説明

インク貯蔵容器

【課題】インクの供給量が安定したインク貯蔵容器を提供する。
【解決手段】本発明に係るインク貯蔵容器100は、インク貯蔵部10と、インク貯蔵部の上方側に設けられる空気流量制御部20と、下方側に設けられると共に、外部部材からの付勢によって上下動する移動弁33を備えるインク吐出部30と、インク貯蔵部10からインク吐出部30の間を連通して、インクMをインク吐出部30に案内するインク供給路88とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを内部に貯留するインク貯蔵容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インク貯蔵容器の例としては筆記具のインクタンクや、インクジェットプリンタのインク(タンク)カートリッジなどがある。これらは文字や画像を形成する筆記や印刷に消費されたインク量に対応して外気をタンク内に取込んで空気交換し、タンク内の圧力変化がインクの消費に悪影響を及ぼさないようにした機構とされており、その機構としては、外気の取込み口として単なる孔を形成したものや、液体は通さないが通気のみを行う弁機構付きの通気路を形成したものを挙げることができる。
【0003】
しかし、外気の取込み口として単なる孔を設けたものでは、この孔からのインクが漏れてしまう可能性がある。また、単に気体は通すが液体は通さない膜を配置しただけのものでは、インクカートリッジの内部が大気圧と同一になるため、インクが吐出口から吹き出してしまう可能性がある。そこで、スポンジなどのインク吸蔵体をインク吐出口上に配置して、インクを保持する必要がある。
【0004】
ところが、このようにスポンジなどのインク吸蔵体によってインクを保持したのでは、インク吸蔵体を有しない空のインク貯蔵部に比べてインク保持量が少なくなり、それだけ同体積におけるインク量の減少による印字数が少なくなる。
【0005】
そこで、特許文献1又は2に開示されているように、例えば、空気を流量を制御可能な空気流量制御部を、貯蔵容器の上蓋に内蔵するインク貯蔵容器が提案されている。このインク貯蔵容器によれば、インク吸蔵体を容器内部に配置したものと比べて、インク保持量が少なくなってしまうことを回避し、更に、この空気流量制御部によって容器内部を負圧にすることができるので、内部のインクが、吐出ノズルから安易に吹き出てしまうこと防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−277777号公報
【特許文献2】特許4246787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2等に記載のインク貯蔵容器は、基本的に極めて優たものであり、容器内の圧力が適切に負圧に維持されるので、安定した印刷が可能である。一方、本発明者らの未公知の実験によると、この種のインク貯蔵容器では、空気側の流量を制御することで、間接的にインクの吐出を制御する構造であるため、プリンタ側のトラブル等によって、プリンタ側のインク吸引力が増大すると、インクが出過ぎてしまう恐れがあった。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、インク貯蔵容器におけるインク貯蔵用空間の利用効率を極大化しつつも、インクの過大吐出等を抑制し、外乱やプリンタ側のトラブル等を含めた、微少な圧力変化から大きな圧力変化に亘って、安定したインク吐出制御を確実に行えるインク貯蔵容器を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、インクを貯蔵するインク貯蔵部と、前記インク貯蔵部の上方側に設けられて、内外間の空気流量を制御する空気流量制御部と、前記インク貯蔵部の下方側に設けられると共に、外部部材からの付勢によって上下動する移動弁を備え、該移動弁の上下動によって前記インクの吐出・停止を切り替えるインク吐出部と、前記インク貯蔵部から前記インク吐出部の間を連通して、前記インクを前記インク吐出部に案内するインク供給路と、を備えることを特徴とするインク貯蔵容器。
【0010】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路における前記インク貯蔵部側の開口端は、該インク貯蔵部の底面に近接配置されることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路における前記吐出部側の開口端は、前記インク供給路における前記インク貯蔵部側の開口端よりも低位置に配置されることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路における前記吐出部側の開口端は、前記インク貯蔵部における内部空間の底面よりも低位置に配置されることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路には、前記インク吐出部に供給される前記インクの流量を制限する流量制御弁が設けられることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記流量制御弁は、金属メッシュであることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路には、前記流量制御弁を収容する為の収容空間が形成されることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路における前記インク貯蔵部側の開口端に、前記収容空間が形成されることを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記収容空間は、前記インク貯蔵部の底面に対向した状態で近接配置されることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク供給路の最小断面積が、0.5mm2以内であることを特徴とする。
【0019】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記インク吐出部は、前記移動弁を摺動させながら上下方向に案内する筒状のシリンダを備えることを特徴とする。
【0020】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記移動弁と前記シリンダの間には、前記インク貯蔵部に貯蔵されるインクが漏れ出すことを抑制するシール機構が設けられることを特徴とする。
【0021】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記シリンダには、該シリンダの内部空間と前記インク貯蔵部の内部空間を連通するための連通路が形成されることを特徴とする。
【0022】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記連通路には、前記インク貯蔵部から該シリンダの内部に流入するインクの流量を制御するシリンダ側流量制御弁が設けられることを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記空気流量制御部は、通常時は空気を流通させないが、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質の弁体と、前記弁体よりも前記インク貯蔵部側に配設されて通気性を有しかつ撥水処理を施された撥液膜体と、を備えることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記空気流量制御部は、弾性変形可能とされることで、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で正負双方向の空気交換を行わせる連通多孔質の弁体と、前記弁体のインク側に当接するように配置されると共に、中央に貫通孔を形成した押圧リングと、前記押圧リングのインク側に当接するように配置されると共に、通気性及び撥液性を有する撥液膜体と、を具備し、前記弁体の空気通過方向両外側には、前記弁体が弾性変形するための空隙が形成され、前記撥液膜体、前記押圧リング、および前記弁体が挟圧保持されることを特徴とする。
【0025】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記空気流量制御部は、前記インクを吸収することにより、通常時は空気を流入させないが前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて空気交換を行わせるインク吸収体を、前記撥液膜体よりも前記インク貯蔵部側に備えることを特徴とする。
【0026】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記移動弁の下端には、インクを吸収して外部に供給可能なインク保持体が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、インクの供給量を常に安定させることができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係るインク貯蔵容器の構造を示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大した要部拡大断面図である。
【図3】空気流量制御部の断面図である。
【図4】空気流量制御部が備える各部材の斜視図である。
【図5】図3のB部を拡大した要部拡大断面図である。
【図6】図3のB部を拡大した要部拡大断面図である。
【図7】空気流量制御部の断面図である。
【図8】インク吐出部の断面図である。
【図9】インク供給路形成機構におけるホルダの(a)断面図、(b)上面図、(c)底面図である。
【図10】インク供給路形成機構の(a)断面図、(b)組み立て図である。
【図11】インク吐出部の他の例を示した断面図である。
【図12】同インク供給路形成機構の他の例を示した(a)断面図、(b)部分断面図である。
【図13】同インク供給路形成機構の他の例を示した断面図である。
【図14】同インク供給路形成機構の他の例を示した断面図である。
【図15】同インク供給路形成機構の他の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。なお、以下の各実施形態におけるインク貯蔵容器は、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジに適用した場合を例に挙げて説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係るインク貯蔵容器100の構造を示す断面図である。インク貯蔵容器100は、適宜の合成樹脂から構成されており、同図に示されるように、内部にインクMを貯蔵するインク貯蔵部10と、インク貯蔵部10の内外間で空気の流量を制御する空気流量制御部20と、インク貯蔵部10に貯蔵されたインクMの吐出を制御するためのインク吐出部30と、を有して構成されている。
【0031】
<インク貯蔵部>
インク貯蔵部10は、上部が開口した中空の本体部11と、本体部11の開口を塞ぐ蓋として上部に組み合わされる上面部12から構成されている。本体部11は、図の縦横の寸法よりも奥行きの寸法が小さい略直方体状に形成されている。本体部11の底部には、インク吐出部30が設けられている。
【0032】
上面部12は、平面視(図の上から見た場合)が横長の長方形板状である天板12aと、天板12aの周縁のやや内側の下面から下方に向けて突出する嵌合壁12bから構成されている。上面部12は、この嵌合壁12bを本体部11の内部に嵌合させることによって本体部11と組み合わされる。
【0033】
図2は、図1のA部を拡大した要部拡大断面図である。上面部12は、同図に示されるように、上面部12の嵌合壁12bの先端近傍に形成した膨出部12b1と、本体部11に形成した膨出部11aとが相手側部材に嵌合することで固定される。また、交差するハッチング部で図示するように、嵌合壁12bの基端部の全周に亘って形成した突起部12b2が、超音波溶接等によって本体部11の開口の周縁全周に形成した傾斜部11bに食い込むことで、インクMが外部に漏れないようにシールしている。
【0034】
<空気流量制御部>
図1に示されるように、上面部12の天板12aには、図の右側の長手方向端部の近傍に空気流量制御部20が設けられている。図3は、空気流量制御部20の断面図である。同図に示されるように、上面部12の天板12aには、陥没する平断面円形状の凹部12eが形成されており、空気流量制御部20は、この凹部12e内に収容される弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28を備えている。空気流量制御部20は、凹部12e内に撥水膜体24を載置し、その上に押圧リング26を載置し、さらにその上に弁体22を載置した上で、これらの上からキャップ28を凹部12eに嵌合させ、弁体22、撥水膜体24および押圧リング26をキャップ28と凹部12eの間に挟持することによって構成されている。
【0035】
凹部12eの底部12fには、その中央においてインク貯蔵部10の内部13に連通する円形断面の導通口12gが穿たれている。この導通口12gは、内部13に向けて内径が拡大するように形成されている。なお、この導通口12gの内面および周縁部に撥水処理加工を施すようにしてもよい。撥水処理加工を施すことで、導通口12gの内面および周縁部、または撥水膜体24下面に付着するインクを効率的に滴下し、導通口12gまたは撥水膜体24の詰りを未然に防止することができる。
【0036】
底部12fの導通口12gの周囲には、撥水膜体着座部12hと下端受容部12iが設けられている。撥水膜体着座部12hは、撥水膜体24を位置決めして受け止める環状の窪み(環状の段部)である。下端受容部12iは、この撥水膜体着座部12hの外周に同心円状に設けられる環状溝であり、後述するキャップ28の周面部28bの下端を受容する構造となっている。
【0037】
撥水膜体着座部12hは、オレフィン系樹脂素材によって成型されると共に、平滑度を高めた平滑面として形成され、これにより、撥水膜体24が撥水膜体着座部12hに着座したときに、撥水膜体24の撥水膜体着座部12hに対する密着度を高め、インクMが接触面の間から浸入するのを極力抑制するように設定されている。特に、オレフィン系樹脂素材は濡れ性が低いため、撥水効果が高い。従って、撥水膜体24と密着することで、その隙間にインクが浸入できないようになっている。なお、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンや、ポリエチレン等の各種素材があるが、本実施形態ではポリプロピレンを採用している。
【0038】
撥水膜体着座部12hと下端受容部12iの間には、図の上方に向けて突出する環状の突条部12jが形成されている。この突条部12jは、撥水膜体24が横方向にずれないように位置決めすると共に、キャップ28の周面部28bの進入を円滑にするガイドとしても機能するようになっている。
【0039】
図4は、空気流量制御部20が備える各部材の斜視図である。同図に示されるように、弁体22は、複数の微細孔が連通した弾性材料からなる略円板形状の平板であり、例えばポリウレタン等の素材を圧縮多孔体とすることにより構成される。
【0040】
弁体22は、インク貯蔵部10の内部13と外部との間に圧力差がない通常時には、通気性が遮断され空気の出入りはないが、所定値以上の圧力差が生じた場合には、微少な弾性変形により伸び、これにより微細孔が押し広げられて通気性が惹起し、圧力の高い側から低い側へ空気が流入することで、空気流量の制御を行う機能が発揮されるように構成されている。
【0041】
すなわち、空気流量制御部20は、外部とインク貯蔵部10の内部13との圧力差に応じてこの弁体22の複数の微細孔を通過する空気量が変化し、この変化によって外部からインク貯蔵部10の内部13への空気流量を制御する機能を有するものである。なお、弁体22の材質や構造等は特に限定されるものではなく、弁体22として上記特許文献1で開示されたものや市販品を採用することができる。
【0042】
弁体22は、本実施形態では圧縮体として、圧縮した場合に通気性がないようにしている。すなわち、弾性材料からなる連通多孔体を通気性がなくなるまで圧縮して、圧縮多孔体を作ることで空気流量制御機能をより発揮できるように加工している。このような圧縮多孔体では、内部において、連通多孔体を構成している弾性体が押し潰され折り重なってできた不定形の空間が多数形成されているが、圧縮された状態では通気性がなくなる。ところが、圧縮多孔体内で形成された多数の不定形の空間は連通されているので、内外の圧力差が生じた場合、弁体22が延びることによって生じた所定の圧力差以上によって、外部から圧縮多孔体の内部へと空気が押し込まれ、空気は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間を結んでいる通気孔を押し広げながら、弁体を変形させ、圧縮多孔体の反対側、すなわちインク貯蔵部10の内部13側へ移動することで通気性を生じる。
【0043】
この通気量(空気流量)は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間の通りやすさによって決められるので圧力差が大きい場合には弁体22は大きく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通りやすくなり、通気量は大きくなる。一方、所定の圧力差以上であって圧力差が小さい場合には弁体22は小さく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通る量は少なくなり、通気量は小さくなる。弁体22による通気によって圧力差が減少した場合、弁体22も縮み、通気量が少なくなる。さらに所定の圧力差未満となった場合、弁体22が再び圧縮されるため弁体22の通気性はなくなる。このように圧力差の大きさに応じて通気量も応じるので迅速で適切なインク貯蔵部10内の圧力を一定化する圧力調整が可能となる。
【0044】
外部(大気)とインク貯蔵部10内部との圧力差がどの程度で弁体22の通気性を生じさせるようにするかは、連通多孔、圧縮の程度などを適宜選択して決めればよいが、例えば、圧力差が20mmH2O以下のときは通気性が無く、圧力差が20mmH2O以上のときは通気性が有るように圧縮するようにすると好適である。
【0045】
弁体22を構成する弾性材料は複数の微細孔を有するもので伸びた状態でこの微細孔を通過するものであれば足りるが、例えば、ポリプロピレン、各種ゴム、各種エラストマーを挙げることができる。連通多孔孔質体の場合には、ゴム及び/又はプラスチック原料に不活性ガス、分解性発泡剤、揮発性有機液体を混合し、内部に気泡を形成することにより発砲させて連通多孔を形成したものや、ゴム・プラスチック原料に炭酸カルシウムなどの無機粒子を混練りしたものを板状に形成した後、無機粒子を溶出して連通多孔を形成したもの等が挙げられ、前記ゴム及び/又はプラスチック原料としては、弾性材料として、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ネオプレンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。中でも特に、液体に対しての耐久性や、連通多孔質体の形成しやすさ、生産性等を考慮するとエーテル系ポリウレタン樹脂などが好適である。
【0046】
弁体22を構成する弾性材料は圧力差が働くと伸び、通気すると圧力差は減少し、ついには元の状態に戻り通気は無くなるという繰り返しによっても、常にはじめの圧縮された通気性のない状態が維持されると好適である。このためには圧縮体であると圧縮永久ひずみ特性が優れていることが好適である。他の特性としては、さらに弁体22のヤング率が1MPa以上5000MPa以下であることが好適である。また、弁体22はアスカーF型硬度計による硬度が30以上100未満であることが好適である。
【0047】
弁体22は、圧縮前の単位長さ当たりの孔数が4個/cm以上1000個/cm以下のものとすることによって、内圧調整を容易にすることができやすい。更に、圧縮を、加熱や高周波による発熱を付与したことにより、成形したものが、厚み8mmの盤状体を検体としたときのアスカーC型硬度計による硬度が20以上100未満であることが望ましい。この圧縮は圧縮率を圧縮前の材料の厚みの5%以上40%以下とすることによって圧力差が所定値未満の場合に確実に閉塞されたものとしやすい。
【0048】
撥水膜体24は、通気性を有する撥水性材料から構成された略円板形状の平板である。本実施形態では、撥水膜体24の材料として通気性の撥水性材料を用いているが、これに限られることなく、防水性材料、弁体22に対してインク成分が接触することを防止する膜であれば足り、臨界表面張力が大きい材料であってもよい。また通気性は、膜が導通口12g全体を塞がず少なくとも一部が貫通している場合については必要ではない場合がある。
【0049】
本実施形態で用いられる撥水性材料は、それ自体通気性を有する材料であれば足りる。特に臨界表面張力が25dyn/cm以下である撥水性材料であると好適である。そのような材料として、各種樹脂膜、無機膜が用いられるが、フッ素樹脂、フッ素ゴムなどを好適に用いることができ、テフロン(登録商標)、すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いるとさらに好適である。
【0050】
撥水膜体24は、通気性を考慮して連通している複数の微細孔を有し、複数の微細孔の孔径は5μm以下、より好ましくは0.1μm以下とすると好適である。
【0051】
押圧リング26は、略円形状の平板の中央に略円形断面の貫通孔26aが形成された所謂ドーナツ型形状の平板である。本実施形態では、押圧リング26をドーナツ形状とすることで、撥水膜体24と弁体22の間に空気層29(図3参照)を形成するようにしている。この空気層により、例え撥水膜体24を通過しても空気層29があるので、より弁体22にインク貯蔵部10に貯えられたインクMが達することを防止できるので好適である。
【0052】
なお、本実施形態では所謂ドーナツ型形状の押圧リング26を例示したがこれに限られることなく、空気層29を形成できる構造のものを用いて代用することが可能である。すなわち撥水膜体24と弁体22の間に空気の層を形成できる部材形状、配置であれば代用することが可能である。本実施形態では上述の通り、弁体22を均一に押圧するので好適であることから中空略円盤形状の押圧リング26を用いている。
【0053】
また、押圧リング26は、本実施形態では金属を素材として形成されている。これにより、押圧リング26の上下両面の平滑度が高められ、弁体22や撥水膜体24に均一な面圧が作用して互いの接触面の密着度を高め、これによりインクが漏れるのを阻止できるようにしている。
【0054】
キャップ28は、適宜の剛性を有する樹脂材で成形され、円板状の天井部28aと、その周縁から軸方向に延在する筒状の周面部28bとを有する。天井部28aには、撥水膜体着座部12fに対向する位置(図の下面)に平坦な面を成す環状の弁体着座部28cが形成され、この弁体着座部28cには3個の通気孔28dが設けられている。なお、この通気孔28dの個数は3個に限定されることはなく、これ以外の複数個であってもよい。
【0055】
図3に戻って、キャップ28の天井部28aと周面部28bの内側における角部、換言すると、天井部28aの下面側の周縁(周面部28bの内周側の付け根)には、薄肉で形成した弾性ヒンジPが設けられる。こうして、弁体着座部28cを形成する円状の突条部28fの外側近傍に存するヒンジPを基点として周面部28bが弾性変形し易くなるようにしている。さらに、周面部28bの下端は下端受容部12iに当接しうるように形成されている。
【0056】
本実施形態では、この下端が下端受容部12iに当接することでキャップ28の押し込み量を一定に制限し、空気流量制御部20が無理に圧縮されるのを回避している。すなわち、周面部28aの下端は、キャップ28を凹部12eに装着する際に、一時的に下端受容部12iに当接するストッパとして機能するようになっている。この結果、組み立て時において弁体22や撥水膜体24に過負荷が作用し、空気流量制御部20の機能が低下するのを防止することができる。
【0057】
なお、組み立てを完了した後は、弁体22および撥水膜体24の復元力によって、キャップ28が上方に付勢され、キャップ28の周面部28aの下端と下端受容部12iの間には微小な隙間が形成されるようになっている。このようにすることで、凹部12eにキャップ28を装着した場合に、弁体22、押圧リング26および撥水膜体24を、キャップ28の弁体着座部28cと凹部12eの撥水膜体着座部12hの間に適正な圧力で挟持することが可能となっている。
【0058】
即ち、この空気流量制御部20は、弾性変形可能とされることで、インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で正負双方向の空気交換を行わせる連通多孔質の弁体22に対して、インクM側に当接するように押圧リング26が配置され、更に押圧リング26のインクM側には撥水膜体24が当接するように配置される。更に、弁体22の空気通過方向両外側には、弁体22が弾性変形するための空隙が形成され、この撥水膜体24、押圧リング26、および弁体22が挟圧保持される構造となる。
【0059】
次に、キャップ28と凹部12eの相互関係の構成を説明する。図5および6は、図3のB部を拡大した要部拡大断面図である。これらの図に示されるように、キャップ28の周面部28bの外面には、軸方向に上から順に棚状(断面楔状または断面鋸歯状)に突出する第1係合部28gと、なだらかな山状に突出する第2係合部28hとで成る係合部が円周方向に形成される。第1係合部28gには、傾斜面28g1が形成され、第2係合部28h共々キャップ28の押し込みをスムーズに行えるようにしている。凹部12eの内周壁には、この係合部に係合する被係合部、すなわち、第1被係合部12kと第2被係合部12lとが内周方向に形成され、これによりそれぞれ第1係合部28gおよび第2係合部28hに係合する嵌合部が形成される。
【0060】
こうして、キャップ28を凹部12eに押し込んで蓋をする場合には、周面部28bは弾性ヒンジPを中心にしてたわみ変形をしながら、凹部12eに進入し、図6の交差するハッチング部で図示するように、第1係合部28gは第1被係合部12kに、第2係合部28hは第2被係合部12lにそれぞれ食い込んで嵌合する。この結果、第1係合部28gと第1被係合部12kとの嵌合により、その楔効果によってキャップ28が軸方向へ抜けるのを防止し、第2係合部28hと第2被係合部12lとの嵌合により、その接触面積の広さによってキャップが周方向へ回転するのを阻止するようにしている。
【0061】
なお、上記では第1係合部28gと第1被係合部12k、および第2係合部28hと第2被係合部12lとで係合部、すなわち、嵌合部を形成したが、実質的にキャップ28の抜けと回転を防止する機能を有する態様の嵌合部であれば、一つの係合部と、これに係合可能な一つの被係合部とで嵌合部を形成する態様でもよいのは勿論である。また、上記では第1係合部28gを上方に、第2係合部28hを下方に設定したが、上下位置関係を逆にすることも可能であるのは言うまでもない。同様に、ここでは周面部28b側に係合部を形成し、凹部12e側に被係合部を形成する場合を示すが、これらの関係は反対であってもよい。
【0062】
<インク活用弁>
空気流量制御部20は、インク貯蔵部10の内部13のインクMを吸収することによって空気流量を制御するインク活用弁40をさらに備えるものであってもよい。
【0063】
図7は、インク活用弁40を備える空気流量制御部20の断面図である。インク活用弁40を備える空気流量制御部20では、同図に示されるように、導通口12gの内径が一定に形成されると共に、導通口12gの周縁を内部13に向けて突出させた連結用筒部14aが形成されている。連結用筒部14aの下端縁は、水平方向に対して一定の角度で傾斜している。
【0064】
インク活用弁40は、この連結用筒部14aに同軸状に接続される保持部41と、保持部41の内部に装填されるインク吸収体42と、連結用筒部14aと保持部41の接続部分に配設される第2撥水膜体43を備えている。このインク活用弁40は、導通口12gに気水密の状態を維持して連通されており、保持部41の下端はインク吸収体42と共にインクMに浸漬される。すなわち、インク活用弁40は、インク吸収体42がインクMを吸収し、このインクMの吸収量に応じて内部13への空気流入抵抗を増大させることによって空気流量を制御するように構成されている。
【0065】
保持部41は、例えば上端が閉塞され下端を開口させた円筒である。保持部41の上端の中央には、連結用筒部14aが挿入される挿入口41aが形成されている。また、保持部41の上端近傍の内壁には、連結用筒部14aと当接可能な環状の段部41bが、水平面に対して傾斜して形成されている。段部41bが環状となっているのは、内側を空気が通過する必要があるためである。そして、この連結用筒部14Aと段部41bの間に、第2撥水膜体43が挟み込まれている。これにより、第2撥水膜体43が適切に固定される。
【0066】
インク吸収体42はインクMを吸収する機能を有するウレタン、フェルト等の素材を用いて形成される。換言すると、これら素材を圧縮することで、内部に微少孔を多数有して多孔質体を形成し、これら微少孔が互いに連通し合い、インクMが毛細管現象を利用して吸収されていく機能を有する。こうして、インク吸収体42は自体を流通する空気が気泡となって保持部41下端からインク貯蔵部10内に流出するのと入れ替わりに、インクMを吸収し、インクMがしみこんでいくが、インクMの吸収量が増大するに応じて、空気の流入抵抗を増大させるように形成されている。
【0067】
なお、インク吸収体42の材質は、上記例に限定されず、例えば、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリプロピレン等の繊維を長手方向に沿わせて束ねた繊維集束体、ポリエチレン等の焼結体、羊毛やレーヨンなどの天然繊維フェルトや、ポリエステルやポリプロピレンなどの化学繊維フェルト等から構成されるフェルト材、ウレタンの連通発泡体であるポリウレタンフォームなど、様々なものを利用することができる。
【0068】
第2撥水膜体43は、撥水膜体24と実質的に同一の素材であるPTFEから構成された略円板形状の平板である。従って、第2撥水膜体43は、インク成分が接触することを防止する膜で、それ自体通気性を有する材料であれば足り、通気性を考慮して連通する複数の微細孔を有する。第2撥水膜体43により、インク吸収体42に吸収されるインクMが飽和して上昇し、撥水膜体24まで上昇するのを防止できる。また、第2撥水膜体43が傾斜しているので、インク滴が一時的に付着した場合でも、この傾斜面に沿ってインク滴が一方向に偏るので、第2撥水膜体43の通気性が阻害されることを抑制できる。
【0069】
また、第2撥水膜体43とインク吸収体42の間、ならびに第2撥水膜体43と撥水膜体24の間には、それぞれ空気層44、45が介在される。本実施形態では、このように空気層44、45を介在させることによって、インク吸収体42に吸収されたインクMが第2撥水膜体43まで到達し難くすると共に、第2撥水膜体43を通過したインクMが撥水膜体24まで到達し難くしている。
【0070】
このように、空気流量制御部20にインク活用弁40を備えることにより、インク貯蔵部10の内部13と外部(大気圧)の圧力差を大きくすることができる。本実施形態では、インク活用弁40を備えない空気流量制御部20が内部13の空間S2(インクMの液面上の空間)に約−40mmH2Oの負圧を発生させるのに対し、インク活用弁40を備える空気流量制御部20は、空気層44、45に約−40mmH2Oの負圧を発生させると共に、内部13の空間S2に約−140mmH2Oの負圧を発生させるようになっている。
【0071】
なお、撥水膜体24または第2撥水膜体43のいずれかを省略し、いずれか一方のみを備えるように空気流量制御部20を構成してもよい。また、空気層44、45を設けないように空気流量制御部20を構成してもよい。
【0072】
<インク吐出部>
図8は、インク吐出部30の断面図である。同図に示されるように、本体部11の底面において、外側(図の下方)に向けて突出形成される円筒状の突出部31と、本体部11の底面において、内側(図の上方)に向けて突出形成される円筒状のシリンダ34を備える。突出部31の内部には円形断面の挿通孔15が形成される。この挿通孔31は、シリンダ31側に進むにつれて小さくなるような、逆さのすり鉢形状となっている。また、シリンダ31の内部にもガイド孔34aが形成される。挿通孔15とガイド孔34aは同軸状態で連続している。
【0073】
挿通孔15及びガイド孔34aの内部には移動弁33が配置されている。挿通孔15は、既に述べたように、逆さのすり鉢形状となっている。この結果、移動弁33の周囲に、インクを保持するための保持空間15aが形成される。この保持空間15aに対して、側面側から、インク供給路形成機構90がインクを供給するようになっている。移動弁33は特に、シリンダ34側のガイド孔34aに沿って摺動することで、上下方向に案内される。この挿通孔15(突出部31)の下端にはリング状のシール部材32が設けられている。更に、シリンダ34側のガイド孔34aには、移動弁33をシール部材32に向けて付勢するコイルスプリング35が収容される。このコイルスプリング35の上端は、シリンダ34の底部34bに当接し、コイルスプリング35の下端は、移動弁33に当接する。
【0074】
突出部31は、周壁が2重に構成された円筒状に形成されており、先端から挿入されたシール部材32が嵌合するように構成されている。なお、突出部31に形成される挿通孔15の内径は、シリンダ34に形成されるガイド孔34aよりも大きい。
【0075】
シール部材32は略円筒状の部材であり、ゴム等の弾性材料から構成されている。シール部材32の上端32aの内周面には、半径方向内側に突出する環状の当接部32cが形成される。この当接部32cの中央は吐出口32bとなる。移動弁33は、その下端を当接部32cに当接させることで、吐出孔32bを閉じる。シール部材32の下端には、半径方向外側に向けて拡張する環状の拡張部32dが形成されている。更に、拡張部32dの最外縁には、上方に向けて折り返された鍔部32eが設けられている。なお、シール部材32の内部空間は、上端32a側の吐出口33bから下端側にかけて放物線状に内径が拡大するように形成されている。
【0076】
このシール部材32は、上端32aを突出部31の内部(挿通孔15)に圧入すると共に、鍔部32eの先端を突出部31の2重の周壁の間に圧入することによって配設される。圧入する事で、シール部材32全体と鍔部32eが弾性変形し、その復元力によって突出部31に密着する。この結果、シール部材32は突出部31に安定して固定されると共に、シール部材32と突出部31の隙間からインクMが漏出しないようになっている。
【0077】
移動弁33は、先端側(図の下側)の大径部33aと、基端側(図の上側)の小径部33bからなる略円柱状の部材である。小径部33bはコイルスプリング35内に挿入される。コイルスプリング35の下端は、小径部33bと大径部33aの段差に係合している。大径部33aの外形は、ガイド孔34aの内径と略一致している。この結果、移動弁33はガイド孔34aによって軸方向に案内される。この移動弁33は、コイルスプリング35によってシール部材32側に向けて常に付勢される。従って、未使用時は、移動弁33の大径部33aの下端がシール部材32に当接して吐出口32bを塞ぐ。コイルスプリング35の付勢力は、大径部33aの下端がシール部材32を適宜に弾性変形させ、両者の隙間からインクMが漏出することのない大きさに設定されている。
【0078】
シリンダ34の上端側に形成される底部34bの中央には、シリンダ側連通路34cが形成される。また、シリンダ34には、その上端を覆うようにしてキャップ60が設けられている。キャップ60の中央にもキャップ側連通路60aが形成される。このシリンダ側連通路34cとキャップ側連通路60aは、シリンダ34内にたまっている空気を排出すると共に、その代わりとしてインクMをシリンダ34内に導入する。これにより、シリンダ34内の空気が、挿通孔15側から吐出されて印字トラブルが発生することを抑制する。シリンダ34の上端とキャップ60の間には、シリンダ側流量制御弁62が挟持されている。このシリンダ側流量制御弁62は、ステンレスの微細繊維となるステンレスファイバーを、不織布状に集積させて圧縮形成した円盤状の金属メッシュであり、空気またはインクMが流れにくくなっている。具体的にシリンダ側流量制御弁62のMRF(メディアフローレジスタンス)が、5L/min/cm2以下、好ましくは3L/min/cm2以下となるようにする。
【0079】
<インク供給路形成機構>
次に、インク吐出部30に対してインクMを案内するインク供給路形成機構90について説明する。このインク供給路形成機構90は、ホルダ設置孔70、ホルダ80、キャップ84、ホルダ側流量制御弁85を備えて構成される。
【0080】
ホルダ設置孔70は、シリンダ34に隣接するようにして本体部11の底面に形成される。このホルダ設置孔70は、その基底側において、挿通孔15(又はガイド孔34a)と繋がる貫通口70aが形成されている。ホルダ設置孔70にホルダ80が挿入されることで、ホルダ80が保持される。
【0081】
ホルダ80は、図9に拡大して示されるように、固定部81、キャップ受け部82、制御弁設置部83を備える。固定部81は、円柱形状であって、微細孔81aが軸方向(上下方向)に貫通形成されている。固定部81の外形は、ホルダ設置孔70と略一致しており、この固定部81をホルダ設置孔70に挿入することで、ホルダ80を固定する。この微細孔81aは、ホルダ設置孔70の基底部分から貫通口70aを介して、インク吐出部30の挿通孔15と繋がっている。
【0082】
キャップ受け部82は、固定部81の上方に連続形成されており、固定部81よりも大きい有底の円筒形状となっている。固定部81側の微細孔81aは、キャップ受け部82内に開口している。このキャップ受け部82には、底側に一定の隙間82aを残した状態で、その上方をキャップ84によって完全に覆う構造となっている。
【0083】
制御弁設置部83は、キャップ受け部82の下方であって、且つ固定部81に隣り合うようにして形成される。この制御弁設置部83は円筒形状であり、内部は、ホルダ側流量制御弁85を収容する為の収容空間となる。また、制御弁設置部83の上側には天井面83aを備えている。この天井面83aの一部には、キャップ受け部82に貫通する連続孔83bが形成される。また、この制御弁設置部83内には、環状の段部83cが形成されており、この段部83cを利用してホルダ側流量制御弁85が接着剤によって固定される。なお、このホルダ側流量制御弁85は、ステンレスの微細繊維となるステンレスファイバーを、不織布状に集積させて圧縮形成した円盤状の金属メッシュであり、空気またはインクMが流れにくくなっている。具体的にシリンダ側流量制御弁62のMRF(メディアフローレジスタンス)が、5L/min/cm2以下、好ましくは3L/min/cm2以下となるようにする。
【0084】
このインク供給路形成機構90を組みたてる際には。図10に示されるように、まず、ホルダ80の制御弁設置部83に対してホルダ側流量制御弁85を装着し、更にキャップ受け部82にキャップ84を装着する。その後、固定部81の下端側を、ホルダ設置孔70に挿入して固定して完了する。
【0085】
この結果、図8に示されるように、連続孔83b、隙間82a、微細孔81a、貫通孔70aが繋がることで、微細なインク供給路88が形成される。なお、インク供給路88の一方(インク吐出部側)の開口端88Aは貫通口70aであり、他方(インク貯蔵部側)の開口端88Bは、制御弁設置部83の収容空間となる。このインク供給路88のみでも、その迷路構造並びに流路径が小さいことから、流量制御機能を有している。
【0086】
また、このインク供給路形成機構90は、インク供給路88のインク貯蔵部10側の開口端88Bが、インク貯蔵部10の底面に近接配置される。具体的には、制御弁設置部83が、インク貯蔵部の底面に対向した状態で近接配置される。このようにすることで、インクMが残り少なくなっても、インク供給路形成機構90がそのインクMを吸い上げて、インク吐出部30に供給可能となる。一方で、行く供給路88の開口端88A(貫通70a)は、

更にインク供給路88におけるインク吐出部側の開口端88Aは、インク貯蔵部側の開口端88Bよりも高低差Lだけ低位置に配置される。より具体的に、インク供給路88におけるインク吐出部側の開口端88Aは、インク貯蔵部10における内部空間の底面よりも低位置に配置される。このようにすることで、インク貯蔵部側の開口端88Bより高さが一時的に高くなる構造のインク供給路88であっても、サイホン効果によって、最後までインクMを断絶することなる供給できる。
【0087】
更にこのインク供給路形成機構90は、インク供給路88中にホルダ側流量制御弁85が配置されているので、インクMの流量が更に制限されて、インクMの過剰供給を抑制することが可能となる。なお、インク供給路88においてインクMが通過する最小断面積は、0.5mm2以内であることが好ましく、更に望ましくは0.17mm2以内に設定される。このようにすると、毎分0.7cc程度の理想的なインク供給量とすることができる。なお本実施形態では、ホルダ側流量制御弁85を、インクMが通過可能な最小断面積に設定している。具体的には、微細メッシュ構造となっているホルダ側流量制御弁85において、その開口率から上記最小断面積を設定することが可能だからである。
【0088】
インクジェットプリンタのキャリッジにこのインク貯蔵容器100がセットされると、キャリッジが備える部材により、コイルスプリング35の付勢力に抗して移動弁33が上方へ押し上げられ、所定の負圧状態で、インクがインクジェットプリンタに供給されるようになっている。
【0089】
以上説明したように、本実施形態に係るインク貯蔵容器100は、容器上部の空気流量制御部20に加えて、底側にはインク供給路形成機構90が設けられている。従って、空気流量制御部20の弁体22により、内部13を適正な負圧に維持することに加えて、インク供給路形成機構90が、インクMの供給量を直接的に制御するので、インクMの供給量を一層安定させることが出来る。なお、定常時は、空気流量制御部20のみであっても、その負圧によって適切なインク供給量を維持できる。しかし、プリンタ側の吸引力の増大や、外部衝撃等を受けると、負圧制御だけでは供給量が容易に変化しやすい。そこで本実施形態のように、インク供給路形成機構90を利用して、インク供給路88を微細化したり、途中に制御弁85を設けたりすることで、流量変動に対して所定の抵抗を持たせるようにしている。この結果、インクの過剰供給を抑制することが可能となり、適切な供給量を安定して維持することが可能となる。
【0090】
更に本実施形態では、インク吐出部30においても、インクMが案内されるキャップ側連通路60aやシリンダ側連通路34cが微細化されているので、インクの供給量を制御することが可能となる。特に、シリンダ側流量制御弁62が設けられているので、インクの過剰供給を抑制することが可能となり、適切な供給量を安定して維持することが可能となる。なお、インクMを充填する際に、シリンダ34内に空気が残留しやすいことから、このような構造とすることで、内部の空気をキャップ側連通路60aやシリンダ側連通路34cから適切に排出することができるので、インクと共に空気が外部に吐出される事態を抑制できる。なお、このインク貯蔵容器100をプリンタにセットする際に、移動弁33の周囲に空気が流入する場合があるが、シリンダ34の内部空間は、この空気を吸収して上方に排出することで、プリンタ側に空気が供給されないようにする機能も有している。なお、キャップ側連通路60aやシリンダ側連通路34cを完全に塞いでしまい、シリンダ34側からはインクMが供給されないようにすることも勿論可能である。
【0091】
なお、本実施形態では、シリンダ34側からは基本的にインクMを供給しない構造としたが、本発明はこれに限定されず、例えば図11に示されるように、シリンダ34の内周壁にインク供給溝34eを形成し、積極的にインクMを供給するようにしても良い。このインク供給溝34eは、移動弁33側に形成するようにしても良い。このインク供給溝34eは、移動弁33の周囲に流入した空気を、シリンダ34側に排出する役割も担う。
【0092】
また、本実施形態では、インク貯蔵部10の底面にホルダ設置孔70を形成することで、インク供給路形成機構90を立設する場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図12に示されるように、インク貯蔵部10の底面自体に、インク供給路88を形成することも可能である。このようにすることで、インクMを最後まで使い切ることが可能となる。また、同底面自体に、流量制御弁85を収容する為の凹部(収容部)89を形成すれば、同流量制御弁85による流量制御も可能となる。
【0093】
更に本実施形態では、インク吐出部30にゴム状のシール部材32が配置され、このシール部材32と移動弁33が当接することで、インクの供給・停止を切り替える構造に限って示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図13に示されるように、移動弁33シールリング92を設置し、このシールリング92を、挿通孔15の段部93に当接させることで、インクの供給・停止を切り替えることも可能である。更に、移動弁33の下端にインク保持体96を設けておき、移動弁33及びインク保持体96が上昇すると、インクMがこのインク保持体96に吸収されるようにすることも可能である。このようにすることで、このインク保持体96を介して外部にインクを供給することが可能となる。なお、この場合は、突出部31の下端に、半径方向内側に向かって係合突起31bを形成することで、インク保持体96の下方の移動又は落下を規制することが好ましい。また、インク保持体96のインクの吸収速度を速めるには、図14に示されるように、移動弁33の下端に凹部33d等を形成することで、移動弁33とインク保持体96の間に隙間を形成する。このようにすると、移動弁33とインク保持体96の間にインクの流路が形成されるので、インクの吸収速度を高めることが出来る。なお、特に図示しないが、挿通孔15側にシールリングを設置すると共に、移動弁33側に段部を形成して、両者を当接させることも可能である。
【0094】
また本実施形態では、シリンダ34と移動弁33の隙間を、インクMや空気が移動可能な構造について説明したが、例えば図15に示されるように、シリンダ34と移動弁33の摺動部分にシール機構(ここではシール用のOリング)120を設置することで、インク貯蔵部10側のインクMが、シリンダ34を介して移動弁33から流出しないようにすることも望ましい。このようにすることで、インクMの供給は、インク供給形成機構90側に限定することが可能となり、吐出量を高精度に制御できるようになる。なお、この場合は、シリンダ34の上方にシリンダ側連通路34cを形成するだけで済む。即ち、図8で示したようなキャップ60やシリンダ側流量制御弁62を設ける必要が無い。
【0095】
以上、本発明を実施形態により詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も本発明の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、インク貯蔵容器、特にインクジェットプリンタ用のインクカートリッジとして利用できる。
【符号の説明】
【0097】
10 インク貯蔵部
11 本体部
12 上面部
12a 天板
12c 内壁
12d 連通孔
13 インク貯蔵部の内部
20 空気流量制御部
22 弁体
24 撥水膜体
30 インク吐出部
33 移動弁
34 シリンダ
42 インク吸収体
62 シリンダ側流量制御弁
80 ホルダ
84 キャップ
85 ホルダ側流量制御弁
90 インク供給路形成機構
100 インク貯蔵容器
M インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯蔵するインク貯蔵部と、
前記インク貯蔵部の上方側に設けられて、内外間の空気流量を制御する空気流量制御部と、
前記インク貯蔵部の下方側に設けられると共に、外部部材からの付勢によって上下動する移動弁を備え、該移動弁の上下動によって前記インクの吐出・停止を切り替えるインク吐出部と、
前記インク貯蔵部から前記インク吐出部の間を連通して、前記インクを前記インク吐出部に案内するインク供給路と、を備えることを特徴とするインク貯蔵容器。
【請求項2】
前記インク供給路における前記インク貯蔵部側の開口端は、該インク貯蔵部の底面に近接配置されることを特徴とする、請求項1に記載のインク貯蔵容器。
【請求項3】
前記インク供給路における前記吐出部側の開口端は、前記インク供給路における前記インク貯蔵部側の開口端よりも低位置に配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のインク貯蔵容器。
【請求項4】
前記インク供給路における前記吐出部側の開口端は、前記インク貯蔵部における内部空間の底面よりも低位置に配置されることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載のインク貯蔵容器。
【請求項5】
前記インク供給路には、前記インク吐出部に供給される前記インクの流量を制限する流量制御弁が設けられることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のインク貯蔵容器。
【請求項6】
前記流量制御弁は、金属メッシュであることを特徴とする、請求項5に記載のインク貯蔵容器。
【請求項7】
前記インク供給路には、前記流量制御弁を収容する為の収容空間が形成されることを特徴とする、請求項5又は6に記載のインク貯蔵容器。
【請求項8】
前記インク供給路における前記インク貯蔵部側の開口端に、前記収容空間が形成されることを特徴とする、請求項7に記載のインク貯蔵容器。
【請求項9】
前記収容空間は、前記インク貯蔵部の底面に対向した状態で近接配置されることを特徴とする、請求項7又は8に記載のインク貯蔵容器。
【請求項10】
前記インク供給路の最小断面積が、0.5mm2以内であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載のインク貯蔵容器。
【請求項11】
前記インク吐出部は、前記移動弁を摺動させながら上下方向に案内する筒状のシリンダを備えることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれかに記載のインク貯蔵容器。
【請求項12】
前記移動弁と前記シリンダの間には、前記インク貯蔵部に貯蔵されるインクが漏れ出すことを抑制するシール機構が設けられることを特徴とする、請求項11に記載のインク貯蔵容器。
【請求項13】
前記シリンダには、該シリンダの内部空間と前記インク貯蔵部の内部空間を連通するための連通路が形成されることを特徴とする、請求項11又は12に記載のインク貯蔵容器。
【請求項14】
前記連通路には、前記インク貯蔵部から該シリンダの内部に流入するインクの流量を制御するシリンダ側流量制御弁が設けられることを特徴とする、請求項13に記載のインク貯蔵容器。
【請求項15】
前記空気流量制御部は、通常時は空気を流通させないが、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質の弁体と、前記弁体よりも前記インク貯蔵部側に配設されて通気性を有しかつ撥水処理を施された撥液膜体と、を備えることを特徴とする、請求項1乃至14のいずれかに記載のインク貯蔵容器。
【請求項16】
前記空気流量制御部は、
弾性変形可能とされることで、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で正負双方向の空気交換を行わせる連通多孔質の弁体と、
前記弁体のインク側に当接するように配置されると共に、中央に貫通孔を形成した押圧リングと、
前記押圧リングのインク側に当接するように配置されると共に、通気性及び撥液性を有する撥液膜体と、を具備し、
前記弁体の空気通過方向両外側には、前記弁体が弾性変形するための空隙が形成され、
前記撥液膜体、前記押圧リング、および前記弁体が挟圧保持されることを特徴とする、請求行為1乃至15のいずれかに記載のインク貯蔵容器。
【請求項17】
前記空気流量制御部は、前記インクを吸収することにより、通常時は空気を流入させないが前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて空気交換を行わせるインク吸収体を、前記撥液膜体よりも前記インク貯蔵部側に備えることを特徴とする、請求項15又は16に記載のインク貯蔵容器。
【請求項18】
前記移動弁の下端には、インクを吸収して外部に供給可能なインク保持体が設けられることを特徴とする、請求項1乃至17のいずれかに記載のインク貯蔵容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−25540(P2011−25540A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173963(P2009−173963)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(503401614)ジット株式会社 (15)
【Fターム(参考)】