説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】
分散安定性、吐出性が良好で、高い印字濃度、耐水性、耐ブリード性(異色間の境界部での画質劣化現象の起こり難さ)及び耐擦過性を有するインクジェット記録用水分散体及び水系インクを提供することを課題とする。
【解決手段】
重量平均分子量が1000〜15000であり、疎水性モノマー由来の構成単位を90重量%以上と両末端にイオン性基とを有する水不溶性ポリマー及び着色剤を含有してなるインクジェット記録用水分散体及び前記水分散体を含有させて水系インクとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水分散体、及び前記水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式によれば、使用する装置が低騒音で操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用することができるという利点があるため、近年広く用いられている。インクジェットプリンターに使用されるインクは、耐水性や耐光性を向上させるため、近年、着色剤として顔料又は疎水性染料系インク(以下、単に、顔料系インクという)が主に使用されている。
【0003】
しかしながら、顔料系インクは、水系インクに使用した場合、顔料がインク中に溶解しないため、インクの保存性が悪いという欠点がある。
インクの耐水性、耐マーカー性及び耐擦過性を向上させるために、粒状物質と、溶媒と、イオン性官能基、酸残基または塩基残基を末端に有するポリマーとを含有するイオン性官能基を有するポリマーを含有する組成物(特許文献1)、着色剤及び末端に2以上の水酸基を有する水不溶性ポリマーを含有してなる水系インク(特許文献2)、(A)塩生成基含有モノマーと、(B)マクロマーと、(C)塩生成基含有モノマー及びマクロマーと共重合可能なモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させてなり、末端にイオン性基を有する水不溶性ポリマー及び顔料を含有してなる水系インク(特許文献3)が提案されている。
しかしながら、これらの水系インクは、耐水性、耐マーカー性及び耐擦過性においてある程度の改善が認められるが未だ十分であるとはいえない。また、インクジェットプリンターで印字したときに、かすれた印字物になりやすく、印字濃度に難点があり、また、ブリード性(異色間の境界部で起こる画質劣化現象)に問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−261738公報
【特許文献2】特開2004−26988公報
【特許文献3】特開2004−210951公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分散安定性、吐出性が良好で、高い印字濃度、耐水性、耐ブリード性(異色間の境界部での画質劣化現象の起こり難さ)及び耐擦過性を有するインクジェット記録用水分散体及び水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、重量平均分子量が1000〜15000であり、疎水性モノマー由来の構成単位を90重量%以上と両末端にイオン性基とを有する水不溶性ポリマー及び着色剤を含有してなるインクジェット記録用水分散体及び該水分散体を用いたインクジェット記録用水系インクである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水系インクは、分散安定性に優れるとともに、インクジェットプリンターで印字する際の吐出性にも優れ、かつ良好な高い印字濃度、耐水性と耐ブリード性及び耐擦過性とを有している。
【発明の実施の形態】
【0008】
<着色剤>
着色剤としては、耐水性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いるのが好ましい。顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらに体質顔料を併用することもできる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー13、17、74、83、93、97、109、110、120、128、139、151、154、155、174、180;C.I.ピグメント・レッド48、57:1、122、146、176、184、185、188、202;C.I.ピグメント・バイオレット19、23;C.I.ピグメント・ブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、60;C.I.ピグメント・グリーン7、36等が挙げられる。
【0009】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中で、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。これらの中では、ファーネスブラック、チャンネルブラックが好ましい。体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム及びタルク等が挙げられる。
【0010】
疎水性染料は、ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。
疎水性染料を水不溶性ポリマー粒子中に効率よく含有させる観点から、疎水性染料は、水分散体の製造時に使用される有機溶媒に対する溶解度が、好ましくは2g/L以上、より好ましくは20〜500g/Lであるものが好適である。
【0011】
油溶性染料は特に限定されるものではないが、耐水性の観点から、例えば、C.I.ソルベント・ブラック3、7、27、29、34、45;C.I.ソルベント・イエロー14、16、29、56、82、83:1;C.I.ソルベント・レッド1、3、8、18、24、27、43、49、51、72、73;C.I.ソルベント・バイオレット3;C.I.ソルベント・ブルー2、4、11、44、64、70;C.I.ソルベント・グリーン3、7、7;C.I.ソルベント・オレンジ2等が挙げられ、そのほか水溶性染料を油溶化した染料を用いてもよい。
これらの中では、イエローとして、C.I.ソルベント・イエロー29及び30、シアンとしてC.I.ソルベント・ブルー70、マゼンタとしてC.I.ソルベント・レッド18及び49、ブラックとしてC.I.ソルベント・ブラック3、7及びニグロシン系の黒色染料が好ましい。上記の着色剤は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0012】
<水不溶性ポリマー>
本発明は、重量平均分子量が1000〜15000であり、疎水性モノマー由来の構成単位を90重量%以上と両末端にイオン性基とを有する水不溶性ポリマー(以下、単に水不溶性ポリマーということがある)を用いることを特徴とする。
着色剤を水系インク中に安定分散させるためには、界面活性剤、水溶性ポリマー又は水不溶性ポリマーを用いることができる。特に、耐水性、高い印字濃度及び耐ブリード性及び耐擦過性に優れた水系インクを得るためには、水不溶性ポリマーのポリマー粒子中に着色剤を含有させることが好ましい。
【0013】
水不溶性ポリマーとしては、ビニルポリマー、エステルポリマー、ウレタンポリマー等が挙げられる。これらのポリマーの中では、水不溶性ビニルポリマーが好ましい。
【0014】
水不溶性ポリマーの両末端のイオン性基は、イオン性基を有する重合開始剤(A)、イオン性基を有する連鎖移動剤(B)及び重合開始剤と連鎖移動剤との機能をもつイニファーター(C)(以下、単に「イニファーター」ということがある)からなる群から選ばれた1種以上の化合物由来であることが好ましい。必要に応じて、モノマーに由来する末端でもよい。
【0015】
本明細書における「イオン性基」とは、現に電荷を有していてイオン状態になっている官能基及び電荷を有していないが外的作用によってイオンとなりうる能力を有する官能基の双方を意味する。
【0016】
本明細書でいう水不溶性ポリマーの「末端」とは、水不溶性ポリマーの主鎖における末端を意味し、側鎖における末端は意味しない。従って、水不溶性ポリマーがグラフトコポリマーである場合には、水不溶性ポリマーの「末端」には、グラフト鎖の末端は含まれない。
【0017】
両末端にイオン性基を有する水不溶性ポリマーは、イオン性基を有する重合開始剤(A)とイオン性基を有する連鎖移動剤(B)又はイニファーター(C)からなる群より選ばれた1種以上の存在下に、モノマーを重合させることによって得ることができる。
【0018】
イオン性基としては、カチオン性基、アニオン性基及びベタイン性基が挙げられる。また、異なるイオン性基を併用してもよい。
【0019】
カチオン性基の具体例としては、式:−NHn102-n(式中、nは0〜2の整数、R10はそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基を示す)で表されるアミン塩基、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、式:−P(R20)2(式中、R20は、それぞれ独立してアルキル又はアリール基を示す)で表されるホスフィン基等が挙げられ、これらのカチオン性基は、それぞれ単独で又は2種以上を用いてもよい。これらの中では、インクの分散安定性と、耐水性及び耐擦過性との両立の観点から、アミン塩基が好ましい。なお、前記アルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、また前記アリール基としては、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0020】
アニオン性基の具体例としては、−COOM基(式中、Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニア又はアミンを示す。以下同じ)、−SO3M基、−PO32基等が挙げられ、これらのアニオン性基は、それぞれ単独で又は2種以上を用いてもよい。
【0021】
ベタイン性基の具体例としては、カルボベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基、例えば、アミノ酸に含まれているような、分子内にアミノ基とカルボキシル基とを有するもの等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を用いることができる。これらの中では、インクの分散安定性と、耐水性及び耐擦過性との両立の観点から、分子内にアミノ基とカルボキシル基とを有するものが好ましい。
【0022】
イオン性基を有する重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)、二塩基酸、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン] ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。その中で、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]がより好ましい。
【0023】
イオン性基を有する連鎖移動剤としては、連鎖移動を起こす官能基及びイオン性基を有するものであればよい。連鎖移動を起こす官能基としては、例えば、メルカプト基、ジスルフィド基等が挙げられるが、中でもメルカプト基が好ましい。イオン性基を有する連鎖移動剤におけるイオン性基の数には制限がなく、その数は、2以上であってもよい。
【0024】
イオン性基を有する連鎖移動剤の具体例としては、1-アミノ−2−メチル−2−プロパンチオール、2−アミノエタンチオール、2−ジエチルアミノエタンチオール、2−ジメチルアミノエタンチオール、4−アミノチオフェノール、ジチオジアニリン、3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジンチオール、2−メルカプトチアゾリン等のカチオン性を有する連鎖移動剤;チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ乳酸、4,4’−ジチオブチリック酸、3,3’−ジチオプロピオン酸、ジチオグリコール酸等のアニオン性を有する連鎖移動剤;並びにDL−ペニシラミン、N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン、DL−システイン、DL−ホモシステイン、シスタミン、DL−シスチン等のチオール基含有アミノ酸及びその誘導体等のベタイン性を有する連鎖移動剤が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
なお、優れた吐出性を有する水系インクを得る観点から、カチオン性を有する連鎖移動剤の中では、2−アミノエタンチオール及び2−ジエチルアミノエタンチオールが好ましく、アニオン性を有する連鎖移動剤の中では、チオグリコール酸、メルカプトコハク酸及びメルカプトプロピオン酸が好ましく、ベタイン性を有する連鎖移動剤の中では、DL−システインが好ましい。これらの中でも、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸及びメルカプトコハク酸がより好ましい。また、末端に2個のイオン性基を与える連鎖移動剤であるメルカプトコハク酸でもよい。
【0026】
イニファーター(C)としては、1,2−ビスカルボキシメチル−1,1,2,2−テトラフェニルエタン、1,2−ビス(2−カルボキシエチル)−1,1,2,2−テトラフェニルエタン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
イオン性基を有する連鎖移動剤(A)とイオン性基を有する重合開始剤(B)、及びイニファーター(C)の中では、イオン性基を有する連鎖移動剤とイオン性基を有する重合開始剤は、その使用が簡便であるので好ましい。
【0028】
電荷を有していないが、外的作用によってイオンとなりうる能力を有する官能基を持つ連鎖移動剤を用いる場合、水系インクを調製する前に、その官能基の全部又は一部をイオン化させる。イオン化は、この連鎖移動剤にイオン化させる化合物を添加することによって連鎖移動剤が有する官能基をイオン化させてもよく、もしくは水不溶性ポリマー中に存在している官能基によって分子内で該官能基をイオン化させてもよい。
【0029】
例えば、連鎖移動剤としてチオグリコール酸の存在下でモノマーを重合させた場合には、得られた重合反応混合物中に、チオグリコール酸の活性水素を中和しうるアルカリ性化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリ性化合物を添加すればよい。しかし、この場合においても、ポリマーを構成するモノマーの中にアミノ基を有するモノマーが含まれている場合には、生成したポリマーの末端のカルボキシル基は、すでにイオン化されているので、重合終了時にあえてアルカリ性化合物を添加する必要がない。
【0030】
なお、連鎖移動剤として、カチオン性基を有する連鎖移動剤を用いた場合には、逆の電荷を有する化合物、すなわち陰イオン性を有する化合物を用いればよい。
【0031】
1000〜15000の重量平均分子量の水不溶性ポリマーを得る観点並びに分散安定性、耐水性、耐擦過性及び耐ブリード性に優れた水系インクを得る観点から、イオン性基を有する重合開始剤(A)とイオン性基を有する連鎖移動剤(B)の合計使用量は、重合に供される全モノマー100重量部に対して、好ましくは5〜40重量部、より好ましくは10〜40重量部、特に好ましくは20〜35重量部であり、イオン性基を有する重合開始剤(A)の使用量は、重合に供される全モノマー100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは5〜25重量部、特に好ましくは7〜20重量部であり、イオン性基を有する連鎖移動剤(B)の使用量は、重合に供される全モノマー100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは5〜25重量部、特に好ましくは7〜20重量部である。
また、イニファーター(C)の使用量は、分散安定性、耐擦過性及び耐ブリード性に優れた水系インクを得る観点から、重合に供される全モノマー100重量部に対して、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部、特に好ましくは7〜20重量部である。
【0032】
なお、本明細書にいう水不溶性ポリマーにおける「水不溶性」とは、ポリマーを有機溶媒に溶解させ、イオン性基及び有する場合にはその塩生成基を100%中和し、105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が2g未満であることを意味する。「水溶性」とは「水不溶性」以外を意味する。
【0033】
本明細書においてポリマーを構成するモノマーの種類については何ら制限がないが、良好な耐水性、耐擦過性、高い印字濃度及び良好な耐ブリード性を最大限に発現させるために、ポリマーは、水不溶性ビニルポリマーであることが好ましい。水不溶性ビニルポリマーとしては、イオン性基を有する重合開始剤(A)とイオン性基を有する連鎖移動剤(B)との存在下、又はイニファーター(C)の存在下、90重量%以上の疎水性モノマーを含有するモノマーを重合させて得られるポリマーが好ましい。
イオン性基は、本質的に、水不溶性ポリマーの両末端以外は有さないことが好ましい。また、水不溶性ポリマーの両末端以外は、疎水性モノマー由来の構成単位であることが好ましい。これにより、着色剤と水不溶性ポリマーとの相互作用を高めることができる。
従って、重合に供されるモノマー中、後述する疎水性モノマー又は水不溶性ポリマー中、疎水性モノマー由来の構成単位は、90〜100重量%が好ましく、95〜100重量%が更に好ましく、98〜100重量%が特に好ましい。
また、重合に供されるモノマー中、後述する塩生成基含有モノマー又は水不溶性ポリマー中、塩生成基由来の構成単位は、0〜5重量%が好ましく、0〜3重量%が更に好ましく、0〜2重量%が特に好ましい。
【0034】
疎水性モノマーは、式(I)及び/又は式(II)で表されるモノマーからなる群より選ばれた1種以上のモノマーであることが好ましい。
CH2=C(R1)COOR2 (I)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R2は、炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数3〜30の環式炭化水素を示す。)
CH2=C(R3)R4 (II)
(式中、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R4は炭素数6〜22のアリール基を示す。)
モノマー(I)及び/又は(II)は、印字濃度及び耐ブリード性の観点から、1種以上が含有されていることが好ましい。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
式(I)中のR1は、水素原子又はメチル基が好ましく、R2は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、又は炭素数3〜30の環式炭化水素基が好ましく挙げられる。
式(I)のアルキル基を有するモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート等のエステル部分が炭素数1〜22のアルキル基である(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。これらは2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
なお、本明細書にいう「(メタ)アクリ」とは、「アクリ」、「メタクリ」又はそれらの混合物を意味する。また、(イソ又はターシャリー)及び(イソ)は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルを示す。また、(メタ)アクリレートは、メタクリレートとアクリレートの両方を意味する。以下においても同様である。
【0037】
式(I)のアリール基を有するモノマーとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1−ナフタリルアクリレート、2−ナフタリル(メタ)アクリレート、フタルイミドメチル(メタ)アクリレート、p−ニトロフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸等の炭素数6〜22のアリール基が好ましく挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。アリール基としては、アルキルアリール基及びアリールアルキル基を含む。
【0038】
式(I)の環式炭化水素基を有するモノマーとしては、炭素数6〜22の単環式、二環式、さらには三環式以上の多環式(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。具体的には、炭素数6以上の単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、二環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、三環式(メタ)アクリレートとしてはアダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、保存安定性の観点から、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
式(II)中のR3は水素原子又はメチル基が好ましく、R4は、炭素数6〜22のアリール基が好ましい。
式(II)で表されるモノマーは、耐水性の観点から、スチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレンから選ばれた1種以上が好ましい。これらの中では、印字濃度及び耐ブリード性の観点から、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びビニルナフタレンから選ばれた1種以上がより好ましい。アリール基としては、アルキルアリール基及びアリールアルキル基を含む。
【0040】
必要に応じて、上記疎水性モノマーと共重合可能なモノマーとを含むモノマー混合物を重合させてなる水不溶性ビニルポリマーであってもよい。共重合可能なモノマーとして、塩生成基含有モノマー、マクロマー、水酸基含有モノマー及び親水性ノニオンモノマーが挙げられる。
【0041】
塩生成基含有モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマー等が挙げられる。アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
【0043】
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。これらの中では、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマーが好ましい。
【0044】
マクロマーとしては、数平均分子量500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の重合可能な不飽和基を有するマクロマーが挙げられる。その中では、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーが着色剤との親和性が高いことから好ましい。
【0045】
スチレン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体又はスチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。これらの中では、片末端に重合性官能基としてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するものが好ましい。他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0046】
マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0047】
水酸基含有モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。それらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0048】
親水性ノニオンモノマーとしては、式(III)
CH2C=C(R5)COO(R6O)p7 (III)
(式中、R5は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R6はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R7は水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは平均付加モル数であり、1〜60の数を示す)。
で表されるモノマーからなる群より選ばれた1種以上のモノマーが含有されていてもよい。R6Oは、炭素数2〜3のオキシアルキレン基が好ましく、R7は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。
【0049】
ポリエチレングリコール(1〜30:式(III)中のpの値を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレートが好ましい。
【0050】
水不溶性ビニルポリマーにおける疎水性モノマーは、水系インクの吐出安定性、印字濃度及び耐ブリード性を向上させる観点から、式(II)のモノマーが好ましい。
【0051】
重合に供される全モノマー中、マクロマー、水酸基含有モノマー及び親水性ノニオンモノマーのモノマーの合計量は、水中での水不溶性ポリマーの安定性及び水系インクの耐水性を向上させる観点から、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%であり、疎水性モノマー100重量部に対しては、好ましくは0〜10重量部、更に好ましくは0〜5重量部である。
水不溶性ビニルポリマーの重量平均分子量(実施例に記載の方法で測定)は、印刷後の耐水性、耐擦過性及び分散安定性の点から、1,000〜15,000、好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは3,000〜10,000である。イオン性基は、本質的に、水不溶性ポリマーの両末端以外には有さないことが好ましいので、分散安定性を確保するためにこの範囲が好ましい。
また、ポリマーの酸価(KOHmg/g)は、7〜120が好ましく、又はアミン価(HCLmg/g)は、5〜80が好ましい。
【0052】
水不溶性ビニルポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマーを共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
【0053】
溶液重合法に用いられる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒は、水と混合して用いることもできる。
【0054】
極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン又はこれらと水との混合液が好ましい。必要に応じて、トルエンを併用してもよい。
【0055】
モノマーの重合条件は、使用するイオン性基を有するラジカル重合開始剤と連鎖移動剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は30〜100℃、好ましくは50〜90℃であり、重合時間は1〜24時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0056】
重合反応の終了後、再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、反応溶液から水不溶性ビニルポリマーを単離することができる。また、得られた水不溶性ビニルポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0057】
水不溶性ビニルポリマーの中和剤としては、ポリマーが有する塩生成基の種類に応じて酸又は塩基を用いることができる。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。
【0058】
水不溶性ビニルポリマーの中和度には、特に限定がない。通常、得られる水分散液の液性が中性、例えば、pHが4〜11であることが好ましい。
【0059】
水不溶性ビニルポリマーの中和後、該水不溶性ビニルポリマーを単独でインク中に含有させてもよく、あるいは着色剤を含有させた水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子をインク中に含有させてもよい。これらの中では、着色剤を含有させた水不溶性ビニルポリマーのポリマー粒子の方が、分散安定性、耐擦過性、吐出性及び耐ブリード性を満足させる観点から好ましい。
【0060】
本発明のインクジェット記録用水分散体又は水系インク中における水不溶性ポリマーの含有量は、分散安定性、耐擦過性、吐出性及び耐ブリード性の観点から、0.05〜30重量%が好ましく、0.1〜15重量%が更に好ましい。
本発明のインクジェット記録用水分散体又は水系インク中における着色剤の含有量は、十分な安定性及び印字濃度を付与する観点から、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは2〜20重量%である。
【0061】
顔料を含有する、両末端にイオン性基を有する水不溶性ポリマーのポリマー粒子の水分散体 (以下、「両末端イオン性ポリマー水分散体」という)を得る方法としては、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、顔料、水、中和剤及び必要に応じ界面活性剤を加えて混合した後、混合物を、分散処理する工程、前記混合物から有機溶媒を除去する工程が好ましい。
混合物中、着色剤は、5〜50重量%が好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、水は、10〜70重量%が好ましい。中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4〜11であることが好ましい。中和剤は前述のものを用いることができる。
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられ、水に対する溶解度が20℃において、50重量%以下のものが好ましく、10重量%以上が好ましい。分散処理には、高速攪拌混合装置、高圧ホモジナイザー等を用いることができる。
有機溶媒の除去は、減圧蒸留等による一般的な方法により行うことができる。得られた水不溶性ポリマー粒子の水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は0.1重量%以下、好ましくは0.01重量%以下である。着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有する水不溶性グラフトポリマーの固体分が水を主溶媒とする中に分散しているものである。
着色剤を含む、水不溶性ポリマー粒子は、少なくとも着色剤と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されているものであれば粒子形態は特に制限されるものではなく、例えば、水不溶性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、水不溶性ポリマーに着色剤が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマーに着色剤が内包されているが、粒子表面に一部の着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
水不溶性グラフトポリマー粒子の水分散体はそのまま水系インクとして用いてもよいが、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加してもよい。
【0062】
水不溶性ポリマーのポリマー粒子と着色剤の重量比は、印字濃度を高め、ポリマー粒子に着色剤を含有させやすくし、耐水性、耐擦過性及び耐マーカー性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーの固形分1000重量部に対して、好ましくは20〜1000重量部、より好ましくは40〜800重量部である。
【0063】
得られる水分散体及び水系インクにおける、水不溶性ポリマーのポリマー粒子の平均粒径は、以下の製造例に記載の方法で測定される。かかる平均粒径は、分散安定性の観点から、10〜500nmであり、好ましくは20〜250nmである。
【0064】
水分散体及び水系インク中、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の含有量(固形分)は、通常、印字濃度及び吐出安定性の観点から、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは3〜25重量%となるように調整することが望ましい。
イオン性基の中和度は、50〜200%であることが好ましく、さらに60〜150%、特に70〜150%であることが好ましい。ここで中和度は、イオン性基がアニオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]×100
また、イオン性基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価 (HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から算出することができるが、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して滴定する方法を用いて求めることもできる。
【0065】
本発明の水分散体及び水系インク中の水の含量は、好ましくは30〜90重量%,より好ましくは40〜80重量%である。
【0066】
本発明の水分散体及び水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、水分散体としては30〜65mN/m、さらに好ましくは35〜60mN/mであり、水系インクとしては、25〜50mN/mであり、さらに好ましくは27〜45mN/mである。
本発明の水分散体の10重量%濃度の粘度(20℃)は、水系インクとした時に好ましい粘度とするために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sが更に好ましい。また、本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、2〜12mPa・sが好ましく、2.5〜10mPa・sが更に好ましい。
【実施例】
【0067】
製造例1〜6(ポリマー溶液の調製)
反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー」の欄に示す種類及び量のモノマー、溶媒並びにイオン性基を有する連鎖移動剤を仕込み、窒素ガス置換を十分に行った後、75℃に昇温した。製造例4のイニファーターを用いた場合は、90℃に昇温した。
一方、滴下ロートに表1の「滴下モノマー」の欄に示す種類及び量のモノマー、溶媒、連鎖移動剤並びに開始剤等を加え、前記反応容器内に5時間かけて滴下しながら重合を行った後、更に2時間熟成させた後、メチルエチルケトンを適宜追加し、ポリマー固形分濃度が50重量%のポリマー溶液を得た。
【0068】
なお、製造例1〜3、6で得られたポリマーは、重合開始剤と連鎖移動剤由来のイオン性基を両末端に有し、製造例4で得られたポリマーは、イニファーター由来のイオン性基を両末端に有し、製造例5で得られたポリマーは、片末端がイオン性基を有しないものである。
【0069】
得られたポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離し、標準物質としてポリスチレン、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより重量平均分子量を測定したところ、得られたポリマーは、表1に示す重量平均分子量を有していた。
なお、得られたポリマーがイオン性基を末端に有することは、核磁気共鳴法等により確認することができる。
【0070】
表1に示す各名称は、以下のことを意味する。
・メタクリル酸2−エチルヘキシル:三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルEH
・スチレンモノマー:新日鉄化学(株)製、商品名:スチレンモノマー
【0071】
【表1】

【0072】
製造例7〜16(顔料含有水不溶性ポリマー粒子水分散体の調製)
製造例1〜6で得られたポリマー溶液28重量部(ポリマー固形分:50重量%)に、表2に示す顔料、メチルエチルケトン、イオン交換水及び中和剤を加えて十分に攪拌した後、3本ロール〔(株)ノリタケカンパニー製、商品名:NR−84A〕を用いて約0.5〜1時間混練してペーストを得た。
【0073】
得られたペーストをイオン交換水250重量部に投入し、十分に攪拌した後、エバポレーターを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、固形分量が20重量%の顔料含有水不溶性ポリマー粒子水分散体を得た。得られた水不溶性ポリマーのポリマー粒子の平均粒径を以下の方法に従って求めた。その結果を表2に示す。
【0074】
〔平均粒径の測定法〕
大塚電子(株)製のELS−8000(キュムラント法)を用いて測定した。測定条件は、温度が25℃、入射光と検出器との角度が90°、積算回数が200回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0075】
なお、表2に記載の各名称は、以下のことを意味する。
・カーボンブラック:キャボット社製、商品名:Monarch 880
・シアン顔料:大日本インキ工業(株)、商品名:Fastogen Blue TGR-SD
・油溶性シアン染料:BASF社製、商品名:Neozapon Blau 807
【0076】
【表2】

【0077】
実施例1〜7
製造例7〜13で得られた着色剤含有水不溶性ポリマー粒子水分散体37.5重量部、グリセリン10重量部、ジエチレングリコール5重量部、2−{2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ}エタノール5重量部、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン-4,7−ジオールのEO付加物(n=10)0.2重量部及びイオン交換水42.3重量部を混合し、得られた混合液を5μmのメンブランフィルター〔富士写真フィルム(株)製、商品名:ディスクカプセル CALC500 2.5CMD 50〕で濾過し、それぞれ実施例1〜7の水系インクを得た。これらの水系インクは両末端にイオン性基を含有する水不溶性ポリマーを含有していた。
【0078】
比較例1、2
実施例1において、顔料含有水不溶性ポリマー粒子水分散体をそれぞれ製造例14及び15で得られた顔料含有水不溶性ポリマー粒子水分散体に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1及び2の水系インクを得た。これらの水系インクは、その末端は水酸基とイオン性基を含有する水不溶性ポリマーである。
【0079】
次に、各実施例及び各比較例で得られた水系インクの物性を以下の方法に基づいて測定した。その結果を表3に示す。
【0080】
(1) 吐出性
市販のエプソン(株)製のプリンター(登録商標)(品番:EM930C)を用いて、普通紙XEROX4024に2000文字/枚を10枚連続印刷した後、文字、ベタパターン及び罫線を含むテスト文書を印字し、以下の評価基準に基づいて吐出性を評価した。
【0081】
〔評価基準〕
○:シャープでハッキリとした文字、均一なベタ印刷、及びよれのない罫線印刷の3項目をいずれも満足する場合(実使用上問題なし)
△:シャープでハッキリとした文字、均一なベタ印刷、及びよれのない罫線印刷の3項目をいずれもほぼ満足する場合(実使用上問題なし)
×:シャープでハッキリとした文字、均一なベタ印刷、及びよれのない罫線印刷のうち、1項目以上を満足しない場合(実使用上問題あり)
【0082】
(2)印字濃度(OD)
前記プリンターと普通紙を用いてベタ印字し、25℃で24時間放置後、印字濃度をマクベス濃度計(マクベス社製、品番:RD914) で測定し、次の評価基準で評価した。
〔評価基準〕
○:印字濃度が1.30以上
△:印字濃度が1.20以上、1.30未満
×:印字濃度が1.20未満
【0083】
(3)耐水性
上記プリンターと紙を用い、ベタ印字直後に45°傾斜台にセットし、印字画像にスポイト水を1ml滴下した。25℃にて自然乾燥させた後印字濃度を測定した。非印字部が黒ずんでいないか否かを目視により観察し、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
○:非印字部が無色である。ほとんど色がついてなく実用上問題がないレベル。
×:非印字部が汚れる。水を垂らした後が付く。
【0084】
(4)耐ブリード性
前記プリンターと紙を用い、Yellow,Magenta,Cyan,Black(4色)で画像を印字し、異色間の境界部の滲みを目視により観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
○:異色間の境界部の滲みがない。実用上気にならないレベル。
×:異色間の境界部の滲みが発生し、混色している。
【0085】
(5)耐擦過性
上記プリンターを用い、光沢紙(エプソン社製、商品名:絹目光沢紙)にベタ印字し、24時間経過後、指で強く印字面を擦った。その印字のとれ具合を以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
○:印字が擦りとられ、少し周りが黒くなるが、実用上問題ないレベル。
×:かなり印字が擦りとられ、周りがひどく黒くなり、指も相当汚れる。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示された結果から、実施例1〜7で得られた水系インクは、両末端にイオン性基を有するポリマーが用いられているため、印字濃度、耐水性、耐ブリード性及び耐擦過性に優れるとともに、インクジェットプリンターで印字した際の吐出性に優れていることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1000〜15000であり、疎水性モノマー由来の構成単位を90重量%以上と両末端にイオン性基とを有する水不溶性ポリマー及び着色剤を含有してなるインクジェット記録用水分散体。
【請求項2】
該イオン性基が、イオン性基を有する重合開始剤(A)、イオン性基を有する連鎖移動剤(B)及び重合開始剤と連鎖移動剤との機能をもつイニファーター(C)からなる群から選ばれた1種以上の化合物由来である請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項3】
水不溶性ポリマーが、イオン性基を有する重合開始剤(A)とイオン性基を有する連鎖移動剤(B)との存在下又はイニファーター(C)の存在下、90重量%以上の疎水性モノマーを含有するモノマーを重合させて得られるポリマーである請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項4】
前記モノマー100重量部に対して、前記(A)と(B)との合計使用量が5〜40重量部又は(C)の使用量が5〜30重量部である請求項3に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項5】
疎水性モノマーが、式(I)又は式(II)で表されるモノマーからなる群より選ばれた1種以上のモノマーである請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
CH2=C(R1)COOR2 (I)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R2は、炭素数1〜30の炭化水素基、又は炭素数6〜30のアリール基若しくは炭素数3〜30の環式炭化水素を示す。)
CH2=C(R3)R4 (II)
(式中、R3は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、R4は炭素数6〜22のアリール基を示す。)
【請求項6】
イオン性基を有する連鎖移動剤が、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸及びメルカプトコハク酸からなる群より選ばれた1種以上であり、イオン性基を有する重合開始剤が、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]からなる群より選ばれた1種以上である請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。


【公開番号】特開2006−176624(P2006−176624A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370829(P2004−370829)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】