説明

インクジェット記録方法

【課題】微吸収性記録媒体、またはPETなどの非吸収性記録媒体に高精細に高速に印字することが可能であり、記録媒体に着弾したインクが色混ざりを生じることがなく、画像の光沢が高く、画像の耐擦性が優れ、ノズル詰まりがなく安定出射可能な、インクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】記録ヘッド31の温度を粘度立ち上がり温度+1℃以上に加熱し、オイルゲル化剤を含有し室温でゲル状態となるインクで、色の異なる複数のインクを吐出する記録ヘッド31を備えたインクジェット記録方法において、少なくとも1つのインクの液滴の記録媒体10に最初に接触する瞬間の温度が、ゲル化温度以上、かつ、粘度立ち上がり温度+1℃以下の温度となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法に関し、特にオイルゲル化剤を含有し、室温付近でゲル化する性質を有するインクを出射するインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年インクジェット方式を用いて、普通紙だけでなく、アート紙やコート紙などの微吸収性記録媒体、またはPETなどの非吸収性記録媒体などの多様な記録媒体に、高精細かつ高速に印刷したいという要望が高まっている。このような非吸収性記録媒体に従来のインクジェット方式で吐出可能な低粘度インクを高速に印刷すると、先に着弾したインクのドットが記録媒体に定着する前に隣接ドットが着弾され、色混ざり等の画質低下が問題になっていた。そこで色混ざりの起こらない高粘度インクを記録ヘッドから吐出する検討が行われてきたが、ノズル目詰まりなどの射出性の課題が解決できなかった。
【0003】
特許文献1には、オイルゲル化剤を含有するインクジェット用インクがある。ヘッド温度をインクのゲル化温度以上に加熱することで印字環境温度の温度差によって、インクは転相(ゾル→ゲル)が発現する。インクジェット用インクにオイルゲル化剤を用いることにより、吐出時には低粘度であるが、記録媒体上にインク液滴が着弾した段階で、インク液滴の固化が短時間に完遂し、インク液滴成分の拡散等を抑制することができる。
【0004】
特許文献1によれば、オイルゲル化剤を含有するインクを用いることにより、様々な記録媒体に対して裏抜けを防止し、射出性に優れる記録方法が提供できる。しかし、色混ざりについては、特に記載が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−126508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、微吸収性記録媒体、またはPETなどの非吸収性記録媒体に高精細に高速に印字することが可能であり、記録媒体に着弾したインクが色混ざりを生じることがないインクジェット記録方法を提供することである。更に本発明の目的は、画像の細線の鮮鋭性を向上し、画像の光沢を高めたインクジェット記録方法を提供することである。
【0007】
具体的には、特許文献1に準じて、オイルゲル化剤を含有するインクを、インクのゲル化温度より高温の記録ヘッドから出射しする方法を検討したが、色混ざりの防止および細線の鮮鋭性の向上は不十分であった。
【0008】
また、インク液滴が記録媒体に着弾したときに、素早くゲル化して濡れ広がりを抑制するように、できるだけインクのゲル化温度に近い温度でインクを吐出することを検討したが、ヘッド内でのインク粘度が高くなり、液滴の尾が長く伸びたり、ノズル目詰まりが発生するなどし、射出性と画質の両立が課題になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本インクの射出性を向上し、且つ画像の細線部の高画質化が可能なインクジェット記録方法について鋭意検討を行った。
【0010】
飛翔液滴の液滴量とノズル面とメディア間の距離(以下、ギャップ幅ともいう)、記録ヘッドの温度をコントロールすることで、この課題を解決することに至った。液滴量を小さくすることにより、飛翔液滴の比表面積が増大し、これにより飛翔液滴の冷却時定数が低下し、またギャップ幅を大きくすることで飛翔時間が長くなり、吐出時の液滴温度と着弾時の液滴温度差が大きくなることにより、目的を達成できた。
【0011】
具体的には、本発明の課題は以下の手段により解決された。
【0012】
1.記録ヘッドの温度を粘度立ち上がり温度+1℃以上に加熱し、オイルゲル化剤を含有し室温でゲル状態となるインクで、色の異なる複数のインクを吐出する記録ヘッドを備えたインクジェット記録方法において、少なくとも1つの該インクの液滴の記録媒体に最初に接触する瞬間の温度が、ゲル化温度以上、かつ、粘度立ち上がり温度+1℃以下の温度となるように制御することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0013】
2.前記色の異なる複数のインクの全てのインクの液滴が、記録媒体に最初に接触する瞬間に、ゲル化温度以上、かつ、粘度立ち上がり温度+1℃以下の温度となることを特徴とする前記1に記載のインクジェット記録方法。
【0014】
3.前記記録ヘッドの温度が前記インクの粘度立ち上がり温度+5℃以上、かつ、80℃以下であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット記録方法。
【0015】
4.前記インクが、活性光線により硬化する活性光線硬化型組成物を含有し、記録媒体に着弾した後に、紫外線照射により硬化することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0016】
5.前記インクの粘度立ち上がり温度が50℃以上65℃以下であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0017】
6.前記インクが前記オイルゲル化剤を0.3〜15.0質量%含有することを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0018】
7.前記記録ヘッドがラインヘッドであることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0019】
8.印字中または印字前後に、前記記録媒体を裏面から加熱することを特徴とする前記1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、微吸収性記録媒体、またはPETなどの非吸収性記録媒体に高精細に高速に印字することが可能であり、記録媒体に着弾したインクが色混ざりを生じることがなく、画像の光沢が高く、画像の耐擦性が優れ、ノズル詰まりがなく安定出射可能な、インクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ライン型インクジェット記録装置の構成を示す模式図である。
【図2】ラインヘッドによる記録媒体への記録状態を示す斜視図である。
【図3】ラインヘッドにおける記録ヘッドの配置図。
【図4】(a)3サイクル駆動法による記録ヘッドのチップの1部断面図で示す斜視図。(b)3サイクル駆動法による記録ヘッドのチャネル配列方向から見た圧力室の断面図。
【図5】(a)〜(c)3サイクル駆動法による記録ヘッドのインク吐出時の作動を示す図。
【図6】4色のラインヘッドの配置図である。
【図7】記録ヘッドの駆動信号を示す図である。
【図8】インクの温度・粘度曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、発明を実施するための形態について詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
(インクジェット記録装置)
図1は、ライン型のインクジェット記録装置1の構成を示す模式図である。
【0024】
ロール状に巻かれた長尺状の記録媒体10は、図示しない駆動手段により巻き出しロール10Aから矢印X方向に繰り出され搬送される。
【0025】
長尺状の記録媒体10はバックロール20に巻回され支持されながら搬送される。ラインヘッド30よりインクが記録媒体10に向け吐出され、画像データに基づいた画像形成が行われる。ラインヘッド30は、記録媒体幅方向に吐出幅に対応した複数のインクジェットヘッド(記録ヘッド)31を有する。
【0026】
ラインヘッド30は4色のラインヘッドY、M、C、Kを有する。ラインヘッドYには、インクタンク50よりポンプPとインクチューブ51により、記録ヘッドのインクの背圧を調整する中間タンク41に送られたインクが、インクチューブ43により供給されている。インクタンク50、ポンプP、インクチューブ51、中間タンク41、インクチューブ43はインク供給ユニット40を構成している。
【0027】
ラインヘッドM、C、Kにも同様に、別のインク供給ユニットが接続されてインクが供給される。
【0028】
ラインヘッドの下流には、紫外線照射装置4が配置され、インクにより画像が形成された記録媒体、を照射し、光硬化性のインクを硬化し定着する。画像が定着された記録媒体は、乾燥部100で乾燥が行われ、巻き取りロール10Bに巻き取られる。
【0029】
記録ヘッドは記録媒体の搬送方向とは逆方向に相対的に走査される。走査中、一画素周期ごとに画像データに基づき駆動信号が選択され、インクの吐出状態が変化する。
【0030】
各記録ヘッド31は、ノズル面側が記録媒体10の記録面と対向するように配置されており、フレキシブルケーブル6(図4参照)を介して、駆動信号を生成するための回路が設けられる駆動信号生成手段100(図5参照)に電気的に接続されている。
【0031】
図2は、ラインヘッド30における記録ヘッド31の配置例である。1つの記録ヘッド31で吐出できる吐出幅は記録ヘッドの外形寸法よりも狭いことから、隙間なく吐出するために複数の記録ヘッド31を記録媒体搬送方向に対して千鳥配置している。図2に示す例では、記録媒体幅方向に吐出幅に対応した複数の記録ヘッドを2列の千鳥配置としている。
【0032】
図3に、記録ヘッド31の外形、吐出幅及び千鳥配置の関係を示す。記録ヘッド31の数及び千鳥配置の列数は、記録ヘッド31の吐出幅等により適宜設定されるものであり、図2の例に限定されるものではない。
【0033】
本発明においては、印字中あるいは印字前後の過程で、記録媒体の裏面を加熱することが更に好ましい。加熱手段としては、搬送台の温度を一定温度となるように制御する方法や、記録媒体を加熱ローラあるいはフラットヒータ等に接触させる方法などがあり、適宜選択することができる。好ましい加熱温度の範囲は40度以上、ゲル化温度以下である。40度以上に加熱すれば着弾後の液滴がゆっくりと冷却されて印字物の光沢性が更に良好となり、ゲル化温度以下であれば記録媒体に着弾したインクが色混ざりを生じることがなく画像鮮鋭性の高い画像を得ることができる。
【0034】
(記録ヘッド)
図4(a)は3サイクル駆動によるせん断モード型の記録ヘッド31のヘッドチップ部分の一部断面で示す斜視図、(b)は3サイクル駆動によるせん断モード型の記録ヘッド31のチャネル配列方向からみた圧力室28の断面図である。
【0035】
図中、310はヘッドチップ、22はヘッドチップ310の前面に接合されたノズル形成部材である。
【0036】
ヘッドチップ310の前面及び後面には、それぞれ各圧力室28の前面側の開口部と後面側の開口部とが対向している。各圧力室28は、その後面側の開口部から前面側の開口部に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0037】
圧力室28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)は、共通インク室77、インク供給口25を経て、インクチューブ43に接続されている。
【0038】
(加熱手段)
図4に示す記録ヘッド31のマニホールド部材102、103、104の外面には、図示されていないヒーターと温度センサーからなる前記加熱手段が取り付けられており、記録ヘッドと記録ヘッド内のインクを所定の温度に保温することが出来る。
【0039】
(圧力発生手段)
図4、図5に示すように、各圧力室28を仕切る隔壁27の表面には、金属膜からなる電極29が密着形成されていて、前記圧力発生手段を構成している。すなわち、各チャネル内で対向する隔壁面の電極29同士が電気的に接続されている。圧力室内の電極29は接続電極300及び異方性導電フィルム78、ケーブル6を介して、駆動信号発生手段100と接続している。
【0040】
図5(a)〜(c)は、3サイクル駆動によるせん断モード型の記録ヘッドのチャネル延伸方向からみたチャネル列の断面図である。
【0041】
各隔壁27は、ここでは図5の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bによって構成されているが、圧電材料は隔壁27の少なくとも一部にあればよい。
【0042】
図5では圧力室28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されており、それらは隔壁27A、27B、27C、27Dで隔てられている。
【0043】
ヘッドチップ310の前面及び後面には、それぞれ各圧力室28の前面側の開口部と後面側の開口部とが対向している。各圧力室28は、その後面側の開口部から前面側の開口部に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0044】
図4に示すように、圧力室28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)は、共通インク室77、インク供給口25を経て、インクチューブ43に接続されている。
【0045】
図4、図5に示すように、各チャネル28の内面全面には、金属膜からなる電極29が密着形成されている。すなわち、各チャネル内で対向する隔壁面の電極29同士が電気的に接続されている。圧力室内の電極29は接続電極300及び異方性導電フィルム6を介して、駆動信号発生手段100と接続している。
【0046】
電極29A、29B、29Cに、それぞれ駆動信号発生手段100より膨張用の電圧が印加されることにより、隔壁が図5(a)の状態から図5(b)の状態に変化し、圧力室28B内にインクが導入される。次に、電極29A、29B、29Cに駆動信号発生手段100より収縮用の電圧が印加されると、図5(c)の状態になり圧力発生手段により圧力室28B内のインクに圧力が加えられ、ノズルから出射される。
【0047】
図6にインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す。図6(a)はその側面図であり、図4(b)はその上面図である。
【0048】
図6で示したインクジェット記録装置はライン記録方式と呼ばれており、ラインヘッド30に各色インクの記録ヘッド31を記録媒体10の全幅をカバーするようにして、複数個、固定配置しており、記録媒体がそれら固定されたヘッドキャリッジ下を搬送されることで画像を形成する。
【0049】
記録媒体の搬送方向に対して、色毎に用いられる記録ヘッドの個数は、用いるヘッドのノズル密度と印字する際の解像度によって変わってくる。例えば、液滴量2pl・ノズル密度360dpiのヘッドを用いて、1440dpiの解像度の画像を形成したい場合には、記録媒体搬送方向に対して、記録ヘッドを4個使用してずらして配置することで1440×1440dpiの画像の形成が可能となる。液滴量6pl・ノズル密度360dpiのヘッドを用いて、720×720dpiの解像度の画像を形成したい場合には、記録ヘッドを2個使用してずらして配置することで720dpiの画像の形成が可能となる。本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0050】
ラインヘッド下流側には、メタルハライドランプあるいはLEDランプといった紫外線照射装置4が記録媒体の全幅をカバーするように配置され、画像が形成された後速やかに該ランプにより紫外線が照射され画像が完全に定着される。
【0051】
また記録媒体の下部には温度制御装置5が取り付けられており、記録媒体の温度を適宜調製できる。
【0052】
図7は、シェアモード型ピエゾ記録ヘッドを駆動して微小液滴を安定に高速で吐出するための駆動信号の例を示した図である。図7において、横軸はAL時間、縦軸は駆動電圧を表す。
【0053】
t1は第1膨張パルス幅(第1の膨張パルスのパルス幅)である
t2は収縮パルス幅(収縮パルスのパルス幅)である
t3は第2膨張パルス幅(第2の膨張パルスのパルス幅)である。
【0054】
第一膨張パルスにより圧力室にインクを導入し、収縮パルスによりインクに圧力を加えインクを吐出させ、第二膨張パルスによりインクに掛かる圧力波を早期に収束させ、高周波数(高速)の駆動をしても安定して出射できる。
【0055】
(インク)
本発明インクジェット記録方法に用いられるインクは、オイルゲル化剤を添加することにより、ゾルゲル転移を可能としたインクである。更に、ゾルゲル相転移温度(相転移温度)を、インク出射時のインク温度と、記録媒体等への着弾後のインク温度との間に容易に制御可能なインクである。
【0056】
すなわち、本発明のインクは、インク出射時には低粘度で良好な流動性を有する。また、前記インクは記録ヘッドから出射されて飛翔中に、インクの温度が低下してゲル状態への転移が開始または開始直前の状態になることにより、記録媒体上に着弾後、記録媒体上でインクのドットが広がるのを抑制することが出来る。
【0057】
それに対して、着弾直前のインクの温度が高すぎると、着弾したインクが記録媒体に伝熱してゲル転移の開始温度まで冷却される速度よりも、着弾して広がる速度が速いことにより、記録媒体上で広がってしまう。
【0058】
本発明でいうゲルとは、ラメラ構造、共有結合や水素結合した高分子網目、物理的な凝集によって形成される高分子網目、微粒子の凝集構造などの相互作用により、溶質が独立した運動性を失って集合した構造を持ち、急激な粘度上昇や著しい弾性増加を伴って固化または半固化した状態のことを言う。
【0059】
(オイルゲル化剤)
本発明でいうオイルとは、水以外の化合物の総称であり、本発明に係るオイルゲル化剤とは、これら水以外の化合物に添加した場合に、前記ゲルを形成しうる化合物のことを言う。
【0060】
一般に、ゲルには、加熱により流動性のある溶液(ゾルと呼ばれる場合もある)となり、冷却すると元のゲルに戻る熱可逆性ゲルと、一旦ゲル化してしまえば加熱しても、ふたたび溶液には戻らない熱不可逆性ゲルがある。本発明に係るオイルゲル化剤によって形成されるゲルは、熱可逆性ゲルであることが好ましい。
【0061】
本発明のゾル−ゲル相転移は、ゾル状態のインクをレオメータで温度を下げながら粘度測定することにより、ある温度で温度変化に対する粘度変化の傾斜が変化して急になることで分かる。
【0062】
本発明のインクで用いられるオイルゲル化剤は、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよいが、インクに用いられる観点から低分子化合物であることが好ましい。また、ゲル構造として、オイルゲル化剤自体が繊維状会合体を形成しうる化合物が好ましい。繊維状会合体の形成は透過電子顕微鏡による形態観察で容易に確認できる。
【0063】
本発明で好ましく用いられる高分子化合物の具体例としては、ステアリン酸イヌリンなどの脂肪酸イヌリンや、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリンなどの脂肪酸デキストリン(レオパールシリーズとして千葉製粉より入手可能)や、ベヘン酸エイコサン二酸グリセリル、ベヘン酸エイコサン二酸ポリグリセリル(ノムコートシリーズとして日清オイリオより入手可能)などが挙げられる。
【0064】
本発明で好ましく用いられる低分子化合物の具体例としては、例えば特開2005−126507号公報や特開2005−255821号公報や特開2010−111790号公報に記載の低分子オイルゲル化剤や、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−(2−エチルヘキサノイル)−L−グルタミン酸ジブチルアミドなどのアミド化合物(味の素ファインテクノより入手可能)や、1,3:2,4−ビス−O−ベンジリデン−D−グルシトール(ゲルオールD 新日本理化より入手可能)などのジベンジリデンソルビトール類や、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタムなどの石油系ワックスや、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウ、ホホバエステルなどの植物系ワックスや、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウなどの動物系ワックスや、モンタンワックス、水素化ワックスなどの鉱物系ワックスや、硬化ヒマシ油または硬化ヒマシ油誘導体や、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体またはポリエチレンワックス誘導体などの変性ワックスや、ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、エルカ酸などの高級脂肪酸や、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコールや、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシステアリン酸や、12−ヒドロキシステアリン酸誘導体や、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド(例えば、ニッカアマイドシリーズ 日本化成社製や、ITOWAXシリーズ 伊藤製油社製や、FATTYAMIDシリーズ 花王社製)や、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミドなどのN−置換脂肪酸アミドや、N,N′−エチレンビスステアリルアミド、N,N′−エチレンビス12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N′−キシリレンビスステアリルアミドなどの特殊脂肪酸アミドや、ドデシルアミン、テトラデシルアミンまたはオクタデシルアミンなどの高級アミンや、ステアリルステアリン酸、オレイルパルミチン酸、グリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル化合物(例えばEMALLEXシリーズ 日本エマルジョン社製や、リケマールシリーズ 理研ビタミン社製や、ポエムシリーズ 理研ビタミン社製)や、ショ糖ステアリン酸、ショ糖パルミチン酸などのショ糖脂肪酸エステル(例えばリョートーシュガーエステルシリーズ 三菱化学フーズ社製)や、ポリエチレンワックス、α−オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックスなどの合成ワックスや、重合性ワックス(UNILINシリーズ Baker−Petrolite社製)や、ダイマー酸、ダイマージオール(PRIPORシリーズ CRODA社製)などが挙げられる。また、上記のゲル化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0065】
上記のオイルゲル化剤中で好ましく用いられる化合物は、C20〜C24の直鎖の飽和脂肪酸およびそのエステルである。該脂肪酸としては、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸が挙げられる。中でも好ましくは、ベヘン酸グリセリル、ベヘニン酸である。
【0066】
中でも、C20〜C24の直鎖の飽和脂肪酸およびそのエステルが、インクに含有される量が少なくても、温度変化により大きな粘度変化を生じ、硬化したインクの物性を劣化させないため好ましい。特にベヘン酸およびそのエステルが好ましい。また、インクの温度の低下に対し、急激に粘度が上昇するため、本発明の細線の再現性や色混ざりを防止する効果が著しく優れる。
【0067】
本発明のインクにおいて、本発明に係るオイルゲル化剤の含有量は、インク全質量に対し0.3〜15質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。オイルゲル化剤の含有量が0.3〜15質量%の範囲であれば、更に安定した出射特性を得ることができると共に、本発明の目的効果をより一層発揮することができる。特に色材として顔料を用いる場合には、オイルゲル化剤が顔料の分散安定性を損なう場合があるため、オイルゲル化剤の含有量を0.3〜10質量%の範囲とすることが好ましい。
【0068】
オイルゲル化剤の添加量は、インクが記録ヘッドの温度では射出に必要な低い粘度を示し、室温(25℃)でゲル状態となることが必要である。
【0069】
前記ゲル状態とは、粘度が500mPa・s以上であることを意味し、室温まで冷却されてゲル状態になればインクを活性光線に照射して硬化しなくても、インクの滲みや、色混ざりが生じない。
【0070】
なお、前記粘度は、測定にはレオメータMCR300(PaarPhysical社製)を用いてせん断速度1000〔1/秒〕の条件で測定される。
【0071】
(色材)
本発明のインクにおいては、インクを構成する色材としては、染料あるいは顔料を制限なく用いることができるが、インク成分に対し良好な分散安定性を有し、かつ耐候性に優れた顔料を用いることが好ましい。顔料としては、特に限定されるわけではないが、本発明には例えばカラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が使用できる。
【0072】
赤或いはマゼンタ顔料としては、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36、青又はシアン顔料としては、pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17−1、22、27、28、29、36、60、緑顔料としては、Pigment Green 7、26、36、50、黄顔料としては、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193、黒顔料としては、Pigment Black 7、28、26などが目的に応じて使用できる。
【0073】
具体的に商品名を示すと、例えば、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF−1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS−3、5187、5108、5197、5085N、SR−5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN−EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G−550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA−1103、セイカファストエロー10GH、A−3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY−260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR−116、1531B、8060R、1547、ZAW−262、1537B、GY、4R−4016、3820、3891、ZA−215、セイカファストカーミン6B1476T−7、1483LT、3840、3870、セイカファストボルドー10B−430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN−EP、4940、4973(大日精化工業製)、KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製)、Colortex Yellow 301、314、315、316、P−624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA−414、U263、Finecol Yellow T−13、T−05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P−625、102、H−1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、Colortex Blue516、517、518、519、A818、P−908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製)、Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP−S(東洋インキ製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG−02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製)、カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)などが挙げられる。
【0074】
又、顔料を予め水、溶剤、重合性モノマー等に高濃度分散した分散液を使用することもできる。
【0075】
本発明のインクにおいては、顔料を分散するための顔料分散剤を用いることが好ましい。本発明で用いることのできる分散剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、あるいは、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩を挙げることができる。
【0076】
顔料の分散には、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。又、顔料の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。
【0077】
本発明においては、顔料分散剤の添加量としては、顔料に対し10〜100質量%であることが好ましい。
【0078】
分散媒体は、溶剤または重合性化合物を用いて行うが、本発明のインクでは、印字後に反応・硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。溶剤が硬化画像に残ってしまうと、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤のVOCの問題が生じる。よって、分散媒体は溶剤では無く重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが分散適性上好ましい。
【0079】
上記方法で得られる顔料の平均分散粒子径は、50nm以上、150nm以下であることが好ましい。顔料の平均分散粒子径が上記で規定する範囲であれば、インクの分散安定性を向上させることができ、その結果、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、出射安定性がより一層向上させるとともに、インク透明性の向上に伴い、後述する活性光線硬化型組成物を含有させた際の活性光線の硬化効率を高めることができる。
【0080】
本発明のインクにおいて、顔料の平均分散粒子径を上記で規定する範囲に調整する手段としては、例えば、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を適宜選択あるいは組み合わせることにより達成することができる。
【0081】
また、本発明のインクにおいては、従来公知の染料、好ましくは油溶性染料の必要に応じて用いることができる。
【0082】
本発明で用いることのできる油溶性染料として、以下にその具体例を挙げるが、本発明はこれらにのみ限定されるモノではない。
【0083】
〈マゼンタ染料〉
MS Magenta VP、MS Magenta HM−1450、MS Magenta HSo−147(以上、三井東圧社製)、AIZENSOT Red−1、AIZEN SOT Red−2、AIZEN SOTRed−3、AIZEN SOT Pink−1、SPIRON Red GEH SPECIAL(以上、保土谷化学社製)、RESOLIN Red FB 200%、MACROLEX Red Violet R、MACROLEX ROT5B(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Red B、KAYASET Red 130、KAYASET Red 802(以上、日本化薬社製)、PHLOXIN、ROSE BENGAL、ACID Red(以上、ダイワ化成社製)、HSR−31、DIARESIN Red K(以上、三菱化成社製)、Oil Red(BASFジャパン社製)。
【0084】
〈シアン染料〉
MS Cyan HM−1238、MS Cyan HSo−16、Cyan HSo−144、MS Cyan VPG(以上、三井東圧社製)、AIZEN SOT Blue−4(保土谷化学社製)、RESOLIN BR.Blue BGLN 200%、MACROLEX Blue RR、CERES Blue GN、SIRIUS SUPRATURQ.Blue Z−BGL、SIRIUS SUPRA TURQ.Blue FB−LL 330%(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Blue FR、KAYASET Blue N、KAYASET Blue 814、Turq.Blue GL−5 200、Light Blue BGL−5 200(以上、日本化薬社製)、DAIWA Blue 7000、Oleosol Fast Blue GL(以上、ダイワ化成社製)、DIARESIN Blue P(三菱化成社製)、SUDAN Blue 670、NEOPEN Blue 808、ZAPON Blue 806(以上、BASFジャパン社製)。
【0085】
〈イエロー染料〉
MS Yellow HSm−41、Yellow KX−7、Yellow EX−27(三井東圧)、AIZEN SOT Yellow−1、AIZEN SOT YelloW−3、AIZEN SOT Yellow−6(以上、保土谷化学社製)、MACROLEX Yellow 6G、MACROLEX FLUOR.Yellow 10GN(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Yellow SF−G、KAYASET Yellow2G、KAYASET Yellow A−G、KAYASET Yellow E−G(以上、日本化薬社製)、DAIWA Yellow 330HB(ダイワ化成社製)、HSY−68(三菱化成社製)、SUDAN Yellow 146、NEOPEN Yellow 075(以上、BASFジャパン社製)。
【0086】
〈ブラック染料〉
MS Black VPC(三井東圧社製)、AIZEN SOT Black−1、AIZEN SOT Black−5(以上、保土谷化学社製)、RESORIN Black GSN 200%、RESOLIN BlackBS(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Black A−N(日本化薬社製)、DAIWA Black MSC(ダイワ化成社製)、HSB−202(三菱化成社製)、NEPTUNE Black X60、NEOPEN Black X58(以上、BASFジャパン社製)等である。
【0087】
顔料あるいは油溶性染料の添加量は0.1〜20質量%が好ましく、更に好ましくは0.4〜10質量%である。0.1質量%以上であれば、良好な画像品質を得ることができ、20質量%以下であれば、インク出射における適正なインク粘度を得ることができる。又、色の調整等で2種類以上の着色剤を適時混合して使用できる。
【0088】
本発明のインクにおいては、オイルゲル化剤、色材と共に、活性光線で硬化する活性光線硬化型組成物を含有することが好ましい。
【0089】
(活性光線硬化型組成物)
本発明に用いられる活性光線硬化型組成物(以下、光重合性化合物ともいう)について説明する。
【0090】
本発明においては、光重合性化合物としては、特に制限なく用いることができるが、中でも光カチオン重合性化合物またはラジカル重合性化合物を用いることが好ましく、特に好ましくはラジカル重合性化合物である。
【0091】
(ラジカル重合性化合物)
次いで、ラジカル重合性化合物について説明する。
【0092】
光ラジカル重合性モノマーとしては、各種公知のラジカル重合性のモノマーが使用できる。例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、特開平10−863号の各公報に記載されている光重合性組成物を用いた光硬化型材料と、カチオン重合系の光硬化性樹脂が知られており、最近では可視光以上の長波長域に増感された光カチオン重合系の光硬化性樹脂も例えば、特開平6−43633号公報、特開平8−324137号公報等に公開されている。
【0093】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどの様なものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態をもつものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で二種以上を併用してもよい。
【0094】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エステル、ウレタン、アミドや無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【0095】
本発明のラジカル重合性化合物としては、公知のあらゆる(メタ)アクリレートモノマー及び/またはオリゴマーを用いることができる。本発明でいう「および/または」は、モノマーであっても、オリゴマーであっても良く、更に両方を含んでも良いことを意味する。また、以下に述べる事項に関しても同様である。
【0096】
(メタ)アクリレート基を有する化合物としては、例えば、イソアミルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、イソミルスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ラクトン変性可とう性アクリレート、t−ブチルシクロヘキシルアクリレート等の単官能モノマー、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート等の2官能モノマー、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の三官能以上の多官能モノマーが挙げられる。この他、重合性のオリゴマー類も、モノマー同様に配合可能である。重合性オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、直鎖アクリルオリゴマー等が挙げられる。更に具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(185年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79ページ、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品もしくは業界で公知のラジカル重合性ないし架橋性のモノマーオリゴマー及びポリマーを用いることができる。
【0097】
なお、感作性、皮膚刺激性、眼刺激性、変異原性、毒性などの観点から、上記モノマーの中でも、特に、イソアミルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、イソミルスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、イソボルニルアクリレート、ラクトン変性可とう性アクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0098】
更に、これらの中でも、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが特に好ましい。
【0099】
本発明においては、重合性化合物としてビニルエーテルモノマー及び/又はオリゴマーと(メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマーを併用しても構わない。ビニルエーテルモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。ビニルエーテルオリゴマーを用いる場合は、分子量が300〜1000で、エステル基を分子内に2〜3個持つ2官能のビニルエーテル化合物が好ましく、例えばALDRICH社のVEctomerシリーズとして入手可能な化合物、VEctomer4010、VEctomer4020、VEctomer4040、VEctomer4060、VEctomer5015などが好ましく挙げられるが、この限りではない。
【0100】
また本発明においては、重合性化合物として各種ビニルエーテル化合物とマレイミド化合物を併用して用いることも可能である。マレイミド化合物としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N,N′−メチレンビスマレイミド、ポリプロピレングリコール−ビス(3−マレイミドプロピル)エーテル、テトラエチレングリコール−ビス(3−マレイミドプロピル)エーテル、ビス(2−マレイミドエチル)カーボネート、N,N′−(4,4′−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N′−2,4−トリレンビスマレイミド、あるいは、また特開平11−124403号公報に開示されているマレイミドカルボン酸と種々のポリオール類とのエステル化合物である多官能マレイミド化合物などが挙げられるが、この限りではない。
【0101】
上記カチオン重合性化合物及びラジカル重合性化合物の添加量は好ましくは1〜97質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0102】
(粘度立ち上がり温度、ゲル化温度)
前記粘度立ち上がり温度とは、インクをゾル状態の温度から温度を降下させていったときに、温度・粘度曲線が液体状態の傾斜からより高い勾配の傾斜に移行する温度を言い、該温度は温度・粘度曲線においてゾル状態の接線と、そこから低い温度に移行したときの、粘度立ち上がり部分の接線の交点の温度として定義する。図8はインクをゾル状態の温度から温度を5℃/分の速度で降下させていったときの温度・粘度曲線である。
【0103】
前記ゲル状態とは、粘度が500mPa・s以上である状態と定義する。前記ゲル化温度とは、インクをゾル状態の温度から温度を降下させていったときに、粘度が500mPa・sに達する温度として定義する。
【0104】
測定にはレオメータMCR300(PaarPhysical社製)を用いてせん断速度1000〔1/秒〕の条件で測定する。
【0105】
図8に上記条件で測定したインクの温度・粘度曲線の例を示し、該温度・粘度曲線から粘度立ち上がり温度を求める方法を示す。#1、#2、#3、#4はインクの種類を表わす。
【0106】
例として、#1で示すインクの温度・粘度曲線を用いて説明する。
【0107】
#1の温度・粘度曲線において、温度を80℃から60℃まで低下させたときの低い傾斜の部分がゾル状態であり55℃あたりから、ほぼ直線的に急速に立ち上がる高傾斜部分がある。ゾル状態の接線と高傾斜部分の接線を引くと、交点が56℃であることを表わしている。従って、インク#1の粘度立ち上がり温度は56℃である。
【0108】
また、#1の温度・粘度曲線と粘度500mPa・sの交点から、ゲル化温度53.6℃が求められる。
【0109】
前記粘度立ち上がり温度は、50℃以上65℃以下が好ましい。
【0110】
前記ゲル化温度は、47℃以上、55℃以下が好ましい。
【0111】
(着弾直前の液滴温度T3)
着弾直前の液滴温度T3は、下記式(2)によって求められる。
【0112】
式(2) T3=T1+(T2−T1)×exp(−t1/t2)
T1:雰囲気温度
T2:記録ヘッドの温度
T3:着弾直前の液滴温度
t1:液滴の飛翔時間
t2:冷却時定数
前記雰囲気温度はインクが飛翔するインクジェットヘッドのノズル面と記録媒体との間の空間の空気の温度であり、ノズル面と記録媒体の間で温度勾配がある場合は中間点の温度と定義する。前記雰囲気温度はインクジェット記録装置により制御することが好ましい。また、インクジェット記録装置が雰囲気温度を制御する手段を有しないときは、サーミスターなどをノズル面と記録媒体の中間点に挿入して測定することが出来る。
【0113】
冷却時定数t2は、液滴量、飛翔速度、インクの比熱、熱伝導率をパラメータとしてシミュレーションソフトFlow−3D(株式会社テラバイト製)により求められる。
【0114】
(インクの比熱、熱伝導率の測定方法)
熱特性計KD2Pro(デカゴン社製)により測定することができる。
【0115】
前記飛翔時間t1は、初期の速度を射出速度とし、飛翔距離をギャップ幅として、下記式(3)の運動方程式を解くことにより求められる。なお、射出速度は飛翔中の液滴を高速度カメラで撮影することにより測定できる。
【0116】
式(3) dv/dt=g−(k1/m)*v−(k2/m)*v
v:射出速度 (>0)
m:液滴質量(射出された液滴を吸収性材料に受け止め、吸収性材料の増加質量を液滴数で割って求める)
g:重力加速度
k1=6πaη、aは液滴の半径、ηは空気の粘性抵抗
k2=(π*a*ρ)/4、ρは空気の密度
(T3を本発明の範囲に調整する方法)
式(2)より下記式を導き、T1、T2、T3を代入してt1/t2を求める。
【0117】
t1/t2=−ln(T3−T1)/(T2−T1)
従って、t1およびt2を下記のように調整して、上記により求めたt1/t2に調整することにより、目標のT3に調整することができる。
【0118】
(t1の調整方法)
ノズル径や駆動信号により射出速度、液滴質量を調整し決定する、続いて式(3)を解くことで、目標のt1を得るためのギャップ幅を求めることができる。
【0119】
式(3)の運動方程式は、例えばエクセルを使って下記のように解くことができる。
【0120】
時間t(A列)と、移動距離S(B列)と、射出速度v(C列)、の3列を準備する。時間ステップをt=1×10−6(sec)とする。
【0121】
以後、(記号)は、エクセルのセル番号を表わし、〔記号〕は該記号のセル番号内のデータを表わす。
【0122】
まず、最初の行に、初期値としてtの(A2)に0、Sの(B2)に0、vの(C2)に高速度カメラによって測定した射出速度をセットする。
【0123】
次の行に、
〔A3〕=〔A2〕+Δt、
〔B3〕=〔B2〕+Δt*〔C2〕、
〔C3〕=〔C2〕+Δt*(g−(k1/m)*〔C2〕−(k2/m)*〔C2〕)、の様に設定し、次の時間における移動距離S及び射出速度を求めることができる。これを繰り返し計算する。時間tが目標のt1より小さい最大の移動距離Sを求めることで、ギャップ幅を設定することができる。
【0124】
(t2の調整方法)
Flow−3Dを用いて、目標のt2を得る液滴量、飛翔速度を求めることができる。液滴量および飛翔速度は、ノズル径や駆動信号により調整することが出来る。
【0125】
本発明において、T3は、ゲル化温度以上、粘度立ち上がり温度+1℃以下である。T3がゲル化温度以上であることにより、着弾したときにインクが平坦化しやすく、光沢を低下させることが無く、記録媒体に沿って変形し記録媒体との接触面積を大きくすることができるので、耐擦性に優れる。また、T3が粘度立ち上がり温度+1℃以下であることにより、多色のインクと色混ざりを起こさない様に、着弾後の粘度を高めることができる。
【0126】
着弾直前の液滴温度T3を調整する方法としては、記録ヘッドの温度、液滴量、射出速度、ギャップ幅、オイルゲル化剤の選択が挙げられる。
(T3の測定方法)
T3は赤外線放射温度計を用いて測定することもが可能である。インクの放射率は0.95と設定し、赤外波長は8μm程度の装置を用いる。120kHzで連続的に液滴を吐出し、ノズル面からの距離3点の温度を測定する。ノズル面からの距離と液滴温度の関係をグラフ化し、ギャップ幅距離における液滴温度を求めることができる。
【0127】
(記録ヘッドの温度)
前記記録ヘッドの温度は、高いほどT3が高くなる。前記記録ヘッド温度をインクの粘度立ち上がり温度+1℃以上に設定することが、本発明の特徴である。これにより、ヘッドの適正電圧以下で射出することが可能である。前記記録ヘッドの温度は、インクの粘度立ち上がり温度+5℃以上、かつ、80℃以下が好ましい。インクの粘度立ち上がり温度+5℃以上であれば、オイルゲル化剤を用いたインクの射出が安定であり、T3をゲル化温度以上に調整することが容易である。80℃以下であれば、ヘッドの圧力発生手段に圧電素子を用いたときの圧電素子の耐久性が向上する。
【0128】
(液滴量)
前記液滴量が多いと、飛翔中に液滴の温度が低下する幅が小さく、液滴量が少ないと温度の低下幅が大きい。
【0129】
前記液滴量は1.5pl以上、7.0pl以下が好ましい。1.5pl以上であれば、液滴を精度良く所望の位置に着弾させることが可能であり、7.0pl以下であれば細線の鮮鋭性が良好な画像が得られる。
【0130】
前記ノズル面と記録面の間隙D(mm)は1.0mm以上2.4mm以下が好ましい。1.0mm以上であれば、ヘッド加熱温度による雰囲気温度上昇の影響を受けることはなく、2.4mm以下であればヘッド周りの気流の影響を受けることなく液滴を基材に着弾させることが可能である。
【0131】
液滴量をV(pl)とすると、V/Dは1.0以上、3.0以下が好ましい。1.0以上であれば、飛翔中に液滴が冷却され過ぎて着弾時の液滴が硬くなること無く、画像の良好な光沢性が得られ、3.0以下であれば飛翔中にほどよく冷却されて、高精細な画質を得ることが可能である。
【0132】
(射出速度)
射出速度は速いほど、飛翔時間が短くなるため、液滴の温度の低下が小さくなり、他の条件が同じであればT3は高くなる。
【0133】
(ギャップ幅)
ギャップ幅が小さいと飛翔時間が短くなり、T3が高くなる。ギャップ幅が大きいと飛翔時間が長くなり、T3が低くなる。ギャップ幅は0.5〜2.5mmが好ましい。
【実施例】
【0134】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、実施例で用いている「部」は特に断りの無い限り「質量部」を意味する。
【0135】
実施例1
〈ラジカル重合型インクの調製〉
(マゼンタ顔料分散液1の調製)
以下の組成で顔料を分散した。
【0136】
以下二種の化合物をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱攪拌溶解した。
【0137】
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製) 9部
重合性化合物:APG−200(トリプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学社製) 70部
重合禁止剤:Irgastab UV10(BASFジャパン社製) 0.02部
室温まで冷却した後、これに下記マゼンタ顔料1を21部加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理した後、ジルコニアビーズを除去してマゼンタ顔料分散液1を作製した。
【0138】
マゼンタ顔料1:Pigment Red 122(大日精化製、クロモファインレッド6112JC)
(シアン顔料分散液1の調整)
マゼンタ顔料分散液1の調整において、マゼンタ顔料1に代えてシアン顔料1を用いた他は同様にして、下記シアン顔料分散液1を作製した。
【0139】
シアン顔料1:Pigment Blue 15:4(大日精化製、クロモファインブルー6332JC)
(マゼンタインク1の調製)
下記の各添加剤を順次混合し、80℃に加熱して攪拌した後、得られた液体を加熱下、#3000の金属メッシュフィルターでろ過し、冷却して、マゼンタインク1を調製した。
【0140】
重合性化合物:SR344(ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、SARTOMER社製) 35.0部
重合性化合物:Photomer4172(5EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、Cognis社製) 17.0部
重合性化合物:SR499(6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、SARTOMER社製) 18.9部
重合禁止剤:TEMPO:2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
0.1部
光重合開始剤:TPO(フォスフィンオキサイド、DAROCURE TPO、BASFジャパン社製) 5.0部
マゼンタ顔料分散液1 19.0部
オイルゲル化剤:ベヘニン酸:ルナックBA、花王社製) 5.0部
(マゼンタインク2、3及びシアンインク1〜3の調製)
上記マゼンタインク1の調製において、顔料分散液、各化合物の種類および添加量を表1に記載のように変更した以外は同様にして、マゼンタインク2、3及びシアンインク1〜3を調製した。
【0141】
なお、表1に記載した各化合物の詳細は、以下の通りである。
【0142】
(重合性モノマー)
SR344:ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、SARTOMER社製
Photomer4172:5EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、Cognis社製
SR499:6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、SARTOMER社製
(重合禁止剤)
TEMPO:2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
(光重合開始剤)
TPO:フォスフィンオキサイド(DAROCURE TPO、BASFジャパン社製)
ベヘン酸グリセリル:ポエムB−100、理研ビタミン社製
ベヘニン酸:ルナックBA、花王社製
【0143】
【表1】

【0144】
(インクジェット画像の形成)
図6に示したライン型インクジェット記録ヘッド31を備えたラインヘッド方式のインクジェット記録装置のMの記録ヘッドにマゼンタインク1を充填し、Cの記録ヘッドにシアンインク1を充填し、記録ヘッドの温度を68℃に調整し、雰囲気温度を20℃に調整し、ギャップ幅(記録ヘッドのノズル面と記録媒体の記録面との間隔)を1.5mmに調節した。記録媒体として用いた印刷用コート紙A(OKトップコート 米坪量128g/m 王子製紙社製)を1m/秒の速度で搬送して印字し、該記録媒体に画像を形成した。記録ヘッドと記録媒体の間の雰囲気温度を20℃に湿度を相対50%に調整した。インクジェット印刷装置にはヘッドから20cm下流側に高圧水銀灯4を配置し、画像形成後にUV光を照射させた。
【0145】
インク供給系は、インクタンク、供給パイプ、記録ヘッド直前の前室インクタンク、フィルター付き配管、記録ヘッドからなり、前室タンクから記録ヘッド部分まで断熱して、68℃に加温した。記録ヘッド31はノズル径20μm、ノズル数512ノズル(256ノズル×2列、千鳥配列、1列のノズルピッチ360dpi)で、各々1滴の液滴量が2plとなる条件で、駆動周波数5kHz、液滴速度6m/secで出射させて、1440dpi×1440dpiの記録解像度で印字した。
【0146】
記録ヘッドの駆動には、図7に示す駆動信号を用い、第2膨張パルスt3とVon/Voff電圧比を調節することにより、液滴量と液滴速度を調整した。
【0147】
上記条件により、下記画像1と画像2を作成した。
【0148】
(画像1の作成)
記録媒体に、マゼンタインク1とシアンインク1を用いて作成した10cm×10cmのブルーのベタ画像を背景として、マゼンタインク1の2ポイントの細線を配した画像パターンを出力し、画像1を作成した。
【0149】
(画像2の作成)
画像1の作製において、記録媒体を4版のコート紙(SA金藤 王子製紙社製)に替え、マゼンタインクとシアンインクを同時に射出した他は同様にして、ブルーのベタ画像を出力し、画像2を作成した。
【0150】
(細線の色混ざりの評価)
画像1の細線の色混ざりの有無を目視観察し、下記の基準に従って細線の鮮鋭性の評価を行った。
【0151】
◎…色混ざり発生が全く無し。
【0152】
○…色混ざりが少しあるが、画像上問題のないレベルである。
【0153】
×…色混ざりがひどい。
【0154】
(光沢性の評価)
画質評価のパネラーとして、任意に20人を選抜し、画像2の光沢性の目視評価を行った。同一の記録媒体にオフセット印刷(ハイデルベルグ社製 Printmaster GTO52)で作成したオフセット印刷画像を基準サンプルとして比較評価した。評価は、20人のパネラーのうち、オフセット印刷画像の基準サンプルと同等の光沢性であると判定した人数を集計し、下記の基準に従って光沢性の評価を行った。
【0155】
◎…オフセット印刷画像の基準サンプルと同等であると評価した人数が16人以上である。
【0156】
○…オフセット印刷画像の基準サンプルと同等であると評価した人数が10〜15人であり、オフセット印刷画像の基準サンプルより光沢が低いと評価した人数が5人〜10人である。
【0157】
△…オフセット印刷画像の基準サンプルと同等であると評価した人数が4〜9人であり、オフセット印刷画像の基準サンプルより光沢が低いと評価した人数が11人〜16人である。
【0158】
×…オフセット印刷画像の基準サンプルと同等であると評価した人数が3人以下であり、オフセット印刷画像の基準サンプルより光沢が低いと評価した人数が17人以上である。
【0159】
(耐擦性の評価)
画像1のサンプルを乾いたベンコットで20回擦り、下記の基準に従って画像の耐擦性を評価した。
【0160】
◎…ベンコットにインクは全く付かない。
【0161】
○…ベンコットにインクが少し付着した。
【0162】
×…ベンコットにインクが大量に付着した。
【0163】
(ノズル詰まりの評価)
マゼンタインク1を充填した、図6に示すラインヘッド2のMに組み込まれた記録ヘッド1の一つを、20℃、30%RHの環境下で、駆動周波数10kHz、で駆動し、15秒間連続吐出→一定時間休止→連続吐出の間欠動作を行った。この際、吐出休止後の最初で吐出方向の乱れが発生するか否かは休止時間の長さで決まるので、吐出休止時間の長さを段階的に変えることにより、出射の安定性を測定し、以下の基準で評価した。△以上の性能を許容レベルとした。
【0164】
◎:1分休止しても全てのノズルで安定に吐出した。
【0165】
○:30秒休止しても全てのノズルで安定に吐出したが、1分休止すると吐出しないノズルが発生した。
【0166】
△:2秒休止しても全てのノズルで安定に吐出したが、30秒休止すると吐出しないノズルが発生した。
【0167】
×:2秒以上休止すると、吐出しないノズルが発生した。
【0168】
上記評価結果を表3に示す。
【0169】
(マゼンタインク1とシアンインク1の粘度立ち上がり温度)
マゼンタインク1を80℃に加温してゾル状態にした後、5℃/分の速度で降下させながら粘度を測定し、温度・粘度曲線を作成した。測定にはレオメータMCR300(PaarPhysical社製)を用いてせん断速度1000〔1/秒〕の条件で測定した。
【0170】
粘度立ち上がり温度は、温度・粘度曲線において、ゾル状態の接線と、そこから低い温度に移行して傾斜が立ち上がったときの最大の傾斜部分の接線との交点の温度として求めた。
【0171】
図8において、#1がマゼンタインク1の温度・粘度曲線である。マゼンタインク1の粘度立ち上がり温度は56℃であった。
【0172】
シアンインク1について、同様に粘度立ち上がり温度を求めたが、56℃であった。
【0173】
(マゼンタインク1とシアンインク1のゲル化温度)
図8の#1の温度・粘度曲線において、500mPa・sの直線との交点から求めた、マゼンタインク1のゲル化温度は53.6℃であった。
【0174】
シアンインク1について、同様にゲル化温度を求めたが、53.6℃であった。
【0175】
(マゼンタインク2とシアンインク2の粘度立ち上がり温度とゲル化温度)
図8において、#2がマゼンタインク2の温度・粘度曲線である。マゼンタインク1と同様にして、図8に示したマゼンタインク2の温度・粘度曲線から、粘度立ち上がり温度が51℃であり、ゲル化温度が47.2℃であることが分かった。
【0176】
シアンインク2について同様に測定したが、粘度立ち上がり温度は51℃であり、ゲル化温度は47.2℃であった。
【0177】
(マゼンタインク3とシアンインク3の粘度立ち上がり温度とゲル化温度)
図8において、#3がマゼンタインク3の温度・粘度曲線である。マゼンタインク3は、30℃まで冷却しても、ゾル状態のままであり、粘度の立ち上がりは見られず、粘度立ち上がり温度とゲル化温度は観測されなかった。
【0178】
(マゼンタインク1とシアンインク1の飛翔時間)
マゼンタインク1の飛翔時間t1は、初期の速度を6m/s(射出速度)とし、飛翔距離を1.5mm(ギャップ幅)として、下記式(3)の運動方程式を解くことにより求めた。その結果、マゼンタインク1の飛翔時間t1は0.32ms(ミリ秒)であった。
【0179】
式(3) dv/dt=g−(k1/m)*v−(k2/m)*v
v:液滴速度 (>0)
m:液滴質量(マゼンタインク1の密度と2pl(液滴量)との積)
g:重力加速度
k1: 6πaη、aは液滴の半径、ηは空気の粘性抵抗
k2=(π*a*ρ)/4(ρは空気の密度)
マゼンタインク1の密度=1g/cm
a:液滴を球形として液滴量より求めた。
【0180】
η=1.781e−4mPa・s
ρ=1.225e−3g/cm
シアンインク1についても、上記の条件は同じである。従って、シアンインク1の飛翔時間t1は0.32msとなる。
【0181】
(マゼンタインク1とシアンインク1の着弾直前の液滴温度T3)
マゼンタインク1の着弾直前の液滴温度T3を下記式(2)によって求めた。その結果マゼンタインク1のT3は54.3℃であった。
【0182】
式(2) T3=雰囲気温度T1+(T2−T1)×exp(−t1/t2)
T1:雰囲気温度
T2:記録ヘッドの温度
T3:着弾直前の液滴温度
t1:液滴の飛翔時間
t2:冷却時定数
マゼンタインク1の冷却時定数t2は、液滴量、飛翔速度、インクの体積比熱およびインクの熱伝導率をパラメータとして、シミュレーションソフトFlow3Dを用いて求めた。ここで、液滴量は2pl、射出速度は6m/s、インクの体積比熱は1.5eerg/cm/K、インクの熱伝導率は2eerg/sec/cm/Kとし、飛翔速度は飛翔中の変化が小さいので射出速度を飛翔速度として用いた。シミュレーションの結果、マゼンタインク1の冷却時定数t2は0.95secであった。
【0183】
シアンインク1についても、上記の条件は同じである。従って、シアンインク1の冷却時定数t2は0.95secとなる。
【0184】
上記により求めた飛翔時間t1と冷却時定数t2を用い、下記条件で上記式(2)を解いて、マゼンタインク1とシアンインク1のT3を求めた結果、両インクともT3は54.3℃であり、ゲル化温度以上、かつ、粘度立ち上がり温度+1℃以下であった。
【0185】
T1は20℃とした。
【0186】
マゼンタインク1を充填した記録ヘッドとシアンインク1を充填した記録ヘッドの温度T2を68℃とした。
【0187】
上記シミュレーションの結果を表2に示した。なお、表2に記載のインク1の射出速度、飛翔時間、液滴量、ヘッド温度、冷却時定数およびT3は、マゼンタインク1とシアンインク1で同じであり、両者共通の値を表わす。
【0188】
実施例2〜7
実施例1において、ギャップ幅、液滴量および記録ヘッドの温度を表2のように変えたほかは同様にして、実施例2〜7の画像の形成、評価とシミュレーションを行った。
【0189】
結果を表2、3に示す。
【0190】
実施例8〜12
実施例1において、マゼンタインク1を前記マゼンタインク2に替え、シアンインク1を前記シアンインク2に替え、ギャップ幅、液滴量および記録ヘッドの温度を表2のように変えたほかは同様にして、実施例8〜12の画像の形成、評価とシミュレーションを行った。
【0191】
結果を表2、3に示す。
【0192】
実施例13
実施例1において、マゼンタインク1を前記マゼンタインク3に替え、シアンインク1を前記シアンインク3に替え、記録ヘッドの温度を表2のように変えたほかは同様にして、実施例13の画像の形成、評価とシミュレーションを行った。
【0193】
結果を表2、3に示す。
【0194】
実施例14、15
実施例1において、マゼンタインク1を下記マゼンタインク4に替え、シアンインク1を下記シアンインク4に替え、ギャップ幅、液滴量および記録ヘッドの温度を表2のように変えたほかは同様にして、実施例14、15の画像の形成、評価とシミュレーションを行った。
【0195】
結果を表2、3に示す。
【0196】
(マゼンタ顔料分散液2の調整)
以下二種の化合物をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱攪拌溶解した。
【0197】
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製) 9部
重合性化合物:OXT221(オキセタン221、東亞合成社製) 70部
室温まで冷却した後、これに下記マゼンタ顔料を21部加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理した後、ジルコニアビーズを除去してマゼンタ顔料分散液2を作製した。
【0198】
マゼンタ顔料:Pigment Red 122(大日精化製、クロモファインレッド6112JC)
(シアン顔料分散液2の調整)
マゼンタ顔料分散液2の調整において、マゼンタ顔料に変えてシアン顔料Pigment Blue 15:4(大日精化(株)製、クロモファインブルー6332JC)を用いた他は同様にして、シアン顔料分散液2を得た。
【0199】
(マゼンタインク4の調製)
下記の各添加剤を順次混合し、100℃に加熱して攪拌した後、得られた液体を加熱下、#3000の金属メッシュフィルターでろ過し、冷却して、マゼンタインク4を調製した。
【0200】
重合性化合物:OXT221(オキセタン化合物、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテル、東亞合成社製) 38.95部
重合性化合物:セロキサイド2021P(脂環式エポキシ化合物、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ダイセル化学社製) 30.0部
光重合開始剤:CPI−100P(トリアリルスルホニウム塩のプロピレンカーボネート50%溶液、サンアプロ社製) 5.0部
増感剤:DEA(ジエトキシアントラセン、川崎化成工業社製) 2.0部
界面活性剤:X22−4272(信越化学工業社製) 0.05部
マゼンタ顔料分散液4 19.0部
ゲル化剤:パラフィンワックス(mp68〜70℃;和光純薬工業社製) 5.0部
(シアンインク4の調整)
マゼンタインク4の調整において、マゼンタ顔料分散液4に替えて、シアン顔料分散液4を用いた他は同様にして、シアンインク4を調整した。
【0201】
(マゼンタインク4とシアンインク4の粘度立ち上がり温度とゲル化温度)
図8において、#4がマゼンタインク4の温度・粘度曲線である。マゼンタインク1と同様にして、図8に示したマゼンタインク4の温度・粘度曲線から、粘度立ち上がり温度が64℃であり、ゲル化温度が55℃であることが分かった。
【0202】
シアンインク4について同様に求めたが、粘度立ち上がり温度が65℃であり、ゲル化温度が55℃であった。
【0203】
実施例16
実施例12において、40℃に加熱されたアルミ製の搬送台上に置いて画像形成した以外は同様にして、画像の形成、評価とシミュレーションを行った。
【0204】
画像の形成、評価とシミュレーションの結果を表2、3に示す。
【0205】
【表2】

【0206】
【表3】

【0207】
表2、表3より、T3がゲル化温度以下、粘度立ち上がり温度+1℃以上である本発明の記録装置で記録した画像は細線の色混ざりが無く、光沢に優れ、ノズル詰まりが無く、耐擦性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0208】
1 インクジェット記録装置
2 記録ヘッド
4 高圧水銀灯
10 記録媒体
10A 捲き出しロール
10B 巻き取りロール
20 バックロール
23 ノズル
27 隔壁
28 圧力室
29 電極
30 インクジェットヘッドユニット
31 インクジェットヘッド
102 マニホールド部材
103 マニホールド部材
104 マニホールド部材
128 空気チャネル
310 ヘッドチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドの温度を粘度立ち上がり温度+1℃以上に加熱し、オイルゲル化剤を含有し室温でゲル状態となるインクで、色の異なる複数のインクを吐出する記録ヘッドを備えたインクジェット記録方法において、少なくとも1つの該インクの液滴の記録媒体に最初に接触する瞬間の温度が、ゲル化温度以上、かつ、粘度立ち上がり温度+1℃以下の温度となるように制御することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記色の異なる複数のインクの全てのインクの液滴が、記録媒体に最初に接触する瞬間に、ゲル化温度以上、かつ、粘度立ち上がり温度+1℃以下の温度となることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記記録ヘッドの温度が前記インクの粘度立ち上がり温度+5℃以上、かつ、80℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インクが、活性光線により硬化する活性光線硬化型組成物を含有し、記録媒体に着弾した後に、紫外線照射により硬化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記インクの粘度立ち上がり温度が50℃以上65℃以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記インクが前記オイルゲル化剤を0.3〜15.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録ヘッドがラインヘッドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
印字中または印字前後に、前記記録媒体を裏面から加熱することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187895(P2012−187895A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55244(P2011−55244)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】