説明

インクジェット記録装置

【課題】記録領域の主走査方向に沿う長さが短い領域においても、安定した状態で記録動作と並行して記憶手段に記憶されたデータの読み取りが可能であるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、記録ヘッドの走査を制御する記録ヘッド制御手段を有している。記録ヘッド制御手段は、記録ヘッドが等速移動区間を移動する時間が、検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように、記録ヘッドの走査を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録ヘッドを記録媒体に対して走査させ、この走査の際に記録ヘッドよりインク滴を吐出して記録を行う形式のインクジェット記録装置が多く用いられている。インクジェット記録装置としては、ハードディスク(以下、HDDとも言うものとする)に記憶されているデータを読み取り、読み取ったデータを基に記録を行う形式のものがある。HDDは、周囲が振動している状態では、データの読み取り等が正確に行われない場合があるという特性を有している。特に、最近の大判の記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置では、重量の大きい記録ヘッドを高速に移動させながら記録を行うことがある。このような場合には、記録時のインクジェット記録装置の振動が大きくなり易く、HDDのデータの読み取りやデータの書き込みに影響を与えることがある。従って、HDDのデータの読み取りやHDDへのデータの書き込みといったHDDへのアクセスが行われる際には、インクジェット記録装置の振動が低減された状態にあることが求められる。
【0003】
HDDへのアクセスを行う際に、振動によるデータの読み込み、データの書き込みへの影響を低減させるように制御されるインクジェット記録装置について特許文献1に開示されている。特許文献1のインクジェット記録装置によれば、記録ヘッドの動作状態が検出され、記録ヘッドが等速で移動しているときにはHDDへのアクセスが行われ、記録ヘッドが加速、減速を行っているときにはHDDへのアクセスが行われないように制御されている。また、特許文献1では、記録領域の記録幅を検出し、記録幅が短いと判断した場合には、HDDへのアクセスを行わないように、記録装置が制御されている。これは、記録幅が短い場合には、等速で移動する区間が短いので、HDDへのアクセスの途中で記録ヘッドが減速、あるいは加速を行うことが必要とされる可能性があるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−130678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HDDへのアクセスを行う際の振動に対しては、特許文献1に開示されているような制御を行うことでデータの読み取りあるいはデータの書き込み等に与える影響を抑えることが可能である。しかしながら、インクジェット記録装置が特許文献1に開示されているように制御された場合、記録幅が小さい領域ではHDDへのアクセスが行われない。従って、HDDに記憶されている記録データを基に記録が行われている場合には、これから記録する分の記録データを取得できない可能性がある。特に記録幅の小さい領域が続いた場合には、HDDに記憶されたデータの読み取りを行えない時間が続くことになる。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、記録領域の主走査方向に沿う長さが短い領域においても、安定した状態で記録動作と並行して記憶手段に記憶されたデータの読み取りが可能であるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインクジェット記録装置は、データを記憶する記憶手段を有し、記録ヘッドを記憶媒体の搬送方向と異なる主走査方向に走査させ、前記記憶手段に記憶されているデータに基づいて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドの移動の際の加速度を検出する加速度検出手段と、前記記録ヘッドが一回の走査で記録を行う記録領域のうち、前記加速度検出手段によって検出された前記記録ヘッドの加速度が閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域である低加速度移動領域を検出する低加速度移動領域検出手段と、前記低加速度移動領域検出手段によって検出された低加速度移動領域を前記記録ヘッドが移動する際の第一の移動速度から算出され、前記記録ヘッドの前記低加速度移動領域を移動するための時間を検出する移動時間検出手段と、前記記憶手段からのデータの読み取りを行うデータ読み取り手段と、前記記録ヘッドによる一回の走査で行われる記録と並行して行われる分の、前記データ読み取り手段による前記記憶手段からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間を検出するデータ読み取り時間検出手段と、前記移動時間検出手段によって検出された前記記録ヘッドの前記低加速度移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも短いときには、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように、前記記録ヘッドの走査を制御する記録ヘッド制御手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインクジェット記録装置によれば、振動の少ない安定した状態で記憶手段からのデータの読み取りができるので、記憶手段からのデータの読み取りの際にデータの読み取りが振動によって影響を受けることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第一実施形態に係るインクジェット記録装置について模式的に示した斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置のスキャンごとの記録領域の一例を説明するための説明図である。
【図4】(a)は図1のインクジェット記録装置によって記録が行われる場合の、時間と記録ヘッドの移動速度との間の関係を示すグラフであり、(b)、(c)、(d)はその記録動作とデータの転送が行われるタイミングとの間の関係を示すグラフである。
【図5】(a)は図1のインクジェット記録装置によって記録が行われる場合の、記録領域の幅の長さが十分に長いときの記録ヘッドの位置と、速度の関係を示したグラフであり、(b)は記録領域の幅の長さが比較的短いときの記録ヘッドの位置と、速度の関係を示したグラフである。
【図6】図2のインクジェット記録装置によって記録が行われる場合の制御のフローを示すフローチャートである。
【図7】(a)は本発明の第二実施形態に係るインクジェット記録装置によって記録が行われ、記録領域の幅の長さが長い場合の記録ヘッドの位置と、速度の関係を示したグラフであり、(b)、(c)、(d)は記録領域の幅の長さが比較的短いときの記録ヘッドの位置と、速度の関係を示したグラフである。
【図8】本発明の第二実施形態に係るインクジェット記録装置によって記録が行われる場合の制御のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0011】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係るインクジェット記録装置の構成について説明する。図1は、第一実施形態のインクジェット記録装置100について模式的に示した斜視図を示す。インクジェット記録装置は、記録媒体に液体としてのインクを吐出する吐出口の形成された記録ヘッド151を搭載可能であって、記録媒体の搬送方向に交差する主走査方向に移動可能なキャリッジ7を有している。キャリッジ7は、キャリッジモータによって駆動され、キャリッジ7は主走査方向(図3のA方向)に往復移動する。その往復移動の間にキャリッジ7に搭載された記録ヘッド151から記録媒体にインクを吐出することで記録媒体Pに記録が行われる。
【0012】
図1に示したインクジェット記録装置100はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ7にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容した4つのインクタンク6が搭載されている。これら4つのインクタンク6は、それぞれ独立してキャリッジ7に着脱可能である。
【0013】
記録ヘッド151は、記録信号に応じてエネルギーを内部のインクに印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録を行う。特に、本実施形態のインクジェット記録装置100に用いられている記録ヘッド151は、熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式を採用している。記録ヘッド151は、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備え、その電気熱変換体に印加される電気エネルギーを熱エネルギーに変換させる。そして、その熱エネルギーをインクに与えることによりインクに膜沸騰を生じさせ、これによって生じる気泡の成長、収縮による圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0014】
なお、本実施形態では、記録ヘッド151として熱エネルギーを利用してインクを吐出する方式のインクジェット記録装置について説明しているが、本発明はこの形式の記録装置に限定されない。本発明は、ピエゾ素子を用いた圧力室内の体積変化によって記録ヘッドからインクを吐出する形式の記録装置に採用されても良い。また、その他の形式の記録装置に採用されても良い。
【0015】
図1に示されるように、キャリッジ7はキャリッジモータの駆動力を伝達する伝達機構としての駆動ベルト10の一部に連結されている。これにより、キャリッジ2は、ガイドシャフト11に沿って矢印A方向(主走査方向)に沿って摺動自在に案内支持されるようになっている。さらに、インクジェット記録装置100は、記録媒体Pを搬送するために搬送モータによって駆動される搬送ローラ12を有している。搬送モータの回転により、搬送ローラ12が駆動される。
【0016】
図2は、本実施形態におけるインクジェット記録装置100の制御構成を示すブロック図である。インクジェット記録装置100は、プリンタコントローラ120とプリンタエンジン150を具えている。HDD171は、HDDインターフェース121を介してプリンタコントローラ120の内部バス132に接続されており、HDD171がHDDインターフェース121を介してプリンタコントローラ120に接続されている。また、表示装置172は、表示装置インターフェース122を介してプリンタコントローラ120の内部バス132に接続されており、表示装置172が表示装置インターフェース122を介してプリンタコントローラ120に接続されている。プリンタコントロール120の内部には、FlashROM123が設けられており、FlashROM123は、ROMインターフェース125を介して内部バス132に接続されている。また、プリンタコントロール120の内部には、RAM124が設けられており、RAM124は、メモリコントローラ126を介して内部バス132に接続されている。また、ホストインターフェース127、CPU128、コントローラエンジンインターフェース129、画像処理チップ130も、内部バス132に接続されている。内部バス132は、ホストインターフェース127を介してネットワーク181に接続されている。プリンタエンジン150内においては、記録ヘッド151、プリントバッファ152、インターフェース153が、内部バス154に接続されている。プリンタエンジン150内のインターフェース153は、プリンタコントローラ120内のコントローラエンジンインターフェース129に接続されている。
【0017】
記録が行われる際には、まずホストコンピュータ180から送られてきた記録データが、データを記憶する記憶手段としてのHDD171に書き込まれる。それから、CPU128の命令によって、HDD171に書き込まれた記録データが一定の単位でRAM124にコピーされる。その後、RAM124にコピーされた記録データが画像処理チップ130によって二値データに展開され、二値データに展開された記録データがプリンタエンジン150に転送される。プリンタエンジン150では、プリンタコントローラ120から送られてきた記録データをプリントバッファ152に蓄積させ、適切なタイミングで記録ヘッド151に送る。それから、記録データに応じて、記録ヘッドにより記録が行われる。このように、本実施形態の記録装置100は、HDD171に記憶されているデータを読み取り、読み取ったデータに基づいて記録ヘッド151が主走査方向に走査しながら記録媒体にインクを吐出して記録を行う。また、インクジェット記録装置100は、HDD171からのデータの読み取りを行うデータ読み取り手段を有している。ここでは、CPU128がHDD171からのデータの読み取りを行うデータ読み取り手段として機能している。
【0018】
図3には、本実施形態の記録装置によって記録される画像の記録媒体に占める領域の一例の図が示されている。図3に示されるように、本実施形態で記録される画像の記録領域には、短いスキャン幅によって記録される記録領域と、長いスキャン幅によって記録される記録領域とが混在している。
【0019】
インクジェット記録装置100は、記録ヘッド151を、201のスキャン(1)から205の最後のスキャン(E)まで、記録領域に対応する位置を走査しながら記録を行っていく。図3の例に示される202のスキャン(N)のように記録領域における主走査方向への長さの短い領域を記録するときには、一般的に、記録ヘッドの移動範囲の主走査方向への長さは短い。
【0020】
また、記録のためのデータ処理はスキャン(N)を記録すると同時に、203のスキャン(N+1)のデータをRAM124からプリントバッファ152にコピーしておく。また、さらに同時に、204のスキャン(N+2)のデータをHDD171からRAM124にコピーする。
【0021】
ここで、従来行われているような手法によって記録が行われる場合には、記録ヘッドが等速で走査を行っている間にHDDからのデータの読み取りが行われる。ところが、記録ヘッドによって記録される記録領域の主走査方向への長さが短い場合には、記録ヘッドが等速で移動する区間の長さが短く、記録ヘッドの等速で移動する時間が短い。また、これから記録が行われるためにデータが読み取られる区間の記録領域の主走査方向に沿う長さが長い場合には、HDDから読み取られるデータの量が大きく、データの読み取りにかかる時間が長い。場合によっては、記録ヘッドが主走査方向に走査する長さの比較的短いスキャン(N)の記録領域に記録を行っているときに、主走査方向へ長いスキャン(N+2)のデータをHDDから読み込むようなこともあり得る。そのため、記録ヘッドが等速移動区間にある間に、HDDからのデータの読み込みが完了しないことが生じる可能性がある。
【0022】
しかしながら、本実施形態では、それぞれの記録領域でスキャンが行われるごとに、データの読み取りに必要とされる時間に応じて、記録ヘッド151が走査を行う際の記録ヘッド151の等速移動区間での移動速度が調節される。以下、本実施形態の記録装置による記録の際の、データの読み取り及び記録ヘッド151の等速移動区間での速度の調整について説明する。
【0023】
図4は本実施形態に係る記録装置100のデータ処理のタイミングを示す図である。図4(a)には、インクジェット記録装置100によって記録が行われる際の、時間の経過と共に変化する記録ヘッドの走査速度が示されている。図4(b)には、そのときのプリントバッファから記録ヘッドにデータが転送される時間と、データの転送量について示したグラフが示されている。図4(c)には、RAM124にコピーされた記録データがプリントバッファ152に蓄積される際のデータが転送される時間と、データの転送量について示したグラフが示されている。図4(d)には、HDD171に書き込まれている記録データが読み取られRAM124にコピーされる際の、データが転送される時間と、データの転送量について示したグラフが示されている。これらの図4(a)〜(d)に示されるグラフでは、それぞれのグラフが同一の時系列で時間が示されている。ここでは、図3において、スキャン(N)の記録を行いながら、RAM124のスキャン(N+1)に対応したデータをプリントバッファ152に転送し、HDD171のスキャン(N+2)に対応したデータをRAM124に転送する際について説明する。
【0024】
図4(b)に示されるように、まず図3に示されるスキャン(N)のデータをプリントバッファ152から記録ヘッド151へTHの時間を用いてデータの転送を行う。その後、図4(a)に示されるように、プリントバッファ152から記録ヘッド151へのデータの転送が開始された時間よりTD遅れた時間から記録ヘッド151が走査を開始する。このとき、記録ヘッド151は加速し始め、記録ヘッド151が移動しながらインクを吐出することにより記録媒体に記録を行う。記録ヘッド151が移動を開始した時間から時間TA経過すると記録ヘッド151の加速が終り、記録ヘッド151が一定の速度で等速移動を行いながら記録を行う。インクジェット記録装置100は、記録ヘッド151が一回の走査で記録を行う記録領域のうち、記録ヘッド151が一定の移動速度で移動する等速移動領域を検出することが可能である。このとき、CPU128等が、記録ヘッド151の一定の移動速度で移動する等速移動領域を検出する等速移動領域検出手段として機能する。本実施形態では、等速移動区間における記録ヘッド151の速度は、記録の速度を高めてスループットを向上させるために、通常は、記録ヘッド151における設定上最も高い速度に設定されている。記録ヘッド151が等速で移動する等速移動区間では、記録ヘッド151は加速、あるいは減速を行っているわけではないので比較的安定した状態にあり、この等速移動区間にある時間TCの間は記録装置全体の振動が少ない。それから、記録ヘッド151は記録領域の端部に近づくと減速し、記録領域の端部に到達したところでインクの吐出を終了して記録を止める。
【0025】
本実形態のインクジェット記録装置100は、図4(d)に示されるように、図3におけるスキャン(N)の記録領域を一定の速度で記録ヘッド151が移動している等速移動区間の時間TCにHDD171へのデータのアクセスが行われる。本実施形態では、図3におけるスキャン(N+2)に対応した記録データがHDD171から読み取られ、HDD171からRAM124にその記録データのコピーが行われる。このように、HDD171へのデータアクセスが振動の少ない等速移動区間に行われるので、HDD171へのデータアクセスが振動の比較的少ない安定した状態の下で行われる。従って、HDD171内に書き込まれているデータの読み込みが振動によって影響を受けることが抑えられる。これにより、HDD171からのデータの読み込みが正確に行われることになる。また、HDD171へのデータのアクセスの際に振動が生じないようにするための特別な構成を必要としないので、インクジェット記録装置の小型化を図ることができると共に、インクジェット記録装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0026】
また、図4(c)に示されるタイミングで、図3におけるスキャン(N+1)に対応する記録データが、画像処理チップ130によって画像処理が行われると共に、RAM124からプリントバッファ152に転送される。ここでの工程は、機械的振動による影響の少ない記憶装置同士の間の記録データの転送なので、安定した状態の下でデータの転送が行われることの必要性があまりない。そのため、図4(a)に示されるような、記録ヘッド151の走査の行われるタイミングとの間の厳密なタイミング調整が行われる必要はあまりない。
【0027】
ここで、記録ヘッド151により記録を行う記録領域であるスキャン(N)の主走査方向に沿う長さが狭い場合について説明する。
【0028】
図5(a)は、記録領域の主走査方向への長さが比較的長いときの、記録位置に応じた記録ヘッド151の速度について示したグラフである。また、図5(b)は、記録領域の主走査方向への長さが比較的短いときに等速移動区間における記録ヘッド151の移動速度を変化させた場合についての記録位置に応じた記録ヘッド151の速度について示したグラフである。図5(b)では特に、記録画像が記録媒体における左端部のみに偏って形成される場合について示している。本実施形態のインクジェット記録装置100は、振動の比較的少ない等速移動区間(等速移動領域)を記録ヘッド151が移動する時間を検出する時間検出手段(等速移動時間検出手段)を有している。従って、記録ヘッド151が等速移動区間にある時間を検出することが可能である。本実施形態では、CPU128等が、等速移動区間を記録ヘッド151が移動する時間を検出する時間検出手段として機能する。また、本実施形態のインクジェット記録装置100は、記録ヘッド151による一回の走査で行われる記録と並行して行われる分の、HDD171からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間を検出するデータ読み取り時間検出手段を有している。本実施形態では、CPU128等が、データ読み取り時間検出手段として機能している。
【0029】
図5(a)に示されるように、記録ヘッドが等速で移動する区間の長さがLC1と長い場合には、記録ヘッド151の移動速度が設定上最も高い速度V1であっても、記録領域LC1に対応した記録ヘッドの移動時間TC1を十分に長く確保することができる。記録ヘッド151が等速で移動する時間がTC1のように十分に長く、HDD171からデータを取り出すための時間が十分に確保されている場合には、記録ヘッド151の移動速度が設定上最も高い速度V1に保たれる。そして、記録ヘッド151の等速で移動する区間の移動速度がV1に保たれたまま、HDD171へのデータのアクセスが行われる。
【0030】
しかしながら、記録画像の主走査方向への長さが短い場合には、記録ヘッド151の設定上最も高い速度V1とした状態で記録が行われると、等速移動区間LC2を走査する間の時間TC2が短くなってしまう。これにより、記録ヘッド151の等速移動区間を走査する時間が不足し、HDD171からデータの転送が記録ヘッド151の等速移動を行う時間内に収まらない可能性がある。そこで、本実施形態の記録装置100においては、図5(b)に示されるように、記録ヘッド151の定速状態の速度をV3まで低くすることにより記録ヘッドが等速移動区間LC3で等速移動を行う時間TC3を長くする。これによって、HDD171へのデータのアクセスが行われる間は、記録ヘッド151が等速移動であることによって記録装置に振動が少ない状態であるように、記録ヘッド151の等速移動区間の時間TC3を十分に長く確保する。このように、本実施形態のインクジェット記録装置100は、記録ヘッド151の走査を制御する記録ヘッド制御手段を有している。特に、検出された記録ヘッド151の等速移動区間を移動する時間が、データの読み取りが行われるのに必要な時間よりも短いときには、記録ヘッド151の等速移動時間が、データの読み取りに必要な時間よりも長くなるように記録ヘッド151の走査が制御される。
【0031】
図6は、記録ヘッド速度の変更決定手順を示すフローチャートである。ステップS501において、図3で現在記録を行おうとしているスキャンをスキャン(N)としたとき、データ量算出手段によってスキャン(N+2)に当たる画像データ量を算出し、ステップS502に進む。
【0032】
ステップS502において、現在記録を行おうとしているスキャン(N)での記録領域の主走査方向への長さを算出し、ステップS503に進む。ステップS503において、ステップS501で算出した量の画像データを読み込む時間と、ステップS502において算出した記録領域の主走査方向への長さを基に計算したスキャン時間のうち記録ヘッドが一定の速度で移動する区間での時間とが比較される。その結果、記録ヘッドが等速で移動する時間よりも画像データを読み込む時間の方が長い場合には、フローはステップS504に進む。そうでない場合には、ステップS505に進む。ステップS504では、記録ヘッドの等速で移動する時間が画像データの読み込みにかかる時間よりも長くなるように現在の記録ヘッドの等速移動の移動速度を下げ、記録ヘッドの等速移動区間での移動速度を調節して設定する。ステップS505において、ステップS504において等速区間での速度が設定された速度となるように走査を行うと共に記録を行い、記録領域の記録が完了するとフローを終了する。
【0033】
なお、本実施形態のインクジェット記録装置100では、HDD171内に記憶されているデータへのアクセスを、記録ヘッド151が等速移動を行っている時間に行うものとしている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、記録ヘッド151が等速でなく、所定の値の加速度以下の加速度で移動するときにも、HDD171に記憶されているデータへのアクセスを行うこととしても良い。このとき、インクジェット記録装置100には、記録ヘッド151の移動の際の加速度を検出する加速度検出手段として、加速度センサ等が設けられても良い。そして、低加速度移動領域検出手段としてのCPU128等が、一回の走査で記録を行う記録領域のうち、加速度検出手段によって検出された記録ヘッドの加速度が閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域(低加速度移動領域)を検出する。そして、記録ヘッドの加速度が閾値以下であるような領域を移動する時間が、HDD171からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように、記録ヘッドの走査が制御される。
【0034】
記録ヘッドの走査の制御は、記録ヘッドが閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域を移動する間の記録ヘッドの移動速度を低くすることで、記録ヘッドが閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域を移動する時間を長くする。すなわち、記録ヘッドが閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域を記録ヘッドが移動する際の移動速度(第一の移動速度)よりも低い速度(第二の移動速度)とする。こうすることで、記録ヘッドが閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域を移動する時間を、HDD171からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くする。ここでの、記録ヘッドが閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動速度よりも低い速度(第二の移動速度)は、記録ヘッドの走査の全体に亘って、設定されていた記録ヘッドの第一の移動速度よりも低いものとする。
【0035】
このように、閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域を移動するとしても、HDD171へのデータアクセスが、振動の比較的少ない安定した状態の下で行うことができる。従って、HDD171内に書き込まれているデータの読み込みが振動によって影響を受けることが抑えられる。これにより、HDD171からのデータの読み込みが正確に行われることになる。
【0036】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。なお、上記第一実施形態と同様に構成される部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0037】
第一実施形態においては、現在記録を行っている記録領域の主走査方向への長さが短い場合には、記録ヘッドの等速移動を行っているときの移動速度を調節している。これによって、等速移動が行われている間にそこでのHDDからのデータの読み取りが完了するように、記録ヘッドが等速移動区間にある時間を調節している。これに対して第二実施形態では、現在記録を行っている記録領域の主走査方向への長さが短い場合には、記録領域よりも長い距離に亘って記録ヘッドが主走査方向に走査を行うことで記録ヘッドが等速移動区間にある時間が調節される。
【0038】
以下、第二実施形態における記録動作について説明する。図7は記録画像の主走査方向に沿う長さが小さく、画像が記録媒体の左端だけに偏っている場合、右端だけに偏っている場合、中央にだけある場合について、記録ヘッドの動作範囲を広げることを説明した図である。図7(a)に示されるように、記録ヘッド151が等速移動区間LC1の主走査方向への長さが長い場合には、その区間を等速に移動する時間TC1が十分に長い。従って、HDD171からデータを読み取るための時間が十分にあるので、等速移動区間での移動速度を設定上最も高い速度V1としたままHDDへのアクセスを行えばよい。
【0039】
しかしながら、図7(b)に示されるLp2のように記録画像が小さく記録媒体の左端だけに偏っている場合には、記録ヘッド151の一定速度を通常のようにV1としたまま記録が行われたときに、等速移動区間LC2を移動する時間TC2が短くなってしまう。これにより、記録ヘッドが等速移動区間を移動している間にデータの読み込みを完了させることができずに、HDD171からのデータの転送が間に合わない場合が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、記録ヘッド151の走査する移動範囲を、等速移動区間LC4のように、記録領域を超えてその外側にまで広げる。これにより、記録ヘッドが速度V1で移動したとしても記録ヘッドの移動時間が長くなり、等速移動区間LC4に対応した比較的振動が少ない時間TC4を十分に長く確保する。
【0040】
また、図7(c)に示されるLp3のように、記録画像の幅が小さく画像が右端だけに偏っている場合には、記録ヘッド151の一定速度をV1としたまま通常通りに記録を行った場合には、一定速度となる区間LC3を移動する時間TC3が短くなってしまう。そのため、HDD171からのデータの転送が間に合わない場合が出てくる。そこで、本実施形態では、記録ヘッド151の移動範囲を、記録領域の左側に広げ、等速移動区間をLC5に広げる。これにより、記録ヘッドが速度V1で移動するとしても、等速移動区間をLC5が十分に長くすることができるので、比較的振動が少ない時間TC5を十分に長く確保できる。
【0041】
また、図7(d)に示されるように記録画像の幅が小さく画像が記録媒体の中央だけに記録される場合には、記録ヘッド151の定速状態の速度をV1のままとすると、区間LC6を等速で移動する時間TC6が短くなってしまう。そのため、記録ヘッドが等速移動を行っている間にHDD171からのデータの読み取りを完了することができない可能性がある。そこで、本実施形態の記録装置では、記録ヘッド151の移動する範囲を、記録領域の主走査方向の両方の外側にまで広げることにより、記録ヘッド151の等速移動区間LC7を長くする。これにより、等速移動区間LC7を移動する時間TC7を長くして、HDD171からのデータの読み取りを行うのに十分な時間を確保する。
【0042】
図8は、記録ヘッド動作範囲の変更決定手順を示すフローチャートである。ステップS701において、図3に示されるように現在記録を行おうとしているスキャンをスキャン(N)としたとき、スキャン(N+2)に当たる画像データ量を算出し、ステップS702に進む。ステップS702において、現在記録を行おうとしているスキャン(N)の記録領域の主走査方向への長さを算出し、ステップS703に進む。ステップS703において、ステップS701で算出した量の画像データを読み込む時間と、ステップS702において算出した記録領域の長さを基に計算したスキャン時間のうちの記録ヘッドの速度が一定となる時間とを比較する。その結果、画像データを読み込む時間の方が長い場合は、ステップS704に進む。そうでない場合には、ステップS705に進む。ステップS704において、記録ヘッド151が等速で移動する等速移動区間の長さを広げるように、記録ヘッド151が移動する範囲の主走査方向への両方の端部を設定する。ステップS705において、記録ヘッド151の走査する移動範囲が、設定された範囲となるような走査によって記録を行い、そのスキャンについての記録が完了すると記録動作を終了する。
【0043】
なお、第二実施形態においても、記録ヘッドが所定の値の加速度以下の加速度で移動するときにも、HDD171に記憶されているデータへのアクセスを行うこととしても良い。このとき、記録ヘッド151が記録を行う記録領域の主走査方向への長さよりも記録ヘッド151が主走査方向に移動する長さを長くし、記録ヘッド151が閾値以下の加速度であるときの記録ヘッド151の移動する領域を移動する時間を長くする。こうすることで、記録ヘッド151が閾値以下の加速度であるときの記録ヘッド151の移動する領域を移動する時間が、HDD171からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように記録ヘッド151の走査を制御する。
【0044】
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0045】
また、「記録装置」とは、プリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント機能を有する装置、ならびにインクジェット技術を用いて物品の製造を行なう製造装置を含む。
【0046】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものを表すものとする。
【0047】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【符号の説明】
【0048】
100 インクジェット記録装置
128 CPU
151 記録ヘッド
171 HDD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを記憶する記憶手段を有し、
記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と異なる主走査方向に走査させ、前記記憶手段に記憶されているデータに基づいて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドの移動の際の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記記録ヘッドが一回の走査で記録を行う記録領域のうち、前記加速度検出手段によって検出された前記記録ヘッドの加速度が閾値以下の加速度であるときの記録ヘッドの移動する領域である低加速度移動領域を検出する低加速度移動領域検出手段と、
前記低加速度移動領域検出手段によって検出された低加速度移動領域を前記記録ヘッドが移動する際の第一の移動速度から算出され、前記記録ヘッドの前記低加速度移動領域を移動するための時間を検出する移動時間検出手段と、
前記記憶手段からのデータの読み取りを行うデータ読み取り手段と、
前記記録ヘッドによる一回の走査で行われる記録と並行して行われる分の、前記データ読み取り手段による前記記憶手段からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間を検出するデータ読み取り時間検出手段と、
前記移動時間検出手段によって検出された前記記録ヘッドの前記低加速度移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも短いときには、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように、前記記録ヘッドの走査を制御する記録ヘッド制御手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッド制御手段は、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する間の前記記録ヘッドの移動速度を前記第一の移動速度よりも低い第二の移動速度とし、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する時間を長くすることで、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように前記記録ヘッドの走査を制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッド制御手段は、前記記録ヘッドが記録を行う記録領域の主走査方向への長さよりも前記記録ヘッドが主走査方向に移動する長さを長くし、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する時間を長くすることで、前記記録ヘッドが前記低加速度移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように前記記録ヘッドの走査を制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
データを記憶する記憶手段を有し、
記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と異なる主走査方向に走査させ、前記記憶手段に記憶されているデータに基づいて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドが一回の走査で記録を行う記録領域のうち、前記記録ヘッドが一定の移動速度で移動する等速移動領域を検出する等速移動領域検出手段と、
前記等速移動領域検出手段によって検出された等速移動領域を前記記録ヘッドが移動する時間を検出する等速移動時間検出手段と、
前記記録ヘッドが前記等速移動領域を移動する間に前記記憶手段からのデータの読み取りを行うデータ読み取り手段と、
前記記録ヘッドによる一回の走査で行われる記録と並行して行われる分の、前記データ読み取り手段による前記記憶手段からのデータの読み取りが行われるのに必要な時間を検出するデータ読み取り時間検出手段と、
前記等速移動時間検出手段によって検出された前記記録ヘッドの前記等速移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも短いときには、前記記録ヘッドが前記等速移動領域を移動する時間が、前記データ読み取り時間検出手段によって検出されたデータの読み取りが行われるのに必要な時間よりも長くなるように、前記記録ヘッドの走査を制御する記録ヘッド制御手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−16862(P2012−16862A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154908(P2010−154908)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】