説明

インクジェット記録用反応液、インクジェット記録方法及びインクジェット記録用インクセット

【課題】インクジェット記録方法で普通紙に印字を行う際の大きな課題であるブリーディングを改善し、裏抜けを起こさず、定着性と発色性を両立させた良好な画像形成を可能とし、かつ、熱エネルギーによる吐出によっても従来よりはるかに長期にわたる連続吐出が可能なインクジェット記録用反応液、それを用いた記録方法、更には、上記反応液と顔料インクからなるインクセットの提供。
【解決手段】顔料インクと共に使用され、該顔料インクと接触すると反応を生じるインクジェット記録用反応液であって、(a)多価金属塩と、(b)ジグリコール酸類と、(c)液媒体とを含むインクジェット記録用反応液、それを用いたインクジェット記録方法、上記反応液と顔料インクとからなるインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体、中でもとりわけ普通紙に対して高画質なカラー画像が得られるインクジェット記録用反応液、インクジェット記録方法及びインクジェット記録用インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェット記録ヘッドから記録液(インク)の微小液滴を吐出し、飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて記録を行うものである。液滴を飛翔するための吐出エネルギーを供給する手段としては、例えば、電気熱変換体を用い、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方式等、種々のものがある。これらの中でも熱エネルギーをインクに与える方式のものは、記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化が容易に実現でき、高解像度で高品質の画像を高速で記録できるという特徴がある(特許文献1)。
【0003】
一方、従来からインクジェット記録に用いられているインクは、水を主成分とし、これに乾燥や目詰まり防止等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有したものが一般的である。下記に述べるように、このようなインクを用い記録媒体としての普通紙に、上記したようなインクジェット記録を行った場合に、良好な画像が得られにくいという問題があった。中でも特に、カラー画像を得ようとした場合には、先に付与したインクが完全に定着する前に異なる色のインクが次々と重ねられるため、この傾向が大きい。具体的には、とりわけ色の境界部分で、異なる色が相互に滲み、不均一に混じり合った状態(以下、「ブリーディング」という)となるため、満足すべき画像が得られない場合があった。
【0004】
特許文献2には、ブリーディングを改善する手段として、記録媒体への浸透性を向上させるために、界面活性剤等の化合物をインクに添加することが開示されている。しかし、この方法では、記録媒体へのインクの浸透速度が高まることでブリーディングはある程度抑制されるものの、インク中の着色剤が界面活性剤の効果により記録媒体の奥深くまで入り込んでしまうことが生じる。このため、形成した画像の濃度や鮮明性が低下するとともに、記録媒体の裏面にまでインクが達し、裏面から画像が透けて見える状態(以下、「裏抜け」という)となる等の不都合が生じる場合があった。また、記録媒体表面に対する濡れ性も同時に高まるためインクが記録媒体上を広がり易くなり、結果として解像性を低下させて画像が滲んだように見える等の問題もある。
【0005】
別の手段として、インクの吐出に先立って記録媒体上に画像を良くするための別の液体(反応液)を付与させる方法が提案されている。例えば、特許文献3には、記録媒体上に予めカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のポリマーの溶液を付与してからインクにより記録する方法が開示されている。しかし、この方法を実施した場合には、ブリーディングは改善されるものの、画像の乾燥に時間がかかり、定着性に劣るという別の問題を生じる。
【0006】
このため、上記した問題を改善することを目的とした下記のような提案がある。例えば、特許文献4には、1分子当り2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体を付与した後、アニオン染料を含有したインクにより記録する方法が開示されている。また、特許文献5には、酸性液体を付与した後、インクにより記録する方法が開示されている。
【0007】
しかし、前記何れの場合においてもブリーディングは改善されるものの、下記のような問題がある。即ち、何れの場合も、反応液の反応性がそれほど高くないために、記録媒体内部で反応の大半が起こり、結果として発色性が向上しないという問題と、前述したような裏抜けの問題が依然として残されていた。
【0008】
これに対し、インクジェット記録に、より効果的な材料を使った方法としては、下記のような提案がある。例えば、特許文献6には、多価金属イオンとカルボキシル基の反応を利用してブリーディングを抑制する方法が開示されている。更に、特許文献7には、顔料と樹脂エマルジョンと多価金属塩による反応によりブリーディングを改善する方法が開示されている。しかし、これら多価金属イオンを含むインクジェット記録用反応液は、反応液としての効果は優れるものの、下記のような問題があった。即ち、記録媒体に付与するインクジェット記録方式が熱エネルギーの作用によるものである場合、該反応液の吐出速度が駆動周波数により大きく変動するという問題がある。また、該反応液を長時間にわたり連続吐出させると、吐出そのものが停止してしまうという問題がある。
【0009】
上記した反応液の吐出速度が駆動周波数により変動するという問題に関しては、特許文献8に、硝酸アンモニウムに代表されるある種の塩を反応液に添加することで改善されることが開示されている。しかし、この場合、確かに吐出速度の駆動周波数依存性は改善されるものの、逆に、連続吐出で吐出が停止してしまう傾向がより顕著となる等の問題がある。また、特許文献9には、多価金属イオンを含む反応液に、アミノ基を有する酸を添加することで連続吐出特性が改善されることが開示されている。しかし、より長期にわたる連続吐出特性については触れられていない。
【0010】
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特開昭55−65269号公報
【特許文献3】特開昭56−89595号公報
【特許文献4】特開昭63−29971号公報
【特許文献5】特開昭64−9279号公報
【特許文献6】特開平5−202328号公報
【特許文献7】特開平9−207424号公報
【特許文献8】特開2000−136337公報
【特許文献9】特開2002−172847公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上、述べてきたように、ブリーディングや裏抜けを改善する手段の一つとして、インクと反応液を用いた有効な提案が種々されている。しかし、何れの場合においてもある程度の改善は見られるものの、全ての課題を満足できるまでには至っていない。
【0012】
本発明は、この点を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、下記の通りである。即ち、インクジェット記録方法で普通紙に印字を行う際の大きな課題であるブリーディングを改善し、裏抜けを起こさず、定着性と発色性を両立させた良好な画像の形成を可能とするインクジェット記録用反応液を提供することにある。更に、本発明の目的は、液滴の吐出エネルギーが熱エネルギーであるインクジェット記録方式においても、従来よりはるかに長期にわたる連続吐出が可能なインクジェット記録用反応液を提供することにある。また、本発明の目的は、上記優れたインクジェット記録用反応液を用いたインクジェット記録方法、更には、上記反応液と顔料インクとからなるインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、顔料インクと共に使用され、該顔料インクと接触すると反応を生じるインクジェット記録用反応液であって、(a)多価金属塩と、(b)ジグリコール酸類と、(c)液媒体とを含むことを特徴とするインクジェット記録用反応液である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、上記のインクジェット記録用反応液にエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与した後又は付与する前に、顔料インクにエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与し、かつ、該記録用反応液と該顔料インクとが記録媒体上で接触するようにそれぞれを付与することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、上記何れかのインクジェット記録用反応液と、このインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こす顔料インクとを組み合わせてなることを特徴とするインクジェット記録用インクセットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、顔料インクと共に、本発明のインクジェット記録用反応液を用いることにより、普通紙に対してブリーディングのない、また、発色性も良好で高画質なカラー画像を得ることができる。また、上記に加えて、本発明のインクジェット記録用反応液は、熱エネルギーの作用により反応液を記録媒体に付与するインクジェット記録方式に用いた場合にも、その吐出特性を損なうことがない。このため、結果として、鮮明で安定した画像を長期にわたり連続して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明のインクジェット記録用反応液は、顔料インクと共に使用される顔料インクと接触すると反応を生じるものであるが、下記の(a)〜(c)の成分を有してなる。即ち、(a)多価金属塩と、(b)ジグリコール酸類と、(c)液媒体とを含んでなる。以下、これらの成分について説明する。
【0018】
<インクジェット記録用反応液>
(a)多価金属塩
多価金属塩とは、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成されるもののことである。
【0019】
多価金属イオンとしては特に限定されるものではないが、具体例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉄(II)、銅(II)、亜鉛等の二価金属イオン、鉄(III)及びアルミニウム等の三価金属イオンが挙げられる。一方、陰イオンとしては特に限定されるものではないが、具体例としては、例えば、臭化物イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0020】
また、多価金属塩の具体例としては特に限定されるものではないが、下記に挙げるようなものを使用することができる。例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化鉄(II)、塩化銅(II)、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)等の塩化物;
臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、臭化鉄(II)、臭化銅(II)、臭化亜鉛等の臭化物;
硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸鉄(II)、硝酸銅(II)、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、酢酸マグネシウム等の硝酸塩;
酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸鉄(II)、酢酸銅(II)、酢酸亜鉛等の酢酸塩;
乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム等の乳酸塩;
グリセロリン酸マグネシウム、グリセロリン酸カルシウム及びミョウバン等が挙げられる。これらは、通常の形態で結晶水を含むものであってもよい。
【0021】
また、上記したような多価金属塩の添加量は特に限定されるものではないが、画像形成の際に用いた場合に、併用する顔料インクと反応して瞬時に凝集物を形成するのに十分な濃度であればよい。例えば、多価金属イオン換算の濃度として0.13モル/kg以上1.2モル/kg以下(反応液)、更に、0.2モル/kg以上0.8モル/kg以下(反応液)が好適な範囲である。多価金属イオン換算の濃度がこれより低くなると反応液としての効果が極端に低下し、一方、高すぎても効果の向上は期待できず、また、析出物の発生や粘度が高くなる等の問題が新たに発生するおそれがある。
【0022】
(c)液媒体
本発明の反応液を構成する液媒体としては、水、水溶性有機溶剤、その他の各種添加剤が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、具体的には、下記に挙げるようなものを使用できる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール及びtert−ブチルアルコール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類;
N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;
アセトン及びジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;
グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン等のトリオール類;
N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられ、これらを単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明のインクジェット記録用反応液中における上記したような水溶性有機溶剤の含有量については特に限定されるものではない。例えば、反応液全質量中における含有量が3質量%以上60質量%以下の範囲、更に好ましくは、5質量%以上30質量%以下が好適な範囲である。
【0024】
本発明の反応液は、各種添加剤が含有されていてもよい。使用される各種添加剤としては、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等の他、記録後の記録媒体が反るのを抑制する所謂「カール抑制剤」等も適宜用いることができる。
【0025】
(b)ジグリコール酸類
以上が本発明で好ましく使用される反応液の基本組成であるが、本発明の特徴は、これらに加えて更にジグリコール酸類を反応液の構成成分とした点にある。本発明で使用されるジグリコール酸類とは、ジグリコール酸のみならず、ジグリコール酸骨格の中央の酸素原子がSやSO及びSO2になった化合物、或いはこれらの塩を意味する。その好適なものとしては、例えば、ジグリコール酸(HOOCCH2−O−CH2COOH)や、チオジグリコール酸(HOOCCH2−S−CH2COOH)や、或いは、これらの塩が挙げられる。
【0026】
本発明で使用される上記したようなジグリコール酸類の添加量としては、特に限定されるものではないが、下記のようにすることが好ましい。添加量が少な過ぎると所定の効果が期待できないので、0.0005モル/kg以上0.15モル/kg以下(反応液)の範囲とすることが好ましい。また、反応液中の多価金属イオンに対してモル比で、1/300以上含まれるようにすることが望ましい。本発明の反応液は、上記したようなジグリコール酸類が添加されているため、該反応液を顔料インクと共に画像形成に使用すれば、特に、熱エネルギーによって反応液を吐出する方式のインクジェット記録に用いた場合に、下記のような効果が得られる。即ち、熱エネルギーの作用により該反応液を吐出させる際の吐出速度の周波数依存性、具体的には、駆動周波数が高くなるにつれて、液滴の吐出速度が低下、乃至は停止する現象、及び、長時間に亘る連続吐出耐久性能の低下現象の双方が改善される。
【0027】
反応液中にジグリコール酸類を添加することにより、上記したような効果が得られるメカニズムの詳細は不明である。しかし、事実として上記したジグリコール酸類化合物の添加により、「何も添加しないと、熱エネルギーを反応液に付与するヒーター表面上に析出物が発生し、その後ヒーター表面が荒れて断線に至る」という現象が大幅に抑制されることが認められる。本発明者らは、本発明の構成によって、このような効果が得られる理由を以下のように考えている。
【0028】
つまり、反応液を構成している多価金属塩は、ヒーター表面上の熱化学反応により、局所的に極めて強いアルカリ環境を形成するとともに、一部は酸化物となり析出を起こす。ヒーター表面は耐腐食性の材料で保護されているものの、強アルカリ環境の状態が長く続くとヒーター表面がダメージを受けてしまうため、何らかの方法で中和することが必要である。ところが、一般的に知られている酸では、中性〜弱アルカリ性の環境ですぐにプロトンを放出してしまうため、局所的な箇所の中和に有効ではなかった。しかし、ジグリコール酸類は、25℃におけるpKa値が比較的大きな弱酸となる第二段目以降の塩基酸基を持つという特徴がある。このため、極度にアルカリの強い場合にのみ中和のためプロトンを放出する。従って、ヒーター表面の近傍という強アルカリ環境の箇所のみを選択的に中和することができ、上記した効果が得られたものと推測される。また、ジグリコール酸類は、25℃におけるpKa値が比較的小さな強酸となる塩基酸基も同時に分子内に持つため、反応液中での溶解性が高まり、分子としての拡散性が向上し、局所的な部分の中和に更に寄与したものと考えている。尚、ここで言うpKaとは、酸解離定数Kaの逆数の対数値を表すものであり、数値が小さいほど強い酸を意味し、数値が大きいほど弱い酸を意味する。
【0029】
ジグリコール酸類の化合物は、従来、熱、エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させるインクジェット記録方式でのインクのコゲ防止に有効ということで、使用されることもあった。しかしながら、この技術は、本発明とはメカニズムが根本的に異なり、効果的なコゲ防止剤として知られているクエン酸が、上記とは全く逆の作用を示すこと等からも、コゲ防止だけを目的とした化合物類では本発明を達成できないことも分かっている。
【0030】
本発明の反応液は、無色であることが好ましいが、記録媒体上で顔料インクと混合された際に、各色インクの色調を変えない範囲の淡色のものでもよい。更に、以上のような効果が得られる本発明における反応液の各種物性の好適な範囲としては、下記のものが挙げられる。pHは1.0乃至6.0の範囲、25℃での粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下の範囲、表面張力が28mN/m以上52mN/m以下の範囲となるように調整されたものが好ましい。
【0031】
<顔料インク>
次に、上記した構成の本発明のインクジェット記録用反応液と併用してインクセットとする場合の顔料インクについて説明する。本発明では、本発明のインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こす顔料インクを使用することが好ましい。
【0032】
(顔料)
先ず、顔料について説明するが、顔料としては、従来よりインクジェット記録用の顔料インクに使用されるものをいずれも使用することができる。具体的には、黒色の顔料としてはカーボンブラックが挙げられ、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックであって、下記のような物性を有するものを用いることができる。
(1)一次粒子径が15nm以上40nm以下、
(2)BET法による比表面積が50m2/g以上300m2/g以下、
(3)DBP吸油量が40ml/100g以上150ml/100g以下、
(4)揮発分が0.5%以上10%以下、
(5)pH値が2乃至9等の特性を有するものが好ましく用いられる。
【0033】
このような特性を有する市販品としては、例えば、下記のようなものがあり、何れも好ましく使用することができる。
No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化学社製)、
RAVEN1255(以上、コロンビア製)、
REGAL400R、REGAL330R、REGAL660R、MOGUL L(以上キャボット社製)、
Color Black FWl、Color Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、
Printex 35、Printex U(以上、デグッサ社製)等がある。
【0034】
また、カラー顔料としては一次粒子径が15nm以上300nm以下程度の特性を有するものが好適に用いられる。具体的には、イエローの顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、13、16、17、74、83、109、110、128、138、180等が挙げられる。また、マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、112、122、254、C.I.ピグメントバイオレット 19等が挙げられる。また、シアンの顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15:3、16、22、C.I.バットブルー 4(C.I.ピグメントブルー 60)、6等が挙げられる。
【0035】
勿論、本発明は、これらに限られるものではない。また、以上の他、自己分散型顔料等、新たに製造された顔料も、勿論、使用することが可能である。また、本発明で使用する顔料インク中の顔料は、顔料インクの全質量に対して、質量比で1質量%以上20質量%以下、好ましくは2質量%以上12質量%以下の範囲で用いるのが好適である。
【0036】
(分散剤)
また、本発明で使用される顔料インクの顔料の分散剤としては、親水性の材料ならどのようなものでもよいが、具体的には、親水性樹脂(高分子分散剤)や界面活性剤等が挙げられる。顔料の分散剤として働く親水性樹脂は、下記に列挙したような原料となる単量体を重合することで得られる。単量体の具体例としては特に限定されるものではないが、例えば、下記のものを挙げることができる。スチレン、α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン類;
1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;
(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸類;
マレイン酸及びその塩、マレイン酸ジメチル、無水マレイン酸等のマレイン酸類;
イタコン酸及びその塩、イタコン酸モノメチル及びその塩、イタコン酸ジメチル等のイタコン酸類;
フマル酸及びその塩、フマル酸ジメチル等のフマル酸類;
(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩等の(メタ)アクリルアミド類;
N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらの少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性の単量体又は適当な処理を施せば親水性になる単量体)を用いて共重合することで親水性樹脂が得られる。また、その立体構造としては、ブロック共重合体、グラフト共重合体、或いは、ランダム共重合体の何れでもよい。また、重合方法は、ラジカル重合、イオン重合等、使用する単量体に応じて適宜選択すればよい。或いは、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も好ましく使用することができる。
【0037】
これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。その好ましい重量平均分子量は1,000以上30,000以下の範囲であり、更に好ましくは、3,000以上15,000以下の範囲である。尚、これらの親水性樹脂を顔料の分散剤として用いる際は、顔料インクの全質量に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含有させるのが好ましい。
【0038】
また、顔料の分散剤として働く界面活性剤としては特に限定されるものではないが、下記に挙げるようなものを用いることができる。例えば、アニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、両性型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤等が挙げられ、一般に使用されているものを何れも好ましく使用することができる。具体的には、アニオン型界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩等の炭素数12乃至18の脂肪酸石けん類;
ドデシルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類;
イソプロピルナフタレンスルホン酸塩等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類;
ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸エステル塩等のジアルキルスルホコハク酸エステル塩類;
硫酸化油類、ドデシル硫酸エステル塩等の炭素数12乃至18の高級アルコール硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸塩等のアルキルエーテル硫酸塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩類;
ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸エステル塩等のアルキルエーテルリン酸エステル塩類;
ドデシルリン酸エステル塩、オクタデシルリン酸エステル塩等のアルキルリン酸エステル塩類等が、挙げられる。
【0039】
また、カチオン型界面活性剤としては、例えば、オクチルアミン塩、ドデシルアミン塩、ステアリルアミン塩等の炭素数8乃至24の脂肪族アミン塩類;
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド等の脂肪族4級アンモニウム塩類;
ベンザルコニウム塩類;
ベンゼトニウム塩類;
セチルピリジニウムクロリド等の炭素数12乃至18のピリジニウム塩類;
イミダゾリニウム塩類等、が挙げられる。
【0040】
両性型界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルベタイン等のカルボキシベタイン類;
N−ドデシルグリシン等のアミノカルボン酸塩類;
2−ドデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリニウムベタイン類等が挙げられる。
【0041】
ノニオン型界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等の炭素数12乃至22のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
アセチレンジオールのポリオキシエチレン付加物類;
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー及びそのアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類;
ポリエチレングリコールラウリルエステル等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類;
ソルビタン脂肪酸エステル類等、が挙げられる。
【0042】
これらの界面活性剤は、単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよく、これらを適宜用いて多価金属塩と好ましい反応性を持たせるために、分散された顔料粒子がマイナスに帯電するように設計すればよい。
【0043】
上記したような顔料と分散剤が含有されている顔料インクは、中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。このようにすれば、分散剤として使用される親水性の材料の溶解性を向上させ、長期保存性に一層優れた顔料インクとすることができる。ただし、この場合、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、pHを7乃至10の範囲とするのが望ましい。
【0044】
この際に使用されるpH調整剤としては、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム等の各種有機アミン;
水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤;
酢酸、乳酸等の有機酸や、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸等を使用することができる。
【0045】
(水性液媒体)
本発明で使用される顔料インクを構成する好適な水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、具体的には下記のようなものが挙げられる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;
アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;
グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン等のトリオール類;
N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらは単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。これらの水溶性有機溶剤の含有量は、特に限定されるものではないが、一般的には、顔料インク全質量の3質量%以上50質量%以下の範囲、より好ましくは、3質量%以上40質量%以下の範囲である。
【0046】
(添加剤)
また、本発明で使用する顔料インクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性を得るために、界面活性剤、消泡剤及び防腐剤等を、適宜に添加することができる。特に、浸透促進剤として機能する界面活性剤は、記録媒体に反応液と顔料インクの液体成分を速やかに浸透させる役割を担うため、適量を添加させることが好ましい。この場合における添加量の例としては、0.05質量%以上10質量%以下、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下が好適である。
【0047】
上記において使用する界面活性剤としては、アニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、両性型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤等が挙げられ、一般に使用されているものを何れも好ましく使用することができる。この場合に使用するアニオン型界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩等の炭素数12乃至18の脂肪酸石けん類;
ドデシルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類;
イソプロピルナフタレンスルホン酸塩等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類;
ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸エステル塩等のジアルキルスルホコハク酸エステル塩類;
硫酸化油類、ドデシル硫酸エステル塩等の炭素数12乃至18の高級アルコール硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸塩等のアルキルエーテル硫酸塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩類;
ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸エステル塩等のアルキルエーテルリン酸エステル塩類;
ドデシルリン酸エステル塩、オクタデシルリン酸エステル塩等のアルキルリン酸エステル塩類等、が挙げられる。
【0048】
カチオン型界面活性剤としては、例えば、オクチルアミン塩、ドデシルアミン塩、ステアリルアミン塩等の炭素数8乃至24の脂肪族アミン塩類;
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド等の脂肪族4級アンモニウム塩類;
ベンザルコニウム塩類;
ベンゼトニウム塩類;
セチルピリジニウムクロリド等の炭素数12乃至18のピリジニウム塩類;
イミダゾリニウム塩類等、が挙げられる。
【0049】
両性型界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルベタイン等のカルボキシベタイン類;
N−ドデシルグリシン等のアミノカルボン酸塩類;
2−ドデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリニウムベタイン類等が挙げられる。
【0050】
ノニオン型界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等の炭素数12乃至22のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
アセチレンジオールのポリオキシエチレン付加物類;
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー及びそのアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類;
ポリエチレングリコールラウリルエステル等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類;
ソルビタン脂肪酸エステル類等、が挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(顔料インクの作製方法)
上記したような成分からなる本発明で使用する顔料インクの作製は、下記のようにして行うことができる。先ず、分散剤としての親水性の材料と水とが少なくとも含有された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の分散液を得る。また、この際、分散処理する前に、プレミキシングを30分間以上行うのが効果的である。即ち、このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0052】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものも使用することができる。具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル及びサンドミル等が挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0053】
インクジェット記録方法に用いる顔料インクでは、耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いる。ここで、所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、具体的には下記のような方法があるが、何れの方法を用いてもよい。即ち、分散機の粉砕メディアのサイズを変更すること、粉砕メディアの充填率を増減すること、処理時間を調節すること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等を適用できる。
【0054】
次に、この分散液に上記で挙げたような添加剤成分を適宜加え、撹拌して本発明で使用する顔料インクとする。本発明における顔料インクの各種物性の好適な範囲としては、pHは5乃至10の範囲、25℃での粘度が1.5mPa・s以上30mPa・s以下の範囲、表面張力が28mN/m以上52mN/m以下の範囲となるように調整されたものが好ましい。尚、反応液と顔料インクの表面張力に差をつけることで、記録媒体上で反応液と顔料インクが十分に混合し、その後、速やかに浸透させることもできる。このようにすることで、発色性のみならず高速印字のための定着性を更に向上させることも可能である。
【0055】
<インクジェット記録方法>
上記で述べたインクジェット記録用反応液は、特に下記のようなインクジェット記録方式に好適である。反応液にエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与した後又は付与する前に、顔料インクにエネルギーを与えて記録媒体上にインクを付与し、かつ、反応液と顔料インクとが記録媒体上で接触するようにする方式である。また、上記エネルギーが、熱エネルギーである方式に適用することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載において、「部」又は「%」とあるものは特に断わらない限り質量基準である。
【0057】
[合成例1(顔料分散液の作製)]
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチルからなるランダム共重合体
(酸価200、重量平均分子量9,000) 1.4部
・モノエタノールアミン 1.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・イオン交換水 81.6部
【0058】
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液にカーボンブラック(FW18、デグサ社製)10部、イソプロピルアルコール1部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ、1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積比)
・粉砕時間:3時間
更に、遠心分離処理(12,000rpm.、20分間)を行い、粗大粒子を除去してブラック(K)顔料分散液とした。
【0059】
[合成例2〜4(顔料分散液の作製)]
顔料として、合成例1で使用したカーボンブラック(FW18、デグサ社製)を、それぞれ下記の顔料に代えた以外は合成例1と同様の処理で、合成例2〜4の、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の各色顔料分散液を得た。合成例2のシアン(C)顔料分散液には、C.I.ピグメントブルー15:3を用いた。合成例3のマゼンタ(M)顔料分散液には、C.I.ピグメントレッド7を用いた。合成例4のイエロー(Y)顔料分散液には、C.I.ピグメントイエロー74をそれぞれ用いた。
【0060】
〔製造例1(顔料インクK1の作製)〕
合成例1で得たブラック顔料分散液を用い、下記の組成比に従い、顔料を含有するインクを作製して顔料インクとした。得られた顔料インクの表面張力は38mN/mであった。
・合成例1の顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1.0部
・イオン交換水 54.0部
【0061】
〔製造例2(顔料インクC1の作製)〕
合成例1で得た顔料分散液に代えて、合成例2で得たシアン顔料分散液を用いた以外は製造例1と同様の処方にて、顔料を含有した顔料インクC1を調製した。得られた顔料インクの表面張力は37mN/mであった。
【0062】
〔製造例3(顔料インクM1の作製)〕
合成例1で得た顔料分散液に代えて、合成例3で得たマゼンタ顔料分散液を用いた以外は製造例1と同様の処方にて、顔料を含有した顔料インクM1を調製した。得られた顔料インクの表面張力は36mN/mであった。
【0063】
〔製造例4(顔料インクY1の作製)〕
合成例1で得た顔料分散液に代えて、合成例4で得たイエロー顔料分散液を用いた以外は製造例1と同様の処方にて、顔料を含有した顔料インクY1を調製した。得られた顔料インクの表面張力は37mN/mであった。
【0064】
〔製造例5(顔料インクK2の作製)〕
合成例1で得たブラック顔料分散液を用い、下記の組成比に従い、顔料を含有するインクを作製して顔料インクとした。得られた顔料インクの表面張力は51mN/mであった。
・合成例1の顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 54.9部
【0065】
〔製造例6(顔料インクC2の作製)〕
合成例1で得た顔料分散液に代えて、合成例2で得たシアン顔料分散液を用いた以外は製造例5と同様の処方にて、顔料を含有した顔料インクC2を調製した。得られた顔料インクの表面張力は49mN/mであった。
【0066】
〔製造例7(顔料インクM2の作製)〕
合成例1で得た顔料分散液に代えて、合成例3で得たマゼンタ顔料分散液を用いた以外は製造例5と同様の処方にて、顔料を含有した顔料インクM2を調製した。得られた顔料インクの表面張力は49mN/mであった。
【0067】
〔製造例8(顔料インクY2の作製)〕
合成例1で得た顔料分散液に代えて、合成例4で得たイエロー顔料分散液を用いた以外は製造例5と同様の処方にて、顔料を含有した顔料インクY2を調製した。得られた顔料インクの表面張力は48mN/mであった。
【0068】
〔製造例9(反応液S1の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・ジグリコール酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(MILLIPORE製)にて加圧濾過し、pHを4.0に調整し、反応液S1を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0069】
〔製造例10(反応液S2の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・ジグリコール酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1.6部
・イオン交換水 78.2部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S2を得た。得られた反応液の表面張力は31mN/mであった。
【0070】
〔製造例11(反応液S3の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸マグネシウム6水和物 12.0部
・ジグリコール酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 77.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを5.0に調整し、反応液S3を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0071】
〔製造例12(反応液S4の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・チオジグリコール酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S4を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0072】
〔製造例13(反応液S5の作製)〕
・ジエチレングリコール 8.0部
・メチルアルコール 5.0部
・硝酸カルシウム4水和物 8.0部
・ジグリコール酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 78.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S5を得た。得られた反応液の表面張力は32mN/mであった。
【0073】
〔製造例14〜16(反応液S6〜S8の作製)〕
製造例9〜11で得た反応液S1〜S3の各組成からジグリコール酸類を除き、その減少分を水としたこと以外は同一の組成にて作製し、反応液S6〜S8とした。尚、得られた反応液の表面張力はジグリコール酸類を含む場合と同じであった。
【0074】
〔製造例17(反応液S9の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・クエン酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S9を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0075】
〔製造例18(反応液S10の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・硝酸アンモニウム 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S10を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0076】
〔製造例19(反応液S11の作製)〕
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・グルタミン酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S11を得た。得られた反応液の表面張力は36mN/mであった。
【0077】
[実施例1]
製造例1〜4で得た顔料インクK1、C1、M1及びY1と、製造例9で得た反応液S1とを用い、下記のような画出し試験を行った。具体的には、これらを装填した評価検討用インクジェット描画装置と普通紙(キヤノン(株)製PPC用紙:オフィスプランナー)を用い、評価画像パターン(ISO JIS−SCID No.5 自転車)の5,000枚連続印字を行った。その際、反応液S1を、全ての顔料インクのインクドットに先立って紙に付与させた。印字条件としては、1,200dpiの記録密度を有し、1ドット当たりの吐出体積が4plの記録ヘッドを用い、駆動条件としては、15kHzの駆動周波数により行った。また、印字テストの際の環境条件は、温度25℃、相対湿度55%に統一した。評価方法としては、得られた印字物のブリーディング、即ち、各インクが隣接して印字された部分の混色度合いを目視観察し、同時に発色性と裏抜け性も同様に目視観察した。その結果、5,000枚目の印字画像であってもブリーディングの発生箇所は認められず、鮮明な印字物が得られた。また、ブラック及びカラー印字部分の発色性並びに裏抜け性も反応液S1を付与しなかった場合と比較して非常に良好であった。
【0078】
[実施例2〜10]
実施例1と同様の評価を、表1に示した顔料インクと反応液の組み合わせで行い、ブリーディング、発色性、裏抜け性を目視にて評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
製造例9で得た反応液S1に代えて、製造例14で得た反応液S6を用いた以外は実施例1と同様の連続印字試験を行い、ブリーディングを含めた評価を印字物の目視観察により行った。その結果、500枚の印字を経過したあたりから画像の数箇所に発色性の違いに由来する色ムラが発生し始め、700枚以降では画像全体の発色性が不良となった。更に、2,000枚時点では、反応液を使用しない条件と大差ない画像となったため、これ以上の連続印字試験を中止した。これは記録ヘッドからの反応液の吐出が停止したことが原因とみられ、その後、記録ヘッドのノズルから直接反応液を吸引する等の手段で回復操作を試みたが、吐出が停止したノズルから再び反応液を吐出させることはできなかった。ここで、吐出が停止したノズルを顕微鏡観察したところヒーター表面が大きく損傷を受けていることが確認された。
【0080】
[比較例2〜11]
実施例1と同様の評価を、表1に示した顔料インクと反応液の組み合わせで行い、ブリーディング、発色性、裏抜け性を目視にて評価した。結果を表1に示す。
【0081】

【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、顔料インクと共に、本発明のインクジェット記録用反応液を用いることにより、普通紙に対してブリーディングのない、また、発色性も良好で高画質なカラー画像を得ることができる。また、同時に、熱エネルギーの作用により反応液を記録媒体に付与する方式で用いても、本発明のインクジェット記録用反応液は吐出特性を損なわないため、結果として、鮮明で安定した画像を長期にわたり連続して得ることができるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料インクと共に使用され、該顔料インクと接触すると反応を生じるインクジェット記録用反応液であって、(a)多価金属塩と、(b)ジグリコール酸類と、(c)液媒体とを含むことを特徴とするインクジェット記録用反応液。
【請求項2】
ジグリコール酸類が、ジグリコール酸、チオジグリコール酸及びその塩から選ばれる化合物である請求項1に記載のインクジェット記録用反応液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクジェット記録用反応液にエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与した後又は付与する前に、顔料インクにエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与し、かつ、該記録用反応液と該顔料インクとが記録媒体上で接触するようにそれぞれを付与することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
エネルギーが、熱エネルギーである請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のインクジェット記録用反応液と、このインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こす顔料インクとを組み合わせてなることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。

【公開番号】特開2008−265104(P2008−265104A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109643(P2007−109643)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】