説明

インクジェット記録ヘッド、ヘッドカートリッジ及び記録装置

【課題】 相対的に大きなサイズのインクを吐出するノズルと相対的に小さなサイズのインクを吐出するノズルとを有するインクジェット記録ヘッドで、低コストで、同一の電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出する。
【解決手段】 1つの電源から印加された電圧を、大きなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータと小さなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータとで電圧値を異ならせてそれぞれのヒータに印加する印加手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録信号に応じヒータに任意の電流を流し、インクを発泡させて吐出口からインクを吐出させることで記録を行うインクジェット記録ヘッド、ヘッドカートリッジ及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドは記録信号に応じて微細な複数の吐出口からインクを吐出することにより記録媒体に画像を記録するように構成されており、記録用紙などの記録媒体に非接触記録が可能、カラー化が容易、静粛性に富んでいるなどの利点がある。
【0003】
ここでは、熱エネルギーを用いて記録を行うインクジェット記録ヘッドを例に挙げ説明する。
【0004】
インクジェット記録ヘッドには吐出口とそれに対応するヒータが設けられており、ヒータに電流が印加されるとインクが加熱されて発泡する。そして、その発泡によるエネルギーによってインクが吐出口から吐出され画像を形成する。このようなインクジェット記録ヘッドはヒータを高密度に配置することができる。また、小液滴のインクを吐出することが可能である。このため、高画質な画像を形成することが可能である。
【0005】
現在、インクジェット記録ヘッドを用いた記録装置には、高画質な画像を形成することが求められる一方、高速で記録をすることも求められている。高画質な画像を形成することと高速で記録をすることの両立を図るための一つの方法として、吐出するインクの液滴の大きさを記録モードに応じて打ち分ける方法がある。高速モードにおいては大きなインクの液滴により低い解像度で記録し、高画質モードにおいては小さなインクの液滴により高い解像度で記録するよう打ち分ける。このように、複数の記録モードを設けることにより、高画質な画像を形成することと高速で記録をすることを両立させることが可能である。また、大きなインクの液滴と小さなインクの液滴を両方用いて記録することにより、高い階調性を持った画像を高速に形成することが可能となる。このように、ユーザが最適な記録モードを選択することで所望する画質で記録することができるという大きな効果を得ることができる。
【0006】
このような高画質な画像を形成することと高速で記録をすることを両立するためのインクジェット記録ヘッドとして、特許文献1に開示されるインクジェット記録ヘッドがある。これは、各吐出口に対応して1つずつヒータを備えた複数のノズルからなるノズル列において、インクの吐出量が相対的に異なる第1及び第2のヒータが交互に配置される構成のインクジェット記録ヘッドである。そして、セレクト信号に応じて第1及び第2のヒータのいずれかを駆動して高い階調性を持った画像を高速に形成する。また、インクの吐出量が相対的に異なる(サイズが異なる)第1及び第2のヒータを同一電源で駆動することにより、電源配線を共通化することができるため、回路構成の簡素化、低コスト化、小型化を可能としている。
【特許文献1】特開2004−122757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、各吐出口に対応して1つずつヒータを備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、吐出するインクの小液滴化が進んでおり、従来よりも高画質で高い階調性の画像形成が可能となってきている。上述したように、大きなインクの液滴と小さなインクの液滴により記録することで高い階調性を持ち高画質な画像を高速に記録することが可能となる。しかし、近年の吐出するインクの小液滴化により、大きなインクと小さなインクの液滴量の差が大きくなってきている。そして、より高い階調性を表現するためにも大きなインクと小さなインクの液滴量の差を埋めるためさらに様々な液滴量のインクを吐出することが求められている。様々な量のインクを吐出するためには、インクの吐出量に応じた様々な発泡エネルギーが必要となるため、電源の増加、回路構成の複雑化、また、それらによるコストアップなどが生じる場合がある。
【0008】
低コストで様々な液滴量のインクを吐出させるためには、使用するヒータの材質や膜圧を異なる液滴量のインクを吐出させるヒータにおいても同一とし、回路構成を従来と大きく変更させず、電源の数を増加させないことが望ましい。また、電源配線のレイアウト効率の観点から、1つのノズル列に複数の電源を割り当てるのは困難である。このため、1つの電源を用いて、1つのノズル列から複数の異なる液適量のインクを吐出させて高画質な画像の記録を行うことが望まれる。
【0009】
しかし、上述したように様々な液滴量のインクを吐出させるためには、様々な発泡エネルギーが必要である。異なる液適量のインクを吐出するヒータを同一の電源で駆動するための方法として、従来は、ヒータを長方形にすることによる抵抗値の調整、ヒータに流す電流のパルス幅の調整、などを行っていた。一般的に吐出に必要なエネルギーが最も大きいのは大液滴のインクを吐出するノズルである。このため、電源電圧は大液滴のインクを吐出するための電圧を基準に設定し、中、小液滴のインクを吐出するノズルについては上記2つの方法でインクを発泡するためのエネルギーを調整する。
【0010】
1つ目のヒータの形状を変える方法では、ヒータを長方形にすることで抵抗値を変えヒータに流れる電流値を調整し、インクが発泡する閾値を計算してエネルギーを調整することが可能である。
【0011】
図7に長方形のヒータを備えたインクジェット記録ヘッドのヒータ近傍部分の例を示す。
【0012】
従来、一般的には正方形であるヒータの形状を図7の701のように長方形にすることで、ヒータの抵抗を正方形のヒータより高く設定することができる。このように、ヒータの形状を変えることによりインクに付与するエネルギーを調整することができる。こうしてインクに付与するエネルギーを調整することで、同一の電源を用いて大液滴のインクと小液滴のインクとを吐出させることが可能になる。
【0013】
しかし、このような長方形のヒータ701はサイズの制約を受けやすく、また、駆動上の制約、ヒータ膜の抵抗値による制約を受けやすい。また、正方形のヒータと比べ、吐出口702との位置ずれによる吐出方向の変化などの影響が大きいなどの問題がある。
【0014】
一方、2つ目の方法のように、小液滴のインクを吐出するためのヒータと大液滴のインクを吐出するためのヒータに流す電流のパルス幅をそれぞれ調整することにより同一の電源を用いて大液滴のインクと小液滴のインクとを吐出させる方法がある。例えば、小液滴のインクを吐出するためのヒータとして大液滴のインクを吐出するための正方形のヒータよりも小さい正方形のヒータを用いる。そして、小液滴のインクを吐出するためのヒータに流す電流のパルス幅を大液滴のインクを吐出するためのヒータに流す電流のパルス幅よりも短くする。
【0015】
しかし、パルス幅を徐々に短くしていくと、あるパルス幅からヒータの熱が液室内のインク全体に伝わる前にインクが発泡してしまうようになる。液室内のインクに熱が充分に伝わっていない状態でインクが発泡してしまうと泡は非常に小さいものとなり、インクの吐出は困難となる。このように、ヒータに流す電流パルス幅はインクの発泡による泡の大きさとの兼ね合いもあり、調整できる範囲は限定されている。
【0016】
以上のように、同一の電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出するには多くの課題がある。特に、最近は吐出するインクの小液滴化が進んでいるため大液滴のインクのサイズと小液滴のインクのサイズとの差が大きくなってきており、インクを吐出するために必要なエネルギーの差も大きくなってきている。このため、上記の方法によって、同一の電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出することは困難になってきている。
【0017】
そこで本発明の目的は、低コストで、同一の電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出することが可能なインクジェット記録ヘッド、ヘッドカートリッジ及び記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明は、相対的に大きなサイズのインクを吐出するノズルと相対的に小さなサイズのインクを吐出するノズルとを有し、それぞれのノズルに備えられたヒータにより熱エネルギーをインクに付与させてインクを吐出するインクジェット記録ヘッドであって、
1つの電源から印加された電圧を、前記大きなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータと前記小さなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータとで電圧値を異ならせてそれぞれのヒータに印加する印加手段を備えることを特徴とする。
【0019】
また、上記課題を解決するための別の本発明は、前記インクジェット記録ヘッドを有するヘッドカートリッジ及び記録装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来と回路構成を大きく変更することなく低コストで、同一の電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0022】
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0023】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0024】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0025】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0026】
(実施例1)
図8は、本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0027】
図8に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置という)は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行う記録ヘッド3を搭載している。記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2にキャリッジモータM1によって発生する駆動力を伝達機構4より伝え、キャリッジ2を主走査方向である矢印A方向に往復移動(往復走査)させる。この往復走査とともに、例えば、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置においてインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドともいう)3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行う。
【0028】
記録装置のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを収容するインクタンク6を装着する。このインクタンク6は、キャリッジ2に対して着脱可能になっている。
【0029】
図8に示した記録装置はカラー記録が可能であり、そのためキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容した4つのインクタンクを搭載している。これら4つのインクタンクはそれぞれ独立に着脱可能である。
【0030】
キャリッジ2と記録ヘッド3とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド3は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録する。特に、本実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用し、熱エネルギーを発生するためにヒータを備える。そのヒータに印加される電気エネルギーが熱エネルギーへと変換され、その熱エネルギーをインクに与えることにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させる。このヒータは各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応するヒータにパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0031】
図8に示されているように、キャリッジ2はキャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝達機構4の駆動ベルト7の一部に連結されており、ガイドシャフト13に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されるようになっている。したがって、キャリッジ2は、キャリッジモータM1の正転及び逆転によってガイドシャフト13に沿って往復走査する。また、キャリッジ2の主走査方向(矢印A方向)に沿ってキャリッジ2の位置を示すためのスケール8が備えられている。
【0032】
また、記録装置には、記録ヘッド3の吐出口(不図示)が形成された吐出口面に対向してプラテン(不図示)が設けられており、キャリッジモータM1の駆動力によって記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2が往復走査される。これと同時に、記録ヘッド3に記録信号を与えてインクを吐出することによって、プラテン上に搬送された記録媒体Pの全幅にわたって記録が行われる。
【0033】
記録装置には、記録ヘッド3を搭載するキャリッジ2の記録動作のための往復運動の範囲外(記録領域外)の位置に、記録ヘッド3の吐出不良を回復するための回復装置10が配設されている。
【0034】
回復装置10は、記録ヘッド3の吐出口面をキャップするキャッピング機構11と記録ヘッド3の吐出口面をクリーニングするワイピング機構12を備えている。そして、キャッピング機構11による吐出口面のキャッピングに連動して回復装置内の吸引手段(吸引ポンプ等)により吐出口からインクを強制的に排出させる。それによって、記録ヘッド3のインク流路内の粘度の増したインクや気泡等を除去するなどの吐出回復動作を行う。
【0035】
また、非記録動作時等には、記録ヘッド3の吐出口面をキャッピング機構11によるキャッピングすることによって、記録ヘッド3を保護するとともにインクの蒸発や乾燥を防止することができる。一方、ワイピング機構12はキャッピング機構11の近傍に配され、記録ヘッド3の吐出口面に付着したインク滴を拭き取るようになっている。
【0036】
また、記録装置では、キャッピング機構11に記録に関係しないインクを吐出することにより、予備吐出を行うことができる構成となっている。
【0037】
これらキャッピング機構11を使用した吸引動作及び予備吐出動作、ワイピング機構12を使用したワイパー動作により、記録ヘッド3のインク吐出状態を正常に保つことが可能となっている。
【0038】
図9は、図8に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0039】
図9に示すように、コントローラ600は、MPU601、所要のテーブル、その他の固定データを格納したROM602を有する。また、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する特殊用途集積回路(ASIC)603を有する。また、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等を設けたRAM604を有する。また、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行うシステムバス605を有する。さらに、以下に説明するセンサ群から入力されたアナログ信号をデジタル信号にA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給するA/D変換器606を有する。また、コントローラ600は、予備吐出時および記録時において、所定の時間間隔となるように前記複数のノズルを駆動する。
【0040】
また、610は画像データの供給源となるコンピュータ等でありホストと総称される。ホスト610と記録装置との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。
【0041】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリント開始を指令するためのプリントスイッチ622、及び回復動作の起動を指示するための回復スイッチ623など、操作者による指令入力を受けるためのスイッチから構成される。630はホームポジションを検出するためのフォトカプラなどの位置センサ631、環境温度を検出するために記録装置の適宜の箇所に設けられた温度センサ632等から構成される装置状態を検出するためのセンサ群である。
【0042】
さらに、640はキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0043】
図8では、インクタンク6と記録ヘッド3とが分離された構成について示したが、本実施例はインクタンクと記録ヘッドとが一体に形成されたヘッドカートリッジであっても良い。
【0044】
図10は、インクタンク6と記録ヘッド3とが一体的に形成されたヘッドカートリッジ100の構成を示す外観斜視図である。同図において、点線Kはインクタンク6と記録ヘッド3の境界線を示すものであるである。また、500は吐出口が複数配列してなるインク吐出口列である。インクタンク6に収容されるインクは、不図示のインク供給路を介して記録ヘッド3に供給される。ヘッドカートリッジ100には、キャリッジ2に搭載されたときに、キャリッジ2側から供給される電気信号を受け取るための電極(不図示)が設けられている。そして、この電気信号によって記録ヘッド3が駆動されて、吐出口列500の各吐出口から選択的にインクが吐出される。
【0045】
図1は、本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッドを示す図である。
【0046】
この記録ヘッドは、相対的に大、中、小の異なるサイズのインクを吐出する吐出口を備えている。また、この記録ヘッドの基本構成は図1に示すように単一の素子基板にインク供給口が6個設けられており、インク供給口AとFにはシアンインク、BとEにはマゼンタインク、Cにはブラックインク、Dにはイエローインクがそれぞれ供給される。各インク供給口に対してそれぞれ大液滴のインクを吐出させるための大液滴吐出口aと中液滴のインクを吐出させるための中液滴吐出口bと小液滴のインクを吐出させるための小液滴吐出口cとが設けられている。また、中液滴吐出口bと小液滴吐出口cとはインク供給口に対して同じ側に設けられ、千鳥に交互に配置されている。
【0047】
図2は、図1の記録ヘッドのインク供給口及び吐出口の拡大図である。
【0048】
各インク供給口の片側に大液滴吐出口a1及び大液滴吐出用ヒータa2が設けられており、もう一方の片側には中液滴吐出口b1及び中液滴吐出用ヒータb2、小液滴吐出口c1及び小液滴吐出用ヒータc2が設けられている。これらのヒータ及び吐出口にはインク流路を介してインク供給口からインクが供給される。また、それぞれのインク流路は、隔壁101によって仕切られている。
【0049】
図3は、本実施例の記録ヘッドの回路レイアウトを示す図である。
【0050】
図3に示すように、各ヒータは両端をアルミ配線(Al配線)でつながれており、一方はヒータに流す電流の電源へとつながるVH配線301と、もう一方はスルーホール302を通じて下層のドライバトランジスタ303のドレインへとつながれている。VH配線301は、図3には表示していないが、ドライバトランジスタ303の上層に設けられた太いVH配線とつながれており、また、ドライバトランジスタ303のソースはスルーホール304を通じて上層のAl配線を通り、グランドへとつながれている。ドライバトランジスタをオンまたはオフにすることによって行うヒータの駆動制御に従ってVH配線301からヒータに電流が流れ、ヒータが加熱され、インクが発泡し、ノズルからインクが吐出される。
【0051】
大液滴吐出用ヒータ305は1個につき1つのVH配線、中液滴用ヒータ306と小液滴用ヒータ307に関しては2個で共通のVH配線を用いている。このようにVH配線を共通に用いることで、よりヒータを高密度に配置することができ、高画質化へとつながる。
【0052】
図4は、本実施例の記録ヘッドの回路図である。
【0053】
図4(a)は小液滴用ヒータ及び中液滴用ヒータとこれらに接続されるドライバトランジスタなどを示す図であり、図4(b)は大液滴用ヒータとこれらに接続されるドライバトランジスタなどを示す図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、小液滴用ヒータに接続されているドライバトランジスタ(MOSFET)401のゲート本数を2本とすると、中液滴用ヒータに接続されているドライバトランジスタの合計のゲート本数は4本となる。また、大液滴用ヒータに接続されているドライバトランジスタの合計のゲート本数は6本となる。
【0054】
このように、吐出するインクの液滴のサイズに応じてドライバトランジスタのゲート本数を変える事によりドライバトランジスタのオン抵抗を変えている。インクを吐出するために大きなエネルギーが必要な大液滴用ヒータには接続するドライバトランジスタのゲート本数を6本にすることでオン抵抗を低めに設定して電流を多く流す。そして、反対に小液適用ヒータには接続するドライバトランジスタのゲート本数を2本にすることでオン抵抗を高めに設定することで、ヒータに流れる電流を抑えエネルギーを小さくしている。
【0055】
このように、ゲート本数を変える事によりドライバトランジスタのオン抵抗を変えている。このような構成とすることにより、ヒータに流れる電流を調整することができ、吐出するインクのサイズの応じてヒータがインクに付与するエネルギーをコントロールすることが可能となる。このため、同一の電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出することが可能となり、従来の吐出量に応じて異なる電源を用いていた構成の記録ヘッドと比較して、低コストで回路構成の簡単な記録ヘッドにすることが可能となる。
【0056】
図5は、ドライバトランジスタの回路レイアウトを示す図である。
【0057】
本実施例では、特開平9−327914号公報に開示されているヒータの駆動方法を用いており、M×N個の一列に配列されたヒータをM個ずつN個のブロックに分割して時分割駆動をしている。同時に駆動されることがない隣接するN個のヒータからなるグループが隣接してM個配置されることにより、一列に配列されたヒータ列を形成している。図5に示したドライバトランジスタのレイアウトにおいて、N個分のヒータを駆動するドライバトランジスタはソース501を全て共通化しており、面積効率の良い配置となっている。
【0058】
従来の記録ヘッドにおいては、1列に配列されたヒータに接続されるドライバトランジスタのゲート本数はそれぞれ等しい。例えば、ゲート本数が2本のドライバトランジスタを用いている場合、図5中のドレインA、ドレインB、ドレインCはそれぞれ独立に1つのヒータに接続されており、各ゲートA、ゲートB、ゲートCも独立にロジック回路へと接続されている。
【0059】
これに対し、本実施例の記録ヘッドにおいては、この従来のドライバトランジスタのレイアウト構成をほぼ保ったまま、ドライバトランジスタのゲート本数の調整が可能である。図4(a)に示したような構成の記録ヘッドにおいては、ドレインAを小液滴用ヒータへ接続する。また、ドレインBとドレインCをつないで1つの中液滴用ヒータへ接続し、ゲートBとゲートCをつないでロジック回路へと接続する。このようなパターンを繰り返すことで、小液滴用ヒータ及び中液滴用ヒータとにより構成されるヒータ列においてドライバトランジスタのゲート本数を調整することができる。また、図4(b)に示したような構成の記録ヘッドにおいては、ドレインAとドレインBとドレインCをつないで1つの大液滴用ヒータへ接続し、ゲートAとゲートBとゲートCをつないでロジック回路へと接続する。このようなパターンを繰り返すことで、大液滴用ヒータにより構成されるヒータ列においてドライバトランジスタのゲート本数を調整することができる。
【0060】
同様に、ゲート本数の比率を変えて接続することで、大液滴用、中液滴用及び小液滴用ヒータにより構成されるヒータ列や、大液滴用及び小液滴用ヒータにより構成されるヒータ列において、ドライバトランジスタのゲート本数を調整することができる。
【0061】
以上のように配線を組み替え、ゲート本数の比率を変えてヒータに流す電流を調整する(ヒータに印加する電圧値を調整する)。こうすることで、回路レイアウトを従来の回路レイアウトから大きく変化させることなくヒータがインクに付与するエネルギーをコントロールすることが可能となる。これにより、1つの電源を用いて様々な液滴量のインクを吐出することが可能となり、低コストで高画質な画像を形成することができる。
【0062】
また、同一の電源を用いて行うパルス幅の調整やヒータ形状の変更などによる吐出するインクの液滴量を調整する方法と比べ、回路設計が容易になると同時に、吐出可能な液滴量の範囲を広く設定することができる。そして、ゲート本数の比率を変えることで容易に様々なパターンで吐出するインクの液滴量が異なるヒータを配置することが可能となり、高速で高画質な画像形成をするための様々な要求に対し柔軟に対応することが可能である。
【0063】
一方、ドライバトランジスタのオン抵抗値の調整をゲート本数の比率ではなく、ゲートのL長(チャンネル長)で行う方法もある。この方法とゲート本数の比率を変える方法を同時に行えば、より抵抗調整の幅が広がり、大液滴と小液滴とのサイズの差をさらに広げることが可能となる。また、吐出するインクの液適量の微調整が可能になることから、さらに多種類の液滴量のインクを吐出することが可能になる。
【0064】
(実施例2)
実施例1では、ゲート本数及びゲートのL長を調整することでドライバトランジスタのオン抵抗を変化させヒータに流れる電流を調整していた。本実施例では、ドライバトランジスタのオン抵抗を変化させるのではなく、ドライバトランジスタとヒータとを接続する配線に抵抗素子を配置することによりヒータに流れる電流の調整を行う。
【0065】
図6(a)は本実施例の記録ヘッドの回路レイアウトであり、図6(b)はその回路図である。
【0066】
図6(a)及び図6(b)で示されるとおり、本実施例の記録ヘッドでは、中液適用ヒータはドライバトランジスタと直接接続されており、小液適用ヒータはドライバトランジスタと抵抗素子61を介して接続されている。なお、図6(a)及び図6(b)に示される抵抗素子61は、小液滴用ヒータ及び中液適用ヒータと同じ構成の素子を用いている。抵抗素子61の抵抗値はその形状を変化させることにより調整が可能である。小液滴用ヒータに電流が流れると、抵抗素子61にも電流が流れるため、抵抗素子61も発熱してしまう。そのため、インクと接する部分に抵抗素子61を配置するとインクが加熱されることやインクが発泡してしまうことが予想され、インクの吐出に影響を与えてしまう可能性がある。このため、抵抗素子61の配置位置は隔壁の内側であることが望ましい。
【0067】
図6(a)及び図6(b)では、ヒータを基準としてドライバトランジスタ側に抵抗素子を配置したが、VH配線側に配置してもよい。また、抵抗素子としてヒータと同様の素子を用いたが、それ以外の抵抗素子、例えば拡散抵抗やPOLY−Si抵抗を用いてもよい。また、このような抵抗素子を配置する替わりに、アルミ配線を細く長く引き回すことによりこの部分の抵抗値が高くなるようにしてもよい。
【0068】
また、図6(a)及び図6(b)では、小液適用ヒータの配線にだけ抵抗素子を設けたが、中液適用ヒータの配線にも異なる抵抗値の抵抗素子を設けてもよい。こうして、さらに大液適用ヒータを組み合わせることにより、大液適、中液適及び小液適のインクを吐出可能な構成とすることができる。
【0069】
また、実施例1で示したドライバトランジスタのオン抵抗を調整することによるヒータに流れる電流の調整を組み合わせて行えば、さらに細かく吐出するインクの液適量の調整が可能になり、さらに多種類の液滴量のインクを吐出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッドを示す図である。
【図2】図1の記録ヘッドのインク供給口及び吐出口の拡大図である。
【図3】実施例1の記録ヘッドの回路レイアウトを示す図である。
【図4】実施例1の記録ヘッドの回路図である。
【図5】ドライバトランジスタの回路レイアウトを示す図である。
【図6】実施例2の記録ヘッドの回路レイアウトを示す図及び回路図である。
【図7】従来の長方形のヒータを備えたインクジェット記録ヘッドのヒータ近傍部分の例を示す図である。
【図8】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図9】記録装置の制御回路の構成を示すブロック図である。
【図10】インクタンクと記録ヘッドとが一体的に形成されたヘッドカートリッジの構成を示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
61 抵抗素子
303 ドライバトランジスタ
401 ドライバトランジスタ
a1 大液滴吐出口
a2 大液適用ヒータ
b1 中液滴吐出口
b2 中液適用ヒータ
c1 小液滴吐出口
c2 小液適用ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に大きなサイズのインクを吐出するノズルと相対的に小さなサイズのインクを吐出するノズルとを有し、それぞれのノズルに備えられたヒータにより熱エネルギーをインクに付与させてインクを吐出するインクジェット記録ヘッドであって、
1つの電源から印加された電圧を、前記大きなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータと前記小さなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータとで電圧値を異ならせてそれぞれのヒータに印加する印加手段を備えることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記印加手段は、ドライバトランジスタにより構成されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記ドライバトランジスタは、MOSFETであり、
前記大きなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータに接続されるMOSFETと前記小さなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータに接続されるMOSFETのゲート本数が異なることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記ドライバトランジスタは、MOSFETであり、
前記大きなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータに接続されるMOSFETと前記小さなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータに接続されるMOSFETのゲートのチャンネル長が異なることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記印加手段は、ドライバトランジスタと抵抗素子とにより構成されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記大きなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータは前記ドライバトランジスタと直接接続され、前記小さなサイズのインクを吐出するノズルに備えられたヒータは前記ドライバトランジスタと前記抵抗素子を介して接続されることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記相対的に大きなサイズのインクを吐出するノズルと前記相対的に小さなサイズのインクを吐出するノズルとが交互に一列に配列されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドと、インクを収容したインクタンクとを有することを特徴とするヘッドカートリッジ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の記録ヘッドまたは請求項8に記載のヘッドカートリッジと、電源とを有する記録装置であって、
前記印加手段は、前記記録装置の有する電源から電圧が印加されることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−166257(P2009−166257A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3637(P2008−3637)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】