説明

インクタンク、該インクタンクの製造方法及び樹脂接合方法

【課題】 樹脂シートの溶着部以外への覆射熱による影響を少なくし、溶着部へのカーボンの付着を防止する溶着を可能にする方法を提供する。
【解決手段】 樹脂シートを樹脂部材上に重ね合わせる工程と、前記樹脂シート上の前記樹脂部材と重ね合わせた部分にエキシマレーザーに対して加工性のある有加工性部材を被せる工程と、該有加工性部材上に石英ガラス製の板ガラスを被せる工程と、該板ガラス側からエキシマレーザーを照射することにより、エキシマレーザーを照射した際に発生する熱を利用して前記樹脂シートと前記樹脂部材とを溶着する工程と、前記樹脂部材に溶着された前記樹脂シートから前記加工性部材及び前記板ガラスを剥離する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド用のインクタンク及び該インクタンクの製造方法、並びに樹脂シートと樹脂部材との接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂製部材の熱溶着には、一般的に樹脂シートと樹脂部材、又は樹脂シートを重ね合わせ溶着部に昇温された熱コテを上から押し当てて溶着している。
【0003】
図1(a)及び(b)におけるyはアラミカシートであり、接合する樹脂シートbが熱コテxに熔けて貼り付くのを防止する為に被せる物である(図1(a)、図1(b)参照)。
【0004】
ほぼ同様の熱コテを使用した熱溶着方法が特開平5−138739号公報に記載されている。
【0005】
また、本発明で使用するエキシマレーザーを樹脂シートに照射すると、照射部周辺にカーボンが付着する為、付着したカーボンをウォータージェット等で除去している。
【0006】
ほぼ同様のカーボンの除去方法が特開2001−10063号公報に開示されている。
【特許文献1】特開平5−138739号公報
【特許文献2】特開2001−10063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術におけるシートと部材の接合では、熱コテ(x)を上から溶着部以外に覆い被せる様に押し当てる為、熱コテ内部及び溶着部周辺に熱コテから発生する輻射熱が伝わる。
【0008】
その影響で熱コテ内部と溶着部周辺が変質(硬化等)して、品質に悪影響を及ぼしている。
【0009】
この品質への悪影響とは、密閉性や部材の変質(硬化等)による負圧特性への影響(負圧特性が出なくなること)のことである。
【0010】
また、エキシマレーザーを使用した加工方法においては、加工部周辺にカーボンが付着してしまう。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解消し樹脂シートの溶着部以外への覆射熱による影響を少なくし、溶着部へのカーボンの付着を防止する溶着を可能にする方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するための、本発明の樹脂溶着方法は、樹脂シートを樹脂部材上に重ね合わせる工程と、前記樹脂シート上の前記樹脂部材と重ね合わせた部分にエキシマレーザーに対して加工性のある有加工性部材を被せる工程と、該有加工性部材上に石英ガラス製の板ガラスを被せる工程と、該板ガラス側からエキシマレーザーを照射することにより、エキシマレーザーを照射した際に発生する熱を利用して前記樹脂シートと前記樹脂部材とを溶着する工程と、前記樹脂部材に溶着された前記樹脂シートから前記加工性部材及び前記板ガラスを剥離する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明では、エキシマレーザーを照射した際に発生する熱を利用することによりエキシマレーザーを溶着部のみに照射する事で覆射熱を抑え、溶着部近辺への伝導熱のみに抑えられ溶着部周辺が変質(硬化等)しない又は変質が少ない熱溶着を可能とした(図2、図3参照)。
【0014】
さらに、本発明では、溶着部に樹脂シートを被せて溶着し、後でエキシマレーザーに対して加工性がある樹脂シート(有加工性部材)を剥がすことで溶着部にカーボンを付着させない熱溶着を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図2〜図8を用いて本発明を説明する。
【0016】
図4は接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbを重ね合わせた断面図である。符号aで示す部材は樹脂部材(またはシート)である。また、符号bで示す部材は接合する樹脂シートである。
【0017】
樹脂シートbは厚過ぎると、樹脂部材aと樹脂シートbの溶着部に熱(溶着できる温度で材質がPPの場合120℃以上)が伝わりにくい為、0.05〜0.2mm程度が望ましい。
【0018】
図5は図4で重ね合わせた、接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbの接合する樹脂シートb側にエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcを被せた断面図である。
【0019】
樹脂シートcはエキシマレーザーによる加工性(アブレーション性)がある樹脂シートである。
【0020】
樹脂シートcの材質としては、PSF(ポリサルフォン)やアラミカが望ましい。
【0021】
この樹脂シートの厚さは、厚すぎると溶着部に熱が伝わりにくくなり薄すぎると接合するシートに焼き付いてしまう為0.05〜0.2mm程度が望ましい。
【0022】
図3は図2までで重ね合わせた、接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbとエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcの上に石英板ガラスdを被せた断面図である。符号dで示す部材は石英板ガラスである。
【0023】
石英板ガラスdは溶着部を固定し、かつエキシマレーザー光を透過出来る物が望ましく、石英ガラスで有る事が必要である。また、樹脂シートcと密着させる面には溶着部のみにエキシマレーザー光を透過させる為、メッキ等によるマスキングを施していることが好ましい。石英板ガラスdの厚さは、1.0〜2.0mm程度が望ましい。
【0024】
図7−(a)及び(b)は図6まで重ね合わせた、接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbとエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcと石英板ガラスdとを固定治具eに固定した断面図である。符号eで示す部材は固定治具である。
【0025】
固定治具eは図6に示すように重ねた部材を、それぞれの位置がずれない様に、かつ溶着部全体に一定の圧力(1〜50Kgf/cm2程度)が掛けられる物であることが望ましい。
【0026】
図8は図7で固定した、接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbとエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcと石英板ガラスdにこの石英板ガラスd側からエキシマレーザー光(KrF)fを照射した様子の断面図である。
【0027】
その後、固定治具eから、接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbとエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcと石英板ガラスdを取り外し、エキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcと石英板ガラスdを外して終了する。符号fはエキシマレーザー光(KrF)を示している。
【0028】
より具体的には、樹脂部材aをポリプロピレン製部材とし、樹脂シートbをポリプロピレン製シートとした場合には、溶着個所に2〜3秒以上の溶着温度が掛かる条件としては、溶着部の温度が120℃であった。その時のレーザー条件は、200Hz、490mj、600pulseであった。この際、接合するポリプロピレン製シートの厚さは0.2mm程度とした。また、使用したレーザーは、エキシマレーザーfの波長は248nmとした。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明はインク等の液体を記録媒体に向けて噴射する液体噴射記録(インクジェット記録)に用いられる液体噴射記録ヘット用タンク(インクジェット記録ヘット用タンク)及びその製造方法に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は従来技術の接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbおよび熱コテxの溶着前断面図である。(b)は従来技術の接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbおよび熱コテxの溶着後断面図である。
【図2】図7における実使用想定図である。
【図3】図2における溶着部の拡大断面図である。
【図4】接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbの断面図である。
【図5】接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbの上にエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcを被せた断面図である。
【図6】接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbとエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcの上に石英板ガラスdを被せた断面図である。
【図7】(a)は接合する樹脂部材(またはシート)aと接合する樹脂シートbとエキシマレーザーによる加工性がある樹脂シートcと石英板ガラスdを固定治具eに固定した断面図である。(b)は(a)の上面図である。
【図8】エキシマレーザーによる熱溶着断面図である。
【符号の説明】
【0031】
a 接合する樹脂部材(またはシート)
b 接合する樹脂シート
c エキシマレーザーによる加工性がある樹脂シート
d 石英板ガラス
e 固定治具
f エキシマレーザー光(KrF)
x 熱コテ
y アラミカシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートを樹脂部材上に重ね合わせる工程と、前記樹脂シート上の前記樹脂部材と重ね合わせた部分にエキシマレーザーに対して加工性のある有加工性部材を被せる工程と、該有加工性部材上に石英ガラス製の板ガラスを被せる工程と、該板ガラス側からエキシマレーザーを照射することにより、エキシマレーザーを照射した際に発生する熱を利用して前記樹脂シートと前記樹脂部材とを溶着する工程と、前記樹脂部材に溶着された前記樹脂シートから前記加工性部材及び前記板ガラスを剥離する工程と、を含むことを特徴とする樹脂接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂接合方法により溶着された前記樹脂シートと前記樹脂部材とを備えるインクタンクを製造するインクタンク製造方法。
【請求項3】
前記樹脂部材がエキシマレーザーに対して加工性が有ることを特徴とする請求項2に記載のインクタンク製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載された製造方法によって作成されたインクタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−69010(P2006−69010A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254268(P2004−254268)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】