説明

インクジェット記録装置、およびインクジェット記録装置の回復方法

【課題】効率よくフィルタの目詰まりに対処することが可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクタンク40と、記録ヘッド13と、供給路52と、フィルタ42と、第1の圧力測定部44と、第2の圧力測定部45と、ヒーター43と、ポンプ50と、制御部46と、を有し、制御部46は、記録ヘッド13が記録動作を行っていないとき、ポンプ50に第1の吸引動作を行わせ、第1の吸引動作における圧力損失Poeを計測し、圧力損失Poeが許容値を超えている場合にヒーター43にインクを加熱させ、その後、計測した圧力損失Ptsが、Pts>Pob(ただし、Pob=Poe×ηt/ηo、ηt:加熱後のインク粘度、ηo:加熱前のインク粘度)を満たす場合、ポンプ50に、第1の吸引動作よりも大きい負圧でインクを吸引する第2の吸引動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンクから記録ヘッドにインクを供給する供給路の途中にフィルタが設けられたインクジェット記録装置、およびインクジェット記録装置の回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する複数の吐出口(以下ノズルとも言う)が形成された記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置では、吐出口の目詰まりにより吐出不良が発生する場合がある。吐出口の目詰まりが発生する原因として、以下が挙げられる。
(1)インク保持部材として用いられる多孔質部材の微細な小片やインクを収容するインクタンクを交換するときに、インク供給路に微細な粉塵などが混入する。
(2)記録媒体等から発生する粉塵が直接吐出口部に付着する。あるいは、長時間使用しなかった吐出口の近傍に付着したインク溶媒が蒸発してインクの粘度が上昇する。
(3)インク内の溶存気体の析出や吐出口外部からの浸入によって吐出口部に微細気泡が滞留する。
【0003】
インクタンクから吐出口へ至る経路でインク中のゴミを取り除く方法には、インク供給路の途中にフィルタを配置して、インクを濾過する方法がある。液室内の気泡による吐出口の目詰まりを解消する方法には、吐出口からインクを吸引することによって、気泡をインクと一緒に記録ヘッドの外部へ吸い出す方法がある。
【0004】
フィルタを用いる場合、インク供給路中に混入した気泡が、インクタンクから記録ヘッドに向かうインク流れにのってフィルタに集まる。この気泡は、例えば、インクタンクの交換時に外部から侵入した空気、または、インク中の溶存空気からなる。フィルタに集まった気泡は、インクの流れを阻害したり、断続的にフィルタを閉塞したりすることによってインク供給を不安定にさせる。そこで、インク供給路の途中に設けられたフィルタの目詰まりを検出可能なインクジェット記録装置が特許文献1に開示されている。このインクジェット記録装置は、フィルタの上流側と下流側にそれぞれ圧力センサを配置し、各圧力センサの圧力値の差が大きい場合にフィルタが目詰まりしていると判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−116337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたインクジェット記録装置では、フィルタの目詰まりの原因が塵埃なのか気泡なのか判別できない。そのため、フィルタの目詰まりの原因が塵埃の場合、気泡を除去する吸引動作を行っても、固体である塵埃はフィルタを通過できないので除去できない。その結果、吸引動作が無駄になり効率が悪い。
【0007】
本発明は、効率よくフィルタの目詰まりに対処することが可能なインクジェット記録装置、およびインクジェット記録装置の回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録装置は、インクを貯留可能なインクタンクと、前記インクを記録媒体に吐出する記録動作を行う記録ヘッドと、前記インクタンクから前記記録ヘッドに前記インクを供給する供給路と、前記供給路の途中に設けられたフィルタと、前記供給路における、前記フィルタを通過する前の前記インクの圧力を測定する第1の圧力測定部と、前記供給路における、前記フィルタを通過した後の前記インクの圧力を測定する第2の圧力測定部と、前記フィルタの上流側に設けられたヒーターと、前記記録ヘッドに連通したポンプと、前記記録ヘッド、前記第1の圧力測定部、前記第2の圧力測定部、前記ヒーター、および前記ポンプに接続された制御部と、を有し、前記制御部は、前記記録ヘッドが前記記録動作を行っていないとき、前記ポンプに、前記記録ヘッドから前記供給路を流れるインクを吸引する第1の吸引動作を行わせ、前記第1の吸引動作における前記第1の圧力測定部の測定値から前記第2の圧力測定部の測定値を差し引いた圧力損失を計測し、計測した圧力損失Poeが、予め定められた許容値を超えている場合に前記ヒーターに前記インクを加熱させ、その後、前記圧力損失を再度計測し、計測した圧力損失Ptsが、Pts>Pob(ただし、Pob=Poe×ηt/ηo、ηt:加熱後のインク粘度、ηo:加熱前のインク粘度)を満たす場合、前記ポンプに、前記第1の吸引動作よりも大きい負圧で前記インクを吸引する第2の吸引動作を行わせる。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録装置の回復方法は、インクを貯留可能なインクタンクと、前記インクを記録媒体に吐出する記録動作を行う記録ヘッドと、前記インクタンクから前記記録ヘッドに前記インクを供給する供給路と、前記供給路の途中に設けられたフィルタと、を有するインクジェット記録装置の回復方法において、前記記録ヘッドが前記記録動作を行っていないときに、前記記録ヘッドから前記供給路を流れるインクを吸引する第1の吸引動作を行う第1のステップと、前記第1の吸引動作における前記フィルタの圧力損失を計測する第2のステップと、前記第2のステップで計測した圧力損失Poeが、予め定められた許容値を超えている場合に前記フィルタの上流側のインクを加熱する第3のステップと、前記第3のステップの後、前記圧力損失を再度計測する第4のステップと、前記第4のステップで計測した圧力損失Ptsが、Pts>Pob(ただし、Pob=Poe×ηt/ηo、ηt:加熱後のインク粘度、ηo:加熱前のインク粘度)を満たす場合、前記第1の吸引動作よりも大きい負圧で前記インクを吸引する第2の吸引動作を行う第5のステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクの加熱によって気泡は塵埃と違って膨張する。そのため、インクの加熱前後に圧力損失を計測することによってフィルタの目詰まりの原因が気泡であることを特定できる。フィルタの目詰まりの原因が気泡であることを特定した後、第2の吸引動作を行っているので、フィルタの目詰まりの原因が塵埃の場合には、第2の吸引動作を行うことなく塵埃を除去する処置に移行できる。よって、効率よくフィルタの目詰まりに対処することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の内部構成を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の流路およびそれに付帯する構成要素を示す図である。
【図3】図2に示すインクジェット記録装置における加熱に伴うフィルタボックス内の変化を示した図である。
【図4】図3に示した各状態の、圧力損失とインク温度との関係を示すグラフである。
【図5】第1の実施形態の泡抜き動作の手順を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態のインクジェット記録装置における加熱に伴うフィルタボックス内の変化を示した図である。
【図7】本発明の第3の実施形態におけるインクジェット記録装置の流路およびそれに付帯する構成要素を示す図である。
【図8】インクを吸引し始めてからの経過時間と、圧力測定部の測定値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の内部構成を示す正面図である。本実施形態のインクジェット記録装置では、互いに対向して配置された架台2Aおよび架台2Bの上端部に筺体4が支持されている。筺体4内には、所定の間隔を取って互いに対向した支持板20Aおよび支持板20Bが設けられている。支持板20Aと支持板20Bとの間には、キャリッジ14を摺動可能に支持するキャリッジレール部材16が配置されている。キャリッジレール部材16は、その中心軸が搬送ローラ34の中心軸に対して略平行、即ち、記録媒体36の搬送方向に対して略直交するように支持板20Aおよび支持板20Bに支持されている。キャリッジレール部材16の両端部は、それぞれ、支持板20Aおよび20Bに固着されている。キャリッジレール部材16と搬送ローラ34との間には、記録媒体36が記録ヘッド13に向けて搬入される搬送路が形成されている。
【0013】
キャリッジ14の上面側には、記録ヘッド13が搭載されている。記録ヘッド13には、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどのインクが、これらのインクを貯留可能なインクタンク40からチューブ(不図示)を通じて供給される。記録ヘッド13が記録媒体36にインクを吐出する記録動作は、記録媒体36の記録面に形成される画像データに対応した駆動パルス信号によって制御される。キャリッジ14は、記録ヘッド13の記録動作に対応して往復移動する。
【0014】
キャリッジ14には支持軸(不図示)が設けられ、この支持軸の一端には、ローラ26が回動可能に支持されている。ローラ26は、矩形断面形状を有するローラガイドレール22の内周部に所定の隙間を隔てて係合されている。これにより、キャリッジ14はキャリッジレール部材16と、ローラガイドレール22とによって移動可能に案内される。記録媒体36の端部から支持板20A側に離れた位置には、図1に示されるように、記録ヘッド13の待機領域部8が設けられている。
【0015】
待機領域部8における所定の基準位置(ホームポジション)には、記録ヘッド13の回復処理を行う回復処理部6が設けられている。回復処理部6は、記録ヘッド13の吐出口面に対向して配置され、その吐出口面を選択的に覆い吸引するキャッピング機構を含んだ構造となっている。回復処理部6は、不図示の回復処理駆動制御部から所定のタイミングで供給される駆動制御信号に基づいて制御される。
【0016】
図2は、図1に示すインクジェット記録装置の流路およびそれに付帯する構成要素を示す図である。図2は、1色分の構成を表している。本実施形態のインクジェット記録装置において、弁53と大気連通口54を有するインクタンク40に貯留されたインクは、供給路52を通り、記録ヘッド13に供給される。記録ヘッド13へのインクの初期充填時には、吸引キャップ49を記録ヘッド13の吐出口面に当接させ、弁53を開放して大気連通口54を開き、ポンプ50を駆動させる。ポンプ50に吸引されたインクは、流路55を通じて廃液タンク56に廃出される。初期充填後、インクが吐出されるたびに記録ヘッド13のノズルの毛細管力によりインクは再充填される。供給路52の途中には、フィルタボックス41が設けられている。フィルタボックス41には、インクをろ過するフィルタ42と、インクを加熱するヒーター43が内蔵されている。フィルタ42をインクが通過することにより、記録ヘッド13への塵埃混入を防止している。本実施形態のインクジェット記録装置では、記録ヘッド13のノズルに付着したインクや塵埃、あるいはフィルタ42の上流側に設けられた液室48に滞留した気泡を除去する場合に、吸引キャップ49、ポンプ50を動作させてインクを吸引する。
【0017】
本実施形態のインクジェット記録装置は、さらに、圧力測定部44(第1の圧力測定部)と、圧力測定部45(第2の圧力測定部)と、制御部46と、温度測定部47と、を有する。圧力測定部44は、供給路52における、フィルタ42を通過する前のインクの圧力を測定する。圧力測定部45は、供給路52における、フィルタ43を通過した後のインクの圧力を測定する。圧力測定部44の測定値から圧力測定部45の測定値を差し引いた値を計測することによって、フィルタ42越しの圧力損失を測定できる。温度測定部47は、液室48内のインクの温度を測定する。制御部46は、CPU(Central Processing Unit)、およびメモリーなどで構成されている。制御部46は、測定要素(圧力測定部44、45、温度測定部47)および駆動要素(記録ヘッド13、ポンプ50、ヒータ43)に接続されている。制御部46は、測定要素からの信号を受け、駆動要素に制御信号を出力する。
【0018】
図3は、加熱に伴うフィルタボックス41の内部の変化を示す図である。図3(a)は、気泡60のみが液室48に滞留している状態を示す。図3(b)は、気泡60と塵埃61が混在して液室48に滞留している状態を示す。図3(c)は、塵埃61のみが液室48に滞留している状態を示す。
【0019】
気泡60が液室48に滞留している場合、ヒーター43が発熱すると、気泡60が膨張する(図3(a)、(b)参照)。気泡60の膨張によって、フィルタ42を塞ぐ面積が大きくなる。よって、フィルタ42の流路抵抗は増す。塵埃61のみが液室48に滞留している場合、ヒーター43が発熱してもフィルタ42を塞ぐ面積は不変である。そのため、フィルタ42の流路抵抗は変わらない(図3(c)参照)。
【0020】
図4は、図3に示した各状態の、圧力損失(圧力測定部44、45の測定値の差)と、インクの温度との関係を表したグラフである。グラフ中の(a)〜(c)は図3(a)〜(c)の各状態に対応している。
【0021】
インクは、一般的に、加熱されると粘度が低下するため、加熱後の圧力損失は、加熱前の圧力損失に比べて低下する。一方、上述したように、液室48内の滞留物のうち、気泡60の割合が大きいほど、温度上昇による圧力損失の上昇量が大きくなる。よって、温度Toのフィルタ42における圧力損失をPoeとすると、図3に示す各状態のグラフは図4に示すようになる。図3(c)に示す状態は、気泡膨張要因がなく、粘度要因のみが圧力損失に影響する。そのため、インクの温度がToからTtに加熱されたとき、圧力損失はPoe×ηt/ηo(ηo:加熱前の温度Toにおけるインク粘度、ηt:加熱後の温度Ttにおけるインク粘度)となる。図3(a)、(b)に示す状態では、圧力損失に与える影響として気泡膨張要因がある。そのため、温度Ttにおける圧力損失Poeは、図3(c)に示す状態よりも大きな値となる(図4参照)。図4において、圧力損失Poaは、温度Toにおいて液室48に何も滞留していない場合の圧力損失を示す。
【0022】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置の動作について説明する。以下、液室48に集まった気泡を除去する泡抜き動作について説明する。図5は、本実施形態の泡抜き動作の手順を示すフローチャートである。この泡抜き動作は、制御部46の制御に基づいて行われる。
【0023】
本実施形態において、泡抜き動作の開始タイミングは、記録ヘッド13から吐出されるインク吐出量、すなわちドットカウントデータに基づいて決定する。泡抜き動作の開始タイミングは、他に、記録ヘッド13の累計駆動時間やプリント枚数のようにフィルタ42の滞留物の量と相関関係がある物理量であればよい。
【0024】
記録ヘッド13からの吐出量が所定量に達した時、記録ヘッド13は吐出動作を停止し、キャリッジ14は回復処理部6の位置に移動する。次に、回復処理部6の構成要素の1つである吸引キャップ49が、記録ヘッド13の吐出口面を塞ぎ、ポンプ50が所定の回転数で駆動する(第1の吸引動作)。これにより、記録ヘッド13から供給路52を流れるインクが吸引される(ステップS1)。ステップS1では、弁53は開かれ、大気連通口54は大気開放された状態となっている。インクの吸引中に、温度測定部47が液室48内のインクの温度Toを測定し(ステップ2)する。このとき、制御部46は、圧力測定部44の測定値から圧力測定部45の測定値を差し引いた圧力損失をモニターし、この圧力損失が一定になったときの値をPoeとする(ステップS3)。図8は、インクを吸引し始めてからの経過時間と、圧力測定部44、45の測定値との関係を示すグラフである。図8に示すように、圧力測定部44の測定値Pαと圧力測定部45の測定値Pβの差圧力差が一定になったと判定するためにはある程度の時間(図8の時刻t1から時刻t2までの時間)を要する。すなわち、インクを吸引し始めた時刻0から時刻t2が経過までフィルタ42にインクを流し続けるために、吸引キャップ49からインクを吸引し続ける必要がある。
【0025】
続いて、制御部46は、ステップS3で測定された圧力損失Poeが、予め定められた許容値を超えているか否か判断する(ステップS4)。本実施形態では、許容値は、フィルタ42に何も滞留物がない場合の圧力損失Poaとする。圧力損失Poaは、インクの温度によって変わる値であるので、インクの温度に対応付けて圧力損失の値を示したデータが予め制御部46のメモリーに格納されている。
【0026】
Poe=Poaの場合、制御部46は、何も滞留物がないと判断し、泡抜き動作を行わせることなくポンプ50を停止させる。Poe>Poaの場合、制御部46は、フィルタ42が目詰まりしていると判断してヒーター43にインクを加熱させる(ステップS5)。上記の等式、不等式は実際には測定誤差や検出誤差である所定量のマージンαを持っており、厳密にはPoe=Poa+α、Poe>Poa+αとなる。ただし、簡略化のため、今後出てくる等式、不等式について特に断りがなくともこのようなマージンを含むものとする。本実施形態においては、ステップS4からステップS5までの間ポンプ50は駆動しているが、その間は一旦停止しステップS5終了後に動作を再開しても構わない。
【0027】
次に、温度測定部47が、加熱後のインク温度を測定する(ステップ6)。温度測定部47の測定値が予め定められた温度Ttに達すると、制御部46は、ステップS3と同様に、圧力損失を再度計測する(ステップS7)。温度Ttは、インクがなるべく変性しない温度範囲、具体的には35〜50℃程度の範囲にすることが望ましい。
【0028】
続いて、制御部46は、ステップS7で計測した圧力損失Ptsが、Pts<Pobであるか否か判断する(ステップS8)。Pobは、Poe×ηt/ηoによって算出される。インク粘度をインクの温度に対応付けて示したデータは、予め制御部46のメモリーに格納されている。
【0029】
Pts=Pobの場合、制御部46は、フィルタ42には除去するほどの気泡はない(フィルタ42の目詰まりの原因は塵埃)と判断し、ポンプ50を停止させる。その後、制御部46は、例えば、警告手段(不図示)に、フィルタ42に塵埃が詰まっている旨を音声または画像でユーザーに提示させる。
【0030】
Pts>Pobの場合、制御部46は、除去すべき気泡があると判断し、フィルタ42を流れるインクの温度が、上述した温度Ttよりも高い温度T1になるようにヒーター43を発熱させる(ステップ9)。本実施形態では、温度T1は、画像への影響を考慮してインクの加熱限界温度とする。続いて、ポンプ50の駆動回転数を加熱前に比べて上げる(ステップS10)ことによって、ステップS1の吸引動作よりも大きい負圧でインクを吸引する(第2の吸引動作)。この吸引動作によりフィルタ42を流れるインクの流速が加熱前に比べて速くなる。その結果、気泡60がフィルタ42を通過して吸引される。その後、予め定められた時間が経過すると、制御部46は、ポンプ50を停止させる。(ステップS11)。
【0031】
本実施形態では、フィルタ42の目詰まりの原因が塵埃61の場合、インクを加熱しても塵埃61は膨張しないので、インクの加熱後の圧力損失Ptsは、インクの粘度が低下する分減少する。一方、フィルタ42の目詰まりの原因が気泡60の場合、インクを加熱したとき、気泡60は、塵埃42と違って膨張するので、インクの加熱後の圧力損失Ptsは、インクの粘度が低下する分減少するだけでなく膨張した体積分増加する。そのため、フィルタ42の目詰まりの原因が気泡60の場合、インクの加熱後の圧力損失Ptsは、Pts>Pob(ただし、Pob=Poe×ηt/ηo)の関係を満たす。
【0032】
本実施形態によれば、インクを加熱する前後の圧力損失を計測することによって、フィルタ42の目詰まりの原因が気泡60であることを特定した後、泡抜き動作(第2の吸引動作)を行っている。そのため、フィルタ42の目詰まりの原因が塵埃61の場合に、泡抜き動作を行うことなく塵埃61を取り除く処置に移行できる。よって、効率よくフィルタ42に目詰まりに対処することが可能となる。さらに、本実施形態によれば、気泡検知手段の一部であるヒーター43を気泡除去動作時に用いることで、フィルタ42を通過するインク粘度を低下させることが可能となる。そのため、気泡除去動作時の流速をより一層速くでき、泡抜きの効果を向上させることが可能となる。
【0033】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態のインクジェット記録装置において、加熱に伴うフィルタボックス内の変化を示した図である。図6(a)は、気泡60のみが液室48に滞留している状態を示す。図6(b)は、気泡60と塵埃61が混在して液室48に滞留している状態を示す。図6(c)は、塵埃61のみが液室48に滞留している状態を示す。
【0034】
本実施形態では、液室48の、フィルタ42に対向する壁部にヒーター43が設けられている。液室48を、供給路52の長さ方向に平行な断面で見たとき、フィルタ42から壁部までの長さL1が、壁部の長さL2よりも短い扁平形状となっている(図6(a)参照)。そのため、ヒーター43で加熱された気泡60は、平面的に広がるように膨張する。その結果、フィルタ42が塞ぐ面積が大きくなるのでインクを加熱する前後の圧力損失の差が顕著になるので、気泡60の検出感度が向上する。
【0035】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態のインクジェット記録装置の流路およびそれに付帯する構成要素を示す図である。図7は、図2と同様に、1色分の構成を表している。本実施形態のインクジェット記録装置は、記録ヘッド13とインクタンク40が循環流路をなしている点が第1の実施形態のインクジェット記録装置と異なる。具体的には、本実施形態のインクジェット記録装置は、ポンプ50とインクタンク40との間に循環路57を有する。図7に示す本実施形態のインクジェット記録装置では、吸引キャップ49、回復処理部6が不図示となっているが、それがあったとしても本発明の主旨に何ら影響を及ぼすことはない。
【0036】
第1の実施形態のインクジェット記録装置では、図2に示すように、ポンプ50で吸引されたインクは、廃液タンク56に廃出される。そのため、インクを吸引し始める時刻t0(図8参照)から圧力損失Poaと比較する圧力損失Poeを計測する時刻t2(図8参照)までの時間が長くなると、インクの廃液量が多くなる。インクの廃液量を削減するため時刻t2(図8参照)を早めると、圧力損失Poeの測定精度が低下する可能性がある。
【0037】
一方、本実施形態では、ポンプ50が吸引したインクは、循環路57を通じてインクタンク40に戻す構成となっている。この構成により、上述した圧力損失Poeの測定時に、インクの廃液量をゼロにできる。そのため、上述した時刻t2を早める必要がなく、圧力損失Poeが一定になったときの値を計測することができる。よって、圧力損失Poeの測定精度を高めることが可能となる。さらに、液室48内の滞留物が気泡60か否か判断するのに必要な圧力損失Ptsの測定精度も高めることが可能となる。したがって、気泡60の検出感度が向上する。
【符号の説明】
【0038】
13 記録ヘッド
40 インクタンク
42 フィルタ
43 ヒーター
44 圧力測定部
45 圧力測定部
46 制御部
50 ポンプ
54 供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留可能なインクタンクと、前記インクを記録媒体に吐出する記録動作を行う記録ヘッドと、前記インクタンクから前記記録ヘッドに前記インクを供給する供給路と、前記供給路の途中に設けられたフィルタと、前記供給路における、前記フィルタを通過する前の前記インクの圧力を測定する第1の圧力測定部と、前記供給路における、前記フィルタを通過した後の前記インクの圧力を測定する第2の圧力測定部と、前記フィルタの上流側に設けられたヒーターと、前記記録ヘッドに連通したポンプと、前記記録ヘッド、前記第1の圧力測定部、前記第2の圧力測定部、前記ヒーター、および前記ポンプに接続された制御部と、を有し、
前記制御部は、前記記録ヘッドが前記記録動作を行っていないとき、前記ポンプに、前記記録ヘッドから前記供給路を流れるインクを吸引する第1の吸引動作を行わせ、前記第1の吸引動作における前記第1の圧力測定部の測定値から前記第2の圧力測定部の測定値を差し引いた圧力損失を計測し、計測した圧力損失Poeが、予め定められた許容値を超えている場合に前記ヒーターに前記インクを加熱させ、その後、前記圧力損失を再度計測し、計測した圧力損失Ptsが、Pts>Pob(ただし、Pob=Poe×ηt/ηo、ηt:加熱後のインク粘度、ηo:加熱前のインク粘度)を満たす場合、前記ポンプに、前記第1の吸引動作よりも大きい負圧で前記インクを吸引する第2の吸引動作を行わせる、インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、Pts>Pobを満たす場合、前記ヒーターに前記インクをさらに加熱させた後、前記ポンプに前記第2の吸引動作を行わせる、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記フィルタに対向する壁部に前記ヒーターが設けられた液室をさらに有し、前記液室を、前記供給路の長さ方向に沿った断面で見たときに、前記フィルタから前記壁部までの長さが前記壁部の長さよりも短い、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記ポンプと前記インクタンクとの間に位置し、前記ポンプに吸引されたインクを前記インクタンクに戻す循環路をさらに有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
インクを貯留可能なインクタンクと、前記インクを記録媒体に吐出する記録動作を行う記録ヘッドと、前記インクタンクから前記記録ヘッドに前記インクを供給する供給路と、前記供給路の途中に設けられたフィルタと、を有するインクジェット記録装置の回復方法において、
前記記録ヘッドが前記記録動作を行っていないときに、前記記録ヘッドから前記供給路を流れるインクを吸引する第1の吸引動作を行う第1のステップと、
前記第1の吸引動作における前記フィルタの圧力損失を計測する第2のステップと、
前記第2のステップで計測した圧力損失Poeが、予め定められた許容値を超えている場合に前記フィルタの上流側のインクを加熱する第3のステップと、
前記第3のステップの後、前記圧力損失を再度計測する第4のステップと、
前記第4のステップで計測した圧力損失Ptsが、Pts>Pob(ただし、Pob=Poe×ηt/ηo、ηt:加熱後のインク粘度、ηo:加熱前のインク粘度)を満たす場合、前記第1の吸引動作よりも大きい負圧で前記インクを吸引する第2の吸引動作を行う第5のステップと、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置の回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−232447(P2012−232447A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101334(P2011−101334)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】