インクジェット記録装置
【課題】ノズルからのインクの吐出不良を生じさせることなく、再分散のムラを生じさせることなく、しかも印字速度に影響を与えることなく、インクに含まれる顔料凝集体を再分散させる。
【解決手段】分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、液体インクに遠心力を付与して液体インク中に分散されている顔料凝集体を遠心分離する遠心分離部201と、遠心分離部201によって顔料凝集体が遠心分離された後の液体インクを貯留するインク貯留部(ダンパタンク)と、インク貯留部(ダンパタンク)に貯留された液体インクを前記インクジェットヘッドに供給する。
【解決手段】分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、液体インクに遠心力を付与して液体インク中に分散されている顔料凝集体を遠心分離する遠心分離部201と、遠心分離部201によって顔料凝集体が遠心分離された後の液体インクを貯留するインク貯留部(ダンパタンク)と、インク貯留部(ダンパタンク)に貯留された液体インクを前記インクジェットヘッドに供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で高精彩な画像を印刷するために、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いる技術が従来から知られている。このような液体インクは、色材として染料又は顔料が用いられ、分散媒体として揮発性の高い有機溶剤又は揮発性の低いオイル若しくはアルコールなどが入った水系が用いられる。近年の傾向として、定着性、鮮明度、色濃度、印字滲み、耐水性、耐光性などに優れている顔料を色材として分散媒体中に分散したインクが種々報告され、実用化されるに至って来ている。
【0003】
また、近年、感光性を有する液体インクとこれを用いたインクジェット記録装置が注目され始めている。このインクジェット記録装置は、被印刷面に吐出した感光性を有する液体インクを紫外線又は電子線などの活性エネルギー線を照射することで速やかに光硬化させる。使用する感光性インクとしては、顔料、重合性モノマー、重合開始剤を含んだラジカル重合性インクや光カチオン硬化型インクが代表的である。
【0004】
感光性インクを光硬化させる技術によれば、光照射によりインク層を非流動化することができるので、比較的高い品質の印刷物を得ることができる。しかしながら、上記したラジカル重合性インクや光カチオン硬化型インクは、分散媒体中に分散した顔料が経時的に数μmほどに凝集して巨大粒子化し、顔料凝集体を形成する。この顔料凝集体は、インクジェットヘッドのノズル近傍で悪影響を及ぼし、インクジェットヘッドの吐出安定性を不安定にしてしまうという問題を生じさせる。
【0005】
このような問題に対する対策案として、顔料凝集体の再分散を促すことができるようにしたインクジェット記録装置が提案されている。例えば、特許文献1には、インクジェットヘッド全体をヘッドの壁に設置した超音波アクチュエータにより振動させ、ヘッド内部に供給されているインクのうち、顔料凝集体を再分散させることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術によれば、ノズルからのインクの吐出不良を生じさせ易いという問題がある。このような吐出不良は、インクジェットヘッド全体を振動させるに際して、ノズル近傍の気液界面で形成されるメニスカスに乱れが生じたり、あるいは気泡の巻き込みが生じたりすることによって発生する。
【0007】
特許文献1に記載された技術は、インクジェットヘッド内のインクに均等に超音波が伝わらず、これによってインクに含まれている顔料凝集体の再分散にムラができるという問題も有している。
【0008】
その他、超音波による破砕効果がインク全体に行き渡るまでに時間がかかるため、高速印字に向いていないという点も、特許文献1に記載された技術の問題点である。
【0009】
本発明の目的は、ノズルからのインクの吐出不良を生じさせることなく、再分散のムラを生じさせることなく、しかも印字速度に影響を与えることなく、インクに含まれる顔料凝集体を再分散させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本参考例は、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、前記液体インクに超音波振動を付与して前記液体インク中に分散されている顔料凝集体を再分散させ、超音波振動が付与された後の前記液体インクをインク貯留部に貯留しておき、前記インク貯留部に貯留された前記液体インクを前記インクジェットヘッドに供給するようにした。
【0011】
本発明は、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、前記液体インクに遠心力を付与して前記液体インク中に分散されている顔料凝集体を遠心分離し、前記顔料凝集体が遠心分離された後の前記液体インクをインク貯留部に貯留しておき、前記インク貯留部に貯留された前記液体インクを前記インクジェットヘッドに供給するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ノズルからの液体インクの吐出不良を生じさせることなく、再分散のムラを生じさせることなく、しかも印字速度に影響を与えることなく、液体インクに含まれる顔料凝集体を再分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態のインクジェット記録装置の概略構造を示す正面図である。
【図2】液体インクに含まれる顔料凝集体を再分散するための構造を示す縦断正面図である。
【図3】超音波振動付与部及び第1の温度調節部の縦断正面図である。
【図4】中間パイプにおいて、液体インクが超音波に晒される部分の面積を例示する模式図である。
【図5】遠心分離部及び第1の温度調節部の縦断正面図である。
【図6】超音波振動付与部を通過する液体インク(温度24±1℃)の通過時間を横軸にとり、吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図7】超音波振動付与部を通過する液体インク(温度35±1℃)の通過時間を横軸にとり、吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図8】超音波振動付与部を通過する液体インク(温度50±1℃)の通過時間を横軸にとり、吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図9】吐出エラーを最少化することができる超音波振動印加エネルギーの範囲と液体インクの温度との関係を示すグラフである。
【図10】遠心分離部を通過する液体インク(付与される遠心力7500G)の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図11】遠心分離部を通過する液体インク(付与される遠心力15000G)の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.参考例
本発明の参考例を図1ないし図4に基づいて説明する。
【0015】
[基本構成]
図1は、本参考例のインクジェット記録装置101の概略構造を示す正面図である。
【0016】
インクジェット記録装置101は、複数枚の記録媒体102を積層保持する自動給紙装置103から給紙された記録媒体102をコンベア構造の搬送装置104で搬送し、その搬送過程でインクジェットヘッド105によって記録媒体102に所定事項を印字するという概略構造を有する。インクジェットヘッド105よりも記録媒体102の搬送方向下流側には、UV照射光源106と加熱部107とが順に配列されている。UV照射光源106は、インクジェットヘッド105より記録媒体102に吐出された液体インク108(図2参照)に紫外線を照射し、その液体インク108を硬化させる。加熱部107は、紫外線硬化後の液体インク108を加熱する。加熱部107による液体インク108の加熱は、液体インク108の硬化を促進する。本参考例では、インクとして、紫外線照射によって硬化する液体インク108が用いられていることから、UV照射光源106及び加熱部107が必要となる。インクとして、通常の顔料系液体インクが用いられる場合には、UV照射光源106及び加熱部107は不要である。以下、各部の詳細を説明する。
【0017】
(1)液体インク108
液体インク108は、一例として、光カチオン硬化型のインクジェット用顔料インクが用いられる。もっとも、インクジェット用顔料系インクであれば、光カチオン硬化型という種類に限るものではなく、顔料系インク、例えば水ベースの水性顔料インク、溶剤系ベースの顔料インク、低揮発性オイルベースの油性顔料インク、アクリルモノマーをベースにしたラジカル系の光重合硬化タイプの顔料インクを用いることができる。
【0018】
光カチオン硬化型のインクジェット用顔料インクは、少なくとも、酸の存在下で重合する少なくとも1種の溶媒と、溶媒中に溶解して光照射により酸を発生する光酸発生剤と、溶媒中に溶解又は分散した色成分とを含む組成物である。このような光カチオン硬化型のインクジェット用顔料インクは、露光後、加熱することにより硬化する。
【0019】
このような液体インク108の組成物は、通常、カチオン重合性モノマーに顔料を含んでいる。カチオン重合性モノマーは、単独であっても、混合物であっても良く、例えば、カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマー類が用いられる。このようなモノマー類としては、例えば、
・エポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量1000以下の化合物
・置換基を側鎖に有するアクリル又はビニル化合物
・カーボネート系化合物
・低分子量のメラミン化合物
・ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類
・スチレン誘導体
・アルファ−メチルスチレン誘導体
・ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類
などが用いられる。
【0020】
顔料成分としては、一般に、顔料として知られている色材であって、基本的に分散可能なものであれば何れの顔料をも用いることができる。その中でも、特に、カチオン硬化型材料においては、その機構に酸を使用しているため、酸により退色しにくい顔料が望ましい。使用可能な顔料としては、例えば、光吸収性の顔料を挙げることができる。例えば、
・カーボンブラック、カーボンリファインド、カーボンナノチューブのような炭素系顔料
・鉄黒、コバルトブルー、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄のような金属酸化物顔料
・硫化亜鉛のような硫化物顔料
・フタロシアニン系顔料
・金属の硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、及びリン酸塩のような塩からなる顔料、並びにアルミ粉末、ブロンズ粉末、及び亜鉛粉末のような金属粉末からなる顔料
を例示することができる。その他、有機系顔料、例えば、
・染料キレート、ニトロ顔料、アニリンブラック、ナフトールグリーンBのようなニトロソ顔料
・ボルドー10B、レーキレッド4Rおよびクロモフタールレッドのようなアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む。)
・ピーコックブルーレーキおよびローダミンレーキのようなレーキ顔料
・フタロシアニンブルーのようなフタロシアニン顔料
・多環式顔料(ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラノン顔料など)
・チオインジゴレッドおよびインダトロンブルーのようなスレン顔料
・キナクリドン顔料
・キナクリジン顔料
・イソインドリノン顔料
などを用いることもできる。更に、
・天然クレイ、鉛白や亜鉛華や炭酸マグネシウムなどの金属炭酸化物、バリウムやチタンなどの金属酸化物のような白色顔料
も、色成分として有用である。白色顔料を含有した液体インクは、白色印刷に使用可能なだけでなく、重ね書きによる印刷訂正や下地補正に使用することができる。
【0021】
液体インク108に使用される顔料は、発色性及び着色性に加え、磁性を有するものであっても良い。顔料に磁性を持たせるには、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、それらの合金や酸化物などの磁性粉を顔料に含有させれば良い。また、顔料に導電性を付与させても良い。顔料に導電性を持たせるには、例えば、銀、金、銅、アルミニウム、炭素、ニッケル、鉄、コバルト、鉛、錫、アンチモン、それらの任意の組み合わせの合金粉末、それらと有機物との複合体などを顔料に含有させれば良い。また、顔料は、誘電性を有するものであっても良い。顔料に誘電性を持たせるには、バリウム鉛、ビスマス、イリジウム、ルテニウム、タンタル、白金、チタン、ストロンチウム、クロムなどの合金やその酸化物、セラミック粉末のような誘電体粉末を顔料に含有させれば良い。また、顔料は、電磁波発熱性を有するものであっても良い。顔料に電磁発熱性を持たせるには、電磁波発熱性セラミックスやシリコン樹脂などを顔料に含有させれば良い。さらに、顔料は、蛍光性等のような他の性質を示すものであっても良い。
【0022】
(2)記録媒体102
記録媒体102は、印刷可能な媒体であれば特にその種類が限定されるものではない。記録媒体102としては、例えば、紙、OHPシート、樹脂フィルム、不織布、多孔質膜、プラスチック板、回路基板、金属基板などを使用することができる。
【0023】
(3)搬送装置104
搬送装置104は、記録媒体102が、インクジェットヘッド105、UV照射光源106、及び加熱部107の正面を順次通過するように記録媒体102を搬送する。図1中、搬送装置104は、記録媒体102を右側から左側へ向けて搬送する。搬送装置104は、一対のプーリ109にベルト110が巻き掛けられたベルト巻掛機構111と、一方のプーリ109を回転駆動する図示しない駆動部とによって構成されている。別の参考例としては、ベルト巻掛機構111は、記録媒体102を搬送する複数対の搬送ローラによって構成しても良い。
【0024】
(4)インクジェットヘッド105
インクジェットヘッド105は、画像信号に対応して記録媒体102に液体インク108を吐出し、記録媒体102の表面上にインク層を形成する。インクジェットヘッド105としては、例えば、キャリッジに搭載されたシリアル走査型ヘッド、記録媒体102の幅以上の幅を有するライン走査型ヘッドを使用することができる。高速印刷の観点では、通常、ライン走査型ヘッドの方がシリアル走査型ヘッドに比べて有利である。
【0025】
インクジェットヘッド105における液体インク108の吐出方式としては、各種の方式を用いることができる。例えば、圧電素子に電圧を印加して圧力室に圧電素子の変形によるエネルギーを作用させ、これによって液体インク108を吐出させるピエゾ式のインクジェットヘッドを用いることができる。ピエゾ式のインクジェットヘッドは、特に、低揮発性の油性顔料インク、熱に対して弱いモノマー系のラジカル重合タイプの顔料インク、光カチオン重合タイプの顔料系インクに対して、有効なインク吐出を行うことができる。
【0026】
(5)UV照射光源106
UV照射光源106は、記録媒体102の表面上に形成されたインク層に光を照射して、インク層中に酸を発生させる。UV照射光源106としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、タングステンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、レーザと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザシステム、高周波誘起紫外線発生装置、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。システムを簡便化するためには、高周波誘起紫外線発生装置、高・低圧水銀ランプ、半導体レーザなどを使用することが望ましい。
【0027】
(6)加熱部107
加熱部107は、記録媒体102の表面上のインク層を加熱し、酸を触媒とした架橋反応を促進する。加熱部107としては、例えば、赤外ランプ、セラミックヒーター、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)、温風または熱風を吹き出すブロワなどを使用することができる。
【0028】
[液体インク108に含まれる顔料凝集体を再分散するための構造]
前述したように、本参考例の形態で用いられるような光カチオン硬化型インクは、分散媒体中に分散した顔料が経時的に数μmほどに凝集して巨大粒子化し、顔料凝集体を形成する。この顔料凝集体は、インクジェットヘッド105のノズル近傍で悪影響を及ぼし、インクジェットヘッドの吐出安定性を不安定にしてしまう。そこで、本参考例では、顔料凝集体を再分散させる再分散構造が設けられている。このような再分散構造について次に説明する。
【0029】
図2は、液体インク108に含まれる顔料凝集体を再分散するための構造を示す縦断正面図である。図1及び図2に示すように、インクジェットヘッド105に供給する液体インク108は、インク容器151からインク処理部152を経てインクジェットヘッド105に供給される。
【0030】
インク容器151には、液体インク108が充填されている。この液体インク108は、第1のポンプ153の動作によって吸い上げられるようになっている。そのための構造として、第1のポンプ153の図示しない流体吸込口にはインク容器151の内部に一端が配置されたインク吸引パイプ154の他端が連結されている。第1のポンプ153によってインク容器151から吸い上げられた液体インク108は、インク処理部152に供給される。
【0031】
インク処理部152は、超音波振動付与部155と、第1の温度調節部156と、インク貯留部としてのダンパタンク157と、インク供給部としての第2のポンプ158と、圧力センサ159とから構成されている。
【0032】
超音波振動付与部155は、第1のポンプ153の作動に応じてインク容器151から吸い上げられた液体インク108に超音波振動を付与し、ダンパタンク157に供給する。液体インク108に含まれる顔料凝集体は、超音波振動の付与によって再分散される。この際、第1の温度調節部156は、超音波振動を付与されている液体インク108の温度を調節し、顔料凝集体の再分散を補助する。ダンパタンク157は、超音波振動が付与されて顔料凝集体が再分散された液体インク108を貯蔵する。第2のポンプ158は、ダンパタンク157に貯蔵されている処理済みの液体インク108を吸い上げ、インクジェットヘッド105に供給する。この際、圧力センサ159は、インクジェットヘッド105へ供給される液体インク108の圧力を検出して出力する。図示しない制御部は、圧力センサ159の出力をモニタし、その出力値が予め定められた値になるように第2のポンプ158を駆動制御する。
【0033】
図3は、超音波振動付与部155及び第1の温度調節部156の縦断正面図である。超音波振動付与部155は、第1のポンプ153の図示しない排出口から排出される液体インク108をダンパタンク157に導く中間パイプ160を備えている。この中間パイプ160は、その一部にカップ状の屈曲部161を有する。屈曲部161は、他の液体インク108の導通空間に比して、容積が大きくなっている。この容積が大きくなった屈曲部161には超音波発信部162が配置されている。超音波発信部162は、超音波発生部163に連結され、この超音波発生部163に駆動されて超音波振動を発生する。このような超音波発信部162を屈曲部161に配置するために、中間パイプ160には屈曲部161の位置に挿通孔164が形成され、この挿通孔164の部分で超音波発信部162が中間パイプ160に挿入されている。挿通孔164と超音波発信部162との嵌合部分はシール部材165によってシールされ、この嵌合部分からの液体インク108の漏れ出しが防止されている。
【0034】
超音波発生部163に駆動された超音波発信部162が発生する超音波振動は、中間パイプ160を通過する液体インク108に作用する。これにより、液体インク108に凝集して分散している顔料凝集体が超音波振動によって破砕され、再分散される。この際、液体インク108に温度上昇が発生する。液体インク108の種類によっては、所定温度以上に温度上昇すると、液体インク108に含有されている成分同士が反応して化学変化を来たし、変質を生ずることがある。例えば、液体インク108として、本参考例で用いられる光カチオン硬化型インクジェット顔料インクは、温度が約50℃以上に上昇すると、化学変化などにより変質してしまう。このため、インクジェットヘッド105により連続吐出を行った場合、顔料凝集体の超音波振動による破砕効果が安定に行われなくなってしまう。これに対して、破砕振動エネルギーを与えすぎると再凝集が起こってしまうことから、液体インク108の温度上昇は、超音波発信部162が発生する超音波振動エネルギーの有効範囲を狭めてしまう。このようなことから、液体インク108の温度上昇は、連続吐出時の吐出エラーの増加などの問題を生じさせる。第1の温度調節部156は、そのような液体インク108の温度上昇を抑制し、液体インク108の温度上昇によって発生する問題を解消する。
【0035】
第1の温度調節部156は、超音波振動付与部155の中間パイプ160と一体に形成された冷却パイプ166を有する。この冷却パイプ166は、中間パイプ160の屈曲部161の部分において、隔壁167によって中間パイプ160と区画されて形成されている。隔壁167は、熱伝導率が比較的良好な材料であって、かつ、液体インク108に腐食されない材料、例えば、SUS材や銅などで形成されている。こうして形成された冷却パイプ166には、その内部に冷媒、例えば冷却水が循環する。そのための構造として、冷媒を冷却パイプ166の内部に循環させる循環機構168が設けられている(図2参照)。第1の温度調節部156は、冷却パイプ166の内部に循環させる冷媒の循環を制御することで、液体インク108の温度を調節する。
【0036】
図4は、中間パイプ160において、液体インク108が超音波に晒される部分の面積を例示する模式図である。液体インク108が超音波に晒される部分の容積、つまり、中間パイプ160の屈曲部161における液体インク108を流通させる部分の容積は、一例として、30mlに設定されている。超音波発信部162は、一例として、その直径がφ2.6cm、その高さが5cmである。この場合、中間パイプ160の屈曲部161において超音波発信部162と液体インク108とが接触する部分の接触面積Sは、
S=2.6π×5+1.32π=46.15cm2
で表すことができる。そこで、中間パイプ160の屈曲部161を流れる液体インク108に印加される超音波振動印加エネルギー(J/cm2・ml)は、液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当り、およそ、次の式1で表わすことができる。
【0037】
【数1】
【0038】
[作用]
インクジェット記録装置101を用いて印刷を行うに際しては、搬送装置104により記録媒体102を搬送する。搬送方向は、図1中、右から左に向かう方向である。この際の記録媒体102の搬送速度は、例えば、0.1m/minないし数100m/minの範囲内とされる。
【0039】
インクジェットヘッド105には、第2のポンプ158によって吸い上げられたダンパタンク157に貯蔵されている処理済みの液体インク108が供給されている。そこで、記録媒体102がインクジェットヘッド105の正面まで搬送されると、インクジェットヘッド105は画像信号に応じて液体インク108を吐出する。これにより、記録媒体102の表面上にインク層が形成される。
【0040】
記録媒体102がUV照射光源106の正面に搬送されると、UV照射光源106は記録媒体102の表面上に形成されたインク層に向けて光を照射し、インク層中に酸を発生させる。この時の照射光強度は、使用する光源の波長などに応じて異なるが、通常、数mW/cm2ないし1KW/cm2 の範囲内に収められる。インク層への露光量は、液体インク108の感度や記録媒体102の搬送速度などに応じて適宜設定することができる。
【0041】
続いて、記録媒体102が加熱部107を通過するに際して、記録媒体102の表面上に形成されたインク層が加熱される。これにより、インク層中での架橋反応が促進される。この際、加熱部107による加熱時間は、数秒ないし数10秒程度と比較的短い。したがって、加熱部107の加熱によってインク層の硬化をほぼ完全に進行させるには、最高到達温度が例えば200℃程度以下、望ましくは80℃ないし200℃、あるいは60℃ないし180℃程度の比較的高い温度となるように加熱を行なう。
【0042】
その後、記録媒体102は、例えば図示しないストッカなどに搬送され、印刷が完了する。
【0043】
ここで、インクジェット記録を安定に行なうには、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させる必要がある。インクジェットヘッド105からの液体インク108の吐出状態の安定性は、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108の色材成分である顔料粒子の状態が大きく関わっている。つまり、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させるには、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108に含まれる顔料粒子を細かく均一に揃えることが肝要である。本参考例によれば、インク容器151から第1のポンプ153によって吸い上げられた液体インク108に対して、超音波振動付与部155が超音波振動を付与する。
【0044】
つまり、液体インク108は、超音波振動付与部155において中間パイプ160を通過し、通過に際して、超音波発生部163に駆動された超音波発信部162が発生する超音波振動が液体インク108に作用する。このときの超音波振動周波数に関しては、45kHz付近が有効である。これにより、液体インク108に凝集して分散している顔料凝集体が超音波振動によって破砕され、再分散される。顔料凝集体が再分散された液体インク108は、ダンパタンク157に貯蔵され、インクジェットヘッド105に供給される。したがって、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108は、顔料凝集体が再分散された後の、顔料粒子が細かく均一に揃えられている液体インク108である。したがって、本参考例によれば、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させることができ、これにより、インクジェット記録を安定に行なうことが可能となる。
【0045】
本参考例において、液体インク108をダンパタンク157に貯蔵することは、顔料凝集体の再分散作業を良好に実行するというもう一つの技術的意義を有している。つまり、超音波振動付与部155において液体インク108に超音波振動を付与し、これによって顔料凝視体を良好に再分散させるには、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値が最適な設定されている必要がある。この際、液体インク108に印加される超音波振動印加エネルギーは、中間パイプ160において超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速によって変動する。このため、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値を最適値に維持するためには、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速を一定に維持しなければならない。
【0046】
このようなことを前提として、超音波振動付与部155において超音波振動を付与した液体インク108をダンパタンク157に一時貯蔵せず、直接的にインクジェットヘッド105に供給する場合を想定する。この場合、液体インク108の吐出動作に伴いインクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、超音波振動付与部155において超音波振動を付与しながら液体インク108をインクジェットヘッド105に供給することになる。ところが、インクジェットヘッド105における液体インク108の消費量は、印刷動作の都度、大きく変動してしまう。インクジェットヘッド105での液体インク108の消費量は、印字幅、印字速度、印字率等の各種の要因によって大きく変動するからである。一例として、2インチ318ノズルのインクジェットヘッド105で1ノズルあたり42pl吐出させて25m/minの速度で印字する場合を想定する。この場合、ベタ印字(100%印字)で1時間当り約240ml、1分あたりでは約4mlの液体インクを消費することになる。つまり、インクジェットヘッド105における液体インク108の消費量は、0〜4ml/min程度で変動することになる。このようなインクジェットヘッド105を用いて、例えば、A4の記録媒体102に対して解像度300dpiで印字をすると0〜32ml/min、解像度600dpiで印字をすると0〜192ml/minのインク消費量となる。表1に、印字率と解像度と用紙サイズとインク消費量との関係を例示する。
【0047】
【表1】
【0048】
このようなことから、超音波振動付与部155において液体インク108に超音波振動を付与しながら液体インク108を直接的にインクジェットヘッド105に供給するという前提の下では、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速も変動することになる。すると、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値も変動することになり、その結果、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に再分散させることができなくなる。
【0049】
これに対して、本参考例では、液体インク108をダンパタンク157に一旦貯蔵し、インクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、ダンパタンク157に貯蔵された液体インク108をインクジェットヘッド105に供給する。このため、第1のポンプ153を駆動制御するだけで、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速を常に一定に保つことが可能となる。その結果、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値を常に最適な設定値に維持することができ、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に再分散させることができる。
【0050】
2.第2の実施の形態
本発明の第2の実施の形態を図5に基づいて説明する。本実施の形態のインクジェット記録装置101は、基本構造において第1の実施の形態と異なる点はない。第1の実施の形態と異なるのは、インク処理部152のうち、液体インク108に含まれる顔料凝集体を再分散するための構造である。つまり、この構造として、第1の実施の形態では、液体インク108に超音波振動を付与して液体インク108の中に含まれている顔料凝集体を再分散させるのに対して、本実施の形態では、液体インク108の中の顔料凝集体を遠心分離する。つまり、本実施の形態では、第1の実施の形態の超音波振動付与部155が遠心分離部201に置き換えられている。これに伴い、第1の実施の形態において超音波振動付与部155に一体に設けられている第1の温度調節部156は、遠心分離部201に一体に設けられた第2の温度調節部251に置き換えられている。
【0051】
図5は、遠心分離部201及び第1の温度調節部156の縦断正面図である。遠心分離部201を構成する共にドーム型をした下部ハウジング202と上部ハウジング203とが接合固定され、内部に液体インク108を導入する遠心分離空間CSSを形成している。これらの下部ハウジング202及び上部ハウジング203は、第2の温度調節部251を構成する温度調節ハウジング252の内部に収納保持されている。
【0052】
温度調節ハウジング252は、冷媒導入口253から導入された冷媒、例えば冷却水を温度調節ハウジング252の内部であって下部ハウジング202及び上部ハウジング203の外周に流通させて冷媒排出口254から排出させ得る構造を備えている。冷媒は、冷媒導入口253から導入されて温度調節ハウジング252の内部を流通し、冷媒排出口254から排出され、再び冷媒導入口253に導入される。このような冷媒の循環を実現させるのは、循環機構168である(図2参照)。このように、冷媒を循環させることにより、遠心分離部201を構成する下部ハウジング202及び上部ハウジング203との内部に導入された液体インク108の温度を調節する。ここに、第1の温度調節部156が構成されている。
【0053】
遠心分離部201と第2の温度調節部251との間の隔壁は、熱伝導率の高い材料、例えば銅、アルミ、ステンレスなどで構成されている。隔壁が液体インク108の種類によっては腐食することがある。この場合には、液体インク108が接触する隔壁の表面に耐腐食性の樹脂等をコーティングする。これにより、当該部分の腐食が防止される。
【0054】
次いで、遠心分離部201について説明する。下部ハウジング202と上部ハウジング203との内部に形成された遠心分離空間CSSには、回転体204が回転自在に配置されている。回転体204は、下部ハウジング202に沿ったカップ形状をしており、回転中心となる位置に垂直スピンドル205を有する。垂直スピンドル205は、下部ハウジング202に形成された挿通孔206を挿通し、温度調節ハウジング252に設けられた軸受207に回転自在に保持されている。軸受207は、液漏れ防止用のシールを兼ねている。このような垂直スピンドル205は、図示しないモータに駆動されて回転する。モータの回転力は、例えばベルト伝達機構等を介して垂直スピンドル205に伝達される。遠心分離部201による液体インク108の遠心分離の原理は、回転体204を回転駆動することで、比重が比較的軽い流体分を上昇させ、比重が比較的重い固形分である顔料凝集体群を最外周部分である下部ハウジング202と上部ハウジング203との接合部に追いやる、というものである。そこで、下部ハウジング202と上部ハウジング203との接合部の一箇所(図5中、右側の部分)には、液体インク108の流体分から遠心分離された固形分である顔料凝集体群を外部に排出するための顔料凝集体排出口208が設けられている。
【0055】
このような構造の遠心分離部201に対して液体インク108を導入するための構造として、上部ハウジング203の頂上部か遠心分離空間CSSにインク導入パイプ209が挿入されている。このインク導入パイプ209は、一端が第1のポンプ(図2参照)の図示しない流体排出口に連結され、液体インク108の供給を受ける。そして、インク導入パイプ209は、回転体204の回転中心をなす垂直スピンドル205と同軸上に配置され、回転体204の底面近傍において液体インク108を排出する。
【0056】
遠心分離部201における上部ハウジング203の最上部位置は、顔料凝集体群が遠心分離された後の流体分だけからなる液体インク108の溜り場210となっている。この溜り場210には、ペアリングディスクポンプ211がインク導入パイプ209の上部に固定されて設けられ、このペアリングディスクポンプ211の上方に位置させてインク排出口212が上部ハウジング203に形成されている。ペアリングディスクポンプ211は、回転体204の回転によって上昇した液体インク108の流体分をインク排出口212から排出する。
【0057】
このような構成において、第1のポンプ153によってインク容器151から吸い上げられた液体インク108は、インク導入パイプ209を介して遠心分離部201の遠心分離空間CSSに導入される。遠心分離空間CSSでは、回転体204が回転駆動されることで液体インク108に遠心分離作用が及び、液体インク108は粒子サイズで遠心分離される。つまり、液体インク108が含む固形分である顔料凝集体群が流体分から遠心分離される。遠心分離された顔料凝集体群は、顔料凝集体排出口208から外部に排出される。こうして外部に排出される顔料凝集体群が遠心分離された後に残る液体インク108の流体分は、回転体204の回転によって上昇し、ペアリングディスクポンプ211によってインク排出口212から排出される。排出された液体インク108は、ダンパタンク157に供給され、一時的に貯蔵される。
【0058】
ここで、遠心分離部201による顔料凝集体分離動作で発生する遠心力は、次の式2で表すことができる。
【0059】
【数2】
【0060】
式2で表わされる遠心力は、遠心加速度とも言い、回転する物体の中心からの距離に作用する力を表すことになる。
【0061】
また、液体中に存在する粒子の沈降速度は、次のストークスの式(式3)により定義することができる。
【0062】
【数3】
【0063】
式3に示すストークスの式より、液体中に存在する粒子の沈降速度は、重力加速度に比例して、また、粒子の半径の2乗に比例して速くなることが分かる。これにより、大きい粒子は速く沈降することになる。また、遠心力により重力加速度を大きくしてやれば、更に速く大きな粒子を沈降させ、分離させることができる。つまり、本実施の形態の遠心分離部201は、ストークスの式の重力加速度を遠心加速度=遠心力に置き換えてやり、顔料凝集体を取り除く手法であると言える。
【0064】
ここで、インクジェット記録を安定に行なうには、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させる必要がある。インクジェットヘッド105からの液体インク108の吐出状態の安定性は、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108の色材成分である顔料粒子の状態が大きく関わっている。つまり、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させるには、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108に含まれる顔料粒子を細かく均一に揃えることが肝要である。本実施の形態によれば、インク容器151から第1のポンプ153によって吸い上げられた液体インク108に対して、遠心分離部201が顔料凝集体を遠心分離する。これにより、液体インク108に凝集して分散している顔料凝集体は、液体インク108の液体分から分離され、除去される。顔料凝集体が除去された液体インク108は、ダンパタンク157に貯蔵され、インクジェットヘッド105に供給される。したがって、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108は、顔料凝集体が除去された後の、顔料粒子が細かく均一に揃えられている液体インク108である。したがって、本実施の形態によれば、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させることができ、これにより、インクジェット記録を安定に行なうことが可能となる。
【0065】
本実施の形態において、液体インク108をダンパタンク157に貯蔵することは、顔料凝集体の除去作業を良好に実行するというもう一つの技術的意義を有している。つまり、遠心分離部201において液体インク108から顔料凝集体を遠心分離するには、遠心分離部201の遠心分離空間CSSで遠心分離される液体インク108の量が最適値に設定されていなければならない。そのためには、第1のポンプ153の作動に従い遠心分離部201の遠心分離空間CSSに供給される液体インク108の流量が、ある範囲に収まっている必要がある。これは、先にも述べたストークスの式より、顔料凝集体の分離速度はある範囲に限定されるからである。つまり、効率よく顔料凝集体を液体インク108から分離するには、構造(遠心半径)が確定している遠心分離部201を用い、決まった流量(液体インク流量)のもと、安定に分離動作を行なう必要がある。この場合、流量をある範囲以上にすると、本来的に取り除くべき顔料凝集体を分離しきれないなどの問題が生じ、これに対して、流量をある範囲以下にした場合には、過剰に顔料を分離してしまい、本来的に必要な粒径の顔料粒子までをも分離除去してしまうなどの弊害が生じる。これが、第1のポンプ153の作動に従い遠心分離部201の遠心分離空間CSSに供給される液体インク108の流量をある範囲に収めなければならない理由である。
【0066】
このようなことを前提として、遠心分離部201によって顔料凝集体を遠心分離した液体インク108をダンパタンク157に一時貯蔵せず、直接的にインクジェットヘッド105に供給する場合を想定する。この場合、液体インク108の吐出動作に伴いインクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、遠心分離空間CSSで液体インク108を遠心分離しながら液体インク108をインクジェットヘッド105に供給することになる。ところが、インクジェットヘッド105における液体インク108の消費量は、印刷動作の都度、大きく変動してしまう。インクジェットヘッド105での液体インク108の消費量は、印字幅、印字速度、印字率等の各種の要因によって大きく変動するからである。このため、遠心分離空間CSSで液体インク108を遠心分離しながら液体インク108をインクジェットヘッド105に直接的に供給するという前提の下では、第1のポンプ153の作動に従い遠心分離部201の遠心分離空間CSSに供給される液体インク108の流量が一定であるとすると、遠心分離空間CSSで遠心分離される液体インク108の量がその都度変動することになる。その結果、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に除去することができなくなる。
【0067】
これに対して、本実施の形態では、液体インク108をダンパタンク157に一旦貯蔵し、インクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、ダンパタンク157に貯蔵された液体インク108をインクジェットヘッド105に供給する。このため、第1のポンプ153を駆動制御するだけで、遠心分離空間CSSで遠心分離する液体インク108の量を常に一定に保つことが可能となる。その結果、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に除去することができる。
【0068】
さらに、遠心分離部201よりも液体インク108の流通経路下流側に位置させて、脱泡又は脱気手段(図示せず)を設けることで、遠心分離部201では除去できない気泡などをさらに効率よく除去することができる。これにより、より吐出性能に優れたインクジェット記録装置101を提供することができる。
【0069】
なお、遠心分離空間CSSの内容量V(ml)は1000<V<3000の範囲、遠心半径r(cm)は5<r<15の範囲が実用的である。
【0070】
3.第1の実施の形態及び第2の実施の形態に共通な事項
以上説明した本発明の第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、いずれも、インクジェット記録装置101として単色印刷を行うインクジェットプリンタへの適用例を示した。これに対して、実施に際しては、2色以上の多色印刷、例えばフルカラー印刷を行うインクジェットプリンタに適用しても良く、あるいは、複写機等のようなプリンタ以外の画像形成装置に適用しても良い。
【0071】
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、いずれも、ライン型のインクジェット記録装置101への適用例である。ライン型のインクジェット記録装置101は、静止しているインクジェットヘッド105に対して記録媒体102を搬送移動させながら印刷を行う。これに対して、静止している記録媒体102に対してインクジェットヘッド105を移動させながら印刷を行うシリアル型のインクジェット記録装置101に適用しても良い。
【実施例】
【0072】
以下、参考例の実例と第2の実施例とを説明する。参考例の実例は、参考例に対応する。第2の実施例は、第2の実施の形態に対応する。
【0073】
1.参考例の実例
[実験条件]
この出願の発明者は、次のような条件で連続印字を行った。
【0074】
顔料の平均粒径が約350nmの液体インク108を用意し、インク容器151に充填した。液体インクの量は、300mlとした。液体インク108としては、エポキシモノマー系分散媒に対して、分散剤を介して顔料を分散させたものを使用した。顔料は、Pigment Yellow 180を使用した。超音波発信部162としては、株式会社日本精機製作所の超音波分散装置US−300T(出力:300w、周波数:19.5±1kHz、φ26mmチップ(超音波発信部))を用いた。
【0075】
そして、液体インク108が含む顔料凝集体を再分散させるに際して、液体インク108を第1のポンプ153によって吸い上げ、超音波振動付与部155を通過させて超音波振動を付与し、ダンパタンク157に貯蔵した。このときの液体インク108の流量(流速)を、第1のポンプ153により調整した。実験では、液体インク108の流量として、15ml/min、30ml/min、60ml/min、100ml/min、150ml/min、300ml/minの6種類を試した。このような流量調整は、液体インク300mlの通過時間を、1min、2min、3min、5min、10min、20minと可変して行った。
【0076】
そして、ダンパタンク157に一時的に貯蔵した液体インク108を第2のポンプ158を動作させてインクジェットヘッド105に供給し、インク吐出動作を実行した。この際、第1の温度調節部156により液体インク108の温度を調節し、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の温度条件を、24±1℃、35±1℃、50±1℃と変えて、それぞれの条件でインクジェット吐出印字を行った。
【0077】
[液体インク108の温度と流量とが吐出エラーに与える影響]
前述したように、超音波振動付与部155において液体インク108に超音波振動を付与し、これによって顔料凝視体を良好に再分散させるには、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値が最適な設定されている必要がある。この際、液体インク108に印加される超音波振動印加エネルギーは、中間パイプ160において超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速によって変動することも前述した通りである。そこで、参考例の実例中、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値を最適値に維持するためには、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速を一定に維持しなければならない、と述べた。また、参考例の実例中、第1の温度調節部156によって液体インク108の温度を調節する技術的意義について言及した。これらの参考例の実例中で言及した事柄の根拠となる実験結果を次に説明する。
【0078】
表2〜表4に、液体インク108の通過時間・流量に対応して実験で得られた吐出エラー率を示す。吐出エラーは、ドット抜け頻度(%)として把握した。吐出性能は、ドット抜け頻度(%)が少ない方が良いことになる。表2は、液体インク108の温度条件を24±1℃に設定した場合の結果を、表3は、液体インク108の温度条件を35±1℃に設定した場合の結果を、表4は、液体インク108の温度条件を50±1℃に設定した場合の結果を、それぞれ示している。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
また、図6のグラフは、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表2に対応するグラフである。図7のグラフは、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表3に対応するグラフである。図8のグラフは、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表4に対応するグラフである。
【0083】
表2〜表4、図6〜図8のグラフから、液体インク108に超音波振動エネルギーを印加した場合の顔料凝集体の再分散効果は、液体インク108の温度により異なることが分かる。
【0084】
液体インク108の温度が24±1℃の場合は、流量が60ml/min辺り以下で吐出エラーが少なくなる。このときの液体インク108の単位量及び液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当りの超音波振動印加エネルギーは、約6.5J/cm2 ・ml以上となる。
【0085】
液体インク108の温度が35±1℃の場合は、流量が30ml/min辺り以上100ml/min辺り以下で吐出エラーが少なくなる。このときの液体インク108の単位量及び液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当りの超音波振動印加エネルギーは、約3.9〜約13J/cm2 ・mlとなる。
【0086】
液体インク108の温度が50±1℃の場合は、流量が30ml/min辺り以上150ml/min辺り以下で吐出エラーが少なくなる。このときの液体インク108の単位量及び液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当りの超音波振動印加エネルギーは、約2.6〜約13J/cm2 ・mlとなる。
【0087】
図9は、吐出エラーを最少化することができる超音波振動印加エネルギーの範囲と液体インク108の温度との関係を示すグラフである。図9のグラフでは、超音波振動印加エネルギーを縦軸にとり、液体インク108の温度を横軸にとっている。図9のグラフからは、液体インク108の温度が高くなるとその流量が多くても顔料凝集体の再分散効果が生ずることが分かる。但し、液体インク108の温度が高い場合には、顔料凝集体の再分散効果が不安定になり易く、液体インク108を構成している材料にも悪影響を及ぼし易い。このことからすると、超音波振動付与部155は、できるだけ常温に近い温度でゆっくり超音波処理する方が望ましい。
【0088】
なお、図9に例示する吐出エラーを最少化することができる範囲は、本参考例の実例での条件設定を前提とした結果であり、普遍的なものではない。
【0089】
2.第2の実施例
[実験条件]
この出願の発明者は、次のような条件で連続印字を行った。
【0090】
顔料の平均粒径が約141nmの液体インク108を用意し、インク容器151に充填した。液体インクの量は、3000mlとした。遠心分離部201としては、例えば、アルファ・ラバル社製LAPX404やベックマン・コールター社製JCF−Zなどを用いることができる。第2の実施例では、遠心分離部201として、遠心半径を14.1cm、容量を1000mlのものを使用した。インク容器151に用意した液体インク108を、第1のポンプ153により吸い上げて遠心分離部201の遠心分離空間CSSに投入する。このときのインク流量は、第1のポンプ153により制御される。
【0091】
実験では、流量(1000mlが通過する時間で規定する)と遠心力(遠心分離部201における回転体204の回転数)の条件を、
流 量:100ml/min
遠心力:15000G
として固定した。実験において、ペアリングディスクポンプ211を通って排出される液体インク108の温度を、液体インク108の流路中に取り付けた接触式の温度計(図示せず)によって測定した。測定した液体インク108の温度は、第2の温度調節部251によって一定の温度になるように制御した。ここでは、液体インク温度を30±2℃(常温)になるように設定した。
【0092】
[吐出エラーについての効果確認]
以上の条件で顔料凝集体を遠心分離して除去した液体インク108を用いてインクジェットヘッド105にインク吐出を行わせ、吐出エラーを測定したところ、遠心分離処理を行わなかった初期の液体インク108に比べ、遠心分離処理を行なった液体インク108の方が、吐出エラーが少ないことが確認された。具体的数値としては、遠心分離処理を行わなかった初期の液体インク108を用いた場合には吐出エラーが12.2%であったものが、遠心分離処理を行なった液体インク108を用いた場合には吐出エラーが8.9%程度に改善された。
【0093】
[液体インク108の流量が吐出エラーに与える影響]
表5に、遠心分離部201での液体インク108の通過時間・流量に対応して実験で得られた吐出エラー率を示す。吐出エラーは、ドット抜け頻度(%)として把握した。吐出性能は、ドット抜け頻度(%)が少ない方が良いことになる。
【0094】
【表5】
【0095】
また、図10及び図11のグラフは、遠心分離部201を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表5に対応するグラフである。図10は液体インク108に与える遠心力を7500Gとした場合の結果を、図11は液体インク108に与える遠心力を15000Gとした場合の結果を、それぞれ示す。
【0096】
表5、図10、図11のグラフから、液体インク108の最適な流量範囲が分かる。
【0097】
表6は、液体インク108に与える遠心力と遠心分離部201での液体インク108の通過時間・流量との関係を示すグラフである。
【0098】
【表6】
【0099】
遠心力が2500Gより小さい範囲では、遠心力による液体インク中の顔料凝集体の分離効果が少なくなる。その反面、遠心力が40000Gを越える範囲では、遠心分離部201の精度を上げたり、高速回転させたりする必要が生ずる。これは、装置のコストアップの原因となり、実用的ではない。
【符号の説明】
【0100】
102 記録媒体、105 インクジェットヘッド、106 光照射部(UV照射光源)、108 液体インク、155 超音波振動付与部、156 第1の温度調節部、157 インク貯留部(ダンパタンク)、158 インク供給部(第2のポンプ)、201 遠心分離部、251 第2の温度調節部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0101】
【特許文献1】特開平4−216940号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で高精彩な画像を印刷するために、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いる技術が従来から知られている。このような液体インクは、色材として染料又は顔料が用いられ、分散媒体として揮発性の高い有機溶剤又は揮発性の低いオイル若しくはアルコールなどが入った水系が用いられる。近年の傾向として、定着性、鮮明度、色濃度、印字滲み、耐水性、耐光性などに優れている顔料を色材として分散媒体中に分散したインクが種々報告され、実用化されるに至って来ている。
【0003】
また、近年、感光性を有する液体インクとこれを用いたインクジェット記録装置が注目され始めている。このインクジェット記録装置は、被印刷面に吐出した感光性を有する液体インクを紫外線又は電子線などの活性エネルギー線を照射することで速やかに光硬化させる。使用する感光性インクとしては、顔料、重合性モノマー、重合開始剤を含んだラジカル重合性インクや光カチオン硬化型インクが代表的である。
【0004】
感光性インクを光硬化させる技術によれば、光照射によりインク層を非流動化することができるので、比較的高い品質の印刷物を得ることができる。しかしながら、上記したラジカル重合性インクや光カチオン硬化型インクは、分散媒体中に分散した顔料が経時的に数μmほどに凝集して巨大粒子化し、顔料凝集体を形成する。この顔料凝集体は、インクジェットヘッドのノズル近傍で悪影響を及ぼし、インクジェットヘッドの吐出安定性を不安定にしてしまうという問題を生じさせる。
【0005】
このような問題に対する対策案として、顔料凝集体の再分散を促すことができるようにしたインクジェット記録装置が提案されている。例えば、特許文献1には、インクジェットヘッド全体をヘッドの壁に設置した超音波アクチュエータにより振動させ、ヘッド内部に供給されているインクのうち、顔料凝集体を再分散させることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術によれば、ノズルからのインクの吐出不良を生じさせ易いという問題がある。このような吐出不良は、インクジェットヘッド全体を振動させるに際して、ノズル近傍の気液界面で形成されるメニスカスに乱れが生じたり、あるいは気泡の巻き込みが生じたりすることによって発生する。
【0007】
特許文献1に記載された技術は、インクジェットヘッド内のインクに均等に超音波が伝わらず、これによってインクに含まれている顔料凝集体の再分散にムラができるという問題も有している。
【0008】
その他、超音波による破砕効果がインク全体に行き渡るまでに時間がかかるため、高速印字に向いていないという点も、特許文献1に記載された技術の問題点である。
【0009】
本発明の目的は、ノズルからのインクの吐出不良を生じさせることなく、再分散のムラを生じさせることなく、しかも印字速度に影響を与えることなく、インクに含まれる顔料凝集体を再分散させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本参考例は、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、前記液体インクに超音波振動を付与して前記液体インク中に分散されている顔料凝集体を再分散させ、超音波振動が付与された後の前記液体インクをインク貯留部に貯留しておき、前記インク貯留部に貯留された前記液体インクを前記インクジェットヘッドに供給するようにした。
【0011】
本発明は、分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、前記液体インクに遠心力を付与して前記液体インク中に分散されている顔料凝集体を遠心分離し、前記顔料凝集体が遠心分離された後の前記液体インクをインク貯留部に貯留しておき、前記インク貯留部に貯留された前記液体インクを前記インクジェットヘッドに供給するようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ノズルからの液体インクの吐出不良を生じさせることなく、再分散のムラを生じさせることなく、しかも印字速度に影響を与えることなく、液体インクに含まれる顔料凝集体を再分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態のインクジェット記録装置の概略構造を示す正面図である。
【図2】液体インクに含まれる顔料凝集体を再分散するための構造を示す縦断正面図である。
【図3】超音波振動付与部及び第1の温度調節部の縦断正面図である。
【図4】中間パイプにおいて、液体インクが超音波に晒される部分の面積を例示する模式図である。
【図5】遠心分離部及び第1の温度調節部の縦断正面図である。
【図6】超音波振動付与部を通過する液体インク(温度24±1℃)の通過時間を横軸にとり、吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図7】超音波振動付与部を通過する液体インク(温度35±1℃)の通過時間を横軸にとり、吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図8】超音波振動付与部を通過する液体インク(温度50±1℃)の通過時間を横軸にとり、吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図9】吐出エラーを最少化することができる超音波振動印加エネルギーの範囲と液体インクの温度との関係を示すグラフである。
【図10】遠心分離部を通過する液体インク(付与される遠心力7500G)の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【図11】遠心分離部を通過する液体インク(付与される遠心力15000G)の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.参考例
本発明の参考例を図1ないし図4に基づいて説明する。
【0015】
[基本構成]
図1は、本参考例のインクジェット記録装置101の概略構造を示す正面図である。
【0016】
インクジェット記録装置101は、複数枚の記録媒体102を積層保持する自動給紙装置103から給紙された記録媒体102をコンベア構造の搬送装置104で搬送し、その搬送過程でインクジェットヘッド105によって記録媒体102に所定事項を印字するという概略構造を有する。インクジェットヘッド105よりも記録媒体102の搬送方向下流側には、UV照射光源106と加熱部107とが順に配列されている。UV照射光源106は、インクジェットヘッド105より記録媒体102に吐出された液体インク108(図2参照)に紫外線を照射し、その液体インク108を硬化させる。加熱部107は、紫外線硬化後の液体インク108を加熱する。加熱部107による液体インク108の加熱は、液体インク108の硬化を促進する。本参考例では、インクとして、紫外線照射によって硬化する液体インク108が用いられていることから、UV照射光源106及び加熱部107が必要となる。インクとして、通常の顔料系液体インクが用いられる場合には、UV照射光源106及び加熱部107は不要である。以下、各部の詳細を説明する。
【0017】
(1)液体インク108
液体インク108は、一例として、光カチオン硬化型のインクジェット用顔料インクが用いられる。もっとも、インクジェット用顔料系インクであれば、光カチオン硬化型という種類に限るものではなく、顔料系インク、例えば水ベースの水性顔料インク、溶剤系ベースの顔料インク、低揮発性オイルベースの油性顔料インク、アクリルモノマーをベースにしたラジカル系の光重合硬化タイプの顔料インクを用いることができる。
【0018】
光カチオン硬化型のインクジェット用顔料インクは、少なくとも、酸の存在下で重合する少なくとも1種の溶媒と、溶媒中に溶解して光照射により酸を発生する光酸発生剤と、溶媒中に溶解又は分散した色成分とを含む組成物である。このような光カチオン硬化型のインクジェット用顔料インクは、露光後、加熱することにより硬化する。
【0019】
このような液体インク108の組成物は、通常、カチオン重合性モノマーに顔料を含んでいる。カチオン重合性モノマーは、単独であっても、混合物であっても良く、例えば、カチオン重合可能なビニル結合を有するモノマー類が用いられる。このようなモノマー類としては、例えば、
・エポキシ基、オキセタン基、オキソラン基などのような環状エーテル基を有する分子量1000以下の化合物
・置換基を側鎖に有するアクリル又はビニル化合物
・カーボネート系化合物
・低分子量のメラミン化合物
・ビニルエーテル類やビニルカルバゾール類
・スチレン誘導体
・アルファ−メチルスチレン誘導体
・ビニルアルコールとアクリル、メタクリルなどのエステル化合物をはじめとするビニルアルコールエステル類
などが用いられる。
【0020】
顔料成分としては、一般に、顔料として知られている色材であって、基本的に分散可能なものであれば何れの顔料をも用いることができる。その中でも、特に、カチオン硬化型材料においては、その機構に酸を使用しているため、酸により退色しにくい顔料が望ましい。使用可能な顔料としては、例えば、光吸収性の顔料を挙げることができる。例えば、
・カーボンブラック、カーボンリファインド、カーボンナノチューブのような炭素系顔料
・鉄黒、コバルトブルー、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄のような金属酸化物顔料
・硫化亜鉛のような硫化物顔料
・フタロシアニン系顔料
・金属の硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、及びリン酸塩のような塩からなる顔料、並びにアルミ粉末、ブロンズ粉末、及び亜鉛粉末のような金属粉末からなる顔料
を例示することができる。その他、有機系顔料、例えば、
・染料キレート、ニトロ顔料、アニリンブラック、ナフトールグリーンBのようなニトロソ顔料
・ボルドー10B、レーキレッド4Rおよびクロモフタールレッドのようなアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む。)
・ピーコックブルーレーキおよびローダミンレーキのようなレーキ顔料
・フタロシアニンブルーのようなフタロシアニン顔料
・多環式顔料(ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラノン顔料など)
・チオインジゴレッドおよびインダトロンブルーのようなスレン顔料
・キナクリドン顔料
・キナクリジン顔料
・イソインドリノン顔料
などを用いることもできる。更に、
・天然クレイ、鉛白や亜鉛華や炭酸マグネシウムなどの金属炭酸化物、バリウムやチタンなどの金属酸化物のような白色顔料
も、色成分として有用である。白色顔料を含有した液体インクは、白色印刷に使用可能なだけでなく、重ね書きによる印刷訂正や下地補正に使用することができる。
【0021】
液体インク108に使用される顔料は、発色性及び着色性に加え、磁性を有するものであっても良い。顔料に磁性を持たせるには、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、それらの合金や酸化物などの磁性粉を顔料に含有させれば良い。また、顔料に導電性を付与させても良い。顔料に導電性を持たせるには、例えば、銀、金、銅、アルミニウム、炭素、ニッケル、鉄、コバルト、鉛、錫、アンチモン、それらの任意の組み合わせの合金粉末、それらと有機物との複合体などを顔料に含有させれば良い。また、顔料は、誘電性を有するものであっても良い。顔料に誘電性を持たせるには、バリウム鉛、ビスマス、イリジウム、ルテニウム、タンタル、白金、チタン、ストロンチウム、クロムなどの合金やその酸化物、セラミック粉末のような誘電体粉末を顔料に含有させれば良い。また、顔料は、電磁波発熱性を有するものであっても良い。顔料に電磁発熱性を持たせるには、電磁波発熱性セラミックスやシリコン樹脂などを顔料に含有させれば良い。さらに、顔料は、蛍光性等のような他の性質を示すものであっても良い。
【0022】
(2)記録媒体102
記録媒体102は、印刷可能な媒体であれば特にその種類が限定されるものではない。記録媒体102としては、例えば、紙、OHPシート、樹脂フィルム、不織布、多孔質膜、プラスチック板、回路基板、金属基板などを使用することができる。
【0023】
(3)搬送装置104
搬送装置104は、記録媒体102が、インクジェットヘッド105、UV照射光源106、及び加熱部107の正面を順次通過するように記録媒体102を搬送する。図1中、搬送装置104は、記録媒体102を右側から左側へ向けて搬送する。搬送装置104は、一対のプーリ109にベルト110が巻き掛けられたベルト巻掛機構111と、一方のプーリ109を回転駆動する図示しない駆動部とによって構成されている。別の参考例としては、ベルト巻掛機構111は、記録媒体102を搬送する複数対の搬送ローラによって構成しても良い。
【0024】
(4)インクジェットヘッド105
インクジェットヘッド105は、画像信号に対応して記録媒体102に液体インク108を吐出し、記録媒体102の表面上にインク層を形成する。インクジェットヘッド105としては、例えば、キャリッジに搭載されたシリアル走査型ヘッド、記録媒体102の幅以上の幅を有するライン走査型ヘッドを使用することができる。高速印刷の観点では、通常、ライン走査型ヘッドの方がシリアル走査型ヘッドに比べて有利である。
【0025】
インクジェットヘッド105における液体インク108の吐出方式としては、各種の方式を用いることができる。例えば、圧電素子に電圧を印加して圧力室に圧電素子の変形によるエネルギーを作用させ、これによって液体インク108を吐出させるピエゾ式のインクジェットヘッドを用いることができる。ピエゾ式のインクジェットヘッドは、特に、低揮発性の油性顔料インク、熱に対して弱いモノマー系のラジカル重合タイプの顔料インク、光カチオン重合タイプの顔料系インクに対して、有効なインク吐出を行うことができる。
【0026】
(5)UV照射光源106
UV照射光源106は、記録媒体102の表面上に形成されたインク層に光を照射して、インク層中に酸を発生させる。UV照射光源106としては、例えば、低、中、高圧水銀ランプのような水銀ランプ、タングステンランプ、アーク灯、エキシマランプ、エキシマレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、レーザと非線形光学結晶とを組み合わせたレーザシステム、高周波誘起紫外線発生装置、電子線照射装置、X線照射装置などを使用することができる。システムを簡便化するためには、高周波誘起紫外線発生装置、高・低圧水銀ランプ、半導体レーザなどを使用することが望ましい。
【0027】
(6)加熱部107
加熱部107は、記録媒体102の表面上のインク層を加熱し、酸を触媒とした架橋反応を促進する。加熱部107としては、例えば、赤外ランプ、セラミックヒーター、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)、温風または熱風を吹き出すブロワなどを使用することができる。
【0028】
[液体インク108に含まれる顔料凝集体を再分散するための構造]
前述したように、本参考例の形態で用いられるような光カチオン硬化型インクは、分散媒体中に分散した顔料が経時的に数μmほどに凝集して巨大粒子化し、顔料凝集体を形成する。この顔料凝集体は、インクジェットヘッド105のノズル近傍で悪影響を及ぼし、インクジェットヘッドの吐出安定性を不安定にしてしまう。そこで、本参考例では、顔料凝集体を再分散させる再分散構造が設けられている。このような再分散構造について次に説明する。
【0029】
図2は、液体インク108に含まれる顔料凝集体を再分散するための構造を示す縦断正面図である。図1及び図2に示すように、インクジェットヘッド105に供給する液体インク108は、インク容器151からインク処理部152を経てインクジェットヘッド105に供給される。
【0030】
インク容器151には、液体インク108が充填されている。この液体インク108は、第1のポンプ153の動作によって吸い上げられるようになっている。そのための構造として、第1のポンプ153の図示しない流体吸込口にはインク容器151の内部に一端が配置されたインク吸引パイプ154の他端が連結されている。第1のポンプ153によってインク容器151から吸い上げられた液体インク108は、インク処理部152に供給される。
【0031】
インク処理部152は、超音波振動付与部155と、第1の温度調節部156と、インク貯留部としてのダンパタンク157と、インク供給部としての第2のポンプ158と、圧力センサ159とから構成されている。
【0032】
超音波振動付与部155は、第1のポンプ153の作動に応じてインク容器151から吸い上げられた液体インク108に超音波振動を付与し、ダンパタンク157に供給する。液体インク108に含まれる顔料凝集体は、超音波振動の付与によって再分散される。この際、第1の温度調節部156は、超音波振動を付与されている液体インク108の温度を調節し、顔料凝集体の再分散を補助する。ダンパタンク157は、超音波振動が付与されて顔料凝集体が再分散された液体インク108を貯蔵する。第2のポンプ158は、ダンパタンク157に貯蔵されている処理済みの液体インク108を吸い上げ、インクジェットヘッド105に供給する。この際、圧力センサ159は、インクジェットヘッド105へ供給される液体インク108の圧力を検出して出力する。図示しない制御部は、圧力センサ159の出力をモニタし、その出力値が予め定められた値になるように第2のポンプ158を駆動制御する。
【0033】
図3は、超音波振動付与部155及び第1の温度調節部156の縦断正面図である。超音波振動付与部155は、第1のポンプ153の図示しない排出口から排出される液体インク108をダンパタンク157に導く中間パイプ160を備えている。この中間パイプ160は、その一部にカップ状の屈曲部161を有する。屈曲部161は、他の液体インク108の導通空間に比して、容積が大きくなっている。この容積が大きくなった屈曲部161には超音波発信部162が配置されている。超音波発信部162は、超音波発生部163に連結され、この超音波発生部163に駆動されて超音波振動を発生する。このような超音波発信部162を屈曲部161に配置するために、中間パイプ160には屈曲部161の位置に挿通孔164が形成され、この挿通孔164の部分で超音波発信部162が中間パイプ160に挿入されている。挿通孔164と超音波発信部162との嵌合部分はシール部材165によってシールされ、この嵌合部分からの液体インク108の漏れ出しが防止されている。
【0034】
超音波発生部163に駆動された超音波発信部162が発生する超音波振動は、中間パイプ160を通過する液体インク108に作用する。これにより、液体インク108に凝集して分散している顔料凝集体が超音波振動によって破砕され、再分散される。この際、液体インク108に温度上昇が発生する。液体インク108の種類によっては、所定温度以上に温度上昇すると、液体インク108に含有されている成分同士が反応して化学変化を来たし、変質を生ずることがある。例えば、液体インク108として、本参考例で用いられる光カチオン硬化型インクジェット顔料インクは、温度が約50℃以上に上昇すると、化学変化などにより変質してしまう。このため、インクジェットヘッド105により連続吐出を行った場合、顔料凝集体の超音波振動による破砕効果が安定に行われなくなってしまう。これに対して、破砕振動エネルギーを与えすぎると再凝集が起こってしまうことから、液体インク108の温度上昇は、超音波発信部162が発生する超音波振動エネルギーの有効範囲を狭めてしまう。このようなことから、液体インク108の温度上昇は、連続吐出時の吐出エラーの増加などの問題を生じさせる。第1の温度調節部156は、そのような液体インク108の温度上昇を抑制し、液体インク108の温度上昇によって発生する問題を解消する。
【0035】
第1の温度調節部156は、超音波振動付与部155の中間パイプ160と一体に形成された冷却パイプ166を有する。この冷却パイプ166は、中間パイプ160の屈曲部161の部分において、隔壁167によって中間パイプ160と区画されて形成されている。隔壁167は、熱伝導率が比較的良好な材料であって、かつ、液体インク108に腐食されない材料、例えば、SUS材や銅などで形成されている。こうして形成された冷却パイプ166には、その内部に冷媒、例えば冷却水が循環する。そのための構造として、冷媒を冷却パイプ166の内部に循環させる循環機構168が設けられている(図2参照)。第1の温度調節部156は、冷却パイプ166の内部に循環させる冷媒の循環を制御することで、液体インク108の温度を調節する。
【0036】
図4は、中間パイプ160において、液体インク108が超音波に晒される部分の面積を例示する模式図である。液体インク108が超音波に晒される部分の容積、つまり、中間パイプ160の屈曲部161における液体インク108を流通させる部分の容積は、一例として、30mlに設定されている。超音波発信部162は、一例として、その直径がφ2.6cm、その高さが5cmである。この場合、中間パイプ160の屈曲部161において超音波発信部162と液体インク108とが接触する部分の接触面積Sは、
S=2.6π×5+1.32π=46.15cm2
で表すことができる。そこで、中間パイプ160の屈曲部161を流れる液体インク108に印加される超音波振動印加エネルギー(J/cm2・ml)は、液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当り、およそ、次の式1で表わすことができる。
【0037】
【数1】
【0038】
[作用]
インクジェット記録装置101を用いて印刷を行うに際しては、搬送装置104により記録媒体102を搬送する。搬送方向は、図1中、右から左に向かう方向である。この際の記録媒体102の搬送速度は、例えば、0.1m/minないし数100m/minの範囲内とされる。
【0039】
インクジェットヘッド105には、第2のポンプ158によって吸い上げられたダンパタンク157に貯蔵されている処理済みの液体インク108が供給されている。そこで、記録媒体102がインクジェットヘッド105の正面まで搬送されると、インクジェットヘッド105は画像信号に応じて液体インク108を吐出する。これにより、記録媒体102の表面上にインク層が形成される。
【0040】
記録媒体102がUV照射光源106の正面に搬送されると、UV照射光源106は記録媒体102の表面上に形成されたインク層に向けて光を照射し、インク層中に酸を発生させる。この時の照射光強度は、使用する光源の波長などに応じて異なるが、通常、数mW/cm2ないし1KW/cm2 の範囲内に収められる。インク層への露光量は、液体インク108の感度や記録媒体102の搬送速度などに応じて適宜設定することができる。
【0041】
続いて、記録媒体102が加熱部107を通過するに際して、記録媒体102の表面上に形成されたインク層が加熱される。これにより、インク層中での架橋反応が促進される。この際、加熱部107による加熱時間は、数秒ないし数10秒程度と比較的短い。したがって、加熱部107の加熱によってインク層の硬化をほぼ完全に進行させるには、最高到達温度が例えば200℃程度以下、望ましくは80℃ないし200℃、あるいは60℃ないし180℃程度の比較的高い温度となるように加熱を行なう。
【0042】
その後、記録媒体102は、例えば図示しないストッカなどに搬送され、印刷が完了する。
【0043】
ここで、インクジェット記録を安定に行なうには、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させる必要がある。インクジェットヘッド105からの液体インク108の吐出状態の安定性は、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108の色材成分である顔料粒子の状態が大きく関わっている。つまり、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させるには、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108に含まれる顔料粒子を細かく均一に揃えることが肝要である。本参考例によれば、インク容器151から第1のポンプ153によって吸い上げられた液体インク108に対して、超音波振動付与部155が超音波振動を付与する。
【0044】
つまり、液体インク108は、超音波振動付与部155において中間パイプ160を通過し、通過に際して、超音波発生部163に駆動された超音波発信部162が発生する超音波振動が液体インク108に作用する。このときの超音波振動周波数に関しては、45kHz付近が有効である。これにより、液体インク108に凝集して分散している顔料凝集体が超音波振動によって破砕され、再分散される。顔料凝集体が再分散された液体インク108は、ダンパタンク157に貯蔵され、インクジェットヘッド105に供給される。したがって、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108は、顔料凝集体が再分散された後の、顔料粒子が細かく均一に揃えられている液体インク108である。したがって、本参考例によれば、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させることができ、これにより、インクジェット記録を安定に行なうことが可能となる。
【0045】
本参考例において、液体インク108をダンパタンク157に貯蔵することは、顔料凝集体の再分散作業を良好に実行するというもう一つの技術的意義を有している。つまり、超音波振動付与部155において液体インク108に超音波振動を付与し、これによって顔料凝視体を良好に再分散させるには、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値が最適な設定されている必要がある。この際、液体インク108に印加される超音波振動印加エネルギーは、中間パイプ160において超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速によって変動する。このため、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値を最適値に維持するためには、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速を一定に維持しなければならない。
【0046】
このようなことを前提として、超音波振動付与部155において超音波振動を付与した液体インク108をダンパタンク157に一時貯蔵せず、直接的にインクジェットヘッド105に供給する場合を想定する。この場合、液体インク108の吐出動作に伴いインクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、超音波振動付与部155において超音波振動を付与しながら液体インク108をインクジェットヘッド105に供給することになる。ところが、インクジェットヘッド105における液体インク108の消費量は、印刷動作の都度、大きく変動してしまう。インクジェットヘッド105での液体インク108の消費量は、印字幅、印字速度、印字率等の各種の要因によって大きく変動するからである。一例として、2インチ318ノズルのインクジェットヘッド105で1ノズルあたり42pl吐出させて25m/minの速度で印字する場合を想定する。この場合、ベタ印字(100%印字)で1時間当り約240ml、1分あたりでは約4mlの液体インクを消費することになる。つまり、インクジェットヘッド105における液体インク108の消費量は、0〜4ml/min程度で変動することになる。このようなインクジェットヘッド105を用いて、例えば、A4の記録媒体102に対して解像度300dpiで印字をすると0〜32ml/min、解像度600dpiで印字をすると0〜192ml/minのインク消費量となる。表1に、印字率と解像度と用紙サイズとインク消費量との関係を例示する。
【0047】
【表1】
【0048】
このようなことから、超音波振動付与部155において液体インク108に超音波振動を付与しながら液体インク108を直接的にインクジェットヘッド105に供給するという前提の下では、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速も変動することになる。すると、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値も変動することになり、その結果、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に再分散させることができなくなる。
【0049】
これに対して、本参考例では、液体インク108をダンパタンク157に一旦貯蔵し、インクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、ダンパタンク157に貯蔵された液体インク108をインクジェットヘッド105に供給する。このため、第1のポンプ153を駆動制御するだけで、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速を常に一定に保つことが可能となる。その結果、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値を常に最適な設定値に維持することができ、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に再分散させることができる。
【0050】
2.第2の実施の形態
本発明の第2の実施の形態を図5に基づいて説明する。本実施の形態のインクジェット記録装置101は、基本構造において第1の実施の形態と異なる点はない。第1の実施の形態と異なるのは、インク処理部152のうち、液体インク108に含まれる顔料凝集体を再分散するための構造である。つまり、この構造として、第1の実施の形態では、液体インク108に超音波振動を付与して液体インク108の中に含まれている顔料凝集体を再分散させるのに対して、本実施の形態では、液体インク108の中の顔料凝集体を遠心分離する。つまり、本実施の形態では、第1の実施の形態の超音波振動付与部155が遠心分離部201に置き換えられている。これに伴い、第1の実施の形態において超音波振動付与部155に一体に設けられている第1の温度調節部156は、遠心分離部201に一体に設けられた第2の温度調節部251に置き換えられている。
【0051】
図5は、遠心分離部201及び第1の温度調節部156の縦断正面図である。遠心分離部201を構成する共にドーム型をした下部ハウジング202と上部ハウジング203とが接合固定され、内部に液体インク108を導入する遠心分離空間CSSを形成している。これらの下部ハウジング202及び上部ハウジング203は、第2の温度調節部251を構成する温度調節ハウジング252の内部に収納保持されている。
【0052】
温度調節ハウジング252は、冷媒導入口253から導入された冷媒、例えば冷却水を温度調節ハウジング252の内部であって下部ハウジング202及び上部ハウジング203の外周に流通させて冷媒排出口254から排出させ得る構造を備えている。冷媒は、冷媒導入口253から導入されて温度調節ハウジング252の内部を流通し、冷媒排出口254から排出され、再び冷媒導入口253に導入される。このような冷媒の循環を実現させるのは、循環機構168である(図2参照)。このように、冷媒を循環させることにより、遠心分離部201を構成する下部ハウジング202及び上部ハウジング203との内部に導入された液体インク108の温度を調節する。ここに、第1の温度調節部156が構成されている。
【0053】
遠心分離部201と第2の温度調節部251との間の隔壁は、熱伝導率の高い材料、例えば銅、アルミ、ステンレスなどで構成されている。隔壁が液体インク108の種類によっては腐食することがある。この場合には、液体インク108が接触する隔壁の表面に耐腐食性の樹脂等をコーティングする。これにより、当該部分の腐食が防止される。
【0054】
次いで、遠心分離部201について説明する。下部ハウジング202と上部ハウジング203との内部に形成された遠心分離空間CSSには、回転体204が回転自在に配置されている。回転体204は、下部ハウジング202に沿ったカップ形状をしており、回転中心となる位置に垂直スピンドル205を有する。垂直スピンドル205は、下部ハウジング202に形成された挿通孔206を挿通し、温度調節ハウジング252に設けられた軸受207に回転自在に保持されている。軸受207は、液漏れ防止用のシールを兼ねている。このような垂直スピンドル205は、図示しないモータに駆動されて回転する。モータの回転力は、例えばベルト伝達機構等を介して垂直スピンドル205に伝達される。遠心分離部201による液体インク108の遠心分離の原理は、回転体204を回転駆動することで、比重が比較的軽い流体分を上昇させ、比重が比較的重い固形分である顔料凝集体群を最外周部分である下部ハウジング202と上部ハウジング203との接合部に追いやる、というものである。そこで、下部ハウジング202と上部ハウジング203との接合部の一箇所(図5中、右側の部分)には、液体インク108の流体分から遠心分離された固形分である顔料凝集体群を外部に排出するための顔料凝集体排出口208が設けられている。
【0055】
このような構造の遠心分離部201に対して液体インク108を導入するための構造として、上部ハウジング203の頂上部か遠心分離空間CSSにインク導入パイプ209が挿入されている。このインク導入パイプ209は、一端が第1のポンプ(図2参照)の図示しない流体排出口に連結され、液体インク108の供給を受ける。そして、インク導入パイプ209は、回転体204の回転中心をなす垂直スピンドル205と同軸上に配置され、回転体204の底面近傍において液体インク108を排出する。
【0056】
遠心分離部201における上部ハウジング203の最上部位置は、顔料凝集体群が遠心分離された後の流体分だけからなる液体インク108の溜り場210となっている。この溜り場210には、ペアリングディスクポンプ211がインク導入パイプ209の上部に固定されて設けられ、このペアリングディスクポンプ211の上方に位置させてインク排出口212が上部ハウジング203に形成されている。ペアリングディスクポンプ211は、回転体204の回転によって上昇した液体インク108の流体分をインク排出口212から排出する。
【0057】
このような構成において、第1のポンプ153によってインク容器151から吸い上げられた液体インク108は、インク導入パイプ209を介して遠心分離部201の遠心分離空間CSSに導入される。遠心分離空間CSSでは、回転体204が回転駆動されることで液体インク108に遠心分離作用が及び、液体インク108は粒子サイズで遠心分離される。つまり、液体インク108が含む固形分である顔料凝集体群が流体分から遠心分離される。遠心分離された顔料凝集体群は、顔料凝集体排出口208から外部に排出される。こうして外部に排出される顔料凝集体群が遠心分離された後に残る液体インク108の流体分は、回転体204の回転によって上昇し、ペアリングディスクポンプ211によってインク排出口212から排出される。排出された液体インク108は、ダンパタンク157に供給され、一時的に貯蔵される。
【0058】
ここで、遠心分離部201による顔料凝集体分離動作で発生する遠心力は、次の式2で表すことができる。
【0059】
【数2】
【0060】
式2で表わされる遠心力は、遠心加速度とも言い、回転する物体の中心からの距離に作用する力を表すことになる。
【0061】
また、液体中に存在する粒子の沈降速度は、次のストークスの式(式3)により定義することができる。
【0062】
【数3】
【0063】
式3に示すストークスの式より、液体中に存在する粒子の沈降速度は、重力加速度に比例して、また、粒子の半径の2乗に比例して速くなることが分かる。これにより、大きい粒子は速く沈降することになる。また、遠心力により重力加速度を大きくしてやれば、更に速く大きな粒子を沈降させ、分離させることができる。つまり、本実施の形態の遠心分離部201は、ストークスの式の重力加速度を遠心加速度=遠心力に置き換えてやり、顔料凝集体を取り除く手法であると言える。
【0064】
ここで、インクジェット記録を安定に行なうには、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させる必要がある。インクジェットヘッド105からの液体インク108の吐出状態の安定性は、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108の色材成分である顔料粒子の状態が大きく関わっている。つまり、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させるには、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108に含まれる顔料粒子を細かく均一に揃えることが肝要である。本実施の形態によれば、インク容器151から第1のポンプ153によって吸い上げられた液体インク108に対して、遠心分離部201が顔料凝集体を遠心分離する。これにより、液体インク108に凝集して分散している顔料凝集体は、液体インク108の液体分から分離され、除去される。顔料凝集体が除去された液体インク108は、ダンパタンク157に貯蔵され、インクジェットヘッド105に供給される。したがって、インクジェットヘッド105に供給される液体インク108は、顔料凝集体が除去された後の、顔料粒子が細かく均一に揃えられている液体インク108である。したがって、本実施の形態によれば、インクジェットヘッド105から液体インク108を安定して吐出させることができ、これにより、インクジェット記録を安定に行なうことが可能となる。
【0065】
本実施の形態において、液体インク108をダンパタンク157に貯蔵することは、顔料凝集体の除去作業を良好に実行するというもう一つの技術的意義を有している。つまり、遠心分離部201において液体インク108から顔料凝集体を遠心分離するには、遠心分離部201の遠心分離空間CSSで遠心分離される液体インク108の量が最適値に設定されていなければならない。そのためには、第1のポンプ153の作動に従い遠心分離部201の遠心分離空間CSSに供給される液体インク108の流量が、ある範囲に収まっている必要がある。これは、先にも述べたストークスの式より、顔料凝集体の分離速度はある範囲に限定されるからである。つまり、効率よく顔料凝集体を液体インク108から分離するには、構造(遠心半径)が確定している遠心分離部201を用い、決まった流量(液体インク流量)のもと、安定に分離動作を行なう必要がある。この場合、流量をある範囲以上にすると、本来的に取り除くべき顔料凝集体を分離しきれないなどの問題が生じ、これに対して、流量をある範囲以下にした場合には、過剰に顔料を分離してしまい、本来的に必要な粒径の顔料粒子までをも分離除去してしまうなどの弊害が生じる。これが、第1のポンプ153の作動に従い遠心分離部201の遠心分離空間CSSに供給される液体インク108の流量をある範囲に収めなければならない理由である。
【0066】
このようなことを前提として、遠心分離部201によって顔料凝集体を遠心分離した液体インク108をダンパタンク157に一時貯蔵せず、直接的にインクジェットヘッド105に供給する場合を想定する。この場合、液体インク108の吐出動作に伴いインクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、遠心分離空間CSSで液体インク108を遠心分離しながら液体インク108をインクジェットヘッド105に供給することになる。ところが、インクジェットヘッド105における液体インク108の消費量は、印刷動作の都度、大きく変動してしまう。インクジェットヘッド105での液体インク108の消費量は、印字幅、印字速度、印字率等の各種の要因によって大きく変動するからである。このため、遠心分離空間CSSで液体インク108を遠心分離しながら液体インク108をインクジェットヘッド105に直接的に供給するという前提の下では、第1のポンプ153の作動に従い遠心分離部201の遠心分離空間CSSに供給される液体インク108の流量が一定であるとすると、遠心分離空間CSSで遠心分離される液体インク108の量がその都度変動することになる。その結果、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に除去することができなくなる。
【0067】
これに対して、本実施の形態では、液体インク108をダンパタンク157に一旦貯蔵し、インクジェットヘッド105において液体インク108が消費されると、ダンパタンク157に貯蔵された液体インク108をインクジェットヘッド105に供給する。このため、第1のポンプ153を駆動制御するだけで、遠心分離空間CSSで遠心分離する液体インク108の量を常に一定に保つことが可能となる。その結果、液体インク108に含まれる顔料凝視体を良好に除去することができる。
【0068】
さらに、遠心分離部201よりも液体インク108の流通経路下流側に位置させて、脱泡又は脱気手段(図示せず)を設けることで、遠心分離部201では除去できない気泡などをさらに効率よく除去することができる。これにより、より吐出性能に優れたインクジェット記録装置101を提供することができる。
【0069】
なお、遠心分離空間CSSの内容量V(ml)は1000<V<3000の範囲、遠心半径r(cm)は5<r<15の範囲が実用的である。
【0070】
3.第1の実施の形態及び第2の実施の形態に共通な事項
以上説明した本発明の第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、いずれも、インクジェット記録装置101として単色印刷を行うインクジェットプリンタへの適用例を示した。これに対して、実施に際しては、2色以上の多色印刷、例えばフルカラー印刷を行うインクジェットプリンタに適用しても良く、あるいは、複写機等のようなプリンタ以外の画像形成装置に適用しても良い。
【0071】
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、いずれも、ライン型のインクジェット記録装置101への適用例である。ライン型のインクジェット記録装置101は、静止しているインクジェットヘッド105に対して記録媒体102を搬送移動させながら印刷を行う。これに対して、静止している記録媒体102に対してインクジェットヘッド105を移動させながら印刷を行うシリアル型のインクジェット記録装置101に適用しても良い。
【実施例】
【0072】
以下、参考例の実例と第2の実施例とを説明する。参考例の実例は、参考例に対応する。第2の実施例は、第2の実施の形態に対応する。
【0073】
1.参考例の実例
[実験条件]
この出願の発明者は、次のような条件で連続印字を行った。
【0074】
顔料の平均粒径が約350nmの液体インク108を用意し、インク容器151に充填した。液体インクの量は、300mlとした。液体インク108としては、エポキシモノマー系分散媒に対して、分散剤を介して顔料を分散させたものを使用した。顔料は、Pigment Yellow 180を使用した。超音波発信部162としては、株式会社日本精機製作所の超音波分散装置US−300T(出力:300w、周波数:19.5±1kHz、φ26mmチップ(超音波発信部))を用いた。
【0075】
そして、液体インク108が含む顔料凝集体を再分散させるに際して、液体インク108を第1のポンプ153によって吸い上げ、超音波振動付与部155を通過させて超音波振動を付与し、ダンパタンク157に貯蔵した。このときの液体インク108の流量(流速)を、第1のポンプ153により調整した。実験では、液体インク108の流量として、15ml/min、30ml/min、60ml/min、100ml/min、150ml/min、300ml/minの6種類を試した。このような流量調整は、液体インク300mlの通過時間を、1min、2min、3min、5min、10min、20minと可変して行った。
【0076】
そして、ダンパタンク157に一時的に貯蔵した液体インク108を第2のポンプ158を動作させてインクジェットヘッド105に供給し、インク吐出動作を実行した。この際、第1の温度調節部156により液体インク108の温度を調節し、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の温度条件を、24±1℃、35±1℃、50±1℃と変えて、それぞれの条件でインクジェット吐出印字を行った。
【0077】
[液体インク108の温度と流量とが吐出エラーに与える影響]
前述したように、超音波振動付与部155において液体インク108に超音波振動を付与し、これによって顔料凝視体を良好に再分散させるには、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値が最適な設定されている必要がある。この際、液体インク108に印加される超音波振動印加エネルギーは、中間パイプ160において超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速によって変動することも前述した通りである。そこで、参考例の実例中、超音波発信部162によって液体インク108に与える超音波振動印加エネルギーの値を最適値に維持するためには、超音波発信部162の周辺を通過する液体インク108の流速を一定に維持しなければならない、と述べた。また、参考例の実例中、第1の温度調節部156によって液体インク108の温度を調節する技術的意義について言及した。これらの参考例の実例中で言及した事柄の根拠となる実験結果を次に説明する。
【0078】
表2〜表4に、液体インク108の通過時間・流量に対応して実験で得られた吐出エラー率を示す。吐出エラーは、ドット抜け頻度(%)として把握した。吐出性能は、ドット抜け頻度(%)が少ない方が良いことになる。表2は、液体インク108の温度条件を24±1℃に設定した場合の結果を、表3は、液体インク108の温度条件を35±1℃に設定した場合の結果を、表4は、液体インク108の温度条件を50±1℃に設定した場合の結果を、それぞれ示している。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
また、図6のグラフは、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表2に対応するグラフである。図7のグラフは、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表3に対応するグラフである。図8のグラフは、超音波振動付与部155を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表4に対応するグラフである。
【0083】
表2〜表4、図6〜図8のグラフから、液体インク108に超音波振動エネルギーを印加した場合の顔料凝集体の再分散効果は、液体インク108の温度により異なることが分かる。
【0084】
液体インク108の温度が24±1℃の場合は、流量が60ml/min辺り以下で吐出エラーが少なくなる。このときの液体インク108の単位量及び液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当りの超音波振動印加エネルギーは、約6.5J/cm2 ・ml以上となる。
【0085】
液体インク108の温度が35±1℃の場合は、流量が30ml/min辺り以上100ml/min辺り以下で吐出エラーが少なくなる。このときの液体インク108の単位量及び液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当りの超音波振動印加エネルギーは、約3.9〜約13J/cm2 ・mlとなる。
【0086】
液体インク108の温度が50±1℃の場合は、流量が30ml/min辺り以上150ml/min辺り以下で吐出エラーが少なくなる。このときの液体インク108の単位量及び液体インク108に接触している超音波発信部162の表面の単位面積当りの超音波振動印加エネルギーは、約2.6〜約13J/cm2 ・mlとなる。
【0087】
図9は、吐出エラーを最少化することができる超音波振動印加エネルギーの範囲と液体インク108の温度との関係を示すグラフである。図9のグラフでは、超音波振動印加エネルギーを縦軸にとり、液体インク108の温度を横軸にとっている。図9のグラフからは、液体インク108の温度が高くなるとその流量が多くても顔料凝集体の再分散効果が生ずることが分かる。但し、液体インク108の温度が高い場合には、顔料凝集体の再分散効果が不安定になり易く、液体インク108を構成している材料にも悪影響を及ぼし易い。このことからすると、超音波振動付与部155は、できるだけ常温に近い温度でゆっくり超音波処理する方が望ましい。
【0088】
なお、図9に例示する吐出エラーを最少化することができる範囲は、本参考例の実例での条件設定を前提とした結果であり、普遍的なものではない。
【0089】
2.第2の実施例
[実験条件]
この出願の発明者は、次のような条件で連続印字を行った。
【0090】
顔料の平均粒径が約141nmの液体インク108を用意し、インク容器151に充填した。液体インクの量は、3000mlとした。遠心分離部201としては、例えば、アルファ・ラバル社製LAPX404やベックマン・コールター社製JCF−Zなどを用いることができる。第2の実施例では、遠心分離部201として、遠心半径を14.1cm、容量を1000mlのものを使用した。インク容器151に用意した液体インク108を、第1のポンプ153により吸い上げて遠心分離部201の遠心分離空間CSSに投入する。このときのインク流量は、第1のポンプ153により制御される。
【0091】
実験では、流量(1000mlが通過する時間で規定する)と遠心力(遠心分離部201における回転体204の回転数)の条件を、
流 量:100ml/min
遠心力:15000G
として固定した。実験において、ペアリングディスクポンプ211を通って排出される液体インク108の温度を、液体インク108の流路中に取り付けた接触式の温度計(図示せず)によって測定した。測定した液体インク108の温度は、第2の温度調節部251によって一定の温度になるように制御した。ここでは、液体インク温度を30±2℃(常温)になるように設定した。
【0092】
[吐出エラーについての効果確認]
以上の条件で顔料凝集体を遠心分離して除去した液体インク108を用いてインクジェットヘッド105にインク吐出を行わせ、吐出エラーを測定したところ、遠心分離処理を行わなかった初期の液体インク108に比べ、遠心分離処理を行なった液体インク108の方が、吐出エラーが少ないことが確認された。具体的数値としては、遠心分離処理を行わなかった初期の液体インク108を用いた場合には吐出エラーが12.2%であったものが、遠心分離処理を行なった液体インク108を用いた場合には吐出エラーが8.9%程度に改善された。
【0093】
[液体インク108の流量が吐出エラーに与える影響]
表5に、遠心分離部201での液体インク108の通過時間・流量に対応して実験で得られた吐出エラー率を示す。吐出エラーは、ドット抜け頻度(%)として把握した。吐出性能は、ドット抜け頻度(%)が少ない方が良いことになる。
【0094】
【表5】
【0095】
また、図10及び図11のグラフは、遠心分離部201を通過する液体インク108の通過時間を横軸にとり吐出エラー率を縦軸にとった表5に対応するグラフである。図10は液体インク108に与える遠心力を7500Gとした場合の結果を、図11は液体インク108に与える遠心力を15000Gとした場合の結果を、それぞれ示す。
【0096】
表5、図10、図11のグラフから、液体インク108の最適な流量範囲が分かる。
【0097】
表6は、液体インク108に与える遠心力と遠心分離部201での液体インク108の通過時間・流量との関係を示すグラフである。
【0098】
【表6】
【0099】
遠心力が2500Gより小さい範囲では、遠心力による液体インク中の顔料凝集体の分離効果が少なくなる。その反面、遠心力が40000Gを越える範囲では、遠心分離部201の精度を上げたり、高速回転させたりする必要が生ずる。これは、装置のコストアップの原因となり、実用的ではない。
【符号の説明】
【0100】
102 記録媒体、105 インクジェットヘッド、106 光照射部(UV照射光源)、108 液体インク、155 超音波振動付与部、156 第1の温度調節部、157 インク貯留部(ダンパタンク)、158 インク供給部(第2のポンプ)、201 遠心分離部、251 第2の温度調節部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0101】
【特許文献1】特開平4−216940号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、
前記液体インクに遠心力を付与して前記液体インク中に分散されている顔料凝集体を遠心分離する遠心分離部と、
前記遠心分離部によって前記顔料凝集体が遠心分離された後の前記液体インクを貯留するインク貯留部と、
前記インク貯留部に貯留された前記液体インクを前記インクジェットヘッドに供給するインク供給部と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク貯留部に貯留される前の前記液体インクに対して脱気を施す脱気部を備えることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記遠心分離部を通過する前記液体インクの温度を調節する温度調節部を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドから吐出されて前記記録媒体に付着した後の前記液体インクに光を照射する光照射部を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記液体インクとして、
酸の存在下で重合する少なくとも1種の溶媒と、
前記溶媒中に溶解し、光照射により酸を発生する光酸発生剤と、
前記溶媒中に溶解又は分散した色成分と、
を含む前記液体インクが用いられることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一記載のインクジェット記録装置。
【請求項1】
分散媒体中に顔料を分散させた液体インクを用いて記録媒体上にインクジェットヘッドにより印字を行うインクジェット記録装置であって、
前記液体インクに遠心力を付与して前記液体インク中に分散されている顔料凝集体を遠心分離する遠心分離部と、
前記遠心分離部によって前記顔料凝集体が遠心分離された後の前記液体インクを貯留するインク貯留部と、
前記インク貯留部に貯留された前記液体インクを前記インクジェットヘッドに供給するインク供給部と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク貯留部に貯留される前の前記液体インクに対して脱気を施す脱気部を備えることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記遠心分離部を通過する前記液体インクの温度を調節する温度調節部を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドから吐出されて前記記録媒体に付着した後の前記液体インクに光を照射する光照射部を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記液体インクとして、
酸の存在下で重合する少なくとも1種の溶媒と、
前記溶媒中に溶解し、光照射により酸を発生する光酸発生剤と、
前記溶媒中に溶解又は分散した色成分と、
を含む前記液体インクが用いられることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一記載のインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−167784(P2010−167784A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21497(P2010−21497)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【分割の表示】特願2004−142061(P2004−142061)の分割
【原出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【分割の表示】特願2004−142061(P2004−142061)の分割
【原出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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