説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置に用いるインクジェットヘッドのインク充填方法

【課題】インクジェットヘッドの交換作業を容易に且つ確実に行うことができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 本発明のインクジェット記録装置においては、予めインクが所定量収容されるインク貯蔵部を有し、キャリッジに搭載されて主走査方向に移動するとともにインクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドに、インクタンクからインクジェットヘッドへインク流路を形成するインクチューブの接続部が嵌合する筒状部材を設け、この筒状部材にインクチューブの接続部を案内する傾斜面を形成して構成した。また、インクチューブの接続部にはインク流路を開閉するスリットが形成された弾性体を設けるとともに、インクジェットヘッドには、筒状部材にインクチューブの接続部が嵌合した際に弾性体のスリットに挿入されてこれを弾性変形させてインク流路を開放してインクジェットヘッドのインク貯蔵部と接続するパイプを設けて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置に用いるインクジェットヘッドのインク充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のインクジェット記録装置の一般的な構成は、インクを選択的に吐出するインクジェット記録ヘッドと、この記録ヘッドを搭載したキャリッジ、このキャリッジを主走査方向へ往復移動させる主走査駆動手段、記録紙を副走査方向へ搬送する副走査駆動手段よりなり、主走査および副走査、記録ヘッドのインク吐出を同期させて、記録紙上に所望の画像を形成するよう設けられている。
インク供給手段としては、インクカートリッジより、インクカートリッジと記録ヘッドとを連通させるジョイントを通じて記録ヘッドへ供給される方式、またはこれらインクカートリッジと記録ヘッドが一体に形成されるものが用いられ、記録ヘッドのノズルに供給されるようインクには負圧がかかっている必要があり、そのためこの種のインクカートリッジには、多孔質体を圧縮したものにインクを染み込ませることにより、多孔質体の毛細管力でインクに負圧を発生させる負圧機構を内蔵させて構成されている。また、記録によりインクがなくなると、インクカートリッジごと新しいカートリッジに交換できるよう、記録ヘッドまたはキャリッジに着脱可能に構成されている。
【特許文献1】特開2003−326732号公報
【0003】
このカートリッジをキャリッジ上に搭載する方式のインクジェット記録装置においては、カートリッジに収容されるインク量を多くすると、重量が重くなってキャリッジの高速移動の障害となる等の不具合が生じるので、カートリッジの容量をあまり大きくすることができず、例えばA0サイズといった大判の記録紙に記録を行うのインクジェット記録装置には不向きとなる。このため、この種のラージフォーマット対応のインクジェット記録装置においては、記録装置本体に設けられたインクタンクよりキャリッジに搭載された記録ヘッドにチューブを介してインクを供給する方式が採用されている。
図7はこの種のラージフォーマット対応のインクジェット記録装置の要部構成を示す図であり、図において1は図示しない副走査駆動手段により副走査方向(X軸方向)に搬送される記録紙が載置されるプラテン、2はプラテン1に載置された記録紙の搬送方向と直交する主走査方向に延びるよう設けられるガイドレール、3はガイドレール2に摺動可能に設けられるキャリッジ、4はインク滴を記録紙に吐出するインクジェットヘッド、5はヘッド4にインクを供給するための柔軟性を有するチューブ、6はヘッド4に供給するインクを貯蔵保持するインクタンクである。
図に示すように、キャリッジ3はガイドレール2に沿って主走査(Y軸)方向に移動可能に構成されており、このキャリッジ3には4つの記録ヘッド401〜404が搭載されている。
記録ヘッド401〜404は、各々インクチューブ5を介してそれぞれ色の異なるインクが保持されているインクタンク6に接続されており、これら記録ヘッド4−チューブ5−インクタンク6のインク流経路は各々密閉構造となるよう設けられている。これにより、記録ヘッド4に設けられた吐出ノズルよりインクを吐出させると、吐出したインク量に応じて記録ヘッド4内が負圧となり、さらにこの負圧に応じてインクタンク6よりチューブ5を介してインクが記録ヘッド4に供給されるよう構成されている。
記録ヘッド4の移動経路直下のプラテン1上には、記録紙が副走査(X軸)方向に移動可能に装着されている。記録動作においては、記録紙をX軸方向に、記録ヘッド4をY軸方向にそれぞれ移動させるとともに、各記録ヘッド401〜404から選択的にインクを吐出させることにより所望の記録を行うよう設けられている。
【特許文献2】特開2002−240316号公報
【0004】
この種のインクジェット記録装置において、インクカートリッジを新しいカートリッジに交換する、或いは空になったインクタンクにインクを補充するといった場合、新しいインクをインクジェット記録ヘッドの吐出ノズルまで導くための初期充填動作が必要となるが、従来のインクジェット記録装置においては、上述の特許文献1に記載されるように、記録ヘッドと対向し、必要なときにヘッド表面に密着する吸引キャップとこれに連通した吸引ポンプを設け、この吸引ポンプにより吐出ノズルを吸引して新しいカートリッジのインクをヘッドのノズル内に導く構成や、インクタンクを有する装置においては、記録ヘッドのサブタンクに空気を排出する、手動またはモータ等の駆動源を利用したポンプを設け、このポンプによりチューブを介してインクタンクよりインクをサブタンクへ充填する構成、或いは、インクタンク−チューブ−記録ヘッドのインク流経路上の何れかに設けたポンプより、インクタンクから記録ヘッドへインクを供給するといった方法が用いられる。これにより、この初期充填動作のための操作が煩雑なものとなるとともに、装置全体として部品点数が多くなり、製作コストの上昇を招くとともに装置自体が大掛かりなものとなるといった不具合が生じていた。
これに対して、本願出願人は先に出願した特願2005−154757号において、インクジェットヘッドを予めインクが所定量収容されるよう設け、この予め収容されたインクにより記録を開始することができるとともに、記録に伴うインク吐出によりインクジェットヘッド内を負圧とすることにより、インクチューブを介してインクタンクよりインクをインクジェットヘッドに供給するよう構成したインクジェット記録装置を提案した。
先に出願したこのインクジェット記録装置によれば、インクジェットヘッドの交換時またはインクタンクへのインク補充時に、インクジェットヘッドへのインクの初期充填動作が不要となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のインクジェット記録装置においては、長期間の使用に伴ってインクジェットヘッドのノズルがインクを吐出できなくなる耐久寿命に近づくと、インク吐出不良が発生するなど記録品質が低下するので、インクジェットヘッド自体を交換しなければならなくなるが、先に出願したインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッドを交換する際にインクチューブをインクジェットヘッドより取り外し、交換した新しいインクジェットヘッドにこれを接続するよう構成されており、比較的小径のインクチューブをインクジェットヘッドより取り外し、接続するといった作業が煩雑なものとなっていた。また、インクチューブをインクジェットヘッドより取り外すとインク流路の密閉が開放されることとなり、環境の条件によってはインクチューブ内に残留しているインクが漏れ出して、作業者や記録装置本体を汚染してしまう等の不具合が生じることもあり、インクジェットヘッドの交換作業には細心の注意を払わなければならなかった。更に、多色の記録を行うインクジェット記録装置においては、各々色が異なるインクが貯蔵された複数のインクジェットヘッドを用いるよう構成されており、キャリッジに装着する際に交換すべき色のインクが貯蔵されたインクジェットヘッドとは異なるヘッドを装着し、これにインクチューブを接続してしまうと、記録動作の際にインクジェットヘッド内に異なる色のインクが混ざってしまい、記録不良を起こすとともに、インクジェットヘッドが使用不能になるといった不具合も生じるので、インクジェットヘッドの交換作業は扱いに不慣れな者にとっては非常に困難なものとなっていた。
本発明はこれら不具合を解消するために、インクジェットヘッドの交換作業を容易に且つ確実に行うことができるようなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェット記録装置においては、予めインクが所定量収容されるインク貯蔵部を有し、キャリッジに搭載されて主走査方向に移動するとともにインクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドに、インクタンクからインクジェットヘッドへインク流路を形成するインクチューブの接続部が嵌合する筒状部材を設け、この筒状部材にインクチューブの接続部を案内する傾斜面を形成して構成した。また、インクチューブの接続部にはインク流路を開閉するスリットが形成された弾性体を設けるとともに、インクジェットヘッドには、筒状部材にインクチューブの接続部が嵌合した際に弾性体のスリットに挿入されてこれを弾性変形させてインク流路を開放してインクジェットヘッドのインク貯蔵部と接続するパイプを設けて構成した。更に、インクチューブの接続部を、開閉動作に伴ってインクジェットヘッドにインクチューブを連接するようキャリッジに開閉可能に取り付けたカバー部材に設けて構成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録装置によれば、インクジェットヘッドにインクチューブの接続部が嵌合する筒状部材を設け、更にこの筒状部材に形成した傾斜面が挿入されるインクチューブの接続部を案内するので、インクチューブとインクジェットヘッドの連接を容易に且つ確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明のインクジェット記録装置を詳細に説明する。
図1は本発明のインクジェット記録装置の要部構成を示す外観図であり、上述の従来の装置と同等の構成については同一の符号が付与されている。
本発明のインクジェット記録装置においても、上述の従来の装置と同様に、プラテン1上に載置される記録紙は図示しない副走査駆動手段により副走査方向(図のX方向)に搬送可能に支持され、この記録紙の搬送方向と直交する主走査方向に延びるよう設けられたガイドレール20ならびにガイドシャフト21にキャリッジ3を摺動させることにより、インクジェットヘッド4を主走査方向(図のY方向)に移動させ、インクジェットヘッド4よりインク滴を吐出させて記録紙上に所望の記録を行うよう構成されている。また、インクジェットヘッド4には、インクチューブ5を経由して記録装置本体に支持されているインクタンク6よりインクが供給されるよう構成されている。
【0009】
図2は本発明のインクジェット記録装置のキャリッジ、インクジェットヘッドおよびカバー部材の構成、ならびにインクジェットヘッド−インクチューブ−インクタンクより構成されるインク流経路を示す図であり、上述の通りキャリッジ3はガイドレール20およびガイドシャフト21に摺動可能に支持され、図示しない主走査駆動手段により主走査方向に移動可能に設けられる。キャリッジ3にはインクジェットヘッド4が搭載されるとともに、カバー部材7が開閉可能に設けられている。このカバー部材7は、インクジェットヘッド4を閉塞するカバー70と、このカバー70を支持するアーム71により構成されており、アーム71はカバー70を支持する側から、ガイドレール20を挟んだ他端側において、キャリッジ3に対して回動可能となるよう支持されている。またカバー70には、カバー部材7が閉じられた際にインクジェットヘッド4に当接し、圧縮バネの復元力によりこれをキャリッジ3の方向へ付勢するヘッド押圧部72と、同じくインクジェットヘッド4に当接するとともに弾性変形してこれをガイドレール20の方向へ付勢して保持するよう設けられるレバー73、キャリッジと係合してカバー部材7を固定するフック74が設けられている。更に、カバー70にはインクチューブ5の接続部であるセプタムユニット51が支持されている。
インクチューブ5の他端側には、記録装置本体に設置されるインクタンク6が接続されており、後述するとおり密閉されるよう構成されたインクジェットヘッド4、このインクジェットヘッド4に接続されるインクチューブ5、インクチューブ5が接続されるインクタンク6内のインクとによりインク流経路が形成される。インクタンク6には、図に示されるとおり設置面に対して垂直上方向にインクタンク内部と外気とを接続するための大気開放部が設けられており、これによりインクタンク6内に貯蔵されるインクには大気圧が作用するよう設けられている。
【0010】
本発明のインクジェットヘッド4は、図2乃至図4に示されるとおり、記録紙に対向する面、即ち底面にインク吐出ノズルアレイを有したヘッド部40が設けられるとともに、インクが収容されるインク貯蔵部としてのヘッド本体41と、このヘッド本体41の上部開口部分を密閉する蓋42、蓋42に取り付けられる筒状部材43、およびこの筒状部材43に設けられるパイプ44、ヘッド本体41内に収容されるインク保持体45により構成されている。
本発明のインクジェットヘッド4は、図4に示すとおり複数のインク吐出ノズル406が所定のパターンで列状に形成され、個々のノズル孔406に対応した発熱抵抗体であるヒータ404を選択的に動作させてインクを吐出するサーマル方式のインクジェットヘッドであり、インクジェットヘッド4をキャリッジ3にセットすると、各ヒータ404に導通された複数のコンタクトパッド407がキャリッジ3の接続端子(図示せず)に当接し、インクジェット記録装置の制御部によりヒータ404を駆動制御することが可能となるよう設けられている。
ヘッド部40は、図4中図に示されるとおり、ヘッド本体41上に設けられるシリコン部材401と、このシリコン部材401上に設けられるノズルプレート402により構成され、このノズルプレート402とシリコン部材401の間には、インク供給チャネル403、ヒータ404、チャンバ405がそれぞれ設けられている。また、ノズルプレート402には、ヒータ404ならびにチャンバ405に対応してノズル孔406が形成されている。ヘッド本体41に保持されるインクは、重力および毛管作用によりインク供給チャネル403からチャンバ405へ流入し、ヘッド部40内に充填される。
【0011】
インク保持体45は、例えばウレタン,フォルムアルデヒド,ポリエーテルポリウレタン等といった多孔質材料よりなり、ヘッド本体41内に圧縮され収容されている。本発明のインクジェットヘッド4においては、このインク保持体45に予め所定量のインクが保持されており、後述するとおり筒状部材43およびパイプ44が取り付けられた蓋42をヘッド本体41に密着させて溶着することにより、インクジェットヘッド4内、即ちインク保持体45に保持されたインクは密閉されることとなる。
このインク保持体45は、インクジェットヘッド4内でインクを貯蔵,保持するとともに、ヘッド部40のインク吐出ノズル406からのインクのボタ落ちを防止し、更にはインクジェットヘッド4がキャリッジ3とともに高速移動する際に、インクジェットヘッド4内で気泡が発生することを防止するといった機能を有している。
パイプ44は管状のチューブ部材であり、後述するとおりインクチューブ5をヘッド本体4に接続し、インクタンク6からインクをインクチューブ5を介してインクジェットヘッド4のヘッド本体41に供給する。
【0012】
本実施例においては、黒色のみのインクジェットヘッドと、C,M,Yの3色のインクがヘッド本体41のそれぞれ仕切られた貯蔵部に収容される(図3に示す)カラーインクジェットヘッドの2種類がキャリッジに搭載され、黒単色のインクジェットヘッドには筒状部材43およびパイプ44が一つ、カラーインクジェットヘッドには筒状部材43およびパイプ44が収容されるインクの種類と同数の3つがそれぞれ設けられている。
インクチューブ5の接続部であるセプタムユニット51は、インクチューブ50が接続される中心部分が円筒状チューブよりなるコネクタ511と、このコネクタ511の端部に当接するとともに中心部分にスリットが形成されたゴム等よりなる弾性体512と、この弾性体512の中心部分のスリットを露出するとともに弾性体512を覆うようにしてコネクタ511にカシメ固定されたキャップ513により構成されており、インクチューブ50、コネクタ511の円筒状チューブならびに弾性体512のスリットによりインク流路が形成されている。
このセプタムユニット51は、インクジェットヘッド4に設けられる筒状部材43に嵌合して、インクチューブ5とインクジェットヘッド4とを連接する。
図5はインクチューブ5とインクジェットヘッド4の連接を説明する図であり、図5上図(a)に示されるように、セプタムユニット51がインクジェットヘッド4に接続されていないとき、弾性体512のスリットは閉じた状態であり、これによりインクチューブ5内は密閉されることとなる。
本発明のインクジェットヘッド4における筒状部材43の頭頂部には、外周部から内側に向かって(すり鉢状に)傾斜面が設けられており、インクチューブ5をインクジェットヘッド4に接続するとき、図5中図(b)に示されるとおり、先ずセプタムユニット51のキャップ513の端部がインクジェットヘッド4の筒状部材43に当接し、これを押し込むとキャップ513は筒状部材43の傾斜面に摺動して中心側に案内され、弾性体512のスリットにインクジェットヘッド4のパイプ44が当接する。更にこれを押し込むことにより、パイプ44が弾性体512を弾性変形させてスリットを開放して挿入され、セプタムユニット51が筒状部材43に完全に嵌合すると、図5下図(c)に示されるとおり、インクチューブ5のインク流路とインクジェットヘッド4のインク貯蔵部であるヘッド本体41が接続される。
【0013】
記録動作においては、ヘッド部40においてノズル孔406に隣接して設けられるヒータ404を駆動すると、ヒータ404の表面温度が急上昇し、これに隣接するインクが瞬時に気化してチャンバ405内に気泡が発生し、対応するノズル孔406より発生した気泡の体積に相当する量のインクが押し出され、これが小滴となって吐出される。ヒータ404に電流が流れなくなると表面温度が下降して、気泡はインクなどにより冷却されて収縮、消滅し、チャンバ405には毛細管現象によりインク供給チャネル403(ヘッド本体41)よりインクが供給される。このようにヒータ404を駆動制御することにより、ヘッド部40より所定のタイミングでインクを吐出させ、所望の記録を行う。
インクジェットヘッド4のヘッド部40よりインクが吐出されると、インク保持体45に保持されたインクがヘッド部40に引き出され、密閉状態にあるインクジェットヘッド4内は負圧となる。本願発明のインクジェット記録装置においては、インク流路が密閉状態であり且つインクタンク6のインクには大気圧が作用していることにより、インクタンク6よりインクが吸引され、吐出されるインクと同量のインクがインクチューブ50、セプタムユニット51を介してパイプ44よりヘッド本体41内に滴下し、インク保持体45に保持される、すなわちインクタンク6からインクジェットヘッド4へのインク供給が行われる。
【0014】
本発明のインクジェット記録装置において、このインクチューブ5とインクジェットヘッド4との連接は、カバー7のキャリッジ3に対する開閉動作により行うよう設けられている。即ち、インクチューブ5の接続部であるセプタムユニット51はカバー部材7に取り付けられており、カバー7の開閉によりセプタムユニット51をインクジェットヘッド4の筒状部材43に嵌合するよう設けられている。
図2上図(a)に示されるとおり、インクチューブ5の接続部であるセプタムユニット51は、カバー部材7に対してインクジェットヘッド4に向かう方向(コネクタ511内の円筒状チューブと同軸方向)には移動しないよう規制され、尚且つカバー70の平面方向(コネクタ511内の円筒状チューブの軸に対して直交する平面方向)に対しては所定量揺動可能に、即ちガタツキが生じるように取り付けられている。この構成により、後述するようにカバー部材7の開閉に伴って接続部であるセプタムユニット51を確実にインクジェットヘッド4に嵌合させることができるよう設けられている。
【0015】
次に、本発明のインクジェット記録装置によるカバー開閉動作に伴うインクチューブの連接動作を詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録装置においてインクジェットヘッド4の交換を行う場合は、先ずカバー部材7をキャリッジ3に対して回動する、即ちカバー7を開放する。(図2下図(b))この時、カバー部材7はインクジェットヘッド4を閉塞する側からガイドレール20を挟んだ反対側にキャリッジ3に対して回動するよう支持されており、この支持部を中心としてカバー部7を回転させて開放し、この状態でインクジェットヘッド4を取り外して交換する。
インクジェットヘッド4の交換が完了すると、操作者はカバー7を閉じてインクチューブ5をインクジェットヘッド4に接続する。
カバー7を閉じる際、アーム71の内側、即ちガイドレール20に対向する面がキャリッジ3に設けられた当接部材であるレール31に当接する。このレール31はカバー7が閉じた状態でアーム部71が若干変形するように設けられており、これによりキャリッジ3に対するアーム部材7の取り付け精度が高くなくても、このレール31にアーム部材7が当接,摺動して開閉動作が規制されることにより、セプタムユニット51をインクジェットヘッド4の接続されるべき筒状部材43の直上に位置づけられるよう設けられている。
また、アーム部71がレール31に当接,摺動して回動されると、先ずレバー73がインクジェットヘッド4のヘッド本体41に当接し、更にカバー部70のインクジェットヘッド4に対向する面に設けられたヘッド押圧部72が蓋インクジェットヘッド4の蓋42に当接する。レバー73は、インクジェットヘッド4をガイドレール20の方向へ付勢して、これを位置決めするよう作用し、ヘッド押圧部72は、圧縮バネの復元力によりインクジェットヘッド4をキャリッジ3の方向、即ち印字面(プラテン1)の方向へ位置決めするようそれぞれ作用する。
更に、アーム部71を回動させると、カバー70に取り付けられたセプタムユニット51のキャップ513がインクジェットヘッド4の円筒部材43に当接する。
本発明のインクジェット記録装置において、カバー部材7はキャリッジ3が摺動するガイドレール2を挟んでインクジェットヘッド4の反対側に回動可能に支持されている、即ち、セプタムユニット51の支持位置からその回転中心が離れるよう構成されているので、セプタムユニット51をインクジェットヘッド4の筒状部材43に対して、垂直に近い方向で挿入すると画可能となるよう設けられている。
また、セプタムユニット51のコネクタ511は、カバー70の平面方向(図3右図に示す矢印方向)に揺動可能に取り付けられる(カバー70のコネクタ取付孔の大きさが、コネクタ511の外形よりも大きくなるよう形成することにより)ので、カバー7の回動に伴ってセプタムユニット51は、インクジェットヘッド4の筒状部材43の傾斜面に沿って移動可能となるよう構成されている。これにより、セプタムユニット51は、図4に示すように筒状部材43の中央部分に確実に案内され、更にカバー7が回動することによりセプタムユニット51が筒状部材43に嵌合し、パイプ44が弾性体512のスリットを開放して、インクチューブ5のインク流路とインクジェットヘッド4のインク貯蔵部であるヘッド本体41とを接続する。この状態でカバー7のフック74がキャリッジ3に当接してこれをロックし、インクジェットヘッド4の位置決めおよびインクチューブ5とインクジェットヘッド4の接続を維持、固定する。
これでインクジェットヘッド4の交換ならびにインクチューブ5との連接が完了する。
【0016】
本実施例のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッドとして黒色のみのインクジェットヘッドと3色のインクのカラーインクジェットヘッドの2種類がキャリッジに搭載されるよう構成されているが、キャリッジに装着すべきインクジェットヘッドと異なるものを装着してインクチューブを接続してしまうと、記録不良を起こすとともにインクジェットヘッドを使用不能としてしまうので、これを防ぐため、本発明のインクジェット記録装置においては、異なる種類のインクジェットヘッドがキャリッジに搭載された場合には、カバー部材の押圧手段がインクジェットヘッドの筒状部材に干渉するように位置づけて、これが閉じないように設けられている。
即ち、図6は黒色のみのインクジェットヘッド4が搭載されるべきキャリッジ3(カバー部材7には黒色のインクチューブ5が一つだけ取り付けられている)に、カラーインクジェットヘッド4(筒状部材43が複数取り付けられている)が装着された場合を示す図であり、この場合、カバー部材7を閉じてインクチューブ5をインクジェットヘッド4に接続しようとしても、先ず、ヘッド押圧部73がインクジェットヘッドの筒状部材43に当接して、アーム部7がそれ以上回動できなくなり、フック74がキャリッジ3に、セプタムユニット51が筒状部材43にそれぞれ到達することができないよう構成されている。
インクチューブが連接されるべきインクジェットヘッドとは異なる種類のインクジェットヘッドがキャリッジに搭載された際に、ヘッド押圧部がインクジェットヘッドの筒状部材に干渉してカバー部材が閉じないようにするためには、ヘッド押圧部72を装着すべきインクジェットヘッド4の蓋42における筒状部材43が設けられる領域以外の部分に応じた形状として、これを形成することにより実現することができる。
このように構成することにより、本願発明のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッドの誤装着を防止することが可能となる。
【0017】
以上詳述したとおり、本発明のインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドのインク貯蔵部に予めインクが所定量収容されており、このインクにより初期充填動作を行うことなく記録動作を開始させることができるものであり、このインクジェット記録装置に用いるためのインクジェットヘッドにインクを充填する方法としては、図3に示されるインクジェットヘッド4において、先ずヘッド本体41に取り付けられてこれを閉塞する蓋42に予めガスケットを介して筒状部材43(ならびにパイプ44)を取り付けて固定しておく。他方、インクジェットヘッド4のヘッド本体41の上部開口部よりインク保持体45を圧縮して収容し、このインク保持体45に所定量のインクを充填する。次に、このインクが充填されたヘッド本体41の開口部に、上記予め筒状部材43を取り付けた蓋42を密着させてこれを溶着し、インクジェットヘッド4を密閉する。これにより、予めインクが所定量収容されたインクジェットヘッドを得ることが可能となる。
或いは、図3に示されるインクジェットヘッド4において、先ずヘッド本体41の開口部よりインク保持体45を圧縮して収容し、上部開口部に蓋42を密着させて溶着する。この後、筒状部材43を取り付けるべき孔部を利用して、ヘッド本体41内のインク貯蔵部、即ちインク保持体45に所定量のインクを充填する。次に、ガスケットを介して筒状部材43(ならびにパイプ44)を蓋42の孔部に取り付けてインクジェットヘッド4を密閉することにより、予めインクが所定量収容されたインクジェットヘッドを得るよう構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の要部構成を示す斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置の構成を示す断面図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドならびにカバー部材の構成を示す図である。
【図4】本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す図である。
【図5】本発明のインクジェット記録装置におけるインクチューブとインクジェットヘッドの連接を示す説明図である。
【図6】本発明のインクジェット記録装置の構成を示す断面図である。
【図7】従来のインクジェット記録装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 プラテン
2 ガイドレール
3 キャリッジ
4 インクジェットヘッド
5 インクチューブ
6 インクタンク
7 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク貯蔵部を有し、キャリッジに搭載されて主走査方向に移動するとともにインクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドと、
記録装置本体に支持され、インクを貯蔵するインクタンクと、
当該インクタンクから上記インクジェットヘッドへインク流路を形成するインクチューブとを有し、
上記インクジェットヘッドのインク貯蔵部には予めインクが所定量収容されるとともに、上記インクチューブが連接可能に構成されるインクジェット記録装置において、
上記インクジェットヘッドには上記インクチューブの接続部が嵌合する筒状部材が設けられるとともに、
当該筒状部材には上記インクチューブの接続部を案内する傾斜面が形成されることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
上記インクチューブの接続部にはインク流路を開閉するスリットが形成された弾性体が設けられるとともに、
上記インクジェットヘッドには、上記筒状部材にインクチューブの接続部が嵌合した際に弾性体のスリットに挿入されてこれを弾性変形させてインク流路を開放し、インクジェットヘッドのインク貯蔵部と接続するパイプが設けられることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
上記インクジェットヘッドはサーマル方式のインクジェットヘッドであることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
上記インクチューブの接続部が取り付けられ、開閉動作に伴って上記インクジェットヘッドにインクチューブを連接するよう上記キャリッジに開閉可能に取り付けられたカバー部材を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項4記載のインクジェット記録装置において、
インクチューブの接続部は、カバー部材の平面方向に揺動可能に取り付けられたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
上記カバー部材は、キャリッジに設けられた当接部材に摺動して開閉動作が規制されることを特徴とする請求項4または5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
上記カバー部材には、閉じられた状態においてインクジェットヘッドをキャリッジの方向へ付勢する押圧手段が設けられることを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
上記押圧手段は、インクチューブが連接されるべきインクジェットヘッドとは異なる種類のインクジェットヘッドがキャリッジに搭載された際に、当該インクジェットヘッドの筒状部材に干渉してカバー部材が閉じないよう位置づけられることを特徴とする請求項7記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
インク貯蔵部を有し、キャリッジに搭載されて主走査方向に移動するとともにインクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドと、
記録装置本体に支持され、インクを貯蔵するインクタンクと、
当該インクタンクから上記インクジェットヘッドへインク流路を形成するインクチューブとを有し、
上記インクジェットヘッドのインク貯蔵部には予めインクが所定量収容されるとともに、上記インクチューブが連接可能に構成されるインクジェット記録装置に用いるインクジェットヘッドのインク充填方法において、
上記インクジェットヘッドは、インクが充填されるインク貯蔵部と、当該インク貯蔵部を閉塞する蓋部材および上記インクチューブの接続部が嵌合する筒状部材とにより構成され、
上記インク貯蔵部にインクを充填した後に筒状部材が取り付けられた蓋部材をインク貯蔵部に密着させることによりインクジェットヘッドにインクを充填することを特徴とするインクジェットヘッドのインク充填方法。
【請求項10】
インク貯蔵部を有し、キャリッジに搭載されて主走査方向に移動するとともにインクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドと、
記録装置本体に支持され、インクを貯蔵するインクタンクと、
当該インクタンクから上記インクジェットヘッドへインク流路を形成するインクチューブとを有し、
上記インクジェットヘッドのインク貯蔵部には予めインクが所定量収容されるとともに、上記インクチューブが連接可能に構成されるインクジェット記録装置に用いるインクジェットヘッドのインク充填方法において、
上記インクジェットヘッドはインクが充填されるインク貯蔵部と、当該インク貯蔵部を閉塞する蓋部材および上記インクチューブの接続部が嵌合する筒状部材とにより構成され、
上記インク貯蔵部に蓋部材を取り付け、インクをインク貯蔵部に充填した後に筒状部材を取り付けることによりインクジェットヘッドにインクを充填することを特徴とするインクジェットヘッドのインク充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−105882(P2007−105882A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295802(P2005−295802)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000105062)グラフテック株式会社 (31)
【Fターム(参考)】