説明

インクジェットヘッド

【課題】高粘度のインクを微少量吐出することが可能であり、かつ安価に製造できるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】各第1信号電極14に電圧を印加することにより各隔壁12を変形して各インク溝9のインクを個別に加圧する第1アクチュエータ51を構成する。また、各第2信号電極16に電圧を印加することにより各隔壁13を変形する第2アクチュエータ52を構成する。第2アクチュエータ52は、インク溝9の他端側(ノズルと反対側)に対向配置され、インク吐出時にインク溝9の背圧を上昇する。これにより、加圧されたインク溝9のインクが効率的にノズル方向へ流れるため、吐出力が向上する。また、隔壁13を加えるだけの簡素な構成で第2アクチュエータを構成するので、吐出する液滴量の微量化や高粘度化を可能とするインクジェットヘッドを安価に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク液滴を選択的に記録媒体に吐出して塗布させるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインクジェットヘッドは、圧力室内のインク圧力を変化させ、インクに流れを発生させてノズルからインクを吐出させることによりインク液滴を噴射するものである。このようなインクジェットヘッドとしては、特にドロップオンデマンド型のヘッドが最も一般的である。また、インクに圧力を印加する方式には大きく2つの方式がある。それは、圧電素子に駆動信号を印加して該圧電素子を変形させ、圧力室内の圧力を変化させることでインクの圧力を変化させる方式と、抵抗体に駆動信号を印加して該抵抗体を発熱させ、圧力室内に気泡を発生させることでインクに圧力を加える方式である。
【0003】
このうちの圧電素子を用いた(いわゆるピエゾ方式の)インクジェットヘッドは、例えばバルク状の圧電材料を機械加工する等によって、比較的容易に作成することが可能である。また、比較的インクの制約も少なく、幅広い材料(種類)のインクを記録媒体に選択的に塗布できる利点も有している。このような観点から近年、インクジェットヘッドを、カラーフィルターの製造、配線形成等の工業用途に利用する試みも多くなっている。
【0004】
このような工業用に利用するピエゾ方式のインクジェットヘッドとしては、シェアモード方式が多く採用されている。シェアモード方式は、分極処理された圧電材料に直交方向の電界が印加されることにより、該圧電材料がせん断変形することを利用したものである。即ち、分極処理されたバルク状の圧電材料に、例えばダイシングブレードによりインク溝等を加工することで、当該インク溝の両側に圧電素子からなる隔壁を形成する。その隔壁の両側面に電極を形成し、その電極に電圧を印加して隔壁を変形させることでインク溝のインクを加圧し得るアクチュエータプレートを構成する。そして、アクチュエータプレートに、ノズルが形成させたノズルプレート、インクを供給するマニホールド等を取付けることによりインクジェットヘッドが形成される。
【0005】
上記シェアモード方式のインクジェットヘッドの中には、特許文献1のように、インクを充填するインク溝と、インク溝と隣接するインクを充填しないダミー溝とをアクチュエータプレートに形成したものが提案されている。このものは、インク溝側の電極をグランドに接地し、ダミー溝側の電極に信号電圧を印加することにより、インク溝とダミー溝間の隔壁を変形させるように構成されている。この方式は、インクと接触しているインク溝がグランドであるため、導電性の高いインクを用いることが可能である。
【0006】
また、特許文献2のように、インク供給路に径を縮小させた絞り部を設けた構造が提案されている。このものは、インク溝に充填されるインクに背圧をかけて、インクの逆流を抑え、隔壁の変形によるインク滴の吐出効率を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−141653号公報
【特許文献2】特開2002−361860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、インクジェットにより吐出される液滴量の更なる微量化、吐出するインクの高粘度化、が求められてきている。インクの吐出量の微量化を上記構造のインクジェットヘッドで実現するには、ノズル開口面積を微小径化する、インク溝の長さを短くしたりインク溝の深さを狭めたりして該インク溝の固有振動数を増加させる、等の対応が考えられる。
【0009】
しかしながら、ノズル開口面積を小径化すると、インク滴吐出に際する流路抵抗が激増してしまうため、インク加圧時に吐出とは逆の方向に流れるインク量の割合が増えてしまう。そこで、例えば特許文献2のような構造を採用して、インク供給路の絞りを更に小径化することも考えられるが、インク供給路の絞り部を過剰に小径化するとインクのリフィル性(補充効率)が低下してしまうという問題がある。
【0010】
また、インク溝の長さを短くしたりインク溝の深さを狭めたりすると該インク溝の固有振動数は増加するが、該インク溝の変位体積は減少してしまい、インクの加圧力が低下してしまう。そのため、流路抵抗が激増したノズル開口からインク滴を吐出させるのが困難になるという問題があった。
【0011】
そして、ノズル開口面積を微小径化したものや、インク溝長さ及びインク溝深さを狭めたものにおいて、高粘度のインクを吐出させる場合は、流路抵抗の増大やリフィル性への影響が更に顕著になるという問題があった。
【0012】
そこで本発明は、吐出する液滴量の微量化や高粘度化を可能とするものでありながら、安価に製造できるインクジェットヘッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一端側がインクを吐出するノズル開口に連通すると共に他端側から供給されるインクを充填する複数のインク溝と、各前記インク溝の側方に並設される複数のダミー溝と、圧電材料からなり、第1電極対が形成された、各前記インク溝とそれに隣接する前記ダミー溝との間を仕切る複数の第1隔壁と、前記複数のインク溝の他端側と連通すると共に前記複数のダミー溝と隔離され、前記複数のインク溝にインクを供給する供給溝と、圧電材料からなり、第2電極対が形成された、前記供給溝の一側面を構成すると共に、各前記インク溝の他端側の開口部に対向するように配置された複数の第2隔壁と、を備え、各第1電極対に電圧を印加することにより各前記第1隔壁を変形して各前記インク溝のインクを個別に加圧する複数の第1アクチュエータが構成されると共に、各前記第2電極対に電圧を印加することにより各前記第2隔壁を変形して各前記インク溝のインクの背圧を上昇する複数の第2アクチュエータが構成されたことを特徴とするインクジェットヘッドにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、第1アクチュエータでインク溝のインクを加圧する際に、第2アクチュエータを動作させることで、インク溝に背圧を発生させることができる。従って、背圧により加圧されたインク溝のインクが効率的にノズル開口に流れるため、インクの吐出効率の向上を図ることができ、ノズル開口径が小さくても、また、インク粘度が高くても、インクを吐出させることが可能となる。また、インクの吐出効率の向上により、インク溝の長さを短くしたりインク溝の深さ狭めたりすることもできるため、インク溝の固有振動数を増加させることもでき、更なるインク滴の微小化も可能となる。そして、第2隔壁を加えるだけの簡素な構成で第2アクチュエータを構成できるので、吐出する液滴量の微量化や高粘度化を可能とするインクジェットヘッドを安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係るアクチュエータプレートの上方側を示す斜視図で、(a)は前方斜視図、(b)は後方斜視図。
【図2】第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドを示す分解斜視図。
【図3】第1の実施の形態に係るアクチュエータプレートの下方側を示す斜視図で、(a)は前方斜視図、(b)は後方斜視図。
【図4】外形加工後の圧電素子基板を示す斜視図。
【図5】圧電素子基板の分割加工を示す図で、(a)は斜視図、(b)は分割加工時の断面図。
【図6】分割した圧電素子基板の溝加工後を示す斜視図。
【図7】分割した圧電素子基板を貼り合わせた状態を示す斜視図。
【図8】圧電素子基板に形成された電極の分断加工を示す図で、(a)は上方側を示す斜視図、(b)は下方側を示す斜視図。
【図9】インク供給口の加工時を示す斜視図。
【図10】第1の実施の形態に係るアクチュエータの駆動パルスを示すタイムチャート。
【図11】第1の実施の形態に係る第1アクチュエータの動作を示す模式説明図で、(a)は電圧印加時の図、(b)は電圧を降下させた時の図。
【図12】第1の実施の形態に係る第2アクチュエータの動作を示す模式説明図で、(a)は電圧印加時の図、(b)は電圧を降下させた時の図。
【図13】第2の実施の形態に係るアクチュエータプレートの下方側を示す後方斜視図。
【図14】第2の実施の形態に係るインクジェットヘッドを示す分解斜視図。
【図15】第2の実施の形態に係るアクチュエータの駆動パルスを示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1乃至図12に沿って説明する。なお、本実施形態においては説明のため、第2アクチュエータは第1アクチュエータと同様なシェアモード方式(d31方向へ変位)の構造としているが、ダイレクトモード方式(d33方向へ変位)の構造であっても構わない。即ち、第2アクチュエータを構成する圧電素子の分極方向は、第1アクチュエータを構成する圧電素子と同方向であってもよいし、インク溝と平行な方向であってもよく、電極の配置も所望の駆動方式に合わせて適宜決められてよい。
【0017】
まず、第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成について図1乃至図3に沿って説明する。なお、本実施の形態の説明において、説明の便宜上、インクを吐出するノズル側を「前方」、反対側(マニホールド側)を「後方」という。また、詳しくは後述するインク溝が形成されている側を「上方」、反対側(フレキシブル基板側)を「下方」という。しかしながら、これら定義した方向によってインクジェットヘッドの使用状態の方向性が限定されるものではない。
【0018】
図2に示すように、第1の実施の形態に係るインクジェットヘッド50は、アクチュエータプレート1と、ノズルプレート2と、カバープレート4と、マニホールド5と、フレキシブル基板(以下、「フレキ基板」という)6と、を備えて構成されている。アクチュエータプレート1には、その上方側にダミー溝8、インク溝9、インク供給溝10が形成されており、これら溝の上面にはカバープレート4が貼り合わされて各溝の上方が閉塞される。また、ノズルプレート2とアクチュエータプレート1は、インク溝9の一端側(前方側)とノズル(ノズル開口)3とがアラインメントされた状態で連通するように貼り合わされる。更に、アクチュエータプレート1の後方側には、マニホールド5が接続される。インクタンク(不図示)から供給されたインクは、このマニホールド5の吸入口5aを通過した後、インク供給口(切欠部)11を通ってインク供給溝10及びインク溝9へと充填される。また、アクチュエータプレート1の下面には、フレキ基板6が貼り合わされる。フレキ基板6には、信号線7が形成されており、これらの信号線7はインク溝9に対応した位置にアラインメントされる。
【0019】
次に、第1の実施の形態に係るアクチュエータプレート1の構造について図1及び図3に沿って詳細に説明する。なお、図1はアクチュエータプレート1の一部分を拡大して示したものであり、実際のアクチュエータプレート1は、図2に示すように複数のインク溝9と複数のダミー溝8とを有するものである。
【0020】
図1(a)及び(b)に示すように、アクチュエータプレート1の上面側には、複数のインク溝9と複数のダミー溝8とが交互に隣接して形成されており(図2参照)、言い換えると、各インク溝9を挟んで両側方にダミー溝8が並設されるように形成されている。各インク溝9とそれに隣接するダミー溝8との間は、詳しくは後述する圧電素子基板23にそれらインク溝9及びダミー溝8を形成した結果、分極された圧電材料からなる一対の隔壁(第1隔壁)12で仕切られる形に構成される。なお、圧電素子基板23はそれぞれ反対方向に分極された圧電素子を貼り合わせて形成されたものであり、隔壁12は反対方向に分極された圧電素子が貼り合わさった壁ということになる。
【0021】
各隔壁12のダミー溝8を構成する側の側面(ダミー溝8の内面)には第1信号電極14が形成され、かつ各隔壁12のインク溝9を構成する側の側面(インク溝9の内面)には共通電極15が形成されている。これら第1信号電極14と共通電極15により一対の第1電極対が形成されている。即ち、隔壁12の圧電素子の分極方向は、これらの第1信号電極14及び共通電極15(第1電極対)にかかる電圧方向に対して直行方向となっている(図中矢印)。
【0022】
また、アクチュエータプレート1の前面側には、各ダミー溝8と連通するようにそれぞれ信号取出溝17が形成されている。各信号取出溝17は、図3(a)に示すように、アクチュエータプレート1の下面であってフレキ基板6が接続されるフレキ面1aまで連通するように形成されている。第1信号電極14はダミー溝8の内面の全域に形成されており、それと連通して信号取出溝17の内面の全域に信号取出電極20が形成されている。フレキ面1aには複数のパッド電極19が形成されており、フレキ面1aの各パッド電極19が各信号取出溝17の信号取出電極20を介して各ダミー溝8の第1信号電極14に連通されている。
【0023】
そして、図1及び図3に示すように、各ダミー溝8及び各信号取出溝17の幅方向の略々中央からフレキ面1aに亘っては、前後方向に電極分断溝18が設けられている。これにより、ダミー溝8を挟んで隣り合う隔壁12の第1信号電極14同士、信号取出溝17の隣り合う信号取出電極20同士、隣り合うパッド電極19同士は、電気的に絶縁(分離)されている。即ち、各パッド電極19は、1つのインク溝9を挟む一対の隔壁12,12に形成された2箇所の第1信号電極14,14にそれぞれ個別に対応するように連通されている。また、各パッド電極19は、上述したフレキ基板6の各信号線7に個々に対応して貼り合わされ、各パッド電極19と各信号線7とが導通される。これらの各パッド電極19に導通する信号線7は不図示の制御回路に接続され、詳しくは後述する駆動パルスP1が印加される。
【0024】
更に、図1(a)及び(b)に示すように、各インク溝9及び詳しくは後述するインク供給溝10の内面の全域には、それらを全て電気的に連通する共通電極15が形成されている。図3(a)及び(b)に示すように、アクチュエータプレート1の両側面1bには共通取出電極21が形成されており、インク供給溝10端部の共通電極15がそれら共通取出電極21に連通されている。そして、これらアクチュエータプレート1の両側面1bの共通取出電極21は、フレキ面1aの両端部に形成された2箇所の共通パッド電極22に連通されている。即ち、共通パッド電極22は、インク溝9及び詳しくは後述するインク供給溝10の内面の共通電極15に連通されている。また、共通パッド電極22は、上記フレキ基板6の両端の信号線7に対応して貼り合わされ、共通パッド電極22と両端の信号線7とが導通される。この両端の信号線7は例えば不図示の制御回路を介してグランドに接地される。
【0025】
以上の構成により、各インク溝9を挟んだ一対の隔壁12は、対応するパッド電極19と共通パッド電極22とに対して印加される電圧(駆動パルス)がそれぞれ第1信号電極14と共通電極15とに対して印加される。これにより、一対の隔壁12は、間に挟んだインク溝9内に充填されたインクを加圧し得る第1アクチュエータ51として動作する。従って、アクチュエータプレート1には、各インク溝9のインクを個別に加圧する複数の第1アクチュエータ51が構成されていることになる。なお、第1アクチュエータ51の詳しい動作については後に詳述する。
【0026】
一方、図1(a)及び(b)に示すように、各インク溝9の他端側(後方側)は、各インク溝9にインクを供給するためのインク供給溝(供給溝)10と連通している。インク供給溝10は、インク溝9及びダミー溝8の溝方向(前後方向)に直行した方向(即ち横方向)に形成されており、該インク供給溝10の前方側は、主に各ダミー溝8との間を仕切って隔離する壁によって構成されている。これにより、インク溝9にはインクが供給され、ダミー溝8にインクが供給されないように構成されている。
【0027】
また、インク供給溝10の後方側は、該インク供給溝10の一側面を形成する隔壁(第2隔壁)13により構成されており、該隔壁13は、マニホールド5の吸入口5aとインク供給溝10との間を仕切っている。隔壁13は、電極分断溝18と対向する位置に形成されたインク供給口(切欠部)11によって複数に分断されている。これにより、各隔壁13は、各インク溝9の他端側の開口部分にそれぞれが対向するように配置されている。また、これらインク供給口11が、マニホールド5の吸入口5aから供給されるインクをインク供給溝10に導入する供給部分となっている。
【0028】
上記隔壁13は、上述した隔壁12と同様に、詳しくは後述する圧電素子基板23にインク供給溝10及びインク供給口11を形成した結果、形成された壁状からなり、つまり分極された圧電素子からなる。
【0029】
また、上述したように、隔壁13のインク供給溝10を構成する側の側面(インク供給溝10の内面)には共通電極15が形成されている。一方、隔壁13の後面(即ちインク供給溝10を構成する側の側面に形成された共通電極15と反対側の側面)には、それぞれ第2信号電極16が形成されている。各第2信号電極16は、図3(b)に示すように、上述した電極分断溝18により分断された複数のパッド電極19のうち、対応する位置にあるパッド電極19に連通されている。これら第2信号電極16と共通電極15により一対の第2電極対が形成されている。即ち、隔壁13の圧電素子の分極方向は、これらの第2信号電極16及び共通電極15(第2電極対)にかかる電圧方向に対して直行方向となっている(図1(b)中矢印)。
【0030】
以上の構成により、各インク溝9の他端側の開口部に対向する各隔壁13は、対応するパッド電極19と共通パッド電極22とに印加される駆動パルスがそれぞれ第2信号電極16及び共通電極15(第2電極対)に対して印加される。これにより、各隔壁13は、インク供給溝10内に充填されたインクを加圧し、各インク溝9のそれぞれに対して個別に背圧を発生し得る第2アクチュエータ52として動作する。従って、アクチュエータプレート1には、各インク溝9のインクの背圧を個別に上昇する複数の第2アクチュエータ52が構成されていることになる。なお、第2アクチュエータ52の詳しい動作については後に詳述する。
【0031】
次に上記アクチュエータプレート1の製造方法について図4乃至図9に沿って説明する。まず、図4に示すように、分極処理した2枚の圧電素子23a,23bをそれらの分極方向を反転した状態で貼り合わせて1枚の圧電素子基板23を生成し、その後に研削などの加工により所望の厚さに加工する。ついで、図5(b)に示すように、圧電素子基板23の上面から相対的に太い砥石で所望の深さまで溝加工した後、相対的に細い砥石26に切り替えて圧電素子基板23の下面まで切削する。これにより、図5(a)に示すように、圧電素子基板23が、溝加工基板24と貼合せ基板25との二つに分割される。なお、上述の相対的に太い砥石で加工する溝の深さにより、上記インク供給溝10の深さが決まり、またそれら2つの砥石厚差によりインク供給溝10の幅が決まることになる。
【0032】
続いて図6に示すように、溝加工基板24にインク溝9、ダミー溝8及び信号取出溝17の加工を行なう。これらの溝加工の方法については特に限定されないが、砥石を用いた切削加工によって加工可能である。インク溝9は、溝加工基板24の両端を突き抜けるように加工し、ダミー溝8は、溝加工基板24の後方側に所定の厚みを残して前方側だけを突き抜けるように加工する。また、信号取出溝17は、ダミー溝8の前方側にあって、上下方向の両端を突き抜けるように所定の深さで加工する。ここで、インク溝9とダミー溝8との加工に際し、それぞれの溝幅及びピッチを設定することにより、第1アクチュエータ51となる隔壁12の厚さが決まる。隔壁12の厚さが薄いと、アクチュエータとしての変位量は増加する傾向にあるが、物理的な強度とトレードオフの関係にあるので、上記溝幅及びピッチは適切に設定される必要がある。
【0033】
その後、図7に示すように、溝加工基板24と貼合せ基板25とを貼り合わせ、更に貼合せ基板25を研削加工により所望の厚さに加工することで1枚のアクチュエータプレート1を構成する。ここで、貼合せ基板25の厚さを薄くすると、第2アクチュエータとなる隔壁13の厚さが薄くなり、隔壁13の変位量は増大するが、前述の通り物理的な強度も考慮し、適切に設定する必要がある。
【0034】
次に、アクチュエータプレート1の各溝の内部も含めた全面に導電層を形成する。これは無電解メッキなどによって容易に実現できる。続いて、アクチュエータプレート1の上面(カバープレート4と貼り合わされる面)と前面(ノズルプレート2と貼り合わされる面)の導電層のみを研磨などにより選択除去する。更に続いて、図8(a)に示すように、例えばエキシマレーザ等を用いて、信号取出溝17及びダミー溝8の略々中央に電極分断溝18を加工する。なお、製法としてはエキシマレーザ等だけでなく、切削加工を用いてもよい。この電極分断溝18により、ダミー溝8及び信号取出溝17の導電層が分離され、2つの第1信号電極14を形成する。更には、図8(b)に示すように、電極分断溝18はフレキ面1aに対しても同様に加工され、フレキ面1aの導電層が、上述した複数のパッド電極19及び共通パッド電極22として形成される。
【0035】
その後、図9に示すように、アクチュエータプレート1の後面である隔壁13に、例えば砥石26等で図中矢印に示す方向に溝加工することで、インク供給口11を上下方向に突き抜けるように形成し、複数の隔壁13に分割する。このように、インク供給口11を形成することで、マニホールド5内部とインク供給溝10とを連通させるだけでなく、隔壁13を分断し、第2アクチュエータ52として個々に独立して動作可能とする。なお、このインク供給口11の加工方法についても特に限定されないが、切削加工やレーザ加工等によっても実現できる。また、この後に絶縁膜(不図示)をCVD法などにより隔壁13の後面(特にマニホールド5の内部でインクに接する部分)に付与することで、導電性のあるインクを用いた場合においても、インクに電圧がリークしない。即ち、隔壁13の第2信号電極16からインクに電流がリークすることなく、第2アクチュエータ52を良好に動作させることが可能となる。
【0036】
以上説明した工程によりアクチュエータプレート1を完成した後、図2に示したようにノズルプレート2、カバープレート4、マニホールド5、フレキ基板6等をアクチュエータプレート1に貼り合わせ、インクジェットヘッド50が構成される。
【0037】
ついで、本インクジェットヘッド50の動作(主にアクチュエータプレート1の動作)について図10乃至図12に沿って説明する。ここで、複数のパッド電極19のうちの1つに、フレキ基板6を介して図10に示す駆動パルスP1(電圧V1、パルス幅W1)が印加され、かつ共通パッド電極22がグランドGに接地されたとする(図3参照)。なお、駆動パルスP1のパルス幅W1は、インクが充填された際の第1アクチュエータ51の固有振動数をFr1とした場合、1/(2×Fr1)と略等しく設定される。
【0038】
パッド電極19に印加された電圧V1は、信号取出電極20を介して、1つのインク溝9を挟んだ一対の第1信号電極14,14に印加される。また、一方で電圧V1は第2信号電極16にも印加される。そして、共通パッド電極22の接地により、共通取出電極21を介して、インク供給溝10及びインク溝9内の共通電極15は全て接地される。
【0039】
この際の第1アクチュエータ51の動作を図11(a)及び(b)に示し、第2アクチュエータ52の動作を図12(a)及び(b)に示す。図11(a)に示すように、パッド電極19から一対の第1信号電極14,14に電圧V1が印加され、共通電極15が接地される(第1電極対に電圧が印加される)ことにより、隔壁12,12はインク溝9を膨張させるようにせん断変形する。これにより、第1アクチュエータ51としては体積が膨張し、インク溝9にインクを吸入する。
【0040】
また同時に、図12(a)に示すように、第2信号電極16にも電圧V1が印加され、共通電極15が接地される(第2電極対に電圧が印加される)ことにより、隔壁13はインク供給溝10を介してインク溝9の背面の領域を膨張させるようにせん断変形する。これにより、第2アクチュエータ52としては体積が膨張し、インク溝9の開口部近傍の領域にあるインク供給溝10にインクを吸入する
【0041】
次に、パルス幅W1の時間が経過した後は、図11(b)に示すように、第1信号電極14,14に印加された電圧V1が電圧V0に降下されるため(第1電極対の電圧が降下されるため)、隔壁12,12はインク溝9を圧縮させるようにせん断変形する。これにより、第1アクチュエータ51としては体積が収縮し、インク溝9内部に充填されているインクが加圧され、ノズル3及びマニホールド5の方向(前後方向)に流れようとする。
【0042】
ここで、ノズルプレート2に形成されているノズル3は、インク供給口11よりも小径であるため、通常であれば加圧されたインクはマニホールド5の方向に流れる割合が多くなる。しかしながら、本実施の形態においては、第1アクチュエータ51の動作と同時に、第2アクチュエータ52も動作し、マニホールド5の方向への流れを防止する。
【0043】
即ち、図12(b)に示すように、パッド電極19の電圧を電圧V0まで落とした際には、第1信号電極14,14と同時に第2信号電極16に印加されていた電圧V1も電圧V0に降下される。すると、隔壁13はインク供給溝10を介してインク溝9の背面の領域を収縮させるようにせん断変形する。つまり、第1アクチュエータ51によるインク溝9のインクの加圧と同時に、第2アクチュエータ52によりインク溝9の後方側の開口部近傍にあるインク供給溝10の領域を圧縮させ、瞬間的にインク溝9の背圧を上昇させる。この第2アクチュエータ52の動作により、インク溝9で加圧されたインクのマニホールド5の方向への流れを防止でき、第1アクチュエータ51の加圧を効率的にインク吐出に寄与させることができる。
【0044】
以上のように第1の実施の形態に係るインクジェットヘッド50によると、第1アクチュエータ51でインク溝9のインクを加圧する際に、第2アクチュエータ52を動作させることで、インク溝9に背圧を発生させることができる。従って、背圧により加圧されたインク溝9のインクが効率的にノズル3に流れるため、インクの吐出効率の向上を図ることができ、ノズル3の径が小さくても、また、インク粘度が高くても、インクを吐出させることが可能となる。また、インクの吐出効率の向上により、インク溝9の長さを短くしたりインク溝9の深さ狭めたりすることもできるため、インク溝9の固有振動数を増加させることもでき、更なるインク滴の微小化も可能となる。そして、隔壁13を加えるだけの簡素な構成で第2アクチュエータ52を構成できるので、吐出する液滴量の微量化や高粘度化を可能とするインクジェットヘッド50を安価に製造できる。
【0045】
また、隔壁13は、インクを吸入するマニホールド5の吸入口5aとインク供給溝10とを仕切ると共に、各ダミー溝8と対向するように配置されてマニホールド5の吸入口5aとインク供給溝10とを連通する複数のインク供給口11を有している。そして、隔壁13は、複数のインク供給口11により分断されることにより複数の第2アクチュエータ52のそれぞれが各インク溝9に対応するように構成されている。これにより、第2アクチュエータをインク溝9に対応する部位にそれぞれ分断すると同時に、インク供給溝10にインクを導入するインク供給口11を形成可能である。従って、隔壁13の分断とインク供給口11の形成とを同一工程で形成できて製造コストを増大させることなく、かつインクのリフィル性も向上させることができる。
【0046】
さらに、第1アクチュエータ51におけるインク溝9を構成する側の側面に形成されている電極と、第2アクチュエータ52におけるインク供給溝10を構成する側の側面に形成されている電極とが、共通電極15として電気的に連通されている。この構造は、上述のように、アクチュエータプレート1の全面に導電層を形成する工程で実現でき、インク溝9及びインク供給溝10の内部全域に導電層を容易に形成することができる。従って、特別なパターニングをすることなく容易に導電層を形成できるため、インクジェットヘッド50の更なる低コスト化を実現できる。また、第1及び第2アクチュエータ51,52の電極としての共通電極15を接地することで、2つの電極を別々に電気制御することが不要となり、それら2つのアクチュエータの制御を容易にできる。
【0047】
また、第1アクチュエータ51におけるダミー溝8を構成する側の側面に形成されている第1信号電極14と、第2アクチュエータ52におけるアクチュエータプレート1の後面に形成されている第2信号電極16とが、電気的に連通されている。この構造によれば、第1アクチュエータ51と第2アクチュエータ52を同一の駆動パルスP1(信号電圧)により駆動できるので、構造を簡素化できると共に、2つのアクチュエータの制御を更に容易にできる。
【0048】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図13乃至図15に沿って説明する。なお、本第2の実施の形態の説明においては、一部変更部分を除き、第1の実施の形態と同様な部分に同符号を付して、その説明を省略する。
【0049】
図13に示すように、本第2の実施の形態に係るアクチュエータプレート1は、フレキ面1aの導電層を例えば前後方向の中央で横方向に分断するように電極分断溝27を設けたものである。この電極分断溝27の形成は、例えばエキシマレーザ等(切削加工でも良い)を用いて加工することができる。この電極分断溝27は、電極分断溝18により分割形成された各パッド電極19を分断するものであり、共通パッド電極22を分断する必要はない。これにより、フレキ面1aには、パッド電極19と新たに分断されたパッド電極28との2つのパッド電極が形成される。このうちのパッド電極19は第1信号電極14に連通し、パッド電極28は第2信号電極16と連通している。従って、第1信号電極14と第2信号電極16とは電気的に分離されている。なお、加工するタイミングとしては、電極分断溝18を形成する前でも後でも構わず、特にアクチュエータプレート1の全面に導電層を形成した後なら、どのタイミングでも良い。
【0050】
また、本第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド50は、図14に示すように、パッド電極19と接合される信号線7を有するフレキ基板6に加え、パッド電極28と接合される信号線30を有するフレキ基板29が貼り合わされる。このように構成することにより、パッド電極19を介して第1信号電極14と、パッド電極28を介して第2信号電極16とに別々の駆動パルスを印加できる。言い換えると、第1アクチュエータ51と第2アクチュエータ52とは、それぞれ異なる駆動パルスを印加することで、個別に制御可能となっている。
【0051】
即ち、第1及び第2アクチュエータ51,52を動作させる際は、図15に示す駆動パルスP1(電圧V1、パルス幅W1)をパッド電極19に印加し、駆動パルスP2(電圧V2、パルス幅W2)をパッド電極28に印加する。なお、駆動パルスP1のパルス幅W1は、第1の実施の形態と同様に、インクが充填された際の第1アクチュエータ51の固有振動数Fr1に対し、1/(2×Fr1)となるように設定するのが好ましい。
【0052】
また、駆動パルスP2のパルス幅W2は、インクが充填された際の第2アクチュエータ52の固有振動数Fr2に対し、1/(2×Fr2)となるように設定するのが好ましい。なお第2アクチュエータ52の変位領域が小さく、加圧力に乏しい場合においては、電圧V2を高く設定して変位量を大きくすることで、十分な加圧力を確保できる。
【0053】
また、駆動パルスP2を、駆動パルスP1の印加タイミングよりΔt=W1−W2だけ遅れて印加させ、2つの駆動パルスP1,P2の電圧降下のタイミングを合わせる事が好ましい。これによれば、第1アクチュエータ51と第2アクチュエータ52のインク吐出時における加圧タイミングを合わせることができる。
【0054】
このようにして吐出させたインク滴の吐出速度は、第2アクチュエータ52を設けなかった場合と比較して飛躍的に速くなり、インク滴の吐出力が大幅に向上する。吐出力の向上は、更なる高粘度インクの吐出や、更なる微小径ノズルからの吐出(微滴化)を可能とする。また特に、第2の実施の形態においては、第1アクチュエータ51の第1電極対における第1信号電極14と、第2アクチュエータ52の第2電極対における第2信号電極16とが電気的に分離されている。これにより、第1及び第2アクチュエータ51,52の駆動をそれぞれ固有振動数に合わせる等して最適化することができ、第1の実施の形態に比しても、インク滴の吐出力を向上することができる。そして、隔壁13を加え、電極分断溝27を設けるだけの簡素な構成で個別に駆動できる第2アクチュエータ52を構成できるので、吐出する液滴量の微量化や高粘度化を可能とするインクジェットヘッド50を安価に製造できる。
【符号の説明】
【0055】
3…ノズル開口(ノズル):5…マニホールド:5a…吸入口:8…ダミー溝:9…インク溝:10…供給溝(インク供給溝):11…切欠部(インク供給口):12…第1隔壁(隔壁):13…第2隔壁(隔壁):14…電極(第1信号電極):15…電極(共通電極):16…電極(第2信号電極):50…インクジェットヘッド:51…第1アクチュエータ:52…第2アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側がインクを吐出するノズル開口に連通すると共に他端側から供給されるインクを充填する複数のインク溝と、
各前記インク溝の側方に並設される複数のダミー溝と、
圧電材料からなり、第1電極対が形成された、各前記インク溝とそれに隣接する前記ダミー溝との間を仕切る複数の第1隔壁と、
前記複数のインク溝の他端側と連通すると共に前記複数のダミー溝と隔離され、前記複数のインク溝にインクを供給する供給溝と、
圧電材料からなり、第2電極対が形成された、前記供給溝の一側面を構成すると共に、各前記インク溝の他端側の開口部に対向するように配置された複数の第2隔壁と、を備え、
各第1電極対に電圧を印加することにより各前記第1隔壁を変形して各前記インク溝のインクを個別に加圧する複数の第1アクチュエータが構成されると共に、各前記第2電極対に電圧を印加することにより各前記第2隔壁を変形して各前記インク溝のインクの背圧を上昇する複数の第2アクチュエータが構成された、
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第2隔壁は、インクを吸入するマニホールドの吸入口と前記供給溝とを仕切ると共に、各前記ダミー溝と対向するように配置されて前記マニホールドの吸入口と前記供給溝とを連通する複数の切欠部を有し、前記複数の切欠部により分断されることにより前記複数の第2アクチュエータのそれぞれが各前記インク溝に対応するように構成された、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1アクチュエータの第1電極対における前記インク溝を構成する側の側面に形成されている電極と、前記第2アクチュエータの第2電極対における前記供給溝を構成する側の側面に形成されている電極とは、電気的に連通されている、
ことを特徴とした請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第1アクチュエータの第1電極対における前記ダミー溝を構成する側の側面に形成されている電極と、前記第2アクチュエータの第2電極対における前記供給溝を構成する側の側面と反対側の側面に形成されている電極とは、電気的に連通されている、
ことを特徴とした請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1アクチュエータの第1電極対における前記ダミー溝を構成する側の側面に形成されている電極と、前記第2アクチュエータの第2電極対における前記供給溝を構成する側の側面と反対側の側面に形成されている電極とは、電気的に分離されている、
ことを特徴とした請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−35211(P2012−35211A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178554(P2010−178554)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】