説明

インクジェット記録装置

【課題】効率的な記録ヘッドクリーニングが行えるように構成したインクジェット記録装置の提供。
【解決手段】チューブポンプ209を駆動してサブタンク203から記録ヘッド1に強制的にインクを供給する際、チューブポンプ209の駆動による脈動を利用し、この脈動時の最高圧力を、ヘッド吐出面のメニスカスを保持するための最高圧力以下に保持・制御しながら、ヘッド内に脈動による圧力変化を生じさせ、吐出面のメニスカスを振動させるインクジェット記録ヘッドクリーニングモードを有するインクジェット記録装置の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録手段から被記録部材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関し、詳しくは、記録手段の吐出口面に付着したインクやほこり等の異物を除去するために吐出口面クリーニング手段を備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピュータやワードプロセッサ等を含む複合型電子機器やワークステーションなどの出力機器として用いられる記録装置(プリント装置)は、記録情報に基づいて紙、布、プラスチックシート、OHP用シート等の被記録部材に画像(文字や記号等を含む)を記録(プリント、印刷)していくように構成されている。
【0003】
被記録部材としての記録シート(記録紙等)の搬送方向(副走査方向)と交差する方向に主走査するシリアルタイプの記録装置においては、記録シートに沿って移動するキャリッジ上に搭載した記録手段(記録ヘッド)によって記録(主走査)し、1ライン分の記録を終了した後に所定量の紙送り(ピッチ搬送)を行い、その後に再び停止した記録紙に対して次のラインの記録を行うという動作を繰り返すことにより、被記録部材全体の記録が行われる。
【0004】
一方、被記録部材としての記録シートの幅方向の所定長さを有する長尺の記録ヘッドを使用し、記録シートの搬送方向の副走査のみで記録する所謂ラインタイプ(フルラインタイプを含む)の記録装置においては、記録シートを所定位置にセットし、一括して1ライン分(1行分)の記録を行った後、所定ピッチの紙送りを行い、次のラインを一括して記録する動作を繰り返すことにより、被記録部材全体の記録が行われる。
【0005】
上記記録装置においては、記録手段としての記録ヘッドからインクを吐出して被記録部材としての記録シートに記録していくインクジェット記録装置が使用されている。このインクジェット記録装置において用いられるインクジェット記録ヘッドは、一般に、微細な吐出口(オリフィス、ノズル口)、各吐出口に通じる液路、各液路の一部に配置された吐出エネルギー発生手段を備えている。
【0006】
このエネルギー発生手段としては、ピエゾ素子等の電気機械変換体を用いるもの、レーザ等の電磁波をインクに照射吸収させることで当該インクを発熱させるもの、発熱抵抗体等の発熱素子から成る電気熱変換体によりインクを加熱するもの、などが知られている。
【0007】
その中でも、電気熱変換体を用いる記録ヘッドは、全体的なコンパクト化が容易であり、最近の半導体分野における技術の進歩と信頼性の向上が著しいIC技術やマイクロ加工技術の長所を十二分に活用でき、長尺化及び面状化(2次元化)が容易であるなどの理由から記録幅にわたって列状に多数の吐出口を形成したフルラインタイプ(又はフルマルチタイプ)化による高密度実装化が容易であるという利点を有している。フルラインヘッドでのキャッピング、空吐出などの従来技術としては、例えば下記特許文献1が開示されている。
【特許文献1】特開2000―127362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インクジェット記録装置においては、記録手段の吐出口から被記録部材へインク滴を飛翔させて記録を行うことから、記録動作に際しては、インク滴飛翔に伴うインクミストや被記録部材から跳ね返るインクミストなどが吐出口面(吐出口が配置された面)に付着し固着することがある。そして、吐出口面にインク吐出時に発生したインク滴や水滴等(そのミスト等)、さらにはゴミ等が付着・固着した場合、それらがインク吐出を阻害したり、吐出方向を偏向させたりして画像記録に悪影響が及ぼすことがあり、したがって、このような事態を防ぐために、吐出口面に付着したインクや水やほこり等の異物を除去するクリーニング動作が必要になる。
【0009】
また、通常このヘッドクリーニング動作時においては、インク供給手段によるインクの強制吐出、あるいは空吐出(後述)によって記録ヘッド吐出面の湿潤化を行い、付着物(ゴミ、紙粉、異物等)の除去を行う。また、インク供給系に残留する気泡の除去を目的としてインク加圧動作・循環動作(加圧循環回復動作)あるいは吸引動作(吸引回復動作)が実施されることが一般的である。このような場合には、インクタンクから記録ヘッドへのインク経路内に設けられたポンプを駆動することにより、タンク内のインクがヘッド液室内に送り込まれる。または、インク吐出口よりインクを吸引する。これらのインク加圧・循環動作あるいは吸引動作時には、記録ヘッドの全吐出口から所定量のインクが排出されることとなる。
【0010】
また、記録ヘッド内へインクを充填する時には、同様にポンプを駆動することによって、タンクからのインクを圧送し、液路内の気泡をインクと共に吐出口から排出させながら液路内にインクを充填する。
【0011】
また、インクジェット記録ヘッドでは、通常の場合、非記録時には記録ヘッド内(液路内等)にインクを残したまま放置される。そこで、各記録ヘッドの吐出口面に当接して吐出口を密閉するゴム状弾性体のキャップ部を設け、非記録時にはキャップと吐出口面とを接合(密着)させることにより吐出口を密閉するとともに、キャップ内空間にインク蒸気を充満させて飽和蒸気圧にすることによって、吐出口内のインク蒸発やインクの増粘を防止するように構成されている。
【0012】
しかしながら、低温環境下や長期間記録休止のような場合には、上記のようなキャッピングを行ってもインク粘度が増加する場合があり、記録休止期間後の記録の際にインクの吐出不良や不安定吐出が発生することがある。この問題に対しては、前述のようにポンプを駆動してインクを加圧循環することで全吐出口からインクを排出させるインク加圧動作(加圧循環回復動作)を行うことがある。
【0013】
あるいは、吐出不良の状態が比較的軽微な場合には、記録ヘッドの吐出エネルギー発生手段を駆動して全吐出口から記録時と同様のインク吐出を行う所謂「空吐出動作」を行うことがある。この空吐出動作も回復動作の一つである。
【0014】
特に、上述したフルラインタイプのインクジェットヘッドを用いた場合、吐出回復等のためのインク加圧・循環やインク供給の点において、通常のシリアルタイプのヘッドを用いた場合とくらべ、吐出口数が飛躍的に多いため、その性質上、上記クリーニング動作時に使用するインクの量が大量であるということが挙げられる。
【0015】
このことは、ヘッドクリーニング時において使用するインクすなわち、クリーニング時に消費あるいは排出するインクの量が増えることでのランニングコストの増加を招いていた。またインクの消費を抑えるためにクリーニング動作を最低限に抑えなければならないということは、クリーニング動作を減らすための構成が必要となり、結果として装置の複雑化、大型化、コストアップ等を招くこととなっていた。
【0016】
また、このようなインク供給系において、その駆動源としてチューブポンプを用いた場合、その駆動制御の点から派生する問題も種々あった。
【0017】
本発明は、上述したようなインクジェット記録ヘッドを用いた記録装置における、インク供給系において派生する種々の問題を解消することによって、インクジェット記録ヘッド手段のクリーニング動作、すなわち吐出口面に付着した異物や、固着したインク等を確実に払拭することができ、特にフルラインタイプの記録手段のように広い吐出口面を払拭する場合でも、インク加圧手段を効率的に制御することにより、効率的な記録ヘッドクリーニングが行えるように構成したインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するため、インクジェット記録装置を、つぎの(1)に示すとおりのものとした。
【0019】
(1)記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置において、インクを吐出して記録を行うためのインクジェット記録ヘッドと、前記インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインクを貯留したインクタンクと、前記インクタンクからのインクを前記インクジェット記録ヘッドに供給するためのインク供給手段とを有したインクジェット記録装置において、前記インクタンクからのインクを記録ヘッド内に供給するためのインク供給手段の加圧力を変動させるための加圧力変動手段と、前記インクジェット記録ヘッド内のインク経路内に設けられた圧力測定手段と、前記加圧力を制御する制御手段とを有し、前記記録ヘッドのインク吐出口において、インクの表面張力により保持されるメニスカスを、発生されるインク加圧力によってインク吐出口からインクを流出させないメニスカス保持最高圧力をPm、インク吐出口から空気を吸入しないメニスカス保持最低圧力をP0、前記加圧手段により発生させる変動圧力の経路内最低圧力をP1、前記加圧手段により発生させる経路内最高圧力をP2とした時、前記加圧力変動手段は、P0≦P1<P2≦Pmなる関係となるように、前記P1およびP2を制御することで、前記メニスカスの振動を発生させるインクジェット記録ヘッドクリーニングモードを有するインクジェット記録装置。
【0020】
すなわち、チューブポンプを駆動してサブタンクからインクジェットヘッドに強制的にインクを供給する際、チューブポンプの駆動による脈動を利用し、この脈動時の最高圧力を、ヘッド吐出面のメニスカスを保持するための最高圧力以下に保持・制御するものである。これによって、ポンプ加圧駆動によっても、記録ヘッド吐出口からのインクの流出がほとんど発生しない状態を保持しながら、ヘッド内に脈動による圧力変化を生じさせることによって、結果として吐出面のメニスカスを振動させ、吐出面に附着した異物やゴミを剥離させ、また固着したインクを湿潤化させることが可能となる様に構成したものである。
【0021】
この状態を経た後に、ヘッドクリーニング動作(ヘッド吐出面の払拭動作等)に入ることにより、排出インクを抑制しつつそのヘッドクリーニング動作すなわち吐出回復処理を良好に行うことができる、すなわち、「メニスカス振動モード」を有するヘッド回復モードを有するようにしたことを特徴とする。
【0022】
これらの構成・ヘッド回復モードにより、インク吐出面に付着したインク等の異物を効率的に除去するクリーニング装置を備えることにより、インクの消費量が格段に減少すると同時に、一層効果的に上記目的を達成することができる。
【0023】
[作用]
以上の構成によれば、タンクからインクジェット記録ヘッドにチューブポンプを用いて強制的にインクを送る場合、チューブポンプによる圧力の脈動がインクジェットヘッドにおける圧力変動として作用し、これによってヘッド吐出面のメニスカス振動が生じ、インク吐出面のインクがヘッド外へ流出することを最小限に抑えることが出来ると同時に、インクヘッドフェース面の湿潤化、異物の除去が可能となり、続いて行われる記録ヘッドクリーニング動作が効率的にできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、チューブポンプを駆動してサブタンクからインクジェットヘッドに強制的にインクを供給する際、チューブポンプの駆動による脈動を利用し、この脈動時の最高圧力を、ヘッド吐出面のメニスカスを保持するための最高圧力以下に保持・制御しながら、ヘッド内に脈動による圧力変化を生じさせることによって、結果として吐出面のメニスカスを振動させることにより、吐出面に附着した異物やゴミを剥離させ、また固着したインクを湿潤化させることが可能となり、この状態を経てからヘッドクリーニング動作に入ることにより、排出インクを抑制しつつそのヘッドクリーニング動作すなわち吐出回復処理を良好に行うことができる。
【0025】
この結果、良好なインク供給を行い得るインク供給系を具えたインクジェット記録装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示すものである。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置の一実施例を示す模式的縦断面図である。図1において、1は記録手段としての記録ヘッド、3は記録ヘッド1の吐出口面を覆うためのキャップ、7は被記録部材としての記録紙等の記録シートを収容した記録シートカセット、8は記録シートカセット内の記録シートを1枚ずつ送り出すためのピックアップローラ(給紙ローラ)、9、10は送り出された記録シートを搬送(紙送り)するための一対のローラから成る搬送ローラ対、11、12は記録部へ搬送される記録シートの位置合わせを行うためのレジストローラ対、14及び15はそれぞれ搬送される記録シートを案内するための搬送用ガイド、16は排紙された記録シートを保持するための排紙トレイ、17は排紙フラップ、18は排紙ローラ、19は記録ヘッドの位置を検知するためのセンサ、20は記録ヘッド1を上下方向に移動させるためのラックギアである。
【0028】
図1において、給紙部101(その記録シートカセット7)に収納された被記録部材としての記録シート(記録紙)Pは、必要時に、ピックアップローラ8によってベルト搬送部102に向かって送り出される。送り出された記録シートがベルト搬送部102を通過する際に、記録ヘッド部103によって該記録シートPに画像(文字や記号も含む)を記録される。記録された記録シートPは排紙部105を経て排紙トレイ16へ排出される。前記記録ヘッド部103を構成する各記録ヘッド1は、本実施例では、被記録部材Pの幅方向の画像形成を略同時に行うことができるフルラインタイプの記録手段で構成されている。
【0029】
104は、記録ヘッド部103の各記録ヘッド1の吐出口面2(図2)に当接されて吐出口を覆うためのキャップ部(回復キャップ部)である。図示の例では、キャップ部104には、異なるインクを使用する複数(4個)の記録ヘッド1C、1M、1Y及び1BKのそれぞれに対応して複数(4個)のキャップ3C、3M、3Y、3BKが配設されている。
【0030】
なお、本発明では、同種の複数の部材であって使用するインクの種類(インク色等)が異なる部材については、上記の1C、1M、1Y、1BKのように数字に符号を加えて表示するが、これら同種の複数の部材の全体もしくは任意の1つを指す場合は、符号を省略して単に数字のみで表示することにする。
【0031】
前記キャップ部104は、ゴム状弾性体から成るキャップ3で吐出口1111を密閉することにより吐出口内のインク蒸発(インク増粘)を防止し、記録ヘッド1を常に記録可能な状態に維持する保護機能を持つものである。図1は記録動作時の状態を示し、各記録ヘッド1のインク吐出性能を維持回復するための回復装置の一部を構成する各キャップ3(キャップ部104)は各記録ヘッド1(記録ヘッド部103)から離隔退避されている。
【0032】
記録手段としての前記記録ヘッド1は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録手段であって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。また、前記記録ヘッド1は、前記電気熱変換体によって印加される熱エネルギーにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化(状態変化)を利用して吐出口よりインクを吐出させ、記録を行うものである。
【0033】
また、本発明の構成とは直接関係はないが、本発明を適用することができるインクジェット記録装置として、最近では、上記の電気熱変換体を用いるインクジェット記録手段の一種であって、生成される気泡を、インク滴が吐出口を離れる前に該吐出口近傍で外気に連通させる方式のものが、例えば、特開平4−10940号公報、特開平4−10941号公報、特開平4−10742号公報等において知られている。
【0034】
図2は本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置のインク供給系及び加圧循環回復系の概略構成を示す説明図であり、図7は本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置の記録手段の内部構造を一部破断して示す部分斜視図である。これらの構成は、被記録部材の幅方向の画像形成を略同時に行うことができるフルラインタイプの記録ヘッドに関するものであり、まず、これらの図を参照して、長尺のフルラインタイプのインクジェット記録ヘッド1に対するインク供給動作及びインク加圧動作(加圧循環動作)について説明する。図7において、1はフルラインタイプのインクジェット記録ヘッド、1111は記録ヘッド1の吐出口面2に所定配列を成して形成された複数の吐出口、1108は記録ヘッド内に形成されて各吐出口1111に通じる共通液室である。吐出口面2には、対象とされる被記録部材の記録可能幅に相当する範囲にわたって配置された多数の吐出口1111から成る吐出口列が形成されている。このようなラインタイプの記録手段によれば、個々の吐出口1111に通じる液路に配置された電気熱変換体1103を画像情報に基づいて選択的に駆動してインクを吐出させ、記録ヘッドによる主走査なしに記録することができる。
【0035】
図2(a)、(b)は、上述したインクジェット記録装置に設けられるインク供給系を示す模式図である。
【0036】
本実施例のインク供給系は、各色のインクカートリッジ201とインクジェット記録ヘッド1との間にサブタンク203、バッファタンク205および207を有し、この系におけるインク供給は、基本的にチューブポンプ209および211によって生じる圧力差と各要素間の水頭差とによって行われる。なお、図2に示すサブタンク203、バッファタンク205,207、チューブポンプ209,211等は、インクジェットヘッド1、インクカートリッジ201、と同様、各インク毎に設けられることは勿論である。すなわち、図2に示すインク供給系は各色のインク毎に設けられる。
【0037】
以下、本実施例のインク供給系における主要なインク供給モードについて説明する。
【0038】
図2(a)において、まず、インクカートリッジ201からサブタンク203へインクを補給し、サブタンク203の液位を基準液位S.Lに維持するインク補給モードについて説明する。このモードでは、ソレノイド227を駆動してサブタンク203の大気連通口203Aを栓225によって閉じ、また、チューブポンプ211のローラによってチューブを潰して閉とする。この状態でチューブポンプ209を反時計回り方向(C.C.W)に回転し、図中ポンプ左側から右側へのインクの流れが発生し、これによってバッファタンク205内を負圧とする。このとき、チェック弁219により、ヘッド側から供給路237を介したインクの流入はなく、チェック弁217が順方向である供給路231を介してインクタンクカートリッジ201のみからバッファタンク205にインクが流入する。このインク流入により、インク液位がバッファタンク205内の管205Aに達すると、供給路233を介してサブタンク203内に流れ込む。このインク流入により、サブタンク内のインク液位が基準液位S.Lとなると、それ以上のインク流入があっても、インクは供給路235を介してカートリッジ201内に流れ込み基準液位S.Lが維持されることになる。
【0039】
すなわち、このインク補給モードは、ヘッド1からインク吐出を行うプリント動作時以外に適切なタイミングでチューブポンプ209を一定時間駆動して行われるものであり、プリンタ制御部は、この駆動タイミングと駆動時間を制御することのみで、サブタンクにおける基準液位を維持することができる。この基準液位S.Lは、ヘッド1に対して適切な水頭の範囲にあり、これによりインク吐出時のインク供給を良好に行うことができる。
【0040】
なお、サブタンク203に設けられるセンサ223は、インクの有無を検知するためのものであり、上述のように、チューブポンプ209を一定時間駆動したにもかかわらず、センサ223によってインクの有りを検出しない場合には、カートリッジタンク201内にインクが無くなったことを知るために用いられるものである。
【0041】
次に、インクジェットヘッド1におけるインク吐出時のインク供給モードについて説明する。
【0042】
このモードでは、サブタンク203の大気連通口203Aを開放状態とするとともに、チューブポンプ209および211では、そのローラによってチューブを押し潰さない状態、つまり、所謂スルー状態とする。この状態でインクジェットヘッド1で吐出を行うと、サブタンク203とヘッドとの間の水頭差によってサブタンク203のインクは、2系統の供給路233,237および241,239を介してヘッド1に供給される。
【0043】
第3番目に説明するモードは、インクジェットヘッド1の吐出回復処理の1つとして行われる泡抜きインク循環供給モードである。このモードではサブタンク203の大気連通口203Aを開放状態とし、2つのチューブポンプ209および211を時計回り方向(C.W方向)、すなわち図中右から左方向にインクが流れるようにに回転する。これにより、サブタンク203から供給路233,237を介してヘッド1にインクが流れ込むとともに、ヘッド1から供給路239,241を介してサブタンク203にインクが流れ込む。このモードは、印字を継続的に行った時に発生する、ヘッド1内に滞留する主に気泡をインクとともにサブタンク203に集め、最終的に大気連通口203Aを介して大気中に放出することがでために設けられた回復モードである。
【0044】
通常、記録ヘッド吐出面に設けられたインク吐出口においては、インクの表面張力によりメニスカスが形成されている。このため、ある一定の大気圧状態においてはインクが流出することがない領域が存在するからである。一般的には、このときの許容される圧力は、水頭差であらわせば、0mmAqua〜+50mmAqua程度になるようにポンプの圧力を設定することが適しているとされる。
【0045】
また同様にして、大気圧より低い圧力、すなわち負圧状態となった場合においても、インク吐出口におけるインクの表面張力により同様にメニスカスが形成されることにより、ある一定の負圧下においてはこのメニスカス状態が破壊されることがなく、したがってインク吐出口から空気や泡が大気中から吸い込まれることがない領域が存在する。
【0046】
上述した記録印字の際には、ヘッド1内の圧力は、大気圧よりわずかに小さい圧力すなわち、負圧状態に維持することが望ましい。このようにすることにより、印字時あるいは待機時等にインク吐出口よりインクが漏れ出すことを防止するためである。一般的には、印字時の負圧の大きさは、水頭差であらわせば、−40mmAqua〜―150mmAqua程度が適しているとされる。
【0047】
また、上述した泡抜きインク循環供給モードの際、ヘッド1内の圧力は、大気圧よりわずかに大きい圧力に維持されることが望ましい。このようにすることにより、インク循環の際にインク吐出口を介してインクが漏れ出すことを極力防止できるからである。ただし、液室内に滞留した気泡をヘッド外に移動させるためには、インク吐出口からのインクの流出は避けることが出来ない。
【0048】
本実施例のインク供給系は、その供給動力としてチューブポンプを用いているため、チューブポンプの持つ性質から、圧力の変動、所謂圧力の脈動が発生する。通常の循環モードにおいては、2つのチューブポンプ209と211の位相同期制御は行っていないため、通常のインク循環を行う間のヘッド内の圧力は、脈動によって、圧力変動として現われる。
【0049】
泡抜きインク循環供給モードにおいては、この圧力変動の影響による吐出口からのインク流出を回避するために本実施例では、上で説明したように、バッファタンク205および207をヘッドとチューブポンプ209および211との間にそれぞれ設けることにより、各チューブポンプによる脈動をこれらバッファタンク内に存在する空気層で吸収し、これによりインク循環時におけるヘッド内圧力を適切な一定の値に維持する機能を備えている。
【0050】
第4番目に説明するモードは、軽度のインクジェットヘッド1の吐出回復処理の1つとして行われるインク脈動循環供給モードである。図2(b)にこのモード時の供給経路を示す。
【0051】
このモードではサブタンク203の大気連通口203Aを開放状態とし、また、チューブポンプ209の下流側(図中左側)に設けられた流路切り替え弁303および、チューブポンプ211上流側(ヘッド側)に設けられた流路切り替え弁304により、バッファタンク205ならびに207を介さないインク経路351、352へと切り替えられる。各インク経路中にはチェック弁353、354、355が設けられている。この状態で2つのチューブポンプ209および211を時計回り方向(C.W方向)、すなわち図中右から左方向にインクが流れるようにに回転する。これにより、サブタンク203からバッファタンク205を介さずに、供給路351,237を経てヘッド1にインクが流れ込むとともに、ヘッド1から供給路239,352を介してバッファタンク207を経ずにサブタンク203にインクが流れ込む。
【0052】
305は二つのチューブポンプ209、211の位相および回転数、回転方向等を制御するポンプ制御部である。
【0053】
制御部305は、インク経路237および239内におのおの設けられた、圧力センサ301,302の検出値からポンプ209および211を制御する。
【0054】
図8により、センサ301および302によって得られるヘッド内インク経路内の圧力変動値の様子を説明する。
【0055】
図8(a)は、チューブポンプ209、211によって発生する圧力Pの変動を示すグラフである。
【0056】
本図において、グラフ線(1)がチューブポンプ209によって発生する圧力変動値、グラフ線(2)が同様にしてチューブポンプ211により発生する圧力変動値を示している。
【0057】
チューブポンプにより発生する圧力値は、一般的にグラフ線(1)、(2)であらわされるような値となる。
【0058】
本実施例のように、複数個のポンプを用いた場合の液室内圧力は、これらの波形の合成値(グラフ線(3))が実際の液室内の圧力変動値となる。この時に発生する合成値の最小の圧力をP1、最大圧力をP2とする。
【0059】
一方、図8(b)は、上述した、ヘッド吐出面にインク表面張力により形成されるインクメニスカスの、圧力に対する概念を示した説明図である。
【0060】
通常のヘッド待機時および印字状態においては、ヘッド液室内の圧力は、上述したように吐出口からのインク漏れを防止するために、負圧状態が保たれている。
【0061】
この負圧状態下のヘッド吐出口に形成されたインクによるメニスカス状態を示した図が図8(b1)である。図のように、負圧下においては、インクによるメニスカスm1は、ヘッド吐出口に対して凹上に形成され保たれる。
【0062】
同様にして、正圧下におけるメニスカス状態は凸状のすなわち図8(b2)のm2状態となる。
【0063】
これらの状態は上述したように、インクヘッド内の圧力変動によって変化し、これらのメニスカス状態は、上述したメニスカス保持圧力最大圧力Pmおよび最小圧力P0内であれば、メニスカスは破壊せず、上記図8(a)1、2の間で変化、メニスカスは振動する。
【0064】
すなわち、上記チューブポンプ209および211により発生される圧力合成値の最大値P2がメニスカス保持最大圧力値Pm以下に制御され、かつ、チューブポンプ209および211により発生される圧力合成値の最小値がP0以上に制御されることにより、ヘッド吐出口に形成されたメニスカスは、破壊することなく、振動し、維持される。
【0065】
これらチューブポンプの具体的な制御は、本実施例のように2つのポンプを有する場合には、ポンプの位相の同期制御と、ポンプの加圧力の調整、あるいは擬似的にはポンプ回転数の制御により比較的簡単に制御可能となる。
【0066】
ところで、ヘッド吐出口に形成されたメニスカスは、上記のようなチューブポンプで発生される圧力変動程度によるメニスカス振動により、ヘッド吐出面に附着したゴミ、紙粉等を除去し、あるいはメニスカス振動によって吐出口から凸状に形成されるインクによりヘッド吐出面の湿潤化が可能となり、通常印字程度にて附着したインクや、軽度の固着したインク、吐出口近傍に発生、残留した気泡の除去に非常に有効に作用する。
【0067】
したがって、これら一連のインク脈動循環供給モードを実行することにより、メニスカスを保った状態でインク加圧をするので、無駄なインクの消費を防止できる。
【0068】
なお、圧力センサ301および302は、本実施例においては、ヘッドへの流路内に設けているが、その目的とするところは、上述したように、チューブポンプにより発生する圧力変動を制御するためであるから、ヘッド内に設けることでも良く、また設置個数も本実施例のように2つであっても、あるいは1個である構成でも良い。また、あらかじめ、インク経路内の圧力損失や、チューブポンプの特性があらかじめわかっていれば、センサを設けない構成も当然可能である。
【0069】
また、本実施例においては、圧力変動制御のために2つのチューブポンプを用いた例を示したが、1つのチューブポンプにより圧力変動値を制御することはもちろん可能である。この場合にも、制御方法としては、ポンプ回転数、ポンプ圧力を制御することで本発明の目的は達成できることは言うまでもない。
【0070】
このインク脈動循環供給モードは、通常の印字を継続的に行った時に発生する、ヘッド1の吐出口近傍に発生する所謂印字泡や、印字によってヘッド吐出面に附着したゴミ、紙粉あるいは、増粘した附着インク等を除去するためのモードであり、上述したような泡抜きインク循環供給モードに比し、不必要なインクの流出量を無くすとともに、短時間でかつ、十分なヘッド回復能力を有するモードとして設けられ、通常の印字前や、印字後あるいは一定時間間隔毎に選択されるモードである。
【0071】
これらの動作によって、記録ヘッド吐出面に附着したゴミ等を効率的に除去できる回復モードである。
【0072】
さらに第5のインク供給モードとして、上記と同様、吐出回復処理の1つとして行われる加圧回復時の供給モードがある。このモードでは、大気連通口203Aは開放とし、チューブポンプ211はそのローラでチューブを潰した状態とする。この状態でチューブポンプ209を時計回り方向(C.W方向)、すなわち図中右から左方向にインクが流れるように駆動すると、供給路233,237を介してサブタンク203からヘッド1にインクが供給される。この供給時のヘッド内圧力は、チューブポンプ211部分のインク経路が閉鎖されているため、上述したインク循環時に比し大きくなり、このため、ヘッド内のインクは吐出口を介してキャップ3に強制的に排出される。この排出に伴なって、ヘッド内の増粘インク等を排出することができる。
【0073】
この回復モードは、回復能力としては、非常に効果的ではあるが、消費されるインク量も多くなり、通常の印字時においては使用せず、長期にわたって印字をしなかった場合や、強固に附着した異物や固着したインク等を除去するためのモードである。
【0074】
さらに、より簡易的な回復モードとして有しているモードが、上記排出インクや同様に吐出回復処理の1つとして行われる、所謂予備吐出(空吐出)である。予備吐出は、通常の印字時と同様に吐出エネルギー発生によりインク吐出をインク受けとしてのキャップ3中に吐出することによりヘッド回復動作を行うモードである。キャップ内に吐出されたインクは、同様にチューブポンプ213により供給路243を介してインクカートリッジ201の廃インク貯留部に導かれる。
【0075】
次に、本実施例に用いられるチューブポンプについて説明を行う。
【0076】
図6は、図2に示したインク供給系で用いられるチューブポンプ209(211)の詳細を示す正面図である。図6に示すように、本実施例のチューブポンプは、その支持部材をなすチューブ押え212に半円状の凹部が形成され、この半円状部分に沿うようにチューブ245が配置される。そして、上記半円の中心からオフセットされた位置にその回動軸を有するローラ回転部が配設される。ローラ回転部には押圧ローラ209A,209B,209Cおよび209Dが設けられ(他の要素は不図示)、ローラ回転部の回転により、各ローラはチューブ245を押し込んで行き、図中最下点の前後約65°の範囲でチューブを押し潰した状態にする。
【0077】
一方、チューブ押え212はばね216によってカム218に対して押圧されており、図6に示す状態にあるが、チューブ245を非押圧状態、所謂スルー状態とするときは、カム218を回転させて、軸220を支点に図中左方へチューブへ回動させる。
【0078】
このカムの位相状態(停止位置)によって、チューブを押圧する状態を変えることができ、ポンプで発生する圧力の制御が可能となる。
【0079】
本実施例の上記ガイドの構造によれば、ガイド210は押圧ローラ209A〜209Dがチューブ245を押圧する部分以外の押圧部近傍でチューブ245を拘束するのみである。このように本実施例によれば、押圧ローラ209A〜209Dが作用する部分にはガイドが存在しないため上記のように、大きなチューブの振れ等が生じても切断等が生じるおそれがない。
【0080】
次に、本実施例に用いられる記録ヘッドクリーニング機構について説明を行う。
【0081】
これより説明するヘッドクリーニング機構、および動作は、上記で説明してきたインク供給モードによる動作の後に動作させることが一般的であり、これらを総称して記録ヘッドクリーニング動作、あるいは記録ヘッド回復動作と称することもある。
【0082】
上記で説明した、例えば泡抜きインク循環供給モード後あるいはインク脈動循環供給モード後等に下記に説明する記録ヘッドクリーニング機構を動作・組み合わせることでさせることにより、記録ヘッドのクリーニング動作を効果的に行うことが出来る。
【0083】
もちろん、この記録ヘッドクリーニング動作のみを動作させることも可能である。
【0084】
図3は本発明を適用したインクジェット記録装置の第1実施例の記録手段及び吐出口面クリーニング装置のキャッピング状態を示す模式的斜視図であり、図4は図3の記録手段及び吐出口面クリーニング装置のキャップ離間退避状態を示す模式的斜視図であり、図5は吐出口面クリーニング装置によって記録手段の吐出口面を払拭しているときの状態を示す模式的側面図である。
【0085】
図3において、本実施例に係るインクジェット記録装置では、異なる色のインクを用いる複数(4個)の記録ヘッド1C、1M、1Y及び1BKが使用されている。これらの記録ヘッドでは、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのインクが使用される。また、これらの記録ヘッドはヘッドホルダ4に対して精度よく位置決め固定されており、各記録ヘッドの平行度及びヘッド間距離等は所望の精度内(公差内)に保障されている。
【0086】
図1で説明した通り被記録部材としての記録シートPに記録した後、あるいは記録ヘッドの目詰まり解消のために吐出口1111からインクを強制的に排出させるインク加圧動作や空吐出動作などの後で、記録装置のコントローラから吐出口面クリーニング動作の指令信号が送られてくると、図3に示すようなキャッピング状態にある場合は、その状態から図5に示すようなキャップ離間退避状態へ移行される。このキャップ離間退避状態への移行は、モータ24の駆動によりヘッドホルダ4を上下ガイド25に沿って上方向へ移動させることで、記録ヘッド1を上昇させ、次いでキャップ3を水平方向に所定距離だけ移動することにより行われる。そして、この図5のキャップ離間退避状態において、吐出口面クリーニング装置を作動させることにより一連の吐出口面クリーニング動作が行われる。
【0087】
図5において、54は吐出口面2に付着したインク等の異物を拭き取り吸収するためのインク吸収部材である。本実施例では回転可能なローラ状の多孔質吸収体(インク吸収体ローラ)で形成されている。このインク吸収部材54の材質としては、例えば親水性多孔質ポリウレタン樹脂又は親水性多孔質ポリエチレン樹脂等の吸水性に優れた材料が好適である。
【0088】
50、51は、吐出口面2に付着したインクやゴミ等の異物を掃き取り除去するためのワイピング部材(ワイパー)であり、それぞれ、板状のゴム状弾性体で構成されている。このワイピング部材の材質としては、例えばウレタン樹脂等の弾性材料(ゴム状弾性材)が好適である。本実施例では、各記録ヘッド1ごとに2本のワイピング部材50、51を用いる構成が採用されている。特に、フルラインタイプの記録ヘッド1のように長尺ヘッドにおいては、ワイピング効果を向上させるため、先行する1本目のワイパー50によって吐出口面全面のインクをワイピングし、後行のワイパー51によって吐出口(吐出口列)の部位をワイピングすることが好適である。
【0089】
図5において、52はインク吸収部材54及びワイピング部材50、51が取り付けられているワイパーホルダである。このワイパーホルダ52は、不図示の駆動源により、吐出口面2の吐出口配列方向(吐出口列の方向)に沿ってレール53上を移動可能に構成されている。このレール53は、ワイパーホルダ52が吐出口面2と対向する位置を移動するときに、インク吸収部材54及びワイピング部材50、51が吐出口面2に対して一定の侵入量(オーバーラップ量)及び接触圧力(当接圧力)をもって移動するように構成されている。また、本実施例では、図5に示すように、揺動アーム42を介して取り付けられたローラ状のインク吸収部材(インク吸収体ローラ)54は、ワイパーホルダ52との間に介装された弾性部材(圧縮バネ)41を介して押圧下降可能に取り付けられており、吐出口面2に対する押圧力をバネ圧縮力(弾性力)で得るように構成されている。こうして、インク吸収部材54とワイピング部材50、51とを吐出口面2に沿って複数の吐出口の配列方向に移動させることにより、吐出口面2に付着したインク等の異物を除去するように構成されている。
【0090】
吐出口面2を払拭する時のインク吸収部材54及びワイピング部材50、51と吐出口面2との位置関係は図5に示す通りである。本実施例では、吐出口面2を払拭するクリーニング装置では、インク吸収部材54とワイピング部材50、51とで吐出口面2を払拭するとき、インク吸収部材をワイピング部材より先行して移動させるように構成されている。
【0091】
図5に示すように、インク吸収部材は、その表面が吐出口面に対して一定の侵入量DRをもって接触しており、インク吸収部材の表面と吐出口面との間に接触面(ニップ部)が形成された状態で正確に接触移動可能な位置となるように配置されている。一方、ワイピング部材50、51は、吐出口面に対して一定の侵入量(オーバーラップ量)DWをもって接触しており、各ワイピング部材の先端エッジ部分又はエッジ近傍面が撓むことにより、ワイピング部材エッジ部50a、51aが図5に示すように吐出口面2と正確に接触移動可能な位置となるように配置されている。
【実施例2】
【0092】
図9に、本発明の他の実施例のインク供給系の模式図を示す。本図において、1655はインクを記録ヘッド1に供給するためのサブタンク(インク供給タンク)、1656はサブタンク1655にインクを補充するためのメインタンク、1659は、インクを供給するための、チューブポンプからなる回復用ポンプである。1107はサブタンク1655から記録ヘッド1の共通液室1108へインクを供給するためのインク供給管、1662はインク供給管1107に設けられた電磁弁である。サブタンク1655へインクを補充する際には、チューブポンプ1659を駆動することにより、メインタンク1656から一方通行の補充用整流弁1658を通してサブタンク1655内へインクを送り込むことができる。サブタンク1655には空気抜き弁1663が設けられている。
【0093】
このように構成されたインク供給系及び吐出回復系においては、記録動作時には、電磁弁1662が開の状態で、サブタンク1655内のインクが水頭差により記録ヘッド1の共通液室1108に供給され、共通液室1108内のインクが液路)を通して各吐出口1111へ導かれる。
【0094】
本実施例は、上記インク供給系に、実施例1にて説明した、軽度のインクジェットヘッド1の吐出回復処理の1つとして行われるインク脈動循環供給モードを適用した例である。
【0095】
図9において、1660は記録ヘッド1を回復させるためのインク加圧動作(加圧循環回復動作)時に使用される一方通行の回復用整流弁、1661はサブタンク1655から記録ヘッド1の共通液室1108へ至る循環用管である。回復用整流弁1660は循環用管1661の回復用ポンプ1659と記録ヘッド1との間に設けられている。
【0096】
実施例1で説明したことと同様に、記録ヘッド吐出面2のクリーニングを目的として実施されるインク脈動循環供給動作時には、回復用整流弁1660及び電磁弁1662を開いた状態で回復用チューブポンプ1659を駆動することにより、サブタンク1655内のインクが循環管1661を通して共通液室1108に送り込まれ、さらに共通液室1108内のインクがインク供給管1107を通してサブタンク(インク供給タンク)1655内へ循環される。
【0097】
1701はチューブポンプ1659の回転数、回転方向等を制御するポンプ制御部である。
【0098】
制御部1701は、インク経路1661内に設けられた、圧力センサ1702の検出値からチューブポンプ1659を制御する。
【0099】
センサ1702によって得られるヘッド内インク経路内の圧力変動値の様子は実施例1中で説明した通りである。
【0100】
本実施例のように、チューブポンプを用いた場合の液室内圧力は、チューブポンプによる圧力変動値として発生する。
【0101】
この時に発生する最小の圧力をP1、最大圧力をP2とする。
【0102】
通常のヘッド待機時および印字状態においては、ヘッド液室内の圧力は、実施例1で説明したように吐出口からのインク漏れを防止するために、負圧状態が保たれている。
【0103】
この負圧状態下のヘッド吐出口に形成されたインクによるメニスカス状態を示した図が前述した図8(b)1である。図のように、負圧下においては、インクによるメニスカスは、ヘッド吐出口に対して凹上に形成され保たれる。
【0104】
同様にして、正圧下におけるメニスカス状態は凸状のすなわち図8(b)2の状態となる。
【0105】
これらの状態は上述したように、インクヘッド内の圧力変動によって変化し、これらのメニスカス状態は、上述したメニスカス保持圧力最大圧力Pmおよび最小圧力P0内であれば、メニスカスは破壊せず、上記図8(a)1、2の間で変化、メニスカスは振動する。
【0106】
すなわち、上記チューブポンプ1659により発生される圧力の最大値P2がメニスカス保持最大圧力値Pm以下に制御され、かつ、チューブポンプ1659により発生される圧力値の最小値がP0以上に制御されることにより、ヘッド吐出口に形成されたメニスカスは、破壊することなく、振動し、維持される。
【0107】
これらチューブポンプの具体的な制御は、本実施例のようにチューブポンプを使用する場合には、ポンプの回転制御と、ポンプの加圧力の調整により比較的簡単に制御可能となる。
【0108】
ところで、ヘッド吐出口に形成されたメニスカスは、上記のようなチューブポンプで発生される圧力変動程度によるメニスカス振動により、ヘッド吐出面に附着したゴミ、紙粉等を除去し、あるいはメニスカス振動によって吐出口から凸状に形成されるインクによりヘッド吐出面の湿潤化が可能となり、通常印字程度にて附着したインクや、軽度の固着したインク、吐出口近傍に発生、残留した気泡の除去に非常に有効に作用する。
【0109】
したがって、これら一連のインク脈動循環供給モードを実行することにより、メニスカスを保った状態でインク加圧をするので、無駄なインクの消費を防止できる。
【0110】
なお、圧力センサ1702は、本実施例においては、ヘッドへの流路内に設けているが、その目的とするところは、上述したように、チューブポンプにより発生する圧力変動を制御するためであるから、ヘッド内に設けることでも良く、また設置個数も本実施例のように1つであっても、あるいは複数個である構成でも良い。また、あらかじめ、インク経路内の圧力損失や、チューブポンプの特性があらかじめわかっていれば、センサを設けない構成も当然可能である。
【0111】
また、本実施例においては、圧力変動制御のために1つのチューブポンプを用いた例を示したが、より緻密な圧力変動制御が可能な複数のチューブポンプを設けた構成により圧力変動値を制御することはもちろん可能である。この場合にも、制御方法としては、ポンプ回転数、位相制御、ポンプ圧力を制御することで本発明の目的は達成できることは言うまでもない。
【0112】
このインク脈動循環供給モードは、通常の印字を継続的に行った時に発生する、ヘッド1の吐出口近傍に発生する所謂印字泡や、印字によってヘッド吐出面に附着したゴミ、紙粉あるいは、増粘した附着インク等を除去するためのモードであり、通常の泡抜きインク循環供給モードや加圧循環モードに比し、不必要なインクの流出量を無くすとともに、短時間でかつ、十分なヘッド回復能力を有するモードとして設けられ、通常の印字前や、印字後あるいは一定時間間隔毎に選択されるモードである。
【0113】
これらの動作によって、記録ヘッド吐出面に附着したゴミ等を効率的に除去できる回復モードである。
【0114】
(関係する技術)
なお、本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、前記熱エネルギーによりインクの状態変化を生起させる方式の記録ヘッド、上記のようなインクジェット記録装置等において優れた効果をもたらすものである。かかる方式によれば記録の高密度化,高精細化が達成できるからである。
【0115】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長,収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行うことができる。
【0116】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口,液路,電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基いた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、記録ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によれば記録を確実に効率よく行うことができるようになるからである。
【0117】
さらに、上記実施例のように、記録装置が記録できる記録媒体の最大幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドに対しても本発明は有効に適用できる。そのような記録ヘッドとしては、複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0118】
加えて、シリアルタイプのものでも、装置本体に固定された記録ヘッド、あるいは装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、あるいは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0119】
また、本発明の記録装置の構成として、上記実施例で説明したように、記録ヘッドの吐出回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので、好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせを用いて加熱を行う予備加熱手段、記録とは別の吐出を行なう予備吐出(空吐出)手段を挙げることができる。
【0120】
また、搭載される記録ヘッドの種類ないし個数についても、例えば単色のインクに対応して1個のみが設けられたものの他、記録色や濃度を異にする複数のインクに対応して複数個数設けられるものであってもよい。すなわち、例えば記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録装ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによるかいずれでもよいが、異なる色の複色カラー、または混色によるフルカラーの各記録モードの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
【0121】
さらに加えて、以上説明した本発明実施例においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化もしくは液化するものを用いてもよく、あるいはインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものを用いてもよい。加えて、熱エネルギによる昇温を、インクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで積極的に防止するため、またはインクの蒸発を防止するため、放置状態で固化し加熱によって液化するインクを用いてもよい。いずれにしても熱エネルギの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクが吐出されるものや、記録媒体に到達する時点ではすでに固化し始めるもの等のような、熱エネルギの付与によって初めて液化する性質のインクを使用する場合も本発明は適用可能である。このような場合のインクは、特開昭54−56847号公報あるいは特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部または貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0122】
さらに加えて、本発明インクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として用いられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置の一実施例を示す模式的縦断面図である。
【図2】本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置のインク供給系及び加圧循環回復系の概略構成を示す説明図である。
【図3】本発明を適用したインクジェット記録装置の第1実施例の記録手段及び吐出口面クリーニング装置のキャッピング状態を示す模式的斜視図である。
【図4】図3の記録手段及び吐出口面クリーニング装置のキャップ離間退避状態を示す模式的斜視図である。
【図5】図4の吐出口面クリーニング装置によって記録手段の吐出口面を払拭しているときの状態を示す模式的側面図である。
【図6】本発明を適用するのに好適なチューブポンプの詳細図である。
【図7】本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置の記録手段の内部構造を一部破断して示す部分斜視図である。
【図8】(a)、(b)本発明によるヘッド内インク経路内の圧力変動値を説明する説明図である。
【図9】本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置のインク供給系及び加圧循環回復系の概略構成の第2実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0124】
1 記録手段(記録ヘッド)
2 吐出口面
3 キャップ
4 ヘッドホルダ
8 ピックアップローラ(給紙ローラ)
18 排紙ローラ
24 モータ
25 上下ガイド
41 弾性部材(圧縮バネ)
42 揺動アーム
50、51 ワイピング部材(ワイパー)
50a、51a ワイパーエッジ部
52 ワイパーホルダ
53 レール
54 インク吸収体
55 インク絞りローラ(インク排出手段)
56 インク絞りカム(インク排出手段)
57 ワイピング部材清掃ローラ(ワイピング部材清掃手段)
58 ワイピング部材清掃ローラ(ワイピング部材清掃手段)
101 給紙部
102 ベルト搬送部
103 記録手段部(記録ヘッド部)
104 キャップ部
105 排紙部
201 インクカートリッジ
203 サブタンク
203A 大気連通口
205、207 バッファタンク
205A タンク内管
S.L 基準液位
209 チューブポンプ
209A、209B、209C、209D 押圧ローラ
210 ガイド
211、213 チューブポンプ
212 チューブ押え
214 チューブガイド
216 ばね
218 カム
219 チェック弁
220 軸
223 センサ
225 栓
227 ソレノイド
231、233、235、237、239、241、243 供給路
245 チューブ
1103 電気熱変換体
1107 インク供給管
1108 共通液室
1111 吐出口
1655 サブタンク(インク供給タンク)
1656 メインタンク
1658 補充用整流弁
1659 回復ポンプ
1660 回復用整流弁
1661 循環用管
1662 電磁弁
P 被記録部材(記録シート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置において、インクを吐出して記録を行うためのインクジェット記録ヘッドと、前記インクジェット記録ヘッドにインクを供給するためのインクを貯留したインクタンクと、前記インクタンクからのインクを前記インクジェット記録ヘッドに供給するためのインク供給手段とを有したインクジェット記録装置において、
前記インクタンクからのインクを記録ヘッド内に供給するためのインク供給手段の加圧力を変動させるための加圧力変動手段と、前記インクジェット記録ヘッド内のインク経路内に設けられた圧力測定手段と、前記加圧力を制御する制御手段とを有し、前記記録ヘッドのインク吐出口において、インクの表面張力により保持されるメニスカスを、発生されるインク加圧力によってインク吐出口からインクを流出させないメニスカス保持最高圧力をPm、インク吐出口から空気を吸入しないメニスカス保持最低圧力をP0、前記加圧手段により発生させる変動圧力の経路内最低圧力をP1、前記加圧手段により発生させる経路内最高圧力をP2とした時、前記加圧力変動手段は、
P0≦P1<P2≦Pm
なる関係となるように、前記P1およびP2を制御することで、前記メニスカスの振動を発生させるインクジェット記録ヘッドクリーニングモードを有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクジェット記録ヘッドのインク経路内の加圧力変動手段は、前記インク経路内に設けられたチューブポンプ手段であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクジェット記録ヘッドのインク経路内の加圧力変動手段は、前記インク経路内に複数設けられたチューブポンプ手段と、前記複数のチューブポンプ手段を制御するためのチューブポンプ制御手段を有し、前記制御手段によって制御することによって得られる圧力変動であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インクジェット記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクに気泡を生じさせ前記気泡の生成によってインクを吐出するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インクジェット記録ヘッドは、被記録部材の略記録幅方向の長さを有する、フルラインタイプを含むラインタイプであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−224435(P2006−224435A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40372(P2005−40372)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】