説明

インクと反応液とのセット、及び画像形成方法

【課題】高速記録に対応するための優れた画像の定着性と、優れた光学濃度とを得ることとを高いレベルで両立しつつ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できるインクと反応液とのセットの提供。
【解決手段】水溶性樹脂によって分散されている顔料を含有するインクと、多価金属イオン及び界面活性剤を含有する反応液とのセットであって、前記インクの表面張力が38mN/m以下であり、前記反応液中の前記多価金属イオンの含有量が前記インク中の前記水溶性樹脂に由来する酸性基の量に対するモル比率で10.0倍以上であり、前記界面活性剤が、特定の高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、かつ、そのHLB値が13.0以上であり、前記反応液中の前記界面活性剤の含有量が、前記インク中の前記顔料及び前記水溶性樹脂の合計含有量に対する質量比率で0.15倍以上であるセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクと反応液とのセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法では、高速記録への対応と、記録媒体、特には普通紙において、優れた光学濃度を得ることとを高いレベルで両立することが求められている。この課題に対し、インクジェット記録方法として、色材を含有するインクとは別に、画像を良好にするための液体を、いわゆる反応液として用意し、前記反応液とインクとを記録媒体に付与して画像を形成する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、反応液とインクの反応性を高めるのではなく、インクと反応液の記録媒体への浸透、拡散の速度が遅くなるようにコントロールすることで、高い光学濃度を得ることに関する提案がある(特許文献1参照)。具体的には、寿命時間30m秒における動的表面張力が41mN/m以上である反応液と、静的表面張力がある程度高いインクを用いることで、記録媒体の表面において色材が凝集する時間を確保し、光学濃度の向上を図っている。一方、記録ヘッドを保護するキャップ内の吸収体や記録装置の廃液吸収体において反応により生じた凝集物に起因する目詰まりなどの問題を解決するため、反応を生じさせたくない箇所での反応を抑制することに関する提案がある(特許文献2参照)。具体的には、反応液とインクの他に、これらの反応を抑制する反応抑制剤を含有するインクを別に用意することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−308663号公報
【特許文献2】特開2008−155520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で提案された技術では、記録媒体へのインクの浸透や拡散を抑制しているため、インクの乾燥に時間がかかり、高速記録に対応する際に必要となる画像の定着性が得られない。すなわち、1枚目の記録物を印刷した後、2枚目の記録物がインクジェット記録装置から排出されるまでの間に、1枚目の記録物のインクが十分に乾燥していないため、1枚目の記録物のインクが2枚目の記録媒体の裏面に付着する。特許文献1では、インクの乾燥時間の短縮を図ることにより定着性を高めるために、反応液の寿命時間500m秒における動的表面張力を38mN/m以下としている。しかし、本発明が目指す、近年要求されるレベルの高速記録への対応はできていない。
【0006】
上記のことから、高速記録に対応するための画像の定着性を満足しながら、優れた光学濃度を得るには、やはり、反応液とインクの反応性を高めることが有効である。具体的には、記録媒体における色材の凝集性を高めることにより、記録媒体にインクが浸透、拡散する前に、記録媒体に色材を固定することが重要である。
【0007】
しかし、上記のように、反応液とインクとを記録媒体に付与して画像を形成する方法において、前記反応液をインクジェット方式の記録ヘッドから記録媒体に付与すると、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、反応液やインクを記録媒体に付与する際に液滴の跳ね返りが生じた場合に、液滴の跳ね返りを受けた記録ヘッドの吐出口が形成された面(以下、吐出口面と呼ぶ)において反応液とインクが混ざり合う。前述のように、反応液とインクの反応性を高めた場合、記録ヘッドの吐出口面において混合された反応液とインクも強く反応することになる。その結果として、記録ヘッドの吐出口面を清浄に保つためにインクジェット記録装置において一般的に採用されている吸引回復操作を行っても、吐出口面に、取り去れないような強固な固着物が生じることとなる。
【0008】
特許文献2に記載された反応抑制剤を含有するインクを利用すれば、吐出口面における固着の抑制に対しても一定の効果が得られる。しかし、この方法では、固着の抑制のために、反応液と反応しづらい、つまりは、高い光学濃度を得るという目的には関係のない別のインクを用意する必要がある。さらには、画像を形成するというインク本来の目的とは別に、固着を抑制するだけのためにこのようなインクを消費しなければならない。このため、結果として、使用するインク種やその消費量の増加につながる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、高速記録に対応するための優れた画像の定着性と、優れた光学濃度とを得ることとを高いレベルで両立しつつ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できるセットを提供することにある。また、本発明の目的は、高速記録に対応し、上記の優れた画像が得られ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、水溶性樹脂によって分散されている顔料を含有してなるインクと、色材を含有せず、多価金属イオン及び界面活性剤を含有してなる反応液との組み合わせを有するインクジェット用のインクと反応液とのセットであって、前記インクの表面張力が、38mN/m以下であり、前記反応液中の前記多価金属イオンの含有量(μmol/g)が、前記インク中の前記水溶性樹脂に由来する酸性基の量(μmol/g)に対するモル比率で、10.0倍以上であり、前記反応液中の前記界面活性剤が、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であり、前記反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、前記インク中の前記顔料及び前記水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.15倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速記録に対応するための優れた画像の定着性と、優れた光学濃度を得ることとを高いレベルで両立しつつ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できるセットを提供することができる。また、本発明によれば、高速記録に対応し、上記の優れた画像が得られ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できる画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明における、粘度、表面張力、pH、pKaなどの各種の物性は、25℃における値である。また、本発明で規定する「pKa」は、酸の強さを定量的に表すための指標の一つであって、酸解離定数や酸性度定数とも呼ばれるものである。酸から水素イオンが放出される解離反応を考えて、負の常用対数pKaによって表す。したがって、pKaが小さいほど強い酸であることを示す。
【0013】
先ず、本発明の課題のうち、記録媒体、特には普通紙において優れた光学濃度を得るための方法としては、先に述べた通り、インクの記録媒体への浸透、拡散の速度を遅くする方法がある。しかし、この方法では、インクの乾燥時間が長くなり、画像の定着性が低下するため、高速記録に対応することはできない。そこで、本発明者らは、高速記録に対応するための画像の定着性と、光学濃度を得ることとを高いレベルで両立するには、インクにある程度の浸透性を持たせた上で、反応液とインクの反応性を高めることが有用であると考え、その方法を検討することとした。
【0014】
その場合、本発明の課題のうち、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制する技術を新たに確立する必要がある。そこで、本発明者らは、反応液とインクの反応性を著しく低下させるような物質、つまりは反応抑制剤としてはどのようなものが有用であるかの検討を行った。具体的には、種々の顔料や樹脂分散剤、反応剤に対し、種々の水溶性有機溶剤や界面活性剤などを組み合わせ、その反応性を調べることにより、いくつかの組み合わせにおいて効果的に反応抑制剤として働く物質を見出した。
【0015】
具体的には、下記のことを見出した。反応抑制剤を除いた系、すなわち、顔料及び樹脂分散剤と、反応剤との組み合わせでは、効果的に顔料の分散状態が不安定化され、顔料の凝集物が生成する。これに対し、そこに反応抑制剤を組み合わせた系では、顔料の分散状態の不安定化が抑制され、凝集物の生成も抑制されることを見出した。そこで、そのような組み合わせのうち、本発明者らは以下のような組み合わせに特に着目し、検討を重ねた。それは、色材には水溶性樹脂によって分散されている顔料(以下、樹脂分散顔料と呼ぶことがある)、反応剤には多価金属塩に由来する多価金属イオン、反応抑制剤にはポリオキシエチレンアルキルエーテル(ノニオン性界面活性剤)、という組み合わせである。
【0016】
樹脂分散顔料を含有するインクと、多価金属イオンを含有する反応液との反応は従来から利用されてきた。また、ある種のノニオン性界面活性剤が、樹脂分散顔料と多価金属イオンとの反応性を低下させることも知られている。特許文献2に記載された発明は、まさにこれらの技術を利用した記録装置に関する発明である。樹脂分散顔料を含有するインク、多価金属イオンを含有する反応液、さらに、反応抑制剤を含有する別のインクを用いることにより、キャップ内の吸収体や廃液吸収体における固着を抑制している。
【0017】
本発明者らは、上述の技術をさらに追及し、反応抑制剤を含有するインクによらずに、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができないかという点について検討を行った。具体的には、樹脂分散顔料と多価金属イオンとが混合されたときの顔料の分散状態の不安定化と、ノニオン性界面活性剤による顔料の分散状態や水溶性樹脂の溶解状態の安定化について、さらに詳細な解析を行った。その結果、以下のことがわかった。
【0018】
先ず、前者の反応、すなわち、樹脂分散顔料と多価金属イオンが混合された際の、顔料の分散状態の不安定化は、次のようにして生じる。インク中では水溶性樹脂が顔料粒子の表面に吸着しているので、この水溶性樹脂の立体反発により顔料の分散状態は安定に保たれている。この樹脂分散顔料と多価金属イオンが混合されると、多価金属イオン(カチオン)の作用により、酸性基がアニオン型となっている水溶性樹脂の水溶性が著しく低下する。すると、混合液中における前記樹脂の占有体積が小さくなるため、顔料粒子間の立体反発が弱くなる。これにより、顔料粒子同士が衝突し、顔料の分散状態の不安定化が生じる。これと並行して、顔料粒子の表面に吸着していない水溶性樹脂も多価金属イオンの作用により不溶化し、それによって生成する前記樹脂の不溶化物についても顔料の凝集に寄与する。
【0019】
また、後者の反応、つまり、ノニオン性界面活性剤による顔料や水溶性樹脂の安定化は、以下のようにして生じる。すなわち、ノニオン性界面活性剤及び樹脂分散顔料を含有するインク中では、顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部にノニオン性界面活性剤が配向し、そのノニオン性界面活性剤の水溶性により、顔料の分散状態や水溶性樹脂の溶解状態が安定に保たれている。ノニオン性界面活性剤は、その親水部が水と水素結合を形成することにより水に溶解しているため、多価金属イオンの影響を受けづらい。このように、ノニオン性界面活性剤による顔料や水溶性樹脂の安定化は、顔料や水溶性樹脂との相互作用によるものであり、ノニオン性界面活性剤と多価金属イオンとがキレート構造のようなものを形成することによってもたらされているのではない。
【0020】
次に、本発明者らは、樹脂分散剤により分散されている顔料を含む水分散液と、多価金属イオンを含む水溶液、ノニオン性界面活性剤の水溶液、の三者を混合した場合に、先に挙げた2つの作用がどのようなタイミングで生じるかについて検討を行った。その結果、先ずは多価金属イオンによる顔料の分散状態の不安定化が生じ、次いでノニオン性界面活性剤による顔料と水溶性樹脂の安定化が生じることが判明した。
【0021】
本発明者らは、この現象について、以下のように理解している。反応剤として使用する多価金属塩は水に易溶であるため、水溶液中では多価金属イオンとアニオンに電離して存在している。それに対して、ノニオン性界面活性剤は、水溶液中ではミセルを形成した状態で存在している。このような三者を混合した場合、多価金属イオンは速やかに顔料に接近し、樹脂の水溶性を著しく下げて立体反発を弱くさせる。これに対して、ノニオン性界面活性剤は、疎水部同士の相互作用により形成されているミセル構造が一旦崩された後、その疎水部が顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部と相互作用をして初めて顔料の分散状態や水溶性樹脂の溶解状態を安定化する。このように、水溶液中での多価金属イオンとノニオン性界面活性剤の存在状態の違いが、先に挙げた2つの作用が生じるタイミングを異ならせていると考えられる。
【0022】
これらの現象の理解を踏まえ、本発明者らは、反応抑制剤を含有するインクによらずに記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制する技術を検討し、本発明に至った。具体的には、反応液には、反応剤としての多価金属イオンと、反応抑制剤としての特定のノニオン性界面活性剤の両者を含有させ、インクには、色材として樹脂分散顔料を用い、これらを組み合わせてセットとした。この構成は、樹脂分散顔料と多価金属イオン、ノニオン性界面活性剤のそれぞれがどのように相互作用を及ぼすのか、それらがどのようなタイミングで生じるのか、といったことに対する深い理解を経てこそ到達できたものである。このような構成とすることで、高速記録に対応するための画像の定着性を満足しながら、高い光学濃度が得られ、別のインクを利用することなく記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができる。本発明者らは、かかる効果が得られるメカニズムを以下のように推測している。
【0023】
先ず、記録媒体において、前記構成の反応液とインクが混合された場合に生じる現象について述べる。この場合、反応液に含まれる多価金属イオンが、インクに含まれる顔料の分散状態を速やかに不安定化することで、顔料が凝集する。その他の水溶性成分(反応液に由来するノニオン性界面活性剤も含まれる)はインクがある程度の浸透性を持つこともあり、速やかに記録媒体に浸透、拡散するため、ノニオン性界面活性剤による顔料や水溶性樹脂の安定化は起こらない。このようにして、反応液とインクとを記録媒体に付与した場合は、画像の定着性を満足しながら、反応抑制剤が存在しない場合と同様に高い光学濃度が得られる。
【0024】
次に、記録ヘッドの吐出口面において、前記構成の反応液とインクが混合された場合に生じる現象について述べる。この場合、記録媒体における場合と同様に、先ず、反応液に含まれる多価金属イオンが、インクに含まれる顔料の分散状態を速やかに不安定化することで、顔料が凝集する。しかし、その後に生じる現象は記録媒体における場合とは異なり、その他の水溶性成分(反応液に由来するノニオン性界面活性剤も含まれる)が凝集した顔料と共に存在する。このため、ノニオン性界面活性剤による顔料の安定化が生じる。このようにして、記録ヘッドの吐出口面での固着の抑制が図られる。
【0025】
本発明者らは、前記メカニズムのうち、特に記録ヘッドの吐出口面において生じる現象を確認するため、顔料の分散方式と反応剤を以下のように変えて評価を行った。具体的には、粒子表面に酸性基が結合している自己分散顔料を含有するインク及び多価金属イオンを含有する反応液の組み合わせと、樹脂分散顔料を含有するインク及び酸性領域に緩衝能を有する反応液の組み合わせについての検討を行った。しかし、これらのいずれの場合においても、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することはできなかった。
【0026】
先ず、自己分散顔料を含有するインク及び多価金属イオンを含有する反応液の組み合わせについて考察する。自己分散顔料はその粒子表面に結合している酸性基がアニオン型となっており、それにより形成される電気二重層によって顔料の分散状態が安定に保たれている。この自己分散顔料を含有するインクに、多価金属イオンが混合されると、電気二重層が急速に圧縮され、顔料の分散状態が不安定化する。この反応は素早く進むため、顔料の凝集物は大きなものとなる。この場合、ノニオン性界面活性剤が存在していたとしても、凝集物が大きいために安定化することはできず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができなかったと考えられる。
【0027】
次に、樹脂分散顔料を含有するインク及び酸性領域に緩衝能を有する反応液の組み合わせについて考察する。これらが混合されると、反応液が酸性領域に緩衝能を有するため、混合物のpHは酸性となる。酸性領域では、顔料粒子の表面に吸着している水溶性樹脂は、その酸性基の大部分がアニオン型から酸型となるため、急激に不溶化する。これにより顔料を分散させていた立体反発が弱くなり、顔料の分散状態は不安定化される。この際、反応液は緩衝能を有するため、水溶性樹脂の不溶化がほぼ完全に進行するため、顔料の凝集物は大きなものとなる。この場合、ノニオン性界面活性剤が存在していたとしても、凝集物が大きいために安定化することはできず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができなかったと考えられる。
【0028】
後者の組み合わせと本発明の構成とは、樹脂分散顔料を含有するという点では同じであるが、反応液に含有させる反応剤が多価金属イオンと酸であるという点で異なる。酸性基を有する樹脂は、そのアニオン型の酸性基が水と水素結合を形成することによって水に溶解する。アニオン型の酸性基と静電的に相互作用する多価金属イオンよりも、酸性基をアニオン型から酸型とする酸のほうが、水素結合を切断する能力が高い。したがって、反応剤の違いによる記録ヘッドの吐出口面での固着に関する結果の相違は、多価金属イオンと酸を比較した場合に、酸のほうが水溶性樹脂をより効率よく不溶化させることにも起因していると考えられる。
【0029】
上述のように、樹脂分散顔料を含有し、ある程度の浸透性を持つインクと、多価金属塩及びノニオン性界面活性剤を含有する反応液、という組み合わせが、画像の定着性及び光学濃度の向上と、記録ヘッドの吐出口面での固着の抑制に有効である。以下、これらの効果を得るために必要となる、各成分の要件について説明する。
【0030】
先ず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制するために必要となる、ノニオン性界面活性剤の要件について述べる。前述のメカニズムに則ると、顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部と相互作用するための疎水部の構造と、相互作用したものが安定に存在するための界面活性剤の親水性、さらには、インク中の顔料や水溶性樹脂を安定化するための含有量が重要となる。本発明者らは、これらの要素についてより詳細に検討することにより、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制するためには、以下の要件が必要であることをつきとめた。本発明では、反応液に、反応抑制剤として作用するノニオン性界面活性剤を含有させる。そして、前記界面活性剤を、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物とし、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であることを要する。
【0031】
これに対し、ノニオン性界面活性剤の疎水部であるアルキル鎖が複数の箇所で分岐しているような構造の場合、その立体障害により、顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部と相互作用することができない。また、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物としてHLB値が13.0未満であるものを用いた場合は、ノニオン性界面活性剤の親水性が低く、顔料や水溶性樹脂を安定化することができない。
【0032】
また、本発明者らの検討によれば、反応液を構成しているノニオン性界面活性剤によって、インク中の顔料や水溶性樹脂を安定化するには、顔料や水溶性樹脂の量に対してノニオン性界面活性剤の量を十分にしておく必要がある。具体的には、反応液中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)が、インク中の顔料及び水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.15倍以上であることを要する。前記質量比率が0.15倍未満であると、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができない。
【0033】
次に、本発明者らは、高速記録に対応するための優れた画像の定着性を満足しながら、反応液とインクとの反応性を高め、画像の光学濃度を向上するための検討を行った。光学濃度の向上のためには記録媒体へのインクの浸透を抑制するのが有利であるが、その場合、インクの乾燥が遅くなり、定着性の向上には不利となる。そこで、本発明においては、インクにはある程度の浸透性を持たせることで定着性を確保し、反応性を高めることで光学濃度の向上を図る。先ず、本発明では、高速記録に対応可能とすべく、画像の定着性を満足するために、インクの表面張力を38mN/m以下とすることを要する。表面張力が38mN/m超であると、光学濃度は向上する方向となるが、定着性は不十分となる。
【0034】
また、上記の固着抑制のための要件から、反応剤として多価金属イオンを用いる必要がある。したがって、反応液の調製の際には多価金属塩を用い、その解離によって生じる多価金属イオンを反応液に含有させる。さらに、インクの色材としては、水溶性樹脂によって分散されている顔料を用いる必要がある。このような前提のもと、本発明者らは、種々の多価金属イオンや水溶性樹脂、また、それらの含有量を検討した結果、以下の要件が必要であることを導き出した。本発明では、反応液中の多価金属イオンの含有量(μmol/g)が、インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量(μmol/g)に対するモル比率で、10.0倍以上となるようにすることを要する。前記モル比率が10.0倍未満であると、光学濃度が得られない。
【0035】
本発明のセットを構成するインクは、顔料を分散させるために用いる水溶性樹脂(樹脂分散剤)の他に、さらに、画像に機能を付加することなどを目的として、別の水溶性樹脂を含有してもよい。「モル比率を10.0倍以上とする」とした前述の規定は、反応液中の多価金属イオンの量は、併用するインク中の全ての水溶性樹脂に由来する酸性基の量に応じて決定しなければならないことを意味している。下記のような場合には、それに応じて反応液を構成する多価金属イオンの量を増やす必要がある。つまり、水溶性樹脂が有する酸性基の量が多い、すなわち酸価が高い場合や、インク中の水溶性樹脂の含有量が多い場合(例えば、インクの樹脂/顔料の比率が高い場合や、添加される水溶性樹脂の量が多い場合)が該当する。
【0036】
<インクと反応液とのセット>
以下、本発明のセットを構成するインク及び反応液について、それぞれ詳細に説明する。
【0037】
[反応液]
本発明のセットを構成する反応液は、反応剤として作用する多価金属イオンと、反応抑制剤として作用する特定のノニオン性界面活性剤とを含有してなり、併用するインクと反応するものである。なお、本発明において、反応液とインクとの反応は、反応液中の多価金属イオンと、インク中の成分(顔料を分散するための分散剤として用いる水溶性樹脂の酸性基)とが、カチオン−アニオンのイオン反応を起こすために生じる。反応液は、画像を形成する際にインクと併用するので、色材を含有しないことを要し、画像への影響を考慮すると可視域に吸収を示さない無色のものであることが好ましい。ただし、可視域に吸収を示すものであっても、実際の画像に影響を与えない程度であれば、可視域に吸収を示す淡色のものであっても構わない。以下、反応液を構成する各成分について、具体例を挙げて説明する。
【0038】
(多価金属イオン)
本発明のセットを構成する反応液には、反応剤として多価金属イオンを含有させる。多価金属イオンを含有する反応液は、多価金属イオンがアニオンと結合した水溶性の化合物、すなわち水溶性の多価金属塩を反応液に添加することで容易に得られる。水溶性の多価金属塩を添加すると、反応液では、多価金属塩の少なくとも一部が多価金属イオンとアニオンとに解離して存在するようになるためである。なお、本発明においては、反応液中に存在するものを便宜上、「多価金属イオン」と表現しているが、これは、反応液中において多価金属イオンの少なくとも一部が塩の状態で存在する場合も包含するものである。
【0039】
前記したように、反応液中の多価金属イオンの含有量(μmol/g)が、インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量(μmol/g)に対するモル比率で、10.0倍以上であることを要する。また、反応液を構成する水性媒体が蒸発した場合に多価金属塩が析出しやすくなる場合があるため、前記モル比率が、50.0倍以下、さらには30.0倍以下、特には20.0倍以下であることが好ましい。なお、このモル比率を算出する場合、反応液中に複数種の多価金属イオン、また、インク中に複数種の樹脂が存在する場合には、それぞれ合計量として算出するものとする。
【0040】
本発明においては、反応液中の多価金属塩の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、3.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。含有量が3.0質量%未満であると、インク中の顔料の分散状態を不安定化するのに要する時間が長くなり、十分な光学濃度が得られづらくなる場合がある。一方、含有量が20.0質量%を超えると、反応液を構成する水性媒体が蒸発した場合に多価金属塩が析出しやすくなる場合がある。
【0041】
多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Sr2+及びBa2+などの2価の金属イオン;Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+などの3価の金属イオンが挙げられる。本発明においては、インク中の水溶性樹脂の酸性基と強いイオン反応を生起するような、凝集性の強い多価金属イオンを用いることが好ましい。このため、反応液を構成する多価金属イオンとしては、Ca2+、Al3+及びY3+からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、中でもCa2+が特に好ましい。また、これらの多価金属イオンと共に多価金属塩を形成する対イオンとしては、例えば、Cl-、Br-、I-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、NO2-、NO3-、SO42-、CO32-、PO43-、HPO42-、及びH2PO4-などの無機アニオン;HCO3-、HCOO-、(COO-2、COOH(COO-)、CH3COO-、C24(COO-2、C65COO-、C64(COO-2及びCH3SO4-などの有機アニオンが挙げられる。本発明においては、反応液を構成する水性媒体への溶解性が優れているため、アニオンがNO3-であることが特に好ましい。これらのことから、本発明においては、反応液を調製する際には、Ca(NO32を用いることが特に好ましい。なお、多価金属塩は水和物の形態で使用してもよい。
【0042】
(界面活性剤)
本発明のセットを構成する反応液には、界面活性剤として、HLB値が13.0以上の、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物を含有させる。高級アルコールの好適な具体例としては、例えば、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、2級トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられる。
【0043】
本発明においては、高級アルコールの炭素数は12以上22以下であることが好ましい。炭素数が12未満であると、界面活性剤の疎水性が低く、界面活性能が低くなりすぎる場合がある。一方、炭素数が22を超えると、界面活性剤の疎水性が強くなりすぎ、インク中に安定に存在させることが難しい場合があるほか、記録ヘッドの吐出口面に界面活性剤が付着する場合もある。さらには、界面活性剤が効果的に顔料粒子の表面や水溶性樹脂に配向するためには、高級アルコールの炭素数は16以上であることがより好ましい。このようにすれば、炭素数が16未満である高級アルコールのエチレンオキサイド付加物とした場合と比較して、顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部との相互作用をより強くすることができる。また、本発明においては、エチレンオキサイド基の付加数が、10以上50以下、さらには10以上30以下であることが好ましい。
【0044】
本発明のセットを構成する反応液は、反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、インク中の顔料及び水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.15倍以上であることを要する。また、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、反応液の吐出が不安定になる場合があるため、前記質量比率が、1.00倍以下、さらには0.70倍以下、特には0.50倍以下であることが好ましい。なお、この質量比率を算出する場合のノニオン性界面活性剤の含有量は反応液全質量を基準とした値であり、また、顔料及び水溶性樹脂の含有量は、いずれもインク全質量を基準とした値である。また、インク中に複数種の顔料や水溶性樹脂が存在する場合には、それぞれの合計量として算出するものとする。
【0045】
また、反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)は、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、反応液全質量を基準として、0.10質量%以上2.5質量%以下、さらには0.30質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。なお、この界面活性剤の含有量は、本発明で規定する要件を満たす、2種以上の界面活性剤を使用する場合には合計の値である。
【0046】
また、本発明のセットを構成する反応液に使用する高級アルコールのエチレンオキサイド付加物は、グリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であることを要する。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0であり、よって、本発明で使用できる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物のHLB値の上限も20.0以下である。
【0047】
ここで、本発明において、界面活性剤のHLB値を規定するために利用しているグリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水基の式量と分子量から下記式(1)により求められ、界面活性剤の親水性や親油性の程度を0.0から20.0の範囲で示すものである。このHLB値が低いほど界面活性剤の親油性すなわち疎水性が高いことを示し、逆に、HLB値が高いほど界面活性剤の親水性が高いことを示す。

【0048】
また、本発明においては、その効果を妨げない限り、前記した特定の界面活性剤に加えて、これ以外の、インクジェット用の反応液に一般的に使用される公知の界面活性剤をさらに含有させることができる。具体的には、上記以外のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコール系化合物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤や、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ベタイン系化合物などの両性界面活性剤、また、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などの界面活性剤が挙げられる。
【0049】
(水性媒体)
本発明のセットを構成する反応液には、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。特に、本発明においては、水性媒体として少なくとも水を含有する水性の反応液とすることが好ましい。反応液中の水の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、25.0質量%以上95.0質量%以下、さらには50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用の反応液に一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、さらに1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。反応液中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、3.0質量%以上70.0質量%以下、さらには3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0050】
(その他の成分)
本発明のセットを構成する反応液には、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、高分子化合物、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤を反応液に含有させてもよい。
【0051】
[インク]
本発明のセットを構成するインクは、顔料を含有し、前記顔料が水溶性樹脂により分散されてなるものである。インクの色相については特に限定はなく、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、ブルー、グリーンなどとすることができる。以下、インクを構成する各成分について説明する。
【0052】
(顔料)
本発明のセットを構成するインクには、色材として顔料を含有させる。本発明で用いることができる顔料の種類は特に限定されず、公知の無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ、フタロシアニン、キナクドリンなどの有機顔料が挙げられる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには0.2質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。インクには、顔料の他に公知の染料などその他の色材が含まれていてもよい。
【0053】
(水溶性樹脂)
本発明のセットを構成するインクは、上記したような顔料を水性媒体中で分散させるための樹脂分散剤として水溶性樹脂を用いる。つまり、インク中では、顔料に水溶性樹脂が物理的に付着又は化学的に結合し、前記水溶性樹脂の立体反発により顔料が分散されている。本発明においては、水溶性樹脂が顔料粒子の表面に疎水性相互作用により物理的に吸着している分散方式を利用することが特に好ましい。なお、本発明において樹脂が水溶性であることとは、前記樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に粒子径を測定しうる粒子を形成しないものであることを意味する。このような条件を満たす樹脂を、本発明においては水溶性樹脂として記載する。インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下、さらには0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。
【0054】
樹脂分散剤としてインクに含有させる水溶性樹脂は、具体的には、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして少なくとも有するものであることが好ましい。なお、以下の記載における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0055】
重合により親水性ユニットとなる、親水性基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシ基を有する酸性単量体、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有する酸性単量体、これらの酸性単量体の無水物や塩などのアニオン性単量体;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基を有する単量体が挙げられる。なお、アニオン性単量体の塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0056】
また、重合により疎水性ユニットとなる、疎水性基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体;エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、t−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族基を有する単量体が挙げられる。
【0057】
本発明においては、インクに含有させる水溶性樹脂は、インクのpHよりもpKaが低い酸性基を有することが特に好ましい。このような酸性基を有する酸性単量体の好適な具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸などのカルボキシ基を有する単量体が挙げられる。本発明においては、水溶性樹脂として、カルボキシ基を有する単量体に由来する親水性ユニットと、芳香環を有する単量体や脂肪族基を有する単量体に由来する疎水性ユニットとを少なくとも有する共重合体を用いることが特に好適である。より具体的には、以下に挙げるような水溶性樹脂を用いることが好ましい。スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体、これらの塩などが挙げられる。
【0058】
また、インクに含有させる樹脂分散剤として好適な水溶性樹脂の酸価は、吐出安定性や保存安定性といったインクとしての信頼性と、インクと反応液との反応性の両立の観点から、80mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。酸価が300mgKOH/gを超えると、水溶性樹脂の疎水性が低くなり過ぎ、顔料との疎水性相互作用が弱く、顔料を安定に分散しづらい場合がある。一方、酸価が80mgKOH/g未満であると、樹脂の水溶性が低くなり過ぎ、顔料を安定に分散するために分散処理に長い時間を要する場合がある。また、酸価が180mgKOH/gを超えると、本発明の効果を得にくくなる場合がある。これは、記録媒体においてインクと反応液が接触した際に、顔料粒子の表面近傍に残存した、アニオン型となっている樹脂の酸性基が、多価金属イオン量と比較して相対的に多くなりやすく、光学濃度がやや低下しやすいためである。
【0059】
また、本発明のセットを構成するインク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、前記顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.15倍以上1.00倍以下であることが好ましい。なお、この場合の水溶性樹脂及び顔料の含有量は、インク全質量を基準とした値である。質量比率が0.15倍未満であると、顔料粒子の表面を覆って安定化するには水溶性樹脂量が少な過ぎて、顔料を安定に分散するための分散処理に、長い時間を要する場合がある。一方、質量比率が1.00倍を超えると、水溶性樹脂の一部は顔料の分散に寄与せずに水性媒体に溶解して存在することとなる。この結果、インクの粘度が高くなりすぎて、インクの吐出安定性が低下する場合がある。
【0060】
なお、顔料をインク中で分散させるため以外にも、例えば、画像に機能を付加することなどを目的として、インクに水溶性樹脂を添加することもできる。このような目的で使用される水溶性樹脂としては、上記に挙げたような、インク中で顔料を分散させるために用いる水溶性樹脂以外に、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂なども用いることができる。なお、単量体として、エチレンオキシドなどのノニオン性基を有するものを使用した樹脂は、記録媒体において形成された膜の強度が弱くなってしまう場合がある。
【0061】
(水性媒体)
本発明のセットを構成するインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。特に、本発明においては、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクとすることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、さらに1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0062】
(その他の成分)
本発明のセットを構成するインクには、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤をインクに含有させてもよい。
【0063】
特に、本発明のセットを構成するインクには、浸透剤として作用する界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としては、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコール系化合物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ベタイン系化合物などの両性界面活性剤、また、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などの界面活性剤が挙げられる。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、インク全質量を基準として、0.1質量%以上2.0質量%以下、さらには、0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0064】
本発明のセットを構成するインクの表面張力は、38mN/m以下であることを要し、25mN/m以上38mN/m以下であることが好ましく、34mN/m以下であることがより好ましい。表面張力が25mN/m未満であると、記録媒体にインクが過度に浸透しやすくなる傾向があり、その裏面にまでインクが到達し、裏抜けが生じやすくなる場合がある。インクの表面張力の調整は、水溶性有機溶剤や界面活性剤の種類や含有量を適宜決定することにより行うことができる。なお、インクの表面張力は、白金プレート法により測定した25℃における静的表面張力である。また、インクのpHは、6.0以上9.5以下であることが好ましい。pHが6.0未満であると、顔料の分散安定性が低くなる傾向があり、インクの保存安定性などが十分に得られない場合がある。一方、pHが9.5を超えると、インクジェット記録装置を構成する部材に対するインクの接液性が低下する問題が生じやすい場合がある。
【0065】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法では、インクジェット方式の記録ヘッドからインク及び反応液をそれぞれ吐出させて記録媒体に付与する工程を有し、記録媒体においてインク及び反応液を互いに接触させて画像を形成する。そして、この際に、上記で説明したインクと反応液とで構成される本発明のセットを用いることを特徴とする。本発明の画像形成方法を行うための装置の構成としてはインクジェット記録装置が挙げられ、公知のいずれの構成も採用することができる。インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドには、力学的エネルギーや熱エネルギーの作用により液体を吐出させる方式があるが、本発明においては特に熱エネルギーの作用により液体を吐出させる方式の記録ヘッドを用いることが好ましい。
【0066】
また、インク及び反応液を記録媒体に付与する順序としては、反応液を付与した後にインクを付与する場合や、インクを付与した後に反応液を付与する場合、また、これらを組み合わせる場合が挙げられる。本発明の目的を鑑みれば、反応液を先に付与した後にインクを付与する場合を少なくとも含むことが好ましい。また、インクジェット方式の記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インク及び反応液の特性について、粘度が1mPa・s以上15mPa・s以下、さらには1mPa・s以上5mPa・s以下であることが好ましい。また、反応液は記録媒体において、意図したインクと効率的に反応させることが好ましい。そのため、所望のインクによる記録領域とは別の箇所に反応液が滲まないように、反応液の表面張力を、記録ヘッドから吐出可能な範囲内で、かつ、反応液によって不安定化させる対象となるインクのそれよりも大きくすることが好ましい。
【0067】
記録媒体への反応液の付与量は、反応液中の多価金属イオンの種類やその含有量、それと反応させるインクの構成によって適宜に調整すればよい。本発明においては、得られる画像の均一性などの観点から、反応液の付与量を0.5g/m2以上10.0g/m2以下、さらには、2.0g/m2を超えて5.0g/m2以下とすることが好ましい。なお、記録媒体の大きさ(面積:m2)に対して、反応液を付与する領域が、ある一部分のみである場合は、記録媒体の全面に付与したと仮定して、反応液の付与量の値(g/m2)を求め、この値が上記の範囲を満足することが好ましい。
【実施例】
【0068】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、各種の物性は、25℃において測定した値である。
【0069】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
酸価が120mgKOH/gで、重量平均分子量が8,000のスチレン−アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)4.0部を、中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いてイオン交換水に溶解させた。ここに、比表面積が220m2/gで、DBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラックを10.0部加え、さらにイオン交換水を加えて調整して合計を100.0部とした。この混合物を、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散させ、分散液を得た。得られた分散液を遠心分離することで粗大粒子を除去した。その後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、イオン交換水を加えて、顔料分散液1を調製した。顔料分散液1中の顔料の含有量は8.0%、水溶性樹脂の含有量は3.2%であった。
【0070】
(顔料分散液2)
顔料分散液1を調製する際に用いた水溶性樹脂の種類と量を、酸価が180mgKOH/gで、重量平均分子量が10,000のスチレン−アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)3.0部とした以外は顔料分散液1と同じ手順にて、顔料分散液2を調製した。顔料分散液2中の顔料の含有量は8.0%、水溶性樹脂の含有量は2.4%であった。
【0071】
(顔料分散液3)
顔料分散液1を調製する際に用いた顔料の種類を、C.I.ピグメントブルー15:3(ファストゲンブルーFGF;DIC製)とした以外は顔料分散液1と同じ手順にて、顔料分散液3を調製した。顔料分散液3中の顔料の含有量は8.0%、水溶性樹脂の含有量は3.2%であった。
【0072】
(顔料分散液4)
顔料分散液1を調製する際に用いた水溶性樹脂の種類を、酸価が120mgKOH/gで、重量平均分子量が8,000のブチルアクリレート−アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)とした以外は顔料分散液1と同じ手順にて、顔料分散液4を調製した。顔料分散液4中の顔料の含有量は8.0%、水溶性樹脂の含有量は3.2%であった。
【0073】
(顔料分散液5)
顔料分散液1を調製する際に用いた水溶性樹脂の種類を、酸価が120mgKOH/gで、重量平均分子量が8,000のベンジルメタクリレート−メタクリル酸共重合体(水溶性樹脂)とした以外は顔料分散液1と同じ手順にて、顔料分散液5を調製した。顔料分散液5中の顔料の含有量は8.0%、水溶性樹脂の含有量は3.2%であった。
【0074】
(顔料分散液6)
下記のカーボンブラック10.0部、下記の水溶性樹脂20.0部及び水70.0部を混合し、混合物を得た。カーボンブラックには、比表面積が210m2/g、DBP吸油量が74mL/100gのものを用いた。また、水溶性樹脂には、酸価が200mgKOH/gで重量平均分子量が10,000のスチレン−アクリル酸共重合体を10%水酸化ナトリウム水溶液で中和したものを用いた。上記で得た混合物を、サンドグラインダーを用いて1時間分散させ、分散液を得た。得られた分散液を遠心分離することで粗大粒子を除去し、その後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、イオン交換水を加えて、顔料分散液6を調製した。顔料分散液6中の顔料の含有量は10.0%、水溶性樹脂の含有量は20.0%であった。
【0075】
(顔料分散液7)
粒子表面に−C64COONa基が結合している自己分散型のカーボンブラックを含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet300;キャボット製)を顔料分散液7として用いた。顔料分散液7中の顔料の含有量は15.0%であった。
【0076】
<樹脂水溶液の調製>
(樹脂水溶液1)
酸価が120mgKOH/gで重量平均分子量が8,000のスチレン−アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)10.0部を、中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いてイオン交換水に溶解した。次に、得られた水溶液をポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、イオン交換水を加えて、樹脂水溶液1を調製した。樹脂水溶液1中の水溶性樹脂の含有量は10.0%であった。
【0077】
(樹脂水溶液2)
酸価が60mgKOH/gで重量平均分子量が20,000のポリウレタン樹脂をイオン交換水に溶解し、樹脂水溶液2を調製した。この際のウレタン樹脂には、イソホロンジイソシアネート、数平均分子量が2,000のポリプロピレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、エチレンジアミンの各化合物を常法により反応させて得たナトリウム塩型の水溶性樹脂を用いた。樹脂水溶液2中の水溶性樹脂の含有量は10.0%であった。
【0078】
<界面活性剤の構造及び物性>
表1に、ノニオン性界面活性剤である、各界面活性剤の構造、HLB値、並びに、かかる界面活性剤が本発明の規定するところに該当する場合は、高級アルコールの一般式、炭素数及びポリオキシエチレン鎖のモル数も併せて示した。なお、HLB値は、上述の式(1)に基づいて算出したグリフィン法による値である。表1中、アセチレノール E100(商品名)は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。NIKKOL BC−20、BO−20、BB−20、BL−21、BT−12、BC−10(商品名)は、日光ケミカルズ製の界面活性剤である。EMALEX 1825、1615、512、CS−30(商品名)は日本エマルジョン製の界面活性剤である。
【0079】

【0080】
<インクの調製>
表2の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、10%水酸化ナトリウム水溶液又は10%硫酸を用いてpH9.0に調整した。その後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、各インクを調製した。表2の下段には、各インク中の顔料の含有量[%]及び水溶性樹脂の含有量[%]、水溶性樹脂に由来する酸性基量[μmol/g]を示した。ここで、いずれのインクもpHは9.0に調整してあり、さらに水溶性樹脂の酸性基はカルボキシ基であるため、そのpKaは4〜5程度である。そのため、各インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基のpKaは、いずれもインクのpHよりも低い。なお、インク12については、自己分散カーボンブラックを用いているため、本発明で規定する水溶性樹脂に由来する酸性基の量は0.0である。表2の下段に、自動表面張力計(CBVP−Z型;協和界面科学製)を用いて、白金プレート法により測定した各インクの表面張力[mN/m]の値もあわせて示した。
【0081】
なお、インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量(μmol/g)の値は、インク中の水溶性樹脂の含有量及びその酸価から算出することができる。酸価は1gの樹脂を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(単位:ミリグラム)であるので、酸価×10-3/水酸化カリウムの分子量(56.1)の値が樹脂1g中に存在する酸性基の量(単位:mol)となる。したがって、樹脂1g中に存在する酸性基の量(mol)×インク1g当たりの樹脂量(g/インク1g)×1,000,000、の式によりインク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量(μmol/g)を算出することができる。インク1を例に挙げて計算すると、インク1中には酸価120mgKOH/gの水溶性樹脂1.2%が含まれている。したがって、インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量は、(120×10-3/56.1)×(1.2/100)×1,000,000=25.7(μmol/g)となる。なお、水溶性樹脂を含むインクから前記インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量を求めるためには、酸析などの方法により析出させた水溶性樹脂について、滴定などを行ってその酸価を求めれば、その後は上記と同様に算出することができる。
【0082】

【0083】

【0084】
<反応液の調製>
表3の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、各反応液を調製した。反応液19は硫酸を用いてpHを4.0に調整した。各反応液中の多価金属イオンの含有量[μmol/g]、界面活性剤の含有量[%]を表3の下段に示した。なお、反応液19は、pH4.0付近に緩衝能を有することにより、インクと接触した際にインクpHを低下させ、分散状態を不安定化させる反応液であり、多価金属イオンは含有していない。
【0085】

【0086】

【0087】

【0088】
<評価>
上記で調製したインク及び反応液を用い、表4の左側に示す組み合わせで反応液とインクとのセットとした。表4中に、反応液中の多価金属イオンの含有量の、インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量に対するモル比率[倍]の値、反応液中の界面活性剤の含有量の、インク中の顔料及び水溶性樹脂(全質量)の合計含有量に対する質量比率[倍]の値を示した。
【0089】
これらのセットを用いて、以下の条件で評価を行った。画像の形成には、熱エネルギーの作用により液体を吐出させる記録ヘッドを搭載するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)を改造したものを用いた。セットを構成するインク及び反応液をそれぞれカートリッジに充填し、反応液のカートリッジをグレーのポジションに、また、インクのカートリッジをイエローのポジションにそれぞれセットした。記録条件は、記録ヘッドの吐出口の配置幅分の画像を、記録ヘッドのホームポジションから開始する走査でのみ記録を行う、1パス片方向記録とし、同一のパスで反応液を記録媒体に付与し、その後にインクを重なるように付与した。本実施例においては、1/600inch×1/600inchを1ピクセルと定義し、記録媒体への反応液の付与量は1ピクセルあたり7ng、また、記録媒体へのインクの付与量は1ピクセルあたり16ngとした。そして、PB PAPER GF−500及びCanon Extra(以上、キヤノン製)、並びに、PPC用紙 BUSINESS MULTIPURPOSE 4200 PAPER(ゼロックス製)の3種の記録媒体に、各評価に用いる画像を形成した。本発明においては、以下の各評価項目の評価基準において、A、及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。評価結果を表4の右側に示す。
【0090】
(光学濃度の評価)
表4に示すセットを用いて、前記3種の記録媒体にそれぞれ5cm×5cmのベタ画像を形成した。1日後に分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件でベタ画像の光学濃度を測定し、3種の記録媒体についての平均値と最低値により評価を行った。光学濃度の評価基準は以下の通りである。
【0091】
ブラックのベタ画像の場合の評価基準
A:平均値が1.4以上であり、かつ最低値が1.3以上であった。
B:平均値が1.4以上であり、かつ最低値が1.2以上1.3未満であった。
C:平均値が1.4未満であった。
【0092】
シアンのベタ画像の場合の評価基準
A:平均値が1.3以上であり、かつ最低値が1.2以上であった。
B:平均値が1.3以上であり、かつ最低値が1.1以上1.2未満であった。
C:平均値が1.3未満であった。
【0093】
(定着性の評価)
表4に示すセットを用いて、前記3種の記録媒体にそれぞれ5cm×5cmのベタ画像を形成した。記録の3秒後に、40g/cm2のおもりを載せたシルボン紙でベタ画像を擦り、非記録部分の汚れの程度を目視で確認して、それらの平均値として定着性の評価を行った。定着性の評価基準は以下の通りである。
A:記録媒体の非記録部分に汚れがほとんど付着していなかった。
B:記録媒体の非記録部分に汚れの付着があるが、許容できるレベルであった。
C:記録媒体の非記録部分に汚れが顕著に付着していた。
【0094】
(固着抑制の評価)
表4に示すセットを用いて、A4サイズの記録媒体の全面にベタ画像を形成するパターンを連続で500枚分記録した。その後、同じセットを用いて、6ポイントのゴシック体の文字を記録した。この文字を目視で確認することで、記録ヘッドの吐出口面に生じた固着物による吐出性の低下の有無を判断し、固着抑制の評価を行った。固着抑制の評価基準は以下の通りである。
A:文字に乱れが認められず、固着が抑制されていた。
B:文字の一部に乱れが認められるものの、固着は軽微であり、許容できるレベルであった。
C:文字に多くの乱れが認められ、固着が抑制されていなかった。
【0095】

【0096】
比較例14は、記録媒体へのインクの浸透、拡散の速度が遅くなるようにコントロールしたセットである。このセットでは、ある程度高い光学濃度が得られ、固着抑制も許容できる程度に図られるが、定着性は不十分であった。そこで、比較例14のセットを構成するインク15を、記録媒体へのインクの浸透、拡散が速くなるようにしたインク14をセットに用いた比較例15と比較してみる。すると、定着性はある程度向上したものの、インクと反応液の反応性が低いため、記録媒体へのインクの浸透、拡散が完了するまでの間に顔料が記録媒体に十分に固定されず、光学濃度は許容できない程度にまで低下した。さらに、比較例15のセットに用いている反応液25の多価金属イオンをMg2+からCa2+に変更し、さらに含有量を増やすことでインクとの反応性を高めることを狙った反応液13に変更したセットである比較例13と比較してみる。このセットであっても、インク中の水溶性樹脂に由来する酸性基の量に対して、多価金属イオンの含有量が足りず、結果として光学濃度は不十分であった。これに加えて、インク中の顔料と水溶性樹脂の合計量に対して、反応液中の界面活性剤の含有量が低いまま、インクと反応液の反応性がやや高まったため、記録ヘッドの吐出口面での固着も抑制することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂によって分散されている顔料を含有してなるインクと、色材を含有せず、多価金属イオン及び界面活性剤を含有してなる反応液との組み合わせを有するインクジェット用のインクと反応液とのセットであって、
前記インクの表面張力が、38mN/m以下であり、
前記反応液中の前記多価金属イオンの含有量(μmol/g)が、前記インク中の前記水溶性樹脂に由来する酸性基の量(μmol/g)に対するモル比率で、10.0倍以上であり、
前記反応液中の前記界面活性剤が、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であり、
前記反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、前記インク中の前記顔料及び前記水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.15倍以上であることを特徴とするインクと反応液とのセット。
【請求項2】
前記多価金属イオンが、Ca2+、Al3+及びY3+からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項3】
前記高級アルコールの炭素数が16以上である請求項1又は2に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項4】
インクジェット方式の記録ヘッドからインク及び反応液をそれぞれ吐出させて、記録媒体において、前記インク及び前記反応液を互いに接触させて画像を形成する画像形成方法であって、
前記インク及び前記反応液に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクと反応液とのセットを用いることを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2012−233161(P2012−233161A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−76527(P2012−76527)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】