説明

インクジェット記録装置用インク、及びインクジェット記録方法

【課題】裏抜けのない良好な画像を形成でき、高速で画像形成する場合であってもオフセットの発生を抑制でき、且つ安定してインク液滴を吐出できる間欠吐出性を有するインクジェット記録装置用インク、及びインクジェット記録装置による画像形成方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも、水と、顔料分散体と、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルとを含むインクジェット記録装置用インクにおいて、分子量30,000〜150,000の樹脂を含む顔料分散体を用い、グリコールモノメチルエーテルの含有量をインクの質量に対して15質量%以上とする。また、インクジェット記録装置において前述のインクを用いて画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置用インク、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録技術の急速な進歩により銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっていることから、インクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録装置が画像形成装置として広く使用されている。
【0003】
かかるインクジェット記録装置について、画像形成の高速化が強く望まれている。しかし、インクジェット記録装置において高速で画像形成を行った場合、インクが紙等の被記録媒体に浸透する前に被記録媒体が排出ローラーを通り排出されてしまい、インクが排出ローラーに付着(オフセット)することによる画像不良が発生しやすくなる。
【0004】
高速で印刷を行う場合のオフセットの問題を解消するためには、インクの乾燥性を高めることが考えられる。しかし、インクの乾燥性を高めた場合、記録を中断した場合や長期間記録を行わなかった場合に、インクの液滴をインクジェット記録装置のインク吐出口から安定して吐出しにくく、良好な画像を形成しにくくなる。
【0005】
このように、乾燥不良によるオフセットの発生を抑制でき、記録を中断した場合や長期間記録を行わなかった場合においても安定して吐出できる良好な間欠吐出性を有する、インクが求められている。
【0006】
かかる事情から、上記のオフセットの抑制と間欠吐出性とに関する課題が解決されたインクとして、例えば、着色剤を含有し、20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の多価アルコールモノアルキルエーテルを5〜15重量%含み、且つ、多価アルコールを5〜50重量%含むことを特徴とするインクジェット記録装置用の水性インクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−012945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、インクジェット記録装置では、さらなる画像形成の高速化が求められており、かかる場合、特許文献1に記載のインクジェット記録装置用インクでは、オフセットの抑制と間欠吐出性とに関する課題を必ずしも解決できない。また、特許文献1に記載のインクジェット記録装置用インクは、インクの浸透により、被記録媒体の裏面に画像が現れる、画像の裏抜けが生じやすい問題がある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、裏抜けのない良好な画像を形成でき、高速で画像形成する場合であってもオフセットの発生を抑制でき、且つ安定してインク液滴を吐出できる間欠吐出性を有するインクジェット記録装置用インクを提供することを目的とする。また、本発明は、裏抜けのない良好な画像を形成でき、オフセットの発生を抑制しつつ高速で画像形成可能であり、インク液滴の間欠吐出性に優れ、良好な画像を形成できる、インクジェット記録装置を用いる画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、少なくとも、水と、顔料分散体と、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルとを含むインクジェット記録装置用インクにおいて、分子量30,000〜150,000の樹脂を含む顔料分散体を用い、グリコールモノメチルエーテルの含有量をインクの質量に対して15質量%以上とすること、及び、インクジェット記録装置において前述のインクを用いて画像を形成することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1) 少なくとも、水と、顔料分散体と、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルとを含み、前記顔料分散体は分子量30,000〜150,000の樹脂を含み、前記グリコールモノメチルエーテルの含有量がインクの質量に対して15質量%以上である、インクジェット記録装置用インク。
【0012】
(2) (1)記載のインクジェット記録装置用インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成する、画像形成方法。
【0013】
(3) 前記インクジェット記録装置における、被記録媒体に前記インクの液滴が着弾してから、前記被記録媒体の前記インクの着弾箇所が被記録媒体を排出する排出部に到達するまでの時間が1秒以内である、(2)に記載の画像形成方法。
【0014】
(4) 一色又は複数の色の前記インクの総打ち込み量が30g/m以下となるように前記インクの液滴を被記録媒体へ打ち込んで画像を形成する、(2)又は(3)記載の画像形成方法。
【0015】
(5) 前記インクジェット記録装置が、圧電素子への電圧制御によって液室内に生じる圧力を利用して前記インクの液滴を吐出する記録ヘッドを備え、記録方式がラインヘッド型の記録方式である、(2)から(4)何れか記載の画像形成方法。
【0016】
(6) 前記インクジェット記録装置が、印字面に接触する部材の表面が撥水性材料により形成されている、(2)から(5)何れか記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、裏抜けのない良好な画像を形成でき、高速で画像形成する場合であっても、オフセットの発生を抑制でき、且つ安定してインク液滴を吐出できる間欠吐出性を有するインクジェット記録装置用インクを提供できる。また、本発明によれば、裏抜けのない良好な画像を形成でき、オフセットの発生を抑制しつつ高速で画像形成可能であり、インク液滴の間欠吐出性に優れ、良好な画像を形成できるインクジェット記録方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方から見た平面図である。
【図3】図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置に用いられるラインヘッドと記録用紙上に形成されたドット列の一部を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0020】
[第1実施形態]
第1の実施形態は、少なくとも、水と、顔料分散体と、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルとを含み、顔料分散体が分子量30,000〜150,000の樹脂を含み、グリコールモノメチルエーテルの含有量がインクの質量に対して15質量%以上である、インクジェット記録装置用インクに関する。
【0021】
第1の実施形態にかかるインクジェット記録装置用インク(以下、単にインクとも記す)は、水と、特定の分子量の樹脂を含む顔料分散体と特定の種類のグリコールモノメチルエーテルとを必須に含む。また、本発明のインクジェット記録装置用インクは、必要に応じ、被記録媒体へのインクの浸透性を高める浸透剤、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクから液体成分の揮発を抑制してインクの性質を安定化させる保湿剤からなる群より選択される1種以上のグリコールモノメチルエーテルの他の液体成分を含んでいてもよい。以下、インクジェット記録装置用インクが含む、必須、又は任意の成分である、水、顔料分散体、グリコールモノメチルエーテル、及びグリコールモノメチルエーテルの他の液体成分と、インクジェット記録装置用インクの製造方法について順に説明する。
【0022】
〔水〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、水性インクであり、水を必須に含む。インクに含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。本発明のインクジェット記録装置用インクにおける水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の使用量に応じて適宜変更される。インクにおける典型的な水の含有量としては、インクの全質量に対して20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
【0023】
〔顔料分散体〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、着色剤である顔料を含む顔料分散体を含む。顔料分散体中に含有させることができる顔料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクにおいて着色剤として使用されている顔料から適宜選択して使用できる。好適な顔料の具体例は、C.I.ピグメントイエロー93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、193等の黄色顔料、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、71等の橙色顔料、C.I.ピグメントレッド122、202等の赤色顔料、C.I.ピグメントブルー15等の青色顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、23、33等の紫色顔料、C.I.ピグメントブラック7等の黒色顔料等を挙げることができる。
【0024】
本発明のインクジェット記録装置用インクに含まれる顔料分散体は、分子量30,000〜150,000の樹脂を含む。顔料分散体に含まれる樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mn)であり、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定できる。樹脂の分子量が過小である場合、被記録媒体に画像を形成する際に裏抜けが生じやすく、分子量が過大である場合、間欠吐出性に優れたインクを得にくい。
【0025】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体を製造する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来知られる方法から適宜選択できる。好適な方法としては、例えば、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、ダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)等のメディア型湿式分散機を用いて、水等の適当な液体の媒体中において、顔料と樹脂とを混練して顔料分散体とする方法が挙げられる。メディア型湿式分散機による処理では、小粒径のビーズを用いる。ビーズの粒子径は特に限定されず、典型的には粒径0.5〜1.0mmである。また、ビーズの材質は特に限定されず、ジルコニアビーズ等の硬質の材料からなるビーズが使用される。
【0026】
顔料分散体を製造する際の、液体の媒体の使用量は、顔料を樹脂により良好に混練できる限り特に限定されない。典型的には、液体の媒体の使用量は、顔料と樹脂との質量の合計に対して、1〜10倍の質量を用いるのが好ましく、3〜7倍の質量を用いるのがより好ましい。
【0027】
顔料分散体に含まれる顔料の体積平均粒径は、インクの色濃度、色相、インクの安定性等の観点から、50〜200nmが好ましく、70〜150nmがより好ましい。顔料の体積平均粒径は、顔料と樹脂とを混練する際のビーズの粒子径や処理時間を調整することにより調整できる。体積平均粒径が過小である場合、画像濃度が低下する場合があり、体積平均粒径が過大である場合、インクを吐出するノズルの目詰まりが発生したり、インクの吐出性が悪化したりする場合がある。顔料の体積平均粒径は、例えば、顔料分散体をイオン交換水により300倍に希釈した試料を用い、動的光散乱粒度分布測定装置(シスメックス株式会社製)等により測定できる。
【0028】
顔料分散体に含まれる樹脂は、所定の分子量である限り特に限定されず、従来から顔料分散体の製造に用いられている種々の樹脂から適宜選択して使用できる。好適な樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中では、調製が容易で、顔料の分散効果に優れることから、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含むスチレン−アクリル系樹脂が好ましい。上記の樹脂は、ラジカル重合により得られる。上記樹脂の分子量は、重合開始剤の使用量、重合温度、又は重合時間等を調整する公知の方法に従って調整できる。
【0029】
顔料の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、典型的にはインクの全質量に対して1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。顔料の使用量が過小であるとインクの色濃度が低下しやすく、顔料の使用量が過多であると、インクの流動性が損なわれ良好な画像を形成しにくくなる場合がある。
【0030】
〔グリコールモノメチルエーテル〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルを含む。グリコールモノメチルエーテルの量は、インクの全質量に対して15質量%以上であり、15〜25質量%がより好ましい。グリコールモノメチルエーテルの量が過多である場合、インクの浸透により、被記録媒体の裏面に画像が現れる、画像の裏抜けが生じる場合がある。
【0031】
トリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルは、紙等の被記録媒体に対する浸透性に優れ、且つ、インクの保湿性に優れる。このため、本発明のインクジェット記録装置用インクは、紙等の被記録媒体に着弾したインク中の液体成分が被記録媒体中に速やかに浸透するためオフセットが発生しにくく、乾燥によるインクの性状の変化が起こりにくいため良好な間欠吐出性を有する。
【0032】
〔グリコールモノメチルエーテルの他の液体成分〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、グリコールモノメチルエーテルの他の液体成分として、被記録媒体へのインクの浸透性を高める浸透剤、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる保湿剤からなる群より選択される1種以上の成分を含んでいてもよい。
【0033】
浸透剤は、インクの被記録媒体への浸透性を高める液体成分である。浸透剤の具体例としては、1,2−へキシレングリコール、1,2−オクタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等のジオール類や、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。浸透剤は2種以上を組合せて用いることができる。インクが浸透剤を含有する場合、浸透剤の含有量は、浸透剤の種類に応じて適宜調整される。典型的な浸透剤の含有量としては、インクの全質量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0034】
保湿剤は、インクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる成分である。保湿剤の具体例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のアルキレングリコール類;グリセリンである。これらの、保湿剤の中では、水等の液体成分の揮発の抑制効果に優れることからグリセリンがより好ましい。保湿剤は2種以上を組合せて用いることができる。インクが保湿剤を含有する場合、保湿剤の含有量は、インクの全質量に対して5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0035】
溶解安定剤は、インクに含まれる成分を相溶化してインクの溶解状態を安定化させる成分である。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組合せて用いることができる。インクが溶解安定剤を含有する場合、溶解安定剤の含有量は、インクの全質量に対して1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
【0036】
これらのグリコールモノメチルエーテルの他の液体成分を含むインクの中では、インクの全質量に対して、浸透剤として1,2−へキシレングリコール、及び/又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルを1〜20質量%、溶解安定剤として2−ピロリドンを1〜20質量%、及び、保湿剤としてグリセリンを2〜30質量%の範囲内で含有するインクが好ましい。かかる場合、オフセットの発生を抑制しやすく、間欠吐出性に優れるインクを得やすい。
【0037】
〔インクジェット記録装置用インクの製造方法〕
本発明のインクジェット記録装置用インクの製造方法は、水、顔料分散体、及びグリコールモノメチルエーテルに対して、必要に応じグリコールモノメチルエーテルの他の液体成分を加えた後、これらのインク成分を均一に混合することができれば特に限定されない。インクジェット記録装置用インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を混合機により均一に混合した後、孔径10μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、インクジェット記録装置用インクを製造する際には、水、顔料分散体、及びグリコールモノメチルエーテルに対して、必要に応じて、浸透剤、溶解安定剤、保湿剤等のグリコールモノメチルエーテルの他の液体成分や、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の、従来、インクジェット記録装置用インクに加えられている種々の添加剤を加えることができる。
【0038】
以上説明した第1実施形態にかかるインクジェット記録装置用インクは、裏抜けのない良好な画像を形成でき、高速で画像形成する場合であっても、オフセットの発生を抑制でき、且つ安定してインク液滴を吐出できる間欠吐出性を有するため、種々のインクジェット記録装置において好適に使用できる。
【0039】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態にかかるインクジェット記録装置用インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成する、画像形成方法に関する。第2実施形態かかる画像形成方法において用いるインクジェット記録装置の記録方式は、特に限定されず、記録ヘッドが記録媒体上を走査しながら記録を行うシリアル型であっても、装置本体に固定された記録ヘッドにより記録を行うラインヘッド型であってもよい。第2実施形態にかかる画像形成方法において用いるインクジェット記録装置の記録方式は、画像形成の高速性の点から、ラインヘッド型が好ましい。
【0040】
以下、図面を参照して、第2実施形態にかかる画像形成方法について、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用い、被記録媒体として記録用紙を用いる場合に関して説明する。図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた平面図である。
【0041】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には記録用紙Pを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された記録用紙Pを、最上位の記録用紙Pから順に一枚ずつ後述する搬送ベルト5へと搬送給紙するための給紙ローラー3及び給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4が設けられている。
【0042】
給紙ローラー3及び従動ローラー4の用紙搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、用紙搬送方向下流側に配置されたベルト駆動ローラー6と、上流側に配置され搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動回転するベルトローラー7とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0043】
ここで、用紙搬送方向Xの下流側にベルト駆動ローラー6を配置したことにより、搬送ベルト5の用紙送り側(図1において上側)はベルト駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、ベルトテンションを張ることができ、安定した記録用紙Pの搬送が可能となる。なお、搬送ベルト5には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0044】
また、搬送ベルト5の用紙搬送方向下流側には、図中時計回りに駆動され画像が記録された記録用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー8a、及び排出ローラー8aの上部に圧接され従動回転する従動ローラー8bが設けられており、排出ローラー8a及び従動ローラー8bの下流側には、装置本体外へと排出された記録用紙Pが積載される排紙トレイ10が設けられている。
【0045】
従動ローラー8bは印字面に直接触れるため、従動ローラー8bの表面を形成する素材は撥水性材料であるのが好ましい。従動ローラー8bの表面を撥水性材料により形成することにより、記録用紙Pに浸透していないインクのローラーへの付着を抑制でき、オフセットの発生を抑制しやすい。好適な撥水材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂が挙げられる。従動ローラー8bと同様に、印字面に接触する部材の表面は撥水性材料により形成するのが好ましい。
【0046】
そして、搬送ベルト5の上方には、搬送ベルト5の上面に対して所定の間隔が形成されるような高さに支持され、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pへと画像の記録を行うラインヘッド11C、11M、11Y及び11Kが配設されている。これらのラインヘッド11C〜11Kには、それぞれ異なる4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)の着色インクが充填されており、各ラインヘッド11C〜11Kからそれぞれの着色インクを吐出することにより、記録用紙P上にカラー画像が形成される。
【0047】
記録用紙Pに各ラインヘッド11C〜11Kから吐出されたインクの液滴が着弾してから、記録用紙Pにおけるインクの着弾箇所が、排出ローラー8a、及び従動ローラー8bからなる記録用紙Pを排出する排出部8に到達するまでの時間は装置を小型化するためには1秒以内であるのが好ましい。かかる時間を1秒以内とした場合であっても、第1実施形態のインクを用いることによって、高速での画像形成時のオフセットの発生の抑制の効果が充分に得られる。
【0048】
また、記録用紙Pに各ラインヘッド11C〜11Kから吐出され、記録用紙Pに打ち込まれる一色又は複数の色のインクの総量は40g/m以下が好ましく、30g/m以下がより好ましい。インクの吐出量をかかる量とすることにより、オフセットの発生を抑制しつつ高速で画像形成しやすい。記録用紙Pに4色以上のインクが打ち込まれる場合においても、記録用紙Pに打ち込まれる複数の色のインクの総量は40g/m以下が好ましく、30g/m以下がより好ましい。
【0049】
これらのラインヘッド11C〜11Kは、図2に示すように、搬送方向と直交する方向(図2の上下方向)に複数のノズルが配列されたノズル列を備え、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっている。
【0050】
なお、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置においては、搬送ベルト5の幅寸法以上に形成された長尺のヘッド本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成されたラインヘッドを用いているが、例えば各々複数個のノズルを備えた短尺のヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向全幅にわたって画像を記録できるようにしたラインヘッドを用いても構わない。
【0051】
また、ラインヘッド11C〜11Kのインクの吐出方式としては、例えば、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を用いてラインヘッド11C〜11Kの液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する圧電素子方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式等、各種方式を適用することができる。インクの吐出方式は、吐出量の制御が容易であることから圧電素子方式が好ましい。
【0052】
図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100には制御部20が備えられており、制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、ラインヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27等が接続されている。
【0053】
インターフェイス21は、例えば、図示しないパソコン等のホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信された画像信号を、必要に応じて変倍処理或いは階調処理して画像データに変換する。そして、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。
【0054】
ROM22は、ラインヘッド11C〜11Kを駆動させて画像記録を行う際の制御プログラム等を記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理或いは階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0055】
エンコーダー24は、搬送ベルト5を駆動する排紙側のベルト駆動ローラー6に接続されており、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、用紙の送り量(用紙位置)を把握する。そして制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及びラインヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0056】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28は駆動してベルト駆動ローラー6を回転させ、搬送ベルト5を図1の時計回りに回動させて用紙を矢印X方向へと搬送する。
【0057】
ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データをラインヘッド11C〜11Kへ転送し、転送された画像データに基づいてラインヘッド11C〜11Kからのインクの吐出を制御する。かかる制御と、記録媒体搬送用モーター28によって駆動する搬送ベルト5による用紙の搬送の制御とにより、用紙への記録処理が行われる。
【0058】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルトローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させ、搬送ベルト5に用紙を静電吸着させる。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいてベルトローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、ここでは給紙側のベルトローラー7に電圧を印加する構成としたが、排紙側のベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成としてもよい。
【0059】
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いてドットを形成する方法を、図4を用いて具体的に説明する。なお、図4では図1及び図2に示したラインヘッド11C〜11Kのうち、ラインヘッド11Cを例に挙げて説明するが、他のラインヘッド11M〜11Kについても全く同様に説明される。
【0060】
図4に示すように、ラインヘッド11Cには複数個のノズルから成るノズル列N1、N2が搬送方向(矢印X方向)に並設されている。つまり、搬送方向の各ドット列を形成するノズルとして、ノズル列N1、N2に各1個ずつ(例えばドット列L1ではノズル12a及び12a’)、合計2個のノズルを備えている。なお、ここでは説明の便宜のため、ノズル列N1、N2を構成するノズルのうち、ドット列L1〜L16に対応する12a〜12p及び12a’〜12p’までの各16個のノズルのみを記載しているが、実際にはさらに多数のノズルが搬送方向と直交する方向に配列されているものとする。
【0061】
そして、このノズル列N1、N2を順次用いて被記録媒体上に画像を形成する。例えば、被記録媒体を搬送方向に移動させながら、被記録媒体の幅方向(図の左右方向)1行分のドット列D1をノズル列N1からのインク吐出(図の実線矢印)により形成した後、次の1行分のドット列D2をノズル列N2からのインク吐出(図の破線矢印)により形成し、さらに次の1行分のドット列D3を再びノズル列N1からのインク吐出により形成する。以下、ドット列D4以降もノズル列N1、N2を交互に用いて同様に形成する。
【0062】
以上説明した第2実施形態にかかる画像形成方法では、第1実施形態にかかるインクを使用しているため、裏抜けのない良好な画像を形成でき、オフセットの発生を抑制しつつ高速で画像形成可能であり、インク液滴の間欠吐出性に優れ、良好な画像を形成できる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
〔スチレン−アクリル樹脂の製造〕
顔料分散体の調製に用いるスチレン−アクリル樹脂をマクロモノマー合成法によりに製造した。具体的には、ポリスチレンの分子末端の一方に(メタ)アクリロイル基が結合したオリゴマー(AS−6、東亜合成株式会社製、数平均分子量(Mn)6,000)と、共重合モノマーとを、メチルエチルケトン中で重合開始剤の存在下に重合条件を変更して分子量の異なる樹脂1〜樹脂6を製造した。得られた樹脂の重量平均分子量(Mw)を、ゲルろ過クロマトグラフィーにより確認した。樹脂1〜樹脂6の重量平均分子量を表1に示す。また、得られた樹脂の酸価を滴定により確認したところ、樹脂1〜樹脂6の酸価は何れも30〜60mgKOHであった。
【0065】
【表1】

【0066】
〔顔料分散体の調製〕
樹脂1を用いて顔料分散体Aを調製し、同様に、樹脂2〜6を用いて、それぞれ顔料分散体B〜Fを調製した。具体的には、水75質量%、顔料20質量%、スチレン−アクリル樹脂5質量%となるように、水、顔料、及びスチレン−アクリル樹脂をナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)に仕込み、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてナノグレンミルに充填して、水冷しながら顔料を分散させて顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜150nmの範囲となっていることを確認した。
【0067】
〔実施例1〜12、及び比較例1〜12〕
顔料分散体A〜Fを用い、表2に記載のa〜dの比率で各成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、表3に記載の実施例1〜12、及び比較例1〜12のインクを調製した。なお、表2に記載の量は、インク全質量に対する各成分の質量%である。
【0068】
なお、a〜dのインクの組成は、グリセリンとグリコールモノメチルエーテルの総量が一定となる様に設定されているが、グリコールモノメチルエーテルはグリセリンよりもやや保湿性に優れるため、グリコールモノメチルエーテルの使用量の増加に伴いインクの保湿性は向上する。また、グリセリンはインクの記録媒体への浸透性には殆ど影響しない。このため、a〜dの組成のインクによれば、グリコールモノメチルエーテルの量の増加に伴う、インクの保湿性と浸透性との向上によるインクの性能への影響を確認できる。なお、a〜dの組成のインクでは、グリコールモノメチルエーテルとして、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとトリプロピレングリコールモノメチルエーテルとの混合物を使用しているが、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、又はトリプロピレングリコールの一方のみを用いても同等の性能のインクを得ることができる。
【0069】
【表2】

*1:オルフィンE1010(アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)
*2:トリエチレングリコールモノメチルエーテルの含有量と、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル含有量との合計量。
【0070】
【表3】

【0071】
〔間欠吐出性評価〕
実施例、及び比較例で得られたインクを用いて下記方法に従い、間欠吐出性について評価した。間欠吐出性の評価結果を表4に示す。
【0072】
<間欠吐出性評価方法>
内部に保温可能なヒーター及び温度検知部を有し、圧電素子への電圧制御によりインクを吐出する記録ヘッドを備える、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いて、保温設定温度25℃、10℃15%RHの環境下にて間欠吐出性の評価を行った。間欠吐出性の評価は、ヘッド長手方向のライン画像を光沢紙に印字させた後に、任意の非印字区間を経た後、再度、横ライン光沢紙に印字させ、印字されたライン画像の状態を顕微鏡観察して、◎、○、及び×の三段階で評価した。評価の判断基準は以下の通りである。
◎:A3サイズの用紙の縦相当の非印字区間を超えても、ライン画像に乱れが生じない。
○:A3サイズの用紙の縦相当の非印字区間まで、ライン画像に乱れが生じない。
×:A3サイズの用紙の縦相当の非印字区間までに、ライン画像に乱れが生じる。
【0073】
【表4】

【0074】
表4から、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%未満の比較例1、及び5〜9では、インクの保湿性が十分ではなく、間欠吐出の際に粘度等のインク性状の変化に起因して、液滴を一定の速度、及び方向で吐出しにくく、ライン画像に乱れが生じやすいことが分かる。また、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が150,000を超える比較例9〜12では、乾燥によるインクの粘度上昇に伴いノズルからのインクの吐出不良が起こりやすく、ライン画像に乱れが生じやすい。
【0075】
一方、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%以上であり、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が150,000以下である実施例1〜12、及び比較例2〜4では、間欠吐出の際にインク性状が変化しにくく、ノズルからのインクの吐出不良が起こりにくいため、ライン画像に乱れが生じにくい。
【0076】
〔オフセット性評価〕
実施例、及び比較例で得られたインクを用いて下記方法に従い、オフセット性について評価した。オフセット性の評価結果を表5、及び表6に示す。
【0077】
<オフセット性評価>
内部に保温可能なヒーター及び温度検知部を有し、圧電素子への電圧制御によりインクを吐出する記録ヘッドを備える、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いて、保温設定温度25℃、32.5℃85%RHの環境下にてオフセット性の評価を行った。一色当たりの被記録媒体へのインクの打ち込み量が15g/mとなるように吐出量を設定して、シアン色インク、マゼンタ色インクの記録ヘッドからインクを吐出し、インクの総打ち込み量が30g/mとなるようにベタ画像を連続で3枚の被記録媒体に画像形成して、被記録媒体を排出する排出部に備えられる、表面材質がポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)である従動ローラーと接触した後の被記録媒体の印字物の状態を観察してオフセット性を評価した。オフセット性の評価の基準は以下の通りである。
◎:画像後端側の白色部(非画像部)において3枚とも汚れがない。
○:画像後端側の白色部(非画像部)において最初の2枚に汚れがなく、3枚目に汚れがある。
△:画像後端側の白色部(非画像部)において最初の1枚に汚れがなく、2枚目と3枚目とに汚れがある。
×:画像後端側の白色部(非画像部)において3枚とも汚れがある。
なお、インクジェット記録装置の被記録媒体の搬送速度は846.7mm/秒とした。また、インクの被記録媒体への着弾から従動ローラーへの到達までの時間は0.5秒であった。被記録媒体としては、用紙(IJW、王子製紙株式会社製)をA4サイズに切断したものを用いた。被記録媒体上に形成した画像のサイズは10×10cmとした。
【0078】
また、一色当たりの被記録媒体へのインクの打ち込み量が20g/mとなるように吐出量を設定して、シアン色インク、マゼンタ色インクの記録ヘッドからインクを吐出されるインクの総打ち込み量を40g/mとなるようにベタ画像を連続で3枚印字することの他は、インクの総打ち込み量が30g/mである場合の試験と同様にオフセット性を評価した。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
表5、及び表6から、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が30,000未満である比較例1〜4では、従動ローラーにインクが付着しやすいためオフセットが発生しやすいことが分かる。また、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%未満である、比較例1、及び5〜8では、インクが被記録媒体に浸透しにくいため、従動ローラーにインクが付着しやすく、オフセットが発生しやすいことが分かる。なお、比較例9は、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%未満であっても、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が200,000と大きいため、オフセットが発生しにくいことが分かる。
【0082】
一方、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%以上であり、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が30,000以上である、実施例1〜12、及び比較例10〜12のインクではオフセットの発生が抑制されることが分かる。
【0083】
〔従動ローラーの材質の影響の確認試験〕
従動ローラーの材質をPTFEから、ポリオキシメチレン樹脂(POM)に変えることの他は、被記録媒体へのインクの総打ち込み量が30g/mでのオフセット性評価と同様に、オフセット性を評価した。オフセット性の評価結果を表7に示す。
【0084】
【表7】

【0085】
表5と表7との比較により、従動ローラーの材質を非撥水性材料のPOMではなく、撥水性材料のPTFEとすることにより、オフセットの発生が抑制されることが分かる。また、表7から、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が30,000未満であるか、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%未満である、比較例1〜9のインクではオフセットの発生が著しいことが分かる。一方、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が30,000以上であり、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%以上である、実施例1〜12、及び比較例10〜12のインクでは、オフセットが発生しやすいPOM製の従動ローラーを備えるインクジェット記録装置を用いても、オフセットの発生が抑制されることが分かる。
【0086】
〔浸透性評価〕
実施例、及び比較例で得られたインクを用いて下記方法に従い、印字した際の印字裏面の浸透性(裏抜けの発生しやすさ)について評価した。浸透性の評価結果を表8、及び表9に示す。
【0087】
<浸透性評価方法>
内部に保温可能なヒーター及び温度検知部を有し、圧電素子への電圧制御によりインクを吐出する記録ヘッドを備える、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いて、保温設定温度25℃、25℃60%RHの環境下にて浸透性の評価を行った。浸透性の評価は、シアン色インクの記録ヘッドから、吐出量15g/m、及び20g/mにてインクを吐出して1色での最高濃度のベタ画像を被記録媒体に画像形成した後、得られたベタ画像を一昼夜放置した後の画像裏面の画像濃度をポータブル反射濃度計RD−19(グレタグマクベス社製)により測定して行った。ベタ画像を形成する際の被記録媒体の給紙から排出部までの搬送速度は、846.7mm/秒とした。被記録媒体としては、A4サイズの用紙(リボンフレンドリー、日本製紙株式会社製)を用いた。被記録媒体上に形成した画像のサイズは10×10cmとした。浸透性は、印字裏面の画像濃度から以下の判断基準に従い◎、○、及び×の三段階で評価した。
◎:画像裏面の画像濃度が0.16未満である。
○:画像裏面の画像濃度が0.16以上0.18未満である。
×:画像裏面の画像濃度が0.18以上である。
吐出量15g/mでの評価結果を表8に示し、吐出量20g/mでの評価結果を表9に示す。
【0088】
【表8】

【0089】
【表9】

【0090】
グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%未満の比較例1、及び5〜9では、インクが用紙に浸透しにくく、裏抜けの問題は生じにくいことが分かる。比較例2〜4より、グリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%以上であっても、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量が30,000未満である場合、インクの吐出量が多い場合に裏抜けが生じやすいことが分かる。
【0091】
一方、実施例1〜12、及び比較例10〜12から、グリコールモノメチルエーテルの含有龍が15質量%以上であり、顔料分散体の調製に用いた樹脂の平均分子量30,000以上である場合、裏抜けは生じにくいことが分かる。
【0092】
以上の、評価結果より、顔料が分子量30,000〜150,000の樹脂によって処理されており、且つ、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルの含有量が15質量%以上である、請求項1〜12のインクを用いる場合においてのみ、裏抜けのない良好な画像を形成でき、高速で画像形成する場合であっても、オフセットの発生を抑制できるとともに、安定してインク液滴を吐出できる間欠吐出性を実現できることが分かる。
【符号の説明】
【0093】
2 給紙トレイ
3 給紙ローラー
4 従動ローラー
5 搬送ベルト
6 ベルト駆動ローラー
7 ベルトローラー
8 排出部
8a 排出ローラー
8b 従動ローラー
10 排紙トレイ
11C、11M、11Y、11K ラインヘッド
12a〜12p、12a’〜12p’ ノズル
20 制御部
30 検出手段
100 インクジェット記録装置
D1〜D4 ドット列(行方向)
L1〜L16 ドット列(搬送方向)
N1、N2 ノズル列
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水と、顔料分散体と、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択されるグリコールモノメチルエーテルとを含み、前記顔料分散体は、分子量30,000〜150,000の樹脂を含み、前記グリコールモノメチルエーテルの含有量がインクの質量に対して15質量%以上である、インクジェット記録装置用インク。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット記録装置用インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成する、画像形成方法。
【請求項3】
前記インクジェット記録装置における、被記録媒体に前記インクの液滴が着弾してから、前記被記録媒体の前記インクの着弾箇所が被記録媒体を排出する排出部に到達するまでの時間が1秒以内である、請求項2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
一色又は複数の色の前記インクの総打ち込み量が30g/m以下となるように前記インクの液滴を被記録媒体へ打ち込んで画像を形成する、請求項2又は3記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記インクジェット記録装置が、圧電素子への電圧制御によって液室内に生じる圧力を利用して前記インクの液滴を吐出する記録ヘッドを備え、記録方式がラインヘッド型の記録方式である、請求項2から4何れか記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記インクジェット記録装置が、印字面に接触する部材の表面が撥水性材料により形成されている、請求項2〜5何れか記載の画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−158624(P2012−158624A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17297(P2011−17297)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】