説明

インクジェット記録方式の印刷方法

【課題】インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対して、耐擦性に優れた記録画像を形成可能なインクジェット記録方式の印刷方法を提供すること。
【解決手段】
インク非吸収性または低吸収性の記録媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する印刷方法であって、
(1)記録媒体に対して着色剤を含有するインク組成物で印刷する第1印刷工程と、
(2)前記インク組成物で印刷された印刷画像に対して、着色剤を含まず少なくともポリマー粒子を含む液体組成物を重ねて印刷する第2印刷工程と、
(3)前記第1印刷工程の印刷時、前記第1印刷工程の印刷後、前記第2印刷工程の印刷時、および前記第2印刷工程の印刷後の少なくともいずれかにおいて、前記記録媒体に印刷された印刷画像を乾燥する乾燥工程とを含み、且つ、
(4)前記インク組成物は、前記着色剤として水不溶性の着色剤と、界面活性剤と、水とを少なくとも含み、
(5)前記液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、炭素数が4〜8の1,2−アルキルジオール類と、ポリマー粒子と、ワックス粒子と、水とを少なくとも含むことを特徴とする、インクジェット記録方式の印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式を用いた印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式を用いた印刷方法は、インクの小滴を飛翔させて紙等の記録媒体上に付着させることにより行なう。近年のインクジェット記録方式技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷が用いられていた高精細な画像記録(画像印刷)の分野にもインクジェット記録方式を用いた印刷方法が用いられるようになってきた。そのため、一般に用いられる普通紙やインクジェット記録用専用紙(マット系、光沢系)のみならず印刷本紙・合成紙・フィルム等のインク非吸収性または低吸収性の記録媒体にも高品質な印刷物が求められてきている。
【0003】
普通紙やインクジェット記録用専用紙等に対して高品質な画像が得られるインク組成物については従来種々の提案がされてきており、具体的には水不溶性ポリマーにて被覆された顔料、特定のグリコールエーテル類、1,2−アルキルジオール類とから少なくともなるインク組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また近年では、ポリ塩化ビニル系基材等のフィルム系記録媒体、すなわちインク非吸収性記録媒体に対して用いられてきた溶剤系顔料インクに代わり、安全面及び環境を保護する観点から水性インクが用いられるようになってきている。このような水性インクの一例として、具体的には、水、グリコール系溶剤、不溶性着色剤、ポリマー分散剤、シリコーン界面活性剤、フッ素化界面活性剤、水不溶性グラフトコポリマーバインダー、N−メチルピロリドンを含有するインクを用いて疎水性表面上に印刷する方法が提案されている(特許文献2参照)。さらに、沸点285℃以下の揮発性共溶剤を含む水性液体ビヒクル、酸官能化ポリマーコロイド粒子、顔料着色剤からなる非多孔性基材に印刷するためのポリマーコロイド含有水性インクジェットインクが提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、従来提案されている水性インクにより記録媒体上に形成された印刷画像の耐擦性は充分とはいえず、より優れた耐久性や耐擦性を有する印刷画像の記録方法が要求されていた。
【0006】
例えば、特開2004−195451号公報(特許文献4)には、印刷後の画像に対して高い耐性を付与する目的で、印刷画像上に塗布する液体組成物(オーバーコート組成物)が提案されている。これは、水性キャリアー、保湿剤、界面活性剤、酸価110を超えた付加ポリマーを含む組成物で、印刷された画像上に塗布することにより、画像表面を保護し高い耐久性を付与できるとしている。また、上述の特許文献2には、インク組成物から着色剤を除いたオーバーコート組成物で塗布する工程を備えた印刷方法が提案されている。
【0007】
しかし、インク非吸収性及び低吸収性の記録媒体は、インクの吸収層が無く、インクやオーバーコート組成物が記録媒体中に浸透することなく、従って記録媒体の表面に十分接着できていないために、印刷画像表面にたとえオーバーコート組成物を塗布した場合でも、特に記録媒体と印刷画像との境界面で剥離するという問題があった。少なくとも、印刷画像を形成するインクが接触物に転写し、その接触物を汚染したとしても、印刷画像の情報が欠けていなければ、記録画像により伝えようとしている情報を伝えることは可能である。しかし、接触等により印刷画像が記録媒体から剥離して、印刷画像の情報が欠けてしまうと、印刷画像が伝達しようとしている情報を伝えることができなくなり、その欠けた内容によっては、重大な事故につながる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−235155号公報
【特許文献2】特開2000−44858号公報
【特許文献3】特開2005−220352号公報
【特許文献4】特開2004−195451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対して、耐擦性に優れた記録画像を提供するものであり、しかも、保存安定性を確保し、インクジェットヘッドから安定した吐出が可能となるインクジェット記録方式の印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する印刷方法であって、
(1)記録媒体に対して着色剤を含有するインク組成物で印刷する第1印刷工程と、
(2)前記インク組成物で印刷された印刷画像に対して、着色剤を含まず少なくともポリマー粒子を含む液体組成物を重ねて印刷する第2印刷工程と、
(3)前記第1印刷工程の印刷時、前記第1印刷工程の印刷後、前記第2印刷工程の印刷時、および前記第2印刷工程の印刷後の少なくともいずれかにおいて、前記記録媒体に印刷された印刷画像を乾燥する乾燥工程とを含み、且つ、
(4)前記インク組成物は、前記着色剤として水不溶性の着色剤と、界面活性剤と、水とを少なくとも含み、
(5)前記液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、炭素数が4〜8の1,2−アルキルジオール類と、ポリマー粒子と、ワックス粒子と、水とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、好ましくは前記グリコールエーテル類のアルキル基が分岐構造を持つことを特徴とする。
【0012】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、好ましくは前記グリコールエーテル類が液体組成物の全量に対して0.1質量%〜6質量%の範囲で含まれていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、好ましくは前記1,2−アルキルジオール類が前記グリコールエーテル類に対して質量比で0.5倍〜5倍の範囲で含まれていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、好ましくは前記1,2−アルキルジオール類が液体組成物の全量に対して0.5質量%〜20質量%の範囲で含まれていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、好ましくは前記グリコールエーテル類のアルキル基が2−エチルヘキシル基であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、前記液体組成物が、好ましくはさらにピロリドン誘導体を含んでいることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、前記液体組成物が、好ましくはさらにピロリドン樹脂誘導体を含んでいることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、好ましくは前記乾燥工程が加熱による乾燥工程であって、且つ、第1印刷工程および第2印刷工程のそれぞれにおいて、印刷後の加熱温度が印刷中の加熱温度より高いことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0020】
1.インクジェット記録方式の印刷方法
本発明のインクジェット記録方式の印刷方法は、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する印刷方法であって、
(1)記録媒体に対して着色剤を含有するインク組成物で印刷する第1印刷工程と、
(2)前記インク組成物で印刷された印刷画像に対して、着色剤を含まず少なくともポリマー粒子を含む液体組成物を重ねて印刷する第2印刷工程と、
(3)前記第1印刷工程の印刷時、前記第1印刷工程の印刷後、前記第2印刷工程の印刷時、および前記第2印刷工程の印刷後の少なくともいずれかにおいて、前記記録媒体に印刷された印刷画像を乾燥する乾燥工程とを含み、且つ、
(4)前記インク組成物は、前記着色剤として水不溶性の着色剤と、界面活性剤と、水とを少なくとも含み、
(5)前記液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、炭素数が4〜8の1,2−アルキルジオール類と、ポリマー粒子と、ワックス粒子と、水とを少なくとも含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のインクジェット記録方式の印刷方法(以下、印刷方法ともいう)では、第1印刷工程で水性インク組成物によりインク非吸収性または低吸収性の記録媒体に記録された印刷画像に耐擦性を付与するため、第2印刷工程でオーバーコート液としての水性液体組成物を前記印刷画像表面に印刷する。本発明における液体組成物は、その組成により、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対して優れた濡れ性を有し、また乾燥特性にも優れるため、乾燥後は記録媒体表面にムラや曇りがなく、耐擦性に優れたオーバーコート層(以下、塗布層ともいう)を形成することができる。従って、記録媒体と記録媒体上に形成された記録画像との境界面で剥離する現象も抑制される。
まず、本実施形態に係るインクジェット記録方式の印刷方法で使用するインク組成物及び液体組成物について以下に説明する。
【0022】
以下、本発明に好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
1.1 インク組成物
1.1.1 着色剤
本発明によるインク組成物は、着色剤と、界面活性剤と、水とを含んでなることを特徴とする。このような着色剤としては染料または顔料のいずれも使用可能であるが、インク非吸収性または低吸収性のフィルムメディアに印刷する目的で使用する場合は、印刷物の耐水性や耐擦性等の耐久性の観点から水不溶性の分散染料や顔料であることがより好ましい。
【0024】
着色剤として使用できる染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建築染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用される各種染料を用いることができるが、上述のように耐久性の点から水不溶性の分散染料が好ましく、好ましい分散染料としては、例えば、C.I.ディスパーズ ブラック1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、20、22、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34及び39;C.I.ディスパーズイエロー5、42、54、64、79、82、83、93、99、100、119、122、124、126、160、184:1、186、198、199、204、211、224及び237;C.I.ディスパーズオレンジ8,13、29、31:1、33、49、54、55、66、73、118、119及び163;C.I.ディスパーズレッド54、60、72、73、86、88、91、92、93、111、126、127、134、135、143、145、152、153、154、159、164、167:1、177、179、181、204、206、207、221、239、240、258、277、278、283、288、311、323、343、348、356及び362;C.I.ディスパーズバイオレット26、33、77;C.I.ディスパーズブルー56、60、73、79、79:1、87、87:1、113、128、143、148、154、158、165、165:1、165;2、176、183、185、197、198、201、214、224、225、257、266、267、287、354、358、365及び368;C.I.ディスパーズグリーン6:1及び9が挙げられる。
【0025】
顔料としては、公知の無機顔料、有機顔料及びカーボンブラックのいずれも用いることができ、好ましいブラック顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボット社製)が挙げられる。
【0026】
好ましい有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料またはアゾ系顔料等が挙げられる。
特に、シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられる。
オレンジ顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ36、43が挙げられる。
グリーン顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7、36が挙げられる。
【0027】
これら分散染料や顔料は界面活性剤を用いて分散してもよく、または分散樹脂を用いて樹脂分散して用いてもよく、あるいはオゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として用いてもよい。
【0028】
このような界面活性剤としては、アニオン系及びノニオン系の界面活性剤をいずれも使用することができるが、アニオン系の界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキル燐酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、及び、これらの置換誘導体等が挙げられる。又、ノニオン系の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、及びこれらの置換誘導体等が挙げられる。
【0029】
樹脂分散剤としては、例えば、スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、イタコン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれる少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、並びにこれらの塩等を挙げることが出来る。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶なアルカリ可溶型樹脂であることが好ましい。
【0030】
上記の分散染料、顔料は単独でもまたはこれらの混合物で使用してもよく。また、これらの分散染料、及び顔料のインク中の含有量は、0.5質量%〜20質量%程度、好ましくは1質量%〜10質量%程度である。
【0031】
1.1.2 界面活性剤
また、本発明におけるインク組成物は、記録媒体上で水性インク組成物を均一に拡げる作用がある界面活性剤を含有することが好ましく、特に下記のノニオン系界面活性剤が好ましく、それらをインク組成物中に含有することにより、塗布ムラや曇りの無い印刷画像が得られるという効果を有する。
【0032】
1.1.2.1 ノニオン系界面活性剤
本発明におけるインク組成物は、好ましくはノニオン系界面活性剤を含む。ノニオン系界面活性剤は、記録媒体上でインク組成物を均一に拡げる作用がある。そのためこれを用いた場合、濃淡ムラやにじみの無い印刷画像が得られるという効果を有する。このような効果を有するノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、フッ素系、シリコーン系、アセチレングリコール系等が挙げられる。この中でも特に上述した効果に優れるものとして、シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0033】
1.1.2.1.1 シリコーン系界面活性剤
本発明におけるインク組成物は、好ましくはシリコーン系界面活性剤を含有する。シリコーン系界面活性剤は、記録媒体上で濃淡ムラやにじみの無い印刷画像を得られるという作用が他のノニオン系界面活性剤と比較して優れている。シリコーン系界面活性剤の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは1.5質量%以下の範囲である。シリコーン系界面活性剤の含有量が1.5質量%を超えると、インク組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0034】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
1.1.2.1.2 アセチレングリコール系界面活性剤
本発明におけるインク組成物は、好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤を含有する。アセチレングリコール系界面活性剤は、他のノニオン系界面活性剤と比較して、表面張力及び界面張力を適正に保つ能力に優れており、かつ起泡性がほとんどないという特性を有する。これにより、アセチレングリコール系界面活性剤を含有するインク組成物は、表面張力及びヘッドノズル面等のプリンタ部材との界面張力を適正に保つことができるため、これをインクジェット記録方式に適用した場合、吐出安定性を高めることができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、記録媒体に対して良好な濡れ性・浸透剤として作用するため、これを含んだインク組成物による印刷画像は濃淡ムラや曇りの少ない高精細なものとなる。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは1.0質量%以下である。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量が1.0質量%を超えると、インク組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0036】
アセチレングリコール系界面活性剤として、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
1.1.3 水
本発明におけるインク組成物は、水を含有する。水は主となる液媒体であり、後述する乾燥工程において蒸発飛散する成分である。
水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0038】
1.1.4 その他の構成材料
さらに、インク組成物の添加物としては、一般的に水系インクジェット用インク組成物として使用できるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、グリコールエーテル類、1,2−アルキルジオール類や、ポリマー粒子、ワックス粒子や、ピロリドン誘導体、多価アルコール類、さらにインク組成物の特性を向上させる目的で、浸透溶剤、保湿剤、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することができる。
【0039】
1.2 液体組成物
本発明における液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、炭素数が4〜8の1,2−アルキルジオール類と、ポリマー粒子と、ワックス粒子と、水とを含んでなる。
以下に、これら構成材料について詳細に説明する。
【0040】
1.2.1 HLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類
本発明における液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類を含むことができる。液体組成物に上述のHLB値範囲を満たすグリコールエーテル類を含むことで、記録媒体種の影響をあまり受けずに、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対しても、濡れ性・浸透速度を制御でき、耐擦性に優れ、更にはじくことなくムラが少ない均一なオーバーコート層(塗布層)とすることができる。さらに、後述するグリコールエーテル類と相溶性をもつ1,2−アルキルジオール類(炭素数が4〜8の範囲である1,2−アルキルジオール類)との組み合わせにより、主溶媒である水への親和性が向上し、且つ前述したポリマー粒子やワックス粒子の分散性に悪影響を及ぼさないため、液体組成物の保存安定性が良好であり、またインクジェット記録方式による液体小滴の吐出安定性に優れている。
【0041】
ここで、本発明において用いるグリコールエーテル類の前記HLB値は、デービスらが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、例えば文献「J.T.Davies and E.K.Rideal,“Interface Phenomena”2nd ed.Academic Press,New York 1963」中で定義されているデービス法により求められる数値で、下記の式(1)によって算出される値をいう。
【0042】
【数1】

【0043】
(但し、[1]は親水基の基数を表し、[2]は疎水基の基数を表す)。
下記の表1に、代表的な親水基、及び疎水基の基数を例示する。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明における液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0であるグリコールエーテル類を必須成分として含んでなる。前記HLB値は4.2〜8.0の範囲にあることが好ましく、より好ましくは4.2〜7.1の範囲にあることがより好ましい。HLB値が4.2未満であるとグリコールエーテル類の疎水性が高まり、主溶媒である水との親和性が低下して液体組成物の保存安定性が劣化する場合があり、加えて液体組成物によるオーバーコート層が不透明となり、白く曇ったものとなる。HLB値が8.0より大きくなると、記録媒体への濡れ性・浸透性の効果が減少し、液体組成物によるオーバーコート層が均一でなくなり、耐擦性が低下することとなる。
【0046】
前記グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノイソオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
さらに、本発明における液体組成物は、前記グリコールエーテル類のアルキル基に分岐構造を持つことが好ましい。液体組成物が、アルキル基に分岐構造を持つグリコールエーテル類を含有することで、記録媒体によらず、特にインク非吸収性または低吸収性記録媒体に印刷する場合においても、ムラの無い均一なオーバーコート層を得ることができる。具体的には、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、エチレングリコールモノイソオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル等が挙げられる。
【0048】
塗布ムラをより低減させる観点においては、前記グリコールエーテル類の分岐構造として、アルキル基が2−メチルペンチル基、2−エチルペンチル基または2ーエチルヘキシル基であることがより好ましく、2−エチルヘキシル基であることが最も好ましい。具体的には、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル等が挙げられ、特に、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル等が好ましい。
【0049】
前記グリコールエーテル類の含有量は、液体組成物の濡れ性向上効果、保存安定性、吐出信頼性、液体組成物によるオーバーコート層の透明性の観点から、液体組成物全量に対して0.1質量%〜6質量%の範囲で含まれることが好ましい。0.1質量%未満であると、液体組成物の濡れ性、浸透性、乾燥性が乏しくなってしまい、十分な耐擦性が得られにくく、また、塗布ムラが生じる場合がある。また6質量%よりも大きくなると、液体組成物の粘度が高くなり安定した吐出が困難となったり、液体組成物中への溶解性が得られず長期間安定した保存性が得られない場合があったり、乾燥後の液体組成物によるオーバーコート層の透明性が低下したりする。
【0050】
1.2.2 炭素数4〜8の1,2−アルキルジオール類
本発明における液体組成物は、炭素数が4〜8(以下、C4〜8と略記することもある)の範囲である1,2−アルキルジオール類を含む。
C4〜8の1,2−アルキルジオール類は、上述したグリコールエーテル類と相乗して、記録媒体に対する液体組成物の濡れ性をさらに高めて均一に濡らす作用、及び浸透性をさらに高める効果を有する。そのため、液体組成物にC4〜8の1,2−アルキルジオール類を含有させることで、画像に耐擦性を付与できるとともに、さらに液体組成物からなるオーバーコート層を均一にし、ムラや曇りを低減させることができる。また、C4〜8の1,2−アルキルジオール類は、上述したグリコールエーテル類との相溶性に優れる。ここで「相溶する」とは、液体組成物を構成する各成分の中で、水を主溶媒とした液体組成物において、前記グリコールエーテル類とC4〜8の1,2−アルキルジオール類の混合物が完全に溶解するような、各材料とこれら各材料の比率との組み合わせを意味する。前記グリコールエーテル類との相溶性に優れるC4〜8の1,2−アルキルジオールを液体組成物中に含ませることで、液体組成物における前記グリコールエーテルの溶解性を高めることができ、液体組成物の保存安定性、吐出安定性の向上を実現できる。また、液体組成物中へ前記グリコールエーテル類の含有量を増量することが容易となるため、さらなる均一で透明性の高いオーバーコート層を可能とする。
【0051】
このような特性を有するC4〜8の1,2−アルキルジオール類として、具体的には、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。その中でも特に、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール等のC6〜8(炭素数が6〜8)の1,2−アルキルジオールが、水への溶解性と前記グリコールエーテル類との相溶性の観点からより好ましい。
【0052】
炭素数が4より少ない場合は、記録媒体に対する液体組成物の濡れ性や浸透性の向上効果が不十分となり、さらに、前記グリコールエーテル類との相溶性も十分ではなく、グリコールエーテル類が液体組成物中に十分溶解できなくなる。また、炭素数が9以上になると、蒸発し難くなる為、液体組成物の乾燥性が低下し、印刷物の耐水性や耐擦性が低下することとなる。
【0053】
このようなC4〜8の1,2−アルキルジオール類の添加量は、前記グリコールエーテル類との相溶性の観点から、前記グリコールエーテル類に対して、質量比で0.5倍〜5倍の範囲であることが好ましく、2倍〜5倍の範囲であることがより好ましい。また、前記グリコールエーテル類との相溶性、液体組成物の保存安定性・吐出安定性確保の観点から、液体組成物全量に対して好ましくは0.5質量%〜20質量%の範囲、より好ましくは1質量%〜8質量%の範囲である。C4〜8の1,2−アルキルジオール類の含有量が0.5質量%未満であると、前記グリコールエーテル類の溶解性が不充分となり、記録媒体に対する液体組成物の濡れ性が乏しくなって印刷物に塗布ムラが発生してしまう場合があり、また耐擦性も得られにくく、乾燥後のオーバーコート層の透明性も不十分となる。一方、20質量%より多くした場合、液体組成物の粘度がインクジェット記録方式において適正な範囲に収めることが困難となり吐出が不安定化したり、長期間に渡る液体組成物の保存安定性が確保し難くなる場合がある。より好ましい1質量%〜8質量%の範囲であると、後述する乾燥工程を経れば、C4〜8の1,2−アルキルジオール類の蒸発飛散速度が充分速いため、結果的に印刷物の乾燥が迅速となって印刷速度が向上するという格別な効果がある。また印刷工程中での臭気の点でも問題が出ない。
【0054】
1.2.3 ポリマー粒子
本発明における液体組成物は、ポリマー粒子を含む。塩ビフィルム、ポリプロピレンフィルム等のインク非吸収性またはインク低吸収性の記録媒体上に印刷画像を記録する際、その表面に前記ポリマー粒子を含んだ液体組成物を塗布することで、インク組成物により形成された印刷画像に優れた耐擦性を付与することができる。その理由は、後述する乾燥工程において、該ポリマー粒子が、記録媒体上に強固に定着する作用を有するためである。特に本発明における液体組成物には、ポリマー粒子は微粒子状態(すなわち、エマルジョン状態またはサスペンジョン状態)で含有されていることが好ましい。ポリマー粒子を微粒子状態で含有することにより、液体組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、また保存安定性・吐出安定性を確保しやすい。
【0055】
上記のポリマー粒子を構成する成分としては、例えばポリアクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリアクリロニトリルもしくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンもしくはそれらの共重合体、石油樹脂、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、ポリ酢酸ビニルもしくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニルもしくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドンもしくはその共重合体、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリブタジエンもしくはその共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、天然樹脂等が挙げられる。この中で、特に分子構造中に疎水性部分と親水性部分とを併せ持つものが好ましい。
【0056】
上記のようなポリマー粒子としては、公知の材料・方法で得られるものを用いることもできる。例えば、特公昭62−1426号公報、特開平3−56573号公報、特開平3−79678号公報、特開平3−160068号公報、特開平4−18462号公報等に記載のものを用いてもよい。また、市販品を用いることもでき、例えば、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0057】
上記のポリマー粒子は、以下に示す方法で得られ、そのいずれの方法でもよく、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。その方法としては、所望のポリマー粒子を構成する成分の単量体中に重合触媒(重合開始剤)と分散剤とを混合して重合(すなわち乳化重合)する方法、親水性部分を持つポリマーを水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を水中に混合した後に水溶性有機溶剤を蒸留等で除去することで粒子を得る方法、ポリマーを非水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を分散剤と共に水溶液中に混合して粒子を得る方法等が挙げられる。上記の方法は、用いるポリマー粒子の種類・特性に応じて適宜選択することができる。ポリマー粒子を微粒子状態に分散する際に用いることのできる分散剤としては、特に制限はないが、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリルリン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩等)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)を挙げることができ、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0058】
ポリマー粒子の平均粒子径は、液体組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm〜200nmの範囲であり、より好ましくは40nm〜100nmの範囲である。
【0059】
ポリマー粒子の含有量は、液体組成物全量に対して、固形分換算で好ましくは0.1重量%〜15質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜10質量%の範囲である。この範囲内であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても、上記液体組成物と後述する乾燥工程とを組み合わせることで、液体組成物を固化・定着させることができる。含有量が0.1質量%未満であると液体組成物の固化・定着の強度が弱くなり、記録媒体表面から剥離しやすくなる場合がある。含有量が15質量%を超えると、液体組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0060】
以上述べたポリマー粒子を構成する樹脂成分の最低成膜温度(以下、「MFT」とする。)は、室温以上(概ね30℃以上)であるものを少なくとも1種含んでいることが好ましい。MFTは、例えば、ヒーターと温度計を設けたアルミニウム板に当該ポリマー粒子のエマルジョンを薄く塗布し、目視により確認することができる。MFTが室温以上である成分を含むことにより、乾燥工程時の加熱により強固な樹脂皮膜が形成される効果が高い。そのため、印刷物の耐擦性がさらに良好となる。またインクジェット記録方式によるインクジェットヘッドのノズル先端でのインク詰まりが発生しにくい。一方、MFTが室温未満である成分のみからなるポリマー粒子を用いた場合、強固な樹脂被膜が形成されにくく印刷物の耐擦性が不良となる場合がある。さらにノズル先端で液体組成物の固化物が発生して詰まりやすくなり、吐出不良の原因となる。
【0061】
1.2.4 ワックス粒子
本発明における液体組成物は、ワックス粒子を含む。ワックス粒子を構成する成分としては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α−オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。この中で好ましいワックスの種類としては、ポリオレフィンワックス、特にポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスである。ワックス粒子としては市販品をそのまま利用することもでき、例えばノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、AQUACER593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0062】
ワックス粒子の平均粒子径は、液体組成物の保存安定性・吐出安定性を確保する点から、好ましくは5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは30nm〜200nmの範囲である。
【0063】
ワックス粒子の含有量は、液体組成物全量に対して、固形分換算で好ましくは0.1重量%〜10質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜5質量%の範囲である。この範囲内であることにより、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても、実用上十分な耐擦性を確保することができる。含有量が0.1質量%未満であると、摩擦抵抗を低減する効果が十分でなくなり、記録媒体表面から記録画像が剥離しやすくなる。含有量が10質量%を超えると、液体組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0064】
上述したポリマー粒子とワックス粒子を併用した場合に印刷物の耐擦性が良好となる理由はいまだ明確ではないが、以下のように推察される。
後述する乾燥工程において印刷画像上に塗布された液体組成物中のポリマー粒子は、熱により印刷画像表面を覆うように樹脂被膜を形成し強固に定着する。一方、ワックス粒子は、ポリマー粒子樹脂皮膜の表面にも存在しており、樹脂皮膜表面の摩擦抵抗を低減する特性を有する。これにより、外部からの擦れによって削れにくく、かつ記録媒体から剥がれにくい樹脂皮膜を形成することができるため、印刷物の耐擦性が向上する。
【0065】
本発明における液体組成物をインク組成物で形成された印刷画像に重ねて印刷する方法としては、メディアと記録画像の界面での剥離をより抑制するため、単に液体組成物をインク組成物で形成された印刷画像に重ねて印刷するよりも、液体組成物をインク組成物で形成された印刷画像よりも広い面積で印刷塗布することが好ましい。かかる構成により、ポリマー粒子により形成される樹脂被膜がインク組成物で形成された印刷画像を完全に覆うように形成される。また、本発明における液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類を含むことにより、インク非吸収性または低吸収性のフィルムメディアに対しても十分な親和性を有するため、ポリマー粒子により形成される樹脂被膜が印刷画像を完全に覆うように形成され、さらに強固に記録媒体に対して定着することにより、結果として、得られる記録画像は高い耐擦性を得ることができる。
【0066】
液体組成物が含有するポリマー粒子とワックス粒子の含有比率は、固形分換算でポリマー粒子:ワックス粒子=1:1〜5:1の範囲であることが好ましい。この範囲内であると、上述した機構が良好に働くため印刷物の耐擦性が良好となる。
【0067】
1.2.5 水
本発明における液体組成物は、水を含有する。水は主となる液媒体であり、後述する乾燥工程において蒸発飛散する成分である。
水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、液体組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0068】
1.2.6 その他好ましい構成材料
本発明における液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類、C4〜8の1,2−アルキルジオール類、ポリマー粒子、ワックス粒子、水を少なくとも含んでなる。この構成であれば、その液体組成物は記録媒体種の影響をあまり受けずに濡れ性・浸透速度を制御でき、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対しても塗布ムラの無い、透明性の高いオーバーコート層を得ることができるとともに、該記録媒体上のインク組成物により記録された印刷画像に優れた耐擦性を付与することが可能となる。また液体組成物の保存安定性が良好で、インクジェット記録方式による液体小滴の吐出安定性に優れている。それらの特性をさらに向上させる目的で、好ましくは以下に挙げる種々の材料をさらに加えることができる。
【0069】
1.2.6.1 ノニオン系界面活性剤
本発明における液体組成物は、好ましくはノニオン系界面活性剤を含む。ノニオン系界面活性剤は、記録媒体上で液体組成物を均一に拡げる作用がある。そのためこれを用いた場合、塗布ムラや曇りの無いオーバーコート層が得られるという効果を有する。このような効果を有するノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、フッ素系、シリコーン系、アセチレングリコール系等が挙げられる。この中でも特に上述した効果に優れ、また本発明の液体組成物に必須である前記グリコールエーテル類と前記C4〜8の1,2−アルキルジオール類との相溶性・相乗効果に優れるものとして、シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。
【0070】
1.2.6.1.1 シリコーン系界面活性剤
本発明における液体組成物は、好ましくはシリコーン系界面活性剤を含有する。シリコーン系界面活性剤は、記録媒体上で塗布ムラや曇りの無いオーバーコート層を得られるという作用が他のノニオン系界面活性剤と比較して優れている。また、本発明における液体組成物に必須である前記グリコールエーテル類と前記1,2−アルキルジオール類との相溶性・特性の相乗効果に優れる。シリコーン系界面活性剤の含有量は、液体組成物全量に対して、好ましくは1.5質量%以下の範囲である。シリコーン系界面活性剤の含有量が1.5質量%を超えると、液体組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0071】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0072】
1.2.6.1.2 アセチレングリコール系界面活性剤
本発明における液体組成物は、好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤を含有する。アセチレングリコール系界面活性剤は、他のノニオン系界面活性剤と比較して、表面張力及び界面張力を適正に保つ能力に優れており、かつ起泡性がほとんどないという特性を有する。これにより、アセチレングリコール系界面活性剤を含有する液体組成物は、表面張力及びヘッドノズル面等のプリンタ部材との界面張力を適正に保つことができるため、これをインクジェット記録方式に適用した場合、吐出安定性を高めることができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、前記グリコールエーテル類と前記1,2−アルキルジオール類と同様に記録媒体に対して良好な濡れ性・浸透剤として作用するため、これを含んだ液体組成物によるオーバーコート層は塗布ムラや曇りの少ない高精細なものとなる。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、液体組成物全量に対して、好ましくは1.0質量%以下である。アセチレングリコール系界面活性剤の含有量が1.0質量%を超えると、液体組成物の保存安定性・吐出安定性が確保できない場合がある。
【0073】
アセチレングリコール系界面活性剤として、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0074】
1.2.6.2 ピロリドン誘導体
本発明の液体組成物は、好ましくはピロリドン誘導体を含有する。ピロリドン誘導体は、上述したポリマー粒子等の良好な溶解剤または軟化剤として作用する効果を持つ。またピロリドン誘導体は、液体組成物の乾燥時にポリマー粒子による皮膜形成を促進して、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上での液体組成物の固化・定着を促進する作用を有する。ピロリドン誘導体の含有量は、液体組成物全量に対して、好ましくは10質量%以下である。ピロリドン誘導体の含有量が10質量%を超えると、後述する乾燥工程を経た場合でもピロリドン誘導体の蒸発飛散が不充分となって結果的に印刷物の乾燥が不充分となる、また臭気の点で問題が出る場合がある。
【0075】
ピロリドン誘導体として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等の低分子化合物が挙げられる。この中で特に、液体組成物の保存性確保の点、ポリマー粒子の皮膜形成促進の点、及び臭気が比較的少ない点で、2−ピロリドンが好ましい。
【0076】
1.2.6.3 多価アルコール類
本発明の液体組成物は、好ましくは多価アルコール類を含有する。多価アルコール類は、インクジェットヘッドのノズル面での液体組成物の乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を防止する作用を有するものであって、蒸気圧の高いものであることが好ましい。その理由は、後述する乾燥工程において、水分とともに蒸発飛散することが望ましいからである。多価アルコール類の含有量は、液体組成物全量に対して20質量%以下の範囲であることが好ましい。多価アルコール類がこの範囲で添加されることにより、上述の効果が発揮される。20質量%を超えた場合、後述する乾燥工程を経た場合でも多価アルコール類の蒸発飛散が不充分となって結果的に印刷物の乾燥が不充分となる、また臭気の点で問題が出る場合がある。
【0077】
多価アルコール類としては、炭素数が4〜8の1,2−アルキレングリコール類以外の、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、蒸気圧が高く、印刷後の水性インク組成物の乾燥性を阻害しない観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールであることが好ましい。
【0078】
1.2.6.4 ピロリドン樹脂誘導体
本発明の液体組成物は、好ましくはピロリドン樹脂誘導体を含むことができる。本発明におけるピロリドン樹脂誘導体は水溶性を示すものから選ばれることが望ましい。ピロリドン樹脂誘導体は前述のピロリドン誘導体とは機能が異なり、これを含んだ液体組成物のフィルム系メディアへの濡れ性を向上させ、引いては耐擦性を向上させる効果がある。また、このような記録媒体としてポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるフィルム系であるインク非吸収性または低吸収性のものを用いた場合、液体組成物の小滴を付着させた際の濡れ拡がりが均一となって、ムラやはじきの少ない、均一なオーバーコート層が得られるという特性を持つ。その理由は定かではないが、推察するに、ピロリドン樹脂誘導体の分子骨格構造に含まれるピロリドン構造がフィルム系記録媒体に対して親和性が高いため、それを含む液体組成物にもフィルムに対する濡れ性が向上するものと思われる。
【0079】
そのようなピロリドン樹脂誘導体として試薬品や市販品をそのまま用いることができ、具体的には試薬品としてポリビニルピロリドンK−15、ポリビニルピロリドンK−30、ポリビニルピロリドンK−60、ポリビニルピロリドンK−90、ポリ(1−ビニルピロリドン−co−酢酸ビニル)コポリマー(以上全て東京化成工業株式会社製)、N−ビニルピロリドン/スチレン共重合体、N−ビニルピロリドン/メタクリル酸ジエチルアミノメチル共重合体(以上全て純正化学株式会社製)等が挙げられる。また市販品として詳しくは、ルビスコースK17(ポリビニルピロリドン)、ルビスコースK30(ポリビニルピロリドン)、ルビスコースK90(ポリビニルピロリドン)、ルビスコースVA73E(酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体)、ルビスコースVA64P(酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体)、ルビスコースVA55I(酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体)、ルビスコースVA37E(酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体)、ルビスコースVA37I(酢酸ビニル−ビニルピロリドン共重合体)、ルビスコースPlus(ポリビニルカプロラクタム)、ルビセットClear(<ビニルピロリドン/メタクリルアミド/ビニルイミダゾール>コポリマー)(以上全てBASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0080】
以上述べたピロリドン樹脂誘導体は、本発明の液体組成物に所望の特性を与えられるのに必要なだけ加えることができるが、好ましい添加量は液体組成物全量に対して10質量%以下の範囲である。この範囲内であれば、上述した特性を液体組成物に与えることができ、液体組成物の粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすい。一方、添加量が多いと、液体組成物によるオーバーコート層の乾燥性が低下する。
【0081】
1.2.6.5 その他の添加成分
本発明における液体組成物は、以上に述べた好ましい構成材料の他に、さらにその特性を向上させる点で、浸透溶剤、保湿剤、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、キレート化剤等を添加することができる。
【0082】
浸透溶剤は、記録媒体に対する液体組成物の濡れ性をさらに向上させて均一に塗らす作用を有する。これにより、形成されたオーバーコート層の塗布ムラをさらに低減させることができる。浸透溶剤としては、例えば、、上述したデービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲外のグリコールエーテル類、一価アルコール類等が挙げられる。
【0083】
グリコールエーテル類としては、例えば、、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0084】
一価アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ターシャルブタノール、イソブタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、ターシャルペンタノール等の水可溶性のものが挙げられる。
【0085】
浸透溶剤の含有量は、液体組成物全量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。
【0086】
保湿剤は、液体組成物中の水の蒸発を抑制して液体組成物中の樹脂成分等の固形分の凝集を防止する作用を有する。保湿剤としては、例えば、グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等、尿素、2−イミダゾリジノン、チオ尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0087】
保湿剤の含有量は、液体組成物全量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。保湿剤の含有量が10質量%を超えると、液体組成物の乾燥速度が遅くなりすぎることがあり、またポリマー粒子による皮膜形成が阻害されることがある。そのため、記録媒体上での液体組成物の固化・定着が阻害されて印刷物の印刷面が剥がれる場合がある。
【0088】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0089】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0090】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0091】
1.3 インク組成物および液体組成物の物性
インク組成物および液体組成物のpHは、好ましくは中性またはアルカリ性であり、より好ましくは7.0〜10.0の範囲内である。pHが酸性であると、インク組成物および液体組成物の保存安定性及び分散安定性が損なわれることがある。また、インクジェット記録装置内のインク流路に用いられている金属部品の腐食等の不具合が発生しやすくなる。pHは、上述したpH調整剤を用いて中性またはアルカリ性に調整することができる。
【0092】
インク組成物および液体組成物の粘度は、20℃において1.5mPa・s〜15mPa・sの範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、下述する第1および第2印刷工程においてインクおよび液体組成物の吐出安定性を確保することができる。
【0093】
インク組成物および液体組成物の表面張力は、25℃において15mN/m〜40mN/mであることが好ましく、20mN/m〜35mN/mであることがより好ましい。この範囲内であれば、下述する第1および第2印刷工程においてインクおよび液体組成物の吐出安定性を確保することができ、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体に対する適正な濡れ性を確保することができる。
【0094】
1.4 インク組成物および液体組成物の製造方法
本発明のインクジェット記録方式の印刷方法に用いる、インク組成物、及び液体組成物は、上述した材料を任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。ここで、着色剤は、あらかじめ水性媒体中に均一に分散させた分散液の状態に調製した上で混合した方が、取り扱いの簡便さ等から好ましい。
【0095】
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0096】
2. 各工程の詳細な説明
次に、本発明による印刷方法におけるインクジェット記録方式の印刷方法の各工程について詳細に説明する。
本発明による印刷方法における印刷工程は、インクジェット記録方式で、記録媒体上に上述したインク組成物の液滴を吐出して印刷画像を形成する第1印刷工程と、前記インク組成物で印刷された印刷画像に対して、上述した液体組成物を重ねて印刷する第2印刷工程と、を有する。
【0097】
2.1 印刷工程
2.1.1 インク組成物の印刷工程
本発明による印刷方法におけるインク組成物の印刷工程(第1印刷工程)は、インクジェット記録方式で、記録媒体上に上述したインク組成物の液滴を吐出して印刷画像を形成する工程である。
【0098】
インクジェット記録方式は、上述したインク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して該液滴を記録媒体に付着させる方式であれば、いかなる方法も使用することができる。インクジェット記録方式として、例えば以下の4つの方式が挙げられる。
【0099】
第1の方式は、静電吸引方式と呼ばれるもので、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0100】
第2の方式は、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0101】
第3の方式は、圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0102】
第4の方式は、熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0103】
記録媒体としては、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体を用いる。インク非吸収性の記録媒体として、例えば、インクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク低吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0104】
ここで、本明細書において「インク非吸収性及び低吸収性の記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN
TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0105】
2.1.2 液体組成物の印刷工程
本発明による印刷方法における液体組成物の印刷工程(第2印刷工程)は、インク組成物の印刷工程で印刷された印刷画像上に、上述した液体組成物の液滴を吐出して重ねて印刷する工程である。インク組成物を印刷した後に、液体組成物を印刷することにより、印刷面の表面側に液体組成物によるオーバーコート層が被覆するように形成されるため、印刷面の耐擦性を向上することができる。液体組成物のインクジェット記録方式での記録媒体への吐出方法も、上述のインク組成物の場合と同様に行なうことができる。
【0106】
しかも、インクジェット記録方法を用いて選択的に液体組成物を吐出することで、印刷画像上に効果的に液体組成物を重ねて付着させることができ、液体組成物の消費量を必要最小限に抑えることができる。また、紙面全体に大量の樹脂インクを付着させてしまう場合と比較して、乾燥工程に必要となるエネルギー量も最小限に抑えられる他、乾燥後に観察されるカールの発生も抑制できる。
【0107】
また、記録媒体に液体組成物を記録する方法は、マルチパスでも1パスでも良いが、高速印刷の観点から、1パス又は2パスで記録することが好ましい。ここで1パスとは、記録ヘッドの1回の走査で、その走査領域に形成すべきドット全てを記録する記録方法のことである。2パスとは、記録ヘッド走査領域に記録するドットを、2回の記録ヘッド走査によって記録する方法である。さらに、1パス記録方法には、記録ヘッドを主走査方向に1回走査してドットを記録した後、副走査方向に記録媒体を記録領域分だけ移動させることを繰り返すことで、画像全体を形成する方法と、記録ヘッドは固定し、記録媒体を走査することで画像を形成する方法などがあるが、いずれも好適に用いることができる。1パスまたは2パスで記録することで高速な印刷が可能となり、記録物の生産性が高まる。
【0108】
2.2 乾燥工程
本発明による印刷方法における乾燥工程とは、上記の「第1印刷工程」と「第2印刷工程」の際に、記録媒体上に吐出されたインク組成物からなる印刷画像が主成分として含有する水成分を蒸発させて印刷画像を固定するための、および、記録媒体上に吐出された液体組成物からなるオーバーコート層が主成分として含有する水成分を蒸発させてオーバーコート層を固定するための「印刷工程時の乾燥工程」と、上記の「第1印刷工程」および「第2印刷工程」の各印刷工程の後に、記録媒体上の印刷画像あるいはオーバーコート層が含有する溶媒成分を完全に乾燥させ、残った固形分を記録媒体上に定着させる「印刷工程後の乾燥工程」からなる。
本発明による印刷方法においては、前記第1印刷工程の印刷時、前記第1印刷工程の印刷後、前記第2印刷工程の印刷時、および前記第2印刷工程の印刷後の少なくともいずれかに前記乾燥工程を行なえばよい。
【0109】
「印刷工程時の乾燥工程」を組み込むことにより、記録媒体上に吐出されたインク組成物や液体組成物に含まれる水成分を蒸発させ、増粘させることで、記録媒体上で印刷画像が流動してにじむことあるいはオーバーコート層のムラを防止し、印刷画像およびオーバーコート層を固定することができる。
【0110】
すなわち、本発明者らが実験で確認したところ、記録媒体上の印刷画像を例えば40℃に加熱することで、主に印刷画像中の水が速やかに蒸発することが確認された。このような状態では、印刷画像中の他の溶剤成分は少なからず残留しているが、印刷画像のにじみが進行しない程度には増粘し、流動性を失っており、インク吸収層を有しないプラスチックフィルムのようなインク非吸収性または低吸収性の記録媒体上においても、滲みが少ない高画質な画像を確保することができる。また、このことはオーバーコート層の形成過程においても同様に確認された。これらの場合の加熱温度は、インク組成物及び液体組成物中に存在する水成分が蒸発することができればよく、特に制限はないが、40℃以上であればその効果が得られ、40℃〜50℃程度が好ましい。温度が60℃を超えてくると、インクジェットヘッドのノズル近傍のインクが熱の影響を受け、インクや液体組成物中の固形分が濃縮され、インクジェットヘッドのノズル詰まり等の不具合が頻発するようになる。
【0111】
「印刷工程後の乾燥工程」は、インク組成物や液体組成物中に存在する溶媒成分を完全に蒸発飛散させ、インク組成物や液体組成物に含まれるポリマー粒子等の樹脂成分の融着を促し、優れた皮膜を形成することで、記録物の耐擦性を確保する工程である。加熱温度は、インク組成物及び液体組成物中に存在する溶媒成分が蒸発し、かつ樹脂剤の皮膜を形成することができれば特に制限はないが、50℃以上であればその効果が得られ、50℃〜80℃程度が好ましく、より好ましくは、50℃〜60℃程度である。温度が80℃を超えてくると、記録媒体の種類によっては変形等を生じ搬送に不具合を生じたりする場合がある。「印刷工程後の乾燥工程」はインクジェットヘッドに対して、熱による影響を与えないように実施することが好ましく、例えば、十分な距離を確保して実施すれば良い。
第1印刷工程および第2印刷工程のそれぞれにおいて、「印刷工程後の乾燥工程」は「印刷工程時の乾燥工程」よりも高い温度で行なわれることが望ましい。
「印刷工程時の乾燥工程」は「第1印刷工程」および「第2印刷工程」のそれぞれの印刷時に実施されることが好ましいが、「印刷工程後の乾燥工程」は、「第1印刷工程」と「第2印刷工程」の両印刷工程が終了した後にまとめて実施してもよい。それは、前述のように、「印刷工程時の乾燥工程」を実施することでインク組成物中の主溶媒である水成分を蒸発させ、増粘させている為、記録媒体上の印刷画像は流動性を失っており、「第1印刷工程」に続いて「第2印刷工程」を実施しても、記録媒体上で印刷画像がにじむことがないためである。
【0112】
乾燥工程における乾燥方法は、印刷画像中あるいはオーバーコート層中に存在する液媒体の蒸発飛散を促進させる方法であれば特に限定されない。記録媒体に熱を加える方法や、記録媒体上の印刷画像あるいはオーバーコート層に風を吹きつける方法、さらにそれらを組み合わせる方法等が挙げられる。具体的には、「印刷工程時の乾燥工程」では記録媒体に熱を加えながら、記録媒体上の印刷画像あるいはオーバーコート層に風を吹きつける方法が好ましく、「印刷工程後の乾燥工程」では、記録媒体上の印刷画像またはオーバーコート層に熱風を吹きつける方法が好ましい。さらに、好ましい乾燥方法として、輻射加熱、電導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥等を挙げることができる。
【実施例】
【0113】
3.実施例
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0114】
3.1 液体組成物の調製
液体組成物に添加するポリマー粒子は、ポリマー粒子を分散粒子とする分散液(エマルジョン)として調製した後、表2に示す材料組成を混合して、水性液体組成物とした。
まず、ポリマー粒子の各分散液の調整方法を以下に示す。尚、膜化温度(「MFT」)は、ヒーターと温度計を設けたアルミニウム板にエマルジョンを薄く塗布し、目視により確認した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による平均粒子径の値である。
【0115】
3.1.1 ポリマー粒子の調整
3.1.1.1 ポリマー粒子分散液1の調製
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水500g、ラウリル硫酸ナトリウム3gに、アクリルアミド20g、スチレン455g、2−エチルへキシルアクリレート485g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分30重量%、pH8のポリマー粒子分散液1(MFT:50℃、粒子径:50nm)を得た。
【0116】
3.1.1.2 ポリマー粒子分散液2の調製
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2.5gに、アクリルアミド20g、スチレン755g、ブチルアクリレート295g、及びメタクリル酸30gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分30重量%、pH8のポリマー粒子分散液2(MFT:80℃、粒子径:110nm)を得た。
【0117】
3.1.1.3 ポリマー粒子分散液3の調製
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gに、アクリルアミド20g、スチレン245g、メチルメタクリレート265g、ブチルアクリレート500g、及びメタクリル酸30gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8のポリマー粒子分散液3(MFT:30℃、粒子径:50nm)を得た。
【0118】
3.1.1.4 ポリマー粒子分散液4の調製
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gに、アクリルアミド20g、スチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8のポリマー粒子分散液4(MFT:40℃、粒子径:90nm)を得た。
【0119】
3.1.1.5 ポリマー粒子分散液5の調製
ポリマー粒子分散液5として、ジョンクリル538J(商品名;BASFジャパン株式会社製,MFT:50℃、粒子径:100nm、固形分45%)を使用した。
【0120】
3.1.2 液体組成物1〜10の調製
上記の「3.1.1.1〜5 ポリマー粒子分散液の調製」で調製したポリマー粒子分散液1〜5を用いて、表2に示す材料組成にて、液体組成物1〜10の10種類の水性液体組成物を調製した。各水性液体組成物は、表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表2中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水は液体組成物全量が100質量%となるように添加した。
【0121】
3.2 インク組成物の調製
3.2.1 顔料分散液の調製
本実施例で使用するインクセット11は、着色剤として水不溶性の顔料を使用した。顔料を水性インク組成物に添加する際には、あらかじめ顔料を樹脂分散剤で分散させた樹脂分散顔料を用いた。
【0122】
顔料分散液は、以下のようにして調製した。まず、30%アンモニア水溶液(中和剤)1.5質量部を溶解させたイオン交換水76質量部に、樹脂分散剤としてアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:25,000、酸価:180)7.5質量部を加えて溶解させた。そこに、下記の顔料15質量部を加えてジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散処理を行なった。その後、遠心分離機による遠心濾過を行って粗大粒子やゴミ等の不純物を除去し、顔料濃度が15質量%となるように調整した。以下に、顔料分散液の製造に使用した顔料種を示す。
【0123】
C.I.ピグメントブラック7(ブラック顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントイエロー74(イエロー顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントレッド122(マゼンタ顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントブルー15:3(シアン顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントオレンジ43(オレンジ顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントグリーン36(グリーン顔料分散液に使用)
【0124】
3.2.2 水性インクセット11の調製
上記の「3.2.1 顔料分散液の調製」で調製した顔料分散液を用いて、表2に示す材料組成にて、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン、オレンジ、グリーンの6色の水性インク組成物を調製してインクセット11とした。各インク組成物は、表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表2中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインク全量が100質量%となるように添加した。
【0125】
3.2.3 表面処理顔料分散液の調製
本実施例で使用するインクセット12は、顔料を表面処理することで水中に分散可能とした表面処理顔料を用いた。水性インク組成物に添加する際に、その表面処理顔料を水に分散させた顔料分散液を用いた。そこで、以下に示す評価に先立ち、使用する顔料分散液を製造した。顔料分散液は、下記の顔料15質量部をスルホラン250質量部と混合し、ジルコニアビーズによるボールミルで1時間分散処理後、得られた顔料ペーストと溶剤の混合液を減圧しながら、120℃で加熱して、系内に含まれる水分を留去した。続いて系内を150℃まで加熱後、三酸化硫黄25質量部を加えて6時間反応させ、多量のスルホランで数回洗浄した後、水中に注いで分散処理を行った。その後、遠心分離機による遠心濾過を行って粗大粒子やゴミ等の不純物を除去し、顔料濃度が15質量%となるように調整した。以下に、顔料分散液の製造に使用した顔料種を示す。
【0126】
C.I.ピグメントブラック7(ブラック顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントイエロー74(イエロー顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントレッド122(マゼンタ顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントブルー15:3(シアン顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントオレンジ43(オレンジ顔料分散液に使用)
C.I.ピグメントグリーン36(グリーン顔料分散液に使用)
【0127】
3.2.4 水性インクセット12の調製
上記の「3.2.3 表面処理顔料分散液の調製」で調製した表面処理顔料分散液を用いて、表2に示す材料組成にて、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン、オレンジ、グリーンの6色の水性インク組成物を調製してインクセット12とした。各インク組成物は、表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表2中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインク全量が100質量%となるように添加した。
【0128】
3.2.5 分散染料液の調製
本実施例で使用するインクセット13は、着色剤として水不溶性の分散染料を使用し、分散染料を水性インク組成物に添加する際には、分散染料液を用いた。
分散染料液は、以下のようにして調製した。まず、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物20質量部とリグニンスルホン酸ナトリウム5質量部とをイオン交換水57質量部に添加撹拌した後、プロピレングリコール10質量部と分散染料8質量部を加えてジルコニアビーズによるボールミルにて1時間分散処理を行なった。その後、濾過を行って粗大粒子やゴミ等の不純物を除去し、水酸化ナトリウムとイオン交換水を加え、pHが7、染料濃度が15質量%となるように調整した。以下に、分散染料液の製造に使用した分散染料の種類を示す。
【0129】
C.I.ディスパースブラック39(ブラック分散染料液に使用)
C.I.ディスパースイエロー64(イエロー分散染料液に使用)
C.I.ディスパースレッド60(マゼンタ分散染料液に使用)
C.I.ディスパーズブルー79:1(シアン分散染料液に使用)
C.I.ディスパーズオレンジ8(オレンジ分散染料液に使用)
C.I.ディスパーズグリーン9(グリーン分散染料液に使用)
【0130】
3.2.6 水性インクセット13の調製
上記の「3.2.5 分散染料液の調製」で調製した分散染料液を用いて、表2に示す材料組成にて、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン、オレンジ、グリーンの6色の水性インク組成物を調製してインクセット13とした。各インク組成物は、表2に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間撹拌混合した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表2中の数値は、全て質量%を示し、イオン交換水はインク全量が100質量%となるように添加した。
【0131】
【表2】

【0132】
表2において、シリコーン系界面活性剤として使用した「BYK−348」は商品名であり、ビックケミー・ジャパン株式会社製である。また、アセチレングリコール系界面活性剤として使用した「サーフィノールDF110D」、及び「オルフィンE1010」は商品名であり、日信化学工業株式会社製である。ピロリドン樹脂誘導体として使用した「ポリビニルピロリドンK−15」は商品名であり、東京化成工業株式会社製である。ポリエチレンワックスエマルジョンは「AQUACER515」(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を使用した。また、各種水性インク組成物に添加したスチレン−アクリル酸共重合体エマルジョン分散液(Tg:49℃、46%分散液)は、「ジョンクリル537J」(商品名;BASFジャパン株式会社製)を使用した。
【0133】
3.3 水性液体組成物の評価
3.3.1 耐擦性評価
記録媒体として、インク非吸収性のポリエチレンテレフタレートフィルムであるコールドラミネートフィルムPG−50L(商品名、ラミーコーポレーション社製)と、インク非吸収性のポリプロピレンフィルムであるコールドラミネートフィルムPPM−25(商品名、ラミーコーポレーション社製)、及びエルラウンドOPP60W・PA−T1E・8K(商品名、リンテック社製)を使用した。
【0134】
プリンタとして、圧電素子によりインク滴を噴射・記録させる方式のインクジェットプリンタであるPX−G930(商品名、セイコーエプソン株式会社製、ノズル列:8列(8種類のインクを同時に印刷可)、ノズル解像度:180dpi)を使用した。本実施例では、さらに、プリンタの紙案内部に温度が可変できるヒーターを取り付け、印刷中の記録媒体の裏面から加熱できるようにした。なお、プリンタのヒーター設定は、印刷面の温度が40℃となるように調整し、評価は室温(25℃)に調整された実験室で行った。
【0135】
評価は以下の手順で実施した。
まず、インクジェットプリンタPX−G930の8列あるノズル列の6列に、インクセット11〜13のいずれか1セット(6色)を充填し、ノズル列の残りの2列に液体組成物1〜10のいずれか1種類を充填した。
紙案内部のヒーターの設定を40℃にセットし、紙案内部の温度が安定するのを確認してから、まず、6列のノズル列に充填してあるインクセットのみを使用して、横360dpi、縦360dpiの解像度の塗り潰しパターンを記録媒体に印刷した。
【0136】
続いて、プリンタから排紙された記録媒体を再度インクジェットプリンタにセットし、記録媒体の印刷面に対して、ノズル列の残りの2列を使用して、今度は記録媒体全面の塗り潰しパターン(インクセットにより印刷された塗り潰しパターンを覆うように)を液体組成物のみでを印刷し、さらに、排紙された印刷直後の記録媒体の印刷面に対して、25℃(室温)、40℃、60℃、80℃、100℃のいずれかの温度の風を、風速が6m/秒程度となるように送風し、乾燥させた。この時の送風時間は1分間とした。
その後、室温(25℃)条件下の実験室にて5時間放置した印刷物の印刷面を学振型摩擦堅牢度試験機AB−301(商品名、テスター産業株式会社製)を用いて、荷重500g下・綿布にて10回擦ったときの印刷面の剥がれ状態や綿布へのインク移り状態を確認することにより、耐擦性を評価した。耐擦性の評価基準は、以下のとおりである。
【0137】
A:10回擦ってもインクの剥がれ・綿布へのインク移りがない。
B:10回擦った後インクの剥がれはないが、綿布へのインク移りがかすかにある。
C:10回擦った後インクの剥がれはないが、綿布へのインク移り少しあり。
D:10回擦った後インクの剥がれと、綿布へのインク移りあり。
E:1〜9回擦った後に、インクの剥がれと、綿布へのインク移りあり。
【0138】
表3にインク非吸収性のポリエチレンテレフタレートフィルムであるコールドラミネートフィルムPG−50L(商品名、ラミーコーポレーション社製)に印刷した場合の耐擦性評価結果を、表4には同じく非吸収性のポリプロピレンフィルムであるコールドラミネートフィルムPPM−25(商品名、ラミーコーポレーション社製)、表5には同じく非吸収性のポリプロピレンフィルムであるエルラウンドOPP60W・PA−T1E・8K(商品名、リンテック社製)に印刷した場合の耐擦性評価結果を示す。
【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
【表5】

【0142】
表3〜表5、に示したように、本発明の水性インク組成物と液体組成物1〜5の組み合わせによるインクジェット記録方式の印刷方法では、耐擦性の良好な印刷物が得られた。一方、比較例の構成である水性インク組成物と液体組成物6〜10の印刷方法、もしくは液体組成物を使用しない場合では、耐擦性に劣る印刷物が得られた。
【0143】
なお、乾燥工程として、記録媒体の印刷面に対して100℃の温度の風を送風した場合、「コールドラミネートフィルムPG−50L」と、「コールドラミネートフィルムPPM−25」、「エルラウンドOPP60W・PA−T1E・8K」のいずれのメディアも熱により歪んで変形した。また80℃の温度の風を送風した場合、「エルラウンドOPP60C・PA−T1E・8K」のみが熱により歪んで変形した。
【0144】
熱により歪んで変形したメディアは学振型摩擦堅牢度試験機AB−301で正しい耐擦性が評価できなかった。従って、表3〜表5には温風設定「100℃」の結果は表記せず、表5の温風設定「80℃」の結果は「−」と記載した。
【0145】
特に「エルラウンドOPP60W・PA−T1E・8K」は、表面基材であるポリプロピレンフィルムと、粘着材と、剥離紙との三層構造のラベル用メディアであることから、ポリプロピレンフィルムと剥離紙とで熱膨張率に差があり、乾燥時の熱で素材間に隙間が生じやすく、他のメディアよりも低い温度(80℃)で変形したものと推定される。
【0146】
3.3.1 液体組成物の保存安定性
表2に示した液体組成物1〜10を、各々サンプルビン内に密封して60℃環境下にて2週間放置した。放置前後での粘度変化、及び成分の分離・沈降・凝集状況を観察することにより、液体組成物の保存安定性を評価した。評価結果を表5に示す。また評価基準は以下の通りである。
【0147】
<粘度変化>
A:調製直後の粘度と比較して変化率が±5%未満
B:調製直後の粘度と比較して変化率が±5%以上±10%未満
C:調製直後の粘度と比較して変化率が±10%以上±20%未満
D:調製直後の粘度と比較して変化率が±20%以上
【0148】
<成分の分離・沈降・凝集>
A:成分の分離・沈降・凝集が無い
B:成分の分離・沈降・凝集のうちのいずれかがわずかに見られる
C:成分の分離・沈降・凝集のうちのいずれかが明確に見られる
D:成分の分離・沈降・凝集のうちのいずれかが著しい
【0149】
【表6】

【0150】
表6に示したように、本発明の液体組成物1〜5では、粘度変化及び成分の分離・沈降・凝集において問題なく、保存安定性に優れていた。それに比較して、比較例の液体組成物6〜10においては、粘度変化あるいは成分の分離・沈降・凝集のいずれかあるいは全てにおいて、劣っていた。
【0151】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク非吸収性または低吸収性の記録媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する印刷方法であって、
(1)記録媒体に対して着色剤を含有するインク組成物で印刷する第1印刷工程と、
(2)前記インク組成物で印刷された印刷画像に対して、着色剤を含まず少なくともポリマー粒子を含む液体組成物を重ねて印刷する第2印刷工程と、
(3)前記第1印刷工程の印刷時、前記第1印刷工程の印刷後、前記第2印刷工程の印刷時、および前記第2印刷工程の印刷後の少なくともいずれかにおいて、前記記録媒体に印刷された印刷画像を乾燥する乾燥工程とを含み、且つ、
(4)前記インク組成物は、前記着色剤として水不溶性の着色剤と、界面活性剤と、水とを少なくとも含み、
(5)前記液体組成物は、デービス法により算出されたHLB値が4.2〜8.0の範囲内であるグリコールエーテル類と、炭素数が4〜8の1,2−アルキルジオール類と、ポリマー粒子と、ワックス粒子と、水とを少なくとも含むことを特徴とする、インクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項2】
前記グリコールエーテル類のアルキル基が分岐構造を持つことを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項3】
前記グリコールエーテル類が液体組成物の全量に対して0.1質量%〜6質量%の範囲で含まれていることを特徴とする、請求項1乃至2に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項4】
前記1,2−アルキルジオール類が前記グリコールエーテル類に対して質量比で0.5倍〜5倍の範囲で含まれていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項5】
前記1,2−アルキルジオール類が液体組成物の全量に対して0.5質量%〜20質量%の範囲で含まれていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項6】
前記グリコールエーテル類のアルキル基が2−エチルヘキシル基であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項7】
前記液体組成物が、さらにピロリドン誘導体を含んでいることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項8】
前記液体組成物が、さらにピロリドン樹脂誘導体を含んでいることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項9】
前記乾燥工程が加熱による乾燥工程であって、且つ、第1印刷工程および第2印刷工程のそれぞれにおいて、印刷後の加熱温度が印刷中の加熱温度より高いことを特徴とする、請求項1乃至請求項8の何れか一項にインクジェット記録方式の印刷方法。

【公開番号】特開2011−194826(P2011−194826A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66568(P2010−66568)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】