説明

インクジェット記録装置

【課題】 メンテナンス処理の簡略化。
【解決手段】 メンテナンス動作にあらかじめ優先順位および実行の順番を付け、これに基づいて動作を順次実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式などの記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録ヘッドのノズルからインク滴を吐出飛翔させ、これを紙等の被記録材に付着させることで記録を行うインクジェットプリンタ装置等では、記録ヘッドに付着して吐出性能を低下させる要因となったり、被記録媒体を汚したりする危険性のあるインクミストや紙粉等を除去するために、メンテナンス手段が設けられている。
【0003】
主なメンテナンス手段としては、
・ゴム等の弾性材料により構成されたブレードを記録ヘッドのインク吐出口形成面に摺擦し、付着したインクを除去するワイピング手段。
【0004】
・ゴム等の弾性材料により構成され、記録ヘッドに設けられたインク吐出口を覆うことが可能なキャップ部材によりインク吐出口を覆って保湿および塵埃等の付着を防止する、キャッピング手段。
【0005】
・前記キャップ内に、チューブポンプ等で負圧を発生させ、前記インク吐出口から強制的にインクを排出させてインク吐出口の目詰まり等を解消するための吸引手段。
【0006】
・インク吐出口からインクを所定発数吐出させてインク吐出口近傍の乾燥しつつあるインクを排出除去するための予備吐出手段。
【0007】
等が挙げられる。
【0008】
これらを適切なタイミングで実行することにより常に良好な印刷結果を得られる状態を保っている。
【0009】
しかしながら、前記インクジェット記録装置がパソコンの出力装置としてだけでなく産業用機器等の記録部として搭載された場合には、ホストとプリンタとの組み合わせはは必ずしも一義的に決定されるものでは無い。そこでホスト側に、接続可能なプリンタ全ての印刷仕様を記憶しておく記憶装置を設けることでどのプリンタが搭載されても最適な仕様で印刷を実行する方法が提案されていた(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特公平07−072993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながらこれによるとあらかじめ仕様が決定しているプリンタのみが搭載可能であり、汎用性という意味では必ずしも高いとは言えなかった。これに対し、プリンタ側はメンテナンスの実行命令の発令をホスト側に要求し、これをホストが所定タイミングでポーリングしてからメンテナンス命令が発せられる、という構成が提案されている。これによればホストおよびプリンタの汎用性を高めることができ、開発の省力化が大いに期待できる。
【0011】
しかしながらもしも各ポーリング間において必要なメンテナンス動作が複数存在する場合には、ホスト側からメンテナンス命令発令された際に、プリンタ側から見ると一度に複数のメンテナンス動作を同時に迫られていることとなり、このような場合にプリンタ側が行うべき最適な処理方法の確立が必要になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、
第1の手段は複数のメンテナンス動作を同時に求められた場合に、メンテナンス動作ごとに優先順位を付け、この優先順位の高いメンテナンス動作のみを実行し、優先順位の低い動作は実行せず無視するものである。
【0013】
第2の手段は、あらかじめ実行順序を決めておき、実行すべきメンテナンス動作が複数存在する時は前記順序に従って実行するものである。
【0014】
第3の手段はプリンタ側から発せられるメンテナンス動作命令の要求に順次番号を付け、ホストからメンテナンス要求命令を受けた時点で前記番号順に順次動作を実行するものである。
【0015】
これによれば複数の動作命令に対して常に最適かつ最小限の処理内容で記録装置の性能を維持でき、インクの浪費やスループットの低下も抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明に示した記録装置によれば、メンテナンス動作命令が同時に複数存在しても必要最小限の動作を実行して良好な記録性能を維持でき、極めて汎用性の高いホストおよびプリントエンジンを供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本記録装置は所定の記録紙に印刷可能な本体プリントマシンに搭載される印刷機能をもった記録装置である。
【0018】
図1は本発明に係るインクジェットプリンタエンジンの外観斜視図である。
【0019】
7はプリントエンジンであり、9は飛翔するインクを受容してその表面に画像を形成するために樹脂やパルプ等から形成される被記録媒体である。2点鎖線で外形を示した11は後述するインクタンク交換式の記録ヘッドである。13は前記記録ヘッド11を搭載して後述のガイドシャフトの軸方向、すなわち主走査方向に往復移動可能なように構成されたキャリッジであり、不図示のフレキシブルケーブルの一部から構成されるコンタクト部15を介して前記記録ヘッド11に設けられたPCBに、インク吐出用ヒータ駆動電力あるいは印刷画像データに基づく信号パルス等を入力可能である。17は前記キャリッジ13と一体に構成され、ガイドシャフト19が挿通可能なように構成された軸受けである。21はステッピングモータにより構成されたキャリッジモータであり、駆動用プーリ23がその回転軸に圧入され、駆動用プーリ23を回転させることによりアイドラプーリ25との間に張架されたタイミングベルト27を駆動し、該タイミングベルト27の一部が固着された前記キャリッジ13を往復移動させることが可能なように構成されている。なお、本実施例においては前記キャリッジモータ21は定電流駆動方式を採用している。
【0020】
29はキャリッジ13と一体に構成された遮蔽板であり、この遮蔽板29がフォトインタラプタにより構成されたホームポジションセンサ31の光路を遮断することでキャリッジ13の位置検知、すなわち本実施例においてはホームポジション(以下HPとも呼ぶ)の検知を可能にしている。
【0021】
33は回復系であり、記録ヘッド11に設けられたインク吐出口の保護、あるいは前記インク吐出口に付着した埃塵や乾燥して固着したインク等、吐出不良の原因となる要素を除去するための吐出回復動作を行うために設けられるものであり、その主な構成要素は、吐出口を乾燥やゴミの付着から守るためのインク吐出口保護部材部材と、前記保護部材内に負圧を発生させて強制的かつ急激にインク吐出口からインクを排出させることで吐出口の目詰まり等を解消する吐出回復動作を実行するための負圧発生手段と、印刷に伴うインクの吐出や吐出回復動作に伴いインク吐出口周辺に付着したインクを除去するためのワイピング手段、等である。
【0022】
また37は紙送りローラを駆動するための紙送りモータである。
【0023】
図2は前記記録ヘッド11の外観斜視図である。
【0024】
ここで111はインク吐出口や膜沸騰を生じせしめるヒータ等から構成されるインク吐出ユニット115と、ヒータを駆動するためにキャリッジから電力等を供給するためのPCB117等とから構成されるヘッド部である。一方113はその内部にインクおよびスポンジ等のインク保持部材を収容したインクタンクであり、ラッチ手段119により前記ヘッド部111に対して着脱自在に構成されている。
【0025】
なお本実施例における回復系が有する吐出性能回復手段は主に次の3つである。
【0026】
1つは予備吐出と呼ばれる手段であり、記録紙以外の領域、本実施例においては回復系に設けられた所定領域内にすべてのノズルから非記録時に吐出を行うことで、ノズル内あるいはノズル周辺の増粘インクを排出したり、同一装置内で複数種のインクを吐出可能な場合にはノズル内に侵入した他種インクを排出したりするものであり、排出されたインクは廃インクタンクへと送られる。
【0027】
2つ目はワイピングと呼ばれる手段であり、記録のために吐出した主インク滴と同時に吐出されてしまうミストや、主インク滴が記録紙に着弾した際に発生する跳ね返りミスト、あるいは後述の吸引回復動作により、ノズル形成面に付着したインク、等を除去するために設けられ、ゴム等の弾性部材により構成されたブレード等から成るものである。
【0028】
3つ目は吸引回復手段である。これはキャップと呼ばれるゴム等の弾性材料から成る部材を前記記録ヘッドのノズル形成面に当接して密着させ、ポンプ手段によりキャップ内の気圧を大気圧以下に減じてノズルからインクを強制排出させ、そのインク流によりノズル内の塵埃、乾燥インク、気泡等の吐出妨害要素を排除するものである。その後吸引したインクは廃インクタンクへ送られ処理される。
【0029】
図3は従来のパソコン周辺機器としてプリンタの印刷処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0030】
S101で前回のクリーニング実行からの経過時間が72時間以上経過していたらS103で自動的に図4に示すクリーニングを実行する。
【0031】
図4に示すようにクリーニング動作では、S201でキャップを前記記録ヘッド11のインク吐出口形成面に当接させるキャップクローズ動作を実行し、S203で回復系内に構成された吸引機構によりキャップ内の圧力を負圧にして記録ヘッドのインク吐出口からインクを強制排出させる吸引動作、S205でキャップを記録ヘッドから離間させるキャップオープン動作、S207で前記記録ヘッドの吐出口形成面に付着したインクを除去するワイピング動作、S209でワイピング時にインク吐出口へ押し込まれた可能性の有る増粘インクを除去するための予備吐出をキャップ内に行い、S211でキャップ内およびインク流路中に充填されたインクを廃インク処理機構へと排出させるためにキャップを記録ヘッドかた離間させたままで吸引動作を行う空吸引を行い、最後にカウンタTcを0にリセットして新たにカウントを開始する。
【0032】
次に図3に戻り、経過時間が72時間以内であればS105でキャップをオープンしてからS107で予備吐出動作を行う。続いてS109でワイピングタイマをリセットしてからカウントを開始し、S109では吐出発数カウンタをリセットしてから吐出発数の積算を開始する。S110では記録データを受け取って印刷を開始する。印刷中はS111で前回のワイピング実行からの経過時間あるいは吐出発数に応じて、S113でワイピング、S115で予備吐出を割り込み処理で実行する。
【0033】
印刷データが無くなると印刷待機状態に移る。S117で印刷データ待ちタイマTrと待機予備吐タイマTsをリセットしてカウントを開始する。S119では所定時間経過するとS121でワイピング動作を実行し、S123で予備吐出を行った後にタイマをリセットさせてからカウントを再開する。S127では前回の予備吐出から所定時間経過するとS129にて予備吐出を行い、S131にて予備吐タイマをリセットしてからカウントを再開する。
【0034】
次にS133とS135で印刷データが無い状態が所定時間継続していることが検知されるとS137で印刷に用いた吐出発数に応じて、あるいはS139で前回のクリーニング動作からの経過時間に応じて、S141において前記クリーニング動作が行われる。最後にS143でワイピングをしてからS145で予備吐出、S147でキャップクローズ動作が行われて印刷処理は終了する。
【0035】
このフローチャートから時間管理、あるいは吐出発数に応じて所定タイミングで以下4つの動作が自動的に行われることが判る。すなわち
1)キャップオープン状態で記録動作を待つ間に吐出口内のインクを常にリフレッシュさせるための予備吐出を行う予備吐出動作
2)キャップオープン状態で記録動作を待つ間に行われる、インク吐出口形成面に付着したインクを拭き取るワイピング動作と予備吐出とを一連の動作として行うワイピング動作
3)記録開始前、あるいは記録終了後に、ヘッド内に溜まった気泡等を除去するために行われる、吸引動作とワイピング動作と予備吐出とを一連の動作として行うクリーニング動作
4)所定時間記録命令が来ない場合に行われる、ワイピング動作とキャッピング動作とを一連の動作として行うキャップクローズ動作
の4つの動作である。
【0036】
なおシーケンス中の数字は一例であり、記録ヘッドあるいはプリントエンジンの特性に応じて最適な値を決定すれば良い。
【0037】
これに対し図5は本実施例に係る記録装置における命令の発令と、ホストがポーリングして必要に応じてメンテナンス実行命令を発令するタイミングを、x軸を時間軸として描き表したものである。各メンテナンス動作の項目において幅の短い矩形波が描かれているのがメンテナンス命令要求フラグを立てているタイミングを表している。なお、本実施例においては各々のメンテナンス動作に対応する要求フラグは全て同一であり、どれか1つでもホストが検知すればメンテナンス命令が発令されるが、必ずしもこれに限定されるものでは無く、例えばプリンタ側は全てのメンテナンス動作に対応したメンテナンス命令要求を発し、ホスト側はこれに対応した個別のメンテナンス命令を発令しても良い。このようにすればプリンタ側で実行すべきメンテナンス動作の種類を記憶しておく必要は無い。
【0038】
この図から明らかなようにプリンタ側からのメンテナンス命令の要求は従来機と同様のタイミングで順次発せられても、ホスト側は所定間隔でポーリングしてからプリンタに対してメンテナンス命令を発するため、プリンタ側がホスト側からメンテナンス命令を受け取った際には複数のメンテナンス動作を実行しなければならない場合が有ることが判る。なお、図5では予備吐、ワイピング、キャッピングの3つのメンテナンス動作が同時に要求されていることになる。
【0039】
図6は本実施例に係る優先順位表であり、上記図5のような状況においてどの動作をどのような順番で行うかを示した表であり、複数の動作命令のうち最も優先順位が高い動作のみを行うこととする。ただし優先順位が同等である場合には、別途示された動作の実行順序に従い実行順位番号の小さいものから順に行うものとする。
【0040】
すなわち予備吐出動作とワイピング動作をその動作中に含んでいるクリーニング動作は、予備吐出動作とワイピング動作よりも優先順位が高い。予備吐出動作を含んでいるワイピング動作は、予備吐出動作よりも優先順位が高い。キャップクローズ動作は予備吐出動作とワイピング動作を含んでいるので両者よりも優先順位は高い。複数の動作が共存できるのはクリーニング動作とキャップクローズ動作の組み合わせだけであるが、共存する場合には実行順位番号の小さいクリーニング動作が先に実行され、最後にキャップをクローズした待機状態で処理を終了する。
【0041】
以上のようにメンテナンス動作に優先順位と実行順位を付けることにより動作の重複を回避し、インクの浪費やスループットの低下等の不具合を簡単に回避できるようになる。
【0042】
なお、前記複数のメンテナンス動作の実行順序の決定や実行動作の取捨選択を行うタイミングは、ホストから実行命令を受け取った後でも良いし、受け取る前、例えばメンテナンス命令発令要求が発生する毎に実行し、その結果を記憶しておいても良い。
【0043】
(第2の実施例)
前記第1の実施例では、例えば予備吐出のように動作内容に重複があるために優先順位の低い動作を無視することができた。しかしながら重複が無い等の理由により無視することができない場合には必ずしも前記実施例にとらわれる必要は無く、例えばプリンタ側から発するメンテナンス命令の要求に順次番号を付けて記憶させても良い。
【0044】
この手段によれば前記番号に従い、順次動作を行うだけで処理は正常に実行される。
【0045】
(第3の実施例)
またあらかじめ各メンテナンス動作に実行の優先順位付けを行い、メンテナンス命令が同時に複数存在する場合には前記優先順位に基づいて順次動作を実行しても良い。これによれば、例えばキャッピング動作の実行順位を予備吐出動作よりも下位に設定することにより、キャッピング動作後に予備吐出動作が実行される等の不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るプリントエンジンの外観斜視図。
【図2】プリントエンジンに搭載される、着脱自在な記録ヘッド。
【図3】印刷の処理手順を示すフローチャート。
【図4】クリーニングの動作手順を示すフローチャート。
【図5】ポーリングとメンテナンス動作のタイミングを示す図。
【図6】動作の実行優先順位を示す表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録手段と共に記録ヘッドの性能を維持するためのメンテナンス機構を有する記録部と、ホスト部を具えた記録装置であって、記録部から発せられたメンテナンス命令発令要求に対し、ホスト側は前記要求を所定間隔でポーリングして記録部にメンテナンス命令を発する記録装置において、
前記ポーリング間において、実行する必要性が生じたメンテナンス動作が複数存在する場合には前記記録部がその処理方法を決定し、ホストからメンテナンス命令が発令された際に実行することを特徴とした記録装置。
【請求項2】
前記処理方法とは、記録部においてあらかじめ決められた優先順位に基づき、優先順位の最も高い1つあるいは複数のメンテナンス動作を実行することであることを特徴とした、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記複数のメンテナンス動作に決定された場合には、記録部においてあらかじめ決められた実行の優先順位に基づいてメンテナンス動作を順次実行することを特徴とした、請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記処理方法とは、記録部においてあらかじめ決められた実行順位に基づいてメンテナンス動作を順次実行することであることを特徴とした、請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記処理方法とは、記録部側からメンテナンス命令の要求を発する際に各メンテナンス要求命令に対して順次番号が付けられ、この番号に応じてメンテナンス動作を実行することであることを特徴とした、請求項1に記載の記録装置。
【請求項6】
前記記録装置はインクジェット方式である、請求項1乃至5に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−26969(P2006−26969A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205948(P2004−205948)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】