説明

インクセット及び画像記録方法

【課題】画像部でのブロッキングの発生が抑制され、耐擦過性に優れると共に、インクジェットヘッドのノズル面等の洗浄性に優れ、高画質な画像を安定的に記録することができるインクセット及び画像記録方法を提供する。
【解決手段】(a)顔料、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子、樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物におけるMFTに対して40℃以上低い水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インク組成物と、(b)有機溶剤及び水を含むメンテナンス液とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法でインクを吐出して画像を記録するのに好適なインクセット及び画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報技術産業の急速な発展に伴ない、種々の情報処理システムが開発されると共に、各々の情報処理システムに適した記録方法及び記録装置も実用化されている。その中でも、インクジェット記録方法は、多種の被記録材料に記録可能なこと、ハード(装置)が比較的安価でコンパクトであること、静粛性に優れること等の利点から広く利用されるようになっている。そして、インクジェット記録方法を利用した記録では、いわゆる写真ライクな高画質記録物を得ることも可能になってきている。
【0003】
顔料を色材として含む顔料インクを用いたインクジェット記録方法は、一般に染料インクを用いたインクジェット記録方法に比べて保存性に優れるとされている。
【0004】
一方、顔料インクは、インク中の水分が蒸発して固化すると、固化したまま再溶解しないため、インクジェットヘッドのノズル先端部等に付着、堆積しやすく、それが吐出時にインクの目詰まりの原因となり、インクの吐出不良を生じさせる一因となっていた。また、キャップ、ワイプ部分等でインクが固化すると、ワイピング等が困難となり、メンテナンス系に負担がかかるという問題があった。
【0005】
顔料インクを用いて画像を得る方法については、例えば、インク中に熱可塑性樹脂成分を含有したインクを用い、熱可塑性樹脂の軟化点以上に加熱された記録媒体にインク滴を吐出して印字を行なうことにより滲みのない画像が得られることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、最低造膜温度が50℃以上の樹脂エマルジョンを含むインクを用い、表面温度を樹脂エマルジョンの最低像膜温度以上に加熱した転写媒体上にインク像を書き込む工程と、インク像の溶媒成分を転写媒体上で蒸発する工程と、転写媒体上のインク像を記録媒体に転写する転写工程を経るインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献4〜5参照)。
【0006】
このように、顔料インクに熱可塑性樹脂成分や最低増膜温度の高い樹脂エマルジョンが含有されている系では、更にメンテナンス性が悪化する傾向にある。
【0007】
これらの問題に対して、25℃における水への溶解度が3重量%以上である樹脂溶剤を0.1〜10重量%、保湿剤を1〜50重量%の範囲で含むインクジェット記録用メンテナンス液が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−283636号公報
【特許文献2】特開平10−110126号公報
【特許文献3】特開平10−152640号公報
【特許文献4】特開平9−207424号公報
【特許文献5】特開平7−32721号公報
【特許文献6】特開2007−119658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、画像の耐擦過性を高めるには、顔料インク中に樹脂成分を含有することが望まれるが、上記のインクジェット記録用メンテナンス液では、必ずしも充分な洗浄効果は得られない。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、画像部でのブロッキングの発生が抑制され、耐擦過性に優れると共に、インクジェットヘッドのノズル面等の洗浄性に優れ、高画質な画像を安定的に記録することができるインクセット及び画像記録方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、画像記録の段階では、インク中の樹脂粒子の最低造膜温度(以下、単にMFT(Minimum Filming Temperature)と略記することがある。)を低めに維持し、記録後は経時や乾燥等の際の加熱でポリマー粒子のMFTが高い側に変化する構成にすることで、省熱エネルギー化しながらも画像部のくっつき防止(ブロッキング性)と擦過耐性を両立できるとの知見、並びにMFTの範囲が特定の範囲にあることで、顔料及び樹脂成分を含む顔料インクが付着、固化等した場合の、有機溶剤及び水の混合液による洗浄性が高いとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (a)顔料、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子、樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物におけるMFTに対して40℃以上低くなる水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インク組成物と、(b)有機溶剤及び水を含むメンテナンス液とを有するインクセットである。
<2> 前記MFT25が、40℃以上70℃以下であることを特徴とする前記<1>に記載のインクセットである。
<3> 前記メンテナンス液のpHが6〜11であることを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載のインクセットである。
<4> メンテナンス液中の前記有機溶剤の含有量が、前記メンテナンス液の全質量に対して1〜50質量%であることを特徴とする前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<5> メンテナンス液中の前記有機溶剤の50%以上が、アルキレンオキシアルキルエーテルであることを特徴とする前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<6> 前記顔料が、ポリマー分散剤で被覆された顔料であることを特徴とする前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<7> 前記樹脂粒子が、自己分散性ポリマー粒子であることを特徴とする前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のインクセットである。
【0013】
<8> 水性インク組成物は、少なくとも2種の前記水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<9> 水性インク組成物中の前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルコールであることを特徴とする前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<10> 前記アルキレンオキシアルコールが、プロピレンオキシアルコールであることを特徴とすることを特徴とする前記<9>に記載のインクセットである。
<11> 水性インク組成物中の前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルキルエーテルであることを特徴とする前記<1>〜前記<10>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<12> 前記水性インク組成物中の成分を凝集させる凝集成分を含む水性処理液を更に有することを特徴とする前記<1>〜前記<11>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<13> 前記凝集成分が、酸性化合物、カチオンポリマー、及び多価金属塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記<12>に記載のインクセットである。
<14> 前記メンテナンス液が、更に、界面活性剤を含むことを特徴とする前記<1〜前記<13>のいずれか1つに記載のインクセットである。
<15> 前記<1>〜前記<14>のいずれか1つに記載のインクセットを用いて画像を記録する画像記録方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、画像部でのブロッキングの発生が抑制され、耐擦過性に優れると共に、インクジェットヘッドのノズル面等の洗浄性に優れ、高画質な画像を安定的に記録することができるインクセット及び画像記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインクセット及びこれを用いた画像記録方法について詳細に説明する。
<インクセット>
本発明のインクセットは、(a)顔料、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子、樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物におけるMFTに対して40℃以上低くなる水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インク組成物と、(b)有機溶剤及び水を含むメンテナンス液と、を設けて構成されたものである。
【0016】
本発明においては、画像記録に用いる顔料系のインク組成物に樹脂粒子を用いて構成する場合に、樹脂粒子の水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)を60℃以上とすると共に、樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)がMFTに対して40℃以上低くなるような水溶性有機溶剤を含有することで、画像部のブロッキングの発生防止と耐擦過性を両立し、メンテナンス時にはインクジェットヘッドのノズル面等に付着、固化したインク組成物を洗浄する際の洗浄性を飛躍的に向上させることができる。これにより、顔料と共に樹脂成分を含むインク組成物を用いて画像を記録した場合に、ブロッキングの発生を抑えつつ耐擦過性に優れた画像を、高画質に長期間安定的に記録することができる。
【0017】
ここで、MFT及びMFT25について説明する。
「MFT」は、水性インク組成物に用いる樹脂粒子を水分散物としたときの最低造膜温度である。MFTは、YOSHIMITU SEIKI社製のMFT測定機を用いて測定されるものである。具体的には、所望の樹脂粒子を水中に分散して得た水分散物を25質量%液に調整した調製液をフィルム(例えば64cm×18cm)上に塗布厚が300μmとなるように(例えば長さ50cm×幅3cm)ブレード塗布した後、フィルムの裏側から加熱し、塗布膜に12℃〜65℃までの温度勾配をかけ、20℃、22%RHの環境下で4時間乾燥させ、このときに白い粉状の析出物が生じた温度と透明膜が形成された温度との境界温度[℃]を測定することにより求められる。
また、「MFT25」は、水性インク組成物に用いる樹脂粒子を、該樹脂粒子の固形分に対して25質量%の量となる水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの最低造膜温度である。MFT25は、前記MFTの測定操作において、樹脂粒子25質量%(固形分質量)とインク組成物の調製に用いた水溶性有機溶剤6.25質量%(ポリマー固形分に対して25質量%)と水68.75質量%との混合液(水溶液)を調製し、これを水分散物に代えて用いたこと以外は、前記MFTと同様の操作を行なうことにより測定されるものである。また、「MFT25」が測定機の上限値を超えてしまう場合は、樹脂粒子固形分に対して30〜50質量%の量となる水溶性有機溶剤及び水と混合した場合の「MFT30」〜「MFT50」を適宜測定し、「MFT25」を推定してもよい。
【0018】
(a)水性インク組成物
本発明のインクセットを構成する水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」ということがある。)は、顔料と、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子と、樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が水分散物におけるMFTに対して40℃以上低くなる水溶性有機溶剤と、水とを含有する。また、水性インク組成物は、必要に応じて、更に分散剤や界面活性剤、その他の成分を用いて構成することができる。
【0019】
本発明におけるインク組成物では、粒子状の樹脂成分として、水溶性有機溶剤が含まれる水溶液中と水分散物中とにおけるMFTがMFT−MFT25≧40℃を満たすように変化する樹脂粒子を用いた構成にすることで、水溶性有機溶剤が含まれるインク組成物中では樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)を低めに維持し、吐出により記録媒体に着滴した後は、インク溶媒が記録媒体に吸収される等、記録後の経時や乾燥等で有機溶剤がインク中から抜け出て樹脂粒子のMFTが上昇する構成にするので、比較的MFTやガラス転移点(Tg)の低い樹脂粒子を用いて擦過性等の定着性能を低熱エネルギーで確保しながらも、ブロッキングの発生が抑えられた画像を得ることができる。
【0020】
(顔料)
本発明におけるインク組成物は、顔料の少なくとも1種を含有する。顔料としては、水不溶性の顔料自体又は分散剤で表面処理された顔料等が好適である。
【0021】
顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能であれば、いずれも使用できる。更に、顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も使用可能である。
前記顔料のうち、特にアゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料を用いることが好ましい。
【0022】
〜分散剤〜
顔料は、分散剤によって水系溶媒に分散されていることが好ましい。分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0023】
前記低分子の界面活性剤型分散剤(以下、「低分子分散剤」ということがある)は、インクを低粘度に保ちつつ、有機顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で添加することができる。ここでいう低分子分散剤は、分子量2000以下の低分子分散剤である。また、低分子分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
【0024】
前記低分子分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基は、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基を連結するための連結基も適宜有することができる。
【0025】
親水性基としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等を挙げることができる。アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基又はカルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。また、カチオン性基は、プラスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンを含むカチオン性基であることがより好ましく、窒素を含むカチオン性基であることが更に好ましい。中でも、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることが特に好ましい。また、ノニオン性基は、マイナス又はプラスの電荷を有しないものであれば特に制限はない。例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0026】
親水性基は、顔料の分散安定性と凝集性の点から、アニオン性基が好ましい。
また、低分子分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、そのpKaは3以上であることが好ましい。低分子分散剤のpKaは、テトラヒドロフラン−水=3:2(V/V)溶液に低分子分散剤1mmol/Lに溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。理論上、低分子分散剤のpKaが3以上であれば、pH3程度の処理液と接したときに、アニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。この点から、低分子分散剤は、アニオン性基としてカルボン酸基を有することが好ましい。
【0027】
一方、疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等のいずれの構造を有するものであってもよいが、特に炭化水素系であることが好ましい。また、これらの疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。疎水性基は、1本鎖状構造、又は2本以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0028】
ポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
【0029】
天然物を原料として化学修飾した親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
これらの中でも、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0030】
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0031】
ポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0032】
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0033】
本発明における顔料としては、耐擦性、凝集性の観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。また、顔料は、凝集性の観点から、カルボキシル基を有するポリマー分散剤に被覆された水不溶性顔料が好ましい。
更には、凝集性の観点から、後述の自己分散性ポリマーの粒子の酸価が、前記ポリマー分散剤の酸価よりも小さいことが好ましい。
【0034】
顔料の体積平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。体積平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好で、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
なお、樹脂粒子の体積平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0035】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。顔料の水性インク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、水性インク組成物の全固形分に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0036】
(樹脂粒子)
本発明における水性インク組成物は、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子の少なくとも1種を含有する。該樹脂粒子を含有することにより、ブロッキングの発生を抑えつつ、顔料画像の耐擦過性が向上させることができる。後述の水溶性有機溶剤との関係において、MFT−MFT25≧40℃を満たす樹脂粒子であるので、安定した吐出性が得られ、記録後の画像のブロッキング(くっつき等)が抑制される。
【0037】
樹脂粒子のMFTが60℃未満であると、記録後に画像にベタツキが残り、画像部上に紙等を重ねた際にブロッキング(くっつき等)が発生する。本発明においては、MFTとしては、80〜150℃以上が好ましく、100〜130℃以上がより好ましい。MFTが130℃未満であると、加熱定着時の熱量が小さくてもよいため、定着の省電力化の点で好ましい。
【0038】
本発明における樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する樹脂の粒子が挙げられる。これらのうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)及び必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。前記アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン基からなる群より選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0039】
本発明における樹脂粒子としては、吐出安定性及び前記顔料を用いた場合の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性樹脂粒子が好ましく、カルボキシル基を有する自己分散性樹脂粒子がより好ましい。自己分散性樹脂粒子とは、他の界面活性剤の不存在下に、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
【0040】
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルジョン)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0041】
本発明における自己分散性樹脂粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0042】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0043】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の水溶性有機溶剤とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0044】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限はなく、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0045】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0046】
自己分散性樹脂粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。特に脂環式(メタ)アクリレートに由来する構造を有すると、画像の定着性、ブロッキング耐性がより良好なインクが得られる。また、インクジェット記録に適用する場合には、より良好な吐出性が得られる。
【0047】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0048】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0049】
不飽和カルボン酸モノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとして具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0050】
自己分散性樹脂粒子は、自己分散性と処理液と接触したときにはその凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価(mgKOH/g)が25〜100であるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、25〜80であることがより好ましく、30〜65であることが特に好ましい。特に、酸価は、25以上であると自己分散性の安定性が良好になり、100以下であると凝集性が向上する。
【0051】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば、特に制限はない。前記芳香族基は、芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0052】
前記芳香族基含有モノマーは、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0054】
前記脂環式(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位とアルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換または置換された脂環式炭化水素基を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。尚、前記脂環式炭化水素基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。「脂環式(メタ)アクリレート」とは、脂環式炭化水素基を有する、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0055】
脂環式炭化水素基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば、特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、およびビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。脂環式炭化水素基は、粘度や溶解性の観点から、脂環式炭化水素基部分の炭素数が5〜20であることが好ましい。
【0056】
脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示す。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。単環式(メタ)アクリレートとして、例えば、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。2環式(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。3環式(メタ)アクリレートとして、例えば、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、自己分散ポリマー粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0057】
本発明における自己分散性樹脂粒子は、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。本発明においては、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0058】
本発明における自己分散性樹脂粒子は、例えば、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0059】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマー又は前記脂環式(メタ)アクリレートと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリルエステル系モノマー;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマーが挙げられる。
【0060】
本発明における自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量は、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
【0061】
自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)、又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位(好ましくは、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性樹脂粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位、あるいはイソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの少なくとも1つに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0062】
以下、自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−32を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
(B−01)フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)、(B−02)フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)、(B−03)フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)、(B−04)フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)、(B−05)ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/59/6)、(B−06)スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)、(B−07)ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)、(B−08)フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)、(B−09)スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)、(B−10)ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)、(B−11)フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)、(B−12)ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)、(B−13)スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(50/5/20/25)、(B−14)スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)、(B−15)メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)、(B−16)メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)、(B−17)メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)、(B−18)メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)、(B−19)メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)、(B−20)メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)、(B−21)メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/50/14/6)、(B−22)メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/50/10)、(B−23)メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/フェノキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/50/14/6)、(B−24)メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸共重合体(30/54/10/6)、(B−25)メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=2)/メタクリル酸共重合体(54/35/5/6)、(B−26)メチルメタクリレート/アダマンチルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(n=23)/メタクリル酸共重合体(30/50/15/5)、(B−27)メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/50/22/8)、(B−28)エチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)、(B−29)イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/アクリル酸共重合体(40/50/10)、(B−30)n−ブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/スチレン/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)、(B−31)メチルメタクリレート/ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/52/8)、(B−32)ラウリルメタクリレート/ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(25/65/10)
【0063】
本発明における自己分散性樹脂粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0064】
本発明における自己分散性樹脂粒子は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が20〜100であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明における自己分散性樹脂粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0065】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0066】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0067】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。
【0068】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。本発明の自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性樹脂粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0069】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。5モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、120モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0070】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性樹脂粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0071】
樹脂粒子(特に自己分散性樹脂粒子)の平均粒子径は、体積平均粒子径で10〜400nmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましく、特に好ましくは10〜50nmの範囲である。10nm以上の平均粒子径であることで製造適性が向上する。また、400nm以下の平均粒径とすることで保存安定性が向上する。また、樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0072】
樹脂粒子(特に自己分散性樹脂粒子)の液体組成物中における含有量としては、画像の光沢性などの観点から、液体組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。樹脂粒子は、1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
(水溶性有機溶剤)
本発明における水性インク組成物は、前記樹脂粒子のMFT25とMFTとがMFT−MFT25≧40℃の関係を満たす水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有する。この水溶性有機溶剤を樹脂粒子と共に含有することにより、インク組成物中では樹脂粒子のMTFを低めに維持することができ、吐出性などを良好に保つことができる。
なお、MFT25は、前記樹脂粒子を、該樹脂粒子の固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの該樹脂粒子の最低造膜温度である。
【0074】
本発明においては、MFT25がMFTより40℃以上低くなる範囲とする。MFTからMFT25を差し引いた温度差(℃;=MFT−MFT25)が40℃未満であると、加熱定着時の熱量が大きくなると同時に、記録された画像の耐擦過性が低下し、メンテナンス時の洗浄性も低下する。本発明においては、MFT25は更に、インク組成物がインクジェットヘッドのノズル面等に付着、固化した際の洗浄性の点から、MFTより40〜85℃低くなる範囲がより好ましく、MFTより40〜70℃低くなる範囲がより好ましい。
【0075】
本発明において、MFTからMFT25を差し引いた温度差を上記範囲とする方法としては、インク組成物に含有する水溶性有機溶剤の種類、量の範囲を適宜選択することにより調整することができる。
上記のうち、MFTが80〜150℃の範囲であって、かつMFT25が、MFTより40〜85℃(好ましくは40〜70℃)低くなる範囲が好ましい。
【0076】
インク組成物を構成する水溶性有機溶剤としては、MFT25を下げてMFTとの温度差(MFT−MFT25)を40℃以上の範囲に調製する観点から、アルキレンオキシアルコール、アルキレンオキシアルキルエーテルが好ましい。また、同様の理由から、インク組成物は、2種以上の水溶性有機溶剤を含有することが好ましく、2種以上の水溶性有機溶剤を含有する場合は、その少なくとも1種はアルキレンオキシアルコールことが好ましく、更にはアルキレンオキシアルコールの少なくとも1種とアルキレンオキシアルキルエーテルの少なくとも1種とを含む2種以上の水溶性有機溶剤を含有する場合が特に好ましい。
【0077】
前記アルキレンオキシアルコールとしては、好ましくは、プロピレンオキシアルコールである。プロピレンオキシアルコールとしては、例えば、サンニックスGP250、サンニッススGP400(三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
【0078】
前記アルキレンオキシアルキルエーテルとしては、好ましくは、アルキル部位の炭素数が1〜4のエチレンオキシアルキルエーテル又はアルキル部位の炭素数が1〜4のプロピレンオキシアルキルエーテルである。アルキレンオキシアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0079】
本発明においては、樹脂粒子が自己分散性樹脂粒子であって、水溶性有機溶剤がプロピレンオキシアルコールとエチレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)及び/又はプロピレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)とである場合が好ましく、更には、樹脂粒子が、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含む自己分散性樹脂粒子であって、水溶性有機溶剤がプロピレンオキシアルコールとエチレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)及び/又はプロピレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)とである場合が好ましい。
【0080】
また、上記の水溶性有機溶剤に加え、必要に応じて、乾燥防止、浸透促進、粘度調整などを図る目的で、他の有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒を乾燥防止剤として用いる場合、インク組成物をインクジェット法で吐出して画像記録する際に、インク吐出口でのインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
乾燥防止のためには、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。乾燥防止に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
また、浸透促進のためには、インク組成物を記録媒体により良く浸透させる目的で有機溶媒を用いてもよい。浸透促進に好適な有機溶媒の具体例として、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、アセトニトリル、アセトンなど)が挙げられる。
【0081】
(水)
インク組成物は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0082】
(その他の添加剤)
インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて、その他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤(ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤等)、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0083】
水性インク組成物の表面張力は、インクジェット法による吐出を良好に行なうため、20〜60mN/mの範囲が好ましく、25〜40mN/mの範囲がより好ましい。一方、インクの付与をインクジェット法以外の方法で行なう場合には、20〜60mN/mの範囲が好ましい。水性インク組成物の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0084】
水性インク組成物の粘度は、インクジェット法で吐出して付与する場合は、吐出安定性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、1〜30mPa・sが好ましく、2〜15mPa・sがより好ましく、2〜10mPa・sが特に好ましい。また、インク組成物の付与をインクジェット法以外の方法により行なう場合は、1〜40mPa・sの範囲が好ましい。水性インク組成物の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。
【0085】
(b)メンテナンス液
本発明のインクセットを構成するメンテナンス液は、有機溶剤及び水を少なくとも含み、好ましくは界面活性剤を含み、必要に応じて、更にその他添加剤を用いて構成することができる。
【0086】
本発明において、「メンテナンス」には、インクジェット記録用インクを吐出する記録用ヘッド及びその吐出性能を所期の状態もしくはそれに近い状態に保ち、持続することに加え、記録用ヘッドを洗浄(クリーニング)してより良好な状態に整備、保守することが含まれる。
【0087】
−有機溶剤−
本発明におけるメンテナンス液は、有機溶剤の少なくとも1種を含有する。有機溶剤としては、特に制限はないが、既述の水性インク組成物の洗浄性に優れ、界面活性剤等の添加剤を必要としない等の観点から、水溶性有機溶剤が好ましい。
【0088】
有機溶剤としては、既述の水性インク組成物に使用可能な有機溶剤として挙げた水溶性有機溶剤及び他の有機溶媒の中から適宜選択して含有することができる。中でも、インク固着物の溶解性向上の点で、アルキレンオキシアルコール及びアルキレンオキシアルキルエーテルが好ましく、アルキレンオキシアルキルエーテルが特に好ましい。アルキレンオキシアルコール及びアルキレンオキシアルキルエーテルの詳細については既述の通りである。アルキレンオキシアルキルエーテルの中でも、メンテナンス液においては、アルキル部位の炭素数が1〜4のエチレンオキシアルキルエーテル又はアルキル部位の炭素数が1〜4のプロピレンオキシアルキルエーテルが好ましい。
【0089】
有機溶剤のメンテナンス液中における含有量としては、メンテナンス液の全質量に対して、1〜50質量%の範囲が好ましく、10〜50質量%の範囲がより好ましい。有機溶剤の含有量は、1質量%以上であると、水性インク組成物の洗浄性が良好であり、また50質量%以下にすることにより、水性インク組成物の洗浄性を高く維持することができる。
【0090】
本発明におけるメンテナンス液では、インクジェットヘッドのノズル面等に付着、固化した水性インク組成物の洗浄性が良好になる観点から、有機溶剤としてアルキレンオキシアルキルエーテルを含み、有機溶剤全体に占めるアルキレンオキシアルキルエーテルの割合が50質量%以上である場合がより好ましい。この場合、同様の理由から、有機溶剤全体に占めるアルキレンオキシアルキルエーテルの割合は、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。なお、上限は特に制限されない。
【0091】
メンテナンス液のpH(25±1℃)としては、水性インク組成物の凝集への影響の点から、6〜11の範囲であるのが好ましい。pHは、6以上であると、インクジェットヘッドのノズル面等のヘッド部材の近傍でインク組成物の凝集が生じるのを回避でき、11以下であると、ヘッドの撥液膜劣化防止の点で有効である。中でも、pH(25±1℃)は、7〜10の範囲がより好ましい。この場合、前記水性インク組成物のpH(25±1℃)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。中でも、水性インク組成物の性状及び洗浄効果の向上の点から、前記インク組成物のpH(25±1℃)が7.5以上であって、メンテナンス液のpH(25±1℃)が6〜11である場合が好ましい。
【0092】
−界面活性剤−
本発明におけるメンテナンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンジオール誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。
中でも、インクとの凝集反応を起こさない等の点で、アセチレンジオール誘導体やアルキルカルボン酸ナトリウムやアルキルスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0093】
界面活性剤のメンテナンス液中における含有量としては、メンテナンス液の全質量に対して、0.5〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜3質量%である。界面活性剤の含有量が前記範囲内であると、洗浄性の点で有利である。
【0094】
−水−
メンテナンス液は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、50〜1質量%である。
【0095】
−その他添加剤−
メンテナンス液は、上記の成分に加え、必要に応じて、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤(ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤等)、消泡剤、粘度調整剤などのその他の添加剤を含むことができる。
【0096】
(c)水性処理液
本発明のインクセットは、既述の水性インク組成物と接触したときに組成物中の成分を凝集させて固定化する水性処理液を設けて構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0097】
水性処理液(以下、単に「処理液」ともいう。)は、水性インク組成物中の顔料及び樹脂粒子などの成分を凝集させる凝集成分を少なくとも含み、一般に有機溶剤や水を含むことができる。水性処理液は、必要に応じて、更に界面活性剤等の他の成分を用いて構成することができる。
【0098】
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃±1℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜6であることが好ましく、1.2〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25±1℃)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。中でも、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃)が1.5〜3である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0099】
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
【0100】
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種単独で用いるほか2種以上併用してもよい。
【0101】
本発明における処理液は、上記酸性化合物等に加えて、水系溶媒(例えば水)を更に含んで構成することができる。
酸性化合物の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましく、更に好ましくは15〜50質量%であり、特に好ましくは18〜30%である。
【0102】
また、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液が挙げられ、高速凝集性を向上させることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0103】
金属の塩の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
【0104】
また、処理液は、凝集成分として、カチオン性有機化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。カチオン性有機化合物としては、例えば、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリグアニド、又はポリアリルアミン及びその誘導体などのカチオン性ポリマーを挙げることができる。
【0105】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、1,000〜500,000の範囲が好ましく、1,500〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは2,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、1000以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0106】
さらに、前記カチオン性有機化合物として、例えば、1級、2級、又は3級アミン塩型の化合物が好ましい。このアミン塩型の化合物の例として、塩酸塩もしくは酢酸塩等の化合物(例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミンなど)、第4級アンモニウム塩型化合物(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなど)、ピリジニウム塩型化合物(例えば、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイドなど)、イミダゾリン型カチオン性化合物(例えば、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンなど)、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物(例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミンなど)等のカチオン性の化合物や、例えば、アミノ酸型の両性界面活性剤、R−NH−CH2CH2−COOH型の化合物、カルボン酸塩型両性界面活性剤(例えば、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなど)、硫酸エステル型、スルホン酸型、又は燐酸エステル型等の両性界面活性剤など所望のpH領域でカチオン性を示す両性界面活性剤などを挙げることができる。
中でも、2価以上のカチオン性有機化合物が好ましい。
【0107】
カチオン性有機化合物の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは2〜30質量%である。
【0108】
上記のうち、凝集成分としては、凝集性及び画像の耐擦過性の点で、2価以上(更には2価又は3価)のカルボン酸、又は2価以上のカチオン性有機化合物が好ましい。
【0109】
処理液の粘度は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲が更に好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定されるものである。
また、処理液の表面張力は、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mの範囲が好ましく、20〜45mN/mの範囲がより好ましく、25〜40mN/mの範囲が更に好ましい。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0110】
本発明における処理液は、凝集成分に加え、一般には水溶性有機溶剤を含むことができ、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の各種添加剤を用いて構成することができる。水溶性有機溶剤の詳細については、既述の水性インク組成物と同様である。前記その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0111】
<画像記録方法>
本発明の画像記録方法は、上記した本発明のインクセットを用いてインクジェット法によりインクを吐出して画像を記録するものである。本発明のインクセットを用いるので、ブロッキングの発生を抑えつつ耐擦過性に優れた画像を、高画質に長期間安定的に記録することができる。
【0112】
本発明の画像記録方法は、本発明のインクセットを用いた方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、既述の水性インク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、インクジェットヘッドのノズル面等のヘッド部材などにメンテナンス液を付与して水性インク組成物を洗浄するメンテナンス工程とを設けて構成することができる。また、好ましくはこれらに加えて、水性インク組成物と接触することで組成物中の成分を凝集させて固定化するための水性処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を設けた構成することができる。本発明のインクジェット記録方法は、必要に応じて、更に他の工程を設けて構成されてもよい。
【0113】
−インク付与工程−
インク付与工程は、既述の水性インク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。本発明のインク組成物における各成分の詳細及び好ましい態様などの詳細については、既述した通りである。
【0114】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
【0115】
インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもよい。吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いてもよい。尚、インクジェット法により記録を行なう際のインクノズル等については特に制限はなく、適宜選択すればよい。インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明の画像記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0116】
−メンテナンス工程−
メンテナンス工程では、インクジェットヘッドのノズル面等のヘッド部材などにメンテナンス液を付与し、ヘッド部材などに付着、固化した水性インク組成物を洗浄する。メンテナンス液の付与は、例えばノズル面にメンテナンス液を塗布法による塗布やインクジェット法による吐出によって行なえる。インクジェット法については、インク付与工程にて説明した通りであり、塗布法については後述する。
【0117】
本発明のメンテナンス液を用いたメンテナンスは、インクの付着汚れや目詰まり等を防止する観点から、所望の部分にメンテナンス液を付与し、固着等して付着したインクの除去が行なえる方法であれば、いずれの方法を選択してもよい。例えば、インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズル面にメンテナンス液を付与した後、ノズル面をワイピングする方法により行なうことができる。
【0118】
このとき、メンテナンス液の付与は、例えば、ローラー塗布、噴霧などにより行なえる。また、固着したインク(インク固着物)を除去する除去工程においては、メンテナンス液を付与後にワイパブレードを用いてノズル面を擦り(ワイピング)、インク固着物を掻き落とす方法、風圧やメンテナンス液等の液圧等により取り除く方法、及び布・紙類で払拭する方法が好ましく、中でも、ブレードによる掻き取り、布や紙類での払拭が好ましい。付与時のメンテナンス液の量や温度等については、液組成やインク種類、付着量など場合に応じて適宜選択することができる。
【0119】
インクジェット記録方式では、約20〜50μmという微小径のノズルからインクを吐出させるため、ノズル先端近傍付近において、低沸点溶剤や水の揮発、色材の分離、凝集等によるインクの増粘、析出物の発生が起こり易く、印字の乱れやノズルの目詰まり等の不具合を引き起こす場合がある。これらの不具合は、長期間にわたる装置の休止時に起こりやすく、本発明におけるメンテナンス液では、インクの洗浄性に優れており、印字の乱れやノズルの目詰まり等の不具合を解消することができる。
【0120】
本発明におけるメンテナンス液は、インクの乾燥による増粘、固化等の不具合を解消する際の方法として、長時間使用した後休止前に洗浄する、長時間休止した後、運転前に洗浄する場合に好適に使用することができる。
【0121】
−処理液付与工程−
処理液付与工程は、水性インク組成物と接触することで組成物中の成分を凝集させることにより固定化可能な水性処理液を記録媒体に付与する。この場合、インク組成物中の樹脂粒子や顔料などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、水性処理液における各成分の詳細及び好ましい態様については、既述の通りである。
【0122】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレッドコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0123】
処理液付与工程は、前記インク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程で水性処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、水性インク組成物を付与する前に、予め水性インク組成物中の樹脂粒子や顔料等を凝集させるための水性処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された水性処理液に接触するように水性インク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0124】
水性処理液の付与量としては、水性インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分(例えば2価以上のカルボン酸又はカチオン性有機化合物)の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0125】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。加熱乾燥は、ヒーター等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒーター等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒーターを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0126】
−加熱定着工程−
本発明の画像記録方法は、前記インク付与工程の後、水性インク組成物の付与により形成されたインク画像に加熱面を接触させて加熱定着する加熱定着工程を設けることができる。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。
【0127】
加熱は、画像中のポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)以上の温度で行なうことが好ましい。Tg以上に加熱されるので、皮膜化して画像が強化される。加熱温度は、好ましくはTg+10℃以上の温度域が好ましい。具体的には、加熱温度は、40〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは50℃〜100℃の範囲である。加熱と共に加圧する際の圧力としては、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲である。
【0128】
加熱の方法自体は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触による方法でもよい。また、加熱面を接触させて加熱定着を行なう方法としては、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラー、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラーとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラー等の間を通過させる方法などが好適に挙げられる。
【0129】
前記加熱加圧ローラーとしては、金属製の金属ローラーでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラーの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラー間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラーを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0130】
−記録媒体−
本発明の画像記録方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0132】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用いて3本直列につなぎ、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。また、条件としては、試料濃度を0.35質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なった。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0133】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
<水性インクの調製>
(ポリマー分散剤P−1の合成)
下記スキームにしたがって、以下に示すようにしてポリマー分散剤P−1を合成した。
【0134】
【化1】

【0135】
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P−1を96g得た。得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0136】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製)
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル−A220、大日精化株式会社製;シアン顔料)10部と、前記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1規定 NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心菅を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行ない、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Cを得た。
【0137】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Mの調製)
樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製において、ピグメント・ブルー15:3(シアン顔料)の代わりに、ピグメント・レッド122(マゼンタ顔料)を用いた以外は、樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Mを調製した。
【0138】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Yの調製)
樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製において、ピグメント・ブルー15:3(シアン顔料)の代わりに、ピグメント・イエロー74(イエロー顔料)を用いたこと以外は、樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Yを調製した。
【0139】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Kの調製)
樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製において、ピグメント・ブルー15:3(シアン顔料)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製のNIPEX160-IQ;黒色顔料)を用いたこと以外は、樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Kを調製した。
【0140】
(自己分散性ポリマー微粒子の調製)
−合成例1−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン560.0gを仕込んで、反応容器外温度87℃まで昇温した。反応容器内は還流状態を保ちながら(以下、反応終了まで還流)、メチルメタクリレート87.0g、「FA−513M」(日立化成工業(株)製)406.0g、「PME−100」(日油(株)製)29.0g、メタクリル酸58.0g、メチルエチルケトン108g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)2.32gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、1時間攪拌後、(1)「V−601」1.16g、メチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加え、2時間攪拌を行った。続いて、(1)の工程を4回繰り返し、さらに「V−601」1.16g、メチルエチルケトン6.4gからなる溶液を加えて3時間攪拌を続け、メチルメタクリレート/FA−513M/PME−100/メタクリル酸(=15/70/5/10[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は65000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であった。
【0141】
次に、得られた樹脂溶液291.5g(固形分濃度44.6%)を秤量し、イソプロパノール82.5g、1モル/LのNaOH水溶液73.92gを加え、反応容器内温度を87℃に昇温した。次いで、蒸留水352gを10ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度87℃で1時間、91℃で1時間、95℃で30分間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を合計で309.4g留去し、固形分濃度26.5%の自己分散ポリマー微粒子A−01の水分散物を得た。
【0142】
得られたA−01の水分散物のMFT、及び自己分散ポリマー微粒子A−01のMFT25を下記の方法により測定した。測定値は下記表1に示す。
(1)MFT(水分散物中でのMFT):YOSHIMITU SEIKI社製のMFT測定機を用いて測定した。具体的には、得られた水分散物を25質量%液に調整し、これをPETフィルム(64cm×18cm)上に塗布膜の厚みが300μmとなるように長さ50cm×幅3cmでブレード塗布した後、PETフィルムの裏側から加熱して塗布膜に12℃〜65℃までの温度勾配をかけ、20℃、22%RHの環境下で4時間乾燥させた。このとき、白い粉状の析出物が生じた温度と透明な膜が形成された温度との境界温度[℃]を測定し、最低造膜温度(MFT)とした。
(2)MFT25(水溶性有機溶剤を25質量%含有するMFT):前記(1)MFTの測定方法において、自己分散ポリマー微粒子A−01を25質量%(固形分)、下記表1に記載の各水性インクに用いた有機溶剤(総量)6.25質量%(樹脂粒子固形分に対して25質量%)、及び水68.75質量%の水溶液を調製し、これを水分散物に代えて用いたこと以外は、前記(1)MFTと同様の方法で測定を行ない、MFTを求めた。
【0143】
−合成例2−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。これにメチルメタクリレート180g、メトキシエチルアクリレート32.4g、ベンジルメタクリレート126.0g、メタクリル酸21.6g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、さらに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温してさらに2時間攪拌を続け、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=50/9/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は、66,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であった。
【0144】
次に、得られた樹脂溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1モル/LのNaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子B−01の水分散物を得た。
【0145】
得られたB−01の水分散物のMFT、及び自己分散ポリマー微粒子B−01のMFT25について、前記A−01と同様の方法により測定を行なった。測定値は下記表1に示す。
【0146】
−合成例3−
前記合成例1の自己分散性ポリマー微粒子A−01の合成において、メチルメタクリレート、FA−513M、PME−100、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、メチルメタクリレート/FA−513M/PME−100/メタクリル酸(=20/62/10/8[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子A−02の水分散物を得た。また、A−02の水分散物のMFT、及び自己分散ポリマー微粒子A−02のMFT25を前記A−01と同様の方法により測定した。測定値は下記表1に示す。
【0147】
−合成例4−
前記合成例1の自己分散性ポリマー微粒子A−01の合成において、メチルメタクリレート、FA−513M、PME−100、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、メチルメタクリレート/FA−513M/PME−100/メタクリル酸(=54/35/5/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子A−03の水分散物を得た。また、A−03の水分散物のMFT、及び自己分散ポリマー微粒子A−03のMFT25を前記A−01と同様の方法により測定した。測定値は下記表1に示す。
【0148】
−合成例5−
前記合成例2の自己分散性ポリマー微粒子B−01の合成において、メチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例2と同様にして、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=39/20/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子B−02の水分散物を得た。また、B−02の水分散物のMFT、及び自己分散ポリマー微粒子B−02のMFT25を前記A−01と同様の方法により測定した。測定値は下記表1に示す。
【0149】
−合成例6−
前記合成例2の自己分散性ポリマー微粒子B−01の合成において、メチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例2と同様にして、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=44/15/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子B−03の水分散物を得た。また、B−03の水分散物のMFT、及び自己分散ポリマー微粒子B−03のMFT25を前記A−01と同様の方法により測定した。測定値は下記表1に示す。
【0150】
(水性インクの調製)
上記で得られた顔料粒子の分散物(シアンの分散物C、マゼンタの分散物M、イエローの分散物Y、ブラックの分散物K)、自己分散性ポリマー微粒子の水分散物、有機溶剤を下記表1に示すように用い、各色が下記のインク組成となるように各成分を混合して4色の水性インクを調液した。得られた水性インクは、プラスチック製のディスポーザブルシリンジに詰め、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の孔径5μmフィルタ(ミリポア社製のMillex−SV、直径25mm)にて濾過して完成インクとした。
【0151】
<シアンインクの組成>
・シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3) : 4質量%
・前記ポリマー分散剤P−1(固形分) : 2質量%
・下記表1に記載の自己分散性ポリマー微粒子の水分散物(固形分): 4質量%
・下記表1に記載の有機溶剤 :(表1の記載量)
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤) : 1質量%
・イオン交換水 :73質量%
なお、シアンインクのpHは、8.7とした。
【0152】
<マゼンタインクの組成>
前記シアンインクの組成中のシアン顔料を、顔料の量が同量になうようにマゼンタ顔料(ピグメント・レッド122)に代えたこと以外は、シアンインクと同様の組成とした。なお、マゼンタインクのpHは、8.7とした。
【0153】
<イエローインクの組成>
前記シアンインクの組成中のシアン顔料を、顔料の量が同量になうようにイエロー顔料(ピグメント・イエロー74)に代えたこと以外は、シアンインクと同様の組成とした。なお、イエローインクのpHは、8.7とした。
【0154】
<ブラックインクの組成>
前記シアンインクの組成中のシアン顔料を、顔料の量が同量になうようにブラック顔料(カーボンブラック;デグッサ社製のNIPEX160-IQ)に代えたこと以外は、シアンインクと同様の組成とした。なお、ブラックインクのpHは、8.7とした。
【0155】
なお、表1に示すインク中の溶剤の詳細は、以下の通りである・。
・GP250:サンニックスGP250(三洋化成工業社製)
・GP400:サンニックスGP400(三洋化成工業社製)
・TPGmME:トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬工業社製)
・TEGmBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬工業社製)
【0156】
<処理液Aの調製>
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Aを調製した。処理液Aの物性値は、粘度:3.8mPa・s、表面張力:37.5mN/m、pH(25±1℃):1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、凝集剤、和光純薬工業社製) :25.0質量%
・サンニックスGP250(三洋化成工業社製、親水性有機溶剤):20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤): 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0157】
<メンテナンス液の調製>
下記組成の諸成分を混合し、メンテナンス液を調製した。メンテナンス液の粘度、表面張力、及びpH(25±1℃)を測定したところ、粘度:2.8mPa・s、表面張力:31.6mN/m、pH:8.3であった。
<メンテナンス液の組成>
・下記表1に記載の有機溶剤 ・・・(表1の記載量)
・オレイン酸ナトリウム ・・・1質量%
(和光純薬工業(株)製、界面活性剤)
・NaHCO ・・・0.04質量%
・イオン交換水 ・・・(全体で100質量%になる量)
【0158】
なお、下記表1中の溶剤の詳細は、以下の通りである・。
・DEGmBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(和光純薬工業社製)
・DPG:ジプロピレングリコール(和光純薬工業社製)
・TEG:トリエチレングリコール(和光純薬工業社製)
【0159】
上記において、表面張力の測定は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて、白金プレートを用いたウィルヘルミ法にて25℃の条件下で行なった。粘度の測定は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて30℃の条件下で行なった。また、pHの測定は、東亜DKK(株)製のpHメータWM−50EGを用い、水性インクを原液のまま25℃±1℃にて行なった。
【0160】
<画像記録及び評価>
記録媒体(塗工紙)として特菱アート(坪量104.7g/m)を用意し、4色からなる各実施例及び比較例の水性インクと処理液Aとを用い、処理液Aの付与量を2.0g/mとして、以下に示すようにして画像を記録した。
【0161】
[打滴方式]
各実施例及び比較例で得たシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクの4色からなる水性インクを、4色シングルパス記録によりライン画像とベタ画像の記録を実施した。このとき、ライン画像は、1200dpiの1ドット幅のライン、2ドット幅のライン、4ドット幅のラインをシングルパスで主走査方向に吐出することにより記録し、ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面に水性インクを吐出することによりベタ記録した。なお、記録する際の諸条件は下記の通りである。
【0162】
[記録]
(1)処理液付与工程
まず、記録媒体の全面に、アニロックスローラー(線数100〜300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて付与量が2.0g/mになるように処理液Aを塗布した。
(2)乾燥除去工程
次いで、下記条件にて処理液Aが塗布された記録媒体を乾燥した。
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱
・送風領域:450mm(乾燥時間0.7秒)
(3)画像記録工程
その後、処理液Aが塗布された記録媒体の塗布面に下記条件にて水性インクをインクジェット法で吐出し、ライン画像、ベタ画像を記録した。
・ヘッド:1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを4色分配置
・吐出液滴量:0pL、2.0pL、3.5pL、4.0pLの4値記録
・駆動周波数:30kHz(記録媒体の搬送速度635mm/sec)
(4)インク乾燥除去工程
次いで、水性インクが付与された記録媒体を下記条件で乾燥した。
・乾燥方法:送風乾燥
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱
・送風領域:640mm(乾燥時間:1秒間)
(5)定着工程
次に、下記条件でローラー対を通過させることにより加熱定着処理を実施した。
・シリコンゴムローラー(硬度50°、ニップ幅5mm)
・ローラー温度:75℃
・圧力:0.8MPa
【0163】
<評価>
上記のように記録したライン画像、ベタ画像に対して下記評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0164】
−耐擦過性−
ベタ画像が記録された記録媒体の2cm四方のベタ部を印字直後、記録していない記録媒体(記録に用いたものと同じ記録媒体(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦り、未使用サンプルの白地部分へのインクの転写度合いを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:インクの転写は全くなかった。
B:インクの転写はほとんど目立たなかった。
C:インクの転写が多少見られ、実用上許容限界レベルであった。
D:インクの転写が顕著で、実用性の極めて低いレベルであった。
【0165】
−耐ブロッキング性−
マゼンタインクによるベタ画像上にシアンインクをベタ記録したときの均一画像部を3.5cm×4cmのサイズに裁断し、10cm×10cmのアクリル板の上に印字面を上方に向けて評価サンプルを載せ、更にこの評価サンプルの上に重ねて同じように印字したサンプルを画像部同士を重ねた上に、更に10cm×10cmのアクリル板を載せ、60℃、40%RHの環境条件下で10時間放置した。放置後、最上部のアクリル板の上に1kgの分銅を載せて更に24時間放置した(加重700kg/mに相当)。更に、25℃、50%RHの環境条件下で2時間保管した後、評価サンプルを剥がした。このときの剥がれ易さ及び剥がした後の色移りを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:自然に剥がれ、互いの紙への色移りもみられなかった。
B:くっつきが生じ、互いの紙への色移りが多少みられた。
C:くっつきが強く、互いの紙へ多く色移りし、実用性の低いレベルであった。
D:くっつきが非常に強く、引き剥がすことが困難で、実用性の極めて低いレベルであった。
【0166】
−メンテナンス性−
水性インクを下記(1)〜(3)の条件で吐出後に、前記インクジェット記録装置に装填された前記メンテナンス液をヘッドのノズル面にローラーにて付与した後、ワイパブレード(水素化NBR)でインクジェットヘッドのノズル面をワイピングし、その後の再吐出性評価の結果より、その合否を判定した。ついで下記評価基準に従ってメンテナンス性を評価した。
(1)60分連続吐出終了直後にブレードワイプを1回実施し、その後のインク吐出率が90%以上の場合、合格。
(2)1分間吐出後30分休止し、休止後にブレードワイプを1回実施し、その後のインク吐出率が90%以上の場合、合格。
(3)10分間吐出終了直後にブレードワイプを1回実施し、その後に形成された画像に画像ムラが見られない場合、合格。
〜インク吐出率の測定法〜
実験開始時に全ノズルが吐出していることを確認し、メンテナンスを含めた実験終了後の吐出ノズル数をカウントして、下記の通り吐出率を算出した。
吐出率(%)=[メンテナンス後の吐出ノズル数]/[全ノズル数]×100(%)
<評価基準>
A:3項目とも合格の場合
B:2項目が合格の場合
C:1項目のみ合格の場合
D:3項目とも不合格の場合
【0167】
【表1】

【0168】
前記表1に示すように、実施例では、ブロッキングの発生を抑えつつ、耐擦過性の良好な画像が得られ、また、メンテナンス性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顔料、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子、樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物におけるMFTに対して40℃以上低くなる水溶性有機溶剤、及び水を含む水性インク組成物と、
(b)有機溶剤及び水を含むメンテナンス液と、
を有するインクセット。
【請求項2】
前記MFT25が、40℃以上70℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記メンテナンス液のpHが6〜11であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクセット。
【請求項4】
メンテナンス液中の前記有機溶剤の含有量が、前記メンテナンス液の全質量に対して1〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
メンテナンス液中の前記有機溶剤の50%以上が、アルキレンオキシアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記顔料が、ポリマー分散剤で被覆された顔料であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項7】
前記樹脂粒子が、自己分散性ポリマー粒子であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項8】
水性インク組成物は、少なくとも2種の前記水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項9】
水性インク組成物中の前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルコールであることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項10】
前記アルキレンオキシアルコールが、プロピレンオキシアルコールであることを特徴とすることを特徴とする請求項9に記載のインクセット。
【請求項11】
水性インク組成物中の前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項12】
前記水性インク組成物中の成分を凝集させる凝集成分を含む水性処理液を更に有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項13】
前記凝集成分が、酸性化合物、カチオンポリマー、及び多価金属塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項12に記載のインクセット。
【請求項14】
前記メンテナンス液が、更に、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項15】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載のインクセットを用いて画像を記録する画像記録方法。

【公開番号】特開2010−184429(P2010−184429A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29972(P2009−29972)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】