説明

インクジェット記録方法

【課題】顔料インクを具備したインクセットを用いているにもかかわらず、光沢紙に対してインクジェット記録した場合、画像の光沢ムラの発生を低減でき、高品位画像が得られるインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】クリアインクに、顔料インクにクリアインクを重ねて付与した場合の顔料インクのドット径が、クリアインクを付与しない場合のドット径よりも大きくなるものを用い、低インクドット数の印刷部には、クリアインクと顔料インクとを少なくとも一部が重なるように付与して、顔料インクのドット径をクリアインクを付与しない場合のドット径よりも大きくなるようにし、一方、高インクドット数の印刷部には、クリアインクを付与せずに、顔料インクのドット径が低インクドット数の印刷部のドット径よりも小さくなるようにして画像形成を行うインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関するものであり、詳細には、光沢紙に対してインクジェット記録した場合における画像の光沢ムラを低減できるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録は、微細なノズルからインクを小滴として吐出し、文字や図形を記録媒体の表面に記録する方法である。実用化されているインクジェット記録方法としては、例えば、下記のインクジェット記録方式のものがある。例えば、電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換し、ノズルヘッド部分に貯えたインクを断続的に吐出して記録媒体表面に文字や記号を記録する方法がある。また、ノズルヘッド部分に貯えたインクを吐出部分に極近い一部を急速に加熱して泡を発生させ、その泡による体積膨張で断続的にインクを吐出して、記録媒体表面に文字や記号を記録する方法などが挙げられる。
【0003】
インクジェット記録におけるインクの供給形態としては、複数の異なる色のインクを組み合わせて構成されたインクセットを使用する方法が知られている。このようなインクセットを用いることで、インクセットから吐出される各インクの種類と吐出量とが、画像情報に基づいた信号に応じて随時選択されることにより、高画質なカラー画像が容易に形成される。
【0004】
このようなインクセットを構成する各インクとしては、一般には各種の水溶性染料を水性媒体に溶解させたものが汎用されている。しかし、最近では、顔料を分散剤によって水性媒体に分散させたインクを具備したインクセットの提供もされている(特許文献1及び特許文献2参照)。これは、色材として顔料を用いたインク(以下、顔料インクともいう)が、色材に水溶性染料を用いたインクに比べて耐候性(耐水性や耐光性など)に優れるという特徴を有することにある。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−147859号公報
【特許文献2】特開昭56−147860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、従来より知られている顔料インクを具備したインクセットを用いて光沢紙に対してインクジェット記録すると、下記のような課題があることがわかった。すなわち、単位面積当たりのインクドット数(以下、Dutyとも言う)が多い画像領域における光沢度と、Dutyが少ない画像領域における光沢度との間に差が生じ、これに起因する画像の光沢ムラが視認されるという問題である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、顔料インクを具備したインクセットを用いているにもかかわらず、光沢紙に対してインクジェット記録した場合、画像の光沢ムラの発生を低減でき、高品位画像が得られるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料インクとクリアインクとを独立して有するインクセットを用いたインクジェット記録方法において、クリアインクに、顔料インクにクリアインクを重ねて付与した場合の顔料インクのドット径が、クリアインクを付与しない場合の顔料インクのドット径よりも大きくなる構成のものを用い、単位面積当たりのインクドット数が所定の値未満の低インクドット数の印刷部には、前記クリアインクと前記顔料インクとを少なくとも一部が重なるように付与して、顔料インクのドット径をクリアインクを付与しない場合のドット径よりも大きくなるようにし、一方、単位面積当たりのインクドット数が所定の値以上の高インクドット数の印刷部には、前記クリアインクを付与せずに、顔料インクのドット径が低インクドット数の印刷部のドット径よりも小さくなるようにして画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、顔料インクを具備したインクセットを用いているにもかかわらず、光沢紙に対してインクジェット記録した場合に生じる画像の光沢ムラの発生が低減された高品位画像が得られるインクジェット記録方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、Dutyに応じてクリアインクを打ち込むことで、顔料インクのドット内での顔料の凝集度、及び顔料インクのドット径を制御すれば、上記目的が達成できることを見出して本発明に至った。本発明のインクジェット記録方法では、顔料インクとクリアインクとを独立して有するインクセットを用いるが、まず、これらについて説明する。
【0011】
(クリアインク)
本発明のインクジェット記録方法では、クリアインクに、後述する顔料インクと少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与した場合に、クリアインクを付与しない場合の顔料インクのドット径よりもドット径を大きくできる構成のものを用いる。このようなクリアインクとするためには、クリアインクの酸塩基性が、顔料インクの酸塩基性と同一にすることが好ましい。すなわち、クリアインクの酸塩基性が顔料インクの酸塩基性と同一でない場合には、顔料インクとクリアインクとが記録媒体上で重なった際に顔料インクが凝集することで、顔料インクのドット径が拡がり難くなるからである。
【0012】
本発明で使用されるクリアインクは、少なくとも水性媒体を含んで構成され、実質的に無色のインクである。この際に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。好ましく用いられる水溶性有機溶媒の例としては、下記のものが挙げられる。
アルコール類:例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなど。
多価アルコール類:例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール。ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど。
多価アルコールエーテル類:例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル。ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル。エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル。エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど。
アミン類:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン。エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど。
アミド類:例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど。
複素環類:例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。
スルホキシド類:例えば、ジメチルスルホキシドなど。
スルホン類:例えば、スルホランなど。
尿素、アセトニトリル、アセトンなど。
【0013】
本発明に使用されるクリアインクは、界面活性剤を含有したものであることが好ましい。クリアインクに界面活性剤を含有させることで、顔料インクとクリアインクとが記録媒体上で重なった際に、顔料インクの凝集を抑制することができるため、記録媒体上での光沢性の低下を抑制する効果が期待できるからである。
【0014】
本発明のクリアインクに好ましく使用される界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類などのアニオン性界面活性剤。ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性界面活性剤。アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類などのカチオン性界面活性剤が挙げられる。特に後述するようなカルボン酸基やスルホン酸基で分散されているような顔料インクに対しては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を、特に好ましく用いることができる。
【0015】
本発明で使用されるクリアインクには、この他に、防腐剤、防黴剤、消泡剤、保湿剤、粘度調整剤などを必要に応じて含有させてもよい。保湿剤としては、糖類が好ましく、糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシシール、ソルビット、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどが挙げられる。
【0016】
(顔料インク)
本発明で使用される顔料インクに含まれる顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用できる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄や、コンタクト法、ファーネスト法、又はサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを利用することができる。また、有機顔料としては、下記のものを使用することができる。アゾ顔料:例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、又はキレートアゾ顔料。多環式顔料:例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、又はキノフタロン顔料。染料キレート:例えば、塩基性染料型キレート、又は酸性染料型キレート。ニトロ顔料、ニトロソ顔料、又はアニリンブラックなどを利用することができる。これらの顔料の中でも、水と親和性の低い顔料を用いるのが好ましい。
【0017】
より具体的には、黒色インク用顔料として、例えば、下記のものが挙げられる。ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、若しくはチャンネルブラックなどのカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類。又は、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、若しくは酸化チタンなどの金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)などの有機顔料を挙げることができる。
【0018】
さらに、カラーインク用顔料としては、下記のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12(ジスアゾイエローAAA)。C.I.ピグメントイエロー13、同14、同17、同23、同24、同34、同35、同37、C.I.ピグメントイエロー42(黄色酸化鉄)。C.I.ピグメントイエロー53、同55、同74、同81、C.I.ピグメントイエロー83(ジスアゾイエローHR)。C.I.ピグメントイエロー95、同97、同98、同100、同101、同104、同108、同109、同110、同117、同120、同128、同138、同153;
【0019】
C.I.ピグメントレッド1、同2、同3、同5、同17、C.I.ピグメントレッド22(ブリリアントファーストスカーレット)、C.I.ピグメントレッド23、同31、同38、C.I.ピグメントレッド48:2(パーマネントレッド2B(Ba))。C.I.ピグメントレッド48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、C.I.ピグメントレッド48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、C.I.ピグメントレッド48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、C.I.ピグメントレッド49:1。C.I.ピグメントレッド52:2、同53:1、C.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B)、C.I.ピグメントレッド60:1、同63:1、同63:2、同64:1、C.I.ピグメントレッド81(ローダミン6Gレーキ)。C.I.ピグメントレッド83、同88、同92、C.I.ピグメントレッド101(べんがら)、C.I.ピグメントレッド104、同105、同106、C.I.ピグメントレッド108(カドミウムレッド)、C.I.ピグメントレッド112、同114。C.I.ピグメントレッド122(キナクリドンマゼンタ)、C.I.ピグメントレッド123、同146、同149、同166、同168、同170、同172、同177、同178、同179、同185、同190、同193、同209、同219;又は
【0020】
C.I.ピグメントブルー1、同2、C.I.ピグメントブルー15(フタロシアニンブルーR)、C.I.ピグメントブルー15:1、同15:2、C.I.ピグメントブルー15:3(フタロシアニンブルーG)、C.I.ピグメントブルー15:4。C.I.ピグメントブルー15:6(フタロシアニンブルーE)、C.I.ピグメントブルー16、同17:1、同56、同60、同63;などを使用することができる。本発明で使用する各顔料インクには、要求される色調となるように、これらの顔料を、1種類で用いるか、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記に挙げたような顔料の各インク中の含有量は特に限定されないが、顔料インク全体に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましく、0.5質量%以上5質量%以下である。含有量を0.1質量%以上にすることにより、充分な印字濃度を確保することができ、含有量を10質量%以下にすることにより、インクの粘度の高粘度化が抑制され、一層充分な吐出安定性を確保することができる。また、0.5質量%以上5質量%以下とすることにより、特に吐出安定性を向上させることができる。
【0022】
また、これらの顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、本発明において好ましい粒径(平均粒子径)としては、0.5μm以下、より好ましくは100nm以下である。粒径が0.5μm以下の顔料を用いることにより、インクを吐出させた場合における目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。顔料の平均粒径は光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法などを用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。
【0023】
本発明に用いる顔料インクは、分散樹脂により顔料を分散した樹脂分散型顔料インクであることが好ましい。さらに、その際に使用する分散樹脂として、例えば、下記に挙げるような単量体から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなる水溶性樹脂を用いることが好ましい。単量体(モノマー)の例としては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体などが挙げられる。
【0024】
樹脂(ポリマー)としては、ブロックポリマー、或いは、ランダムポリマー、グラフトポリマー、これらの塩などが好ましい。より好ましくは、疎水性ブロックセグメント、親水性セグメントを有し、ミセル形成しやすい構造の樹脂を用いるとよい。さらに好ましくは、疎水性セグメント(Aセグメント)、非イオン性親水セグメント(Bセグメント)、イオン性親水セグメント(Cセグメント)が順に並ぶABC構造を有するトリブロックポリマーを分散樹脂として用いるとよい。なお、ブロックポリマーとは、異なる繰り返し単位構造からなるポリマーセグメントが共有結合で結合したブロック構造を有するポリマーであり、ブロックコポリマー、ブロック共重合体とも呼ばれる。
【0025】
また、本発明に用いる顔料インクに用いる分散樹脂としては、後述するポリビニルエーテル構造を繰り返し単位とするブロック構造を含有するトリブロックポリマーなどが好適に用いられる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶でアルカリ可溶型樹脂である。なお、分散樹脂として用いる上記に挙げたような水溶性樹脂は、顔料インク組成物全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下の範囲で含有させるようにすることが好ましい。
【0026】
先に述べたトリブロックポリマーを構成するイオン性の親水ブロックセグメント(Cセグメント)の具体的なブロック構造としては、下記の一般式(1)で表される繰り返し単位構造が挙げられる。
【0027】

(式中、R0は、−X−(COOH)r、−X−(COO−M)r又は−X2−(COO)2−M2を表す。ここで、Xは、炭素数1から20までの直鎖状、分岐状又は環状のアルカンジイル基若しくはアルカントリイル基、又は、下記に挙げる構造を表す。すなわち、−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−(CH2)m−CH3-r−若しくは−(CH2)m−(O)n−(CH2)q−CH3-r−又は、それらのメチレン基の少なくとも一つがカルボニル基又は芳香環構造で置換された構造を表す。上記のrは、1又は2を表す。上記のX2は、Xのうちrが2の基を表す。上記のpは、1から18までのいずれかの整数を表す。上記のmは、0から35までのいずれかの整数を表す。上記のnは、1又は0を表す。上記のqは、0から17のいずれかの整数を表す。上記のMは、一価のカチオンを表す。上記のM2は、二価のカチオンを表す。上記のR5及びR6はアルキル基を表すが、R5、R6は、同じでも又は異なっていてもよい。)
【0028】
イオン性の親水ブロックセグメント(Cセグメント)を構成する上記した一般式(1)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0029】



















(Phはフェニレン基を表す。)
【0030】
さらに、先に述べたトリブロックポリマーを構成する疎水性セグメント(Aセグメント)、或いは非イオン性親水セグメント(Bセグメント)のブロック構造の具体例としては、下記の一般式(2)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0031】

(式中、R1は、炭素数1から18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−R7及び−(CH2)m−(O)n−R7から選ばれる。これらの基の中の芳香環中の炭素原子に結合している水素原子は、炭素数1から4の直鎖状又は分岐状のアルキル基と、また、これらの基の中の芳香環中の炭素原子は、窒素原子とそれぞれ置換していてもよい。上記のpは、1から18のいずれかの整数、上記のmは、1から36のいずれかの整数、上記のnは0又は1を表す。上記のR5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子若しくは−CH3を表す。上記のR5及びR6が複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。R7は、水素原子、炭素数1から18までのいずれかの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2及び−CO−C(CH3)=CH2から選ばれる。R7が水素原子以外である場合、R7中の炭素原子に結合している水素原子は、炭素数1から4の直鎖状又は分岐状のアルキル基、又は−F、−Cl、−Brとそれぞれ置換することができる。また、上記の芳香環中の炭素原子は、窒素原子とそれぞれ置換することができる。なお、上記のPhはフェニル基を表し、Pyrはピリジル基を表す。)
【0032】
疎水性セグメント(Aセグメント)を構成する上記した一般式(2)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0033】









(Phはフェニレン基を表す。)
【0034】
非イオン性の親水セグメント(Bセグメント)を構成する上記した一般式(2)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0035】





【0036】
また、本発明に用いるブロックポリマーの各ブロックセグメントは単一の繰り返し単位からなるものでもよく、複数の繰り返し単位構造からなるブロック構造をもつものでもよい。複数の繰り返し単位からなるブロックセグメントの例としては、ランダムポリマーや、徐々に組成比が変化するグラデュエイションポリマーがある。また、本発明に用いるブロックポリマーは、ブロックポリマー構造が他のポリマーにグラフト結合したポリマーであってもよい。
【0037】
ブロックポリマー中に含まれる先述した一般式(1)或いは一般式(2)で表される繰り返し単位構造の含有量は、ブロックポリマー化合物全体に対して0.01mol%以上99mol%以下、特には1mol%以上90mol%以下の範囲が好ましい。含有量が0.01mol%未満では、イオン性官能基或いは疎水性官能基或いは非イオン性親水基の働くべき高分子相互作用が不充分な場合があり、逆に、99mol%を超えると、相互作用が働きすぎて機能が不充分な場合がある。
【0038】
本発明で使用する顔料インクに用いるブロックポリマー化合物の数平均分子量(Mn)は、200以上10,000,000以下であることが好ましく、特には、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。10,000,000を超えると、高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくかったりする。200未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度は、3以上10,000以下である。さらに好ましくは、5以上5,000以下である。さらに好ましくは、10以上4,000以下である。
【0039】
本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテルの繰り返し単位構造を有するブロック共重合体の合成は、主にカチオン重合で行われることが多い。この際に用いる重合開始剤としては、下記に挙げるようなプロトン酸や、下記に挙げるようなルイス酸とカチオン源の組み合わせが例として挙げられる。プロトン酸としては、例えば、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸などが挙げられる。ルイス酸としては、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、RAlCl2、R1.5AlCl1.5(Rは、アルキルを示す)などが挙げられる。カチオン源としては、プロトン酸や水、アルコール、ビニルエーテルとカルボン酸の付加体などが挙げられる。
【0040】
上記に挙げたような重合開始剤を重合性化合物(モノマー)と共存させることにより重合反応が進行し、ブロック共重合体を合成することができる。本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として有するブロック共重合体としては、下記のものが挙げられる。すなわち、ブロック共重合体中に、ポリビニルエーテル繰り返し単位構造が、好ましくは50mol%以上、より好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上を含んでなるものである。
【0041】
本発明で使用する分散樹脂を合成する場合に、さらに好ましく用いることのできる重合方法について説明する。ポリビニルエーテル構造を含むポリマーの合成法は多数報告されている(特開平11−080221号公報)。中でも、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌、15巻、1986年、417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)が代表的である。カチオンリビング重合でポリマー合成を行うことにより、下記に挙げる様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。例えば、ホモポリマーや、2成分以上のモノマーからなる共重合体、さらにはブロック共重合体、グラフトポリマー、グラデュエイションポリマーなどのポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、他に、HI/I2系、HCl/SnCl4系などでリビング重合を行うこともできる。
【0042】
本発明で使用される顔料インクは、前記した顔料必須成分とするが、これらの顔料を上記に挙げたような分散樹脂で分散させた樹脂分散型顔料インクであることが好ましい。そして、顔料を樹脂で分散してなる顔料分散体に、必要に応じて水溶性有機溶剤、界面活性剤などを添加し、下記に挙げる方法で製造することができる。すなわち、上記の成分からなる混合物を、ビーズミル、サンドミル、パールミル、ダイノーミル、ボールミル、ロールミル、ナノマイザー、ホモジナイザーなどの公知の機械的分散機で分散することによって得られる。
【0043】
本発明で使用される顔料インクは、必要に応じて水溶性有機溶剤を含有してもよいが、好ましく用いられる水溶性有機溶媒の例としては、下記のものが挙げられる。
アルコール類:例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなど。
多価アルコール類:例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール。ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど。
多価アルコールエーテル類:例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル。ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート。トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど。
アミン類:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン。トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど。
アミド類:例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど。
複素環類:例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。
スルホキシド類:例えば、ジメチルスルホキシドなど。
スルホン類:例えば、スルホランなど。
尿素、アセトニトリル、アセトンなどが挙げられる。
【0044】
本発明で使用される顔料インクは、必要に応じて界面活性剤を含有してもよい。本発明のインクに好ましく使用される界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類などのアニオン性界面活性剤。ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性界面活性剤。アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類などのカチオン性界面活性剤が挙げられる。これらの中でも特に、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。さらに、好ましくは、アセチレングリコール類である。
【0045】
本発明で使用される顔料インクは、必要に応じてpH緩衝剤を含有してなるものでもよい。pH緩衝液は、顔料インクをpH8乃至pH10に調節することのできる緩衝剤を用いることが好ましい。このようなものの具体例としては、下記のものが挙げられる。例えば、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及び/又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩などを挙げることができる。その含有量は、ヘッドの部材の耐久性とインクジェット用顔料インクの安定性の観点から、顔料インクが概ね、pH8乃至pH10になる量であるのが好ましい。
【0046】
本発明で使用される顔料インクには、この他に、防腐剤、防黴剤、消泡剤、保湿剤、粘度調整剤などを必要に応じて含有させてもよい。保湿剤を含有させる場合は、糖類を保湿剤とすることが好ましい。また、糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシシール、ソルビット、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどが挙げられる。
【0047】
以上、本発明で使用されるクリアインクと顔料インクの構成について説明したが、本発明のインクジェット記録方法では、これらのクリアインクと顔料インクを組み合わせてセットとして用いることを要する。そして、本発明では、このようなクリアインクの付与をDutyに応じて行うことで、光沢ムラの発生の低減を達成させる。本発明の特徴の一つは、クリアインクと顔料インクとを少なくとも一部が重なるように付与した場合の顔料インクのドット径が、クリアインクを付与しない顔料インクのみのドット径よりもドット径が大きくなるように構成されたインクセットを用いたことにある。以下、本発明で使用するインクセットを本発明で規定する特定の付与方法で用いることで光沢ムラの発生が低減できた理由について説明する。
【0048】
一般に、顔料インクが光沢紙にインクジェット記録されると、インク中の顔料及び分散剤などの固形成分が、光沢紙の表面に容易に存在することとなると考えられる。このため、従来のインクセットを用い光沢紙にインクジェット記録した場合には、画像領域のインクドット数(Duty)の差に起因する前記の固形成分の量の差が生じ、このことが光沢ムラを発生させる原因となっていたと推測される。これに対して、本発明者らは鋭意検討の結果、上記した構成の顔料インクとクリアインクとを用い、これらの付与方法を下記のようにすることで、光沢ムラの発生を低減させることができることを見出した。すなわち、単位面積当たりのインクドット数(Duty)が所定の値未満の低インクドット数の印刷部に、クリアインクと顔料インクとを少なくとも一部が重なるように付与することで、クリアインクを付与しない場合の顔料インクのドット径よりも大きくする。その一方で、単位面積当たりのDutyが所定の値以上の高インクドット数の印刷部にはクリアインクを付与しないようにすることで、上記の低インクドット数の印刷部のドット径よりも小さくする。本発明者らは、上記のように構成することで、光沢紙にインクジェット記録した場合に生じていた光沢ムラが低減される理由を、以下のように考えている。すなわち、低Duty印刷部のドット径が大きくなると、記録媒体(光沢紙)とドットとの段差が小さくなることが光沢性の向上に繋がり、その結果、低Duty印刷部の光沢度が高Duty印刷部の光沢度に近づいたためであると推定している。さらなる検討の結果、本発明者らは、この低インクドット数の印刷部の光沢性向上の効果は、クリアインクと顔料インクとの付与の順番によっても影響を受けることも見出した。具体的には、前記クリアインクを記録媒体上に付与した後に、前記顔料インクを付与すれば、光沢ムラ発生の低減効果をより顕著なものとすることができる。また、単位面積当たりのインクドット数(Duty)の所定の値を、30%〜60%の範囲内に設定することで、より光沢ムラを低減できることも見出した。
【0049】
なお、本発明で使用しているインクドット数(Duty)とは、下記の式で定義され算出される値を示すものである。
インクドット数=(実印字ドット数/縦解像度/横解像度)×100%
(式中、「実印字ドット数」は、単位面積当たりに実際に印字されるドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」は、それぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0050】
また、本発明でいう光沢紙とは、20°及び60°のグロス値が10以上である記録媒体のことであり、このようなグロス値を有するインク受容層が設けられた紙が好適に例示できる。このような光沢紙の具体例としては、PR−101(キヤノン(株)製)などがある。
【0051】
次に、上記したように構成した本発明のインクジェット記録方法によって記録を行うのに好適な、インクジェット記録装置の一例を以下に説明する。先ず、図1及び図2に、熱エネルギーを利用してインクを吐出させる方式のインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を示す。図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は、図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13は、インクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、保護層16、電極17−1及び17−2、発熱抵抗体層18、蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される基板20よりなっている。上記保護層16は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素などで形成され、上記電極17−1及び17−2は、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される。上記発熱抵抗体層18は、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成され、上記蓄熱層19は、熱酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどで形成される。
【0052】
以下、上記した記録ヘッドからインクが吐出する機構を説明する。まず、上記のように構成されたヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱する。すると、この発熱した発熱素子基板15の表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図3に、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示した。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0053】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0054】
62は、記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。さらに、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃などの除去が行われる。
【0055】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0056】
51は記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッドの65吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0057】
なお、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0058】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0059】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0060】
次に、本発明で使用することができる力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置について説明する。かかる装置の好ましい一例としては、下記のようなオンデマンドインクジェット記録ヘッドを具備したものが挙げられる。該記録ヘッドは、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備える。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるように構成されている。上記のような記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を、図7に示した。
【0061】
この記録ヘッドは、下記のように構成されている。インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82とを有する。さらに、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82などを指示固定するための基板84とが設けられて構成されている。
【0062】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂などで形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケルなどの金属を電鋳やプレス加工による穴あけなどにより吐出口85が形成される。また、振動板82は、ステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルム及び高弾性樹脂フィルムなどで形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、下記のように動作して記録を行う。圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行う。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。以下の実施例において、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。また、文中に記載の残部とは全体を100部とし、各成分を差し引いた残りをいう。また、以下に示す構造式中において、「−r」はランダム構造であることを意味し、「−b」はブロック構造であることを意味している。
【0064】
<合成例1>
[分散樹脂Aの合成]
下記のような構造のAセグメント(Aブロック)、Bセグメント(Bブロック)及びCセグメント(Cブロック)をもつ3元ブロックポリマーを、アルミニウム触媒を用いたリビングカチオン重合により合成した。

【0065】
具体的には、三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、2種類のAブロックの合成用モノマーをそれぞれ2.5mmol(ミリモル)、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.05mmol、及びトルエン11mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところで、重合開始剤として、エチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え、重合を開始した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合の完了を確認した。
【0066】
次いで、反応系にBブロックの合成用モノマーを2.2mmol添加し、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Bブロックの重合の完了を確認した後、反応系に5mmolのCブロック成分のトルエン溶液を添加して、重合を続行した。20時間後、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させたものを、セルロースの半透膜を用いてメタノール溶媒中透析を繰り返し行い、モノマー性化合物を除去し、目的物であるABCトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0067】
さらに、ここで得られたABCトリブロックポリマーを、ジメチルフォルムアミドと水酸化ナトリウム水混合溶液中で加水分解し、Cブロック成分が加水分解され、ナトリウム塩化されたABCトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。さらに、水分散液中で0.1Nの塩酸で中和して、C成分がフリーのカルボン酸になったABCトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。得られたABCトリブロックポリマーを分散樹脂Aとした。
【0068】
<合成例2>
[分散樹脂Bの合成]
下記のような構造のAセグメント(Aブロック)、Bセグメント(Bブロック)及びCセグメント(Cブロック)をもつ3元ブロックポリマーを、合成例1と同様にしてアルミニウム触媒を用いたリビングカチオン重合により合成し、これを分散樹脂Bとした。

【0069】
<顔料分散体Aの作成>
超音波発生装置の槽内に機械的攪拌装置を備えた300mLコルベンを入れた容器を用意した。この中に、先に調製した分散樹脂Aを5.0g、C.I.ピグメントブルー15:3を5g、テトラヒドロフラン100mLを添加し、顔料表面が溶媒で十分濡れるまでよく混合した。次に、ブロックポリマーの中和率が100%になるだけのKOHを含むアルカリ水溶液を滴下注入することで転相させた。その後に、30分間プレミキシングを行い、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて、顔料の平均粒子径が100nm以下になるまで分散を行った。この分散液からロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを除去し、濃度調整を行って、顔料濃度5%、P/B=1の顔料分散体Aを得た。
【0070】
<顔料分散体Bの作成>
分散樹脂として分散樹脂Aの代わりに先に調製した分散樹脂Bを用いること以外は、顔料分散体Aの作成方法と同様な方法にて顔料分散体Bを得た。
【0071】
<顔料分散体Cの作成>
分散樹脂として分散樹脂Aに代わり、スチレンアクリル酸2;1ランダムポリマ−(Mn=24,000、Mw/Mn=2.10)を用いる以外は、顔料分散体Aの作成方法と同様な方法にて顔料分散体Bを得た。
【0072】
<顔料インクAの作成>
次に、前記のようにして調製した顔料分散体Aを用い、以下に示す組成で、インクジェット用顔料インクAを調製した。
・顔料分散体A 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・アセチレノールEH 0.5部
・イオン交換水 残部
上記の各配合成分を混合して得られたインクジェット用顔料インクを、ガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明の顔料インクAを得た。
【0073】
<顔料インクBの作成>
顔料分散体として顔料分散体Aの代わりに顔料分散体Bを用いること以外は、顔料インクAの作成方法と同様な方法にて、顔料インクBを得た。
【0074】
<顔料インクCの作成>
顔料分散体として顔料分散体Aの代わりに顔料分散体Cを用いること以外は、顔料インクAの作成方法と同様な方法にて、顔料インクCを得た。
【0075】
<クリアインクAの作製>
以下に示す組成でクリアインクAを調製した。
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・アセチレノールEH 0.5部
・イオン交換水 残部
上記の各配合成分を混合して得られたインクジェット用クリアインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明で使用するクリアインクAを得た。
【0076】
<クリアインクBの作製>
以下に示す組成でクリアインクBを調製した。
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・アセチレノールEH 0.5部
・BC−20 0.5部
・イオン交換水 残部
上記の各配合成分を混合して得られたインクジェット用クリアインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明のクリアインクBを得た。
【0077】
<インクジェット記録方法>
上記で作製した顔料インクとクリアインクとをそれぞれ用いて、光沢紙であるPR−101(キヤノン製)に対して、1200dpi×1200dpiで4.8pl/dotの条件で印刷した。そして、得られた画像の20°光沢度を光沢度計(村上色彩技術研究所製)で測定した。なお、印刷は、50×50mmのベタを10、20、30、40、50、60、70.80、90、100%Dutyでそれぞれ印刷した。
【0078】
〔実施例1〕
Duty10%〜50%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクAを付与した後、顔料インクAを付与して画像を形成した。一方、Duty60%〜100%の印字部は、顔料インクAのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0079】
〔実施例2〕
Duty10%〜50%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクAを付与して画像を形成した。一方、Duty60%〜100%の印字部は、顔料インクAのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0080】
〔実施例3〕
Duty10%〜50%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクBを付与して画像を形成した。一方、Duty60%〜100%の印字部は、顔料インクBのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0081】
〔実施例4〕
顔料インクAを光沢紙上に付与した後、Duty10%〜50%の印字部に、前記顔料インクのドットと重なるようにクリアインクBを付与して画像を形成した。一方、Duty60%〜100%の印字部には、クリアインクを付与しなかった。
【0082】
〔実施例5〕
Duty10%〜30%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクAを付与して画像を形成した。一方、Duty40%〜100%の印字部は、顔料インクAのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0083】
〔実施例6〕
Duty10%〜40%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクAを付与して画像を形成した。一方、Duty50%〜100%の印字部は、顔料インクAのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0084】
〔実施例7〕
Duty10%〜60%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクAを付与して画像を形成した。一方、Duty70%〜100%の印字部は、顔料インクAのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0085】
〔実施例8〕
Duty10%〜70%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクAを付与して画像を形成した。一方、Duty80%〜100%の印字部は、顔料インクAのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0086】
〔実施例9〕
Duty10%〜50%の印字部では、顔料インクのドットと重なるように、光沢紙上に予めクリアインクBを付与した後、顔料インクCを付与して画像を形成した。一方、Duty60%〜100%の印字部は、顔料インクCのみを光沢紙上に付与して形成した。
【0087】
〔比較例1〕
顔料インクAのみを光沢紙上に付与してDuty10%〜100%の画像を形成した。
【0088】
〔比較例2〕
顔料インクBのみを光沢紙上に付与してDuty10%〜100%の画像を形成した。
【0089】
〔比較例3〕
顔料インクCのみを光沢紙上に付与してDuty10%〜100%の画像を形成した。
【0090】
実施例及び比較例で印刷した記録物の評価を、下記に示す方法で行った。
評価;光沢ムラ
印字物を一日放置後、各Duty部のグロス値(20°)を光沢度計(村上色彩技術研究所製)で測定し、グロス値の最大と最小の差を算出し、下記の基準で判断した。その結果を表1に示した。
◎:15未満
○:15以上25未満
×:25以上
【0091】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図である。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図5】インクカートリッジの一例を示す縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料インクとクリアインクとを独立して有するインクセットを用いたインクジェット記録方法において、クリアインクに、顔料インクにクリアインクを重ねて付与した場合の顔料インクのドット径が、クリアインクを付与しない場合の顔料インクのドット径よりも大きくなる構成のものを用い、単位面積当たりのインクドット数が所定の値未満の低インクドット数の印刷部には、前記クリアインクと前記顔料インクとを少なくとも一部が重なるように付与して、顔料インクのドット径をクリアインクを付与しない場合のドット径よりも大きくなるようにし、一方、単位面積当たりのインクドット数が所定の値以上の高インクドット数の印刷部には、前記クリアインクを付与せずに、顔料インクのドット径が低インクドット数の印刷部のドット径よりも小さくなるようにして画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記クリアインクと前記顔料インクとを付与する場合に、クリアインクを付与した後に顔料インクを付与する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記クリアインクの酸塩基性が、前記顔料インクの酸塩基性と同一である請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記クリアインクが、インク中に界面活性剤を含有している請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記所定の値が、30%〜60%の範囲内である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記顔料インクが、分散樹脂によって顔料が分散されてなる樹脂分散型顔料インクである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記分散樹脂が、疎水性セグメント、非イオン性親水セグメント、イオン性親水セグメントを有するブロックポリマーである請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記分散樹脂が、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として有する請求項6又は7に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−18008(P2010−18008A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183107(P2008−183107)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】