説明

インキ硬化定着方法及び印刷方法、並びにそれらに用いるインキ

【課題】基材へのインキの硬化定着性に優れ、かつ、機械的ストレスや加熱下においても硬化定着後のインキに転移や色移り等の不具合の生じない、安定なインキ硬化定着方法、及び前記インキ硬化定着方法を用いた印刷方法、並びに、これらの方法に用いるためのインキを提供すること。
【解決手段】基材5上のインキ6を誘電体バリア放電に曝露して硬化定着させる工程を少なくとも含むインキ硬化定着方法であって、前記インキ中に重合性化合物を含むことを特徴とするインキ硬化定着方法;及び前記インキ硬化定着方法を用いた印刷方法;並びに、これらの方法に用いるための重合性化合物を含むインキである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電を利用したインキ硬化定着方法、及び前記インキ硬化定着方法を用いた印刷方法、並びに、これらの方法に用いるためのインキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、孔版印刷装置やインクジェット印刷装置等の印刷装置において、高度なインキ定着性要求に対しては、UV光硬化型インキを用いた印刷が行われている。前記UV光硬化型インキを用いた印刷装置では、印刷用紙に印刷された直後のUV光硬化型インキを、UV光照射により比較的短時間で硬化し定着させることができ、例えば、連続印刷時のいわゆる「裏移り」などを防止することができる(特許文献1参照)。
また、前記UV光硬化型インキを用いた印刷装置では、UV光を照射するインキ定着装置を印刷部の後段に設置し、UV光硬化型インキで印刷され、印刷部から排出された印刷用紙を定着装置に搬送し、印刷用紙の印刷面に対してUV光を照射して、UV光硬化型インキを硬化し、定着させるという手法がなされてきた。
【0003】
しかしながら、このようなインキ定着装置では、UVランプから発生される熱を強制冷却するための空冷ファンや熱排気ダクト、必要に応じて定着装置を開閉するためのシャッター機構、UV光の定着装置外部への漏れを防止するための遮断板など、多くの機構部品、構成要素を必要とするため、装置サイズが大きく、非常に広い設置面積が必要となる問題があった。
また、インキの定着性に関して、例えば、黒色など光透過性の低い色のUV光硬化型インキでは、黄色や青色など光透過性の高い色のUV光硬化型インキに比べて、インキを完全に定着させるためには大きな硬化エネルギーを必要とする。したがって、インキ定着装置としては、前記黒色などの光透過性の低い(即ち、最も硬化しにくい)色のUV光硬化型インキを硬化し定着させるのに十分で大きな硬化エネルギーを標準として照射する必要があり、これは電源装置のコスト高や維持運営コスト高を引き起こす問題があった。
【0004】
一方、通常使用されるUV光硬化型インキは、未重合状態においては、モノマー、若しくはオリゴマーであり、皮膚刺激性があり、刺激臭を生じるため、人体に影響を及ぼすことがあり、硬化不良を生じないことが望ましい。
しかし、対象物の上に供給されたUV光硬化型インキへの光の照射条件によってはインキの硬化不十分な部分、即ち、未定着インキを生じることがある。この未定着インキが、経時により移動脱落を生じると、印刷された画像の劣化だけでなく、印刷物に触れる人々や環境に影響を与えるおそれがある。特に、食品包装材料にUV光硬化型インキで印刷を行う場合、未定着インキの存在が少しであっても、人体に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば、近年、カルボキシル基を有する不揮発性有機化合物を含み、かつ光重合開始剤を含まないインキを、大気圧近傍の電極間放電を用いて基材に定着させる方法が開示されている(特許文献2参照)。前記特許文献2に示された方法は、大気圧近傍の電極間放電エネルギーをインキ中の油脂成分に直接作用させ、油脂成分同士を化学結合し蝋成分に変化させることでインキを硬化定着させる方法である。したがって、紫外線硬化定着方式のような光重合開始剤の類を必要としないため、人体や環境に対する負荷も少なく、取り扱い上の安全面で優れている。また、大掛かりな装置も必要としないため、コスト面でも有利である。
【0006】
しかしながら、前記特許文献2に示された方法では、硬化定着後のインキは油脂成分が蝋成分に変化している状態であるため、印刷物が強い機械的ストレス(擦れ、繰り返しの折り曲げ、圧力など)を受けた場合は印刷像の耐性があまり高くなく、更には硬化定着したインキ成分の融点も高くないため、加熱温度によってはダメージを受ける場合がある。
例えば、紙上に印刷されたインキを硬化定着した場合、印刷時或いは印刷直後の機械による丁合、製本、紙折、裁断といった印刷工程内での取り扱い範囲においては問題なく扱える。ところが、実使用環境において印刷面へ加重しながら摩擦するような外力がかかったりすると、同時に発生する摩擦熱などによって、硬化定着したインキが軟化し、印刷面の非画像部に転移したり、接触した相手物をインキ成分で汚染(色移り)してしまうという問題があった。
更に、ガラスやプラスティック、フィルム等の特殊な印刷分野に関して、インキが浸透しない基材上ではアンカー効果が弱いため、上述の摩擦によるインキ転移の不具合は紙上よりも顕著に現れる。更には、直射日光等による加熱によっても、硬化定着したインキが融解し基材の非画像部に流れて画像が著しく劣化する可能性があった。
【0007】
したがって、前記特許文献2に示されたような方法における安全面やコスト面における利点は維持しつつ、基材へのインキの硬化定着性に優れ、かつ、機械的ストレスや加熱下においても硬化定着後のインキに転移や色移り等の不具合の生じない、安定なインキ硬化定着方法、及びそれを用いた印刷方法の提供が、未だ望まれているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2001−171221号公報
【特許文献2】特開2007−106105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち本発明は、基材へのインキの硬化定着性に優れ、かつ、機械的ストレスや加熱下においても硬化定着後のインキに転移や色移り等の不具合の生じない、安定なインキ硬化定着方法、及び前記インキ硬化定着方法を用いた印刷方法、並びに、これらの方法に用いるためのインキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 基材上のインキを誘電体バリア放電に曝露して硬化定着させる工程を少なくとも含むインキ硬化定着方法であって、前記インキ中に重合性化合物を含むことを特徴とするインキ硬化定着方法である。
前記<1>に記載のインキ硬化定着方法においては、インキ中の重合性化合物が誘電体バリア放電のエネルギーによって重合されることで、基材上にインキを強固に硬化定着させることができる。そのため、前記インキ硬化定着方法により基材上に硬化定着されたインキは、機械的ストレスや加熱下においても、転移や色移り等の不具合が生じることがない点で、有利である。
<2> 更に、インキ中に有機カルボン酸の金属塩を含む前記<1>に記載のインキ硬化定着方法である。
前記<2>に記載のインキ硬化定着方法においては、有機カルボン酸の金属塩が、重合性化合物の重合時に触媒として働くため、インキの硬化定着を促進することができ、そのため、インキの乾燥時間を短縮することができる点で、有利である。
<3> 重合性化合物が下記式(1)で示されるポリカルボジイミドである前記<1>から<2>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法である。
【化2】

ただし、前記式(1)中、R及びRは同一又は異なるアルキレン基を示し、nは1〜50の整数を示す。
<4> 基材へのインキ供給工程を含み、前記インキ供給工程が、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式の少なくともいずれかにより行われる前記<1>から<3>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法である。
<5> 誘電体バリア放電により生じた副産物を除去する副産物除去工程を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法である。
<6> 除去工程が、誘電体バリア放電により生じた副産物としてのガスを除去するガス除去工程である前記<5>に記載のインキ硬化定着方法である。
<7> 基材上の未定着のインキを検知して誘電体バリア放電を行うための作動制御工程を含む前記<1>から<6>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法である。
<8> インキが、水性インキ、油性インキ、及び、エマルションインキのいずれかである前記<1>から<7>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法を用いることを特徴とする印刷方法である。
<10> 前記<1>から<8>のいずれかに記載のインキ硬化定着方法、及び、前記<9>に記載の印刷方法の少なくともいずれかに用いるためのインキであって、重合性化合物を含むことを特徴とするインキである。
<11> 更に、有機カルボン酸の金属塩を含む前記<10>に記載のインキである。
<12> 重合性化合物が下記式(1)で示されるポリカルボジイミドである前記<10>から<11>のいずれかに記載のインキである。
【化3】

ただし、前記式(1)中、R及びRは同一又は異なるアルキレン基を示し、nは1〜50の整数を示す。
<13> 水性インキ、油性インキ、及び、エマルションインキのいずれかである前記<10>から<12>のいずれかに記載のインキである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における諸問題を解決でき、基材へのインキの硬化定着性に優れ、かつ、機械的ストレスや加熱下においても硬化定着後のインキに転移や色移り等の不具合の生じない、安定なインキ硬化定着方法、及び前記インキ硬化定着方法を用いた印刷方法、並びに、これらの方法に用いるためのインキを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(インキ硬化定着方法)
本発明のインキ硬化定着方法は、基材上のインキを誘電体バリア放電に曝露して硬化定着させる工程(インキ硬化定着工程)を少なくとも含み、更に必要に応じて、インキ供給工程、副産物除去工程、作動制御工程、入力工程、出力工程、搬送工程等のその他の工程を含む。
【0013】
<インキ>
ここで、前記インキ硬化定着方法に用いられるインキとしては、少なくとも重合性化合物を含み、好ましくは更に有機カルボン酸の金属塩を含み、必要に応じて更にその他の成分を含んでなるインキを用いる。
前記インキ硬化定着方法では、重合性化合物を含むインキを使用するため、前記重合性化合物を誘電体バリア放電のエネルギーによって重合させることにより、基材上にインキを強固に硬化定着させることができる。そのため、前記インキ硬化定着方法によって基材上に硬化定着されたインキは、機械的ストレスや加熱下においても、転移や色移り等の不具合を生じることがない点で、有利である。
また、前記インキ硬化定着方法では、好ましくは更に有機カルボン酸の金属塩を含むインキを使用する。前記有機カルボン酸の金属塩は、前記重合性化合物の重合時に触媒として働くため、インキの硬化定着をより促進させることができる点で、有利である。
【0014】
−重合性化合物−
前記重合性化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、付加重合性、開環重合性、縮合重合性、重付加反応性を有する化合物等が挙げられる。
前記付加重合性を有する化合物としては、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等が挙げられ、これらの具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等がある。前記開環重合性を有する化合物としては、例えば、ヘテロ環状化合物等が挙げられ、これらの具体例としては、例えば、ラクトン、ラクタム、環状エーテル、環状イミン等がある。前記縮合重合性を有する化合物としては、例えば、ポリエステル化反応性化合物、ポリアミド化反応性化合物等が挙げられ、これらの具体例としては、例えば、ジカルボン酸及びジオール、ジカルボン酸及びジアミン等がある。前記重付加反応性を有する化合物としては、例えば、ポリウレタン化反応性化合物、ポリ尿素化反応性化合物等が挙げられ、これらの具体例としては、例えば、ジオール及びジイソシアナート、ジアミン及びジイソシアナート等がある。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
また、前記重合性化合物としては、下記式(1)で示されるポリカルボジイミドを使用することが特に好ましい。
【0016】
【化4】

【0017】
ただし、前記式(1)中、R及びRは同一又は異なるアルキレン基を示し、nは1〜50の整数を示す。
【0018】
前記アルキレン基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数1〜20、好ましくは炭素数2〜18、より好ましくは炭素数3〜16の、直鎖状、分岐状、環状のアルキレン基などが挙げられる。
また、前記式(1)中、nは1〜50の整数であり、1〜40の整数が好ましく、1〜30の整数がより好ましい。
【0019】
前記インキ中の、前記重合性化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記インキの総質量に対して、10〜90質量%が好ましく、15〜80質量%がより好ましく、20〜70質量%が特に好ましい。前記重合性化合物の含有量が、10質量%未満であると、重合性化合物によって形成される皮膜が薄くなり、十分な濃度を得るために必要な量の色材を基材に固定できないことがあり、90質量%を超えると、良好な印刷適正を付与するのが困難なことがある。一方、前記重合性化合物の含有量が前記特に好ましい範囲内であると、十分な量の色材を基材に固定でき、かつ良好な印刷適正を有するインキにすることが可能な点で有利である。
【0020】
−有機カルボン酸の金属塩−
前記有機カルボン酸の金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リノレン酸マンガン、リノレン酸コバルト、リノレン酸亜鉛、リノレン酸鉛、リノレン酸ジルコニウム、オレイン酸マンガン、オレイン酸コバルト、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸ジルコニウム、オクチル酸マンガン、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉛、オクチル酸ジルコニウム、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ジルコニウム等が挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記インキ中の、前記有機カルボン酸の金属塩の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記インキの総質量に対して、0.02〜7質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.5〜2質量%が特に好ましい。前記有機カルボン酸の金属塩の含有量が、0.02質量%未満であると、触媒として十分に機能しないことがあり、7質量%を超えると、インキ保存容器内又は版上で皮張りを起こすことがある。一方、前記有機カルボン酸の金属塩の含有量が前記特に好ましい範囲内であると、インキの保存安定性を保ちつつ、触媒の機能を十分に得られる点で有利である。
【0022】
−インキの種類に応じたその他の成分−
また、前記インキの種類としては、例えば、水性インキ、油性インキ、エマルションインキなどが挙げられ、これらのインキの種類に応じて、前記その他の成分を適宜選択することができる。
【0023】
前記水性インキとしては、通常、前記各成分の他に、水又は水溶性有機溶剤、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、樹脂、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、浸透剤、キレート化剤、乾燥防止剤、有機アミンなどを含んでなる。なお、前記水性インキの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は水に、前記各成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インキ化することができる。
【0024】
前記油性インキとしては、通常、前記各成分の他に、有機溶剤又は油、染料、顔料、分散剤を含んでなり、必要に応じて、樹脂、高級アルコール、高級脂肪酸、エステル類、界面活性剤、粘度調整剤、防菌剤、潤滑剤、高分子分散剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを含んでなる。なお、前記油性インキの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、有機溶剤又は油成分に、前記各成分を分散させ、必要に応じて乳化して、インキ化することができる。
【0025】
前記エマルションインキは、油相と水相とからなり、前記油相には、通常、前記各成分の他に、樹脂、高級アルコール、高級脂肪酸、エステル類、有機白顔料、白色以外の着色顔料、体質顔料、無機系白顔料、分散剤、酸化防止剤、乳化剤、ゲル化剤などが含まれる。また、前記水相には、通常、有機白顔料、水、水溶性高分子化合物、抗菌剤、水の蒸発防止剤又は凍結防止剤、電解質、O/W樹脂エマルジョン、pH調整剤などが含まれる。なお、前記エマルションインキの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、常法により油相及び水相液を予め別々に調製し、前記油相中に水相を添加して、ディスパーミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等の公知の乳化機内で乳化させることにより製造することができる。
【0026】
<基材>
前記インキ硬化定着方法において、前記インキを硬化定着させる基材としては、前記インキを硬化定着可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紙、ガラス、プラスティック、フィルム、金属などが挙げられる。
前記インキ硬化定着方法では、紙以外のガラス、プラスティック、フィルム、金属等を前記基材として用いた場合であっても、基材上にインキを強固に硬化定着させることができ、そのため、機械的ストレスや加熱下においても、硬化定着後のインキに転移や色移り等の不具合を生じることがない点で、有利である。
【0027】
<インキ硬化定着工程>
前記インキ硬化定着工程では、基材上のインキを、誘電体バリア放電に曝露することにより、前記基材上に硬化定着させる。
【0028】
−誘電体バリア放電−
ここで、前記「誘電体バリア放電」とは、一対の導電性の電極間に誘電体等の絶縁物を挿入して交流電圧を印加したときに、電極間にストリーマと呼ばれる過渡的な微細放電柱がランダムに形成される現象をいう。
本発明においては、前記誘電体バリア放電のエネルギーによって、前記インキ中の重合性化合物が重合されることにより、前記基材上に前記インキが強固に硬化定着される。そのため、前記硬化定着後のインキは、機械的ストレスや加熱下においても、転移や色移り等の不具合が生じることがない点で、有利である。
【0029】
−誘電体バリア放電に用いられる装置−
前記誘電体バリア放電を引き起こすために用いられる好ましい装置の電極構成を図1に例示する。図1に示すように、前記装置では、放電電圧印加電極1が誘電体3で覆われ、電源4に接続されている。また、誘電体3で覆われた対向電極2が放電電圧印加電極1から所定の距離をおいて設置されている。
このような装置を用いて、電源4で放電電圧印加電極1に電圧を印加して放電を引き起こし、前記放電電圧印加電極1と前記対向電極2との間にインキ6を印刷した基材5(印刷物)を挿入することで、前記基材上の前記インキを前記誘電体バリア放電に暴露させることができる。即ち、このような装置を、インキ硬化定着用装置として好適に用いることができる。
【0030】
前記放電電圧印加電極、及び前記対向電極は、例えば、金属、金属以外の導電性部材等、導電性の電極から形成されてなり、前記電極の少なくとも一部、好ましくは全部が誘電体によって被覆されている。
前記導電性部材としては、例えば、金属薄膜、酸化物半導体薄膜、導電性窒化物薄膜、導電性ホウ化薄膜等の導電性薄膜などが挙げられる。
前記金属薄膜に用いる金属としては、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、クロムなどが挙げられる。前記酸化物半導体薄膜としては、例えば、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、及びこれら酸化物の複合系素材(例えば、酸化スズ+酸化亜鉛:ZnSnO、酸化インジウム+酸化亜鉛:In−ZnO、酸化インジウム+酸化スズ:In−SnO等)などが挙げられる。前記導電性窒化物薄膜としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(TiZr)、窒化ハフニウム(HfN)などが挙げられる。前記導電性ホウ化薄膜としては、例えば、ホウ化ランタン(LaB)などが挙げられる。
前記導電性薄膜の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、スパッタ法にて形成することができる。
【0031】
前記誘電体としては、10以下の比誘電率を有するものが好ましい。前記比誘電率が10を超えると、放電の集中が生じやすく、無駄なエネルギーを消費するばかりか、放電の集中によって基材に穴が開いたり、場合によっては発煙や燃焼を生じたりすることがある。
10以下の比誘電率を有する誘電体としては、例えば、雲母(4.5〜7.5)、ガラス(3.7〜10)、パイレックスガラス(登録商標名、4.8)、酸化アルミナ(2.14)、石英ガラス(3.5〜4.0)、硼珪酸ガラス(4.0〜5.0)などの無機材料が好ましく挙げられる。また、塩化ビニル樹脂(5.8〜6.4)、ウレタン(6.5〜7.1)、エポキシ樹脂(2.5〜6)、生ゴム(2.1〜2.7)、加硫ゴム(2.0〜3.5)、天然ゴム(2.7〜4.0)、鉱物油(2〜2.5)、3フッ化エチレン樹脂(2.4〜2.5)、4フッ化エチレン樹脂(2、登録商標名:テフロン)、フッ素樹脂(4.0〜8.0)、シリコーン樹脂(3.5〜5)、シリコーンゴム(3.0〜3.5)、全芳香族ポリイミド(3.2〜3.4)、半脂肪族ポリイミド(2.8〜3.0)、全脂肪族ポリイミド(2.5〜2.6)、ポリエステル樹脂(2.8〜8.1)、ポリカーボネート樹脂(2.9〜3.0)、紙(2.0〜2.5)などの有機材料が挙げられる。ただし、上記材料の例示中、カッコ内は各材料の比誘電率を表す。
【0032】
また、前記誘電体の厚みとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.1〜10mmが好ましい。前記厚みが0.1mmよりも薄いと、プラズマ熱による部分的加熱によって容易に破壊され、アーク放電など、熱化したプラズマの発生により近傍の部材が損傷することがある。前記厚みが10mmよりも厚いと、実用的な印刷インキ硬化定着速度を得るためには、電源用量をより大きなものにする必要があり、コンパクト化や低コスト化が図れないことがある。
【0033】
−誘電体バリア放電の条件−
前記誘電体バリア放電は、大気圧近傍の圧力下で行われることが好ましく、ここで、前記大気圧近傍としては、放電の際に減圧などを何ら行わない圧力であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、具体的には、海抜の違いなどによる大気圧を考慮して、インキ硬化定着時の雰囲気の圧力が、0.07〜2MPa程度であることを意味する。0.07〜2MPaの範囲外で電極間放電を行うと、プラズマ放電質などの特殊な減圧容器や作業工程を必要とし、煩雑でコスト高となることがある。
【0034】
なお、実用上充分なインキ硬化定着性を呈する反応を得るには、電極間の電界強度が少なくとも100kV/cmより大きいことが好ましい。前記電界強度が、100kV/cm以下であると、インキ硬化定着が困難となることがある。
【0035】
前記インキを誘電体バリア放電に曝露する具体的な方法としては、例えば、平板の電極対で広範囲に面状の放電を発生させ、その間に印刷物を挿入して全面を一度に曝露する方法や、棒状の電極でライン状の放電を発生させ、その間に印刷物を通過させる方法、また、固定した印刷物上で電極を走査する方法等、様々な方法があるが、特に制限はなく、基材の形状及び搬送方法、印刷装置の版式等に応じて、適宜に選択すればよい。また、前記インキの誘電体バリア放電への曝露は、例えば、特開2007−106105号公報に詳述されている方法を参照して、好適に行うことができる。
【0036】
また、前記インキ硬化定着工程は、面上に予めインキが供給された基材に対して誘電性バリア放電を施すものであってもよいし、後述するインキ供給工程などにより基材の面上にインキを供給した後に、誘電性バリア放電を施すものであってもよい。
【0037】
<インキ供給工程>
前記インキ供給工程では、基材の面上に前記インキを供給する。前記インキの供給方式としては、特に制限はなく、例えば、孔版、平版、凸版、凹版、及びインクジェット方式などが挙げられる。
前記インキ供給工程は、前記インキ硬化定着工程の前に行われてもよいし、前記インキ硬化定着工程の後に行われてもよい。
例えば、前記インキ供給工程で基材の面上にインキを供給した後、前記したインキ硬化定着工程を行うことによって、基材上に供給されたインキの硬化定着が可能となる。
また、予め印刷がされ、未定着インキが残留する可能性のある基材に対して、前記したインキ硬化定着工程を行い、前記未定着インキを定着させた後、更に、前記インキ供給工程により新たな印刷を行うことにより、先の印刷と後の印刷とのインキの混色を防止して、にじみのない鮮明な印刷が可能となる。
【0038】
<副産物除去工程>
前記副産物除去工程では、前記誘電性バリア放電により生じる副産物を除去する。前記副産物としては、電極間の放電の際に生じるガス、電子線、光、基材からの脱ガス、インキ硬化定着時の反応などに伴って発生する種々のガスなどがあり、したがって、前記副産物除去工程は、これらのガスを除去するガス除去工程であることが好ましい。
【0039】
−ガス除去工程−
前記電極間の放電の際に生じるガス、基材からの脱ガス、インキ硬化定着の際に生じるガスとしては、例えば、NOxガス、オゾンガス、VOCガス(揮発性有機化合物ガス)などが挙げられ、これらは、人体や環境に影響を与えたり、人体に軽重を問わず刺激を与える可能性がある。
前記ガスを除去する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極に臨ませて、排気ダクト、排気ファン、排気口などの風路を設け、この風路により、該電極付近の雰囲気を通気させて、前記ガスを除去することができる。
また、前記風路内のいずれかの位置に、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などで形成したフィルターを配設し、これらにガスを吸着させてもよく、有害なガスの除去効果を更に高めて、人体への影響を極力防止することができる。前記フィルターは、活性炭繊維、ゼオライト、光触媒などを1種単独で用いて形成してもよいし、2種以上を組み合わせて形成してもよい。
また、前記NOxガスは、光触媒、ゼオライト、活性炭繊維の組み合わせによるガス吸着手段によって効果的に除去でき、NOxガスの優れた除去効果が得られる。また、この吸着されたNOxガスを、光触媒効果により、NOイオンに分解することができ、NOxガスの除去に効果的である。
また、例えば、前記オゾンガスを、前記活性炭繊維と接触させることにより、効果的にCOに変化させることができる。従って、印刷機(硬化定着機)の排気側の通気フィルタとして活性炭繊維を配置しておくことにより、オゾンガスの効率的な除去が可能となる。
また、前記VOCガスのガス吸着及び分解手段として、活性炭繊維に酸化チタンを添着したフィルターを用い、該フィルターによりVOCガスを効果的に吸着することができる。次に、該フィルターに屋外の太陽光を照射したり、適宜の紫外線ランプ(殺菌灯)の下で紫外線を直接照射することにより、前記活性炭繊維に吸着されていたVOCガスが酸化チタン触媒によってCOに分解され、VOCガスの効果的な除去が可能となるとともに、活性炭繊維の再生使用が可能となる。また、ゼオライトと酸化チタン光触媒の組み合わせも、前記ガスの吸着及び分解手段として有効である。
これらのガス吸着手段やガス分解手段は、特別な換気装置(強制ダクト排気設備)がないような事務オフィスにおいても、通常換気が可能な場所であれば、容易な実用化が可能となる。
【0040】
<作動制御工程>
前記作動制御工程では、前記インキ硬化定着工程における作動を制御する。例えば、基材の面上の未定着インキを検知又は検出することによって、未定着インキが存在する場合のみ、インキ硬化定着を行うことにより、不必要なエネルギーの消費を防止して、エネルギー効率を向上させることが可能となる。また、このような作動制御工程を含むことにより、比較的小さい被照射物、マーキング、線などの未定着インキに対して、効率よく誘電体バリア放電によるエネルギーを付与することができ、未定着インキを確実かつ効率的に硬化し定着させることができる。
【0041】
前記作動制御を行う方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電気的な非接触センサー、磁気的な非接触センサー及び光学的な非接触センサーのいずれかを用いて未定着インキの存在を検知することで、インキ硬化定着のタイミングを制御することができる。
前記電気的な非接触センサーは、静電容量センサーなどを用いて基材の静電容量を検出し、基材及びインキ材料の有する誘電率の違いにより生じる前記静電容量の変化により、基材面上の未定着インキを検知することができる。
前記磁気的な非接触センサーは、インキに含まれる微量な磁性体による磁力線の強度変化を検出することにより、基材面上の未定着インキを検知することができる。
前記光学的な非接触センサーは、インキの光に対する反射率又は吸収率の差異を検出することにより、基材面上の未定着インキを検知することができる。
【0042】
<入力工程>
前記入力工程では、インキ硬化定着に用いられる装置に、基材を導入する。前記装置に基材を導入する方法としては、特に制限はなく、公知の手法を用いることができ、例えば、給紙トレイ、給紙バンク(箱)、ロール紙セット機構、ロール紙カット機構、基材供給台、基材供給トレイ、基材供給棚等を用い、導入する方法などが挙げられる。
【0043】
<出力工程>
前記出力工程では、インキ硬化定着に用いた装置から、インキ硬化定着が完了した基材を排出する。前記装置から基材を排出する方法としては、特に制限はなく、公知の手法を用いることができ、例えば、収納トレイ、収納バンク(箱)、収納棚、巻き取り機構、折り重ね収納機構等を用い、排出する方法などが挙げられる。
【0044】
<搬送工程>
前記搬送工程では、インキ硬化定着に用いられる装置内において、基材を搬送する。前記搬送工程の過程において、基材がインキ硬化定着用装置に搬送され、基材上のインキの硬化定着処理が行われる。
前記装置内で基材を搬送する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、比誘電率10以下で、厚み0.03〜5.0mmのベルト部材による搬送(ベルト搬送)を行う方法が好ましい。
前記ベルト部材として、比誘電率10以下の材料を用い、該ベルト材料の厚みを0.03〜5.0mmとすることにより、電極間放電(プラズマ放電)した際に、インキの硬化定着に有効に作用するエネルギーをより多く付与することが可能となる。
前記ベルト部材の材料としては、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、4フッ化エチレン、ポリアミド、及びポリイミドから選択される少なくとも1種を含むものが好ましい。このような材料を用いることにより、前記ベルト部材の比誘電率を10以下とすることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記搬送工程においては、搬送時の終了点において基材をベルト表面から引き剥がしやすくするために、基材の帯電状態から除電するための除電工程を更に含むことが好ましい。前記除電は、例えば、除電ブラシ、除電用のイオナイザーなどを用いて好適に行うことができる。
前記搬送工程における基材の搬送速度としては、50〜200cm/秒が好ましく、100〜200cm/秒がより好ましい。前記搬送速度が、50cm/秒未満であると、生産性が低く、生産ラインの低下を招くことがある。前記搬送速度が、200cm/秒を超えると、電極間放電(プラズマ放電)した際に、インキ硬化定着に有効に作用するエネルギーの付与が不充分となり、インキの硬化定着性が低下することがある。
【0045】
前記インキ硬化定着方法によれば、基材上に、インキを強固に硬化定着させることができる。そのため、前記インキ硬化定着方法によって基材上に硬化定着されたインキは、機械的ストレスや加熱下においても、転移や色移り等の不具合を生じることがない点で、有利である。したがって、前記インキ硬化定着方法は、例えば後述する本発明の印刷方法に、好適に利用可能である。
【0046】
(印刷方法)
本発明の印刷方法は、前記本発明のインキ硬化定着方法を用いた印刷方法であり、更に必要に応じて、転写工程等のその他の工程を含む。
【0047】
<インキ硬化定着方法>
前記インキ硬化定着方法は、少なくとも前記インキ硬化定着工程を含み、更に必要に応じて、前記インキ供給工程、前記副産物除去工程、前記作動制御工程、前記入力工程、前記出力工程、前記搬送工程等の工程を含む。前記各工程の詳細は、前記した本発明のインキ硬化定着方法の項目に記載した通りである。
【0048】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、通常の印刷方法において行われる各種工程の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、文字や図形等、所望の形に基材上にインキを転写(印刷)する転写工程などが挙げられる。前記転写工程において、所望の形に基材上にインキを転写(印刷)した後に、前記基材を前記インキ硬化定着工程に供することにより、転写(印刷)されたインキを基材上に強固に硬化定着させることができる。
【0049】
前記印刷方法に用いる装置としては、特に制限はなく、例えば、輪転孔版印刷機等の孔版印刷装置、インクジェット印刷装置、凸版印刷装置、オフセット印刷装置などの公知の印刷装置を用いることができる。
【0050】
前記印刷方法によれば、前記基材上に前記インキが印刷された印刷物を好適に得ることができる。前記印刷方法により得られる印刷物は、前記した本発明のインキ硬化定着方法によって、基材上にインキが強固に硬化定着されたものであるため、機械的ストレスや加熱下においても、転移や色移り等の不具合を生じることがない点で、有利である。
【0051】
(インキ)
本発明のインキは、前記本発明のインキ硬化定着方法、及び、前記本発明の印刷方法の少なくともいずれかに用いられるインキであり、その詳細としては、前記した本発明のインキ硬化定着方法の項目に記載した通りである。
前記インキは、重合性化合物を含むので、前記本発明のインキ硬化定着方法、及び、前記本発明の印刷方法の少なくともいずれかにおいて、前記誘電体バリア放電に暴露されることにより、基材上に強固に硬化定着される。したがって、前記インキを用いて得られた印刷物は、機械的ストレスや加熱下においても、転移や色移り等の不具合を生じることがない点で、有利である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
本実施例で用いた誘電体バリア放電を発生させるための装置における電極構成を図2に示す。
まず、4本の直径6mmのアルミ製棒11を電気的に接触させ、テフロン(登録商標)13で覆い、電源14に接続した。なお、電源には春日電機製の高周波電源CT−0212を用いた。
次に、アルミ製棒11と並行するように、接地したアルミ板12を置き、厚さ2mmのガラス板23で覆った。また、テフロン(登録商標)13とガラス板23の距離は1mmとした。
更に、ガラス板23で覆ったアルミ板12を電動スライダ(図示せず)により矢印方向に可動するようにし、インキ16を印刷した基材15を載せた状態でスライドさせることにより、印刷物を誘電体バリア放電に曝露するようにした。
【0054】
(実施例1)
下記表1に示す材料を、高速ディゾルバーを用いて周速10m/secで30分間攪拌することにより調合し、重合性化合物を含む本発明のインキを調製した。
次に、得られたインキをガラス板(厚さ0.5mm)の上に番線No.3のバーコータ(松尾産業製)で塗布し、前記インキを前述の方法で誘電体バリア放電に曝露して、インキを硬化定着させた。なお、誘電体バリア放電の電力は200Wとし、電動スライダのスライド速度は5mm/sec及び10mm/secの2水準で行った。
【0055】
【表1】

【0056】
(実施例2)
実施例1で調製したインキに、更にナフテン酸コバルトをインキ全量に対して0.5質量%添加して、重合性化合物及び有機カルボン酸の金属塩を含む本発明のインキを調製した。
次に、得られたインキを実施例1と同様にガラス板(厚さ0.5mm)の上に塗布し、同様の方法及び条件で誘電体バリア放電に曝露して、インキを硬化定着させた。
【0057】
(比較例1)
下記表2に示す材料を、高速ディゾルバーを用いて周速10m/secで30分間攪拌することにより調合し、重合性化合物を含まない比較対照のインキを調製した。
次に、得られたインキを実施例1と同様にガラス板(厚さ0.5mm)の上に塗布し、同様の方法で誘電体バリア放電に曝露してインキを硬化定着させた。なお、誘電体バリア放電の電力は200Wとし、電動スライダのスライド速度は5mm/secとした。
【0058】
【表2】

【0059】
[評価]
実施例1〜2、及び比較例1で硬化定着させたインキの硬化定着具合と、耐摩擦性を以下のようにして評価した。結果を表3に示す。
【0060】
インキの硬化定着具合としては、硬化定着処理直後に指でインキに接触した際の、指へのインキの付着具合を以下の基準で評価した。
[インキの硬化定着具合の評価基準]
○:目視で指にインキ付着が無い(硬化定着良好状態)。
×:目視で指にインキ付着がある(硬化定着不良状態)。
【0061】
耐摩擦性としては、クロックメーター(東洋精機製)を用い、消しゴムを荷重900gで10往復摩擦した際の、インキの脱落具合を以下の基準で評価した。
[耐摩擦性の評価基準]
○:目視でインキ脱落が無く、非塗布部への転移も無い。
×:目視でインキ脱落があり、非塗布部への転移もある。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例1〜2では、硬化定着させたインキをクロックメーターにより消しゴムで加重して摩擦しても、ガラス板の非塗布部にインキが一切転移しなかったのに対し、比較例1で硬化定着させたインキを摩擦したところ、摩擦によるストレスと熱により軟化し、ガラス板のインキ非塗布部に転移した。したがって、重合性化合物を含むインキを用いる本発明のインキ硬化定着方法は、機械的ストレスや加熱下においても基材上のインキに不具合の生じない、安定なインキ硬化定着方法であることが確認できた。
【0064】
また、実施例1において、スライド速度が5mm/secの時はインキは硬化定着良好状態に至ったが、速度を倍の10mm/secにしたところ、硬化定着不良をおこした。これに対し、ナフテン酸コバルトを添加した実施例2では、スライド速度が10mm/secの場合でも硬化定着良好状態に至った。これはナフテン酸コバルトが重合時に触媒として働いたためだと推定できる。したがって、重合性化合物に加え、更に有機カルボン酸塩の金属塩を含むインキを用いる本発明のインキ硬化定着方法では、インキの硬化定着を促進することができ、乾燥時間を短縮できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のインキ硬化定着方法、及び印刷方法、並びにインキは、例えば、孔版印刷装置、インクジェット印刷装置、凸版印刷装置、オフセット印刷装置等の印刷装置、プリンター、塗布装置、コーティングマシンなどを用いた各種印刷に、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明において誘電体バリア放電を引き起こすために用いられる好ましい装置の電極構成の一例を示した図である。
【図2】図2は、実施例で誘電体バリア放電を引き起こすために用いた装置の電極構成を示した図である。
【符号の説明】
【0067】
1 放電電圧印加電極
11 アルミ製棒
2 対向電極
12 アルミ板
3 誘電体
13 テフロン(登録商標)
23 ガラス板
4、14 電源
5、15 基材
6、16 インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上のインキを誘電体バリア放電に曝露して硬化定着させる工程を少なくとも含むインキ硬化定着方法であって、前記インキ中に重合性化合物を含むことを特徴とするインキ硬化定着方法。
【請求項2】
更に、インキ中に有機カルボン酸の金属塩を含む請求項1に記載のインキ硬化定着方法。
【請求項3】
重合性化合物が下記式(1)で示されるポリカルボジイミドである請求項1から2のいずれかに記載のインキ硬化定着方法。
【化1】

ただし、前記式(1)中、R及びRは同一又は異なるアルキレン基を示し、nは1〜50の整数を示す。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のインキ硬化定着方法を用いることを特徴とする印刷方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のインキ硬化定着方法、及び、請求項4に記載の印刷方法の少なくともいずれかに用いるためのインキであって、重合性化合物を含むことを特徴とするインキ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−296527(P2008−296527A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147672(P2007−147672)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】