インクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法
【課題】ヘッドチップとマニホールド部材との接着面における電極とインクとの接触を防止し、電気信号の漏洩や電極の腐食による断線を低減できるインクジェットヘッド及びその製造方法の提供。
【解決手段】マニホールド部材20は、インクを供給する開口部211を有するマニホールド本体21と、マニホールド本体21の開口部211に設けられる取付け基板部22とで構成される。取付け基板部22は、ヘッドチップ10の後面10aのチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップ10の同方向の幅以下であると共に、開口部211と連通し、マニホールド本体21内のインクをヘッドチップ10の複数のチャネル11の入口112に供給する流路開口部221を有する。ヘッドチップ10の後面10aの引き出し電極14の他端は、取付け基板部22の外側にはみ出してヘッドチップ10の表面に露出しており、保護膜Mは、チャネル11の内面から少なくとも流路開口部221の内壁面22aにかけて連続して形成される。
【解決手段】マニホールド部材20は、インクを供給する開口部211を有するマニホールド本体21と、マニホールド本体21の開口部211に設けられる取付け基板部22とで構成される。取付け基板部22は、ヘッドチップ10の後面10aのチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップ10の同方向の幅以下であると共に、開口部211と連通し、マニホールド本体21内のインクをヘッドチップ10の複数のチャネル11の入口112に供給する流路開口部221を有する。ヘッドチップ10の後面10aの引き出し電極14の他端は、取付け基板部22の外側にはみ出してヘッドチップ10の表面に露出しており、保護膜Mは、チャネル11の内面から少なくとも流路開口部221の内壁面22aにかけて連続して形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関し、詳しくは、電極をインクから保護する保護膜のリークの発生を低減することのできるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数並設されるチャネル間を区画する隔壁を圧電素子によって形成することで駆動壁とし、この駆動壁に形成された駆動電極に所定電圧の駆動信号を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのとき発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたせん断モード型のインクジェットヘッドとして、ヘッドチップの前面及び後面にそれぞれ各チャネルの出口と入口を配置することによりストレート状のチャネルとしたいわゆるハーモニカ型のヘッドチップを有するものが知られている。
【0003】
ハーモニカ型のヘッドチップは、駆動電極がチャネル内に臨んでいて外部に露出していないため、一端がチャネル内の駆動電極と電気的に接続する引き出し電極を設け、この引き出し電極の他端を、ヘッドチップの後面に引き出すことで、駆動回路との間をつなぐFPC等の外部の電気配線部材との電気的接続を図り得るようにしている。
【0004】
ハーモニカ型のヘッドチップと駆動回路との間をFPC等によって電気的に接続する方法として、特許文献1には、ヘッドチップの後面に、各チャネルに対応するピッチで配線が形成されたガラス板等からなる配線基板を、その端部がヘッドチップの側方に張り出す程度の大判に形成して接合することで、ヘッドチップ側の電極を配線基板の配線によって該配線基板の端部まで電気的に引き出し、この配線基板の端部において駆動回路との間をつなぐFPCを接合することが記載されている。配線基板にはチャネルへのインク供給を行うための貫通穴が形成されており、この配線基板の上に更にマニホールド部材を接合することで、貫通穴を通して各チャネルにインクを供給するようにしている。
【0005】
この特許文献1に記載のインクジェットヘッドでは、配線基板によってFPCをヘッドチップの側方に引き出すように接続することが容易となる利点がある。しかし、駆動回路との間の電気的接続作業の作業性の観点からすると、ヘッドチップの引き出し電極と配線基板の配線とを精密に位置合わせした上で両者を電気的に接続し、更に、この配線基板の端部において、FPCの配線と配線基板の配線とを精密に位置合わせした上で両者を電気的に接続する作業を要し、2度の接続作業を行わなくてはならない。
【0006】
一方、特許文献2の図6には、ハーモニカ型のヘッドチップの後面に、マニホールド部材を直接接合することが記載されている。この場合、各チャネル内の駆動電極は、引き出し電極によってマニホールドからはみ出したヘッドチップの表面、例えば特許文献3に記載のように、ヘッドチップの後面から側面まで引き出し形成することで、該側面においてFPCとの接続を行うことができる。
【0007】
従って、特許文献2の図6に記載のように、ヘッドチップの後面に直接マニホールド部材を接合したインクジェットヘッドによれば、配線基板を介在させないので、ヘッドチップの表面に露出する引き出し電極の端部に対してFPCを直接接続するだけで、駆動回路との間の電気的接続作業が1度で済み、作業性の観点からは好ましい。また、ヘッドチップの側方に大きく張り出す配線基板を使用しない分、インクジェットヘッド全体をコンパクトにできるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−168185号公報
【特許文献2】特開2009−6642号公報
【特許文献3】特開2006−150691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このようにチャネル間の駆動壁を変形させることによってインクに吐出のための圧力を付与するヘッドチップは、チャネルの内面の駆動電極とヘッドチップの表面に形成される引き出し電極とがインクと直に接触することになる。このため、インクとして特に水系インクを使用する場合には、インクと接触する駆動電極及び引き出し電極の表面に絶縁性の保護膜を被覆形成することによって、インクとの接触から電極を保護することが行われている。
【0010】
しかし、特許文献2記載のように、ヘッドチップの後面に直接マニホールド部材を接合することによって駆動回路との間の電気的接続を簡易化したインクジェットヘッドの場合、次のような問題があった。
【0011】
すなわち、マニホールド部材を接着した状態のヘッドチップは、後面側がマニホールド部材によって閉塞された状態となり、保護膜の形成材料が行き渡り難くなるため、保護膜は、ヘッドチップにマニホールド部材を接着する前に被覆形成しなくてはならない。このため、マニホールド部材は、ヘッドチップ表面に被覆形成された保護膜上に接着されることになる。このとき、マニホールド部材をヘッドチップの後面に対して当接させた後、両者の位置ずれを直すように相対的に位置修正した際、両者の接着部位にある保護膜が損傷してしまう場合があった。従って、これによって完成したインクジェットヘッドは、マニホールド部材とヘッドチップとの接着部位の保護膜の損傷部からインクが浸入してインクと電極とが接触してしまい、電気信号の漏洩が生じたり、電極の腐食による断線が生じたりするという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、マニホールド部材をマニホールド本体と取付け基板部とから構成し、保護膜をチャネルの内面から該取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続して形成することにより、ヘッドチップとマニホールド部材との接着面における電極とインクとの接触を防止し、ひいては電気信号の漏洩や電極の腐食による断線を低減できるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
請求項1記載の発明は、チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜と、
前記引き出し電極が形成された前記ヘッドチップの後面に接着され、複数の前記チャネルの入口に対して共通にインクを供給するマニホールド部材とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記マニホールド部材は、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、該マニホールド本体の前記開口部に設けられ、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成され、
前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下であると共に、前記マニホールド本体の前記開口部と連通し、該マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を有し、
前記引き出し電極の他端は、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの表面に露出しており、
前記保護膜は、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続して形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記保護膜は、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成されていることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッドである。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く、前記引き出し電極の他端が、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記引き出し電極の他端は、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0019】
請求項5記載の発明は、前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記ヘッドチップの後面に開口する全ての前記チャネルの入口を内側に含む大きさで一つだけ形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記チャネル列は、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しないダミーチャネルとを交互に有し、
前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記インクチャネルの入口に対応する部位のみに、該インクチャネルの入口の開口面積よりも大きな開口面積で個別に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0021】
請求項7記載の発明は、前記取付け基板部の前記流路開口部の前記内壁面は、前記ヘッドチップの後面から前記マニホールド本体に向けて漸次広がる傾斜面であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0022】
請求項8記載の発明は、前記取付け基板部は、厚さが300μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0023】
請求項9記載の発明は、前記保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0024】
請求項10記載の発明は、前記取付け基板部の外側にはみ出した前記引き出し電極の端部に、駆動回路との間を電気的に接続するための電気配線部材が接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0025】
請求項11記載の発明は、前記電気配線部材は、フレキシブルプリント基板であることを特徴とする請求項10記載のインクジェットヘッドである。
【0026】
請求項12記載の発明は、チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
複数の前記チャネルに対して共通にインクを供給するためのマニホールド部材とを有し、
前記ヘッドチップに対して前記インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜を被覆形成した後に、前記ヘッドチップの後面に前記マニホールド部材を設けるようにしたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記マニホールド部材を、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成し、該取付け基板部を、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下となるように形成すると共に、該取付け基板部に、前記マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を形成し、
前記引き出し電極を形成した後の前記ヘッドチップの後面に前記取付け基板部を接着し、前記引き出し電極の他端を該取付け基板部の外側にはみ出させて前記ヘッドチップの表面に露出させ、
次いで、前記取付け基板部を有する前記ヘッドチップに対し前記保護膜を被覆形成することで、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続した前記保護膜を形成し、
次いで、前記取付け基板部における前記ヘッドチップとの接着面の反対面に前記マニホールド本体の前記開口部を接着することにより、前記開口部と前記流路開口部とを連通させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0027】
請求項13記載の発明は、前記保護膜を、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成することを特徴とする請求項12記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0028】
請求項14記載の発明は、前記取付け基板部を、前記引き出し電極の他端が該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出するように、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く形成することを特徴とする請求項12又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0029】
請求項15記載の発明は、前記引き出し電極の他端を、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出させることを特徴とする請求項12又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、マニホールド部材をマニホールド本体と取付け基板部とから構成し、保護膜をチャネルの内面から該取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続して形成することにより、ヘッドチップとマニホールド部材との接着面における電極とインクとの接触を防止し、ひいては電気信号の漏洩や電極の腐食による断線を低減できるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】インクジェットヘッドの分解斜視図
【図2】図1に示すインクジェットヘッドの縦断面図
【図3】取付け基板部を接着した状態の図1に示すヘッドチップの部分背面図
【図4】図1に示すヘッドチップとマニホールド部材との接着部位の部分拡大断面図
【図5】(a)〜(c)はインク滴をノズルから射出する動作を説明する図
【図6】(a)〜(c)は3サイクル吐出法を説明する図
【図7】3サイクル吐出法における各組のチャネルに印加されるパルス波形のタイミングチャートの一例を示す図
【図8】3サイクル吐出法における各組のチャネルに印加されるパルス波形のタイミングチャートの他の例を示す図
【図9】図1に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す工程図
【図10】取付け基板部の内壁面形状の他の例を示す部分拡大断面図
【図11】独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドの分解斜視図
【図12】図11に示すインクジェットヘッドの縦断面図
【図13】取付け基板部を接着した状態の図11に示すヘッドチップの部分背面図
【図14】ヘッドチップの引き出し電極の他の例を示す部分斜視図
【図15】図14に示すヘッドチップを有するインクジェットヘッドの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係るインクジェットヘッドは、ハーモニカ型のヘッドチップと、保護膜と、マニホールド部材とを有している。
【0033】
ヘッドチップは、チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置され、これによってチャネル列を構成している。本発明においてヘッドチップに設けられるチャネル列数は特に問わない。ヘッドチップの前面及び後面には、それぞれチャネルの出口及び入口が配置されている。各チャネルは、後面のチャネル入口から前面のチャネル出口にかけて断面形状が変化しないストレート状に形成される。ヘッドチップの後面には、各チャネルの内面に臨む駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成される。
【0034】
このようなヘッドチップは、一般に六面体形状のいわゆるせん断モード型のハーモニカ型ヘッドチップであり、引き出し電極を介してチャネル内に臨む駆動壁両面の各駆動電極に所定電圧の駆動信号を印加することによって該駆動壁をせん断変形させ、チャネル内に供給されたインクに吐出のための圧力変化を与えることによって、ヘッドチップの前面のチャネル入口に対応するように配置されたノズルからインク滴として吐出させる。
【0035】
本発明では、このような六面体形状のハーモニカ型のヘッドチップにおいて、ノズルが配置されてインクが吐出される側の面を「前面」、その反対側の面を「後面」、これら前面と後面との間に挟まれ、該前面及び後面と隣接する面を「側面」と定義する。この側面は、六面体において前面と後面との間に四面存在するが、本発明では、ヘッドチップにおいて多数のチャネルが並設されるチャネル列方向に沿うように配置される二つの側面のことを指すものとする。
【0036】
保護膜は、ヘッドチップの表面に被覆形成されることにより、インクと接する駆動電極及び引き出し電極の表面を該インクから保護する絶縁性の保護膜である。この保護膜は、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition、以下CVD法という。)等のように気相からの蒸着により形成される膜であることが好ましく、特に、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜が好適である。
【0037】
マニホールド部材は、引き出し電極が形成された後のヘッドチップの後面に設けられることで、複数のチャネル入口に対して共通にインクを供給する。本発明において、このマニホールド部材は、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、該マニホールド本体の開口部に設けられ、ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部との二つの部材によって構成される。
【0038】
このうちの取付け基板部は、ヘッドチップの後面におけるチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下であると共に、マニホールド本体の開口部と連通し、該マニホールド本体内のインクをヘッドチップの複数のチャネル入口に供給するための流路開口部を有する。従って、この流路開口部内にチャネル入口が配置される。
【0039】
引き出し電極の他端は、この取付け基板部の外側にはみ出してヘッドチップの表面に露出している。この露出した引き出し電極の端部が、駆動回路との間を電気的に接続するための外部の電気配線部材との接続部位となる。保護膜は、チャネルの内面から少なくとも取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続して形成され、インクと接触する面に配置される駆動電極及び引き出し電極を被覆する。
【0040】
従って、本発明によれば、マニホールド部材の取付け基板部とヘッドチップの後面との間に保護膜が存在しないインクジェットヘッドとすることができる。この場合、ヘッドチップの後面と直接接着されるマニホールド部材の取付け基板部を位置修正しながら接着しても、この接着面には保護膜がないので、従来のように保護膜を損傷させるおそれはなく、保護膜の損傷による電極とインクとの接触を防止できる。また、マニホールド部材は、この取付け基板部上にマニホールド本体を接着することによって形成されるが、この接着面には電極が存在しないため、仮にこの接着面において保護膜が損傷したとしても電極とインクとの接触は生じない。
【0041】
なお、チャネルの内面から取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけてとは、チャネルの内面から連続する保護膜の端部が、流路開口部の内壁面の少なくとも一部を被覆していることを意味する。保護膜の端部が流路開口部の内壁面の少なくとも一部を被覆していれば、駆動電極及び引き出し電極におけるチャネル内と流路開口部内に露出する部位を保護膜で完全に被覆することができる。
【0042】
より好ましくは、保護膜は、チャネルの内面から取付け基板部における流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部とマニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成されることである。このようにすると、保護膜の端部がインクと接触する可能性がないため、万が一、端部で膜剥がれが生じても電極とインクとの接触が発生することはない。
【0043】
ヘッドチップの後面におけるマニホールド部材の形成方法は、取付け基板部をヘッドチップの後面に接着し、次いでチャネルの内面から少なくとも取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続した保護膜を形成した後に、該取付け基板部におけるヘッドチップとの接着面の反対面に、マニホールド本体の開口部を接着することによって行うことができる。マニホールド本体の開口部は取付け基板部の流路開口部と連通し、ヘッドチップの各チャネルに対してインク供給が可能となる。
【0044】
これにより、チャネルの内面から取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続した保護膜を容易に形成することができ、マニホールド部材の取付け基板部とヘッドチップの後面との間に配置される電極を保護膜によって保護することができる。
【0045】
以下、本発明の具体例について図面を用いて更に説明する。
【0046】
図1は本発明に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図2はその縦断面図、図3は取付け基板部を接着した状態のヘッドチップの部分背面図、図4はヘッドチップとマニホールド部材との接合部位の部分拡大断面図、図5はヘッドチップのインク吐出時の作動を示す図、図6はインクジェットヘッドの3サイクル吐出動作を説明する図、図7は吐出パルスの一例を示す図、図8は吐出パルスの他の一例を示す図である。
【0047】
インクジェットヘッド1は、ハーモニカ型のヘッドチップ10と、このヘッドチップ10の後面10aに接着されるマニホールド部材20と、ヘッドチップ10の前面10bに接着されるノズルプレート30と、ヘッドチップ10と外部の駆動回路(図示せず)との間を電気的に接続するための電気配線部材40とを有している。
【0048】
このヘッドチップ10は、多数のチャネル11が並列されてなるチャネル列を2列有している。各チャネル列は、チャネル11と圧電素子(PZT)を有する駆動壁12とが交互に配置され、各チャネル11は、ヘッドチップ10の前面10bと後面10aとに開口して、それぞれチャネル出口111とチャネル入口112とを形成している。
【0049】
各チャネル11の内面には駆動電極13が形成されている。駆動電極13は、各チャネル11の内面のうちの、少なくとも対向する駆動壁12の表面と、隣接するチャネル列と反対側に位置する壁面113とに亘って形成されている。このうち、この壁面113に形成された駆動電極13には、チャネル入口112を通って引き出し電極14の一端が電気的に接続されている。
【0050】
引き出し電極14は、各チャネル11に対応してヘッドチップ10の後面10aに形成されており、一端がチャネル入口112を経てチャネル11内の駆動電極13に電気的に接続され、他端がヘッドチップ10の後面10aにおいて、それぞれ隣接するチャネル列とは反対側の端縁10c、10c又はその近傍まで延びている。これにより、各チャネル11内の駆動電極13は、引き出し電極14によってヘッドチップ10の後面10aに引き出され、チャネル11と同ピッチで配列されている。
【0051】
このヘッドチップ10は、2列のチャネル列の全てのチャネル11がインクを吐出可能なインクチャネルとされており、各チャネル11の駆動電極13に駆動信号発生部100の制御により吐出パルスが印加されると、図5に例示する動作によってインク滴をノズル31から射出する。
【0052】
なお、各チャネル11の動作は同一であるため、図5では1列のチャネル列の一部のチャネルのみを示している。また、図5においてノズルは省略している。
【0053】
駆動壁12は、その一部に圧電素子を有していればよいが、ここでは、それぞれ分極方向(矢印で示す。)が反対方向となる上壁部12aと下壁部12bによって構成されている。まず、駆動電極13A、13B、13Cのいずれにも吐出パルスが印加されない時は、駆動壁12A、12B、12Cのいずれも変形しない。図5(a)に示す状態において、駆動電極13A及び13Cを接地すると共に駆動電極13Bに吐出パルスを印加すると、駆動壁12B、12Cを構成する圧電材料の分極方向に直角な方向の電界が生じる。これにより、各駆動壁12B、12C共に、それぞれ上壁部12a、下壁部12bの接合面にズリ変形を生じ、図5(b)に示すように駆動壁12B、12Cは互いに外側に向けて変形し、チャネル11Bの容積を拡大してチャネル11B内に負の圧力が生じてインクが流れ込む(Draw)。
【0054】
また、この状態から電位を0に戻すと、駆動壁12B、12Cは図5(b)に示す膨張位置から図5(a)に示す中立位置に戻り、チャネル11B内のインクに高い圧力が掛かる(Release)。
【0055】
次いで、図5(c)に示すように、駆動壁12B、12Cを互いに逆方向に変形するように吐出パルスを印加して、チャネル11Bの容積を縮小すると、チャネル11B内に正の圧力が生じる(Reinforce)。
【0056】
これによりチャネル11Bを満たしているインクの一部によるノズル内のインクメニスカスがノズルから押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから吐出する程に大きくなると、インク滴はノズルから吐出する。他の各チャネルも吐出パルスの印加によって上記と同様に動作する。このようなインク滴の射出法をDRR駆動法と呼び、せん断モードタイプのインクジェットヘッドの代表的な駆動法である。
【0057】
このように少なくとも一部が圧電素子で構成された駆動壁12によって隔てられた複数のチャネル11を有するインクジェットヘッド1を駆動する場合、一つのチャネル11の駆動壁12が吐出の動作をすると、隣のチャネル11が影響を受けるため、通常、複数のチャネル11のうち、互いに1本以上のチャネル11を挟んで離れているチャネル11をまとめて1つの組となすようにして、複数のチャネル11を2つ以上の組に分割し、各組毎にインク滴の吐出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全チャネル11を駆動してベタ画像を出力する場合には、チャネル11を2チャネルおきに選んで3相に分けて射出する、いわゆる3サイクル吐出法が行われる。
【0058】
かかる3サイクル吐出動作について図6を用いて更に説明する。図6に示す例では、インクジェットヘッドはチャネルがA1、B1、C1、A2、B2、C2、A3、B3、C3の9つのチャネル11で構成されているとして説明する。ここでも、1列のチャネル列の一部のチャネルのみを示している。また、このときのA、B、Cの各組のチャネル11に印加されるパルス波形のタイミングチャートの一例を図7に示す。
【0059】
インク滴の吐出時には、まずA組(A1、A2、A3)の各チャネルの駆動電極に電圧を掛け、その両隣のチャネルの駆動電極を接地する。例えばA組のチャネルに1AL幅の正電圧+Vonの矩形波からなる吐出パルスを掛けると、吐出したいA組のチャネルの駆動壁が外側に変形し、そのチャネル11内に負圧が発生する。この負圧により、後述するマニホールド部材20からA組のチャネル11にインクが流れ込む(Draw)。
【0060】
この状態を1AL間保つと、圧力が正圧に反転するので、このタイミングで駆動電極を接地すると、駆動壁の変形が元に戻り、高い圧力がA組のチャネル11内のインクに掛かる(Release)。更に、同じタイミングでA組の各チャネルの駆動電極に負電圧−Voffの矩形波を掛けると、駆動壁が内側に変形し、更に高い圧力がインクに掛かり(Reinforce)、ノズルからインク柱が押し出される。1AL後、圧力が反転してチャネル11内が負圧になり、更に1AL経過すると、チャネル11内の圧力が反転して正圧になるので、このタイミング(2AL経過後)で駆動電極を接地すると、駆動壁の変形が元に戻り、残留する圧力波をキャンセルできる。
【0061】
ここで、この吐出パルスの電圧は、|Von|≧|Voff|である。
【0062】
続いてB組(B1、B2、B3)の各チャネル11、更に続いてC組(C1、C2、C3)の各チャネル11へと上記同様に動作する。
【0063】
なお、AL(Acoustic Length)とは、チャネルの音響的共振周期の1/2である。このALは、駆動壁12に矩形波の電圧パルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの立ち上がり10%と波高値電圧からの立ち下がり10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0064】
かかるせん断モードタイプのインクジェットヘッドでは、駆動壁12の変形は該駆動壁12の両側に設けられる駆動電極13に掛かる電圧差で起こるので、インク滴の吐出を行うチャネル11の駆動電極13に負電圧を掛ける代わりに、図8に示すように、インク滴の吐出を行うチャネル11の駆動電極13を接地して、その両隣のチャネル11の駆動電極13に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば、正電圧だけで駆動させることができるために好ましい態様である。
【0065】
次に、マニホールド部材20について説明する。
【0066】
マニホールド部材20は、マニホールド本体21と取付け基板部22との二つの部材によって構成されている。
【0067】
マニホールド本体21は、例えば液晶ポリマー等の合成樹脂材からなる箱型形状を呈しており、その一面が開放された開口部211を有すると共に、内部が共通インク室212とされている。開口部211と対向する壁面213には、共通インク室212内にインクを流入させるための流入口214と、共通インク室212内のインクを流出させるための流出口215が設けられている。
【0068】
取付け基板部22は、マニホールド本体21の開口部211の周囲の端面21aに接着剤層50を介して接着され、マニホールド本体21と一体となることによってマニホールド部材20を構成している。この取付け基板部22は、引き出し電極14が形成された後のヘッドチップ10の後面10aに対して、引き出し電極14の一部を覆うように接着剤層51を介して接着され、この取付け基板部22上にマニホールド本体21が接着されることによって、ヘッドチップ10の後面10aにマニホールド部材20が設けられる。
【0069】
取付け基板部22は、中央部に、マニホールド本体21の開口部211と連通する一つの流路開口部221が形成されている。この流路開口部221は、ヘッドチップ10の後面10aに開口する2列のチャネル列の全てのチャネル入口112を内部に含むことができる大きさを有している。従って、マニホールド本体21と取付け基板部22とが一体に接着された状態で、マニホールド本体21の開口部211と取付け基板部22の流路開口部221とが連通し、マニホールド本体21の共通インク室212内のインクを、流路開口部221を経て複数のチャネル11に対して共通に供給可能となっている。
【0070】
更に詳細に説明すると、取付け基板部22は、ヘッドチップ10の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅W1が、該ヘッドチップ10の同方向の幅W2よりも小さい。このW1はマニホールド本体21の同方向の幅と同じである。一方、流路開口部221は、ヘッドチップ10の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅W3が、2列のチャネル列の同方向の全幅W4と同等以上となっている。
【0071】
このため、ヘッドチップ10の後面10aの端縁10c、10c側は、マニホールド部材20よりも外側に、それぞれ(W2−W1)/2だけはみ出し、このはみ出した部位における後面10aにそれぞれ引き出し電極14の端部側が露出している。また、取付け基板部22の流路開口部221内には、全てのチャネル入口112が開口している。
【0072】
この取付け基板部22は、マニホールド本体21と同一材質とすることもできるが、異なる材質によって形成することもできる。取付け基板部22の材質としては、例えばガラス板、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、ジルコニア、炭化珪素等が挙げられ、これらの中から目的に応じて選択して使用することができる。また、複数種類を積層して使用することもできる。
【0073】
取付け基板部22の厚みは、300μm以上700μm以下とすることが好ましい。300μm未満では材質の選択だけでは十分な強度を確保することが難しくなる。700μmを超えるようになると、後述する保護膜の形成材料を流路開口部221から浸入させ難くなるため、700μm以下とすることが好ましい。
【0074】
この取付け基板部22は、ヘッドチップ10に対して直接接着されるため、製造過程における加熱時又は駆動時の発熱による熱膨張に起因する反りや剥離を防止する観点から、その線膨張係数がヘッドチップ10の線膨張係数に近いことが好ましい。
【0075】
また、取付け基板部22の材質のヤング率は、ヘッドチップ10のヤング率よりも低いとヘッドチップの反りを抑制する効果が期待でき、例えばガラス板(ヤング率:67.3GPa)であると、ヘッドチップ10を構成するPZTのヤング率(76.8GPa)に近いので、ヘッドチップ10の反りが生じにくい。
【0076】
ノズルプレート30は、ヘッドチップ10の前面10bに接着されており、各チャネル出口111に対応する位置にノズル31が開設されている。
【0077】
電気配線部材40は、ヘッドチップ10の後面10aにおいて、マニホールド部材20よりも外側にそれぞれはみ出した部位に露出する引き出し電極14の端部に、該電気配線部材40が有する配線(図示せず)が電気的に接続されることで、駆動回路(図示せず)との間を電気的に接続している。ここでは電気配線部材40としてFPC(フレキシブルプリント基板)を用い、駆動回路との間を電気的に接続するようにしたが、駆動ICを実装した基板の配線を、この引き出し電極14の端部に電気的に接続するようにしてもよい。
【0078】
保護膜Pは、各チャネル11内の駆動電極13の表面から、チャネル入口112を通り、取付け基板部22の流路開口部221内に露出するヘッドチップ10の後面10aを経由して、該流路開口部221の内壁面22aに至り、更に、取付け基板部22の上面(マニホールド本体21との接着面)22bを経て、内壁面22aと反対側の外壁面22cに亘って被覆するように形成されていると共に、各チャネル11内の駆動電極13の表面から、チャネル出口111を通り、ヘッドチップ10の前面10bから側面10dに亘って被覆するように形成されている。マニホールド本体21は、この取付け基板部22を被覆する保護膜Pの上に接着剤層50を介して接着されている。
【0079】
このため、マニホールド部材20がヘッドチップ10の後面10aに対して接着する接着端面20aには保護膜Pが介在されず、マニホールド部材20と引き出し電極14との間に保護膜Pが直接介在することが避けられる。これにより、マニホールド部材20を設置する際に、引き出し電極14とマニホールド部材20との間で保護膜Pを損傷する事態を回避できる。
【0080】
一般に、マニホールド部材が、従来のように一部材のみで形成された箱型形状である場合、このようなマニホールド部材をヘッドチップの後面に接合した後に保護膜を被覆形成することは困難である。マニホールド部材内が閉鎖された空間となるため、保護膜の形成材料をチャネル内からヘッドチップの後面及びマニホールド部材の内面に亘って均一に適用することが困難なためである。従って、従来では、ヘッドチップの表面に保護膜を被覆形成した後にマニホールド部材を接着せざるを得ず、ヘッドチップの後面の引き出し電極とマニホールド部材との間に介在される保護膜が損傷し、この損傷によってヘッドチップとマニホールド部材との間の電極にインクが接触して発生する、電気信号の漏洩や電極の腐食による断線が問題となっていた。
【0081】
しかし、本発明によれば、マニホールド部材20がマニホールド本体21と取付け基板部22とで構成されているため、ヘッドチップ10の後面10aに取付け基板部22を接着した後に保護膜Pを被覆形成し、その後にマニホールド本体21を接合することが可能となり、ヘッドチップ10の後面10aの引き出し電極14とマニホールド部材20との間で保護膜Pが損傷する問題はなくなる。ヘッドチップ10の後面10aとマニホールド部材20との間に存在する引き出し電極14は、各チャネル11内の駆動電極13の表面から流路開口部221の内壁面22aに亘って被覆される保護膜Pによって保護されるので、この引き出し電極14とインクとの接触が生じるおそれはない。
【0082】
次に、このインクジェットヘッド1の製造方法について図9を用いて説明する。
【0083】
まず、駆動電極13及び引き出し電極14を形成した後のハーモニカ型のヘッドチップ10と、マニホールド部材20の取付け基板部22とを用意する。ここでは取付け基板部22としてガラス基板を使用した。取付け基板部22には、予めヘッドチップ10の後面10aに開口する全てのチャネル入口を内部に含み得る大きさの一つの流路開口部221が、例えばサンドブラスト加工によって形成されている。
【0084】
この取付け基板部22を、ヘッドチップ10の後面10aに対し、流路開口部221内に全てのチャネル入口が収容されるように、接着剤を用いて接着する(図9(a))。
【0085】
取付け基板部22は、ヘッドチップ10の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップ10の同方向の幅よりも細い。このため、ヘッドチップ10の後面10aは、取付け基板部22よりもチャネル列と直交する方向にはみ出し、引き出し電極14の端部が露出している。この引き出し電極14の露出部に亘ってテープ等のマスク部材Mを貼着しておく(図9(b))。
【0086】
次いで、取付け基板22付きのヘッドチップ10に対し、保護膜PをCVD法によって被覆形成する(図9(c))。
【0087】
保護膜Pは、チャネル11内の駆動電極13の表面から、取付け基板部22の流路開口部221内に露出するヘッドチップ10の後面10aを経由して、該流路開口部221の内壁面22aに至り、更に、取付け基板部22の上面22bを経て、内壁面22aと反対側の外壁面22cに亘り、ここからマスク部材Mの表面にかけて被覆するように形成される。また、同時に、ヘッドチップ10の前面10bからヘッドチップ10の側面10dにかけても被覆形成される。
【0088】
次いで、マスク部材Mを剥離すると、ヘッドチップ10の後面10aには、取付け基板部22からはみ出した引き出し電極14が露出し、電気配線部材40との電気的接続が可能な状態となる(図9(d))。
【0089】
次いで、保護膜Pが被覆形成された取付け基板部22の上面22bに、マニホールド本体21の開口部211の周囲の端面21aを接着剤を用いて接着する。これにより、ヘッドチップ10の後面10aに、マニホールド本体21と取付け基板部22とからなるマニホールド部材20が設けられる(図9(e))。
【0090】
その後は、ヘッドチップ10の前面10bにノズルプレート30を接着し、更に、ヘッドチップ10の後面10bに露出する引き出し電極14に電気配線部材40をACF等によって接続することによってインクジェッヘッド1が完成する。
【0091】
このインクジェットヘッド1によれば、インクと接触するチャネル11内及び取付け基板部22の流路開口部221内では、保護膜Pは完全に連続した膜状となり、保護膜Pの端部が配置されない。従って、万が一、保護膜Pが端部から剥離することがあっても、この保護膜Pの端部はインクと接触しないインクジェットヘッド1の外面に位置することになるため、インクが浸入するおそれが全くない。
【0092】
駆動電極13と引き出し電極14の保護の観点からすれば、保護膜Pは、少なくとも取付け基板部22の流路開口部221の内壁面22aまで形成されていればよいが、本実施形態に示すように、保護膜Pを、マニホールド本体21と取付け基板部22との間に挟持された状態となるように被覆形成すれば、この部位から保護膜Pの剥離が開始されるおそれはなく、保護膜Pの機能を長期に亘って維持することができる。
【0093】
なお、マスク部材Mの剥離は、マニホールド本体21を接着した後やノズルプレート30を接着した後であってもよい。要するに、電気配線部材40を接続する前までに剥離すればよい。
【0094】
また、保護膜Pの被覆形成後にマスク部材Mを剥離して不要な保護膜Pを除去する代わりに、取付け基板部22付きのヘッドチップ10の全面に保護膜Pを被覆形成した後、保護したい部位にマスク部材Mを貼着し、それ以外の不要な保護膜Pをエッチングすることによって除去してもよい。
【0095】
以上の製造方法によれば、ヘッドチップ11の後面10aとマニホールド部材20の取付け基板部22との接着面に保護膜Pが存在せず、各チャネル11内の駆動電極13の表面から流路開口部221の内壁面22aに亘って被覆される保護膜Pによって引き出し電極14とインクとの接触が生じることを回避できるが、本発明は、ヘッドチップ11の後面10aとマニホールド部材20の取付け基板部22との接着面にも保護膜が存在することを排除するものではない。従って、従来同様に、引き出し電極を形成したヘッドチップの後面に保護膜を被覆形成した後に、取付け基板部22を接着し、その後に上記同様にして、各チャネル11内の駆動電極13の表面から流路開口部221の内壁面22aに亘って保護膜Pを被覆形成するようにしてもよい。
【0096】
以上説明したマニホールド部材20の取付け基板部22に形成される流路開口部221の内壁面22aは、ヘッドチップ10の後面10aに対して垂直に切り立つ壁面となるように形成したが、この内壁面22aは、図10に示すように、ヘッドチップ10の後面10aからマニホールド本体21に向けて漸次広がる傾斜面を有するように形成することもできる。
【0097】
このように流路開口部221の内壁面22aが傾斜面を有するようにすると、保護膜Pの形成材料を含む流体が取付け基板部22側からチャネル11内に入り込む際、流路開口部221の内壁面22aの全面に行き亘り易くなる。特に、この流路開口部221の内側に露出する引き出し電極14と内壁面22aとの境界部位が広く開放されるため、この境界部位の保護膜形成材料不足に起因するピンホールの発生のおそれを低減することができる。
【0098】
この内壁面22aがヘッドチップ10の後面10aとなす角度θは、小さすぎると内壁面22aが破損し易くなるため、45°以上88°以下が好ましく、更に好ましくは60°以上80°以下とすることである。
【0099】
傾斜面からなる内壁面22aを有する取付け基板部22は、ガラス基板をサンドブラスト加工する際の処理強度や処理時間を適宜調整することによって形成することができる。ガラス基板以外の基板材料を使用する場合は、ダイシングソー等による切削加工や型成形によって形成することもできる。例えばセラミックスの場合、焼結前のセラミックスを型成形し、焼成する方法によって形成することができる。
【0100】
図11〜図13は、独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッド2を示している。図11はその分解斜視図、図12は縦断面図、図13は取付け基板部を接着した状態のヘッドチップの部分背面図である。図1〜図10と同一符号の部位は同一構成の部位を示している。
【0101】
このヘッドチップ10は、各チャネル列を構成するチャネル11が、インクを吐出するインクチャネル11aとインクを吐出しないダミーチャネル11bとからなり、これらが交互となるように配置された独立駆動タイプのヘッドチップである。独立駆動タイプのヘッドチップも、インクチャネル11aの吐出動作は図5に示した吐出動作と全く同様にして行われるが、インクチャネル11aの両隣はインクを吐出しないダミーチャネル11bとなるため、図6に示したような時分割の吐出動作を行う必要はない。
【0102】
このヘッドチップ10の後面10aに接合されるマニホールド部材20は、取付け基板部22に形成される流路開口部221が、インクチャネル11aのチャネル入口112に対応する部位のみに個別に開口形成されている。従って、ダミーチャネル11bのチャネル入口112に対応する部位は、取付け基板部22によって塞がれている。
【0103】
各流路開口部221は、ヘッドチップ10のインクチャネル11aに1対1に対応して配置されており、その開口面積は、インクチャネル11のチャネル入口112の開口面積よりも大きい。このため、この流路開口部221がインクチャネル11aへのインク供給に際して流路抵抗となることが防止される。
【0104】
このインクジェットヘッド2の場合も、ヘッドチップ10の後面10aの引き出し電極14と取付け基板部22との間に保護膜Pが介在しないように該保護膜Pを被覆形成できるので、上記同様の効果が得られる。
【0105】
この各流路開口部221の内壁面22aも、図10と同様にしてそれぞれ傾斜面とすることができる。
【0106】
ヘッドチップの表面に形成される引き出し電極14は、後面10aのみに形成されるものに限らず、図14に示すヘッドチップ10’のように、側面10d、10dにかけて引き出し形成するようにしてもよい。
【0107】
すなわち、各チャネル11内の駆動電極13に一端が電気的に接続される引き出し電極14は、ヘッドチップ10’の後面10aに形成される後面部分141と、更にこの後面10aからヘッドチップ10’の側面10d、10dにかけて連続して形成される側面部分142とによって構成することができる。
【0108】
このようなヘッドチップ10’を使用したインクジェットヘッド3の縦断面図を図15に示す。
【0109】
このマニホールド部材20の取付け基板部22は、ヘッドチップ10’の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップ10’の同方向の幅と同一となるように形成されている。このためヘッドチップ10’の後面10aはマニホールド部材20から側方にはみ出しておらず、ヘッドチップ10’の側面10d、10dの位置とマニホールド部材20の側面20b、20bの位置とがほぼ面一状となっている。
【0110】
電気配線部材40、40は、ヘッドチップ10’の側面10d、10dに露出する引き出し電極14の側面部分142に対して接続される。この場合、ヘッドチップ10’の側面10d、10dには、保護膜の形成時に予めマスク部材を貼着しておき、保護膜形成後に剥離するか、保護膜の被覆形成後にエッチングによって除去することで、引き出し電極14の側面部分142を露出しておけばよい。
【0111】
このインクジェットヘッド3は、ヘッドチップ10’がマニホールド部材20からはみ出さないので、ヘッドチップ10’の大きさをインクジェットヘッド1、2の場合と同等とすれば、マニホールド部材20を大きくでき、それだけ供給可能なインク量を多くできる。また、マニホールド部材20の大きさをインクジェットヘッド1、2の場合と同等とすれば、ヘッドチップ10’を小さくでき、それだけインクジェットヘッドの小型化、低コスト化を実現できる。
【符号の説明】
【0112】
1、2、3:インクジェットヘッド
10、10’:ヘッドチップ
10a:後面
10b:前面
10c:端縁
10d:側面
11:チャネル
11a:インクチャネル
11b:ダミーチャネル
111:チャネル出口
112:チャネル入口
113:チャネル列と反対側に位置する壁面
12:駆動壁
13:駆動電極
14:引き出し電極
141:後面部分
142:側面部分
20:マニホールド部材
20a:接着端面
20b:側面
21:マニホールド本体
21a:開口部の周囲の端面
211:開口部
212:共通インク室
213:開口部と対向する壁面
214:流入口
215:流出口
22:取付け基板部
22a:内壁面
22b:上面
22c:外壁面
221:流路開口部
30:ノズルプレート
31:ノズル
40:電気配線部材
50、51:接着剤層
M:マスク部材
P:保護膜
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関し、詳しくは、電極をインクから保護する保護膜のリークの発生を低減することのできるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数並設されるチャネル間を区画する隔壁を圧電素子によって形成することで駆動壁とし、この駆動壁に形成された駆動電極に所定電圧の駆動信号を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのとき発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたせん断モード型のインクジェットヘッドとして、ヘッドチップの前面及び後面にそれぞれ各チャネルの出口と入口を配置することによりストレート状のチャネルとしたいわゆるハーモニカ型のヘッドチップを有するものが知られている。
【0003】
ハーモニカ型のヘッドチップは、駆動電極がチャネル内に臨んでいて外部に露出していないため、一端がチャネル内の駆動電極と電気的に接続する引き出し電極を設け、この引き出し電極の他端を、ヘッドチップの後面に引き出すことで、駆動回路との間をつなぐFPC等の外部の電気配線部材との電気的接続を図り得るようにしている。
【0004】
ハーモニカ型のヘッドチップと駆動回路との間をFPC等によって電気的に接続する方法として、特許文献1には、ヘッドチップの後面に、各チャネルに対応するピッチで配線が形成されたガラス板等からなる配線基板を、その端部がヘッドチップの側方に張り出す程度の大判に形成して接合することで、ヘッドチップ側の電極を配線基板の配線によって該配線基板の端部まで電気的に引き出し、この配線基板の端部において駆動回路との間をつなぐFPCを接合することが記載されている。配線基板にはチャネルへのインク供給を行うための貫通穴が形成されており、この配線基板の上に更にマニホールド部材を接合することで、貫通穴を通して各チャネルにインクを供給するようにしている。
【0005】
この特許文献1に記載のインクジェットヘッドでは、配線基板によってFPCをヘッドチップの側方に引き出すように接続することが容易となる利点がある。しかし、駆動回路との間の電気的接続作業の作業性の観点からすると、ヘッドチップの引き出し電極と配線基板の配線とを精密に位置合わせした上で両者を電気的に接続し、更に、この配線基板の端部において、FPCの配線と配線基板の配線とを精密に位置合わせした上で両者を電気的に接続する作業を要し、2度の接続作業を行わなくてはならない。
【0006】
一方、特許文献2の図6には、ハーモニカ型のヘッドチップの後面に、マニホールド部材を直接接合することが記載されている。この場合、各チャネル内の駆動電極は、引き出し電極によってマニホールドからはみ出したヘッドチップの表面、例えば特許文献3に記載のように、ヘッドチップの後面から側面まで引き出し形成することで、該側面においてFPCとの接続を行うことができる。
【0007】
従って、特許文献2の図6に記載のように、ヘッドチップの後面に直接マニホールド部材を接合したインクジェットヘッドによれば、配線基板を介在させないので、ヘッドチップの表面に露出する引き出し電極の端部に対してFPCを直接接続するだけで、駆動回路との間の電気的接続作業が1度で済み、作業性の観点からは好ましい。また、ヘッドチップの側方に大きく張り出す配線基板を使用しない分、インクジェットヘッド全体をコンパクトにできるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−168185号公報
【特許文献2】特開2009−6642号公報
【特許文献3】特開2006−150691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このようにチャネル間の駆動壁を変形させることによってインクに吐出のための圧力を付与するヘッドチップは、チャネルの内面の駆動電極とヘッドチップの表面に形成される引き出し電極とがインクと直に接触することになる。このため、インクとして特に水系インクを使用する場合には、インクと接触する駆動電極及び引き出し電極の表面に絶縁性の保護膜を被覆形成することによって、インクとの接触から電極を保護することが行われている。
【0010】
しかし、特許文献2記載のように、ヘッドチップの後面に直接マニホールド部材を接合することによって駆動回路との間の電気的接続を簡易化したインクジェットヘッドの場合、次のような問題があった。
【0011】
すなわち、マニホールド部材を接着した状態のヘッドチップは、後面側がマニホールド部材によって閉塞された状態となり、保護膜の形成材料が行き渡り難くなるため、保護膜は、ヘッドチップにマニホールド部材を接着する前に被覆形成しなくてはならない。このため、マニホールド部材は、ヘッドチップ表面に被覆形成された保護膜上に接着されることになる。このとき、マニホールド部材をヘッドチップの後面に対して当接させた後、両者の位置ずれを直すように相対的に位置修正した際、両者の接着部位にある保護膜が損傷してしまう場合があった。従って、これによって完成したインクジェットヘッドは、マニホールド部材とヘッドチップとの接着部位の保護膜の損傷部からインクが浸入してインクと電極とが接触してしまい、電気信号の漏洩が生じたり、電極の腐食による断線が生じたりするという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、マニホールド部材をマニホールド本体と取付け基板部とから構成し、保護膜をチャネルの内面から該取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続して形成することにより、ヘッドチップとマニホールド部材との接着面における電極とインクとの接触を防止し、ひいては電気信号の漏洩や電極の腐食による断線を低減できるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
請求項1記載の発明は、チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜と、
前記引き出し電極が形成された前記ヘッドチップの後面に接着され、複数の前記チャネルの入口に対して共通にインクを供給するマニホールド部材とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記マニホールド部材は、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、該マニホールド本体の前記開口部に設けられ、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成され、
前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下であると共に、前記マニホールド本体の前記開口部と連通し、該マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を有し、
前記引き出し電極の他端は、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの表面に露出しており、
前記保護膜は、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続して形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記保護膜は、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成されていることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッドである。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く、前記引き出し電極の他端が、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記引き出し電極の他端は、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0019】
請求項5記載の発明は、前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記ヘッドチップの後面に開口する全ての前記チャネルの入口を内側に含む大きさで一つだけ形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記チャネル列は、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しないダミーチャネルとを交互に有し、
前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記インクチャネルの入口に対応する部位のみに、該インクチャネルの入口の開口面積よりも大きな開口面積で個別に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0021】
請求項7記載の発明は、前記取付け基板部の前記流路開口部の前記内壁面は、前記ヘッドチップの後面から前記マニホールド本体に向けて漸次広がる傾斜面であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0022】
請求項8記載の発明は、前記取付け基板部は、厚さが300μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0023】
請求項9記載の発明は、前記保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0024】
請求項10記載の発明は、前記取付け基板部の外側にはみ出した前記引き出し電極の端部に、駆動回路との間を電気的に接続するための電気配線部材が接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0025】
請求項11記載の発明は、前記電気配線部材は、フレキシブルプリント基板であることを特徴とする請求項10記載のインクジェットヘッドである。
【0026】
請求項12記載の発明は、チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
複数の前記チャネルに対して共通にインクを供給するためのマニホールド部材とを有し、
前記ヘッドチップに対して前記インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜を被覆形成した後に、前記ヘッドチップの後面に前記マニホールド部材を設けるようにしたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記マニホールド部材を、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成し、該取付け基板部を、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下となるように形成すると共に、該取付け基板部に、前記マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を形成し、
前記引き出し電極を形成した後の前記ヘッドチップの後面に前記取付け基板部を接着し、前記引き出し電極の他端を該取付け基板部の外側にはみ出させて前記ヘッドチップの表面に露出させ、
次いで、前記取付け基板部を有する前記ヘッドチップに対し前記保護膜を被覆形成することで、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続した前記保護膜を形成し、
次いで、前記取付け基板部における前記ヘッドチップとの接着面の反対面に前記マニホールド本体の前記開口部を接着することにより、前記開口部と前記流路開口部とを連通させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0027】
請求項13記載の発明は、前記保護膜を、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成することを特徴とする請求項12記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0028】
請求項14記載の発明は、前記取付け基板部を、前記引き出し電極の他端が該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出するように、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く形成することを特徴とする請求項12又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0029】
請求項15記載の発明は、前記引き出し電極の他端を、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出させることを特徴とする請求項12又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、マニホールド部材をマニホールド本体と取付け基板部とから構成し、保護膜をチャネルの内面から該取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続して形成することにより、ヘッドチップとマニホールド部材との接着面における電極とインクとの接触を防止し、ひいては電気信号の漏洩や電極の腐食による断線を低減できるインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】インクジェットヘッドの分解斜視図
【図2】図1に示すインクジェットヘッドの縦断面図
【図3】取付け基板部を接着した状態の図1に示すヘッドチップの部分背面図
【図4】図1に示すヘッドチップとマニホールド部材との接着部位の部分拡大断面図
【図5】(a)〜(c)はインク滴をノズルから射出する動作を説明する図
【図6】(a)〜(c)は3サイクル吐出法を説明する図
【図7】3サイクル吐出法における各組のチャネルに印加されるパルス波形のタイミングチャートの一例を示す図
【図8】3サイクル吐出法における各組のチャネルに印加されるパルス波形のタイミングチャートの他の例を示す図
【図9】図1に示すインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す工程図
【図10】取付け基板部の内壁面形状の他の例を示す部分拡大断面図
【図11】独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドの分解斜視図
【図12】図11に示すインクジェットヘッドの縦断面図
【図13】取付け基板部を接着した状態の図11に示すヘッドチップの部分背面図
【図14】ヘッドチップの引き出し電極の他の例を示す部分斜視図
【図15】図14に示すヘッドチップを有するインクジェットヘッドの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係るインクジェットヘッドは、ハーモニカ型のヘッドチップと、保護膜と、マニホールド部材とを有している。
【0033】
ヘッドチップは、チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置され、これによってチャネル列を構成している。本発明においてヘッドチップに設けられるチャネル列数は特に問わない。ヘッドチップの前面及び後面には、それぞれチャネルの出口及び入口が配置されている。各チャネルは、後面のチャネル入口から前面のチャネル出口にかけて断面形状が変化しないストレート状に形成される。ヘッドチップの後面には、各チャネルの内面に臨む駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成される。
【0034】
このようなヘッドチップは、一般に六面体形状のいわゆるせん断モード型のハーモニカ型ヘッドチップであり、引き出し電極を介してチャネル内に臨む駆動壁両面の各駆動電極に所定電圧の駆動信号を印加することによって該駆動壁をせん断変形させ、チャネル内に供給されたインクに吐出のための圧力変化を与えることによって、ヘッドチップの前面のチャネル入口に対応するように配置されたノズルからインク滴として吐出させる。
【0035】
本発明では、このような六面体形状のハーモニカ型のヘッドチップにおいて、ノズルが配置されてインクが吐出される側の面を「前面」、その反対側の面を「後面」、これら前面と後面との間に挟まれ、該前面及び後面と隣接する面を「側面」と定義する。この側面は、六面体において前面と後面との間に四面存在するが、本発明では、ヘッドチップにおいて多数のチャネルが並設されるチャネル列方向に沿うように配置される二つの側面のことを指すものとする。
【0036】
保護膜は、ヘッドチップの表面に被覆形成されることにより、インクと接する駆動電極及び引き出し電極の表面を該インクから保護する絶縁性の保護膜である。この保護膜は、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition、以下CVD法という。)等のように気相からの蒸着により形成される膜であることが好ましく、特に、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜が好適である。
【0037】
マニホールド部材は、引き出し電極が形成された後のヘッドチップの後面に設けられることで、複数のチャネル入口に対して共通にインクを供給する。本発明において、このマニホールド部材は、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、該マニホールド本体の開口部に設けられ、ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部との二つの部材によって構成される。
【0038】
このうちの取付け基板部は、ヘッドチップの後面におけるチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下であると共に、マニホールド本体の開口部と連通し、該マニホールド本体内のインクをヘッドチップの複数のチャネル入口に供給するための流路開口部を有する。従って、この流路開口部内にチャネル入口が配置される。
【0039】
引き出し電極の他端は、この取付け基板部の外側にはみ出してヘッドチップの表面に露出している。この露出した引き出し電極の端部が、駆動回路との間を電気的に接続するための外部の電気配線部材との接続部位となる。保護膜は、チャネルの内面から少なくとも取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続して形成され、インクと接触する面に配置される駆動電極及び引き出し電極を被覆する。
【0040】
従って、本発明によれば、マニホールド部材の取付け基板部とヘッドチップの後面との間に保護膜が存在しないインクジェットヘッドとすることができる。この場合、ヘッドチップの後面と直接接着されるマニホールド部材の取付け基板部を位置修正しながら接着しても、この接着面には保護膜がないので、従来のように保護膜を損傷させるおそれはなく、保護膜の損傷による電極とインクとの接触を防止できる。また、マニホールド部材は、この取付け基板部上にマニホールド本体を接着することによって形成されるが、この接着面には電極が存在しないため、仮にこの接着面において保護膜が損傷したとしても電極とインクとの接触は生じない。
【0041】
なお、チャネルの内面から取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけてとは、チャネルの内面から連続する保護膜の端部が、流路開口部の内壁面の少なくとも一部を被覆していることを意味する。保護膜の端部が流路開口部の内壁面の少なくとも一部を被覆していれば、駆動電極及び引き出し電極におけるチャネル内と流路開口部内に露出する部位を保護膜で完全に被覆することができる。
【0042】
より好ましくは、保護膜は、チャネルの内面から取付け基板部における流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部とマニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成されることである。このようにすると、保護膜の端部がインクと接触する可能性がないため、万が一、端部で膜剥がれが生じても電極とインクとの接触が発生することはない。
【0043】
ヘッドチップの後面におけるマニホールド部材の形成方法は、取付け基板部をヘッドチップの後面に接着し、次いでチャネルの内面から少なくとも取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続した保護膜を形成した後に、該取付け基板部におけるヘッドチップとの接着面の反対面に、マニホールド本体の開口部を接着することによって行うことができる。マニホールド本体の開口部は取付け基板部の流路開口部と連通し、ヘッドチップの各チャネルに対してインク供給が可能となる。
【0044】
これにより、チャネルの内面から取付け基板部における流路開口部の内壁面にかけて連続した保護膜を容易に形成することができ、マニホールド部材の取付け基板部とヘッドチップの後面との間に配置される電極を保護膜によって保護することができる。
【0045】
以下、本発明の具体例について図面を用いて更に説明する。
【0046】
図1は本発明に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図2はその縦断面図、図3は取付け基板部を接着した状態のヘッドチップの部分背面図、図4はヘッドチップとマニホールド部材との接合部位の部分拡大断面図、図5はヘッドチップのインク吐出時の作動を示す図、図6はインクジェットヘッドの3サイクル吐出動作を説明する図、図7は吐出パルスの一例を示す図、図8は吐出パルスの他の一例を示す図である。
【0047】
インクジェットヘッド1は、ハーモニカ型のヘッドチップ10と、このヘッドチップ10の後面10aに接着されるマニホールド部材20と、ヘッドチップ10の前面10bに接着されるノズルプレート30と、ヘッドチップ10と外部の駆動回路(図示せず)との間を電気的に接続するための電気配線部材40とを有している。
【0048】
このヘッドチップ10は、多数のチャネル11が並列されてなるチャネル列を2列有している。各チャネル列は、チャネル11と圧電素子(PZT)を有する駆動壁12とが交互に配置され、各チャネル11は、ヘッドチップ10の前面10bと後面10aとに開口して、それぞれチャネル出口111とチャネル入口112とを形成している。
【0049】
各チャネル11の内面には駆動電極13が形成されている。駆動電極13は、各チャネル11の内面のうちの、少なくとも対向する駆動壁12の表面と、隣接するチャネル列と反対側に位置する壁面113とに亘って形成されている。このうち、この壁面113に形成された駆動電極13には、チャネル入口112を通って引き出し電極14の一端が電気的に接続されている。
【0050】
引き出し電極14は、各チャネル11に対応してヘッドチップ10の後面10aに形成されており、一端がチャネル入口112を経てチャネル11内の駆動電極13に電気的に接続され、他端がヘッドチップ10の後面10aにおいて、それぞれ隣接するチャネル列とは反対側の端縁10c、10c又はその近傍まで延びている。これにより、各チャネル11内の駆動電極13は、引き出し電極14によってヘッドチップ10の後面10aに引き出され、チャネル11と同ピッチで配列されている。
【0051】
このヘッドチップ10は、2列のチャネル列の全てのチャネル11がインクを吐出可能なインクチャネルとされており、各チャネル11の駆動電極13に駆動信号発生部100の制御により吐出パルスが印加されると、図5に例示する動作によってインク滴をノズル31から射出する。
【0052】
なお、各チャネル11の動作は同一であるため、図5では1列のチャネル列の一部のチャネルのみを示している。また、図5においてノズルは省略している。
【0053】
駆動壁12は、その一部に圧電素子を有していればよいが、ここでは、それぞれ分極方向(矢印で示す。)が反対方向となる上壁部12aと下壁部12bによって構成されている。まず、駆動電極13A、13B、13Cのいずれにも吐出パルスが印加されない時は、駆動壁12A、12B、12Cのいずれも変形しない。図5(a)に示す状態において、駆動電極13A及び13Cを接地すると共に駆動電極13Bに吐出パルスを印加すると、駆動壁12B、12Cを構成する圧電材料の分極方向に直角な方向の電界が生じる。これにより、各駆動壁12B、12C共に、それぞれ上壁部12a、下壁部12bの接合面にズリ変形を生じ、図5(b)に示すように駆動壁12B、12Cは互いに外側に向けて変形し、チャネル11Bの容積を拡大してチャネル11B内に負の圧力が生じてインクが流れ込む(Draw)。
【0054】
また、この状態から電位を0に戻すと、駆動壁12B、12Cは図5(b)に示す膨張位置から図5(a)に示す中立位置に戻り、チャネル11B内のインクに高い圧力が掛かる(Release)。
【0055】
次いで、図5(c)に示すように、駆動壁12B、12Cを互いに逆方向に変形するように吐出パルスを印加して、チャネル11Bの容積を縮小すると、チャネル11B内に正の圧力が生じる(Reinforce)。
【0056】
これによりチャネル11Bを満たしているインクの一部によるノズル内のインクメニスカスがノズルから押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから吐出する程に大きくなると、インク滴はノズルから吐出する。他の各チャネルも吐出パルスの印加によって上記と同様に動作する。このようなインク滴の射出法をDRR駆動法と呼び、せん断モードタイプのインクジェットヘッドの代表的な駆動法である。
【0057】
このように少なくとも一部が圧電素子で構成された駆動壁12によって隔てられた複数のチャネル11を有するインクジェットヘッド1を駆動する場合、一つのチャネル11の駆動壁12が吐出の動作をすると、隣のチャネル11が影響を受けるため、通常、複数のチャネル11のうち、互いに1本以上のチャネル11を挟んで離れているチャネル11をまとめて1つの組となすようにして、複数のチャネル11を2つ以上の組に分割し、各組毎にインク滴の吐出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全チャネル11を駆動してベタ画像を出力する場合には、チャネル11を2チャネルおきに選んで3相に分けて射出する、いわゆる3サイクル吐出法が行われる。
【0058】
かかる3サイクル吐出動作について図6を用いて更に説明する。図6に示す例では、インクジェットヘッドはチャネルがA1、B1、C1、A2、B2、C2、A3、B3、C3の9つのチャネル11で構成されているとして説明する。ここでも、1列のチャネル列の一部のチャネルのみを示している。また、このときのA、B、Cの各組のチャネル11に印加されるパルス波形のタイミングチャートの一例を図7に示す。
【0059】
インク滴の吐出時には、まずA組(A1、A2、A3)の各チャネルの駆動電極に電圧を掛け、その両隣のチャネルの駆動電極を接地する。例えばA組のチャネルに1AL幅の正電圧+Vonの矩形波からなる吐出パルスを掛けると、吐出したいA組のチャネルの駆動壁が外側に変形し、そのチャネル11内に負圧が発生する。この負圧により、後述するマニホールド部材20からA組のチャネル11にインクが流れ込む(Draw)。
【0060】
この状態を1AL間保つと、圧力が正圧に反転するので、このタイミングで駆動電極を接地すると、駆動壁の変形が元に戻り、高い圧力がA組のチャネル11内のインクに掛かる(Release)。更に、同じタイミングでA組の各チャネルの駆動電極に負電圧−Voffの矩形波を掛けると、駆動壁が内側に変形し、更に高い圧力がインクに掛かり(Reinforce)、ノズルからインク柱が押し出される。1AL後、圧力が反転してチャネル11内が負圧になり、更に1AL経過すると、チャネル11内の圧力が反転して正圧になるので、このタイミング(2AL経過後)で駆動電極を接地すると、駆動壁の変形が元に戻り、残留する圧力波をキャンセルできる。
【0061】
ここで、この吐出パルスの電圧は、|Von|≧|Voff|である。
【0062】
続いてB組(B1、B2、B3)の各チャネル11、更に続いてC組(C1、C2、C3)の各チャネル11へと上記同様に動作する。
【0063】
なお、AL(Acoustic Length)とは、チャネルの音響的共振周期の1/2である。このALは、駆動壁12に矩形波の電圧パルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの立ち上がり10%と波高値電圧からの立ち下がり10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0064】
かかるせん断モードタイプのインクジェットヘッドでは、駆動壁12の変形は該駆動壁12の両側に設けられる駆動電極13に掛かる電圧差で起こるので、インク滴の吐出を行うチャネル11の駆動電極13に負電圧を掛ける代わりに、図8に示すように、インク滴の吐出を行うチャネル11の駆動電極13を接地して、その両隣のチャネル11の駆動電極13に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば、正電圧だけで駆動させることができるために好ましい態様である。
【0065】
次に、マニホールド部材20について説明する。
【0066】
マニホールド部材20は、マニホールド本体21と取付け基板部22との二つの部材によって構成されている。
【0067】
マニホールド本体21は、例えば液晶ポリマー等の合成樹脂材からなる箱型形状を呈しており、その一面が開放された開口部211を有すると共に、内部が共通インク室212とされている。開口部211と対向する壁面213には、共通インク室212内にインクを流入させるための流入口214と、共通インク室212内のインクを流出させるための流出口215が設けられている。
【0068】
取付け基板部22は、マニホールド本体21の開口部211の周囲の端面21aに接着剤層50を介して接着され、マニホールド本体21と一体となることによってマニホールド部材20を構成している。この取付け基板部22は、引き出し電極14が形成された後のヘッドチップ10の後面10aに対して、引き出し電極14の一部を覆うように接着剤層51を介して接着され、この取付け基板部22上にマニホールド本体21が接着されることによって、ヘッドチップ10の後面10aにマニホールド部材20が設けられる。
【0069】
取付け基板部22は、中央部に、マニホールド本体21の開口部211と連通する一つの流路開口部221が形成されている。この流路開口部221は、ヘッドチップ10の後面10aに開口する2列のチャネル列の全てのチャネル入口112を内部に含むことができる大きさを有している。従って、マニホールド本体21と取付け基板部22とが一体に接着された状態で、マニホールド本体21の開口部211と取付け基板部22の流路開口部221とが連通し、マニホールド本体21の共通インク室212内のインクを、流路開口部221を経て複数のチャネル11に対して共通に供給可能となっている。
【0070】
更に詳細に説明すると、取付け基板部22は、ヘッドチップ10の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅W1が、該ヘッドチップ10の同方向の幅W2よりも小さい。このW1はマニホールド本体21の同方向の幅と同じである。一方、流路開口部221は、ヘッドチップ10の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅W3が、2列のチャネル列の同方向の全幅W4と同等以上となっている。
【0071】
このため、ヘッドチップ10の後面10aの端縁10c、10c側は、マニホールド部材20よりも外側に、それぞれ(W2−W1)/2だけはみ出し、このはみ出した部位における後面10aにそれぞれ引き出し電極14の端部側が露出している。また、取付け基板部22の流路開口部221内には、全てのチャネル入口112が開口している。
【0072】
この取付け基板部22は、マニホールド本体21と同一材質とすることもできるが、異なる材質によって形成することもできる。取付け基板部22の材質としては、例えばガラス板、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、ジルコニア、炭化珪素等が挙げられ、これらの中から目的に応じて選択して使用することができる。また、複数種類を積層して使用することもできる。
【0073】
取付け基板部22の厚みは、300μm以上700μm以下とすることが好ましい。300μm未満では材質の選択だけでは十分な強度を確保することが難しくなる。700μmを超えるようになると、後述する保護膜の形成材料を流路開口部221から浸入させ難くなるため、700μm以下とすることが好ましい。
【0074】
この取付け基板部22は、ヘッドチップ10に対して直接接着されるため、製造過程における加熱時又は駆動時の発熱による熱膨張に起因する反りや剥離を防止する観点から、その線膨張係数がヘッドチップ10の線膨張係数に近いことが好ましい。
【0075】
また、取付け基板部22の材質のヤング率は、ヘッドチップ10のヤング率よりも低いとヘッドチップの反りを抑制する効果が期待でき、例えばガラス板(ヤング率:67.3GPa)であると、ヘッドチップ10を構成するPZTのヤング率(76.8GPa)に近いので、ヘッドチップ10の反りが生じにくい。
【0076】
ノズルプレート30は、ヘッドチップ10の前面10bに接着されており、各チャネル出口111に対応する位置にノズル31が開設されている。
【0077】
電気配線部材40は、ヘッドチップ10の後面10aにおいて、マニホールド部材20よりも外側にそれぞれはみ出した部位に露出する引き出し電極14の端部に、該電気配線部材40が有する配線(図示せず)が電気的に接続されることで、駆動回路(図示せず)との間を電気的に接続している。ここでは電気配線部材40としてFPC(フレキシブルプリント基板)を用い、駆動回路との間を電気的に接続するようにしたが、駆動ICを実装した基板の配線を、この引き出し電極14の端部に電気的に接続するようにしてもよい。
【0078】
保護膜Pは、各チャネル11内の駆動電極13の表面から、チャネル入口112を通り、取付け基板部22の流路開口部221内に露出するヘッドチップ10の後面10aを経由して、該流路開口部221の内壁面22aに至り、更に、取付け基板部22の上面(マニホールド本体21との接着面)22bを経て、内壁面22aと反対側の外壁面22cに亘って被覆するように形成されていると共に、各チャネル11内の駆動電極13の表面から、チャネル出口111を通り、ヘッドチップ10の前面10bから側面10dに亘って被覆するように形成されている。マニホールド本体21は、この取付け基板部22を被覆する保護膜Pの上に接着剤層50を介して接着されている。
【0079】
このため、マニホールド部材20がヘッドチップ10の後面10aに対して接着する接着端面20aには保護膜Pが介在されず、マニホールド部材20と引き出し電極14との間に保護膜Pが直接介在することが避けられる。これにより、マニホールド部材20を設置する際に、引き出し電極14とマニホールド部材20との間で保護膜Pを損傷する事態を回避できる。
【0080】
一般に、マニホールド部材が、従来のように一部材のみで形成された箱型形状である場合、このようなマニホールド部材をヘッドチップの後面に接合した後に保護膜を被覆形成することは困難である。マニホールド部材内が閉鎖された空間となるため、保護膜の形成材料をチャネル内からヘッドチップの後面及びマニホールド部材の内面に亘って均一に適用することが困難なためである。従って、従来では、ヘッドチップの表面に保護膜を被覆形成した後にマニホールド部材を接着せざるを得ず、ヘッドチップの後面の引き出し電極とマニホールド部材との間に介在される保護膜が損傷し、この損傷によってヘッドチップとマニホールド部材との間の電極にインクが接触して発生する、電気信号の漏洩や電極の腐食による断線が問題となっていた。
【0081】
しかし、本発明によれば、マニホールド部材20がマニホールド本体21と取付け基板部22とで構成されているため、ヘッドチップ10の後面10aに取付け基板部22を接着した後に保護膜Pを被覆形成し、その後にマニホールド本体21を接合することが可能となり、ヘッドチップ10の後面10aの引き出し電極14とマニホールド部材20との間で保護膜Pが損傷する問題はなくなる。ヘッドチップ10の後面10aとマニホールド部材20との間に存在する引き出し電極14は、各チャネル11内の駆動電極13の表面から流路開口部221の内壁面22aに亘って被覆される保護膜Pによって保護されるので、この引き出し電極14とインクとの接触が生じるおそれはない。
【0082】
次に、このインクジェットヘッド1の製造方法について図9を用いて説明する。
【0083】
まず、駆動電極13及び引き出し電極14を形成した後のハーモニカ型のヘッドチップ10と、マニホールド部材20の取付け基板部22とを用意する。ここでは取付け基板部22としてガラス基板を使用した。取付け基板部22には、予めヘッドチップ10の後面10aに開口する全てのチャネル入口を内部に含み得る大きさの一つの流路開口部221が、例えばサンドブラスト加工によって形成されている。
【0084】
この取付け基板部22を、ヘッドチップ10の後面10aに対し、流路開口部221内に全てのチャネル入口が収容されるように、接着剤を用いて接着する(図9(a))。
【0085】
取付け基板部22は、ヘッドチップ10の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップ10の同方向の幅よりも細い。このため、ヘッドチップ10の後面10aは、取付け基板部22よりもチャネル列と直交する方向にはみ出し、引き出し電極14の端部が露出している。この引き出し電極14の露出部に亘ってテープ等のマスク部材Mを貼着しておく(図9(b))。
【0086】
次いで、取付け基板22付きのヘッドチップ10に対し、保護膜PをCVD法によって被覆形成する(図9(c))。
【0087】
保護膜Pは、チャネル11内の駆動電極13の表面から、取付け基板部22の流路開口部221内に露出するヘッドチップ10の後面10aを経由して、該流路開口部221の内壁面22aに至り、更に、取付け基板部22の上面22bを経て、内壁面22aと反対側の外壁面22cに亘り、ここからマスク部材Mの表面にかけて被覆するように形成される。また、同時に、ヘッドチップ10の前面10bからヘッドチップ10の側面10dにかけても被覆形成される。
【0088】
次いで、マスク部材Mを剥離すると、ヘッドチップ10の後面10aには、取付け基板部22からはみ出した引き出し電極14が露出し、電気配線部材40との電気的接続が可能な状態となる(図9(d))。
【0089】
次いで、保護膜Pが被覆形成された取付け基板部22の上面22bに、マニホールド本体21の開口部211の周囲の端面21aを接着剤を用いて接着する。これにより、ヘッドチップ10の後面10aに、マニホールド本体21と取付け基板部22とからなるマニホールド部材20が設けられる(図9(e))。
【0090】
その後は、ヘッドチップ10の前面10bにノズルプレート30を接着し、更に、ヘッドチップ10の後面10bに露出する引き出し電極14に電気配線部材40をACF等によって接続することによってインクジェッヘッド1が完成する。
【0091】
このインクジェットヘッド1によれば、インクと接触するチャネル11内及び取付け基板部22の流路開口部221内では、保護膜Pは完全に連続した膜状となり、保護膜Pの端部が配置されない。従って、万が一、保護膜Pが端部から剥離することがあっても、この保護膜Pの端部はインクと接触しないインクジェットヘッド1の外面に位置することになるため、インクが浸入するおそれが全くない。
【0092】
駆動電極13と引き出し電極14の保護の観点からすれば、保護膜Pは、少なくとも取付け基板部22の流路開口部221の内壁面22aまで形成されていればよいが、本実施形態に示すように、保護膜Pを、マニホールド本体21と取付け基板部22との間に挟持された状態となるように被覆形成すれば、この部位から保護膜Pの剥離が開始されるおそれはなく、保護膜Pの機能を長期に亘って維持することができる。
【0093】
なお、マスク部材Mの剥離は、マニホールド本体21を接着した後やノズルプレート30を接着した後であってもよい。要するに、電気配線部材40を接続する前までに剥離すればよい。
【0094】
また、保護膜Pの被覆形成後にマスク部材Mを剥離して不要な保護膜Pを除去する代わりに、取付け基板部22付きのヘッドチップ10の全面に保護膜Pを被覆形成した後、保護したい部位にマスク部材Mを貼着し、それ以外の不要な保護膜Pをエッチングすることによって除去してもよい。
【0095】
以上の製造方法によれば、ヘッドチップ11の後面10aとマニホールド部材20の取付け基板部22との接着面に保護膜Pが存在せず、各チャネル11内の駆動電極13の表面から流路開口部221の内壁面22aに亘って被覆される保護膜Pによって引き出し電極14とインクとの接触が生じることを回避できるが、本発明は、ヘッドチップ11の後面10aとマニホールド部材20の取付け基板部22との接着面にも保護膜が存在することを排除するものではない。従って、従来同様に、引き出し電極を形成したヘッドチップの後面に保護膜を被覆形成した後に、取付け基板部22を接着し、その後に上記同様にして、各チャネル11内の駆動電極13の表面から流路開口部221の内壁面22aに亘って保護膜Pを被覆形成するようにしてもよい。
【0096】
以上説明したマニホールド部材20の取付け基板部22に形成される流路開口部221の内壁面22aは、ヘッドチップ10の後面10aに対して垂直に切り立つ壁面となるように形成したが、この内壁面22aは、図10に示すように、ヘッドチップ10の後面10aからマニホールド本体21に向けて漸次広がる傾斜面を有するように形成することもできる。
【0097】
このように流路開口部221の内壁面22aが傾斜面を有するようにすると、保護膜Pの形成材料を含む流体が取付け基板部22側からチャネル11内に入り込む際、流路開口部221の内壁面22aの全面に行き亘り易くなる。特に、この流路開口部221の内側に露出する引き出し電極14と内壁面22aとの境界部位が広く開放されるため、この境界部位の保護膜形成材料不足に起因するピンホールの発生のおそれを低減することができる。
【0098】
この内壁面22aがヘッドチップ10の後面10aとなす角度θは、小さすぎると内壁面22aが破損し易くなるため、45°以上88°以下が好ましく、更に好ましくは60°以上80°以下とすることである。
【0099】
傾斜面からなる内壁面22aを有する取付け基板部22は、ガラス基板をサンドブラスト加工する際の処理強度や処理時間を適宜調整することによって形成することができる。ガラス基板以外の基板材料を使用する場合は、ダイシングソー等による切削加工や型成形によって形成することもできる。例えばセラミックスの場合、焼結前のセラミックスを型成形し、焼成する方法によって形成することができる。
【0100】
図11〜図13は、独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッド2を示している。図11はその分解斜視図、図12は縦断面図、図13は取付け基板部を接着した状態のヘッドチップの部分背面図である。図1〜図10と同一符号の部位は同一構成の部位を示している。
【0101】
このヘッドチップ10は、各チャネル列を構成するチャネル11が、インクを吐出するインクチャネル11aとインクを吐出しないダミーチャネル11bとからなり、これらが交互となるように配置された独立駆動タイプのヘッドチップである。独立駆動タイプのヘッドチップも、インクチャネル11aの吐出動作は図5に示した吐出動作と全く同様にして行われるが、インクチャネル11aの両隣はインクを吐出しないダミーチャネル11bとなるため、図6に示したような時分割の吐出動作を行う必要はない。
【0102】
このヘッドチップ10の後面10aに接合されるマニホールド部材20は、取付け基板部22に形成される流路開口部221が、インクチャネル11aのチャネル入口112に対応する部位のみに個別に開口形成されている。従って、ダミーチャネル11bのチャネル入口112に対応する部位は、取付け基板部22によって塞がれている。
【0103】
各流路開口部221は、ヘッドチップ10のインクチャネル11aに1対1に対応して配置されており、その開口面積は、インクチャネル11のチャネル入口112の開口面積よりも大きい。このため、この流路開口部221がインクチャネル11aへのインク供給に際して流路抵抗となることが防止される。
【0104】
このインクジェットヘッド2の場合も、ヘッドチップ10の後面10aの引き出し電極14と取付け基板部22との間に保護膜Pが介在しないように該保護膜Pを被覆形成できるので、上記同様の効果が得られる。
【0105】
この各流路開口部221の内壁面22aも、図10と同様にしてそれぞれ傾斜面とすることができる。
【0106】
ヘッドチップの表面に形成される引き出し電極14は、後面10aのみに形成されるものに限らず、図14に示すヘッドチップ10’のように、側面10d、10dにかけて引き出し形成するようにしてもよい。
【0107】
すなわち、各チャネル11内の駆動電極13に一端が電気的に接続される引き出し電極14は、ヘッドチップ10’の後面10aに形成される後面部分141と、更にこの後面10aからヘッドチップ10’の側面10d、10dにかけて連続して形成される側面部分142とによって構成することができる。
【0108】
このようなヘッドチップ10’を使用したインクジェットヘッド3の縦断面図を図15に示す。
【0109】
このマニホールド部材20の取付け基板部22は、ヘッドチップ10’の後面10aにおけるチャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップ10’の同方向の幅と同一となるように形成されている。このためヘッドチップ10’の後面10aはマニホールド部材20から側方にはみ出しておらず、ヘッドチップ10’の側面10d、10dの位置とマニホールド部材20の側面20b、20bの位置とがほぼ面一状となっている。
【0110】
電気配線部材40、40は、ヘッドチップ10’の側面10d、10dに露出する引き出し電極14の側面部分142に対して接続される。この場合、ヘッドチップ10’の側面10d、10dには、保護膜の形成時に予めマスク部材を貼着しておき、保護膜形成後に剥離するか、保護膜の被覆形成後にエッチングによって除去することで、引き出し電極14の側面部分142を露出しておけばよい。
【0111】
このインクジェットヘッド3は、ヘッドチップ10’がマニホールド部材20からはみ出さないので、ヘッドチップ10’の大きさをインクジェットヘッド1、2の場合と同等とすれば、マニホールド部材20を大きくでき、それだけ供給可能なインク量を多くできる。また、マニホールド部材20の大きさをインクジェットヘッド1、2の場合と同等とすれば、ヘッドチップ10’を小さくでき、それだけインクジェットヘッドの小型化、低コスト化を実現できる。
【符号の説明】
【0112】
1、2、3:インクジェットヘッド
10、10’:ヘッドチップ
10a:後面
10b:前面
10c:端縁
10d:側面
11:チャネル
11a:インクチャネル
11b:ダミーチャネル
111:チャネル出口
112:チャネル入口
113:チャネル列と反対側に位置する壁面
12:駆動壁
13:駆動電極
14:引き出し電極
141:後面部分
142:側面部分
20:マニホールド部材
20a:接着端面
20b:側面
21:マニホールド本体
21a:開口部の周囲の端面
211:開口部
212:共通インク室
213:開口部と対向する壁面
214:流入口
215:流出口
22:取付け基板部
22a:内壁面
22b:上面
22c:外壁面
221:流路開口部
30:ノズルプレート
31:ノズル
40:電気配線部材
50、51:接着剤層
M:マスク部材
P:保護膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜と、
前記引き出し電極が形成された前記ヘッドチップの後面に接着され、複数の前記チャネルの入口に対して共通にインクを供給するマニホールド部材とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記マニホールド部材は、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、該マニホールド本体の前記開口部に設けられ、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成され、
前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下であると共に、前記マニホールド本体の前記開口部と連通し、該マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を有し、
前記引き出し電極の他端は、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの表面に露出しており、
前記保護膜は、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続して形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記保護膜は、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く、前記引き出し電極の他端が、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記引き出し電極の他端は、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記ヘッドチップの後面に開口する全ての前記チャネルの入口を内側に含む大きさで一つだけ形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記チャネル列は、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しないダミーチャネルとを交互に有し、
前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記インクチャネルの入口に対応する部位のみに、該インクチャネルの入口の開口面積よりも大きな開口面積で個別に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記取付け基板部の前記流路開口部の前記内壁面は、前記ヘッドチップの後面から前記マニホールド本体に向けて漸次広がる傾斜面であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記取付け基板部は、厚さが300μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記取付け基板部の外側にはみ出した前記引き出し電極の端部に、駆動回路との間を電気的に接続するための電気配線部材が接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記電気配線部材は、フレキシブルプリント基板であることを特徴とする請求項10記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
複数の前記チャネルに対して共通にインクを供給するためのマニホールド部材とを有し、
前記ヘッドチップに対して前記インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜を被覆形成した後に、前記ヘッドチップの後面に前記マニホールド部材を設けるようにしたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記マニホールド部材を、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成し、該取付け基板部を、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下となるように形成すると共に、該取付け基板部に、前記マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を形成し、
前記引き出し電極を形成した後の前記ヘッドチップの後面に前記取付け基板部を接着し、前記引き出し電極の他端を該取付け基板部の外側にはみ出させて前記ヘッドチップの表面に露出させ、
次いで、前記取付け基板部を有する前記ヘッドチップに対し前記保護膜を被覆形成することで、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続した前記保護膜を形成し、
次いで、前記取付け基板部における前記ヘッドチップとの接着面の反対面に前記マニホールド本体の前記開口部を接着することにより、前記開口部と前記流路開口部とを連通させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記保護膜を、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成することを特徴とする請求項12記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記取付け基板部を、前記引き出し電極の他端が該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出するように、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く形成することを特徴とする請求項12又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記引き出し電極の他端を、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出させることを特徴とする請求項13又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項1】
チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜と、
前記引き出し電極が形成された前記ヘッドチップの後面に接着され、複数の前記チャネルの入口に対して共通にインクを供給するマニホールド部材とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記マニホールド部材は、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、該マニホールド本体の前記開口部に設けられ、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成され、
前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下であると共に、前記マニホールド本体の前記開口部と連通し、該マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を有し、
前記引き出し電極の他端は、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの表面に露出しており、
前記保護膜は、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続して形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記保護膜は、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成されていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記取付け基板部は、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く、前記引き出し電極の他端が、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記引き出し電極の他端は、該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出していることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記ヘッドチップの後面に開口する全ての前記チャネルの入口を内側に含む大きさで一つだけ形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記チャネル列は、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しないダミーチャネルとを交互に有し、
前記取付け基板部の前記流路開口部は、前記インクチャネルの入口に対応する部位のみに、該インクチャネルの入口の開口面積よりも大きな開口面積で個別に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記取付け基板部の前記流路開口部の前記内壁面は、前記ヘッドチップの後面から前記マニホールド本体に向けて漸次広がる傾斜面であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記取付け基板部は、厚さが300μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記取付け基板部の外側にはみ出した前記引き出し電極の端部に、駆動回路との間を電気的に接続するための電気配線部材が接続されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記電気配線部材は、フレキシブルプリント基板であることを特徴とする請求項10記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
チャネルと圧電素子を有する駆動壁とが交互に配置されると共に前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口及び入口が配置され、該後面に、前記チャネル内の前記駆動電極に一端が電気的に接続される引き出し電極がそれぞれ形成されてなるヘッドチップと、
複数の前記チャネルに対して共通にインクを供給するためのマニホールド部材とを有し、
前記ヘッドチップに対して前記インクと接する前記駆動電極及び前記引き出し電極の表面を該インクから保護する保護膜を被覆形成した後に、前記ヘッドチップの後面に前記マニホールド部材を設けるようにしたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記マニホールド部材を、一面にインクを供給するための開口部を有するマニホールド本体と、前記ヘッドチップの後面に対する接着基部となる取付け基板部とで構成し、該取付け基板部を、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅以下となるように形成すると共に、該取付け基板部に、前記マニホールド本体内のインクを前記ヘッドチップの複数の前記チャネルの入口に供給するための流路開口部を形成し、
前記引き出し電極を形成した後の前記ヘッドチップの後面に前記取付け基板部を接着し、前記引き出し電極の他端を該取付け基板部の外側にはみ出させて前記ヘッドチップの表面に露出させ、
次いで、前記取付け基板部を有する前記ヘッドチップに対し前記保護膜を被覆形成することで、前記チャネルの内面から少なくとも前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面にかけて連続した前記保護膜を形成し、
次いで、前記取付け基板部における前記ヘッドチップとの接着面の反対面に前記マニホールド本体の前記開口部を接着することにより、前記開口部と前記流路開口部とを連通させることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記保護膜を、前記チャネルの内面から前記取付け基板部における前記流路開口部の内壁面を通り、該取付け基板部と前記マニホールド本体との間に挟持されるように連続して形成することを特徴とする請求項12記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記取付け基板部を、前記引き出し電極の他端が該取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に露出するように、前記ヘッドチップの後面における前記チャネル列と直交する方向の幅が該ヘッドチップの同方向の幅よりも細く形成することを特徴とする請求項12又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記引き出し電極の他端を、前記取付け基板部の外側にはみ出して前記ヘッドチップの後面に隣接する側面に露出させることを特徴とする請求項13又は13記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−6296(P2013−6296A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138956(P2011−138956)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
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