説明

インクジェット記録装置、およびインクジェット記録装置における記録ヘッドの回復方法

【課題】回復動作時間の短縮を図りつつ、ミストによる弊害を抑制することが可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】記録装置本体1にはインク受け部7A1、7B1が設けられ、このインク受け部に対して記録ヘッド3のノズルからインクを吐出させて予備吐出を行う。この予備吐出の実行に際し、記録媒体が記録領域8に存在する場合にはインク受け部7A1、7B1よって記録ヘッド3のノズルの周囲を覆う閉状態とし、記録媒体が記録領域8に存在しない場合にはノズルの周囲を開放する開状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出可能な記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置および記録ヘッドの吐出性能を良好な状態に回復させるための回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の多くは、定期的にインクをノズルより吐出させ、ノズル内のインクを吐出に適したインクに置き換える、いわゆる予備吐出を行っている。通常、予備吐出は記録媒体の搬送経路の外側に設けられた予備吐出口や、吸引手段と記録ヘッドのキャッピング手段とを兼ねた吸引キャップに対して行われる。吸引キャップへの予備吐出では、キャップ内に予備吐出されたインクを適当なタイミングで吸引するようになっている。しかしながら、予備吐出を行った場合、キャップや予備吐出口といったインク受け部の表面に到達する主なインク滴(主滴)とは別に微小なインク滴が発生し、これが空気中に浮遊してミストとなることがある。また、インク受け部に到達したインク滴がインク受け部で跳ね返ることによってミストとなることも知られている。
【0003】
このようなインクミストが発生した状態で、キャリッジの走査が行われた場合、キャリッジの移動に伴う気流の発生によってミストが録装置内を移動し、記録媒体に付着したり、記録ヘッドの吐出面やプラテンに付着したりして記録媒体を汚してしまうことがある。また記録装置内の可動部にミストが付着して固化することによりキャリッジをはじめとする可動部の移動抵抗が上昇し、記録動作に支障を来たす虞もある。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1には、予備吐出時の吐出数が多い場合に吐出口をキャップで覆った状態で予備吐出することで、記録装置内への浮遊ミストを低減させる技術が開示している。
【0005】
【特許文献1】特開2007−125900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1に開示の技術によれば、吐出口をキャップで覆った状態で予備吐出を行うことにより、ミストの発生を抑制することは可能となる。しかし、吐出口をキャップで覆うためには、記録ヘッドへ向けてキャップを移動させる時間が必要となるため、吐出状態を回復させるための所要時間が増大する。特許文献1では、吐出数が多い予備吐出を行う場合には、常に吐出口をキャップで覆うようになっていたため、スループットが低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、回復動作時間の短縮を図りつつ、ミストによる弊害を抑制した回復方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成を有する。
【0009】
すなわち、本発明の第1の形態は、記録装置本体に定められた記録領域へと搬送された記録媒体に対し記録ヘッドに設けられたノズルからインクを吐出させて画像の記録を行うと共に、前記記録装置本体に設けられたインク受け部に対して前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出を実行可能とするインクジェット記録装置であって、前記インク受け部は前記ノズルの周囲を覆う閉状態と前記インク受け部を前記ノズルの周囲から離間させる開状態のいずれかに設定することが可能であり、前記予備吐出を実行する際に、前記記録媒体が前記記録領域に存在する場合には前記閉状態とし、前記記録媒体が前記記録領域に存在しない場合には前記開状態とするよう制御する制御手段、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の形態は、記録装置本体に定められた記録領域へと搬送された記録媒体に対し記録ヘッドに設けられたノズルからインクを吐出させて画像の記録を行うと共に、前記記録装置本体に設けられたインク受け部に対して前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出を実行可能とするインクジェット記録装置における記録ヘッドの回復方法であって、
前記予備吐出を実行する際に前記記録媒体が前記記録領域に存在する場合には前記インク受け部が前記ノズルの周囲を覆う前記閉状態を形成し、前記記録媒体が前記記録領域に存在しない場合にはインク受け部を前記ノズルの周囲から離間させる開状態を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、記録領域に記録媒体が存在する場合にはインク受け部によって記録ヘッドの吐出口を覆った閉状態で予備吐出を行うため、インクミストの発生を低減でき、記録媒体がインクミストで汚されるのを大幅に軽減することができる。また記録領域に記録媒体が存在しない場合には、インク受け部が記録ヘッドから離間した開状態で予備吐出が行われるため、予備吐出のための所要時間の短縮を図ることが可能となる。さらに、このとき記録領域上には記録媒体が存在しないため、発生したミストが記録媒体へと付着するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に適用可能なインクジェット記録装置の内部構成を模式的に示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に適用する記録ヘッドを模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態におけるインクジェット記録装置において実施される複数種の予備吐出それぞれの吐出数及びキャップの開閉状態を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における吸引動作シーケンスを示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における吸引後予備吐出動作の動作方式決定シーケンスを示すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態における吸引後予備吐出動作の動作方式決定シーケンスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係わるインクジェット記録装置を示す平面図である。図1において、1は記録媒体の搬送系ユニット(図示せず)を含む各種の機構部を備えた記録装置本体を示している。なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置は、シリアル型のインクジェット記録装置となっている。このシリアル型の記録装置は、搬送系ユニットによって記録媒体をY方向へと間欠的に搬送すると共に、記録ヘッド3を記録媒体の搬送方向であるY方向(副走査方向)と直交する方向であるX方向(主走査方向)へと移動させながら記録動作を行う。また、図1に示す記録装置本体1は、比較的大判の記録媒体(例えば、A1サイズ)への記録を行い得るよう、X方向におけるサイズを大型化した構成となっている。記録媒体には、カット紙やロール紙等を用いることが可能である。
【0014】
また、図1において、2は、記録ヘッド3が着脱可能に搭載されるキャリッジ2を示している。このキャリッジ2は記録ヘッド3と共に記録媒体の搬送方向と直交する方向(X方向)に沿って往復移動する。具体的には、キャリジ2は、X方向に沿って配置されたガイド軸4に移動可能に支持されると共に、ガイド軸4と略平行に移動する無端ベルト5に固定されている。無端ベルト5は、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復移動し、それによってキャリッジ2をX方向(主走査方向)に往復移動させる。このキャリッジ2に搭載された記録ヘッド3と対向する領域内に記録媒体を通過させる記録領域8が定められている。すなわち、この記録領域8は、記録ヘッドによって記録を行い得る範囲となっている。従って、搬送系ユニットにより不図示の記録媒体準備位置から記録領域8に搬送された記録媒体には、記録ヘッド3から吐出されたインクが着弾し、画像が記録される。また、記録装置本体1内には、記録領域8における記録媒体の有無を検出する不図示の記録媒体検出センサが設けられている。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態に係わるキャリッジ2に搭載された記録ヘッド3の模式図である。記録ヘッド3には、図2の模式図に示されるように吐出口形成面3bに形成される複数の吐出口3aと、個々の吐出口3aに対応して形成された複数の液路(図示せず)と、複数の液路にインクを供給する共通液室(図示せず)とが形成されている。なお、以下の説明においては、吐出口3aと液路とを含めてノズルと称す。
【0016】
本実施形態の各記録ヘッド3には、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ブラックの6色のインクそれぞれに対応して6つのノズル郡Nc、Nm、Ny、NLc、NLmおよびNbが設けられている。各ノズル群は、同色のインクを吐出する吐出口が1200dpi(ドット/インチ)の密度で1280個配列された構成となっている。この記録ヘッド3は、キャリッジ2に搭載された状態で、キャリッジ2と共に図2のX方向(主走査方向)に沿って往復移動する。また、図2に示す記録ヘッド3では、記録動作の高速化および高精細化のために、吐出口3aが千鳥状に配列されている。記録ヘッド3の各液路には、インクを吐出口3aから吐出させるための吐出エネルギーを発生させるエネルギー発生素子が配置されている。このエネルギー発生素子として、本実施形態では、インクを局所的に加熱して膜沸騰を起こさせ、その圧力によってインクを吐出させる電気熱変換体が用いられている。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機械変換素子を用いることも可能である。
【0017】
また、キャリッジ2に搭載される記録ヘッド3の各吐出口群には、色材を含有したインクを収容したインクタンクよりインクが供給される。本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ブラックの色材を含有するインクを収容したインクタンク(図示せず)が記録装置本体3に備えられている。そして、記録装置本体3に備えられた各インクタンクは、それぞれ対応する記録ヘッド3のノズル群にインク供給口にチューブ(図示せず)を介して連結されおり、このチューブを介して各インクタンクから対応する各記録ヘッドにインクが供給される。
【0018】
7は記録ヘッド3の各吐出口3aからのインクの吐出性能を良好な状態に保つための回復処理装置を示している。この回復処理装置7は、記録装置本体1の記録領域8より外側であり、かつ記録ヘッド3と対向可能な所定の位置に保持・固定されている。この回復処理装置7は、吸引回復機構7A,7Bと、これを昇降させる不図示の昇降機構と、ワイピング回復装置9を備える。
【0019】
吸引回復機構(排出手段)7A,7Bは、回復処理の一形態である吸引回復処理を行う。この吸引回復処理とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから強制的にインクを吸引することによって、ノズル内に生じた気泡や増粘したインクを排出させ、ノズル内のインクを吐出に適した状態のインクに置き換える処理をいう。具体的には、この吸引回復機構7A,7Bは、吐出口形成面3b(図2参照)をインク受け部としてのキャップ7A1,7B1で覆うと共に、そのキャップに連通する不図示のポンプ(負圧発生手段)によってキャップ7A1,7B1内に負圧を発生させる。この負圧によって吐出口3aからインクが強制的にキャップ7A1,7B1内に吸引されてポンプを介して外部へと排出させる。また、本実施形態のインクジェット記録装置は、回復処理の他の形態である予備吐出を吸引回復機構7A,7Bのキャップ7A1,7B1に対して行う。この予備吐出とは、ノズル内のインクを吐出に適した状態のインクに置き換えるために、画像の記録に寄与しないインクの吐出を行うものである。なお、吸引回復機構7Aは、図2に示す3つのノズル郡Nc、Nm、Nyの吸引回復を行い、吸引回復機構7Bは、ノズル郡NLc、NLm、Nbの吸引回復を行う。
【0020】
また、ワイピング回復装置(ワイピング回復手段)9は、記録ヘッド3の移動経路の端部位置(例えば、記録ヘッドのホームポジション)に、上下方向において対向可能に設けられている。ワイピング回復機構9は、記録ヘッドの吐出口形成面3bをワイピング部材(ブレード)10を用いて払拭するワイピング機構(ワイピング手段)と、このブレード10の稼動部とを備える。
【0021】
図3は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の記録装置本体1に搭載される制御系(制御手段)の概略構成を示すブロック図である。図6において、100は主制御部を示している。この主制御部100は演算手段、制御手段、判別手段としての処理を実行するCPU101と、このCPU101によって実行すべき制御プログラム等を格納するROM102を備える。さらに、主制御部100は、インクの吐出/非吐出を表す2値の記録データを格納するバッファおよびCPU101による処理のワークエリア等として用いられるRAM103と、入出力ポート104などを備える。
【0022】
前記入出力ポート104には、搬送ユニットにおける搬送モータ(LFモータ)113、キャリッジモータ(CRモータ)114、記録ヘッド3、および回復処理装置7などの各駆動回路105,106,107,108が接続されている。さらに、入出力ポート104には、種々のセンサ類が接続されている。このセンサ類としては、例えば、記録ヘッドの温度を検出するヘッド温度センサ(ヘッド温度検出手段)112やキャリッジ2に固定されたエンコーダセンサ111や記録装置本体1の温度および湿度を検出する温湿度センサ109などがある。
【0023】
また、入出力ポート104には、記録ヘッドのノズルから吐出あるいは排出されたインク量をインク滴の吐出数としてカウントするカウンタ116、117、118、119が接続されている。ここで、カウンタ116は回復処理装置7によって記録ヘッド3から強制的にインクを排出させた場合に、そのインク量を、インク滴の吐出数としてカウントする回復処理カウンタである。カウンタ117は、記録開始前や記録終了時、記録中に行われる予備吐出をカウントする予備吐出カウンタである。カウンタ118は、ふち無し記録を行う場合に記録媒体領域外に記録されるインクをカウンタするふち無しインクカウンタである。また、カウンタ119は、記録中に吐出するインクをカウントする吐出ドットカウンタである。以上の構成は、記録装置本体1内に搭載されている。また、主制御部100はインターフェース回路110を介して、記録装置本体1の外部に設けられたホストコンピュータ115に接続されている。
【0024】
次に、以上の構成を有するインクジェット記録装置によって実行される記録動作の概略を説明する。ホストコンピュータ115からインターフェースを介して記録データを受信すると、その記録データはRAM103のバッファに展開される。そして、記録動作が指示されると、不図示の搬送ユニットが作動し、記録媒体を記録ヘッド3との対向位置へと搬送する。ここで、キャリッジ2はガイド軸4に沿って主走査方向(X方向)へと移動する。キャリッジ2の移動に伴って、記録ヘッド3からは、インクの吐出/不吐出を示す2値の記録データに従ってインク滴が吐出され、記録媒体に1バンド分の画像が記録される。この後、搬送ユニットにより、記録媒体はキャリッジ2と直交するY方向(副走査方向)に1バンド分だけ搬送される。以上の動作を繰り返すことにより、記録媒体には所定の画像が形成される。
【0025】
なお、キャリッジ2の位置は、キャリッジ2の移動に伴ってエンコーダセンサ111から出力されるパルス信号を主制御部100でカウントすることにより検出される。すなわち、エンコーダセンサ111は、主走査方向に沿って配置されたエンコーダフィルム6(図1参照)に一定の間隔で形成された検出部を検出することによってパルス信号を主制御部100へ出力する。主制御部100はこのパルス信号をカウントすることにより、キャリッジ2の位置を検出する。キャリッジ2のホームポジションおよびその他の位置への移動についても、エンコーダセンサ111からの信号に基づいて行われる。
【0026】
次に、本実施形態によって実行される予備吐出について説明する。予備吐出には、以下の2つの方式がある。その一つは、記録ヘッド3の吐出口形成面3bとキャップ7A1,7B1が離間した状態で、キャップ7A1,7B1に向けて予備吐出を行う方式である。以下、この方式の予備吐出をキャップ開予備吐出と称す。また、他の方式としては、記録ヘッド3の吐出口形成面3bとキャップ7A1,7B1とを密接させることによって記録ヘッド3の吐出口3aの周囲を覆い、吐出口3aを外気から遮断した状態で予備吐出を行う方式がある。以下、この方式の予備吐出を、キャップ閉予備吐出と称す。なお、以下の説明において、キャップ7A1,7B1を記録ヘッド3の吐出口形成面3bから離間させることを、キャップを開くと称し、キャップ7A1,7B1を記録ヘッド3の吐出口形成面3bに密着させることを、キャップを閉くと称す。また、キャップが開いた状態から閉じた状態へと切換える動作をキャッピングとも言う。
【0027】
図4に本実施の形態におけるインクジェット記録装置によって実施される各種予備吐出における吐出数と予備吐出方式を示す。本実施形態で実施される予備吐出の種類としては、記録前予備吐出、記録中予備吐出、ワイプ後予備吐出および吸引後予備吐出などがある。ここで、記録前予備吐出は、ノズルからのインクの蒸発によって発生する記録初期のかすれ等を解消するために閉状態となっていたキャップを記録動作を開始するために開状態とする直前に行う予備吐出である。この記録前予備吐出では、前回のキャッピングから記録前予備吐出を開始するまでの経過時間に応じて吐出発数が異なる。本実施形態においては、前回のキャッピングから記録前予備吐出を開始するまでの経過時間に応じて一つのノズルあたり、100発から10000発までの吐出数が選択される。この記録前予備吐出において、選択される吐出数が一ノズルあたり100発程度であれば、例えキャップ7A1,7B1を開いていたとしても多くのミストは発生せず、記録媒体や記録装置本体1の可動部などへのミストの影響は小さい。しかし、この記録前予備吐出は、記録信号が入る度に実施されるため、実際の記録前予備吐出の実行回数は多く、記録装置本体や記録媒体に対するミストの影響は大きくなる。このため、記録前予備吐出では、キャップ7A1,7B1を閉じた状態で予備吐出(キャップ閉予備吐出)が実行される。
【0028】
記録中予備吐出は、記録中や記録の中断の間に、ノズルからインクの水分が蒸発することによって生じる記録のかすれや、濃度上昇を解消するために、記録中や記録の中断の間に特定の時間間隔で行う予備吐出モードである。本実施形態において、記録中は、記録ヘッド3の走査前に、記録ヘッド3の吐出口形成面3aから離間しているキャップ7A1,7B1に向かって16発の予備吐出(キャップ開予備吐出)が実行される。また、ホストコンピュータ115からの記録データの転送待ち等によって記録が中断されている間は、3秒に一回の間隔でキャップ7A1,7B1を開けた状態で予備吐出が実行される。記録中予備吐出は、一回あたりのミストの発生量が少ないため、記録媒体や記録装置本体1への影響は小さい。しかし、各走査が実施される度に記録中予備吐出が実施されるため、記録装置本体1に対するミストの影響はゼロではない。従って、ミストによる影響を考慮するとキャップ閉予備吐出を行うことが好ましい。しかし、スループットへの影響が非常に大きいため、キャップ開予備吐出が実行される。
【0029】
ワイプ後予備吐出は、吐出口形成面3bに付着していた各色のインクをワイピング部材10で払拭した後に行う予備吐出である。ワイピング部材によって吐出口形成面3bに付着したインクが払拭されることにより、ノズル内には異色のインクが押し込められて混色を来たすことがある。この混色インクがそのまま記録媒体に吐出された場合には、画像品質が低下するため、ノズル内の混色インクは記録動作に先立って排出させることが必要となる。このため、ワイプ後予備吐出が実行される。本実施形態では、ワイピング動作後、1000発のキャップ閉予備吐出が実行される。ワイピングは、記録終了時もしくは各操作後に実行される。ワイピング後予備吐出はワイピング毎に実行されるため、記録装置本体寿命期間中に実行される回数も多いため、ミストの発生量を抑えるべく、キャップ閉予備吐出が実行される。
【0030】
吸引後予備吐出は、吸引回復動作によってキャップ上に発生した混色インクが、ノズル内へと逆流することによってノズル内に生じた混色インクが記録媒体上に吐出されるのを防ぐために行う予備吐出である。本実施形態においては、吸引回復動作は、所定時間毎あるいは所定の吐出数毎に自動的に行われる。またユーザが所定のタイミングで任意に実行することも可能である。この吸引後予備吐出は、記録終了時、若しくは記録動作中にスキャンを停止した後に実行される。
【0031】
図5に本実施形態における吸引動作シーケンスを示す。本実施形態においては、吸引動作が行われると(ステップ1)、その吸引動作によって破れたノズルのメニスカスを確実に再形成するためにワイピング(ステップ3)を実施し、その後、吸引後予備吐出を実施する(ステップ5)。ここで吸引後予備吐出発数は、インク色によって異なり10000〜100000発である。なお、吸引動作時には、キャップ7A1,7B1は閉じた状態にあるため、ワイピング動作を行う前には、図5のステップ2に示すようにキャップ7A1,7B1を開いて、吐出口形成面3bから離間させ、ワイピング部材との干渉を避ける。また、ステップ3でワイピングを実行した後には、一秒間の待機時間をおき、ワイピングで払拭されたインクがノズル内に吸引されてから、吸引後予備吐出を行う。これによれば、ノズル内の混色インクをより確実に排出することが可能になる。
【0032】
ところで、本願の発明者らの検討によると、記録媒体である記録用紙が、記録領域8内に存在する状態で、吸引後予備吐出をキャップ開予備吐出で行った場合、記録用紙から30cm離れた位置から肉眼で観察できる程度に記録用紙にミストが付着していた。また、記録用紙が記録領域内に存在しない状態で、吸引後予備吐出をキャップ開予備吐出で行った場合、その後の記録動作などにおいても、記録用紙へのミスト付着は認められなかった。なお、吸引後予備吐出の記録装置本体寿命中における実行回数は、他の予備吐出と比較して圧倒的に少ない。このため、吸引後予備吐出をキャップ開予備吐出で実行した時の、記録装置本体へのミストの影響は小さい。但し、上記のように記録領域内に記録用紙が存在した場合には、記録用紙上にミストが付着するという問題は生じる。
【0033】
そこで上記のような検討結果に基づき、本実施形態では、吸引動作実行時に記録領域8内に記録媒体が存在する場合、記録媒体へのミスト付着を防止するために、吸引後予備吐出がキャップ閉予備吐出で実行される。また記録領域8内に記録媒体が存在しない場合には、回復時間を短縮させるべく、吸引後予備吐出がキャップ開予備吐出で実行される。このように、記録領域8内に記録媒体が存在しない場合にキャップ開予備吐出を行うようにすることで、キャップ閉予備吐出を行う場合に比べて5秒の回復時間短縮が可能となった。なお、吸引後予備吐出は、図4に示すように一回の吐出数が多く、キャップ7A1,7B1に予備吐出されたインクがキャップ容量を超えてしまう。このため、本実施形態ではキャップ開予備吐出の実行時にポンプを動作させてキャップ内のインクを外部へと排出させながら予備吐出を実行し、キャップからインクが溢れるのを回避するようになっている。また、キャップ閉予備吐出実行時には、ポンプとキャップとを結ぶ流路内に設けた大気連通弁を開放した状態でポンプを動作させ、キャップ内のインクを外部に排出させながら予備吐出を行う。
【0034】
図6に本実施形態における吸引後予備吐出を実行する際の予備吐出方式決定シーケンスを示す。
吸引動作実行指令が発生すると、ステップ10において、記録領域8に記録媒体が存在しているか否かを判断する。この判断は、記録領域内に記録媒体が存在しているか否かを検出する記録媒体検出センサの検出信号(検出結果)に基づいてCPU101が行う。ここで、記録領域に記録媒体が存在していないと判断された場合には、吸引後予備吐出として、キャップ閉予備吐出が選択される(ステップ11)。また記録媒体が存在している場合には、吸引後予備吐出として、キャップ開予備吐出が選択される(ステップ12)。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。
上記の第1の実施形態では、記録媒体が記録領域8内に存在しているか否かを記録媒体検出センサによって検出するものとなっているのに対し、この第2の実施形態におけるインクジェット記録装置には、記録媒体検出センサを設けていない。また、上記第1の実施形態では、記録媒体として予め所定のサイズを有するカット紙を用いるものとなっている。これに対しこの第2の実施形態では、記録媒体としてカット紙だけでなくロール紙をも使用することが可能であり、さらに記録用紙がロール紙である場合には、記録動作終了後に切断するモードと切断しないモードとを選択することが可能になっている。この第2の実施形態は、まずこれらの点で第1の実施形態と相違し、さらに吸引後予備吐出を実行するに先立ち、以下に説明する図7の予備吐出方式決定シーケンスを実行する点で上記第1の実施形態と相違する。但し、この第2の実施形態においても、図1ないし図3に示す構成を備え、かつ図5に示す各種予備吐出を行うものとなっており、これらについての重複説明は省略する。
【0036】
次に、図7のフローチャートに基づき、吸引後予備吐出を実行する際に行われる予備吐出方式決定シーケンスを説明する。
吸引動作実行指令が発生すると、まず、記録動作中か否か、つまり形成すべき画像の記録が完了していない状態にあるか否かを、記録データに基づき判断される(ステップ21)。ここで記録動作中であると判断された場合には、記録領域8に記録媒体が存在していることになるため、実行すべき吸引後予備吐出としてキャップ閉予備吐出が選択される。またステップ21において記録動作中でないと判断された場合には、さらにステップ22において、使用する記録媒体としてロール紙が選択されているか否か、すなわちロール紙が選択されているか、カット紙が選択されているかを判断する。ここでロール紙が選択されておらず、カット紙が選択されていると判断された場合には、記録領域8に記録媒体が存在していないこととなるため、実行すべき吸引後予備吐出としてキャップ開予備吐出が選択される(ステップ27)。なお、カット紙を使用した記録動作では、記録媒体への記録動作が完了した時点で記録媒体は記録領域8から排紙部へと排出されるため、記録領域8には存在しない。
【0037】
一方、ステップ22においてロール紙が選択されていると判断された場合には、記録動作終了後にロール紙の切断を行う切断モードが設定されているか否かを判断する(ステップ23)。この切断モードでは、記録媒体への記録動作が終了した後、記録媒体の搬送方向において記録領域8よりも上流側の位置で周知の切断手段により記録媒体が切断される。従って、ステップ23において切断モードが設定されていると判断された場合には、記録領域8に記録媒体が存在していないこととなるため、実行すべき吸引後予備吐出としてキャップ開予備吐出が選択される。また、ステップ23において切断しないモードが設定されていると判断された場合には、記録領域8に記録媒体が存在していると判断されるため、実行すべき吸引後予備吐出として、キャップ閉予備吐出が選択される(ステップ26)。
【0038】
以上のように、この第2の実施形態においては、記録媒体検出センサを用いなくとも、記録領域中に記録媒体が存在しているか否か判断することができる。そして、記録媒体が記録領域8に存在する場合には、吸引後予備吐出としてキャップ閉予備吐出を実行してミストの発生量を抑えるため、記録媒体へのミストの付着による画像品質の低下を抑えることができる。また、記録媒体が記録領域8に存在しない場合には、吸引後予備吐出としてキャップ開予備吐出を実行する。このため、キャップ7A1,7B1によって記録ヘッド3の吐出口形成面3bに当接させるための移動動作などを省略することができ、予備吐出の所要時間を短縮することが可能となり、良好なスループットが得られる。
【0039】
なお、上記の各実施形態では、実行可能な各種予備吐出の中で一回の吐出量が最も多くなる吸引後予備吐出に際して、記録領域8に記録媒体が存在するか否かに応じてキャップ開予備吐出またはキャップ閉予備吐出を選択して実行する場合を例に採り説明した。しかしながら、記録領域8に記録媒体が存在する場合にキャップ開予備吐出を行い、記録領域8に記録媒体が存在しない場合にキャップ閉予備吐出を行うという予備吐出方式の選択を、吸引後予備吐出以外の予備吐出において実行することも可能である。すなわち、上記のような予備吐出方式の選択を実行すべき予備吐出の種類は、予備吐出におけるミストの発生量や記録媒体へのミストの影響度などを考慮して定めれば良く、吸引後予備吐出方式に限定されない。
【0040】
また、上記各実施形態では、記録ヘッドの吐出性能を維持するための回復手段として、記録ヘッドのノズルから強制的にインクを排出させる排出手段として、吸引回復機構を備えるものを例示した。しかし、ノズルから強制的にインクを排出させる排出手段としては、吸引回復機構の他に、記録ヘッド内に圧力(正圧)を加えて、強制的に記録ヘッドのノズルからインクを押し出す、加圧回復装置も存在する。本発明は、この加圧回復装置を用いたインクジェット記録装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 記録装置本体
2 キャリッジ
3 記録ヘッド
3a 吐出口
3b 吐出口形成面
7 回復処理装置
7A,7B 吸引回復機構
7A1,7B1 キャップ
8 記録領域
9 ワイピング回復装置
10 ワイピング部材
100 主制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録装置本体に定められた記録領域へと搬送された記録媒体に対し記録ヘッドに設けられたノズルからインクを吐出させて画像の記録を行うと共に、前記記録装置本体に設けられたインク受け部に対して前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出を実行可能とするインクジェット記録装置であって、
前記インク受け部は前記ノズルの周囲を覆う閉状態と前記インク受け部を前記ノズルの周囲から離間させる開状態のいずれかに設定することが可能であり、、
前記予備吐出を実行する際に、前記記録媒体が前記記録領域に存在する場合には前記閉状態とし、前記記録媒体が前記記録領域に存在しない場合には前記開状態とするよう制御する制御手段、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、一回の予備吐出によるインクの吐出数が所定の数を超える予備吐出を実行する際に、前記制御を行なうことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドから強制的にインクを排出させる排出手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記排出手段によるインクの排出が行われた後に実行される予備吐出に際して前記制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記排出手段は、前記インク受け部と、該インク受け部に連結される負圧発生手段とを有する吸引回復機構からなり、
前記吸引回復機構は前記閉状態において前記インク受け部の中に負圧を発生させて前記ノズルからインクを吸引することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記記録媒体が記録領域内に存在するか否かを検出する検出手段が検出した結果に基づいて前記制御を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記記録媒体への記録動作中に予備吐出を実行する場合には、前記記録領域内に記録媒体が存在すると判断し、前記インク受け部が前記ノズルの周囲を覆って閉状態を形成するように前記制御を行う一方、前記記録媒体への記録動作が終了した場合には、前記記録領域内に記録媒体が存在しないと判断し、前記インク受け部が開状態を形成するように前記制御を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
記録装置本体に定められた記録領域へと搬送された記録媒体に対し記録ヘッドに設けられたノズルからインクを吐出させて画像の記録を行うと共に、前記装置本体に設けられたインク受け部に対して前記ノズルからインクを吐出させる予備吐出を実行可能とするインクジェット記録装置における記録ヘッドの回復方法であって、
前記予備吐出を実行する際に前記記録媒体が前記記録領域に存在する場合には前記インク受け部が前記ノズルの周囲を覆う前記閉状態を形成し、前記記録媒体が前記記録領域に存在しない場合にはインク受け部を前記ノズルの周囲から離間させる開状態を形成することを特徴とするインクジェット記録装置における記録ヘッドの回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−101969(P2011−101969A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257240(P2009−257240)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】