インクジェット記録装置の製造方法及び製造装置
【課題】膜内部の組成均一性が高く良好な強誘電体特性・圧電体特性を有する強誘電体膜を低コストで得ることが可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法及び製造装置。
【解決手段】供給工程と搬送工程と位置出し工程と成膜工程と焼成工程と冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、成膜工程にて2種類以上の前駆体液をシリコンウェハ50に滴下して前駆体膜72を形成する方法であり、複数の前駆体液は単一のノズルから滴下し、複数の前駆体液送液ライン中には複数の前駆体液を任意の比率に混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じてシリコンウェハ50に滴下する前駆体液の混合比を変化させつつ前駆体膜72を成膜する。その後の焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して所定厚さの圧電体層を構成する。
【解決手段】供給工程と搬送工程と位置出し工程と成膜工程と焼成工程と冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、成膜工程にて2種類以上の前駆体液をシリコンウェハ50に滴下して前駆体膜72を形成する方法であり、複数の前駆体液は単一のノズルから滴下し、複数の前駆体液送液ライン中には複数の前駆体液を任意の比率に混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じてシリコンウェハ50に滴下する前駆体液の混合比を変化させつつ前駆体膜72を成膜する。その後の焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して所定厚さの圧電体層を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出するノズル開口と連通する液室基板の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子に電圧を印加することにより液体を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの製造方法において、強誘電体膜を所定回数成膜焼成する方法及び自動成膜装置が、例えば「特許文献1」または「特許文献2」に開示されている。また、組成の異なる複数種類の前駆体液を準備し、成膜回数に応じて異なる組成の前駆体液を滴下及び成膜することによって形成された強誘電体膜の膜厚方向の組成分布が均一になることを報告した非特許文献として、例えば「非特許文献1」または「非特許文献2」が知られている。
【0003】
インクを吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子で変形させることにより圧力発生室内のインクを加圧してノズル開口からインクを吐出させるインクジェット記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長収縮するものと撓み力を利用した2種類の圧電アクチュエータが実用化されている。その中で、撓み力を利用した圧電体層ではチタン酸ジルコン酸鉛(以下PZTとする)等の強誘電体膜が用いられる。このような強誘電体膜は、予め合成した強誘電体前駆体液をスピンコート法等により前駆体膜の成膜をした後、これを加熱焼成処理して結晶化させる、いわゆるゾル−ゲル法によって形成することが通例である。また、加熱焼成処理方法としては、拡散炉内に強誘電体前駆体膜を成膜したシリコンウェハを複数枚連続挿入し焼成及び結晶化させるが、先に挿入されたシリコンウェハと後から挿入されたシリコンウェハの熱履歴が均一にならないため、所定回数の加熱焼成工程の中で加熱焼成工程毎にシリコンウェハの順序を入れ替えて熱履歴を均一にする方法が、例えば「特許文献1」に開示されている。本明細書において、強誘電体と記す範囲は複数の金属元素の酸化物からなる複合酸化物であり、特に電気的入力を機械的な変位に変換する材料が相当する。
【0004】
また「特許文献1」に開示された技術では、1列に配置された複数のステージを有する保持部材の各ステージにシリコンウェハをそれぞれに固定し、予め加熱された拡散炉に保持部材をその一端のステージ側から挿入すると共に他端のステージ側から排出する一連の動作により、シリコンウェハを介して強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成し、かつ所定回数の焼成工程終了後に圧電体層にかかった熱履歴が均一となるように各焼成工程毎にステージの入れ替えを行っているが、これでは各焼成工程毎の熱履歴は均一にはならない。さらに詳しく述べると、複数枚のシリコンウェハを複数の保持部材のステージに固定して先入れ後出ししているために、例え挿入の順番を1回毎に変えても最初挿入された保持部材のステージに固定されたシリコンウェハと2番目に挿入された保持部材のステージに固定されたシリコンウェハには挿入時間に応じた差が出てしまう。例えば拡散炉に挿入する保持部材の数が増えれば増えるだけ時間差が大きくなってしまい、各層間の焼成状態が変わってしまうといった問題は解決されない。
【0005】
そこで本発明者等は、自動成膜装置にて圧電素子基板となるシリコンウェハの表面に圧電素子の下部電極となる導電層を形成後、シリコンウェハを収納する収納部材と、この収納部材を保持する供給排出工程と、供給排出工程からシリコンウェハを搬送する搬送工程と、搬送工程によって搬送されたシリコンウェハの中心とオリフラ位置を合わせる位置調整工程と、導電層上に強誘電体前駆体膜を形成する成膜工程と、シリコンウェハを介して強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する加熱焼成工程と、加熱焼成工程から排出されたシリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成し、かつ所定回数の焼成工程を先入れ先出しすることで所定回数全ての強誘電体前駆体膜の熱履歴が均一になると共に、シリコンウェハにかかる熱履歴が均一となるように枚葉処理するインクジェット記録ヘッドの製造方法及び製造装置を提案してこの問題を解決した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の提案により、シリコンウェハ上に成膜した強誘電体膜に加えられる熱履歴のばらつきに起因する圧電体素子の特性ばらつきを解消することができたが、一方で、得られた圧電体素子の特性が計算上の予測値と比較して十分なものに達していないことが明らかとなった。その原因を明らかにするため、圧電素子を構成する強誘電体膜について詳細な分析を行ったところ、強誘電体膜を構成する複合酸化物の組成が、膜全体としては前駆体膜の成膜に使用している前駆体液の組成と一致する一方、膜の厚み方向でその組成が均一になっていないことが明らかとなった。この強誘電体膜の膜厚方向組成が不均一となるメカニズムについては「非特許文献1」に詳述されている。
【0007】
強誘電体膜の成膜は、導電層上に前駆体液をスピンコート法にて塗布、溶媒を乾燥させた前駆体膜を加熱し、膜中の有機成分を熱分解(脱脂)した(第1層目のアモルファス複合酸化物膜の形成)後に、この第1層目のアモルファス複合酸化物膜の上にさらに前駆体液の塗布、乾燥、脱脂プロセスを数回繰り返す(第2、第3、・・・第X層目のアモルファス複合酸化物膜の形成)。そして、積層化したアモルファス複合酸化物を有機成分の熱分解時より高い温度まで加熱することで焼成(結晶化)する(第1層目の複合酸化物結晶膜の形成)。さらにこの第1層目の複合酸化物結晶膜の上に、前駆体液の塗布から複合酸化物膜の結晶化までのプロセスを、狙いとする膜厚の強誘電体膜が得られるまで繰り返す(複合酸化物結晶の積層膜、すなわち圧電層となる所定膜厚の強誘電体膜の形成)。
【0008】
そして、強誘電体膜の膜厚方向組成の不均一は、積層したアモルファス複合酸化物を結晶化するプロセスの間に生じる。先ず、アモルファス複合酸化物を構成している各金属元素は、焼成プロセス時に供給される熱エネルギによって膜中を移動し、複合酸化物結晶構造の所定位置に配位することで結晶化するが、この移動のし易さ(以下移動度という)、移動速度が金属元素の種類によって異なる。例えば、代表的な強誘電体膜であるPZT膜(鉛、ジルコニア、チタンの複合酸化物膜)の場合、チタン元素はジルコニア元素と比較して反応中の移動速度が速く、焼成プロセス中にジルコニア元素と比較して速いタイミングで結晶構造を形成する。また、鉛元素の蒸気圧は低く、焼成プロセスにて加えられる熱によって大気中に揮発し易い性質を有している。こうした結晶加速度の違いや反応系からの離脱等により、雰囲気制御条件を含めた焼成プロセス条件によってできあがった複合酸化物結晶膜(強誘電体膜)には部分的にその結晶構造中に配位されているべき金属元素の過不足が生じる。その結果、得られた強誘電体膜の特性が理論的に期待される値に達しない。
【0009】
ところで、結晶構造中における金属元素の過不足の状態は、焼成プロセス前に形成されたアモルファス複合酸化物の積層膜の層間で異なる特徴を示している。アモルファス複合酸化物積層膜の層間で結晶構造中の金属元素の過不足が変化する理由について、強誘電体膜の焼成プロセスは始め導電層の上に前駆体液を成膜、これを加熱・脱脂してアモルファス複合酸化物膜とし、続いてこの上に前駆体液の成膜・脱脂プロセスを繰り返してアモルファス複合酸化物膜を積層した後に結晶化を行うと共に、形成された複合酸化物結晶膜の上にアモルファス複合酸化物膜の積層と結晶化を繰り返して所定厚みの強誘電体膜を形成している。そのため、結晶化されるアモルファス複合酸化物膜は、その積層される回数、タイミングによって焼成プロセス投入時における膜下面が導電層、アモルファス層、あるいは既に結晶化された複合酸化物膜と、それぞれ異なる性質を有する層と接していることとなる。また、上面についてもアモルファス層あるいは空気層と、全く異なる性質を有する層と接している。
【0010】
上述のような異なる界面層を有しているアモルファス複合酸化物膜が焼成プロセスに投入された場合、その結晶化反応は特に界面近傍において、接している層の性質の影響を受けながら進むことになるため、アモルファス複合酸化物膜の結晶化はその積層される回数・タイミングによって異なる反応が進むことになる。その結果できあがった複合酸化物結晶膜中には、特に焼成プロセス以前のアモルファス複合酸化物積層膜の界面近傍において、複合酸化物を形成する金属元素の移動度や揮発性の違いによって生じる、結晶構造中に配位されているべき金属元素の過不足の状態が積層膜間で異なる現象が生じる。このようなアモルファス複合酸化物膜の焼成プロセス時に生じる現象により、強誘電体膜の膜厚方向組成が不均一になると共に、できあがった強誘電体膜・圧電層の特性が意図した特性に達しない。
【0011】
この問題を解決するため、「非特許文献1」では膜厚方向の組成が均一なPZT膜を形成するため、チタン元素とジルコニア元素の組成比と同時に鉛元素の過剰量を変化させた4種類の前駆体液を準備し、積層回数に応じて異なる組成の前駆体液の塗り分けを行うことにより、できあがったPZT膜の膜厚方向の組成均一性を同一の前駆体液を塗り重ねて成膜したPZT膜と比較してより高いものにすると共に、強誘電体膜としての特性も向上させている。
【0012】
また「非特許文献2」では、揮発性の高い鉛元素の膜厚方向の分布を一定に保つために鉛元素の過剰量を変えた2種類の前駆体液を準備し、焼成プロセス前のタイミングにてより高い鉛元素過剰量の前駆体液を使用して積層成膜することによって、鉛元素の膜厚方向の分布を一定とした一方、チタン元素とジルコニア元素の組成比は2種類の前駆体液間で同じ組成になっているため、膜厚方向のチタン元素とジルコニア元素の組成比が積層回数、特に結晶化プロセスを実施している前後の層間で大きく変化していることを報告している。
【0013】
上述のように、前駆体液を使用して膜内部の組成均一性の高い複合酸化物結晶の積層膜を成膜し、良好な特性の強誘電体膜を得ようとする場合、組成の異なる複数の前駆体液を準備し、積層回数や焼成プロセスのタイミングに合わせて適切な組成の前駆体液を塗り分けて成膜するとよい。例えばPZT膜の場合、ジルコニアとチタンの組成比を変えると共に鉛の過剰量の違いを組み合わせた複数種類の前駆体液を準備し、積層回数や焼成プロセスのタイミングに合わせて適切な前駆体液を選択して成膜作業を行うことにより、内部の組成均一性が高く良好な強誘電体特性・圧電体特性を有するPZT膜を得ることができる。
【0014】
しかし一方で、前駆体液の準備(合成)には、長い合成プロセス時間とコストとがかかる。より良好な特性を有する強誘電体膜を得るためには、きめ細かく組成を変化させた、より多種類の前駆体液を準備し、これらを適切に使い分けながら積層成膜すればよいが、前駆体液の準備にさらに多種類準備した前駆体液を使い分けて成膜を行うための設備に関して、例えば前駆体液をシリコンウェハに滴下・スピンコートする成膜工程部分に、使用する前駆体液の種類の数に対応する複数の塗布ライン(各前駆体液を個別にセットする加圧タンク、送液ライン、吐出ノズル並びにそれらの制御システム)を具備させる等、多大なコストの増大を伴ってしまう。
【0015】
本発明は上述した問題を解決し、最小種類の前駆体液を準備し、これを積層回数に合わせて適切に調合してきめ細かく組成を変化させながら積層成膜を行うことにより、膜内部の組成均一性が高く良好な強誘電体特性・圧電体特性を有する強誘電体膜を低コストで得ることが可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記収納部材は24時間で処理できる数のシリコンウェハを収納可能であることを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記焼成工程は第1の加熱工程と第2の加熱工程とで行われることを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに第1の加熱工程は接触式加熱方法であることを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに第2の加熱工程は非接触式加熱方法であることを特徴とする。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記冷却工程は24時間で処理できるシリコンウェハの数だけ収納可能であることを特徴とする。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記冷却工程はインデックステーブルを複数枚積層して構成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項7記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記インデックステーブルには8時間で処理できるシリコンウェハの数だけのステージが設けられていることを特徴とする。
【0024】
請求項9記載の発明は、請求項1ないし8の何れか1つに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法により製造されたインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置であることを特徴とする。
【0025】
請求項10記載の発明は、シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造装置において、前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、枚葉処理でシリコンウェハを加熱焼成炉に先入れ先出ししつつ所定回数繰り返して行うことから強誘電体前駆体膜に与える熱履歴を均一化することができると共に、成膜回数に応じて最適な組成に変化させた前駆体液をシリコンウェハに滴下して前駆体膜を成膜し、その後の焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行しているので、形成される所定厚さの圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成分布が均一となり、コストを抑制しつつ結果特性が向上した強誘電体膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態を適用可能な製造装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられるシリコンウェハの概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に用いられる液滴吐出ヘッドの概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に用いられる液滴吐出ヘッドの概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に用いられるシリコンウェハ及び強誘電体層を説明する概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に用いられる第2加熱部の動作を説明する概略図である。
【図7】本発明の一実施形態に用いられる冷却部を説明する概略図である。
【図8】本発明の一実施形態に用いられるシリコンウェハ及び強誘電体前駆体膜を説明する概略図である。
【図9】本発明の一実施形態に用いられる成膜装置を説明する概略図である。
【図10】本発明の一実施形態における成膜動作を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態における成膜動作を説明するフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態における成膜動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、液体吐出ヘッドの製造装置を示している。同図において製造装置10は液滴吐出ヘッドの製造装置であり、特に液滴吐出ヘッドに設けられる圧電素子の圧電体を形成する装置である。具体的には、製造装置10は図2に示すように複数のシリコンチップ52に分割されるシリコンウェハ50を1枚ずつ搬送し、シリコンウェハ50に圧電体となる強誘電体層の積層体を形成する装置である。
【0029】
先ず、圧電素子を備えた液滴吐出ヘッド62の構成の一例を説明する。図3は液滴吐出ヘッド62の分解斜視図を、図4には同断面図をそれぞれ示している。本実施形態では、液滴吐出ヘッド62はノズル基板58と、液室基板56と、保護基板54との3枚の基板の積層体である場合を説明する。なお、液室基板56と保護基板54との積層体が図2に示すシリコンウェハ50を分離することによって得られるシリコンチップ52である。なお本実施形態では、液滴吐出ヘッド62は液滴としてインク液滴を吐出する場合を説明する。ノズル基板58はインク液滴を吐出する複数のノズル孔58Aを有している。ノズル孔58Aはノズル基板58の厚み方向に貫通した孔であり、ノズル基板58の面方向に沿って複数配設されている。
【0030】
液室基板56にはノズル孔58Aのそれぞれに連通した複数の加圧液室56A、共通液室56E、及び流体抵抗部56Bが設けられている。流体抵抗部56Bは複数の加圧液室56Aと共通液室56Eとを連通すると共に流体抵抗部として機能する。共通液室56Eにインクが供給されると、共通液室56Eに供給されたインクは流体抵抗部56Bを介して複数の加圧液室56Aのそれぞれに供給され、ノズル孔58Aを介して吐出可能な状態となる。液室基板56には、振動板56C及び圧電素子60が直接形成されている。
【0031】
圧電素子60は、振動板56Cを介して各加圧液室56Aのそれぞれに対応して配置されており、圧電素子60は下部電極60C、圧電体60A、上部電極60Bを順に積層することにより構成されている。圧電素子60は、振動板56Cにおける対向面に対して平行な方向への変位を振動板56Cに与える、横振動型、いわゆるベンドモードとされている。
【0032】
圧電体60Aの構成材料は、圧電特性を示す層を構成しうる圧電材料であれば如何なる材料であってもよい。圧電材料としては、例えばペロブスカイト構造を有しかつ金属としてPb、Zr、Tiを含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケルまたは酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が挙げられる。具体的な圧電材料としては、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)またはマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。下部電極60C及び上部電極60Bは導電性を有する層であり電極として機能する。保護基板54は圧電素子60のそれぞれを保護する基板である。
【0033】
上述のように構成された液滴吐出ヘッド62では、共通液室56E及び流体抵抗部56Bを介して複数の加圧液室56Aのそれぞれに液体が供給される。そして、各液室が液体によって満たされた状態で、下部電極60Cと上部電極60Bとに電圧を印加する。これにより、電圧を印加された各圧電素子60の圧電体60Aが振動板56Cの面方向に沿って縮む。なお、下部電極60Cと上部電極60Bへの電圧印加による圧電体60Aの変形を以下において圧電素子60の駆動と説明する場合がある。圧電素子60の駆動による圧電体60Aの変形により、振動板56Cにおける圧電素子60に対応する領域が加圧液室56A側に向かって突出した突状に変形する。この振動板56Cの変形により、加圧液室56A内の体積が減少して圧力が上昇し、加圧液室56Aに連通するノズル孔58Aから液滴が吐出する。この構成の液滴吐出ヘッド62は、下記工程を経由することによって製造する。
【0034】
図5に示すように、流路基板55となるシリコンウェハ50上に圧電素子60の下部電極60Cとなる下部導電層61Cを形成した後、強誘電体層61A(強誘電体層61A1〜61An)を複数積層させて所望の厚みの強誘電体層61Aを形成し、上部電極60B(図5では省略)となる図示しない上部電極層を形成した後にこれ等の層をパターニングする。これにより、図3及び図4に示すような圧電素子60をシリコンウェハ50上に形成し、さらに図3に示す保護基板54の設置を行う。そして、圧電素子60の設けられた流路基板55と保護基板54との積層体であるシリコンウェハ50をダイシングソー等によって切断して複数のシリコンチップ52に分離する(図2参照)。そして、各シリコンチップ52に図3に示すノズル基板58の接合や駆動部等の各種部材の搭載や加工等を行うことにより、複数の液滴吐出ヘッド62を製造する。
【0035】
図1に示す製造装置10は、上述した液滴吐出ヘッド62の特に圧電体60Aを形成する各部を備えた装置である。製造装置10は、供給排出ステージ12、収納部材14、排出部材15、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、加熱部25、冷却部26、搬送部40、入力部32、主制御部34等を含んで構成されている。
【0036】
収納部材14は、下部電極60Cとなる下部導電層61Cが形成されたシリコンウェハ50を収納する(図6も参照)。排出部材15は、製造装置10によって複数の強誘電体層61Aが積層された後のシリコンウェハ50を収納する部材である。供給排出ステージ12は、これら収納部材14及び排出部材15を支持している。収納部材14には、24時間で流動する分だけのシリコンウェハ50が収納されていることにより、シリコンウェハ50や生産状況の管理を向上している。例えばシリコンウェハ50の管理とは、製造装置10内に流動しているシリコンウェハ50に管理番号を付け製造履歴をシーケンス制御により管理し、モニタ表示することである。
【0037】
位置調整部16は、シリコンウェハ50の中心位置やオリフラ(オリエーションフラット)50B(図2参照)を予め定めた方向及び位置に位置合わせして位置調整を行う。この位置調整されたシリコンウェハ50の予め定められた領域を後述する搬送部40で保持搬送し、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26等の各部へと搬送する。これにより、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、及び冷却部26等の各部には位置調整されたシリコンウェハ50が搬送される。なお、位置調整部16において同時に位置調整可能なシリコンウェハ50の数は1枚である。位置調整部16には位置制御部16Aが設けられており、位置制御部16Aは主制御部34に電気的に接続されている。位置制御部16Aは、位置調整部16の装置各部を駆動する図示しない駆動部に電気的に接続されており、該駆動部を制御することによりシリコンウェハ50の位置合わせを行う。
【0038】
シリコンウェハ50を洗浄する洗浄部18は、1度に1枚のシリコンウェハ50を洗浄する。洗浄部18は公知のウェット式やドライ式等の洗浄方式を用いてシリコンウェハ50を洗浄し、洗浄部18には主制御部34に電気的に接続された洗浄制御部18Aが設けられている。洗浄制御部18Aは、洗浄部18におけるシリコンウェハ50の洗浄タイミングや洗浄時間等を制御する。
【0039】
成膜部20は、シリコンウェハ50上に強誘電体前駆体膜を成膜する。この強誘電体前駆体膜は、強誘電体前駆体溶液(ゾル)による塗膜である。強誘電体前駆体溶液(ゾル)とは、圧電体60Aの構成材料として挙げた圧電材料を溶媒に溶解した溶液である。この強誘電体前駆体溶液としては、ゾルゲル法により成膜される圧電体材料、具体的には酢酸鉛、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料とし、これ等の出発材料を共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料が挙げられる。成膜部20による強誘電体前駆体膜の成膜方法は、限定されないが例えばスピンコート法が用いられる。
【0040】
成膜部20には、この成膜条件を調整するための成膜制御部20Aが設けられている。成膜制御部20Aは主制御部34に電気的に接続されており、主制御部34の制御によってシリコンウェハ50上に強誘電体前駆体膜を成膜する。なお、成膜部20では同時に成膜可能なシリコンウェハ50の数は1枚とされている。また、成膜部20には検知部20Bが設けられており、検知部20Bは成膜部20内にシリコンウェハ50が位置しているか否かを検知する。検知部20Bは主制御部34に電気的に接続されており、検知部20Bとしては公知の赤外線センサ等が用いられる。なお、成膜部20には洗浄部18で洗浄されたシリコンウェハ50が搬入されるため、強誘電体前駆体膜の膜間にごみ等の付着物が混入することを抑制することができ、膜欠陥を防止することができる。なお、成膜部20内にも洗浄部18を設けた構成としてもよい。
【0041】
加熱部25は、シリコンウェハ50上に形成された強誘電体前駆体膜に熱を加える装置であり、第1加熱部22と第2加熱部24とを有している。第1加熱部22は成膜部20によって成膜された強誘電体前駆体膜を第1の温度に加熱することにより強誘電体前駆体膜を乾燥させる。第1加熱部22には主制御部34に電気的に接続された加熱制御部22Aが設けられており、主制御部34は加熱制御部22Aを制御することにより第1加熱部22内を所定の乾燥温度に保持させる。第1加熱部22の構成は、第1加熱部22内に搬送されてきたシリコンウェハ50の強誘電体前駆体膜に熱を加えることができる構成であればよく限定されない。例えば第1加熱部22として、ホットプレート等の加熱部材を直接シリコンウェハ50に接触させる接触方式の装置を挙げることができる。
【0042】
第2加熱部24は、第1加熱部22よりも高い第2の温度で強誘電体前駆体膜を加熱する装置であり、具体的には強誘電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することにより脱脂する脱脂処理、及び脱脂された強誘電体前駆体膜を結晶化させる焼成処理を行う。なお脱脂とは、強誘電体前駆体膜に含まれる有機成分を例えばNO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
【0043】
第2加熱部24には加熱制御部24Aが設けられており、第2加熱部24内の温度条件を調整している。具体的には、加熱制御部24Aは第2加熱部24内の温度を脱脂処理可能な温度に一定時間保持したり焼成処理可能な温度に一定時間保持したりする等の、第2加熱部24内の温度条件を調整している。第2加熱部24は、主制御部34に電気的に接続されており、主制御部34の制御により第2加熱部24内の温度制御を行う。第2加熱部24としては、第2加熱部24内に搬送されてきたシリコンウェハ50の強誘電体前駆体膜に、脱脂処理や焼成処理可能な温度(第2の温度)の熱を加えることができる構成であればよくその構成は限定されない。第2加熱部24としては、例えばホットプレート、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置等を用いることができる。
【0044】
図6は、第2加熱部24の具体的構成の一例を示している。第2加熱部24は、一対のフレーム63A,63Bを備えており、フレーム63A,63Bは一面が開口した箱状を呈しており、この開口面が互いに対向するように配置されている。フレーム63A,63Bは図示しない支持部材によって支持されており、図6(A)に示すようにフレーム63A,63Bが互いに離間した状態、または図6(B)に示すようにフレーム63A,63Bが互いの開口面を覆うように接触した状態の何れかの状態となるように駆動可能に支持されている。フレーム63A,63Bを駆動する図示しない駆動部は加熱制御部24Aに電気的に接続されており、加熱制御部24Aの制御により離間状態または接触状態の何れかとなるように制御される。
【0045】
フレーム63A,63Bの内部の空間64A内には、図示しない支持部材によって支持されたホルダ70が設けられている。ホルダ70は空間64A内に搬送されてきたシリコンウェハ50を空間64A内で支持する。ホルダ70は加熱制御部24Aに電気的に接続されており、主制御部34の制御によりシリコンウェハ50を保持した保持状態、またはシリコンウェハ50の保持を解除した開放状態の何れかに制御される。フレーム63A,63B内の空間64Aには、加熱部68A,68Bが設けられている。加熱部68A,68Bとしては加熱機構を有するものであればその構成は限定されないが、例えば赤外線ランプが挙げられる。加熱部68A,68Bは加熱制御部24Aに電気的に接続されており、加熱制御部24Aの制御によって加熱条件が制御される。フレーム63A,63B内には、冷却部66A,66Bが設けられている。冷却部66A,66Bは加熱制御部24Aに電気的に接続されており、加熱制御部24Aの制御によりフレーム63A,63B内を冷却する。
【0046】
図8はシリコンウェハ50の断面拡大図であり、シリコンウェハ50上には予め形成された下部電極60Cがあり、この下部電極60Cの上部に予め設定されている所定回数の製造条件を繰り返し行うことにより、ばらつきのない安定した圧電素子を製造することができる。図8に示すように、第1層目の強誘電体前駆体膜72aが塗布されたシリコンウェハ50は、フレーム63Aが上昇した空間64Aに搬送部40によって搬送され、フレーム63Bに設置されているホルダ70で保持される保持動作が完了するとフレーム63Aが下降し、第2加熱部24が閉じられて加熱部68A,68Bにより予め設定されている脱脂温度まで昇温させ、アモルファス状の複合酸化物膜を形成する。このときの加熱条件としては、加熱部68A,68Bの何れか一方のみで加熱してもよい。
【0047】
脱脂と焼成とを行う場合は、さらに連続で予め設定されている焼成温度まで連続的に加熱し、アモルファス複合酸化物膜を結晶化させる。加熱工程が予め設定されている条件通り完了したら、冷却部66A,66Bに冷却媒体を流しフレーム63A,63bを冷却することで、空間64Aの温度を下げて間接的にシリコンウェハ50の温度を下げる。そして、予め設定されている取り出し温度まで空間64Aの温度が下降したらフレーム63Aが上昇し、搬送部40がシリコンウェハ50を保持してホルダ70による保持を解除し、第2加熱部24からシリコンウェハ50を排出する。このように第2加熱部24は枚葉処理であるため、常に予め設定されている焼成条件で制御されているので、各強誘電体前駆体膜72や各シリコンウェハ50での処理条件にばらつきが生じないことから、安定した結晶化が行われることで変位の安定した圧電素子の製造が可能となる。
【0048】
冷却部26は第2加熱部24によって加熱されたシリコンウェハ50を冷却する装置であり、冷却部26には温度制御部26Aが設けられている。温度制御部26Aは主制御部34に電気的に接続されており、冷却部26内の温湿度条件を制御する。冷却部26は複数のシリコンウェハ50を保持可能であり、保持したシリコンウェハ50を室温にまで冷却する。
【0049】
図7には、本実施形態における冷却部26の構成例を示している。図7に示すように冷却部26は、円板状のインデックステーブル27Aが複数設けられている。各インデックステーブル27Aは間隔を空けて複数配列されており、円板の周方向(図7に矢印Cで示す方向)に回転可能に設けられている。なお冷却部26には図1に示す回転制御部26Bが設けられており、回転制御部26Bの駆動によって各インデックステーブル27Aが周方向に回転可能に設けられている。回転制御部26Bは図1に示す温度制御部26Aに電気的に接続されており、各インデックステーブル27Aにはシリコンウェハ50を1枚ずつ保持するステージ27Bが設けられている。また冷却部26には検知部26Cが設けられている。検知部26Cは、各インデックステーブル27A上のシリコンウェハ50の有無を検知する。検知部26Cは主制御部34に電気的に接続されており、検知結果を主制御部34に送信する。1段のインデックステーブル27Aに8時間で処理可能なシリコンウェハ50の数だけステージ27Bを設けることにより、成膜装置80の休止時間を最小とすることができる。
【0050】
搬送部40は、支持部41、レール46、搬送アーム42、駆動部44、読取部48を備えている。レール46は、供給排出ステージ12、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26の配列方向に長い長尺状のレール部材であり、本実施形態では図1に示すように、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、供給排出ステージ12、第2加熱部24、冷却部26がそれぞれ1列に配列された合計2列の配列となっている。そしてレール46は、これ等の2列に配列された各部の間に、各部の配列方向に沿って長い長尺状とされている。このため本実施形態では、搬送部40は供給排出ステージ12、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26の間で短時間にシリコンウェハ50を搬送可能な構成となっている。
【0051】
駆動部44は、主制御部34に電気的に接続されている。駆動部44としてはモータ等が挙げられる。支持部41は搬送アーム42を支持する部材であり、レール46の長尺方向に移動可能に支持された図示しないリニアガイドに支持されている。搬送アーム42には、腕部42A及び保持部42Bが設けられている。保持部42Bはシリコンウェハ50を1枚ずつ保持した状態、またはシリコンウェハ50の保持状態を解除した解除状態の何れかを維持する部材である。腕部42Aは、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26、排出部材15のそれぞれの方向に図示しない折り曲げ部で折り曲げられることで伸縮するアーム状の部材である。これ等腕部42A及び保持部42Bは、駆動部44に電気的に接続されている。
【0052】
このため、主制御部34の制御によって駆動部44が駆動することにより、支持部41がレール46の長尺方向に沿って移動する。また、主制御部34の制御によって駆動部44が駆動することで腕部42A及び保持部42Bが駆動し、収納部材14から1枚のシリコンウェハ50を取り出して位置調整部16へ搬送する。また同様に、主制御部34の制御による支持部41の移動や腕部42A及び保持部42Bの駆動によって、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26、供給排出ステージ12、排出部材15の間をシリコンウェハ50が1枚ずつ搬送される。
【0053】
本実施形態では、搬送部40はレール46を設けた構成とし、支持部41及び搬送アーム42がレール46に沿って移動可能に構成されている場合を説明するが、レール46を設けない構成でもよい。この場合には支持部41を固定し、搬送アーム42が各部(供給排出ステージ12、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26)のそれぞれに届く構成とすればよい。
【0054】
搬送部40には読取部48が設けられている。読取部48はシリコンウェハ50に設けられた管理IDを読み取るものであり、読取部48としては公知のスキャナが用いられる。図2に示すように、シリコンウェハ50の予め定められた領域50Aには、各シリコンウェハ50を識別するための管理IDが刻印されている、読取部48は主制御部34に電気的に接続されており、読み取った管理IDを主制御部34に送信する。なお本実施形態では、上述のように搬送部40に読取部48が設けられているため、搬送部40で搬送する対象のまたは搬送中のシリコンウェハ50の管理IDを読み取ることが可能な構成となっている。
【0055】
各種情報を入出力する入力部32は主制御部34に電気的に接続されており、入力部32としては例えばキーボード、タッチパネル付きのディスプレイ等が挙げられる。本実施形態では、例えば入力部32のユーザによる操作によって入力部32から位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、加熱部25、冷却部26における加熱温度や冷却温度等の各種処理条件が入力される。
【0056】
主制御部34は、制御部36と記憶部38とを含んで構成されている。制御部36はCPU、製造処理を実行するプログラム等を記憶したROM、データ等を記憶するRAM、これ等を接続するバスを含んで構成されている。制御部36は、製造装置10に設けられた装置各部に電気的に接続されている。具体的には、制御部36は駆動部44、読取部48、位置制御部16A、洗浄制御部18A、成膜制御部20A、検知部20B、加熱制御部22A,24A、温度制御部26A、回転制御部26B、検知部26C、入力部32、記憶部38等に電気的に接続されている。記憶部38は、ハードディスクドライブ装置(HDD)等の記憶媒体である。
【0057】
ここで、本発明の特徴部である、強誘電体前駆体液をシリコンウェハ50上に滴下し、スピンコート法にて強誘電体前駆体膜72を成膜する構成について説明する。図9は、本発明の一実施形態に用いられる成膜装置を示している。同図において成膜装置80は、それぞれ異なる強誘電体前駆体液をセット可能な3台(それ以上も可)の加圧タンク81を備えており、各加圧タンク81からそれぞれ送液チューブ82がインラインフィルタ83を介してスピナーノズル84近傍に設けられた混合器85に接続されている。
【0058】
混合器85は、各加圧タンク81から送液されたそれぞれの強誘電体前駆体液を成膜装置80の図示しない制御システムより指示された任意の比率にて混合した上でスピナーノズル84に送出する。そして図示しない制御システムに入力されたプログラムの指示により、スピナーノズル84が装着されたアーム86、シリコンウェハ50を保持したスピンドル87がそれぞれ動作・回転すると共に、混合器85にて指示された比率で混合された強誘電体前駆体液がスピナーノズル84から滴下され、シリコンウェハ50上に強誘電体前駆体膜72が任意の組成比にてスピンコート成膜される。
【0059】
さらに本発明による強誘電体前駆体液の成膜方法について、PZT膜の成膜を例に述べる。加圧タンク81−1にはジルコン酸鉛の強誘電体前駆体液(ジルコン酸鉛としての濃度:0.5mol/L,ジルコニアと鉛の組成比:Zr/Pb=1/1.1)、加圧タンク81−2にはチタン酸鉛の強誘電体前駆体液(ジチタン酸鉛としての濃度:0.5mol/L,チタンと鉛の組成比:Ti/Pb=1/1.1)、加圧タンク81−3には酸化鉛の強誘電体前駆体液(酸化鉛としての濃度:0.5mol/L)がセットされている。
【0060】
供給排出ステージ12に設置された収納部材14から予め下部電極60Cが形成されているシリコンウェハ50が位置調整部16を経て搬送部40によって成膜装置80に搬送され、スピンドル87上にセットされる。続いて、シリコンウェハ50の下部電極60C上に混合器85によってジルコン酸鉛前駆体液とチタン酸鉛前駆体液とが59対41の比で混合された混合前駆体液が滴下され、所定のプログラムに基づいてスピンコートされ、ジルコニアとチタンの組成比(以下Zr/Ti比と記す)が59/41で化学量論組成に対する鉛過剰量が10%のPZT前駆体膜72aが形成される。
【0061】
そしてPZT前駆体膜72aが形成されたシリコンウェハ50は搬送部40によって加熱工程に投入され、乾燥及び脱脂された後に冷却部26に移動して冷却され、第1層目のアモルファス複合酸化物膜が形成される(図10参照)。第1層目のアモルファス複合酸化物膜が形成されたシリコンウェハ50は、上述と同様の手順で冷却部26から成膜装置80に投入され、Zr/Ti比が53/47で化学量論組成に対する鉛過剰量が10%のPZT前駆体膜72bが形成され、さらにこれが加熱されて第2層目のアモルファス複合酸化物膜が形成される(図10参照)。
【0062】
さらにこの第2層目のアモルファス複合酸化物膜の上には、混合器85によってジルコン酸鉛前駆体液とチタン酸鉛前駆体液及び酸化鉛前駆体液が47対53対7の比で混合された混合前駆体液が滴下され、所定のプログラムに基づいてスピンコートされ、47/53で化学量論組成に対する鉛過剰量が15%のPZT前駆体膜72cを形成し、これを加熱して第3層目のアモルファス複合酸化物膜を形成する。続いて、上述のように3層積層したアモルファス複合酸化物膜を形成させたシリコンウェハ50をさらに高い温度まで加熱及び焼成してアモルファス複合酸化物膜を結晶化し、第1層目のPZT結晶膜を得る(図11参照)。そして、上述のような前駆体膜の成膜から焼成、結晶化のプロセスを結晶膜の厚みが所望の膜厚となるまで繰り返すことにより、所望のPZT結晶膜を得ることができる(図12参照)。
【0063】
上述のような手順にて得られた強誘電体膜のPZT膜は、Zr/Ti比が53/47かつ鉛の組成比がPZTの化学量論比を保つと共に、前駆体膜の成膜プロセスにて焼成及び結晶化プロセスにおける複合酸化物の各構成金属元素の移動度や結晶加速度、あるいは揮発性、さらには焼成時における積層界面の影響を考慮して前駆体膜の組成を変化させながら積層成膜しているため、膜内部の組成均一性が高く、強誘電体膜としての特性も高いものとなる。
【0064】
また、本実施形態では前駆体液としてジルコン酸鉛の前駆体液、チタン酸鉛の前駆体液、酸化鉛の前駆体液を準備し、前駆体膜の成膜回数に応じて混合比(前駆体膜の組成比)を変化させながら成膜を行っている。この前駆体膜の組成は、PZTの前駆体液と比較して組成も単純であり、各前駆体液の合成コストもPZTのそれと比較して安価である。結果、成膜回数に対応した最適な前駆体膜組成の前駆体液を個別に合成及び準備して成膜するプロセスと比較し、低コストでのPZT膜の形成が可能となる。
【0065】
上述の構成によれば、枚葉処理でシリコンウェハ50を加熱焼成炉に先入れ先出ししつつ所定回数繰り返して行うことから強誘電体前駆体膜に与える熱履歴を均一化することができると共に、成膜回数に応じて最適な組成に変化させた前駆体液をシリコンウェハ50に滴下して前駆体膜を成膜し、その後の焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行しているので、形成される所定厚さの圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成分布が均一となり、結果特性が向上した強誘電体膜をコスト抑制しつつ得ることができる。
【0066】
また、収納部材が成膜装置80にて24時間で処理可能な枚数だけシリコンウェハ50を収納するので、生産管理及び工程管理を向上することができる。また、第1の加熱工程と第2の加熱工程とを設けることにより、成膜装置80の休止時間を最小にすることができ稼働効率を向上させることができる。また、接触加熱方式を用いることにより、ゾル−ゲル液を乾燥するときに発生する揮発分の排出処理を容易化することができる。また、非接触加熱方式を用いることにより、焼成温度の制御を安定的に行うことができると共に、脱脂と焼成とを連続動作で行うことで変位の安定した圧電膜を得ることができる。また、冷却工程において24時間で処理できるシリコンウェハ50の数だけを収納可能であるので、成膜装置80の休止時間を最小にすることができ稼働効率を向上させることができる。さらに、インデックステーブル27Aとして8時間で処理できるシリコンウェハ50を収納可能な3段構成のものを用いることにより、シリコンウェハ50の管理を容易に行うことができ作業効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0067】
14 収納部材
50 シリコンウェハ
72 強誘電体前駆体膜
80 成膜装置
84 スピナーノズル
85 混合器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特開2004−268414号公報
【特許文献2】特開2005−183543号公報
【非特許文献】
【0069】
【非特許文献1】F.Calame and P.Muralt“Growth and properties of gradient free sol−gel lead zirconate titanate thin films”APPLIED PHYSICS LETTERS90,062907_2007_
【非特許文献2】Nicolas Ledermann,Paul Muralt,Jacek Baborowski,Sandrine Gentil,Kapil Mukati,Marco Cantoni,Andreas Seifert,Nava Setter “{100}−Textured,piezoelectric Pb(Zrχ,Til.χ)O3 thin films for MEMS:integration,deposition and properties”Sensors and Actuators A105(2003)162−170
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出するノズル開口と連通する液室基板の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子に電圧を印加することにより液体を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの製造方法において、強誘電体膜を所定回数成膜焼成する方法及び自動成膜装置が、例えば「特許文献1」または「特許文献2」に開示されている。また、組成の異なる複数種類の前駆体液を準備し、成膜回数に応じて異なる組成の前駆体液を滴下及び成膜することによって形成された強誘電体膜の膜厚方向の組成分布が均一になることを報告した非特許文献として、例えば「非特許文献1」または「非特許文献2」が知られている。
【0003】
インクを吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子で変形させることにより圧力発生室内のインクを加圧してノズル開口からインクを吐出させるインクジェット記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長収縮するものと撓み力を利用した2種類の圧電アクチュエータが実用化されている。その中で、撓み力を利用した圧電体層ではチタン酸ジルコン酸鉛(以下PZTとする)等の強誘電体膜が用いられる。このような強誘電体膜は、予め合成した強誘電体前駆体液をスピンコート法等により前駆体膜の成膜をした後、これを加熱焼成処理して結晶化させる、いわゆるゾル−ゲル法によって形成することが通例である。また、加熱焼成処理方法としては、拡散炉内に強誘電体前駆体膜を成膜したシリコンウェハを複数枚連続挿入し焼成及び結晶化させるが、先に挿入されたシリコンウェハと後から挿入されたシリコンウェハの熱履歴が均一にならないため、所定回数の加熱焼成工程の中で加熱焼成工程毎にシリコンウェハの順序を入れ替えて熱履歴を均一にする方法が、例えば「特許文献1」に開示されている。本明細書において、強誘電体と記す範囲は複数の金属元素の酸化物からなる複合酸化物であり、特に電気的入力を機械的な変位に変換する材料が相当する。
【0004】
また「特許文献1」に開示された技術では、1列に配置された複数のステージを有する保持部材の各ステージにシリコンウェハをそれぞれに固定し、予め加熱された拡散炉に保持部材をその一端のステージ側から挿入すると共に他端のステージ側から排出する一連の動作により、シリコンウェハを介して強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成し、かつ所定回数の焼成工程終了後に圧電体層にかかった熱履歴が均一となるように各焼成工程毎にステージの入れ替えを行っているが、これでは各焼成工程毎の熱履歴は均一にはならない。さらに詳しく述べると、複数枚のシリコンウェハを複数の保持部材のステージに固定して先入れ後出ししているために、例え挿入の順番を1回毎に変えても最初挿入された保持部材のステージに固定されたシリコンウェハと2番目に挿入された保持部材のステージに固定されたシリコンウェハには挿入時間に応じた差が出てしまう。例えば拡散炉に挿入する保持部材の数が増えれば増えるだけ時間差が大きくなってしまい、各層間の焼成状態が変わってしまうといった問題は解決されない。
【0005】
そこで本発明者等は、自動成膜装置にて圧電素子基板となるシリコンウェハの表面に圧電素子の下部電極となる導電層を形成後、シリコンウェハを収納する収納部材と、この収納部材を保持する供給排出工程と、供給排出工程からシリコンウェハを搬送する搬送工程と、搬送工程によって搬送されたシリコンウェハの中心とオリフラ位置を合わせる位置調整工程と、導電層上に強誘電体前駆体膜を形成する成膜工程と、シリコンウェハを介して強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する加熱焼成工程と、加熱焼成工程から排出されたシリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成し、かつ所定回数の焼成工程を先入れ先出しすることで所定回数全ての強誘電体前駆体膜の熱履歴が均一になると共に、シリコンウェハにかかる熱履歴が均一となるように枚葉処理するインクジェット記録ヘッドの製造方法及び製造装置を提案してこの問題を解決した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の提案により、シリコンウェハ上に成膜した強誘電体膜に加えられる熱履歴のばらつきに起因する圧電体素子の特性ばらつきを解消することができたが、一方で、得られた圧電体素子の特性が計算上の予測値と比較して十分なものに達していないことが明らかとなった。その原因を明らかにするため、圧電素子を構成する強誘電体膜について詳細な分析を行ったところ、強誘電体膜を構成する複合酸化物の組成が、膜全体としては前駆体膜の成膜に使用している前駆体液の組成と一致する一方、膜の厚み方向でその組成が均一になっていないことが明らかとなった。この強誘電体膜の膜厚方向組成が不均一となるメカニズムについては「非特許文献1」に詳述されている。
【0007】
強誘電体膜の成膜は、導電層上に前駆体液をスピンコート法にて塗布、溶媒を乾燥させた前駆体膜を加熱し、膜中の有機成分を熱分解(脱脂)した(第1層目のアモルファス複合酸化物膜の形成)後に、この第1層目のアモルファス複合酸化物膜の上にさらに前駆体液の塗布、乾燥、脱脂プロセスを数回繰り返す(第2、第3、・・・第X層目のアモルファス複合酸化物膜の形成)。そして、積層化したアモルファス複合酸化物を有機成分の熱分解時より高い温度まで加熱することで焼成(結晶化)する(第1層目の複合酸化物結晶膜の形成)。さらにこの第1層目の複合酸化物結晶膜の上に、前駆体液の塗布から複合酸化物膜の結晶化までのプロセスを、狙いとする膜厚の強誘電体膜が得られるまで繰り返す(複合酸化物結晶の積層膜、すなわち圧電層となる所定膜厚の強誘電体膜の形成)。
【0008】
そして、強誘電体膜の膜厚方向組成の不均一は、積層したアモルファス複合酸化物を結晶化するプロセスの間に生じる。先ず、アモルファス複合酸化物を構成している各金属元素は、焼成プロセス時に供給される熱エネルギによって膜中を移動し、複合酸化物結晶構造の所定位置に配位することで結晶化するが、この移動のし易さ(以下移動度という)、移動速度が金属元素の種類によって異なる。例えば、代表的な強誘電体膜であるPZT膜(鉛、ジルコニア、チタンの複合酸化物膜)の場合、チタン元素はジルコニア元素と比較して反応中の移動速度が速く、焼成プロセス中にジルコニア元素と比較して速いタイミングで結晶構造を形成する。また、鉛元素の蒸気圧は低く、焼成プロセスにて加えられる熱によって大気中に揮発し易い性質を有している。こうした結晶加速度の違いや反応系からの離脱等により、雰囲気制御条件を含めた焼成プロセス条件によってできあがった複合酸化物結晶膜(強誘電体膜)には部分的にその結晶構造中に配位されているべき金属元素の過不足が生じる。その結果、得られた強誘電体膜の特性が理論的に期待される値に達しない。
【0009】
ところで、結晶構造中における金属元素の過不足の状態は、焼成プロセス前に形成されたアモルファス複合酸化物の積層膜の層間で異なる特徴を示している。アモルファス複合酸化物積層膜の層間で結晶構造中の金属元素の過不足が変化する理由について、強誘電体膜の焼成プロセスは始め導電層の上に前駆体液を成膜、これを加熱・脱脂してアモルファス複合酸化物膜とし、続いてこの上に前駆体液の成膜・脱脂プロセスを繰り返してアモルファス複合酸化物膜を積層した後に結晶化を行うと共に、形成された複合酸化物結晶膜の上にアモルファス複合酸化物膜の積層と結晶化を繰り返して所定厚みの強誘電体膜を形成している。そのため、結晶化されるアモルファス複合酸化物膜は、その積層される回数、タイミングによって焼成プロセス投入時における膜下面が導電層、アモルファス層、あるいは既に結晶化された複合酸化物膜と、それぞれ異なる性質を有する層と接していることとなる。また、上面についてもアモルファス層あるいは空気層と、全く異なる性質を有する層と接している。
【0010】
上述のような異なる界面層を有しているアモルファス複合酸化物膜が焼成プロセスに投入された場合、その結晶化反応は特に界面近傍において、接している層の性質の影響を受けながら進むことになるため、アモルファス複合酸化物膜の結晶化はその積層される回数・タイミングによって異なる反応が進むことになる。その結果できあがった複合酸化物結晶膜中には、特に焼成プロセス以前のアモルファス複合酸化物積層膜の界面近傍において、複合酸化物を形成する金属元素の移動度や揮発性の違いによって生じる、結晶構造中に配位されているべき金属元素の過不足の状態が積層膜間で異なる現象が生じる。このようなアモルファス複合酸化物膜の焼成プロセス時に生じる現象により、強誘電体膜の膜厚方向組成が不均一になると共に、できあがった強誘電体膜・圧電層の特性が意図した特性に達しない。
【0011】
この問題を解決するため、「非特許文献1」では膜厚方向の組成が均一なPZT膜を形成するため、チタン元素とジルコニア元素の組成比と同時に鉛元素の過剰量を変化させた4種類の前駆体液を準備し、積層回数に応じて異なる組成の前駆体液の塗り分けを行うことにより、できあがったPZT膜の膜厚方向の組成均一性を同一の前駆体液を塗り重ねて成膜したPZT膜と比較してより高いものにすると共に、強誘電体膜としての特性も向上させている。
【0012】
また「非特許文献2」では、揮発性の高い鉛元素の膜厚方向の分布を一定に保つために鉛元素の過剰量を変えた2種類の前駆体液を準備し、焼成プロセス前のタイミングにてより高い鉛元素過剰量の前駆体液を使用して積層成膜することによって、鉛元素の膜厚方向の分布を一定とした一方、チタン元素とジルコニア元素の組成比は2種類の前駆体液間で同じ組成になっているため、膜厚方向のチタン元素とジルコニア元素の組成比が積層回数、特に結晶化プロセスを実施している前後の層間で大きく変化していることを報告している。
【0013】
上述のように、前駆体液を使用して膜内部の組成均一性の高い複合酸化物結晶の積層膜を成膜し、良好な特性の強誘電体膜を得ようとする場合、組成の異なる複数の前駆体液を準備し、積層回数や焼成プロセスのタイミングに合わせて適切な組成の前駆体液を塗り分けて成膜するとよい。例えばPZT膜の場合、ジルコニアとチタンの組成比を変えると共に鉛の過剰量の違いを組み合わせた複数種類の前駆体液を準備し、積層回数や焼成プロセスのタイミングに合わせて適切な前駆体液を選択して成膜作業を行うことにより、内部の組成均一性が高く良好な強誘電体特性・圧電体特性を有するPZT膜を得ることができる。
【0014】
しかし一方で、前駆体液の準備(合成)には、長い合成プロセス時間とコストとがかかる。より良好な特性を有する強誘電体膜を得るためには、きめ細かく組成を変化させた、より多種類の前駆体液を準備し、これらを適切に使い分けながら積層成膜すればよいが、前駆体液の準備にさらに多種類準備した前駆体液を使い分けて成膜を行うための設備に関して、例えば前駆体液をシリコンウェハに滴下・スピンコートする成膜工程部分に、使用する前駆体液の種類の数に対応する複数の塗布ライン(各前駆体液を個別にセットする加圧タンク、送液ライン、吐出ノズル並びにそれらの制御システム)を具備させる等、多大なコストの増大を伴ってしまう。
【0015】
本発明は上述した問題を解決し、最小種類の前駆体液を準備し、これを積層回数に合わせて適切に調合してきめ細かく組成を変化させながら積層成膜を行うことにより、膜内部の組成均一性が高く良好な強誘電体特性・圧電体特性を有する強誘電体膜を低コストで得ることが可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記収納部材は24時間で処理できる数のシリコンウェハを収納可能であることを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記焼成工程は第1の加熱工程と第2の加熱工程とで行われることを特徴とする。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに第1の加熱工程は接触式加熱方法であることを特徴とする。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに第2の加熱工程は非接触式加熱方法であることを特徴とする。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記冷却工程は24時間で処理できるシリコンウェハの数だけ収納可能であることを特徴とする。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記冷却工程はインデックステーブルを複数枚積層して構成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項7記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、さらに前記インデックステーブルには8時間で処理できるシリコンウェハの数だけのステージが設けられていることを特徴とする。
【0024】
請求項9記載の発明は、請求項1ないし8の何れか1つに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法により製造されたインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置であることを特徴とする。
【0025】
請求項10記載の発明は、シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造装置において、前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、枚葉処理でシリコンウェハを加熱焼成炉に先入れ先出ししつつ所定回数繰り返して行うことから強誘電体前駆体膜に与える熱履歴を均一化することができると共に、成膜回数に応じて最適な組成に変化させた前駆体液をシリコンウェハに滴下して前駆体膜を成膜し、その後の焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行しているので、形成される所定厚さの圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成分布が均一となり、コストを抑制しつつ結果特性が向上した強誘電体膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態を適用可能な製造装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられるシリコンウェハの概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に用いられる液滴吐出ヘッドの概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に用いられる液滴吐出ヘッドの概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に用いられるシリコンウェハ及び強誘電体層を説明する概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に用いられる第2加熱部の動作を説明する概略図である。
【図7】本発明の一実施形態に用いられる冷却部を説明する概略図である。
【図8】本発明の一実施形態に用いられるシリコンウェハ及び強誘電体前駆体膜を説明する概略図である。
【図9】本発明の一実施形態に用いられる成膜装置を説明する概略図である。
【図10】本発明の一実施形態における成膜動作を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態における成膜動作を説明するフローチャートである。
【図12】本発明の一実施形態における成膜動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、液体吐出ヘッドの製造装置を示している。同図において製造装置10は液滴吐出ヘッドの製造装置であり、特に液滴吐出ヘッドに設けられる圧電素子の圧電体を形成する装置である。具体的には、製造装置10は図2に示すように複数のシリコンチップ52に分割されるシリコンウェハ50を1枚ずつ搬送し、シリコンウェハ50に圧電体となる強誘電体層の積層体を形成する装置である。
【0029】
先ず、圧電素子を備えた液滴吐出ヘッド62の構成の一例を説明する。図3は液滴吐出ヘッド62の分解斜視図を、図4には同断面図をそれぞれ示している。本実施形態では、液滴吐出ヘッド62はノズル基板58と、液室基板56と、保護基板54との3枚の基板の積層体である場合を説明する。なお、液室基板56と保護基板54との積層体が図2に示すシリコンウェハ50を分離することによって得られるシリコンチップ52である。なお本実施形態では、液滴吐出ヘッド62は液滴としてインク液滴を吐出する場合を説明する。ノズル基板58はインク液滴を吐出する複数のノズル孔58Aを有している。ノズル孔58Aはノズル基板58の厚み方向に貫通した孔であり、ノズル基板58の面方向に沿って複数配設されている。
【0030】
液室基板56にはノズル孔58Aのそれぞれに連通した複数の加圧液室56A、共通液室56E、及び流体抵抗部56Bが設けられている。流体抵抗部56Bは複数の加圧液室56Aと共通液室56Eとを連通すると共に流体抵抗部として機能する。共通液室56Eにインクが供給されると、共通液室56Eに供給されたインクは流体抵抗部56Bを介して複数の加圧液室56Aのそれぞれに供給され、ノズル孔58Aを介して吐出可能な状態となる。液室基板56には、振動板56C及び圧電素子60が直接形成されている。
【0031】
圧電素子60は、振動板56Cを介して各加圧液室56Aのそれぞれに対応して配置されており、圧電素子60は下部電極60C、圧電体60A、上部電極60Bを順に積層することにより構成されている。圧電素子60は、振動板56Cにおける対向面に対して平行な方向への変位を振動板56Cに与える、横振動型、いわゆるベンドモードとされている。
【0032】
圧電体60Aの構成材料は、圧電特性を示す層を構成しうる圧電材料であれば如何なる材料であってもよい。圧電材料としては、例えばペロブスカイト構造を有しかつ金属としてPb、Zr、Tiを含むチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケルまたは酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が挙げられる。具体的な圧電材料としては、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)またはマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。下部電極60C及び上部電極60Bは導電性を有する層であり電極として機能する。保護基板54は圧電素子60のそれぞれを保護する基板である。
【0033】
上述のように構成された液滴吐出ヘッド62では、共通液室56E及び流体抵抗部56Bを介して複数の加圧液室56Aのそれぞれに液体が供給される。そして、各液室が液体によって満たされた状態で、下部電極60Cと上部電極60Bとに電圧を印加する。これにより、電圧を印加された各圧電素子60の圧電体60Aが振動板56Cの面方向に沿って縮む。なお、下部電極60Cと上部電極60Bへの電圧印加による圧電体60Aの変形を以下において圧電素子60の駆動と説明する場合がある。圧電素子60の駆動による圧電体60Aの変形により、振動板56Cにおける圧電素子60に対応する領域が加圧液室56A側に向かって突出した突状に変形する。この振動板56Cの変形により、加圧液室56A内の体積が減少して圧力が上昇し、加圧液室56Aに連通するノズル孔58Aから液滴が吐出する。この構成の液滴吐出ヘッド62は、下記工程を経由することによって製造する。
【0034】
図5に示すように、流路基板55となるシリコンウェハ50上に圧電素子60の下部電極60Cとなる下部導電層61Cを形成した後、強誘電体層61A(強誘電体層61A1〜61An)を複数積層させて所望の厚みの強誘電体層61Aを形成し、上部電極60B(図5では省略)となる図示しない上部電極層を形成した後にこれ等の層をパターニングする。これにより、図3及び図4に示すような圧電素子60をシリコンウェハ50上に形成し、さらに図3に示す保護基板54の設置を行う。そして、圧電素子60の設けられた流路基板55と保護基板54との積層体であるシリコンウェハ50をダイシングソー等によって切断して複数のシリコンチップ52に分離する(図2参照)。そして、各シリコンチップ52に図3に示すノズル基板58の接合や駆動部等の各種部材の搭載や加工等を行うことにより、複数の液滴吐出ヘッド62を製造する。
【0035】
図1に示す製造装置10は、上述した液滴吐出ヘッド62の特に圧電体60Aを形成する各部を備えた装置である。製造装置10は、供給排出ステージ12、収納部材14、排出部材15、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、加熱部25、冷却部26、搬送部40、入力部32、主制御部34等を含んで構成されている。
【0036】
収納部材14は、下部電極60Cとなる下部導電層61Cが形成されたシリコンウェハ50を収納する(図6も参照)。排出部材15は、製造装置10によって複数の強誘電体層61Aが積層された後のシリコンウェハ50を収納する部材である。供給排出ステージ12は、これら収納部材14及び排出部材15を支持している。収納部材14には、24時間で流動する分だけのシリコンウェハ50が収納されていることにより、シリコンウェハ50や生産状況の管理を向上している。例えばシリコンウェハ50の管理とは、製造装置10内に流動しているシリコンウェハ50に管理番号を付け製造履歴をシーケンス制御により管理し、モニタ表示することである。
【0037】
位置調整部16は、シリコンウェハ50の中心位置やオリフラ(オリエーションフラット)50B(図2参照)を予め定めた方向及び位置に位置合わせして位置調整を行う。この位置調整されたシリコンウェハ50の予め定められた領域を後述する搬送部40で保持搬送し、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26等の各部へと搬送する。これにより、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、及び冷却部26等の各部には位置調整されたシリコンウェハ50が搬送される。なお、位置調整部16において同時に位置調整可能なシリコンウェハ50の数は1枚である。位置調整部16には位置制御部16Aが設けられており、位置制御部16Aは主制御部34に電気的に接続されている。位置制御部16Aは、位置調整部16の装置各部を駆動する図示しない駆動部に電気的に接続されており、該駆動部を制御することによりシリコンウェハ50の位置合わせを行う。
【0038】
シリコンウェハ50を洗浄する洗浄部18は、1度に1枚のシリコンウェハ50を洗浄する。洗浄部18は公知のウェット式やドライ式等の洗浄方式を用いてシリコンウェハ50を洗浄し、洗浄部18には主制御部34に電気的に接続された洗浄制御部18Aが設けられている。洗浄制御部18Aは、洗浄部18におけるシリコンウェハ50の洗浄タイミングや洗浄時間等を制御する。
【0039】
成膜部20は、シリコンウェハ50上に強誘電体前駆体膜を成膜する。この強誘電体前駆体膜は、強誘電体前駆体溶液(ゾル)による塗膜である。強誘電体前駆体溶液(ゾル)とは、圧電体60Aの構成材料として挙げた圧電材料を溶媒に溶解した溶液である。この強誘電体前駆体溶液としては、ゾルゲル法により成膜される圧電体材料、具体的には酢酸鉛、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料とし、これ等の出発材料を共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料が挙げられる。成膜部20による強誘電体前駆体膜の成膜方法は、限定されないが例えばスピンコート法が用いられる。
【0040】
成膜部20には、この成膜条件を調整するための成膜制御部20Aが設けられている。成膜制御部20Aは主制御部34に電気的に接続されており、主制御部34の制御によってシリコンウェハ50上に強誘電体前駆体膜を成膜する。なお、成膜部20では同時に成膜可能なシリコンウェハ50の数は1枚とされている。また、成膜部20には検知部20Bが設けられており、検知部20Bは成膜部20内にシリコンウェハ50が位置しているか否かを検知する。検知部20Bは主制御部34に電気的に接続されており、検知部20Bとしては公知の赤外線センサ等が用いられる。なお、成膜部20には洗浄部18で洗浄されたシリコンウェハ50が搬入されるため、強誘電体前駆体膜の膜間にごみ等の付着物が混入することを抑制することができ、膜欠陥を防止することができる。なお、成膜部20内にも洗浄部18を設けた構成としてもよい。
【0041】
加熱部25は、シリコンウェハ50上に形成された強誘電体前駆体膜に熱を加える装置であり、第1加熱部22と第2加熱部24とを有している。第1加熱部22は成膜部20によって成膜された強誘電体前駆体膜を第1の温度に加熱することにより強誘電体前駆体膜を乾燥させる。第1加熱部22には主制御部34に電気的に接続された加熱制御部22Aが設けられており、主制御部34は加熱制御部22Aを制御することにより第1加熱部22内を所定の乾燥温度に保持させる。第1加熱部22の構成は、第1加熱部22内に搬送されてきたシリコンウェハ50の強誘電体前駆体膜に熱を加えることができる構成であればよく限定されない。例えば第1加熱部22として、ホットプレート等の加熱部材を直接シリコンウェハ50に接触させる接触方式の装置を挙げることができる。
【0042】
第2加熱部24は、第1加熱部22よりも高い第2の温度で強誘電体前駆体膜を加熱する装置であり、具体的には強誘電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することにより脱脂する脱脂処理、及び脱脂された強誘電体前駆体膜を結晶化させる焼成処理を行う。なお脱脂とは、強誘電体前駆体膜に含まれる有機成分を例えばNO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
【0043】
第2加熱部24には加熱制御部24Aが設けられており、第2加熱部24内の温度条件を調整している。具体的には、加熱制御部24Aは第2加熱部24内の温度を脱脂処理可能な温度に一定時間保持したり焼成処理可能な温度に一定時間保持したりする等の、第2加熱部24内の温度条件を調整している。第2加熱部24は、主制御部34に電気的に接続されており、主制御部34の制御により第2加熱部24内の温度制御を行う。第2加熱部24としては、第2加熱部24内に搬送されてきたシリコンウェハ50の強誘電体前駆体膜に、脱脂処理や焼成処理可能な温度(第2の温度)の熱を加えることができる構成であればよくその構成は限定されない。第2加熱部24としては、例えばホットプレート、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置等を用いることができる。
【0044】
図6は、第2加熱部24の具体的構成の一例を示している。第2加熱部24は、一対のフレーム63A,63Bを備えており、フレーム63A,63Bは一面が開口した箱状を呈しており、この開口面が互いに対向するように配置されている。フレーム63A,63Bは図示しない支持部材によって支持されており、図6(A)に示すようにフレーム63A,63Bが互いに離間した状態、または図6(B)に示すようにフレーム63A,63Bが互いの開口面を覆うように接触した状態の何れかの状態となるように駆動可能に支持されている。フレーム63A,63Bを駆動する図示しない駆動部は加熱制御部24Aに電気的に接続されており、加熱制御部24Aの制御により離間状態または接触状態の何れかとなるように制御される。
【0045】
フレーム63A,63Bの内部の空間64A内には、図示しない支持部材によって支持されたホルダ70が設けられている。ホルダ70は空間64A内に搬送されてきたシリコンウェハ50を空間64A内で支持する。ホルダ70は加熱制御部24Aに電気的に接続されており、主制御部34の制御によりシリコンウェハ50を保持した保持状態、またはシリコンウェハ50の保持を解除した開放状態の何れかに制御される。フレーム63A,63B内の空間64Aには、加熱部68A,68Bが設けられている。加熱部68A,68Bとしては加熱機構を有するものであればその構成は限定されないが、例えば赤外線ランプが挙げられる。加熱部68A,68Bは加熱制御部24Aに電気的に接続されており、加熱制御部24Aの制御によって加熱条件が制御される。フレーム63A,63B内には、冷却部66A,66Bが設けられている。冷却部66A,66Bは加熱制御部24Aに電気的に接続されており、加熱制御部24Aの制御によりフレーム63A,63B内を冷却する。
【0046】
図8はシリコンウェハ50の断面拡大図であり、シリコンウェハ50上には予め形成された下部電極60Cがあり、この下部電極60Cの上部に予め設定されている所定回数の製造条件を繰り返し行うことにより、ばらつきのない安定した圧電素子を製造することができる。図8に示すように、第1層目の強誘電体前駆体膜72aが塗布されたシリコンウェハ50は、フレーム63Aが上昇した空間64Aに搬送部40によって搬送され、フレーム63Bに設置されているホルダ70で保持される保持動作が完了するとフレーム63Aが下降し、第2加熱部24が閉じられて加熱部68A,68Bにより予め設定されている脱脂温度まで昇温させ、アモルファス状の複合酸化物膜を形成する。このときの加熱条件としては、加熱部68A,68Bの何れか一方のみで加熱してもよい。
【0047】
脱脂と焼成とを行う場合は、さらに連続で予め設定されている焼成温度まで連続的に加熱し、アモルファス複合酸化物膜を結晶化させる。加熱工程が予め設定されている条件通り完了したら、冷却部66A,66Bに冷却媒体を流しフレーム63A,63bを冷却することで、空間64Aの温度を下げて間接的にシリコンウェハ50の温度を下げる。そして、予め設定されている取り出し温度まで空間64Aの温度が下降したらフレーム63Aが上昇し、搬送部40がシリコンウェハ50を保持してホルダ70による保持を解除し、第2加熱部24からシリコンウェハ50を排出する。このように第2加熱部24は枚葉処理であるため、常に予め設定されている焼成条件で制御されているので、各強誘電体前駆体膜72や各シリコンウェハ50での処理条件にばらつきが生じないことから、安定した結晶化が行われることで変位の安定した圧電素子の製造が可能となる。
【0048】
冷却部26は第2加熱部24によって加熱されたシリコンウェハ50を冷却する装置であり、冷却部26には温度制御部26Aが設けられている。温度制御部26Aは主制御部34に電気的に接続されており、冷却部26内の温湿度条件を制御する。冷却部26は複数のシリコンウェハ50を保持可能であり、保持したシリコンウェハ50を室温にまで冷却する。
【0049】
図7には、本実施形態における冷却部26の構成例を示している。図7に示すように冷却部26は、円板状のインデックステーブル27Aが複数設けられている。各インデックステーブル27Aは間隔を空けて複数配列されており、円板の周方向(図7に矢印Cで示す方向)に回転可能に設けられている。なお冷却部26には図1に示す回転制御部26Bが設けられており、回転制御部26Bの駆動によって各インデックステーブル27Aが周方向に回転可能に設けられている。回転制御部26Bは図1に示す温度制御部26Aに電気的に接続されており、各インデックステーブル27Aにはシリコンウェハ50を1枚ずつ保持するステージ27Bが設けられている。また冷却部26には検知部26Cが設けられている。検知部26Cは、各インデックステーブル27A上のシリコンウェハ50の有無を検知する。検知部26Cは主制御部34に電気的に接続されており、検知結果を主制御部34に送信する。1段のインデックステーブル27Aに8時間で処理可能なシリコンウェハ50の数だけステージ27Bを設けることにより、成膜装置80の休止時間を最小とすることができる。
【0050】
搬送部40は、支持部41、レール46、搬送アーム42、駆動部44、読取部48を備えている。レール46は、供給排出ステージ12、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26の配列方向に長い長尺状のレール部材であり、本実施形態では図1に示すように、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、供給排出ステージ12、第2加熱部24、冷却部26がそれぞれ1列に配列された合計2列の配列となっている。そしてレール46は、これ等の2列に配列された各部の間に、各部の配列方向に沿って長い長尺状とされている。このため本実施形態では、搬送部40は供給排出ステージ12、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26の間で短時間にシリコンウェハ50を搬送可能な構成となっている。
【0051】
駆動部44は、主制御部34に電気的に接続されている。駆動部44としてはモータ等が挙げられる。支持部41は搬送アーム42を支持する部材であり、レール46の長尺方向に移動可能に支持された図示しないリニアガイドに支持されている。搬送アーム42には、腕部42A及び保持部42Bが設けられている。保持部42Bはシリコンウェハ50を1枚ずつ保持した状態、またはシリコンウェハ50の保持状態を解除した解除状態の何れかを維持する部材である。腕部42Aは、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26、排出部材15のそれぞれの方向に図示しない折り曲げ部で折り曲げられることで伸縮するアーム状の部材である。これ等腕部42A及び保持部42Bは、駆動部44に電気的に接続されている。
【0052】
このため、主制御部34の制御によって駆動部44が駆動することにより、支持部41がレール46の長尺方向に沿って移動する。また、主制御部34の制御によって駆動部44が駆動することで腕部42A及び保持部42Bが駆動し、収納部材14から1枚のシリコンウェハ50を取り出して位置調整部16へ搬送する。また同様に、主制御部34の制御による支持部41の移動や腕部42A及び保持部42Bの駆動によって、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26、供給排出ステージ12、排出部材15の間をシリコンウェハ50が1枚ずつ搬送される。
【0053】
本実施形態では、搬送部40はレール46を設けた構成とし、支持部41及び搬送アーム42がレール46に沿って移動可能に構成されている場合を説明するが、レール46を設けない構成でもよい。この場合には支持部41を固定し、搬送アーム42が各部(供給排出ステージ12、位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、第2加熱部24、冷却部26)のそれぞれに届く構成とすればよい。
【0054】
搬送部40には読取部48が設けられている。読取部48はシリコンウェハ50に設けられた管理IDを読み取るものであり、読取部48としては公知のスキャナが用いられる。図2に示すように、シリコンウェハ50の予め定められた領域50Aには、各シリコンウェハ50を識別するための管理IDが刻印されている、読取部48は主制御部34に電気的に接続されており、読み取った管理IDを主制御部34に送信する。なお本実施形態では、上述のように搬送部40に読取部48が設けられているため、搬送部40で搬送する対象のまたは搬送中のシリコンウェハ50の管理IDを読み取ることが可能な構成となっている。
【0055】
各種情報を入出力する入力部32は主制御部34に電気的に接続されており、入力部32としては例えばキーボード、タッチパネル付きのディスプレイ等が挙げられる。本実施形態では、例えば入力部32のユーザによる操作によって入力部32から位置調整部16、洗浄部18、成膜部20、第1加熱部22、加熱部25、冷却部26における加熱温度や冷却温度等の各種処理条件が入力される。
【0056】
主制御部34は、制御部36と記憶部38とを含んで構成されている。制御部36はCPU、製造処理を実行するプログラム等を記憶したROM、データ等を記憶するRAM、これ等を接続するバスを含んで構成されている。制御部36は、製造装置10に設けられた装置各部に電気的に接続されている。具体的には、制御部36は駆動部44、読取部48、位置制御部16A、洗浄制御部18A、成膜制御部20A、検知部20B、加熱制御部22A,24A、温度制御部26A、回転制御部26B、検知部26C、入力部32、記憶部38等に電気的に接続されている。記憶部38は、ハードディスクドライブ装置(HDD)等の記憶媒体である。
【0057】
ここで、本発明の特徴部である、強誘電体前駆体液をシリコンウェハ50上に滴下し、スピンコート法にて強誘電体前駆体膜72を成膜する構成について説明する。図9は、本発明の一実施形態に用いられる成膜装置を示している。同図において成膜装置80は、それぞれ異なる強誘電体前駆体液をセット可能な3台(それ以上も可)の加圧タンク81を備えており、各加圧タンク81からそれぞれ送液チューブ82がインラインフィルタ83を介してスピナーノズル84近傍に設けられた混合器85に接続されている。
【0058】
混合器85は、各加圧タンク81から送液されたそれぞれの強誘電体前駆体液を成膜装置80の図示しない制御システムより指示された任意の比率にて混合した上でスピナーノズル84に送出する。そして図示しない制御システムに入力されたプログラムの指示により、スピナーノズル84が装着されたアーム86、シリコンウェハ50を保持したスピンドル87がそれぞれ動作・回転すると共に、混合器85にて指示された比率で混合された強誘電体前駆体液がスピナーノズル84から滴下され、シリコンウェハ50上に強誘電体前駆体膜72が任意の組成比にてスピンコート成膜される。
【0059】
さらに本発明による強誘電体前駆体液の成膜方法について、PZT膜の成膜を例に述べる。加圧タンク81−1にはジルコン酸鉛の強誘電体前駆体液(ジルコン酸鉛としての濃度:0.5mol/L,ジルコニアと鉛の組成比:Zr/Pb=1/1.1)、加圧タンク81−2にはチタン酸鉛の強誘電体前駆体液(ジチタン酸鉛としての濃度:0.5mol/L,チタンと鉛の組成比:Ti/Pb=1/1.1)、加圧タンク81−3には酸化鉛の強誘電体前駆体液(酸化鉛としての濃度:0.5mol/L)がセットされている。
【0060】
供給排出ステージ12に設置された収納部材14から予め下部電極60Cが形成されているシリコンウェハ50が位置調整部16を経て搬送部40によって成膜装置80に搬送され、スピンドル87上にセットされる。続いて、シリコンウェハ50の下部電極60C上に混合器85によってジルコン酸鉛前駆体液とチタン酸鉛前駆体液とが59対41の比で混合された混合前駆体液が滴下され、所定のプログラムに基づいてスピンコートされ、ジルコニアとチタンの組成比(以下Zr/Ti比と記す)が59/41で化学量論組成に対する鉛過剰量が10%のPZT前駆体膜72aが形成される。
【0061】
そしてPZT前駆体膜72aが形成されたシリコンウェハ50は搬送部40によって加熱工程に投入され、乾燥及び脱脂された後に冷却部26に移動して冷却され、第1層目のアモルファス複合酸化物膜が形成される(図10参照)。第1層目のアモルファス複合酸化物膜が形成されたシリコンウェハ50は、上述と同様の手順で冷却部26から成膜装置80に投入され、Zr/Ti比が53/47で化学量論組成に対する鉛過剰量が10%のPZT前駆体膜72bが形成され、さらにこれが加熱されて第2層目のアモルファス複合酸化物膜が形成される(図10参照)。
【0062】
さらにこの第2層目のアモルファス複合酸化物膜の上には、混合器85によってジルコン酸鉛前駆体液とチタン酸鉛前駆体液及び酸化鉛前駆体液が47対53対7の比で混合された混合前駆体液が滴下され、所定のプログラムに基づいてスピンコートされ、47/53で化学量論組成に対する鉛過剰量が15%のPZT前駆体膜72cを形成し、これを加熱して第3層目のアモルファス複合酸化物膜を形成する。続いて、上述のように3層積層したアモルファス複合酸化物膜を形成させたシリコンウェハ50をさらに高い温度まで加熱及び焼成してアモルファス複合酸化物膜を結晶化し、第1層目のPZT結晶膜を得る(図11参照)。そして、上述のような前駆体膜の成膜から焼成、結晶化のプロセスを結晶膜の厚みが所望の膜厚となるまで繰り返すことにより、所望のPZT結晶膜を得ることができる(図12参照)。
【0063】
上述のような手順にて得られた強誘電体膜のPZT膜は、Zr/Ti比が53/47かつ鉛の組成比がPZTの化学量論比を保つと共に、前駆体膜の成膜プロセスにて焼成及び結晶化プロセスにおける複合酸化物の各構成金属元素の移動度や結晶加速度、あるいは揮発性、さらには焼成時における積層界面の影響を考慮して前駆体膜の組成を変化させながら積層成膜しているため、膜内部の組成均一性が高く、強誘電体膜としての特性も高いものとなる。
【0064】
また、本実施形態では前駆体液としてジルコン酸鉛の前駆体液、チタン酸鉛の前駆体液、酸化鉛の前駆体液を準備し、前駆体膜の成膜回数に応じて混合比(前駆体膜の組成比)を変化させながら成膜を行っている。この前駆体膜の組成は、PZTの前駆体液と比較して組成も単純であり、各前駆体液の合成コストもPZTのそれと比較して安価である。結果、成膜回数に対応した最適な前駆体膜組成の前駆体液を個別に合成及び準備して成膜するプロセスと比較し、低コストでのPZT膜の形成が可能となる。
【0065】
上述の構成によれば、枚葉処理でシリコンウェハ50を加熱焼成炉に先入れ先出ししつつ所定回数繰り返して行うことから強誘電体前駆体膜に与える熱履歴を均一化することができると共に、成膜回数に応じて最適な組成に変化させた前駆体液をシリコンウェハ50に滴下して前駆体膜を成膜し、その後の焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行しているので、形成される所定厚さの圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成分布が均一となり、結果特性が向上した強誘電体膜をコスト抑制しつつ得ることができる。
【0066】
また、収納部材が成膜装置80にて24時間で処理可能な枚数だけシリコンウェハ50を収納するので、生産管理及び工程管理を向上することができる。また、第1の加熱工程と第2の加熱工程とを設けることにより、成膜装置80の休止時間を最小にすることができ稼働効率を向上させることができる。また、接触加熱方式を用いることにより、ゾル−ゲル液を乾燥するときに発生する揮発分の排出処理を容易化することができる。また、非接触加熱方式を用いることにより、焼成温度の制御を安定的に行うことができると共に、脱脂と焼成とを連続動作で行うことで変位の安定した圧電膜を得ることができる。また、冷却工程において24時間で処理できるシリコンウェハ50の数だけを収納可能であるので、成膜装置80の休止時間を最小にすることができ稼働効率を向上させることができる。さらに、インデックステーブル27Aとして8時間で処理できるシリコンウェハ50を収納可能な3段構成のものを用いることにより、シリコンウェハ50の管理を容易に行うことができ作業効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0067】
14 収納部材
50 シリコンウェハ
72 強誘電体前駆体膜
80 成膜装置
84 スピナーノズル
85 混合器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特開2004−268414号公報
【特許文献2】特開2005−183543号公報
【非特許文献】
【0069】
【非特許文献1】F.Calame and P.Muralt“Growth and properties of gradient free sol−gel lead zirconate titanate thin films”APPLIED PHYSICS LETTERS90,062907_2007_
【非特許文献2】Nicolas Ledermann,Paul Muralt,Jacek Baborowski,Sandrine Gentil,Kapil Mukati,Marco Cantoni,Andreas Seifert,Nava Setter “{100}−Textured,piezoelectric Pb(Zrχ,Til.χ)O3 thin films for MEMS:integration,deposition and properties”Sensors and Actuators A105(2003)162−170
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記収納部材は24時間で処理できる数のシリコンウェハを収納可能であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記焼成工程は第1の加熱工程と第2の加熱工程とで行われることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
第1の加熱工程は接触式加熱方法であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
第2の加熱工程は非接触式加熱方法であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記冷却工程は24時間で処理できるシリコンウェハの数だけ収納可能であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記冷却工程はインデックステーブルを複数枚積層して構成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記インデックステーブルには8時間で処理できるシリコンウェハの数だけのステージが設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1つに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法により製造されたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置。
【請求項10】
シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造装置において、
前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造装置。
【請求項1】
シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記収納部材は24時間で処理できる数のシリコンウェハを収納可能であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記焼成工程は第1の加熱工程と第2の加熱工程とで行われることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
第1の加熱工程は接触式加熱方法であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
第2の加熱工程は非接触式加熱方法であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記冷却工程は24時間で処理できるシリコンウェハの数だけ収納可能であることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記冷却工程はインデックステーブルを複数枚積層して構成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記インデックステーブルには8時間で処理できるシリコンウェハの数だけのステージが設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1つに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法により製造されたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置。
【請求項10】
シリコンウェハを収納する収納部材を保持する供給工程と、前記供給工程から前記シリコンウェハを搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送された前記シリコンウェハの位置を合わせる位置出し工程と、前記シリコンウェハ上に形成された導電層上に強誘電体前駆体膜をスピンコート法により形成する成膜工程と、前記シリコンウェハと共に前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程と、前記焼成工程から排出された前記シリコンウェハを冷却する冷却工程とを具備し、一連の動作を所定回数実行することにより圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成するインクジェット記録ヘッドの製造装置において、
前記成膜工程にて、2種類以上の前駆体液を前記シリコンウェハに滴下して前記前駆体膜を形成する方法であり、複数の前記前駆体液は単一のノズルから滴下すると共に、前記ノズルに複数の前記前駆体液を送り出す送液ライン中には複数の前記前駆体液を任意の比率にて混合可能な混合器を備え、成膜回数に応じて前記シリコンウェハに滴下する前記前駆体液の混合比を前記混合器により変化させつつ前記前駆体膜を成膜することにより、その後の前記焼成工程を含めた一連の動作を所定回数実行して形成される所定厚さの前記圧電体層を構成する強誘電体膜の厚さ方向の組成成分が均一となるように枚葉処理を行うことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−63580(P2013−63580A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203552(P2011−203552)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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