説明

インクジェットヘッド用ハウジング

【課題】簡易な構成にて高精度にインクジェットヘッドの位置調整が可能なメンテナンス性の良いインクジェットヘッド用ハウジングを提供する。
【解決手段】ヘッドハウジング11は、ハウジングベース21とヘッドホルダ22を備える。ハウジングベース21上には、接合ピン26a,26bが立設されており、ヘッドホルダ22のピン孔28a,28bに挿入される。接合ピン26aは、円形のピン孔28aに対し、X軸方向,Y軸方向に間隙を有する遊嵌状態で挿入される。接合ピン26bは、長孔のピン孔28bに対し、X軸方向に間隙を有しつつ、Y軸方向にはほとんど遊びなく挿入される。ハウジングベース21は、アライメント装置に、ヘッドハウジング11がインクジェット記録装置に搭載される場合と同一の位置条件で位置決め固定され、アライメント装置でのヘッド位置調整が完了した状態でヘッドホルダ22と固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式によりガラス基板等の記録対象物に印字や描画等の記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に、インクジェットヘッドを保持しつつ装置上に位置決め配置するためのインクジェットヘッド用ハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置では、インクジェットヘッドに設けたノズルからごく微小なインク滴を記録対象物に対して吐出し、所望の印字や画像記録等を行っている。このようなインクジェット記録装置は、記録対象物から離間した状態で記録動作を行うことが可能なため、様々な材質の記録対象物に印字等を行うことが可能であり、幅広い用途に利用されてきている。
【0003】
近年では、他の記録方式に比べて高精細な記録が可能であることから、カラー液晶ディスプレイ用のカラーフィルタや有機EL等の製造にもインクジェット方式が採用され始めている。カラーテレビやパーソナルコンピュータの液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルタでは、非常に細密な画像記録が必要となるため、そこに用いられるインクジェット記録装置も高精度であることが要求され、インクジェットヘッドの位置決め精度も高いレベルが求められている。
【0004】
一方、このようなインクジェット記録方式には、駆動対象の違いにより、次の2通りの方法が存在する。すなわち、インクジェットヘッドを主走査方向に移動させながらノズルより液滴を吐出し、記録対象物に記録を行う方法と、インクジェットヘッドは固定し、記録対象物を移動させながら記録を行う方法が存在する。インクジェットヘッドを走査させる前者の方法は、記録対象物が大きく、インクジェットヘッドが一走査にて記録可能なサイズよりも大きな面積を有する場合に多く採用されている。これは、装置のサイズを小さくできることや、大面積の記録対象物を精度良く移動させる必要がないというメリットがあるためである。
【0005】
記録対象物の幅がインクジェットヘッドにて記録可能な幅よりも広い場合、前者の方法では、まず、インクジェットヘッドを主走査させて記録を行う。その後、インクジェットヘッドを主走査方向(Y軸方向)と直交する副走査方向(X軸方向)に移動させ、これを繰り返すことにより、対象物の幅方向に記録範囲を広げていく。従って、この方法では、一度の走査で記録可能な面積が大きい程、作業効率が高くなり、そのためには、インクジェットヘッドのサイズを大きくすれば良い。しかしながら、大きなサイズのインクジェットヘッドを高精度に製造するのは難しく、コスト的にも効率的とは言い難い。
【0006】
そこで、従来より、複数のインクジェットヘッドを搭載したヘッドベース(キャリッジとも呼ばれる)を使用し、このヘッドベースをあたかも1つのインクジェットヘッドのように見立てて記録を行う方法が広く行われている。この場合、装置の記録精度を確保するには、ヘッドベースの走査精度を確保することは必須であるが、それのみならず、ヘッドベース上における各インクジェットヘッドの位置精度もまた重要となる。このため、このような装置におけるヘッド位置の調整手段や調整方法に関しても、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−190465号公報
【特許文献2】特開2004−243666号公報
【特許文献3】特開2007−260571号公報
【特許文献4】特開2007−276426号公報
【特許文献5】特許第3831936号公報
【特許文献6】特許第3694600号公報
【特許文献7】特開2000−218771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに関するY軸方向の位置決めは、部品の精度やインク滴の吐出制御によっても対応可能である。これに対し、X軸方向と、インク滴の吐出方向であるZ軸(X軸及びY軸に直交する方向)の回り方向(Z軸を中心とする回転方向、以下、θ方向と呼ぶ)の2つの方向についてのヘッド位置調整(ヘッドアライメント)は、インクジェットヘッドの取り付け時に機械的に行う必要がある。この2つの方向についての位置調整機構としては、例えば特許文献4には、X軸方向の移動軸とZ軸回りの回転軸とが互いに分離独立した構成が記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献4等に記載の構成では、ヘッドベース上の全てのインクジェットヘッドに同じ機構を用意する必要がある。このため、ヘッドベースの構造が複雑となる上、ヘッドベース全体の重量も大きくなるという問題がある。ヘッドベースの重量が大きくなると、走査スピードがダウンし、その結果、製造効率が低下する。また、ヘッドベースのイナーシャも大きくなるため、走査−停止の際の衝撃も大きくなり、装置精度が経時的に低下していくおそれがあるという問題もあった。
【0010】
一方、位置調整を行った後、ヘッドベース上にインクジェットヘッドを固定する方法としては、例えば特許文献5〜7に記載されているような接着剤による固定や、締付ネジによる固定、あるいはその両方を用いた方法が一般的である。しかしながら、締付ネジによる固定の場合、固定時のネジ締めトルクによってインクジェットヘッドが動いてしまい、位置精度が低下するおそれがある。これに対し、接着剤による固定は、ネジ締めの欠点は解消されるものの、ヘッドベース上のインクジェットヘッドをたった1つだけ交換する必要が生じた場合も、ヘッドベースごと全部交換する必要がある。このため、数多くの正常なインクジェットヘッドを無駄にしてしまう上に、全てのインクジェットヘッドの位置調整をやり直す必要があるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、簡易な構成でありながら高精度にインクジェットヘッドの位置調整が可能であり、ヘッドの交換・位置調整等のメンテナンス性が良好なインクジェットヘッド用ハウジングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のインクジェットヘッド用ハウジングは、インクジェット記録装置用のインクジェットヘッドが装着されるハウジング部材であって、前記インクジェットヘッドの位置調整を行うアライメント装置に、所定の位置条件にて位置決め固定されるハウジングベースと、前記ハウジングベースに取り付けられ、前記インクジェットヘッドを保持しつつ、前記ハウジングベースに対し相対的に移動可能なヘッドホルダと、を有し、前記ヘッドホルダは、前記アライメント装置における前記インクジェットヘッドの位置調整が完了した状態で前記ハウジングベースと固定されることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、ハウジングベースと、このハウジングベースに対し相対的に移動可能なヘッドホルダとを備えたインクジェットヘッド用ハウジングに、インクジェット記録装置用のインクジェットヘッドを装着する。ハウジングベースは、インクジェットヘッドの位置調整を行うアライメント装置に、例えば、インクジェットヘッド用ハウジングがインクジェット記録装置に搭載される場合と同一の位置条件など、所定の位置条件にて位置決め固定される。ヘッドホルダは、アライメント装置におけるインクジェットヘッドの位置調整が完了した後、その状態でハウジングベースと固定される。ヘッドホルダとハウジングベースが固定されたハウジングは、そのままの状態で、インクジェット記録装置のヘッドベースやサブキャリッジ等に位置決め固定される。
【0014】
前記インクジェットヘッド用ハウジングにおいて、前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向、前記X軸及びY軸方向と直交する方向をZ軸方向、前記Z軸を中心とする回転方向をθ方向としたとき、前記ヘッドホルダを、前記ハウジングベースに対し、X軸方向とθ方向に移動可能な状態で前記ハウジングベースに取り付けても良い。
【0015】
また、前記ヘッドホルダに、前記ハウジングベース上に立設された第1及び第2接合ピンがそれぞれ挿入される第1及び第2接合孔を設け、前記第1接合孔を前記第1接合ピンよりも大径に形成し、前記第1接合ピンを、前記第1接合孔に対し、X軸方向,Y軸方向のそれぞれに間隙を有する遊嵌状態で挿入すると共に、前記第2接合孔をX軸方向に延びる前記第2接合ピンと略同径の長孔に形成し、前記第2接合ピンを、前記第2接合孔に対し、X軸方向に間隙を有しつつ、Y軸方向にはほとんど遊びのない状態で挿入しても良い。
【0016】
さらに、前記ハウジングベースを、前記インクジェットヘッド用ハウジングが前記インクジェット記録装置に搭載される場合と同一の位置条件にて、前記アライメント装置に位置決め固定しても良い。また、前記インクジェットヘッド用ハウジングを、サブキャリッジに取り付けた状態で前記インクジェット記録装置に搭載し、前記ハウジングベースを、前記インクジェットヘッド用ハウジングが前記サブキャリッジに取り付けられる場合と同一の位置条件にて、前記アライメント装置に位置決め固定しても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インクジェット記録装置用のインクジェットヘッドが装着されるインクジェットヘッド用ハウジングを、アライメント装置に所定の位置条件にて位置決め固定されるハウジングベースと、ハウジングベースに取り付けられ、インクジェットヘッドを保持しつつ、ハウジングベースに対し相対的に移動可能なヘッドホルダと、を有する構成とし、アライメント装置でのインクジェットヘッドの位置調整が完了した状態でヘッドホルダとハウジングベースを固定するようにしたので、簡易な構成でありながら高精度にインクジェットヘッドの位置調整を行うことが可能となる。このため、インクジェットヘッドの交換も容易となり、インクジェット記録装置のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるインクジェットヘッド用ハウジングを用いたインクジェット記録装置のヘッドベースの一例を示す上面図である。
【図2】インクジェットヘッドが取り付けられた状態のサブキャリッジの構成を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施例であるヘッドハウジングの構成を示す斜視図である。
【図4】ヘッドハウジングの平面図である。
【図5】ヘッドハウジングの背面図である。
【図6】ヘッドハウジングの側面図である。
【図7】アライメント装置上にヘッドハウジングを載置した状態の平面図である。
【図8】アライメント装置上にヘッドハウジングを載置した状態の正面図である。
【図9】アジャスト装置の操作に伴うヘッドハウジングの位置変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明によるインクジェットヘッド用ハウジングを用いたインクジェット記録装置のヘッドベースの一例を示す上面図である。図1に示すように、本発明によるインクジェット記録装置のヘッドベース1には、複数個のインクジェットヘッド2を取り付けたサブキャリッジ3が複数個載置される。図1のインクジェット記録装置では、インクジェットヘッド2を直接ヘッドベース1上に搭載するのではなく、サブキャリッジ3を介してヘッドベース1上に取り付ける構成を採用している。ヘッドベース1上には、共に金属にて形成された位置決めブロック4,5が設けられている。サブキャリッジ3は、この位置決めブロック4,5によってヘッドベース1上の所定位置に正確に配置される。
【0020】
位置決めブロック4,5は、搭載されるサブキャリッジ3の個数に応じて複数組(ここでは8組)配置されている。図1の装置では、ブロック4は直方体状になっており、その一面がサブキャリッジ3の右側面3aに当接し、サブキャリッジ3のX軸方向への移動が規制される。一方、ブロック5は、直方体状の本体部5aに当接突起5bが2個突設された形態となっており、当接突起5bがサブキャリッジ3の下端面3bに当接し、サブキャリッジ3のY軸方向への移動が規制される。サブキャリッジ3は、ブロック4,5によって、X軸,Y軸方向の位置決めがなされ、図示しないトグルクランプ等によって、ヘッドベース1に着脱自在に固定される。
【0021】
図2は、インクジェットヘッド2が取り付けられた状態のサブキャリッジ3の構成を示す説明図である。図2に示すように、インクジェットヘッド2は、ヘッドハウジング(インクジェットヘッド用ハウジング)11に保持された状態でサブキャリッジ3上に固定される。サブキャリッジ3には、3本1組の位置決めピン12a〜12cが3組設けられている。位置決めピン12a,12bは、X軸方向に沿って、位置決めピン12cは、Y軸方向に沿って設けられている。位置決めピン12a,12bは、ヘッドハウジング11のY軸方向の移動を規制し、位置決めピン12cは、ヘッドハウジング11のX軸方向の移動を規制する。ヘッドハウジング11は、この位置決めピン12a〜12cによって位置決めされ、位置決めされたヘッドハウジング11は、ボルト13にてサブキャリッジ3上に固定される。
【0022】
ここで、図1のインクジェット記録装置では、サブキャリッジ3の寸法は全て高精度に作成されている。また、サブキャリッジ3も、位置決めブロック4,5によってヘッドベース1上の所定位置に正確に配置される。従って、サブキャリッジ3上におけるインクジェットヘッド2の位置を正確に調整しておけば、ヘッドベース1に対するインクジェットヘッド2の位置も正確に決定される。
【0023】
そこで、当該インクジェット記録装置では、まず、インクジェットヘッド2をヘッドハウジング11に保持し、サブキャリッジ3と同一条件に寸法設定されたインクジェットヘッドアライメント装置にて、ヘッドハウジング11中のインクジェットヘッド2を正確に位置決めする。次に、このヘッドハウジング11を、そのままサブキャリッジ3上の所定位置に載置・固定する。前述のようにヘッドハウジング11は、インクジェットヘッドアライメント装置において、サブキャリッジ3と同一の寸法環境にて位置決め調整されており、インクジェットヘッド2は、正確に位置調整された状態でサブキャリッジ3上に取り付けられる。従って、このサブキャリッジ3を、位置決めブロック4,5に従ってヘッドベース1上に配置すれば、インクジェットヘッド2はヘッドベース1の所定位置に正確に配置されることになる。
【0024】
このようにして使用されるヘッドハウジング11は次のような構成となっている。図3は、本発明の一実施例であるヘッドハウジング11の構成を示す斜視図、図4〜6はそれぞれ、ヘッドハウジング11の平面図、背面図及び側面図である。図3〜6に示すように、ヘッドハウジング11は、ハウジングベース21と、ハウジングベース21上に取り付けられたヘッドホルダ22とから構成されており、ハウジング内でインクジェットヘッド2のX軸方向とθ方向の位置調整ができるようになっている。ハウジングベース21とヘッドホルダ22は共に鉄等の金属にて形成されており、ボルト23にて一体に結合されている。インクジェットヘッド2は、図2に示すような形でヘッドハウジング11に保持される。
【0025】
ハウジングベース21は、コの字型に形成されており、本体部21aと、本体部21aの両側から突設された2つの側方部21bとから構成されている。本体部21aには、ボルト13を挿通するためのボルト孔24が2個形成されている。ボルト孔24は、本体部21aを長手方向に三等分したときの各等分点に設けられている。本体部21aの左右、側方部21bの基部には、ボルト23が螺合する雌ネジ孔25が形成されている。
【0026】
本体部21aにはまた、接合ピン26a(第1接合ピン),26b(第2接合ピン)が立設されている。接合ピン26bは、本体部21aの長手方向の中心に設けられており、接合ピン26aよりも大径のものが使用されている。接合ピン26aは、接合ピン26bとX軸方向の同軸上に設けられており、接合ピン26bに対して、本体部21aの一方向側の端部に寄った位置に配置されている。
【0027】
ヘッドホルダ22も、ハウジングベース21と同様にコの字型に形成されており、本体部22aと側方部22bとから構成されている。本体部22aには、ボルト23を挿通するためのボルト孔27が2個形成されている。ボルト孔27は、ボルト23が遊嵌状態で挿通可能なように、ボルト23の呼び径よりも大径となっている(ボルト23にM5を使用する場合、例えば、ボルト孔27は直径5.5mmとする)。
【0028】
本体部22aにはまた、接合ピン26a,26bがそれぞれ挿入されるピン孔28a(第1接合孔),28b(第2接合孔)が形成されている。ピン孔28aは円形の孔となっており、接合ピン26aよりも大径となっている。従って、接合ピン26aは、ピン孔28aに対し、X軸方向,Y軸方向にそれぞれ間隙を持った遊嵌状態で挿入される。ヘッドハウジング11では、接合ピン26aの遊びは、X軸,Y軸方向にそれぞれレンジ1mm程度に設定されている。
【0029】
これに対し、ピン孔28bは、X軸方向が長い長孔となっている。ピン孔28bのY軸方向の寸法は、接合ピン26bの直径と略同径(わずかに大径)となっている。従って、接合ピン26bは、ピン孔28bに対し、X軸方向に間隙を持ちつつ、Y軸方向にはほとんど遊びのない略摺動状態で嵌合挿入されている。ヘッドハウジング11では、接合ピン26bの遊びは、X軸方向にレンジ1mm程度設定されている。なお、ボルト23とボルト孔27の遊びは、接合ピン26a,26bとピン孔28a,28bの遊びよりもやや大きめに設定されている。
【0030】
本体部22aの一方側の角隅部には、テーパ面29a,29bが形成されている。テーパ面29aはX軸方向、テーパ面29bはY軸方向に向いた斜面となっている。各テーパ面29a,29bには、インクジェットヘッドアライメント装置41(以下、アライメント装置41と略記する)に設置されたプッシャー42,43のロッド44,45に当接する(図7参照)。このように、ロッド44,45の当接面をテーパ面29a,29bとすることにより、ロッド44,45によって斜面を下方に押す力が生じ、ヘッド位置調整の際のヘッドホルダ22の浮き上がりが抑えられる。
【0031】
ヘッドホルダ22では、各側方部22bの外側にそれぞれアームプレート31が取り付けられている。アームプレート31は、固定ネジ32によって、側方部22bに固定されている。アームプレート31はL字状となっており、その先端部31aには、雌ネジ部33が形成されている。雌ネジ部33には、ヘッド固定ネジ34が取り付けられている。ヘッド固定ネジ34の先端部には、合成樹脂製の接触部35が設けられている。
【0032】
インクジェットヘッド2は、ヘッド固定ネジ34によって、ヘッドホルダ22に保持される。インクジェットヘッド2をヘッドホルダ22に取り付ける際には、図4に示すように、まず、ヘッドホルダ22の側方部22bとアームプレート31の先端部31aとの間に、インクジェットヘッド2の両端部2aを挿入する。そして、その状態で、雌ネジ部33に螺合したヘッド固定ネジ34を締め付ける。これにより、接触部35がインクジェットヘッド2の両端部2aに当接し、インクジェットヘッド2は、ヘッドホルダ22に挟持される。なお、インクジェットヘッド2は、ヘッド固定ネジ34の締め付け力のみにて、脱落したり、位置ズレしたりすることなく、ヘッドホルダ22に保持される。
【0033】
このようなヘッドハウジング11では、アライメント装置41にてインクジェットヘッド2の位置調整が行われる。図7は、アライメント装置41上にヘッドハウジング11を載置した状態を示す平面図、図8は、その正面図であり、インクジェットヘッド2は、アライメント装置41によって、ヘッド位置が調整される。図7に示すように、アライメント装置41には、開口部46が形成されており、ヘッドハウジング11は、この開口部46に臨んで配置される。開口部46の下方(Z軸方向下部)には、図示しないカメラが設置されており、このカメラによって、インクジェットヘッド2のノズル面が撮像できるようになっている。
【0034】
開口部46の周囲には、位置決めピン47a〜47cが設けられている。位置決めピン47a,47bは、開口部46の長辺側にX軸方向に沿って設けられている。位置決めピン47cは、開口部46の短辺側に1個設けられている。図8に示すように、位置決めピン47a〜47cは、ヘッドハウジング11のハウジングベース21に当接する。そして、位置決めピン47a,47bは、ヘッドハウジング11のY軸方向の移動を規制し、位置決めピン47cは、ヘッドハウジング11のX軸方向の移動を規制する。位置決めピン47a〜47cは、サブキャリッジ3上の位置決めピン12a〜12cと同一の位置条件に配置されており、ヘッドハウジング11は、サブキャリッジ3上と同じ位置条件でアライメント装置41上に載置される。
【0035】
アライメント装置41にはまた、ハウジングベース21のボルト孔24に対応して、雌ネジ孔48が2個設けられている。雌ネジ孔48は、ボルト13と同じ呼び径に形成されている。すなわち、アライメント装置41では、位置決めピン47a〜47cによって、サブキャリッジ3上と同一の位置条件にてヘッドハウジング11を配置し、それを、サブキャリッジ3と同じボルト13を用いて、アライメント装置41上に固定できるようになっている。
【0036】
さらに、アライメント装置41には、インクジェットヘッド2の位置調整用にアジャスト装置51,52が設けられている。アジャスト装置51は、インクジェットヘッド2のX軸方向の位置、アジャスト装置52は、インクジェットヘッド2のY軸及びθ方向の位置を調整するための調整手段である。ヘッドハウジング11は、アライメント装置41上にて、アジャスト装置51とプッシャー42とによってX軸方向が、また、アジャスト装置52とプッシャー43とによってY軸方向がそれぞれ挟持される形となる。
【0037】
アジャスト装置51,52には、それぞれマイクロメータ53,54が設けられている。マイクロメータ53,54は、アライメント装置41上に載置されたホルダ55,56に固定され、シンブル操作に伴って伸縮するスピンドル57,58を備えている。
【0038】
アジャスト装置51では、マイクロメータ53のスピンドル57が、図8に示すように、ヘッドハウジング11のX方向端面、つまり、ヘッドハウジング11のヘッドホルダ22のX方向端面59に当接する。アジャスト装置51は、このスピンドル57によって、ヘッドハウジング11をX軸方向に押圧する。ヘッドホルダ22のX方向端面59とは反対側の端面は、テーパ面29aとなっており、プッシャー42のロッド44が当接している。ロッド44は、図示しないスプリングにて、X軸方向に伸長するように付勢されている。
【0039】
一方、アジャスト装置52では、マイクロメータ54のスピンドル58が、図7に示すように、ヘッドハウジング11のY方向端面、つまり、ヘッドハウジング11のヘッドホルダ22に取り付けられたアームプレート31のY方向端面61に当接する。アジャスト装置52は、このスピンドル58によって、ヘッドハウジング11をY軸方向に押圧する。アームプレート31のY方向端面61とは反対側の端面は、テーパ面29bとなっており、プッシャー43のロッド45が当接している。ロッド45もロッド44と同様に、図示しないスプリングにて、Y軸方向に伸長するように付勢されている。
【0040】
なお、ヘッド位置調整の際、ロッド44,45をヘッドホルダ22の垂直な端面に当接させると、ヘッドハウジング11が浮き上がってしまい、正確な位置調整ができないおそれがある。すなわち、ロッド44,45は先端が球面状になっているため、スピンドル57,58を伸長させると、ロッド44,45との当接面に、ヘッドハウジング11を上方に持ち上げる力が生じる可能性があり、この力によってヘッドハウジング11が浮き上がってしまうおそれがある。これに対し、当該ヘッドホルダ22では、前述のように、ロッド44,45との当接面がテーパ面29a,29bとなっているため、スピンドル57,58を伸長させると、ロッド44,45の付勢力から斜面を下方に押す力が生じる。従って、ヘッド位置調整の際にヘッドホルダ22が浮き上がってしまうのを抑えることができ、正確なヘッド位置調整が可能となる。
【0041】
図9は、アジャスト装置51,52の操作に伴うヘッドホルダ22の位置変化を示す説明図である。ヘッドハウジング11では、ハウジングベース21とヘッドホルダ22が、接合ピン26a,26bによって接続されている。前述のように、接合ピン26aは、円形のピン孔28aに、X軸方向,Y軸方向にそれぞれ間隙を持った遊嵌状態で挿入されている。また、接合ピン26bは、長孔のピン孔28bに、X軸方向に間隙を持ちつつ、Y軸方向にはほとんど遊びのない状態で挿入されている。従って、アジャスト装置51を操作すると、図9に示すように、接合ピン26a,26bのX軸方向の遊びに従い、ヘッドホルダ22はX軸方向に移動する(図9の一点鎖線位置Pと二点差線位置Qの間)。つまり、アライメント装置41では、アジャスト装置51の操作により、インクジェットヘッド2のX軸方向の位置調整を行うことできる。
【0042】
一方、アジャスト装置52を操作すると、接合ピン26aは、ピン孔28a内におけるY軸方向の遊びにより、ピン孔28aにてY軸方向に移動できる。これに対し、接合ピン26bは、ピン孔28b内におけるY軸方向の遊びがほとんどないため、Y軸方向に移動できない。従って、ヘッドホルダ22は、アジャスト装置52の操作により、ハウジングベース21の中央に位置する接合ピン26bを中心として、図9の矢示Rのように、接合ピン26aの遊びの分だけ揺動する。つまり、アジャスト装置52の操作により、インクジェットヘッド2のθ方向の位置調整を行うことできる。なお、図9では、接合ピン26bがピン孔28bの中央に位置している場合の揺動を示したが、接合ピン26bがピン孔28bの左右端に位置している場合も、ヘッドホルダ22は、接合ピン26aの遊びに応じて揺動する。
【0043】
当該インクジェット記録装置では、次のような手順でインクジェットヘッド2の位置調整を行い、ヘッドベース1上にインクジェットヘッド2を取り付ける。ここではまず、ハウジングベース21とヘッドホルダ22を、ボルト23にて緩く結合し、ヘッドハウジング11を仮組みする。次に、仮組みしたヘッドハウジング11に、インクジェットヘッド2を組み付け、ヘッド固定ネジ34を締め付ける。これにより、インクジェットヘッド2がヘッドハウジング11に保持される。
【0044】
インクジェットヘッド2をヘッドハウジング11取り付けた後、ヘッドハウジング11をアライメント装置41に載置する。その際、ハウジングベース21を位置決めピン47a〜47cに当接させ、アライメント装置41上にてヘッドハウジング11を位置決めする。そして、ボルト13を用いて、アライメント装置41にヘッドハウジング11を固定する。
【0045】
アライメント装置41にヘッドハウジング11を固定した後、アジャスト装置51,52を用いて、インクジェットヘッド2の位置調整を行う。この位置調整は、カメラによる映像を見ながら、インクジェットヘッド2のノズル面に設けられたアライメントマークが、予め設定されている目標位置に一致するように、アジャスト装置51,52を操作して行われる。その際、目標位置とアライメントマークとのズレが閾値以下であるかどうか判断し、それが閾値を超えている場合には、改めて位置調整を行い、目標位置とアライメントマークとのズレが閾値以下であるときは、位置調整完了とする。
【0046】
ヘッド位置調整の完了後、ボルト23を締め付け、ハウジングベース21とヘッドホルダ22を固定する。前述のように、ボルト23とボルト孔27の遊びは、接合ピン26a,26bとピン孔28a,28bの遊びよりもやや大きめに設定されているため、ボルト23を締め付ける際、ボルト23がボルト孔27に当たることはない。すなわち、ボルト23の締め付けにより、ハウジングベース21とヘッドホルダ22の位置関係がズレてしまわないようになっている。なお、ボルト23がボルト孔27に当たり、インクジェットヘッド2の位置調整が阻害されることもない。
【0047】
ヘッド位置調整を完了し、ハウジングベース21とヘッドホルダ22を固定した後、ボルト13を緩めて、ヘッドハウジング11をアライメント装置41から取り外す。そして、サブキャリッジ3上に、位置調整済みのヘッドハウジング11をそのまま載置する。サブキャリッジ3上では、ヘッドハウジング11は、位置決めピン12a〜12cによって位置決めされ、ボルト13にて固定される。この場合、ヘッドハウジング11は、位置決めピン12a〜12cと同位置条件に配置された位置決めピン47a〜47cによって、アライメント装置41にて位置決めされ、インクジェットヘッド2の位置調整が行われている。従って、ヘッドハウジング11を、位置決めピン12a〜12cによって位置決めして固定すれば、インクジェットヘッド2は、自ずから位置調整済の状態でサブキャリッジ3上に固定される。
【0048】
サブキャリッジ3を用いる当該インクジェット記録装置では、他のインクジェットヘッド2についても同様の位置調整を行い、それらをヘッドハウジング11と共にサブキャリッジ3上に複数固定する(図2の状態)。そして、このようなサブキャリッジ3をヘッドベース1に搭載する。その際、サブキャリッジ3は、位置決めブロック4,5によってヘッドベース1上に位置決めされ、固定される。
【0049】
このように、本発明のインクジェット記録装置では、ヘッドハウジング11を用いることにより、簡易な構成でありながら高精度にインクジェットヘッド2の位置調整が可能である。また、あるインクジェットヘッド2が故障した場合でも、故障ヘッドが搭載されているサブキャリッジ3をヘッドベース1から取り外し、サブキャリッジ3上の故障したインクジェットヘッド2を位置調整済みの良品に交換れば足りる。従って、インクジェット記録装置のヘッド周りのメンテナンス性を飛躍的に向上させることができると共に、無駄な廃棄品も生ぜず、作業工数や部品コストの削減が図られる。特に、インクジェット記録装置は、多数のインクジェットヘッドを使用し、消耗品であるインクジェットヘッドの交換も頻繁であるため、作業工数削減の効果は大きい。
【0050】
さらに、サブキャリッジ3上にヘッド固定機構を設けることなく、高精度にインクジェットヘッド2をインクジェット記録装置に取り付けることができる。従って、高精度で軽量なインクジェット記録装置を得ることができ、高品質・高スピードの記録処理が可能となる。
【0051】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施例では、サブキャリッジ3を用いてインクジェットヘッド2をヘッドベース1に取り付けているが、サブキャリッジ3を用いることなく、ヘッドハウジング11を直接ヘッドベース1に取り付けても良い。その場合、アライメント装置41の位置決めピン47a〜47cは、ヘッドベース1上の位置決めブロック4,5に合わせて位置設定する。
【0052】
サブキャリッジ3を用いた装置では、インクジェットヘッド2は、従来、サブキャリッジ3ごとに交換やヘッド位置調整が実施され、その際、アライメント装置には、カメラやカメラ駆動装置が複数ヘッド分必要となる。これに対し、ヘッドハウジング11を直接ヘッドベース1に取り付ける構成では、カメラ等はインクジェットヘッド1個分で良く、カメラ等の台数を減らすことが可能となる。なお、本発明のヘッドハウジング11を使用すれば、サブキャリッジ3上の単ヘッドのみを交換することも容易であり、アライメント装置のカメラ等も複数ヘッド分は必要ない。
【0053】
また、前述の実施例では、位置決めブロック4,5をブロック状に形成したが、その形状はブロックには限定されず、サブキャリッジ3の移動を規制可能であれば、ピンや壁体など種々の形態が採用可能である。また、位置決めピン12a〜12c,47a〜47cも、ピン部材ではなく、ブロック部材や壁体等であっても良い。さらに、前述の実施例では、1個のサブキャリッジ3に3個のインクジェットヘッド2を取り付けられるようにした構成を示したが、サブキャリッジ3に搭載するインクジェットヘッド2の個数は3個には限定されず、適宜選定可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 ヘッドベース
2 インクジェットヘッド
2a 両端部
3 サブキャリッジ
3a サブキャリッジ右側面
3b サブキャリッジ下端面
4 位置決めブロック
5 位置決めブロック
5a 本体部
5b 当接突起
11 ヘッドハウジング(インクジェットヘッド用ハウジング)
12a〜12c 位置決めピン
13 ボルト
21 ハウジングベース
21a ハウジングベース本体部
21b ハウジングベース側方部
22 ヘッドホルダ
22a ヘッドホルダ本体部
22b ヘッドホルダ側方部
23 ボルト
24 ボルト孔
25 雌ネジ孔
26a 接合ピン(第1接合ピン)
26b 接合ピン(第2接合ピン)
27 ボルト孔
28a ピン孔(第1接合孔)
28b ピン孔(第2接合孔)
29a テーパ面
29b テーパ面
31 アームプレート
31a アームプレート先端部
32 固定ネジ
33 雌ネジ部
34 ヘッド固定ネジ
35 接触部
41 インクジェットヘッドアライメント装置
42 プッシャー
43 プッシャー
44 ロッド
45 ロッド
46 開口部
47a〜47c 位置決めピン
48 雌ネジ孔
51 アジャスト装置
52 アジャスト装置
53 マイクロメータ
54 マイクロメータ
55 アジャスト装置ホルダ
56 アジャスト装置ホルダ
57 スピンドル
58 スピンドル
59 ヘッドハウジングのX方向端面
61 ヘッドハウジングのY方向端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置用のインクジェットヘッドが装着されるインクジェットヘッド用ハウジングであって、
前記インクジェットヘッドの位置調整を行うアライメント装置に、所定の位置条件にて位置決め固定されるハウジングベースと、
前記ハウジングベースに取り付けられ、前記インクジェットヘッドを保持しつつ、前記ハウジングベースに対し相対的に移動可能なヘッドホルダと、を有し、
前記ヘッドホルダは、前記アライメント装置における前記インクジェットヘッドの位置調整が完了した状態で前記ハウジングベースと固定されることを特徴とするインクジェットヘッド用ハウジング。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェットヘッド用ハウジングにおいて、
前記インクジェットヘッドが記録動作を行う際の主走査方向と同一の方向をY軸方向、該Y軸方向と直交する方向をX軸方向、前記X軸及びY軸方向と直交する方向をZ軸方向、前記Z軸を中心とする回転方向をθ方向としたとき、
前記ヘッドホルダは、前記ハウジングベースに対し、X軸方向とθ方向に移動可能な状態で前記ハウジングベースに取り付けられることを特徴とするインクジェットヘッド用ハウジング。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインクジェットヘッド用ハウジングにおいて、
前記ヘッドホルダは、前記ハウジングベース上に立設された第1及び第2接合ピンがそれぞれ挿入される第1及び第2接合孔を有し、
前記第1接合孔は前記第1接合ピンよりも大径に形成され、前記第1接合ピンは、前記第1接合孔に対し、X軸方向,Y軸方向のそれぞれに間隙を有する遊嵌状態で挿入され、
前記第2接合孔はX軸方向に延びる前記第2接合ピンと略同径の長孔に形成され、前記第2接合ピンは、前記第2接合孔に対し、X軸方向に間隙を有しつつ、Y軸方向には略摺動状態で挿入されることを特徴とするインクジェットヘッド用ハウジング。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド用ハウジングにおいて、
前記ハウジングベースは、前記インクジェットヘッド用ハウジングが前記インクジェット記録装置に搭載される場合と同一の位置条件にて、前記アライメント装置に位置決め固定されることを特徴とするインクジェットヘッド用ハウジング。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載のインクジェットヘッド用ハウジングにおいて、
前記インクジェットヘッド用ハウジングは、サブキャリッジに取り付けられた状態で前記インクジェット記録装置に搭載され、
前記ハウジングベースは、前記インクジェットヘッド用ハウジングが前記サブキャリッジに取り付けられる場合と同一の位置条件にて、前記アライメント装置に位置決め固定されることを特徴とするインクジェットヘッド用ハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−240248(P2011−240248A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114436(P2010−114436)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】