リン酸部分のものは「−2」であり、イミノ化合物の公称電荷は「+1」である。そのため、両親媒性物質の所与の混合物または脂質集合体の「電荷比率」は、これらの公称電荷と、考慮対象の化合物のそれぞれのモル分率の積から計算され、中性化合物、例えば、コレステロールまたは両性イオンの両親媒性物質(POPCまたはDOPEなど)は考慮に入れない。
【0027】
【化1】

式中、xc1...nは所与のカチオン性化合物のモル分率を表し、xa1...nはアニオン性化合物のモル分率を表し、zc1...nは所与のカチオン性化合物の公称電荷を表し、za1...nはアニオン性化合物の公称電荷を表す。一例として42mol%のカルボキシル脂質、38%のイミノ脂質および20mol%の中性脂質を含む混合物は、38/42=0.91の電荷比率またはC/Aを有する。27%のリン酸脂質、43mol%のイミノ脂質および30mol%の中性脂質を含む別の混合物は、リン酸基の公称電荷が2倍になるため、43/54=0.8の電荷比率またはC/Aを有する。
【0028】
該定義および実例から、脂質間のモル比または(簡潔にする目的で)比率と電荷比率は、単一の電荷種については同じ意味を有すること、およびこれらの用語は、その基において互換的であり得ることが明らかとなろう。これは、例えば、イミノ脂質とカルボキシ脂質との組合せの場合である。これとは対照的に、該モル比は、リン酸脂質(この化合物は、例えば、第一リン酸エステルとして存在する場合(DOPAの場合)のように、リン酸基が二重電荷を有し得るため)の電荷比率と異なる。そのため、上記の計算例に示すように、該モル比または脂質比は電荷比率の2倍になる。単に明瞭にする目的で、本開示全体を通して用語「電荷比率」を優先的に使用する。
【0029】
「生理学的pH」または「生理学的条件」により、本明細書では、pH約7.5を意図する。
【0030】
カルボキシル部分を極性頭基内に含むアニオン性脂質は、当業者によく知られている。カルボキシル部分を極性頭基に含むアニオン性脂質の例は、以下の構造(1)〜(4)
【0031】
【化2】

から選択され得、式中、nまたはmは0〜29の整数であり、RおよびRは、互いに独立して、8〜24個の炭素原子と0、1または2つの不飽和結合を有するアルキル、アルケニルまたはアルキニル部分であり、A、BまたはDは、互いに独立して、非存在、−CH2−、−CH=、=CH−、−O−、−NH−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−O−C(O)−NH−、−NH−C(O)−O−、リン酸ジエステルまたは亜リン酸ジエステルであり、「ステロール」は、自身のC3原子を介して結合されたコレステロールであり得る。
【0032】
以下のリストは、カルボキシル基を有する脂質のさらなる具体例を示す。
【0033】
CHEMS コレステロールヘミスクシネート
Chol−COOHまたはChol−C1 コレステリル−3−カルボン酸
Chol−C2 コレステロールヘミオキサレート
Chol−C3 コレステロールヘミマロネート
Chol−C3N N−(コレステリル−オキシカルボニル)グリシン
Chol−C5 コレステロールヘミグルタレート
Chol−C6 コレステロールヘミアジペート
Chol−C7 コレステロールヘミピメレート
Chol−C8 コレステロールヘミスベレート
Chol−C12 コレステロールヘミドデカンジカルボン酸
Chol−C13N 12−コレステリルオキシカルボニルアミノドデカン酸
Chol−C16 コレステロールヘミヘキサデカンジカルボン酸
下記の一般式:
【0034】
【化3】

(式中、Zは、Cまたは−NH−であり、nは、0〜29の任意の数である)
のコレステロールヘミジカルボン酸およびコレステリルオキシカルボニルアミノカルボン酸
DGSまたはDG−Succ ジアシルグリセロールヘミスクシネート(不特定の膜アンカー)
DOGSまたはDOG−Succ ジオレオイルグリセロールヘミスクシネート
DMGSまたはDMG−Succ ジミリストイルグリセロールヘミスクシネート
DPGSまたはDPG−Succ ジパルミトイルグリセロールヘミスクシネート
DSGSまたはDSG−Succ ジステアロイルグリセロールヘミスクシネート
POGSまたはPOG−Succ 1−パルミトイル−2−オレオイルグリセロール−ヘミスクシネート
DOGM ジオレオイルグリセロールヘミマロネート
DOGG ジオレオイルグリセロールヘミグルタレート
DOGA ジオレオイルグリセロールヘミアジペート
DMGM ジミリストイルグリセロールヘミマロネート
DMGG ジミリストイルグリセロールヘミグルタレート
DMGA ジミリストイルグリセロールヘミアジペート
DOAS 4−{(2,3−ジオレオイル−プロピル)アミノ}−4−オキソブタン酸
DOAM 3−{(2,3−ジオレオイル−プロピル)アミノ}−3−オキソプロパン酸
DOAG 5−{(2,3−ジオレオイル−プロピル)アミノ}−5−オキソペンタン酸
DOAA 6−{(2,3−ジオレオイル−プロピル)アミノ}−6−オキソヘキサン酸
DMAS 4−{(2,3−ジミリストイル−プロピル)アミノ}−4−オキソブタン酸
DMAM 3−{(2,3−ジミリストイル−プロピル)アミノ}−3−オキソプロパン酸
DMAG 5−{(2,3−ジミリストイル−プロピル)アミノ}−5−オキソペンタン酸
DMAA 6−{(2,3−ジミリストイル−プロピル)アミノ}−6−オキソヘキサン酸
DOP 2,3−ジオレオイル−プロパン酸
DOB 3,4−ジオレオイル−ブタン酸
DOS 5,6−ジオレオイル−ヘキサン酸
DOM 4,5−ジオレオイル−ペンタン酸
DOG 6,7−ジオレオイル−ヘプタン酸
DOA 7,8−ジオレオイル−オクタン酸
DMP 2,3−ジミリストイル−プロパン酸
DMB 3,4−ジミリストイル−ブタン酸
DMS 5,6−ジミリストイル−ヘキサン酸
DMM 4,5−ジミリストイル−ペンタン酸
DMG 6,7−ジミリストイル−ヘプタン酸
DMA 7,8−ジミリストイル−オクタン酸
DOG−GIuA ジオレオイルグリセロール−グルクロン酸(1−または4−結合)
DMG−GIuA ジミリストイルグリセロール−グルクロン酸(1−または4−結合)
DO−cHA ジオレオイルグリセロールヘミシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸
DM−cHA ジミリストイルグリセロールヘミシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸
PS ホスファチジルセリン(不特定の膜アンカー)DOPS ジオレオイルホスファチジルセリン
DPPS ジパルミトイルホスファチジルセリン
MA ミリスチン酸
PA パルミチン酸
OA オレイン酸
LA リノール酸
SA ステアリン酸
NA ネルボン酸
BA ベヘン酸
POGA パルミトイル−オレオイル−グルタミン酸
DPAA ジパルミトイルアスパラギン酸 。
【0035】
上記のジアシル基含有アニオン性脂質の任意のジアルキル誘導体もまた本発明の範囲に含まれる。
【0036】
カルボキシル基を有する好ましいアニオン性脂質は、Chol−C1〜Chol−C16(そのすべてのホモログを含む)の群から選択され得、特にCHEMSである。また、アニオン性脂質DMGS、DPGS、DSGS、DOGS、POGSも好ましい。
【0037】
リン酸部分を極性頭基内に含むアニオン性脂質は当業者によく知られている。リン酸脂質の例は、以下の構造(P1)〜(P4)
【0038】
【化4】

から選択され得、式中、nまたはmは0〜29の整数であり、RおよびRは、互いに独立して、8〜24個の炭素原子と0、1または2つの不飽和結合を有するアルキル、アルケニルまたはアルキニル部分であり、A、BまたはDは、互いに独立して、非存在、−CH2−、−CH=、=CH−、−O−、−NH−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−O−C(O)−NH−または−NH−C(O)−O−であり、「ステロール」は、自身のC3原子を介して結合されたコレステロールであり得る。
【0039】
以下のリストは、ホスファチジン酸基を有する脂質のさらなる具体例を示す。
【0040】
Chol−P コレステロール−3−ホスフェート
DOPA ジオレオイル−ホスファチジン酸
POPA パルミトイル−オレオイル−ホスファチジン酸
DPPA ジパルミトイル−ホスファチジン酸
DMPA ジミリストイルホスファチジン酸
16〜24個の炭素原子を有するR1を有するセチルホスフェートまたはリン酸エステルホモログ 。
【0041】
本発明で使用され得るカチオン性脂質は、イミノ部分を極性頭基内に含む両親媒性分子であり、かかるイミノ部分は、生理学的条件下で実質的に電荷体である。したがって、好ましい実施形態では、この官能基のpK値は7.5以上であり、さらに好ましい形態では、イミノ基のpK値は8.5以上(of higher)である。かかる特性を有するイミノ部分は、イミン自体であってもよく、より大きな官能基(例えば、アミジン、ピリジン、2−アミノピリジン、複素環式窒素塩基、グアニド官能性、イソ尿素、イソチオ尿素など)の一部であってもよい。
【0042】
下記の構造(I1)...(I113)は、かかるイミノ部分の一部の具体例を表す。
【0043】
【化5】

【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

(式中、Lは、両親媒性脂質分子の無極性領域、任意選択で、リンカーまたはスペーサー部分を表す)
Lの例は、さらに、下記の一般構造(11)〜(15)
【0046】
【化8】

から選択され得、式中、nまたはmは0〜29の整数を表し、RおよびRは、互いに独立して、8〜24個の炭素原子と0、1または2つの不飽和結合を有するアルキル、アルケニルまたはアルキニル部分であり、A、BまたはDは、互いに独立して、非存在、−CH2−、−CH=、=CH−、−O−、−NH−、−C(O)−O−、−O−C(O)−、−C(O)−NH−、−NH−C(O)−、−O−C(O)−NH−または−NH−C(O)−O−であり、「ステロール」は、自身のC3原子を介して結合されたコレステロールであり得る。
【0047】
以下の表1に、イミノ含有部分(I1)〜(I113)のpKの計算値またはデータベース値を示す。第4級化イミノ部分では、単に本内容を強調するために、仮定値99を導入した。
【0048】
【表1−1】

【0049】
【表1−2】

ここに示すデータから、構造I1〜I113のほとんどは、7.5より大きい、さらには8.5より大きいpKを有する好ましいイミノ部分を含むことが明らかとなろう。
【0050】
pK値は、公のデータベースから得ることもできる。あるいはまた、パブリックドメインにおいて、かかる値を計算、予測または外挿することのできる専門のソフトウェアが存在している(例えば、ACD/Labs v7(by Advanced Chemistry Development,Ontario,Canada)など)。
【0051】
上記の解析されたイミノ部分は、本発明の教示を例示するものであり、この具体例に限定されない。もちろん、特に、ピロールまたはピリジンなどの環系が本発明の実施に使用される場合は、置換基の位置を変更することが可能である。また、I1〜I113において使用されている脂肪族原子団を、芳香族残基またはアリール部分で置き換えることも可能である。以下の化合物(A1)〜(A21)の一覧は、かかる変形のさらなる例示となるであろう、いくつかの例を示す(式中、Lは上記に規定のとおりである)。
【0052】
【化9】

以下の表2に、イミノ含有部分(A1)〜(A21)のpKの計算値またはデータベース値を示す。第4級化イミノ部分では、単に本内容を強調するために、仮定値99を導入した。
【0053】
【表2】

この場合も、上記の表2に示した構造の多くが、7.5より大きい、さらには8.5より大きいpKを有する好ましいイミノ部分を含む。
【0054】
上記のように、電荷イミノ部分は、脂質アンカーもしくは疎水性部分とともに、それら自身で脂質二重層を形成し得る脂質または両親媒性物質をもたらし得るか、または他の脂質もしくは両親媒性物質で形成された脂質膜に組み込まれ得る。一部の実施形態では、具体的な脂質または両親媒性物質は以下に示す例L1〜L17から選択される。
【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

(式中、RおよびRは、互いに独立して、8〜24個の炭素原子と0、1または2つの不飽和結合を有するアルキル、アルケニルまたはアルキニル部分である)
このような脂質の一部は、以前に文献に示されている(例えば、グアニド脂質は、WO91/16024、WO97/43363、WO98/05678、WO01/55098、WO2008/137758(アミノ酸脂質)、EP 0685234(ジアシルグリセロール系)、US5965434(これもジアシルグリセロール系)またはピリジニウム化合物はUS6726894に)。さらに、WO29086558に示されたように、または構造(15)に図示したように、択一的な脂質主鎖(例えば、ジオキソランリンカーセグメントを含むが、それぞれの頭基の官能性は維持されているもの)を使用することも可能である。
【0057】
脂質混合物および任意選択の他の脂質
本発明では、アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質を含み;該カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分が、生理学的条件下で実質的に荷電したイミノ脂質であり、さらに、該アニオン性両親媒性物質の少なくとも一部分がカルボキシル脂質またはリン酸脂質である脂質混合物を開示する。
【0058】
電荷イミノ部分を極性頭基内に含むカチオン性脂質と、カルボキシル官能性またはリン酸官能性を極性頭基内に含むアニオン性脂質の両方が同時に存在していることは、本発明の中心的な特徴である。すなわち、このような要素の一方が実質的にないリポソームまたは脂質集合体は、本発明の実施において想定されない。カチオン性イミノ脂質とアニオン性脂質は種々の比率で存在させ得る;本明細書では、本開示全体を通して、前記比率を「電荷比率」(カチオン:アニオン比,C/A,定義参照)として特徴づけする。多くの実施形態では、C/A比は0.33より大きく、好ましい実施形態では、この比は0.5より大きく、一部の実施形態では、該比率は0.66であるか、またはそれより大きい。前記実施形態の好ましい態様では、C/Aは3であるか、またはそれより小さく、さらに好ましい態様では、該比率は2であるか、またはそれより小さく、特に好ましい態様では、該比率は1.5であるか、またはそれより小さい。
【0059】
前記実施形態の多くの態様では、得られる脂質混合物は両性の性質を有する。7.5より大きいpKを有するイミノ脂質、さらに大きい、そのため好ましい8.5より大きいpKを有するイミノ脂質は、生理学的条件下で本質的に電荷体であり、その実際の電荷は、その公称電荷に近くなり、最終的には同一になる。カルボキシル脂質の典型的なpKは4.5〜6であり、したがって、このような脂質は生理学的pHでも電荷体である。したがって、イミノ脂質とカルボキシル脂質の両方の混合物は、C/Aが、いかなる場合も1より小さい生理学的pHでは負の正味電荷を有し、正味電荷は、C/A=1のときは0になり、C/A>1のとき正になる。
【0060】
低pHでは、アニオン電荷は、カルボキシル脂質のPkあたりで消失し、これにより、C/A<1を有する脂質混合物は、まず中性になり、次いで、正電荷体となる。電荷の逆転はC/A<1に特徴的であり、両性の性質を明示する。C/A=1またはC/A>1を有する脂質混合物も低pHで負電荷の低減を受けるが、電荷の逆転はない。しかしながら、得られる脂質集合体のC/Aと両性の性質の関係は、所与の二重層における両電荷体部分の統計学的に本質的に等しい分布を示唆するものであることに注目されたい。これは、この計算の充分な妥当性を維持するためには、膜の内側リーフレットと外側リーフレットが同じ電荷脂質組成を有していなければならないことを意味する。これは、常に実施例9で示した場合のようになるとは限らず、C/A>1を有する脂質混合物でも、両性の性質のリポソームが形成されることがあり得る。それでも、本明細書において開示する膜組成と両性の性質との相関性は、脂質混合物の選択のための良好な手引きを示す。
【0061】
脂質混合物には、さらに、さらなるカチオン性、アニオン性、中性/両性イオン性の脂質、または官能性付与された脂質が含まれていてもよい。さらなるカチオン性脂質は、例えば、DOTAP、DODAP、DC−Cholなどの既知の成分であってもよい。さらなるアニオン性脂質は、例えば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ジセチルリン酸、カルジオリピンなどの負電荷リン脂質から選択され得る。中性または両性のイオン性脂質はコレステロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンなどである。
【0062】
好ましい実施形態では、中性脂質はコレステロールである。さらに好ましいのは、脂質混合物が10mol%〜50mol%のコレステロールを含む変形体であり、さらにより好ましいのは、約20mol%〜40mol%のコレステロールを有する変形体である。
【0063】
重要な一群の官能性付与脂質は、ポリエチレングリコールのポリマー伸長体を含むもの(PEG−脂質)である。数多くのペグ化脂質が当該技術水準において知られており、本質的な違いは、(i)PEG鎖の大きさおよび分岐度、(ii)分子のPEGと膜挿入部分間のリンカー基の型、ならびに(iii)ペグ化脂質の疎水性の膜挿入ドメインの大きさにみられ得る。ペグ化のさらなる態様は、(iv)脂質集合体の修飾の密度、および(v)かかる脂質集合体内での向きである。
【0064】
態様(i)の多くの実施形態では、PEG断片は500Da〜5,000Daの分子量を有し、より好ましい実施形態では、該断片は約700Da〜2,500Daの分子量を有し、さらにより好ましいのは、約2,000DaのPEG断片である。多くのかかる実施形態において、PEG部分は一本鎖の非分枝PEGである。
【0065】
態様(ii)の典型的な実施形態は、ホスホエタノールアミン部分、ジアシルグリセロール部分またはセラミドの極性頭基である。
【0066】
態様(iii)において特定した疎水性の膜挿入ドメインの大きさは、二重層内でのPEG脂質の膜滞留時間が決定されるため、かかる分子のさらに重要な特徴である。一例として、短い疎水性ドメイン、例えば、DMPE−PEG2000(ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン−PEG結合体,PEG鎖は2000Daの分子量を有する)を有するペグ化脂質は、所与の膜から数秒以内に拡散するが、DSPE−PEG2000 ホモログは、二重層内に数時間ないし数日間存在している(Silvius,J.R.およびZuckermann,MJ.(1993)Biochemistry 32,3153−3161またはWebb,M.S.ら(1998),Biochim Biophys Acta 1372:272−282またはWheelerら(1999),Gene Ther 6:271−281を参照のこと)。
【0067】
同時のペグ化は、リポソームに対して、特に、カチオン性リポソームと運搬体アニオン性核酸(US6,287,591に示されたもののような)の組合せに対してコロイド安定性をもたらすが、リポソームの細胞内取込みおよび/またはエンドソームも障害する(Shi,F.ら(2002),Biochem.J.366:333−341参照)。一過性のペグ化が現在の当該技術水準であり、コロイド安定性と粒子の活性の両方のニーズを満たしている。
【0068】
ペグ化のさらなる態様(iv)はかかる修飾の密度であり、これは、脂質混合物の0.5〜10mol%であるのがよく、好ましい実施形態ではペグ化度が約1〜4mol%である。
【0069】
所与の二重層のペグ化により、脂質集合体のラメラ相が安定化され、六方相の形成にともなう脂質膜融合が障害されるため、二重層内の残部のPEG部分の量は最小限でなければならない。これは、必要とされるPEG脂質の量の滴定によって達成さ得る。したがって、態様(v)の一部の実施形態では、リポソームを、両方の膜リーフレット上でペグ化させ、PEGの量を最小限にする。別の変形例では、PEGの除去をできるだけ完全にする。これは、二重層の外側が関連するPEG脂質では容易に行なわれるが、脂質構造内部に結合されたPEG脂質では、拡散は本質的には可能でない。したがって、本発明の態様(v)の好ましい実施形態は、ペグ化脂質をさらに含む、荷電したイミノ脂質とカルボキシル脂質またはリン酸脂質を含むリポソームを提供することであり、ここで、前記ペグ化脂質は本質的に外側表面上に存在させる。
【0070】
かかるリポソームは、その作製方法を特徴とするものであり得、ここで、リポソームは第1の工程で形成され、この工程には運搬体分子の封入も含まれる。次いで、PEG−脂質を第2工程において、事前に作製したリポソームの二重層の外側に、例えば、ペグ化脂質のミセル溶液をリポソーム懸濁液に添加することによって挿入する。かかる方法の具体的な一実施形態では、核酸ワックス状溶液が、脂質のアルコール性溶液と混合されることにより、核酸を封鎖するリポソームが形成される。核酸エントラップリポソームは自発的に形成され、ペグ化脂質は後続の工程で添加される。
【0071】
特別の利点を伴って、かかる方法は両性リポソームを用いて実施され得る。それは、このリポソームが既にコロイド安定性をもたらすものであり、リポソーム形成とペグ化の間の時間的要素があまり重要でないからである。核酸を封入する両性リポソームの調製は、WO02/066012、その継続出願US2007/0252295、またはさらにWO07/107304に開示されている。
【0072】
好ましい実施形態では、イミノ脂質とカルボキシル脂質またはリン酸脂質を含む両性リポソームを、その外側表面上で、必要とされる量のPEG脂質を中和バッファーとともに供給することによりペグ化する。そのために、PEG脂質は中和バッファーに溶解され得、別の実施形態では、前記リポソームを形成して中和し、0.1秒から数日間までの間の期間の後、PEG脂質を別途添加する。また別の実施形態では、リポソームを形成して中和し、このリポソーム懸濁液をさらに濃縮し、この物質濃縮後にPEG脂質を添加する。また別の実施形態では、リポソームを形成して中和し、濃縮し、非封入核酸を除去し、任意選択で、リポソーム懸濁液のバッファーを交換し、その後、PEG脂質を添加する。要するに、PEG脂質は、リポソームの形成と封鎖後、どの時点で添加してもよい。
【0073】
他の実施形態では、イミノ脂質とカルボキシル脂質またはリン酸脂質を含むリポソームは、pH感受性カチオンの性質を有し、上記に概要を示した工程の後、前記リポソームの形成と封鎖が行なわれると、必要とされる量のPEG脂質が供給されることにより、外側表面でペグ化される。pH感受性リポソームは、核酸の存在下では凝集体を形成しやすくなる傾向にあるため、迅速なペグ化が好ましく、PEG脂質は、リポソーム封鎖が行なわれたらすぐに(例えば、生成の0.1秒〜1分後に)添加される。
【0074】
本質的に外側表面上でペグ化されるリポソーム生成物が得られる上記の方法とは対照的に、リポソームが実際に形成されている間;すなわち、初期の構造封鎖の前にペグ化脂質を存在させると種々の生成物がもたらされる。構造データはまだ得られていないが、当業者には、かかる状況において、相当な量のPEG部分も膜リーフレット内に存在することが予測され得よう。これは、封鎖されると、初期のリポソームの両方のリーフレットに同様に到達し、大部分がリポソーム内部で検出され得る核酸運搬体の状況と類似している。
【0075】
脂質集合体
本明細書に記載する成分は、集合して、当業者に知られた種々の構造になるものであり得る。該成分は、1つまたはいくつかの個々の二重層を含むリポソーム、他の超分子脂質集合体、または水相を提供するかなり大きな内部容積を有する小胞であり得る。また、これは、エマルジョン滴、またはリポプレックス集合体の形態の構造であってもよく、後者は、多くの実施形態において、脂質と核酸の静電複合体を含むものである。好ましい実施形態では、このような構造はリポソームまたは小胞である。多くの実施形態において、リポソームまたは小胞は、かなり大きな水性内部を有する。本発明の多くの態様では、活性医薬成分が脂質集合体に錯化、封入され、封鎖あるいは会合される。
【0076】
有用なイミノ脂質およびカルボキシル脂質またはリン酸脂質ならびにさらなる脂質が数多くあることを考慮すると、非常に多くの数の潜在的に有用な組合せが存在し、それにより、多くの変形体の中からの選択と最適化のためのさらなる必要性が生じる。WO08/043575には具体的な手引きが示されており、本明細書においてさらに詳細に論考する複雑な脂質集合体(特に脂質二重層)の最適化のための方法が提供されている。簡単には、WO08/043575の教示は、両性脂質混合物は酸性pH条件と中性pH条件のどちらにおいても安定な二重層を形成するが、このような脂質混合物から形成された二重層では、典型的には弱酸性条件であるその等電点において、相転移および膜融合が起こることがあり得ることを示す。WO08/043575には、電荷脂質成分に適度な大きさの、または小型の脂質頭基を使用することが開示されている。また、WO08/043575には、負荷手順時の低pHにおいてラメラ相を安定化させるための大型またはバルキーな緩衝イオンの使用、ならびに保存中の中性pHにおいてラメラ相を安定化させるための大型またはバルキーな緩衝イオンの使用が教示されている。特に、上記の本質的な要素が主に記載されたWO08/043575の第44〜57頁を参照されたい。該参考文献には、さらに、膜融合活性が最大となるような小型頭基を有する中性脂質の使用が開示されている。膜融合の改善のための典型的な中性脂質はコレステロールまたはDOPEである。中性脂質に関する具体的な考慮事項および最適化規則は、WO09/047006、特に、第63頁〜70頁にさらに示されている。
【0077】
総合すると、WO08/043575またはWO09/047006(本明細書では、合わせて「参考文献」と称する)には、脂質集合体の最適化のための合理的な手引きが示されている。参考文献は両性リポソームに限定されず、脂質集合体の構造−活性の関係の包括的なモデルを示す。
【0078】
本発明は、細胞結合、リポタンパク質または他の血清成分との相互作用または競合が回避され得るリポソームを製剤化するための最適化された方法を提供するものであるため、当該技術分野における進歩を提示する。参考文献によって教示される方法は、脂質集合体の必要な膜融合性に関する情報を提供するものであるが、リポソーム細胞結合の予測に関しては触れていない。
【0079】
したがって、本発明の目的は、参考文献に開示された方法を、生理学的条件下で実質的に電荷体であるイミノ脂質をカルボキシル部分またはリン酸部分、すなわち、負電荷部分を有するアニオン性脂質と組み合わせて使用した場合に観察された予期しない特性と組み合わせることによって製剤化される脂質集合体、脂質混合物およびリポソームを提供することである。理論に拘束されることを望まないが、本明細書において製剤化されるこの新規な組成物により、リポタンパク質様細胞結合と取込みが、より良好に助長され得、これは、当該技術分野で知られていない特徴である。
【0080】
本明細書に記載の脂質混合物は、両性またはpH感受性のカチオン特性を有するものであり得、該特性はどちらも、一般的に、これらの構成する脂質によって脂質集合体またはリポソームに伝達される。電荷特性は、脂質膜または二重層の両方のリーフレットに対する脂質の対称な分布についてWO02/066012に記載のようにして容易に予測され得る。しかしながら、一部の場合では、最外リーフレットの脂質の分布は、該集合体の他の部分と異なっていることがあり得る。したがって、巨視には、荷電したイミノ脂質を、いくぶん1より大きいC/Aを有するカルボキシル脂質またはリン酸脂質との組合せで含む脂質混合物では、実施例9および図1に示されるように、依然として、両性の性質を有するリポソームが形成され得る。
【0081】
インシリコでの最適化および予測の目的のため、C/A<1を有する本発明の脂質混合物を両性とみなし、該混合物では、参考文献の分類による「両性体(amphoter)I」混合物にカテゴライズされる脂質集合体が形成され得る。他の実施形態では、C/A=1またはC/A>1を有する脂質混合物が使用される;これはpH感受性カチオン性脂質混合物である、すなわち、その電荷は生理学的pHで中性またはカチオン性であり、pHが低くなると、よりカチオン性となる。前記実施形態のpH感受性カチオン性混合物は、その両性対応物の場合と同様、もはや等電点をもたないものである。それでもなお、参考文献に示された構造−活性の関係は、電荷と無関係に溶質およびイオンと組み合わされた脂質集合体の相挙動の普遍的な理解を提供するものであるため、適用可能である。
【0082】
明確にする目的で、本発明の脂質混合物は、生理学的pHで実質的に電荷体であるイミノ基を有する1種類以上のカチオン性脂質を含み、さらに、カルボキシル基またはリン酸基を有する1種類以上のアニオン性脂質を含み、任意選択で、さらに中性脂質を含むものである。
【0083】
リポソームの両性の性質はさらなる利点を有する。かかるリポソームまたは脂質集合体の負電荷表面により、懸濁液中でのリポソームのコロイド安定性が大きく改善される。これは、カチオン性リポソームと容易に凝集体を生成し得るポリアニオン性運搬体(核酸など)との組合せにおいて特に重要である。
【0084】
また、両性脂質集合体またはリポソームの負から中性の電荷の表面も、リポソームがインビボで投与される場合、好都合であり、このとき、カチオン性リポソームで観察されるような内皮での非特異的吸着または血清成分との凝集体の形成が抑制される(カチオン性リポソームの内皮吸着については、Santelら,(2006),In Gene Therapy 13:1222−1234、または両性リポソームにおける凝集体形成の抑制については、Andreakosら,(2009),Arthritis and Rheumatism,60:994−1005を参照のこと)。
【0085】
したがって、好ましい実施形態では、本発明のリポソームは両性の性質を有する。この群では、該粒子へのポリアニオン性運搬体(例えば、核酸)の有効な負荷を維持するため、カチオン性成分の割合が非常に低いことをを回避するのが好都合である。さらに好ましい実施形態では、C/Aは0.5より大きい。
【0086】
全身、すなわち、血流中に適用される場合、リポソームは、ある程度、全身に分布される。典型的な標的部位は肝臓と脾臓であるが、循環食細胞もが挙げられる。また、リポソームは血管周囲の内皮とも接触し、その細胞をトランスフェクトし得る。炎症部位および腫瘍にリポソームを蓄積させることは、治療上、特に重要である。
【0087】
当業者は、粒子の分布をどれかの部位に指向させる方法を熟知しているであろう。約150nm以下の小さい直径を有するリポソームは肝臓内皮に浸透し、したがって肝細胞および肝臓実質の他の細胞に到達できることはよく知られている。肝臓肝細胞の標的化が治療目的である態様では、本発明のリポソームは直径が150nm以下であり得、好ましい実施形態では、リポソームは直径が120nmより小さいものであり得る。
【0088】
また、100nm以上の直径を有する粒子は、食細胞によって充分認識されることもよく知られている。したがって、マクロファージまたは樹状細胞が対象標的を構成する実施形態では、本発明のリポソームは120nm以上である。一部の実施形態では、このようなリポソームは150nm以上である。他の実施形態では、このようなリポソームは、大きさが250nm、または400nmまでであり得るほど大きい。
【0089】
また、表面電荷が循環時間、したがって、リポソームの生体分布に影響を及ぼすことがあり得ることが報告されており、ペグ化により表面電荷が低減され、リポソームの長期循環がもたらされることが充分確立されている。長期循環は、一般的に、腫瘍に対する分布を最大にすると考えられている。したがって、腫瘍が対象標的を構成する態様では、本発明のリポソームは、少ない正味表面電荷を有し、0.67〜1.5のC/Aを特徴とする。かかる適用のための好ましい実施形態では、前記リポソームを形成する脂質混合物は0.8〜1.25のC/Aを有する。また、腫瘍標的化リポソームはサイズが小さいものである。好ましい実施形態では、かかるリポソームは150nmより小さく、さらに好ましい実施形態では、リポソームは120nmより小さい。一部の実施形態では、リポソームは、さらにPEG脂質を含む。
【0090】
本発明のリポソームの運搬体
本発明のリポソームまたは脂質集合体は、少なくとも1種類の活性薬剤を封鎖または封入し得るものである。前記活性薬剤は薬物を含むものであり得る。一部の実施形態では、前記活性薬剤は1種類の以上の核酸を含むものであり得る。好ましい実施形態では、活性成分は核酸からなる。
【0091】
かかる使用に限定されないが、本発明において記載するリポソームまたは脂質集合体は、核酸系薬物、例えば、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドおよびDNAプラスミドなどの担体としての使用に充分適している。このような薬物は、タンパク質、ポリペプチドまたはRNAの1種類以上の特定の配列をコードする核酸と、タンパク質の発現レベルを特異的に調節し得る、またはタンパク質の構造に影響を及ぼし得る(とりわけ、スプライシングおよび人工的切断による干渉によって)オリゴヌクレオチドに分類される。
【0092】
したがって、本発明の一部の実施形態では、核酸系治療薬は、脊椎動物細胞内で、1種類以上のRNA(該RNAは、mRNA、shRNA、miRNAもしくはリボザイムであり得、かかるmRNAは、1種類以上のタンパク質またはポリペプチドをコードしている)に転写され得る核酸を含むものであり得る。かかる核酸治療薬は、環状DNAプラスミド、線状DNA構築物、例えば、MIDGE(WO98/21322もしくはDE 19753182に開示されたMinimalistic Immunogenically Defined Gene Expression)ベクター、または翻訳準備ができたmRNA(例えば、EP1392341)などであり得る。
【0093】
本発明の他の実施形態では、既に存在している細胞内核酸またはタンパク質を標的化し得るオリゴヌクレオチドが使用され得る。前記核酸は、前記オリゴヌクレオチドが転写の減衰またはモジュレーション、転写物のプロセッシングの改良、あるいはタンパク質の発現の干渉に適合されるような特定の遺伝子をコードしているものであり得る。用語「標的核酸」は、特定の遺伝子をコードしているDNA、ならびにかかるDNAから誘導されるあらゆるRNA(プレ−mRNAまたはmRNA)を包含する。標的核酸と、かかる配列に対して指向された1種類以上のオリゴヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションにより、タンパク質発現の阻害またはモジュレーションがもたらされ得る。かかる特異的標的化を達成するためは、該オリゴヌクレオチドは、標的核酸の配列に実質的に相補的な連続ヌクレオチド鎖を好適に含むものであるのがよい。
【0094】
前述の基準を満たすオリゴヌクレオチドは、いくつかの異なる化学反応およびトポロジーを用いて構築され得る。該オリゴヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオシドまたは修飾ヌクレオシド(限定されないが、DNA、RNA、ロックド核酸(LNA)、アンロックド核酸(UNA’S)、2’O−メチルRNA(2’Ome)、2’O−メトキシエチルRNA(2’MOE)(そのリン酸形態もしくはホスホチオエート形態で)またはMorpholinoもしくはペプチド核酸(PNA)が含まれる)を含むものであり得る。該オリゴヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。
【0095】
該オリゴヌクレオチドは8〜60個の電荷を有するポリアニオン性構造である。ほとんどの場合、このような構造は、ヌクレオチドを含むコポリマーである。本発明は、オリゴヌクレオチドの特定の作用機構に限定されず、該機構の理解は本発明の実施に必要でない。オリゴヌクレオチドの作用機構は種々であり得、とりわけ、スプライシング、転写、核−細胞質輸送および翻訳に対する効果を構成するものであり得る。
【0096】
本発明の好ましい実施形態では、一本鎖オリゴヌクレオチド、例えば、限定されないが、DNA系オリゴヌクレオチド、ロックド核酸、2’−修飾オリゴヌクレオチドおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドとして一般的に知られている他のものが使用され得る。主鎖または塩基または糖鎖の修飾としては、限定されないが、ホスホチオエートDNA(PTO)、2’O−メチルRNA(2’Ome)、2’フルオロRNA(2’F)、2’O−メトキシエチル−RNA(2’MOE)、ペプチド核酸(PNA)、N3’−P5’ホスホアミデート(NP)、2’フルオロアラビノ核酸(FANA)、ロックド核酸(LNA)、アンロックド核酸(UNA)、モルホリンホスホアミデート(Morpholino)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、トリシクロ−DNA(tcDNA)他が挙げられ得る。さらに、1種類より多くのヌクレオチド種から構築される混合型化学物質(コポリマー、ブロック−コポリマーまたはギャップマーまたは他の構成のものなど)が当該技術分野で知られている。
【0097】
前述のオリゴヌクレオチドに加え、タンパク質発現は、相補配列モチーフを含む二本鎖RNA分子を用いて阻害することもできる。かかるRNA分子は、当該技術分野においてsiRNA分子として知られている(例えば、WO99/32619またはWO02/055693)。他のsiRNAは、1つの非連続鎖を有する一本鎖siRNAまたは二本鎖siRNAを含むものである。この場合も、種々の化学がこの類型のオリゴヌクレオチドに適合された。また、DNA/RNAハイブリッド系が当該技術分野において知られている。siRNAの他の変形型は、三本鎖構築物を含むものであり、これは、2本の短い鎖が1本の共通の長い鎖にハイブリダイズしたものであり、構造内にニックまたはギャップを有するいわゆるメロデュプレックス(meroduplex)またはsisiRNAである。
【0098】
本発明の別の実施形態では、デコイオリゴヌクレオチドが使用され得る。このような二本鎖DNA分子およびその化学修飾体は、核酸を標的化しないが、転写因子は標的化する。これは、デコイオリゴヌクレオチドが配列特異的DNA結合タンパク質に結合して転写に干渉することを意味する(例えば、Cho−Chungら,Curr.Opin.Mol.Ther.,1999)。
【0099】
本発明のさらなる実施形態では、生理学的条件下で遺伝子のプロモーター領域にハイブリダイズすることにより、転写に影響を及ぼし得るオリゴヌクレオチドが使用され得る。この場合も、種々の化学がこの類型のオリゴヌクレオチドに適合され得る。
【0100】
本発明のなおさらなる択一例ではDNAザイムが使用され得る。DNAザイムは一本鎖オリゴヌクレオチドであり、その化学修飾体は酵素活性を有する。典型的なDNAザイムは、「10−23」モデルとして知られており、生理学的条件下で一本鎖RNAを特定の部位で切断することができるものである。10−23モデルのDNAザイムは、RNA上の標的配列に相補的な2つの基質認識ドメインによってフランキングされた、15個の高度に保存されたデオキシリボヌクレオチドの触媒性ドメインを有する。標的mRNAは切断されると分解され、DNAザイムはリサイクルされて多くの基質を切断する。
【0101】
本発明のまた別の実施形態ではリボザイムが使用され得る。リボザイムは、一本鎖のオリゴリボヌクレオチドであり、その化学修飾体は酵素活性を有する。これは、機能により、触媒性コアを構成する保存された幹−ループ構造と、所与のRNA転写物の標的部位の周囲の配列に逆相補的なフランキング配列の2つの成分に分けられ得る。フランキング配列は、特異性を付与するものであり得、一般的に合計14〜16個のntで構成され、選択された標的部位の両側で伸長する。
【0102】
本発明の他の実施形態では、タンパク質を標的化するためにアプタマーが使用され得る。アプタマーは、核酸(RNAまたはDNAなど)で構成された巨大分子であり、その化学修飾体は、特定の分子標的に強固に結合し、典型的には15〜60nt長である。ヌクレオチド鎖は、フォールディングして複雑な3次元形状になる分子内相互作用を形成し得る。アプタマーの形状は、自身が標的分子(例えば、限定されないが、酸性タンパク質、塩基性タンパク質、膜タンパク質、転写因子および酵素)の表面に対して強固に結合することが可能なものである。アプタマー分子の結合は、標的分子の機能に影響を及ぼし得る。
【0103】
上記のオリゴヌクレオチドはすべて、長さは、鎖1本あたりのヌクレオチドが5個程度と少ない、または10個、好ましくは15個、さらにより好ましくは18個、50個または60個程度と多い、好ましくは30個、より好ましくは25個と、種々であり得る。より詳しくは、該オリゴヌクレオチドは、8〜50ヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、標的配列のRNAseH媒介性分解を触媒するもの、または翻訳をブロックするもの、またはスプライシングを再指令するもの、またはアンタゴミール(antagomir)としての機能を果すものであり得る;これは、15〜30塩基対長のsiRNAであってもよく;これは、さらに、15〜30塩基対長のデコイオリゴヌクレオチドを提示するものであってもよい。あるいはまた、これは、15〜30ヌクレオチド長のゲノムDNAの転写に影響を及ぼす相補オリゴヌクレオチドであり得る;これは、さらに、25〜50ヌクレオチド長のDNAザイム、または25〜50ヌクレオチド長のリボザイム、または15〜60ヌクレオチド長のアプタマーを提示するものであってよい。かかるサブクラスのオリゴヌクレオチドは、多くの場合、機能により規定され、本発明の教示に実質的に影響を及ぼさない範囲で、同一であっても異なっていてもよく、全部ではないが一部、化学的性質または構造の特徴を共有している。該オリゴヌクレオチドと標的配列間の適合度は、前述の数の連続オリゴヌクレオチド鎖全体において、標的核酸上の相補的塩基と塩基対を形成している該オリゴヌクレオチドの各塩基について、好ましくは完璧である。配列のペアには、前記塩基対の連続鎖内に1つ以上のミスマッチが含まれていることがあり得るが、これはあまり好ましくない。一般に、かかる核酸の型および化学組成は、インビボまたはインビトロでの媒体としての本発明のリポソームの性能にあまり影響しない。当業者には、本発明の両性リポソームとの組合せに適した他の型のオリゴヌクレオチドまたは核酸が見い出されよう。
【0104】
本明細書において実例を示した一部の特定の態様では、本発明によるリポソームは、細胞をインビトロ、インビボまたはエキソビボでトランスフェクトするのに有用である。
【0105】
具体的な実施形態
コレステロール系脂質
本発明の教示を例示するため、グアニド部分(荷電したイミノ基,CHOL−GUA)、イミダゾール部分(非荷電したイミノ基,CHIM)またはジメチルアミノもしくはトリメチルアンモニウム部分(非イミノだが電荷基,DC−CHOLもしくはTC−CHOL)を含むコレステロールのカチオン性誘導体を、システマテックに種々のアニオン性脂質と組み合わせた。
【0106】
【化12】

使用したアニオン性脂質は、CHEMS(疎水性部分としてコレステロール,カルボン酸電荷基)、DMGSまたはDOGS(ジアシルグリセロール疎水性部分,カルボン酸電荷基)またはDOPA(疎水性部分としてジアシルグリセロール,リン酸エステル電荷基)であった。ほとんどのカチオン/アニオン組合せに対して、0.33〜2のC/A比率を有する一連の8種類の二元混合物を調製した。カチオン性脂質とDOPAの組合せはC/A 0.75および1で試験した。すべての脂質混合物にコレステロールを添加し、表示のとおりに20〜40mol%を構成した。
【0107】
すべてのリポソームに、細胞周期キナーゼPLK−1の生成を阻害し得るオリゴヌクレオチドであるPLK−1 siRNAを負荷し、試験細胞の細胞生存性の阻害によって成功裡のトランスフェクションが測定された(Haupenthalら,int.J.Cancer(2007),121:206−210も参照のこと)。細胞生存性の非特異的阻害、すなわち、細胞傷外効果を同じ一般組成で同じ量の非標的化siRNAを含む対照調製物によってモニタリングした。
【0108】
続いて、細胞のトランスフェクションを、通常の細胞培養培地中で、または、多くの両性リポソームに対して細胞内取込みの強力なインヒビターとなる10%マウス血清のさらなる存在を伴って行なった。トランスフェクションの有効性は、細胞生存性の50%阻害を達成するのに必要とされる濃度IC50で示される。
【0109】
通常培地でのIC50とマウス血清添加時のIC50の比は、マウス血清による細胞内取込みの阻害の測定基準として使用される。この比は、特異的標的化特性のないリポソームでは5以上である。これは、本発明のリポソーム;すなわち、負電荷脂質との組合せで荷電したイミノ基を含むリポソームでは5以下である。
【0110】
実施例14でさらに示すように、HeLa細胞の最良の血清抵抗性トランスフェクションは、CHOLGUAとカルボキシル脂質DOGSの組合せによって達成され得る。40%未満のコレステロールの存在下および0.5〜1.5のC/Aを有する混合物では、特によい結果が得られた。他のすべての成分(DOGSまたはコレステロールなど)が一定に維持され、DC−CHOLの場合のようにGUA頭基をジメチルアミンに対して交換した場合、リポソームは、マウス血清の非存在下では依然として活性であるが、存在下では活性でなくなる。同じことがCHIMとDMGSの組合せのでも観察され得る。
【0111】
コレステロール系カチオン性脂質とリン酸脂質DOPAの組合せは、イミノ脂質CHOLGUAで最良の活性が観察されたという所見に類似している。また、CHOLGUA:DOPAリポソームの血清抵抗性トランスフェクションも観察され得るが、血清非存在と比較すると阻害は相当である。DOPAとCHIMまたはDC−CHOLの組合せでは、血清の存在下でなんらトランスフェクションは行なわれなかった。
【0112】
DACA系脂質
頭基の化学に対する血清抵抗性トランスフェクションの依存性をさらに調べるため、共通のジアルキル−カルボン酸(DACA)アンカーをその疎水性ドメインとして使用し、以下の脂質を合成した。
【0113】
【化13】

ここで、DACA部分は、実施例10に記載のようにしてヨウ化オレイル(oleyliodide)をオレイン酸に付加することによって得た。得られた化合物は:
【0114】
【化14】

である。
【0115】
カチオン性脂質のうち、GUADACA、MPDACAまたはBADACAは、電荷イミノ部分を極性頭基内に有する。PDACAの頭基は、ピリジン部分のpKが低い(計算値pKは5.9である)のため本質的に非電荷体であるが、メチル化変形体では、定常的に電荷体であるピリジニウム化合物MPDACAの形成がもたらされる。ADACAは約9の充分高いpKを有するが、イミノ成分がない。しかしながら、アミノ基がアミドに対して□−位に存在しており、イミン形態のメソメリー安定化が可能なため、該成分から少量のそれぞれのエナミンが形成されることがあり得る。
【0116】
アニオン性脂質CHEMS、DMGS、DOGSおよびDOPAとの組合せは、コレステロール系脂質で上記のようにして調製し、0.33〜2の種々のC/A比(またはリン酸脂質では0.75〜1)を有する同様の一連の種々のリポソームが得られた。
【0117】
また、リポソームにPLK−1標的化siRNAまたは無関連な配列を負荷し、トランスフェクション特性を、マウス血清の存在下または非存在下でHeLa細胞において試験した。
【0118】
実施例14および15にさらに示すように、HeLa細胞の血清抵抗性トランスフェクションは、GUADACAまたはMPDACAとカルボキシル脂質またはリン酸脂質との組合せによって達成され得る。また、このような脂質では、血清の非存在下でも、PLK−1 siRNAの非常に効率的なトランスフェクションが行なわれる。これにより、ジメチルアミノ頭基を有するリポソームについて最近報告されたような血清成分によるリポソームの活性化はないが示唆される(Akincら,Mol.Ther.(2010)出版前に5月11日に電子公開.DOI:10.1038/mt.2010.85)。また、非常に高いレベルの担体活性が、カルボキシル脂質との組合せでの0.5〜1.5のC/A比、およびリン酸脂質でのC/A 0.75または1でも観察される。このような場合の多くで、製剤は両性の電荷特性を有する。
【0119】
ピリジニウム化合物MPDACAのメチル化なしでは、関連するPDACAが得られる。依然としてイミン官能部を有するが、この官能部は、MPDACAの場合のような電荷体ではない;また、PDACAは、トランスフェクション目的のために、カチオン性脂質ほど活性ではない。また別の変形体では、頭基の芳香族環は維持したが、次いで、電荷体イミンを環外アミニド基の一部として提示した。この化合物は、例えば、同様に血清抵抗性トランスフェクションが行なわれるCHEMSまたはDMGSと組合せると、トランスフェクション用の脂質として活性であることがわかった。
【0120】
ジアルキルカルボン酸系のさらなる脂質
US6726894に記載のピリジニウム脂質 SAINT−18(構造31)を使用すると、同様の所見が得られた。
【0121】
【化15】

SAINT−18を種々の脂質アニオン(CHEMS、DMGSまたはDOGSなど)と組み合わせた。カチオン性脂質とアニオン性脂質の比率をシステマテックな様式で種々に変え、得られた二元混合物に、任意選択で、さらに20または40mol%のコレステロールを加えた。個々の脂質混合物でリポソームを形質転換し、活性siRNAおよび対照siRNAの封入に使用した。通常細胞培養培地の存在下、HeLa細胞にて試験すると、実施例8に示すように、細胞生存性の効率的かつ特異的な阻害が、数多くの試験製剤で観察された。しかしながら、C/A>=1を有するリポソームではいずれも、マウス血清の存在下では細胞トランスフェクションは行なわれなかった。著しく対照的に、非常に多くの両性製剤が血清負荷刺激に抵抗性であり、細胞は有効にトランスフェクトされた。さらに、この効果は、PLK−1 siRNAに特異的であり、無関連なsiRNA(SCR)を負荷したリポソームでは、非特異的に細胞増殖を阻害するのに、ずっと高い濃度が必要であった。最良の結果は、DMGSと組み合わせたSAINT18を使用することにより得られた。したがって、C/A<1をさらに特徴とするSAINT−18とDMGSを含むリポソームは、本発明の範囲に含まれる。
【0122】
アミノ酸系脂質
本発明の教示をさらに例証するため、カチオン性グアニド脂質PONA(パルミトイル−オレオイル−ノル−アルギニン,構造21)を、CHEMSまたはDMGSなどの種々の脂質アニオンと組み合わせた。カチオン性脂質とアニオン性脂質の比率をシステマテックな様式で種々に変え、得られた二元混合物に、任意選択で、さらに20mol%のコレステロールを加えた。個々の脂質混合物でリポソームを形質転換し、活性siRNAおよび対照siRNAの封入に使用した。HeLa細胞にて試験すると、実施例5に示すように、細胞生存性の効率的かつ特異的な阻害が、ほとんどの試験製剤で観察された。活性は、ヒトまたはマウス血清の存在によって全く影響されなかったか、または影響はほんのわずかであった。
【0123】
実施例6では、アニオン性脂質CHEMSをPONAの誘導体と組み合わせ、このとき、グアニド部分は、構造(21)および(23)に示すように、アミノ基(PONアミン)または第4級化アンモニウム基(PONアンモニウム)で置換した。
【0124】
【化16】

この場合も、アニオン性脂質成分とカチオン性脂質成分の比率をシステマテックに変え、すべての脂質混合物中に20%コレステロールを存在させた。該物質をリポソームに製剤化し、活性siRNAおよび対照siRNAの封入に使用した。HeLa細胞にて試験すると、モル過剰のカチオン性脂質を含むすべての製剤で、細胞生存性の効率的かつ特異的な阻害が観察された。高モル量のアニオン性脂質CHEMSを含む混合物では、PONAとの組合せで最良の活性が観察されたが、PONアミン:CHEMSの組合せは一部の場合でのみ有効であった。PONアンモニウム:CHEMSの組合せは、過剰のアニオン性脂質を用いた場合、有効でなかった。
【0125】
さらに、過剰のアニオン性脂質CHEMSを含む混合物のうち、PONA:CHEMSの組合せのトランスフェクション活性は、ヒトまたはマウス血清の存在による影響はほんのわずかであったが、PONアミン:CHEMSの組合せの活性はマウス血清の存在下で完全に(completed)抑制された。PONアンモニウム製剤は血清の存在下で不活性なままであった。
【0126】
また、PONA、PONアミンまたはPONアンモニウムとリン酸脂質DOPAの組合せも試験し、これは、さらに実施例15に記載する。PONAおよびPONアミンでは、ともに、HeLa細胞の血清抵抗性トランスフェクションがもたらされたが、PONアンモニウムではもたらされなかった。
【0127】
データを併合すると、負電荷体、例えば、カルボキシル脂質またはリン酸脂質との組合せでグアニド脂質を含む脂質の組合せの好ましい取込みが裏付けられる。これは、以下においてさらに考慮する機構に関連しているかもしれない。過剰のカチオン性脂質成分を有する製剤の一定の高い活性は、これらの粒子と細胞表面間の静電相互作用によるものかもしれないが、これは非特異的である。この考えは、カチオン性製剤の活性は、アニオン性脂質の性質またはカチオン性脂質の性質のどちらにも依存しなかったことと整合する。
【0128】
さらなる実験では、グアニド脂質PONAを、CHEMS、DMGSまたはDOGSと組み合わせた。この場合も、それぞれの二元混合物におけるアニオン性脂質化合物およびカチオン性脂質化合物の両方の比率のシステマテックな変更を行ない、製剤に、さらに0、20または40mol%のコレステロールを加えた。上記のようにして試験すると、ほとんどの製剤がHeLa細胞の細胞増殖の阻害に活性であり、IC50は6nMより低かった(実施例7参照)。しかしながら、活性siRNAと不活性siRNA間での有効性に必要とされる濃度の比較により、製剤間に相当な差が示された。かかる比較の尺度は、両方のsiRNAのIC50値の比率であり、ここではSCR/PLK比で示す。選択された製剤のみ、5より有意に高い値に達する。さらにより好ましい製剤はSCR/PLK>=10を有するものである。このような好ましい製剤はすべて、カチオン性脂質成分とアニオン性脂質成分の比が1より小さいことを特徴とするものであり得る。
【0129】
本発明により、本発明の場合以外は(otherwise)阻害性の血清の存在下において、具体的な脂質頭基の化学が特定の細胞内への取込みに重要であることが確認される。このましくは、カルボキシル基を含むアニオン性脂質と電荷イミノ部分を含むカチオン性脂質の両性の組合せにより所望の特性がもたらされる。対照的に、同脂質を含むカチオン性製剤は、特定の頭基の化学に依存せず、細胞によってあまり許容されない。
【0130】
リポタンパク質結合
リポソームのトランスフェクションと競合するリポタンパク質は、その密度に応じてさまざまな構造を含むものである。これは、カイロミクロン、VLDL、LDL、IDLまたはHDL粒子として知られている。内因性経路では、カイロミクロンは小腸の上皮内層で合成され、合成には、ApoB遺伝子産物の短鎖バリアントであるApoB−48が使用される。さらに、リポタンパク質をHDL粒子で交換されると、ApoC−IIおよびApoEがカイロミクロン粒子に転移され、該粒子からの脂質の放出に必要とされる酵素リポタンパク質リパーゼの活性化という最初の媒介がもたらされる。加水分解されたカイロミクロンは、いわゆるレムナントを形成し、これは、主に、そのApoE部分の認識によって肝臓に取り込まれる。VLDL粒子の合成、成熟、使用および再利用もまさに同じ経路に従うが、肝臓から始まり、ApoB−100タンパク質がその構造形成単位として使用される。この場合も、ApoEによってVLDL−レムナント(いわゆる、IDL粒子)の最終の取込みおよび再利用が媒介される(http://en.wikipedia.org/wiki/Lipoproteinも参照のこと)。
【0131】
ApoEはアポリポタンパク質AおよびCと、すべて、11個のアミノ酸の両親媒性のタンデムリピートを含むという点で構造相同性を共有している。結晶学的データにより、ApoA−IおよびApoE断片について拡張型の両親媒性らせん構造の存在が確認されており、また、このらせんの極性面上における混合型の電荷の組織化が明らかになっている。このデータは、RCSB Protein Data Bank(www.rcsb.org/pdb/home/home.doで入手可能)から公に入手可能であり、エントリー1AV1.pdbにApoA−Iのタンパク質の構造が示されている。1lpe.pdbのアミノ酸129〜166は、ApoEのLDL受容体結合断片を示す。その全体的な類似性とは対照的に、この3種類のアポリポタンパク質は、アミノ酸組成を解析すると、特定の逸脱を示す。ApoEでは、アルギニンがタンデムリピート内の主なカチオン性アミノ酸である。対照的に、ApoAは、等しい量のリシンとアルギニンを有するが、ApoCは過剰のリシン残基を有する。
【0132】
【表3】

要約すると、天然リポタンパク質の極性表面はアポリポタンパク質で覆われており、そのApoEは、これらの粒子の細胞内取込みのための共通の結合モチーフである。ApoEの水面露出部分はアニオン電荷とカチオン電荷のモザイクを提示し、ここで、アニオン電荷は、アルパラギン酸およびグルタミン酸残基の遊離カルボキシル末端から生成される。カチオン電荷は、非常に少量のイミダゾールが存在するアミノ基とグアニド基の混合物を構成する。
【0133】
リポソームの表面上のApoE結合カセットの認識パターンを模倣するため、その後、異なる択一法を行なってもよい。ApoEペプチド断片を合成し、かかるペプチドをリポソームの表面上にグラフトさせることが可能である。これは、Mimsら,J Biol.Chem.269,20539(1994);Rensenら,Mol Pharmacol.52,445(1997);Rensenら,J.Lipid Res.38,1070(1997);Sauerら,Biochemistry 44,2021(2005)またはVersluisら,J Pharmacol.Exp.Ther 289,1(1999)に示されている。しかしながら、ペプチドの合成および誘導体化に伴うコスト高により、択一的なアプローチが求められている。
【0134】
必要とされる電荷体部分を、潜在的にさらに中性脂質を含む異なる電荷脂質の混合物を用いて直接提示することにより、ずっと簡単な構造が得られ、高価なペプチドの作製および誘導体化の必要性が排除され得る。かかるアプローチの大きな難題は、脂質二重層内での電荷基の平面的な拡散である;これまで、あまり組織化されていないかかる集合体の親和性が、真のリポタンパク質によってもたらされる親和性と有効に競合し得るかどうかは不明であった。さらに、反対の電荷の脂質の頭基は互いに塩橋を形成することがあり得るが、リポタンパク質(例えば、ApoE)の結合カセット内には官能基間の水素結合は、ほんのわずかしか検出されない。これにより、イミノ:リン酸脂質の組合せ(GUADACA:DOPAまたはMPDACA:DOPAなど)の活性が説明され得る。DOPAは、生理学的条件下で2つの負電荷を提供するが、立体障害のため、1つのDOPA脂質と2つのGUADACA脂質の塩は形成されない。そのため、このような膜では、DOPAとGUADACAの負電荷体の塩が、遊離GUADACA分子と共存しているはずであり、それにより、共通の脂質集合体内における独立したアニオン性要素とカチオン性要素の併存が助長される。
【0135】
上記の理論の言及は本発明の所見を限定しない。この特定の理論に拘束されることを望まないが、荷電したイミノ脂質と負電荷体であるカルボキシル脂質またはリン酸脂質との組合せにより、ApoEで覆われたリポタンパク質の表面特性が模倣されると仮定することができる。該粒子は、もちろん、かかる知識なしで使用され、開発され、最適化され得る。しかしながら、この理論的背景は、本発明の種々の実施形態に記載の媒体の指導原則または適用可能性の理解に有用であり得る。
【0136】
例えば、リポタンパク質受容体は、種々の細胞型において異なる発現プロフィールを有することが知られており、かかる知識は、本発明のリポソームのための標的細胞集団を評価するために使用され得る。
【0137】
LDL受容体は、腫瘍および肺の気管支上皮細胞で高度に発現されている(Su Al,Wiltshire T,Batalov S,ら(2004).Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.101(16):6062−7参照,また、http://en.wikipedia.org/wiki/File:PBB_GE_LDLR_202068_s_at_tn.pngに公開されている)。
【0138】
したがって、本発明のリポソームは、腫瘍学の分野における適用に特に適しているが、特定の肺細胞のトランスフェクションにも適している。腫瘍は、EPR効果(血管透過性・滞留性亢進)(これは、腫瘍の漏出性の血管構造によるもの)により全身循環によって到達可能であるが、気管支上皮細胞は気道からも標的化することができる。
【0139】
したがって、本発明の具体的な一実施形態では、荷電したイミノ脂質とカルボキシル脂質またはリン酸脂質を含むリポソームのエーロゾルが、肺細胞、特に気管支上皮細胞の標的化のための吸入型投薬形態に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、実施例14に記載のスクリーニング実験の結果を示す。カチオン性脂質の性質を小さい図に示しており、説明文および軸は、すべての表示項目について同様であり、個々の小さい図の下方に示している。二重のバーは、それぞれ、20%コレステロール(左バー)および40%コレステロール(右バー)でのリポソームを表す バーは、各図の実験条件下、すなわち、マウス血清の存在下または(of)非存在下のいずれかでの、それぞれのリポソーム/siRNAの組合せのIC50値を表す。このIC50値は、細胞増殖の最大の半分の阻害に必要とされる濃度を表し、単位:nMで示す。試験項目の最大濃度は、マウス血清の非存在または存在の場合で、それぞれ、40nMおよび36nMとした 試験項目の順番は以下のとおりである:図1のアニオン性脂質は、CHEMS−マウス血清の添加なしである。
【図2】図2は、実施例14に記載のスクリーニング実験の結果を示す。カチオン性脂質の性質を小さい図に示しており、説明文および軸は、すべての表示項目について同様であり、個々の小さい図の下方に示している。二重のバーは、それぞれ、20%コレステロール(左バー)および40%コレステロール(右バー)でのリポソームを表す バーは、各図の実験条件下、すなわち、マウス血清の存在下または(of)非存在下のいずれかでの、それぞれのリポソーム/siRNAの組合せのIC50値を表す。このIC50値は、細胞増殖の最大の半分の阻害に必要とされる濃度を表し、単位:nMで示す。試験項目の最大濃度は、マウス血清の非存在または存在の場合で、それぞれ、40nMおよび36nMとした 試験項目の順番は以下のとおりである:図2のアニオン性脂質は、CHEMS+マウス血清添加である。
【図3】図3は、実施例14に記載のスクリーニング実験の結果を示す。カチオン性脂質の性質を小さい図に示しており、説明文および軸は、すべての表示項目について同様であり、個々の小さい図の下方に示している。二重のバーは、それぞれ、20%コレステロール(左バー)および40%コレステロール(右バー)でのリポソームを表す バーは、各図の実験条件下、すなわち、マウス血清の存在下または(of)非存在下のいずれかでの、それぞれのリポソーム/siRNAの組合せのIC50値を表す。このIC50値は、細胞増殖の最大の半分の阻害に必要とされる濃度を表し、単位:nMで示す。試験項目の最大濃度は、マウス血清の非存在または存在の場合で、それぞれ、40nMおよび36nMとした 試験項目の順番は以下のとおりである:図3のアニオン性脂質は、DMGS−マウス血清の添加なしである。
【図4】図4は、実施例14に記載のスクリーニング実験の結果を示す。カチオン性脂質の性質を小さい図に示しており、説明文および軸は、すべての表示項目について同様であり、個々の小さい図の下方に示している。二重のバーは、それぞれ、20%コレステロール(左バー)および40%コレステロール(右バー)でのリポソームを表す バーは、各図の実験条件下、すなわち、マウス血清の存在下または(of)非存在下のいずれかでの、それぞれのリポソーム/siRNAの組合せのIC50値を表す。このIC50値は、細胞増殖の最大の半分の阻害に必要とされる濃度を表し、単位:nMで示す。試験項目の最大濃度は、マウス血清の非存在または存在の場合で、それぞれ、40nMおよび36nMとした 試験項目の順番は以下のとおりである:図4のアニオン性脂質は、DMGS+マウス血清添加である。
【図5】図5は、実施例14に記載のスクリーニング実験の結果を示す。カチオン性脂質の性質を小さい図に示しており、説明文および軸は、すべての表示項目について同様であり、個々の小さい図の下方に示している。二重のバーは、それぞれ、20%コレステロール(左バー)および40%コレステロール(右バー)でのリポソームを表す バーは、各図の実験条件下、すなわち、マウス血清の存在下または(of)非存在下のいずれかでの、それぞれのリポソーム/siRNAの組合せのIC50値を表す。このIC50値は、細胞増殖の最大の半分の阻害に必要とされる濃度を表し、単位:nMで示す。試験項目の最大濃度は、マウス血清の非存在または存在の場合で、それぞれ、40nMおよび36nMとした 試験項目の順番は以下のとおりである:図5のアニオン性脂質は、DOGS−マウス血清の添加なしである。
【図6】図6は、実施例14に記載のスクリーニング実験の結果を示す。カチオン性脂質の性質を小さい図に示しており、説明文および軸は、すべての表示項目について同様であり、個々の小さい図の下方に示している。二重のバーは、それぞれ、20%コレステロール(左バー)および40%コレステロール(右バー)でのリポソームを表す バーは、各図の実験条件下、すなわち、マウス血清の存在下または(of)非存在下のいずれかでの、それぞれのリポソーム/siRNAの組合せのIC50値を表す。このIC50値は、細胞増殖の最大の半分の阻害に必要とされる濃度を表し、単位:nMで示す。試験項目の最大濃度は、マウス血清の非存在または存在の場合で、それぞれ、40nMおよび36nMとした 試験項目の順番は以下のとおりである:図6のアニオン性脂質は、DOGS+マウス血清添加である。
【発明を実施するための形態】
【0141】
実施例
本発明の教示は、以下の実施例を検討すると、よりよく理解され得よう。しかしながら、本発明の教示は、この実施例によってなんら限定されるべきでない。
【0142】
実施例1−リポソームの作製、特徴づけおよびsiRNAの封入
リポソームを、WO07/107304に開示された方法を用いて調製した。より詳しくは、脂質をイソプロパノールに溶解させ、NaAc 20mM、スクロース300mM(pH4.0(HAcでpH調整))のsiRNA溶液をアルコール性脂質ミックスに添加し、アルコールの最終濃度を30%にすることにより、リポソームを生成させた。形成されたリポソーム懸濁液を、2倍容量のNaHPO 136mM、NaCl 100mM(pH9)でpH7.5にシフトさせ、脂質の最終濃度を3mMに、イソプロパノールの最終濃度を10%にした。
【0143】
リポソームを、その粒径に関して動的光散乱(MALVERN 3000HSA)を用いて特徴づけした。
【0144】
活性siRNA:Haupenthalら,int.J.Cancer(2007),121:206−210の場合のような21量体の平滑端の標的化用マウスおよびヒトPLK−1 mRNA
対照siRNA(SCR):同じ供給源の21量体 。
【0145】
実施例2−一般的な細胞培養および増殖アッセイ
HeLa細胞をDSMZ(German Collection of Micro Organism and Cell Cultures)から取得し、DMEM(Gibco−Invitrogen)中に維持し、10%FCSを補給した。細胞を2.5×10細胞/mlの密度でプレーティングし、100μlの培地中、5%CO下、37℃で培養した。16時間後、siRNA含有リポソームを希釈し、10μlを細胞に添加し、最終濃度を0.4〜100nM Plk1またはスクランブル型siRNAにした;また、未処理細胞および細胞なしのウェルにも10μlの希釈バッファーを添加した。細胞培養皿を5%CO下、37℃で72時間インキュベートした。
【0146】
細胞の増殖/生存性を、CellTiter−Blue Cell Viabilityアッセイ(Promega,US)を、供給元の使用説明書に従って使用することにより測定した。
【0147】
実施例3−血清によるトランスフェクションの阻害
DODAP:DMGS:コレステロール(24:36:40mol%)のリポソームに、上記の活性siRNAおよび対照siRNAを負荷し、25μlのリポソームを、異なる種に由来する75μlの血清(SIGMA−Aldrich)とともに30分間インキュベートした。その後、リポソームを細胞に添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。
【0148】
血清なしでインキュベートした場合、活性siRNAの投与により、強力な細胞増殖阻害がもたらされる。以下の表7に示されるように、このプロセスは血清の添加によって阻害される。
【0149】
【表7】

実施例4−阻害はリポタンパク質依存性である
実施例3と同様のリポソームを、特定の補体因子またはリポタンパク質を除いたヒト血清(SIGMA−Aldrich)とともに上記のようにしてインキュベートし、HeLa細胞に対するRNAiの効果を媒介する能力について解析した。
【0150】
表8に示されるように、トランスフェクションの有効性は、リポタンパク質の枯渇によって回復され得る。補体因子の除去は有効でなかった。
【0151】
【表8】

実施例5−グアニド脂質を用いた血清抵抗性トランスフェクション
一連のリポソームを、PONA:アニオン性脂質:コレステロール(x:y:20mol%)から構築し、実施例1の場合と同じ活性siRNAおよび対照siRNAを負荷した。この一連のものにおいて、カチオン性成分PONAとアニオン性脂質CHEMSまたはDMGSの比を、0.33〜2の間で表に示したとおりにシステマテックに変えた。1より大きいカチオン性:アニオン性脂質比を有するリポソームに、さらに、2mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた(粒子の凝集を回避するため)。この改良を表中に「+」で示す。C/A<1を有する粒子での対照反応では、PEG脂質の存在下または非存在下で、トランスフェクション特性の変化は示されなかった。
【0152】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、ヒトまたはマウス起源の血清(SiGMA−Aldrich)を直接細胞に120分間添加した。その後、リポソームを細胞に50pM〜50nMの濃度で添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。ここで、トランスフェクションの有効性を、細胞増殖が50%阻害されるのに必要とされる濃度IC50で示す。したがって、低IC50値は、高度に有効なトランスフェクションを表す。
【0153】
表9の結果から、血清の添加は、当該実施例のリポソームによって媒介されるsiRNAのトランスフェクションに、ほんのわずかしか影響しないことが明らかである。少量のアニオン性脂質を含むPONA:CHEMSのリポソームでは、一部の阻害がなお観察される(比率は0.33および0.5、マウス血清で特に強力な阻害)。
【0154】
【表9】

実施例6−グアニド頭基の重要性
カチオン性脂質成分とアニオン性脂質成分の比率をシステマテックに変えた一連のリポソームを作製し、実施例5の場合と同じsiRNAを負荷した。カチオン性脂質成分はPONA、PONアミンおよびPONアンモニウムとし、アニオン性脂質はCHEMSとし、コレステロール含有量は20mol%に固定した。1より大きいカチオン性:アニオン性脂質比を有するリポソームに、さらに、2mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた(粒子の凝集を回避するため)。この改良を表中に「+」で示す。
【0155】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、ヒトまたはマウス起源の血清(SIGMA−Aldrich)を直接細胞に120分間添加した。その後、リポソームを細胞に50pM〜50nMの濃度で添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。ここで、トランスフェクションの有効性を実施例5の場合と同じIC50で示す。
【0156】
表10のデータから、PONAのみが血清の存在下でHeLa細胞のトランスフェクションを媒介し、PONアミンおよびPONアンモニウム(さらに媒介しない)はいずれも媒介しないことが明らかである。これはマウス血清(これは、トランスフェクションをより攻撃的に阻害する)の場合に最も顕著である。過剰のカチオン性脂質成分は、ある程度、血清媒介性の活性の低下を代償するが、細胞への該リポソームの非特異的な静電吸着のためかもしれない。
【0157】
【表10】

実施例7−リポソーム組成物の最適化
カチオン性脂質成分とアニオン性脂質成分の比率をシステマテックに変えた一連のリポソームを作製し、実施例5の場合と同じsiRNAを負荷した。カチオン性脂質成分はPONAとし、アニオン性脂質は、CHEMS、DMGSまたはDOGSとし、コレステロール含有量は0〜40mol%の間で変えた。1より大きいカチオン性:アニオン性脂質比を有するリポソーム、また、一部の他のリポソームに、さらに、2mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた(粒子の凝集を回避するため)。この改良を表中に「+」で示す。
【0158】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、リポソームを細胞に6nM〜200nMの濃度で添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。ここで、トランスフェクションの有効性を上記の実施例と同じIC50で示す。また、不活性siRNA(SCR)を担持するリポソームのIC50を測定し、IC50(SCR)とIC50(PLK1)の比を求めた。このパラメータの高い値は、一般に、PLK1 siRNAによる細胞生存性の阻害が非常に特異的なこと、担体が寄与する非特異的効果が少ないこと、および細胞傷害性レベルが低いことを示す。
【0159】
【表11】

【0160】
【表12】

【0161】
【表13】

実施例8−ピリジニウム脂質を含むリポソーム
SAINT−18をカチオン性脂質として使用した。そのメチル化ピリジニウム構造は電荷イミノ部分を提供する。CHEM、DMGSおよびDOGSを、カルボキシル官能基を提供するアニオン性脂質として、個々に使用した。カチオン性脂質成分とアニオン性脂質成分の比率をシステマテックに変えた一連のリポソームを作製し、実施例5の場合と同じsiRNAを負荷した。脂質混合物に、さらに、20または40mol%のコレステロールを加えた。1より大きいカチオン性:アニオン性脂質比を有するリポソームに、さらに、2mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた(粒子の凝集を回避するため)。この改良を表中に「+」で示す。
【0162】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、リポソームを細胞に50pM〜50nMの濃度で添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。ここで、トランスフェクションの有効性を上記の実施例と同じIC50で示す。また、不活性siRNA(SCR)を担持するリポソームのIC50を測定し、IC50(SCR)とIC50(PLK1)の比を求めた。このパラメータの高い値は、一般に、PLK1 siRNAによる細胞生存性の阻害が非常に特異的なこと、担体が寄与する非特異的効果が少ないこと、および細胞傷害性レベルが低いことを示す。
【0163】
【表14】

【0164】
【表15】

【0165】
【表16】

表14〜16データから明白にわかるように、多くの数の両性リポソームは、マウス血清の存在下であっても細胞のトランスフェクションを助長する。特に有用なのは、SAINT−18をジアシルグリセロールDMGSおよびDOGSとの組合せで含むリポソームであるが、CHEMSとの組合せではC/A=0.67でのみ有効であった。PONAの組合せの場合と同様、両性構築物により、細胞は高い特異性でトランスフェクトされるが、C/A>1を有する組成物では、SCR/PLK1が2未満であることで示されるように、高度に特異的なトランスフェクションはもたらされない。
【0166】
本発明の他の実施形態および使用は、本明細書の検討および本明細書において開示する発明の実施により、当業者に自明となろう。本明細書および実施例は単なる例示とみなされたい。本発明の真の範囲および精神は以下の特許請求の範囲に示されている。
【0167】
実施例9−ゼータ電位の測定
9.1 PONA:CHEMS:CHOLで形成されたリポソームのゼータ電位の解析
x mol%のPONA、y mol%のCHEMSおよび20mol%のコレステロール(総脂質濃度20mM,溶媒:イソプロパノール)を含む100μlの脂質ミックスを、10mMの酢酸と10mMのリン酸を含む900μlのバッファー(pH4)中に注入した。PONAおよびCHEMSのモルパーセンテージであるXおよびYは、表17のC/A比が得られるように調整した。
【0168】
この懸濁液を直ちにボルテックスし、3mLのpH調整バッファーを添加した。バッファーは、50mM 酢酸および50mM リン酸(NaOHを用いてpH4、5、6.5もしくは7.5に調整)または50mM NaHPO/50mM 酢酸ナトリウム(pH9.4)の群から選択した。混合pHを記録し、以下の表17に、得られた脂質粒子ゼータ電位(Zetasizer HSA3000を用いてモニタリング)とともに示す。
【0169】
【表17】

明らかに、粒子は、1.22の(すなわち、1より大きい)C/Aを有する混合物であっても両性の性質を示す。また、0.67、0.82または1のC/Aを有する粒子もpH7.4において生成され、その後、低pHに供した。表17に示すゼータ電位に明白な変化は認められなかった。
【0170】
9.2 DOPAがアニオン性脂質であるの場合の組合せのゼータ電位の測定
脂質粒子を、GUADACAとDOPA(脂質頭基がイミノ/リン酸の組合せ)の二元混合物からも調製した。この粒子は、9.1に記載のものと同様にして調製し、異なるC/A比を有する混合物について、表18のゼータ電位が記録された。
【0171】
【表18】

9.1で得られた粒子と同様、C/A>1でも両性の性質を有する粒子が得られる。それでも、等電点でのドリフトは予測どおりである。
【0172】
9.3 DOTAP:CHEMS:CHOLのゼータ電位の測定
比較のため、同じ測定を、PONAをDOTAPで置き換えた脂質混合物で行なった。結果を表19に示す。PONA:CHEMSとは対照的に、DOTAP:CHEMSの両性粒子はC/A<1でのみ認められる。
【0173】
【表19】

実施例10−CHOLGUAの合成
25gのコレステロールクロロホルミエートと50当量(eq)のエチレンジアミンをジクロロメタンに溶解させ、20℃で6時間反応させた。アミノエチルカルバモイル−コレステレロール(cholestererol)を、クロマトグラフィーと晶出を用いて単離した。収量は28.7gであった(純度90%)。
【0174】
CHOLGUAは、先で単離したアミノエチルカルバモイル−コレステロールから合成し、30gのこの物質を、1.5eqの1H−ピラゾール−1−カルボキサミジニウム塩酸塩および4eqのN,N−ジイソプロピルエチルアミン(ジクロロメタン/エタノール中)とともに20℃で16時間インキュベートした後、生成物をクロマトグラフィーによって単離した。純度は95%であった(収量16.5g)。
【0175】
実施例11−DACA、PDACAおよびMPDACAの合成
42.4gのオレイルアルコール、2.5eqのジイソプロイルアゾジカルボキシレート、2.5eqのトリフェニルホスフィンおよび5eqのLiIを、テトラヒドロフラン(THF)中で、20℃にて24時間反応させた。ヨウ化オレイルをクロマトグラフィーによって単離し、純度は90%、収量は13.4gであった。
【0176】
第2工程において、10gのオレイン酸を2.2eqのリチウムジイソプロピルアミド(THF中)と20℃で0.5時間混合した後、1eqのヨウ化オレイルを添加した。混合物を20℃で2時間インキュベートし、DACAを反応ミックスから、クロマトグラフィーを用いて精製した。純度は95%であった(収量14.96g)。
【0177】
PDACAの合成では、2gのDACA、1.2eqの4−ピコリルアミン、1.4eqのO−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレートおよび4eqのN−メチルモルホリンを、THF中で20℃にて24時間混合した。反応混合物を精製した(クロマトグラフィーなど)。PDACAの純度は95%であり、収量は1.72gであった。
【0178】
MPDACAの合成では、2gのPDACAをTHFに、2eqの硫酸ジメチルとともに溶解させ、混合物を20℃で16時間インキュベートした後、MPDACAをクロマトグラフィーによって精製した。MPDACAの純度:95%,収量:1.71g。
【0179】
実施例12−GUADACAの合成
第1工程で、3.5gのDACAと1.5eqの1,1’−カルボニルジイミダゾールをジクロロメタンに溶解させ、20℃で16時間インキュベートした後、30eqのエチレンジアミンを添加した。反応混合物を20℃で4時間インキュベートした後、アミノエチル−DACAを精製した(クロマトグラフィーなど)。純度は90%であった(収量 3.2g)。
【0180】
GUADACAは、アミノエチル−DACAから合成し、そのために、3.2gのアミノエチル−DACA、2.5eqの1H−ピラゾール−1−カルボキサミジン塩酸塩および12eqのN,N−ジイソプロピルエチルアミンを20℃で3時間インキュベートした後、GUADACAを単離した。純度:95%,収量:2.24g。
【0181】
実施例13−BADACAの合成
BADACAはDACAから、以下の手順に従って合成した。4.15gのDACA、1.2eqのp−アミノベンズアミジン、1.2eqのN.N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドおよび3eqの4−ジメチルアミノピリジンを乾燥ジメチルホルムアミド中で混合し、70℃で16時間インキュベートした。BADACAを反応液から、クロマトグラフィーを用いて単離した。純度:95%,収量:1.62g。
【0182】
実施例14−カルボキシル脂質との組合せでのDACAまたはコレステロール系カチオン性脂質の血清抵抗性トランスフェクション
カチオン性脂質成分とアニオン性脂質成分の比率をシステマテックに変えた一連のリポソームを作製し、実施例5の場合と同じsiRNAを負荷した。カチオン性脂質成分はCHOLGUA、CHIM、DC−CHOL、TC−CHOL、GUADACA、MPDACA、BADACAおよびPDACAとした。アニオン性脂質は、CHEMS、DMGSまたはDOGSとし、コレステロール含有量は、20mol%または40mol%のいずれかとし、すべての脂質混合物をデータ表に特定する。1より大きいカチオン性:アニオン性脂質比を有するリポソーム(C/A>=1)に、さらに、1.5mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた。
【0183】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、マウス血清(SIGMA−Aldrich)を直接細胞に120分間添加した。その後、リポソームを細胞に添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。実験のリポソームの最高濃度は、マウス血清の非存在下または存在下で、それぞれ、40nMおよび36nMとした。ここで、トランスフェクションの有効性を実施例5の場合と同じIC50(単位:nM siRNA)で示す。このスクリーニング実験の結果をすべて、図1〜6に示す。
【0184】
トランスフェクション用混合物の多くで、非常に低いIC50値で示されるように、siRNAによる非常に強力なHeLa細胞のトランスフェクションがもたらされた。イミノ脂質(CHOLGUAなど)を含む脂質の組合せは、マウス血清の存在下であっても強力なトランスフェクト体のままであったが、MPDACA、GUADACAまたはPONAでは、より強力であった。
【0185】
実施例15−リン酸脂質との組合せでのいくつかのカチオン性脂質の血清抵抗性トランスフェクション
0.75または1のいずれかのC/A比を有する一連のリポソームを作製し、実施例5の場合と同じsiRNAを負荷した。カチオン性脂質成分は、CHOLGUA、CHIM、DC−CHOL、GUADACA、MPDACA、BADACA、PONA、DOTAPまたはDODAPとした。アニオン性脂質はDOPAとし、コレステロール含有量は40mol%とし、すべての脂質混合物を表20に特定する。リポソームに、さらに、1.5mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた。
【0186】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、マウス血清(SIGMA−Aldrich)を直接細胞に120分間添加した。その後、リポソームを細胞に添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。ここで、トランスフェクションの有効性を実施例5の場合と同じIC50(単位:siRNAのnM)で示す。
【0187】
トランスフェクション用混合物の多くで、非常に低いIC50値で示されるように、siRNAによる非常に強力なHeLa細胞のトランスフェクションがもたらされた。イミノ脂質(CHOLGUAなど)を含む脂質の組合せは、マウス血清の存在下であっても強力なトランスフェクト体のままであったが、MPDACA、GUADACAまたはPONAでは、より強力であった。
【0188】
【表20】

実施例16−血清抵抗性トランスフェクションは負電荷脂質の非存在下では不充分である
一連のリポソームを、カチオン性脂質および中性脂質としてのコレステロールから作製した。これらの調製物にアニオン性脂質は使用しなかった。
カチオン性脂質成分は、CHOLGUA、CHIM、DC−CHOL、ADACA、GUADACA、MPDACA、BADACA、PONA、DOTAPおよびDODAPとし、リポソームは、実施例5に記載の手順により作製した。
【0189】
コレステロール含有量は40mol%とし、リポソームに、さらに、1.5mol%DMPE−PEG2000(日本油脂)を加えた(siRNAの存在下での凝集体形成を回避するため)。
【0190】
HeLa細胞を実施例2のようにして培養および維持し、マウス血清(SIGMA−Aldrich)を直接細胞に120分間添加した。その後、リポソームを細胞に添加し、インキュベーションを72時間継続し、細胞生存性を上記のようにして測定した。ここで、トランスフェクションの有効性を実施例5の場合と同じIC50(単位:siRNAのnM)で示す。
【0191】
得られた結果を以下の表21に示す。すべての場合で、トランスフェクションの有効性は、アニオン性脂質をさらに含む混合物のものより相当低い。GUADACAまたはPONAを除き、マウス血清の存在下で検出可能な活性は認められなかった。
【0192】
【表21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質とを含む脂質集合体であって、前記カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分が、生理学的条件下で実質的に荷電したイミノ脂質であり、前記アニオン性両親媒性物質はカルボキシル脂質またはリン酸脂質であり、さらに、前記カチオン性両親媒性物質と前記アニオン性両親媒性物質との間の電荷比率が1.5以下である、脂質集合体。
【請求項2】
アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質を含む、請求項1に記載の脂質集合体であって、前記カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分が、生理学的条件下で実質的に荷電したイミノ脂質であり、さらに、前記アニオン性両親媒性物質の少なくとも一部分がカルボキシル脂質であり、前記カチオン性両親媒性物質と前記アニオン性両親媒性物質との間の比率が1.5であるか、またはそれより小さい、脂質集合体。
【請求項3】
脂質の組合せを含む、請求項1または2記載の脂質集合体であって、前記組合せの前記カチオン性脂質がグアニド部分を含み、前記組合せの前記アニオン性脂質がカルボキシル基を含み、さらに、前記グアニド部分と前記カルボキシル基との間の比率が1.5であるか、またはそれより小さいことを特徴とする、脂質集合体。
【請求項4】
アニオン性両親媒性物質とカチオン性両親媒性物質を含む、請求項1に記載の脂質集合体であって、前記カチオン性両親媒性物質の少なくとも一部分が、生理学的条件下で実質的に荷電したイミノ脂質であり、さらに、前記アニオン性両親媒性物質の少なくとも一部分がリン酸脂質であり、前記カチオン性両親媒性物質と前記アニオン性両親媒性物質との間の電荷比率が1.5であるか、またはそれより小さい、脂質集合体。
【請求項5】
さらに、前記カチオン性両親媒性物質の前記荷電したイミノ基が、7.5より大きいpKを有し、イミン、アミジン、ピリジン、2−アミノピリジン、複素環式窒素塩基、グアニド部分、イソ尿素またはチオイソ尿素から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の脂質集合体。
【請求項6】
カチオン性両親媒性物質がI1〜I113の構造、構造A1〜A21または構造L1〜L17を含む群から選択され、前記群のメンバーが、さらに、7.5より大きいpKに従って選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の脂質集合体。
【請求項7】
さらに、前記カチオン性脂質がPONA、CHOLGUA、GUADACA、MPDACAまたはSAINT−18の群から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の脂質集合体。
【請求項8】
さらに、前記アニオン性脂質がCHEMS、DMGS、DOGS、DOPAまたはPOPAの群から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の脂質集合体。
【請求項9】
さらに、0.5〜1.5である前記カチオン性脂質と前記アニオン性脂質の電荷比率を有することを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の脂質集合体。
【請求項10】
さらに、リポソームであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の脂質集合体。
【請求項11】
さらに、コレステロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンまたはその混合物から選択される中性脂質または両性イオン脂質を含む、請求項10に記載のリポソーム。
【請求項12】
さらに、前記中性脂質がコレステロールであり、脂質混合物中のコレステロールのモル分率が10mol%〜50mol%であることを特徴とする、請求項11に記載のリポソーム。
【請求項13】
さらにPEG脂質を含む、請求項10、11または12に記載のリポソーム。
【請求項14】
さらに、前記PEG脂質が最外膜リーフレット(outermost membrane leaflet)内に存在していることを特徴とする、請求項13に記載のリポソーム。
【請求項15】
さらに活性医薬成分を含む、請求項10〜14のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項16】
前記医薬成分がオリゴヌクレオチドである、請求項15に記載のリポソーム。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチドが、デコイオリゴヌクレオチド、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、転写に影響を及ぼす因子、リボザイム、DNAザイムまたはアプタマーである、請求項16に記載のリポソーム。
【請求項18】
前記オリゴヌクレオチドが、そのホスホジエステル形態またはホスホチオエート形態においてDNA、RNA、LNA、PNA、2’OMe RNA、2’MOE RNA、2’F RNAなどの修飾ヌクレオシドを含む、請求項17に記載のリポソーム。
【請求項19】
工程(i)活性成分の存在下でのリポソームの形成および密封、ならびに工程(ii)前記工程(i)後のPEG−脂質の別個の添加を含む方法によって作製される、請求項14に記載のリポソーム。
【請求項20】
細胞のインビボ、インビトロまたはエキソビボでのトランスフェクションのための請求項10〜19のいずれかに記載のリポソームの使用。
【請求項21】
肺細胞のトランスフェクションのための請求項10〜19のいずれかに記載のリポソームを含むエーロゾルの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2012−532839(P2012−532839A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518924(P2012−518924)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059487
【国際公開番号】WO2011/003834
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(507328184)マリーナ バイオテック,インコーポレイテッド (29)
【Fターム(参考)】