説明

インクジェット記録方法

【課題】被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対して水性インクで特に50%以上の高Dutyで印刷した際のインクの凝集や混色ブリーディングを改善し、速乾性を向上させたインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、水性インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行う記録方法であって、前記水性インク組成物として、着色剤、0.1重量%〜1.5重量%のシリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ピロリドン誘導体、熱可塑性樹脂、及び水を少なくとも含有する水性インク組成物を用い、被記録面に付着させた前記水性インク組成物を40℃以上に加熱するインクジェット記録方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体(いわゆるノンコートプラスチックメディア等)に対して水性インクで特に50%以上の高Dutyで印刷した際の画質等の効果を改善させたインクジェット記録方法、詳しくは、印刷物のインクの凝集ムラや混色ブリーディングを改善し、速乾性を向上させたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対する印刷物の画質等の効果を改善させる目的で、種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特開2004−114691号公報では、良好な耐水堅牢性、耐光堅牢性、耐摩耗性、未処理のビニル系誘導体などの非吸収性基材に対する良好な接着性を提供するインクジェットインクの提供を目的として、少なくとも1種のハロゲン化ビニルモノマーを含有しているポリマーラテックス等を含む水性インクジェットインク組成物を含んでなるインクジェットインク組成物を使用して、加熱工程を伴って、インクジェット記録要素上に印刷する工程等を含むインクジェット印刷方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、特開2004−176057号公報では、疎水性表面上の印刷に適した水性インクジェットインク組成物の提供を目的として、−40℃から150℃のガラス転移温度(Tg)を有する水性エマルジョンポリマー;顔料;および水溶性表面剤を含む、疎水性表面上の印刷に適した水性インクジェットインク組成物が提案されている(特許文献2)。 かかるインク組成物を用いた際の付着性および画像品質におけるさらなる利点は、典型的には、画像滴が表面上に噴射される前に表面が予熱される場合に生じる。
【0005】
また、特開2004−250659号公報では、熱硬化性樹脂を使用したインクをメディアに印刷する方法が開示されている(特許文献3)。
【0006】
また、特開2006−22328号公報では、a)i)水性ビヒクル;ii)自己分散顔料;iii)シリコーン含有界面活性剤;iv)−40℃〜150℃のガラス転移温度(Tg)を有するポリマーを含む水性インクジェットインク組成物を疎水性表面上に噴射する工程、およびb)水性インクジェットインク組成物を乾燥させる工程、を含む、疎水性基体上に画像を印刷する方法において、表面および/またはその上に表された画像を乾燥工程前に加熱する工程をさらに含む方法が開示されている(特許文献4)。
【0007】
しかし、これら特許文献1〜4に開示の技術では、印字画像の画質が改善されないという課題がある。
【0008】
さらに、特開平10−279871号公報では、インク滴の誤った方向への噴射とノズル故障が低減され、高解像度、高速度において高印刷品質を与えるインク組成物とその印刷方法の提供を目的として、1,2−アルキルジオール、ポリオルガノシロキサン湿潤剤、及び2−ピロリドンを含むインク組成物が開示されている(特許文献5)。しかし、このインク組成物では、インク吸収層を持たないプラスチックメディアには対応していない。
【特許文献1】特開2004−114691号公報
【特許文献2】特開2004−176057号公報
【特許文献3】特開2004−250659号公報
【特許文献4】特開2006−22328号公報
【特許文献5】特開平10−279871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対して水性インクで特に50%以上の高Dutyで印刷した際のインクの凝集ムラや混色ブリーディングを改善し、速乾性を向上させたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、下記発明を提供することにより、前記目的を達成したものである。
1.被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、水性インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行う記録方法であって、
前記水性インク組成物として、着色剤、0.1重量%〜1.5重量%のシリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ピロリドン誘導体、熱可塑性樹脂、及び水を少なくとも含有する水性インク組成物を用い、
被記録面に付着させた前記水性インク組成物を40℃以上に加熱するインクジェット記録方法。
【0011】
2.前記シリコン系界面活性剤がポリシロキサン系化合物であり、前記アセチレングリコール系界面活性剤が3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールであり、かつ、前記ピロリドン誘導体がN−メチルピロリドンである、前記1記載のインクジェット記録方法。
【0012】
3.前記水性インク組成物における、前記シリコン系界面活性剤と前記アセチレングリコール系界面活性剤との添加量の重量比(前者:後者)が、1:100〜15:10である、前記1又は2記載のインクジェット記録方法。
【0013】
4.前記水性インク組成物における、前記アセチレングリコール系界面活性剤と前記熱可塑性樹脂との添加量の重量比(前者:後者)が、1:3〜5:3である、前記1〜3の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【0014】
5.前記水性インク組成物における、前記ピロリドン誘導体の添加量が4.0重量%〜25.0重量%である、前記1〜4の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【0015】
6.前記着色剤が、顔料であって、顔料が水性インク組成物中に分散されてなる、前記1〜5の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【0016】
7.前記水性インク組成物が低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる、前記1〜6の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【0017】
8.前記低表面張力有機溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、または、トリエチレングリコールモノブチルエーテルである、前記7に記載のインクジェット記録方法。
【0018】
9.前記水性インク組成物が湿潤剤をさらに含んでなる、前記1〜8のいずれかに記載に記載のインクジェット記録方法。
【0019】
10.前記加熱処理を、ヒーター加熱または温風乾燥により行う、前記1〜9のいずれかに記載に記載のインクジェット記録方法。
【0020】
11.前記1〜10の何れかに記載のインクジェット記録方法を用いて画像が形成されてなる記録物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対して水性インクで特に50%以上の高Dutyで印刷した際のインクの凝集ムラや混色ブリーディングを改善し、速乾性を向上させたインクジェット記録方法を提供することができる。また、かかる記録方法により、高画質で、優れた耐擦性を備えた記録物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明に係るインクジェット記録方法について、その好ましい実施態様に基づき説明する。
【0023】
本発明のインクジェット記録方法は、
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、水性インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行う記録方法であって、
前記水性インク組成物として、着色剤、0.1重量%〜1.5重量%のシリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ピロリドン誘導体、熱可塑性樹脂、及び水を少なくとも含有する水性インク組成物を用い、
被記録面に付着させた前記水性インク組成物を40℃以上に加熱する方法である。
【0024】
本発明は、かかる構成からなるため、前記の効果を達成できる。すなわち、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対して特に50%以上の高Dutyで水性インクで印刷した際のインクの凝集や混色ブリーディングを抑制した印刷が可能となる。そのため、発色が鮮やかなプラスチックメディア印刷物等、高画質で、優れた耐擦性を備えた記録物を得ることができる。
【0025】
インクジェット記録方法
本発明によるインクジェット記録方法は、前記したように、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、水性インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うものである。この際、50%以上の高Dutyで印刷する場合が、効果に優れる点で好ましい。
【0026】
また、本発明の記録方法は、前記したように、被記録面に付着させた前記水性インク組成物を40℃以上に加熱する。かかる加熱により、印刷後の記録媒体上の水性インク組成物中の水分を蒸発させ、水性インク組成物の乾燥を促進させるとともに、水性インク組成物中の熱可塑性樹脂による皮膜(樹脂皮膜)を形成させることができる。
加熱温度は、好ましくは40〜60℃である。加熱温度が60℃を超えると、記録媒体の被記録面に用いられるプラスチックフィルムの種類によっては軟化や変形により記録媒体の搬送が困難になったり、加熱後の収縮等が起こる。このため、印刷時の加熱温度の上限は、60℃とすることが好ましい。
【0027】
この操作の過程で、水性インク組成物に含まれる水を含む溶媒を蒸発させることができるので、プラスチックと、形成される樹脂被膜との密着性もより強固にできると考えられる。ここで加熱手段は、慣用の加熱手段、例えば、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて、常法にしたがって行うことができる。本発明においては、加熱工程の加熱処理は、好ましくは、ヒーター加熱または温風乾燥により実施することができる。また、加熱温度以外の加熱条件は、水性インク組成物に含まれる樹脂が、加熱によって樹脂被膜を形成することができるような条件であればいずれであってもよく、樹脂粒子の種類などを考慮して適宜設定することができる。例えば、ヒーター加熱または温風乾燥による場合には、加熱時間は、1分間〜1日間(好ましくは3分間〜18時間)の条件で行うことができる。
【0028】
また、予め加熱した記録媒体をプリンタに送り、その記録媒体上に水性インク組成物を印刷する方法や、プリンタの印刷部分の記録媒体を支える部分(プラテン)にヒーターを組み込む等して、印刷しながら記録媒体上の水性インク組成物を加熱する方法、及びこれらを組み合わせた方法等を採用することもできる。
【0029】
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体には、インクジェット印刷用の表面処理を施していない(例えば、インク吸収層を持たない)プラスチックフィルム、記録媒体自体がプラスチックフィルムの他に、紙等の慣用の記録媒体基材上にプラスチックコーティングされてなるものや、該基材上にプラスチックフィルムが接着されてなるもの等も包含される。また、ここで、プラスチックとしては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられる。
【0030】
水性インク組成物
本発明の記録方法に用いられる水性インク組成物は、前記したように、着色剤、0.1重量%〜1.5重量%のシリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ピロリドン誘導体、熱可塑性樹脂、及び水を少なくとも含有する
【0031】
本発明に用いられる水性インク組成物は、記録媒体の少なくとも被記録面に用いられるプラスチックフィルムの状態および素材の種類に応じて、また、インクの乾燥条件に応じてプラスチックフィルムを溶解する成分の量を調整するので、インクの塗布量は画像の再現性に応じて適宜変更することができる。
【0032】
熱可塑性樹脂は、通常、水性インク組成物中に分散されてなるものである。換言すると、水性インク組成物は、好ましくは、特定量のシリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ピロリドン誘導体と、主溶媒である水とを少なくとも含んでなる分散媒と、この分散媒に分散された熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂が顔料の分散剤としても機能する場合は、顔料とともに分散された熱可塑性樹脂)からなるものである。ここで、水性インク組成物中の着色剤は、好ましくは、顔料であり、このとき顔料は水性インク組成物中に分散されてなる。また、水性インク組成物は、好ましくは、低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる。また、水性インク組成物は、湿潤剤をさらに含んでなることができる。
【0033】
シリコン系界面活性剤
本発明においては、印刷後の記録媒体上でインクの凝集ムラやにじみを抑制しつつ、インクを均一に広げる点から、インク組成物全体に対する含有量が0.1重量%〜1.5重量%のシリコン系界面活性剤が用いられる。
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
ポリエーテル変性オルガノシロキサンとしては、下記の式(I)で表される化合物等が挙げられる。
【0034】
【化1】

(上記式中、R1〜R9は、独立して、C1−6アルキル基を表し、jおよびkは、独立して1以上の整数を表し、EOはエチレンオキシ基を表し、POはプロピレンオキシ基を表し、mおよびnは0以上の整数を表すが、但しm+nは1以上の整数を表し、EOおよびPOは、[ ]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい。)
【0035】
特に、印刷後の記録媒体上でインクがはじかれることにより発生する凝集ムラ防止の点から、j+kが11〜300であることが好ましく、11〜100のものがより好ましく、11〜50であるものが特に好ましい。
【0036】
式(1)の化合物は市販されており、それを利用することが可能である。例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社より、シリコン系添加剤BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348等が利用可能である。
【0037】
シリコン系界面活性剤の添加量は、本発明の効果を達成すべく、既述のとおり、0.1重量%〜1.5重量%である。
【0038】
アセチレン系界面活性剤
本発明においては、シリコン系界面活性剤との組み合わせで印刷後の記録媒体上でのインクの凝集やにじみを抑制する作用から、アセチレン系界面活性剤が用いられる。
【0039】
アセチレン系界面活性剤としては、下記の式(i)で表される化合物等が挙げられる。
【0040】
【化2】

(ここで、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を表し、nおよびmはそれらの和が0〜30となる整数である)で表されるアセチレングリコール系界面活性剤、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール104)、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール82)、これらアセチレングリコール類の誘導体(例えば、Air Products and Chemicals. Inc.社製のサーフィノール465、485など)などがある。
【0041】
アセチレン系界面活性剤の具体例としては、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及びそれらにエチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイドを付加した界面活性剤等が挙げられ、中でも水に対する溶解度が高くインクへの添加量の制限が少ない点と、常温固体であるため熱可塑性樹脂が硬化した後に印刷物がべたつくことの防止の点で、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールが好ましい。
【0042】
アセチレン系界面活性剤の添加量は、例えば、インク組成物全量に対して0.5〜15.0重量%、好ましくは、1.0〜10.0重量%である。
【0043】
前述したシリコン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤との添加量の重量比(前者:後者)は、インクの凝集ムラや混色ブリーディング抑制の点から、1:100〜15:10であることが好ましい。
【0044】
ピロリドン誘導体
水性インク組成物には、印字後の記録媒体上でシリコン系界面活性剤及びアセチレングリコール系界面活性剤によるインクの広がりと後述の熱硬化性樹脂の固化とのバランスを考慮して、ピロリドン誘導体をさらに加えることができる。
【0045】
ピロリドン誘導体の具体例としては、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、2−ピロリドン等が挙げられ、中でも速乾性と熱可塑性樹脂の皮膜化促進の点で、N−メチルピロリドンが好ましい。
【0046】
ピロリドン誘導体の添加量は、インク組成物全量に対して、好ましくは2.0重量%〜25.0重量%、さらに好ましくは4.0〜25.0重量%である。
【0047】
熱可塑性樹脂
水性インク組成物は、揮発性の低いシリコン系界面活性剤を含むインクを固化させる点から、熱可塑性樹脂を含んでなる。この熱可塑性樹脂は、水性インク組成物中に分散されてなる。熱可塑性樹脂として、水性インク組成物の媒体に可溶の樹脂、または不溶の樹脂を使用することができる。水性インク組成物の媒体に可溶の樹脂は、前述の顔料を分散するのに使用する樹脂分散剤を好適に使用することができる。また、水性インク組成物の媒体に不溶の樹脂は、樹脂粒子を樹脂エマルジョンの形態で水性インク組成物に添加することが好ましい。ここで樹脂エマルジョンは、連続相である水と分散相である樹脂成分(熱可塑性樹脂成分)とからなる。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、熱可塑性樹脂は、親水性部分と、疎水性部分とを合わせもつ重合体であるのが好ましい。熱可塑性樹脂として樹脂エマルジョンを使用する場合、その粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、好ましくは150nm程度以下、より好ましくは5〜100nm程度である。
【0049】
熱可塑性樹脂としては、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている分散剤樹脂または樹脂エマルジョンと同様の樹脂成分を使用することができる。熱可塑性樹脂として、具体的には、アクリル系重合体、例えば、ポリアクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリアクリロニトリル若しくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、またはポリメタクリル酸;ポリオレフィン系重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン若しくはそれらの共重合体、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、またはテルペン樹脂;酢酸ビニル・ビニルアルコール系重合体、例えば、ポリ酢酸ビニル若しくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、またはポリビニルエーテル;含ハロゲン系重合体、例えば、ポリ塩化ビニル若しくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、またはフッ素ゴム;含窒素ビニル系重合体、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン若しくはその共重合体、ポリビニルピリジン、またはポリビニルイミダゾール;ジエン系重合体、例えば、ポリブタジエン若しくはその共重合体、ポリクロロプレン、またはポリイソプレン(ブチルゴム);あるいはその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、または天然高分子樹脂等を用いることができる。
【0050】
熱可塑性樹脂をエマルジョンの状態で得る場合には、樹脂粒子を場合により界面活性剤と共に水に混合することによって調製することができる。例えば、アクリル系樹脂またはスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルの樹脂又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステルの樹脂と、場合により(メタ)アクリル酸樹脂と、界面活性剤とを水に混合することによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常50:1〜5:1程度とするのが好ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲に満たない場合には、エマルジョンが形成されにくく、また前記範囲を越える場合には、インクの耐水性が低下したり、密着性が悪化する傾向があるので好ましくない。
【0051】
ここで使用する界面活性剤は特に限定されないが、好ましい例としては、アニオン系界面活性剤(例えば、ドデシルベンザンスルホン酸ナトリウム、ラウルリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなど)を挙げることができ、これらは二種以上を混合して用いることができる。
【0052】
また熱可塑性樹脂のエマルジョンは、上記した樹脂成分の単量体を、重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合させることによっても得ることができる。乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用できる。
【0053】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤として用いられているもの、およびこれらの混合物が挙げられる。これらは2種以上混合して使用することができる。
【0054】
分散相成分としての樹脂と水との割合は、樹脂100重量部に対して水を好ましくは60〜400重量部、より好ましくは100〜200重量部の範囲が適当である。
【0055】
熱可塑性樹脂として、樹脂エマルジョンを使用する場合、公知の樹脂エマルジョンを用いることも可能である。例えば特公昭62−1426号、特開平3−56573号、特開平3−79678号、特開平3−160068号、または特開平4−18462号各公報などに記載の樹脂エマルジョンをそのまま用いることができる。また、市販の樹脂エマルジョンを利用することも可能であり、例えばマイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ゼオン株式会社製)、またはサイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン;サイデン化学株式会社製)などを挙げることができる。
【0056】
本発明において、熱可塑性樹脂は、微粒子粉末として水性インク組成物中の他の成分と混合されても良いが、樹脂微粒子を水媒体に分散させて、樹脂エマルジョンの形態とした後、水性インク組成物の他の成分と混合することが好ましい。
【0057】
水性インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、本発明に好ましい樹脂微粒子の粒径は5〜400nmの範囲であり、より好ましくは50〜200nmの範囲である。
【0058】
熱可塑性樹脂は、水性インク組成物全量に対して、固形分換算で0.1〜15.0重量%の範囲で含まれることが好ましく、0.5〜10.0重量%の範囲で含まれることがより好ましい。水性インク組成物において、樹脂成分が少なすぎると、プラスチック表面に形成されるインク被膜が薄くなり、プラスチック表面との密着性が不充分になることがある。樹脂成分が多すぎると、インク組成物の保存中に樹脂の分散が不安定になったり、わずかな水分の蒸発で樹脂成分が凝集固化して均一な被膜が形成できなくなることがある。
【0059】
熱可塑性樹脂の添加量は、前述したアセチレングリコール系界面活性剤と熱可塑性樹脂との添加量の重量比(前者:後者)が、1:3〜5:3となるようにすることが、プラスチックフィルムへの密着性の点で好ましい。
【0060】
着色剤
本発明に用いられる水性インク組成物は着色剤を含んでなる。ここで着色剤としては、染料、または、顔料が挙げられる。本発明においては、着色剤は顔料が好ましい。
染料としては、特にその種類を限定することなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料が使用できる。
【0061】
着色剤として顔料を使用する場合、水性インク組成物は、水系インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている任意の顔料を含むことができる。顔料としては、例えば、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている有機顔料または無機顔料を用いることができる。顔料は、水溶性樹脂や界面活性剤等の分散剤とともに分散した樹脂分散顔料、または顔料表面に親水性基を導入し分散剤の使用なしで水系媒体に分散もしくは溶解可能とした表面処理顔料として、インク組成物に添加することができる。なお、顔料を樹脂分散剤で分散する場合、後述する熱可塑性樹脂を分散剤として使用してもよい。また、顔料は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0062】
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄や、コンタクト法、ファーネスト法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを利用することができる。
【0063】
有機顔料としては、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、または酸性染料型キレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、またはアニリンブラックなどを利用することができる。これらの顔料のうち、水との親和性が良好な顔料を用いるのが好ましい。
【0064】
より具体的には、黒色インク用顔料として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、若しくはチャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、若しくは酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を挙げることができる。
【0065】
好適なカーボンブラックの具体例としては、三菱化学株式会社製のカーボンブラックとして、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。デグサ社製のカーボンブラックとして、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等が挙げられる。コロンビアカーボン社製のカーボンブラックとして、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等が挙げられる。キャボット社製のカーボンブラックとして、キャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等が挙げられる。
【0066】
カラーインク用顔料としてはC.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、153、154;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219;C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19(キナクリドンレッド)、23、38;またはC.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63;等を使用することができる。
【0067】
顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径として、好ましくは25μm以下、より好ましくは1μm以下である。平均粒径が25μm以下の顔料を用いることにより、目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。
【0068】
顔料の含有量は、インク組成物全体に対して、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1.0〜10.0重量%である。
【0069】
低表面張力有機溶剤
水性インク組成物は、必要に応じて、低表面張力有機溶剤を含んでなることができる。低表面張力有機溶剤の例としては、1価アルコール、または多価アルコール誘導体が挙げられる。
【0070】
1価アルコールとしては、特に炭素数1〜4の1価アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、またはn−ブタノールなどを用いることができる。
【0071】
多価アルコール誘導体としては、特には、炭素数2〜6の2価〜5価アルコールと炭素数1〜4の低級アルコールとの完全または部分エーテルを用いることができる。ここで多価アルコール誘導体とは、少なくとも1個のヒドロキシル基がエーテル化されたアルコール誘導体であり、エーテル化されたヒドロキシル基を含まない多価アルコールそれ自体を意味するものではない。前記のエーテルとして好ましい多価アルコール低級アルキルエーテルは、一般式(ii):
21O−〔CH2−CH(R23)−O〕t−R22 (ii)
[式中、R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数3〜6のアルキル基(好ましくはブチル基)であり、R23は水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基、好ましくは水素原子、メチル基またはエチル基であり、tは1〜8、好ましくは1〜4の整数であるが、但し、R21およびR22の少なくとも一方は炭素数3〜6のアルキル基(好ましくはブチル基)である]で表される化合物である。
【0072】
これらの多価アルコール低級アルキルエーテルの具体例としては、例えば、モノ、ジ若しくはトリエチレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテル、モノ、ジ若しくはトリプロピレングリコール−モノ若しくはジ−アルキルエーテルが挙げられ、好ましくはトリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。
【0073】
低表面張力有機溶剤としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0074】
低表面張力有機溶剤の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0〜10.0重量%、好ましくは、2.0〜8.0重量%である。
【0075】
水性インク組成物の諸物性は適宜制御することができるが、本発明の好ましい態様によれば、水性インク組成物の粘度は、好ましくは25mPa・秒以下、より好ましくは10mPa・秒以下(25℃)である。粘度がこの範囲内にあると、水性インク組成物をインク吐出ヘッドから安定に吐出させることができる。また、水性インク組成物は適宜制御することができ、好ましくは表面張力は、20.0〜40.0mN/m(25℃)範囲程度であり、より好ましくは25.0〜35.0mN/m範囲程度である。
【0076】
湿潤剤
水性インク組成物には、水性インク組成物の保管および塗布時の扱い易さを考慮して、必要に応じて、前述したピロリドン誘導体以外の湿潤剤をさらに加えることができる。湿潤剤を含むことによって、水分蒸発による樹脂成分の凝集固化を防止でき、インクジェット塗布時にインクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止し、吐出安定性を確保することができる。
【0077】
湿潤剤としては、例えば、水溶性多価アルコール類、特には、炭素数2〜10の2価〜5価アルコール類;含窒素炭化水素溶媒、例えば、ホルムアミド類、イミダゾリジノン類、あるいはアミン類;含硫黄炭化水素溶媒を挙げることができる。これらは、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0078】
水溶性多価アルコールとしては、例えば、炭素数3〜10の2価〜3価アルコール、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオールの1種またはそれ以上を組合せて用いることができる。
【0079】
湿潤剤の含有量は、例えば、水性インク組成物全量に対して0〜20.0重量%、好ましくは、1.0〜10.0重量%である。このような範囲とすることによって、目詰まり防止性、または吐出安定性を確保することができる。含有量が多すぎると乾燥不良となることがある。
【0080】
主溶媒
水性インク組成物は、前述したように、主溶媒としての水を含んでなる。
ここで使用される水としては、イオン性の不純物を極力低減することを目的として、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0081】
他の成分
水性インク組成物は、上記した各成分を含むことにより、所望の効果を実現できるものであるが、必要に応じて、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、ノズルの目詰まり防止剤などをさらに含むことができる。
【0082】
pH調整剤としては、例えばリン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などが挙げられる。さらに、溶解助剤、または酸化防止剤の例としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。更にノズル乾燥防止の目的で、尿素、チオ尿素、またはエチレン尿素等を添加することができる。
【0083】
水性インク組成物の製造
本発明に用いられる水性インク組成物は、前記の各配合成分を個別に、または顔料分散剤や樹脂エマルジョンの形態を経て、任意の順序で適宜混合し、溶解(または分散)させた後、必要に応じて不純物などを濾過して除去することにより、調製することができる。
【0084】
本発明の一つの好ましい態様によれば、水性インク組成物において、シリコン系界面活性剤がポリシロキサン系化合物であり、アセチレングリコール系界面活性剤が3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールであり、かつ、ピロリドン誘導体がN−メチルピロリドンであることが好ましい。このような組み合わせの水性インク組成物を用いることにより、50%以上の高Dutyで印刷した高画質の印刷物を得ることができる。
【0085】
本発明の別の態様によれば、本発明によるインクジェット記録方法によって印刷された、記録物が提供される。
【0086】
以下に、本発明の実施例および試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何等制限されるものではない。
【0087】
〔インクの調製〕
以下に示す組成1〜6のインク組成物を調製した。
【0088】
組成1 組成2 組成3 組成4 組成5 組成6
顔料 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0
顔料分散熱可塑性樹脂 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0
熱可塑性樹脂エマルジョン 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0
シリコン系界面活性剤 0.1 1.5 0.5 0.05 1.5 1.5
アセチレングリコール系界面活性剤 10.0 1.0 5.0 10.0 − −
トリエチレングリコール − − − − 4.0
N−メチルピロリドン 25.0 25.0 25.0 25.0 25.0 25.0
水 54.9 62.5 59.5 55.0 63.5 59.5
(配合量単位は、「重量%」を示す。)
【0089】
なお、組成1〜3のインク組成物はそれぞれ実施例1〜3として40℃以上に加熱する本発明の記録方法および比較例4〜6として40℃未満で加熱する比較例の記録方法に使用するものであり、組成4〜6のインク組成物はそれぞれ比較例1〜3および比較例7〜9として比較例の記録方法に使用するものである。
【0090】
それぞれの組成について、下記の顔料を含む、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックインク組成物(4種)を用いて、本発明に係る実施例に供した。
C.I.ピグメントブルー15:3(C:シアンインク組成物)
C.I.ピグメントヴァイオレット19(M:マゼンタインク組成物)
C.I.ピグメントイエロー74(Y:イエローインク組成物)
C.I.ピグメントブラック7(K:ブラックインク組成物)
【0091】
また、各インク組成物中のシリコン系界面活性剤は、BYK−348(商品名、ビックケミー・ジャパン(株)製のポリエーテル変性オルガノシロキサン)を使用した。
また、アクリル系分散樹脂及びアクリル系エマルジョンの詳細は、以下の通りである。
・顔料分散剤熱可塑性樹脂:スチレン−アクリル酸共重合体(分子量1000〜10000、酸価100〜300)
・熱可塑性樹脂エマルジョン:アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体(分子量1000〜10000、ガラス転移温度10℃〜100℃)
【0092】
〔印刷1〕
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体としてのラミーコーポレーション社製コールドラミネートフィルムPG−50L(PETメディア)に、前記で調製した組成1〜6のインク組成物のそれぞれについて、C,M,Y,Kの4色を充填した、インクジェットプリンタ(PX−G900;セイコーエプソン株式会社製)を用いて、シートフィーダー部にセットした記録媒体をドライヤーで70℃に加熱して印刷時に記録媒体が45℃となる様にし、その直後に、表1及び2に示す40%〜100%の各Dutyでそれぞれ2色が接触しているパターンを横1440dpi、縦1440dpiの解像度で印刷した。
【0093】
ここで、Dutyとは、横1440dpi、縦1440dpiの場合、1平方インチを横1440分割、縦1440分割した計2073600分割のうち、何%にインクドットを配置したかをいう。
【0094】
〔印刷物の評価〕
得られた各印刷物について、以下の滲み及び凝集の評価を行った。その結果を表1及び2に示す。
1.滲み:印刷パターンの2色が接する部分における滲みの発生の有無(滲みが発生しない○,発生する×)を各Dutyで調べ、下記基準に従って評価した。
評価基準
A;Duty60%
まで○であり、このDutyまでプリーディング無く印刷が可能。
B:Duty50%
まで○であり、このDutyまでプリーディング無く印刷が可能。
C;Duty40%まで○であり、このDutyまでプリーディング無く印刷が可能。
D;Duty40%以上が×であり、Duty40%の印刷でブリーディングが発生する。
【0095】
2.凝集:単色ベタ部における濃淡のムラの発生の有無(ムラが発生しない○,発生する×)を各Dutyで調べ、下記基準に従って評価した。
評価基準
A;Duty70%まで○であり、このDutyまで凝集ムラ無く印刷が可能。
B:Duty60%まで○であり、このDutyまで凝集ムラ無く印刷が可能。
C;Duty50%まで○であり、このDutyまで凝集ムラ無く印刷が可能。
D;Duty50%以上が×であり、Duty50%の印刷で凝集ムラが発生する。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
〔印刷2及び印刷物の評価〕
シートフィーダー部にセットした記録媒体をドライヤーで60℃に加熱して印刷時に記録媒体が35℃となる様にした以外は、印刷1と同様にして、表3及び4に示す40%〜100%の各Dutyでそれぞれ2色が接触しているパターンを横1440dpi、縦1440dpiの解像度で印刷した。そして、得られた各印刷物について、印刷1の場合と同様の評価を行った。その結果を表3及び4に示す。
【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対して水性インクで特に50%以上の高Dutyで印刷した際のインクの凝集や混色ブリーディングを改善し、速乾性を向上させたインクジェット記録方法、及び該記録方法による高画質で、優れた耐擦性を備えた記録物として、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、水性インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行う記録方法であって、
前記水性インク組成物として、着色剤、0.1重量%〜1.5重量%のシリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ピロリドン誘導体、熱可塑性樹脂、及び水を少なくとも含有する水性インク組成物を用い、
被記録面に付着させた前記水性インク組成物を40℃以上に加熱するインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記シリコン系界面活性剤がポリシロキサン系化合物であり、前記アセチレングリコール系界面活性剤が3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールであり、かつ、前記ピロリドン誘導体がN−メチルピロリドンである、請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記水性インク組成物における、前記シリコン系界面活性剤と前記アセチレングリコール系界面活性剤との添加量の重量比(前者:後者)が、1:100〜15:10である、請求項1又は2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記水性インク組成物における、前記アセチレングリコール系界面活性剤と前記熱可塑性樹脂との添加量の重量比(前者:後者)が、1:3〜5:3である、請求項1〜3の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記水性インク組成物における、前記ピロリドン誘導体の添加量が4.0重量%〜25.0重量%である、請求項1〜4の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記着色剤が、顔料であって、顔料が水性インク組成物中に分散されてなる、請求項1〜5の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記水性インク組成物が低表面張力有機溶剤をさらに含んでなる、請求項1〜6の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記低表面張力有機溶剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、または、トリエチレングリコールモノブチルエーテルである、請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記水性インク組成物が湿潤剤をさらに含んでなる、請求項1〜8のいずれかに記載に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記加熱処理を、ヒーター加熱または温風乾燥により行う、請求項1〜9のいずれかに記載に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載のインクジェット記録方法を用いて画像が形成されてなる記録物。

【公開番号】特開2008−155523(P2008−155523A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348084(P2006−348084)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】