説明

インクセット及びこれを用いた記録方法、記録物

【課題】 種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して、優れた発色性、光沢感、耐擦性を得ることが可能であり、インク自身の保存安定性や目詰まり等の信頼性が高く、インクジェット記録方式に用いるのに好適な顔料インクセットを提供する。
【解決手段】 少なくともブラックインク組成物とカラーインク組成物とを含む2種以上のインク組成物を備えたインクセットにおいて、該ブラックインク組成物は、少なくとも、自己分散型顔料と樹脂エマルジョンとを含み、該カラーインク組成物は、少なくとも、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料と樹脂エマルジョンとを含むことを特徴とするインクセットにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクセットに関する。さらに詳しくは、インクジェット記録方式に用いるのに好適なインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷の分野であった高精細な画像記録(印刷)にもインクジェット記録方法を用いられるようになってきており、一般に用いられる普通紙やインクジェット記録用の専用紙(マット系、光沢系)に対してのみならず、印刷本紙等の記録媒体にも高品質な記録が求められてきている。
【0003】
インクジェット記録に用いられるインクとしては、一般に着色剤となる色材と水と水溶性有機溶剤、界面活性剤等を含むインク組成物が知られている。着色剤としては、染料あるいは顔料が用いられ、特にカラーインクは色の彩度の高さ、透明性、水への溶解性が高い等の理由から水溶性染料が使用される場合が多い。しかし、このような染料は一般的に耐光性や耐ガス性の点が不十分であり、また、水溶性であることから、耐水性にも問題があるため、水溶性染料を用いたインクにより記録された記録物は、記録画像の保存性に劣るという欠点を有している。
【0004】
これに対して、水に不溶な着色剤は、耐水性の面において有利である。特に水に不溶な着色剤の中でも顔料はこうした耐光性、耐ガス性、耐水性に優れた色材であるため、この色材特性を活かした顔料インクの開発が進められてきており、例えば、顔料を界面活性剤や高分子分散剤で分散した水性顔料インクや顔料表面に水分散可能な官能基を付与させた自己分散型顔料を用いた水性顔料インク、顔料を水分散可能な樹脂で被覆した着色微粒子を用いた水性顔料インクなどが提案されている。
【0005】
このような顔料インクは、顔料粒子(顔料含有の着色微粒子も含む)がインク液中で安定分散しているものであるが、インクが紙などの記録媒体に付着した後、インクが乾燥する過程で、水分や、揮発性の溶剤類が蒸発することにともなって、安定分散系が崩れ、顔料の凝集が起こりやすい。凝集した顔料が紙などの記録媒体上に析出すると、表面の平滑性が失われ、光沢性の低下や印刷画像の均一性が劣化し、高画質な画像を得られないという問題がある。また、析出した顔料の反射光によって、本来の色相とは異なる色相の色が見えるようになり(ブロンズ現象)、均一な所望の色相の画像が得られないという問題があった。
【0006】
このような色材の析出による色相の変化は、染料でも高濃度で用いる場合に発生する場合があり、これを防止するために、インク中に分岐状水溶性高分子を含有することでインクの乾燥にともなう染料分子の結晶化または会合を阻害し、色相変化を抑制するする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、顔料インクの画像品質については、光沢性や分散性等を向上させる目的で、インク中に分散している顔料の粒子径を限定すること(特許文献2参照)や、顔料と顔料誘導体を同時に含有させること(特許文献3参照)や、にじみや発色性を向上させる目的で、ポリマー微粒子を含有させること(特許文献4参照)や、無機微粒子を含有させること(特許文献5参照)や、普通紙における印字濃度とインクジェット専用紙における光沢性を向上させる目的で、顔料を含有する水不溶性ビニルポリマー分散体を含有するインク(特許文献6参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開平8−337748号公報
【特許文献2】特開2002−356637号公報
【特許文献3】特開2002−294134号公報
【特許文献4】特開2001−123098号公報
【特許文献5】特開平11−209671号公報
【特許文献6】特開2005−41994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示される方法では、染料インクの色材析出抑制には有効であるものの、顔料インクにおいては不十分であり、また、水溶性高分子を含むことにより分散安定性が悪くなったり、インク粘度が上昇するなど信頼性の点で課題があった。
【0009】
また、公知の顔料インクを組み合わせインクセットとして画像を形成する場合、単一のインクでは良好な印刷品質であっても、異なる色が混色した場合に、その箇所の顔料が凝集してしまい、光沢性の低下や印刷画像の均一性が劣化してしまったり、グロスチェンジ(記録物を指などで触ったとき顔料が除去されなくても指跡が記録物に残ったり、色の跡引きが起こったり、光沢が変化する現象)等の問題が解決されていないという課題があった。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して、優れた発色性、光沢感、耐擦性を得ることが可能であり、インク自身の保存安定性や目詰まり等の信頼性が高く、インクジェット記録方式に用いるのに好適な顔料インクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(1)の発明を提供することにより、前記目的を達成したものである。(1)少なくともブラックインク組成物とカラーインク組成物とを含む2種以上のインク組成物を備えたインクセットにおいて、該ブラックインク組成物は、少なくとも、自己分散型顔料と樹脂エマルジョンとを含み、該カラーインク組成物は、少なくとも、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料と樹脂エマルジョンとを含むことを特徴とするインクセット。
【0012】
上記発明の好ましい態様は以下の通りである。(2)前記自己分散型顔料及び前記有機顔料の体積平均粒子径が、50〜250nmであることを特徴とする(1)記載のインクセット。
【0013】
(3)前記ブラックインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンが、40℃以下で膜化する樹脂微粒子と40℃以下で膜化しない樹脂微粒子との混合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のインクセット。
【0014】
(4)前記ブラックインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜200nmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のインクセット。
【0015】
(5)前記カラーインク組成物に含まれる前記有機顔料と前記水不溶性ポリマーの重量比が、1:0.2〜1:1の範囲にあることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のインクセット。
【0016】
(6)前記カラーインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、重量平均分子量75000〜600000の水不溶性ポリマーからなることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のインクセット。
【0017】
(7)前記カラーインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜200nmであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のインクセット。
【0018】
(8)前記カラーインク組成物が、少なくとも、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物を含むことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のインクセット。
【0019】
(9)前記ブラックインク組成物に含まれる前記自己分散型顔料の顔料が、カーボンブラックであり、前記イエローインク組成物に含まれる前記有機顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、147、150、155、180、188から選ばれる少なくとも1種を含み、前記マゼンタインク組成物に含まれる前記有機顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含み、前記シアンインク組成物に含まれる前記有機顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする(8)記載のインクセット。
【0020】
(10)前記イエローインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜80nmであり、前記マゼンタインク組成物及び前記シアンインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、50〜200nmであることを特徴とする(8)又は(9)に記載のインクセット。
【0021】
(11)前記イエローインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーであり、前記シアンインク組成物及び前記マゼンタインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、40℃以下の温度で膜化する水不溶性ポリマーであることを特徴とする(8)〜(10)のいずれかに記載のインクセット。
【0022】
(12)前記イエローインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、乳化重合法による重合によって得られたポリマーであることを特徴とする(8)〜(11)のいずれかに記載のインクセット。
【0023】
(13)前記マゼンタインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、転相乳化法による重合によって得られたポリマーであることを特徴とする(8)〜(11)のいずれかに記載のインクセット。
【0024】
(14)前記シアンインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、転相乳化法による重合によって得られたポリマーであることを特徴とする(8)〜(11)のいずれか1項に記載のインクセット。
【0025】
(15)前記(1)〜(14)のいずれかに記載のインクセットにおいて、各インク組成物は、少なくとも、水と、水溶性有機化合物と、pH調整剤と、ノニオン性界面活性剤と、を含むことを特徴とするインクセット。
【0026】
(16)前記水溶性有機化合物が、少なくとも、多価アルコール類と、固体潤滑剤と、グリコールエーテルのブチルエーテル類と、を含むことを特徴とする(15)に記載のインクセット。
【0027】
(17)前記pH調整剤が、水酸化アルカリ及び/又はトリアルカノールアミンであることを特徴とする(15)又は(16)に記載のインクセット。
【0028】
(18)前記ノニオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤及び/又はポリ変性シロキサン系界面活性剤であることを特徴とする(15)〜(17)のいずれかに記載のインクセット。
【0029】
(19)前記(1)〜(18)のいずれかに記載のインクセットを用いてインクジェット記録方式で記録媒体に記録することを特徴とする記録方法。
【0030】
(20)前記(1)〜(18)のいずれかに記載のインクセットを用いて記録した記録物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明のインクセットについて、好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のインクセットは、既述の通り、少なくともブラックインク組成物とカラーインク組成物とを含む2種以上のインク組成物を備えたインクセットにおいて、該ブラックインク組成物は、少なくとも、自己分散型顔料と樹脂エマルジョンとを含み、該カラーインク組成物は、少なくとも、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料と樹脂エマルジョンとを含むものである。
【0032】
[ブラックインク組成物]
前記ブラックインク組成物に使用される顔料としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、三菱化学製の#2300、#900、HCF88、#33、#40、#45、#52、MA7、MA8、MA100、#2200B等、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch 800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150,同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Specisal Black 6、同5、同4A、同4等を挙げることができ、これらの1種又は2種の混合物として用いてもよい。
【0033】
「自己分散型顔料」とは、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している状態をいい、「分散可能な最小粒子径」とは、分散時間を増してもそれ以上小さくならない顔料の粒子径をいう。
【0034】
前記自己分散型顔料を着色剤として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する発泡等がほとんど無く吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。また分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる、等取り扱いが容易である。
【0035】
前記自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、−COOH、−CO、−OH、−SO3H、−PO32及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩などの分散性付与基またはこれらの分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0036】
本実施形態においては、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。
【0037】
また前記自己分散型顔料としては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業社製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)等が例示できる。
【0038】
前記自己分散型顔料は、2〜15重量%の範囲で本発明のインク中に含有される。含有量が2重量%未満では印字濃度(OD値)が不充分である場合があり、また15重量%よりも大きいとノズルの目詰まりや、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
【0039】
また、前記自己分散型顔料は、ブラックインク組成物中における分散安定性、記録画像のOD値がより高く、光沢性を更に向上させることができるという観点から、その体積平均粒子径が50〜250nmであることが好ましい。尚、これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって、得ることができる。
【0040】
前記ブラックインク組成物は、定着性付与と発色性(濃度)の向上を目的として、樹脂エマルジョンを含有する。樹脂エマルジョンは、2種類以上含まれることが好ましく、該2種類以上の樹脂エマルジョンとしては、例えば、40℃以下で膜化する樹脂微粒子と、40℃以下で膜化しない樹脂微粒子との混合物であることが好ましい。樹脂エマルジョンとして40℃以下で膜化するものと膜化しないものとを混合することにより、40℃以下で膜化する樹脂微粒子が定着性や耐擦性を向上させ、40℃以下で膜化しない樹脂微粒子は周囲温度で膜化しないことで、粒子のまま紙に残り、顔料粒子をより紙表面に存在させる作用によって、普通紙や再生紙上での高発色を実現する。
【0041】
これらの樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂からなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用されてもよく、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できる。
【0042】
さらに、前記ブラックインク組成物に用いられる2種類以上の樹脂エマルジョンは、少なくとも何れかが、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂微粒子のエマルジョンの形態でブラックインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂微粒子のままブラックインク組成物中に添加しても該樹脂微粒子の分散が不十分となる場合があるため、ブラックインク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンが好ましい。
【0043】
樹脂微粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0044】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0045】
また、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレンビスアクリルアミド;ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0046】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0047】
本実施形態において、樹脂エマルジョンは、ブラックインク組成物のインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)、本発明の効果(高OD値、定着性、光沢性等)をより有効に得る観点から1〜10重量%の範囲でブラックインク組成物中に含有されることが好ましい。
【0048】
一方、前記ブラックインク組成物に使用される樹脂エマルジョンの体積平均粒子径は、インク組成物中における分散安定性、記録画像のOD値がより高く、光沢性を更に向上させることができるという観点から、20〜200nmであることが好ましい。
【0049】
[カラーインク組成物]
本実施形態において使用されるカラーインク組成物の着色剤は、耐水性、耐候性、顔料の分散安定性等の観点から、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料が使用される。
【0050】
前記水不溶性ポリマーは、少なくとも重合性不飽和単量体と重合開始剤を用いて溶液重合法により重合によって得られるポリマーであり、水不溶性ポリマーとは、中和後に25℃の水100gに対する溶解度が1g未満であるポリマーをいう。
【0051】
重合性不飽和単量体としては、ビニル芳香族炭化水素、メタアクリル酸エステル類、メタアクリルアミド、アルキル置換メタアクリルアミド、無水マレイン酸、ビニルシアン化合物類、メチルビニルケトン、酢酸ビニルなどが挙げられる。具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0052】
さらに、前記水不溶性ポリマーは印刷画像の光沢性を付与するために、親水性基を持つモノマーと塩生成基をもつモノマーを含むことが好ましい。
【0053】
親水性基を持つモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレートなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。特に、ポリエチレングリコール(2〜30)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(1〜15)・プロピレングリコール(1〜15)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(1〜30)メタクリレートなどの分岐鎖を構成するモノマー成分を用いることによって、印刷画像の光沢性がさらに向上する。
【0054】
塩生成基をもつモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0055】
さらに、片末端に重合成官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
【0056】
また、重合の際には、公知のラジカル重合剤や重合連鎖移動剤を添加してもよい。 水不溶性ポリマーによって被覆される有機顔料は、転相乳化法により得られるものである。すなわち、上記の水不溶性ポリマーをメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルエーテルなどの有機溶媒に溶解させ、得られた溶液に有機顔料を添加し、次いで中和剤及び水を添加して混練、分散処理を行うことにより水中油滴型の分散体を調整し、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、水分散体として得ることができる。混練、分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機などを用いることができる。
【0057】
中和剤は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましく、得られる水分散体のpHが6〜10であることが好ましい。
【0058】
また、被覆する水不溶性ポリマーとしては、重量平均分子量が10000〜150000程度のものが、着色剤、特に顔料を安定的に分散させる点で好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分析方法により測定することができる。
【0059】
さらに、発色や光沢メディア上での光沢性の観点から、インク組成物中での平均粒子径が50〜250nmの範囲であることが好ましく、50〜150nmの範囲であることがさらに好ましい。尚、これらの平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0060】
本実施形態で用いられるカラーインク組成物としては、少なくとも、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物を含むことが好ましい。カラーインク組成物の顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー等の顔料が例示できる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,147,150,153,155,174,180,188,198;C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184,202,207,209;C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38;C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16;C.I.ピグメントブラック1,7等であり、複数の顔料を用いてインク組成物を形成することもできる。
【0061】
特に、前記イエローインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、147、150、155、180、188から選ばれる少なくとも1種を含み、前記マゼンタインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含み、前記シアンインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0062】
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0063】
これらの水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料は、0.5〜8重量%の範囲でカラーインク組成物中に含有されることが好ましい。含有量が0.5重量%未満では印字濃度(発色性)が不充分である場合があり、また8重量%よりも大きいと光沢メディア上での光沢性劣化やノズルの目詰まり、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
【0064】
さらに、有機顔料と水不溶性ポリマーの比率が、有機顔料:水不溶性ポリマー=1:0.2〜1:1の比率にあることが、分散安定性や、インクの保存安定性やノズルの目詰まり防止等の観点、光沢メディア上での光沢性の観点から好ましい。詳しくは、水不溶性ポリマーが有機顔料に対して、20%より少ないと安定分散ができず、有機顔料の凝集が発生し、有機顔料に対して100%より多いとブロンズ現象は小さくなってくるが、発色が低下し、光沢メディア上での光沢も劣化するためである。
【0065】
また、発色や光沢メディア上での光沢性の観点から、カラーインク組成物中での顔料粒子の体積平均粒子径が50〜250nmの範囲であることが好ましい。なお、これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(マイクロトラック社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0066】
なお、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料は、有機顔料が水不溶性ポリマーによって完全に被覆されずに、一部の着色剤が露出した形状でもよい。
【0067】
前記カラーインク組成物は、定着性や光沢の均一性を付与する観点から、樹脂エマルジョンを含む。
【0068】
本実施形態において、カラーインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、重量平均分子量75000〜600000の水不溶性ポリマーであることにより、定着性が良好で、信頼性が高いインク組成物を提供できる。これは、樹脂エマルジョンの重量平均分子量が75000より小さい場合は定着作用が不十分であり、600000を超える場合は吐出安定性などの信頼性に不具合を与えるためである。
【0069】
また、前記水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の重合法により、モノマーを共重合させることによって得られ、得られたポリマーを水中に転相乳化すること、または水中で乳化重合することにより、樹脂エマルジョンが得られる。
【0070】
一般にポリマー分散の着色剤分散体に添加剤としてのポリマーを併用すると、分散剤であるポリマーと添加剤であるポリマーにおいて、着色剤に対して吸脱着が起こり、分散安定性が崩れ、保存安定性が劣化するという問題がある。しかし、本発明のカラーインク組成物に含まれる顔料分散体は、不溶性ポリマーで被覆されており、分散粒子として安定であるため、水不溶性ポリマーと樹脂エマルジョンの吸脱着が起こりにくく、分散安定性が保たれると考えられる。特に、内部架橋構造を持った樹脂は、樹脂自身の安定性が高いため好ましく、また、顔料を被覆する水不溶性ポリマーと類似構造をもつ樹脂は、インク組成物中に併用される場合に水不溶性ポリマーと樹脂エマルジョンの吸脱着が起こった場合も安定分散が可能であるため好ましい。ここで類似構造とは、着色剤を被覆する水不溶性ポリマーと構成成分が同一ということである。
【0071】
さらに、樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜200nmの範囲にあることが、分散安定性や記録画像の光沢性やブロンズ改善の観点から好ましい。尚、これらの体積平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子社製)等の粒径測定によって得ることができる。
【0072】
特に、イエローインク組成物には、インク組成物中における分散安定性、記録画像の光沢性を劣化させず耐擦性を向上させる作用を得るため、樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が20〜80nmであることが好ましく、40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーからなることが好ましい。40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーの添加は樹脂の膜化による定着性や耐擦性の向上を目的としたものでなく、微粒子を記録媒体表面に残すことによって、表面のすべり性を改善し、擦れによる着色剤の剥がれやグロスチェンジを防止することを目的としており、この40℃以下で膜化しないポリマーを用いることで、膜化するポリマーを用いた場合に比較し、目詰まり回復性などの信頼性が格段に良好であるという利点がある。
【0073】
前記40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーとしては、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、エポキシ系ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらのポリマーはホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用されても良く、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できるが、架橋剤を用いて内部架橋されているポリマーであることが好ましい。
【0074】
イエローインク組成物に好ましく用いられる水不溶性ポリマーは、少なくとも不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンの形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インクの製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。
【0075】
樹脂粒子のエマルジョンは、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0076】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0077】
また、架橋剤としては、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体を使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0078】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0079】
さらに、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物には、インク組成物中における分散安定性、記録画像の光沢性や定着性を得るため、より親水性の高い水不溶性ポリマーを安定にエマルジョン化することが可能な転相乳化法によって得られる樹脂エマルジョンを添加することが好ましい。この樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が50〜200nmであることが、分散安定性や記録画像の光沢性やブロンズ改善の観点から好ましい。
【0080】
マゼンタインク組成物、シアンインク組成物に好ましく用いられる樹脂エマルジョンは疎水性基をもつモノマーと親水性基を持つモノマーとのブロック共重合体樹脂からなり、少なくとも塩生成基をもつモノマーを含有しているものである。特に、顔料を被覆する水不溶性ポリマーと類似構造をもつ樹脂は、インク組成物中に併用される場合に水不溶性ポリマーと樹脂エマルジョンの吸脱着が起こった場合も安定分散が可能であるため好ましい。ここで類似構造とは、着色剤を被覆する水不溶性ポリマーと構成成分が同一ということである。
【0081】
疎水性基を持つモノマーは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類や酢酸ビニル等のビニルエステル類やアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0082】
親水性基を持つモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレートなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。特に、ポリエチレングリコール(2〜30)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(1〜15)・プロピレングリコール(1〜15)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(1〜30)メタクリレートなどの分岐鎖を構成するモノマー成分を用いることによって、印刷画像の光沢性が向上する。
【0083】
塩生成基をもつモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
【0084】
さらに、片末端に重合成官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
【0085】
カラーインク組成物に使用される水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の重合法により、モノマーを共重合させることによって得られるが、特に溶液重合法が好ましく、重合の際には、公知のラジカル重合剤や重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0086】
重合で得られた樹脂を有機溶媒に溶解させ、中和剤及び水を添加して分散処理を行い、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、樹脂エマルジョンとして得ることができる。
【0087】
中和剤は、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が好ましく、得られる水分散体のpHが6〜10であることが好ましい。
【0088】
この樹脂エマルジョンと水不溶性ポリマーによって被覆されている着色剤を併用することにより、着色剤に対して水不溶性ポリマーの比率が増えるにしたがって発生する発色低下や、光沢メディア上での光沢劣化を防ぐことができ、さらにインク組成物中の樹脂成分の増量にともない、定着性やグロスチェンジといった耐擦性が向上する。
【0089】
なお、カラーインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンは、インクのインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)、定着性や光沢性等をより有効に得る観点から0.1〜5重量%の範囲であことが好ましい。
【0090】
本発明のインクセットにおいて、各色で異なる性質の樹脂エマルジョンを含むことにより、同様の性質の樹脂エマルジョンを含むインクセットより、インクセットとして用いた場合に、バランスのよい光沢感、画像品質、定着性、信頼性を得ることができることを発見した。
【0091】
[その他のインク成分]
本実施形態のインクセットに用いられるインク組成物は、少なくとも、水と、水溶性有機化合物と、pH調整剤と、ノニオン性界面活性剤と、を含むことが好ましい。
【0092】
本発明のインク組成物に含有される水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
【0093】
本発明においては上記水溶性有機化合物として、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテンー1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等の多価アルコール類;グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、尿素、尿素誘導体(ジメチル尿素等)等のいわゆる固体湿潤剤;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン;ホルムアミド、アセトアミド;ジメチルスルホキシド;ソルビット、ソルビタン;アセチン、ジアセチン、トリアセチン;スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができ、これらの水溶性有機溶剤は、インク組成物の適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に10〜50重量%含まれることが好ましい。
【0094】
さらに、本実施形態においては、水溶性有機溶剤として、少なくとも、多価アルコール類と、固体潤滑剤と、グリコールエーテルのブチルエーテル類と、を併用することで、印刷品質、吐出安定性、目詰まり回復性等の信頼性に優れるインク組成物を提供できる。これは、多価アルコール類、固体湿潤剤が保水性(保湿性)と普通紙等の記録メディアへのインク組成物の浸透性の制御に好適であり、グリコールのブチルエーテル類が吐出安定性と記録メディアへのインク組成物の浸透性の制御に好適であり、これらを併用することで、さらに印刷品質、吐出安定性、目詰まり回復性等の信頼性の高いインク組成物を提供できる。
【0095】
特に好ましい水溶性有機化合物として、多価アルコール類がグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオールから選択される2種類以上の併用であり、固体湿潤剤がトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン又は尿素であり、ブチルグリコール類がジエチレングリコールモノブチルエーテル又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0096】
本実施形態のインクセットに用いられるインク組成物には、pH調整剤を含有することが好ましい。pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ及び/又はアンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン等を用いることができる。特に、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクジェットプリンタを構成する材料等に悪影響を与えたり、目詰まり回復性が劣化する。
【0097】
また、必要に応じて、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等をpH緩衝剤として用いることができる。
【0098】
本実施形態に用いられるトリアルカノールアミンは、インク組成物の光沢付与剤としても好適に用いることができ、光沢を有する記録媒体上にて一様な光沢を有した画像を形成するために、イエロー、マゼンタ及びシアンインク組成物に含有される。
【0099】
また、インク組成物の光沢付与剤としてトリアルカノールアミンを用いる場合の含有量は、プリンタに用いられる部材への浸食、インク粘度及び光沢の点から、前記顔料100重量%に対して10〜50重量%であることが好ましく、12〜45重量%であることがより好ましく、また、インク組成物全量に対して1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは、上限が3重量%であり、下限が1重量%である。
【0100】
インク組成物の光沢付与剤として用いられるトリアルカノールアミンとしては特に制限されないが、トリエタノールアミン及び/又はトリプロパノールアミンであることが、印字安定性及び光沢性向上の点で好ましい。
【0101】
さらに、本実施形態に用いられる各インク組成物には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することができる。
【0102】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を含有することができる。発泡・起泡の少ないインク組成物を得るという観点からノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0103】
ノニオン性界面活性剤のさらなる具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤;その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。ノニオン界面活性剤は、1種でも2種以上を併用することもできる。
【0104】
上記ノニオン性界面活性剤の中でも、特にアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤が発泡も少なく、また優れた消泡性能を有する点で好ましい。
【0105】
アセチレングリコール系界面活性剤の更なる具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどが挙げられるが、市販品で入手も可能で、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104、82、465、485、TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤の更なる具体例としては、ビッグケミー・ジャパン社のBYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、UV3530などを挙げることができる。これらはインク組成物中に複数種類用いてもよく、表面張力20〜40mN/mに調整されることが好ましく、インク組成物中に0.1〜3.0重量%含まれる。
【0106】
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
【0107】
防腐剤・防かび剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(Avecia社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
【0108】
本実施形態のインクセットに用いられるインク組成物は、従来公知の装置、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、従来のインクと同様に調製することができる。調製に際しては、ノズルの目詰まり防止の観点から粗大粒子を除去することが好ましい。粗大粒子の除去は、例えば前記各成分を混合して得られたインクをメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、好ましくは10μm以上、より好ましくは5μm以上の粒子を除去することにより行われる。
【0109】
[記録方法]
本実施形態のインクセットは、ペン等の筆記具類、スタンプ等に好適に使用することができるが、インクジェット記録方式で記録媒体に記録するインクセットとして好適に使用できる。本実施形態においてインクジェット記録方式とは、インクジェット記録装置により、インクセットの各インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方式を意味する。具体的に以下に説明する。
【0110】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0111】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0112】
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0113】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0114】
以上のいずれの方式も本発明のインクを用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
【0115】
[記録物]
本実施形態の記録物は、少なくとも上記インクセットを用いて記録媒体上に記録が行われたものである。この記録物は、本実施形態のインクセットを用いることにより発色性がよく、印字品質が良好で、しかも定着性が良好な優れた品質を示す。
【0116】
記録媒体としては、種々のものを使用することができ、例えば、インクジェット専用紙(マット紙、光沢紙など)、普通紙、印刷本紙、フィルム等を挙げることができる。
【実施例1】
【0117】
[ブラック組成物用着色剤分散液の調製]
自己分散型顔料を分散粒子とする着色剤分散液を下記の方法によって調整した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による体積平均粒子径の値である。
【0118】
(分散液B1)
市販のカーボンブラックであるMA8(商品名、三菱化学社製)100gを水500gに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12%)500gを滴下して、攪拌しながら10時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して分散液B1を調製した。この分散液中の顔料の体積平均粒子径は120nmであった。
【0119】
(分散液B2)
市販のカーボンブラックであるS170(商品名、デグサ社製)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置のついた3リットルのガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8重量%のオゾン含有ガスを500cc/分で導入した。この際、オゾン発生器はペルメレックス電極社の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、分散液B2を調製した。この分散液中の顔料の体積平均粒子径は90nmであった。
【0120】
(分散液B3)
市販のブラック顔料分散液であるCAB−O−JET 300(商品名、キャボット社製、顔料固形分15重量%)を用いた。この分散液中の顔料の体積平均粒子径は140nmであった。
【0121】
[カラーインク組成物用着色剤分散液の調製]
水不溶性ポリマーによって被覆されている着色剤を分散粒子とする着色剤分散液を下記の方法によって調整した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による体積平均粒子径の値である。
【0122】
(水不溶性ポリマー1〜3の合成)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20重量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03重量部、重合開始剤、表1に示す各モノマーを用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100重量部に対してメチルエチルケトン40重量部に溶解した2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9重量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。なお、表1に示す数値は、モノマー混合物の全量を基準(100%)としたときの各モノマーの割合(%)を意味する。
【0123】
【表1】

【0124】
(分散液Y1)
水不溶性ポリマー1として得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた5部をメチルエチルケトン15部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー74を15部加え、水を加えながら分散機で混練した。
【0125】
得られた混練物にイオン交換水100部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%のイエロー顔料の水分散体を得た。(顔料:水不溶性ポリマー=1:0.3)この分散体中の顔料の体積平均粒子径は110nmであった。
【0126】
(分散液Y2)
水不溶性ポリマー2として得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた9部をメチルエチルケトン45部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー128を18部加え、水を加えながら分散機で混練した。
【0127】
得られた混練物にイオン交換水120部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%のイエロー顔料の水分散体を得た。(顔料:水不溶性ポリマー=1:0.5)この分散体中の顔料の体積平均粒子径は80nmであった。
【0128】
(分散液Y3)
水不溶性ポリマー3として得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた6部をメチルエチルケトン20部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。さらに、C.I.ピグメントイエロー180を10部加え、水を加えながら分散機で混練した。
【0129】
得られた混練物にイオン交換水100部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20重量%のイエロー顔料の水分散体を得た。(着色剤:水不溶性ポリマー=1:0.6)この分散体中の顔料の体積平均粒子径は100nmであった。
【0130】
(分散液M1)
顔料分散液Y1において、C.I.ピグメントイエロー74の代わりにC.I.ピグメントレッド122を用いた以外は分散液Y1と同様にして、分散液M1を得た。
この分散体中の顔料の体積平均粒子径は100nmであった。
【0131】
(分散液M2)
顔料分散液Y2において、C.I.ピグメントイエロー128の代わりにC.I.ピグメントバイオレット19を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:0.2の比率に変更した以外は分散液Y2と同様にして、分散液M2を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は90nmであった。
【0132】
(分散液M3)
顔料分散液Y3において、C.I.ピグメントイエロー180の代わりにC.I.ピグメントレッド209を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:0.15の比率に変更した以外は分散液Y3と同様にして、分散液M3を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は120nmであった。
【0133】
(分散液C1)
顔料分散液Y1において、C.I.ピグメントイエロー74の代わりにC.I.ピグメントブルー15:3を用いた以外は顔料分散液Y1と同様にして、分散液C1を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は80nmであった。
【0134】
(分散液C2)
顔料分散液Y2において、C.I.ピグメントイエロー128の代わりにC.I.ピグメントブルー15:1を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:0.8の比率に変更した以外は分散液Y2と同様にして、分散液C2を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は85nmであった。
【0135】
(分散液C3)
顔料分散液Y3において、C.I.ピグメントイエロー180の代わりにC.I.ピグメントブルー15:4を用い、顔料:水不溶性ポリマー=1:1の比率に変更した以外は分散液Y2と同様にして、分散液C3を得た。この分散体中の顔料の体積平均粒子径は100nmであった。
【0136】
[樹脂エマルジョンの調製]
カラーインク組成物及びブラックインク組成物に用いられる樹脂エマルジョンを以下の要領で調製した。尚、膜化の有無は、約25℃の室内周囲温度の環境でアルミニウム板にエマルジョンを薄く塗布し、目視により判断した。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分析方法により測定した。また、粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定による平均粒子径の値である。
【0137】
(樹脂エマルジョン1)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム6gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート600g、ブチルアクリレート215g、メタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート5gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に5時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分30重量%、pH8に調整した。
【0138】
得られた水性エマルジョンは40℃の温度で膜化しないこと確認し、重量平均分子量は300000であり、体積平均粒子径は80nmであった。
【0139】
(樹脂エマルジョン2)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びラウリル硫酸ナトリウム6.5gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン550g、ブチルアクリレート200g、及びメタクリル酸30g、トリエチレングリコールジアクリレート1gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。
【0140】
得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分15重量%、pH8に調整した。
【0141】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化しないこと確認し、重量平均分子量は500000であり、体積平均粒子径は40nmであった。
【0142】
(樹脂エマルジョン3)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びトリエチレングリコールジアクリレート5gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8に調整した。
【0143】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化しないこと確認し、重量平均分子量は450000であり、体積平均粒子径は120nmであった。
【0144】
(樹脂エマルジョン4)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン130g、2−エチルへキシルアクリレート780g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分15重量%、pH8に調整した。
【0145】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は250000であり、体積平均粒子径は40nmであった。
【0146】
(樹脂エマルジョン5)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8に調整した。
【0147】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は300000であり、体積平均粒子径は120nmであった。
【0148】
樹脂エマルジョン6及び樹脂エマルジョン7を構成するポリマーは、表2に示すモノマーを用い、前述のカラーインク組成物用着色剤分散液に用いた水不溶性ポリマー1〜3の合成と同様の方法で調製することができる。なお、表2に示す数値は、モノマー混合物の全量を基準(100%)としたときの各モノマーの割合(%)を意味する。
【0149】
【表2】

【0150】
(樹脂エマルジョン6)
樹脂エマルジョン6用の水不溶性ポリマーとして得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた5部をメチルエチルケトン15部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いてポリマーを中和した。この中和物にイオン交換水100部を加え攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去して固形分濃度が15重量%の樹脂エマルジョン6を得た。
【0151】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は200000であり、体積平均粒子径は120nmであった。
【0152】
(樹脂エマルジョン7)
樹脂エマルジョン7用の水不溶性ポリマーとして得られたポリマー溶液を樹脂エマルジョン6と同様にして、固形分濃度が15重量%の樹脂エマルジョン7を得た。
【0153】
得られた樹脂エマルジョンは40℃の温度で膜化すること確認し、重量平均分子量は150000であり、体積平均粒子径は90nmであった。
【0154】
(インク組成物の調製)
表3及び表4に示す配合割合で各成分を混合し、この混合液を2時間攪拌した後、孔径約5μmのステンレス製フィルターにて濾過して、各インク組成物を調製した。なお、表3及び表4中に示す添加量はすべて重量%として表している。また、( )内は顔料固形分量を意味する。顔料分散液及びポリマーの添加量はそれぞれ固形分濃度で表している。更に、イオン交換水の「残量」とは、インク組成物の全量が100重量%となるようにイオン交換水を添加することを意味している。
【0155】
【表3】

【0156】
【表4】

【0157】
(インクセットの構成)
上記のように調製したインク組成物を、表5に示すように組み合わせて実施例(インクセット1〜8)及び比較例(インクセット9及び10)のインクセットとした。
【0158】
【表5】

【0159】
[試験例1]20度鏡面光沢度の評価
表5に示すインクセット1〜10を用いて、下記の記録メディアにインクジェットプリンタPX−A550(セイコーエプソン社製)を使用し、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン色の100%Dutyのパッチパターンを作成した。
【0160】
次に、記録物の光沢性を測定する目的で、光沢度計GM−268(コニカミノルタ社製)を用いて、20度鏡面光沢度を測定した。なお、光沢性は印刷物の一般に鏡面光沢の指標として用いる60度光沢が高い値を示しても見た目の光沢感と一致しないことがわかり、検討の結果、視野角20度での光沢度が見た目の光沢感と一致することが判明したため、本発明においては、視野角20度の光沢を指標値とした。
【0161】
記録メディア
1)EPSON写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)
2)EPSONフォト光沢紙(セイコーエプソン社製)
3)KODAK Premium Picture Paper(コダック社製)
【0162】
測定は各サンプルごとに5回行い、その平均値を求めた。そして、算出した平均値につき、以下の評価基準で20度鏡面光沢度(G20)を評価した。結果を表6に示す。
A:60≦G20
B:45≦G20<60
C:G20<45
【0163】
[試験例2]画質の評価
表5に示すインクセット1〜10を用いて、下記の記録メディアにPX−A550(セイコーエプソン社製)を使用し、高精細カラーデジタル標準画像[(ISO/JIS−SCID)、画像名称「ポートレート」(サンプル番号1、画像の評価認識番号N1)]を印刷した。
【0164】
記録メディア
1)EPSON写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)
2)EPSONフォト光沢紙(セイコーエプソン社製)
3)KODAK Premium Picture Paper(コダック社製)
4)EPSONフォトマット紙(セイコーエプソン社製)
5)Xerox P(富士ゼロックス社製)
6)Xerox 4024(Xerox Co.製)
【0165】
この記録物をサンプルとして、各サンプルの画質を目視観察し、以下の評価基準で評価した。結果を表6に示す。
A:いずれの記録媒体においても画質が良好
B:やや曇りがある、濃度が薄く感じるが概ね良好
C:画質が劣る
【0166】
[試験例3]光学濃度(OD値)の測定
表5に示すインクセット1〜10を用いて、試験例2で用いた記録メディアにPX−A550を用いて、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの100%Dutyのパッチパターンを作成し、各サンプルのパッチ部の光学濃度(OD値)をグレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いて測定した。測定は各サンプルごとに5回行い、その平均値を求めた。そして、算出した平均OD値につき、以下の評価基準で光学濃度(OD値)を評価した。結果を表6に示す。
A:1.8≦平均OD値
B:1.5≦平均OD値<1.8
C:1.2≦平均OD値<1.5
D:0.9≦平均OD値<1.2
E:平均OD値<0.9
【0167】
[試験例4]定着性の評価
試験例3で得られた記録物のうち、記録メディア1)、4)、5)を用いたものをサンプルとして、定着性の評価を行った。定着性の評価は、各サンプルにつき印刷後1時間を経過した時点で、ゼブラ社製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(商標)を用いて印刷部を筆圧300g/15mmで擦り、ペン先に付着した汚れの有無を目視観察した。そして、以下の評価基準を用いて定着性を評価した。結果を表6に示す。
A:同一箇所を2回擦っても汚れない
B:1回の擦りでは汚れないが、2回目の擦りでは汚れる
C:1回の擦りで汚れる
【0168】
[試験例5]グロスチェンジの評価
試験例3で得られた記録物のうち、記録メディア1)、2)、3)を用いたものをサンプルとして、グロスチェンジの評価を行った。結果を表6に示す。
A:指で擦った跡が判別できず、光沢変化がない
B:指で擦った跡は判別できるが、光沢変化がほとんどない
C:指で擦った跡がはっきり判別でき、光沢変化がある
【0169】
[試験例6]保存安定性の評価
表5に示すインクセット1〜10を用いて、保存安定性の評価を行った。アルミパックにインク組成物を50g入れた状態で70℃の環境下にインクセットを1週間放置した。1週間経過後、インク組成物中の異物(沈降物)の発生の有無を目視観察した。また、異物の発生が確認されなかったものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH、粒子径)の変化について、下記基準に基づき判定した。結果を表6に示す。
A:異物の発生がなく、物性の変化もない。
B:異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C:異物が発生するか、物性が著しく変化する。
【0170】
[試験例7]吐出安定性の評価
表5に示すインクセット1〜10を用いて、インクジェットプリンタでインク組成物を吐出した際のインク組成物の吐出安定性について評価した。評価方法は、印刷の際の印字開始からインクエンドまでにインクのドット抜けや飛行曲がりが発生するか観察した。また、インクのドット抜けや飛行曲がりが発生した場合に正常印刷への復帰動作として行うプリンタクリーニングが何回必要であったかを記録し、下記基準に基づき判定することにより行った。結果を表6に示す。
A:発生しない又はクリーニング1回
B:クリーニング2〜4回
C:クリーニング5回以上
【0171】
[試験例8]目詰まり回復性の評価
表5に示すインクセット1〜10を用いて、インクジェットプリンタでインクを吐出した際のインクの目詰まり回復性について評価した。インクジェットプリンタPX−V600(セイコーエプソン社製)を用いて、各インクセットのインク組成物を充填したインクカートリッジを装着し、インクカートリッジからヘッドにインク組成物を充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、上記インクカートリッジを取り外した状態で、かつホームポジション外の位置(ヘッドがプリンタに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。1週間経過後に、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記基準に基づき判定した。結果を表6に示す。
A:クリーニング1回
B:クリーニング2〜5回
C:クリーニング6回以上
【0172】
【表6】

【0173】
以上説明したように、本発明に係るインクセットは、種々の記録媒体(普通紙、マット紙、光沢紙、印刷本紙など)に対して、優れた発色性、光沢感、耐擦性を得ることが可能であり、インク自身の保存安定性や目詰まり等の信頼性が高く、インクジェット記録方式に用いるのに好適である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともブラックインク組成物とカラーインク組成物とを含む2種以上のインク組成物を備えたインクセットにおいて、
該ブラックインク組成物は、少なくとも、自己分散型顔料と樹脂エマルジョンとを含み、
該カラーインク組成物は、少なくとも、水不溶性ポリマーによって被覆された有機顔料と樹脂エマルジョンとを含む
ことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記自己分散型顔料及び前記有機顔料の体積平均粒子径が、50〜250nmであることを特徴とする請求項1記載のインクセット。
【請求項3】
前記ブラックインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンが、40℃以下で膜化する樹脂微粒子と40℃以下で膜化しない樹脂微粒子との混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記ブラックインク組成物に含まれる樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜200nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記カラーインク組成物に含まれる前記有機顔料と前記水不溶性ポリマーの重量比が、1:0.2〜1:1の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記カラーインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、重量平均分子量75000〜600000の水不溶性ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のインクセット。
【請求項7】
前記カラーインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜200nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項8】
前記カラーインク組成物が、少なくとも、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のインクセット。
【請求項9】
前記ブラックインク組成物に含まれる前記自己分散型顔料の顔料が、カーボンブラックであり、
前記イエローインク組成物に含まれる前記有機顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、147、150、155、180、188から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記マゼンタインク組成物に含まれる前記有機顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記シアンインク組成物に含まれる前記有機顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項8記載のインクセット。
【請求項10】
前記イエローインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、20〜80nmであり、
前記マゼンタインク組成物及び前記シアンインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンの体積平均粒子径が、50〜200nmである
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のインクセット。
【請求項11】
前記イエローインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、40℃以下の温度で膜化しない水不溶性ポリマーであり、
前記シアンインク組成物及び前記マゼンタインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、40℃以下の温度で膜化する水不溶性ポリマーである
ことを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項12】
前記イエローインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、乳化重合法による重合によって得られたポリマーであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項13】
前記マゼンタインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、転相乳化法による重合によって得られたポリマーであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項14】
前記シアンインク組成物に含まれる前記樹脂エマルジョンが、転相乳化法による重合によって得られたポリマーであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載のインクセットにおいて、
各インク組成物は、少なくとも、水と、水溶性有機化合物と、pH調整剤と、ノニオン性界面活性剤と、を含むことを特徴とするインクセット。
【請求項16】
前記水溶性有機化合物が、少なくとも、多価アルコール類と、固体潤滑剤と、グリコールエーテルのブチルエーテル類と、を含むことを特徴とする請求項15に記載のインクセット。
【請求項17】
前記pH調整剤が、水酸化アルカリ及び/又はトリアルカノールアミンであることを特徴とする請求項15又は16に記載のインクセット。
【請求項18】
前記ノニオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤及び/又はポリ変性シロキサン系界面活性剤であることを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のインクセットを用いてインクジェット記録方式で記録媒体に記録することを特徴とする記録方法。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のインクセットを用いて記録した記録物。


【公開番号】特開2007−51176(P2007−51176A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235408(P2005−235408)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】