説明

インクと反応液とのセット、及び画像形成方法

【課題】優れた光学濃度が得られ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できるインクと反応液とのセットの提供。
【解決手段】自己分散顔料及び水溶性樹脂を含有するインクと、界面活性剤を含有し、かつ、酸性領域に緩衝能を有する反応液とのセットであって、前記水溶性樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体であり、前記界面活性剤が、特定の高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、かつ、そのHLB値が13.0以上であり、前記反応液中の前記界面活性剤の含有量が、前記インク中の前記顔料及び前記水溶性樹脂の合計含有量に対する質量比率で0.20倍以上であるセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクと反応液とのセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録方法として、色材を含有するインクとは別に、画像を良好にするための液体を、いわゆる反応液として用意し、前記反応液とインクとを記録媒体に付与して画像を形成する方法が種々提案されている。当該方法によれば、記録媒体における色材の凝集を反応液により促進することで、インクのみで画像を形成する方法に比べて、画像性能の向上が可能になってきている。
【0003】
例えば、反応液とインクの反応性を高めるのではなく、インクと反応液の記録媒体への浸透、拡散の速度が遅くなるようにコントロールすることで、高い光学濃度を得ることに関する提案がある(特許文献1参照)。具体的には、寿命時間30m秒における動的表面張力が41mN/m以上である反応液と、静的表面張力がある程度高いインクを用いることで、記録媒体の表面において色材が凝集する時間を確保し、光学濃度の向上を図っている。また、pH感受性樹脂と自己分散顔料を含有する第1インクと所定のpHを有する第2インクとを接触させて、pH感受性樹脂を不溶化することによって、画像の滲みなどを抑制することに関する提案がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−308662号公報
【特許文献2】特開2000−129184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように、反応液とインクとを記録媒体に付与して画像を形成する方法において、前記反応液をインクジェット方式の記録ヘッドから記録媒体に付与すると、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、反応液やインクを記録媒体に付与する際に液滴の跳ね返りが生じた場合に、液滴の跳ね返りを受けた記録ヘッドの吐出口が形成された面(以下、吐出口面と呼ぶ)において反応液とインクが混ざり合う。優れた光学濃度を得るには、反応液とインクの反応性を高めるのが有効であるが、この場合、記録ヘッドの吐出口面において混合された反応液とインクも強く反応することになる。その結果として、記録ヘッドの吐出口面を清浄に保つためにインクジェット記録装置において一般的に採用されている吸引回復操作を行っても、吐出口面に、取り去れないような強固な固着物が生じることとなる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、優れた光学濃度が得られ、かつ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できるセットを提供することにある。また、本発明の目的は、上記の優れた画像が得られ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料及び水溶性樹脂を含有してなるインクと、色材を含有せず、界面活性剤を含有してなり、かつ、酸性領域に緩衝能を有する反応液との組み合わせを有するインクジェット用のインクと反応液とのセットであって、前記インク中の前記顔料が、粒子表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合している自己分散顔料であり、かつ、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量が1,000以下であり、前記水溶性樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体であり、前記反応液中の前記界面活性剤が、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であり、前記反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、前記インク中の前記顔料及び前記水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.20倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた光学濃度が得られ、かつ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できるセットを提供することができる。また、本発明によれば、高速記録に対応し、上記の優れた画像が得られ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制できる画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明における、粘度、表面張力、pH、pKaなどの各種の物性は、25℃における値である。本発明において、反応液が「酸性領域に緩衝能を持つ」こととは、反応液と、これとセットで用いられるインクとを、等量ずつで混合した混合物のpHが、反応液のpHから実質的に変化せずに、pHが7.0未満の範囲内に保持されることを意味するものとする。より具体的には、反応液のpH(7.0未満)と、インクと反応液とを等量ずつで混合した混合物のpHとの差が、0.1以内となることを意味している。また、本発明で規定する「pKa」は、酸の強さを定量的に表すための指標の一つであって、酸解離定数や酸性度定数とも呼ばれるものである。酸から水素イオンが放出される解離反応を考えて、負の常用対数pKaによって表す。したがって、pKaが小さいほど強い酸であることを示す。
【0010】
先ず、本発明の課題のうち、記録媒体、特には普通紙において優れた光学濃度を得るための方法としては、先に述べた通り、インクの記録媒体への浸透、拡散の速度を遅くする方法がある。しかし、この手法では、インクの乾燥時間が長くなりやすいため、高速記録に対応しづらい。そこで、本発明者らは、高速記録にも対応可能でありながら、高い光学濃度を得るためには、反応液とインクの反応性を高めることが有用であると考え、その手法を検討することとした。
【0011】
その場合、本発明の課題のうち、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制する技術を新たに確立する必要がある。そこで、本発明者らは、反応液とインクの反応性を著しく低下させるような物質、つまりは反応抑制剤としてはどのようなものが有用であるかの検討を行った。具体的には、種々の顔料や反応剤に対し、種々の水溶性有機溶剤や界面活性剤などを組み合わせ、その反応性を調べることにより、いくつかの組み合わせにおいて効果的に反応抑制剤として働く物質を見出した。
【0012】
具体的には、下記のことを見出した。反応抑制剤を除いた系、すなわち、顔料と反応剤との組み合わせでは、効果的に顔料の分散状態が不安定化され、顔料の凝集物が生成する。これに対し、そこに反応抑制剤を組み合わせた系では、顔料の分散状態の不安定化が抑制され、凝集物の生成も抑制されることを見出した。そこで、そのような組み合わせのうち、本発明者らは以下のような成分をそれぞれに含有するインクと反応液の組み合わせに特に着目し、検討を重ねた。先ず、インクには、自己分散顔料と(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体(以下、水溶性樹脂と呼ぶことがある)を含有させる。また、反応液は酸性領域に緩衝能を持つものとし、さらに、反応抑制剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル(ノニオン性界面活性剤)を含有させる。この反応液は酸性領域に緩衝能を持つため、解離型の基(自己分散顔料のアニオン性基や水溶性樹脂の酸性基)と反応する反応剤はプロトン(H)である。
【0013】
顔料を含有するインクと、酸性領域に緩衝能を持つ反応液との反応は従来から利用されてきた。また、ある種のノニオン性界面活性剤が、顔料の分散安定化に寄与することも知られている。本発明者らは、上述の技術をさらに追及し、優れた光学濃度を得ることと、記録ヘッドの吐出口面での固着の抑制とを高いレベルで両立するための検討を行った。先ず、自己分散顔料と水溶性樹脂を含有するインクと、酸性領域に緩衝能を持つ反応液が混合されたときの顔料の分散状態の不安定化と、ノニオン性界面活性剤による顔料の分散状態や水溶性樹脂の溶解状態の安定化について、さらに詳細な解析を行った。その結果、以下のことがわかった。
【0014】
先ず、前者の反応、すなわち、顔料の分散状態の不安定化に関して述べる。酸性領域に緩衝能を持つ反応液を利用する場合、色材として自己分散顔料を含有するインクを用いて高い光学濃度を得るのは困難である。これは、自己分散顔料はその粒子表面に結合しているアニオン性基が解離型(アニオン型)となっており、それにより形成される電気二重層によって顔料の分散状態が安定に保たれていることに起因する。インクと反応液が接触した後に、解離型のアニオン性基が酸型になるものと、解離型のままであるものとの比率は、反応液のpHとアニオン性基のpKaとの関係により決定される。反応液のpHがアニオン性基のpKaよりも十分に、具体的には2程度以上に低ければ、アニオン性基のほぼ全て、具体的には99%以上を酸型とすることができ、顔料の分散状態が不安定化され、大きな凝集物が生成する。逆に、反応液のpHがアニオン性基のpKaと比較して上記の程度にまで低くない場合には、アニオン性基はある程度の割合で解離型のままで存在する。このような場合には、顔料粒子の表面に結合している、解離型のアニオン性基が少なくなることから、顔料の分散安定性は低下するものの、依然として電気二重層が形成されているため、大きな凝集物は生成されない。
【0015】
顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合させるアニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。これらのアニオン性基のpKaよりも2程度以上に低いpHを有する反応液とするためには、2〜3程度より低いpH領域に緩衝能を持たせる必要がある。しかし、記録装置を構成する部材の腐食などを考慮すると、このようなpH領域に緩衝能を持つ反応液を利用するのは困難である。
【0016】
そこで、本発明者らがさらなる検討を行った結果、酸性領域に緩衝能を持つ反応液を利用する場合、自己分散顔料を含有するインクにさらに特定の水溶性樹脂を添加すると、上記とは異なる挙動が生じ、優れた光学濃度が得られることがわかった。本発明においては、上記水溶性樹脂として、(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体を用いる。この水溶性樹脂の(メタ)アクリル酸に由来するユニットは、インク中で解離型となるカルボキシ基を有し、それが水と水素結合を形成することによって、該樹脂を水に溶解させる。
【0017】
インクと反応液が混合された後の水溶性樹脂のカルボキシ基について、酸型になるものと、解離型のままのものとの比率は、先に述べた場合と同様に、反応液のpHとアニオン性基であるカルボキシ基のpKaとの関係により決定される。しかし、水溶性樹脂を不溶化させるためには、アニオン性基のほぼ全てを酸型とする必要はなく、前記樹脂が水に溶解するのに必要な解離型のカルボキシ基量よりも、解離型のカルボキシ基の量を減らせばよい。インクに用いる水以外の水溶性有機溶剤の構成にも依存するものの、具体的には、解離型のカルボキシ基のみを考慮とした酸価が約60〜80mgKOH/g以下となれば樹脂を不溶化することができる。このようにして不溶化した樹脂と、分散状態が不安定化した自己分散顔料とが共存すると、これらの衝突により樹脂と顔料の大きな凝集物が形成される。本発明においては、このようなメカニズムにより、優れた光学濃度を得ることができる。
【0018】
また、後者の反応、つまり、ノニオン性界面活性剤による顔料や水溶性樹脂の安定化は、以下のようにして生じる。ノニオン性界面活性剤、自己分散顔料及び水溶性樹脂を含有するインク中では、顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部にノニオン性界面活性剤が配向し、そのノニオン性界面活性剤の水溶性により、顔料の分散状態や水溶性樹脂の溶解性が安定に保たれている。ノニオン性界面活性剤は、その親水部が水と水素結合を形成することにより水に溶解しているため、pH変化の影響を受けづらい。つまり、ノニオン性界面活性剤による顔料や水溶性樹脂の安定化は、顔料や水溶性樹脂との相互作用によるものである。
【0019】
次に、本発明者らは、自己分散顔料と水溶性樹脂を含む水分散液と、酸性領域に緩衝能をもつ水溶液、ノニオン性界面活性剤の水溶液、の三者を混合した場合に、先に挙げた2つの作用がどのようなタイミングで生じるかについて検討を行った。その結果、pH低下による顔料の分散状態の不安定化と水溶性樹脂の不溶化が生じ、次いでノニオン性界面活性剤による顔料と水溶性樹脂の安定化が生じることが判明した。
【0020】
本発明者らは、この現象について、以下のように理解している。先に挙げた2つの作用が生じるタイミングは、ノニオン性界面活性剤が水溶液中ではミセルを形成した状態で存在していることが鍵となって決まる。このような三者を混合した場合、自己分散顔料が有するアニオン性基と水溶性樹脂が有する酸性基は、これらの基のpKaと、混合物のpHとに応じた酸解離平衡により決定される解離率に速やかに達する。そして、先に述べたメカニズムにより、自己分散顔料と水溶性樹脂の凝集物が形成される。これに対して、ノニオン性界面活性剤は、疎水部同士の相互作用により形成されているミセル構造が一旦崩された後、その疎水部が顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部と相互作用をして初めて顔料の分散状態や水溶性樹脂の溶解状態を安定化する。このような理由から、先に挙げた2つの作用が生じるタイミングが異なっていると考えられる。
【0021】
これらの現象の理解を踏まえ、本発明者らは、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制する手法を検討し、本発明に至った。具体的には、以下の構成の反応液とインクとをセットとすることにある。すなわち、反応液は酸性領域に緩衝能を有するものとし、さらに反応抑制剤としてノニオン性界面活性剤を含有させ、インクには、色材として自己分散顔料を用い、さらに(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体である水溶性樹脂を含有させる。この構成は、自己分散顔料、水溶性樹脂、酸性領域に緩衝能を有する反応液、ノニオン性界面活性剤のそれぞれがどのように相互作用を及ぼすのか、それらがどのようなタイミングで生じるのか、といったことに対する深い理解を経てこそ到達できたものである。このような構成とすることで、高い光学濃度が得られ、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができる。本発明者らは、かかる効果が得られるメカニズムを以下のように推測している。
【0022】
先ず、記録媒体において、前記構成の反応液とインクが混合された場合に生じる現象について述べる。この場合、酸性領域に緩衝能を有する反応液が、インク中の自己分散顔料の分散状態を不安定化させ、また、水溶性樹脂を不溶化させる。そして、これらの衝突により大きな凝集物が生成する。一方、その他の水溶性成分(反応液に由来するノニオン性界面活性剤も含まれる)は、速やかに記録媒体に浸透、拡散するため、ノニオン性界面活性剤による顔料が水溶性樹脂の安定化は起こらない。このようにして、反応液とインクとを記録媒体に付与した場合は、反応抑制剤が存在しない場合と同等程度の高い光学濃度が得られる。
【0023】
次に、記録ヘッドの吐出口面において、前記構成の反応液とインクが混合された場合に生じる現象について述べる。この場合、記録媒体における場合と同様に、先ず、酸性領域に緩衝能を有する反応液が、インクに含まれる自己分散顔料の分散状態を不安定化させ、また、水溶性樹脂も不溶化させる。しかし、その後に生じる現象は記録媒体における場合とは異なり、その他の水溶性成分(反応液に由来するノニオン性界面活性剤が含まれる)が、分散状態が不安定化した自己分散顔料と樹脂の不溶化物と共に存在する。このため、ノニオン性界面活性剤による顔料と樹脂の安定化が生じる。このようにして、記録ヘッドの吐出口面での固着の抑制が図られる。
【0024】
本発明者らは、前記メカニズムのうち、特に記録ヘッドの吐出口面において生じる現象を確認するため、顔料の分散方式と反応剤を以下のように変えて評価を行った。具体的には、樹脂分散顔料を含有するインク及び酸性領域に緩衝能を有する反応液の組み合わせと、自己分散顔料と水溶性樹脂を含有するインク及び多価金属イオンを含有する反応液の組み合わせについての検討を行った。しかし、これらのいずれの場合においても、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することはできなかった。
【0025】
先ず、樹脂分散顔料を含有するインク及び酸性領域に緩衝能を有する反応液の組み合わせについて考察する。樹脂分散顔料は、その粒子表面に吸着している水溶性樹脂の立体反発によって、顔料の分散状態が安定に保たれている。この樹脂分散顔料を含有するインクに、反応液が混合されると、混合物のpHは酸性領域となり、顔料粒子の表面に吸着している水溶性樹脂の酸性基の大部分は解離型から酸型となるため、急激に不溶化する。これにより顔料を分散させていた立体反発が弱くなり、顔料の分散状態は不安定化される。この際、反応液は緩衝能を有するため、水溶性樹脂の不溶化はほぼ完全に進行するため、顔料の凝集物は大きなものとなる。この場合、ノニオン性界面活性剤が存在していたとしても、凝集物が大きいために安定化することはできず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができなかったと考えられる。
【0026】
次に、自己分散顔料と水溶性樹脂を含有するインク及び多価金属イオンを含有する反応液の組み合わせについて考察する。自己分散顔料はその粒子表面に結合している酸性基がアニオン型となっており、それにより形成される電気二重層によって顔料の分散状態が安定に保たれている。この自己分散顔料を含有するインクに、多価金属イオンが混合されると、電気二重層が急速に圧縮され、顔料の分散状態が不安定化する。この反応は素早く進むため、顔料の凝集物は大きなものとなる。この場合、ノニオン性界面活性剤が存在していたとしても、凝集物が大きいために安定化することはできず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができなかったと考えられる。
【0027】
これまでに述べてきたように、自己分散顔料及び水溶性樹脂を含有するインクと、酸性領域に緩衝能を有し、ノニオン性界面活性剤を含有する反応液、という組み合わせが、画像の光学濃度の向上と、記録ヘッドの吐出口面での固着の抑制に有効である。以下、これらの効果を得るために必要となる、各成分の要件について説明する。
【0028】
先ず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制するために必要となる、ノニオン性界面活性剤の要件について述べる。前述のメカニズムに則ると、以下の点が重要となる。すなわち、顔料粒子の表面や樹脂の不溶化物と相互作用するための疎水部の構造と、相互作用したものが安定に存在するための界面活性剤の親水性、さらにはインク中の顔料や水溶性樹脂を安定化するための含有量が重要となる。本発明者らは、これらの要素についてより詳細に検討することにより、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制するためには、以下の要件が必要であることをつきとめた。本発明では、反応液に、反応抑制剤として作用するノニオン性界面活性剤を含有させる。そして、前記界面活性剤を、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物とし、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であることを要する。
【0029】
これに対し、ノニオン性界面活性剤の疎水部であるアルキル鎖が複数の箇所で分岐しているような構造の場合、その立体障害により、顔料粒子の表面や樹脂の不溶化物と相互作用することができない。また、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物としてHLB値が13.0未満であるものを用いた場合は、ノニオン性界面活性剤の親水性が低く、顔料や水溶性樹脂を安定化することができない。
【0030】
また、本発明者らの検討によれば、反応液を構成しているノニオン性界面活性剤によって、インク中の顔料や水溶性樹脂を安定化するには、顔料や水溶性樹脂の量に対してノニオン性界面活性剤の量を十分にしておく必要がある。そのためには、反応液中の前記ノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)が、インク中の顔料及び水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.20倍以上であることを要する。前記質量比率が0.20倍未満であると、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができない。
【0031】
さらに、顔料粒子の表面に結合している官能基(アニオン性基が直接結合している場合はアニオン性基、アニオン性基が他の原子団を介して結合している場合は他の原子団及びアニオン性基)の重量平均分子量は、1,000以下である必要がある。官能基の重量平均分子量が1,000を超える官能基は樹脂のような作用を持ちやすく、顔料の分散がその立体反発によってなされることになり、樹脂分散顔料と同じような挙動を示す。この場合、先に述べたように、自己分散顔料が酸性領域に緩衝能を有する反応液と混合された際に、前記官能基の急激な不溶化によって顔料を分散させていた立体反発が弱くなり、大きな凝集物が生成する。この場合、前記ノニオン性界面活性剤が存在したとしても、凝集物が大きいために安定化させることはできず、記録ヘッドの吐出口面での固着を抑制することができない。
【0032】
<インクと反応液とのセット>
以下、本発明のセットを構成するインク及び反応液について、それぞれ詳細に説明する。
[反応液]
本発明のセットを構成する反応液は、反応抑制剤として作用する特定の界面活性剤を含有してなり、かつ、酸性領域に緩衝能を有し、併用するインクと反応するものである。なお、本発明において、反応液とインクとの反応は、反応液のもつ酸性領域における緩衝能によって、インク中の(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体である水溶性樹脂が酸析されるために生じる。反応液は、画像を形成する際にインクと併用するので、色材を含有しないことを要し、画像への影響を考慮すると可視域に吸収を示さない無色のものであることが好ましい。ただし、可視域に吸収を示すものであっても、実際の画像に影響を与えない程度であれば、可視域に吸収を示す淡色のものであっても構わない。以下、反応液を構成する各成分について、具体例を挙げて説明する。
【0033】
(有機酸)
本発明で使用する反応液は、酸性領域、つまり、pH7.0未満のpH領域に緩衝能を有することを要する。酸性領域にpH緩衝能を有する反応液とするためには、反応液に緩衝剤を含有させることが好ましい。緩衝剤としては、添加することによって反応液が酸性領域に緩衝能を有することが可能な物質であれば、従来公知の、pH変化に対する緩衝能を持たせることができる化合物は、いずれも本発明に用いることができる。また、反応液中の緩衝剤の含有量(質量%)は、反応液が本発明で規定する緩衝能を有することを満足するものとなればよく、例えば、反応液全質量を基準として、1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明者らの検討によると、記録媒体においてインクと反応液とが接触したときの反応性を考慮すると、酸性領域に緩衝能を持たせるために反応液に含有させる緩衝剤としては、弱酸である有機酸を使用することが好ましい。このような有機酸としては、具体的には、カルボキシ基を有する有機酸が挙げられる。カルボキシ基を有する有機酸は一般に弱酸であるため、酸の強さを示す尺度として、酸解離定数(pKa)を適用することができる。カルボキシ基を有する有機酸のpKaは、反応性を効果的に向上させる観点からは、25℃の水中でのpKaが2.5以上6.5以下であるものが特に好ましく用いられる。pKaが2.5未満であると、酸性度が強すぎて、記録装置を構成する部材に腐食を生じさせやすい場合がある。一方、pKaが6.5を超えると、酸性度が弱すぎて、水溶性樹脂を十分に不溶化させることができず、高いレベルの光学濃度が十分に得られない場合がある。なお、2価以上の多価カルボン酸はその価数のカルボキシ基に対応する複数段階の電離を示すが、全ての段階のpKaが上記範囲に含まれるのが好ましい。
【0035】
本発明においては、反応液に緩衝能を持たせるためには、具体的には、下記に挙げるようなカルボキシ基を有する有機酸を緩衝剤として含有させることが好ましい。例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸の塩;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、トリメリット酸などの、ジカルボン酸の塩や水素塩;クエン酸などの、トリカルボン酸の塩や水素塩;オキシコハク酸、DL−リンゴ酸、酒石酸などのヒドロキシカルボン酸の塩が挙げられる。塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属イオンが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、水への溶解度が高い緩衝剤を用いることが好ましい。このような緩衝剤としては、酢酸塩やプロピオン酸塩などのモノカルボン酸の塩、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、クエン酸などの多価カルボン酸の塩や水素塩、リンゴ酸や酒石酸などのヒドロキシカルボン酸の塩などが挙げられる。さらには、2つのカルボキシ基を有する有機酸(ジカルボン酸やその塩)を用いることが好ましい。この理由は以下の通りである。ジカルボン酸を用いることで、酸性領域における緩衝能がより強くなり、自己分散顔料の分散状態の不安定化や樹脂の不溶化が生じ易く、より高いレベルの光学濃度を得ることができる。しかし、分子中のカルボキシ基の数が多くなると、インクとの反応性はより高くなるものの、クエン酸のように水への溶解性が低くなる。したがって、本発明においては、緩衝剤として2つのカルボキシ基を有する有機酸を用いることが好ましい。
【0037】
また、本発明者らの検討の結果、反応液が緩衝剤としてカルボキシ基を有する有機酸を含有し、かつ、反応液のpHが3.5以上5.5以下であることが好ましいことがわかった。反応液のpHが低すぎると、記録装置を構成する部材に腐食を生じさせやすい場合があるため、3.5以上とすることが好ましい。一方、反応液のpHが5.5以下であると、インク中の水溶性樹脂を急激に不溶化させることができ、より高いレベルの光学濃度を得ることができる。反応液が3.5以上5.5以下のpHを有するように調整するためには、例えば、酢酸、メタンスルホン酸などの有機酸、硫酸、硝酸などの無機酸、アルカリ金属の水酸化物などの塩基のようなpH調整剤を含有させることが好ましい。
【0038】
また、有機酸により、インク中の樹脂を効果的に不溶化させるためには、水溶性樹脂が有するカルボキシ基の数に対して、上記有機酸の酸性基のうち酸型(H型)のものの数を十分にしておくことが好ましい。そのためには、反応液中の有機酸が酸型の酸性基を有し、かつ、該酸型の酸性基の量(μmol/g)が、インク中の水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量(μmol/g)に対するモル比率で8.0倍以上であることが好ましい。前記モル比率で8.0倍以上であると、より高いレベルの光学濃度を得ることができる。上記モル比率は、100.0倍以下、さらには50.0倍以下、特には30.0倍以下であることが好ましい。
【0039】
(界面活性剤)
本発明のセットを構成する反応液には、界面活性剤として、HLB値が13.0以上の、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物を含有させる。高級アルコールの好適な具体例としては、例えば、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、2級トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、ベヘニルアルコールなどが挙げられる。
【0040】
本発明においては、高級アルコールの炭素数は16以上であることが好ましい。このようにすれば、顔料粒子の表面や水溶性樹脂の疎水部との相互作用をより強く発揮させることができ、記録ヘッドの吐出口面での固着をより高いレベルで抑制することができる。また、高級アルコールの炭素数は22以下であることが好ましい。炭素数が22を超えると、界面活性剤の疎水性が強くなりすぎ、インク中に安定に存在させることが難しい場合があるほか、記録ヘッドの吐出口面に界面活性剤が付着する場合もある。また、本発明においては、エチレンオキサイド基の付加数が、10以上50以下、さらには10以上30以下であることが好ましい。
【0041】
本発明のセットを構成する反応液は、反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、インク中の顔料及び水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.20倍以上であることを要する。また、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、反応液の吐出が不安定になる場合があるため、前記質量比率が、1.00倍以下、さらには0.70倍以下、特には0.50倍以下であることが好ましい。なお、この質量比率を算出する場合のノニオン性界面活性剤の含有量は反応液全質量を基準とした値であり、また、顔料及び水溶性樹脂の含有量は、いずれもインク全質量を基準とした値である。また、インク中に複数種の顔料や水溶性樹脂が存在する場合には、それぞれの合計量として算出するものとする。
【0042】
また、反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)は、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、反応液全質量を基準として、0.10質量%以上3.5質量%以下、さらには0.60質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。なお、この界面活性剤の含有量は、本発明で規定する要件を満たす、2種以上の界面活性剤を使用する場合には合計の値である。
【0043】
また、本発明のセットを構成する反応液に使用する高級アルコールのエチレンオキサイド付加物は、グリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であることを要する。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0であり、よって、本発明で使用できる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物のHLB値の上限も20.0以下である。
【0044】
ここで、本発明において、界面活性剤のHLB値を規定するために利用しているグリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水基の式量と分子量から下記式(1)により求められ、界面活性剤の親水性や親油性の程度を0.0から20.0の範囲で示すものである。このHLB値が低いほど界面活性剤の親油性すなわち疎水性が高いことを示し、逆に、HLB値が高いほど界面活性剤の親水性が高いことを示す。

【0045】
また、本発明においては、その効果を妨げない限り、前記した特定の界面活性剤に加えて、これ以外の、インクジェット用の反応液に一般的に使用される公知の界面活性剤をさらに含有させることができる。具体的には、上記以外のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコール系化合物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤や、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ベタイン系化合物などの両性界面活性剤、また、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などの界面活性剤が挙げられる。
【0046】
(水性媒体)
本発明のセットを構成する反応液には、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。特に、本発明においては、水性媒体として少なくとも水を含有する水性の反応液とすることが好ましい。反応液中の水の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、25.0質量%以上95.0質量%以下、さらには50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用の反応液に一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、さらに1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。反応液中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、3.0質量%以上70.0質量%以下、さらには3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(その他の成分)
本発明のセットを構成する反応液には、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、高分子化合物、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤を反応液に含有させてもよい。
【0048】
[インク]
本発明のセットを構成するインクは、色材に顔料を含有し、前記顔料が自己分散顔料であること、さらに、(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体である水溶性樹脂を含有してなることを特徴とする。インクの色相については特に限定はなく、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、ブルー、グリーンなどとすることができる。以下、インクを構成する各成分について説明する。
【0049】
(顔料)
本発明のセットを構成するインクには、色材として顔料を含有させる。本発明で用いることができる顔料の種類は特に限定されず、公知の無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ、フタロシアニン、キナクドリンなどの有機顔料が挙げられる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには0.2質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。インクには、顔料の他に公知の染料などその他の色材が含まれていてもよい。
【0050】
本発明のセットを構成するインクは、自己分散顔料を含有してなることを要する。自己分散顔料としては、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合しているものを用いることができる。顔料粒子の表面と、官能基(アニオン性基が直接結合している場合はアニオン性基、アニオン性基が他の原子団を介して結合している場合は他の原子団及びアニオン性基)とは、共有結合により結合している。本発明においては、顔料粒子の表面に結合している官能基(アニオン性基が直接結合している場合はアニオン性基、アニオン性基が他の原子団を介して結合している場合は他の原子団及びアニオン性基)の重量平均分子量は1,000以下であることを要する。
【0051】
本発明で使用するインクには、後述するように、水溶性樹脂として(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体を含有させている。しかし、本発明においては、この水溶性樹脂の作用のみによって顔料を分散させることを期待しているのではない。すなわち、本発明でいう「自己分散」とは、樹脂などの高分子化合物や、界面活性能を有する化合物などが顔料粒子の表面に吸着し、これらのもつ分散作用のみによって顔料を分散させるものではないことを意味している。つまり、顔料粒子の表面に樹脂(分散剤)を吸着させることではじめて顔料の分散を達成している所謂樹脂分散顔料とは異なり、本発明において使用する自己分散顔料は、上記特定の樹脂を用いなくとも分散させることができるものである。
【0052】
顔料粒子の表面に、直接又は他の原子団を介して化学的に結合しているアニオン性基としては、例えば、−COOM、−SO3M、−PO3HM、−PO32(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。)などが挙げられる。また、前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基、アミド基、スルホニル基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基が挙げられる。また、これらの基を組み合わせた基などが挙げられる。Mで表されるアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、Kなどが挙げられる。アニオン性基が塩を形成している場合、インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は全てが解離した状態のいずれの形態であってもよい。
【0053】
本発明に用いる自己分散顔料としては、その他にも、表面酸化処理が施された自己分散顔料であっても用いることができる。このような自己分散顔料としては、次亜塩素酸ソーダによる酸化処理、水中オゾン処理、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化し、顔料粒子の表面を改質するなどの方法によって得られるものなどが挙げられる。本発明においては、本発明の効果が得られる範囲で、上記に加えて、他の分散方式の顔料(樹脂分散顔料、マイクロカプセル顔料、樹脂結合型自己分散顔料など)をさらに併用してもよい。
【0054】
本発明においては、自己分散顔料の表面電荷量が0.20mmol/g以上であることが好ましい。また、前記表面電荷量は5.0mmol/g以下、さらには2.0mmol/g以下、特には1.8mmol/g以下であることが好ましい。表面電荷量は、顔料粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合しているアニオン性基の量を表す指標であり、顔料1g当たりのアニオン性基の量を表すものである。本発明において、自己分散顔料の表面電荷量はコロイド滴定により求める。この方法は、従来のアニオン性基のカウンターイオンの定量によりアニオン性基量を求める方法よりも簡単であり、精度も高く、直接的にアニオン性基量を測定することができるというメリットがある。後述する実施例においては、流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置(AT−510;京都電子工業製)を用い、電位差を利用したコロイド滴定により、顔料分散液中の顔料の表面電荷量を測定した。この際、滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いた。なお、インクから適切な方法により抽出した顔料を用いて表面電荷量の測定を行うことも勿論可能である。
【0055】
表面電荷量が0.20mmol/g以上である自己分散顔料はその粒子表面に多くのアニオン性基を有し、これらのアニオン性基は、インク中で共存している水溶性樹脂の(メタ)アクリル酸に由来するユニットのカルボキシ基と互いに反発する。このため、インク中では自己分散顔料と水溶性樹脂は一定の距離を取って存在しており、顔料粒子の表面への水溶性樹脂の吸着などの相互作用は生じにくいと考えられる。したがって、記録ヘッドの吐出口面においてインクと反応液が混合された際に、上記特定のノニオン性界面活性剤による、顔料や樹脂の安定化がより効率よく図られ、記録ヘッドの吐出口面での固着をより高いレベルで抑制することができる。
【0056】
一方、表面電荷量が0.20mmol/g未満である自己分散顔料と、前記水溶性樹脂を共存させたインクとした場合、以下のことが起こると考えられる。表面電荷量が0.20mmol/g未満である自己分散顔料は、その粒子表面のイオン性基が少ないために、水溶性樹脂の一部は顔料粒子の表面に接近して存在する。また、前記自己分散顔料は、顔料粒子の表面の隙間、すなわちイオン性基が結合していない部位が多く、ここに水溶性樹脂を構成するユニットの1つであるスチレンなどの疎水性部が吸着しやすい。したがって、記録ヘッドの吐出口面においてインクと反応液が混合された際に、顔料は凝集しないものの、水溶性樹脂が不溶化する過程で、顔料粒子の表面に吸着しているごく一部の樹脂が、顔料粒子を巻き込んだ状態で凝集物を生成する。このような凝集物にノニオン性界面活性剤が配向しても、表面電荷量が高い場合と比較すると、安定化の効率がやや低くなるため、記録ヘッドの吐出口面での固着の抑制の程度がやや低下する場合がある。
【0057】
(水溶性樹脂)
本発明のセットを構成するインクには、水溶性樹脂として(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体を含有させる。本発明で規定する(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体である水溶性樹脂は、(メタ)アクリル酸構造に含まれるアニオン性基の作用によって水性媒体中に溶解している。先に述べた通り、この水溶性樹脂は、上記の自己分散顔料の分散剤として使用するものではない。なお、本発明において「樹脂が水溶性であること」とは、該樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に粒子径を測定しうる粒子を形成しないものであることを意味する。このような条件を満たす樹脂を、本発明においては水溶性樹脂として記載する。インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下、さらには0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性樹脂は、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下であることが好ましい。
【0058】
インクに含有させる水溶性樹脂は、親水性ユニットとして少なくとも(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有するものであることを要する。具体的には、以下に挙げるようなその他の親水性ユニットと、疎水性ユニットとを構成ユニットとして少なくとも有する共重合体であることが好ましい。なお、以下の記載における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0059】
重合により親水性ユニットとなる、親水性基を有する単量体としては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシ基を有する酸性単量体、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有する酸性単量体、これらの酸性単量体の無水物や塩などのアニオン性単量体が挙げられる。なお、アニオン性単量体の塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0060】
また、重合により疎水性ユニットとなる、疎水性基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体;エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、t−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族基を有する単量体が挙げられる。
【0061】
本発明においては、樹脂の不溶化物とノニオン性界面活性剤との相互作用をより効率よく生じさせ、記録ヘッドの吐出口面での固着をより高いレベルで抑制することができるため、ある程度疎水性が高いユニットを有する水溶性樹脂を用いることが好ましい。具体的には、本発明においては、カルボキシ基を有する単量体に由来する親水性ユニットと、芳香環を有する単量体や脂肪族基を有する単量体に由来する疎水性ユニットとを少なくとも有する共重合体を用いることが特に好ましい。
【0062】
本発明者らの検討によると、水溶性樹脂は、インク中での水溶性を持ちつつ、反応液と接触した際の樹脂の不溶化物の親水性が高すぎないことが好ましい。このため、水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であることが好ましい。この範囲内の酸価を示す水溶性樹脂は、インク中での水溶性を持ちつつ、反応液と接触した際には効率よく不溶化し、分散状態が不安定化した顔料との衝突により、より大きな凝集物が生成するため、より高いレベルの光学濃度を得ることができる。
【0063】
また、本発明のセットを構成するインク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、前記顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.25倍以上であることが好ましい。なお、この場合の水溶性樹脂及び顔料の含有量は、インク全質量を基準とした値である。質量比率が0.25倍以上であれば、反応液と接触することで不溶化する樹脂が十分な量となり、顔料を記録媒体の表面上に効率よく存在させることができるため、より高いレベルの光学濃度を得ることができる。また、インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.75倍以下であることが好ましい。
【0064】
(水性媒体)
本発明のセットを構成するインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。特に、本発明においては、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクとすることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、さらに1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0065】
(その他の成分)
本発明のセットを構成するインクには、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤をインクに含有させてもよい。
【0066】
特に、本発明のセットを構成するインクには、浸透剤として作用する界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としては、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコール系化合物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ベタイン系化合物などの両性界面活性剤、また、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などの界面活性剤が挙げられる。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、インク全質量を基準として、0.1質量%以上2.0質量%以下、さらには、0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0067】
本発明のセットを構成するインクの表面張力は、25mN/m以上38mN/m以下であることが好ましく、34mN/m以下であることがより好ましい。表面張力が38mN/mを超えると、記録媒体へのインクの浸透や拡散が遅くなり、インクの乾燥時間が長くなる場合がある。一方、表面張力が25mN/m未満であると、記録媒体にインクが過度に浸透しやすくなる傾向があり、その裏面にまでインクが到達し、裏抜けが生じやすくなる場合がある。インクの表面張力の調整は、水溶性有機溶剤や界面活性剤の種類や含有量を適宜決定することにより行うことができる。なお、インクの表面張力は、白金プレート法により測定した25℃における静的表面張力である。また、インクのpHは、6.0以上9.5以下であることが好ましい。pHが6.0未満であると、顔料の分散安定性が低くなる傾向があり、インクの保存安定性などが十分に得られない場合がある。一方、pHが9.5を超えると、インクジェット記録装置を構成する部材に対するインクの接液性が低下する問題が生じやすい場合がある。
【0068】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法では、インクジェット方式の記録ヘッドからインク及び反応液をそれぞれ吐出させて記録媒体に付与する工程を有し、記録媒体においてインク及び反応液を互いに接触させて画像を形成する。そして、この際に、上記で説明したインクと反応液とで構成される本発明のセットを用いることを特徴とする。本発明の画像形成方法を行うための装置の構成としてはインクジェット記録装置が挙げられ、公知のいずれの構成も採用することができる。インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドには、力学的エネルギーや熱エネルギーの作用により液体を吐出させる方式があるが、本発明においては特に熱エネルギーの作用により液体を吐出させる方式の記録ヘッドを用いることが好ましい。
【0069】
また、インク及び反応液を記録媒体に付与する順序としては、反応液を付与した後にインクを付与する場合や、インクを付与した後に反応液を付与する場合、また、これらを組み合わせる場合が挙げられる。本発明の目的を鑑みれば、反応液を先に付与した後にインクを付与する場合を少なくとも含むことが好ましい。また、インクジェット方式の記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インク及び反応液の特性について、粘度が1mPa・s以上15mPa・s以下、さらには1mPa・s以上5mPa・s以下であることが好ましい。また、反応液は記録媒体において、意図したインクと効率的に反応させることが好ましい。そのため、所望のインクによる記録領域とは別の箇所に反応液が滲まないように、反応液の表面張力を、記録ヘッドから吐出可能な範囲内で、かつ、反応液によって不安定化させる対象となるインクのそれよりも大きくすることが好ましい。
【0070】
記録媒体への反応液の付与量は、反応液の緩衝能や、それと反応させるインクの構成によって適宜に調整すればよい。本発明においては、得られる画像の均一性などの観点から、反応液の付与量を0.5g/m2以上10.0g/m2以下、さらには、2.0g/m2を超えて5.0g/m2以下とすることが好ましい。なお、記録媒体の大きさ(面積:m2)に対して、反応液を付与する領域が、ある一部分のみである場合は、記録媒体の全面に付与したと仮定して、反応液の付与量の値(g/m2)を求め、この値が上記の範囲を満足することが好ましい。
【実施例】
【0071】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、各種の物性は、25℃において測定した値である。pHの測定には、pHメータ(F−21;堀場製作所製)を用いた。
【0072】
<顔料分散液の準備>
(自己分散顔料の表面電荷量)
先ず、自己分散顔料の表面電荷量を測定する方法を説明する。顔料分散液中の自己分散顔料の表面電荷量は、流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業製)を用い、滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いた電位差滴定により測定した。
【0073】
(顔料分散液1)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.5gの4−アミノフタル酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに、5℃の水9gに1.8gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/gで、DBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、顔料粒子の表面に−C63−(COONa)2基が結合している自己分散顔料1を得た。得られた自己分散顔料1に水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液1を調製した。自己分散顔料1の表面電荷量は0.41mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は209であった。
【0074】
(顔料分散液2)
比表面積が220m2/gで、DBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック500g、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン(APSES)45g、蒸留水900gを反応器に仕込んだ。そして、55℃、回転数300rpmで20分間撹拌し、混合物を得た。この混合物に25%の亜硝酸ナトリウム40gを15分間かけて滴下し、さらに蒸留水50gを加えた。そして、60℃で2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分の含有量が15.0%となるように調整した。この後、遠心分離により不純物を除去し、分散液Aを得た。この分散液A中にはAPSESが結合した顔料が含まれていた。
【0075】
次に、この分散液A中の顔料に結合した基のモル数を求めるために、以下の操作を行った。ナトリウムイオン電極(1512A−10C;堀場製作所製)を用いて、分散液中のナトリウムイオン濃度を測定し、顔料の固形分あたりのモル数に換算した。次に、室温で、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に、固形分の含有量が15.0%である分散液Aを強力に撹拌しながら1時間かけて滴下した。このときのPEHA溶液中のPEHA濃度は、上記で測定したナトリウムイオンのモル数の2〜3倍量とし、溶液量は分散液Aと同量とした。この混合物を48時間撹拌した後、不純物を除去し、分散液Bを得た。この分散液B中には、粒子表面にAPSESを介してPEHAが結合した顔料が含まれ、固形分の含有量が10.0%であった。
【0076】
水溶性樹脂であるスチレン−n−ブチルアクリレート−アクリル酸共重合体(組成(モル)比33:44:23)を、中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いて水に溶解させ、水溶性樹脂の含有量が10.0%である水溶液C1を得た。この水溶性樹脂の重量平均分子量は600であり、酸価は120mgKOH/gである。200gの水溶液C1にさらに1,300gの蒸留水を加え、撹拌して、樹脂水溶液を得た。この樹脂水溶液に、上記で得られた固形分の含有量が10.0%である分散液Bの500gを撹拌しながら滴下した。そして、上記の混合物をパイレックス(登録商標)蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱し、液体成分を蒸発させ、その後乾燥物を室温に冷却した。次に、水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した蒸留水中に、この乾燥物を添加し、分散機を用いて分散させた。さらに撹拌下で1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液体のpHを10〜11に調整した。この後、脱塩、不純物と粗大粒子を除去し、さらに、遠心分離処理を行って顔料に結合していない樹脂を除去し、顔料分の含有量が10.0%、樹脂分の含有量が2.0%である顔料分散液2を調製した。顔料分散液2中の自己分散顔料2の表面電荷量は0.36mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は951であった。なお、顔料分散液2中の顔料分及び樹脂分の含有量は、顔料分散液2を乾固させたものを測定用試料として、熱重量分析により重量減少率を測定して求めた値である。
【0077】
(顔料分散液3)
C.I.ピグメントレッド122の粒子表面に、ホスホン酸基を含む官能基が結合している自己分散顔料を含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet465M;キャボット製)を顔料分散液3として用いた。顔料分散液3中の自己分散顔料3の含有量は15.0%であり、自己分散顔料3の表面電荷量は0.22mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は469であった。
【0078】
(顔料分散液4)
C.I.ピグメントブルー15:4の粒子表面に、スルホン酸基を含む官能基が結合している自己分散顔料を含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet250C;キャボット製)を顔料分散液4として用いた。顔料分散液4中の自己分散顔料4の含有量は10.0%であり、自己分散顔料4の表面電荷量は0.21mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は179であった。
【0079】
(顔料分散液5)
C.I.ピグメントブルー15:4の粒子表面、ホスホン酸基を含む官能基が結合している自己分散顔料を含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet450C;キャボット製)を顔料分散液5として用いた。顔料分散液5中の自己分散顔料5の含有量は15.0%であり、自己分散顔料5の表面電荷量は0.17mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は469であった。
【0080】
(顔料分散液6)
5.5gの水に2.5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で0.8gのp−アミノ安息香酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに0.9gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック9gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、顔料粒子の表面に−C64−COONa基が結合している自己分散顔料6を得た。得られた自己分散顔料6に水を加えて、顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液6を調製した。自己分散顔料6の表面電荷量は0.16mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は143であった。
【0081】
(顔料分散液7)
C.I.ピグメントレッド122の粒子表面に、スルホン酸基を含む官能基が結合している自己分散顔料を含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet260M;キャボット製)を顔料分散液7として用いた。顔料分散液7中の自己分散顔料7の含有量は10.0%であり、自己分散顔料7の表面電荷量は0.15mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は179であった。
【0082】
(顔料分散液8)
C.I.ピグメントイエロー74の粒子表面に、スルホン酸基を含む官能基が結合している自己分散顔料を含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet270Y;キャボット製)を顔料分散液8として用いた。顔料分散液8中の自己分散顔料8の含有量は10.0%であり、自己分散顔料8の表面電荷量は0.13mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は179であった。
【0083】
(顔料分散液9)
C.I.ピグメントイエロー74の粒子表面に、ホスホン酸基を含む官能基が結合している自己分散顔料を含有する、市販の顔料分散液(Cab−O−Jet470Y;キャボット製)を顔料分散液9として用いた。顔料分散液9中の自己分散顔料9の含有量は15.0%であり、自己分散顔料9の表面電荷量は0.12mmol/gであり、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は469であった。
【0084】
(顔料分散液10)
水溶性樹脂であるスチレン−n−ブチルアクリレート−アクリル酸共重合体(組成(モル)比33:44:23)2.0部を、中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いてイオン交換水に溶解させた。この水溶性樹脂の重量平均分子量は5,000であり、酸価は120mgKOH/gである。ここに、比表面積が220m2/gで、DBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラックを10.0部加え、さらにイオン交換水を加えて調整して合計を100.0部とした。この混合物を、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散させ、分散液を得た。得られた分散液を遠心分離することで粗大粒子を除去した。その後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、イオン交換水を加えて、顔料分散液10を調製した。顔料分散液10中の顔料の含有量は10.0%、樹脂の含有量は2.0%であった。
【0085】
(顔料分散液11)
水溶性樹脂であるスチレン−n−ブチルアクリレート−アクリル酸共重合体(組成(モル)比33:44:23)2.0部を、中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いて水に溶解させ、水溶性樹脂の含有量が10.0%である水溶液C2を得た。この水溶性樹脂の重量平均分子量は1,000であり、酸価は120mgKOH/gである。水溶液C1を水溶液C2に変更した以外は顔料分散液2と同様の手順により、顔料分の含有量が10.0%、樹脂分の含有量が2.0%である顔料分散液11を調製した。顔料分散液11中の自己分散顔料11の表面電荷量は0.36mmol/gであった。また、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量は1,351であった。
【0086】
<水溶性樹脂の調製>
(水溶性樹脂1)
常法により、重量平均分子量が5,000、酸価が120mgKOH/gであるスチレン−n−ブチルアクリレート−アクリル酸共重合体(組成(モル)比33:44:23)を合成した。次に、前記共重合体の酸価と当量の水酸化カリウムで中和した。そして、水を加えて、水溶性樹脂1の含有量が10.0%である樹脂水溶液1を調製した。
【0087】
(水溶性樹脂2)
重量平均分子量が4,600、酸価が108mgKOH/gである市販のスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル586;BASF製)を、前記共重合体の酸価と当量の水酸化カリウムで中和した。そして、水を加えて、水溶性樹脂2の含有量が10.0%である樹脂水溶液2を調製した。
【0088】
(水溶性樹脂3)
常法により、重量平均分子量が5,000、酸価が95mgKOH/gであるスチレン−アクリル酸共重合体(組成(モル)比75:15)を合成した。次に、前記共重合体の酸価と当量の水酸化カリウムで中和した。そして、水を加えて、水溶性樹脂3の含有量が10.0%である樹脂水溶液3を調製した。
【0089】
(水溶性樹脂4)
重量平均分子量が8,000、酸価が160mgKOH/gである市販のスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル683;BASF製)を、前記共重合体の酸価と当量の水酸化カリウムで中和した。そして、水を加えて、水溶性樹脂4の含有量が10.0%である樹脂水溶液4を調製した。
【0090】
(水溶性樹脂5)
重量平均分子量が8,500、酸価が215mgKOH/gである市販のスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル678;BASF製)を、前記共重合体の酸価と当量の水酸化カリウムで中和した。そして、水を加えて、水溶性樹脂5の含有量が10.0%である樹脂水溶液5を調製した。
【0091】
(水溶性樹脂6)
常法により、重量平均分子量が8,000、酸価が140mgKOH/gであるスチレン−アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸共重合体(組成(モル)比48:52)を合成した。次に、前記共重合体の酸価と当量の水酸化カリウムで中和した。そして、水を加えて、水溶性樹脂6の含有量が10.0%である樹脂水溶液6を調製した。
【0092】
<界面活性剤の構造及び物性>
表1に、ノニオン性界面活性剤である、各界面活性剤の構造、HLB値、並びに、かかる界面活性剤が本発明の規定するところに該当する場合は、高級アルコールの一般式、炭素数及びポリオキシエチレン鎖のモル数も併せて示した。なお、HLB値は、上述の式(1)に基づいて算出したグリフィン法による値である。表1中、NIKKOL BC−20、BO−20、BB−20、BL−21、BT−12、BC−10(商品名)は日光ケミカルズ製の界面活性剤である。また、EMALEX 1825、1615、512、CS−30(商品名)は日本エマルジョン製の界面活性剤である。また、アセチレノール E100(商品名)は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。
【0093】

【0094】
<インクの調製>
表2の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、アセチレノールE100(商品名)は川研ファインケミカル製の界面活性剤であり、ポリエチレングリコールは平均分子量600のものを使用した。表2の下段には、各インク中の顔料の含有量[倍]及び水溶性樹脂の含有量[%]、水溶性樹脂の含有量/顔料の含有量の質量比率[倍]の値、水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量[μmol/g]の値を示した。
【0095】
なお、インク中の水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量(μmol/g)の値は、インク中の水溶性樹脂の含有量及びその酸価から算出することができる。酸価は1gの樹脂を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(単位:ミリグラム)であるので、酸価×10-3/水酸化カリウムの分子量(56.1)の値が樹脂1g中に存在するカルボキシ基の量(単位:mol)となる。したがって、樹脂1g中に存在するカルボキシ基の量(mol)×インク1g当たりの樹脂量(g/インク1g)×1,000,000、の式によりインク中の水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量(μmol/g)を算出することができる。インク1を例に挙げて計算すると、インク1中には酸価120mgKOH/gの水溶性樹脂1.5%が含まれている。したがって、インク中の水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量は、(120×10-3/56.1)×(1.5/100)×1,000,000=32.1(μmol/g)となる。なお、水溶性樹脂を含むインクから該インク中の水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量を求めるためには、酸析などの方法により析出させた水溶性樹脂について、滴定などを行ってその酸価を求めれば、その後は上記と同様に算出することができる。
【0096】

【0097】

【0098】
<反応液の調製>
表3の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、さらに表3の下段に示すpHとなる量(単位:g)の8mol/L(33.8%)の水酸化カリウム水溶液を添加して、十分撹拌した。その後、ポアサイズ0.45μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、各反応液を調製した。なお、アセチレノールE100(商品名)は川研ファインケミカル製の界面活性剤であり、ポリエチレングリコールは平均分子量600のものを使用した。反応液のpHは、pHメータ(商品名:F−21;堀場製作所製)を用い、25℃で測定した。表3の下段には、反応液中の界面活性剤の含有量[%]、有機酸の酸型の酸性基の量[μmol/g]の値を示した。
【0099】
なお、反応液中の有機酸の酸型の酸性基の量(μmol/g)の値は、反応液中の有機酸の含有量及び反応液のpH調整に使用した塩基(金属水酸化物など)の量から算出することができる。反応液中では、有機酸の酸性基は解離型及び酸型のいずれかの形態となっており、有機酸の種類や含有量から解離型及び酸型の酸性基の総量を求めることができる。有機酸の解離型の酸性基の量は、pH調整のために添加する塩基のカチオン量と等しいと見積もることができるので、酸型の酸性基の量は、有機酸の酸性基の総量から解離型の酸性基の量(すなわち、塩基のカチオン量)を引いた値となる。反応液1を例に挙げて計算すると、反応液1中にはグルタル酸(ジカルボン酸、分子量132.12)が5.0%含まれている。したがって、反応液100g当たりの酸性基の総量は、5.0×2/132.12×1,000=75.7mmol/100gとなる。一方、pH調整のために、33.8%の水酸化カリウム(分子量56.1)水溶液4.35gを使用しているので、反応液100g当たりのカチオン(カリウム)量は、4.35×33.8/100/56.1×1,000=26.2mmol/100gとなる。このカリウム量が、有機酸の解離型の酸性基の量と等しいと見積もることができる。反応液中の有機酸の酸性基の量は酸性基の総量−カリウム量となるので、75.7mmol/100g−26.2mmol/100g=49.5mmol/100g=495μmol/gとなる。なお、有機酸や金属水酸化物を含む反応液から該反応液中の有機酸の酸型の酸性基の量を求めるためには、以下の手順で行うことができる。すなわち、高速液体クロマトグラフィーなどの方法により有機酸の種類と含有量、また、ICP発光分光分析などの方法により金属イオン量を求めれば、その後は上記と同様に算出することができる。
【0100】

【0101】

【0102】
<評価>
上記で得られたインク及び反応液を用い、表4の左側に示す組み合わせで反応液とインクとのセットとした。実施例1〜30及び比較例1〜4、6〜10の各セットは、pH7.0未満のpH領域において、反応液のpHと、インクと反応液とを等量ずつ混合した混合物のpHとの差が0.1以内であり、反応液は酸性領域に緩衝能を有するものであった。表4中に、反応液中の界面活性剤の含有量の、インク中の顔料及び水溶性樹脂(全質量)の合計含有量に対する質量比率[倍]の値、有機酸の酸型の酸性基の量の、水溶性樹脂の酸性基の量に対するモル比率[倍]の値を示した。
【0103】
これらのセットを用いて、以下の条件で評価を行った。画像の形成には、熱エネルギーの作用により液体を吐出させる記録ヘッドを搭載するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)を改造したものを用いた。セットを構成するインク及び反応液をそれぞれカートリッジに充填し、反応液のカートリッジをフォトマゼンタのポジションに、また、インクのカートリッジは2つ分用意し、シアン及びレッドのポジションにそれぞれセットした。記録条件は、記録ヘッドの吐出口の配置幅分の画像を、記録ヘッドのホームポジションから開始する走査でのみ記録を行う、1パス片方向記録とし、同一のパスで反応液を記録媒体に付与し、その後にインクを重なるように付与した。本実施例においては、1/600inch×1/600inchを1ピクセルと定義し、1ピクセルを格子状に4分割して、以下のように反応液及びインクを付与した。反応液は4分割された格子に千鳥状に2滴を、また、インクは、レッドのポジションに対応する吐出口から4分割された格子のそれぞれに4滴、シアンのポジションに対応する吐出口から4分割された格子に千鳥状に2滴、の合計6滴を付与するようにした。本発明においては、以下の各評価項目の評価基準において、AA、A、及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。評価結果を表4の右側に示す。
【0104】
(光学濃度の評価)
表4に示すセットを用いて、記録媒体(PB PAPER GF−500;キヤノン製)に1cm×2cmのベタ画像を形成した。1時間後に分光光度計(Macbeth RD918;Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件でベタ画像の光学濃度を測定し、光学濃度の評価を行った。光学濃度の評価基準は以下の通りである。
【0105】
ブラック、シアン、イエローのベタ画像の場合の評価基準
A:光学濃度が1.4以上であった。
B:光学濃度が1.2以上1.4未満であった。
C:光学濃度が1.2未満であった。
【0106】
マゼンタのベタ画像の場合の評価基準
A:光学濃度が1.2以上であった。
B:光学濃度が1.1以上1.2未満であった。
C:光学濃度が1.1未満であった。
【0107】
(固着抑制の評価)
表4に示すセットを用いて、A4サイズの記録媒体の全面にベタ画像を形成するパターンを連続で500枚分記録した。その後、同じセットを用いて、6ポイントのゴシック体の文字を記録した。この文字を目視で確認することで、記録ヘッドの吐出口面に生じた固着物による吐出性の低下の有無を判断し、固着抑制の評価を行った。固着抑制の評価基準は以下の通りである。
AA:文字に乱れが認められず、固着が抑制されていた。
A:文字に僅かな乱れが認められるものの、固着は軽微であった。
B:文字の一部に乱れが認められるものの、固着は軽微であり、許容できるレベルであった。
C:文字に多くの乱れが認められ、固着が抑制されていなかった。
【0108】

【0109】
実施例10のセットを構成する反応液7はpHが低いため、記録装置を構成する部材の一部に腐食が生じていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及び水溶性樹脂を含有してなるインクと、色材を含有せず、界面活性剤を含有してなり、かつ、酸性領域に緩衝能を有する反応液との組み合わせを有するインクジェット用のインクと反応液とのセットであって、
前記インク中の前記顔料が、粒子表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合している自己分散顔料であり、かつ、顔料粒子の表面に結合している官能基の重量平均分子量が1,000以下であり、
前記水溶性樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来するユニットを有する共重合体であり、
前記反応液中の前記界面活性剤が、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であり、
前記反応液中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、前記インク中の前記顔料及び前記水溶性樹脂の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.20倍以上であることを特徴とするインクと反応液とのセット。
【請求項2】
前記インク中の、前記水溶性樹脂の含有量(質量%)が、前記自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.25倍以上である請求項1に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項3】
前記反応液が、緩衝剤としてカルボキシ基を有する有機酸を含有してなり、かつ、前記反応液のpHが3.5以上5.5以下である請求項1又は2に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項4】
前記反応液中の前記カルボキシ基を有する有機酸が、2つのカルボキシ基を有する請求項3に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項5】
前記反応液中の前記カルボキシ基を有する有機酸が酸型の酸性基を有し、かつ、前記酸型の酸性基の量(μmol/g)が、前記インク中の前記水溶性樹脂が有するカルボキシ基の量(μmol/g)に対するモル比率で、8.0倍以上である請求項3又は4に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項6】
前記インク中の前記水溶性樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項7】
前記インク中の前記自己分散顔料の表面電荷量が、0.20mmol/g以上である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項8】
前記反応液中の前記高級アルコールの炭素数が16以上である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項9】
インクジェット方式の記録ヘッドからインク及び反応液をそれぞれ吐出させて、記録媒体において、前記インク及び前記反応液を互いに接触させて画像を形成する画像形成方法であって、
前記インク及び前記反応液に、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクと反応液とのセットを用いることを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2012−233162(P2012−233162A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−76528(P2012−76528)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】