説明

インクジェット記録装置および記録ヘッド回復方法

【課題】 凝集する傾向にある色材を含有するインクを用いて、画像を形成するインクジェット記録装置においても、1つの回復手段によって、その回復能力を安定した状態で維持することが可能なインクジェット記録装置、および回復方法を提供する。
【解決手段】 着色インク用の記録素子から着色インクを排出し、この排出液を所定の領域に輸送する排出経路に対し、色材の凝集を抑制するための凝集阻害溶液を付与する。これにより、排出経路中の色材の凝集が抑制されるので、排出経路内での不具合が起こり難くなり、回復動作の回数を重ねても、良好な回復能力を維持することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の環境で凝集する性質を有する色材を含有するインクを記録媒体に付与することによって画像を形成するインクジェット記録装置に関する。特に、当該色材の凝集に起因する、記録ヘッド回復装置の不具合を抑制するための構成および回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータやワードプロセッサ、複写機などのOA機器の発展に伴い、これらの機器の情報を出力するための記録装置も数多く提供されている。中でも、インクジェット記録方式を採用した記録装置は、記録ヘッドのコンパクト化が容易であり、高精細な画像を高速で記録でき、普通紙に特別の処理を必要とせずに記録することが出来る、また、ランニングコストが安く、騒音が少なく、しかも多色のインクを使用してフルカラー画像を記録することが比較的容易に実現できる等、様々な利点を有している。よって、今やパーソナルユーザを含めた、幅広い市場に普及している。
【0003】
このような普及は、インクジェット記録装置に対する様々な要求をユーザから生み出すことにも繋がり、特に近年では、発色性の高い状態のまま、耐水性や耐光性のような強い画像堅牢性を求める声が高まりつつある。画像堅牢性を高めるためには、専用紙としての記録媒体に工夫を加えることも1つであるが、普通紙を含む様々な種類の記録媒体であっても、安定して高い画像堅牢性を維持するためには、インク自体に上記目的を達成させるための特徴を持たせることが最も有効と言える。よって、このようなインクの開発、およびその適用方法などが、近年数多く提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、従来一般的に用いられてきた染料インクに加えて、顔料を色材として含有するインクの開発およびこれを用いた種々の記録方法が開示されている。顔料を含有するインクは、染料を色材として含有するインクに比べて、色材が凝集した状態で記録媒体の表面に留まりやすい。よって、色材の発色性が充分に発揮され、また、太陽光線やオゾンによる褪色も起こり難いなどの特徴を有している。特許文献1によれば、このような顔料インクの優位点と、染料インクの優位点と併用して活用するために、記録媒体の種類や出力する画像の種類に応じて、これら種類の異なるインクを使い分ける方法が開示されている。例えば、顔料ベースの低浸透性のブラックインクと、染料ベースの高浸透性のカラーインクとを用意しておきながら、記録媒体の種類や画像の種類に応じて、ブラック画像をブラックインクで記録したり、カラーインクの混色によって記録したり、或いはカラーインクによって下打ちした上にブラックインクを重ねて記録したりする記録方法が記載されている。
【0005】
また、発色性や画像堅牢性を高めるための別の方法として、色材を含有する着色インクと反応して色材を不溶化または凝集させる反応液を用いる構成も、いくつか提案されている。例えば、特許文献2においては、記録前の記録媒体上に、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のポリマーの溶液を付与し、その後、着色インクを記録する方法が開示されている。また、特許文献3には、1分子当り2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体を記録媒体に付与した後、アニオン染料を含有した着色インクを記録する方法が開示されている。特許文献4には、コハク酸等を含有した酸性液体を記録媒体に付与した後に、着色インクを記録する方法が開示されている。特許文献5には、染料を不溶化する液体を、当該染料を含有した着色インクの記録前に付与する方法が開示されている。特許文献6には、多価金属イオンが含有された反応液を、着色インクの記録前に付与する方法が開示されている。
【0006】
更に、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、および特許文献13においては、ブラックインクとカラーインクとからなる着色インクのセットであって、カラーインクの少なくとも1つのインクがブラックインクと相互反応性を示し、他のインクがブラックインクと非反応性を示すような構成が開示されている。
【0007】
以上列挙した反応液を用いる方法は、いずれも色材を有する着色インクと化学反応を起こすことによって、これを凝集させるところに特徴がある。すなわち、近年のインクジェット記録装置においては、その色材が、顔料、染料を問わず、また、凝集を引き起こすために反応液を必要とするか否かに問わず、色材を凝集させた状態で記録媒体表面に残留・定着させることによって、好適な発色性や画像堅牢性を実現しているのである。
【0008】
【特許文献1】特開平11−227229号公報
【特許文献2】特開平56−89595号公報
【特許文献3】特開昭63−29971号公報
【特許文献4】特開昭64−9279号公報
【特許文献5】特開昭64−63185号公報
【特許文献6】特開平5−202328号公報
【特許文献7】特開平6−106841号公報
【特許文献8】特開平9−11850号公報
【特許文献9】特開平11−334101号公報
【特許文献10】特開平11−343441号公報
【特許文献11】米国特許第5,428,383号明細書
【特許文献12】米国特許第5,488,402号明細書
【特許文献13】米国特許第5,976,230号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した様な構成においては、記録媒体上での画像品位を向上させることは出来ても、記録装置内でのインクの取り扱いについては、新たな不具合が生じてしまうことが多かった。以下にその一例を説明する。
【0010】
インクジェット記録装置においては、着色インクとなる液体を、記録ヘッドに備わった複数の記録素子から少量ずつ吐出させて画像を形成している。よって、安定した記録を維持するためには、多数の記録素子からの吐出が常に確実なものであることが望まれる。しかしながら、連続した記録動作、あるいは非記録状態での長時間放置のような状況が生じると、記録素子の内部に不純物や不要な泡が溜まったり、吐出口面に蒸発したインクが固着したりする場合がある。そして、これらは吐出の安定性を劣化させる要因となるのである。このために、通常のインクジェット記録装置においては、周期的あるいは必要に応じて、記録ヘッドに対する吸引回復処理が実施されている。吸引回復処理では、記録ヘッドの吐出口面に吸引キャップを押し当て、この状態でポンプ手段等によってキャップ内を負圧状態とする。これにより、吐出口から所定量のインクが強制的に排出され、このインクとともに、記録素子内に含まれる不純物や不要な泡、また吐出口面に固着したインクなどが除去されるのである。
【0011】
図12は、一般的な吸引回復手段の構成、および当該構成において凝集するインクを適用した場合の不具合を説明するための模式図である。ここでは、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の着色インク用の記録ヘッド1210の他、これらインクと化学反応することにより、着色インクの色材を凝集させるための成分を含んだ反応液(S)を吐出する記録ヘッド1211、による構成が示されている。
【0012】
各記録ヘッドにおいては、複数の記録素子1201が図面の垂直方向に所定のピッチで配備されている。1220は、吸引用のキャップである。キャップ1220は、記録ヘッドの吐出口面に密着することで、ここに配列する複数の吐出口を一括して覆い、その領域を密封することが可能な材質で形成されている。
【0013】
1222は吸引ポンプである。吸引ポンプ1222が作動することにより、キャップ1220と吐出口面で形成された密封領域は負圧状態となり、各吐出口1201よりそれぞれのインクあるいは反応液が吸引される。吸引された液体は、チューブ1221を介することにより、廃液吸収体1230へと輸送される。
【0014】
しかしながら、このような吸引動作において、反応液と着色インクとは、キャップ1220で混在された段階で、互いに反応し合い凝集する。すなわち、キャップ1220、チューブ1221、および廃液吸収体1230へと運ばれていく過程で、この廃液は凝集した色材を含んだ状態となり、スムーズな流通が困難になって行く。もし、廃液中の色材が染料のみであれば、色材は廃液中にイオンとして存在しているので、流体の流れはスムーズである。しかし、本例のような反応液によって凝集された色材の場合には、廃液中に凝集されたインクが浮遊し、廃液経路の様々な箇所で固着してしまうという弊害が生じる。そして、このような状況になると、吸引ポンプの吸引力や、廃液吸収体の吸収能力も低下し、結果として、吸引動作自体が正常な状態で行うことが出来なくなってしまうのである。
【0015】
この問題を解決するために、着色インクを吸引する経路と、反応液を吸引する経路とを独立に設ける構成も提案されている。
【0016】
図13は、着色インク用の記録ヘッド1310に対する吸引回復手段と、反応液用の記録ヘッド1311に対する吸引回復手段とを独立して設けた構成を説明するための模式図である。本例によれば、着色インク用の記録ヘッド1310に対しては、キャップ1323、吸引ポンプ1327、チューブ1325および廃液吸収体1331が用意されている。また、反応液用の記録ヘッド1311に対しては、キャップ1324、吸引ポンプ1328、チューブ1326および廃液吸収体1332が着色インク用の系とは独立して用意されている。それぞれの吸引回復系は互いに交わることは無く、着色インクと反応液とが吸引回復に係る一連の経路において、反応、凝集、および固着は起こらない。
【0017】
しかしながら、吸引回復手段を複数個設置するこのような構成においては、記録装置自体が大型で高価格なものとなってしまう。
【0018】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、凝集する傾向にある色材を含有するインクを用いて、画像を形成するインクジェット記録装置においても、1つの吸引回復手段によって、その吸引回復能力を安定した状態で維持することが可能なインクジェット記録装置、および回復方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そのために本発明においては、 色材を含有する着色インクを記録素子から吐出する着色インクヘッドと、前記着色インクに含有される色材を凝集させる成分を含有する反応液を記録素子から吐出する反応液ヘッドと、前記着色インクヘッドおよび前記反応液ヘッドの記録素子から前記着色インクおよび前記反応液を排出する排出手段と、前記排出手段によって排出された排出液を収容する廃液収容部と、前記排出手段によって排出された排出液を前記廃液収容部へ輸送するための排出経路と、前記色材の凝集を抑制するための凝集阻害液を前記排出経路に対して直接的あるいは間接的に付与する凝集阻害液付与手段と、
を具備することを特徴とする。
【0020】
また、色材を含有する着色インクと当該インク中の色材を凝集させる反応液とを記録素子から吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置において実行される記録ヘッドの回復方法であって、前記記録ヘッドの記録素子から前記着色インクを排出する工程と、前記記録ヘッドの記録素子から前記反応液を排出する工程と、前記排出工程によって排出されたインクおよび反応液の排出液を、排出経路を介して廃液収容部に輸送する工程と、前記色材の凝集を抑制するための凝集阻害溶液を前記排出経路に直接的あるいは間接的に付与する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、凝集する傾向にある色材を含有するインクを用いた場合であっても、吸引回復手段の廃液経路における色材の凝集が阻害されるので、吸引回復経路における廃液の流通はスムーズな状態に保たれる。よって、記録装置の吸引回復動作回数を重ねていった状況においても、吸引回復能力は安定して良好な状態で実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明に適用可能なシリアル型のインクジェット記録装置の斜視図である。インクジェット記録装置100の給紙位置に挿入された記録媒体105は、搬送ローラ106によって矢印P方向に送られ、記録ヘッド104の記録可能領域へ搬送される。
【0024】
記録可能領域における記録媒体105の下部には、プラテン107が設けられている。プラテン107は、記録ヘッドによって記録が実行される領域において、記録媒体105を下側から支持している。
【0025】
キャリッジ101は、2つのガイド軸102と103によって、それらの軸方向に沿う方向に移動可能となっており、記録領域を主走査方向であるQ1、Q2方向に往復走査する。
【0026】
キャリッジ101に搭載された記録ヘッド104は、ここでは一体的に示しているが、実際には複数色のインクをそれぞれ吐出する複数の記録ヘッドによって構成されている。また、着色インクに含有される色材を凝集させる反応液を吐出するための記録ヘッドや、当該色材の凝集を抑制する性質を有する凝集阻害溶液を吐出するための記録ヘッドも具備されている。これら複数の記録ヘッドは、キャリッジ101の走査方向に並列して具備されているものとする。そして、キャリッジ101が、Q1またはQ2方向に走査しながら記録を行う記録主走査と、記録媒体105を所定量ずつ搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に順次画像が形成されていく。
【0027】
キャリッジ走査領域の最端部には、記録ヘッドのメンテナンス処理を実行するための吸引回復手段109が配備されている。吸引回復動作を実行する際、キャリッジ101は記録ヘッド104を、吸引回復手段109の真上まで走査する。位置決めされた記録ヘッド104に対し、下側から上昇したキャップがその吐出口面に密着する。図12で説明したような吸引ポンプや、チューブ、廃液吸収体などは、記録装置本体の下部に格納されている。本発明特有の吸引回復手段の詳しい構成については、後述する。
【0028】
108は、スイッチ部及び表示部である。スイッチ部は記録装置の電源のオン/オフや各種記録モードの設定等に使用され、表示部は記録装置の状態を表示する。
【0029】
図2は、図1で説明したインクジェット記録装置100の制御系の構成を説明するためのブロック図である。図において、ホストコンピュータ140は記録装置100と接続され、記録装置へ転送する画像データを生成するものである。ホストコンピュータ140のオペレーティングシステムで動作するプログラムとしてアプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションは記録装置で使用される画像データを作成する処理を実行する。この画像データもしくはその編集等がなされる前のデータは種々の媒体を介してPCに取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホストコンピュータ140のモニタに表示されてアプリケーションを介した編集、加工等がなされ、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。そして、印刷の指示に応じてこの画像データがプリンタドライバに渡される。プリンタドライバでは、受け取ったRGBの画像データを、このデータが表す色を再現するインクの組み合わせ、すなわちシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックに対応した色分解データに変換する。その後、CMYKの色分解データそれぞれについてγ補正処理、ハーフニング処理を施し、こうして生成されたCMYKの多値画像データを記録装置へ転送する。
【0030】
記録装置100における受信バッファ401は、ホストコンピュータ140から転送されたCMKYの多値画像データなどを受信し、これをCPU402に転送する。また、データが正しく受信されているか否かの情報や、記録装置100の動作状態を知らせる情報も、受信バッファ401を介してホストコンピュータに通知される。CPU402は記録装置内の各部を制御する役割を果たす。受信バッファ401が受信したCMYKの多値画像データは、CPU402の管理下においてCMYKの2値画像データに変換され、それがメモリ部403に転送され、これら受信した画像データを一時的に格納する。これに加え、CMYKの2値画像データの論理和から反応液用の2値データを生成し、それをメモリ部403に格納する。また、メモリ部403には、インクジェット記録装置で行われる記録動作や回復動作等を制御するための制御プログラム等が格納されている。機械コントロール部404は、CPU402の指令により、キャリッジモータや搬送モータ等の機械部405を駆動制御する。吸引回復手段109の制御も、機械コントロール部404によって行われている。回復センサ/SWコントロール部406は、各種センサやSW(スイッチ)からなるセンサ/SW部407からの信号を、CPU402に転送する。表示素子コントロール部408は、CPU402からの指令により、表示パネル群のLEDや液晶表示素子等からなる表示部409を制御する。記録ヘッドコントロール部410は、CPU402からの指令により、CMYKSの2値吐出データに基づく液体吐出が行われるように記録ヘッド104を制御する。また、記録ヘッドコントロール部410は、記録ヘッド104の状態を示す温度情報等を検出して、それらをCPU402に転送する。
【0031】
図3は、本実施形態に適用可能なインクジェット記録ヘッドの要部を模式的に示した概略斜視図である。図において、934は基板であり、本実施形態においては、ガラス、セラミックス、プラスチック或いは金属等から構成されている。但し、このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギ発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として、機能し得るものであれば特に限定されるものではない。本実施形態では、Si基板(ウエハ)を用いた場合として説明する。
【0032】
基板934上にはインク吐出口が形成されるが、その方法としては、レーザー光による形成方法の他、例えば、後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(Mirror ProjectionAliner)等の露光装置を用いる方法であってもよい。
【0033】
基板934には、複数の電気熱変換素子(以下、ヒータと記述する場合がある)931や、共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933が形成されている。熱エネルギ発生手段である複数のヒータ931は、インク供給口933の長手方向の両側に、それぞれ例えば600dpi(ドット/インチ)に相当する間隔で配置されている。2つの列は、y方向において互いに半ピッチずれた状態になっており、結果的にこの2列でy方向に1200dpiの密度でドットを記録することが可能な構成となっている。
【0034】
基板934の上には、各ヒータに対応した位置にインクを導くためのインク流路壁936が設けられている。更にインク流路壁936の上には、各ヒータに与えられたエネルギによって、インク滴が吐出するための吐出口832を備えるオリフィスプレート935が設けられている。オリフィスプレート935の吐出口面側(935a)は、撥水処理が施されている。それぞれのヒータ931には、10KHzの駆動周波数で電圧パルスが印加され、各吐出口からは、約100μs毎に吐出を行うことが可能となっている。
【0035】
図4〜図11は、実際の吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。ここでは、図3で説明した記録ヘッドの、X−X断面図として示している。
【0036】
図4は、ヒータ931に電圧パルスを印加し、ここに膜状の気泡が生成した状態を示している。図5は、図4で示した状態の約1μs後、図6は約2μs後、図7は約3μs後、図8は約4μs後、図9は約5μs後、図10は約6μs後、図11は約7μs後の状態をそれぞれ示している。尚、以下の説明において、「落下」、「落とし込み」または「落ち込み」とは、いわゆる重力方向への落下という意味ではなく、ヘッドの取り付け方向によらず、電気熱変換素子の方向への移動を示すものとする。
【0037】
記録信号に基づいた通電が開始されると、ヒータ931上の液流路1338内には、気泡1001が生成される。気泡1001は、1μs後には図5、2μs後には図6に示すように、急激な体積膨張を遂げる。気泡1001が最大体積になった時、その高さは吐出口面935aを上回る。この時の気泡1001の圧力は、大気圧の数分の1から10数分の1となっている。
【0038】
気泡1001の生成から約2μs後の時点で、気泡1001は体積減少に転じ、ほぼ同時にメニスカス1002の形成も始まる。メニスカス1002は、図7に示したように、ヒータ931側への方向に後退してゆく。
【0039】
メニスカス1002の落下速度は、気泡1001の収縮速度よりも速い。よって、気泡の生成から約4μs後の時点で気泡1001が吐出口832の下面近傍で大気に連通する
(図8)。同時に、吐出口832の中心軸近傍のインクIaは、ヒータ931に向かって落ち込んで行く。これは、大気に連通する前の気泡1001の負圧によってヒータ931側に引き戻されたインクIaが、気泡1001の大気連通後も、慣性によってヒータ931面方向の速度を保持しているからである。
【0040】
ヒータ931側に向かって落ち込んで行ったインクIaは、気泡1001の生成から約5μs後の時点でヒータ931の表面に到達する(図9)。そして、その後も、ヒータ931の表面を覆うように拡がって行く(図10)。ヒータ931の表面を覆うように拡がったインクは、ヒータ931の表面に沿った水平方向のベクトルを有するが、ヒータ931の表面に垂直な方向のベクトルは消滅し、ヒータ931の表面に留まろうとする。そして、これよりも上側の液体、即ち吐出方向の速度ベクトルを保つ液体に対し、下方向に引く力が働く。
【0041】
その後、ヒータ931の表面に拡がったインクと、上側のインク(主滴)との間の部分Ibが細くなってゆき、気泡1001の生成から約7μs後の時点で、ヒータ931の表面の中央で液体部分Ibが切断される(図11)。そして、吐出方向の速度ベクトルを保つ主滴Iaと、ヒータ931の表面上に拡がったインクIcとに分離される。Ibの切断位置は、液流路1338内部が好ましいが、より望ましくは、吐出口832よりも電気熱変換素子931側がよいとされる。
【0042】
このように生成された主滴Iaは、吐出方向に偏りがない状態で、吐出口832の中央部分から吐出され、記録媒体の被記録面の目標の位置に着弾される。一方、ヒータ931の表面上に拡がったインクIcは、ヒータ931の表面上に留まり、吐出されることはない。尚、図8〜11において、Idは溝部に付着したインク(溝内のインク)を、又、Ieは液流路1338内に残存しているインクを表している。
【0043】
次に、本実施形態で適用可能な着色インクとして、顔料インクの例を説明する。但し、本発明は、以下に例示する顔料インクを適用することに限定されるものではない。
【0044】
本実施形態で使用される顔料インクの顔料は、顔料インクの全重量に対して、重量比で1〜20重量%、好ましくは2〜12重量%の範囲で用いられる。ブラック顔料としては、カーボンブラックが挙げられ、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックであって、一次粒子径が15〜40mμ(nm)、BET法による比表面積が50〜300m2/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜9等の特性を有するものが好ましく適用できる。この様な特性を有する市販品としては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成製)、RAVEN1255(以上、コロンビア製)、REGAL400R、REGAL330R、REGAL660R、MOGUL L(以上キャボット製)、Color Black FWl、COLOR Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、Printex U(以上、デグッサ製)等が挙げられる。
【0045】
また、イエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 83等が挙げられる。
【0046】
更に、マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 112、C.I.Pigment Red 122等が挙げられる。
【0047】
更に、シアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 6等が挙げられる。なお、以上の他、自己分散型顔料など新たに製造された顔料も、勿論、使用することは可能である。
【0048】
顔料の分散剤としては、水溶性樹脂であればどの様なものでもよい。但し、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更に3,000〜15,000の範囲のものであればより好ましい。具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性の重合性単量体)からなるブロック共重合体、或いは、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。更に、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も、好ましい状態で使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、顔料インクの全重量に対して0.1〜5重量%の範囲で含有させるのが好ましい。
【0049】
上記した顔料が含有されている顔料インクの場合には、顔料インクの全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。この様なものとすれば、顔料分散剤として使用される水溶性樹脂の溶解性を向上させ、長期保存性に一層優れた顔料インクとすることができるからである。但し、この場合、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる恐れがあるので、出来れば、7〜10のpH範囲に調整されていることが望まれる。この際に使用されるpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等が挙げられる。上記した顔料及び分散剤である水溶性樹脂は、水性液媒体中に分散又は溶解される。
【0050】
本実施形態の顔料インクにおいて、好適に用いられる水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。この場合、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用することが好ましい。
【0051】
水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルがより好ましく適用できる。
【0052】
上記した水溶性有機溶剤の顔料インク中の含有量は、一般的には、顔料インクの全重量の3〜50重量%の範囲、より好ましくは3〜40重量%の範囲で使用する。又、使用される水の含有量としては、顔料インクの全重量の10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の範囲とする。
【0053】
又、本実施形態に適用可能な顔料インクとしては、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つ顔料インクとする為に、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を適宜に添加することができる。特に浸透促進剤として機能する界面活性剤は、記録媒体に顔料インクの液体成分を速やかに浸透させる役割を担うための適量を添加することが強く望まれる。添加量としては、0.05〜10重量%、更には0.5〜5重量%がより好適である。アニオン性界面活性剤の例としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル型、スルホン酸塩型、燐酸エステル型等、一般に使用されているものを何れも好ましく使用することができる。
【0054】
上記顔料インクの作製方法としては、始めに、分散剤としての水溶性樹脂と、水とが少なくとも含有された水性媒体に上記顔料を添加し、混合撹拌する。その後、後述の分散手段を用いて分散を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の分散液を得る。次に、この分散液にサイズ剤、及び、上記で挙げた様な適宜に選択された添加剤成分を加え撹拌して顔料インクとする。
【0055】
尚、分散剤としてアルカリ可溶型樹脂を使用する場合には、樹脂を溶解させる為に塩基を添加することが要される。この際の塩基類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、アンモニア等の有機アミン、或いは水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が好ましく適用できる。
【0056】
又、顔料が含有されている顔料インクの作製方法においては、顔料を含む水性媒体を攪拌し、分散処理する前に、プレミキシングを30分間以上行うのが効果的である。何故なら、この様なプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるからである。
【0057】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル及びサンドミル等が挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく使用される。この様なものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0058】
又、一般に顔料インクを適用するインクジェット記録装置においては、吐出口の目詰りを極力防止するために、最適な粒度分布を有する顔料を選択し、これを適用する。この際、所望の粒度分布を得るための方法としては、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級する、及びこれらの手法を組合せて適用する、等の手法を採用することが出来る。
【0059】
次に、上記顔料インクと反応するための、本実施形態で適用可能な反応液について説明する。本明細書において、反応液とは、記録媒体上での色材を凝集させるように働く成分を有する液体と定義する。よって、例えば電気的斥力により分散されている顔料を含有した顔料インクを用いる場合、反応液は、この電気的斥力を消失させる反応成分である、多価金属塩を含んでいることが好適である。多価金属塩とは、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成される。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+などの二価金属イオン、そしてFe3+、Al3+などの三価金属イオンが挙げられる。また陰イオンとしては、Cl−、NO3−、SO4−などが挙げられる。瞬時に反応させて凝集膜を形成するために、反応液中の多価金属イオンの総電荷濃度は、着色顔料インク中の逆極性イオンの総電荷濃度の2倍以上であることが望ましい。
【0060】
反応液に使用できる水溶性有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の1価アルコール類の他、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルホキサイド等が挙げられる。本発明における反応液中における上記水溶性有機溶剤の含有量については特に制限はないが、反応液全重量の5〜60重量%、更に好ましくは、5〜40重量%が好適な範囲である。
【0061】
又、反応液には、更にこの他、必要に応じて、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などの添加剤を適宜配合してもかまわない。但し、浸透促進剤として機能する界面活性剤の選択と添加量は、記録媒体に対する反応液の浸透性を抑制する上で注意が必要である。さらに反応液は、無色であることがより好ましいが、記録媒体上でインクと混合された際に、各着色インクの色調を変えない範囲の淡色のものであってもよい。更に、以上の様な反応液の各種物性の好適な範囲としては、25℃付近での粘度が1〜30cps.の範囲となる様に調整されたものが好ましい。
【0062】
以下に、本発明および本実施形態で適用可能な凝集阻害溶液について説明する。上述したように、反応液によってその電気的斥力が失われた顔料分子は、凝集物を生成しやすくなる。このような状況においても、再び顔料分子の分散を促すためには、立体障害効果を利用することが効果的である。すなわち、立体障害効果によって顔料粒子を分散される効力を有する材料を、凝集阻害材として適用することが出来る。適用可能な材料例としては、ノニオン性界面活性剤BC40(日光ケミカル製)、BC20(日光ケミカル製)などが挙げられる。特にエチレンオキサイド基が5個以上のノニオン性界面活性剤は、効果的に利用することができる。
【0063】
また一方、反応液に含有されている多価金属塩が、インク中に多価イオンとして溶解出来ない状態にすることでも、反応・凝集を抑制することができる。この場合の材料例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ性水溶液などを利用することができる。更に、特定金属をマスキングするキレート剤を利用することも出来る。キレート剤としては、EDTA(エチレンジアミンテトラ四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、UDA(ウラミル二酢酸)などを挙げることが出来る。
【0064】
但し、本発明で適用可能な凝集阻害材としては、上述した立体障害効果を有するものや、反応液の多価金属塩を溶解させないような特徴を有するものに限られることは無い。本発明の凝集阻害溶液としては、凝集する傾向にある色材の凝集を結果的に抑制するという役割が果たされれば有効なのであり、その手段が立体障害効果を利用するものであろうと、化学反応を利用するものであろうと構わない。
【0065】
本発明で使用される凝集阻害材に対する好適な水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒であり、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0066】
水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが好ましい。
【0067】
上記した水溶性有機溶剤の凝集阻害溶液中の含有量は、一般には凝集阻害溶液の全重量の3〜50重量%の範囲、より好ましくは3〜40重量%の範囲で使用する。又、使用される水の含有量としては、凝集阻害溶液の全重量の10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の範囲とする。
【0068】
また、本発明で適用可能な凝集阻害溶液としては、無色透明液体の他に、染料や顔料などの着色材が含まれた淡い有色液体であっても構わない。この際、より積極的に、画像の記録に用いる着色インクの1つに、上記凝集阻害材が含有されている構成であっても良い。
【0069】
以下に、凝集阻害材が含有される着色インクに適用可能な色材について説明する。当該色材については、染料、顔料のどちらも用いることができるが、耐光性、耐ガス性、耐水性等の堅牢性を考慮した場合には、顔料を適用するのがより好ましい。また、インク中の色材濃度は、凝集反応抑制効果が十分得られるように、3.5重量%以下とするのが好ましい。色材濃度の下限値は特に設定されないが、着色インクとして充分な発色性を得るためには、0.05重量%以上が好ましいと言える。適用可能な色調としては、色材濃度の上限値が定まっていることから判断すると、ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトバイオレット、ライトブラック等のようなライト系インクに適用することが適当である。ライト系インクは、特に自然画における階調性やハイライト部の粒状感を意識した場合に利用されるインクであって、一般には同様の色相角を有する通常の色材濃度のインクと併用して用いられる。役割としては、主にハイライト部から中間調にかけての領域で、粒状感のない滑らかなトーンを実現することであるので、より好ましい色材濃度としては2.5重量%以下、更には1.5重量%以下とするのがよい。
【0070】
このように作成された、凝集阻害材が含有された着色インクにおいては、記録媒体上においても色材が凝集することが殆ど無い。よって、鮮鋭度や発色性の向上といった、色材が凝集することによって得られる効果は期待できない。しかしながら、上述したようなライト系のインクに適用する構成であれば、その役割から判断しても、出力される画像品位をトータルに向上させることが出来ると言える。
【0071】
以上説明したような、着色インク、反応液(あるいは反応成分を含んだ着色インク)、凝集阻害溶液(あるいは凝集阻害材を含んだ着色インク)を用いた本実施形態のインクジェット記録装置における、吸引回復手段の構成を詳細に説明する。
【0072】
図14は、本実施形態のインクジェット記録装置における吸引回復手段を、従来の技術の項で示した図12と比較しながら説明するための模式図である。ここでは、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の着色インク用の記録ヘッド1410の他、これらインクと化学反応することにより、着色インクの色材を凝集させる成分を含んだ無色透明の反応液(S)を吐出する記録ヘッド1411、および上記反応を抑制するための成分を含んだ凝集阻害溶液(P)を吐出する記録ヘッド1412による構成が示されている。
【0073】
各記録ヘッドにおいては、複数の記録素子1401が図面の垂直方向に所定のピッチで配備されている。1420は、吸引用のキャップである。キャップ1420は、記録ヘッド1410、1411、および1412の吐出口面に密着することで、ここに配列する複数の吐出口1401を一括して覆い、その領域を密封する。
【0074】
1422は吸引ポンプである。吸引ポンプ1422が作動することにより、キャップ1420と吐出口面で形成された密封領域は負圧状態となり、複数の吐出口1401よりそれぞれのインク、反応液あるいは凝集阻害溶液が吸引される。吸引された液体は、チューブ1421を介することにより、廃液を収容する廃液収容部たる廃液吸収体1430へと輸送される。以上の構成は、凝集阻害溶液(P)を吐出する記録ヘッド1412を加えた以外は、図12の構成と同様である。
【0075】
吸引ポンプ1422を動作した場合、記録ヘッド1410からの着色インクK、C、M、Yと、記録ヘッド1411からの反応液と、記録ヘッド1412からの凝集阻害溶液は、ほぼ同時にキャップ1420内に排出される。この際、着色インクK、C、M、Yは、反応液と混合される以前に、より近い位置にある凝集阻害溶液と混合される。よって、その後この混合液が反応液と混じり合うことになっても、着色インクと反応液との反応は抑制されるため、キャップ1420内の廃液には不溶化物や凝集物などの生成が起こり難い状態となっている。従って、吸引キャップ1420、チューブ1421、吸引ポンプ1422、および廃液吸収体1430の一連の廃液経路において、色材の凝集に起因する目詰まりなどの不具合は抑制されるのである。
【0076】
なお、図14では、着色インク用の記録ヘッド1410と反応液用の記録ヘッド1411の間に、凝集阻害溶液用の記録ヘッド1412を配置しているが、本実施形態の効果は、このような配列でなくとも得ることが出来る。記録ヘッドの配列は、効率良く反応を制御できる位置であれば、いずれの箇所に設けても構わない。例えば、記録ヘッド1410の両側に、凝集阻害溶液用の2つ記録ヘッド1412を配備すれば、より積極的に反応を抑制することが出来る。
【0077】
また、着色インクの種類は、K、C、M、Yの4色に限定されるものではない。例えば、ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)、レッド(R)、グリーン(G)およびブルー(B)のような、別の色調を有するインクを追加しても構わない。
【0078】
また、凝集阻害溶液を記録用の着色インクとして用いない場合には、凝集阻害溶液用の記録ヘッドの記録素子には、ヒータを配備しない構成であってもよい。
【0079】
図15は、このような例を説明するための模式図である。凝集阻害溶液用の記録ヘッド1412に配備された記録素子1702には、ヒータのような電気熱変換素子が配備されていないものとする。このような構成であっても、吸引ポンプ1422の動作時における廃液の動向は、図14で説明した場合と同様である。すなわち、一連の廃液経路において、色材の凝集に起因する目詰まりなどの不具合を抑制するという本実施形態の効果は、図14と同様に得られるのである。更に、本例によれば、吐出動作のために必要な電気回路やアクチュエータを記録ヘッド1412のために配備する必要がなくなる。よって、図14の構成に比べて、より低価格な状態で同様の効果を実現することが可能となる。
【0080】
一方、凝集阻害溶液用の記録ヘッド1412からも吐出可能な構成にする場合には、より有効な吸引回復工程を採用することが出来る。
【0081】
図16(a)および(b)は、図14に示した本実施形態の吸引回復手段を用いながら、別の工程で吸引回復動作を実施する方法を示す図である。図において、吸引回復が開始されると、まず図16(a)に示したように、キャップ1420は開放したままの状態で、記録ヘッド1412から凝集阻害溶液の液滴1605を吐出する。ある程度吐出が実行されると、キャップ1420内には凝集阻害溶液の液だまりが一様に形成される。
【0082】
次に、図16(b)に示したように、キャップ1420を記録ヘッドの吐出口面に密着させ、吸引ポンプ1422を動作させる。この際、記録ヘッド1410から吸引された着色インクや、記録ヘッド1411から吸引された反応液は、凝集阻害溶液の液だまりの中に吸入されることになる。このように、予めキャップ1420内に凝集阻害溶液の層を形成しておくことで、凝集阻害溶液の機能を、全てのインクに対して一様に且つ効率的に働かせることが出来る。
【0083】
以下に、以上説明した本実施形態の効果を確認するために、本発明者らが行った検証例および比較例を説明する。尚、以下の記載において、部、%とあるものは特に断わらない限り重量基準であるものとする。
【0084】
(検証例1)
まず、下記に従い、顔料とアニオン性化合物とを含むブラック、シアン、マゼンタ、イエローの顔料インク、反応液、および凝集阻害溶液を生成した。
【0085】
(着色インクK1)
<顔料分散液の作製>
・スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体
(酸価240、重量平均分子量=5,000)
1.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・イオン交換水 81.5部
【0086】
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに試作されたカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部、イソプロピルアルコール1部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ、1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積比)
・粉砕時間:3時間
【0087】
更に、遠心分離処理(12,000rpm.、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液とした。
【0088】
<着色インクK1の作製>
上記の分散液を使用し、下記の組成比を有する成分を混合し、顔料を含有するインクを作製して着色インクとした。
・上記顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・N−メチルピロリドン 5.0部
・エチルアルコール 2.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1.0部
・イオン交換水 47.0部
【0089】
(着色インクC1)
着色インクK1の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部をピグメントブルー15に代えたこと以外は、着色インクK1の調製と同様にして顔料を含有した着色インクC1を調製した。
【0090】
(着色インクM1)
着色インクK1の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部をピグメントレッド7に代えたこと以外は、着色インクK1の調製と同様にして顔料を含有した着色インクM1を調製した。
【0091】
(着色インクY1)
着色インクK1の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部をピグメントイエロー74に代えたこと以外は、着色インクK1の調製と同様にして顔料を含有した着色インクY1を調製した。
【0092】
(反応液S1)
下記の成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過し、pHが3.8に調整されている反応液S1を得た。
【0093】
<反応液S1の組成>
・ジエチレングリコール 10.0部
・メチルアルコール 5.0部
・硝酸マグネシウム 3.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 81.9部
【0094】
(凝集阻害溶液P1)
下記の成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過して凝集阻害溶液P1を得た。
【0095】
<凝集阻害溶液P1の組成>
・ジエチレングリコール 10.0部
・メチルアルコール 5.0部
・BC40(日光ケミカル製) 10.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 74.9部
【0096】
次に、作成した4色の着色インク、反応液および凝集阻害溶液をインクジェット記録装置BJF900(キヤノン製)の記録ヘッドから吐出させるため、BCI−6BK(キヤノン製)のインクタンクに反応液S1を、BCI−6PC(キヤノン製)のインクタンクに凝集阻害溶液P1を、BCI−6PM(キヤノン製)のインクタンクに着色インクK1を、BCI−6C(キヤノン製)のインクタンクに着色インクC1を、BCI−6M(キヤノン製)のインクタンクに着色インクM1を、BCI−6Y(キヤノン製)のインクタンクに着色インクY1をそれぞれ注入し、BJF900のタンクホルダーにこれらを搭載した。このような組み合わせで各インクタンクを搭載することにより、図14で示した構成と同様の順番で、各記録ヘッドが配列することになる。
【0097】
その後、BJF900をホストコンピュータに接続し、プリンタドライバのプロパティよりヘッドリフレッシングを選択することによって、10回の吸引回復動作を実行した。終了後、記録装置の吸引キャップ内を観察したところ、反応液と着色インクとの化学反応によって精製される凝集物は確認されず、吸引回復手段における不具合も発生しなかった。
【0098】
(検証例2)
4色の着色インク(K1、C1、M1、Y1)、反応液S1は検証例1と同様のものを用い、凝集阻害溶液PL1としては、以下に示す内容で、ライトバイオレットの着色インクとして作成した。
【0099】
(凝集阻害溶液PL1)
着色インクK1の作製において使用したカーボンブラックの替わりに、C.I.Pigment Violet23を用いたこと以外は、着色インクK1と同様な方法でライトバイオレット色の顔料分散液を作製した。
【0100】
<凝集阻害溶液P1の組成>
・上記淡バイオレット色の顔料分散液 5.0部
・ジエチレングリコール 10.0部
・メチルアルコール 5.0部
・BC40(日光ケミカル製) 10.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 69.9部
【0101】
作成した4色の着色インクK1、C1、M1、Y1、反応液S1および凝集阻害溶液PL1をBJF900の記録ヘッドから吐出させるため、BCI−6BKのインクタンクに反応液S1を、BCI−6PCのインクタンクに凝集阻害溶液PL1を、BCI−6PMのインクタンクに着色インクK1を、BCI−6Cのインクタンクに着色インクC1を、BCI−6Mのインクタンクに着色インクM1を、BCI−6Yのインクタンクに着色インクY1をそれぞれ注入し、BJF900のタンクホルダーにこれらを搭載した。このような組み合わせで各インクタンクを搭載することにより、図14で示した構成と同様の順番で、各記録ヘッドが配列することになる。
【0102】
その後、BJF900をホストコンピュータに接続し、プリンタドライバのプロパティよりヘッドリフレッシングを選択することによって、10回の吸引回復動作を実行した。終了後、記録装置の吸引キャップ内を観察したところ、反応液と着色インクとの化学反応によって精製される凝集物は確認されず、吸引回復手段における不具合も発生しなかった。
【0103】
(検証例3)
4色の着色インク(K1、C1、M1、Y1)と反応液S1は検証例1と同じ物を用意し、凝集阻害溶液P3を以下に従い作製した。
【0104】
(凝集阻害溶液P3)
下記の成分を混合溶解した後、更にポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(商品名:フロロポアフィルター、住友電工製)にて加圧濾過して凝集阻害溶液P3を得た。
【0105】
<凝集阻害溶液P3の組成>
・ジエチレングリコール 20.0部
・メチルアルコール 5.0部
・水酸化ナトリウム 0.5部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 74.4部
【0106】
作成した4色の着色インクK1、C1、M1、Y1、反応液S1および凝集阻害溶液P3をBJF900の記録ヘッドから吐出させるため、BCI−6BKのインクタンクに反応液S1を、BCI−6PCのインクタンクに凝集阻害溶液P3を、BCI−6PMのインクタンクに着色インクK1を、BCI−6Cのインクタンクに着色インクC1を、BCI−6Mのインクタンクに着色インクM1を、BCI−6Yのインクタンクに着色インクY1をそれぞれ注入し、BJF900のタンクホルダーにこれらを搭載した。このような組み合わせで各インクタンクを搭載することにより、図14で示した構成と同様の順番で、各記録ヘッドが配列することになる。
【0107】
その後、BJF900をホストコンピュータに接続し、プリンタドライバのプロパティよりヘッドリフレッシングを選択することによって、10回の吸引回復動作を実行した。終了後、記録装置の吸引キャップ内を観察したところ、反応液と着色インクとの化学反応によって水酸化マグネシウムが生成されたが、これによる凝集物は確認されず、吸引回復手段における不具合も発生しなかった。
【0108】
(検証例4)
4色の着色インク(K1、C1、M1、Y1)、および反応液S1は検証例1と同様のものを用い、凝集阻害溶液PL3としては、以下に示す内容で、ライトブラックの着色インクとして作成した。
【0109】
(凝集阻害溶液PL3)
<凝集阻害溶液PL3の組成>
・着色インクK1で作製した黒色顔料分散液 22.0部
・ジエチレングリコール 20.0部
・メチルアルコール 5.0部
・水酸化ナトリウム 0.5部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 52.4部
【0110】
作成した4色の着色インクK1、C1、M1、Y1、反応液S1および凝集阻害溶液PL3をBJF900の記録ヘッドから吐出させるため、BCI−6BKのインクタンクに反応液S1を、BCI−6PCのインクタンクに凝集阻害溶液PL3を、BCI−6PMのインクタンクに着色インクK1を、BCI−6Cのインクタンクに着色インクC1を、BCI−6Mのインクタンクに着色インクM1を、BCI−6Yのインクタンクに着色インクY1をそれぞれ注入し、BJF900のタンクホルダーにこれらを搭載した。このような組み合わせで各インクタンクを搭載することにより、図14で示した構成と同様の順番で、各記録ヘッドが配列することになる。
【0111】
その後、BJF900をホストコンピュータに接続し、プリンタドライバのプロパティよりヘッドリフレッシングを選択することによって、10回の吸引回復動作を実行した。終了後、記録装置の吸引キャップ内を観察したところ、反応液と着色インクとの化学反応によって水酸化マグネシウムが生成されたが、これによる凝集物は確認されず、吸引回復手段における不具合も発生しなかった。
【0112】
(検証例5)
着色インクK1と凝集阻害溶液P1については検証例1と同様のものを用意した。着色インクC2、M2、Y2は、着色インクK1と反応する成分を含有するように、以下に従い作製した。
【0113】
(着色インクC2)
以下の成分を混合して着色インクC2を調製した。調製の際には、十分に撹拌して成分を水に溶解させた後、富士フィルム社製のポアサイズ3.0μmのミクロフィルターにて加圧濾過した。
【0114】
<着色インクC2の組成>
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(川研ファインケミカル(株)社製のアセチレノールEH(商品名)):1部
・トリメチロールプロパン :6部
・グリセリン :6部
・2−ピロリドン :6部
・CIアシッドブルー9 :3部
・硝酸マグネシウム塩 :2部
・水 :残部
【0115】
(着色インクM2)
以下の成分を混合して着色インクM2を調製した。調製の際には、十分に撹拌して成分を水に溶解させた後、富士フィルム社製のポアサイズ3.0μmのミクロフィルターにて加圧濾過した。
【0116】
<着色インクM2の組成>
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(川研ファインケミカル(株)社製のアセチレノールEH(商品名)):1部
・トリメチロールプロパン :6部
・グリセリン :6部
・2−ピロリドン :6部
・CIアシッドレッド52 :3部
・硝酸マグネシウム塩 :2部
・水 :残部
【0117】
(着色インクY2)
以下の成分を混合して着色インクY2を調製した。調製の際には、十分に撹拌して成分を水に溶解させた後、富士フィルム社製のポアサイズ3.0μmのミクロフィルターにて加圧濾過した。
【0118】
<着色インクY2の組成>
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(川研ファインケミカル(株)社製のアセチレノールEH(商品名)):1部
・トリメチロールプロパン :6部
・グリセリン :6部
・2−ピロリドン :6部
・CIアシッドイエロー23 :3部
・硝酸マグネシウム塩 :2部
・水 :残部
【0119】
作成した4色の着色インクK1、C2、M2、Y2、および凝集阻害溶液P1をPIXUS990i(キヤノン製)の記録ヘッドから吐出させるため、BCI−6K(キヤノン製)のインクタンクに着色インクK1を、BCI−6LC(キヤノン製)のインクタンクに凝集阻害液P1を、そしてBCI−6LM、BCI−6R(キヤノン製)のインクタンクは空にしておき、BCI−6C(キヤノン製)のインクタンクに着色インクC2、BCI−6M(キヤノン製)のインクタンクに着色インクM2、BCI−6Y(キヤノン製)のインクタンクに着色インクY2をそれぞれ注入し、PIXUS990iのタンクホルダーに搭載した。このような組み合わせで各インクタンクを搭載することにより、図22で示した構成と同様の順番で、各記録ヘッドが配列することになる。
【0120】
その後、PIXUS990iをホストコンピュータに接続し、プリンタドライバのプロパティよりヘッドリフレッシングを選択することによって、10回の吸引回復動作を実行した。終了後、記録装置の吸引キャップ内を観察したところ、反応液と着色インクとの化学反応による凝集物は確認されず、吸引回復手段における不具合も発生しなかった。
【0121】
(比較例1)
上記検証例1の状態から、凝集阻害溶液P1用のインクタンクを取り除き、検証例1と同様の検証を行った。結果、BJF900の吸引キャップ内で、着色インクの成分である顔料粒子の凝集物が確認され、当該凝集物が吸引回復手段の経路に存在することにより、その後の吸引回復動作が正常に実行されなくなった。
【0122】
(比較例2)
上記検証例2の状態から、凝集阻害溶液P1用のインクタンクを取り除き、検証例2と同様の検証を行った。結果、BJF900の吸引キャップ内で、着色インクの成分である顔料粒子の凝集物が確認され、当該凝集物が吸引回復手段の経路に存在することにより、その後の吸引回復動作が正常に実行されなくなった。
【0123】
以上説明したように本実施形態によれば、色材の凝集を抑制する性質を有する凝集阻害溶液用の記録ヘッドを用意し、吸引動作時には、色材を吐出する記録ヘッドと同一の吸引キャップ内に、その廃液が流出するような構成を設けることにより、一連の廃液経路における色材の凝集が抑制され、吸引回復手段における不具合を極力防止することが可能となった。
【0124】
(その他の実施形態)
以下に、本発明に適用可能な他の実施形態、すなわち吸引回復手段における他の構成について説明する。
【0125】
図17は、反応液用のキャップ1720を、その他の記録ヘッド用のキャップ1719と、分離して設けた構成を説明するための図である。図において、着色インク用の記録ヘッド1710と凝集阻害溶液用の記録ヘッド1712の吐出口面には吸引キャップ1719が密着され、反応液用の記録ヘッド1711の吐出口面には吸引キャップ1720が密着されている。また、2つのキャップ1719および1720には、それぞれ吸引ポンプ1722に連結するチューブ1721が設けられており、これら2つの経路は、吸引ポンプ1722の前で合流するように形成されている。この状態で吸引ポンプ1722が動作すると、吸引された凝集阻害溶液と着色インクとが、まずキャップ1719内で混合し、その後チューブ1721の途中において、上記混合液と反応液とが混合する。このように、1回の吸引動作であっても、色材に対する凝集阻害溶液との混合と、反応液との混合が、2段階のタイミングで、時間を隔てて行われることになるので、着色インクと反応液との反応・凝集は、より確実に抑制され、廃液経路内における不具合も抑制される。
【0126】
図18は、凝集阻害溶液が着色インクとして利用されない場合の、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。図において、凝集阻害溶液を収容したタンク1812は、記録ヘッドに連結しておらず、吸引ポンプ1822が動作するときに、廃液経路のチューブ1821内に凝集阻害溶液が流出される構成となっている。この際、着色インク用のキャップ1819と、反応液用の吸引キャップ1820は独立に設けられている。そして、混色した着色インクの廃液がキャップ1819から排出された直後に、凝集阻害溶液と混合するように、凝集阻害溶液用のタンク1812がチューブ1821に連結されている。その後、吸引ポンプ1822に向かう経路において、この混合液と反応液とが合流する仕組みになっている。このように、1回の吸引動作であっても、着色インクに対する凝集阻害溶液との混合と、反応液との混合が、2段階のタイミングで、時間を隔てて行われることになるので、着色インクと反応液との反応・凝集は、より確実に抑制され、廃液経路内における不具合も抑制される。また、本例によれば、凝集阻害溶液用の記録ヘッドも必要とされないので、より低価格に記録装置を提供することが可能となる。
【0127】
図19は、凝集阻害溶液が着色インクとして利用されない場合の、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。図において、凝集阻害溶液を収容したタンク1912は、記録ヘッドに連結しておらず、着色インクと反応液とを同時に吸引するキャップ1920の側端部に直接連結されている。このような構成を採ることにより、キャップ1920の内側は、常時、凝集阻害溶液がある程度満たされた状態が維持されている。このような状態で、キャップ1920による密着および吸引ポンプ1922が動作することにより、吸引される着色インクおよび反応液は、凝集阻害溶液の層にまず接してから、互いに混合する形態となる。よって、凝集阻害溶液との混合と、反応液との混合が、2段階のタイミングで、行われることになるので、着色インクと反応液との反応・凝集は、より確実に抑制され、吸引回復経路内における不具合も抑制される。
【0128】
図20は、反応液と凝集阻害用液用のキャップ2020を、着色インク用のキャップ2019と、分離して設けた構成を説明するための図である。図において、着色インク用の記録ヘッド2010の吐出口面には吸引キャップ2019が密着され、反応液用の記録ヘッド2011と凝集阻害溶液用の記録ヘッド2012の吐出口面には吸引キャップ2020が密着されている。また、2つのキャップ2019および2020にはそれぞれ吸引ポンプ2022に連結するチューブ2021が設けられており、これら2つの経路は、吸引ポンプ2022の前で合流するように形成されている。この状態で吸引ポンプ2022が動作すると、吸引された凝集阻害溶液と反応液とが、キャップ2020内で混合し、その後チューブ2021の途中において、この混合液と着色インクとが混合する。このような構成を採用することにより、反応液と凝集阻害溶液とが、充分に混合し合った後に着色インクが混合する状態となるため、混合液内における反応液と着色インクとの反応・凝集は、より確実に抑制され、吸引回復経路内における不具合も抑制される。
【0129】
図21は、ブラックインクと他の着色インクとが互いに反応し合う系における、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。図において、他の着色インクと反応するブラックインク用のキャップ2120は、凝集阻害溶液および他の着色インク用のキャップ2119とは、分離して設けられている。2つのキャップ2119および2120にはそれぞれ吸引ポンプ2122に連結するチューブ2121が設けられており、これら2つの経路は、吸引ポンプ2122の前で合流するように形成されている。この状態で吸引ポンプ2122が動作すると、吸引された凝集阻害溶液と着色インクとが、キャップ2119内で混合し、その後チューブ2121の途中において、この混合液とブラックインクとが混合する。このような構成を採用することにより、ブラックインクと反応する成分を有するカラーの着色インクと凝集阻害溶液とが、充分に混合し合った後にブラックインクが混合する状態となるため、混合液内におけるブラックインクとカラーインクとの反応・凝集は、より確実に抑制され、吸引回復経路内における不具合も抑制される。
【0130】
図22は、ブラックインクと他の着色インクとが互いに反応し合う系における、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。図において、他の着色インクと反応するブラックインク用のキャップ2120は、凝集阻害溶液および他の着色インク用のキャップ2119とは、分離して設けられている。2つのキャップ2219および2220にはそれぞれ吸引ポンプ2222に連結するチューブ2221が設けられており、これら2つの経路は、吸引ポンプ2222の前で合流するように形成されている。この状態で吸引ポンプ2122が動作すると、吸引された凝集阻害溶液とブラックインクとが、キャップ2220内で混合し、その後チューブ2221の途中において、この混合液と他の着色インクとが混合する。このような構成を採用することにより、ブラックインクと反応する成分を有するカラーの着色インクと凝集阻害溶液とが、充分に混合し合った後にブラックインクが混合する状態となるため、混合液内におけるブラックインクとカラーインクとの反応・凝集は、より確実に抑制され、吸引回復経路内における不具合も抑制される。
【0131】
なお、以上の実施形態や検証例においては、様々な成分および様々な特徴を有する着色インクや反応液、および凝集阻害溶液を列挙し、これを用いた形態について説明してきた。しかし、繰り返しになるが、本発明は上記成分や化学的作用に限定されるものではない。本発明は、インクと当該インク中の色材を凝集させる反応液とを用いて画像形成を行うインクジェット記録装置において、廃液収容部へインク廃液や反応液廃液を導くための廃液経路中に凝集阻害液を直接的あるいは間接的に付与し、廃液経路中における凝集を極力軽減することに特徴がある。よって、色材自体が、顔料であっても染料であっても、また、色材と凝集阻害材が同じ着色インクに含有されている形態であっても、本発明の本質に関わるものではない。凝集しようとする色材とこれを分散させようとする材料との関係が、吸引回復経路において、好適なバランスで作用していれば、本発明の範疇となりうるのである。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明に適用可能なシリアル型のインクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】本発明に適用可能なインクジェット記録装置の制御系の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に適用可能なインクジェット記録吐出ヘッドの要部を模式的に示した概略斜視図である。
【図4】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図5】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図6】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図7】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図8】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図9】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図10】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図11】吐出動作を経時的に説明するためのヘッド断面図である。
【図12】一般的な吸引回復手段の構成、および当該構成において凝集するインクを適用した場合の不具合を説明するための模式図である。
【図13】着色インクを吐出する記録ヘッドに対する吸引回復手段と、反応液用の記録ヘッドに対する吸引回復手段とを独立して設けた構成を説明するための模式図である。
【図14】本発明の実施形態に適用可能なインクジェット記録装置における吸引回復手段を、従来と比較しながら説明するための模式図である。
【図15】凝集阻害溶液用の記録ヘッドの記録素子に、ヒータを配備しない構成を説明するための図である。
【図16】(a)および(b)は、本発明の実施形態の吸引回復手段を用いながら、別の工程で吸引回復動作を実施する方法を示す図である。
【図17】反応液用のキャップを、その他の記録ヘッド用のキャップと、分離して設けた構成を説明するための図である。
【図18】凝集阻害溶液が着色インクとして利用されない場合の、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。
【図19】凝集阻害溶液が着色インクとして利用されない場合の、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。
【図20】反応液と凝集阻害用液用のキャップを、着色インク用のキャップと、分離して設けた構成を説明するための図である。
【図21】ブラックインクと他の着色インクとが互いに反応し合う系における、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。
【図22】ブラックインクと他の着色インクとが互いに反応し合う系における、吸引回復手段の構成例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0133】
10 搬送経路
11 用紙センサ
12 ピンチローラ
14 記録領域
15 中心位置
17 吸収体
18 拍車
19 排紙ローラ
101 キャリッジ
102、103 ガイド軸
104 記録ヘッド
105 記録媒体
106 搬送ローラ
107 プラテン
108 スイッチ部、表示部
401 受信バッファ
402 CPU
403 メモリ部
404 機械コントロール部
405 機械部
406 センサ/SWコントロール部
407 センサ/SW部
408 表示素子コントロール部
409 表示素子部
410 記録ヘッドコントロール部
832 吐出口
931 電気熱変換体(ヒータ)
933 インク供給口
934 基板
935 オリフィスプレート
936 インク流路壁
1001 気泡
1002 メニスカス
1338 液流路
1201、1401 吐出口
1210、1211、1410、1411、1412 記録ヘッド
1220、1420 キャップ
1221、1421 チューブ
1222、1422 吸引ポンプ
1230、1430 廃インク吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を含有する着色インクを記録素子から吐出する着色インクヘッドと、
前記着色インクに含有される色材を凝集させる成分を含有する反応液を記録素子から吐出する反応液ヘッドと、
前記着色インクヘッドおよび前記反応液ヘッドの記録素子から前記着色インクおよび前記反応液を排出する排出手段と、
前記排出手段によって排出された排出液を収容する廃液収容部と、
前記排出手段によって排出された排出液を前記廃液収容部へ輸送するための排出経路と、
前記色材の凝集を抑制するための凝集阻害液を前記排出経路に対して直接的あるいは間接的に付与する凝集阻害液付与手段と、
を具備することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記排出経路への凝集阻害液の付与は、(A)前記着色インクヘッド、前記反応液ヘッド、前記凝集阻害液付与手段から前記着色インク、前記反応液、前記凝集阻害液を同一部材に排出し、(B)当該排出した廃液を前記排出経路へ輸送することによって実行されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記凝集阻害液付与手段は、前記凝集阻害液を記録素子から吐出可能な凝集阻害液ヘッドであり、
前記同一部材には、前記凝集阻害液ヘッドから凝集阻害液が吐出され、その後、前記排出手段によって前記着色インクヘッドから前記着色インクが排出され、前記反応液ヘッドから前記反応液が排出されることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記凝集阻害液付与手段は、前記凝集阻害液を前記排出経路へ直接付与可能な手段であり、
前記排出経路への凝集阻害液の付与は、前記排出手段によって前記着色インクヘッドから排出された前記着色インクと前記反応液ヘッドから排出された前記反応液とが前記排出経路内で混合する前に、前記排出経路へ前記凝集阻害液を直接付与することによって実行されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記凝集阻害液を記録素子から排出可能な凝集阻害液ヘッドを更に具備し、
前記排出経路への凝集阻害液の付与は、前記排出手段によって前記着色インクヘッドから排出された前記着色インクと前記凝集阻害液ヘッドから排出された前記凝集阻害液とが混合した後に、該混合液と、前記排出手段によって前記反応液ヘッドから排出された前記反応液が前記排出経路にて混合することによって実行されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記凝集阻害液を記録素子から排出可能な凝集阻害液ヘッドを更に具備し、
前記排出経路への凝集阻害液の付与は、前記排出手段によって前記反応液ヘッドから排出された前記反応液と前記凝集阻害液ヘッドから排出された前記凝集阻害液とが混合した後に、該混合液と、前記排出手段によって前記着色インクヘッドから排出された前記着色インクが前記排出経路にて混合することによって実行されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記着色インクは、前記色材として顔料を含有する顔料インクであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記凝集阻害液は、界面活性剤、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、エチレンジアミンテトラ四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラミル二酢酸の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記反応液は、所定の着色インクに含有される色材を凝集させる成分と色材とを含有する溶液であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記凝集阻害液は色材を含有する溶液であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記凝集阻害液は、色材含有量が3.5重量%以下であることを特徴とする請求項10に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
色材を含有する着色インクと当該インク中の色材を凝集させる反応液とを記録素子から吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置において実行される記録ヘッドの回復方法であって、
前記記録ヘッドの記録素子から前記着色インクを排出する工程と、
前記記録ヘッドの記録素子から前記反応液を排出する工程と、
前記排出工程によって排出されたインクおよび反応液の排出液を、排出経路を介して廃液収容部に輸送する工程と、
前記色材の凝集を抑制するための凝集阻害溶液を前記排出経路に直接的あるいは間接的に付与する工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置の記録ヘッド回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−142665(P2006−142665A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336364(P2004−336364)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】