説明

インクジェット捺染方法および装置

【課題】 インクジェット捺染で反応染料インクと処理液とをほぼ同時に付与しても、にじみ防止を実現しつつ、色の汚染も防止することができるインクジェット捺染方法および装置を提供する。
【解決手段】 布帛表面画像13は、グラデーション染色領域4および隣接染色領域5,6を含む色柄を含む。前処理領域10では、グラデーション染色領域4での色濃度の変化に応じて濃度が変化するように、高濃度前処理領域11aと低濃度前処理領域11bとを含むグラデーション前処理領域11を形成する。処理液には、にじみ防止剤を含むので、布帛表面上での色のにじみの発生を防止することができる。さらに、グラデーション染色領域4の低濃度部4bには低濃度前処理領域11bが対応するので、にじみ防止剤が適切に染料を引寄せると、にじみ防止剤が過剰にならず、色の汚染も生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応染料インクをインクジェットプリンタから吐出して布帛に画像を捺染するインクジェット捺染方法および装置に関する。
なお、「布帛」は、織物地および編物地を総称するものとする。
【背景技術】
【0002】
従来から、綿や羊毛などを素材とする布帛では、反応性染料を使用する捺染が行われている。たとえば、予め布帛の全面に対して染料の定着剤などを含む前処理剤を付与しておき、自然乾燥や強制乾燥後にスクリーン印刷やインクジェットで染料が付与される。捺染後には、良好に発色させ、染料を布帛の生地に定着させるためのスチーム処理などが行われ、洗濯処理で余分なインクが除去され、乾燥させると布帛の染色が完了する。
【0003】
インクジェットでの捺染の前処理には、液状の前処理剤を使用し、スプレーでの噴射やローラーでの塗布などで付与が行われる。このような前処理液を布帛の全面に付与する方式では、インクジェットでのプリント工程とは別の前処理工程を必要とするうえ、前処理液は染料を付与しない領域にまで付与するためにコストがかかってしまう。このような問題の解決手段としては、インクジェットなどのプリントヘッドで、前処理液を、染料を付与する領域のみに付与する同時プリント方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
ただし、同時プリント方法では、布帛上に付与される前処理液と染料インクとが互いに水分を有しているため、布帛表面上で混ざり合ってにじみが発生するおそれがある。このような、にじみの発生を防止するために、にじみ防止の効果がある添加剤を前処理液に添加しておくインクジェット捺染方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2には、布帛の全面にわたり前処理液で前処理剤成分を均一に付与する方法では、プリントしていない領域(白地)へのインク汚染(白場汚染)を引きお起こしやすいことが記載されている。特に、近年のプリント速度向上に伴い、にじみが増大する傾向にあるため、にじみ防止を目的とした前処理方法の改良、開発が行われ、インク吸収能や色剤定着能が向上した結果、白場汚染を悪化させていると記載されている。そこで、インクを布帛に付与する前に、実質的にプリント部にのみ前処理するようにしている。これによって、プリント時のにじみの発生を抑え、発色性に優れ、白場汚染耐性が改良され、洗濯負荷の低減及びプリンタ内での他ヘッドへの汚染防止したインクジェット捺染方法を実現できることが記載されている。また、色剤がアニオン性染料や、アニオン電荷を有する分散染料、あるいは顔料の場合、前処理液にカチオン性高分子を添加することが好ましく、多価金属塩の添加もにじみ防止効果があると記載されている。
【0006】
図6は、特許文献1や特許文献2に開示されているように、前処理液などの処理液と、反応染料などの染料インクとを、布帛表面にほぼ同時に付与にして、インクジェット捺染を行う処理の概要を示す。インクジェット方式では、ヘッドから処理液と染料インクとが順次噴射され、前処理領域1の方が染料プリント領域2よりも後で形成されることもあるけれども、前後する時間差は小さい。このようなプリント工程に続き、スチーム処理を行うスチーム工程で加熱して染料を定着させ、洗濯工程で未定着の染料などを洗い流すように洗濯して、布帛表面画像3を得ている。
【0007】
布帛表面画像3として、グラデーション染色領域4および隣接染色領域5,6を含む色柄を得る場合を想定する。染料プリント領域2の段階では、グラデーション領域4は、高濃度部4aと低濃度部4bとの間で濃度が高低に変化するように、形成される。隣接染色領域5,6は、低濃度部4bに比較すると高い濃度で形成される。前処理領域1では、グラデーション染色領域4および隣接染色領域5,6の輪郭線内に、一定の高濃度で、定濃度前処理領域7a,7b,7cをそれぞれ形成するようにすれば、処理液の無駄を省くことができる。しかしながら、染料インクと処理液とがほぼ同時に付与される領域では、互いに水分を有している状態で付与されるので、布帛表面上で混ざり合って、色のにじみが発生しやすい。
【0008】
にじみ防止剤として、たとえば、第一工業製薬株式会社製の商品名「シャロールDC−902P」などの界面活性剤を処理液に混入しておけば、にじみは発生しにくくなる。ただし、前処理を行う処理液に、にじみ防止剤を含む場合、洗濯工程後の布帛表面画像3では、汚染部8が発生してしまうおそれがある。
【0009】
図7は、グラデーション染色領域4として、短冊状に、黒色K、黄色Y、マゼンタ色Mおよびシアン色Cのグラデーション画像を並べて形成する場合の汚染部8の発生状態を示す。汚染部8は、低濃度側で発生しやすく、また発生すると目立ちやすくなる。
【特許文献1】特開平7−299902号公報
【特許文献2】特開2006−124842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図6および図7に示す汚染部8は、処理液に混入するにじみ防止用の界面活性剤が染料を引寄せる性質を持つので、捺染後の洗濯処理中、洗い流された染料が水中を介して引寄せられて形成されると考えられる。特に色濃度が低い領域では、洗濯処理前には染料を引寄せていない状態のにじみ防止剤が過剰に残存するので、洗濯処理中での汚染の程度自体が大きくなる。処理液を付与しない白場領域では、洗濯処理前に、にじみ防止剤を含む処理液の付与がなく、洗濯処理中に染料が引寄せられないので、色の汚染は基本的に発生しない。また、色の濃い濃色領域では、汚染部8が発生しても目立たない。色の薄いグラデーション柄などの淡色領域などでは、他の色の染料が引寄せられると、汚染部8として目立ち、色の汚染が起こりやすくなる。
【0011】
本発明の目的は、インクジェット捺染で反応染料インクと処理液とをほぼ同時に付与しても、にじみ防止を実現しつつ、色の汚染も防止することができるインクジェット捺染方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、反応染料インクをヘッドから画像データに従ってインクジェット方式で吐出させて、布帛の表面に画像をプリントするインクジェット捺染方法において、
ヘッドからは、にじみ防止剤を含む処理液も吐出可能にしておき、
プリントする画像の色濃度に応じて処理液の濃度が制御されるように、反応染料インクとともに処理液の吐出量を制御することを特徴とするインクジェット捺染方法である。
【0013】
また本発明で、前記処理液の濃度は、前記画像データについての予め定める色空間の要素に基づいて制御することを特徴とする。
【0014】
また本発明で、前記処理液の濃度は、予め定める下限濃度以上となるように制御することを特徴とする。
【0015】
さらに本発明は、反応染料インクをヘッドから画像データに従ってインクジェット方式で吐出させて、布帛の表面に画像をプリントするインクジェット捺染装置において、
ヘッドからは、反応染料インクとともに、にじみ防止剤を含む処理液も吐出可能にしておき、
画像データに応じて、ヘッドから吐出する反応染料インクの濃度を制御するとともに、プリントする画像の色濃度に応じて処理液の濃度を制御する制御手段を含むことを特徴とするインクジェット捺染装置である。
【0016】
また本発明で、前記制御手段は、前記処理液の濃度を、予め定める下限濃度以上となるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、反応染料インクをヘッドから画像データに従ってインクジェット方式で吐出させるとともに、処理液も吐出可能にしておくので、反応染料インクと処理液とをほぼ同時に付与することができる。処理液には、にじみ防止剤を含むので、反応染料インクと処理剤とが付与された布帛の表面上で、にじみの発生を防止することができる。プリントする画像の色濃度に応じて処理液の濃度が制御されるように、反応染料インクとともに処理液の吐出量を制御するので、画像の色濃度が低い淡色の領域では、処理液も低濃度となり、処理液中に含まれて布帛上に付与されるにじみ防止剤の量も少なくなる。したがって、淡色の領域には付与されるにじみ防止剤も少なくなり、淡色領域に引寄せる他の色の染料も少なくなるので、洗濯処理での汚染防止を図ることができる。
【0018】
また本発明によれば、画像データについての予め定める色空間の要素、たとえばRGBの各要素のうちの最小値などに基づいて制御するので、淡色領域では処理液の濃度を容易に小さくすることができる。
【0019】
また本発明によれば、処理液の濃度は、予め定める下限濃度以上となるように制御する。処理液の付与はインクジェット方式で行うので、濃度はヘッドから噴射するインク液滴のドット数に対応し、低濃度ではドット数が少なくなり、反応染料インクのドットと処理液のドットとが布帛表面で互いに出会わなくなってしまうおそれがある。下限濃度以上の濃度の処理液を付与することで、反応染料での捺染を確実に行うことができる。
【0020】
さらに本発明によれば、制御手段は、反応染料インクをヘッドから画像データに従ってインクジェット方式で吐出させるとともに、にじみ防止剤を含む処理液を、プリントする画像の色濃度に応じる濃度で吐出させることができる。反応染料インクと処理液とは、ほぼ同時に布帛表面に付与され、にじみの発生を防止することができる。プリントする画像の色濃度に応じて処理液の濃度が制御されるので、画像の色濃度が低い淡色の領域では、処理液も低濃度となり、処理液中に含まれて布帛上に付与されるにじみ防止剤の濃度も小さくなる。したがって、淡色領域に引寄せる他の色の染料も少なくなるので、洗濯処理での汚染防止を図ることができる。
【0021】
また本発明によれば、制御手段は、処理液の濃度は、予め定める下限濃度以上となるように制御する。インクジェット方式での濃度制御は、ヘッドから噴射するインク液滴のドット数の制御で行う。低濃度ではドット数が少なくなり、反応染料インクのドットと処理液のドットとが布帛表面で互いに出会わなくなってしまうおそれがあるので、下限濃度以上の濃度の処理液を付与することで、反応染料のドットと処理液のドットとが確実に出会うようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の実施の一形態としてインクジェット捺染を行う処理の概要を示す。以下、図6や図7に対応する部分には同一の参照符を付し、重複する説明を省略する。本実施形態でも、前処理領域10と染料プリント領域2とをプリント工程として、ほぼ同時に形成し、スチーム処理を行うスチーム工程で加熱して染料を定着させ、洗濯工程で未定着の染料などを洗い流すように洗濯して、布帛表面画像13を得ている。
【0023】
布帛表面画像13としては、図6の布帛表面画像3と同様に、グラデーション染色領域4および隣接染色領域5,6を含む色柄を得る場合を想定する。染料プリント領域2は同様に形成するけれども、前処理領域10では、前処理領域1での定濃度前処理領域7aではなく、高濃度前処理領域11aと低濃度前処理領域11bとを含むグラデーション前処理領域11を形成する。すなわち、処理液を定濃度前処理領域7aのような一定の高濃度ではなく、グラデーション染色領域4での色濃度の変化に応じて濃度が変化するようにしている。処理液には、前述のシャロールDC−902Pのような、にじみ防止剤を含むので、布帛表面上での色のにじみの発生を防止することができる。さらに、グラデーション染色領域4の低濃度部4bには低濃度前処理領域11bが対応するので、にじみ防止剤が適切に染料を引寄せると、にじみ防止剤が過剰にならず、色の汚染も生じない。
【0024】
図2は、図7と同様に、黒色K、黄色Y、マゼンタ色Mおよびシアン色Cのグラデーション画像を短冊状に並べて形成するグラデーション染色領域4の捺染結果を示す。グラデーション前処理領域11に付与する処理液の濃度を、グラデーション画像の色濃度が低い低濃度前処理領域11bでは、対応して低濃度にしているので、図7に示すような汚染部8は形成されない。
【0025】
図3は、図1に示すようなインクジェット捺染が可能なインクジェット捺染装置20の概略的な外観構成を示す。大略的に扁平な箱形のプリントベッド21の上面は矩形であり、長手方向がX方向となり、幅方向がY方向となる。幅方向の全体にわたってYビーム22が形成され、Yビーム22は、X方向に往復移動する。Yビーム22は、ヘッド23をY方向に往復移動可能なように支持する。ヘッド23は、インクジェット方式で染料インクや処理液を吐出させて付与することができる。染料インクや処理液は、プリントベッド21の端部に配置されるインクタンク24に貯留され、可撓性のパイプなどを介して、ヘッド23に供給される。インクジェット捺染装置20の全体的な制御は、メインコントローラ25によって行われる。ヘッド23によるインクジェット捺染の制御は、捺染コントローラ26によって行われる。インクジェット捺染に関する操作者の入出力処理は、入出力インタフェース27を介して行う。入出力インタフェース27は、液晶表示装置などの表示部28とキーボードやタッチパネルなどの操作部29とを含む。布帛などの被プリント材30は、プリントベッド21の上面に固定される。被プリント材30としては、編地を用いることもできる。
【0026】
図4は、図3に示すインクジェット捺染装置20の概略的な電気的構成を示す。Xモータ31およびYモータ32は、図3のYビーム22およびヘッド23を、X方向およびY方向にそれぞれ移動させる。ピエゾ素子33は、少なくとも、染料インクの色数分に処理液を加えた数だけ、ヘッド23内に備えられる。染料インクの色数を、たとえばCMYKの各色を濃色と淡色とに分ける八色とすれば、九つのピエゾ素子を備えれば、フルカラーの画像を捺染することができる。八色のうちの一色、たとえば黄色Yの淡色を使用しないで、替りに処理液を使用するようにすれば、染料インクと処理液との全体を八色分のピエゾ素子33から被プリント材30に付与することができる。図2に示すグラデーション染色領域4では、黒色K,マゼンタ色Mおよびシアン色Cは、それぞれ濃色および淡色の染料インクを用いて形成しているけれども、黄色Yは濃色の染料インクのみを用いて形成している。なお、捺染の目的に応じて、必ずしもフルカラーの画像が形成されるとは限らず、使用しない色が判明すれば、その色の染料インクの替りに処理液を使用すればよい。
【0027】
図3のメインコントローラ25は、制御部35、記憶部36および通信部37を含む。このようなハードウエアは、一般的なパーソナルコンピュータPCで容易に実現される。記憶部36には、被プリント材30の表面に形成すべき布帛表面画像13の画像データを記憶しておく。画像データは、デザインシステムなどを使用して作成し、通信部37を介して、LANなどのネットワークから取得することができる。また、各種ディスク媒体やUSBメモリなどの記憶媒体から画像データを読出すこともできる。
【0028】
捺染コントローラ26は、画像データに基づき、モータ制御部38がXモータ31およびYモータ32をそれぞれ駆動する。また、画像処理部39が制御手段として機能し、ピエゾ駆動部40を介してピエゾ素子33を駆動し、染料インクや処理液をヘッド23から被プリント材30の表面に噴射させる。画像データは、赤R、緑Gおよび青BのRGB三原色系で表示される場合が多い。布帛表面画像13として被プリント材30の表面を染色する場合は、印刷などと同様に、CMY三原色に黒色Kを加えたCMYK四色系が使用される。RGB三原色系とCMYK四色系との間には、相互にデータを変換することができる。画像処理部39では、RGB三原色系からCMYK四色系への変換も行う。
【0029】
RGB三原色系の色空間では、画像を形成する単位となる各画素がRGB三原色成分の加法混色で表示される。インクジェット方式で形成されるCMYK四色系の色空間では、C,M,Y,Kの各原色成分の染料インクのドットの減法混色で各画素が表示される。染料インクのドットは、一定の濃度で形成され、複数のドットで形成される密度が布帛表面画像13としての色濃度に対応する。また、染料インクとして濃色と淡色とが用意される場合は、色濃度は、濃色のドットと淡色のドットとの配合率でも調整される。
【0030】
画像処理部39では、以上のようなRGBからCMYKへの変換処理ばかりではなく、にじみ防止剤を含む処理液の吐出量も、画像の色濃度に応じて変化するように、算出する。吐出量は、一定の濃度の処理液を吐出しても、吐出するドットの密度に応じて最大の100%から最小の0%まで、少なくとも一ドット分の濃度変化を単位として、対応させて変化させることができる。
【0031】
画像データのRGB三原色系では、RGBの各原色成分の明るさを、たとえば八ビットの255階調で表す場合、各原色成分の階調値をパラメータとして、黒が(0,0,0)、白が(255,255,255)でそれぞれ表される。そこで、図1の前処理領域10を形成する処理液の濃度Pは、
P=(255−[R,G,Bのパラメータの最小値])÷255×100% …(1)
の式で表される。
【0032】
たとえば、赤(255,0,0)では、パラメータの最小値はGまたはBの要素についての0となる。したがって、(1)式に従い、処理液の濃度P=100%となる。また、白に近い薄ピンク色(255,220,255)の場合、最小値はGの要素についての220となる。(1)式に従うと、処理液の濃度P=13.7%となる。前述のように、濃度Pの変化は、実際には一定の濃度の処理液インクを、算出された濃度Pに応じる密度となるドット数分だけ、ヘッド23から吐出する。これによって、図1に示すようなグラデーション前処理領域11を被プリント材30の表面に形成することができる。
【0033】
図5は、グラデーション染色領域4での色濃度の変化と、対応して形成するグラデーション前処理領域11での処理液の付与濃度の変化との対応関係の例を示す。たとえば、X方向に濃度が変化して、Y方向の幅が一定となるグラデーション染色領域4では、色濃度が最大値maxから最小の0まで、X方向に直線的に変化する。これに対応するグラデーション前処理領域11での処理液の付与濃度は、maxから直線的に減少させても、最小値min以上とすることが望ましい。処理液は、インクドットとして付与されるので、低濃度となると、ドット数が少なくなり、染料インクのドットと互いに出会わなくなるおそれがある。最小値minとしては、たとえば5〜15%程度とすれば、染料インクのドットと出会いやすくなることが判明している。
【0034】
被プリント材30の素材が綿や羊毛などの天然繊維であれば、染色インクとしては、アニオン(負イオン)系の反応染料のインクが使用される。ピエゾ素子33からの吐出に適した粘度とするために、溶媒の水に、エチレングリコールやグリセリンが添加される。処理液は、発色剤や定着剤とともに、カチオン(正イオン)系のにじみ防止剤を混合し、水を溶媒として、エチレングリコールやグリセリンの添加で粘度を調整する。
【0035】
色が淡色でも高濃度となる領域では、余分なにじみ防止剤が他の色の染料を引寄せても、洗濯処理での汚染が目立たなくなる。したがって、グラデーション染色領域4で色濃度がある程度以上ある領域に対応する前処理領域は、最大値maxの濃度としてもよい。最大値maxと最小値minの中間の付与濃度も、グラデーション前処理領域11では、対応するグラデーション染色領域4での色濃度の変化よりも粗い階段状の階調で変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の一形態としてインクジェット捺染を行う処理の概要を示す図である。
【図2】図1の処理で、黒色K、黄色Y、マゼンタ色Mおよびシアン色Cのグラデーション画像を短冊状に並べて形成する捺染結果を示す図である。
【図3】図1の処理が可能なインクジェット捺染装置20の概略的な外観構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示すインクジェット捺染装置20の概略的な電気的構成を示すブロック図である。
【図5】図1の処理で、対称となるグラデーション染色領域4での色濃度の状態を示す図、および色濃度の変化と、対応して形成するグラデーション前処理領域11での処理液の付与濃度の変化との対応関係の例を示すグラフである。
【図6】先行技術によるインクジェット捺染を行う処理の概要を示す図である。
【図7】図6の処理で、黒色K、黄色Y、マゼンタ色Mおよびシアン色Cのグラデーション画像を短冊状に並べて形成する捺染結果を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
2 染料プリント領域
4 グラデーション染色領域
10 前処理領域
11 グラデーション前処理領域
13 布帛表面画像
20 インクジェット捺染装置
23 ヘッド
25 メインコントローラ
26 捺染コントローラ
30 被プリント材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応染料インクをヘッドから画像データに従ってインクジェット方式で吐出させて、布帛の表面に画像をプリントするインクジェット捺染方法において、
ヘッドからは、にじみ防止剤を含む処理液も吐出可能にしておき、
プリントする画像の色濃度に応じて処理液の濃度が制御されるように、反応染料インクとともに処理液の吐出量を制御することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記処理液の濃度は、前記画像データについての予め定める色空間の要素に基づいて制御することを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記処理液の濃度は、予め定める下限濃度以上となるように制御することを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
反応染料インクをヘッドから画像データに従ってインクジェット方式で吐出させて、布帛の表面に画像をプリントするインクジェット捺染装置において、
ヘッドからは、反応染料インクとともに、にじみ防止剤を含む処理液も吐出可能にしておき、
画像データに応じて、ヘッドから吐出する反応染料インクの濃度を制御するとともに、プリントする画像の色濃度に応じて処理液の濃度を制御する制御手段を含むことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記処理液の濃度を、予め定める下限濃度以上となるように制御することを特徴とする請求項4記載のインクジェット捺染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−43375(P2010−43375A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208186(P2008−208186)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】