説明

インクジェットヘッド及びその製造方法

【課題】 ベース基板に安価な材料を用いても、吐出基板のソリを抑制し、ノズルの真直度を維持することができるインクジェットヘッド及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 複数の溝が形成された積層基板に天板6が接着され、この天板6に蓋部材6aが接着され、前面にノズル14が形成されたノズルプレート7が接着された吐出基板1を少なくともベース基板21の一方の面に接着させ、ノズル14の真直度が規定範囲に入るように吐出基板1に取り付けられた蓋部材の一部を切除するようにした。このように蓋部材の一部を切除することにより、吐出基板1のソリを抑制するようにし、ノズルの真直度を維持している。これにより、印字品質の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドの製造方法に関しては様々が方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。一般的に、吐出基板として圧電素子(PZT)基板やシリコン基板が用いられている。これら圧電素子(PZT)基板やシリコン基板は、熱膨張率の小さいセラミック基板である。吐出基板は、ベース基板に接合される。この接合には、耐環境性の優れた熱硬化タイプのものが用いられている。従って、吐出基板及びベース基板は100℃程度の温度環境下にさらされることになる。
【0003】
このような温度環境下で吐出基板のソリを抑える為、ベース基板は吐出基板と熱膨張率の近い材質を用いていた。あるいは、吐出基板とベース基板との接合部分のベース基板の剛性を吐出基板に対して弱くする構造をとっていた。
【0004】
一般的に、ベース基板には、熱伝導率の大きいものが好ましい。なぜなら、インク吐出を行うノズルには発熱が生じ、ノズル列の端と中央や吐出の有無によノズル間に温度差が生じる。この温度差によりインクの物性にノズル間のバラツキが生じ、インク滴の飛翔速度や体積にバラツキが生じる。その結果、印字品質の劣化を招く。
【0005】
温度ムラを小さくするため、熱伝導の良好な材料が求められていた。そこで、熱伝導率の大きい窒化アルミニウムがベース基板の材料として用いられていた。しかし、この材料は非常に高価である。また、熱膨張率が大きく異なるアルミニウムをベース材として用い、接合部は溝や穴、その他厚みの薄い形状を採用し、吐出基板の変形を抑え、ベース基板の接着部が変形する構造も用いられていた。
【特許文献1】特許第3496870号公報
【特許文献2】特開2002−307679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この構造では伝熱特性が悪化し、熱容量も低下するため、ノズル間の温度ムラを解消することはできなかった。ノズル間の温度ムラが発生すると、印字品質が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、その目的は、ベース基板に安価な材料を用いても、吐出基板のソリを抑制することにより、ノズルの真直度を維持することがもできるインクジェットヘッド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、複数の溝が形成された積層基板に天板を接着することにより吐出基板本体を形成する工程と、この吐出基板本体の前面にノズルが形成されたノズルプレートを接着させる工程と、前記天板に蓋部材を接着させる工程と、ベース基板の少なくとも一方の面に前記吐出基板を接着させる工程と、前記ノズルプレートに形成されたノズルの真直度が規定範囲に入るように前記蓋部材の一部を切除する工程とを具備したことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、ベース基板と、このベース基板の少なくとも一方の面に接着された、複数の溝が形成された積層基板に天板が接着され、この天板に蓋部材が接着され、前面にノズルが形成されたノズルプレートが接着された吐出基板とを具備し、前記蓋部材は、部分的に切除可能に部位を有することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の切除可能に部位はリブであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベース基板に安価な材料を用いても、吐出基板のソリを抑制するようにしたので、ノズルの真直度を維持することができる。これにより、印字品質の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
【0013】
まず、図1(A)を参照して吐出基板1の構成について説明する。図に示すように、吐出基板1は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧力材料を用いた下方の圧電部材2および上方の圧電部材3を積層した部材を、それらの圧電部材2,3より誘電率の小さい材料を用いた板部材としてのベース部材4と組み合わせて形成した積層基板5と、この積層基板5に天板6を接着または接合により積層し、この天板6を図1(B)に示すように蓋部材6aで覆った後、吐出基板1の本体に厚さ10〜100μm程度のノズルプレート7を一体に接着した構造になっている。なお、蓋部材6aは長手方向にリブ6bが形成されている。
【0014】
積層基板5は、上下方向の分極方向が相反する2枚のPZTからなる圧電部材2,3で形成されていて、上方の圧電部材3の上面から下方の圧電部材2の内部まで到達するとともに、前面が開口して後部が閉鎖した多数の溝9が形成されている。これらの溝9は、ICウェハーの切断等に用いているダイシングソーのダイヤモンドホイール等により平行に研削されて形成されている。これら溝9の間の支柱10は、圧力発生手段の駆動部となる。
【0015】
溝9の内面には、無電解ニッケルメッキ法で電極11が形成されている。この電極11は、溝9の後部からベース部材4の上面まで延長して同時に無電解メッキ法で配線パターン12を形成している。無電解メッキ法であれば、このような微細な溝9内にも容易に金属膜を形成できる。ここでは、ニッケルを用いたが、金、銅等で形成してもよく、これら2種以上の金属膜を積層しても良い。
【0016】
天板6には、図1(A)に示すような中空部があり、この中空部は、積層基板5の溝9の後端に連通するインク溜まりとなる。積層基板5に天板6を接着剤などで吐出基板1本体を形成し、この吐出基板1の本体の前面をノズルプレート7を接着剤で一体に接着することで、このノズルプレート7と天板6とで前面と上面とを遮断された溝9をインク流路としても作用する圧力室13とし、インク溜りとしてインクを供給する。このインク溜りは、外部からインクを導入できる開口を有する図1(B)に示すような例えばプラスチックよりなる蓋部材6aを天板6に接着することにより覆われる。そして、積層基板5の上面後方部が天板6より後方に露出するのでここに位置する配線パターン12にFPCなどで駆動回路を接続することができる。
【0017】
このような吐出基板1では、吐出基板1本体の圧力室13にインクを供給した状態で、駆動する圧力室13の両側に位置する支柱10を分極方向が相反する圧電部材2,3のシェアモード変形により湾曲させ徐々に離反させ、これを急激に初期位置に復帰させて圧力室13のインクを加圧することでノズルプレート7に形成されたノズル14からインクを吐出させる。このとき、クロストークを防止するため、偶数番目の圧力室13とを交互に加圧するように圧力発生手段8の支柱10を駆動する。なお、このノズル14を後部が拡開して前部がテーパー状となるように形成しているので、圧力室13で加圧したインクを効率よく吐出することができる。
【0018】
次に、図2及び図3を参照して図1の吐出基板1をベース基板21の両面に接着させてインクジェットヘッドを製造する方法について説明する。まず、図3に示すように吐出基板1を例えばアルミニウムよりなるベース基板21の両面に対して位置決め調整し(ステップS1)、仮固定する(ステップS2)。
【0019】
次に、吐出基板1とベース基板21とを熱硬化性樹脂により接着させる本固定がなされる(ステップS3)。
【0020】
そして、ノズルの真直度を測定する(ステップS4)。この真直度は、吐出基板1のソリ量を示している。
【0021】
例えば、図7はステップS4の測定により吐出基板1のソリが5μmである一例を示している。このようなソリが測定される。
【0022】
このようなソリが測定されると、そのソリを抑制させるために、蓋部材6aのリブ6bの一部分を切除する加工が行われる(ステップS5)。この加工処理により吐出基板1のソリは減少する方向に移行する。
【0023】
このため、ステップS5の加工により真直度が改善されたかを測定するため、真直度を再度測定する処理が行われる(ステップS6)。
【0024】
このステップS6により再度測定された真直度が規定値であるかが判定される(ステップS7)。
【0025】
この判定により再度測定された真直度が規定値には至らないと判定された場合には、ステップS5の加工が再度行われる。そして、真直度が規定値となると、一連の処理は終了する。
【0026】
例えば、図7に示すように初期状態(つまり、リブ6bの一部を切除していない図3の状態)では太線で示したようなソリが発生している状態で、蓋部材6aのリブ6bの一部を切除する処理が行われる。図4は蓋部材6aのリブ6bを3ケ所切除した模様を示している。このように蓋部材6aのリブ6bを3ケ所切除した場合には、破線で示すようにソリは1.0μmとなる。ソリが1.0μmではステップS7の判定では「NO」と判定されるため、再度加工が行われる(ステップS5)。つまり、蓋部材6aのリブ6bをもう1箇所切除する処理が行われる。
【0027】
このようにして、蓋部材6aのリブ6bを図5に示すように4箇所切除した場合には、図7の一点破線で示すようになる。つまり、ソリがほぼゼロ近傍に収束していることが分かる。このような場合には、ステップS7の判定で「YES」と判定されるため、一連の加工処理は終了する。
【0028】
なお、図7では、蓋部材6aのリブ6bを図6に示すように7箇所切除した場合のソリを二点破線で示しておく。この場合には、逆ソリが発生するため不適格である。
【0029】
また、図8に、初期状態のソリが9μmであった場合に、蓋部材6aのリブ6bを切除した個数とソリとの関係を示しておく。この場合、蓋部材6aのリブ6bを3箇所切除した場合には、ソリは破線で示した状態となり、蓋部材6aのリブ6bを4箇所切除した場合には、ソリは一点破線で示した状態となり、蓋部材6aのリブ部6bを7箇所切除した場合には、ソリは二点破線で示した状態となる。このように、初期状態のソリが9μmであった場合には、蓋部材6aのリブ6bを7箇所切除するとソリがほぼゼロ近傍に収束していることが分かる。
【0030】
なお、上記した実施の形態では、ベース基板21の両面に吐出基板1を接着した例を挙げたが、ベース基板21の一方に吐出基板1を接着させたインクジェットヘッドに対しても本発明は適用可能である。
【0031】
さらに、上記した実施の形態では、蓋部材6aはリブ6bを有していたが、蓋部材6aの一部を切除可能であれば、これに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドを説明するための斜視図。
【図2】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造工程を説明するためのフローチャート。
【図3】同実施の形態に係るインクジェットヘッドの斜視図。
【図4】同インクジェットヘッドの蓋部材の一部を切除した状態を示す図。
【図5】同インクジェットヘッドの蓋部材の一部を切除した状態を示す図。
【図6】同インクジェットヘッドの蓋部材の一部を切除した状態を示す図。
【図7】同蓋部材のソリが5μmの場合のソリ矯正効果を説明するための図。
【図8】同蓋部材のソリが9μmの場合のソリ矯正効果を説明するための図。
【符号の説明】
【0033】
1…吐出基板、2,3…圧電部材、4…ベース部材、6…天板、6a…蓋部材、6b…リブ、7…ノズルプレート、21…ベース基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溝が形成された積層基板に天板を接着することにより吐出基板本体を形成する工程と、
この吐出基板本体の前面にノズルが形成されたノズルプレートを接着させる工程と、
前記天板に蓋部材を接着させる工程と、
ベース基板の少なくとも一方の面に前記吐出基板を接着させる工程と、
前記ノズルプレートに形成されたノズルの真直度が規定範囲に入るように前記蓋部材の一部を切除する工程とを具備したことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
ベース基板と、
このベース基板の少なくとも一方の面に接着された、複数の溝が形成された積層基板に天板が接着され、この天板に蓋部材が接着され、前面にノズルが形成されたノズルプレートが接着された吐出基板とを具備し、
前記蓋部材は、部分的に切除可能に部位を有することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記切除可能に部位はリブであることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−69475(P2007−69475A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259405(P2005−259405)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】