説明

インクジェット方式画像形成装置及びインクジェット方式画像形成方法

【課題】再利用するインクの増粘に起因するトラブルを未然に防ぐことができるインクジェット方式画像形成装置を提供する。
【解決手段】プリンタ10の主電源20がオンされたときは、調整液供給弁60を開き、調整液用ポンプ126を駆動させる。これにより、調整液用タンク30に貯められた調整液30aはフィルタ62、供給弁60、調整液用ポンプ126を経由してサブタンク28Kに注入される。このようにして調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングと注入量は、記録ヘッド22Kから吐出されるインクの種類等に基づいて予め決められており、プログラムROM104に記憶されている。注入量は調整液用ポンプ126の駆動時間に応じて決められる。この記憶内容を変更することにより、調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングと注入量を適宜に変更できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出する記録ヘッドから排出されたインクをサブタンクに一旦収容しておいて再び記録ヘッドに供給するインクジェット方式画像形成装置及びインクジェット方式画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドから記録媒体にインクの微小液滴(インク滴)を吐出して記録媒体にインクを付着させることにより画像や文字などの記録画像を形成するインクジェット方式の画像形成装置が広く知られている。このタイプの画像形成装置では、装置本体のコンパクト化、画像形成(印字)の高速化およびカラー化が容易であり、高精細な画像が得られる。また、ノンインパクト方式であるため稼動時の騒音が少なく、オンデマンドであるためランニングコストが安い等の利点を有している記録方式であり、近年、需要が高まっている。
【0003】
このようなインクジェット記録方法では、一般に、安定したインク吐出性能を維持または回復するために回復処理を行う機構が付加されることが多い。この回復処理としては、記録ヘッドに圧力や吸引力を作用させることにより、記録ヘッド内の増粘したインクや気泡を強制的に排出して新鮮なインクと置換させる加圧または吸引回復や、記録動作中に使用されなかったノズルから、増粘したインクを吐出させてしまうことで新鮮なインクと置換する予備吐出などがある。
【0004】
上記した回復処理によって発生したインクを廃棄するのではなく、適切に回収して再使用することにより廃インクを生じさせずにインクの有効使用を可能とした技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術では、回復処理に伴って記録ヘッドから強制的に排出(又は吐出)されたインクを、キャップ機能を有する回収桶で受止めておき、この受止めたインクを、記録ヘッドに供給されるインクが貯められたインク貯留部(サブタンク、インクタンク)に戻して再使用するようになっている。
【0005】
ところで、インクジェット記録方法に用いられるインク組成物の着色材としては、水溶性染料や水溶性樹脂によって分散された顔料が知られている。水溶性染料は、色材の彩度の高さ、利用できる色材の種類の豊富さ、水への溶解性、長期保存安定性、吐出安定性などに優れているが、画像の耐水性や耐候性に乏しく、また、高い画像濃度を実現できないという欠点があった。一方、水溶性樹脂によって分散された顔料を使用した水溶性顔料インクは耐水性などの耐候性がきわめて良好であり、インクジェット記録用インクとして注目を集めている。
【0006】
しかし、いずれのインクにおいても水溶性インクである限り、水分の蒸発は妨げられない。このため、記録ヘッドのインク吐出孔(ノズル出口)の乾燥を防ぐために、インク吐出口を覆うヘッドキャップ(キャップ)を用いる技術が知られている。しかし、廃インクを生じさせずにインクの有効利用を可能としたシステムでは、キャップ内に残存するインクが回復途中や印刷途中に外気と接することにより、キャップ内の残存インクの水分が蒸発する。このようにキャップ内で水分が蒸発したインクが回復動作によってインクタンクに回収されるので、インクタンク中の色材濃度が高くなったり粘度が高くなったりする問題が起きている。特に水溶性顔料インクでは、このような粘度増加に伴う記録ヘッドのノズル詰まりが発生し、長期保存安定性、長時間の連続吐出安定性に悪影響を及ぼすことがある。この粘度増加に伴うノズル詰まりや吐出不安定性を解消するために、さまざまな粘度検知手段や、高粘度になったインクに対して溶剤を投入する技術などが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
粘度検知手段として、タンク内の色材濃度を光センサで検知する技術(例えば、特許文献3参照)や、圧力センサによって圧力差で粘度を検知する技術(例えば、特許文献2、3参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開平11−105303号公報
【特許文献2】特開2002−067347号公報
【特許文献3】特開2002−200771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した技術には、下記のような問題がある。
(1)インク中の色材濃度変化を透過型の光センサで検出する技術や印刷画像濃度を検出する技術では、インクから水分が蒸発してインクの濃度が濃くなればなるほど検出精度が劣る。
(2)水性顔料インク中の水分蒸発は、図7に示したようにインクの粘度を上昇させることになる。しかし、水分蒸発に伴う粘度変化は、20%以上の水分蒸発から顕著に現れるので、圧力差や比重に基づく粘度検知は高粘度になればなるほど検知しやすいが、水分蒸発量が少ないときは粘度変化を検知し難い。従って、粘度変化が検知された段階では、かなりの量の水分が蒸発している。この場合、水分の蒸発分を補う調整インクがサブタンク内に一度に投入されたときは、増粘したインクと調整インクを均一に混合することは難しい。また、粘度変化が検知されるまでは、高粘度になったインクが吐出に使用されるので記録ヘッドに損傷を与えるおそれがあり、記録ヘッドの寿命が短くなるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、再利用するインクの増粘に起因するトラブルを未然に防ぐことができるインクジェット方式画像形成装置及びインクジェット方式画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明のインクジェット方式画像形成装置は、インク滴を吐出する記録ヘッドから排出されたインクをサブタンクに一旦収容しておいて再び前記記録ヘッドに供給するインクジェット方式画像形成装置において、
(1)前記サブタンクに収容されているインクの粘度を調整する調整液を所定量だけ、予め決められた注入タイミングで定期的に前記サブタンクに注入することを特徴とするものである。
【0011】
ここで、
(2)前記注入タイミングは、予め決められた時間間隔、及び、前記記録ヘッドから吐出されたインク量が予め決められた量になったときのいずれかに基づくものであってもよい。
【0012】
また、
(3)その主電源を投入した直後に前記注入タイミングが到来するようにしてもよい。
【0013】
さらに、
(4)その主電源が投入されたままの時間に基づいて前記注入タイミングが変更されるようにしてもよい。
【0014】
さらにまた、
(5)予め決められた停止タイミングのときは、前記注入タイミングになっても前記調整液を前記サブタンクに注入しないようにしてもよい。
【0015】
さらにまた、
(6)前記停止タイミングは、その主電源を前回に投入してからその主電源を今回切断したときまでの時間に前記記録ヘッドからインク滴が吐出された合計の回数、その主電源を前回投入してからその主電源を今回投入するまでの時間、及び前記サブタンクに供給されるインクが貯められたメインタンクの取替え頻度のうちの少なくともいずれか一つに基づくものであってもよい。
【0016】
さらにまた、
(7)前記調整液は、水及び防カビ剤を含有しているものであってもよい。
【0017】
さらにまた、
(8)前記記録ヘッドから排出されたインクを受止めるキャップに前記調整液を流し込んで該キャップを洗浄するようにしてもよい。
【0018】
上記目的を達成するための本発明のインクジェット方式画像形成方法は、インク滴を吐出する記録ヘッドから排出されたインクをサブタンクに一旦収容しておいて再び前記記録ヘッドに供給しながら、前記記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインクジェット方式画像形成方法において、
(9)前記サブタンクに収容されているインクの粘度を調整する調整液を所定量だけ、予め決められた注入タイミングで定期的に前記サブタンクに注入しながら画像を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、本インクジェット方式画像形成装置で使用されるインクの粘度が適正になる注入タイミングを例えば設計段階で予め決めておき、この注入タイミングでサブタンクに調整液が定期的に注入されるので、サブタンクから記録ヘッドに供給されるインクの粘度が高くならずに適切な範囲内におさまり、インクの増粘に起因するトラブルを未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、記録ヘッドから排出されたインクをサブタンクに一旦収容しておいて再び記録ヘッドに供給するタイプのプリンタに実現された。
【実施例1】
【0021】
本発明は、荷電量制御型、スプレイ方法を利用したコンティニュアス型、熱エネルギーを利用したサーマルインクジェット方法、ピエゾ振動板を利用したピエゾ方式などいずれの方式でも適用される。記録ヘッドとしては、画像が形成される記録媒体の幅に相当する記録幅を有するフルマルチヘッドを用いても、いくつかのヘッドを記録幅方向に並べてもよいが、より高速性を実現するのであれば、固定式のラインヘッドを用いることが好ましい。
【0022】
図1は、本発明のインクジェット方式画像形成装置の一例を模式的に示す正面図である。
【0023】
インクジェット方式画像形成装置(以下、プリンタという)10は、主電源20を投入する(オンする)ことにより動作し始める。プリンタ10は、このプリンタ10に画像情報を送るホストコンピュータ(パソコン)12に接続されている。プリンタ10には、6つ(6本)のプリントヘッド(以下、記録ヘッドという)22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yが記録媒体(ここではカット紙)Pの搬送方向(矢印A方向)に並んで配置されている。6つの記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yからはそれぞれ黒、シアン、淡シアン、マゼンタ、淡マゼンタ、イエローの各色のインクが吐出される。これら6つの記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yは、所謂ラインヘッドであり、図1の紙面に直交する方向(矢印A方向に直交する方向)に延びている。これら6つの記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yの長さは、プリンタ10で印字できる記録媒体のうち最大の幅(図1の紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長い。また、これら6つの記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yは、画像形成中は固定されて動かない(不動状態である)。
【0024】
6つの記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yから安定してインクを吐出できるように、プリンタ10には回復機構40が組み込まれている。この回復機構40によって、記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yからのインク吐出状態は初期のインク吐出状態に回復する。回復機構40には、回復動作のときに6つの記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yのインク吐出口形成面(フェイス面)22Ks、22Cs、22LCs、22Ms、22LMs、22Ys(一部は符号を省略)からインクを除去するキャッピング機構50が備えられている。キャッピング機構50は各記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yに独立して設けられており、図1の例では6色分が示されている。キャッピング機構50は、周知のブレード、インク除去部材、ブレード保持部材、ゴム製のキャップ(ゴムキャップ)等から構成されている。
【0025】
カット紙Pはカット紙供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。カット紙Pに画像を形成する際には、搬送中のカット紙Pの記録開始位置がブラックの記録ヘッド22Kの下に到達したときに、記録データ(画像情報)に基づいて記録ヘッド22Kからブラックインクを選択的に吐出する。同様に記録ヘッド22C、記録ヘッド22LC、記録ヘッド22M、記録ヘッド22LM、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像をカット紙Pに形成する。
【0026】
プリンタ10には、上記の部品・部材の他、各記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yに供給されるインクを貯めておくサブタンク28K、28C、28LC、28M、28LM、28Yや、これら各サブタンク28K、28C、28LC、28M、28LM、28Yにインク補充する取替え自在なインクカートリッジ(メインタンク)29K、29C、29LC、29M、29LM、29Yが備えられている。また、各サブタンク28K、28C、28LC、28M、28LM、28Yに収容されているインクの粘度を調整する調整液(調整インク、希釈液)が貯められた調整液用タンク30も備えられている。さらに、記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yにインクを供給したり回復動作をしたりするための各種ポンプ(図3等参照)なども備えられている。
【0027】
図2を参照して、プリンタ10の電気的な系統を説明する。
【0028】
図2は、図1のプリンタの電気的な系統を示すブロック図である。
【0029】
ホストコンピュータ12から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、カット紙Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開して描画する。記録前の動作処理としては、出力ポート114、モータ駆動部116を介してキャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118を駆動し、各記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yをキャッピング機構50から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる。
【0030】
続いて、出力ポート114、モータ駆動部116を介してカット紙Pを繰り出すロールモータ(図示せず)、及び低速度でカット紙Pを搬送する搬送モータ120等を駆動してカット紙Pを記録位置に搬送する。一定速度で搬送されるカット紙Pにインクを吐出し始めるタイミング(記録タイミング)を決定するための先端検知センサ(図示せず)でカット紙Pの先端位置を検出する。その後、カット紙Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する色の記録データを順次に読み出し、この読み出したデータを各記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yに記録ヘッド制御回路112経由して(介して)転送する。
【0031】
また、後述する調整液30aを各サブタンク28K、28C、28LC、28M、28LM、28Yに注入するに際しては、調整液用ポンプ126、図3に示す各バルブ60,64,74等を開閉するバルブ開閉器128がCPU100の指示に基づいて駆動する。調整液用ポンプ126は、インクカートリッジ29Kからサブタンク28Kにインクを補充する際に使用するポンプ、インク溜り部52(図3参照)に貯まったインクをサブタンク28Kに回収する際に使用するポンプを兼ねている。
【0032】
CPU100の動作はプログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。プログラムROM104には、制御フローに対応する処理プログラム及びテーブルなどが記憶されている。また、作業用のメモリとしてワークRAM108を使用する。各記録ヘッド22K、22C、22LC、22M、22LM、22Yのクリーニングや回復動作時に、CPU100は、出力ポート114、モータ駆動部116を介してポンプモータ124を駆動し、インクの加圧、吸引等の制御を行う。
【0033】
図3と図4を参照して、調整液をサブタンクに注入する動作を実施する画像形成の手順について説明する。
【0034】
図3は、画像形成装置のインク供給経路を示す模式図である。図4は、調整液をサブタンクに注入する動作を実施する画像形成の手順を示すフロー図である。これらの図では、図1と図2に示す構成要素と同一の構成要素には同一の符号が付されている。また、図3では、記録ヘッド22Kにインクを供給したり、サブタンク28Kに調整液30aを注入したり、この記録ヘッド22Kを回復させたりするインク供給経路を示すが、他の記録ヘッド22C、22LC、22M、22LM、22Yでも同じ構造のインク供給経路によって同じ手順になる。
【0035】
図4のフローは、主電源20(図1参照)が投入された(オンされた)ときに起動する。プリンタ10(図1参照)の主電源20がオンされたときは、CPU100(図1参照)からの指示に基づいてバルブ開閉器128(図2参照)を駆動させて調整液供給弁60を開き、調整液用ポンプ126を駆動させる。これにより、調整液用タンク30に貯められた調整液30aはフィルタ62、供給弁60、調整液用ポンプ126を経由してサブタンク28Kに注入される(図4のS401)。このようにして調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングと注入量は、記録ヘッド22Kから吐出されるインクの種類等に基づいて予め決められており、プログラムROM104に記憶されている。注入量は調整液用ポンプ126の駆動時間に応じて決められる。この記憶内容を変更することにより、調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングと注入量を適宜に変更できる。
【0036】
調整液30aの注入量は、吐出ノズルの乾燥を防止するために実行された、キャッピング機構50に全印字動作終了から次回印字動作までの間に予備吐されたインク量に含まれる水分量程度であることが好ましい。キャッピング機構50に残留したインクは、極僅かであるため、キャッピング機構50内のインクの水分は蒸発しやすい。例えば、インクカートリッジ29Kに貯められたインク29Kaは水分量60%のインク組成である場合、プリンタ10を全印字動作終了後から次回印字動作開始までの間にキャッピング機構50に吐出される予備吐の合計吐出量は、ヘッドの仕様から決まるインク1滴の体積と、吐出した発数から求めることができる。よって、式1の水分が蒸発すると考えて差し支えない。
【0037】
予備吐によるインクの合計吐出量×0.6・・・式1
例えば、0.5mlのインクがキャッピング機構50に吐出された場合、プリンタ10を次に使用するときは印字ジョブ開始直後に0.3mlの調整液30aがサブタンク28Kに注入されるように設定しておく。従って、ここでは、キャッピング機構50に吐出されて残っているインクの量に基づいて、調整液用タンク30から調整液30aをサブタンク28Kに注入する量が変更されることになる。
【0038】
なお、主電源20が頻繁に投入される(オンオフを繰り返す)場合と、主電源20が長時間にわたって投入されたまま(オンの状態を長時間保つ)の場合とがあるので、主電源20がオンに保たれている時間の長短に基づいて、調整液30aを注入するタイミング(注入タイミング)を決めても良いし、また、主電源20がオンに保たれている時間が短いときは、調整液30aを注入しないように設定してもよい。例えば、主電源20が投入されてから5時間未満に主電源20が再び投入された場合は、調整液30aの注入動作を省略する(S401の工程を省略する)ように設定しても良いし、また、主電源20が投入されてからこの状態が5日間以上続いている場合は、調整液30aの注入動作をCPU100の指示で行うように設定してもよい。このような設定は、使用するインクや環境に応じて決められるものである。
【0039】
上記のS401に続いて、周知の回復動作を実行する(S402)。回復動作では、記録ヘッド22Kの各インク吐出口はキャッピング機構50で密閉された(塞がれた)状態のままである。回復動作を実行する際は、リサイクル弁64と回復弁66を開いて調整液用ポンプ126を稼動させる。この稼動によって、キャッピング機構50のインク溜り部52に滞留するインクは排出口54、フィルタ56、リサイクル弁64調整液用ポンプ126を経由してサブタンク28Kに回収される(戻る)。上述したようにサブタンク28Kに注入される調整液30aの量は少量であるので、上記した回復動作のインク循環によって、サブタンク28Kに注入された調整液30aはサブタンク28K内のインクと混合される。
【0040】
続いて、回復弁66を閉じて加圧ポンプ68を駆動させる。加圧ポンプ68の駆動によってサブタンク28K内のインクがフィルタ70を通って記録ヘッド22Kの共通液室22Krに送られる。この場合、回復弁66は閉じているので、記録ヘッド22Kの内部は急速に加圧されて各ノズル22Knから比較的多量のインクが強制的に押し出される(排出される)。これにより各ノズル22Knは健全な状態に回復する。各ノズル22Knから排出された比較的多量のインクはインク溜り部52に一時的に溜まろうとするが、調整液用ポンプ126が駆動してリサイクル動作が既に開始しているので、排出されたインクは素早くサブタンク28Kに回収される。
【0041】
上記した初期の回復動作が終了した後(S402に続いて)、印字する(画像形成を指示する信号が記録ヘッド制御回路112(図2参照)に受信されている)か否かが判定される(S403)。印字しないと判定されたときは、このフローは終了する。印字すると判定されたときは、印字動作を開始する(S404)。この印字動作には、一定時間印刷の指示がない場合、吐出ノズルの乾燥を防ぐために非印刷中にも一定間隔でインクを吐出する必要がある。ここで吐出されたインクはキャッピング機構50に回収される。上記したように調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングは予め決められており、調整液30aはサブタンク28Kに定期的に注入される。このため、印字動作中に、上記した調整液30aを注入するタイミングになったか否かが判定される(S405)。この注入タイミングではないと判定されたときはS403に戻る。注入タイミングと判定されたときはS406に進み、S401と同じ注入動作を実行する。この注入動作に続いてS402の回復動作を実行させてもよい。S406で注入動作が終了したときは、印字を再開するか否かが判定される(S407)。印字しないと判定されたときは、このフローは終了する。印字すると判定されたときは印字動作を再開し(S404)、上記の手順を繰り返す。
【0042】
なお、サブタンク28Kに貯められているインクは画像形成に伴って減少していき、サブタンク28Kの残量検知センサ72によって、サブタンク28K内のインクが所定量以下になったと判定されたときは、それまで閉じられていた供給弁74を開くと共に調整液供給弁60とリサイクル弁64を閉じて調整液用ポンプ126を稼動させる。これにより、インクカートリッジ29K内のインクはフィルタ76、供給弁74、調整液用ポンプ126を経由してサブタンク28Kに補充される。大気連通口78は常に開いている。
【0043】
残量検知センサ72が所定時間経っても満タンと判定しないときは、インクカートリッジ29Kが空であると判断できるので、インクカートリッジ29Kの交換要求をホストコンピュータ12に表示させる。このインクカートリッジ29Kの交換要求をホストコンピュータ12に表示させた時刻はワークRAM108(図2参照)に記憶される。この交換要求の頻度に基づいて、後述する停止タイミング(調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングになってもこの注入をしない(停止する)タイミング)を設定してもよい。インクカートリッジ29Kの交換要求の頻度が高い場合は、サブタンク28K内には頻繁に新しいインク(適正な粘度のインク)が補充されるのでサブタンク28K内のインクは高粘度になりにくいと判断できる。従って、インクカートリッジ29Kの交換要求の頻度が高い場合は、上記の停止タイミングが多くなるように設定される。
【0044】
ここで、注入タイミングの設定方法と、上記の停止タイミングの設定方法の基準を説明する。
【0045】
サブタンク28Kに収容されているインクの粘度を調整する調整液30aは、原則として、予め決められた注入タイミング(予め決められた時間間隔)で定期的にサブタンク28Kに注入される。これにより、サブタンク28Kに調整液30aが定期的に注入されるので、サブタンク28Kから記録ヘッド22Kに供給されるインクの粘度が高くならずに適切な範囲内におさまり、インクの増粘に起因するトラブルを未然に防ぐことができる。
【0046】
しかし、上述したように、インクカートリッジ29Kの交換要求の頻度が高い場合や、記録ヘッド22Kから吐出されたインク量が所定時間で非常に多い場合(この場合は、インクカートリッジ29Kの交換要求の頻度が高い場合と同じである)などは、インクカートリッジ29Kからサブタンク28Kには頻繁に新しいインク(適正な粘度のインク)が補充されるのでサブタンク28K内のインクは高粘度になら無いと判断できる。従って、定期的にサブタンク28Kに調整液を注入するタイミング(注入タイミング)にしたがって調整液を注入した場合は、サブタンク28K内のインクの粘度が適正値よりも低くなる。従って、注入タイミングになっても、調整液30aをサブタンク28Kに注入させないようにする。即ち、予め決められた停止タイミングのときは、注入タイミングになっても調整液30aをサブタンク28Kに注入しないように設定してもよい。
【0047】
停止タイミングとしては、例えば、主電源20(図1参照)が投入されたままの時間に基づいて設定された停止タイミングを決めてもよいし、主電源20を前回に投入してからその主電源20を前回切断したときまでの時間に記録ヘッド22Kからインク滴が吐出された合計の回数(インクドットカウント数)に基づいて設定された停止タイミングを決めてもよい。また、主電源20を前回投入してから主電源20を今回投入するまでの時間に基づいて設定された停止タイミングを決めてもよい。さらには、上述したように、サブタンク28Kに供給されるインクが貯められたメインタンク29Kの取替え頻度に基づいて設定された停止タイミングを決めてもよい。さらにまた、これらのいずれか2つ以上に基づいて設定された停止タイミングを決めてもよい。
【0048】
図5を参照して、調整液をサブタンクに注入する動作を実施する画像形成の手順の他の例を説明する。
【0049】
図5は、調整液をサブタンクに注入する動作を実施する画像形成の手順の他の例を示すフロー図である。この図では、図1から図4までに示す構成要素と同一の構成要素には同一の符号が付されている。
【0050】
図5のフローは、主電源20(図1参照)が投入された(オンされた)ときに起動する。プリンタ10(図1参照)の主電源20がオンされたときは、先ず、主電源20が前回に投入された時刻から今回投入された時刻までの時間が例えば5時間以上か否かが判定される(S501)。例えば5時間未満のときは、インク溜り部52に貯まっているインクからは水分があまり蒸発しておらず、このインクの粘度は不適切な値まで高まっていないと判断されるので、調整液30aをサブタンク28Kに注入せずに(S503を実行せずに)回復動作を実行する(S504)。S501において「No」と判定されたタイミングが停止タイミングである。
【0051】
S501でYes(5時間以上である)と判定された場合はS502に進んで、主電源20が前回投入されて一連の印字動作(連続した画像形成動作)が終了するまでの間のインクドットカウント数をワークRAM108(図2参照)から読み出し、このインクドットカウント数が、予め設定された標準値以下か否かが判定される(S502)。なお、後述するように、主電源20が今回投入されて一連の印字動作(連続した画像形成動作)が終了するまでの間に、記録ヘッド22Kからインク滴が吐出された合計の回数(インクドットカウント数)は、ワークRAM108(図2参照)に記憶される。他の記録ヘッド22C、22LC、22M、22LM、22Yについても同様にインクドットカウント数がワークRAM108(図2参照)に記憶される。
【0052】
S502でワークRAM108(図2参照)から読み出されたインクドットカウント数が標準値を越えている場合は、インク溜り部52に貯まっているインクからは水分があまり蒸発しておらず、このインクの粘度は不適切な値まで高まっていないと判断されるので、調整液30aをサブタンク28Kに注入せずに(S503を実行せずに)回復動作を実行する(S504)。S502において「No」と判定されたタイミングが停止タイミングである。従って、本フローでは、2つの停止タイミング(S501とS502)になっているか否かが判定されることとなる。
【0053】
S502においてインクドットカウント数が標準値以下であると判定された場合、S503に進み調整液注入動作を実行する。この動作は、図4のS401で説明した動作と同じであるので、ここでは省略する。
【0054】
上記のS503に続いて、周知の回復動作を実行する(S504)。回復動作は、図4のS402で説明した動作と同じであるので、ここでは省略する。
【0055】
上記した初期の回復動作が終了した後(S504に続いて)、印字する(画像形成を指示する信号が記録ヘッド制御回路112(図2参照)に受信されている)か否かが判定される(S505)。印字しないと判定されたときは、このフローは終了する。印字すると判定されたときは、印字動作を開始する(S506)。上記したように調整液30aをサブタンク28Kに注入するタイミングは予め決められており、調整液30aはサブタンク28Kに定期的に注入される。このため、印字動作中に、上記した調整液30aを注入するタイミングになったか否かが判定される(S507)。この注入タイミングではないと判定されたときはS505に戻る。注入タイミングと判定されたときはS508に進み、S503と同じ注入動作を実行する。この注入動作に続いてS504の回復動作を実行させてもよい。S508で注入動作が終了したときは、印字を再開するか否かが判定される(S509)。印字しないと判定されたときは、主電源20が今回投入されて一連の印字動作(連続した画像形成動作)が終了するまでの間に、記録ヘッド22Kからインク滴が吐出された合計の回数(インクドットカウント数)を、ワークRAM108(図2参照)に記憶させ(S510)、このフローを終了させる。S509において印字すると判定されたときは印字動作を再開し(S506)、上記の手順を繰り返す。
【0056】
図5に示す例では、2つの停止タイミング(S501とS502)になっているか否かを判定して、調整液30aの注入を実行したり実行しなかったりするので、サブタンク28K内のインクの粘度はいっそう好適な範囲に保たれる。
【実施例2】
【0057】
図6を参照して本発明の実施例2を説明する。
【0058】
図6は、インク供給経路の他の例を示す模式図である。
【0059】
上記の実施例1では、調整液30aをサブタンク28Kに直接に注入する構成であったが、実施例2では、調整液30aをサブタンク28Kに直接に注入せずに、キャッピング機構50のインク溜り部52を経由させてサブタンク28Kに注入する構成になっている。即ち、調整液用タンク30の出口を、インク溜り部52のうち排出口54とは反対側の部分(注入口55)に接続しておき、上述した注入タイミングになったときは、調整液用タンク30から調整液30aをインク溜り部52に注入し、インク溜り部52内のインクを希釈させて排出口54から排出させ、サブタンク28Kに回収させる。このように構成することにより、回復動作の際に、インク溜り部52やインク流路の洗浄インクとしても調整液30aを使用できる。
【0060】
なお、実施例1,2で使用した調整液30aには水、及び、カビの発生を防止する防カビ剤が含有されている。一般的に用いられる防カビ剤としては、アルコールおよび含窒素複素環系のイミダゾール系防カビ剤がある。これらの含有量は、アルコールの場合は3パーセント程度、イミダゾール系防カビ剤の場合は0.05から0.1パーセント程度とごく少量であるので、水分量の計算では無視できる。
【0061】
調整液30aには、水と防カビ剤の他に、インクの主成分である溶剤を含有させることもできるが、粘度(即ち、蒸発するもの)に関係するのは主に水分であることと、インクの色によって溶剤が異なる場合もあるので、溶剤を含有させないほうが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のインクジェット方式画像形成装置の一例を模式的に示す正面図である。
【図2】図1のプリンタの電気的な系統を示すブロック図である。
【図3】画像形成装置のインク供給経路を示す模式図である。
【図4】調整液をサブタンクに注入する動作を実施する画像形成の手順を示すフロー図である。
【図5】調整液をサブタンクに注入する動作を実施する画像形成の手順の他の例を示すフロー図である。
【図6】インク供給経路の他の例を示す模式図である。
【図7】水性顔料インクの水分蒸発率とインク粘度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
10 プリンタ
22K、22C、22LC、22M、22LM、22Y 記録ヘッド
28K、28C、28LC、28M、28LM、28Y サブタンク
30 調整液用タンク
30a 調整液
126 調整液用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出する記録ヘッドから排出されたインクをサブタンクに一旦収容しておいて再び前記記録ヘッドに供給するインクジェット方式画像形成装置において、
前記サブタンクに収容されているインクの粘度を調整する調整液を所定量だけ、予め決められた注入タイミングで定期的に前記サブタンクに注入することを特徴とするインクジェット方式画像形成装置。
【請求項2】
前記注入タイミングは、予め決められた時間間隔、及び、前記記録ヘッドから吐出されたインク量が予め決められた量になったときのいずれかに基づくものであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項3】
その主電源を投入した直後に前記注入タイミングが到来することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項4】
その主電源が投入されたままの時間に基づいて前記注入タイミングが変更されることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項5】
予め決められた停止タイミングのときは、前記注入タイミングになっても前記調整液を前記サブタンクに注入しないことを特徴とする請求項1から4までのうちのいずれか一項に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項6】
前記停止タイミングは、その主電源を前回に投入してからその主電源を今回切断したときまでの時間に前記記録ヘッドからインク滴が吐出された合計の回数、その主電源を前回投入してからその主電源を今回投入するまでの時間、及び前記サブタンクに供給されるインクが貯められたメインタンクの取替え頻度のうちの少なくともいずれか一つに基づくものであることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項7】
前記調整液は、水及び防カビ剤を含有しているものであることを特徴とする請求項1から6までのうちのいずれか一項に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドから排出されたインクを受止めるキャップに前記調整液を流し込んで該キャップを洗浄することを特徴とする請求項1から7までのうちのいずれか一項に記載のインクジェット方式画像形成装置。
【請求項9】
インク滴を吐出する記録ヘッドから排出されたインクをサブタンクに一旦収容しておいて再び前記記録ヘッドに供給しながら、前記記録ヘッドから記録媒体にインクを吐出して画像を形成するインクジェット方式画像形成方法において、
前記サブタンクに収容されているインクの粘度を調整する調整液を所定量だけ、予め決められた注入タイミングで定期的に前記サブタンクに注入しながら画像を形成することを特徴とするインクジェット方式画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−6549(P2009−6549A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168792(P2007−168792)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】