説明

インクジェット記録システム及び記録方法

【課題】記録媒体の種類の相違に基づくインクの浸透特性の相違の影響を排除し、画像濃度や文字品位を最適化する。
【解決手段】記録ヘッドは、浸透速度が互いに異なる複数種類の処理液を吐出可能であり、コントローラは、記録媒体の浸透特性を取得する処理と、複数種類の処理液の吐出量の比率を記録媒体の浸透特性に基づいて変更する処理と、を実行する。記録媒体の浸透特性に応じた処理液を作成することにより、例えば濃度及び文字品位などの所望の特性を、より安定して得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクを吐出して記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録システム、及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数色のインクを用いカラー記録を行うインクジェットプリンタにおいて、耐水性および堅牢性などのプリント品質を向上して高画質記録を実現するために、処理液を用いて色材インクと反応させることで発色をさせる技術がある(特許文献1参照。)。特許文献1に開示された装置では、一方の処理液の記録媒体への浸透速度が他方の浸透速度と比較して相対値が1.2以上、好ましくは1.5以上である2種以上の処理液を用いて、画像情報に応じて異なる処理液を用いる。この装置では、高濃度が望ましい領域には浸透速度の遅い処理液を、低濃度が望ましい領域には浸透速度の速い処理液を用いる事で、文字品位と耐水性と画像濃度を改善するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−314449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、記録媒体には様々な種類が存在し、インクの浸透特性が個々に異なる。このため、画像情報に応じて処理液を切り換えて使用するだけでは、十分な画像濃度や文字品位を得ることができない場合が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、インク及び処理液を吐出する少なくとも1つの記録ヘッドと、前記少なくとも1つの記録ヘッドを制御するコントローラと、を備え、記録媒体に画像データに基づいた記録を行うインクジェット記録システムにおいて、前記少なくとも1つの記録ヘッドは、浸透速度が互いに異なる複数種類の処理液を吐出可能であり、前記コントローラは更に、記録媒体の浸透特性を取得する処理と、前記複数種類の処理液の吐出量の比率を、前記記録媒体の浸透特性に基づいて変更する処理と、を実行することを特徴とするインクジェット記録システムである。
【0006】
この態様によれば、少なくとも1つの記録ヘッドが、浸透速度が互いに異なる複数種類の処理液を吐出可能であり、かつコントローラが、記録媒体の浸透特性を取得する処理と、複数種類の処理液の吐出量の比率を、記録媒体の浸透特性に基づいて変更する処理と、を実行するので、記録媒体の浸透特性に応じた処理液を作成することにより、濃度及び文字品位などの所望の特性を、より安定して得ることが可能となる。
【0007】
本発明の別の態様は、前記コントローラは、記録媒体の浸透特性が高いほど、前記複数種類の処理液のうち相対的に浸透速度の遅い処理液の吐出量の比率を多くすることを特徴とする。
【0008】
この態様によれば、コントローラが、記録媒体の浸透特性が高いほど、複数種類の処理液のうち相対的に浸透速度の遅い処理液の吐出量の比率を多くするので、記録媒体の浸透特性を処理液の浸透速度特性で補償することができる。
【0009】
本発明における処理液は、色材を含むインクと接触することで前記色材の分散状態を不安定化する反応性成分を含有するのが好適である。
【0010】
本発明の別の態様は、記録媒体上の画像濃度を検出するセンサを更に備え、前記記録媒体の浸透特性を取得する処理は、前記インクにより前記記録媒体にテストパターンを記録する処理と、記録されたテストパターンの画像濃度を前記センサで検出する処理と、検出された画像濃度に基づいて前記記録媒体の浸透特性を算出する処理と、を含むことを特徴とする。
【0011】
この態様によれば、記録媒体上の画像濃度を検出するセンサを更に備え、前記記録媒体の浸透特性を取得する処理が、前記インクにより前記記録媒体にテストパターンを記録する処理と、記録されたテストパターンの画像濃度を前記センサで検出する処理と、検出された画像濃度に基づいて前記記録媒体の浸透特性を算出する処理と、を含むので、記録媒体への浸透特性を好適に取得することができる。
【0012】
本発明の別の態様は、インク及び処理液を吐出する少なくとも1つの記録ヘッドと、前記少なくとも1つの記録ヘッドを制御するコントローラと、を用いて記録媒体に画像データに基づいた記録を行うインクジェット記録方法において、前記コントローラによって、記録媒体の浸透特性を取得するステップと、前記複数種類の処理液の吐出量の比率を、前記記録媒体の浸透特性に基づいて変更するステップと、前記少なくとも1つの記録ヘッドに、浸透速度が互いに異なる複数種類の処理液を吐出させるステップと、を含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。この態様によれば、上記第1の態様と同様の効果を得ることができる。
【0013】
本発明の別の態様では、前記記録媒体の浸透特性を取得するステップは、前記インクにより前記記録媒体にテストパターンを記録するステップと、記録されたテストパターンの画像濃度を検出する処理と、検出された画像濃度に基づいて前記記録媒体の浸透特性を算出するステップと、を含むことを特徴とする。この態様によれば、記録媒体への浸透特性を好適に取得することができる。
【0014】
なお、被記録媒体への浸透速度を定量的に測定する技術としてはブリストウ法が公知であり、本発明における浸透速度はブリストウ法により得られた値を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録媒体の浸透特性に応じた処理液を作成することにより、濃度及び文字品位などの所望の特性を、より安定して得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のインクジェットプリンタの要部を示した斜視図である。
【図2】本実施形態の記録システムの構成を示すブロック図である。
【図3】処理液を用いたときのBkインクの記録dutyと光学濃度との関係を示すグラフである。
【図4】記憶媒体の浸透速度を取得する処理を示すフローチャートである。
【図5】記録処理を示すフローチャートである。
【図6】記録媒体の浸透速度と処理液の吐出量とを関連付けた吐出量マップを示すグラフである。
【図7】処理液を用いたときのBkインクの記録dutyと光学濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細な説明を行う。図1において、本発明の実施形態のインクジェットプリンタ200は、記録ヘッド5、インクタンク6、及びキャップ7を備えている。
【0018】
記録ヘッド5は、配列された複数の吐出口から記録媒体1に対してインクを吐出することにより画像を記録する。記録ヘッド5は、第1の処理液(S1)、第2の処理液(S2)、並びにシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(Bk)のカラーインクをそれぞれ吐出する6つの記録ヘッド5S1、5S2、5C、5M、5Y、5Bkを有する。記録ヘッド5S1、5S2、5C、5M、5Y、5Bkには、1200dpiの密度で1280個の吐出口(ノズルとも称する)が配列されており、各吐出口から1度の吐出されるインク量は約4ngである。
【0019】
インクタンク6は、記録ヘッド5S1、5S2、5C、5M、5Y、5Bkのそれぞれに対応するインクを供給するためのインクを貯蔵し、6つのインクタンク6S1、6S2、6C、6M、6Y、6Bkを有している。記録ヘッド5とインクタンク6は、一体的または分離可能にヘッドカートリッジを構成し、そのヘッドカートリッジが不図示のキャリッジに着脱可能に搭載される。記録ヘッド5とインクタンク6は、ヘッドカートリッジを構成せずに、別々にキャリッジに搭載されるものであってもよい。記録ヘッド5を搭載したキャリッジは、ベルト4を介してキャリッジモータ23により主走査方向(図中矢印X方向)に往復移動する。記録媒体1は、搬送ローラ3によって、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向(図中矢印Y方向)に搬送される。インクジェットプリンタ200は、キャリッジを移動しながら記録ヘッド5からインクを吐出される記録走査と、記録媒体1の搬送動作とを繰り返して、記録媒体1に画像を形成する。
【0020】
キャップ7は、6つの記録ヘッドそれぞれの吐出口が形成された吐出口面をキャップ(被覆)するものであり、6つのキャップ7S1、7S2、7C、7M、7Y、7Bkを有する。記録ヘッド5およびインクタンク6を搭載したキャリッジは、記録を行わないときには、キャップ7のあるホームポジションに戻る。キャリッジがホームポジションで待機してから所定時間に達した場合には、記録ヘッド5の吐出口面が乾燥しないよう、記録ヘッド5の吐出口面にキャップ7を当接するキャッピング動作が行われる。
【0021】
図2は、本実施形態のインクジェット記録システムの構成を示すブロック図である。図2の記録システムは、ホスト装置100とインクジェットプリンタ200とを含む。ホスト装置100は、情報処理装置としての機能を有するパーソナルコンピュータやデジタルカメラであってよく、インクジェットプリンタ200に接続される。このホスト装置100は、CPU10、メモリ11、外部記憶部13、キーボードやマウス等の入力部12、インクジェットプリンタ200との通信を行うためのインターフェイス14を備えている。ユーザは、メモリ11に格納されているプリンタドライバを含むプログラム(アプリケーション)を実行して、インクジェットプリンタ200から出力するための画像データを作成することが可能である。CPU10は、メモリ11に格納されたプログラムに従って、種々の処理を実行するものであり、ユーザにより作成されたり、撮影された画像データに対して色処理や量子化処理等の画像処理などを実行する。画像処理を施された記録データは、インターフェイス14を介して、接続されているインクジェットプリンタ200に送信される。本実施形態では、画像データをS1S2CMYK2値データへ変換し、記録データを生成するまでの処理を、ホスト装置100のCPU10およびプリンタドライバが行う。
【0022】
インクジェットプリンタ200は制御部20を有し、制御部20はCPU20a、RAM20b及びROM20cを備えている。CPU20aは周知のマイクロプロセッサである。RAM20bは、CPU20aのワークエリアとして使用されると共に、記録データやレジ調整値などの各種データの保管等を行う。ROM20cは、CPU20aの制御プログラムや各種データを格納している。インクジェットプリンタ200はさらに、インターフェイス21、操作パネル22、ドライバ27、28を備えている。ドライバ27は、キャリッジ駆動用のモータ23、給紙ローラ駆動用のモータ24、第1搬送ローラ対駆動用のモータ25、及び第2搬送ローラ対駆動用のモータ26をそれぞれ駆動制御する。ドライバ28は記録ヘッド5を駆動制御する。ホスト装置100から送信された記録データは、インクジェットプリンタ200のインターフェイス21を介して受信され、制御部20のRAM20bに格納される。RAM20bに格納された記録データに従って、制御部20は、各モータ23〜26を駆動させるためのON、OFF信号をドライバ27に、吐出信号等をドライバ28にそれぞれ出力し、記録媒体に画像を形成する。
【0023】
インクジェットプリンタ200は更に、光学センサ29を備えている。光学センサ29は、CCD(電荷結合素子)及びレンズ光学系を主部品として構成されており、制御部20の制御によって、記録媒体に記録されたテストパッチの階調画像をセンシングし、センサ信号を出力する。光学センサ29は、測定対象の所定の面積(例えば、直径5mm程度)の領域に対して発光素子(不図示)によって光を照射したときの当該領域からの反射光量を検出する。光学センサ29の出力はCPU20aで処理されて、光学濃度としてホスト装置100のCPU10に転送される。
【0024】
ホスト装置100のメモリ11には、光学センサ29の出力から得られた画像濃度と、その記録媒体の浸透速度とを関連付けて記憶してなる媒体浸透速度マップ(不図示)が格納されている。この媒体浸透速度マップは、後述する記憶媒体の浸透速度の情報を取得する処理において参照される。メモリ11には、また、記録媒体の浸透速度と、浸透速度の互いに異なる2種類のS1、処理液S2のそれぞれの吐出量とを関連付けて記録してなる吐出量マップ(図6参照)が格納されている。この吐出量マップは、後述する2種類の処理液S1、S2の吐出量を決定するために参照される。
【0025】
次に、本実施形態において適用可能なインクについて説明する。なお、以下の記載において、部、%とあるものは特に断わらない限り質量基準である。又、残部とあるのは、インク或いは処理液の全量が100部となるように、イオン交換水で調整したことを意味する。
【0026】
[各色インクの調製]
先ず、下記に述べるようにして、それぞれ顔料とアニオン性化合物とを含むブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの各色インクを調製した。
(インクBkの調製)
<顔料分散液の作製>
・スチレン−アクリル酸共重合体(酸価=210、
重量平均分子量=9,000) 1.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・イオン交換水 81.5部
【0027】
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに試作されたカーボンブラック(FW18、デグッサ社製)10部、エチレングリコール4部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
【0028】
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ、1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積比)
・粉砕時間:3時間
更に、遠心分離処理(12,000rpm、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液とした。
【0029】
<インクBkの作製>
上記で得た顔料分散液を使用し、下記の組成比を有する成分を混合し、顔料を含有するインクを作製した。インクの組成中に使用したサーフィノール465(商品名:日信化学社製)は、アセチレンジオールにエチレンオキサイドを付加させたノニオン系界面活性剤である。このときの表面張力は、32.4mN/mであった。また、キヤノン製普通紙(pbsk)を使用したときのブリストウ法におけるインクの浸透係数Ka値が4.0ml/M2・s1/2であった。
・上記顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・トリメチロールプロパン 7.0部
・サーフィノール465 1.0部
・アセチレングリコール 2.0部
・イオン交換水 残部
【0030】
(インクCの調製)
インクBkの調製の際に使用したカーボンブラック(FW18、デグッサ社製)10部をピグメントブルー15に代えたこと以外は、インクBk1の調製と同様にして、顔料を含有したインクCを調製した。
【0031】
(インクMの調製)
インクBkの調製の際に使用したカーボンブラック(FW18、デグッサ社製)10部をピグメントレッド7に代えたこと以外は、インクBk1の調製と同様にして、顔料を含有したインクMを調製した。
【0032】
(インクYの調製)
インクBkの調製の際に使用したカーボンブラック(FW18、デグッサ社製)10部をピグメントイエロー74に代えたこと以外は、インクBk1の調製と同様にして、顔料を含有したインクYを調製した。
【0033】
上記CMYBkの有色のインクのほかに、有色のインクと接触することでインクの発色性や定着性が向上するような処理液(反応液や反応インクとも称する)を用いる。なお、処理液は色材が添加されていない無色のインクでも、色材が添加されるような有色のインクでもどちらでもよい。
【0034】
アニオン性樹脂により顔料を分散して調整している処理液は、色材の分散状態を不安定化する反応性成分を含有している。このため、多価金属イオンを含む処理液と接触することで、顔料の分散状態が破壊され顔料が凝集または堆積する。有色インク内の顔料が凝集または堆積することにより、発色性や定着性が向上する。反応液に用いることができる多価金属イオンの具体例は、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+及びBa2+等の二価の金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+、及びY3+等の三価の金属イオン等が挙げられる。又、上記に挙げたような多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成される金属塩は、水に可溶なものであることを要する。塩を形成するための陰イオンは、SO42-、Cl-、CO32-、NO3-、I-、Br-、ClO3-及びCH3COO-、HCOO-等が挙げられる。勿論、上記の化合物に限定されるものではない。
【0035】
(処理液1の調製)
下記の組成からなる各成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過し、pHが4.0に調整されている各反応液を得た。各反応液の組成中に使用したサーフィノール465(商品名:日信化学社製)は、アセチレンジオールにエチレンオキサイドを付加させたノニオン系界面活性剤である。このときの表面張力は、38mN/mであった。また、キヤノン製普通紙(pbsk)を使用したときのブリストウ法におけるインクの浸透係数Ka値が2.1ml/M2・s1/2であった。
【0036】
<反応液の組成>
・ジエチレングリコール 8.0部
・1,3−プロパンジオール 12.0部
・硝酸マグネシウム 5.8部
・サーフィノール465 0.2部
・アセチレングリコール 0.1部
・イオン交換水 残部
【0037】
(処理液2の調製)
下記の組成からなる各成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過し、pHが4.0に調整されている各反応液を得た。各反応液の組成中に使用したサーフィノール465(商品名:日信化学社製)は、アセチレンジオールにエチレンオキサイドを付加させたノニオン系界面活性剤である。このときの表面張力は、30mN/mであった。また、キヤノン製普通紙(pbsk)を使用したときのブリストウ法におけるインクの浸透係数Ka値が4.0ml/M2・s1/2であった。
【0038】
<反応液の組成>
・ジエチレングリコール 8.0部
・1,3−プロパンジオール 12.0部
・硝酸マグネシウム 5.8部
・サーフィノール465 0.2部
・アセチレングリコール 2.0部
・イオン交換水 残部
【0039】
図3に、処理液S1、S2を用いたときのBkインクの記録dutyと光学濃度の関係を示す。ここでは浸透特性の異なる2種類の記録媒体を用い、M1は比較的浸透性の良いキヤノン製普通紙(pbsk)を使用した場合の特性、M2は比較的浸透速度の遅い他社製普通紙を使用した場合の特性を示している。
【0040】
図3は、上述のインクのうち処理液S1、S2を用い、Bkインクの単位面積あたりのインク付与量(記録duty、単にdutyとも称する。)を徐々に増やすようなパッチ画像を記録した場合のパッチ画像の光学濃度(単に濃度とも称する)を示している。図3では、処理液S1を用いてBkインクで記録したパッチの光学濃度を実線で示し、処理液S2を用いてBkインクで記録したパッチの光学濃度を破線で示している。このとき、どちらも同じ画像データに基づいて記録しているため、それぞれのパッチ画像の単位面積あたりのインク付与量は同じである。どちらも同じ記録走査回数で記録を完成している。
【0041】
なお、図3の例においては、実験のため、各パッチ画像の光学濃度を、カラー透過・反射濃度計(商品名「X−Rite」、X−Rite,Inc.製)により計測した。光学濃度は、分光光度計(商品名「Spectorolino」、Gretag Macbeth製)によっても計測することができる。これらの計測器では、測定対象の直径5mm程度の領域に対して光を照射したときの測定対象物からの反射光量を検出することで、光学濃度を測定している。光学センサ29によって光学濃度を検出する場合にも、検出される特性は同様と考えられる。
【0042】
図3より、Bkインクにより記録する場合、単位面積あたりのインク付与量が比較的少ないときには、処理液S2を用いた方が光学濃度が高く、単位面積あたりのインクの付与量が比較的多いときには、処理液S1を用いた方が光学濃度が高いことが分かる。これは、処理液S1と処理液S2との浸透速度の違いによるものと考えられる。光学濃度を計測するときに、測定対象領域が記録媒体に着弾したインク滴の領域よりも大きいと、記録dutyの低いパッチに関しては、直径約5mmの測定対象面全体がインクで覆われていない。そうすると、測定器が受光する反射光は、インク滴が着弾したインク面で反射した反射光と、インク滴が着弾していない記録媒体の余白部分(紙白)で反射した反射光とが含まれる。インク面で反射した反射光と記録媒体の余白部分で反射した反射光とでは、余白部分で反射した反射光の方が強い(反射光量が大きい)ので、インク面で反射した反射光のみ測定したときよりも、光学濃度が低くなる。そのため、記録dutyが比較的低いパッチ画像においては、測定対象面がインクにより被覆されている割合が光学濃度に影響することがある。つまり、色材濃度が同程度で同じ濃さのインクにより記録した場合、記録dutyの低いパッチにおいては、測定対象面を被覆しているインクの面積が、光学濃度に支配的に影響する。他方、記録dutyの高いパッチにおいては、測定対象面がほぼインクで覆われ余白部分が少ないので、インクの色材が記録媒体表面に残っている程度が、光学濃度に支配的に影響する。
【0043】
本実施形態においては、2種類の処理液S1とS2の記録媒体に対する浸透速度を異ならせている。具体的には、処理液S1よりも処理液S2の方が浸透速度が高い。記録媒体に着弾した浸透速度が相対的に高い処理液S2に、Bkインクが1滴着弾した時のドット径は、浸透速度が相対的に低い処理液S1にBkインクが1滴着弾した時のドット径よりも大きい。これは、浸透速度が相対的に高い処理液S2とBkインクの組合せの方が、記録媒体の表面方向に浸透して広がることで、比較的に浸透速度の遅い処理液S1とBkインクの組合せよりも、ドット径が大きくなるためである。そのため、図3において、記録dutyが比較的低いパッチでは、浸透速度が相対的に高い処理液S2を用いた方が、浸透速度が相対的に低い処理液S1を用いたときよりも、濃度が高くなっていると考えられる。
【0044】
また、記録媒体がインクによりほぼ覆われるような比較的記録dutyの高いパッチ画像においては、浸透速度が相対的に低い処理液S1を用いた方が、浸透速度が相対的に高い処理液S2よりも光学濃度ODが高くなっている。記録媒体に着弾した浸透速度が相対的に高い処理液S2は記録媒体の厚み方向(紙面表面から裏面へ抜ける方向)にも浸透するため、次いで着弾するBkインクも同様の挙動をとる。そのため、処理液S1を同様に用いて記録したパッチ画像よりも記録媒体表面に残るインクの色材が少ないためと考えられる。この挙動は、Bkインクに限らず、他の色材インクでも同様である。また、これらの特性は記録媒体の浸透特性により変化するものの、記録媒体M1、M2のいずれにおいても、同様の傾向を示す。よって、記録媒体M、処理液S1、処理液S2によって得られる浸透特性が、常に一定であれば、文字品位や画像濃度が安定的に得られることが分かる。
【0045】
すなわち、浸透速度の異なる処理液S1、S2の比率を変化させ、記録媒体M上の同一画素に着弾させ記録媒体上で混合させることで、記録媒体、色材インク、処理液を含む全体の浸透特性を制御することができ、安定した画像濃度を得ることが出来る。
【0046】
図4のフローチャートは、記憶媒体の浸透速度の情報を取得する処理を示す。この処理は、CPU10の制御によってホスト装置100にインストールされているプリンタドライバによって行われるが、インクジェットプリンタ200によって行われても良い。図4において、プリンタドライバは、記録媒体の浸透速度の情報の取得を実行するための条件、すなわち取得条件が成立したかを判断する(S401)。この取得条件は、ホスト装置100に対するユーザの媒体情報取得指示入力があったことである。また、例えばプリンタ200の給紙トレイ(不図示)が開閉されたときなど、記録媒体の種類が変更された可能性のある操作が行われたことを取得条件としてもよく、またそのような場合にユーザに対して、媒体情報取得指示をするかを選択させる表示を行ってもよい。取得条件が成立した場合には、プリンタドライバは、プリンタ200を駆動して、記録媒体にテストパッチを記録すなわちプリントし(S402)、プリントされた記憶媒体上のテストパッチを光学センサ29によりセンシングする(S403)。このプリントはBkインクにより行うが、他のインクでもよい。次に、プリンタドライバは、光学センサ29の出力から得られた画像濃度に基づいて、媒体浸透速度マップを参照することにより、その記録媒体の浸透速度を算出・記憶する(S404)。
【0047】
図5のフローチャートは、記録時の処理を示す。ユーザが画像データの記録指示を出すと、ホスト装置100にインストールされているプリンタドライバは、画像データのRGB多値データを取得する(S501)。次に、プリンタドライバは、RGB色空間で作成されているRGB多値データを記録に用いるインクに対応するCMYK色空間のCMYK多値データ及び処理液Sの多値データに変換する(S502)。さらに、S、C、M、Y、Kのインクそれぞれに対応するSCMYKの2値データへの変換を行う(S503)。なお、後述するが、本実施形態においてはS多値データを2種類の処理液S1、S2の2値データに変換して記録データを生成する。
【0048】
インクジェットプリンタ200は、ホスト装置100から受信した2値データに基づいた記録を行う(S504)。このとき、記録媒体の同一の領域に対して複数回の記録走査を行うことで画像を完成させるマルチパス記録の場合、S503の2値データを複数回の記録走査で画像を記録するよう、ROM20cに格納されているマスクを用いてデータを振り分ける。振り分けられたデータに基づいて各記録走査において画像を形成する。
【0049】
ここで、上述のS503における処理液Sの多値データを、処理液S1、S2それぞれの記録データに変換する処理について説明する。
【0050】
図6は、記録媒体の浸透速度と2種類の処理液S1、処理液S2それぞれの吐出量(記録duty)との関係を定めた吐出量マップを示している。ユーザの画像データ記録指示が出されると、CPU20aは、先の取得処理によって取得された記録媒体の浸透速度を呼び出し、その浸透速度によって吐出量マップを参照して、2種類の処理液S1、S2の吐出量を決定する。すなわち、記録媒体の浸透速度が遅いときには、浸透速度が相対的に速い処理液S2をより多く吐出する。また、記録媒体の浸透速度が速いときには、浸透速度が相対的に遅い処理液S1をより多く吐出する。このように、記録媒体の種類による浸透速度の違いを、2種類の浸透速度の異なる処理液S1,S2を記録媒体上で調合する比率を制御することで、浸透速度を一定に保ち、記録される出力画像濃度や文字品位を安定させることができる。
【0051】
図7に、処理液S1、S2を用い、中浸透特性の記録媒体を用いたときのBkインクの記録dutyと光学濃度の関係を示す。図7は、図3と同様に、処理液S1、S2を用い、Bkインクの単位面積あたりのインク付与量(記録duty、単にdutyとも称する。)を徐々に増やすようなパッチ画像を記録して得られたパッチ画像の光学濃度OD(単に濃度とも称する)を示している。図7では、処理液S1を用いてBkインクで記録したパッチの光学濃度を細い波線で示し、処理液S2を用いてBkインクで記録したパッチの光学濃度を太い破線で示している。また、処理液S1、S2をそれぞれ1対1の割合で記録媒体上で調合し、Bkインクで記録したパッチの光学濃度を実線で示している。図3及び図7のとおり、記録媒体が高浸透のときは浸透が比較的に遅い処理液S1を多く用い、記録媒体が低浸透のときには浸透が比較的に速い処理液S2を用い、記録媒体が中浸透のときには、処理液S1、S2を等量付与することができる。これによって、それぞれ浸透特性の異なる記録媒体M1,M2,M3においても同様の画像濃度が得る事ができる。
【0052】
記録媒体の浸透速度は、記録媒体の種類によって、またプリンタの使用環境であるプリンタ内の温度や湿度によって変化する。例えば、記録媒体が絶対水分量の多い環境にある場合は、記録媒体が、空気中の水分を吸収してしまうため、浸透特性は低下する。逆に絶対水分量の少ない環境にある場合は、記録媒体が乾燥してしまい、浸透特性が上がってくる。しかし本実施形態では、テストパターンの記録及び光学濃度の検出を行うことで記録媒体の浸透速度を算出し、この結果に基づいて2種類の処理液の吐出量の比率を調整し、インクの記録媒体への浸透速度を制御する。このため本実施形態では、浸透速度の異なる記録媒体へのインク浸透速度を安定的に制御し、文字品位や画像濃度を安定させることが可能になる。
【0053】
なお、本実施形態では、ある記録媒体について供給される処理液S1、処理液S2の比率を一定としたが、ユーザの好みにあう階調特性をするために、各濃度域において処理液S1及び処理液S2の比率をそれぞれ異なるように設定可能としてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、色材の無い処理液S1,処理液S2を用いたが、色材を有する処理液(すなわち有色インク)を用いてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、画像データを2値データへ変換し、記録データを生成するまでをホスト装置100のプリンタドライバが行うこととしたが、RGB多値データをプリンタ200が取得し、その後の処理をプリンタ200のCPU20aにより行ってもよい。すなわち、本発明におけるコントローラの機能はホスト100とプリンタ200のどちらが実行しても、また分担して実行してもよい。
【0056】
本実施形態の図5におけるS501のRGB多値データからS503のS1S2CMYBkの2値データへ変換する処理は、画像データの各画素単位で行っても、複数の画素を含む所定の領域ごとに行ってもどちらでもよい。
【0057】
本実施形態では、処理液の浸透特性を異ならせる材料としてアセチレングリコールを用いたが、これ以外の界面活性剤や浸透特性溶剤を用いてもよい。界面活性剤としては、浸透特性を付与するものであれば特に限定されない。例えば、非イオン性界面活性剤、例えば、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等が好ましく用いられる。界面活性剤の含有量は、使用する界面活性剤の種類にもより特に制限はないが、インク全重量に対して0.01〜10重量%の範囲が好ましい。0.01重量%未満では、一般に所望の浸透特性が少なく、10%を越える場合には、インクの初期粘度が大きくなるので好ましくないものである。
【0058】
また、浸透特性を付与する溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを用いてもよい。また、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、1,2−ヘキサンジオール等も好ましく用いられる。溶剤の含有量は使用する溶剤の種類にもより特に制限はないが、インク全重量に対し0.1〜20重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満で、一般に所望の浸透特性が少なく、20重量%を越える場合には、着色剤の溶解性がやや低下するので好ましくないものである。
【0059】
本実施形態においては2種類の処理液を用いたが、本発明に係るシステムは任意の複数種類の処理液を吐出可能であればよく、3種類以上の処理液を用いてもよい。その場合、インクそれぞれの浸透特性に基づいて、図6の場合と同様にそれぞれのインク付与量の関係を導き出せばよい。
【0060】
また、図6の吐出量マップを、テストパターンの記録・検出を行い目標値と一致するように制御することで、作成または較正してもよく、これによって、更に安定した文字品位、画像濃度を得ることが出来る。すなわち、図5の処理によってテストパッチパターンを記録媒体に再度記録し、これを光学センサ29によりセンシングし、得られた光学濃度データを、予めメモリ11に記憶されている目標値と比較し、両者が一致するように吐出量マップの各処理液の吐出量を補正する。目標値は、あらかじめ出荷時にメモリに格納してもよく、また出荷後に同様の操作により目標値を作成してメモリに格納してもよい。これにより、処理液の個体差、経年変化や環境条件による変化を抑制し、更に安定した文字品位、画像濃度を得ることが出来る。
【0061】
本発明は、紙や布、革、不織布、OHP用紙、金属等の記録媒体を用いる機器全てに適用可能である。具体的な適用機器としては、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の事務機器や工業用生産機器を挙げることができる。
【符号の説明】
【0062】
5 記録ヘッド
6 インクタンク
10 CPU
11 メモリ
20 制御部
100 ホスト装置
200 インクジェットプリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク及び処理液を吐出する少なくとも1つの記録ヘッドと、前記少なくとも1つの記録ヘッドを制御するコントローラと、を備え、記録媒体に画像データに基づいた記録を行うインクジェット記録システムにおいて、
前記少なくとも1つの記録ヘッドは、浸透速度が互いに異なる複数種類の処理液を吐出可能であり、
前記コントローラは更に、
記録媒体の浸透特性を取得する処理と、
前記複数種類の処理液の吐出量の比率を、前記記録媒体の浸透特性に基づいて変更する処理と、
を実行することを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項2】
前記コントローラは、記録媒体の浸透特性が高いほど、前記複数種類の処理液のうち相対的に浸透速度の遅い処理液の吐出量の比率を多くすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録システム。
【請求項3】
前記処理液は、色材を含むインクと接触することで前記色材の分散状態を不安定化する反応性成分を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録システム。
【請求項4】
記録媒体上の画像濃度を検出するセンサを更に備え、
前記記録媒体の浸透特性を取得する処理は、
前記インクにより前記記録媒体にテストパターンを記録する処理と、
記録されたテストパターンの画像濃度を前記センサで検出する処理と、
検出された画像濃度に基づいて前記記録媒体の浸透特性を算出する処理と、
を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクジェット記録システム。
【請求項5】
インク及び処理液を吐出する少なくとも1つの記録ヘッドと、前記少なくとも1つの記録ヘッドを制御するコントローラと、を用いて記録媒体に画像データに基づいた記録を行うインクジェット記録方法において、
前記コントローラによって、
記録媒体の浸透特性を取得するステップと、
前記複数種類の処理液の吐出量の比率を、前記記録媒体の浸透特性に基づいて変更するステップと、
前記少なくとも1つの記録ヘッドに、浸透速度が互いに異なる複数種類の処理液を吐出させるステップと、
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記記録媒体の浸透特性を取得するステップは、
前記インクにより前記記録媒体にテストパターンを記録するステップと、
記録されたテストパターンの画像濃度を検出する処理と、
検出された画像濃度に基づいて前記記録媒体の浸透特性を算出するステップと、
を含むことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121335(P2011−121335A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282862(P2009−282862)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】