インク貯留機構およびインク供給システム
【課題】 インクを直接収納する形態のインク容器(サブインクタンク)内に発生した気泡を除去する構成として電源ON時のみ気泡を除去する技術が知られるが、インクジェット記録装置の保管時や長期間の不使用時など、電源OFF状態での長期放置する場合については対処できない。
【解決手段】 インク容器(サブインクタンク)に気液分離部材を配し、気液分離部材を介してインク容器に対して常時負圧を作用させるように機能する負圧源を連結することで、常時負圧をインク容器に対して作用させ、インクジェット記録装置の電源ON・OFFとは無関係に、長期放置時でもインク容器(サブインクタンク)内の気泡除去する。
【解決手段】 インク容器(サブインクタンク)に気液分離部材を配し、気液分離部材を介してインク容器に対して常時負圧を作用させるように機能する負圧源を連結することで、常時負圧をインク容器に対して作用させ、インクジェット記録装置の電源ON・OFFとは無関係に、長期放置時でもインク容器(サブインクタンク)内の気泡除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吐出口から液体を吐出して記録媒体上に文字や画像を形成するインクジェット記録ヘッドに対してメインタンクから供給されたインクを貯留するインク貯留部を備えたインク貯留機構およびメインタンクからインクジェット記録ヘッドにインクを供給するインク供給システムに関する。特に、インク貯留部に発生する気泡を排出する機構を備えたインク貯留機構及びインク供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、一般にインクタンクから記録ヘッドまでインク供給路を通じてインクが供給される。
【0003】
インクタンクやインク供給路には、これらの構成材料の特性から空気が材料を透過し、気泡が発生することが避けられない。さらに、環境変動によってインク中の溶存空気が気泡として生じることもある。毛管材などの吸収部材でインクを保持せず、内部に直接インクを貯留し、大気連通しない密閉したインクタンクは容積効率が高く、インク適性が広い反面、内部に気泡が発生した場合、種々の弊害が発生する。
【0004】
例えば、気泡の膨張によってインクタンク内の圧力を負圧に維持できなくなった場合、インクが記録ヘッドのインク吐出口から漏洩してしまうため、インクタンクの容積は気泡の発生と膨張を考慮して余裕を持たせる必要があり、大型化することになる。また、インク供給路に設けたフィルターに気泡がトラップされてインク供給路が閉塞されるとインク供給不良が生じるため定期的に気泡を抜く必要がある。さらに、フィルターを通過して記録ヘッドまで到達した気泡がある場合には、インクを吐出できないなどの印字不良が生じることになり、インク吐出口側から吸引して気泡を抜く必要がある。
【0005】
例えば、キャリッジ外にインク供給源(メインインクタンクあるいはメインタンクとも称する)を備えキャリッジ上のサブインクタンク(インク貯留部とも称する)をインク供給経路によって流体的に結合させてインクを補充する方式のインクジェット記録装置がある。このようなインクジェット記録装置では、サブインクタンク内に気泡が存在するとインク補充量が減少することになり、この場合も定期的な気泡除去が必要になる。このような気泡の発生に対し、従来はサブインクタンク内の気泡を許容するため、サブインクタンクの容積として貯留インク量より大きい容積を確保していた。
【0006】
以上に述べた課題を解決するため、これまでサブインクタンクに発生した気泡を除去するいくつかの提案がなされている。例えば、インク供給路内に発生した気泡をインク中から分離浮上させ、ポンプによる吸引動作によってインクとともに排出する技術が知られている(特許文献1)。
【0007】
また、別の従来技術として、サブインクタンク内の気体の量が所定の量以上であることを電極により検知して、サブインクタンクを大気開放し、インクの補充供給によって気体を外部へ排出することが知られている(特許文献2)。
【0008】
また、別の従来技術として、キャリッジ外に設けたインク供給源からサブインクタンク内へインクの補充供給を終了した段階で、インク供給源の位置を下げる技術がある。これによりサブインクタンク内の負圧より大きい水頭差を発生させて、サブインクタンクからインク供給源にインクを泡とともに逆流させ、サブインクタンクの負圧力を適切な範囲に設定する技術が開示されている(特許文献3)。
【0009】
さらにその他の従来技術として、サブインクタンクにインクを補充供給するためのチューブの一部を気液分離部材で構成し、チューブ周囲を減圧することでチューブ内のインク中の空気を排出する技術が開示されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2005−161770号公報
【特許文献2】特開2005−59491号公報
【特許文献3】特開平10−244686号公報
【特許文献4】特開2003−159810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
サブインクタンク内の気泡を除去する課題に対し、特許文献1に開示された技術では、気泡の排出にともなう無駄なインク消費が避けらず、ランニングコストが高くなる可能性がある。また、排出されたインクを吸収保持するための吸収部材が必要となり、インクジェット記録装置の小型化に不利である。また、特許文献2に開示された技術では、電極で気体量を検知するためのある一定の空間を確保する必要があり、サブインクタンクの小型化には適さず、容積効率の向上は望めない。また、特許文献3に開示された技術では、インク供給源に気泡を溜めるための容積が必要であり、インク供給源の大型化を招く。さらに、インク供給源を昇降させる機構が必要であり、インクジェット記録装置の大型化やコストアップを招く。また、特許文献4に開示された技術では、気液分離部材によりインクを浪費することはないものの、インクジェット記録装置が駆動している時だけ気泡の除去が可能であり、限られた作動条件下での気泡除去しかできない。
【0011】
このように、従来技術は個別の課題があるものの、これらの技術はすべて、インクジェット記録装置が駆動している状態、すなわち電源ON時のみ気泡を除去する技術である。そのため、インクジェット記録装置の保管時や長期間の不使用時など、電源OFF状態で長期放置する場合については対処できない。
【0012】
したがって、これらの従来技術では、サブインクタンク中に発生する気泡を許容することになり、サブインクタンクの容積を大きくせざるをえず、サブインクタンクの小型化を実現し難い。また、サブインクタンクの容積を大きくすることは、インクとの接触面が大きくなるため、構成材料のインク接液適性の影響が大きくなり材料選択範囲が制限される。また、インク容器重量の増大といった観点からも好ましくない。
【0013】
本発明は、以上の課題を改善し、インクジェット記録装置の電源ON・OFFとは無関係に、長期放置時でもサブインクタンク内の気泡除去が可能であるインク貯留機構およびインク供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明にかかるインク貯留機構は、インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部を備えたインク貯留機構において、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路とを備えていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるインク供給システムは、インクタンクからインクジェット記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給システムにおいて、
前記インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部と、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、
該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路と、
前記負圧源の内容積を減少する方向に変位させる変位機構と、
前記インク貯留部に対して補充されるインクを貯留するメインタンクと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留するインク貯留部に気液分離部材を配し、該気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する負圧源を連結路によって連結する構成を採用したことにより、インクジェット記録装置の動作時のみならず、電源OFF時や長期保管時などのプリンタの非動作時であっても、負圧源の負圧が気液分離部材を介してインク貯留部に対して常時作用している。そのため、インク貯留部内に気泡が発生した場合には、その気泡は気液分離部材を介して気泡はインク貯留部外部へ常に排出できる。その結果、インク貯留部内には気泡が溜まらず、長期放置時にインク貯留部内で気泡が膨張する事態がなくなり、インクジェット記録ヘッドのインク吐出口(ノズル)からインク漏れが生じる不具合を防止することができるインク貯留機構およびインク供給システムを提供できる。
【0017】
また、従来気泡が溜まった段階で気泡を排出するための動作を行なっていたが、負圧蓄積部が負圧を保持している限り常時気泡を排出しているため、特別な気泡抜き動作が不要となり、プリンタの動作シーケンスの自由度が増す。
【0018】
また、不必要にインク貯留部を大型化することがなくなりインク貯留部の容積効率を向上できる。さらには、インク貯留部に従来考慮していた気泡体積の分だけ容積が小さくなるため、可撓性シートのストロークが小さくなり、繰り返し変形に対する耐久設計の自由度が向上する。また、ストロークが小さくなることで、インク貯留部のより安定した負圧設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例1)
本発明が適用されるインクジェット記録装置の概略構成例について図1を参照して説明する。
【0020】
本発明が適用されるインクジェット記録装置は、記録ヘッド(不図示)とサブインクタンク(インク貯留部)103とを走査キャリッジ119上に搭載し、メインタンクとしてのインク供給源125はキャリッジ119外に備える構成を採用している。そして、メインタンク125のインクを所定の場所まで導くインク供給路124と、導かれたインクをサブインクタンク103に供給するため、サブインクタンク103と連結されるジョイント部122を備えている。キャリッジ119をホームポジションあるいは所定の位置に移動させ、サブインクタンク103とインク供給源125とをジョイント部122を介して必要に応じて一時的に流体結合させインクを補充供給する構成となっている。このような供給形態を便宜的に間欠インク供給方式のインクジェット記録装置と称して説明する。なお、図2は間欠インク供給方式を構成する要素を取り出して示した概略構成図である。
【0021】
図1に示すように、キャリッジ119上には紙送りローラ120によって搬送される記録媒体123に記録を行うインクジェット式の記録ヘッド(不図示:図2中101参照)が搭載されている。このキャリッジ119は、モータ126に連結された駆動ベルトの動作に応じてガイド軸121に沿って往復移動される。また、記録ヘッドにはインクを貯留し保持する負圧を発生する小型のインク容器103が一体的に搭載され、インクジェット記録ヘッド129を形成している。なお、インク容器103の片面は内容積が変形可能な可撓性フィルム(可撓性シートとも称する)(図2中109a参照)で構成され、内部に負圧を発生させるための弾性材としてのばね部材(不図示:図2中111a参照)が備えられている。また、消費したインクをインク容器103に補充供給するためのインク供給源125がインクジェット記録装置の前面側に配置されている。
【0022】
次に、このインクジェット記録装置の間欠インク供給動作について図2、図3を参照して以下説明する。インク供給源125、インク供給路、インクジェット記録ヘッド129にかかる概略構成を図1に示す。
【0023】
印字によって減少したインク容器103内のインク量が所定量以下に達した時、キャリッジ119はインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションへ移動して停止する。ここで、インク供給ユニット124のジョイント部122がインクジェット記録ヘッド129に設けられたインク補充口(不図示:図2中符合112参照)と連結される。一方、図2、図3に示されるとおり、第1負圧源としての吸引ポンプ115がポンプ流路114を介してインクジェット記録ヘッド129の空気排出口113と連結する。空気排出口113にはポンプ流路114が接続され吸引ポンプ115が動作することで開放する一方向に機能する弁体が配されている。そして、インク容器103を構成するばね部材によって発生される負圧が利用されて、インク供給源125からインク供給ユニット124を通り、インク容器103へとインク補充がなされる。このような間欠インク供給方式は、キャリッジ上に記録ヘッドと小型のインク容器のみが支持されているため、キャリッジを大幅に小型化・軽量化でき、記録装置全体の小型化が可能となる。
【0024】
次に、本発明が適用されたインク貯留機構が付設されたインクジェット記録ヘッド129の実施態様例を模式的な断面図として示した図3に基きその構成について説明する。ここで、本発明のインクジェット記録ヘッド129は複数色のインク(例示的にはシアン、マゼンタ、イエローなど)毎に記録装置上に搭載可能であるが、図3では簡略化のため、一色分のインクジェット記録ヘッド129を取り上げて示す。
【0025】
図3に示されるように、本実施例のインクジェット記録ヘッド129は、インクジェット記録装置内に配置されたインク供給源125から導入されたインクを貯留するインク容器103と、このインク容器103から供給されたインクを吐出するための記録ヘッド101を備えている。このインク容器103は、インクを貯留するインク貯留空間部104と、インク貯留部104に溜まった気泡108を外部に排出するための通路としての空気排出路105と、インク貯留空間部104と空気排出路105との境界に配置される気液分離部材106とを有している。気液分離部材106は例えば撥水・撥油処理が施されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の多孔質膜などを用いることができる。また、この気液分離部材106は熱溶着によりインクジェット記録ヘッド129の枠体を構成する筐体107に固定されている。インク貯留部104は筐体107と、柔軟に変形可能な可撓性フィルム109から成り、内容積が可変である。この可撓性フィルム109は、インク消費または補充にともなって繰り返し変形する。また、インク貯留部104は、記録ヘッド101にインクを供給するためのインク供給口102と、インク供給源125からインク貯留部104内にインクを補充するためのインク補充口112とを有している。さらに、インク貯留部104内にはばね111などの弾性材料が配置され、このばね111によりインク吐出口でメニスカスを保持するための適切な負圧を発生させている。
【0026】
一方、インク貯留部104内に溜まった気泡108を外部へ排出するための空気排出路105がインク貯留空間部104に対面する位置に設けられており、弁を有する空気排出口113と連通している。この弁は、吸引ポンプ115と連通したポンプ流路114の先端の連結部が連結する空気排出口113の被連結部に配されており、吸引ポンプ115が連結されて減圧された時のみ開放する一方向弁である。
【0027】
また、空気排出路105に連通する第2負圧源としての負圧蓄積部130が、キャリッジ上でインク容器103と一体的に設けられている。この負圧蓄積部130は、インク貯留部104と同様に、筐体107の片面が柔軟に変形可能な可撓性フィルム109bで構成されている。ここでは、負圧蓄積部130で負圧を発生させるために、ばね111bなどの弾性材料を用いている。
【0028】
なお、本発明の負圧蓄積部130はインクと接液することが無いため、構成材料のインク接液適性を考慮する必要がなく、材料や構造の選択範囲が広い。したがって、本発明における負圧蓄積部は図1に示す構造に限定されず、ベローズ構造のような拡張変形によって負圧を発生する構造体(図4(a))や、内部にばねなどの弾性部材を有するピストン構造によって負圧を発生する構造体(図4(b))で置き換え可能である。
【0029】
次に、インク貯留空間部104内に溜まった気体で構成された気泡108を外部へ排出する動作について説明する。なお、気液分離部材106は、インク容器103内に存在する気体が到達する個所に配置されている。気泡108が気液分離部材106部分に集まりやすいようにインク容器103内が構成されていることは好ましい。
【0030】
非記録時、記録ヘッド101は外部のインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションに待機している(図3(a))。このとき、インク容器内に発生した気泡108を除去するため、ホームポジションで吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の先端部の連結部と空気排出口113の端部の被連結部とを接続し、空気排出路105に負圧の付与を開始する(図3(b))。この時、気泡108が気液分離部材106と接触していると、気泡108とインクが分離されて、気泡108のみが空気排出路105を通って外部へ排出される。一方、負圧蓄積部130に対しても負圧が作用して負圧蓄積部130が収縮変形して負圧力を蓄える(図3(c))。その後、所定の時間経過後に吸引ポンプ115による減圧を停止し、ポンプ流路114を空気排出口113から切り離す(図3(d))。
【0031】
以上の動作を行なうことにより、負圧蓄積部130がインク容器に対して負圧源として作用することになり、吸引ポンプ115駆動による減圧動作が無くても、空気排出路105には常時、負圧蓄積部130によって負圧が付与され続けることになる。その結果、インク貯留空間部104に生じた気泡108は、気液分離部材106に接触すると空気排出路105へと排出されるため、インク貯留部104内には気泡108が蓄積しなくなる。
【0032】
以上の構成により、インクジェット記録装置の印字時や待機時などの動作時のみならず、インクジェット記録装置の非動作時(例えば電源が切られたまま長期間放置された時)に気泡が発生しても、インクを浪費することなくインク容器内の気泡を常時除去することが可能である。よって、気泡の膨張収縮による圧力変動がないため、印字不良やノズルからのインク漏れのない信頼性の高いインク供給システムおよびインクジェット記録装置を提供することができる。また、常時気泡を排出しているため、特別な気泡抜き動作が不要となり、プリンタの動作シーケンスの自由度が増す。また、インク貯留空間部104は気泡が溜まる分を見越した容量を確保する必要がなく、インクタンクの容積効率を大幅に向上させることができる。さらに、本発明は気液分離部材を介して気泡を除去するため、気泡の排出終了を自動的に検知でき、特別な終了検知センサーを必要としない。
【0033】
また、本発明のその他の効果として、インク貯留部に従来考慮していた気泡体積の分だけ容積が小さくなるため、可撓性フィルムのストロークが小さくなり、繰り返し変形に対する耐久性の設計自由度が向上する。また、ストロークが小さくなることで、インク貯留部のより安定した負圧設計が可能となる。さらに、可撓性フィルムの材料選択において、耐久性を向上させるため、フィルム材質の硬さの柔らかいものが適用可能となり、材料選択範囲が広がる。一般的にフィルム材質が柔らかい場合、気体透過性が高くなる傾向があるが、本発明によれば、可撓性フィルム越しに進入した気泡を常に除去できるため、材料選択を考える場合、気体透過性の影響を軽減できる。
【0034】
また、キャリッジ動作時に負圧蓄積部に対して吸引ポンプを接離するため、キャリッジの動作負荷を増すことなく、インク貯留部内の気泡除去が達成できる。
【0035】
ところで、以上では負圧蓄積部130に対して吸引ポンプ115を間欠的に連結して負圧を生起させるような構成例を説明した。しかし、例えば図5に示されるように負圧蓄積部130側の可撓性フィルム109bを必要に応じて外部から機械的に押圧するような押圧機構116によって負圧蓄積部130のばね111bを変形させ、内部から空気を排出して負圧を発現するような構成としてもよい。この場合の負圧蓄積部130には、内部から外部への空気の移動を許容する一方向弁113aを設け、さらに空気排出路から内部への空気の移動を許容する一方向弁113bが設けられている。もちろん機械的な押圧機構116に限られず、可撓性フィルム109bを外側からカバーで覆い、カバーと可撓性フィルム109bとの間を加圧ポンプなどで加圧して負圧蓄積部130に負圧を発現させることも可能であり、負圧蓄積部130が負圧を発生することができる構成であれば上記に限られない。もちろん負圧蓄積部130の構造自体は図4(a)や図4(b)で置き換え可能である。
【0036】
なお、本実施例では、本発明を間欠インク供給方式の記録装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、メインインクタンクとサブインクタンクとをチューブによって常時連結してインクを供給する連続インク供給形態のインクジェット記録装置の場合においても、気液分離部材を有するインク容器であれば適用可能である。例えば、その構成例を図6に示す。図6に示されるとおり、吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の先端部の連結部と空気排出口113の端部の被連結部とが常に接続されており、且つインク供給路もインク補充口112と常に連結した構成とされている。このように吸引ポンプを常時連結した場合、吸引ポンプの配置自由度を向上できる。
【0037】
また、メインインクタンクをキャリッジ上に搭載したオンキャリッジ方式のインクジェット記録装置であっても気液分離部材を有するインク容器であれば適用可能である。
【0038】
また、気液分離部材106は図2、図3に示すように垂直方向に配置した場合について説明しているが、気泡108の浮力を活かして、気液分離部材106に気泡108を接触させやすくするため、気液分離部材106をインク容器103の上面に水平配置してもよい。
【0039】
また、記録ヘッド101が複数色のインク容器103を搭載した場合、それぞれのインク容器103の空気排出路105が互いに連通して共通通路を構成し、各々のインク容器103に対応して負圧蓄積部130を設けた構成(図7(a))においても本発明は適用可能である。この場合には、負圧蓄積部130が複数あるため、ある負圧蓄積部130の負圧が無くなった場合でも、他の負圧蓄積部130が共通通路によって他のインク容器130に連通されているため補うことができる。あるいは各々のインク容器に共通のひとつの負圧蓄積部を設けた構成(図7(b))においても本発明は適用可能である。この場合には、複数のインク容器に対し、ひとつの負圧蓄積部が共通通路によって各インク容器と連通しているため、気泡の除去を行うことができ、インクの色数が増えても、大型化することはない。また、インク容器103の空気排出路105が互いに連通せず、独立した流路構成(図7(c))においても本発明は適用可能である。この場合には、気液分離部材106を介して空気排出路105に生じたインク蒸気が混ざることがないため、互いのインク蒸気が反応するような場合において好適である。
【0040】
上述で説明したインク供給方式(間欠インク供給方式、連続インク供給方式)や負圧蓄積部130の構造、あるいは負圧蓄積部130に負圧を発生させるための構成は以下説明する各実施例においても適用できることは言うまでもなく、適用にあたり適宜必要な変形を加えることが可能であることは言うまでもない。
【0041】
(実施例2)
図8に本発明に係る第二の実施例の記録ヘッドカートリッジと排出ユニットの断面模式図を示す。
【0042】
本実施例において、インク容器103の構成は第一の実施例と同様である。一方、負圧蓄積部130は、第一の実施例とは異なり、インクジェット記録装置側に備わっている。
【0043】
この負圧蓄積部130は吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の途中に設けられて排出ユニット116を構成しており、この排出ユニット116はホームポジション付近に配置されている。また排出ユニット115はインク容器103の空気排出口113と接続可能であり、記録ヘッド101が非記録時などの待機中にホームポジションで常時接続されている。また、排出ユニット116に備えられた空気弁117は、排出ユニット116と空気排出口113が接続されているときのみ開放し、接続が解除されている時は閉じるように動作する。
【0044】
ここで、本実施例によるインク貯留空間部104内の気泡108を外部へ排出する動作について説明する。非記録時、記録ヘッド101は外部のインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションに待機している(図8(a))。この待機中に、排出ユニット115を空気排出口113に接続し、弁を開放して吸引ポンプによってインク容器103内の空気排出路105に負圧の付与を開始する(図8(b))。このとき、インク貯留空間部104の気泡108が気液分離部材106と接触していると、気泡108とインクが分離されて、気泡108のみが空気排出路105から排出されるとともに、負圧蓄積部130が収縮変形し始め、負圧力を蓄える(図8(c))。その後、所定の時間経過後に吸引ポンプ115による減圧を停止する。すると、非記録時はホームポジションで排出ユニット115が空気排出口113に接続しているため、吸引ポンプ115駆動による減圧動作が無くても、空気排出路105には常に負圧力が付与されることになる。その結果、たとえインク貯留空間部104に気泡108が発生しても、気液分離部材106に接触すると空気排出路105へと排出され、インク貯留部104内に気泡108が蓄積しなくなる。
【0045】
上述したように、本実施例によれば、第一の実施例と同様にインクジェット記録装置の非動作時であっても、インクを無駄に消費することなくインク容器内の気泡を常に除去することが可能となり、信頼性の高いインクジェット記録装置を提供することができる。また、インク貯留部内の気泡を許容する容積が必要ないため、インク容器の容積効率が向上し、容積の小型化が可能となる。さらに、負圧蓄積部がインクジェット記録装置側に設けられているため、第一の実施例に比べ、キャリッジ上に占める負圧蓄積部の全容積を小さくできる。その結果、印字時の記録ヘッドカートリッジの走行空間が小さくなり、インクジェット記録装置全体の小型化が可能となる。
【0046】
なお、本実施例においても、本発明を間欠インク供給方式の記録装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、チューブ供給方式やオンキャリッジ方式の記録装置の場合においても、気液分離部材を有するインク容器であれば適用可能である。
【0047】
また、図9(a)に示すように記録ヘッドカートリッジ129が複数色のインク容器103を搭載した場合、各々のインク容器103に対応した負圧蓄積部130を設け、各インク容器103の空気排出路105が互いに独立した流路構成においても本発明は適用可能である。この場合、気液分離部材106を介して空気排出路105に生じたインク蒸気が混ざることがないため、互いのインク蒸気が反応するような場合において好適である。また、図9(b)に示すように、それぞれのインク容器の空気排出路105が互いに連通して共通通路を構成し、これら空気排出路105に連通する負圧蓄積部130を設けた構成においても本発明は適用可能である。この場合、複数の空気排出路105を互いに共通通路によって連通させることで、複数のインク容器103に対し、ひとつの負圧蓄積部130で気泡を除去できる。
【0048】
なお、実施例1で説明したインク供給方式(間欠インク供給方式、連続インク供給方式)や負圧蓄積部130の構造、あるいは負圧蓄積部130に負圧を発生させるための構成は以上説明した実施例2においても適用できることは言うまでもなく、適用にあたり適宜必要な変形を加えることが可能であることは言うまでもない。
【0049】
(実施例3)
図10に本発明に係る第三の実施例の記録ヘッドカートリッジと排出ユニットが断面模式図を示す。
【0050】
本実施例においても、インク容器の構成は第一および第二の実施例と同様である。一方、負圧蓄積部130は、第二の実施例と同様に、インクジェット記録装置側に備わっている。
【0051】
すなわち、負圧蓄積部130は吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の途中に設けられて排出ユニット116を構成しており、この排出ユニット116はホームポジション付近に配置されている。
【0052】
また、排出ユニット116はインク容器103の空気排出口113と接続可能であり、ホームポジションでは常時接続されている。また、排出ユニット116に設けた空気弁117は、排出ユニット116と空気排出口113が接続されているときのみ開放するよう動作する。さらに、本実施例では排出ユニット116の流路途中に、負圧蓄積部130の内容積の変動に連動して動作する圧力調整弁118が備えられている。
【0053】
ここで、本実施例によるインク貯留部104の気泡108を外部へ排出する動作について説明する。非記録時、記録ヘッド101は外部のインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションに待機している(図10(a))。この待機中に、吸引ポンプ115に連通する排出ユニット116を空気排出口113に接続し、インク容器103内の空気排出路105に負圧の付与を開始する(図10(b))。この時、インク貯留部104の気泡108が気液分離部材306と接触していると、気泡108とインクが分離されて、気泡108のみが空気排出路105から排出されるとともに、負圧蓄積部130が収縮変形し始め、負圧力を蓄える(図10(c))。その後、所定の時間経過後に吸引ポンプ115による減圧を停止する。すると、吸引ポンプ115による減圧動作が無くても、空気排出路105には常に負圧力が付与され、気泡108除去が可能となる。
【0054】
一方、負圧蓄積部130内には、可撓性フィルム109の変形動作に連動して一軸上を移動可能な支持棒128が備えられている。この支持棒128の一端は可撓性フィルム109側に固定されており、もう一方の端部は圧力調整弁118に当接し、弁の開閉を制御できるように構成されている。
【0055】
以上の構成により、負圧蓄積部130の収縮が大きく負圧力が強い場合には、内部の支持棒128により圧力調整弁118が開き、大気と連通させることで負圧力を調整しインク透過耐圧より大きい負圧力が気液分離部材106に作用することを確実に防止することができる。したがって、過大な負圧力による気液分離部材106の変形やインク漏れなどの不具合を回避しながら、インク貯留空間部104内の気泡108を常時、外部へと排出でき、実施例2と同様の効果を得ることが出来る。
【0056】
なお、実施例1で説明したインク供給方式(間欠インク供給方式、連続インク供給方式)や負圧蓄積部130の構造、あるいは負圧蓄積部130に負圧を発生させるための構成は以上説明した実施例3においても適用できることは言うまでもなく、適用にあたり適宜必要な変形を加えることが可能であることは言うまでもない。
【0057】
なお、インク容器103の構成の他の構成例を図11に示す。インク容器103はブロー成型技術を利用して構成される容器であり、例えば特開平09−267483号公報に開示されるブロー成型技術を利用した構造体が適用される。そしてブロー成型された内側のインク容器の一部に気液分離膜108を配し、負圧蓄積部130を外側の筐体と連結することでインク容器に負圧が作用され、インク容器内の気泡が排出できる。このような構成を含め、インク容器側で負圧を発生させられるような構造であれば間欠インク供給方式に適用できる。
【0058】
なお、連続インク供給式の場合にはインク容器側に負圧発生源を備えている必要性はなく、水頭差によってヘッドに対する負圧を発生させるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る間欠インク供給方式が採用されたインクジェット記録装置を示す概略斜視図である。
【図2】間欠インク供給方式の構成を概略的に示す構成図である。
【図3】(a)ないし(d)は本発明の第1の実施形態に係るインク供給システムを模式的に示す断面図であり、(a)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結される前の状態、(b)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結された状態、(c)は吸引ポンプが動作した状態、(d)は吸引ポンプの動作後に連結を解除した状態を夫々示す。
【図4】(a)、(b)は本発明に係る負圧蓄積部の構成例を示す模式図であり、(a)はベローズ構造で構成されている場合のインクジェット記録ヘッドを模式的に示す断面図、(b)はピストン構造で構成されている場合のインクジェット記録ヘッドを模式的に示す断面図である。
【図5】負圧蓄積部に対して負圧を押圧機構によって蓄積させる構成例を示す概略図である。
【図6】連続インク供給方式の構成を概略的に示す構成図である。
【図7】(a)ないし(c)は本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドが複数組み合わせられた構成を模式的に示す断面図である。
【図8】(a)ないし(c)は本発明の第2の実施形態に係るインク供給システムを模式的に示す断面図であり、(a)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結される前の状態、(b)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結された状態、(c)は吸引ポンプが動作した状態を夫々示す。
【図9】(a)ないし(b)は本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドが複数組み合わせられた構成を模式的に示す断面図である。
【図10】(a)ないし(c)は本発明の第3の実施形態に係るインク供給システムを模式的に示す断面図であり、(a)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結される前の状態、(b)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結された状態、(c)は吸引ポンプが動作した状態を夫々示す。
【図11】インク容器の他の構成例を概略的に示す構成図である。
【符号の説明】
【0060】
103 インク容器(サブインクタンク、インク貯留部)
105 空気排出路(通路)
106 気液分離部材
107 筐体
108 気泡
109 可撓性フィルム
111 ばね(弾性材)
113 空気排出口
115 吸引ポンプ(第1負圧源)
125 インク供給源(メインインクタンク)
130 負圧蓄積部(第2負圧源)
【技術分野】
【0001】
本発明は吐出口から液体を吐出して記録媒体上に文字や画像を形成するインクジェット記録ヘッドに対してメインタンクから供給されたインクを貯留するインク貯留部を備えたインク貯留機構およびメインタンクからインクジェット記録ヘッドにインクを供給するインク供給システムに関する。特に、インク貯留部に発生する気泡を排出する機構を備えたインク貯留機構及びインク供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、一般にインクタンクから記録ヘッドまでインク供給路を通じてインクが供給される。
【0003】
インクタンクやインク供給路には、これらの構成材料の特性から空気が材料を透過し、気泡が発生することが避けられない。さらに、環境変動によってインク中の溶存空気が気泡として生じることもある。毛管材などの吸収部材でインクを保持せず、内部に直接インクを貯留し、大気連通しない密閉したインクタンクは容積効率が高く、インク適性が広い反面、内部に気泡が発生した場合、種々の弊害が発生する。
【0004】
例えば、気泡の膨張によってインクタンク内の圧力を負圧に維持できなくなった場合、インクが記録ヘッドのインク吐出口から漏洩してしまうため、インクタンクの容積は気泡の発生と膨張を考慮して余裕を持たせる必要があり、大型化することになる。また、インク供給路に設けたフィルターに気泡がトラップされてインク供給路が閉塞されるとインク供給不良が生じるため定期的に気泡を抜く必要がある。さらに、フィルターを通過して記録ヘッドまで到達した気泡がある場合には、インクを吐出できないなどの印字不良が生じることになり、インク吐出口側から吸引して気泡を抜く必要がある。
【0005】
例えば、キャリッジ外にインク供給源(メインインクタンクあるいはメインタンクとも称する)を備えキャリッジ上のサブインクタンク(インク貯留部とも称する)をインク供給経路によって流体的に結合させてインクを補充する方式のインクジェット記録装置がある。このようなインクジェット記録装置では、サブインクタンク内に気泡が存在するとインク補充量が減少することになり、この場合も定期的な気泡除去が必要になる。このような気泡の発生に対し、従来はサブインクタンク内の気泡を許容するため、サブインクタンクの容積として貯留インク量より大きい容積を確保していた。
【0006】
以上に述べた課題を解決するため、これまでサブインクタンクに発生した気泡を除去するいくつかの提案がなされている。例えば、インク供給路内に発生した気泡をインク中から分離浮上させ、ポンプによる吸引動作によってインクとともに排出する技術が知られている(特許文献1)。
【0007】
また、別の従来技術として、サブインクタンク内の気体の量が所定の量以上であることを電極により検知して、サブインクタンクを大気開放し、インクの補充供給によって気体を外部へ排出することが知られている(特許文献2)。
【0008】
また、別の従来技術として、キャリッジ外に設けたインク供給源からサブインクタンク内へインクの補充供給を終了した段階で、インク供給源の位置を下げる技術がある。これによりサブインクタンク内の負圧より大きい水頭差を発生させて、サブインクタンクからインク供給源にインクを泡とともに逆流させ、サブインクタンクの負圧力を適切な範囲に設定する技術が開示されている(特許文献3)。
【0009】
さらにその他の従来技術として、サブインクタンクにインクを補充供給するためのチューブの一部を気液分離部材で構成し、チューブ周囲を減圧することでチューブ内のインク中の空気を排出する技術が開示されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2005−161770号公報
【特許文献2】特開2005−59491号公報
【特許文献3】特開平10−244686号公報
【特許文献4】特開2003−159810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
サブインクタンク内の気泡を除去する課題に対し、特許文献1に開示された技術では、気泡の排出にともなう無駄なインク消費が避けらず、ランニングコストが高くなる可能性がある。また、排出されたインクを吸収保持するための吸収部材が必要となり、インクジェット記録装置の小型化に不利である。また、特許文献2に開示された技術では、電極で気体量を検知するためのある一定の空間を確保する必要があり、サブインクタンクの小型化には適さず、容積効率の向上は望めない。また、特許文献3に開示された技術では、インク供給源に気泡を溜めるための容積が必要であり、インク供給源の大型化を招く。さらに、インク供給源を昇降させる機構が必要であり、インクジェット記録装置の大型化やコストアップを招く。また、特許文献4に開示された技術では、気液分離部材によりインクを浪費することはないものの、インクジェット記録装置が駆動している時だけ気泡の除去が可能であり、限られた作動条件下での気泡除去しかできない。
【0011】
このように、従来技術は個別の課題があるものの、これらの技術はすべて、インクジェット記録装置が駆動している状態、すなわち電源ON時のみ気泡を除去する技術である。そのため、インクジェット記録装置の保管時や長期間の不使用時など、電源OFF状態で長期放置する場合については対処できない。
【0012】
したがって、これらの従来技術では、サブインクタンク中に発生する気泡を許容することになり、サブインクタンクの容積を大きくせざるをえず、サブインクタンクの小型化を実現し難い。また、サブインクタンクの容積を大きくすることは、インクとの接触面が大きくなるため、構成材料のインク接液適性の影響が大きくなり材料選択範囲が制限される。また、インク容器重量の増大といった観点からも好ましくない。
【0013】
本発明は、以上の課題を改善し、インクジェット記録装置の電源ON・OFFとは無関係に、長期放置時でもサブインクタンク内の気泡除去が可能であるインク貯留機構およびインク供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明にかかるインク貯留機構は、インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部を備えたインク貯留機構において、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路とを備えていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるインク供給システムは、インクタンクからインクジェット記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給システムにおいて、
前記インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部と、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、
該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路と、
前記負圧源の内容積を減少する方向に変位させる変位機構と、
前記インク貯留部に対して補充されるインクを貯留するメインタンクと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留するインク貯留部に気液分離部材を配し、該気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する負圧源を連結路によって連結する構成を採用したことにより、インクジェット記録装置の動作時のみならず、電源OFF時や長期保管時などのプリンタの非動作時であっても、負圧源の負圧が気液分離部材を介してインク貯留部に対して常時作用している。そのため、インク貯留部内に気泡が発生した場合には、その気泡は気液分離部材を介して気泡はインク貯留部外部へ常に排出できる。その結果、インク貯留部内には気泡が溜まらず、長期放置時にインク貯留部内で気泡が膨張する事態がなくなり、インクジェット記録ヘッドのインク吐出口(ノズル)からインク漏れが生じる不具合を防止することができるインク貯留機構およびインク供給システムを提供できる。
【0017】
また、従来気泡が溜まった段階で気泡を排出するための動作を行なっていたが、負圧蓄積部が負圧を保持している限り常時気泡を排出しているため、特別な気泡抜き動作が不要となり、プリンタの動作シーケンスの自由度が増す。
【0018】
また、不必要にインク貯留部を大型化することがなくなりインク貯留部の容積効率を向上できる。さらには、インク貯留部に従来考慮していた気泡体積の分だけ容積が小さくなるため、可撓性シートのストロークが小さくなり、繰り返し変形に対する耐久設計の自由度が向上する。また、ストロークが小さくなることで、インク貯留部のより安定した負圧設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例1)
本発明が適用されるインクジェット記録装置の概略構成例について図1を参照して説明する。
【0020】
本発明が適用されるインクジェット記録装置は、記録ヘッド(不図示)とサブインクタンク(インク貯留部)103とを走査キャリッジ119上に搭載し、メインタンクとしてのインク供給源125はキャリッジ119外に備える構成を採用している。そして、メインタンク125のインクを所定の場所まで導くインク供給路124と、導かれたインクをサブインクタンク103に供給するため、サブインクタンク103と連結されるジョイント部122を備えている。キャリッジ119をホームポジションあるいは所定の位置に移動させ、サブインクタンク103とインク供給源125とをジョイント部122を介して必要に応じて一時的に流体結合させインクを補充供給する構成となっている。このような供給形態を便宜的に間欠インク供給方式のインクジェット記録装置と称して説明する。なお、図2は間欠インク供給方式を構成する要素を取り出して示した概略構成図である。
【0021】
図1に示すように、キャリッジ119上には紙送りローラ120によって搬送される記録媒体123に記録を行うインクジェット式の記録ヘッド(不図示:図2中101参照)が搭載されている。このキャリッジ119は、モータ126に連結された駆動ベルトの動作に応じてガイド軸121に沿って往復移動される。また、記録ヘッドにはインクを貯留し保持する負圧を発生する小型のインク容器103が一体的に搭載され、インクジェット記録ヘッド129を形成している。なお、インク容器103の片面は内容積が変形可能な可撓性フィルム(可撓性シートとも称する)(図2中109a参照)で構成され、内部に負圧を発生させるための弾性材としてのばね部材(不図示:図2中111a参照)が備えられている。また、消費したインクをインク容器103に補充供給するためのインク供給源125がインクジェット記録装置の前面側に配置されている。
【0022】
次に、このインクジェット記録装置の間欠インク供給動作について図2、図3を参照して以下説明する。インク供給源125、インク供給路、インクジェット記録ヘッド129にかかる概略構成を図1に示す。
【0023】
印字によって減少したインク容器103内のインク量が所定量以下に達した時、キャリッジ119はインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションへ移動して停止する。ここで、インク供給ユニット124のジョイント部122がインクジェット記録ヘッド129に設けられたインク補充口(不図示:図2中符合112参照)と連結される。一方、図2、図3に示されるとおり、第1負圧源としての吸引ポンプ115がポンプ流路114を介してインクジェット記録ヘッド129の空気排出口113と連結する。空気排出口113にはポンプ流路114が接続され吸引ポンプ115が動作することで開放する一方向に機能する弁体が配されている。そして、インク容器103を構成するばね部材によって発生される負圧が利用されて、インク供給源125からインク供給ユニット124を通り、インク容器103へとインク補充がなされる。このような間欠インク供給方式は、キャリッジ上に記録ヘッドと小型のインク容器のみが支持されているため、キャリッジを大幅に小型化・軽量化でき、記録装置全体の小型化が可能となる。
【0024】
次に、本発明が適用されたインク貯留機構が付設されたインクジェット記録ヘッド129の実施態様例を模式的な断面図として示した図3に基きその構成について説明する。ここで、本発明のインクジェット記録ヘッド129は複数色のインク(例示的にはシアン、マゼンタ、イエローなど)毎に記録装置上に搭載可能であるが、図3では簡略化のため、一色分のインクジェット記録ヘッド129を取り上げて示す。
【0025】
図3に示されるように、本実施例のインクジェット記録ヘッド129は、インクジェット記録装置内に配置されたインク供給源125から導入されたインクを貯留するインク容器103と、このインク容器103から供給されたインクを吐出するための記録ヘッド101を備えている。このインク容器103は、インクを貯留するインク貯留空間部104と、インク貯留部104に溜まった気泡108を外部に排出するための通路としての空気排出路105と、インク貯留空間部104と空気排出路105との境界に配置される気液分離部材106とを有している。気液分離部材106は例えば撥水・撥油処理が施されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の多孔質膜などを用いることができる。また、この気液分離部材106は熱溶着によりインクジェット記録ヘッド129の枠体を構成する筐体107に固定されている。インク貯留部104は筐体107と、柔軟に変形可能な可撓性フィルム109から成り、内容積が可変である。この可撓性フィルム109は、インク消費または補充にともなって繰り返し変形する。また、インク貯留部104は、記録ヘッド101にインクを供給するためのインク供給口102と、インク供給源125からインク貯留部104内にインクを補充するためのインク補充口112とを有している。さらに、インク貯留部104内にはばね111などの弾性材料が配置され、このばね111によりインク吐出口でメニスカスを保持するための適切な負圧を発生させている。
【0026】
一方、インク貯留部104内に溜まった気泡108を外部へ排出するための空気排出路105がインク貯留空間部104に対面する位置に設けられており、弁を有する空気排出口113と連通している。この弁は、吸引ポンプ115と連通したポンプ流路114の先端の連結部が連結する空気排出口113の被連結部に配されており、吸引ポンプ115が連結されて減圧された時のみ開放する一方向弁である。
【0027】
また、空気排出路105に連通する第2負圧源としての負圧蓄積部130が、キャリッジ上でインク容器103と一体的に設けられている。この負圧蓄積部130は、インク貯留部104と同様に、筐体107の片面が柔軟に変形可能な可撓性フィルム109bで構成されている。ここでは、負圧蓄積部130で負圧を発生させるために、ばね111bなどの弾性材料を用いている。
【0028】
なお、本発明の負圧蓄積部130はインクと接液することが無いため、構成材料のインク接液適性を考慮する必要がなく、材料や構造の選択範囲が広い。したがって、本発明における負圧蓄積部は図1に示す構造に限定されず、ベローズ構造のような拡張変形によって負圧を発生する構造体(図4(a))や、内部にばねなどの弾性部材を有するピストン構造によって負圧を発生する構造体(図4(b))で置き換え可能である。
【0029】
次に、インク貯留空間部104内に溜まった気体で構成された気泡108を外部へ排出する動作について説明する。なお、気液分離部材106は、インク容器103内に存在する気体が到達する個所に配置されている。気泡108が気液分離部材106部分に集まりやすいようにインク容器103内が構成されていることは好ましい。
【0030】
非記録時、記録ヘッド101は外部のインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションに待機している(図3(a))。このとき、インク容器内に発生した気泡108を除去するため、ホームポジションで吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の先端部の連結部と空気排出口113の端部の被連結部とを接続し、空気排出路105に負圧の付与を開始する(図3(b))。この時、気泡108が気液分離部材106と接触していると、気泡108とインクが分離されて、気泡108のみが空気排出路105を通って外部へ排出される。一方、負圧蓄積部130に対しても負圧が作用して負圧蓄積部130が収縮変形して負圧力を蓄える(図3(c))。その後、所定の時間経過後に吸引ポンプ115による減圧を停止し、ポンプ流路114を空気排出口113から切り離す(図3(d))。
【0031】
以上の動作を行なうことにより、負圧蓄積部130がインク容器に対して負圧源として作用することになり、吸引ポンプ115駆動による減圧動作が無くても、空気排出路105には常時、負圧蓄積部130によって負圧が付与され続けることになる。その結果、インク貯留空間部104に生じた気泡108は、気液分離部材106に接触すると空気排出路105へと排出されるため、インク貯留部104内には気泡108が蓄積しなくなる。
【0032】
以上の構成により、インクジェット記録装置の印字時や待機時などの動作時のみならず、インクジェット記録装置の非動作時(例えば電源が切られたまま長期間放置された時)に気泡が発生しても、インクを浪費することなくインク容器内の気泡を常時除去することが可能である。よって、気泡の膨張収縮による圧力変動がないため、印字不良やノズルからのインク漏れのない信頼性の高いインク供給システムおよびインクジェット記録装置を提供することができる。また、常時気泡を排出しているため、特別な気泡抜き動作が不要となり、プリンタの動作シーケンスの自由度が増す。また、インク貯留空間部104は気泡が溜まる分を見越した容量を確保する必要がなく、インクタンクの容積効率を大幅に向上させることができる。さらに、本発明は気液分離部材を介して気泡を除去するため、気泡の排出終了を自動的に検知でき、特別な終了検知センサーを必要としない。
【0033】
また、本発明のその他の効果として、インク貯留部に従来考慮していた気泡体積の分だけ容積が小さくなるため、可撓性フィルムのストロークが小さくなり、繰り返し変形に対する耐久性の設計自由度が向上する。また、ストロークが小さくなることで、インク貯留部のより安定した負圧設計が可能となる。さらに、可撓性フィルムの材料選択において、耐久性を向上させるため、フィルム材質の硬さの柔らかいものが適用可能となり、材料選択範囲が広がる。一般的にフィルム材質が柔らかい場合、気体透過性が高くなる傾向があるが、本発明によれば、可撓性フィルム越しに進入した気泡を常に除去できるため、材料選択を考える場合、気体透過性の影響を軽減できる。
【0034】
また、キャリッジ動作時に負圧蓄積部に対して吸引ポンプを接離するため、キャリッジの動作負荷を増すことなく、インク貯留部内の気泡除去が達成できる。
【0035】
ところで、以上では負圧蓄積部130に対して吸引ポンプ115を間欠的に連結して負圧を生起させるような構成例を説明した。しかし、例えば図5に示されるように負圧蓄積部130側の可撓性フィルム109bを必要に応じて外部から機械的に押圧するような押圧機構116によって負圧蓄積部130のばね111bを変形させ、内部から空気を排出して負圧を発現するような構成としてもよい。この場合の負圧蓄積部130には、内部から外部への空気の移動を許容する一方向弁113aを設け、さらに空気排出路から内部への空気の移動を許容する一方向弁113bが設けられている。もちろん機械的な押圧機構116に限られず、可撓性フィルム109bを外側からカバーで覆い、カバーと可撓性フィルム109bとの間を加圧ポンプなどで加圧して負圧蓄積部130に負圧を発現させることも可能であり、負圧蓄積部130が負圧を発生することができる構成であれば上記に限られない。もちろん負圧蓄積部130の構造自体は図4(a)や図4(b)で置き換え可能である。
【0036】
なお、本実施例では、本発明を間欠インク供給方式の記録装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、メインインクタンクとサブインクタンクとをチューブによって常時連結してインクを供給する連続インク供給形態のインクジェット記録装置の場合においても、気液分離部材を有するインク容器であれば適用可能である。例えば、その構成例を図6に示す。図6に示されるとおり、吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の先端部の連結部と空気排出口113の端部の被連結部とが常に接続されており、且つインク供給路もインク補充口112と常に連結した構成とされている。このように吸引ポンプを常時連結した場合、吸引ポンプの配置自由度を向上できる。
【0037】
また、メインインクタンクをキャリッジ上に搭載したオンキャリッジ方式のインクジェット記録装置であっても気液分離部材を有するインク容器であれば適用可能である。
【0038】
また、気液分離部材106は図2、図3に示すように垂直方向に配置した場合について説明しているが、気泡108の浮力を活かして、気液分離部材106に気泡108を接触させやすくするため、気液分離部材106をインク容器103の上面に水平配置してもよい。
【0039】
また、記録ヘッド101が複数色のインク容器103を搭載した場合、それぞれのインク容器103の空気排出路105が互いに連通して共通通路を構成し、各々のインク容器103に対応して負圧蓄積部130を設けた構成(図7(a))においても本発明は適用可能である。この場合には、負圧蓄積部130が複数あるため、ある負圧蓄積部130の負圧が無くなった場合でも、他の負圧蓄積部130が共通通路によって他のインク容器130に連通されているため補うことができる。あるいは各々のインク容器に共通のひとつの負圧蓄積部を設けた構成(図7(b))においても本発明は適用可能である。この場合には、複数のインク容器に対し、ひとつの負圧蓄積部が共通通路によって各インク容器と連通しているため、気泡の除去を行うことができ、インクの色数が増えても、大型化することはない。また、インク容器103の空気排出路105が互いに連通せず、独立した流路構成(図7(c))においても本発明は適用可能である。この場合には、気液分離部材106を介して空気排出路105に生じたインク蒸気が混ざることがないため、互いのインク蒸気が反応するような場合において好適である。
【0040】
上述で説明したインク供給方式(間欠インク供給方式、連続インク供給方式)や負圧蓄積部130の構造、あるいは負圧蓄積部130に負圧を発生させるための構成は以下説明する各実施例においても適用できることは言うまでもなく、適用にあたり適宜必要な変形を加えることが可能であることは言うまでもない。
【0041】
(実施例2)
図8に本発明に係る第二の実施例の記録ヘッドカートリッジと排出ユニットの断面模式図を示す。
【0042】
本実施例において、インク容器103の構成は第一の実施例と同様である。一方、負圧蓄積部130は、第一の実施例とは異なり、インクジェット記録装置側に備わっている。
【0043】
この負圧蓄積部130は吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の途中に設けられて排出ユニット116を構成しており、この排出ユニット116はホームポジション付近に配置されている。また排出ユニット115はインク容器103の空気排出口113と接続可能であり、記録ヘッド101が非記録時などの待機中にホームポジションで常時接続されている。また、排出ユニット116に備えられた空気弁117は、排出ユニット116と空気排出口113が接続されているときのみ開放し、接続が解除されている時は閉じるように動作する。
【0044】
ここで、本実施例によるインク貯留空間部104内の気泡108を外部へ排出する動作について説明する。非記録時、記録ヘッド101は外部のインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションに待機している(図8(a))。この待機中に、排出ユニット115を空気排出口113に接続し、弁を開放して吸引ポンプによってインク容器103内の空気排出路105に負圧の付与を開始する(図8(b))。このとき、インク貯留空間部104の気泡108が気液分離部材106と接触していると、気泡108とインクが分離されて、気泡108のみが空気排出路105から排出されるとともに、負圧蓄積部130が収縮変形し始め、負圧力を蓄える(図8(c))。その後、所定の時間経過後に吸引ポンプ115による減圧を停止する。すると、非記録時はホームポジションで排出ユニット115が空気排出口113に接続しているため、吸引ポンプ115駆動による減圧動作が無くても、空気排出路105には常に負圧力が付与されることになる。その結果、たとえインク貯留空間部104に気泡108が発生しても、気液分離部材106に接触すると空気排出路105へと排出され、インク貯留部104内に気泡108が蓄積しなくなる。
【0045】
上述したように、本実施例によれば、第一の実施例と同様にインクジェット記録装置の非動作時であっても、インクを無駄に消費することなくインク容器内の気泡を常に除去することが可能となり、信頼性の高いインクジェット記録装置を提供することができる。また、インク貯留部内の気泡を許容する容積が必要ないため、インク容器の容積効率が向上し、容積の小型化が可能となる。さらに、負圧蓄積部がインクジェット記録装置側に設けられているため、第一の実施例に比べ、キャリッジ上に占める負圧蓄積部の全容積を小さくできる。その結果、印字時の記録ヘッドカートリッジの走行空間が小さくなり、インクジェット記録装置全体の小型化が可能となる。
【0046】
なお、本実施例においても、本発明を間欠インク供給方式の記録装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、チューブ供給方式やオンキャリッジ方式の記録装置の場合においても、気液分離部材を有するインク容器であれば適用可能である。
【0047】
また、図9(a)に示すように記録ヘッドカートリッジ129が複数色のインク容器103を搭載した場合、各々のインク容器103に対応した負圧蓄積部130を設け、各インク容器103の空気排出路105が互いに独立した流路構成においても本発明は適用可能である。この場合、気液分離部材106を介して空気排出路105に生じたインク蒸気が混ざることがないため、互いのインク蒸気が反応するような場合において好適である。また、図9(b)に示すように、それぞれのインク容器の空気排出路105が互いに連通して共通通路を構成し、これら空気排出路105に連通する負圧蓄積部130を設けた構成においても本発明は適用可能である。この場合、複数の空気排出路105を互いに共通通路によって連通させることで、複数のインク容器103に対し、ひとつの負圧蓄積部130で気泡を除去できる。
【0048】
なお、実施例1で説明したインク供給方式(間欠インク供給方式、連続インク供給方式)や負圧蓄積部130の構造、あるいは負圧蓄積部130に負圧を発生させるための構成は以上説明した実施例2においても適用できることは言うまでもなく、適用にあたり適宜必要な変形を加えることが可能であることは言うまでもない。
【0049】
(実施例3)
図10に本発明に係る第三の実施例の記録ヘッドカートリッジと排出ユニットが断面模式図を示す。
【0050】
本実施例においても、インク容器の構成は第一および第二の実施例と同様である。一方、負圧蓄積部130は、第二の実施例と同様に、インクジェット記録装置側に備わっている。
【0051】
すなわち、負圧蓄積部130は吸引ポンプ115に連通するポンプ流路114の途中に設けられて排出ユニット116を構成しており、この排出ユニット116はホームポジション付近に配置されている。
【0052】
また、排出ユニット116はインク容器103の空気排出口113と接続可能であり、ホームポジションでは常時接続されている。また、排出ユニット116に設けた空気弁117は、排出ユニット116と空気排出口113が接続されているときのみ開放するよう動作する。さらに、本実施例では排出ユニット116の流路途中に、負圧蓄積部130の内容積の変動に連動して動作する圧力調整弁118が備えられている。
【0053】
ここで、本実施例によるインク貯留部104の気泡108を外部へ排出する動作について説明する。非記録時、記録ヘッド101は外部のインク供給源125と接続可能な位置であるホームポジションに待機している(図10(a))。この待機中に、吸引ポンプ115に連通する排出ユニット116を空気排出口113に接続し、インク容器103内の空気排出路105に負圧の付与を開始する(図10(b))。この時、インク貯留部104の気泡108が気液分離部材306と接触していると、気泡108とインクが分離されて、気泡108のみが空気排出路105から排出されるとともに、負圧蓄積部130が収縮変形し始め、負圧力を蓄える(図10(c))。その後、所定の時間経過後に吸引ポンプ115による減圧を停止する。すると、吸引ポンプ115による減圧動作が無くても、空気排出路105には常に負圧力が付与され、気泡108除去が可能となる。
【0054】
一方、負圧蓄積部130内には、可撓性フィルム109の変形動作に連動して一軸上を移動可能な支持棒128が備えられている。この支持棒128の一端は可撓性フィルム109側に固定されており、もう一方の端部は圧力調整弁118に当接し、弁の開閉を制御できるように構成されている。
【0055】
以上の構成により、負圧蓄積部130の収縮が大きく負圧力が強い場合には、内部の支持棒128により圧力調整弁118が開き、大気と連通させることで負圧力を調整しインク透過耐圧より大きい負圧力が気液分離部材106に作用することを確実に防止することができる。したがって、過大な負圧力による気液分離部材106の変形やインク漏れなどの不具合を回避しながら、インク貯留空間部104内の気泡108を常時、外部へと排出でき、実施例2と同様の効果を得ることが出来る。
【0056】
なお、実施例1で説明したインク供給方式(間欠インク供給方式、連続インク供給方式)や負圧蓄積部130の構造、あるいは負圧蓄積部130に負圧を発生させるための構成は以上説明した実施例3においても適用できることは言うまでもなく、適用にあたり適宜必要な変形を加えることが可能であることは言うまでもない。
【0057】
なお、インク容器103の構成の他の構成例を図11に示す。インク容器103はブロー成型技術を利用して構成される容器であり、例えば特開平09−267483号公報に開示されるブロー成型技術を利用した構造体が適用される。そしてブロー成型された内側のインク容器の一部に気液分離膜108を配し、負圧蓄積部130を外側の筐体と連結することでインク容器に負圧が作用され、インク容器内の気泡が排出できる。このような構成を含め、インク容器側で負圧を発生させられるような構造であれば間欠インク供給方式に適用できる。
【0058】
なお、連続インク供給式の場合にはインク容器側に負圧発生源を備えている必要性はなく、水頭差によってヘッドに対する負圧を発生させるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る間欠インク供給方式が採用されたインクジェット記録装置を示す概略斜視図である。
【図2】間欠インク供給方式の構成を概略的に示す構成図である。
【図3】(a)ないし(d)は本発明の第1の実施形態に係るインク供給システムを模式的に示す断面図であり、(a)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結される前の状態、(b)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結された状態、(c)は吸引ポンプが動作した状態、(d)は吸引ポンプの動作後に連結を解除した状態を夫々示す。
【図4】(a)、(b)は本発明に係る負圧蓄積部の構成例を示す模式図であり、(a)はベローズ構造で構成されている場合のインクジェット記録ヘッドを模式的に示す断面図、(b)はピストン構造で構成されている場合のインクジェット記録ヘッドを模式的に示す断面図である。
【図5】負圧蓄積部に対して負圧を押圧機構によって蓄積させる構成例を示す概略図である。
【図6】連続インク供給方式の構成を概略的に示す構成図である。
【図7】(a)ないし(c)は本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドが複数組み合わせられた構成を模式的に示す断面図である。
【図8】(a)ないし(c)は本発明の第2の実施形態に係るインク供給システムを模式的に示す断面図であり、(a)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結される前の状態、(b)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結された状態、(c)は吸引ポンプが動作した状態を夫々示す。
【図9】(a)ないし(b)は本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドが複数組み合わせられた構成を模式的に示す断面図である。
【図10】(a)ないし(c)は本発明の第3の実施形態に係るインク供給システムを模式的に示す断面図であり、(a)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結される前の状態、(b)はインクジェット記録ヘッドと吸引ポンプとが連結された状態、(c)は吸引ポンプが動作した状態を夫々示す。
【図11】インク容器の他の構成例を概略的に示す構成図である。
【符号の説明】
【0060】
103 インク容器(サブインクタンク、インク貯留部)
105 空気排出路(通路)
106 気液分離部材
107 筐体
108 気泡
109 可撓性フィルム
111 ばね(弾性材)
113 空気排出口
115 吸引ポンプ(第1負圧源)
125 インク供給源(メインインクタンク)
130 負圧蓄積部(第2負圧源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部を備えたインク貯留機構において、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路とを備えていることを特徴とするインク貯留機構。
【請求項2】
前記インク貯留部の複数に対して、前記負圧源が1つ共通に連結されていることを特徴とする請求項1に記載のインク貯留機構。
【請求項3】
前記負圧源は、一部が可撓性フィルムで構成され、内部に弾性部材が備えられて構成され、その内容積を可変することで前記インク貯留部に対して前記連結路を経由して負圧を作用させて前記インク貯留部から前記気液分離部材を介して気体を排出することを特徴とする請求項1に記載のインク貯留機構。
【請求項4】
前記負圧源には、その内部から外部への気体の移動を許容し、逆の移動を禁止する一方向弁が付設されており、前記負圧源の内容積を減少する方向に前記可撓性フィルム及び前記弾性部材を変位させる機構によって負圧を発現することを特徴とする請求項2に記載のインク貯留機構。
【請求項5】
インクタンクからインクジェット記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給システムにおいて、
前記インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部と、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、
該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路と、
前記負圧源の内容積を減少する方向に変位させる変位機構と、
前記インク貯留部に対して補充されるインクを貯留するメインタンクと、
を備えたことを特徴とするインク供給システム。
【請求項6】
前記気液分離部材は前記インク貯留部内に存在する気体が到達する個所に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項7】
前記負圧源は、一部が可撓性フィルムで構成され、内部に弾性部材が備えられて構成され、その内容積を可変することで前記インク貯留部に対して前記連結路を経由して負圧を作用させて前記インク貯留部から前記気液分離部材を介して気体を排出するものであり、前記負圧源には、その内部から外部への気体の移動を許容し、逆の移動を禁止する一方向弁が付設されていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項8】
前記変位機構は、前記一方向弁と連結され前記負圧源の内部から空気を排出する第2の負圧源であることを特徴とする請求項7に記載のインク供給システム。
【請求項9】
前記変位機構は、前記可撓性フィルムを外側から加圧して前記負圧源の内部から空気を排出する加圧源であることを特徴とする請求項7に記載のインク供給システム。
【請求項10】
前記連結路に対して前記第2の負圧源は必要に応じて接離される構成であることを特徴とする請求項8に記載のインク供給システム。
【請求項11】
前記連結路に対して前記第2の負圧源は常時接続している構成であることを特徴とする請求項8に記載のインク供給システム。
【請求項12】
前記インク貯留部と前記メインタンクとは必要に応じて接離される構成であることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項13】
前記インク貯留部と前記メインタンクとは常時接続している構成であることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項14】
前記インク貯留部の複数に対して、前記第1の負圧源が1つ共通に連結されることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項15】
前記インク貯留部と前記第1の負圧源を組とする構造体の複数に対して、前記変位機構が1つ共通に連結されることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項16】
前記インク供給システムは前記インクジェット記録ヘッドを搭載するキャリッジを有しており、前記第1の負圧源は前記インク貯留部とともに前記キャリッジ上に備えられていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項17】
前記インク供給システムは前記インクジェット記録ヘッドを搭載するキャリッジを有しており、前記第1の負圧源は前記キャリッジ外に備えられていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項1】
インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部を備えたインク貯留機構において、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路とを備えていることを特徴とするインク貯留機構。
【請求項2】
前記インク貯留部の複数に対して、前記負圧源が1つ共通に連結されていることを特徴とする請求項1に記載のインク貯留機構。
【請求項3】
前記負圧源は、一部が可撓性フィルムで構成され、内部に弾性部材が備えられて構成され、その内容積を可変することで前記インク貯留部に対して前記連結路を経由して負圧を作用させて前記インク貯留部から前記気液分離部材を介して気体を排出することを特徴とする請求項1に記載のインク貯留機構。
【請求項4】
前記負圧源には、その内部から外部への気体の移動を許容し、逆の移動を禁止する一方向弁が付設されており、前記負圧源の内容積を減少する方向に前記可撓性フィルム及び前記弾性部材を変位させる機構によって負圧を発現することを特徴とする請求項2に記載のインク貯留機構。
【請求項5】
インクタンクからインクジェット記録ヘッドに対してインクを供給するインク供給システムにおいて、
前記インクジェット記録ヘッドに対して供給されるインクを直接貯留してインクの消費によって容積が減少するように構成され、一部に気液分離部材が配されたインク貯留部と、
前記気液分離部材を介して前記インク貯留部に対して常時負圧を作用させるように機能する内容積可変の負圧源と、
該負圧源と前記インク貯留部とを前記気液分離部材を介して連結する連結路と、
前記負圧源の内容積を減少する方向に変位させる変位機構と、
前記インク貯留部に対して補充されるインクを貯留するメインタンクと、
を備えたことを特徴とするインク供給システム。
【請求項6】
前記気液分離部材は前記インク貯留部内に存在する気体が到達する個所に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項7】
前記負圧源は、一部が可撓性フィルムで構成され、内部に弾性部材が備えられて構成され、その内容積を可変することで前記インク貯留部に対して前記連結路を経由して負圧を作用させて前記インク貯留部から前記気液分離部材を介して気体を排出するものであり、前記負圧源には、その内部から外部への気体の移動を許容し、逆の移動を禁止する一方向弁が付設されていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項8】
前記変位機構は、前記一方向弁と連結され前記負圧源の内部から空気を排出する第2の負圧源であることを特徴とする請求項7に記載のインク供給システム。
【請求項9】
前記変位機構は、前記可撓性フィルムを外側から加圧して前記負圧源の内部から空気を排出する加圧源であることを特徴とする請求項7に記載のインク供給システム。
【請求項10】
前記連結路に対して前記第2の負圧源は必要に応じて接離される構成であることを特徴とする請求項8に記載のインク供給システム。
【請求項11】
前記連結路に対して前記第2の負圧源は常時接続している構成であることを特徴とする請求項8に記載のインク供給システム。
【請求項12】
前記インク貯留部と前記メインタンクとは必要に応じて接離される構成であることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項13】
前記インク貯留部と前記メインタンクとは常時接続している構成であることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項14】
前記インク貯留部の複数に対して、前記第1の負圧源が1つ共通に連結されることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項15】
前記インク貯留部と前記第1の負圧源を組とする構造体の複数に対して、前記変位機構が1つ共通に連結されることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項16】
前記インク供給システムは前記インクジェット記録ヘッドを搭載するキャリッジを有しており、前記第1の負圧源は前記インク貯留部とともに前記キャリッジ上に備えられていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【請求項17】
前記インク供給システムは前記インクジェット記録ヘッドを搭載するキャリッジを有しており、前記第1の負圧源は前記キャリッジ外に備えられていることを特徴とする請求項5に記載のインク供給システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−155617(P2008−155617A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237863(P2007−237863)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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