説明

インク組成物、インクセット、及びこれを用いた画像形成方法

【課題】インク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合でも吐出安定性において優れた効果が得られ、かつ硬化性、耐ブロッキング性が良好なインク組成物、インクセット、及びこれを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比が、1/10≦B/A≦2/3であるインク組成物を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法でインクを吐出して画像を記録するのに好適なインク組成物、インクセット、及びこれを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野においてカラー画像を記録する画像記録方法として適用されてきた。インクジェット記録に用いるインクとして、水性顔料インクに、重合性のモノマーを含有させて硬化させることにより耐擦過性を向上させる検討がなされており、例えば、記録媒体に、インク組成物と接触して凝集物を生成する反応剤と光重合開始剤とを含んだ反応液と、アクリレートモノマーや樹脂エマルジョンを含むインク組成物とを付着させて印字を行なうインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、形成される画像の架橋度を高め、記録媒体に対する密着度を高める検討がなされており、例えば、特定構造の重合性モノマーを含む活性エネルギー線硬化型水性インクが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、プラスチック等のインクを吸収しない記録媒体に対する密着性を向上する技術として特定の重合性モノマーを含むインク組成物を用いることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−287035号公報
【特許文献2】特開2007−314610号公報
【特許文献3】特開2001−115067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の各技術では、特にインクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合の吐出安定性(放置回復性)が極めて不十分である。
【0007】
さらに、特許文献1に開示された方法は、インクに水性媒体が用いられた水性顔料インクであるものの、モノマーの溶解性が考慮されておらず、水溶性モノマーを添加した場合に生じる問題までも回避できるに至っていない。このようなインク構成では、モノマーと顔料とが分離してしまい、画像の充分な硬化性を得ることは難しく、また、画像面同士が接触して経時した際に局部的に画像が貼り付いて剥がれない現象(耐ブロッキング性)においても課題がある。また、この方法は反応液とインクとを反応させてインクを固定化する方法であるが、モノマーが分離傾向にあるため、固定化反応も不充分である。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、特にインクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合でも吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られ、さらに、画像の硬化性、耐ブロッキング性が良好なインク組成物、インクセット、及びこれを用いた画像形成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比が、1/10≦B/A≦2/3であることを特徴とするインク組成物である。
<2> 前記重合性化合物(A)のSP値が9〜11.5(cal/cm0.5の範囲にあること特徴とする前記<1>に記載のインク組成物である。
<3> 前記重合性化合物(A)が下記一般式(1)で表されることを特徴とする前記<1>又は前記<2>に記載のインク組成物である。
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(1)中、Qはn価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。
<4> 前記水溶性溶剤(B)のSP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲にあることを特徴とする前記<1>〜前記<3>のいずれか1に記載のインク組成物である。
<5> 前記顔料は、その表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料であることを特徴とする前記<1>〜前記<4>のいずれか1に記載のインク組成物である。
<6> 前記ポリマー分散剤がカルボキシル基を有することを特徴とする前記<5>に記載のインク組成物である。
【0012】
<7> 前記ポリマー分散剤は、酸価が100mgKOH/g以下であることを特徴とする前記<5>、または前記<6>に記載のインク組成物である。
<8> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1に記載のインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液と、を含むインクセットである。
<9> 前記凝集剤が有機酸であることを特徴とする前記<8>に記載のインクセットである。
<10> 前記インク組成物及び前記処理液の少なくとも一方が、更に、活性エネルギー線により前記重合性化合物の重合を開始する開始剤を含むことを特徴とする前記<8>、または前記<9>に記載のインクセットである。
<11> 顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比が、1/10≦B/A≦2/3であるインク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを有する画像形成方法である。
<12> 前記記録媒体が、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙であることを特徴とする前記<11>に記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合の吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られ、さらに、画像の硬化性、耐ブロッキング性も良好なインク組成物、インクセット、及びこれを用いた画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の画像形成方法の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のインク組成物、インクセット、及びこれを用いた画像形成方法について詳細に説明する。
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、水を媒体として含む、いわゆる水性インク組成物であり、顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比を1/10≦B/A≦2/3としたものである。
【0016】
分子内にアクリルアミド構造を含む特定の水溶性の重合性化合物(A)と、水溶性溶剤(B)とを特定の質量比(1/10≦B/A≦2/3)で用いることにより、前記重合性化合物(A)の重合性が適度な範囲に制御され、特に、インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合の吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られるものと推定される。さらに、画像の硬化性、画像面同士を接触させて経時させた場合に発生する密着現象(ブロッキング)においても良好な効果を両立することができる。
【0017】
(重合性化合物)
本発明におけるインク組成物は、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)を少なくとも一種を含有し、活性エネルギー線(例えば、放射線もしくは光、又は電子線など)が照射されることにより重合する。この重合性化合物の重合硬化により画像部が強化される。
【0018】
水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性溶剤を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、25℃の水に対する溶解度が10質量%以上であることが好ましく、15質量以上であることがより好ましい。
【0019】
ここで、分子内にアクリルアミド構造有する重合性化合物(A)は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
一般式(1)中、Qはn価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。
【0022】
式(1)の化合物は不飽和ビニル単量体が、アミド結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基をあらわし、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数nに制限はないが、重合効率、吐出安定性を向上させる観点から、n=2以上が好ましく、n=2以上6以下がより好ましく、n=2以上4以下がさらに好ましい。
【0023】
また、連結基Qはアクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすような連結基から選択されることが好ましく、具体的には以下の化合物群Xから1以上の水素原子またはヒドロキシル基が除去された残基をあげることができる。
【0024】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、または糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0025】
さらに、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0026】
連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
【0027】
また、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)は、9〜11.5(cal/cm0.5のSP値を有することが好ましく、9〜10.5(cal/cm0.5のSP値を有することがより好ましく、9〜10(cal/cm0.5のSP値を有することが更に好ましい。SP値を前述の特定の範囲とすることによって、より効果的に本件の効果を得ることができる。
【0028】
ここで、本発明におけるSP値について説明する。
SP値は、ハンセン(Hansen)溶解度パラメータを用いる。ハンセン(Hansen)溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものであるが、本発明においてはSP値をδ[(cal/cm0.5]で表し、下記式を用いて算出される値を用いる。
δ[(cal/cm0.5]=(δd+δp+δh0.5
なお、この分散項δd,極性項δp,水素結合項δhは、ハンセンやその研究後継者らにより多く求められており、Polymer Handbook (fourth edition)、VII−698〜711に詳しく掲載されている。
また、多くの溶媒や樹脂についてのハンセン溶解度パラメータの値が調べられており、例えば、Wesley L.Archer著、Industrial Solvents Handbookに記載されている。
【0029】
前記分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)の具体例としては、例えば以下に示す水溶性の重合性化合物をあげることができる。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
重合性化合物(A)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
重合性化合物のインク組成物中における含有量としては、顔料の固形分に対して、200〜800質量%が好ましく、250〜600質量%がより好ましい。重合性化合物の含有量は、顔料の固形分に対して、200質量%以上であると画像強度がより向上し、800質量以下であるとパイルハイトの点で有利である。
【0035】
(水溶性溶剤)
本発明におけるインク組成物は、水溶性溶剤(B)を少なくとも1種含有する。水溶性有機溶剤により、乾燥防止、湿潤あるいは紙への浸透促進の効果を得ることができる。
【0036】
本発明に使用できる水溶性溶剤(B)としては、以下のものを例示できる。
グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;
【0037】
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、などのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルポキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン、等。これらの溶剤から、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0038】
多価アルコール類は、乾燥防止剤や湿潤剤としても有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、ポリオール化合物は、浸透剤としても好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0040】
前記水溶性溶剤(B)は、SP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲にあることが好ましく、9〜12.0(cal/cm0.5の範囲にあることがより好ましい。このような水溶性溶剤としては、下記構造式(2)で表される化合物を含むSP値9〜13.5の範囲にある以下の水溶性溶剤が挙げられる。SP値を前述の特定の範囲とすることによって、より効果的に本件の効果を得ることができる。
本発明でいう水溶性溶剤の溶解度パラメーター(SP値)は、ハンセン(Hansen)溶解度パラメータを用いる。詳細な定義は、前述の重合性化合物におけるSP値と同義である。
【0041】
【化7】

【0042】
構造式(2)中、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数で、かつ、l+m+n=3〜15を表す。
上記の中でも、l+m+nが3〜12が好ましく、3〜10がより好ましい。
上記構造式(2)中、AOは、エチレンオキシ及び/又はプロピレンオキシを表すが、中でも、プロピレンオキシ基が好ましい。
前記(AO)、(AO)、及び(AO)の各AOはそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0043】
以下に、SP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲にある水溶性溶剤、及び上記構造式(2)で表される化合物の例について、SP値(カッコ内)と共に示す。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE、11.0)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE、10.5)
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE、10.3)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGmME、10.4)
ジプロピレングリコール(DPG、13.3)
ジエチレングリコール(DEG、12.1)
プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGmEE、10.9)
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME、9.43)
トリオキシプロピレングリコール(12.9)
【0045】
【化8】

【0046】
・nCO(AO)−H (AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1) (9.8)
・nCO(AO)10−H (AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1) (9.2)
・HO(A’O)40−H (A’O=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:3) (9.2)
・HO(A’’O)55−H (A’’O=EO又はPOで、比率はEO:PO=5:6) (9.8)
・HO(PO)−H (12.1)
・HO(PO)−H (10.5)
・1,2−ヘキサンジオール (13.4)
本発明において、EO、POはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基を表す。
【0047】
上述のSP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲にある水溶性溶剤は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。また、SP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲外にある他の溶剤を併用することもできる。なお、SP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲外にある他の溶剤を併用する場合には、SP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲外にある溶剤の含有比率を溶剤全体の10質量%以内とすることが好ましい。
【0048】
また、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;尿素類等のいわゆる固体湿潤剤を併用することも好ましい。
【0049】
水溶性溶剤の含有量としては、全インク組成物中、安定性および吐出信頼性確保の点から、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましく、7質量%以上15質量%以下が特に好ましく使用される。
【0050】
本発明のインク組成物は、前述の分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、と水溶性溶剤(B)との質量比を1/10≦B/A≦2/3、好ましくは、1/10≦B/A≦3/5、より好ましくは、1/5≦B/A≦ 5/9 とすることにより、特にインクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合でも吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られ、さらに、画像の硬化性、耐ブロッキング性において優れた効果が得られるものである。
B/Aが1/10より小さいと、特にヘッド乾燥に伴う吐出性の乱れが発生しやすくなり、B/Aが2/3より大きくなると、特に画像面同士を接触させて経時させた場合に発生する密着現象(ブロッキング)が顕著に悪くなる。
【0051】
(顔料)
本発明におけるインク組成物は、色材成分として顔料の少なくとも一種を含有する。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0052】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
【0053】
前記有機顔料のうち、オレンジ又はイエロー用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。マゼンタ又はレッド用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222、C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられる。グリーン又はシアン用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、及び米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン、等が挙げられる。ブラック用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブラック1、C.I.ピグメント・ブラック6、C.I.ピグメント・ブラック7等が挙げられる。
【0054】
また、前記アゾ顔料として、下記一般式(3)で表される顔料及びその互変異性体が好適である。以下、下記一般式(3)で表されるアゾ顔料について説明する。
【0055】
【化9】

【0056】
前記一般式(3)で表される化合物は、その特異的な構造により分子間相互作用を形成しやすく、水又は有機溶媒等に対する溶解性が低く、アゾ顔料とすることができる。
顔料は、水や有機溶媒等に分子分散状態で溶解させて使用する染料とは異なり、溶媒中に分子集合体等の固体粒子として微細に分散させて用いられる。
【0057】
一般式(3)中、Zは5〜8員の含窒素ヘテロ環に由来する2価の基を表し、Y、Y、R11、及びR12は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、G及びGは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、W及びWはそれぞれ独立にアルコキシ基、アミノ基、アルキル基又はアリール基を表す。
【0058】
一般式(3)において、Zは5〜8員の含窒素ヘテロ環に由来する2価の基を表す。好ましい含窒素ヘテロ環を、置換位置を限定せずに例示すると、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアジアゾール環、チオフェン環、フラン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピリダン環である。より好ましくは、6員含窒素ヘテロ環であり、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、s−トリアジン環が挙げられる。Zとして特に好ましくは、ピリミジン環に由来する2価の基である。
Zが6員含窒素ヘテロ環の場合、色素分子の分子内、分子間作用が、水素結合性、分子の平面性の点からもより向上しやすい点で好ましい。
尚、Zで表される5〜8員の含窒素ヘテロ環に由来する2価の基は、さらに縮環していてもよい。
【0059】
及びYが置換基を表す場合の例としては、ハロゲン原子、アルキル基(直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基であり、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えば、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基等のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す)、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が例として挙げられる。
及びYとして特に好ましくは、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基)、アリール基(例えば、フェニル基)、ヘテロ環基(例えば2−ピリジル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基)であり、更に好ましくは水素原子、メチル基、フェニル基、メチルチオ基であり、その中でも水素原子が最も好ましい。尚、Y及びYは同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
一般式(3)において、R11及びR12は水素原子又は置換基を表す。R11及びR12が置換基を表す場合の基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、2−メチルスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル)、炭素数7〜18の直鎖又は分岐鎖アラルキル基(例えば、ベンジル)、炭素数2〜12の直鎖又は分岐鎖アルケニル基(例えば、ビニル)、炭素数2〜12の直鎖又は分岐鎖アルキニル基(例えば、エチニル)、炭素数3〜12の直鎖又は分岐鎖シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル)、炭素数3〜12の直鎖又は分岐鎖シクロアルケニル基(例えば、シクロペンテニル)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル)、ヘテロ環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メチルスルホニルエトキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルボニルフェノキシ、3−メトキシカルボニルフェニルオキシ、アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド)、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ)、アリールアミノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ)、ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ)、アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、アルキルスルホニルアミノ基及びアリールスルホニルアミノ基(例えば、メチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、p−トルエンスルホニルアミノ)、カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル)、スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、スルホニル基(例えば、メチルスルホニル、オクチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−トルエンスルホニル)、アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル)、ヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ)、シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ)、スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル)、ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル)、イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノ基及び4級アンモニウム基)が挙げられる。
【0061】
一般式(3)において、好ましいR11及びR12は、置換もしくは無置換の総炭素数1〜8のアシルアミノ基、置換もしくは無置換の総炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6〜18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4〜12のヘテロ環基であり、より好ましくは、総炭素数1〜8の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であり、更にメチル基又はt−ブチル基が好ましく、その中でも特にt−ブチル基が最も好ましい。
11及びR12を総炭素数の少ない(例えば、炭素数1〜4)直鎖アルキル基又は分岐アルキル基にすることで、よりすぐれた色相、着色力、画像堅牢性を達成できる。
尚、R11及びR12は同一であっても異なっていてもよい。
【0062】
及びGは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、特に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロプロピル基、ベンジル基、2−フェネチル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、プロパルギル基、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基が好ましく、更に水素原子、メチル基、フェニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基が好ましく、その中でもメチル基、2−ピリジル基、2,6−ピリミジニル基、2,5−ピラジニル基が好ましい。
またG及びGがアルキル基を表す場合、総炭素数5以下のアルキル基であることが好ましく、総炭素数3以下のアルキル基であることがより好ましく、メチル基が最も好ましい。尚、G及びGは同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
一般式(3)において、W及びWはアルコキシ基、アミノ基、アルキル基又はアリール基を表す。
及びWで表されるアルコキシ基としては、好ましくは、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルコキシ基が好ましく、特に炭素数1から5の置換もしくは無置換のアルコキシ基が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等が挙げられる。
【0064】
及びWで表されるアミノ基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロ環アミノ基を含み、好ましくは、アミノ基、炭素数1から30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアニリノ基が挙げられ、その中でもアミノ基、炭素数1から8の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から18の置換もしくは無置換のアニリノ基が好ましく、更にアミノ基、炭素数1から4の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から12の置換もしくは無置換のアニリノ基が好ましく、例えば、アミノ基(−NH)、メチルアミノ基(−NHCH)、ジメチルアミノ基{−N(CH}、アニリノ基(−NHPh)、N−メチル−アニリノ基{−N(CH)Ph}、ジフェニルアミノ基{−N(Ph)}等が挙げられる。
【0065】
及びWで表されるアルキル基としては、それぞれ独立に直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基が挙げられ、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。
具体的には、アルキル基としては、好ましくは、炭素数1から30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、エイコシル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基、2―エチルヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、好ましくは、炭素数3から30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等が挙げられる。ビシクロアルキル基としては、好ましくは、炭素数5から30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5から30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基、例えば、ビシクロ[1.2.2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン−3−イル基等が挙げられる。
【0066】
及びWで表されるアリール基としては、好ましくは、炭素数6から30の置換もしくは無置換のアリール基が挙げられ、その中でも、炭素数6から18の置換もしくは無置換のアリール基が好ましく、更に炭素数6から12の置換もしくは無置換のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基等が挙げられる。
【0067】
その中でも好ましいW及びWは、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基)、アミノ基(例えば、−NH基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロプロピル基)又はアリール基(例えば、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基)が好ましく、その中でもアルコシキ基、アミノ基、フェニル基又はアルキル基が好ましく、更にアルコキシ基、アミノ基が好ましい。
より好ましくは、総炭素数5以下のアルコキシ基、アミノ基(−NH基)、総炭素数5以下のアルキルアミノ基であり、W及びWが総炭素数5以下のアルコキシ基、アミノ基、総炭素数5以下のアルキルアミノ基の場合、色素分子が分子内及び分子間の少なくとも一方で水素結合を強固に形成しやすくなり、良好な色相、高い堅牢性(例えば、耐光、耐ガス、耐熱、耐水、耐薬品等)の点で好ましい。
色相、光堅牢性、耐溶剤性の点から特に好ましくは、総炭素数3以下のアルコキシ基、アミノ基(−NH基)、総炭素数3以下のアルキルアミノ基であり、その中でも特にメトキシ基(−OCH基)又はエトキシ基(−OC基)が好ましく、良好な色相と光堅牢性向上の点からメトキシ基が特に好ましい。
尚、W及びWは同一であっても異なっていてもよい。
【0068】
本発明において、Z、Y、Y、R11、R12、G、G、W、及びWが、更に置換基を有する場合の置換基としては、下記の置換基を挙げることができる。
例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が例として挙げられる。
【0069】
本発明におけるアゾ顔料は、一般式(3)で表されるアゾ顔料の互変異性体もその範囲に含むものである。一般式(3)は、化学構造上取りうる数種の互変異性体の中から極限構造式の形で示しているが、記載された構造以外の互変異性体であってもよく、複数の互変異性体を含有した混合物として用いてもよい。
例えば、一般式(3)で表されるアゾ顔料には、下記一般式(3’)で表されるアゾ−ヒドラゾンの互変異性体が考えられる。
本発明は、一般式(3)で表されるアゾ顔料の互変異性体である以下の一般式(3’)で表される化合物もその範囲に含むものである。
【0070】
【化10】

【0071】
一般式(3’)中、R11、R12、W、W、Y、Y、G、G及びZは、一般式(3)中のR11、R12、W、W、Y、Y、G、G及びZとそれぞれ同義である。
【0072】
尚、前記一般式(3)で表される化合物の好ましい置換基の組み合わせについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0073】
本発明の一般式(3)で表されるアゾ顔料として特に好ましい組み合わせは、以下の(イ)〜(ホ)の少なくとも1つを含むものである。
【0074】
(イ)W及びWはそれぞれ独立に、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基)、アミノ基(例えば、−NH基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロプロピル基)又はアリール基(例えば、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基)が好ましく、その中でもアルコシキ基、アミノ基又はアルキル基が好ましく、アルコキシ基、アミノ基がより好ましく、さらに好ましくは、総炭素数5以下のアルコキシ基、アミノ基(−NH基)、総炭素数5以下のアルキルアミノ基であり、特に好ましくは、総炭素数3以下のアルコキシ基、アミノ基(−NH基)、総炭素数3以下のアルキルアミノ基であり、その中でも特にメトキシ基(−OCH基)が最も好ましい。
【0075】
(ロ)R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基(例えば、置換もしくは無置換の総炭素数1〜8のアシルアミノ基、置換もしくは無置換の総炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の総炭素数6〜18のアリール基、又は置換もしくは無置換の総炭素数4〜12のヘテロ環基)が好ましく、より好ましくは、総炭素数1〜8の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であり、更にメチル基、i−プロピル基又はtert−ブチル基が好ましく、その中でも特にtert−ブチル基が最も好ましい。
【0076】
(ハ)Zは、5〜8員の含窒素ヘテロ環基に由来する2価の基を表し、それらは更に縮環していてもよい。Zにおける含窒素ヘテロ環としては、5又は6員の置換もしくは無置換の含窒素ヘテロ環、例えば、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアジアゾール環、チオフェン環、フラン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピリダジン環が好ましく、特に好ましくは、炭素数3から10の6員含窒素ヘテロ環基である。更に好ましいヘテロ環の例は、ピリジン環、ピリミジン環、s−トリアジン環、ピリダジン環、ピラジン環であり、より好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、s−トリアジン環、ピリダジン環、ピラジン環であり、更に好ましくは、ピリミジン環、s−トリアジン環であり、その中でも特にピリミジン環が最も好ましい。
【0077】
(ニ)G及びGはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、特に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、シクロプロピル基、ベンジル基、2−フェネチル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、プロパルギル基、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基が好ましく、更に水素原子、メチル基、フェニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基が好ましく、その中でもメチル基、2−ピリジル基、2,6−ピリミジニル基、2,5−ピラジニル基が好ましい。
またG及びGで表されるアルキル基としては、総炭素数5以下のアルキル基がより好ましく、総炭素数3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0078】
(ホ)Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基)、アリール基(例えば、フェニル基)、ヘテロ環基(例えば2−ピリジル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基)であり、好ましくは水素原子、メチル基、フェニル基、メチルチオ基であり、その中でも水素原子が特に好ましい。
【0079】
本発明における上記一般式(3)で表されるアゾ顔料のうち、好ましくは下記一般式(4)で表されるアゾ顔料である。
【0080】
【化11】

【0081】
上記一般式(4)中のG、G、R11、R12、W、W、Y及びYは、上記一般式(3)中のG、G、R11、R12、W、W、Y及びYとそれぞれ同義である。
11、X12は、それぞれ独立に上記一般式(3)中のZで表される含窒素ヘテロ環化合物に由来する2価の基(Het.)中のヘテロ原子を表す。
【0082】
本発明において、上記一般式(3)で表されるアゾ顔料においては多数の互変異性体が考えられる。
また、本発明において、一般式(3)で表されるアゾ顔料は、分子内水素結合又は分子内交叉水素結合を形成する置換基を有することが好ましい。本発明における一般式(3)で表されるアゾ顔料は、少なくとも1個以上の分子内交叉水素結合を形成する置換基を有することが好ましく、少なくとも3個以上の分子内水素結合を形成する置換基を有することがより好ましく、少なくとも3個以上の分子内水素結合を形成する置換基を有し、且つ、それらの水素結合の少なくとも2個が分子内交叉水素結合を形成する置換基を有する場合が特に好ましい。
【0083】
一般式(3)で表されるアゾ顔料のうち、前述したように特に好ましいアゾ顔料の一般式の例としては、上記一般式(4)で表されるアゾ顔料を挙げることができる。
この構造が好ましい要因としては、一般式(4)で示すようにアゾ顔料構造に含有するヘテロ環を構成する窒素原子、水素原子及びヘテロ原子(アゾ基又はその互変異性体であるヒドラゾン基の窒素原子とカルボニル基の酸素原子又はアミノ基の窒素原子)が少なくとも1個以上の分子内の交叉水素結合(分子内水素結合)を容易に形成し易いことが挙げられる。
これらの構造が好ましい要因としては、上記一般式(4)で示すように、アゾ顔料が含有するヘテロ環基を構成する窒素原子、アミノ基の水素原子及びヘテロ原子(例えば、アゾ基又はその互変異性体であるヒドラゾン基の窒素原子、カルボニル基の酸素原子又はアミノ基の窒素原子)が少なくとも4個以上の分子内水素結合を容易に形成し易く、且つ、少なくとも2個以上の分子内の交叉水素結合を容易に形成し易いことが挙げられる。
その結果、分子の平面性が上がり、更に分子内・分子間相互作用が向上し、例えば一般式(4)で表されるアゾ顔料の結晶性が高くなり(高次構造を形成し易くなり)、顔料としての要求性能である、光堅牢性、熱安定性、湿熱安定性、耐水性、耐ガス性及び又は耐溶剤性が大幅に向上するため、最も好ましい例となる。
【0084】
また、本発明におけるアゾ顔料においては、一般式(3)で表される化合物中に同位元素(例えば、H、H、13C、15N)を含有していてもよい。
【0085】
以下に前記一般式(3)で表されるアゾ顔料の具体例(例示化合物Pig.−1〜Pig.−48)を示す。但し、本発明においては、これらの例に限定されるものではない。また、以下の具体例の構造は化学構造上取りうる数種の互変異性体の中から極限構造式の形で示されているが、記載された構造以外の互変異性体構造のものであってもよいことは言うまでもない。
【0086】
【化12】

【0087】
【化13】

【0088】
【化14】

【0089】
【化15】

【0090】
本発明における一般式(3)で表されるアゾ顔料は、化学構造式が一般式(3)又はその互変異性体であればよく、その結晶形態についても特に制限はない。例えば、多形(結晶多形)とも呼ばれるいかなる結晶形態の顔料であってもよい。
【0091】
結晶多形は、同じ化学組成を有するが、結晶中におけるビルディングブロック(分子又はイオン)の配置が異なる結晶のことを言う。結晶多形においては、その結晶構造によって化学的及び物理的性質が決定され、各結晶多形は、レオロジー、色相、及び他の色特性によってそれぞれ区別することができる。また、異なる結晶多形は、X-Ray Diffraction(粉末X線回折測定結果)やX-Ray Analysis(X線結晶構造解析結果)によって確認することもできる。
本発明における一般式(3)で表されるアゾ顔料に結晶多形が存在する場合、その結晶型はどの多形であってもよく、また2種以上の多形の混合物であってもよいが、結晶型が単一のものを主成分とすることが好ましい。すなわち結晶多形の混入が少ないものが好ましく、単一の結晶型を有するアゾ顔料の含有量はアゾ顔料全体に対し70%〜100%、好ましくは80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、更に好ましくは95%〜100、特に好ましくは100%である。
【0092】
単一の結晶型を有するアゾ顔料を主成分とすることで、色素分子の配列に対して規則性が向上し、分子内・分子間相互作用が強まり高次な3次元ネットワークを形成しやすくなる。その結果として色相の向上・光堅牢性・熱堅牢性・湿度堅牢性・酸化性ガス堅牢性及び耐溶剤性等、顔料に要求される性能の点で好ましい。
アゾ顔料における結晶多形の混合比は、単結晶X線結晶構造解析、粉末X線回折(XRD)、結晶の顕微鏡写真(TEM)、IR(KBr法)等の固体の物理化学的測定値から確認できる。
【0093】
本発明において、一般式(3)で表されるアゾ顔料が酸基を有する場合には、酸基の一部あるいは全部が塩型のものであってもよく、塩型の顔料と遊離酸型の顔料が混在していてもよい。上記の塩型の例としてNa、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩が挙げられる。有機アミンの例として、低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換低級アルキルアミン、カルボキシ置換低級アルキルアミン及び炭素数2〜4のアルキレンイミン単位を2〜10個有するポリアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
【0094】
更に、本発明で使用するアゾ顔料の構造において、その1分子中に酸基が複数含まれる場合は、その複数の酸基は、それぞれ独立に塩型あるいは酸型であり、互いに異なるものであってもよい。
【0095】
本発明において、前記一般式(3)で表されるアゾ顔料は、結晶中に水分子を含む水和物であってもよく、また結晶中に含まれる水分子の数にも特に制限はない。
【0096】
次に上記一般式(3)で表されるアゾ顔料の製造方法の一例について説明する。例えば、下記一般式(A)で表されるヘテロ環アミンを酸性条件でジアゾニウム化し、下記一般式(B)で表される化合物とカップリング反応を行い、常法による後処理を行って上記一般式(3)で表されるアゾ顔料を製造することができる。
【0097】
【化16】

【0098】
一般式(A)及び(B)中、Wは一般式(3)におけるW及びWと同義であり、Gは一般式(3)におけるG及びGと同義であり、R11、R12、及びZは一般式(3)におけるR11、R12、及びZとそれぞれ同義である。
【0099】
上記一般式(A)で表されるヘテロ環アミンは、一般的には公知慣用の方法、例えば、Helv.Chim.Acta,41,1958,1052〜1056やHelv.Chim.Acta,42,1959,349〜352等に記載の方法、及び、それに準じた方法で製造することができる。
また、上記一般式(B)で表される化合物は、国際公開第06/082669号や特開2006−57076号公報に記載の方法、及び、それに準じた方法で製造することができる。
【0100】
上記一般式(A)で表されるヘテロ環アミンのジアゾニウム化反応は、例えば、硫酸、リン酸、酢酸、塩酸、メタンスルホン酸などの酸性溶媒中、亜硝酸ナトリウム、ニトロシル硫酸、亜硝酸イソアミル等の試薬を15℃以下の温度で10分〜6時間程度反応させることで行うことができる。
カップリング反応は、上述の方法で得られたジアゾニウム塩と上記一般式(B)で表される化合物とを40℃以下、好ましくは、25℃以下で10分〜12時間程度反応させることで行うことができる。
【0101】
このようにして反応させたものは、結晶が析出している場合もあるが、一般的には、反応液に水、あるいはアルコール系溶媒を添加し、結晶を析出させ、結晶を濾取することができる。また、反応液にアルコール系溶媒、水等を添加して結晶を析出させて、析出した結晶を濾取することができる。濾取した結晶を必要に応じて洗浄・乾燥して、一般式(3)で表されるアゾ顔料を得ることができる。
【0102】
上記の製造方法によって、上記一般式(3)で表されるアゾ顔料は粗アゾ顔料(クルード)として得られるが、本発明の顔料として用いる場合、後処理を行うことが望ましい。この後処理の方法としては、例えば、ソルベントソルトミリング、ソルトミリング、ドライミリング、ソルベントミリング、アシッドペースティング等の磨砕処理、溶媒加熱処理などによる顔料粒子制御工程、樹脂、界面活性剤及び分散剤等による表面処理工程が挙げられる。
【0103】
本発明の一般式(3)で表されるアゾ顔料は後処理として溶媒加熱処理及び/又はソルベントソルトミリングを行うことが好ましい。
溶媒加熱処理に使用される溶媒としては、例えば、水、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の極性非プロトン性有機溶媒、氷酢酸、ピリジン、又はこれらの混合物等が挙げられる。上記で挙げた溶媒に、さらに無機又は有機の酸又は塩基を加えてもよい。溶媒加熱処理の温度は所望する顔料の一次粒子径の大きさによって異なるが、40〜150℃が好ましく、60〜100℃がさらに好ましい。また、処理時間は、30分〜24時間が好ましい。
【0104】
ソルベントソルトミリングとしては、例えば、粗アゾ顔料と、無機塩と、それを溶解しない有機溶剤とを混練機に仕込み、その中で混練磨砕を行うことが挙げられる。上記無機塩としては、水溶性無機塩が好適に使用でき、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を用いることが好ましい。また、平均粒子径0.5〜50μmの無機塩を用いることがより好ましい。当該無機塩の使用量は、粗アゾ顔料に対して3〜20質量倍とするのが好ましく、5〜15質量倍とするのがより好ましい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好適に使用できるが、混練時の温度上昇により溶剤が蒸発し易い状態になるため、安全性の点から高沸点溶剤が好ましい。
【0105】
このような水溶性有機溶剤としては、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2ー(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール又はこれらの混合物が挙げられる。当該水溶性有機溶剤の使用量は、粗アゾ顔料に対して0.1〜5質量倍が好ましい。混練温度は、20〜130℃が好ましく、40〜110℃が特に好ましい。混練機としては、例えばニーダーやミックスマーラー等が使用できる。
【0106】
また、有機顔料の平均粒子径は、透明性・色再現性の観点からは小さい方がよいが、耐光性の観点からは大きい方が好ましい。これらの両立には、前記平均粒子径は10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜120nmがさらに好ましい。また、有機顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ有機顔料を2種以上混合して使用してもよい。
【0107】
顔料の含有量としては、インク組成物の全質量に対して、1〜25質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%が更に好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0108】
(分散剤)
本発明のインク組成物は、分散剤の少なくとも1種を含有することができる。前記顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0109】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、顔料を水溶媒に安定に分散させることができる。低分子の界面活性剤型分散剤は、分子量2,000以下の低分子分散剤である。また、低分子の界面活性剤型分散剤の分子量は、100〜2,000が好ましく、200〜2,000がより好ましい。
【0110】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基とは、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基とを連結するための連結基も適宜有することができる。
【0111】
前記親水性基は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等である。前記アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであればいずれでもよいが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。前記カチオン性基は、プラスの荷電を有するものであればいずれでもよいが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンのカチオン性基であることがより好ましい。また、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることがさらに好ましい。前記ノニオン性基は、ポリエチレンオキシドやポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0112】
前記親水性基は、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0113】
また、低分子の界面活性剤型分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、pKaが3以上であることが好ましい。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaは、テトラヒドロフラン−水(3:2=V/V)溶液に低分子の界面活性剤型分散剤1mmol/Lを溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaが3以上であると、理論上pH3程度の液と接したときにアニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子の界面活性剤型分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。かかる観点からも、低分子の界面活性剤型分散剤は、アニオン性基としてカルボン酸基を有する場合が好ましい。
【0114】
前記疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等の構造を有しており、特に炭化水素系であることが好ましい。また、疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また、疎水性基は、1本鎖状構造又はこれ以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0115】
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0116】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
【0117】
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0118】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸のホモポリマーや、他の親水基を有するモノマーとの共重合体などのように、カルボキシル基が導入された水溶性分散剤が親水性高分子化合物として好ましい。
【0119】
ポリマー分散剤のうち、非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0120】
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、更に好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0121】
ポリマー分散剤は、自己分散性、及び処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が100mgKOH/g以下のポリマーであることが好ましく、25〜100mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましい。特に本発明のインク組成物をインク組成物中の成分を凝集させる処理液(詳細は後述)と組み合わせて用いる場合には、カルボキシル基を有し、かつ酸価が25〜100mgKOH/gのポリマー分散剤が有効である。
【0122】
顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0123】
本発明において顔料に代えて染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを用いることができる。染料としては公知の染料を特に制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料を本発明においても好適に用いることができる。また、担体としては、水に不溶または水に難溶であれば特に制限なく、無機材料、有機材料及びこれらの複合材料を用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体を本発明においても好適に用いることができる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
【0124】
本発明においては、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。また、顔料は、凝集性の観点から、カルボキシル基を有するポリマー分散剤に被覆され、水不溶性であることが好ましい。
【0125】
分散状態での顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
ここで、分散状態での顔料の平均粒子径は、インク化した状態での平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
【0126】
なお、分散状態での顔料の平均粒子径及び、ポリマー粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0127】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0128】
(ポリマー粒子)
本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子を含有することができる。ポリマー粒子としては、自己分散ポリマー粒子が好ましい。以下では、好ましいポリマー粒子として、自己分散性ポリマー粒子を一例に挙げて詳述する。
【0129】
−自己分散性ポリマー粒子−
本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子として、自己分散性ポリマー粒子の少なくとも一種を含有することが好ましい。この自己分散性ポリマーは、後述の処理液又はこれを乾燥させた領域と接触した際に分散不安定化して凝集しインクを増粘させることによりインク組成物を固定化する機能を有し、インク組成物の記録媒体への定着性及び画像の耐擦過性をより向上させることができる。また、自己分散性ポリマーは、吐出安定性及び前記顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点からも好ましい樹脂粒子である。
【0130】
自己分散性ポリマーの粒子とは、界面活性剤の不存在下、分散状態(特に転相乳化法による分散状態)としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
【0131】
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0132】
自己分散性ポリマーの乳化又は分散状態、すなわち自己分散性ポリマーの水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、自己分散性ポリマーを溶媒(例えば、親水性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性ポリマーが有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0133】
自己分散性ポリマーの粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0134】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0135】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0136】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0137】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0138】
自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0139】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
本発明において前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0140】
本発明における親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。
解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0141】
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0142】
本発明における自己分散性ポリマーの酸価としては、処理液が接触したときの凝集性が良好である観点から、150以下mgKOH/g以下が好ましい。更には、該酸価は、25〜100mgKOH/gがより好ましく、30〜70mgKOH/gが更に好ましい。自己分散性ポリマーの酸価が25以上であると、自己分散性の安定性が良好になる。
【0143】
本発明における自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性と処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜150mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が30〜100mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましい。
【0144】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0145】
本発明における芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0146】
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0147】
本発明における自己分散性ポリマーは、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
本発明においては、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0148】
本発明における自己分散性ポリマーは、例えば、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0149】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリルエステル系モノマー;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマーが挙げられる。
【0150】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0151】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.35質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0152】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0153】
以下に、自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例(例示化合物B−01〜B−19)を挙げる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。なお、括弧内は、共重合成分の質量比を表す。
【0154】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0155】
本発明における自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行ない、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0156】
本発明における自己分散性ポリマーは、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が25〜50であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明における自己分散性ポリマー粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0157】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0158】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0159】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。
アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
【0160】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。本発明の自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0161】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0162】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0163】
ポリマー粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で1nm〜70nmの範囲が好ましく、2〜60nmの範囲がより好ましく、2〜30nmの範囲が更に好ましい。体積平均粒子径は、2nm以上であると製造適性が向上し、70nm以下であると局所ブロッキング耐性が向上する。
また、自己分散性ポリマーの粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、自己分散性ポリマーの粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0164】
また、自己分散性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であると局所ブロッキング耐性が向上する。ガラス転移温度(Tg)の上限については特に制限はない。
【0165】
自己分散性ポリマーの粒子は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。自己分散性ポリマーの粒子のインク組成物中における含有量としては、凝集速度や画像の光沢性などの観点から、インク組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
【0166】
また、インク組成物中の顔料と自己分散性ポリマーの粒子との含有比率(例えば、水不溶性顔料粒子/自己分散性ポリマーの粒子)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10であることが好ましく、1/1〜1/4であることがより好ましい。
【0167】
以上、好ましいポリマー粒子の例として自己分散性ポリマーの粒子を例に挙げて説明したが、自己分散性のポリマー粒子に限定されず他のポリマー粒子を用いることができる。例えば、一般的に知られている乳化重合ラテックスなどのポリマー粒子も、その構成モノマー、乳化剤、及び分散条件等を調整することにより好適に使用可能である。
【0168】
(開始剤)
本発明におけるインク組成物は、後述の処理液に含有すると共にあるいは含有せずに、活性エネルギー線により前記重合性化合物の重合を開始する開始剤の少なくとも1種を含有することができる。開始剤は、1種単独で又は2種以上を混合して、あるいは増感剤と併用して使用することができる。
【0169】
開始剤は、活性エネルギー線により重合反応を開始し得る化合物を適宜選択して含有することができ、例えば、放射線もしくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する開始剤(例えば、光重合開始剤等)を用いることができる。
【0170】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾイルフォーメートが挙げられる。更に、例えばトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等の、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタロセン化合物等が挙げられる。
【0171】
開始剤を含有する場合、インク組成物中における開始剤の含有量としては、重合性化合物に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。開始剤の含有量は、1質量%以上であると画像の耐擦過性がより向上し、高速記録に有利であり、40質量%以下であると吐出安定性の点で有利である。
【0172】
前記増感剤としては、アミン系(脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジンなど)、尿素(アリル系、o−トリルチオ尿素など)、イオウ化合物(ナトリウムジエチルジチオホスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩など)、ニトリル系化合物(N,N,ジ置換p−アミノベンゾニトリルなど)、リン化合物(トリn−ブチルホスフィン、ネトリウムジエチルジチオホスフィードなど)、窒素化合物(ミヒラーケトン、N−ニトリソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ1,3オキサジン化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドとジアミンの縮合物など)、塩素化合物(四塩化炭素、ヘキサクロロエタンなど)、エポキシ樹脂とアミンの反応生成物の高分子化アミン、トリエタノールアミントリアクリレート、等が挙げられる。
増感剤は、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0173】
(水)
インク組成物は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0174】
(その他の添加剤)
本発明におけるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、重合禁止剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物の場合はインクに直接添加し、また、油性染料を分散物として用いる場合は染料分散物の調製後に分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0175】
前記紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させることができる。紫外線吸収剤としては、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載のベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載のベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載の桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載のトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載の化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される、紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0176】
前記褪色防止剤は、画像の保存性を向上させることができる。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤が挙げられる。有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類等が挙げられ、金属錯体系の褪色防止剤としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。より具体的には、リサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載の化合物や、特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載の代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を用いることができる。
【0177】
前記防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。防黴剤の含有量は、インク組成物に対して0.02〜1.00質量%の範囲が好ましい。
【0178】
前記pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は、インク組成物の保存安定性を向上させることができる。pH調整剤は、インク組成物のpHが6〜10となるように添加するのが好ましく、pHが7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0179】
前記表面張力調整剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤等が挙げられる。表面張力調整剤の添加量は、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲が好ましく、20〜45mN/mに調整できる範囲がより好ましく、25〜40mN/mに調整できる範囲が更に好ましい。添加量が前記範囲内であると、インクジェット法で良好に打滴することができる。
【0180】
前記界面活性剤の具体例としては、炭化水素系では、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社製)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシド等のアミンオキシド型の両性界面活性剤も好ましい。
更に、特開昭59−157636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)に界面活性剤として挙げられたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
【0181】
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等も使用可能である。
【0182】
<インクセット>
(処理液)
本発明のインク組成物は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液と合わせてインクセットとして構成することができる。前記処理液は、既述のインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を少なくとも含むが、必要に応じて、さらに他の成分を用いて構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0183】
凝集剤としては、インク組成物のpHを変化させることができる化合物であっても、多価金属塩であっても、ポリアリルアミン類などの4級もしくは3級アミンを有するポリマーであってもよい。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。
【0184】
インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、酸性物質を挙げることができる。
酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。
酸性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0185】
本発明における処理液が酸性物質を含む場合、処理液のpH(25℃)は、6以下が好ましく、より好ましくはpHは4以下である。中でも、pH(25℃)は1〜4の範囲が好ましく、特に好ましくは、pHは1〜3である。このとき、前記インク組成物のpH(25℃)は、7.5以上(より好ましくは8.0以上)であることが好ましい。
中でも、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、インク組成物のpH(25℃)が8.0以上であって、処理液のpH(25℃)が0.5〜4である場合が好ましい。
【0186】
中でも、本発明における凝集剤としては、水溶性の高い酸性物質が好ましく、凝集性を高め、インク全体を固定化させる点で、有機酸が好ましく、2価以上の有機酸がより好ましく、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。前記2価以上の有機酸としては、その第1pKaが3.5以下の有機酸が好ましく、より好ましくは3.0以下の有機酸である。具体的には、例えば、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
【0187】
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0188】
凝集剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
インク組成物を凝集させる凝集剤の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜45質量%であり、更に好ましくは5〜40質量%の範囲である。
【0189】
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0190】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、既述の本発明のインクセットを用いたものであり、顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比を1/10≦B/A≦2/3としたインク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを設けて構成されたものである。本発明の画像形成方法は、必要に応じて、更に他の工程を設けて構成することができる。
【0191】
本発明のポリマー粒子を用いる態様によれば、インク画像を形成するためのインク組成物に顔料と共にポリマー粒子と重合硬化可能な水溶性の重合性化合物とを含有することで、処理液と接触した際に顔料及び/又はポリマー粒子の凝集反応で画像が固定化されると共に、顔料の粒子間にはポリマー粒子が存在し、固定化された画像中のこれら粒子間に重合性化合物が取り込まれた状態で重合硬化されるので、最終画像の強度を高めることができる。まず処理液を用いてインク組成物中の成分を高速凝集させ、インク間の混合(滲みや色間混色など)を防いで高速記録できる高速記録適性と、高速記録したときの色相及び画像描画性(画像中の細線や微細部分等の再現性)の向上効果を持たせつつ、凝集状態を形成している顔料粒子とポリマー粒子の隙間に重合性化合物が適度に入り込んで存在する状態を作り、この状態で入り込んだ重合性化合物を重合硬化するので、画像強度の向上が可能になり、高速記録適性と画像の耐擦過性の向上とを両立することができる。
特に、顔料が記録媒体の表面に残存しやすい塗工紙に画像記録する場合により効果的である。
【0192】
以下、本発明の画像形成方法を構成する各工程を説明する。
−インク付与工程−
インク付与工程は、顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比を1/10≦B/A≦2/3としたインク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。なお、インク組成物の詳細及び好ましい態様などインク組成物の詳細については、インク組成物に関する説明で既述した通りである。
【0193】
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行なえる。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0194】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0195】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0196】
インクジェット記録方法の具体例を以下に示す。
インクジェット記録方法として、(1)静電吸引方式とよばれる方法がある。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、又はインク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。また、(2)小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法がある。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。次に、(3)インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法(ピエゾ)、(4)印刷信号情報にしたがって微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射し、記録媒体上に画像を記録する方法(バブルジェット(登録商標))がある。
【0197】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0198】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1〜10pl(ピコリットル)が好ましく、1.5〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる液適量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に使用できる。
【0199】
−処理液付与工程−
処理液付与工程は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中の顔料及びポリマー粒子をはじめとする分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液は凝集剤を少なくとも含有してなり、各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0200】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0201】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の顔料及び/又は自己分散性ポリマーの粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0202】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.2〜0.7g/mとなる量が好ましい。凝集剤は、付与量が0.1g/m以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集剤の付与量が0.7g/m以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
【0203】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0204】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0205】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明の画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0206】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0207】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明の画像形成方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【0208】
―インクジェット記録装置―
次に、本発明の画像形成方法を実施するのに好適なインクジェット記録装置の一例を図1を参照して具体的に説明する。図1は、インクジェット記録装置全体の構成例を示す概略構成図である。
【0209】
図1に示すように、インクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された処理液を乾燥させる加熱手段(不図示)を備えた処理液乾燥ゾーン13と、各種インク組成物を吐出するインク吐出部14と、吐出されたインク組成物を乾燥させるインク乾燥ゾーン15とが配設されている。また、記録媒体の搬送方向におけるインク乾燥ゾーン15の下流側には、紫外線照射ランプ16Sを備えた紫外線照射部16が配設されている。
【0210】
このインクジェット記録装置に供給された記録媒体は、記録媒体が装填されたケースから記録媒体を給紙する給紙部から、搬送ローラによって、処理液付与部12、処理液乾燥ゾーン13、インク吐出部14、インク乾燥ゾーン15、紫外線照射部16と順に送られて集積部に集積される。搬送は、搬送ローラによる方法のほか、ドラム状部材を用いたドラム搬送方式やベルト搬送方式、ステージを用いたステージ搬送方式などを採用してもよい。
【0211】
複数配置された搬送ローラのうち、少なくとも1つのローラはモータ(不図示)の動力が伝達された駆動ローラとすることができる。モータで回転する駆動ローラを定速回転することにより、記録媒体は所定の方向に所定の搬送量で搬送されるようになっている。
【0212】
処理液付与部12には、処理液を貯留する貯留タンクに繋がる処理液吐出用ヘッド12Sが設けられている。処理液吐出用ヘッド12Sは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから処理液を吐出し、記録媒体の上に処理液を液滴付与できるようになっている。なお、処理液付与部12は、ノズル状のヘッドから吐出する方式に限らず、塗布ローラを用いた塗布方式を採用することもできる。この塗布方式は、下流側に配置されたインク吐出部14で記録媒体上にインク滴が着弾する画像領域を含むほぼ全面に処理液を容易に付与することができる。記録媒体上の処理液の厚みを一定にするために、例えば、エアナイフを用いたり、あるいは尖鋭な角を有する部材を、処理液の規定量に対応するギャップを記録媒体との間に設けて設置する等の方法を設けてもよい。
【0213】
処理液付与部12の記録媒体搬送方向の下流側には、処理液乾燥ゾーン13が配置されている。処理液乾燥ゾーン13は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段を用いて構成することができる。加熱手段は、記録媒体の遮断層形成面と反対側(例えば、記録媒体を自動搬送する場合は記録媒体を載せて搬送する搬送機構の下方)にヒータ等の発熱体を設置する方法や、記録媒体の遮断層形成面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0214】
また、記録媒体の種類(材質、厚み等)や環境温度等によって、記録媒体の表面温度は変化するため、記録媒体の表面温度を計測する計測部と該計測部で計測された記録媒体の表面温度の値を加熱制御部にフィードバックする制御機構を設けて温度制御しながら遮断層を形成することが好ましい。記録媒体の表面温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
また、溶媒除去ローラー等を用いて溶媒除去を行なってもよい。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を記録媒体から取り除く方式も用いられる。
【0215】
インク吐出部14は、処理液乾燥ゾーン13の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク吐出部14には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクを貯留するインク貯留部の各々と繋がる記録用ヘッド(インク吐出用ヘッド)30K、30C、30M、30Yが配置されている。不図示の各インク貯留部には、各色相に対応する顔料と樹脂粒子と水溶性有機溶剤と水とを含有するインク組成物が貯留されており、画像の記録に際して必要に応じて各インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yに供給されるようになっている。また、インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、及び30Yの搬送方向下流側には、図1に示すように、必要に応じて特色インクを吐出可能なように、特色インク吐出用の記録ヘッド30A、30Bを更に配設することもできる。
【0216】
インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから、それぞれ画像に対応するインクを吐出する。これにより、記録媒体の記録面上に各色インクが付与され、カラー画像が記録される。
【0217】
処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bはいずれも、記録媒体上に記録される画像の最大記録幅(最大記録幅)にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたフルラインヘッドとなっている。記録媒体の幅方向(記録媒体搬送面において搬送方向と直交する方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行なうシリアル型のものに比べて、記録媒体に高速に画像記録を行なうことができる。本発明においては、シリアル型での記録、又は比較的高速記録が可能な方式、例えば1回の走査で1ラインを形成するシングルパスで主走査方向に吐出して記録できる方式での記録のいずれを採用してもよいが、本発明の画像記録方法によればシングルパスによる方式でも再現性の高い高品位の画像が得られる。
【0218】
ここでは、処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bは、全て同一構造になっている。
【0219】
処理液の付与量とインク組成物の付与量とは、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、処理液とインク組成物とが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、処理液の付与量を変えてもよい。
【0220】
インク乾燥ゾーン15は、インク吐出部14の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク乾燥ゾーン15は、処理液乾燥ゾーン13と同様に構成することができる。
【0221】
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の記録媒体搬送方向のさらに下流側に配置されており、紫外線照射部16に設けられた紫外線照射ランプ16Sにより紫外線を照射し、画像乾燥後の画像中のモノマー成分を重合硬化させるようになっている。紫外線照射ランプ16Sは、記録媒体の記録面と対向配置されたランプにより記録面の全体を照射し、画像全体の硬化が行なえるようになっている。なお、紫外線照射部16は、紫外線照射ランプ16Sに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の前後のいずれに設置されていてもよく、インク乾燥ゾーン15の前後両方に設置してもよい。
【0222】
また、インクジェット記録装置には、給紙部から集積部までの搬送路に、記録媒体に加熱処理を施す加熱手段を配置することもできる。例えば、処理液乾燥ゾーン13の上流側や、インク吐出部14とインク乾燥ゾーン15との間、などの所望の位置に加熱手段を配置することで、記録媒体を所望の温度に昇温させることにより、乾燥、定着を効果的に行なうようにすることが可能である。
【実施例】
【0223】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0224】
[水性インクの調製]
《インク1(シアンインク)の調製》
−ポリマー分散剤1溶液の調製−
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)4部、ブレンマーPP−500(日本油脂(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、及びメチルエチルケトン24部を加え、混合溶液を調液した。
【0225】
一方、滴下ロートに、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)9部、ブレンマーPP−500(日本油脂(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を加え、混合溶液を調液した。
【0226】
そして、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後これに、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤1溶液を得た。
【0227】
得られたポリマー分散剤1溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、高速GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)HLC−8220GPCにて、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製)を3本直列につなぎ、重量平均分子量を測定した。その結果、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で25,000であった。また、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ酸価は99mgKOH/gであった。
【0228】
−シアン分散液の調製−
次に、上記のポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料Pigment Blue 15:3(大日精化(株)製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L(リットル;以下同様)の水酸化ナトリウム8.0g 及びイオン交換水82.0gを、0.1mmジルコニアビーズ300gと共にベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス社製)で1000rpmで6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが充分に留去できるまで減圧濃縮し、さらに顔料濃度が10%になるまで濃縮して、水分散性顔料が分散したシアン分散液C1を調製した。
得られたシアン分散液C1の体積平均粒子径(二次粒子)を、Micorotrac粒度分布測定装置(Version 10.1.2−211BH(商品名)、日機装(株)製)で動的光散乱法により測定したところ、77nmであった。
【0229】
−自己分散性ポリマー粒子1の合成−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。その後、フラスコ内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、これに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g及びイソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸(=50/45/5[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体の上記ポリマー分散剤1と同様に測定した重量平均分子量(Mw)は、64,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であり、酸価は38.9mgKOH/gであった。
【0230】
次に、得られた樹脂溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0質量%の自己分散性ポリマー粒子1の水分散物を得た。
【0231】
−重合性化合物1の合成−
攪拌機を備えた1Lの三口フラスコに4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン40.0g(182mmol)、炭酸水素ナトリウム37.8g(450mmol)、水100g、テトラヒドロフラン300gを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド35.2g(389mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、室温で5時間攪拌した後、得られた反応混合物から減圧下でテトラヒドロフランを留去した。次に水層を酢酸エチル200mlで4回抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより目的の重合性化合物1の固体を35.0g(107mmol、収率59%)得た。
【0232】
上記のようにシアン分散液C1を調製した後、これに上記の自己分散性ポリマー粒子1の水分散物、上記の重合性化合物1、有機溶剤、界面活性剤、及びイオン交換水を用いることにより、下記組成になるようにインクを調製した。調製後、得られたインクを5μmフィルタを通して粗大粒子を除去し、シアンインクとした。
【0233】
<インク1の組成>
・シアン分散液C1 ・・・4.35質量%(固形分)
・自己分散性ポリマー粒子1の水分散物 ・・・2質量%
・重合性化合物1 ・・・11質量%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE(和光純薬工業(株)製)
・・・7.15質量%
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) ・・・1質量%
・開始剤(イルガキュア 2959(チバ・ジャパン社製))
・・・3質量%
・イオン交換水 ・・・残量(全量で100質量%となるよう加えた)
【0234】
【化17】

【0235】
−インク2〜15の調製−
インク1と同様にして、表1に示した組成(単位は質量%)でインク2〜15を作成した。インク12は前記<<インク1の調整>>において、顔料をPR−122(Pigment Red122)に代えてマゼンタ分散液M1を調整したこと以外は同様にして調整した。なお、各組成において、イオン交換水は全量で100質量%となるように、他の構成成分の残量を加えた。
【0236】
また、表1において、水溶性溶剤の詳細は以下の通りである。括弧内の右の数字は各溶剤SP値である。
DEGmEE(ジエチレングリコールモノエチルエーテル、11.0)
TPGmME(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、9.4)
DEG(ジエチレングリコール、14.5)
サンニックスGP250(三洋化成工業(株)製;親水性有機溶剤、10.6)
1,2ヘキサンジオール(13.4)
【0237】
【表1】

【0238】
【化18】

【0239】
重合性化合物2、重合性化合物3は、前記重合性化合物1に準じて合成することができる。
【0240】
[水性処理液の調製]
以下に示すようにして、処理液を調製した。
(処理液1の調製)
下記組成の成分を混合して、処理液1を調製した。処理液1の粘度、表面張力、及びpH(25℃)は、粘度2.5mPa・s、表面張力40mN/m、pH1.0であった。表面張力は協和界面科学(株)製 全自動表面張力計CBVP−Zを用いて測定し、粘度はブルックフィールドエンジニアリング社製、DV-III Ultra CPを用いて測定した。pHは、東亜ディーケーケー(株)製PHメーター HM−30Rを用いて測定した。
<処理液1の組成>
・マロン酸(和光純薬(株)製)・・・25質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬(株)製)・・・20.0質量%
・エマルゲンP109(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤)・・・1.0質量%
・イオン交換水 ・・・54質量%
【0241】
(処理液2の調製)
下記組成の成分を混合して、処理液2を調製した。処理液2の上記処理液1と同様に測定した粘度、表面張力、及びpH(25℃)は、各々粘度2.5mPa・s、表面張力40mN/m、pH1.0であった。
<処理液2の組成>
・マロン酸(和光純薬(株)製)・・・25質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬(株)製)・・・20.0質量%
・エマルゲンP109(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤)・・・1.0質量%
・イルガキュア 2959・・・1.0質量%
(チバ・ジャパン社製;光重合開始剤)
・イオン交換水 ・・・53質量%
【0242】
[画像記録及び評価]
上記で得られたインク、水性処理液を下記表2に示す組み合わせで用い、下記のようにして画像を記録し、記録された画像に対して、下記の方法で放置回復性、硬化性、耐ブロッキング性を評価した。評価結果は下記表2に示す。
【0243】
《画像記録》
まず、図1に示すように、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、水性処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された水性処理液を乾燥させる処理液乾燥ゾーン13と、各種水性インクを吐出するインク吐出部14と、吐出された水性インクを乾燥させるインク乾燥ゾーン15と、紫外線(UV)を照射可能なUV照射ランプ16Sを備えたUV照射部16とが配設されたインクジェット装置を準備した。
処理液乾燥ゾーン13は、図示しないが、記録媒体の記録面側には乾燥風を送って乾燥を行なう送風器を備え、記録媒体の非記録面側には赤外線ヒータを備えており、処理液付与部で処理液の付与を開始した後900msecが経過するまでに、温度・風量を調節して水性処理液中の水の70質量%以上を蒸発(乾燥)できるように構成されている。また、インク吐出部14は、搬送方向(矢印方向)にブラックインク吐出用ヘッド30K、シアンインク吐出用ヘッド30C、マゼンタインク吐出用ヘッド30M、及びイエローインク吐出用ヘッド30Yが順次配置されており、各ヘッドは1200dpi/10inch幅フルラインヘッド(駆動周波数:25kHz、記録媒体の搬送速度530mm/sec)であり、各色をシングルパスで主走査方向に吐出して記録できるようになっている。
【0244】
図1に示すように構成されたインクジェット装置の処理液吐出用ヘッド12S、シアンインク吐出用ヘッド30Cにそれぞれ繋がる貯留タンク(不図示)に、上記で得た処理液、インクを装填して、記録媒体にベタ画像及び1200dpiのライン画像を記録した。水性処理液の記録媒体への付与量は、5ml/mとした。記録媒体には、日本製紙(株)製の「ユーライト」(坪量84.9g/m)を用いた。
画像の記録に際し、水性処理液及びシアンインクは、解像度1200dpi×600dpi、インク滴量3.5plにて吐出した。このとき、ライン画像は、1200dpiの幅1ドットのライン、幅2ドットのライン、幅4ドットのラインをシングルパスで主走査方向に吐出して記録し、ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面にインクを吐出してベタ画像とした。
画像の記録はまず、記録媒体上に処理液吐出用ヘッド12Sから処理液をシングルパスで吐出した後、処理液の乾燥は処理液乾燥ゾーン13で行ない、処理液乾燥ゾーンを水性処理液の吐出開始から900msec迄に通過するようにした。処理液乾燥ゾーン13では、着滴した水性処理液を着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで膜面温度が40〜45℃となるように加熱しながら、送風器により記録面に120℃の温風をあて、風量を変えて所定の乾燥量になるように調整した。続いて、シアンインク吐出用ヘッド30Cにより、シアンインクをシングルパスで吐出して画像を記録した後、インク乾燥ゾーン15で前記同様にインク着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで加熱しながら、送風器により120℃、5m/secの温風を記録面に15秒間あてて乾燥させた。画像乾燥後、UV照射部16において、UV光(アイグラフィックス(株)製 メタルハライドランプ 最大照射波長 365nm)を積算照射量3J/cmになるように照射して画像を硬化した。なお、マゼンタインク(インク12)については、マゼンタインク吐出用ヘッド30Mに繋がる貯留タンク(不図示)に装填した以外は上記シアンインクと同様に画像を形成した。
【0245】
《評価》
−1.放置回復性(インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合の吐出安定性)−
上記のようにしてA5サイズのユーライト上に、幅1ドットのラインを1ノズルおきに出力し、出力後のヘッドをそのままの状態にして所定時間放置した後、再度A5サイズのユーラート上に、幅1ドットのラインを1ノズルおきに出力した。放置時間を変えて画像出力を繰り返し、放置前後の出力ラインの印字状況を比較し、放置後の出力本数が、放置前の出力本数の30%以上が出力しなくなる放置時間を調べた評価した。
<評価基準>
1:放置前の出力本数の30%以上が出力しなくなる放置時間が60分以上。
2:放置前の出力本数の30%以上が出力しなくなる放置時間が30分以上60分未満
3:放置前の出力本数の30%以上が出力しなくなる放置時間が20分以上30分未満
4:放置前の出力本数の30%以上が出力しなくなる放置時間が10分以上20分未満
5:放置前の出力本数の30%以上が出力しなくなる放置時間が10分未満
※1〜3が実用に問題がない範囲である。
−2.耐ブロッキング性−
全面にベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを25℃、50%RHの環境下に72時間放置し、放置後の2枚のサンプルのベタ画像表面同士を重ね合わせて1kg/cmの加重をかけて、80℃30%環境に16hr放置した。その後、25℃、50%RHの環境下に戻し、24時間放置した後、サンプルをはがし、その画像表面を目視で観察し、書きの評価基準に従って評価した。
<評価基準>
1:画像表面にダメージが見られない。
2:表面の光沢が変化している。
3:画像の一部がスポット状に破壊している。
4:画像の10%以上が破壊している。
※1〜2が実用に問題がない範囲である。
【0246】
−3.硬化性−
全面にベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを25℃、50%RHの環境下に72時間放置し、放置後のサンプルのベタ画像表面を、記録していないユーライト(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦った。その後、未使用サンプルとベタ画像を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
1:未使用サンプルへの色の付着がなく、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
2:未使用サンプルには色が付着したが、擦られたベタ画像の劣化は認められなかった。
3:未使用サンプルには色が付着し、擦られたベタ画像の一部が劣化した。
4:未使用サンプルには色が多く付着し、擦られたベタ画像の大部分が劣化した。
5:擦られたベタ画像が脱落し、紙面(ユーライト)が露出した。
※1〜3が実用に問題がない範囲である。
【0247】
【表2】

【0248】
前記表2に示すように、実施例では、インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合の吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られ、さらに、画像の硬化性、耐ブロッキング性においても優れた画像が得られた。これに対し、比較例では、いずれの評価においても十分な効果を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0249】
12・・・処理液付与部
12S・・・処理液吐出用ヘッド
13・・・処理液乾燥ゾーン
14・・・インク吐出部
15・・・インク乾燥ゾーン
16・・・紫外線照射部
16S・・・紫外線照射ランプ
30K,30C,30M,30Y・・・インク吐出用ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、
前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比が、
1/10≦B/A≦2/3
であること
を特徴とするインク組成物。
【請求項2】
前記重合性化合物(A)のSP値が9〜11.5(cal/cm0.5の範囲にあること特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記重合性化合物(A)が下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【化1】


一般式(1)中、Qはn価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。
【請求項4】
前記水溶性溶剤(B)のSP値が9〜13.5(cal/cm0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記顔料は、その表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記ポリマー分散剤がカルボキシル基を有することを特徴とする請求項5に記載のインク組成物
【請求項7】
前記ポリマー分散剤は、酸価が100mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項5又は請求項6のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液と、を含むインクセット。
【請求項9】
前記凝集剤が有機酸であることを特徴とする請求項8に記載のインクセット。
【請求項10】
前記インク組成物及び前記処理液の少なくとも一方が、更に、活性エネルギー線により前記重合性化合物の重合を開始する開始剤を含むことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のインクセット。
【請求項11】
顔料、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(A)、水溶性溶剤(B)、及び水を含み、前記重合性化合物(A)と水溶性溶剤(B)との質量比が、1/10≦B/A≦2/3であるインク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与するインク付与工程と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを有する画像形成方法。
【請求項12】
前記記録媒体が、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙であることを特徴とする請求項11に記載の画像形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−174013(P2011−174013A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40504(P2010−40504)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】