説明

インクジェット記録装置およびその記録方法

【課題】バブルジェット(登録商標)記録ヘッドを用いた記録装置において、連続して印字した場合、記録ヘッドの駆動条件が変化しても、印字画像上の濃度差が目立たないようにし、しかもメモリ容量が少なくて済むようにする。
【解決手段】記録ヘッド8に供給され、発熱素子を駆動する記録ヘッド8の駆動条件を記憶する駆動条件記憶手段14と、上記記録ヘッド8の温度を検出する温度検出手段11とを有する。また、走査方向における印字デューティーを判定する印字デューティー判定手段12と、1スキャンの記録時に、上記駆動条件記憶手段に記憶されている複数の駆動条件を混合する混合手段とを有する。さらに、上記検出された記録ヘッド8の温度と上記判定された印字デューティーとに応じて、上記1スキャンの記録時における上記複数の駆動条件の混合比率を変更する変更手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録用液体(以下、単に「インク」という)を、飛翔的液滴としてインク吐出口から吐出させ、被記録材に付着させることによって記録するインクジェット記録装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク吐出口とこれに連通する液路(以下、双方を合わせて「ノズル」という)内のインクを、ヒータ等の発熱素子によって加熱し、気泡を生起し、この気泡の作用によって、インク吐出口から微小なインク滴を被記録体に飛翔させる。これによって、上記被記録体上に記録画像を得るいわゆるバブルジェット(登録商標)記録ヘッドが、広く一般に知られ、プリンタや複写機等に適用されている。
【0003】
このバブルジェット(登録商標)記録ヘッドを用いた記録装置では、発熱素子を発熱させてインクを加温するので、連続して印字すると、記録ヘッドに熱が蓄積され、記録ヘッドの温度が上昇する。一般に、インクは、温度によってその粘度が変化するので、このように記録ヘッドの昇温や環境温度の変化によって、インクの粘度が変化し、噴射されるインク滴の吐出量が変化し、印字濃度が変化する。
【0004】
また、このようなバブルジェット(登録商標)記録ヘッドによる記録において、マルチノズル化、ノズルの高密度化が容易であるので、高速・高画質化に適する。特に、マルチノズル化と記録ヘッドの駆動周波数アップとによって、プリンタや複写機等の記録速度を向上させる試みが盛んに行われている。記録ヘッドの昇温による印字濃度変化がますます大きな課題である。
【0005】
また、発熱素子が設けられている記録ヘッドを支持する支持部材を、樹脂部材で構成すると、アルミナ等、熱容量が大きい部材を支持部材として構成する場合に比べて、記録ヘッドで発生する熱が、支持部材に逃げにくく、記録ヘッド自体が昇温しやすい。よって、記録ヘッドの昇温による印字濃度変化が大きな課題である。
【0006】
そこで、従来のインクジェット記録装置では、サーミスタ等の温度検出素子を用い、記録ヘッドの温度を検出し、この検出された温度に基づいて、記録ヘッドの駆動条件を変化させる等して濃度を調整している(たとえば、特許文献1参照)。つまり、この特許文献1記載の発明では、記録ヘッドの温度を検出し、検出した記録ヘッドの温度に基づいて記録ヘッドの駆動条件を制御している。
【0007】
上記従来の制御方法において、たとえば、検出した記録ヘッドの温度による駆動パルスの発生条件を、1ページ毎に変更すると、1ページの最初と最後とで、濃度が相違する場合がある。
【0008】
また、1ページを複数の領域に分割し、分割された領域毎に記録ヘッドの駆動条件を設定すると、スキャン間に濃度差が現れる場合がある。
【0009】
図14は、従来のインクジェット記録装置において、駆動条件を変更したときの印字画像の一例を示す拡大模式図である。
【0010】
シリアルプリンタにおいて、上記のように、検出した記録ヘッドの温度に伴って記録ヘッドの駆動条件を、連続する印字画像中で変更すると、濃度差が目立つ。図14に示す例では、1ページを複数の領域に分割し、印字する場合、あるスキャンの記録を、たとえばプレパルスとメインパルスとを組み合わせて駆動するいわゆる「ダブルパルス駆動条件α」によって発熱素子を駆動して印字する。
【0011】
なお、上記「プレパルス」は、インクを温めるためのパルスであり、上記「メインパルス」は、インクを吐出するためのパルスである。
【0012】
そして、次のスキャンの印字前に温度条件等を検出した結果、次のスキャンの記録を、たとえばメインパルスのみで駆動するいわゆる「シングルパルス駆動条件β」によって発熱素子を駆動して印字を行った場合を示している。
【0013】
このように、図14に示す上下の2つのスキャンでは、異なる駆動条件で駆動されている。このときに、プレパルスでインクを温めた状態で、メインパルスで駆動させる駆動条件αで印字した部分は、メインパルスのみで駆動させる駆動条件βで印字した部分よりも、インク液滴の量が多くなる。つまり、インクをプレパルスで温めた後に、インクを吐出すると、インク液滴の量が多くなる。したがって、記録されたドットの径は、相対的に上半分の方が大きく、下半分の方が小さい。
【0014】
図15は、駆動条件αと駆動条件βとで駆動した場合に、ヘッド温度と吐出量との関係を示す図である。
【0015】
図15に示すように、駆動条件αと駆動条件βとを急に切り替えると、同じヘッド温度での吐出量が大きく異なり、2つのスキャン間に濃度差が現れる。
【0016】
また、駆動条件を細かく制御すれば、上記スキャン間の濃度差は、軽減される。しかし、各駆動条件を格納するメモリの容量を多く必要とし、また、各駆動条件を判断するためのデータ等を格納するメモリの容量を多く必要とするので、コストアップになるという問題がある。
【0017】
さらに、駆動条件を細かく制御しようとしても、発熱素子を駆動するパルス幅の時間を調整できる最小の時間幅には限界があるので、インク吐出量を微小量調整することが難しいという問題がある。
【0018】
一方、スキャン間で駆動条件を変更する場合に、前のスキャンで駆動した駆動条件と、次のスキャンで駆動する駆動条件とを混合して制御することが知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【0019】
特許文献2記載の方法では、たとえば、前のスキャンでは、ダブルパルス駆動条件αで駆動し、昇温した後に、次のスキャンで、ダブルパルス駆動条件αとシングルパルス駆動条件βとを混合して駆動する。
【特許文献1】特開平3−284951号公報
【特許文献2】特開平10−157136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、特許文献2記載の方法では、次のスキャンで、シングルパルス駆動条件βに変更して駆動すると、駆動条件変更後の印字デューティーが低いので、記録ヘッドの温度がそれほど上昇しないことがある。このように、駆動条件を変更して、シングルパルス駆動条件βで印字すると、吐出量が少なく、濃度差が発生し、濃度差が現れるという問題がある。
【0021】
本発明は、バブルジェット(登録商標)記録ヘッドを用いた記録装置において、連続して印字した場合、記録ヘッドの駆動条件が変化しても、印字画像上の濃度差が目立たないようにし、しかもメモリ容量が少なくて済むようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記記録ヘッドに供給され、上記発熱素子を駆動する記録ヘッドの駆動条件を記憶する駆動条件記憶手段と、上記記録ヘッドの温度を検出する温度検出手段とを有する。また、本発明は、走査方向における印字デューティーを判定する印字デューティー判定手段と、1スキャンの記録時に、上記駆動条件記憶手段に記憶されている複数の駆動条件を混合する混合手段とを有する。さらに、本発明は、上記検出された記録ヘッドの温度と上記判定された印字デューティーとに応じて、上記1スキャンの記録時における上記複数の駆動条件の混合比率を変更する変更手段を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、バブルジェット(登録商標)記録ヘッドを用いた記録装置において、連続して印字した場合、記録ヘッドの駆動条件が変化しても、印字画像上の濃度差が目立たないようにし、しかもメモリ容量が少なくて済むという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置100の制御用回路の構成を示す図である。
【0025】
インクジェット記録装置100は、システムコントローラ1と、ホストコンピュータ4と、バッファ5と、フレームバッファメモリ6と、記録制御部7と、記録ヘッド8と、記録素子9と、温度検出手段11とを有する。
【0026】
システムコントローラ1は、装置全体を制御し、CPUとして機能するとともに、制御プログラムが格納されているROM2と、制御にかかわる処理動作時に使用されるRAM3とを内蔵している。
【0027】
バッファ5は、ホストコンピュータ4からの記録に関するデータや情報を、一時的に格納し、これらの情報がシステムコントローラ1側で読み込まれるまで、情報を一時的に格納する。
【0028】
フレームバッファメモリ6は、システムコントローラ1に読み込まれた記録に関するデータを、イメージデータに展開する。したがって、フレームバッファメモリ6は、記録に必要な分だけのメモリサイズを備えている。
【0029】
記録制御部7は、システムコントローラ1からの指令に従って、記録ヘッド8を制御し、インクの吐出速度や記録データ数等に対応して制御し、また、インク吐出のために、記録ヘッド8に設けられている記録ヘッドの駆動条件を決定する。また、記録制御部7は、印字デューティーカウンタ12と、駆動条件設定回路13と、駆動条件記憶ROM14とを有する。
【0030】
記録素子9は、記録の都度、この記録すべきデータを一時的に格納し、記録ヘッド8が有するノズル数に応じて、記憶素子の記憶容量も異なる。
【0031】
記録ヘッド8にドライバ(不図示)が設けられ、このドライバが、記録制御部7からの制御信号に応じて記録ヘッド8を駆動する。
【0032】
図2は、記録ヘッド8を駆動する駆動パルスの例を示す図である。
【0033】
この例は、発熱素子の1回の駆動を、2つの駆動パルスで行う例である。「駆動条件A」は、インクを加熱するためのパルスであるプレパルスと、実際にインクを噴射させるためのパルスであるメインパルスとを発熱素子に印加し、インクを吐出する条件であり、いわゆる「ダブルパルス」である。
【0034】
「駆動条件B」は、単一のメインパルスを発熱素子に印加し、インクを吐出する条件であり、いわゆる「シングルパルス」である。
【0035】
温度検出手段11は、記録ヘッド8の温度を検出する。また、記録制御部7内において、印字デューティーカウンタ12は、記録素子9に格納されている平均印字デューティーを計数する。
【0036】
駆動条件設定回路13は、駆動条件を設定する。また、駆動条件記憶ROM14は、記録ヘッド8の温度と記録ヘッド8の駆動条件とが対応付けられているパルステーブルデータが格納されている駆動条件記憶ROMである。
【0037】
駆動条件設定回路13は、パルステーブルデータが格納されている駆動条件記憶ROM14から駆動条件を取出し、必要に応じて、複数の駆動条件の混合比率を設定し、印字するように制御する。
【0038】
記録ヘッド8の温度を検出する温度検出手段11が検出した記録ヘッド8の温度と、平均印字デューティーとに対応して、記録ヘッド8の駆動条件が対応付けられているパルステーブルデータが、駆動条件記憶ROM14に格納されている。上記「平均印字デューティー」は、印字デューティーカウンタ12が計数する印字デューティーであり、次のスキャンで印字される画像データの平均印字デューティーである。
【0039】
このような制御によって、記録ヘッド8の昇温に応じて駆動条件を変更した場合にも、噴射されるインク滴の吐出量が変化することによって生じる濃度差を低減することができる。
【0040】
次に、上記制御方法の一例について説明する。
【0041】
図3は、駆動条件記憶ROM14の記憶内容の一例を説明する図である。
【0042】
図3に示す例は、記録ヘッド8の温度に対応して、プレパルスと、インターバルと、メインパルスとについて、それぞれの幅を格納する例である。
【0043】
この例では、ヘッド温度が30℃未満であれば、駆動条件A(ダブルパルス)で駆動し、ヘッド温度が40℃以上であれば、駆動条件B(シングルパルス)で駆動する。また、ヘッド温度が30℃以上40℃未満であれば、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を変更しながら印字する。次のスキャンで印字される画像データの平均印字デューティー(カウンタ12が計数する平均印字デューティー)に対応して、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率が変更され、印字する。
【0044】
図4は、ヘッド温度と平均印字デューティーとに応じて、1スキャン中で、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を変化させる例を示す図である。
【0045】
1スキャン当たりの駆動条件A/(駆動条件A+駆動条件B)の割合を、図4に示すように変更して設定すれば、パルステーブルデータを多く格納しなくても、駆動条件を細かに制御することができる。
【0046】
次に、上記のように駆動を制御したときの吐出量の変化について説明する。
【0047】
図5は、駆動条件Aと駆動条件Bとで駆動したときにおけるヘッド温度に対するインクの吐出量の関係を示す図である。
【0048】
図5に示すように、駆動条件Aで吐出したときの吐出量は、駆動条件Bで吐出したときの吐出量よりも多くなる。そこで、30℃までは、駆動条件Aで駆動し、30℃〜40℃では、駆動条件Aと駆動条件Bとを使用し、図4に示すように混合比率を変更し、駆動し、40℃よりも高くなると、駆動条件Bで駆動する。この結果、ヘッド温度が変わっても、インクの吐出量が適切に調整され、濃度差を解消することができる。
【0049】
上記実施形態では、駆動条件Aがダブルパルスであり、駆動条件Bがシングルパルスであるが、このようにする代わりに、駆動条件A、駆動条件Bともに、ダブルパルスであってもよい。この場合、駆動条件Aにおけるデューティーと、駆動条件Bにおけるデューティーとを異ならせる。また、駆動条件A、駆動条件Bともに、シングルパルスであってもよい。この場合、駆動条件Aにおけるデューティーと、駆動条件Bにおけるデューティーとを異ならせる。
【0050】
図6は、ヘッド温度と平均印字デューティーとに応じて、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を、1スキャン中で、変化させる例と、1スキャン当たりの駆動条件Bと駆動条件Cとの混合比率を、1スキャン中で変化させる例とを示す図である。
【0051】
また、図6に示すように、駆動条件記憶ROM14に、3つの駆動条件を格納し、温度と印字デューティーとに応じて、駆動条件を変更するようにしてもよい。
【0052】
次に、上記制御方法で記録を実施した場合における実施例について説明する。
【実施例1】
【0053】
図7は、本発明の実施例1の説明図であり、記録ヘッド8が、走査方向の往復による記録を繰り返し、「1パス」で、印字デューティー100%で記録を行った場合の印字パターンの説明図である。
【0054】
上記「1パス」は、1回の走査方向のスキャンでの記録の後に、次のスキャンの記録では、前のスキャンの記録と印字したドットとが重ならないように記録することである。
【0055】
実施例1において、説明を簡単にするために、記録ヘッド8が1回のスキャンで印字するバンド幅が、8ドットであるとするが、実際には、もっと多数のドットで記録されることが多い。
【0056】
走査前のヘッド温度が27℃であったとし、このときに、図7に示す3つのスキャンの記録(駆動条件A、駆動条件ABの混合、駆動条件Bによる記録)のうちで、上段の記録(駆動条件Aによる記録)をする。この場合、相対的な発熱量の多い駆動条件Aによって駆動するので、噴射される吐出量が多く、印字されるドット径が大きくなり、印字濃度が高くなる。
【0057】
ヘッド温度が35℃になったときに、3つのスキャンの記録のうちの中段の記録(駆動条件ABの混合による記録)をする際には、記録ヘッド8の温度が上昇し、この温度上昇を打ち消すために、相対的な発熱量の小さい駆動条件Bに変化するとする。
【0058】
実施例1において、駆動条件Aと駆動条件Bとを混合して印字し、走査前のヘッド温度が35℃になったとし、印字デューティー100%で記録し、図4に示すように、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率が50%で駆動する。
【0059】
実施例1では、ほぼ同一のタイミングで吐出される走査方向と垂直方向との8ドットは、同一の駆動条件で駆動し、1回のスキャンの記録中に、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率が50%になるようにする。このように、走査方向と垂直方向との8ドットの駆動条件を切り替えて、駆動する。
【0060】
また、図7に示すように、駆動条件Aと駆動条件Bとの切り替え方は、記録ヘッド8が徐々に昇温していくことを考慮し、段階的に、駆動条件Aの比率を少なくするように切り替えることが望ましい。しかし、1回のスキャンの記録中に、駆動条件Aと駆動条件Bとの切り替えを、均一に実行するようにしてもよい。
【0061】
走査前のヘッド温度が42℃になると、3つのスキャンの記録のうちの下段の記録(駆動条件Bによる記録)を行う。
【0062】
そして、上記のような記録方法をとることによって、図5に示すように、ヘッド温度が変わっても、駆動条件を変更するので、インクの吐出量が適切に調整される。つまり、駆動回路における駆動パルス制御が精密なものでなくても、また、駆動条件等を格納するメモリの容量が少なくても、濃度差を解消して、インクの吐出量を適切に調整することができる。
【0063】
図8は、1パスで平均印字デューティーを50%にして記録した場合における印字パターンの説明図である。
【0064】
図8に示す例は、4つのスキャンの記録(駆動条件A、第1の駆動条件ABの混合、第2の駆動条件ABの混合、駆動条件Bによる記録)である。
【0065】
走査前のヘッド温度が27℃であるとし、このときに、4つのスキャンの記録のうちで、1段目の記録(駆動条件Aによる記録)を実行する。この場合、相対的に発熱量の多い駆動条件Aによって駆動する。
【0066】
走査前のヘッド温度が32℃になったときに、4つのスキャンの記録のうちで、2段目の記録(第1の駆動条件ABの混合による記録)を実行する。この場合、印字デューティーを50%にして記録し、図4に示すように、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を80%として駆動する。
【0067】
走査前のヘッド温度が36℃になったときに、3段目の記録(第2の駆動条件ABの混合による記録)を実行する。この場合、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を30%にして駆動する。ここで、2段目、3段目の駆動条件ABの混合に切り替える場合、実施例1と同様に、記録ヘッド8が徐々に昇温していくことを考慮し、段階的に、駆動条件Aの比率を少なくするように切り替えることが望ましい。
【0068】
そして、走査前のヘッド温度が41℃になったときに、3段目の記録を実行し、駆動条件Bで駆動する。
【0069】
上記のように、印字デューティーが異なる場合、印字デューティーを検出することによって、次のスキャンにおける走査前のヘッド温度を予測することができ、そのときの状況に応じた制御をすることができる。印字デューティーを100%にして印字したときと同様に、駆動条件を変更することによって、吐出量を調整し、濃度差を解消することができる。
【0070】
図9は、図7と同様に、1パスで100%の記録を行ったときに、駆動条件が変化するスキャンの記録を含む5つのスキャンの記録について示す図である。
【0071】
図9に示す例は、図7の記録で用いられた記録ヘッド8よりも、昇温しづらい記録ヘッド8で記録する場合の例である。そして、図9に示すように、中段の数スキャンの走査前のヘッド温度が、駆動条件ABの混合で駆動する温度であれば、そのスキャンの走査前のヘッド温度と印字デューティーとに応じて、駆動条件ABを混合するようにしてもよい。
【実施例2】
【0072】
図10は、本発明の実施例2における印字パターンの説明図であり、実施例1と同様に、1パスで印字デューティー100%の記録を行った場合における印字パターンの説明図である。
【0073】
ここで、実施例2では、実施例1と同様に、上段、下段における駆動は、それぞれ、駆動条件A、駆動条件Bで実行する。中段の駆動条件(駆動条件ABの混合)で駆動する場合、1回のスキャンの記録中に、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率が50%になるように、走査方向と垂直方向との8ドットについて、その駆動条件を切り替えて駆動する。この場合、各ドット、または、ある組み合わせでグループ化されたドット群は、互いに異なる駆動信号によって駆動され、このように、基板の回路が形成される。
【0074】
実施例2によれば、実施例1と同様に、駆動条件を変更することによって吐出量を調整し、濃度差を解消することができる。また、図10に示すように、実施例2においても、駆動条件Aと駆動条件Bとの切り替え方は、記録ヘッド8が徐々に昇温していくことを考慮して、段階的に、駆動条件Aの比率が少なくなるように切り替えることが望ましい。
【実施例3】
【0075】
図11は、本発明の実施例3における印字パターンの説明図であり、実施例1、2と同様に、1パスで印字デューティー100%の記録を行った場合における印字パターンの説明図である。
【0076】
実施例3は、実施例1、2と同様に、上段、下段における駆動は、それぞれ駆動条件A、駆動条件Bで行われる。中段の駆動条件(駆動条件ABの混合)で駆動するときに、1回のスキャンの記録中で、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率が50%になるように、各ドット間で異なる駆動条件で印字する。また、ほぼ同一のタイミングで吐出される走査方向と垂直方向のドットにおいても、駆動条件を変えて駆動する。
【0077】
実施例3によれば、実施例1、2と同様に、駆動条件を変更することによって吐出量を調整し、濃度差を解消することができる。また、図11に示すように、実施例3においても、駆動条件Aと駆動条件Bとの切り替え方は、記録ヘッド8が徐々に昇温していくことを考慮し、段階的に、駆動条件Aの比率を少なくするように切り替えることが望ましい。
【実施例4】
【0078】
本発明の実施例4は、前のスキャンでは、ある駆動条件で駆動し、次のスキャンでは、異なる駆動条件で駆動することがないように、次のスキャンでは、異なる駆動条件で駆動するヘッド温度であっても、2つの駆動条件を混合して記録する実施例である。
【0079】
実施例4は、発熱素子が設けられている記録ヘッド8を支持する支持部材を樹脂部材で構成する場合に適用される実施例である。つまり、実施例4は、アルミナ等の熱容量が大きい部材を支持部材として構成する場合よりも、記録ヘッド8で発生する熱が支持部材に逃げにくく、記録ヘッド8自体が昇温しやすい構成に適用される実施例である。
【0080】
図12は、本発明の実施例4における印字パターンの説明図であり、実施例1と同様に、1パスで印字デューティー100%で記録する場合の印字パターンの説明図である。
【0081】
つまり、図12に示す実施例4では、駆動条件が変化する3つのスキャンの記録について示す。3つのスキャンの記録のうちで、1段目の記録をする際に、走査前のヘッド温度が27℃であったとし、図3に示すように、駆動条件Aによって駆動する。
【0082】
走査前のヘッド温度が42℃になると、3つのスキャンの記録のうちで、2段目の記録を実行し、この際に、図3に示すテーブルでは、駆動条件Bで駆動するヘッド温度である。このような状況では、2段目で駆動条件を変えると、記録した印字の濃度差が大きく目立つので、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を50%として駆動する。
【0083】
次に、走査前のヘッド温度が50℃になると、3段目の記録をし、この場合、駆動条件Bで駆動する。
【0084】
ここで、実施例3では、2段目における駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を50%としたが、実施例1と同様に、印字デューティーに応じて、混合比率を変えることが望ましい。
【0085】
また、2段目の駆動条件Aと駆動条件Bとの切り替え方は、実施例1と同様に、記録ヘッド8が徐々に昇温していくことを考慮し、段階的に、駆動条件Aの比率を少なくするように切り替えることが望ましい。
【0086】
実施例4によれば、昇温しやすい構成のヘッドにおいても、実施例1と同様に、駆動条件を変更することによって、インクの吐出量を調整し、濃度差を解消することができる。
【実施例5】
【0087】
本発明の実施例5は、たとえばフォト画像を記録する場合に用いられるような、多パスでの記録で、ヘッド温度が上昇したときに、2つの駆動条件を混合して記録し、これによって濃度差が目立たなくなるように制御する実施例である。
【0088】
図13は、4パスで、印字デューティー100%で記録した場合における印字パターンの説明図である。
【0089】
図13は、駆動条件が変化する9つのスキャンの記録について主に示している。
【0090】
実施例5においても、走査前のヘッド温度と印字デューティーとに応じて、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を変更する。たとえば、1スキャン目から9スキャン目にかけて、ヘッド温度が徐々に上昇し、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を、100%、87.5%、75%、62.5%、50%、37.5%、25%、12.5%、0%のように、徐々に混合比率を変更する。
【0091】
実施例5によれば、多パス記録時においても、実施例1〜4と同様に、駆動条件を段階的に変更することによって、インクの吐出量を調整し、濃度差を解消することができる。
【0092】
上記実施例は、記録ヘッド8に供給される記録ヘッドの駆動条件を記憶する駆動条件記憶手段と、記録ヘッド8の温度を検出する温度検出手段と、走査方向における印字デューティーを判定する印字デューティー判定手段とを有する。そして、走査方向の記録時に、駆動条件記憶手段に記憶された第1の駆動条件と第2の駆動条件を混合して駆動し、ヘッド温度情報と印字デューティー情報とに応じて、走査方向の記録時の第1の駆動条件と第2の駆動条件の混合比率を変更する。
【0093】
これよって、記録ヘッド8の昇温に応じて、駆動条件を変更するので、噴射されるインク滴の吐出量が変化することによって生じる濃度差を軽減し、目立たなくすることができる。したがって、濃度ムラ等の目立たない良好な画質の印字画像を得ることができる。
【0094】
また、駆動回路における駆動パルス制御が精密なものでなくてもよく、また、駆動条件等を格納しているメモリの容量も少なくて済む等、本発明によれば種々の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態であるインクジェット記録装置100の制御用回路の構成を示す図である。
【図2】記録ヘッド8を駆動する駆動パルスの例を示す図である。
【図3】駆動条件記憶ROM14の記憶内容の一例を説明する図である。
【図4】ヘッド温度と平均印字デューティーとに応じて、1スキャン中で、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を変化させる例を示す図である。
【図5】駆動条件Aと駆動条件Bとで駆動したときにおけるヘッド温度に対するインクの吐出量の関係を示す図である。
【図6】ヘッド温度と平均印字デューティーとに応じて、駆動条件Aと駆動条件Bとの混合比率を、1スキャン中で、変化させる例と、1スキャン当たりの駆動条件Bと駆動条件Cとの混合比率を、1スキャン中で、変化させる例とを示す図である。
【図7】本発明の実施例1の説明図であり、記録ヘッド8が、走査方向の往復による記録を繰り返し、「1パス」で、印字デューティー100%で記録を行った場合の印字パターンの説明図である。
【図8】1パスで平均印字デューティーを50%にして記録した場合における印字パターンの説明図である。
【図9】図7と同様に、1パスで100%の記録を行ったときに、駆動条件が変化するスキャンの記録を含む5つのスキャンの記録について示す図である。
【図10】本発明の実施例2における印字パターンの説明図であり、実施例1と同様に、1パスで印字デューティー100%の記録を行った場合における印字パターンの説明図である。
【図11】本発明の実施例3における印字パターンの説明図であり、実施例1、2と同様に、1パスで印字デューティー100%の記録を行った場合における印字パターンの説明図である。
【図12】本発明の実施例4における印字パターンの説明図であり、実施例1と同様に、1パスで印字デューティー100%で記録する場合の印字パターンの説明図である。
【図13】4パスで、印字デューティー100%で記録した場合における印字パターンの説明図である。
【図14】従来のインクジェット記録装置において、駆動条件を変更したときの印字画像の一例を示す拡大模式図である。
【図15】駆動条件αと駆動条件βとで駆動した場合に、ヘッド温度と吐出量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
100…インクジェット記録装置、
1…システムコントローラ、
7…記録制御部、
8…記録ヘッド、
9…記録素子、
11…温度検出手段、
12…印字デューティーカウンタ、
13…駆動条件設定回路、
14…駆動条件記憶ROM。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルと、上記インクを吐出する吐出エネルギー発生素子とが設けられている記録ヘッドを用い、被記録材に画像を形成する記録装置において、
上記記録ヘッドに供給され、上記発熱素子を駆動する記録ヘッドの駆動条件を記憶する駆動条件記憶手段と;
上記記録ヘッドの温度を検出する温度検出手段と;
走査方向における印字デューティーを判定する印字デューティー判定手段と;
1スキャンの記録時に、上記駆動条件記憶手段に記憶されている複数の駆動条件を混合する混合手段と;
上記検出された記録ヘッドの温度と上記判定された印字デューティーとに応じて、上記1スキャンの記録時における上記複数の駆動条件の混合比率を変更する変更手段と;
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記複数の駆動条件のうちの1つの駆動条件は、プレヒートパルスとメインヒートパルスとによって、上記記録ヘッドを駆動する条件であり、上記複数の駆動条件のうちの他の1つの駆動条件は、メインヒートパルスのみによって、上記記録ヘッドを駆動する条件であることを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1において、
上記記録時に、複数の駆動条件を混合して駆動する駆動条件を、上記1スキャンの記録のタイミング毎に、切り替えて制御することを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1において、
複数の駆動条件を混合して駆動する駆動条件を、上記記録ヘッドのノズル毎に切り替えて制御することを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1において、
複数の駆動条件を混合して駆動する駆動条件を、上記記録ヘッドの各ノズル毎に切り替えるとともに、1スキャンの記録のタイミング毎に切り替えて制御することを特徴とする記録装置。
【請求項6】
請求項1において、
上記記録時に、複数の駆動条件の混合比率を段階的に変化させることを特徴とする記録装置。
【請求項7】
請求項1において、
上記1スキャンの記録毎に、上記検出された記録ヘッドの温度と上記判定された印字デューティーとを取得し、駆動条件を決定することを特徴とする記録装置。
【請求項8】
請求項1において、
上記検出された記録ヘッドの温度と上記判定された印字デューティーとに応じて決定された駆動条件が、上記記録の前の駆動条件と異なる場合に、上記検出された記録ヘッドの温度と上記判定された印字デューティーとに応じて決定された駆動条件と、上記記録の前の駆動条件とを混合した駆動条件によって記録することを特徴とする記録装置。
【請求項9】
インクを吐出する複数のノズルと、上記インクを吐出する吐出エネルギー発生素子とが設けられている記録ヘッドを用い、被記録材に画像を形成する記録装置の制御方法において、
上記記録ヘッドに供給され、上記発熱素子を駆動する記録ヘッドの駆動条件を記憶する駆動条件記憶工程と;
上記記録ヘッドの温度を検出する温度検出工程と;
走査方向における印字デューティーを判定する印字デューティー判定工程と;
1スキャンの記録時に、上記駆動条件記憶工程で記憶された複数の駆動条件を混合する混合工程と;
上記検出された記録ヘッドの温度と上記判定された印字デューティーとに応じて、上記1スキャンの記録時における上記複数の駆動条件の混合比率を変更する変更工程と;
を有することを特徴とする記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−87326(P2008−87326A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270682(P2006−270682)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】