説明

インクジェットヘッド

【課題】 製造歩留まりが高く印字速度が速いインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】 エッチングストップ層の上に保護層を形成し、吐出口形成部材と柱の下に配置する密着層を、保護層から離して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンウェーハなどの半導体基板に対し、等方性または異方性エッチングにより貫通孔を形成し、液体吐出ヘッドなどのデバイスに応用する研究が盛んになされている。
【0003】
例えば、特許文献1にて、貫通孔の大きさおよび位置精度を向上させる方法として、シリコン基板上に犠牲層を形成する方法がある。このような犠牲層を形成したシリコン基板に対する貫通孔の加工手順は特許文献1の図1〜図2に示されている。単結晶シリコン基板11の貫通孔形成位置に多結晶シリコン(以下、poly−Siと記述する)による犠牲層12を形成し、その上にエッチングストップ層13を形成する(特許文献1の図1参照)。この場合、単結晶シリコン基板11の裏面のエッチングマスク層16によりエッチングされる貫通孔17は、これが犠牲層12に到達した場合に、この犠牲層12の内側に形成されるように設計される。この貫通孔17が犠牲層12に到達した時点で、犠牲層12はエッチング液により直ちに溶解する。この犠牲層12のエッジ部分から単結晶シリコン基板11の表面側の異方性エッチングが開始され、最終的に途中が細くくびれた貫通孔17が形成される(特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−090573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
犠牲層12を用いて貫通孔17を形成する方法においては、貫通孔17の開口形状や位置を犠牲層12の位置に応じて設定することが可能なため、より精度の高い加工が可能となる。しかしながら、エッチングストップ層13が犠牲層12の上に形成されるため、特許文献1の図3に示すように、エッチングストップ層13のコーナ部18のカバレッジが不利な方向であり、このコーナ部18でクラック19がより発生しやすい。単結晶シリコン基板11に対して用いられるエッチング液は、通常、エッチング時間短縮のために80℃またはそれ以上の温度のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、これをTMAHと記述する)水溶液や水酸化カリウム水溶液などの強アルカリ性溶液が用いられる。そのため、このクラック19を介してエッチング液が単結晶シリコン基板11の表面側に回り込むと、単結晶シリコン基板11に深刻なダメージを与えてしまう結果、貫通孔17を形成した単結晶シリコン基板11の製造歩留り低下の一因となっている。
【0006】
本発明の目的は、半導体基板に貫通孔を形成する場合、エッチングストップ層にクラックが発生しても半導体基板表面側へのエッチング液の滲み込みを防止することにより、その製造歩留りを向上させることが可能な方法を利用したインクジェットヘッドを提供することにある。また、この方法で製造されたインクジェットヘッドにおいて、ヘッド駆動周波数を抑制することなく、印字速度が速いインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のインクジェットヘッドは、吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子が形成された基板と、エネルギー発生素子を覆うエッチングストップ層と、基板上に接合されエネルギー発生素子上を通って吐出口に連通する流路を形成する流路構成部材と、流路に連通するように基板に形成されたインク供給口と、を有するインクジェットヘッドであって、前記基板と前記流路構成部材との間に形成された第1の保護層と、前記エッチングストップ層の上に前記インク供給口を囲うように形成された第2の保護層が、前記流路の入り口付近で、部分的に離れている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、エッチングストップ層の上に保護層を形成するようにしたので、エッチングストップ層のクラックに起因するダメージを保護層によって防止することが可能となり、エッチングにより半導体基板に貫通孔を形成する際の製造歩留りを向上させることができる。また、この保護層と、吐出口形成部材と柱の下に配置する密着層を、離して形成することにより、ヘッド駆動周波数が抑制されることがないので、製造歩留まりが高く印字速度が速いインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一例である貫通孔の形成する工程を示す平面図である。
【図2】本発明の一例である保護層の配置を示す平面図である。
【図3】本発明の一例である保護層の配置を示す平面図である。
【図4】本発明の一例である貫通孔の形成する工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による貫通孔形成方法をインクジェットヘッドのインク供給孔が形成される単結晶シリコン基板に対して応用した実施例について、図を参照しながら詳細に説明する。本発明はこのような実施例に限らず、この明細書の特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき他の技術にも応用することができる。
【0011】
本実施例における製造工程を図4(a)〜(f)に示す。すなわち、表面が<100>面となる厚さが625μm の単結晶シリコン基板11の表面に吐出エネルギー発生部としてTaNによる電気熱変換素子20およびその制御信号配線(図示せず)を形成する。それと共に300nmの厚さのPoly−Siによる犠牲層12を形成する。さらにこれらの上に250nmの厚さのLP−SiNによるエッチングストップ層13を形成した。上記制御信号配線には、電気熱変換素子20を動作させるための図示しない駆動回路が接続される。犠牲層12は、150×8000(μm)の細長い矩形に形成され、電気熱変換素子20は、この犠牲層12の長手方向に沿って600dpi の間隔で片側192個(両側で384個)形成した。また、単結晶シリコン基板11の裏面には、400nmの厚さのSi02を異方性エッチングすることにより、犠牲層12と対向する開口部15を有するエッチングマスク層16が形成される(図1およびそのI−I矢視断面構造を表す図4(a)参照)。図1に示す構成を1チップとして、合計200チップをこの単結晶シリコン基板11に形成した。
【0012】
次いで保護層14を形成するため、まずエッチングストップ層13の上からポリエーテルアミド(日立化成工業(株)製:HIMAL1200)をスピンコートにより塗布して250℃で1時間加熱することにより、これを2μmの厚さに成膜した。ポリエーテルアミドは感光性を有しないため、このポリエーテルアミドに対してフォトレジスト(東京応化工業(株)製:OFPR800)によりパターニングを行う。これをエッチングマスクとして酸素プラズマ法により不要な部分のポリエーテルアミドを除去することにより、エッチングストップ層13を介して犠牲層12の周縁部を覆う幅が20μmの保護層14を形成した。また、この保護膜14は、後述する吐出口形成部材24とエッチングストップ層13との密着層としての機能も果たす。そのため、吐出口形成部材24および同じ材料で形成された柱26と、エッチストップ層13との間にも保護膜14が配置されるように、パターニングを行った(図4(b)参照)。
【0013】
次に、共通液室21および流路22(図2参照)の型となるポジ型レジスト(東京応化工業(株)製:ODUR)23を単結晶シリコン基板11の表面側にパターニングより形成した(図4(c)参照)。さらに表1に記載の成分を有するネガ型レジストを本発明の吐出口形成部材24としてポジ型レジスト23を覆うように形成した。そのパターニングによって吐出口形成部材24に吐出口25を電気熱変換素子20とそれぞれ対向するように形成した(図4(d)参照)。
【0014】
【表1】

【0015】
しかる後、吐出口25が形成された単結晶シリコン基板11を83℃の温度のTMAH水溶液(濃度22%)中に980分間浸漬して異方性エッチングを施し、開口部15から犠牲層12に至る貫通孔17を単結晶シリコン基板11に形成した。この場合、単結晶シリコン基板11の表面側にTMAH水溶液が回り込まないように、治具を用いて単結晶シリコン基板11の表面側を保護した。さらに、単結晶シリコン基板11の表面側を保護した状態で、この単結晶シリコン基板11の裏面側からCF4 ガスを用いて反応性イオンエッチングにより貫通孔17に臨むエッチングストップ層13の部分を除去した(図4(e)参照)。
【0016】
その後、図4(f)に示すように、ポジ型レジスト23を除去することにより、200チップのインクジェットヘッドを完成させた。また、この時点で再び全チップに対して、エッチングストップ層13のクラックおよび異常を顕微鏡検査したが、不良は発生していなかった。
【0017】
このようにして得られたインクジェットヘッドに電気的な接続を施し、インクを用いてプリント試験を行ったところ、良好なプリント結果が得られた。
【0018】
これに対し、保護層12を形成しない以外は上記実施例と同じ構成で、同様な顕微鏡検査を行った所、エッチングストップ層13のクラックに起因するダメージが200チップ中、28個のチップにて確認された。つまり、本発明による保護層12が、エッチングストップ層13のクラックに起因するダメージに対して有効であることが確認できた。
【0019】
また、本発明においては、吐出口形成部材24および柱26の下に配置される保護層(密着層)14と、犠牲層12の周縁部を覆う保護層14が、図1中の矢視A部を抽出拡大した図2で示すように、パターニングされた構成をとっている。密着層14と保護層14が連続してパターニングされている構成でもエッチングストップ層13のクラックに起因するダメージに対しては有効である。しかし、このようにした場合、流路22の高さが14μmに対して、保護層14の膜厚2μmを占めるため、インクに対する流抵抗が高くなる。流路22からインクが吐出した後、新しいインクが充填される時間が長くなり、ヘッド駆動周波数が比較的遅くなってしまう。特に、流路22の幅が狭くなっている絞り部や柱26の領域に保護層14が配置してある場合では、流抵抗がより高くなるため、ヘッド駆動周波数が制限されてしまう。
【0020】
そのため、図2に示すように、吐出口形成部材24および柱26の下に配置される保護膜(密着層)14と、犠牲層12の周縁部を覆う保護層14が離れるようにパターニングする構成の方が好ましい。流路22の絞り部には膜厚2μmの保護層14が存在しないため、流抵抗が高くなることを抑制し、ヘッド駆動周波数を比較的速くすることができる。犠牲層12の周縁部を覆う保護層14は、エッチングストップ層13のクラックに起因するダメージに対して有効であるように、20μmの幅で形成した。この位置に保護層14を形成しても、流路22の絞り部に配置した場合に比べて、流抵抗への影響は少ないため、ヘッド駆動周波数を抑制することなく、エッチングストップ層13のクラックに起因するダメージの保護も可能となる。なお、図中の端の2ノズル分は、印字時には使用しない(ヘッド駆動周波数が遅くても良い)ダミーノズルのため、その領域の保護層14は連続したパターンにしてある。これは、犠牲層12の隅部はエッチングストップ層13のカバレッジが不利な方向にあるため、クラックがより発生し易く、そのクラックを効果的に抑制するためである。また、本実施例では、ダミーノズルを2ノズル分としたが、本発明の目的を達成するのであれば、これに限らない。
【0021】
以上、本実施例の形態を説明してきたが、図3に示すように保護層14が犠牲層12の隅部のみを覆うような構成を採用することも可能である。犠牲層12の隅部以外は、保護膜12を8μmの幅で形成し、インク供給口まで保護膜12がかからないようにする。このようにしても、エッチングストップ層にクラックが発生しても半導体基板表面側へのエッチング液の滲み込みを防止できるため、本発明の目的を達成できる。
【符号の説明】
【0022】
11 シリコン基板
12 犠牲層
13 エッチングストップ層
14 保護層、密着層
15 開口部
16 エッチングマスク層
17 貫通孔
18 コーナ部
19 クラック
20 電気熱変換素子
21 共通液室
22 流路
23 レジスト
24 吐出口形成部材
25 吐出口
26 柱


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子が形成された基板と、
エネルギー発生素子を覆うエッチングストップ層と、
基板上に接合されエネルギー発生素子上を通って吐出口に連通する流路を形成する流路構成部材と、
流路に連通するように基板に形成されたインク供給口と、
を有するインクジェットヘッドであって、
前記基板と前記流路構成部材との間に形成された第1の保護層と、
前記エッチングストップ層の上に前記インク供給口を囲うように形成された第2の保護層が、
前記流路の入り口付近で、部分的に離れていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記流路の入り口付近で、かつ前記流路を区画する流路壁が形成された平面領域から離れた平面領域内に、前記流路構成部材からなる柱が形成され、
前記基板と前記柱との間に形成された第3の保護層が、前記第2の保護層と離れていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1の保護層と、前記第2の保護層が同じ材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第1の保護層と、前記第2の保護層と、前記第3の保護層が同じ材料で構成されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1の保護層と、前記第2の保護層の厚みが1.5μm以上であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記第1の保護層と、前記第2の保護層と、前記第3の保護層の厚みが1.5μm以上であることを特徴とする請求項4に記載のインクジェットヘッド。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−240208(P2012−240208A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108972(P2011−108972)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】