説明

インクジェット記録装置

【課題】プラテン吸収体へのインクの堆積を抑制するインクの使用量を低減し、インクの堆積を好適に抑制することが可能なインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】インク成分に基づいて、吐出した堆積し易いインクと堆積を抑制するインクとの量を比較して、堆積を抑制するインクの量が少ない場合に、必要量の堆積抑制インクを吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク液を用いて記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶解性が従来のインクより低いインク(以下、堆積し易いインクと呼ぶ)を使用したインクジェット記録装置において、縁無し記録や予備吐出などでインク受け部に吐出を続けた場合、インクがインク受け部や流路などに堆積することがある。その結果、インクの堆積物が流路を塞いだり、インク受け部上で堆積物を形成することがある。この場合、堆積物が周辺部に溢れてインク受け部周りが汚れたり、その堆積物が記録媒体を汚したり、記録ヘッドの吐出口形成面と接触したりするなどの問題が生じる。したがって、堆積し易いインクを用いる記録装置においては、インクの堆積を防止する制御が重要な技術となる。
【0003】
そこで、特許文献1に開示されているインクジェット記録装置では、プラテン吸収体上に堆積し易い各インクに対して、堆積を抑制するのに必要な堆積抑制インクの量を、堆積し易いインクの量に応じて定める。また、プラテン吸収体のエリアを分割してドットカウントを行うことにより、エリア毎に堆積抑制インク量を規定でき、より精度よく堆積抑制インク量を規定できる、という方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−62609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術では、堆積し易いインクのドットカウントに基づいて堆積抑制インク量を規定している。また、プラテン吸収体のエリアを分割してドットカウントを行うことでより精度よく堆積抑制インク量を規定できるとしており、堆積抑制インク量は堆積し易いインクの量のみを考慮して規定している。
【0006】
しかしながら、堆積を抑制するための堆積抑制インクの量は、堆積し易いインクの量だけでなく、堆積し易いインクの成分比率の変化やプラテン吸収体の状態、インク残量等を考慮して規定すべきである。そのため、特許文献1に記載の技術では、インクの堆積を抑制するための適切な堆積抑制インクの量が規定できていない、または実行できていない場合があるという課題があった。
【0007】
よって本発明は、プラテン吸収体へのインクの堆積を抑制するインクの使用量を低減し、インクの堆積を好適に抑制することが可能なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録手段と、縁無し記録の際に前記記録手段から吐出された前記インクを受けるプラテン吸収体と、を備えたインクジェット記録装置であって、前記インクは、吐出後に堆積し易い第1のインク群と、吐出後のインクの堆積を抑制する第2のインク群と、に分かれており、縁無し記録に際して前記プラテン吸収体を複数の領域に分割して、各前記領域に吐出された前記第1のインク群と前記第2のインク群のインク量を前記領域毎にカウントするカウント手段と、前記プラテン吸収体上に吐出されたインクの色ごとのインク成分の比率を前記領域毎に推定する推定手段と、を備え、前記推定手段の推定結果と前記カウント手段のカウント結果とから、前記第1のインク群が前記プラテン吸収体に堆積するかを判断し、堆積すると判断した場合には、堆積を抑制可能な量の前記第2のインク群のインクを吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればインクジェット記録装置のインクは、吐出後に堆積し易い第1のインク群と、吐出後のインクの堆積を抑制する第2のインク群と、に分かれている。そして、インクジェット記録装置は、縁無し記録に際してプラテン吸収体を複数の領域に分割して、各領域に吐出された第1のインク群と第2のインク群のインク量を領域毎にカウントするカウント手段を備えている。さらにインクジェット記録装置は、プラテン吸収体上に吐出されたインクの色ごとのインク成分の比率を領域毎に推定する推定手段を備えている。そして、推定手段の推定結果とカウント手段のカウント結果とから、第1のインク群がプラテン吸収体に堆積するかを判断し、堆積すると判断した場合には、堆積を抑制可能な量の第2のインク群のインクを吐出する。これによって、プラテン吸収体へのインクの堆積を抑制するインクの使用量を低減し、インクの堆積を好適に抑制することが可能なインクジェット記録装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態におけるインクジェット記録装置の構成の概略図である。
【図2】本実施形態を適用可能な記録装置におけるインク吐出領域を示した図である。
【図3】記録装置におけるプラテンとプラテン吸収体とを示した図である。
【図4】滴下後に堆積物ができているかの実験結果を表で示した図である。
【図5】インクの堆積抑制効果を調べた実験結果を表で示した図である。
【図6】インクの堆積を防止するライトシアンの量を確認した結果である。
【図7】異なる温度・湿度における各係数値を表に示した図である。
【図8】(a)はA、C、D領域での係数dを、(b)はB領域での係数dを示した図である。
【図9】本実施形態における記録動作のシーケンスを示したフローチャートである。
【図10】記録動作のシーケンスをフローチャートで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
【0012】
(記録装置構成)
図1は、本実施形態におけるインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)の構成の概略図である。インクタンク1は、記録用シート11の両側に配置している(不図示)。インクタンク1は記録装置本体側のインクタンクホルダー2に装着されており、キャリッジ8に搭載されるサブタンク7にインク供給チューブ6を経由してインクを供給する。記録装置は、記録中に記録媒体を支持するプラテンの上をサブタンク7に接続された記録ヘッドが移動し、記録ヘッドのノズルからインクを吐出することで記録を行う。ノズルの吐出状態を好適な状態に維持するための吸引動作などのノズル回復動作の際には、記録ヘッドは回復ユニット10の位置に移動する。回復ユニット10には減圧ポンプが内蔵されている。
【0013】
(縁無し記録・ドットカウント)
図2は、本実施形態を適用可能な記録装置におけるインク吐出領域を示した図である。記録媒体の縁まで記録する所謂縁無し記録では、記録後の記録媒体に余白を残さないために、本実施形態では図2のように記録媒体の端部に沿って、A領域(記録媒体の右端部)、B領域(先端部)、C領域(左端部)、D領域(後端部)の4つの領域を設けている。このような左右端部および先後端部の各領域では、A領域:2.8mm、B領域:2mm、C領域:2.8mm、D領域:5mmのはみ出し領域を設けてインクを吐出する。このはみ出し量は、記録媒体の搬送誤差や斜行や給紙による最大誤差量を見込んだうえで記録媒体に余白を残さないよう記録できるような量に設定されている。記録媒体からはみ出したインクは、プラテン吸収体上に吐出される。
【0014】
本実施形態では、A領域、B領域、C領域、D領域の各領域毎に吐出した各インクの吐出量をそれぞれカウントして記憶する。まず、各領域毎に吐出した各インクのドット数をカウントする。次に、インク毎に予め定められた1ドットあたりの吐出量をもとに、ドット数と1ドットあたりの吐出量を乗ずることで、プラテン吸収体上に吐出された各インクのインク量を算出することができる。
【0015】
図3は、本実施形態を適用可能な記録装置における、プラテン12とプラテン吸収体13とを示した図である。図2に示した先端部のB領域と後端部のD領域における吐出では、実際にはプラテン吸収体13上で一部重なる位置に吐出されるが、吐出された各インクのインク量の算出は前述のようにA、B、C、Dの各領域毎に行う。この理由は、プラテン吸収体13上の位置が同じであっても、B領域とD領域とでは各インクのインク量が異なること、さらにはインク吐出後の経過時間が異なるのでインクの粘度が異なり、堆積を抑制するための必要インク量が異なってくるためである。
【0016】
(インク構成・インク堆積)
本実施形態の記録装置は、12色の顔料インクによって画像を形成するものである。そのインク構成はグレー、フォトブラック、ライトグレー、ダークグレー、ライトシアン、マゼンタ、イエロー、ライトマゼンタ、マットブラック、シアン、レッド、クリア(画質向上透明液)である。ここでインクの堆積とは、プラテン吸収体上にインクが吐出された時にプラテン吸収体に浸透せずにプラテン吸収体13の表面にインクが残留してしまう現象のことである。このような現象は、用いるインクが溶解性の低い色材を含むインクであったり、蒸発時の粘度上昇が大きくて流動性が低減するインクなどの場合に発生しやすい。このように堆積する性質を持つインクを以下、堆積し易いインクと呼ぶ。前述のインク12色のうち、堆積し易いインクは、フォトブラック、マゼンタ、イエロー、マットブラック、シアン、レッドの6色であり、これらを堆積し易いインク群として第1のインク群とする。但し、マットブラックは縁無し記録には使用せず、アート紙などの特殊な記録媒体専用のインクであるため、プラテン吸収体13上に吐出する機会はない。そのため、本実施形態ではマットブラックの堆積は考慮しないこととし、以下マットブラックを除いた11色について説明する。一方、堆積し易いインク以外の6色、グレー、ライトグレー、ダークグレー、ライトシアン、ライトマゼンタ、クリアは、プラテン吸収体上に堆積する現象は発生しにくい。そしてさらには、これらのインクを堆積し易いインクに混ぜる、あるいは堆積し易いインク上にかけると堆積を防止する効果がある。これら6色のインクを、堆積を抑制する第2のインク群とする。このような、堆積し易いインク、堆積を抑制するインクは、例えば以下のような実験で分類することができる。
【0017】
(実験1:堆積し易いインクか否かの判定)
プラテン吸収体上にインクを滴下する手段を設置し、高温低湿環境下で対象インクを間欠的に滴下する。ある規定滴下回数において、プラテン吸収体13上に堆積物ができているか否かで、対象インクが堆積し易いインクか否かを判定することができる。また、対象インクの堆積物が発生した滴下回数を測定することで、各対象インクの堆積し易さを評価することができる。本実施形態では、温度30度湿度10%の環境下において、300秒間隔で縦600dpi横600dpiに32ngの密度でインクをプラテン吸収体13上に滴下させるように記録装置を動作させて実験を行った。
【0018】
図4は、滴下後に堆積物ができているかの実験結果を表で示した図である。この結果ではフォトブラック>シアン≒マゼンタ>レッド≒イエローの順で堆積し易いインクであることがわかる。そしてこの順序は、インク中の固形成分の量の多さに一致していることがわかった。
【0019】
(実験2:堆積を抑制するインクか否かの判定)
前述の実験1で堆積しなかったインクを対象インクとする。高温低湿環境下で堆積し易いインクを間欠的に滴下し、同時に堆積し易いインクを滴下する、あるいは、堆積し易いインクを滴下してから一定時間後に対象インクを滴下する。ある規定滴下回数において、プラテン吸収体上に堆積物ができているか否かで、対象インクが堆積を抑制可能なインクか否かを判定することができる。また、堆積し易いインクの堆積を防止することができる堆積を抑制するインクの比率、あるいは堆積し易いインクの堆積を防止することができる一定時間後の堆積を抑制するインクの比率を測定することができる。
【0020】
本実施形態では、温度30度湿度10%の環境下において、300秒間隔で縦600dpi横600dpiに32ngの密度で堆積し易いインクをプラテン吸収体13上に滴下させる。またそれと同時に対象インクも同位置に滴下させる実験を複数条件で、各インクの組み合わせで行った。
【0021】
図5は、インクの堆積抑制効果を調べた実験結果を表で示した図である。その結果、堆積抑制効果の高い順に、ライトシアン≒グレー>ライトグレー≒ライトマゼンタ≒ダークグレー≒クリアであった。この順序は、本実施形態ではインク中の固形成分の量の少なさに一致していることがわかった。
【0022】
また図6は、インクの堆積を防止することができるライトシアンの量を確認した結果を表に示した図である。温度30度湿度10%の環境下において、縦600dpi横600dpiに32ngの密度で堆積し易いインクをプラテン吸収体13上に滴下させ、所定時間後にライトシアンインクを同位置に滴下させる実験を行った。その結果、滴下後の時間が経過するほど、堆積し易いインクの蒸発が進行することにより堆積し易くなるため、必要となるライトシアン量は増加していくことがわかった。
【0023】
(堆積抑制量の算出)
第1のインク群のフォトブラック、マゼンタ、イエロー、シアン、レッドのインク量をPBk、Ma、Ye、Cy、Reと表す。そして、第2のインク群のグレー、ライトグレー、ダークグレー、ライトシアン、ライトマゼンタ、クリアのインク量をGy、LGy、DGy、Lc、Lm、Cl、と表す。温度30度湿度10%の環境下において、プラテン吸収体上のある領域に吐出したインクが堆積するかどうかは図4、図5の結果より、例えば以下のような計算式で判別することができる。
{(PBk×0.5+Cy×0.4+Ma×0.4+Re×0.3+Ye×0.3)−(Lc+Gy+LGy×0.5+DGy×0.5+Lm×0.5+Cl×0.5)}・・・(1)
各インクに乗じている係数は図4、図5の結果より、ライトシアンLcおよびグレーGyを基準として各色のインクに重み付けしたものである。式(1)が正の場合、堆積し易いインクに対して堆積を抑制するインク量が不足していることを示しており、このまま放置するとインクが堆積する可能性が高い。また式(1)が負の場合、堆積し易いインクに対して堆積を抑制するインク量は足りていることを示しており、このまま放置してもインクが堆積する可能性は低い。
【0024】
図7は、異なる温度・湿度における各係数値を表に示した図である。式(1)における重み付けの係数は、温度・湿度によって変化するため、式(1)は以下の式(2)のように記述することができ、その時の各係数a、b、cを図7に示した。また、第2のインク群の係数は、ライトシアンLc、グレーGyを基準とした堆積抑制の効果の度合いを示しているので、温度・湿度によって変わらないと考えてよい。
{(PBk×a+Cy×b+Ma×b+Re×c+Ye×c)−(Lc+Gy+LGy×0.5+DGy×0.5+Lm×0.5+Cl×0.5)}・・・(2)
以上より、プラテン吸収体13上のインクの堆積を防止するためには、図2に示したプラテン吸収体13のA領域からD領域のそれぞれについて式(2)を適用して計算する。そして、その値が正であれば堆積を抑制するための第2のインク群の吐出を追加で実行し、値が負であれば何も行わないという制御を行う。
【0025】
式(2)から、プラテン吸収体13の各領域に、インクの堆積を抑制するためのインク吐出(以下、堆積抑制吐出ともいう)が必要か否かを判別可能である。しかし、堆積抑制吐出の必要量は、縁無し記録によりプラテン吸収体13上にインクを吐出してから堆積抑制吐出を行うまでの時間を考慮する必要がある。なぜなら、堆積抑制吐出は縁無し記録を終了して記録媒体を排紙した後に行うことになるため、その間にプラテン吸収体13上のインクの蒸発が進行して、より堆積し易い状態となるためである。例えば、図2のA、C、D領域は、堆積抑制吐出を行う直前まで領域内にインクが吐出されているが、B領域は領域内にインクが吐出されてから堆積抑制吐出を行うまで記録動作時間以上の時間が経過してしまう。そこで、堆積抑制吐出の必要量は式(2)に温度・湿度と記録動作時間によるインク蒸発を加味した係数dを乗じて以下の堆積抑制吐出式(3)のように算出する。
{(PBk×a+Cy×b+Ma×b+Re×c+Ye×c)−(Lc+Gy+LGy×0.5+DGy×0.5+Lm×0.5+Cl×0.5)}×d・・・(3)
前述のように、図2のA、C、D領域は堆積抑制吐出を行う直前まで領域内にインクが吐出されているが、B領域は領域内にインクが吐出されてから記録動作時間以上経過している。したがって本実施形態では、A、C、D領域で、係数dは図8(a)に示す共通の値を用い、B領域では係数dは図8(b)に示した値を用いる。また、記録モードが複数あるなど記録動作時間が複数ある場合には、記録動作時間の長さに応じてそれぞれ係数dを用意すればよい。
【0026】
(堆積抑制吐出シーケンス)
図9は、本実施形態における記録動作のシーケンスを示したフローチャートである。堆積抑制の吐出を行うシーケンスを以下に説明する。まず、ステップS1で記録動作を開始すると、ステップS2に移行して、記録しようとしている画像が縁無し記録かどうかの判断を行う。この判断によって縁無し記録でない場合はステップS2−1で記録動作を行い、その後ステップS2−2で記録動作が終了する。ステップS2で縁無し記録である場合には、ステップS3に移行して記録環境下の温度・湿度情報を取得する。本実施形態では記録装置内に設置された温湿度センサにより記録装置内の温度、湿度情報を取得している。その後ステップS4において記録モード情報を取得し、ステップS5において、縁無し記録動作を行い、一方で画像のはみ出し領域に吐出された各インク量を、図2に示した各領域に分割して領域毎にそれぞれカウントする。
【0027】
記録動作終了後にステップS6で、ステップS3、S4、S5で取得した温度・湿度情報、記録モード情報、各領域毎の各インクのインク量より各領域毎に堆積抑制吐出式(3)を計算する。そしてステップS7において、ステップS6で計算した結果から堆積抑制吐出が必要か否かを判断して、必要な場合にはその必要量を算出(推定)する。前述のように、ステップS6の計算結果(推定結果)が正の場合には必要、負の場合には不要である。その後ステップS8において、ステップS7で算出した量の堆積抑制インクを吐出し、シーケンスは終了する。本実施形態では、ステップS8で吐出するインクはライトシアンとグレーの2色であり、ステップS7で算出した量を2等分してそれぞれ吐出する。これは、図5に示したようにライトシアンとグレーの堆積抑制効果は同等であるためで、インク消費の偏りを避けるために2色で実施している。
【0028】
本実施形態ではライトシアンとグレーの2色で必要量を2等分して堆積抑制吐出を行うが、何色で行ってもよく、使用するインクの堆積抑制効果に応じて重み付けしてそれぞれの堆積抑制吐出量を決めればよい。また、本実施形態では記録モード情報を用いて係数dを設定したが、例えばプラテン吸収体13上に吐出してからの経過時間計測手段を用いて係数dを設定してもよい。また、本実施形態では、式(3)のように各インク毎に堆積しやすさ、堆積抑制効果を考慮して重み付けを行ったが、簡略化して一律の係数を設定してもよい。なお、堆積抑制吐出に関しては、記録環境下における温度情報、湿度情報、記録モード情報、吐出後経過時間、縁無し記録の累積記録枚数、堆積抑制吐出の未実行インク量などから、プラテン吸収体13上の堆積を推定して行ってもよい。また、本実施形態でいうインク成分とは、インクの粘度、表面張力、不溶成分比率、顔料濃度であるとする。
【0029】
このように、インク成分に基づいて、吐出した堆積し易いインクと堆積を抑制するインクとの量を比較して、堆積を抑制するインクの量が少ない場合に、必要量の堆積抑制インクを吐出する。これによって、プラテン吸収体13へのインクの堆積を抑制するインクの使用量を低減し、インクの堆積を好適に抑制することが可能なインクジェット記録装置を実現することができた。
【0030】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
【0031】
図10は、本実施形態における記録動作のシーケンスをフローチャートで示した図である。第1の実施形態では足りない分の堆積抑制インクをライトシアンとグレーで等分して、堆積抑制吐出を行った。本実施形態では、堆積抑制インク(第2のインク群)の中で優先順位を予め定めておき、その優先順位に従って堆積抑制吐出を行う。なお本実施形態では、第2のインク群の中のライトシアンとグレーを用いて堆積抑制吐出を行う。
【0032】
以下、図10のフローチャートに沿って本実施形態の記録動作を説明する。なお、ステップS1からステップS5までは、図9で説明したフローチャートと同様であるため、省略して説明する。
【0033】
ステップS5で、縁無し記録動作を行い、画像のはみ出し領域に吐出された各インク量を、各領域に分割して領域毎にそれぞれカウントした後、そのカウント結果から、ステップS60で、堆積抑制未実行ドットカウント値を各領域毎の吐出量に加算する。その後ステップS70で、ステップS3、S4、S5で取得した温度・湿度情報、記録モード情報、各領域毎の各インクのインク量より各領域毎に堆積抑制吐出式(3)を計算する。そしてステップS80に移行して、堆積抑制吐出が必要かどうか判断する。この判断は第1の実施形態におけるステップS7と同様である。不要である場合にはそのまま記録動作終了となる。堆積抑制吐出が必要である場合には、ステップS90へと移行して、第一優先の堆積抑制インクの残量が所定値よりも多い(所定量以上)かを判断する。第一優先の堆積抑制インクの残量が所定値よりも多い場合には第一優先(優先順位が上位)の堆積抑制インクを優先的に選択する。そして、ステップS100で、堆積抑制インクの足りない分を算出し、ステップS110でステップS100にて算出した量の第一優先の堆積抑制インクを吐出する。その後ステップS120でドットカウントをリセットして記録動作を終了する。
【0034】
ステップS90で、第一優先の堆積抑制インクの残量が所定値よりも少ない(所定量未満の)場合は、ステップS130へと移行する。そして、ステップS130で第二優先(優先順位が下位)の堆積抑制インクの残量が所定値よりも多いか判断する。第二優先の堆積抑制インクの残量が所定値よりも多い場合には、ステップS140で、堆積抑制インクの足りない分を算出し、ステップS150でステップS140にて算出した量の第二優先の堆積抑制インクを吐出する。その後ステップS160でドットカウントをリセットして記録動作を終了する。
【0035】
ステップS130で、第二優先の堆積抑制インクの残量が所定値よりも少ない場合(インク使用量が所定量以上)には、ステップS170でドットカウントをリセットして記録動作を終了する。
【0036】
なお、言うまでもなく堆積抑制インクとして用いるのは何色で行ってもよく、使用するインクの堆積抑制効果に応じて重み付けしてそれぞれの堆積抑制吐出量を決めればよい。また、本実施形態では第一優先と第二優先との2種類の堆積抑制インクとしたが、これに限定するものではなく、複数種類であればよい。また、優先順位は、堆積抑制効果の高い順に定めるのが良いが、インク毎にインクカートリッジの大きさが異なるなど、堆積抑制吐出を行うことでインク消費への影響が大きいインクがある場合には、必ずしも堆積抑制効果の高い順でなくてもよい。つまり、インク使用頻度などの消費の偏りを考慮した優先順位や、それらの両方を合わせて優先順位を決定してもよい。
【0037】
このように、インク成分に基づいて、吐出した堆積し易いインクと堆積を抑制するインクとの量を比較して、堆積を抑制するインクの量が少ない場合に、必要量の堆積抑制インクを吐出する。これによって、プラテン吸収体13へのインクの堆積を抑制するインクの使用量を低減し、インクの堆積を好適に抑制することが可能なインクジェット記録装置を実現することができた。
【符号の説明】
【0038】
1 インクタンク
7 サブタンク
12 プラテン
13 プラテン吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録手段と、
縁無し記録の際に前記記録手段から吐出された前記インクを受けるプラテン吸収体と、
を備えたインクジェット記録装置であって、
前記インクは、吐出後に堆積し易い第1のインク群と、吐出後のインクの堆積を抑制する第2のインク群と、に分かれており、
縁無し記録に際して前記プラテン吸収体を複数の領域に分割して、各前記領域に吐出された前記第1のインク群と前記第2のインク群のインク量を前記領域毎にカウントするカウント手段と、
前記プラテン吸収体上に吐出されたインクの色ごとのインク成分の比率を前記領域毎に推定する推定手段と、を備え、
前記推定手段の推定結果と前記カウント手段のカウント結果とから、前記第1のインク群が前記プラテン吸収体に堆積するかを判断し、堆積すると判断した場合には、堆積を抑制可能な量の前記第2のインク群のインクを吐出することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第2のインク群に含まれるインクには優先順位がつけられており、該優先順位に従って、吐出後のインクの堆積を抑制するために吐出する前記第2のインク群に含まれるインクの選択する選択手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記優先順位は、堆積抑制の効果の高いインク、又はインク使用頻度の高いインクを優先的に用いる順位、あるいは、堆積抑制の効果の高いインクとインク使用頻度の高いインクとの両方に基づいて決定された順位であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第2のインク群のインクの吐出は、前記選択手段が、優先順位が上位のインクのインク使用量が所定量以上の場合には、優先順位が下位でインク使用量が所定量未満のインクを選択することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記プラテン吸収体の複数の領域は、縁無し記録における記録媒体の先端部、後端部、左右端部のはみ出し部を含んでいることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インク成分は、インクの粘度、表面張力、不溶成分比率、顔料濃度のいずれかを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記インク成分の比率を前記プラテン吸収体の各領域毎に推定する手段は、記録環境下における温度情報、湿度情報、記録モード情報、吐出後経過時間、縁無し記録の累積記録枚数、堆積抑制吐出の未実行インク量のいずれかを少なくとも用いて推定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−51198(P2012−51198A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194746(P2010−194746)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】