説明

インクジェット記録装置

【課題】吐出面に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッドの寿命の低下を抑制することができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクジェット記録装置は、ノズル8が形成された吐出面7を有する記録ヘッド3と、吐出面7を摺擦するクリーニング部材25と、クリーニング部材25を吐出面7へ押し付ける押し付け部材29と、記録動作およびクリーニング動作を択一的に実行可能な制御手段と、を備えている。吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータを取得するパラメータ取得手段と、パラメータに応じた押し付け強度を設定するための設定値をあらかじめ複数記憶している記憶手段と、取得されたパラメータをもとに、記憶手段に記憶された複数の設定値のうちの一つを選択する選択手段と、選択手段により選択された設定値に応じて押し付け強度を調整する調整手段と、をさらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。特に、記録ヘッドに付着したインクを除去するクリーニング機構を備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッドを備えており、該記録ヘッドから印刷用紙といった被記録材へ向けてインクを吐出して該被記録材へ所望の画像を記録する。
【0003】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドの、ノズルが形成された吐出面にインクが付着することがある。吐出面に付着したインクが、ノズルからの正常なインクの吐出を妨げることが知られている。そこで、布やワイパーブレードといったクリーニング部材を用いて吐出面を摺擦し、吐出面に付着したインクを除去するクリーニング機構を備えたインクジェット記録装置が知られている。
【0004】
吐出面に付着したインクが強固に固着している場合や、当該インクの量が比較的多い場合には、クリーニング部材を吐出面に比較的軽く押し当てて吐出面を摺擦するだけでは当該インクを除去することができない。したがって、クリーニング部材を吐出面に比較的強く押し当てた状態で吐出面を摺擦することが望ましい。
【0005】
特に、近年では、画像堅牢性の向上や被記録材の素材の選択幅を広げることを目的として、被記録材に吐出されたインクを不溶化させるインクジェット記録装置が提案されている。例えば、インクを不溶化させる反応液をインクとともに被記録材に吐出して該インクを不溶化させるものや、相互に反応して不溶化するインクを複数用いたもの、赤外線、マイクロ波、熱などによって固化が進むインクを用いたものが挙げられる。
【0006】
このようなインクを用いたインクジェット記録装置では、インクが吐出面に強固に固着することが多く、クリーニング部材を吐出面により強く押し当てた状態で吐出面を摺擦することが望まれている。
【0007】
しかしながら、クリーニング部材を吐出面に常に強く押し当てた状態で吐出面を摺擦し続けた場合、吐出面の磨耗を招く。吐出面が磨耗すると、撥水性や親水性といった記録ヘッドの性能の低下が進み、記録ヘッドの寿命が短くなるという問題があった。そこで、特許文献1では、吐出面に付着したインクの固着強度や当該インクの量(以下、吐出面の汚れの程度という)に応じて、クリーニング部材の該吐出面への押し付け強度を変えることができるインクジェット記録装置が開示されている。
【0008】
特許文献1で開示されているインクジェット記録装置は、ノズル周りにおける粘度が上昇したインクを取り除く吸引ユニットを備えている。吸引ユニットは、ノズルから強制的にインクを吸引する。当該インクジェット記録装置では、吸引ユニットによってノズルからインクを強制的に吸引されたか否かで吐出面の汚れを判断している。
【0009】
すなわち、ノズルが強制吸引されていない場合には、吐出面の汚れを重度の汚れと判断し、クリーニング部材を吐出面に強く押し当てた状態で吐出面を摺擦する。ノズルが強制吸引されている場合には、吐出面の汚れを軽度の汚れと判断し、クリーニング部材を吐出面に軽く押し当てた状態で吐出面を摺擦する。
【0010】
吐出面の汚れの程度に応じてクリーニング部材の吐出面への押し付け強度を変えることにより、吐出面に付着したインクを確実に除去するとともに、吐出面の磨耗を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−286116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、インクジェット記録装置の置かれた環境や記録動作の種類によっては、ノズルの強制吸引が行われていなくても実際の吐出面の汚れが軽度の場合や、ノズルの強制吸引が行われた後であっても実際の吐出面の汚れが重度の場合がある。
【0013】
特許文献1で開示されているインクジェット記録装置は、ノズルの強制吸引を行ったか否かで吐出面の汚れの程度を判断しているため、その判断の結果と実際の吐出面の汚れの程度とが異なっていることがある。そのため、実際の吐出面の汚れの程度が軽度の汚れであるにもかかわらず、強い押し付け強度で吐出面を摺擦して記録ヘッドの寿命の低下を招いていた。また、吐出面の実際の汚れの程度が重度の汚れであるにもかかわらず、弱い押し付け強度で吐出面を摺擦して吐出面に付着したインクを十分に除去できないことがあった。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、吐出面に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッドの寿命の低下を抑制することができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、インクを吐出するノズルが形成された吐出面を有し、インクを吐出することによって被記録材へ画像を記録する記録ヘッドと、該吐出面を摺擦することにより吐出面に付着したインクを除去するクリーニング部材と、該クリーニング部材を吐出面へ押し付ける押し付け部材と、記録ヘッドによる被記録材への画像の記録動作、およびクリーニング部材による吐出面に付着したインクを除去するクリーニング動作を択一的に実行可能な制御手段と、を備えたインクジェット記録装置に係る。この態様において、前回クリーニング動作が実行されてから、記録動作が行われて新たにクリーニング動作が実行されるまで、の期間に吐出面に付着したインクの状態を推定するためのパラメータを取得するパラメータ取得手段と、パラメータに応じた、押し付け部材によるクリーニング部材の吐出面への押し付け強度を設定するための設定値を、あらかじめ複数記憶している記憶手段と、パラメータ取得手段によって取得されたパラメータをもとに、記憶手段に記憶された複数の設定値のうちの一つを選択する選択手段と、選択手段により選択された設定値に応じて、押し付け強度を調整する調整手段と、をさらに備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインクジェット記録装置によれば、吐出面に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッドの寿命の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の外観斜視図。
【図2】記録ヘッドを、吐出面側からみたときの斜視図。
【図3】図2に示されている複数の吐出部のうちの一つの吐出部の斜視図。
【図4】図1に示されているインクジェット記録装置を、搬送方向に沿って見たときの概略図。
【図5】本発明に係るインクジェット記録装置のブロック図。
【図6】加熱されることにより相変化を起こすインクにおける、蒸発完了時間や相変化開始時間と温度の関係を示すグラフ。
【図7】第1の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図8】第2の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図9】第3の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図10】第4の実施例において採用されたパラメータを説明するための図。
【図11】第4の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図12】第5の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図13】第6の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図14】第7の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図15】第8の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【図16】第9の実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本発明は以下に記載された実施形態に限られず、これらをさらに組み合わせることや、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が可能であり、他の技術にも当然応用することができる。
【0019】
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の外観斜視図である。図1に示すインクジェット記録装置は、いわゆるシリアルスキャン型と呼ばれるものである。シリアルキャン型のインクジェット記録装置は、被記録材Pの搬送方向Xに対して直行する方向(以下、主走査方向Yと称す)に記録ヘッドを走査させて文字や画像などを被記録材Pに記録するものである。
【0020】
図1に示すように、インクジェット記録装置は、被記録材Pを保持するスプール1と、印字の際に被記録材Pを支えるプラテン2と、インクを吐出する記録ヘッド3を着脱自在に装着可能なキャリッジユニット4と、を備えている。
【0021】
キャリッジユニット4は、キャリッジモータ(不図示)を用いて、主走査方向Yに延在するガイドシャフト5に沿って移動可能に設けられている。
【0022】
キャリッジモータ(不図示)からキャリッジユニット4へ駆動力を伝達する方法としては、キャリッジユニット4に連結されたキャリッジベルトを用いた方法が挙げられる。また、キャリッジモータにより回転駆動され、主走査方向Yに延在するリードスクリュと、キャリッジユニット4に設けられ、リードスクリュの溝に係合する係合部とを備えた機構を用いて、キャリッジユニット4へ駆動力を伝達してもよい。
【0023】
記録ヘッド3は、インクジェット記録装置本体に設けられ、インクジェット記録装置の動作を制御する制御回路基板とフレキシブル配線基板(不図示)を介して電気的に接続されている。記録ヘッド3は、制御回路基板から吐出駆動のための信号パルスや記録ヘッドの温度調節用の信号などを受け取る。
【0024】
また、インクジェット記録装置は、キャリッジユニット4を走査させる過程で主走査方向Yにおける記録ヘッド3の位置を取得するエンコーダ6を備えている。エンコーダ6により記録ヘッド3の位置が制御回路基板に伝えられて、記録ヘッド3の位置に応じた吐出駆動のための信号パルスなどが制御回路基板から記録ヘッド3へ送られる。
【0025】
次に、インクジェット記録装置の被記録材Pの搬送および記録ヘッド3からのインクの吐出について説明する。
【0026】
まず、インクジェット記録装置は、ギヤを介して給紙モータ(不図示)により駆動される給紙ローラ(不図示)を用いて、スプール1に保持されている被記録材Pを搬送方向Xへ搬送する。搬送された被記録材Pは、給紙ローラ(不図示)とピンチローラ(不図示)とで挟持された状態でさらに搬送方向Xに搬送され、プラテン2上の記録位置に導かれる。
【0027】
続いて、インクジェット記録装置は、被記録材Pを所定の位置に搬送したところでキャリッジモータ(不図示)を駆動させて、キャリッジユニット4を主走査方向Yに沿って走査させる。
【0028】
通常、インクジェット記録装置が休止している状態では、記録ヘッド3の、ノズルが形成された吐出面はキャップにより覆われている。この場合には、キャリッジユニット4を走査させる前にキャップを開放する。その後、1走査分の記録データをバッファに蓄積したところで、インクジェット記録装置はキャッリッジモータを駆動してキャリッジユニット4を走査させる。
【0029】
インクジェット記録装置は、エンコーダ6を用いて主走査方向Yにおける記録ヘッド3の位置を取得し、記録ヘッド3が主走査方向Yの所定の位置に到達したところで記録ヘッド3のノズル(不図示)からインクを吐出させる。
【0030】
ノズルは、吐出面に、少なくとも搬送方向Xに沿って配列されている。ノズルからインクが吐出されることによって、被記録材Pの、ノズルの配列に対応した幅(バンド幅と称す)の画像が、主走査方向Yに沿って形成される。キャリッジユニット4の1回の走査で画像が形成される領域は、バンド領域とも呼ばれる。
【0031】
バンド領域への記録が完了したところで、インクジェット記録装置は、被記録材Pを搬送方向Xへ向かってバンド幅分だけ搬送する。被記録材Pの搬送、キャリッジユニット4の走査、記録ヘッド3からのインクの吐出を繰り返すことによって、被記録材Pに画像が記録される。
【0032】
キャリッジユニット4を複数回走査させた後に被記録材Pをバンド幅分だけ搬送してもよい。また、キャリッジユニット4の1回の走査毎にバンド幅よりも小さい幅の分だけ被記録材Pを搬送し、所定のバンド領域に対して記録に関与するノズルを異ならせた記録方法(マルチパス記録と呼ばれる)を採用してもよい。
【0033】
図2は、記録ヘッド3を、ノズルが形成された吐出面側からみたときの斜視図である。図2に示すように、記録ヘッド3の吐出面7には、複数のノズル8が配列されてなるノズル列9をそれぞれ有する吐出部10〜15が、主走査方向Yに並置されている。吐出部10〜15からそれぞれ異なる色調(色や濃度を含む)のインク、例えば、ブラック(Bk)、ライトシアン(Lc)、シアン(C)、ライトマゼンタ(Lm)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクが吐出される。
【0034】
記録ヘッド3の外周面にはインク導入部16が形成されており、インク導入部16から記録ヘッド3の内部に形成されたインク流路を介してそれぞれの吐出部10〜15にインクインクが供給される。インク導入部16にはインクタンク(不図示)よりチューブを介してインクが導入される。
【0035】
図3は、図2に示す吐出部10の斜視図である。なお、ここでは吐出部10の構造について説明するが、吐出部11〜15も吐出部10と同じ構造を有している。
【0036】
吐出部10は、インクを吐出するために利用されるエネルギーとして、例えば通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギーを用いた方式のものである。図3に示すように、吐出部10は、発熱部17を有する基板18を含んでいる。発熱部17は、所定の間隔を隔てて配列されており、2つの発熱部列が平行に配置されている。
【0037】
基板18の発熱部列間には、記録ヘッド3(図2)の内部に形成されたインク流路に連通するインク供給口19が形成されている。発熱部17およびインク供給口19を覆うように、プレート20が基板18に接合されている。
【0038】
プレート20の、発熱部17に対応した位置にノズル8が形成されている。インク供給口19からノズル8までインク流路21がプレート20の内部に形成されている。また、記録解像度をより高めるために、発熱部17およびノズル8は千鳥状に配置されている。
【0039】
それぞれの吐出部11〜15(図2)における、発熱部17およびノズル8の数および密度を、吐出部10の発熱部17およびノズル8の数および密度と同じにしてもよい。また、吐出部10〜15についての、発熱部17およびノズル8の数および密度がそれぞれ異なっていてもよい。本実施形態では、それぞれの吐出部10〜15は、1cmあたり約490個の密度で配列された1280個のノズル8を有している。
【0040】
なお、本実施形態における吐出部10〜15(図2)には、基板18に対して垂直な方向にインクを吐出する構造が用いられているが、基板18に対して平行な方向にインクを吐出する構造が用いられてもよい。
【0041】
図4は、図1に示されているインクジェット記録装置を、搬送方向Xに沿って見たときの概略図である。図4に示すように、インクジェット記録装置は、被記録材Pに印字されたインクを加熱する加熱ヒータ22を備えている。インクが加熱ヒータ22で加熱されることによって、より短い時間でより確実に被記録材Pにインクが定着する。
【0042】
加熱ヒータ22を備えたインクジェット記録装置では、加熱されることにより成分の一部が相変化を起こして固着が促進されるインクを用いることができる。このようなインクでは、一度高温下に晒されると相変化が起こり、従来のインクと比較してかなり粘度が高い状態となる。したがって、被記録材Pへインクをより確実に定着させることができる。
【0043】
加熱ヒータ22は、記録ヘッド3からインクが吐出された直後にインクを加熱できるように、キャリッジユニット4の直上に、インクジェット記録装置の最大記録幅と同等の長さで配置されている。また、加熱ヒータ22は、被記録材Pの種類やインクジェット記録装置の記録モードに応じて、加熱温度を設定しかつ該加熱温度を維持できるようになっている。
【0044】
また、インクジェット記録装置は、吐出面7に形成された複数のノズル8(図2)のうちの、正常にインクを吐出することができない不吐出ノズルを検出する不吐出ノズル検出手段23と、吐出面7を覆うためのキャップ24と、を備えている。
【0045】
キャリッジユニット4は、インクジェット記録装置に給紙可能な被記録材Pのうちの、主走査方向Yにおける最大幅(以下、最大記録幅Mと称す)を超えて移動できるようになっている。不吐出ノズル検出手段23およびキャップ24は、キャリッジユニット4が最大記録幅M外にあるときの吐出面7と対向する位置に配置されている。
【0046】
不吐出ノズル検出手段23は、インク溜め部を有している。記録ヘッド3は、不吐出ノズル検出手段23と対向する位置に移動して、該インク溜め部に向かってインクを吐出できるようになっている。
【0047】
また、不吐出ノズル検出手段23は、発光部および受光部を有している。発光部および受光部は、インクを正常の吐出することができるノズルから吐出されたインク滴が、発光部および受光部を結んだ線上を通過するように配置されている。
【0048】
不吐出ノズルの検出は、吐出面7と不吐出ノズル検出手段23とが対向する位置にキャリッジユニット4を移動させた状態で、それぞれのノズル8から順番にインクを吐出させることによって行われる。ノズル8からインク滴が正常に吐出された場合、インク滴が発光部からの光を一時的に遮り、当該光が受光部に到達しなくなる。ノズル8からインク滴が正常に吐出されない場合、インク滴が発光部からの光を遮らないため、当該光が常に受光部に到達する。この違いを利用して、不吐出ノズル検出手段23は、不吐出ノズルの検出を行う。
【0049】
キャップ24は、吐出面7に対して近づいたり離れたりできるように設けられている。吐出面7とキャップ24とが対向する位置にキャリッジユニット4を移動させた状態で、キャップ24が吐出面7へ近づくことにより、キャップ24が吐出面7を覆う。
【0050】
吐出面7がキャップ24で覆われることによって、インクジェット記録装置が記録動作を行わないときの吐出面7を保護することができる。また、キャップ24は、不吐出ノズルを正常に吐出できるように戻す回復動作を行う。例えば回復動作には、被記録材Pへ記録を開始する前の予備吐出があり、当該予備吐出をキャップ24へ向かって行うことによりインクジェット記録装置や被記録材Pが汚れなくて済む。
【0051】
さらに、インクジェット記録装置は、吐出面7に付着したインクを除去するクリーニング部材25を含むクリーニング機構26を備えている。クリーニング部材25が吐出面7を摺擦することにより、吐出面7に付着したインクを除去するクリーニング動作が行われる。
【0052】
ここで、本実施形態に係るクリーニング機構26の構造について詳述する。クリーニング機構26のクリーニング部材25には、長尺に成型された、多孔質のウレタンフォームやメラニンフォーム、またはポリオレフィン、PET、ナイロンからなる不織布が用いられている。
【0053】
クリーニング部材25は、一端が供給ローラ27にロール状に巻きつけられ、他端が巻き取りローラ28に固定されており、供給ローラ27と巻き取りローラ28との間で一定の張力で引っ張られている。クリーニング部材25の引っ張られている部分が最大記録幅M外に移動した記録ヘッド3の吐出面7と対向するように、クリーニング部材25、供給ローラ27および巻き取りローラ28が配設されている。
【0054】
クリーニング部材25に対して、吐出面7が位置する側とは反対側の位置には、クリーニング部材25を記録ヘッド3の方へ押し付ける押し付け部材29が配置されている。押し付け部材29は、吐出面7と交わる方向(以下、押し付け方向Zという)に移動可能に設けられている。押し付け部材29の移動に伴って、クリーニング部材25の、押し付け方向Zにおける位置が変化する。
【0055】
図4は、吐出面7が通過する位置までクリーニング部材25が押し付け部材29によって押し付けられている状態である。この状態で、キャリッジユニット4がクリーニング部材25の近傍を通過すると、吐出面7がクリーニング部材25により摺擦される。その結果、吐出面7に固着したインクがクリーニング部材25によって拭き取られる。
【0056】
このように、クリーニング部材25の、押し付け方向Z上における領域をキャリッジユニット4が通過するだけで、吐出面7のクリーニングが行われる。すなわち、被記録材Pへ画像などを記録するためにキャリッジユニット4が走査していても、吐出面7のクリーニングを行うことができる。
【0057】
クリーニング部材25による吐出面7を拭き取る力(クリーニング強度という)は、押し付け部材29がクリーニング部材25を吐出面7へ押し付ける力(以下、押し付け強度という)の大きさに依存する。
【0058】
例えば、吐出面7が通過する位置とほぼ等しい位置までクリーニング部材25が押し込まれている状態では、押し付け強度は比較的小さい。したがって、クリーニング強度は比較的弱く、吐出面7がクリーニング部材25により摺擦されても吐出面7はほとんど磨耗しない。
【0059】
また、吐出面7が通過する位置よりもクリーニング部材25が押し込まれている状態では、押し付け強度は比較的大きい。したがって、クリーニング強度は比較的強く、吐出面7により強固に固着したインクを拭き取ることができ、
このように、クリーニング機構26は、押し込まれたクリーニング部材25の位置、すなわち押し付け部材29の位置を調整することによって、クリーニング強度を変えることができる。
【0060】
なお、吐出面7が通過する位置よりもクリーニング部材25が押し込まれていない状態(クリーニング部材25が図4に示す破線で示された位置にある状態)では、吐出面7はクリーニング部材25と接触しない。したがって、クリーニング動作は行われない。
【0061】
吐出面7のクリーニングが行われた後、クリーニング機構26は、クリーニング部材25の、少なくとも吐出面7に接触した部分を、巻き取りローラ28を用いて巻き取る。クリーニング部材25の、汚れていない部分が供給ローラ27から供給され、当該部分を用いて再度吐出面7をクリーニングすることができる。
【0062】
不織布を用いたクリーニング部材25の代わりに、ブレードを用いて吐出面7をワイピングするクリーニング機構26においても、クリーニング強度を変えることができる。すなわち、吐出面7に対するブレードの押し込み位置を変えることによって、クリーニング強度を変えることが可能となる。
【0063】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置の動作について、図4および図5を用いて説明する。図5は、インクジェット記録装置のブロック図である。
【0064】
図5に示すように、インクジェット記録装置は、操作パネル30、操作パネル制御部31、CPU32、およびインターフェース33並びにこれらを接続する制御回路バス34を備えている。
【0065】
操作パネル30は、操作用のキーや表示パネルなどを有している。操作用のキーを用いて、インクジェット記録装置の設定や、エラー状態にあるインクジェット記録装置の回復処理などをインクジェット記録装置へ入力することが可能である。
【0066】
操作パネル制御部31は、操作パネル30上のキーの状態を監視し、押下されたキーに応じた制御コマンドを、CPU32を含むインクジェット記録装置の制御回路へ発信する。また、操作パネル制御部31は、表示パネルに表示する文字列を作成し、表示パネルの制御を行う。
【0067】
インターフェース33は、インクジェット記録装置とホストコンピュータ35とを電気的に接続するデータ送受信用ポートであり、ホストコンピュータ35からのデータを受信し、インクジェット記録装置の状態をホストコンピュータ35に送信する機能を有する。
【0068】
さらに、インクジェット記録装置は、不揮発メモリ36、モータドライバ37、RAM38、ROM39および加熱ヒータドライバ40を備えており、これらもまた制御回路バス34を介してそれぞれ電気的に接続されている。
【0069】
不揮発メモリ36は、インクジェット記録装置の各種の情報を記憶している記憶手段であり、インクジェット記録装置の電源が切られて電力の供給が断たれても、記憶した情報を保持し続けることが可能である。各種の情報の中には、各インクタンクのインク消費量や、廃インクタンクの廃インク量、不吐出ノズルの本数、記録ヘッド3の温度履歴や、最後に記録ヘッド3のクリーニングが行われた時刻といった情報が含まれる。
【0070】
モータドライバ37は、キャリッジモータ、給紙モータや、キャップ24図4を動作させるモータ、押し付け部材29図4を移動させるモータといったモータ類を制御するための制御回路である。モータドライバ37は、モータの駆動や停止を制御するともに、モータの回転数を制御することにより、被記録材P(図1)の搬送量や、押し付け部材29の位置を制御することができる。
【0071】
RAM(Random Access Memory)38は、電力が供給されている間のみ情報を保持できる記憶手段であり、電力の供給が断たれると保持している情報は消滅する。
【0072】
ROM(Read Only Memory)39は、読み出しのみ可能な記憶手段で、インクジェット記録装置の制御プログラムを記憶している。インクジェット記録装置は、ROM39に記憶されている制御プログラムをCPU32で読み出して該制御プログラムを実行する。
【0073】
加熱ヒータドライバ40は、記録ヘッド3やインクジェット記録装置内の温度等に応じて加熱ヒータ22を制御するための制御回路である。
【0074】
制御回路バス34は、記録ヘッド3とも接続されている。記録ヘッド3が交換可能なものである場合には、記録ヘッド3はそれぞれ固有のヘッドIDを持っている。インクジェット記録装置は、記録ヘッド3のIDを検出することによって、記録ヘッド3が交換されたかどうかを判別する。
【0075】
また、交換可能な個々の記録ヘッド3には、ヘッドランク(記録ヘッド3の内部の部材の発熱量)、温度センサ補正値(記録ヘッド3の内部の温度を測定するセンサのばらつきの補正値)等の個体差がある。これらの個体差は、インクジェット記録装置の初期化動作の際にチェックされるようになっている。
【0076】
インクジェット記録装置が起動した際に、CPU32は、ROM39より制御プログラムを読み出し、当該制御プログラムに従ってインクジェット記録装置の各制御装置の制御を実行する。インターフェース33は、ホストコンピュータ35より、被記録材P(図1)に記録する文字や画像のデータを受信し、当該データをRAM38に書き込む。RAM38に書き込まれたデータをもとに、CPU32はモータドライバ37、記録ヘッド3、加熱ヒータドライバ40の制御を行って被記録材P(図1)上に文字や画像を記録する。
【0077】
CPU32は、記録ヘッド3からインクを吐出して被記録材Pへ画像を記録する記録動作と、クリーニング機構26によるクリーニング動作と、を択一的に実行する制御手段としても機能する。記録動作およびクリーニング動作は交互に行われる。例えば、記録動作として最大記録幅Mを一往復するたびに1回のクリーニング動作が行われる。
【0078】
記録動作を行うときには、CPU32は、モータドライバ37を介してキャリッジユニット4を最大記録幅M内で走査させて、記録ヘッド3からインクを吐出させる。クリーニング動作を行うときには、CPU32は、キャリッジユニット4を、主走査方向Yに沿って最大記録幅M内からクリーニング機構26を超えるまで移動させる。キャリッジユニット4がクリーニング機構26を通過する際に、吐出面7がクリーニング部材25により摺擦される。
【0079】
もちろん、クリーニング機構26を超えた位置から最大記録幅M内に戻るまでキャリッジユニット4を移動させる場合にも、クリーニング部材25により吐出面7を摺擦してもよい。
【0080】
さらに、インクジェット記録装置は、吐出面7に付着したインクの状態(インクの固着強度やインクの量)を推定するためのパラメータを取得するパラメータ取得手段を備えている。パラメータ取得手段は、前回クリーニング動作が実行されてから、記録動作が行われて新たにクリーニング動作が実行されるまで、の期間に吐出面7に付着したインクの状態を推定するパラメータを取得する。
【0081】
パラメータ取得手段はCPU32と電気的に接続されており、パラメータ取得手段により取得されたパラメータはCPU32に伝送される。不揮発メモリ36といった記憶手段には、押し付け部材29によるクリーニング部材25の吐出面7への押し付け強度を設定するための設定値があらかじめ記憶されている。不揮発メモリ36は、前記パラメータに応じて複数の設定値を記憶している。
【0082】
CPU32は、パラメータ取得手段により取得されたパラメータをもとに、不揮発メモリ36に記憶された複数の設定値のうちの一つを選択する。さらに、CPU32は、該設定値に応じてクリーニング強度を変更する。具体的には、モータドライバ37へ該設定値を伝送し、モータドライバ37が押し付け部材29を移動させるモータを駆動させて、押し付け部材29によるクリーニング部材25の吐出面7への押し付け強度を変える。
【0083】
ここで、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータについて説明する。
【0084】
図6は、加熱されることにより相変化を起こすインクにおける、水分の蒸発が完了する時間(蒸発完了時間)や相変化を起こし始める時間(相変化開始時間)と温度の関係を示すグラフである。横軸が時間を示しており、縦軸がインクの温度を示している。点線が蒸発完了時間を示しており、実線が相変化開始時間を示している。
【0085】
図6に示すように、前記インクは、一定の温度で保たれた状態で所定の時間が経過すると、まずインク中の水分の蒸発が完了する。その後さらに時間が経過すると、インクの相変化が起こる。すなわち、前記インクは次の3つの固着状態に分けられる。
【0086】
蒸発完了時間が経過しておらず、インク中の水分の蒸発が完了していない第一の状態では、インクの固着強度は比較的弱い。したがって、吐出面7(図4)に付着したインクが第一の状態にあるときは、比較的弱いクリーニング強度でクリーニング動作を行うことにより、記録ヘッド3(図4)の劣化を抑えつつ吐出面7に付着したインクを除去することができる。
【0087】
蒸発完了時間は経過したが相変化開始時間が経過していない状態、すなわちインク中の水分の蒸発は完了しているが相変化は起こっていない第二の状態では、インクの固着強度は第一の状態よりも強い。したがって、吐出面7(図4)に付着したインクが第二の状態にあるときは、第一の状態にあるインクを除去する場合よりも強い強度でクリーニング動作を行う必要がある。
【0088】
相変化開始時間が経過した、インクの相変化が起きている第三の状態では、インクの固着強度は第二の状態よりも強い。したがって、吐出面7(図4)に付着したインクが第三の状態にあるときは、第二の状態で固着しているインクを除去する場合よりもより強い強度でクリーニング動作を行う必要がある。
【0089】
さらに、蒸発完了時間および相変化開始時間は、インクの温度により異なっている。例えば、蒸発完了時間は、インクの温度が50℃の場合は約3.8秒であり、インクの温度が60℃の場合は約2秒である。また、相変化開始時間は、インクの温度が50℃の場合は約7.5秒であり、インクの温度が60℃の場合は約3.8秒である。
【0090】
このように、前記インクを用いた場合、温度や時間といったパラメータによりインクの固着強度を推定することができる。インクジェット記録装置の置かれた環境や使用状況が変化しても、前述のパラメータと固着強度との関係は変化しない。したがって、吐出面7に付着したインクの固着強度に対応したクリーニング強度でクリーニング動作を行うことができる。その結果、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0091】
吐出面7に付着したインクの量に対応したクリーニング強度でクリーニング動作を行う場合においても、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0092】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の説明では上述した実施形態において示したのと同じ部分に対しては同じ符号を用いて説明する。
【0093】
(実施例1)
本発明の第1の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,7を用いて説明する。図7は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0094】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして記録ヘッド3の所定のタイミングでの温度が採用されている。記録ヘッド3の温度を用いることにより、吐出面7に付着したインクの固着強度を推定することができる。また、パラメータ取得手段として、記録ヘッド3の温度を測定する温度センサがインクジェット記録装置に設けられている。
【0095】
インクジェット記録装置が記録を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S101)。キャリッジユニット4が最大記録幅Mを1往復したところで、CPU32はクリーニング動作を実行するタイミングか否かを判定する(S102)。
【0096】
クリーニング動作を実行するタイミングは、被記録材Pや記録モードによって設定される。記録モードの例としては、キャリッジユニット4が最大記録幅Mを2往復するたびに1回のクリーニング動作を行うものが挙げられる。
【0097】
クリーニング動作を実行するタイミングでない場合には、CPU32は、キャリッジユニットの走査が最終の走査、すなわちその走査により記録が完了するか否かを判定する(S103)。最終の走査でない場合には、S101に戻り、インクジェット記録装置は再度キャリッジユニット4を走査させる。
【0098】
S102においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS103において最終の走査の場合には、CPU32は、温度センサにより測定された記録ヘッド3の温度を取得する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から記録ヘッド3の温度に応じた一つの設定値を選択する(S104)。
【0099】
例えば、図6に示す特性を有するインクを用い、記録を開始してから初めてクリーニング動作を行うまでの時間や、クリーニング動作の間隔が3.8秒であるインクジェット記録装置では、表1に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0100】
【表1】

【0101】
表1において、押し付け部材高さの基準高さとは、クリーニング部材25の、押し付け方向Zにおける位置が、吐出面7が通過する位置とほぼ等しい位置にある状態である。押し付け部材高さが基準高さにある状態では、クリーニング部材25は吐出面7をほとんど押圧しない。したがって、クリーニング強度は比較的弱く、吐出面7がクリーニング部材25により摺擦されても吐出面7はほとんど磨耗しない。
【0102】
押し付け部材高さが基準高さとされるのは、表1に示すように、記録ヘッド温度が50℃未満の場合である。この場合には、吐出面7に付着したインクは50℃未満で放置されたと考えられる。図6に示すように、50℃未満で3.8秒間放置されたインクは水分蒸発が完了しておらず、インクの固着強度は弱いと推定されるため、弱いクリーニング強度であっても該インクを拭き取ることができる。
【0103】
押し付け部材高さの、基準高さ+0.3mmとは、押し付け部材29が基準高さよりも押し付け方向Zに沿って吐出面7側に0.3mm押し込まれている状態をいう。この状態では、クリーニング部材25は吐出面7を押圧する。したがって、押し付け部材高さが基準高さにある場合に比べてクリーニング強度はより強く、吐出面7はより磨耗しやすい。
【0104】
押し付け部材高さが基準高さ+0.3mmとされるのは、記録ヘッド温度が50℃以上60℃未満の場合である。この場合には、吐出面7に付着したインクは水分蒸発が完了しているが相変化が始まっていないと考えられる。すなわち、インクの水分蒸発が完了していない場合よりもインクの固着強度が強いと推定されるため、より強いクリーニング強度でクリーニングが実施されることにより該インクが除去される。
【0105】
押し付け部材高さの、基準高さ+0.6mmとは、押し付け部材29(図4)が基準高さよりも押し付け方向Zに沿って吐出面7側に0.6mm押し込まれている状態をいう。この状態では、クリーニング部材25は、押し付け部材高さが基準高さ+0.3mmにある場合よりも吐出面7を強く押圧する。したがって、押し付け部材高さが基準高さ+0.3mmにある場合に比べてクリーニング強度はより強く、吐出面7はより磨耗する。
【0106】
押し付け部材高さが基準高さ+0.6mmとされるのは、記録ヘッド温度が60℃以上の場合である。この場合には、吐出面7に付着したインクは相変化が始まっていると考えられる。すなわち、インクの相変化が始まっていない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。より強い強度でクリーニングを行うために、押し付け部材高さが基準高さ+0.6mmとされる。
【0107】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、押し付け強度すなわちクリーニング強度の設定を行う(S105)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S106)。
【0108】
その後、CPU32は、キャリッジユニット4の走査が最終走査であるかどうかを判断する(S107)。その走査が最終走査である場合には記録動作を終了し、最終走査でない場合にはS101に戻り、インクジェット記録装置は再度キャリッジユニット4を走査させる。
【0109】
本実施例では、記録ヘッド3の温度により吐出面7に付着したインクの固着状態が推定されるため、インクの固着状態に適したクリーニング強度でクリーニング動作を実行することができる。その結果、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0110】
(実施例2)
本発明の第2の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,8を用いて説明する。図8は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0111】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、前回クリーニング動作が実行されてから新たにクリーニング動作が実行されるまでの期間中の記録ヘッド3の最高温度が採用されている。インクジェット記録装置が記録動作を開始してから初めてクリーニングを行うときには、最高温度は、その間に測定された温度のうちのもっとも高い温度でもよい。記録ヘッド3の最高温度を用いることにより、吐出面7に付着したインクの固着強度を推定することができる。
【0112】
パラメータ取得手段として、実施例1と同様に記録ヘッド3の温度を測定する温度センサをインクジェット記録装置は備えている。
【0113】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S201)。また、温度センサで記録ヘッド3の温度の測定を開始する。
【0114】
S202においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS203において最終の走査の場合には、CPU32は、温度センサにより複数回測定された記録ヘッド3の温度のうちから最高温度を取得する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から記録ヘッド3の温度に応じた一つの設定値を選択する(S204)。
【0115】
例えば、図6に示す特性を有するインクを用い、記録を開始してから初めてクリーニング動作を行うまでの時間や、クリーニング動作の間隔が3.8秒であるインクジェット記録装置では、表2に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0116】
【表2】

【0117】
記録ヘッド3の最高温度が50℃未満の場合には、吐出面7に付着したインクは50℃未満で3.8秒間放置されたと考えられるため、図6に示すように、該インクは水分蒸発が完了しておらず、インクの固着強度は弱いと推定される。
【0118】
また、最高温度が50℃以上60℃未満の場合には、吐出面7に付着したインクは水分蒸発が完了しているが相変化が始まっていないと考えられる。すなわち、インクの水分蒸発が完了していない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。
【0119】
さらに、最高温度が60℃以上の場合には、吐出面7に付着したインクは相変化が始まっていると考えられ、インクの相変化が始まっていない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。
【0120】
本実施例では、記録ヘッド3の最高温度の50℃および60℃を閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は、実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0121】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、クリーニング強度の設定を行う(S205)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S206)。
【0122】
本実施例のインクジェット記録装置は、前回クリーニング動作が実行されてから新たにクリーニング動作が実行されるまでの間に記録ヘッド3の温度が変化する場合に好適である。
【0123】
例えば、インクの固着強度を推定する際に所定のタイミングにおける記録ヘッド3の温度を用いるインクジェット記録装置では、該所定のタイミングで記録ヘッド3の温度が低下している場合がある。この場合、吐出面7に付着したインクの実際の固着強度は、推定された固着強度よりも強いかもしれない。
【0124】
本実施例のインクジェット記録装置では、最高温度をインクの固着強度の指標とするため、より正確にインクの固着強度を推定することができ、インクの固着状態に適したクリーニング強度でクリーニング動作を実行することができる。その結果、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0125】
(実施例3)
本発明の第3の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,9を用いて説明する。図9は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0126】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、前回クリーニング動作が実行されてから新たにクリーニング動作が実行されるまでの期間における記録ヘッドの温度を該期間の経過時間で積分した温度積分値が採用されている。インクジェット記録装置が記録動作を開始してから初めてクリーニングを行うときには、温度積分値は、その間に求められた温度積分値でもよい。温度積分値を用いることにより、吐出面7に付着したインクの固着強度を推定することができる。
【0127】
パラメータ取得手段として、記録ヘッド3の温度を測定する温度センサと、該温度センサによって連続して測定された温度を時間で積分する積分手段と、をインクジェット記録装置は備えている。
【0128】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S301)。また、温度センサで記録ヘッド3の温度の測定を開始する。
【0129】
S302においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS303において最終の走査の場合には、CPU32は、積分手段により算出された温度積分値を取得する。温度積分値は、温度センサで測定された記録ヘッド3の温度を経過時間で積分したものである。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から記録ヘッド3の温度に応じた一つの設定値を選択する(S304)。
【0130】
例えば、図6に示す特性を有するインクを用い、記録を開始してから初めてクリーニング動作を行うまでの時間や、クリーニング動作の間隔が3.8秒であるインクジェット記録装置では、表3に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0131】
【表3】

【0132】
本実施例では、温度積算値は、50℃からの差分を時間で積分したものとして算出されるようになっている。もちろん、50℃以外の所定の温度からの差分を時間で積分したものを温度積算値としてもよい。
【0133】
温度積算値が0℃・sとなる例は、記録ヘッド3の温度が50℃一定の状態で3.8秒間推移した場合である。したがって、温度積算値が0℃・s未満の場合には吐出面7に付着したインクは水分蒸発が完了していないと考えられ、インクの固着強度は弱いと推定される。
【0134】
また、温度積算値が38℃・sとなる例は、記録ヘッド3の温度が60℃一定の状態で3.8秒間推移した場合である。したがって、温度積算値が0℃・s以上38℃・s未満の場合には、吐出面7に付着したインクは水分蒸発が完了しているが相変化が始まっていないと考えられる。すなわち、インクの水分蒸発が完了していない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。
【0135】
さらに、温度積算値が38℃・s以上の場合には、吐出面7に付着したインクは相変化が始まっていると考えられ、インクの相変化が始まっていない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。
【0136】
本実施例では、温度積算値の0℃・sおよび38℃・sを閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0137】
図9に示すように、CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、クリーニング強度の設定を行う(S305)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S306)。
【0138】
本実施例のインクジェット記録装置は、前回クリーニング動作が実行されてから新たにクリーニング動作が実行されるまでの間に記録ヘッド3の温度が急激に変化する場合に好適である。インクの固着強度は温度と時間の積に依存するからである。
【0139】
例えば、ある瞬間だけ記録ヘッド3の温度が第一温度に変化し、その瞬間以外の時間では第一温度よりも低い第二温度である場合には、第二温度から推定されるインクの固着強度に近い強度と推定される。実施例1における所定のタイミングがその瞬間であったり、実施例2における最高温度が第一温度であったりする場合には、吐出面7に付着したインクの実際の固着強度は、推定された固着強度よりも弱いかもしれない。
【0140】
本実施例のインクジェット記録装置では、温度積分値をインクの固着強度の指標とするため、より正確にインクの固着強度を推定することができ、インクの固着状態に適したクリーニング強度でクリーニング動作を実行することができる。その結果、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0141】
(実施例4)
本発明の第4の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,10,11を用いて説明する。
【0142】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、所定の大きさで区切られた被記録材Pの単位領域のうちの、所定の条件を満たし、かつ連続して位置している単位領域の個数が採用されている。当該単位領域の個数について、図10を用いて説明する。図10は、第4の実施例において採用されたパラメータを説明するための図であり、被記録材Pを、単位領域ごとに仮想線で区切った状態の平面図である。
【0143】
単位領域Aは、主走査方向Yに1024ドット、搬送方向Xに1280ドットの大きさを有している。単位領域Aの大きさはこれに限定されるわけではないが、単位領域Aの搬送方向Xにおける大きさは、記録ヘッド3の搬送方向Xにおけるノズル数と等しいことが好ましい。
【0144】
それぞれの単位領域Aにおけるインクの吐出量は、被記録材Pに記録される文字や画像、すなわち、ホストコンピュータ35からCPU32に送られる記録画像データによって決定される。一つの単位領域Aにおけるインクの吐出量が所定の閾値以上の場合、所定の条件を満たした一つの単位領域とカウントされる。図10において、ハッチングの施されている単位領域Aが所定の条件を満たした単位領域であり、所定の条件を満たした単位領域の個数は4つである。
【0145】
さらに、前回クリーニング動作が実行されてから新たにクリーニング動作が実行されるまでの期間に画像が形成される領域中で、所定の条件を満たした単位領域が最大いくつ連続して位置しているかを、本実施例のパラメータとした。図10に示す例では、所定の条件を満たし、かつ連続して位置する単位領域の個数は3である。
【0146】
所定の条件を満たした単位領域がより多く連続して位置している場合には、記録ヘッド3の温度は高くなりやすく、吐出面7に付着したインクの固着状態はより強固になると推定することができる。
【0147】
パラメータ取得手段として、CPU32を用いることができる。所定の条件を満たした単位領域の位置の算出は、記録画像データによって決定されるものである。すなわち、ホストコンピュータ35から送られた記録画像データから、所定の条件を満たし、かつ連続して位置している当該単位領域の個数を算出することが可能である。CPU32とは別に、当該単位領域の個数を計算する計算手段をインクジェット記録装置に設けてもよい。
【0148】
図11は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0149】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S401)。S402においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS403において最終の走査の場合には、CPU32は、記録画像データから、所定の条件を満たし、かつ最も多く連続して位置している単位領域の個数を算出する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から、当該単位領域の個数に温度に応じた一つの設定値を選択する(S404)。
【0150】
例えば、表4に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0151】
【表4】

【0152】
本実施例では、所定の条件を満たした単位領域が連続しているか、および所定の条件を満たし、かつもっとも多く連続して位置している単位領域の個数が31個の場合を閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は、実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0153】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、押し付け強度の設定を行う(S405)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S406)。
【0154】
本実施例のインクジェット記録装置は、画像記録データを基にインクの固着状態を推定するため、温度センサの故障といった不具合にも対応することができる。したがって、より正確にインクの固着強度を推定することができ、インクの固着状態に適したクリーニング強度でクリーニング動作を実行することができる。その結果、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0155】
また、記録ヘッド3の温度を測定する温度センサを必要としない。そのため、製造コストを削減することも可能である。
【0156】
(実施例5)
本発明の第5の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,12を用いて説明する。図12は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0157】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、記録ヘッド3の移動速度が採用されている。記録ヘッド3の移動速度が大きいほど単位時間当たりに記録ヘッド3から吐出されるインクの量が多くなり、記録ヘッド3の温度が高くなりやすい。したがって、吐出面に付着したインクの固着状態はより強固になると推定することができる。
【0158】
パラメータ取得手段として、記録ヘッド3やキャリッジユニット4の移動速度を測定する速度センサを備えている。速度センサは、記録ヘッド3などの速度を直接測定するものでもよいし、キャリッジユニット4を移動させるキャリッジモータの回転速度から算出するものでもよい。
【0159】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S501)。また、速度センサで記録ヘッド3の移動速度を測定する。
【0160】
S502においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS503において最終の走査の場合には、CPU32は、温度センサにより複数回測定された記録ヘッド3の温度のうちから最高温度を取得する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から記録ヘッド3の温度に応じた一つの設定値を選択する(S504)。
【0161】
例えば、図6に示す特性を有するインクを用い、記録を開始してから初めてクリーニング動作を行うまでの時間や、クリーニング動作の間隔が3.8秒であるインクジェット記録装置では、表2に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0162】
例えば、表5に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0163】
【表5】

【0164】
本実施例では、記録ヘッド3の移動速度の25inch/secおよび40inch/secを閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0165】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、押し付け強度の設定を行う(S505)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S506)。
【0166】
本実施例は、記録モードや被記録材Pに記録する画像によって記録ヘッド3やキャリッジユニット4の移動速度が変化する場合に好適である。このような場合においても、インクの固着強度に応じたクリーニング強度でクリーニング動作を実行することが可能となり、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0167】
(実施例6)
本発明の第6の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,13を用いて説明する。図13は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0168】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、加熱ヒータ22の温度が採用されている。加熱ヒータ22、被記録材Pおよび記録ヘッド3は近接している。そのため、これらの温度はほぼ等しいと考えてよく、吐出面7の温度は加熱ヒータ22の温度に依存する。すなわち、加熱ヒータ22の温度から吐出面7に付着したインクの温度を推定することができ、該インクの固着強度を予想することができる。
【0169】
パラメータ取得手段として、加熱ヒータ22の温度を測定する温度センサがインクジェット記録装置に設けられている。温度制御が可能な加熱ヒータ22の場合には、加熱ヒータ22の温度設定値を用いてもよい。
【0170】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S601)。S602においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS603において最終の走査の場合には、CPU32は、温度センサにより測定された加熱ヒータ22の温度を取得する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から加熱ヒータ22の温度に応じた一つの設定値を選択する(S604)。
【0171】
例えば、図6に示す特性を有するインクを用い、記録を開始してから初めてクリーニング動作を行うまでの時間や、クリーニング動作の間隔が3.8秒であるインクジェット記録装置では、表6に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0172】
【表6】

【0173】
加熱ヒータ温度が50℃未満の場合には、吐出面7に付着したインクは50℃未満で3.8秒間放置されたと考えられる。すなわち、図6に示すように、該インクは水分蒸発が完了しておらず、インクの固着強度は弱いと推定される。
【0174】
また、加熱ヒータ温度が50℃以上60℃未満の場合には、吐出面7に付着したインクは水分蒸発が完了しているが相変化が始まっていないと考えられる。すなわち、インクの水分蒸発が完了していない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。
【0175】
さらに、加熱ヒータ温度が60℃以上の場合には、吐出面7に付着したインクは相変化が始まっていると考えられ、インクの相変化が始まっていない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。
【0176】
本実施例では、加熱ヒータ温度の50℃および60℃を閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は、実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0177】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、押し付け強度の設定を行う(S605)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S606)。
【0178】
インクの固着強度に応じたクリーニング強度でクリーニング動作を実行することが可能となり、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0179】
また、所定の設定温度になるように温度制御されている加熱ヒータ22では、記録ヘッド3の温度を測定する場合に比べてより容易に温度を測定することができる。したがって、インクジェット記録装置の構造を簡素化することが可能となる。
【0180】
(実施例7)
本発明の第7の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,14を用いて説明する。図14は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0181】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、記録動作中における吐出面7と被記録材Pとの距離(以下、記録ヘッド高さという)が用いられている。記録ヘッド高さが高いほど、被記録材Pに着弾せずインクジェット記録装置内を浮遊するインクの小液滴が増え、吐出面に付着するインクが増加する。すなわち、記録ヘッド高さから吐出面7に付着したインクの量を推定することができる。
【0182】
パラメータ取得手段として、記録ヘッド高さを測定する距離センサがインクジェット記録装置に設けられている。記録ヘッド高さが記録ヘッド3の交換によって変わる場合には、固有のヘッドIDに記憶されている記録ヘッド高さに相当する情報を読み取ることによってヘッド高さを取得するものでもよい。
【0183】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S701)。S702においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS703において最終の走査の場合には、CPU32は、距離センサにより測定された記録ヘッド高さを取得する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から記録ヘッド高さに応じた一つの設定値を選択する(S704)。
【0184】
例えば、表7に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0185】
【表7】

【0186】
本実施例では、記録ヘッド高さの1mmおよび2mmを閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0187】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、押し付け強度の設定を行う(S705)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S706)。
【0188】
吐出面7に付着したインクの量に応じたクリーニング強度でクリーニング動作を実行することが可能となり、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0189】
(実施例8)
本発明の第8の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,15を用いて説明する。図15は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0190】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして不吐出ノズルの本数が採用されている。不吐出ノズルの本数が多いほど、より多くのインクが吐出面7に固着していると推定される。パラメータ取得手段としては、不吐出ノズル検出手段23を用いることができる。
【0191】
不吐出ノズル検出シーケンスのトリガーがかかる(S801)と、不吐出ノズル検出シーケンスが実行される(S802)。
【0192】
不吐出ノズルのトリガーの一つの例としては、定期的に不吐出ノズルを検出するものが挙げられる。これは、一定枚数記録するごとに自動的に不吐出ノズルの検出が行われるというもので、検出枚数は通常ユーザが設定することができる。
【0193】
不吐出ノズルのトリガーの他の例としては、ユーザの意志によるものが挙げられる。これは、ユーザが記録物の不良を発見した時に、不良を解消する手段の一つとして実行するものである。
【0194】
不吐出ノズルの検出が行われた後、不吐出ノズルが存在するか否かの判定が行われて(S803)、不吐出ノズルが存在しないと判定された場合にはクリーニング動作が実行されることなく終了する。
【0195】
S803において不吐出ノズルがあると判定された場合には、CPU32は不吐出ノズルの本数を取得し、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から不吐出ノズルの本数に応じた一つの設定値を選択する(S804)。
【0196】
例えば、表7に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0197】
【表8】

【0198】
本実施例では、不吐出ノズルの本数が5本および10本の場合を閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0199】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、クリーニング強度の設定を行う(S805)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S806)。
【0200】
不吐出ノズルの本数に応じたクリーニング強度でクリーニング動作を実行することが可能となり、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【0201】
(実施例9)
本発明の第9の実施例に係るインクジェット記録装置の、クリーニング機構26の制御方法について、図4,5,16を用いて説明する。図16は、本実施例に係るインクジェット記録装置のシーケンスを説明するためのチャート図である。
【0202】
本実施例では、吐出面7に付着したインクの状態を推定するためのパラメータとして、前回クリーニング動作が行われてから新たにクリーニング動作が行われるまでの経過時間が採用されている。経過時間が長いほど、より多くのインクが吐出面7に付着し、また該インクの固着強度がより強いと推定される。インクジェット記録装置が記録動作を開始してから初めてクリーニングを行うときには、該経過時間は、その間の時間でもよい。
【0203】
パラメータ取得手段として、前回クリーニング動作が行われてから新たにクリーニング動作が行われるまでの経過時間を測定するためのタイマがインクジェット記録装置に設けられている。
【0204】
インクジェット記録装置が記録動作を開始すると、インクジェット記録装置はキャリッジユニット4を走査させる(S901)。また、タイマにより記録動作が開始してからの経過時間を計測する。
【0205】
S902においてクリーニング動作を実行するタイミングの場合、またはS903において最終の走査の場合には、CPU32は、タイマにより計測された経過時間を取得する。その後、不揮発メモリ36にあらかじめ記憶されている複数の設定値から経過時間に応じた一つの設定値を選択する(S904)。
【0206】
例えば、図6に示す特性を有するインクを用い、記録ヘッド3の温度が50℃になるインクジェット記録装置では、表9に示すテーブルを不揮発メモリ36にあらかじめ記憶させておく。
【0207】
【表9】

【0208】
記録ヘッド3の温度、すなわち吐出面7に付着したインクの温度が50℃の場合であって、前回のクリーニング動作からの経過時間が3.8sec未満の場合には、該インクは水分蒸発が完了しておらず、インクの固着強度は比較的弱いと推定される。
【0209】
前回のクリーニング動作からの経過時間が3.8sec以上7.6sec未満の場合には、吐出面7に付着したインクは水分蒸発が完了しているが相変化が始まっていないと考えられる。すなわち、インクの水分蒸発が完了していない場合よりもインクの固着強度が強いと推定される。また、該経過時間が3.8sec未満の場合に比べてより多くのインクが吐出面7に付着していると推定される。
【0210】
さらに、前回のクリーニング動作からの経過時間が7.6sec以上の場合には、吐出面7に付着したインクは相変化が始まっていると考えられ、インクの固着強度がより強いと推定される。また、該経過時間が7.6sec未満の場合に比べてより多くのインクが吐出面7に付着していると推定される。
【0211】
本実施例では、前回のクリーニング動作からの経過時間の3.8secおよび7.6secを閾値として、クリーニング強度が3段階に設定されている。クリーニング強度は、実施例1と同様に、押し付け部材の高さによって変えられるようになっている。
【0212】
CPU32は、選択した設定値に応じてモータドライバ37を介して押し付け部材29の位置を移動させ、クリーニング強度の設定を行う(S905)。クリーニング強度が設定されたところでCPU32はクリーニング動作を実行する(S906)。
【0213】
経過時間といった1つのパラメータから、インクの固着強度およびインクの付着量を推定することができ、それらに応じたクリーニング強度でクリーニング動作を実行することが可能となる。その結果、吐出面7に付着したインクをより確実に除去することができ、かつ記録ヘッド3の寿命の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0214】
3 記録ヘッド
7 吐出面
8 ノズル
25 クリーニング部材
26 クリーニング機構
29 押し付け部材
32 CPU
36 不揮発メモリ
37 モータドライバ
P 被記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルが形成された吐出面を有し、インクを吐出することによって被記録材へ画像を記録する記録ヘッドと、該吐出面を摺擦することにより前記吐出面に付着したインクを除去するクリーニング部材と、該クリーニング部材を前記吐出面へ押し付ける押し付け部材と、前記記録ヘッドによる前記被記録材への画像の記録動作、および前記クリーニング部材による前記吐出面に付着したインクを除去するクリーニング動作を択一的に実行する制御手段と、を備えたインクジェット記録装置において、
前記クリーニング動作が実行されてから前記記録動作が行われて再び前記クリーニング動作が実行されるまで、の期間に前記吐出面に付着したインクの状態を推定するためのパラメータを取得するパラメータ取得手段と、
前記パラメータに応じた、前記押し付け部材による前記クリーニング部材の前記吐出面への押し付け強度を設定するための設定値を複数、あらかじめ記憶している記憶手段と、
前記パラメータ取得手段によって取得されたパラメータをもとに、前記記憶手段に記憶された前記複数の設定値のうちの一つを選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された設定値に応じて、前記押し付け強度を調整する調整手段と、をさらに備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記吐出面に付着したインクの固着強度を推定するためのパラメータであることを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記パラメータとして前記期間の間の前記記録ヘッドの温度が用いられ、
前記パラメータ取得手段が前記記録ヘッドの温度を測定する温度センサであることを特徴とする、請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記期間の間に、前記温度センサによって前記記録ヘッドの温度が複数回測定されており、前記パラメータとして、前記複数回測定された記録ヘッドの温度のうちの最高温度が用いられていることを特徴とする、請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記パラメータとして、前記期間の間、前記温度センサによって連続して測定された前記記録ヘッドの温度を該期間の経過時間で積分した温度積分値が用いられ、
前記パラメータ取得手段が、前記温度センサによって連続して測定された温度を時間で積分する積分手段をさらに有することを特徴とする、請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記パラメータとして、所定の大きさで区切られた前記被記録材の単位領域であって、前記記録ヘッドから吐出されるインクの量が所定の閾値以上の量である単位領域が前記期間の間もっとも長く連続している場合の該単位領域の個数が用いられ、
前記パラメータ取得手段が、前記記録ヘッドにより前記被記録材に記録される画像のデータから前記単位領域の個数を計算する計算手段であることを特徴とする、請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドが前記被記録材に対して所定の方向に移動可能に設けられており、前記記録ヘッドが前記所定の方向に移動しながらインクを吐出することによって前記記録動作が実行される請求項2に記載のインクジェット記録装置であって、
前記パラメータとして、前記被記録材に対する前記記録ヘッドの移動速度が用いられ、
前記パラメータ取得手段が、前記移動速度を測定する速度センサであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記被記録材に記録されたインクを加熱するヒータをさらに備え、
前記パラメータとして前記期間の間の前記ヒータの温度が用いられ、
前記パラメータ取得手段が前記ヒータの温度を測定する温度センサであることを特徴とする、請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記パラメータは、前記吐出面に付着したインクの量を推定するためのパラメータであることを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記パラメータとして、前記期間の間における前記吐出面と前記被記録材との距離が用いられ、
前記パラメータ取得手段が、前記吐出面と前記被記録材との距離を測定する距離センサであることを特徴とする、請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記パラメータとして、正常にインクを吐出することができない不吐出ノズルの本数が用いられ、
前記パラメータ取得手段が、前記不吐出ノズルを検出する不吐出ノズル検出手段であることを特徴とする、請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記パラメータとして、前記期間の経過時間が用いられ、
前記パラメータ取得手段が、前記経過時間を計測するタイマであることを特徴とする、請求項2または9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記押し付け部材が前記吐出面と交わる方向に移動可能に設けられており、
前記押し付け強度は、前記押し付け部材が前記調整手段によって前記方向に移動させられることによって設定されることを特徴とする、請求項1ないし12のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−1103(P2013−1103A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138197(P2011−138197)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】