説明

インク用の金属ナノ粒子の光化学合成

【課題】大気条件下での安定性、小さな粒径、高い費用効率、及び高い処理量歩留りという条件を満たし、高い費用効率でより容易に製造し使用することができるインクの製造方法を提供する。
【解決手段】安定な金属ナノ粒子を光化学的に生成し、ナノ粒子をインク中に配合するステップを含む、インクを形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、安定な金属ナノ粒子を光化学的に生成するステップを含むインク形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)電極及び無線周波数識別(RFID)技術のような印刷される電子的構造部は、集中的に研究されている分野である。電子的構造部を直接印刷する機能は、多くの用途の可能性を有する無数の低コストの可撓性電子機器への扉を開いた。
【0003】
電子的構造部を印刷するのに普通に使用される材料は金属材料を含む。特に、金属ナノ粒子材料は、優れた製品をもたらす優れた特性を有するので、印刷される電子機器用途に広く使用される。金属ナノ粒子は、サブミクロン・サイズ範囲の直径を有する粒子である。金属ナノ粒子は、バルク及び原子種の金属とは異なる独特の特性を有する。金属ナノ粒子は、表面原子の高反応性、高導電性、及び独特の光学特性によって特徴づけられる。例えば、ナノ粒子は、バルク金属よりも低い融点を有し、バルク金属よりも低い焼結温度を有する。金属ナノ粒子の独特の特性は、それらの特徴的な電子構造並びに極めて大きな表面積及び高い割合の表面原子に起因する。
【0004】
金属ナノ粒子は、結晶材料又はアモルファス材料である。これらは、銀、金、銅などのような純金属、又は合金のような金属の混合物、又は金若しくは銀のような1つ又はそれ以上の他の金属の殻で覆われた銅のような1つ又はそれ以上の金属の核から構成することができる。ニッケルは、その比較的低い導電率(銅又は銀よりも約4倍低い)のために、非常に限られた程度で導電性インクに使用されている。金及び銀は、優れた導電率をもたらすことができるが、比較的高価である。さらに金及び銀は、アニールするのに高温を必要とし、このことが紙及びプラスチック基材上への印刷に対して問題を起す可能性がある。銅は、低価格(銀の約1%)で優れたな導電率をもたらす。残念ながら、銅は酸化し易く、そしてその酸化物は非導電性である。従来の銅ベースのナノ粒子インクは不安定であり、自然酸化して非導電性のCuO又はCu2Oになるのを防止するために、調製及びアニール中に、不活性/還元性雰囲気を必要とする。銅ポリマー厚膜インクは、長年使用されており、例えばハンダ付け性が必要な特定の目的に使用することができる。別の興味深い方策は、銀及び銅の両方の利点を組み合せることである。銀メッキした銅粒子が市販されており、いくつかの市販インクに使用されている。銀メッキは、粒子間接触に対する銀の利点をもたらし、一方バルク粒子材料には低価格の導電性金属(銅)を用いる。しかし、上述のように、銀は比較的高価である。そのため、電子的構造部を印刷するのに適したインクを製造するための、信頼性のある費用効率が高い方法が必要である。
【0005】
Lawrence他による特許文献1には、グラビア印刷又はフレキソ印刷に好適であり、カルボン酸又は無水物機能性芳香族ビニル・ポリマー、及び粒状材料又は薄片材料とすることができる導電性材料、特に少なくとも約5:1のアスペクト比を有する導電性薄片材料、を含有する導電性インクが記載されている。
【0006】
Dhas他は、非特許文献1において、アルゴン/水素(95:5)雰囲気を用いて酸化銅のような不純物の形成を防止することによる金属銅ナノ粒子合成方法について論じている。
【0007】
Volkman他は、非特許文献2において、銀及び銅のナノ粒子を形成するためのプロセスについて記載し、プラスチック適合性低抵抗導電体を実証するための印刷/アニール・プロセスの最適化について論じている。
【0008】
Jana他は、非特許文献3において、約75乃至250nmのサイズ範囲の立方体型銅ナノ粒子がより小さな球状銅粒子から形成される、立方銅粒子の調製法について記述している。
【0009】
Wu他は、非特許文献4において、銅塩前駆体を還元し、且つ新生ナノ粒子に起る一般的な酸化プロセスを効果的に防止するために、還元剤及び抗酸化剤の両方としてアスコルビン酸を用いて、平均粒径3.4nm及び狭いサイズ分布を有する安定な銅ナノ粒子コロイドの調製のための、不活性ガス保護を用いない液相化学還元法について記述している。
【0010】
Chen他は、非特許文献5において、水溶液中における、オクタデカンチオールとp‐スルホン化カリックス[4]アレーンの包接錯体でキャップされた銀ナノ粒子の合成について記述している。
【0011】
McGilvray他は、非特許文献6において、硫黄、窒素又はリンのような従来の安定化リガンドを必要としない安定な無保護の金ナノ粒子の光化学的合成について記述している。
【0012】
Kapoor他は、非特許文献7において、ポリ(N‐ビニルピロリドン)及びベンゾフェノンの存在下において253.7nmの紫外光を用いたCuSO4の光還元による銅ナノ粒子の調製について記述している。Kapoor他は、Cuナノ粒子の形成において、ベンゾジフェノンのケチル・ラジカルは関与しないことを記述している。
【0013】
Liu他による特許文献2には、最初に還元剤を含有する水溶液を銅塩の水溶液と反応させ、続いて抽出剤を含有する無極性有機溶液を添加し、次いで、反応生成物を後処理して銅ナノ粒子を得ることにより、固体粉末状の銅ナノ粒子を生成するプロセスが記述されている。
【0014】
Magdassi他による特許文献3には、金属ナノ粒子及び適切な安定化剤を含有する水性分散液によって基材上にインクジェット印刷するのに用いられる組成物が記述されている。Magdassiはまた、そのような組成物の生成方法及び適切な基材上へのインクジェット印刷にそれらを用いる方法について記述している。
【0015】
Winter他による特許文献4には、還元剤によって銅塩を還元し、窒素及び/又は酸素供与部分を含む不動態化剤を加え、そして銅ナノ粒子を分離することにより、単分散ナノ結晶を作成する方法が記述されている。Winterはまた、基材上に銅ナノ結晶を含有する溶媒を塗布し、基材を加熱してナノ結晶から連続的なバルク銅の膜を形成するステップにより、銅膜を作成する方法について記述している。Winterはまた、構造形成された基材の上に銅ナノ結晶を含有する溶媒を塗布し、基材を加熱して構造部内に連続的なバルク銅を形成することによって構造部を充填するステップにより、基材上の構造部を銅で充填する方法について記述している。
【0016】
Kodas他による特許文献5には、導電性構造部のような電気的構造部の堆積及び形成のための前駆体組成物が開示されている。この前駆体組成物は、有益なことに、直接描画ツールを用いる堆積を可能にする低い粘度を有する。前駆体組成物はまた、低い転化温度を有する。特に好ましい前駆体組成物は、高導電性銅構造部の形成のための金属銅を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0175548A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0053972A1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0078158A1号明細書
【特許文献4】米国特許第6,887,297号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0180451号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Dhas他、Chem.Mater、10:1446−52、1998年。
【非特許文献2】Volkman他、Mat.Res.Soc.Proc.、814:17.8.1−17.8.6、2004年。
【非特許文献3】Jana他、Current Science、79(9):1367−70、2000年11月10日。
【非特許文献4】Wu他、Mater.Res.Soc.Symp.Proc.、879E:Z6.3.1−Z6.3.6、2005年。
【非特許文献5】Chen他、Nanotechnology、18:175706−12、2007年。
【非特許文献6】McGilvray他、J.Am.Chem.Soc.、128(50):15980−81、2006年。
【非特許文献7】Kapoor他、Chem.Phys.Letters、370:83−7、2003年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
金属ナノ粒子インクを作成する上述の方法は、幾つかの欠点をもつ。電子的構造部を印刷するのに適したインクに組み込むための金属ナノ粒子を調製するための必要条件は、大気条件下での安定性、小さな粒径、高い費用効率、及び高い処理量歩留りである。しかし、金及び銀ナノ粒子を作成する方法は、比較的費用がかかる。さらに、銅を使用するとき、殆どの方法は、銅粒子の酸化を防止するために還元/不活性雰囲気を必要とする。還元/不活性雰囲気が不要と説明されている方法は、形成される粒子が低温(<200℃)でアニールするには大き過ぎるという制約を被る。そのため、高いアニール温度の必要性は、紙及びプラスチック基材への印刷を妨げる。或いは、これらの方法は低い歩留りを生じる。従って、これらの必要条件を満たし、高い費用効率でより容易に製造し使用することができるインクの製造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前述のそれぞれの適切な組成物及びプロセスの態様は、本開示に対してその実施形態において選択することができる。
【0021】
本開示は、安定な金属ナノ粒子を光化学的に形成し、このナノ粒子をインク内に配合するステップを含むインク形成方法を提供する。このインクは基材上に印刷することができる。印刷されたインクはアニールすることができる。
【0022】
本開示の利点は非常に多い。金属ナノ粒子を含むインクは、従来のアニール温度よりも低い温度でアニールすることができる。そのため、このインクは、紙及びプラスチック基材を含む種々様々な基材上に印刷することができる。この方法はまた高速であり、従って大量のナノ粒子を迅速に、およそ数秒から数分の間に生成することができる。この方法はまた用途が広い。むき出しの、無保護のナノ粒子が生成され、このナノ粒子は、選択した安定化剤を含有する有機溶媒中にナノ粒子を抽出することによって、実質的に任意の分子によって安定化することができる。さらに、この方法に用いることができる金属及び還元性ラジカル対の多くの組合せがある。例えば、この方法に銅を用いることができる。そのため、この方法は、白金、金又は銀のような高価な金属を用いる金属ナノ粒子の合成に対して、より安価な代替法を提供する。ナノ粒子のサイズ及び/又は濃度は、照射時間、照射強度、用いる金属の対イオン、及び/又は金属又は光開始剤の濃度のような、この方法の1つ又はそれ以上のパラメータを変えることによって容易に制御することができる。最後に、この方法は、強力な還元剤を必要とせず、水中において室温で実施できるので、環境に優しい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」のような単数形は、内容が明らかに別様に指示しない限り複数形を含む。
【0024】
一般に、本開示は、安定な金属ナノ粒子を光化学的に生成し、このナノ粒子をインク内に配合するステップを含むインク形成方法を提供する。一般に、このインクは基材上に印刷することができ、また、アニールすることができる。この方法を以下でより詳細に説明する。
【0025】
一般に、金属ナノ粒子は、水溶液中で1つ又はそれ以上の金属イオンを還元剤により還元することによって生成することができる。この水溶液は、脱気することができる。
【0026】
金属イオンは、金属塩として供給される。金属塩として供給される適切な金属イオンには、銅、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、クロム、鉛、カドミウム、コバルト、ニッケル、金、銀、白金、錫、パラジウム、インジウム、鉄、タングステン、モリブデン、ルテニウム、ビスマス、他の適切な金属のイオン、及びそれらの混合物が含まれる。例えば、金属塩は、金属硫酸塩、金属ハロゲン化物(金属塩化物又は金属臭化物など)、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属亜硝酸塩、金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属蓚酸塩、金属ピラゾリルホウ酸塩、金属アジド、金属フルオロホウ酸塩、金属カルボン酸塩、金属ハロゲン化カルボン酸塩、金属ヒドロキシカルボン酸塩、金属アミノカルボン酸塩、金属芳香族及びニトロ及び/又はフルオロ置換芳香族カルボン酸塩、金属βジケトナート、金属スルホン酸塩、などの形で供給することができる。
【0027】
一実施形態において、金属イオンは、Cu(II)イオンとして供給することができる。Cu(II)イオンは、例えば、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、又は酢酸銅のような金属塩に組み入れられたものとすることができる。もちろん、他の金属及び他の金属塩を使用することもできる。
【0028】
還元剤として、1つ又はそれ以上の光化学的に生成されるラジカルを用いることができる。このラジカルは、1つ又はそれ以上の金属カチオン(M+、M2+など、Mは適切な金属を表す)と反応してM0金属原子及び最終的に無保護の金属ナノ粒子を生成する。適切な還元剤には、例えばラジカルがある。適切なラジカルの例には、例えば、ケチル、α‐アミノ、ホスフィノイル、ベンゾイル、及びアシル・ラジカルが含まれる。本開示によって用いられるラジカルは、市販の供給源を含む任意の公知の供給源から供給することができる。一実施形態において、ラジカルは、α‐ヒドロキシ又はα‐アミノケトンのNorrish I型開裂によって生成される。こうしたラジカルはまた、例えば、Chiba社市販の光開始剤IRGACURE(登録商標)184、127、2959、369、379などとして市販されている。別の実施形態において、ラジカルは、Norrish II型光開始プロセスによって生成されるが、その場合、光励起されたケトン(例えば、ベンゾフェノンなど)が、プロトン供与分子(例えば、イソプロパノールなど)からプロトンを引き抜いて2つのケチル・ラジカルを生成する。
【0029】
実施形態において、金属ナノ粒子及び還元剤の水溶液を約5秒乃至約90秒間、例えば、約10乃至約45秒間、又は約15乃至約30秒間照射する。照射強度は、約0.001W/cm2乃至約10W/cm2、例えば、約0.05W/cm2乃至約5W/cm2、又は約0.1W/cm2乃至約1W/cm2とする。照射源は一般に、当技術分野で公知の任意の照射源、例えば、紫外又は可視放射によるものとすることができる。これは、無コーティングの金属ナノ粒子の合成をもたらす。
【0030】
生成された金属ナノ粒子は、ナノメートル・サイズの範囲にあることが望ましい。例えば、実施形態において、金属ナノ粒子は、約1乃至約1000nm、例えば、約50乃至約500nm、又は約100乃至約200nm、又は約2乃至約20nmの平均粒径を有する。ここで、「平均」粒径は通常d50で表され、又は、粒径分布の中央値(50thpercentile)における粒径中央値として定義され、ここで分布内の粒子の50%がd50粒径値よりも大きく、分布内の粒子の他の50%がd50値よりも小さい。平均粒径は、動的光散乱のような光散乱技術を用いて粒径を推測する方法によって測定することができる。粒子直径は、透過電子顕微鏡法によって生成される粒子の画像から導かれる色素粒子の長さを指す。
【0031】
形成されるナノ粒子のサイズは、照射時間及び強度並びに金属の対イオンの変更、金属イオン及び/又は光開始剤の濃度の変更、又は他の手段によって制御することができる。
【0032】
金属ナノ粒子は任意の形状とすることができる。金属ナノ粒子の例示的な形状には、非限定的に、針状、粒状、球状、球形、不定形などを含めることができる。
【0033】
次に、無コーティング又は官能化粒子を、適切なビヒクル中に分散させてインクに配合する。
ひとたび調製すると、無コーティング金属ナノ粒子を水溶液中に懸濁させることができる。これらの、無保護の無コーティング金属ナノ粒子は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって官能化することができる。さらに、金属ナノ粒子を安定化させることができる。粒子の安定化は、ナノ粒子を含有する水溶液に安定化分子を直接添加することによって達成することができる。或いは、ナノ粒子を、安定化分子を含有する有機溶媒中に抽出することができる。例えば、銅ナノ粒子は、置換ジチオ炭酸塩を用いて安定化することができる。別の実施例において、銀粒子は、オレイン酸又はオレイルアミンのような有機酸又はアミンを用いて安定化することができる。別の実施例において、アルキルチオールを被せた金粒子を用いることができる。本開示によって用いるための他の適切な安定化剤には一般に、非限定的に、有機安定化剤が含まれる。「有機安定化剤」の「有機」という用語は、例えば、炭素原子の存在を意味するが、有機安定化剤は、窒素、酸素、硫黄、シリコン、ハロゲンなどのような1つ又はそれ以上の非金属ヘテロ原子を含むことができる。他の有機安定化剤の例には、例えば、チオール及びその誘導体、‐OC(=S)SH(キサントゲン酸)、ジチオ炭酸塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、アルキルキサンテート、エーテルアルコール・ベースのキサントゲン酸塩、アミン、及び他の有機界面活性剤が含まれる。有機安定化剤は、例えば、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、及びドデカンチオールのようなチオール、例えば、1,2‐エタンジチオール、1,3‐プロパンジチオール、及び1,4‐ブタンジチオールのようなジチオール、又は、チオールとジチオールの混合物、から成る群から選択することができる。有機安定化剤は、例えば、O‐メチルキサンテート、O‐エチルキサンテート、O‐プロピルキサントゲン酸、O‐ブチルキサントゲン酸、O‐ペンチルキサントゲン酸、O‐ヘキシルキサントゲン酸、O‐ヘプチルキサントゲン酸、O‐オクチルキサントゲン酸、O‐ノニルキサントゲン酸、O‐デシルキサントゲン酸、O‐ウンデシルキサントゲン酸、O‐ドデシルキサントゲン酸及びそれらの組合せから成る群から選択することができる。
【0034】
金属ナノ粒子をインクに配合すること
本開示によるインク組成物は、一般に、金属ナノ粒子、及び、担体溶媒又は2つ若しくはそれ以上の担体溶媒の混合物のようなインク・ビヒクルを含む。
【0035】
一般に、適切な溶媒又は担体媒体は、極性又は無極性とすることができる。本開示に調和する有用な溶媒には、非限定的に、アミン、アミド、アルコール、テルペンアルコール、エステル、水、ケトン、エーテル、芳香族、置換芳香族、テルペン、エッセンシャル・オイル、アルデヒド、アルケン、不飽和炭化水素、飽和炭化水素、鉱酸、有機酸及び塩基が含まれる。他の適切な溶媒には、非限定的に、N,N‐ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールブチルエーテル、エタノールアミン及びN‐メチルピロリドン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエン、ケトン、ベンゼン、クロロトルエン、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、N‐メチルピロリジノン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル及びプロピレングリコールが含まれる。
【0036】
溶媒は、少なくとも約30℃且つ約100℃以下の融点を有するような、高融点の溶媒とすることができる。加熱インクジェット・ヘッドを用いて、流動性状態の間に金属ナノ粒子インク組成物を堆積させ、それにより溶媒を基材との接触により凝固させることができる。次の処理で溶媒を他の手段により除去し、次いで材料を最終生成物に転化させ、それによって解像度を保つことができる。適切な溶媒には、ワックス、高分子量の脂肪酸、アルコール、アセトン、N‐メチル‐2‐ピロリドン、トルエン、テトラヒドロフランなどが含まれる。代替的に、金属ナノ粒子インク組成物は室温で液体とすることができ、その場合基材は、組成物の凝固点以下の低温に保たれる。
【0037】
溶媒はまた、低融点の溶媒とすることができる。低融点は、前駆体組成物が乾燥するまで基材上に液体として残る必要があるときに不可欠である。適切な低融点溶媒はN,N‐ジメチルアセトアミドであり、これは約−20℃の融点を有する。
【0038】
さらに、溶媒は、低蒸気圧の溶媒とすることができる。低蒸気圧は、インクジェット・ヘッド、シリンジ又は他のツール内の蒸発が目詰まりのような問題を生じる場合に、組成物の可使時間を有利に長くする。この目的のために適切な溶媒には、テルピネオール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、N‐メチル‐2‐ピロリドン、及びトリ(エチレングリコール)ジメチルエーテルが含まれる。
【0039】
溶媒はまた、少なくとも約1kPaの蒸気圧を有するような、高い蒸気圧の溶媒とすることができる。高い蒸気圧は、乾燥による溶媒の速やかな除去を可能にする。高い蒸気圧の溶媒には、アセトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、エタノール、メタノール、2‐ブタノン及び水が含まれる。
【0040】
インクを配合するために、約0.5乃至約35重量%の金属ナノ粒子を、例えば、約1乃至約30重量%、又は約5乃至約25重量%、又は約10乃至約20重量%のインク・ビヒクル中に分散させることができる。インクは、約2乃至約40倍、例えば、約10乃至約35倍、又は約15乃至約20倍の改善された導電率を与える。
【0041】
インクの粘度は、約1センチポアズ乃至約100センチポアズ、例えば、約10センチポアズ乃至約75センチポアズ、又は約20センチポアズ乃至約50センチポアズとすることができる。ここで、粘度は25℃での測定値である。
【0042】
インク組成物はまた、担体材料、又は2つ若しくはそれ以上の担体材料の混合物を含む。担体材料は、インク組成物の特定の型に応じて変えることができる。例えば、水性インクジェット・インク組成物には、適切な担体材料として、水、又は水と1つ若しくはそれ以上の他の溶媒との混合物を用いることができる。他のインクジェット・インク組成物には、担体材料として1つ又はそれ以上の有機溶媒を、水と共に又は水なしで用いることができる。
【0043】
本開示によるインクは、さらに1つ又はそれ以上の添加剤をそれらの周知の目的で含むことができる。例えば、適切な添加剤には、コロイド状シリカのような流動化剤、脂肪酸の金属塩のような潤滑剤、ワックス、界面活性剤、シリカ、スペーシング剤、乾燥剤、分散剤、保湿剤、架橋剤、安定化剤、増粘剤、ゲル化剤、消泡剤、及び光重合開始剤が含まれる。しかし、付加的な添加剤がアニール・ステップで除去されない場合、導電性構造部の導電率を低下させる可能性があることに留意されたい。
【0044】
インク組成物はまた、随意に抗酸化剤を含むことができる。インク組成物の随意的な抗酸化剤は、画像の酸化を防ぎ、また、インク調製プロセスの加熱部分において、インク組成物の酸化を防ぐ。適切な抗酸化剤の特定の例には、NAUGUARD(登録商標)445、NAUGUARD(登録商標)524、NAUGUARD(登録商標)76、及びNAUGUARD(登録商標)512(Uniroyal Chemical Company、Oxford、Conn.から市販)のようなNAUGUARD(登録商標)シリーズの抗酸化剤、IRGANOX(登録商標)1010(Ciba Geigyから市販)のようなIRGANOX(登録商標)シリーズの抗酸化剤などが含まれる。存在するときには、随意的な酸化剤は、任意の所望の又は有効な量、例えば、少なくともインクの約0.01乃至約20重量%、例えば、インクの約0.1乃至約5重量%、又はインクの約1乃至約3重量%の量でインク中に存在することができるが、この量はこれらの範囲外とすることもできる。
【0045】
インク組成物はまた、随意に粘度調整剤を含むことができる。適切な粘度調整剤の例には、ステアロンのような脂肪族ケトンなどがある。存在するときには、随意的な粘度調整剤は、任意の所望の又は有効な量、例えば、インクの約0.1乃至約99重量%、例えば、インクの約1乃至約30重量%、又はインクの約10乃至約15重量%の量でインク中に存在することができるが、この量はこれらの範囲外とすることもできる。
【0046】
インクへの他の随意的添加物には、UNION CAMP(登録商標)X37−523−235(Union Campから市販)のような清澄材、水素化アビエチン(ロジン)酸のグリセロールエステルであるFORAL(登録商標)85(Herculesから市販)、水素化アビエチン(ロジン)酸のペンタエリスリトールエステルであるFORAL(登録商標)105(Herculesから市販)、フタル酸の水素化アビエチン(ロジン)アルコールエステルであるCELLOLYN(登録商標)21(Herculesから市販)、水素化アビエチン(ロジン)酸のトリグリセリドであるARAKAWA(登録商標)KE−311樹脂(Arakawa Chemical Industries、Ltd.から市販)のような粘着性付与剤、NEVTAC(登録商標)2300、NEVTAC(登録商標)100、及びNEVTAC(登録商標)80(Neville Chemical Companyから市販)、修飾合成ポリテルペン樹脂であるWINGTACK(登録商標)86(Goodyearから市販)などのような合成ポリテルペン樹脂、VERSAMID(登録商標)757、759、又は744(Henkelから市販)のような粘着剤、UNIPLEX(登録商標)250(Uniplexから市販)、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸アルキルベンジル(SANTICIZER(登録商標)278)のようなMonsantoから商品名SANTICIZER(登録商標)により市販されているフタル酸エステル可塑剤、リン酸トリフェニル(Monsantoから市販)、リン酸トリブトキシエチルであるKP−140(登録商標)(FMC Corporationから市販)、リン酸ジシクロヘキシルであるMORFLEX(登録商標)150(Morflex Chemical Company Inc.から市販)、トリメリト酸トリオクチル(Eastman Kodak Co.から市販)などのような可塑剤、などが含まれる。このような添加剤は、それらの通常の目的で従来の量を含めることができる。
【0047】
本開示によるインクに用いることができる非イオン性界面活性剤の例には、非限定的に、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、メタロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ジアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノールなど、及びそれらの混合物が含まれる。非イオン性界面活性剤の適切な濃度は、例えば、約0.01乃至約10重量%、幾つかの実施形態においては、約0.1乃至約5重量%である。
【0048】
適切なカチオン性界面活性剤の例には、非限定的に、塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルベンゼンアルキルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルベンジルメチルアンモニウム、臭化アルキルベンジルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、臭化セチルピリジニウム、C12、C15、C17‐臭化トリメチルアンモニウム、四級化ポリオキシエチルアルキルアミンのハロゲン化物塩、塩化ドデシルベンジルトリエチルアンモニウムなど、及びそれらの混合物が含まれる。界面活性剤の適切な量は、例えば、約0.1乃至約10重量%、幾つかの実施形態においては約0.2乃至5重量%のように選択することができる。特定の界面活性剤又はそれらの組合せの選択、並びにそれぞれの使用量は、当業者の認識の範囲内のことである。
【0049】
本開示によるインクは、例えば、水性インク、油性インクなどとすることができる。
本開示によるインクは、一般的に適切な基材、例えば、非限定的に、紙、ガラス・アート紙、ボンド紙、板紙、クラフト紙、ボール紙、準合成紙、又は、ポリエステル若しくはポリエチレン・シートのようなプラスチック・シートなど、に印刷することができる。これらのさまざまな基材は、無コーティング紙のような自然な状態で供給されることができ、或いは、コーティング若しくは処理された紙又は板紙、印刷された紙又は板紙などのような修正形態で供給されることができる。
【0050】
本開示のインクを基材上に印刷するのに、任意の適切な印刷方法を用いることができる。例えば、適切な方法には、非限定的に、グラビア印刷、ロトグラビア印刷、フレキソ印刷、リソグラフィ、エッチング、スクリーン印刷などのようなロール・ツー・ロール大量アナログ印刷法が含まれる。さらに、サーモグラフィ、電子写真、エレクトログラフィ、レーザ誘起転写、インクジェット印刷、又はそれらの組合せを用いることができる。レーザ誘起転写デジタル印刷法を用いる場合、そのような方法の例示的な方法には、染料の昇華、アブレーション、溶融転写、又は膜転写がある。このインクはまた、熱転写プリンタ、ホット・メルト・プリンタ及び普通の筆記用具にも使用することができる。特定の実施形態において用いる方法は、インクジェット印刷である。
【0051】
このインクを適切な基材に印刷した後、基材へのインクのアニールは、当技術分野における適切な方法によって行うことができる。一般に、アニールは約120℃未満の温度で約10分間行われる。印刷及びアニールするステップは、一般に、周囲環境において実施される。一般に周囲環境とは、通常の大気環境を意味し、不活性ガス環境の存在を必要としない。さらに、印刷及びアニールするステップは、同時に又は連続的に実施することができる。
【0052】
随意に、保護膜形成、乾燥及びすすぎの何れかの単独又は組合せのような付加的処理ステップを、印刷ステップの後に行うことができる。
【0053】
随意の保護膜形成ステップにおいて、任意の適切な保護膜を、アニール・プロセスが完了した後に塗布することができる。例えば、適切な保護膜を塗布して、印刷された金属ワイヤを覆って保護すること、例えばそれらをアブレーション、化学的侵食などから保護することができる。塗布するとき、保護膜は、任意の所望の厚さ、不透明度、透明度などにすることができる。
【0054】
さらに、随意の乾燥ステップを、基材上のインクの沈積及び堆積後に行うことができる。幾つかの実施形態において、インクは、80℃で約5分間乾燥させることができる。
【0055】
本開示は、多くの可能な用途を提供する。本開示の印刷プロセスは、電子部品の電気的相互接続を含む電子回路及び電気回路システムを製造するのに用いることができる。さらに、本開示の印刷プロセスは、抵抗、キャパシタ、インダクタ、RFIDタグ、薄膜トランジスタ電極を含む電気部品、並びに電気回路を印刷するのに用いることができる。さらに、本開示の印刷プロセスは、マイクロ波ストリップ線路構造体を可撓性基材上に直接印刷して、マイクロ波集積回路(MIC)及びマイクロ波アンテナを形成するのに用いることができる。本開示によるプロセスにより、例えばHFコイル、UHFファン型アンテナ、及びファイバーを含む任意の型のアンテナを印刷することが可能であることに留意されたい。
【0056】
ここで一実施例を以下に説明するが、これは本開示を実施するのに用いることができる種々の組成物及び条件の例証となる。すべての割合は、別に示されない限り重量によるものである。しかし、本開示は多くの型の組成物により実施することができ、上述の開示による及び以下に指摘する多くの異なる用途を有することができることが明らかとなる。
【実施例】
【0057】
各々の銅塩、CuCl、Cu(SO4)、Cu(NO32に対して、銅塩0.33mM及びIRGACURE(登録商標)2959(α‐ヒドロキシケトン光開始剤)1.0mMを入れた3mLの石英キュベットを5分間アルゴンで脱気し、次に、Fusion UV Lighthammer6照射装置(典型的な出力はUVBで1.8W/cm2、UVAで1.9W/cm2)を用いて種々の時間照射した。
【0058】
結果として得られた溶液を、分光器によりCu0プラズモン・バンド(〜350nm)の出現をモニタし、粒径を光散乱(Malvern Zetasizer)によって測定した。
【0059】
350nmと400nmの間の吸収スペクトルの増大によって示されたように、Cu(NO32溶液中に銅粒子が形成された。短い照射時間(15秒)は、350−400nmの吸収の増加をもたらし、〜250nmの粒子の形成が光散乱によって測定された。ケチル・ラジカル前駆体(IRGACURE(登録商標)2959)の重なり吸収のために、銅プラズモンバンドは、350−400nmの間でショルダとして出現した。
【0060】
CuCl及びCu(SO4)は、約45−90秒間照射した。これは、350−400nmバンドのさらなるレッド・シフト及び〜600nmにおけるバンドの出現をもたらした。これらの溶液中の平均粒径は、直径1000nmまで増加した。Cu(NO32に対しては、照射時間を45秒まで増加したとき、〜600nmにおけるバンドは観測されなかった。
【0061】
CuCl及びIRGACURE(登録商標)2959の試料を45秒間照射すると、Z平均直径1100nmを有する粒子が生成した。Cu(NO32及びIRGACURE(登録商標)2959の試料を15秒間照射すると、Z平均直径232nmを有する粒子が生成した。最後に、Cu(NO32及びIRGACURE(登録商標)2959の試料を各15秒間3回照射すると、Z平均直径502nmを有する粒子が生成した。
【0062】
このデータは、無コーティングの銅ナノ粒子が、Cu(I)及びCu(II)塩の脱気した水溶液の中でケチル・ラジカルによる還元によって、速やか且つ容易に調製できることを示す。さらに、ナノ粒子のサイズは、照射時間、照射強度、金属の対イオン、及び/又は反応物濃度、のうちの1つ又はそれ以上のパラメータを変えることによって変えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定な金属ナノ粒子を光化学的に生成し、
前記ナノ粒子をインク中に配合する、
ステップを含むことを特徴とする、インクを形成する方法。
【請求項2】
安定な金属ナノ粒子を光化学的に生成し、
前記ナノ粒子をインク中に配合し、
前記インクを基材上に印刷する、
ステップを含むことを特徴とする、インクを印刷する方法。
【請求項3】
安定な金属ナノ粒子を光化学的に生成し、
前記ナノ粒子をインク中に配合し、
前記インクを基材上に印刷し、
前記印刷されたインクをアニールする、
ステップを含むことを特徴とする、印刷されたインクをアニールする方法。

【公開番号】特開2009−280812(P2009−280812A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119598(P2009−119598)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】