説明

インクジェット記録装置

【課題】 効率よく確実にインクミストを回収することが可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 記録ヘッド3から被記録材15へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置である。記録ヘッドを搭載して被記録材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジ1と、被記録材の幅を検知する検知手段7と、キャリッジの移動方向の複数位置に配された吸引口11〜14から空気を吸引可能な吸引手段8と、複数位置の吸引口11〜14をキャリッジ1の移動範囲に応じて選択的に吸引状態にするように制御する制御手段50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジに搭載された記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の記録装置には種々の記録方式が採用されており、その中に、画像情報に基づいて記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置は、種々の色のインクを用いてフルカラー記録が可能であり、画質的にも銀塩写真に匹敵する画像を形成できることから、デジタルカメラの普及とともにますます広く使用されている。また、インクジェット記録装置では、インクの粒状感を無くすため、吐出するインク滴の容量も例えば1〜4plとますます小さくなっている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、インクを吐出して記録する際に、画像形成に関わる主滴のまわりに霧状のインクミストが発生することがある。インクミストは、極めて小さな液滴であり、被記録材である記録シートに着弾することなく装置内で浮遊するようになる。また、主滴が被記録材に着弾した際にも、跳ね返りインクがインクミストとして浮遊することもある。そして、これらのインクミストは、被記録材に付着して画像品位を低下させたり、エンコーダ等のセンサに付着して読取り精度を低下させるなどの不都合の原因となる。また、キャリッジ等の摺動部分に付着したインクミストが増粘したり固着することで動作不良を引き起こすこともある。さらに、記録装置周辺を浮遊インクミストによりオペレータの手や衣服を汚すこともある。従って、インクジェット記録装置では、インクミストを効果的に回収することを要請される。
【0004】
特許文献1には、記録装置内で浮遊するインクミストを効率よく回収するために、キャリッジの走査方向の両端部に設けた吸引ファンによりインクミストを吸引する構成が開示されている。また、特許文献1では、キャリッジの移動方向の切り替えに合わせて、両端部に配した吸引ファンの駆動を切り替え可能とし、キャリッジの移動方向と同方向に送風するとともに反対側の吸引ファンでインクミストを吸引する構成が提案されている。
【0005】
特許文献2には、装置の両側には吸引口を設け、1つの吸引ファンによりインクミストを回収する構成が開示されている。特許文献2の構成によれば、略密閉の筐体内をキャリッジが移動するときに発生する圧縮力により、効率的にインクミストを回収することができる。また、特許文献2では、吸引手段の吸引力はキャリッジの圧縮力より大きく設定されると説明されている。
【特許文献1】特開2004−330637号公報
【特許文献2】特許第3205674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、装置内部の空気の流れを利用して効率よくインクミストを回収できるが、両側に吸引ファンを設置することになるため、装置の大型化およびコストアップも招くという課題がある。また、特許文献2の構成では、吸引手段の吸引力をキャリッジの圧縮力より大きくする必要があるため、吸引能力の高い吸引手段が必要となり、吸引手段の大型化およびコストアップが避けられないという課題がある。さらに、近年の製品開発においては、さらなる省エネ/省スペース/低コスト化が求められており、この点からも、いかに効率的にインクミストを回収できるかが課題となっている。
【0007】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、効率よく確実にインクミストを回収することが可能なインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドを搭載して被記録材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジと、被記録材の幅を検知するための検知手段と、前記キャリッジの移動方向の複数位置に配された吸引口から空気を吸引可能な吸引手段と、被記録材の幅に基づいて前記キャリッジの移動範囲を決定するとともに、前記複数位置の吸引口を前記キャリッジの移動範囲に応じて選択的に吸引状態にするように制御する制御手段と、備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率よく確実にインクミストを回収することが可能なインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。図1は一実施形態に係るインクジェット記録装置の縦断面図である。図2は一実施形態に係るインクジェット記録装置の一部断面平面図である。装置本体には、矢印A方向に搬送される被記録材15に対して記録を行う記録部30が設けられている。被記録材15としては、紙やプラスチックシートや印画紙など、種々の材質のシート材を使用することができる。記録部30には、画像情報に基づいてインクを吐出して被記録材15に画像を形成する記録ヘッド3と、記録ヘッド3に対向して被記録材を支持するプラテン6とが設けられている。記録部30の搬送上流側には被記録材15を搬送するための搬送ローラ4および従動ローラ(ピンチローラ)5からなるローラ対が配されている。記録ヘッド3は、被記録材の搬送方向と交差する方向に移動するキャリッジ1に搭載されている。キャリッジ1は、装置本体に設置されたガイドシャフト2に沿って往復移動可能に案内支持されている。キャリッジ1の移動に同期して記録ヘッド3からインクを吐出する1ライン分の記録と被記録材15の所定ピッチの搬送とを交互に繰り返すことにより、頁全体の記録が行われる。
【0011】
記録ヘッド3からインクを吐出すると、主に記録に関わる主滴とともに霧状のインクミストが発生する。空気中を浮遊する微細なインク滴からなるインクミストは、インク吐出に伴って発生する他、被記録材に着弾したインクの跳ね返りによっても発生する。インクミストを回収せずにそのまま放置しておくと、種々の不都合が発生する原因となる。インクミストによる不都合として、被記録材や記録ヘッドに付着して記録品位が低下すること、エンコーダ等のセンサに付着して読み取り精度が低下することなどが挙げられる。さらに、キャリッジ等の動作部に付着したインクミストが増粘したり固化することにより動作不良の原因となることもある。インクジェット記録装置では、このような不都合を回避するために、インクミストを回収するための回収手段が設けられている。
【0012】
インクジェット記録装置には、CPU、メモリおよびI/O回路等を備えたコントローラかなる制御手段50が設けられている。この制御手段50は、内部メモリに予め格納された制御プログラムに従い、駆動モータ等の動作を制御して被記録材の搬送や後述するインクミストの回収動作を制御するとともに、画像情報に基づいて記録ヘッド3を制御して被記録材15に画像を記録していく。さらに、その他の装置全体の制御も司る。
【0013】
キャリッジ1には、被記録材15の幅方向の端部位置を検知するための検知手段7が設けられている。検知手段7として反射型光学式センサが使用されている。図4は反射型光学式センサの模式図である。反射型光学式センサ7は、発光部である発光ダイオード(LED)から被記録材15の表面に光を照射し、被記録材15からの反射光を受光部であるフォトトランジスタまたはフォトダイオードで検出する。キャリッジ1を被記録材15に沿って移動させたときの反射光の変化を検出することにより被記録材15の端部を検知する。また、制御手段50では、キャリッジ1の初期位置と初期位置からの移動距離に基づいてキャリッジ1の位置を検知するキャリッジ位置検知手段が設けられている。この位置検知手段は、例えばキャリッジの移動方向に平行に配されたリニアエンコーダを用いる手段で構成される。そして、被記録材15の端部を検知したときのキャリッジ1の位置に基づいて被記録材の幅を検知することができる。
【0014】
図2中の線52は、搬送される被記録材15の幅方向の基準位置であり、被記録材のサイズに関わらず共通の端部の位置である。16、17、18は幅が異なる被記録材の位置を示し、16は記録可能な最小幅の被記録材の位置であり、18は記録可能な最大幅の被記録材の位置であり、17は中間サイズの被記録材の位置である。制御手段50は、キャリッジ1を移動させることにより、キャリッジ上の検知手段7からの端縁検知信号とキャリッジの位置検知信号とに基づいて、被記録材15の幅を検知する。
【0015】
本実施形態に係るインクジェット記録装置では、キャリッジ1の移動方向の所定間隔ごとの複数位置に吸引口11、12、13、14が設けられている。これらの吸引口は共通のダクト10を介して吸引ファン8に連通しており、これにより、吸引口11、12、13、14から空気とともにインクミストを吸引可能な吸引手段が構成されている。各吸引口11、12、13、14は不図示の駆動手段によって開閉可能であり、吸引手段8を作動させた状態でも、開口した吸引状態と閉じた非吸引状態とに切り替え可能に構成されている。
【0016】
一般的なインクジェット記録装置では、無駄な動作を防ぐ目的で、被記録材15の幅寸法や記録領域幅に合わせてキャリッジ1の移動範囲を変化させ、移動範囲の両端でキャリッジ1を反転させている。そこで、本実施形態では、前述の複数位置にある吸引口11、12、13、14を、キャリッジの移動範囲に応じて、吸引状態と非吸引状態とを選択的に切り替えるように制御される。切り替え動作については後述するが、例えば、記録中は、キャリッジ1の反転位置の近傍の吸引口を吸引状態にし、それ以外の吸引口を非吸引状態にするように制御され、また、記録を終了したときに全ての吸引口を吸引状態にするように制御される。
【0017】
図5はキャリッジ1が被記録材15の端部で反転する際のインクミストを示す正面図である。前述したようなキャリッジ1が往復移動する装置の内部では、キャリッジ1を反転する位置でインクミストが滞留する傾向があり、従ってインクミストによる汚染もキャリッジの反転位置でひどくなる傾向がある。この現象は、キャリッジ1が移動してきた方向から逆方向に反転する際に、移動してきた方向に発生した気流およびインクミストがキャリッジ1に衝突し、インクミストを飛散させてしまうためである。つまり、移動してきたキャリッジ1が逆方向に反転すると、インク吐出に伴って発生したインクミストがキャリッジ1に衝突し、インクミストの飛散を助長するためである。従って、インクミストの回収はキャリッジ1の反転位置もしくはその近傍で行うことが有効である。
【0018】
そこで、本実施形態では、最大幅の被記録材18に記録するときはキャリッジ1を最大幅にわたって移動させ、最小幅の被記録材16に記録するときは被記録材16の端部位置16を越えた近傍位置(例えば図2に示す位置)でキャリッジ1の移動を反転させる。また、中間の幅寸法を有する被記録材の場合は、端部位置17を越えた近傍位置でキャリッジ1の移動を反転させる。基準位置52側では、被記録材15の幅に関わらず同じ位置で移動を反転させる。
【0019】
図3は図2における被記録材の幅寸法に応じた各吸引口の吸引状態および非吸引状態の切り替え制御を示す表である。最小幅の被記録材16の場合は、吸引口11、12を開口して吸引状態にするとともに、吸引口13、14を閉じて非吸引状態にする。中間幅の被記録材17の場合は、吸引口11、13を吸引状態にし、吸引口12、14を非吸引状態にする。最大幅の被記録材18の場合は、吸引口11、14を吸引状態にし、吸引口12、13を非吸引状態にする。このように各吸引口の吸引状態を選択的に切り替えることにより、キャリッジ1の反転位置の近傍を積極的に吸引することでインクミストを効率よく回収することができる。
【0020】
図6は吸引口の非吸引状態を示す一部断面側面図である。図7は吸引口の吸引状態を示す一部断面側面図である。各吸引口のダクト10との接続部には、不図示の駆動手段によって開閉可能な開閉部材20が設けられている。図5および図6に示すように、開閉部材20を閉じると吸引手段8の作動中であっても非吸引状態にすることができ、吸引手段8の作動中に開閉部材20を開くことにより吸引状態にすることができる。
【0021】
次に、吸引口からインクミストを吸引するときの制御手段50による制御動作の具体例について説明する。記録動作を開始すると、吸引手段8の駆動を開始する。そして、キャリッジ1上の検知手段7で検出した被記録材15の幅に関する信号を制御手段50へ送信する。制御手段50は、この信号に基づいてキャリッジ1の移動の範囲を決定するとともに、吸引手段8に連通したダクト10の複数位置に設けられた吸引口11、12、13、14の開閉を決定する。具体的には、被記録材15の基準位置52の近傍の吸引口11は開口して吸引状態にし、非基準側の吸引口12、13、14は、被記録材の幅に応じてキャリッジの反転位置に近い1箇所の吸引口のみを開口して吸引状態にし、その他の吸引口は閉じて非吸引状態にする。
【0022】
従って、被記録材16を記録するときは、キャリッジを図2に示すような位置で移動方向を反転し、反転位置に近い吸引口12を吸引状態にしてインクミストを吸引する。その他の吸引口13、14からは吸引しない。このような制御により、吸引しない吸引口の吸引容量を吸引する吸引口に割り当てることができ、吸引口当たりの吸引量を全ての吸引口から同時吸引する場合より大きくすることができ、選択された吸引口の吸引力を増大させることができる。つまり、同一吸引手段、同一負荷で駆動するときの吸引能力を高めることができ、1つの吸引手段によって一層効率良く吸引することが可能となる。
【0023】
以上の構成により、記録中にキャリッジ1の反転位置の近傍で発生するインクミストを確実にかつ効率良く回収することが可能となる。しかしながら、記録終了後にキャリッジ1を停止させると、記録中に発生したインクミストが装置内の全域に飛散していく傾向がある。この点に鑑みて、記録を終了したときは全ての吸引口11、12、13、14を吸引状態にするように制御する。これにより、装置内全域に飛散していくインクミストをダクト10に設けた全ての吸引口で吸引することができ、装置内のインクミストを効率的に回収することができる。
【0024】
以上の実施形態によれば、次のような作用効果を奏することができる。すなわち、キャリッジ1の移動方向の複数位置に配された吸引口を、被記録材の幅に応じて選択的に切り替えるように制御することにより、キャリッジの反転位置の近傍のみを吸引することが可能となる。また、それ以外の吸引口からは吸引しないように制御できる。従って、吸引手段の吸引能力を上げることなく、装置内に発生したインクミストを1つの吸引手段で効率良く回収することができる。これにより、省エネ/省スペース/低コストでインクミストを効率よく回収できるインクジェット記録装置を実現することができる。
【0025】
なお、本発明は、インクジェット記録装置であれば、記録ヘッドおよびインク色の数や使用する被記録材の材質に関係なく同様に適用可能であり、また、キャリッジの移動方向に配される吸引口の数にも関係なく同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施形態に係るインクジェット記録装置の縦断面図である。
【図2】一実施形態に係るインクジェット記録装置の一部断面平面図である。
【図3】図2における被記録材の幅寸法に応じた各吸引口の吸引状態および非吸引状態の切り替え制御を示す表である。
【図4】反射型光学式センサの模式図である。
【図5】キャリッジが被記録材の端縁部で反転する際のインクミストを示す正面図である。
【図6】吸引口の非吸引状態を示す一部断面側面図である。
【図7】吸引口の吸引状態を示す一部断面側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 キャリッジ
3 記録ヘッド
4 搬送ローラ
5 従動ローラ
6 プラテン
7 検出部(検知手段)
8 吸引手段(吸引ファン)
10 ダクト
11、12、13、14 吸引口
15 被記録材
50 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドを搭載して被記録材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジと、
被記録材の幅を検知するための検知手段と、
前記キャリッジの移動方向の複数位置に配された吸引口から空気を吸引可能な吸引手段と、
被記録材の幅に基づいて前記キャリッジの移動範囲を決定するとともに、前記複数位置の吸引口を前記キャリッジの移動範囲に応じて選択的に吸引状態にするように制御する制御手段と、
備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
記録中は、前記キャリッジの移動反転位置の近傍の吸引口を吸引状態にし、それ以外の吸引口を非吸引状態にすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
記録を終了したときは、全ての吸引口を吸引状態にすることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−137394(P2010−137394A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314158(P2008−314158)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】