説明

インクジェットインク用ポリマーエマルジョン

【課題】インクジェットインク用ポリマーエマルジョンを提供する。
【解決手段】本発明は、インクジェットインク中に使用すると好適なポリマーエマルジョンバインダーに関する。特に、本発明は、低レベルの水溶性物質を含むポリマーバインダーエマルジョンで構成されるインクジェットインク、および低レベルの水溶性物質を有するポリマーバインダーエマルジョンを含むインクジェットインクに関する。また、前記インクジェットインクの調製方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクに使用するのに好適なポリマーエマルジョンバインダーに関する。特に、本発明は、低レベルの水溶性物質を含むポリマーバインダーエマルジョンで構成されるインクジェットインク、および低レベルの水溶性物質を有するポリマーバインダーエマルジョンを含むインクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
ある種のインクジェットインクは、液体媒体、顔料または染料などの着色剤、顔料の媒体中への分散を促進し、印刷表面に着色剤を固定するためのバインダーまたは樹脂、を含む。より耐久性の高い印刷品質、特に印刷用インクの耐変色性、ならびに耐水性および耐摩擦性を得るために、印刷画像の耐水性および耐摩擦性を改善するポリマーバインダーを含有するインクジェットインクの調製に関心が持たれている。染料系着色剤は一般に、紙または他の印刷媒体によってある程度吸収されるが、本来水溶性であるために、十分な耐水性が得られない。顔料系インクは一般に印刷媒体の表面上に堆積し、そのため水または摩耗によって除去されやすい。その結果、両方の種類のインクジェットインクが、多くの用途で湿潤時耐摩耗性および蛍光ペン抵抗性が不十分となる傾向にある。耐久性の改善、印刷品質の改善、ならびに色のブリーディングおよびフェザリングの軽減のために、インクジェットインク組成物にポリマーバインダーが添加されている。しかし、このようなバインダーを含有することで、しばしば、ノズルの目詰まり、およびコゲーション、すなわちヒーターの上または周囲でのフィルムの形成などのプリントヘッドのメンテナンスの問題が増加する結果となる場合がある。また、ポリマーはインクジェットインクのレオロジーに影響を与える場合があり、また、ノズルプレート上にフィルムを形成することで、印刷操作の速度および精度が限定される場合もある。ポリマーをインクジェットインク組成物に添加することによって、顔料エマルジョンの安定性が低下する場合もあり、サーマルプリントヘッドの場合には、気泡形成に妨害される場合もある。良好な印刷操作性を実現しようとする試みは、より速い印刷速度を実現することがプリンタに求められるにつれて、より困難性を増している。
【0003】
印刷外観は、印刷の均一性(ページ内およびページ間との両方)、線の鮮明さ、フェザリング、およびノズルの欠落または方向違いによる外観についての全体的な評価である。本明細書において使用される場合、用語「印刷寿命」は、印刷外観および均一性、印刷品質および均一性の何ページにもわたる持続性、ノズルの脱落、プリントヘッドのメンテナンスの問題、印刷の停止および再始動の能力などのプリンタ性能の累積的な評価を意味する。
【0004】
欧州特許出願公開第0869160号には、着色剤、ビヒクル、および樹脂エマルジョン(着色剤と樹脂粒子とを解離させるために樹脂エマルジョン粒子中にイオン性カルボン酸基を含有する樹脂エマルジョン)とを有するインクジェットインク処方物が開示されている。この樹脂は1〜40重量%の「カルボン酸基」を有し、0〜120℃のTgを有する。例示されているこの樹脂の実施態様としては、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、および(メタ)アクリル酸のコポリマーが挙げられ、これは3〜20重量%の酸、53〜95℃のTg、および63〜235nmの粒子サイズを有し、高Tgおよび小さい粒子サイズが使用される。
【0005】
米国特許第6,541,590号には、重合性界面活性剤(0.05〜5重量%)とエチレン性不飽和カルボン酸(4〜5重量%)との組み合わせを主成分とするインクジェットバインダーが開示されている。例示されているこの樹脂の実施態様としては、(メタ)アクリレートモノマーとカルボン酸モノマーとのコポリマーが挙げられ、これは−40℃〜120℃のTg、および10,000〜2,000,000ダルトンの範囲の分子量が結果として得られる。このエマルジョンラテックス粒子は100〜400nmの平均粒子サイズを有する。
【0006】
米国特許第6,432,192号には、精製技術、たとえば限外濾過を適用して、金属イオンおよびその他の望ましくない反応副生成物を顔料合成工程から除去することが開示されている。金属イオンは、イジェクション安定性(特にサーマルインクジェットプリントヘッドを使用するジェッティング中)について特に有害であり、さらに、特にインクジェットインク処方物の一部として使用する場合に、陰イオン性バインダーを不安定化する場合もある。
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0869160号明細書
【特許文献2】米国特許第6,541,590号明細書
【特許文献3】米国特許第6,432,192号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0882770号明細書
【特許文献5】国際公開第0250197号パンフレット
【特許文献6】米国特許第6,455,611号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一目的は、ポリマーエマルジョンバインダー、着色剤、および液体担体を含み、改善された印刷寿命および印刷外観特性を示す、インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、着色剤、液体媒体、およびポリマーバインダーエマルジョンを含むインクジェットインクであって、上記ポリマーが重合単位として1以上の親水性モノマーを含み、上記ポリマーバインダーエマルジョンが、25重量%以下の、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を有する、インクジェットインクを提供する。本発明はさらに、(a)ポリマーを有するポリマーバインダーエマルジョンを調製する工程であって、上記ポリマーが重合単位として1以上の親水性モノマーを含む工程、(b)上記ポリマーバインダーエマルジョンに対して精密濾過技術を実施して、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を減少させる工程、および(c)上記精密濾過されたポリマーバインダーエマルジョンを着色剤および液体媒体と組み合わせることによって、インクジェットインクを処方する工程、を含む、インクジェットインクを調製する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェットインクは、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分をより多く含有するポリマーエマルジョンバインダーを含む類似のインクジェットインクに対して改善が示される。特に、本発明のインク中に使用されるポリマーエマルジョンバインダー中の、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を減少させることによって、光学濃度を改善することができ、一定のポリマーエマルジョンバインダー含有インクジェットインクに発生している印刷寿命の問題を克服することができることが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ポリマーエマルジョンを調製する場合、イオン的な帯電が可能である、または可能でない親水性モノマーを含有して、エマルジョン安定性、ならびに最終処方製品(たとえばインク、コーティング、接着剤)の安定性を改善することが望ましい。親水性モノマーを含むポリマーエマルジョン合成生成物は、水またはセラム相に対して可溶性である物質を含有する。典型的にはこのセラム相物質は、未反応親水性モノマー、および親水性モノマーから少なくとも一部が誘導された反応生成物(たとえば、ダイマー、オリゴマー、およびポリマー)で構成される。これらの単位が、ポリマーエマルジョン中のセラム相物質を構成し、これらを一括して「親水性モノマーから誘導される単位」と記載する。
【0012】
このようなセラム相物質が存在すると、インクのレオロジー、コゲーション、およびノズル目詰まりに対して悪影響が生じて、不良な印刷寿命、不良な印刷外観、そしてその結果不良な画質の原因となりうることが分かった。本発明の目的に関して、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分は、重合中に装填した親水性モノマーの全量に対するセラム相中の親水性モノマーから誘導される単位の比として定義され、パーセント値で表現することができる。
【0013】
本発明は、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分が少ないポリマーバインダーエマルジョンを調製することによって、上記バインダーをインクジェットインク用途において使用する場合に、観察される多くの悪影響を軽減または解消することができることを示す。
【0014】
酸含有エマルジョンポリマー中の親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分は、エマルジョンの連続相中の酸のレベルを監視することによって求めることができる。親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分は、酸官能性モノマー以外のモノマーを含むこともでき、たとえば、アミド官能性モノマー、アミン官能性モノマー、ヒドロキシル官能性モノマー、アセテート官能性モノマー、リン官能性モノマー、硫黄官能性モノマー、無水物官能性モノマー、およびポリ(エチレングリコール)含有モノマー、たとえばポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートなどを含むこともできる。親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分がその性質上酸官能性でない場合は、そういった親水性モノマーを含む親水性モノマーおよび水溶性物質を定量的に測定することができる任意の分析技術を使用して、エマルジョン中の親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分のレベルを決定することができる。このような技術としては、これらに限定されるものではないが、核磁気共鳴分光法、または熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析が挙げられる。親水性モノマーが窒素含有モノマーである場合、ケルダール窒素測定などの任意の窒素定量測定方法を使用することができる。
【0015】
本発明によると、着色剤、ポリマーバインダーエマルジョン、および液体媒体を含み、ポリマーバインダーエマルジョンが、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を25重量%未満、または15重量%未満含有する、インクジェットインク組成物が提供される。
【0016】
ポリマーエマルジョン中の親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分の減少は、水溶性物質を除去することが可能な、当業者に知られている任意の精密濾過技術、たとえば、限外濾過、ダイアフィルトレーション、透析、イオン交換、または逆浸透を使用することによって行うことができる。親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分の減少は、親水性モノマーの反応性を改善して、ポリマー粒子中により高い比率を組み込むようにすることによって、または重合後に水溶性物質の少なくとも一部を除去することによっても実現することができる。
【0017】
エマルジョンポリマーを安定化させるために使用することができる親水性モノマーに加えて、コモノマーとして使用することができる他の好適なエチレン性不飽和モノマーとしては、限定するものではないが、置換、たとえばヒドロキシ置換またはアセトアセトキシ置換、および未置換の(C〜C50、好ましくはC〜C22、最も好ましくはC〜C18)アルキル(メタ)アクリレート、スチレンおよび置換スチレン、ビニルアクリレート、酢酸ビニル、フルオロメタクリレート、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミド、ならびにそれらの組み合わせから選択される1以上のモノマーが挙げられる。アクリル酸およびメタクリル酸のエステルの中で、好ましいモノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソブチレンメタクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびアセトアセトキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。最も好ましくは、モノマーは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソブチレンメタクリレート、スチレン、アクリルアミド、ビニルアクリレート、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルアクリレート、およびヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選択される。本発明に使用すると好適な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、多エチレン性不飽和モノマー、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジエチレングリコールジビニルエーテル、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジビニルメチルフェニルシラン、ジメチルビニルジシロキサン、およびそれらの混合物を挙げることもできる。
【0018】
好ましい親水性モノマーは、1以上のエチレン性不飽和カルボン酸官能性モノマーを含み、好ましくは装填される全モノマーの1〜25重量%、より好ましくは1〜15重量%含む。本発明に使用すると好適な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、当技術分野で知られている安定化モノマー、たとえば、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート、または米国特許第6,541,590号に記載されているような当技術分野で知られている重合性界面活性剤モノマー、あるいはそれらの混合物が挙げられる。
【0019】
本発明のインクジェットインクがポリウレタンエマルジョンを含有する場合、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分は典型的には、イソシアネート官能性物質とヒドロキシル官能性物質の水溶性反応生成物、および水と部分的に反応したイソシアネート官能性反応物質との間の加水分解反応生成物の組み合わせで構成される。
【0020】
本発明のインクジェットインク中に使用されるポリマーエマルジョンバインダーは、前述の性質を実質的に変化させない追加の成分をさらに含むことができ、これらとしてはたとえば、限定するものではないが、加工助剤、たとえば界面活性剤(乳化剤)、保護コロイド、ならびに当業者に知られている他の安定剤、たとえばポリマー分散剤、たとえば、限定するものではないが、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、およびグラフトコポリマー、ならびに塩基性成分および殺生物性成分が挙げられる。好適な界面活性剤としては、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、およびペルフルオロアルキルスルホン酸アンモニウム、Triton(商標)X−100、Triton X−405、およびポリオキシエチレン化ポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。
【0021】
好ましくは、本発明のバインダーは、少なくとも−40℃、または−35〜約120℃の範囲、または−35〜20℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する付加ポリマーを含む。Tgは、フォックス(Fox)の式によって決定することができる。ポリマーバインダーエマルジョンは、インクジェットプリントヘッドを介してジェッティング可能となるのに十分小さな平均径を有するポリマー粒子を含み、典型的には600nm未満、または400nm未満である。バインダーポリマーの粒子サイズ分布は、単一モード、二重モード、または多重モードであってよい。
【0022】
本発明において有用なポリマーエマルジョンバインダーの分子量は、約5,000〜約2,000,000ダルトンの範囲、または50,000〜1,000,000ダルトンの範囲とすることができる。本明細書において使用される分子量は、重量平均分子量として定義され、溶媒としてのTHF中のゲル浸透クロマトグラフィーによって決定することができる。
【0023】
バインダーをインク組成物中に組み込むことができ、好ましくは、たとえば顔料、バインダー、および水性媒体を含むインクジェットインク組成物中に組み込むことができる。インクジェットインクプリンタおよびプリントヘッドに依存するが、バインダーは、インク組成物の全重量に対して0.1〜15重量%、または0.5〜8重量%、または1〜5重量%の量で存在する。水性担体は、水、好ましくは、脱イオン水であってよい。一実施態様においては、水性担体は、インク組成物の約40重量%〜約95%、または約55重量%〜約80重量%、または約70重量%〜約80重量%で存在する。本発明のバインダーを使用するインク組成物に好適な混合物の選択は、処方される特定のインクの必要条件、たとえば所望の表面張力および粘度、使用される顔料、顔料インクに必要な乾燥時間、およびインクが印刷される基体の種類に依存する。
【0024】
本発明のインクジェットインクは、水混和性物質、たとえば湿潤剤、分散剤、浸透剤、キレート剤、共溶媒、消泡剤、緩衝剤、殺生物剤、殺真菌剤、粘度調整剤、殺菌剤、界面活性剤、カーリング防止剤、ブリード防止剤、および表面張力改質剤を含むことができ、これらすべては当技術分野において知られている。有用な湿潤剤としては、ヒドロキシ官能性化合物、たとえばエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、1.4シクロヘキサンジメタノール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、1,8オクタンジオール、1,2プロパンジオール、1,2ブタンジオール、1,3ブタンジオール、2,3ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、平均分子量が200、300、400、600、900、1000、1500、および2000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、平均分子量が425、725、1000、および2000のポリプロピレングリコール、ならびに、2−ピロリドン、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−ピペリドン、N−エチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−アセチルエタノールアミン、N−メチルアセトアミド、ホルムアミド、3−アミノ−1、2−プロパンジオール、2,2−チオジエタノール、3,3−チオジプロパノール、テトラメチレンスルホン、ブタジエンスルホン、エチレンカーボネート、ブチロールアセトン、テトラヒドロフルフリルアルコール、グリセロール、1,2,4−ブテントリオール、トリメチルプロパン、パントテノール、Liponic EG−1が挙げられる。好ましい湿潤剤は、平均分子量が400〜1000のポリエチレングリコール、2−ピロリドン2,2チオジエタノール、および1,5ペンタンジオールである。好ましい浸透剤としては、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、1,2ヘキサンジオール、ヘキシルカルビトールが挙げられる。
【0025】
本発明のインク組成物は、限定するものではないが、加工助剤、たとえば他の(随意の)界面活性剤、保護コロイド、および当業者に知られている他の安定剤などの追加の成分をさらに含むことができる。好適な界面活性剤としては、たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、およびペルフルオロアルキルスルホン酸アンモニウム、Triton X−100、Triton X−405、およびポリオキシエチレン化ポリオキシプロピレングリコール、ならびに欧州特許出願公開第0882770号に記載されるものなどのフルオロ官能性界面活性剤およびケイ素官能性界面活性剤が挙げられる。
【0026】
本発明の方法において有用な着色剤の例は、インクジェット印刷に一般に有用である顔料および染料の群から選択される。好適な有機顔料としては、カーボンブラック、アゾ化合物、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ、チオインジゴ顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、およびイソインドレンが挙げられる。好適な無機顔料としては、二酸化チタン、酸化鉄、およびその他の金属粉末が挙げられる。顔料の量は一般に、製造されるインクに望まれる性質によって決定される。本発明における使用に好適な顔料は、分散されたポリマー、自己分散したポリマー、またはそれらの混合物を含むことができる。本発明において使用されるインクの着色剤として好適な染料としては、水溶性染料、分散性染料、およびポリマーが分散した染料、たとえば国際公開第0250197号および米国特許第6,455,611号に記載されるもの、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0027】
一般に、使用される着色剤の量は、インクの全成分の全重量を基準にして、10重量%未満であり、典型的には3〜6重量%である。好ましくは着色剤が液体媒体に対して不溶性である。より好ましくは着色剤は顔料である。複数のインクを組み合わせて、シアン、イエロー、マゼンタ、およびブラックのセット、ならびにインクジェットインク印刷におけるセットとして使用される知られている色の任意の組み合わせを形成することができる。
【0028】
使用される湿潤剤の量は、インクの性質によって決定され、インクの全成分の全重量を基準にして1〜30重量%、好ましくは5〜15重量%の範囲とすることができる。インクの形成において有用な一般に使用される湿潤剤の例は、グリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、アルコール、糖、およびピロリドンである。当技術分野において知られている他の湿潤剤も使用することができる。
【0029】
好適な浸透剤の使用は、インクの具体的な用途に依存する。有用な例としては、ピロリドン、およびN−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0030】
消泡剤が使用される場合、そのインク中の量は、典型的には0.05〜0.5重量%の範囲であり、より典型的には0.1重量%である。必要量は、インクの顔料分散成分の製造に使用されるプロセスに依存する。顔料の水性分散液の形成に有用な消泡剤は、当技術分野において周知であり、市販例としては、Surfynol 104HおよびSurfynol DF−37(Air Products、Allentown,PA)が挙げられる。
【0031】
インクの残りの部分は一般に水である。水の量は、好ましくはインクの全成分の全重量を基準にして45〜90重量%、または55〜80重量%である。
【0032】
本発明のインク組成物は、そのような組成物を製造する当技術分野において知られている任意の方法によって調製することができ、たとえば、技術分野で認識されている任意の技術を使用して成分を互いに混合、撹拌、またはかき混ぜて水性インクを形成することによって調製することができる。本発明のインク組成物の製造手順は、インク組成物を均一にする程度を除けば重要ではない。
【0033】
本発明のインクの調製方法として限定することを意味するものではないが、調製方法の1つは以下の通りである:水性担体、湿潤剤、界面活性剤、および浸透剤を10分間、または均一になるまで混合する。顔料と分散剤とを5対1の比率で、水中の合計の固形分が合計20%となるまで粉砕することで顔料−分散剤混合物を調製する。顔料の撹拌を続けながら、水性担体/湿潤剤/界面活性剤/浸透剤溶液を顔料−分散剤にゆっくりと添加する。さらに10分間、または均一になるまで撹拌を続ける。撹拌しながら、担体、顔料分散液、湿潤剤、界面活性剤をポリマーバインダーにゆっくりと添加する。10分間、または均一になるまで撹拌を続ける。得られたインクのpHを7.5〜9.0に調整する(たとえば、十分な量の20%NHOHを添加することによって)。1マイクロメートルのフィルターで濾過する。
【0034】
本発明のインク組成物は、インク組成物の最終用途に要求される望ましい物理的性質を得るために必要な任意の添加剤を含むであろうと予測され、このような添加剤としては、キレート剤、緩衝剤、殺生物剤、殺真菌剤、酸化防止剤、レオロジー調整剤、増粘剤、殺菌剤、界面活性剤、カーリング防止剤、ブリード防止剤、および表面張力改質剤が挙げられ、これらはすべて前述している。
【0035】
これより、実施態様の一部に関して、以下の実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0036】
(酸モノマーから誘導される物質のセラム画分の測定手順)
(1. サンプル調製)
17.5gのラテックスを脱イオン水で35gまで希釈し、SL−50Tローターを取り付けたDuPont Sorvall Super T−21遠心分離機を使用して、18,500rpmで4℃において2時間遠心分離した。遠心分離後、透明な上澄みを注意深くデカンテーションした。17.5gの上澄み液を脱イオン水で30gまで希釈した。
【0037】
(2. 30gのサンプルの0.50NのHClによる滴定)
希釈した上澄み液のpHを、0.5NのKOHでpH=12.0に調整し、Radiometer TTT 80滴定装置(Radiometer America製)、RHM84リサーチpHメーター(Radiometer America製)、およびオートビュレットABU80滴定システム(Radiometer America製)を使用して、0.50NのHClで滴定を行った。酸滴定量(mmol)は、体積(滴定曲線の一次導関数の2つのピークの間のml)×(0.5N)×((35−(17.5×ラテックス固形分))/17.5に等しい。ラテックス中に装填した酸の総量(mmol)=17.5×(ラテックス固形分)×(ラテックス組成物中のMAA%)×1000/86。酸モノマーから誘導される単位のセラム画分の%値は、酸滴定量/ラテックス中に装填した酸の総量に100を乗じることで計算される。
【0038】
これより、実施態様の一部に関して、以下の実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【0039】
エマルジョン1: 全体の組成が52の2−EHA/43のMMA/5.0のMAAである付加ポリマーを、以下の手順に従って調製した:
3リットルのフラスコに960gの脱イオン水を装填し、窒素雰囲気下に置き、85℃に加熱した。275gの2−エチルヘキシルアクリレート(52部)、227gのメチルメタクリレート(43部)、27gのメタクリル酸(5部)、8.2gのAU−1界面活性剤(NMS−1とも呼ばれる、13%、Stepan Corp.)、および169g脱イオン水からなるモノマーエマルジョンを独立して調製した。このエマルジョンをケトルに添加する前に、アンモニア(22gの2.6%水溶液)、過硫酸アンモニウム(11gの9.6%溶液)、および54nmのアクリルポリマーシード(22.5gの22.8%溶液)をケトルに添加した。次いで、撹拌しながら20分間かけて、3.3g/分の速度で上記モノマーエマルジョンをケトルに供給しながら、同時に24.6gの2.24%過硫酸アンモニウム水溶液を0.2g/分の速度で添加し、続いてそれぞれ6.4g/分および0.20g/分で100分間添加した後、20分間維持した。次いでこの混合物を60℃まで冷却し、2.6gの0.15%硫酸第一鉄と0.008gのVersene 220との混合物を添加し、次いで3.2gの4.4%t−ブチルヒドロペルオキシド(tBHP)および6.1gの1.6%ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(SFS)を加えて20分間維持し、さらに第2の等量のtBHPおよびSFSを添加した。次いでこの混合物を冷却し、濾過し、pHを8.0〜9.0の範囲に調整するのに十分な量の29%アンモニア水溶液を添加した(最終ポリマーバインダー=29.3重量%ポリマー固形分、平均径273nm、pH8.5)。
【0040】
エマルジョン2: 全体の組成が52の2−EHA/43のMMA/5.0のMAAである付加ポリマーを、以下の手順に従って調製した:
5リットルのフラスコに2100gの脱イオン水を装填し、窒素雰囲気下に置き、85℃に加熱した。615gの2−エチルヘキシルアクリレート(52部)、507.5gのメチルメタクリレート(43部)、59.84gのメタクリル酸(5部)、6.7gのTREM LF−40溶液(36%、Henkel Corp.)、および402gの脱イオン水からなるモノマーエマルジョンを独立して調製した。このエマルジョンをケトルに添加する前に、89.3gの脱イオン水中の8.94gの29%アンモニア、22.33gの脱イオン水中の2.46gの過硫酸アンモニウム、および22.8%の60nmアクリルポリマーシード50.24gをケトルに添加した。次いで、撹拌しながら20分間かけて、6.92g/分の速度で上記モノマーエマルジョンをケトルに供給しながら、同時に54.8gの2.24%過硫酸アンモニウム水溶液を0.45g/分で添加し、続いてそれぞれ14.51g/分および0.45g/分で100分間添加した後、20分間維持した。次いでこの混合物を60℃まで冷却し、8.7gの0.1%硫酸第一鉄の混合物を添加し、次いで7.2gの4.4%t−ブチルヒドロペルオキシドおよび13.62gの1.6%ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムを加えて20分間維持し、さらに第2の等量のtBHPおよびSFSを添加した。次いでこの混合物を冷却し、濾過し、pHを8.0〜9.0の範囲に調整するのに十分な量の4%水酸化カリウム水溶液を添加した(最終ポリマーバインダー=27重量%ポリマー固形分、平均径260nm、pH8.9)。
【0041】
(実施例1:透析したラテックスの調製)
エマルジョン1に記載されるエマルジョン28gを、1ガロンの1つのリザーバー中の2つの分離した透析管を使用して、後述の透析手順に従って処理した。
【0042】
(実施例2:限外濾過したラテックスの調製)
エマルジョン1に記載されるエマルジョン2リットルを、後述の限外濾過手順に従って処理した。
【0043】
(実施例3:限外濾過したラテックスの調製)
エマルジョン2に記載されるエマルジョン2リットルを、後述の限外濾過手順に従って処理した。
【0044】
(実施例4:透析したラテックスの調製)
エマルジョン2に記載されるエマルジョン28gを、1ガロンの1つのリザーバー中の2つの分離した透析管を使用して、後述の透析手順に従って処理した。
【0045】
(ラテックスの透析)
以下のようにラテックスの透析を行った。1ガロンのプラスチック瓶にDI水を添加し、マグネチックスターラーを使用して低速で撹拌を始めた。透析膜(Spectra/Por(登録商標)CE、300,000MWカットオフ、Spectrum(Rancho Dominguez,CA)製)を、1ガロン瓶中に完全に沈めるのに適当な長さに切断した。一端で膜を折りたたみ、その端部の折りたたまれた部分の上に1つのSpectra/Por CEのクロージャーを取り付けた。CE管を開き、点滴用器または小型シリンジを使用して13〜14gのラテックスを充填した(典型的には膜管の長さの約8〜10インチを満たすのに十分な量)。充填した管の端部を折りたたみ、第2のクロージャークリップで閉じた。充填した管を洗浄し、1ガロン容器中に配置した。この工程中に、1ガロン容器中のDI水が濁り始め、交換が必要になる。DI水が透明になるまで毎日交換した。この工程が終了してから(1ガロン容器中のDI水が濁らなくなってから)、さらに2〜3回水を交換して限外濾過を続け、次いで、管を取り出して中身を取り出した。
【0046】
(ラテックスの限外濾過/ダイアフィルトレーション)
Koch Industries(Wilmington,MA)より入手可能なRomicon HF 1.0−43−PM500の膜を使用して、エマルジョンの限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)を行って可溶性成分を減少させた。エマルジョンのUF/DFのために、最初に2部のエマルジョン対1部の脱イオン水でエマルジョンを希釈した。この物質の再循環を、最大頭部圧力15psig、および膜の長さ全体にわたって典型的な圧力低下5〜7psigで膜にエマルジョンを圧送することによって行った。膜の浸透側は、ほぼ周囲圧に維持し、水道水の向流を流して、浸透物を廃棄した。濾過中、再循環される物質の体積を監視し、脱イオン水を添加することでセラムの減少分を補い、希釈したエマルジョンの初期体積を維持した。ダイアフィルトレーションの約2時間後、脱イオン水の追加を停止しながら、膜を通したエマルジョンの再循環を続けることで、エマルジョンを元の濃度まで濃縮した。エマルジョンが元の未希釈の体積に到達してから、装置から排液して、エマルジョンを回収する。前述の滴定手順を使用して、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を求める。限外濾過の実施前後でのエマルジョン2での結果を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(適用データ)
下記の実験は、インクジェットインク中に親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分が減少したポリマーバインダーを使用することで、その印刷品質が改善される効果を示すことを意図している。それぞれの場合において、後述のインク処方を使用してインクジェットインク中にポリマーバインダー処方し、ヒューレット・パッカード・デスクジェット890Cプリンタを使用して、そのインクを紙(ヒューレット・パッカード・ブライト・ホワイト・インクジェット・ペーパー)基体に適用した。
【0049】
【表2】

【0050】
Liponics(商標)EG−1は、Lipo Chemicals(New Jersey)より入手可能な分散剤である。Surfynol(登録商標)104Eは、Air Products(PA)より入手可能な分散剤である。AcryJet(登録商標)ブラック357はRohm and Haas Company(Philadelphia,PA)より入手可能な顔料分散体である。
【0051】
【表3】

【0052】
排液し、洗浄し、試験インクを再充填したブラックカートリッジ(HP−45)を使用してHP 895プリンタで印刷することによって、前述のエマルジョンから調製したインクを評価した。試験印刷形態は、黒色テキスト、黒色細線によるグラフィック、および黒色ブロックのグラフィックの組み合わせであった。試験印刷を周囲条件で1時間乾燥させてから、評価を行った。この試験印刷で、印刷外観、印刷寿命、および光学濃度の評価付けを行った。
【0053】
印刷外観は、印刷の均一性(ページ内およびページ間との両方)、線の鮮明さ、フェザリング、およびノズルの欠落または方向違いによる外観についての全体的な評価である。印刷外観は、主として、印刷サイクル中のノズルの欠落または方向違いによって生じる。細線の詳細中の破断またはブロックグラフィック中の列の欠落を調べることによって、明らかな欠落または方向違いのないノズルによる印刷サンプルを、非常に良好であると評価した。読むことができるが、細線、テキストの文字、およびブロックグラフィックに明確な破断がある印刷を、良好であると評価した。光学濃度は、MacBeth 1200カラー・チェッカーを使用して測定した。
【0054】
印刷寿命は、そのカートリッジから印刷した最初の10回の印刷外観と、500回目の印刷の印刷外観を比較することによって評価した。この実験は、黒色テキスト、黒色細線によるグラフィック、および黒色ブロックのグラフィックの組み合わせを含む同じ試験印刷ページを500ページ連続印刷することによって行った。目視で分かる任意の印刷外観の低下が不合格であると判断し、その印刷寿命を<500ページと評価した。500ページの試験印刷後でも初期印刷と同様の目視評価が得られたインクを、>500ページと評価した。印刷寿命試験における主な欠陥形態は、ノズルの欠落または方向違いであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、液体媒体、およびポリマーバインダーエマルジョンを含むインクジェットインクであって、前記ポリマーが重合単位として1以上の親水性モノマーを含み、前記ポリマーバインダーエマルジョンが、25重量%以下の、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を有する、インクジェットインク。
【請求項2】
15重量%以下の、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を有する、請求項1記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記親水性モノマーが、1〜15重量%の1以上のエチレン性不飽和カルボン酸官能性モノマーを含む、請求項1記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記着色剤が前記液体媒体に対して不溶性である、請求項1記載のインクジェットインク。
【請求項5】
シアン、マゼンタ、およびイエロー含むインクセットであって、前記インクセットの少なくとも1つのインクが請求項1記載のインクジェットインクである、インクセット。
【請求項6】
(a)ポリマーを有するポリマーバインダーエマルジョンを調製する工程であって、前記ポリマーが重合単位として1以上の親水性モノマーを含む工程、
(b)前記ポリマーバインダーエマルジョンに対して精密濾過技術を実施して、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を減少させる工程、および
(c)前記精密濾過されたポリマーバインダーエマルジョンを着色剤および液体媒体と組み合わせることによって、インクジェットインクを処方する工程、
を含む、インクジェットインクの製造方法。
【請求項7】
前記精密濾過技術が、限外濾過、ダイアフィルトレーション、透析、イオン交換、逆浸透、またはそれらの組み合わせの中の1種類以上である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
精密濾過技術の後、前記ポリマーバインダーエマルジョンが、25重量%以下の、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
精密濾過技術の後、前記ポリマーバインダーエマルジョンが、15重量%以下の、親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分を有する、請求項6記載の方法。
【請求項10】
親水性モノマーが、1〜25重量%の1以上のエチレン性不飽和カルボン酸官能性モノマーを含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
着色剤が液体媒体に対して不溶性である、請求項6記載の方法。

【公開番号】特開2006−131900(P2006−131900A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−296051(P2005−296051)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】