説明

インクジェット記録装置

【課題】2個のノズルを有するインクジェット記録装置において、各々のノズルで印字した文字の縦方向の間隔を調整可能にするための技術を提供する。
【解決手段】2個のノズルが同じ縦ドット数のマトリスク文字を印字する場合、ノズル毎に帯電電圧を変更可能にすることにより、上下文字間の間隔が調整できないという問題を解決することが可能となる。また、上側に位置するノズルから噴出されるインク粒子が下側へ偏向し、下側に位置するノズルから噴出されるインク粒子が上側に偏向させることによっても、上下文字間の間隔を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、例えば、製品のマーキングに使用される産業用インクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からインクジェット記録装置に関しては、単一ノズルの記録ヘッドや2ノズルの記録ヘッドを有しているものがある。ここで、2個のノズルを有するインクジェット記録装置については、例えば特許文献1乃至3に示されるように、2個のノズルから噴出されるインク粒子の偏向方向が同じであり、2個のノズルで同じ縦ドット数のマトリクス文字を印字した場合の最大帯電電圧と最小帯電電圧の差(以下、帯電電圧幅と略す)も同じである。
【0003】
【特許文献1】特表2005−515918号公報
【特許文献2】欧州特許0262004号公報
【特許文献3】欧州特許0949077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、ノズル間に配置距離も存在するため、物理的に2個のノズルでそれぞれ印字した文字の間隔が広がり、その間隔を調整することが出来ない。このことについて、より詳細に説明する。図1及び2は、従来の2個のノズルを有するインクジェット記録装置の印字の様子を示す図である。
【0005】
まず、図1の印字例について説明する。図1では、2個のノズルが共に縦5ドットのマトリクス文字を印字し、偏向方向に対し上側に位置するノズル14が“E”という文字を、偏向方向対し下側に位置するノズル19が“B”という文字を印字している。
【0006】
インクジェット記録装置では、帯電電圧の大きさによってインク粒子の着弾位置が決まるため、図1のノズル14の印字例では、縦5ドットのマトリクス文字を形成するうえで最も下側に位置する最下位ドット28には70Vの最小帯電電圧を、最も上側に位置する最上位ドット29には190Vの最大帯電電圧を印加させ文字を形成している。この時の帯電電圧幅は120Vである。また、縦1列ドット30を形成するのに帯電波形は図1に示すような階段波となる。
【0007】
一方、ノズル19についてもノズル14と同様、最下位ドット31には70Vの最小帯電電圧を、最上位ドット32には190Vの最大帯電電圧を印加させ縦5ドットのマトリクス文字を形成している。この時の帯電電圧幅はノズル19と同様120Vである。
【0008】
このように従来の制御方法ではこの2個のノズルの帯電電圧幅は常に同じである。
【0009】
また、図1に示すように2個のノズルから噴出されたインク粒子の偏向方向が同じであり、更にノズル間の配置距離Lも存在するため、それぞれのノズルで印字した文字の間に物理的に大きな間隔が発生してしまう。
【0010】
上下の文字間隔は狭い方が見た目が良く、印字スペースが小さくても対応できるため、文字間隔を狭めることが望まれるが、上述の従来技術ではこの文字間の間隔を狭く調整することができず、小さい被印字物(小さいスペース)に印字できない。
【0011】
また、図2の印字例についても図1と同様な問題を抱えている。つまり、図2の印字例では、ノズル14が最下位ドット28のインク粒子には70V、最上位ドット29のインク粒子には190Vの帯電電圧を印加させ、この時の帯電電圧幅が120Vである。これに対し、下側に位置するノズル19は最下位ドット31のインク粒子に−190V、最上位ドット32のインク粒子に−70Vの帯電電圧を印加させ、帯電電圧幅がノズル14と同じ120Vである。図2の例も図1の例と同様に2個のノズルの偏向方向が同じであり且つ配置距離Lが存在する故に、印字した文字の間に大きな間隔が生じるという現象が発生する。
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、2個のノズルを有するインクジェット記録装置において、各々のノズルで印字した文字の間隔を調整可能にするための技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、第1及び第2のノズルを有し、それぞれのノズルから噴出したインク粒子により、被印字物上にドットマトリクス状の文字を並列印字するインクジェット記録装置であって、第1のノズルから噴出されたインク粒子を帯電させるための第1の帯電電極と、第2のノズルから噴出されたインク粒子を帯電させるための第2の帯電電極と、第1の帯電電極により帯電されたインク粒子を第1の偏向方向に偏向する第1の偏向手段と、第2の帯電電極により帯電されたインク粒子を第2の偏向方向に偏向する第2の偏向手段と、入力された印字する文字データ、ドットマトリクス、及び段数を含む印字制御情報に基づいて、第1及び第2の帯電電極が前記インク粒子に印加する帯電電圧を制御する制御手段と、を備える。そして、第1及び第2の偏向手段による第1及び第2の偏向方向は同一である。また、第1及び第2のノズルがそれぞれ同じ縦ドット数のマトリクス文字を印字する場合、制御手段は、第1の帯電電極が印加する第1の帯電電圧の幅(最大帯電電圧と最小帯電電圧の差)と、第2の帯電電極が印加する第2の帯電電圧の幅を異なるように帯電電圧の値を制御し、第1のノズルが印字する文字と第2のノズルが印字する文字の縦方向の間隔を調整する。
【0014】
上記インクジェット記録装置は、さらに、印字制御情報に対応する、第1及び第2の帯電電圧値の組合せ(最大帯電電圧と最小帯電電圧の値を含む)を格納する帯電電圧テーブルを備える。このとき、制御手段は、印字制御情報に対応する第1及び第2の帯電電圧の組合せを帯電電圧テーブルから取得する。
【0015】
別の態様のインクジェット記録装置においては、制御手段は、第1及び第2の帯電電極がインク粒子に印加する前記帯電電圧の幅を同一に制御する。そして、第1及び第2の偏向手段による第1及び第2の偏向方向は異なる。この場合、第2の偏向手段は、第1及び第2のノズルのうち、下側に位置する第2のノズルから噴出されるインク粒子を上側へ偏向する。また、第1の偏向手段は、上側に位置する第1のノズルから噴出されるインク粒子を下側に偏向する。ここで、第1及び第2の偏向手段は、それらが共有する、所定電圧が印加される第1の偏向電極と、それぞれ接地された第2及び第3の偏向電極と、を含むようにしてもよい。つまり、3枚の偏向電極によって第1及び第2の偏向手段を構成するようにしてもよい。
【0016】
また、別の態様においては、制御手段は、第2の帯電電極に最大帯電電圧から順に最小帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、第2のノズルから出力されたインク粒子については、印字する文字データの最下位ドットから最上位ドットへ順々に帯電し、第1の帯電電極に最小帯電電圧から順に最大帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、第1のノズルから出力されたインク粒子については、印字する文字データの最上位ドットから最下位ドットへ順々に帯電にする。
【0017】
さらに、別の態様においては、制御手段は、第2の帯電電極に最小帯電電圧から順に最大帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、第2のノズルから出力されたインク粒子については、印字する文字データの最上位ドットから最下位ドットへ順々に帯電し、第1の帯電電極に最大帯電電圧から順に最小帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、第1のノズルから出力されたインク粒子については、印字する文字データの最下位ドットから最上位ドットへ順々に帯電にする。
【0018】
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2個のノズルを有するインクジェット記録装置においても、2個のノズルでそれぞれ印字した文字の間隔を調整できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0021】
1)第1の実施形態
<インクジェット記録装置の内部構成>
図3は、本発明に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。図3に示されるように、本発明のインクジェット記録装置は、インクジェット記録装置全体を制御するMPU(マイクロプロセッシングユニット)1と、インクジェット記録装置内で一時的にデータを記憶しておくRAM(ランダムアクセスメモリー)2と、プログラムなどをあらかじめ記憶するROM(リードオンリーメモリー)3と、印字する内容等を表示する表示装置4と、パネルインターフェース5と、印字する文字情報を入力するパネル6と、被印字物検出回路7と、インクジェット記録装置の印字動作を制御する印字制御回路8と、ノズル14から噴出されるインク粒子に帯電する帯電データを記憶しておく帯電RAM9と、ノズル19から噴出されるインク粒子に帯電する帯電データを記憶しておく帯電RAM10と、帯電データ9を帯電信号にする文字信号発生回路11と、帯電データ10を帯電信号にする文字信号発生回路12と、データ等を送るバスライン13と、インクを噴出する偏向方向に対し上側に位置するノズル14と、ノズル14より噴出したインクが粒子になりそのインク粒子に電荷を加える帯電電極15と、ノズル14のプラス偏向電極16と、ノズル14のマイナス偏向電極17(プラス偏向電極16とマイナス偏向電極17が電界を形成する)と、ノズル14のから噴出されインク粒子のうち印字に使用しないインクを回収するガター18と、を備えている。
【0022】
なお、ノズル14に対し、ノズル19はインクを噴出する偏向方向に対し下側に位置するノズルである。また、インクジェット記録装置は、ノズル19より噴出したインクが粒子になりそのインク粒子に電荷を加える帯電電極20と、ノズル19のプラス偏向電極21と、ノズル19のマイナス偏向電極22(プラス偏向電極21とマイナス偏向電極22が電界を形成する)と、ノズル19のから噴出されインク粒子のうち印字に使用しないインクを回収するガター23と、ガター18及びガター23より回収されたインクを再びノズルへ供給するポンプ24と、被印字物を検知するセンサー25と、印字の対象となる被印字物26を搬送するコンベア27と、を備えている。
【0023】
次に、上述の構成を有するインクジェット記録装置の印字動作について簡単に説明する。まず、パネルインターフェース5を介してパネル6で印字する内容等の情報が入力されると、MPU1は、ROM3に記憶されているプログラムにより、インク粒子へ帯電させる帯電データ(図示しないテーブルに格納されている)を印字情報に応じて作成する。また、MPU1は、バスライン13を介してノズル14で印字する帯電データを帯電RAM9へ格納し、ノズル19で印字する帯電データを帯電RAM10へ格納する。
【0024】
被印字物検知センサー25が被印字物26を検知すると、被印字物検知回路7を通じて、MPU1に印字開始の指令が届く。MPU1は、バスライン13を介して、帯電RAM9に記憶している帯電データを文字信号発生回路11へ送り、帯電RAM10に記憶している帯電データを文字信号発生回路12へ送る。
【0025】
印字制御回路8は、バスライン13を介して、この帯電信号を帯電電極15と帯電電極20へ送出するタイミングをコントロールする。ノズル14においては噴出されたインクが帯電電極15内で粒子化し電荷を受け、プラス偏向電極16とマイナス偏向電極17によって形成される電界を飛行通過することにより偏向され、被印字物26へとインク粒子が飛行し付着することで印字される。また、ノズル19においてもノズル14と同様に、噴出されたインクが帯電電極20内で粒子化し電荷を受け、プラス偏向電極21とマイナス偏向電極22によって形成される電界を飛行通過することにより偏向され、被印字物26へとインク粒子が飛行し付着することで印字される。
【0026】
インク粒子は、インク粒子の帯電量に応じて偏向される。帯電量の大きいインク粒子の偏向量は大きく、帯電量の小さい粒子の偏向量は小さい。印字に使用されなかったインク、すなわち、帯電されなかったインク粒子はガター18とガター23より回収され、ポンプ24によって再びノズル14とノズル19へ供給される。以上の方法により2個のノズルを有するインクジェット記録装置は印字を行う。
【0027】
<文字間隔調整の動作>
第1の実施形態における上下文字間隔の調整動作(印字する前の処理)について、図4及び5を用いて説明する。図4は、上下文字調整動作(1個のノズルが縦1列のドットの印字をする動作)を説明するためのフローチャートであり、2個のノズルを有するインクジェット記録装置において1個分のノズルが縦1列のドットを印字するにあたっての制御フローを示したものである。また、図5は、第1の実施形態による印字例を示したものである。
【0028】
図4において、まず、操作者がノズル14とノズル19で印字する文字データ、ドットマトリクス文字のサイズや段数、上下の文字列の間隔等の情報をパネル6(図3参照)より入力し、インクジェット記録装置のMPU1はそれを受け付ける(ステップS101及びS102)。
【0029】
次に、MPU1は、ノズル14の制御としては、操作者が入力したノズル14で印字する文字データ、ドットマトリクス文字のサイズ、段数、上下の文字列の間隔等の情報(印字制御情報)を基に、ROM3に書込んだソフトウェアの機能により縦1列の縦ドット数を算出する(ステップS103)。図5の例の場合は、ドットマトリクス文字の縦ドット数が5ドット、段数が1段のためノズル14で印字する縦1列の縦ドット数が5になる。
【0030】
そして、MPU1は、最大帯電電圧と最小帯電電圧(図5の例の場合、190Vと120V)を図示しない帯電電圧テーブルから取り込む(ステップS104)。例えば、ノズル毎に帯電電圧の帯電量を制御可能とするソフトウェアを設け、予めノズル14とノズル19の最大帯電電圧と最小帯電電圧が文字の種類やドットマトリックスの組み合わせに基づいて決められ、これらの情報が予めソフトウェアに盛込みROM3(帯電電圧テーブル)に書き込まれている。この帯電電圧テーブルから、ドットマトリックス文字のサイズ、文字データ(種類)、段数、上下の文字列の間隔等により最適な最大電帯電圧と最小帯電電圧の組合せが選択される。
【0031】
続いて、MPU1は、ドット数カウンター(図示せず)を初期化し、1つのノズルが印字する縦1列の文字情報を取得する(ステップS105及び106)。そして、MPU1は、縦1列の最下位粒子をカウント“1”とし、縦ドット数との比較を行う(ステップS107)。ここでは最下位粒子から最上位粒子になるまで順番にカウントされるように縦ドット数とカウンタとの数値を比較するようにしている。
【0032】
また、MPU1は、最下位粒子が文字情報ドットマトリクスを形成する上で必要とされるか否かを判定する(ステップS108)。必要とされる粒子である場合(ステップS108でYes)は、MPU1は、ROM3に書込んだ最大帯電電圧と最小帯電電圧の情報を基に帯電電圧の大きさを算出する(ステップS109)。一方、必要とされない粒子である場合(ステップS108でNo)は、MPU1は、このインク粒子を無荷電粒子と見なす(ステップS110)。そして、MPU1は、算出された帯電電圧の大きさ、或いは、無荷電粒子に関する情報(帯電データ)を、バスライン13を介して帯電RAM9(図3参照)に書込む(ステップS111)。さらに、MPU1は、帯電RAM9に帯電データを書込む毎にドットカウンターに1(ドットカウンターをインクリメント)を足す(ステップS112)。
【0033】
このような処理を繰り返すことで各粒子の帯電電圧の帯電データが順番に帯電RAM9に書き込まれる。帯電RAM9に格納された帯電データは、バスライン13を介して文字信号発生回路11へ送られる。そして、文字信号発生回路11は、この帯電データを帯電信号の帯電電圧の波形に変換する。このようにしてノズル14が予め決め最大帯電電圧と最小帯電電圧の情報を基に帯電波形が作成される。なお、ノズル19についてもノズル14とまったく同じ制御方法である。
【0034】
以上のようなソフトウェアにノズル14とノズル19にそれぞれ帯電する最大帯電電圧と最小帯電電圧の情報を予め盛込むことにより、ノズル毎に帯電電圧を予め設定することが可能となる。インク粒子の偏向量は帯電電圧の大きさによって制御できるため、本機能によりノズル毎に噴出されるインク粒子の着弾位置も予め設定することが可能となる。
【0035】
インクジェット記録装置から噴出されるインク粒子は曲線を描きながら飛行し被印字物に付着するため、同じ帯電電圧幅でも高い帯電電圧を帯びたインク粒子は低い帯電電圧を帯びたインク粒子よりも大きな印字をするという特徴を持っている。例えば、図6に示すように、帯電電圧幅50Vと同じ場合でも、帯電電圧が高い方(最小帯電電圧200V、最大帯電電圧250V)が帯電電圧低い方(最小帯電電圧100V、最大帯電電圧150V)よりも大きな文字を印字することになる。
【0036】
そのため、偏向方向に対し下側に位置する文字の帯電電圧を上げて上側の文字に近づける時には、同じ大きさの文字を印字するのに、下側の帯電電圧幅を上側の帯電電圧幅よりも小さく設定することが必要不可欠である。
【0037】
従来の制御方式では、図1及び2に示すように、帯電電圧幅は常に同じにしか設定していない。そのため、図1の文字“B”を文字“E”に近づけても、同じ帯電電圧幅だと文字“B”の大きさは文字“E”よりも大きく印字してしまい印字のバランスが悪くなるという問題が生じる。
【0038】
よって、第1の実施形態による印字方法を実行することにより、ノズル毎に帯電電圧幅を変えることが可能となる。図5に示す印字例のように、ノズル14の帯電電圧は図2のノズル14の帯電電圧とまったく同じである一方、ノズル19の最小帯電電圧を200Vに設定し、最大帯電電圧を280Vに設定し、帯電電圧幅を80Vとすることで、文字“B”の印字位置を文字“E”に近づけさせ、帯電電圧幅を小さくすることで同じ大きさの文字を印字することが可能となる。
【0039】
2)第2の実施形態
従来の2個ノズルによる印字では、図1及び2に示すように、インク粒子の偏向方向が同じであり、これが一因となり印字した文字の間隔を狭くできないという問題がある。
【0040】
この問題を解決するために、第1の実施形態では、ノズル14とノズル19の帯電電圧を変更することで文字間の間隔と文字の大きさを調整する。これに対し、第2の実施形態では、2個のノズルから噴出されるインク粒子の偏向方向を異なるようにする。つまり、下側に位置するノズル19から噴出されるインク粒子は上側へ偏向し、上側に位置するノズル14から噴出されるインク粒子は下側に偏向させることで、第1の実施形態と同様に、“文字間隔が広い”という問題を解決することが可能となる。
【0041】
図7は、このような第2の実施形態における印字例の概要を示す図である。図7では、ノズル14とノズル19に対して、共に同じ大きさの帯電電圧を帯電電極15と20に印加し、従来の制御方式の図1のプラス偏向電極16とマイナス偏向電極17の位置を入換ることで、ノズル14から噴出されるインク粒子の偏向方向を上側から下側に変更している。また、ノズル19から噴出されるインク粒子の偏向は、図1のノズル19と同じである。このように、ノズル14とノズル19は同じ帯電電圧でも、インク粒子が向かい合うようにして偏向させることにより、図7に示すように文字間の間隔を縮めることも可能となる。
【0042】
なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態において示したインクジェット記録装置(図3参照)を適用することができる。
【0043】
3)第3の実施形態
図8は、第3の実施形態における印字例の概要を示す図である。第3の実施形態による印字動作を実現するための手段は、基本的に第2の実施形態と同じである。ただし、唯一異なるのは偏向電極の枚数である。第2の実施形態では、図7に示すように4枚の偏向電極を用いてインク粒子を偏向させているが、プラス偏向電極17とプラス偏向電極21は同電位であるため、第3の実施形態ではこのプラス偏向電極17とプラス偏向電極21を1枚のプラス電極に統合する。これにより第2の実施形態と同様な機能を実現し、かつ偏向電極の構造を簡略化することができるようになる。
【0044】
4)第4の実施形態
第2及び第3の実施形態では、ノズル19から噴出されるインク粒子は上側に偏向し、ノズル14から噴出されるインク粒子は下側に偏向することで文字間の間隔が広いという問題を解決することが可能となる。
【0045】
しかし、第2及び第3の実施形態にも欠点がある。インクジェット記録装置は、被印字物26をインク粒子の偏向方向とほぼ垂直に相対移動させながら印字を行うという原理を採用している。2個のノズルのインク粒子への帯電順番(帯電波形)も同じである場合、2個のノズルから噴出されるインク粒子の偏向方向が異なることにより、図7と図8の印字結果に示すように文字の傾きが不揃いになり、印字の見栄えが悪いという問題が生じる。
【0046】
この問題を解決するために、第4の実施形態では、図9に示されるように、ノズル19から噴出されるインク粒子への帯電順番を最下位ドットから最上位ドットへ、ノズル14から噴出されるインク粒子への帯電順番を最上位ドットから最下位ドットへと順々に帯電する。これにより、文字の傾きを均一に揃えることが可能となる。
【0047】
5)第5の実施形態
第5の実施形態では、図10に示されるように、ノズル19から噴出されるインク粒子への帯電順番を最上位ドットから最下位ドットへ、ノズル14から噴出されるインク粒子への帯電順番を最下位ドットから最上位ドットへと順々に帯電することで第4の実施形態と同じ効果が得られる。
【0048】
<まとめ>
本実施形態によれば、2個のノズルが同じ縦ドット数のマトリスク文字を印字する場合、ノズル毎に帯電電圧を変更可能にすることにより、上下文字間の間隔が調整できないという問題を解決することが可能となる。
【0049】
また、上側に位置するノズルから噴出されるインク粒子が下側へ偏向し、下側に位置するノズルから噴出されるインク粒子が上側に偏向させることによっても、上下文字間の間隔を調整することができる。
【0050】
さらに、通常4枚構成の偏向電極を3枚で構成することにより、偏向部の構造をシンプルにすることができる。
【0051】
下側に位置するノズルからのインク粒子を最下位ドットから最上位ドットへ順々に帯電する一方、上側に位置するノズルからのインク粒子を最上位ドットから最下位ドットへ順々に帯電にする。これにより、偏向方向の異なる2個のノズルを有するインクジェット記録装置において、それぞれのノズルで印字したドットマトリクス文字の傾きを均一に揃えることが可能となる。
【0052】
また、下側に位置するノズルからのインク粒子を最上位ドットから最下位ドットへ順々に帯電する一方、上側に位置するノズルからのインク粒子を最下位ドットから最上位ドットへ順々に帯電にする。これにより、偏向方向の異なる2個のノズルを有するインクジェット記録装置においてもそれぞれのノズルで印字したドットマトリクス文字の傾きを均一に揃えることが可能となる。
【0053】
なお、第1の実施形態と、第2乃至第5の実施形態の何れかを組み合せてインクジェット記録装置を構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】従来の2個ノズルによる印字を示す概要(1)を示す図である。
【図2】従来の2個ノズルによる印字を示す概要(2)を示す図である。
【図3】本発明によるインクジェット記録装置の全体構成を示す図である。
【図4】本発明における文字間隔調整動作(印字処理のための前処理)を説明するためのフローチャートである。
【図5】第1の実施形態による文字間隔調整動作の概要を示す図である。
【図6】偏向電圧の大きさの差異によるインク粒子着弾の差異を示す図である。
【図7】第2の実施形態による文字間隔調整動作の概要を示す図である。
【図8】第3の実施形態による文字間隔調整動作の概要を示す図である。
【図9】第4の実施形態による文字間隔調整動作の概要を示す図である。
【図10】第5の実施形態による文字間隔調整動作の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…MPU、2…RAM、3…ROM、4…表示装置、5…パネルインターフェース、6…パネル、7…被印字物検知回路、8…印字制御回路、9…ノズル14の帯電データを格納する帯電RAM、10…ノズル19の帯電データを格納する帯電RAM、11…帯電RAM9の文字信号発生回路、12…帯電RAM10の文字信号発生回路、13…バスライン、14…偏向方向に対し上側に位置するノズル、15…ノズル14の帯電電極、16…ノズル14のプラス偏向電極、17…ノズル14のマイナス偏向電極、18…ノズル14のガター、19…偏向方向に対し下側に位置するノズル、20…ノズル19の帯電電極、21…ノズル19のプラス偏向電極、22…ノズル19のマイナス偏向電極、23…ノズル19のガター、24…ポンプ、25…被印字物検知センサー、26…被印字物、27…コンベア、28…ノズル14が印字した最下位ドット、29…ノズル14が印字した最上位ドット、30…ノズル14が印字した縦1列のドット、31…ノズル19が印字した最下位ドット、32…ノズル14が印字した最上位ドット、33…ノズル19が印字した縦1列のドット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のノズルを有し、それぞれのノズルから噴出したインク粒子により、被印字物上にドットマトリクス状の文字を並列印字するインクジェット記録装置であって、
前記第1のノズルから噴出されたインク粒子を帯電させるための第1の帯電電極と、
前記第2のノズルから噴出されたインク粒子を帯電させるための第2の帯電電極と、
前記第1の帯電電極により帯電されたインク粒子を第1の偏向方向に偏向する第1の偏向手段と、
前記第2の帯電電極により帯電されたインク粒子を第2の偏向方向に偏向する第2の偏向手段と、
入力された印字する文字データ、ドットマトリクス、及び段数を含む印字制御情報に基づいて、前記第1及び第2の帯電電極が前記インク粒子に印加する帯電電圧を制御する制御手段と、を備え、
前記第1及び第2の偏向手段による前記第1及び第2の偏向方向は同一であり、
前記第1及び第2のノズルがそれぞれ同じ縦ドット数のマトリクス文字を印字する場合、前記制御手段は、前記第1の帯電電極が印加する第1の帯電電圧の幅(最大帯電電圧と最小帯電電圧の差)と、前記第2の帯電電極が印加する第2の帯電電圧の幅を異なるように前記帯電電圧の値を制御し、前記第1のノズルが印字する文字と前記第2のノズルが印字する文字の縦方向の間隔を調整することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
さらに、前記印字制御情報に対応する、前記第1及び第2の帯電電圧値の組合せ(最大帯電電圧と最小帯電電圧の値を含む)を格納する帯電電圧テーブルを備え、
前記制御手段は、前記印字制御情報に対応する前記第1及び第2の帯電電圧の組合せを前記帯電電圧テーブルから取得することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
第1及び第2のノズルを有し、それぞれのノズルから噴出したインク粒子により、被印字物上にドットマトリクス状の文字を並列印字するインクジェット記録装置であって、
前記第1のノズルから噴出されたインク粒子を帯電させるための第1の帯電電極と、
前記第2のノズルから噴出されたインク粒子を帯電させるための第2の帯電電極と、
前記第1の帯電電極により帯電されたインク粒子を第1の偏向方向に偏向する第1の偏向手段と、
前記第2の帯電電極により帯電されたインク粒子を第2の偏向方向に偏向する第2の偏向手段と、
入力された印字する文字データ、ドットマトリクス、及び段数を含む印字制御情報に基づいて、前記第1及び第2の帯電電極が前記インク粒子に印加する帯電電圧を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1及び第2の帯電電極が前記インク粒子に印加する前記帯電電圧の幅を同一に制御し、
前記第1及び第2の偏向手段による前記第1及び第2の偏向方向は異なり、前記第2の偏向手段は、前記第1及び第2のノズルのうち、下側に位置する第2のノズルから噴出されるインク粒子を上側へ偏向し、前記第1の偏向手段は、上側に位置する第1のノズルから噴出されるインク粒子を下側に偏向することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の偏向手段は、それらが共有する、所定電圧が印加される第1の偏向電極と、それぞれ接地された第2及び第3の偏向電極と、を含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第2の帯電電極に最大帯電電圧から順に最小帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、前記第2のノズルから出力されたインク粒子については、前記印字する文字データの最下位ドットから最上位ドットへ順々に帯電し、前記第1の帯電電極に最小帯電電圧から順に最大帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、前記第1のノズルから出力されたインク粒子については、前記印字する文字データの最上位ドットから最下位ドットへ順々に帯電にすることを特徴とする請求項3又は4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第2の帯電電極に最小帯電電圧から順に最大帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、前記第2のノズルから出力されたインク粒子については、前記印字する文字データの最上位ドットから最下位ドットへ順々に帯電し、前記第1の帯電電極に最大帯電電圧から順に最小帯電電圧まで帯電電圧を印加することによって、前記第1のノズルから出力されたインク粒子については、前記印字する文字データの最下位ドットから最上位ドットへ順々に帯電にすることを特徴とする請求項3又は4に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−137528(P2010−137528A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318913(P2008−318913)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】