説明

インサート部品及びその製造方法

【課題】本発明は、インサート部材と樹脂材との接着性を向上させたインサート部品の製造方法を提供する。
【解決手段】金属製の母材21と、この母材21の表面に形成された金属製のメッキ層22とを備えてなる端子金具13のうちハウジング12を構成する樹脂材に覆われるインサート部14には、レーザ光を照射して格子状パターンでメッキ層22が除去されて母材露出部25が形成されている。母材露出部25の表面はレーザ光に削られることで粗化されて凹部23が形成されている。母材21に形成された凹部23内にはハウジング12を構成する樹脂材が進入した状態でインサート成形されており、凹部23内に進入した樹脂材がアンカーとなって、母材21と樹脂材とを強固に固定するようになっている。これにより端子金具13と樹脂材との接着性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のインサート部材を樹脂材で覆ってなるインサート部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インサート部品として特許文献1記載のものが知られている。このものは、インサート部材である端子金具を、樹脂材で覆うようにインサート成形してなるコネクタであって、端子金具のうち樹脂材から突出した部分が相手方端子と接続可能になっている。
【特許文献1】特開平9−7672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のインサート部品においては、例えば端子金具の防食性向上のために、端子金具の表面にメッキ層を形成する場合がある。例えば、このメッキ層と端子金具との接着強度が比較的弱い場合には、相手側端子を挿抜する際に端子金具に加えられる力によりメッキ層が端子金具から剥離し、この結果、樹脂材と端子金具との接着性が低下することが懸念される。
【0004】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、インサート部材と樹脂材との接着性を向上させたインサート部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、金属製の母材の表面にメッキ層が形成されてなるインサート部材を樹脂材で覆ってなるインサート部品の製造方法であって、前記メッキ層を所定のパターンで除去することにより前記母材表面を露出させて母材露出部を形成し、その後、前記インサート部材をインサート成形することを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1記載の方法において、前記母材露出部の表面は粗化加工されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2記載の方法において、前記メッキ層は、前記インサート部材にレーザ光を照射することにより除去されることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の方法において、前記パターンは格子状であることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項4記載の方法において、前記パターンの格子間隔は、2mm以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の方法において、前記パターンは、前記インサート部材のうち前記樹脂材で覆われる領域の全体のメッキ層を除去するものであり、且つ、前記メッキ層が除去された前記母材露出部の表面は梨地状に粗化加工されていることを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は、金属製の母材の表面にメッキ層が形成されてなるインサート部材を樹脂材で覆ってなるインサート部品であって、前記インサート部材のうち前記樹脂材に覆われた部分には、前記メッキ層が存在せず前記樹脂材に直接に接する母材露出部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項8の発明は、請求項7記載のものにおいて、前記母材露出部の表面は粗化加工されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
<請求項1及び請求項7の発明>
請求項1及び請求項7の発明によれば、樹脂材は、母材露出部において、母材表面と直接に接するようになっている。これにより、例えばメッキ層の強度が比較的弱い場合など、メッキ層に起因してインサート部材と樹脂剤との接着強度が低下することを抑制できる。
【0014】
<請求項2及び請求項8の発明>
請求項2及び請求項8の発明によれば、樹脂材は、粗化加工された母材露出部の表面に形成された凹部に進入して食い込んだ状態で形成されるので、母材に対してアンカーとして機能する。これにより、樹脂材と母材とが強固に結合するので、インサート部材と樹脂材との接着性が一層向上する。
【0015】
<請求項3の発明>
請求項3の発明によれば、メッキ層はレーザ光を照射することにより除去される。このため、レーザ光の照射領域を制御することにより、複雑なパターンでのメッキ層除去を容易に行うことができるから、メッキ層を除去するパターンの設計について自由度が向上する。
【0016】
<請求項4の発明>
メッキ層を格子状に除去することにより、樹脂材と母材との接着強度を均一にすることができる。
【0017】
<請求項5の発明>
請求項5の発明によれば、格子状のパターンの格子間隔は2mm以下とされる。これにより、母材の表面における凹部の密度が高くなるため、樹脂材のアンカーとしての機能が向上し、インサート部材と樹脂材との接着性が一層向上する。
【0018】
<請求項6の発明>
請求項6の発明によれば、インサート部材のうち樹脂材で覆われる領域に形成されたメッキ層は除去されているから、例えばメッキ層の強度が比較的弱い場合など、メッキ層が原因となって母材と樹脂材との接着性が低下することを防止できる。さらに、梨地状に粗化された母材露出部の表面に形勢された凹部に樹脂材が進入して食い込んだ状態で形成されることで、樹脂材が母材に対してアンカーとして機能する。これにより、母材と樹脂材とが強固に結合するから、インサート部材と樹脂材との接着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<実施形態1>
本発明をコネクタ10(本発明に係るインサート部品に該当)に適用した実施形態1を図1ないし図4を参照して説明する。このコネクタ10は、図1に示すように、両端にそれぞれ相手のコネクタ(図示せず)が嵌合される嵌合凹部11を設けた合成樹脂製のハウジング12に、図示2本の端子金具13(本発明に係るインサート部材に該当)がそれぞれの両端を各嵌合凹部11内に突出させた状態でインサート成形されて形成されている。
【0020】
端子金具13は、金属板材をプレス成形することにより細長い形状に形成されており、その長さ方向の中央の一定長さの部分が、ハウジング12内に埋設されて合成樹脂材で覆われるインサート部14となっている。
【0021】
コネクタ10の製造用金型15は、図2に示す構造となっている。この製造用金型15は、固定金型16と、その固定金型16への接離方向の移動可能に装置された可動金型17とを備えている。可動金型17の接合面には、ハウジング12の本体部と、一方の嵌合凹部11の周壁とを形成するためのキャビティ18Aが形成されている。固定金型16には、他方の嵌合凹部11の周壁を形成するためのキャビティ18Bが形成されている。可動金型17のキャビティ18Aの奥面には、端子金具13の端部を挿入可能な図示2個の挿入孔19Aが形成されているとともに、固定金型16の接合面にも、同じく端子金具13の反対側の端部を挿入可能な図示2個の挿入孔19Bが形成されている。また、固定金型16の前面(図2の左側)には、キャビティ18Bに連通するゲート20が形成されている。
【0022】
さて、図3に示すように、端子金具13は、金属製の母材21と、この母材21の表面に形成された金属製のメッキ層22とを備えてなる。端子金具13のうちハウジング12を構成する樹脂材に覆われるインサート部14には、レーザ光照射装置24によりレーザ光を照射して所定のパターンでメッキ層22が除去されることで、母材表面が露出する母材露出部25が形成されている。この母材露出部25の表面は、レーザ光により削られることで粗化されており、凹部23が形成されている。なお、本実施形態においては、格子状のパターンでメッキ層22が除去されている。
【0023】
図4に示すように、ハウジング12を構成する樹脂材は、粗化された母材露出部25に直接に接する状態でインサート成形されており、凹部23内に樹脂材が進入した状態になっている。このように凹部23内に進入した樹脂材がアンカーとなって、母材21と樹脂材とを強固に固定するようになっている。本実施形態においては、母材21の厚さは0.64mm、メッキ層22の厚さは0.5〜3μmとなっている。また、母材21の表面からの凹部23の深さ寸法は7〜14μmとなっており、凹部23の幅寸法は100μmとなっている。なお、図4は、凹部23が形成された状態を分かりやすく示すために誇張して記載してある。
【0024】
続いて、本実施形態に係るコネクタ10の製造方法について説明する。まず、金属板材である母材21の表面にメッキ層22を形成する。母材21は、導電性を有する金属であれば任意の金属を用いることが可能であり、導電性に優れることから、銅、又は銅合金が好ましい。銅合金としては、銅にスズ、クロム、亜鉛、ケイ素、ニッケル、リン、鉄等から選ばれる一種又は二種以上を含有させたものを用いることができる。
【0025】
また、メッキ層22を構成する金属としては、スズ、鉛、亜鉛、クロム、ニッケル、金、銀、銅等から選ばれる一種を単独で用いてもよいし、また、二種以上を合金として用いてもよい。メッキ層22を構成する金属種を適宜選択することで、母材21に対して、防食性の向上(例えば亜鉛メッキ)や、はんだ濡れ性の向上(例えばスズメッキ)等、種々の性質を向上させることができる。
【0026】
メッキ方法としては、無電解メッキ法、電気メッキ法、又は溶融した金属中に母材21を浸漬する方法等、公知の技術を用いることができる。
【0027】
上記の手法により母材21の表面にメッキ層22を形成した後、プレス加工することで所定の形状をなす端子金具13を切り出す。この端子金具13のうち、インサート部14にレーザ光を照射して所定のパターンでメッキ層22を除去することで、母材21の表面に凹部23を形成する。
【0028】
レーザ光について特に制限はなく、例えばYbファイバーレーザ、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ等を使用できる。レーザ光照射装置について特に制限はなく、パルス発振型であってもよく、連続発振型であってもよい。上記のレーザ光照射装置としては、例えばレーザマーキング装置を好適に用いることができる。
【0029】
上記のパターンは格子状をなしている。これにより、インサート部14における合成樹脂材との接着強度を均一にすることができる。格子間隔を密にすると端子金具13に形成された凹部23の密度が高くなるため、端子金具13と樹脂剤との接着強度を大きくすることができる。このため、格子間隔は2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0030】
一方、格子間隔を密にすると、レーザ光によるメッキ層22の除去作業の作業時間が長くなることが懸念される。そこで、例えば他の領域よりも強い接着性が要求される領域においてのみ格子間隔を他の領域よりも密にする構成としてもよい。これにより、端子金具13と樹脂材との接着性を向上させると共に、メッキ層22の除去作業の作業効率の低下を防止することができる。レーザ光により上記の作業を行う場合、レーザ光の照射領域を予め制御装置に設定することで、微細な領域に複雑なパターンでメッキ層22を除去すると共に母材21に凹部23を形成できるので、パターン設計の自由度が向上する。
【0031】
凹部23の深さ寸法としては、5μm〜20μmが好ましい。凹部23の深さ寸法が5μmより小さいと、アンカーとしての効果が小さくなるので好ましくない。一方、凹部23の深さ寸法が20μmより大きくなってもアンカーとしての効果はさほど向上しないので、レーザ光の出力が大きくなる分だけ製造コストが上昇し、好ましくない。
【0032】
また、凹部23の幅寸法としては、100μm以上が好ましい。凹部23の幅寸法が100μmよりも小さいと、溶融した樹脂材が凹部23内に進入しにくくなるので好ましくない。
【0033】
上記のように端子金具13のインサート部14のメッキ層22を除去した後、端子金具13の一端側を、可動金型17のキャビティ18の挿入孔19に挿入する。続いて型閉じをすると、両端子金具13の反対側の端部が固定金型16の挿入孔19に挿入される。この状態で、図示しない射出成形機を用いて合成樹脂材を、ゲート20からキャビティ18内に射出してインサート成形する。溶融した合成樹脂は、端子金具13の表面に形成された凹部23内に進入すると共に、キャビティ18内に充填され、両金型内で所定の形状に固化する。その後、型開きして成形品を取り出す。
【0034】
合成樹脂としては特に限定されず、ポリオレフィン等の汎用樹脂;ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック等を用いることができる。
【0035】
ポリオレフィンは、特に限定されず、公知のポリオレフィンが使用できる。例えばα‐オレフィン(エチレンを含む)の単独重合体;2種以上のα‐オレフィンの共重合体(ランダム、ブロック、グラフト等いずれの共重合体も含み、これらの混合物であってもよい)が挙げられる。α‐オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。
【0036】
ポリエステルは、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート(ポリブチレンテレフタレート、PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチロールテレフタレート、ネオペンチルテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート等が挙げられる。これらのなかでは、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。
【0037】
ポリアミドとしては、特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610 、ナイロン9、ナイロン6/66、ナイロン66/610 、ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン12、ナイロン46、非晶質ナイロン等が挙げられる。これらの中では、剛性、耐熱性の良好な点でナイロン6およびナイロン66が好ましい。
【0038】
合成樹脂材には、慣用の添加剤、例えば充填剤や強化材(ガラス繊維、炭素繊維、カ―ボンブラック、シリカ、酸化チタンなど)、熱安定剤、光安定剤、酸化劣化防止剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、核剤、発泡剤、耐候剤、滑剤、離型剤、流動性改良剤等が含有されていてもよい。
【0039】
続いて、本実施形態の作用、効果について説明する。例えば、メッキ層22の強度が比較的弱い場合、又はメッキ層22と樹脂材との親和性が比較的低い場合等においては、合成樹脂材と端子金具13とが、メッキ層22の部分から剥がれてしまうことが懸念される。メッキ層22の強度が比較的弱い場合として、例えば、金メッキ、銀メッキ等、比較的軟らかい金属をメッキした場合があげられる。また、メッキ層22と樹脂材との親和性が比較的低い場合として、例えば、ポリオレフィンのように、分子中に極性を有する官能基を含まない合成樹脂材を用いる場合が挙げられる。
【0040】
また、例えば、メッキ層22を形成する金属の融点が、合成樹脂材をインサート成形する際の成形温度よりも低い場合には、インサート成形時に、メッキ層22が溶融してしまい、母材21とメッキ層22との接着強度が低下することが懸念される。このような場合として、例えば、メッキ層22を形成する金属として、共晶はんだ(融点183℃)、無鉛はんだ(融点220℃〜240℃)、スズ(融点232℃)等を用い、合成樹脂材として、ポリエステル(射出成形温度220℃〜320℃)、ポリアミド(射出成形温度230℃〜330℃)、ポリイミド(射出成形温度約400℃)等を用いた場合が挙げられる。
【0041】
また、バスバーには電子部品のリードがリフローはんだ付けにより接続される場合がある。この場合に、例えば、バスバーと電子部品とをリフローはんだ付けする際の加熱温度よりも、メッキ層22を形成する金属の融点が低い場合には、やはり、リフローはんだ付け時にメッキ層22が溶融して、母材21とメッキ層22との接着強度が低下することが懸念される。このような場合として、例えば、メッキ層22を形成する金属としてスズ(融点232℃)を用い、バスバーと電子部品とを無鉛はんだ(融点220℃〜240℃)によりリフローはんだ付けする場合が挙げられる。この場合、無鉛はんだの融点よりも高温(250℃〜280℃)のリフロー炉内で加熱するため、加熱炉内はメッキ層22を形成するスズの融点よりも高温になる。
【0042】
上記の点に鑑み、本実施形態においては、母材露出部25と合成樹脂材とが直接に接するようになっているから、メッキ層22が原因となって母材21と樹脂材との接着性が低下することを抑制できる。また、凹部23内に進入して食い込んだ状態で固化した合成樹脂材がアンカーとなることで、母材21と樹脂材とが強固に結合するから、合成樹脂材と端子金具13との接着性を一層向上させることができる。
【0043】
<実施形態2>
続いて、本発明の実施形態2を図5を参照して説明する。本実施形態は、図5に示すように、端子金具13のうちインサート部14と異なる部分に図示しないマスキングを施した後にサンドブラスト加工を施し、その後、マスキングを除去し、ブラストに使用した粉末を洗浄することで、インサート部14に形成されたメッキ層22を全て除去して母材露出部25を形成し、母材露出部25の表面を梨地状に形成したものである。ここで梨地状とは、母材21のインサート部14の表面のほぼ全域に亘って凹部23が形成された状態をいう。なお、図5は、凹部23が形成された状態を分かりやすく示すために誇張して記載してある。上記以外の構成、作用及び効果については、実施形態1とほぼ同様であるので、同一部分については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0044】
本実施形態によれば、インサート部14材のうち合成樹脂材で覆われる領域に形成されたメッキ層22は除去されているから、例えばメッキ層22の強度が比較的弱い場合、又は、母材21とメッキ層22との親和性が比較的弱い場合など、メッキ層22が原因となって母材21と合成樹脂材との接着性が低下することを防止できる。
【0045】
さらに、梨地状に粗化された母材露出部25の表面に形成された凹部23に合成樹脂材が進入して食い込んだ状態で固化することで、合成樹脂材が母材21に対してアンカーとなる。これにより母材21と合成樹脂材とが強固に結合するから、合成樹脂材と端子金具13との接着性を一層向上させることができる。
【0046】
なお、メッキ層22の除去をサンドブラストにより行うことで、メッキ層22の除去及び母材露出部25表面の粗化を短時間で行うことができる。
【0047】
(接着性評価試験)
以下に、母材と合成樹脂材との接着性向上について、簡易的な手法により評価した。以下の評価においては、インサート成形した試験片を用いず、プレス加工した後に加熱処理を行った擬似的な試験片を用いた。この擬似的な試験片により、凹部内に進入、固化した樹脂材がアンカーとして作用する効果が認められた構造については、インサート成形品においても母材と合成樹脂材との接着性が向上することが認められた。
【0048】
<試験片1>
幅25mm、長さ80mm、厚さ0.64mmの銅板(本発明に係る母材に該当)に電気めっき法により、厚さ0.5〜3μmのスズメッキを施した。この銅板の一方の端部のうち、幅25mm、長さ25mmの領域を接着領域とし、この接着領域に、Ybファイバーレーザ装置を用いてレーザ光を照射して、格子間隔2mmの格子状パターンでメッキ層を除去して、銅板に深さ7〜14μm、幅100μmの凹部を形成した。凹部の深さ寸法及び幅寸法は測長顕微鏡により測定した。
【0049】
その後、上記の接着領域に、公知の熱硬化性樹脂を塗布し、この熱硬化性樹脂の硬化条件に従って、所定温度、所定圧力、所定時間でプレス処理を行い、銅板同士を接着した。
【0050】
続いて、リフローはんだ付け時における加熱を想定して、試験片を加熱炉内に収容し、リフロー時の加熱に対応する温度265℃、加熱時間1分で加熱した。
【0051】
上記のようにして作製した試験片1に対して引張せん断試験を行い、引張せん断応力を測定した。このときの引張速度は、少なくとも後述する各試験片同士の引張せん断応力の差異が観察可能であればよく、本測定試験では10mm/秒で測定を行った。結果を図6に示す。なお、図6におけるメッシュサイズは、格子間隔を意味する。
【0052】
<試験片2>
格子間隔を1mmとした以外は試験片1と同様にして試験片2を作製し、引張せん断試験を行った。結果を図6に示す。
【0053】
<試験片3>
格子間隔を0.5mmとした以外は試験片1と同様にして試験片3を作製し、引張せん断試験を行った。結果を図6に示す。
【0054】
<試験片4>
試験片のうち接着領域を除く領域にマスキングを施し、その後、サンドブラストを行うことで接着領域のメッキ層を全体に亘って除去して銅板の接着領域を梨地状に形成した。続いてマスキングを除去し、ブラストに使用した粉末を洗浄した。上記した以外は、試験片1と同様にして試験片4を作製し、引張せん断試験を行った。結果は、図6におけるメッシュサイズ0mmの値として示した。
【0055】
<試験片5>
スズメッキした銅板に対してレーザ光によるメッキ層の除去を行わない以外は、試験片1と同様にして試験片5を作製し、引張せん断試験を行った。結果は、図6に、未処理リフローと記載した直線により示した。
【0056】
(結果)
銅板に形成されたメッキを所定のパターンで除去することで銅板を粗化して凹部を形成した試験片1〜4における引張せん断応力は、レーザ光を照射しなかった試験片5における引張せん断応力よりも大きな値を示した。これは、銅板同士を接着する際の加熱プレス時に、銅板に形成された凹部内に、接着剤として用いた樹脂が溶融状態で進入した後、固化することでアンカーとなり、接着剤と銅板とが強固に結合したためであると考えられる。
【0057】
一方、試験片5においては、加熱温度(265℃)がスズメッキの融点(232℃)よりも高いことから、加熱炉内での加熱時にスズメッキが溶融し、銅板とスズメッキとの界面の接着強度が低下し、これにより引張せん断応力が低下したと考えられる。
【0058】
試験片1〜3を比較すると、格子間隔が狭くなるにつれて、引張せん断応力は向上した。これは、格子間隔が狭くなって密になることにより、銅板に形成された凹部の密度も高くなり、アンカーとしての効果が高くなったためと考えられる。図6から、格子間隔は、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0059】
そして、試験片4においては、銅板のうち接着領域の全体に亘ってメッキ層は除去されているから、スズメッキの融点よりも高温で加熱した場合でも、メッキ層が原因となって銅板と樹脂材との接着性が低下することを防止できる。さらに、梨地状に粗化された銅板の表面に形成された凹部に樹脂材が食い込んでアンカーとして機能することで、銅板と樹脂材とが強固に結合するから、銅板と樹脂材との接着性を向上させることができる。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
(1)実施形態1においては、メッキ層22は格子状のパターンで除去される構成としたが、上記のパターンは格子状に限られず、例えば端子金具13の外形が曲線により形成される場合には端子金具13の外形に沿って曲線により構成されるパターンとしてもよく、任意の形状をとりうる。
【0062】
(2)格子状に除去されたメッキ層22の格子間隔は2mmより大きくてもよい。
【0063】
(3)格子状のパターンの格子間隔は一定でなくともよく、他の領域よりも強い接着性が要求される領域においては、格子間隔を他の領域よりも密にする構成としてもよい。
【0064】
(4)メッキ層22を除去する手段としてはレーザ光又はサンドブラストに限定されず、例えば、エッチングや、電子ビームを照射する方法によってもよく、任意の方法を取りうる。
【0065】
(5)本実施形態では、メッキ層22を除去することにより母材露出部25の表面を粗化したが、これに限られず、予め母材21の表面を粗化しておき、その後、母材露出部25に対応する領域をマスキングした状態でメッキ層22を形成することで、表面が粗化された母材露出部25を形成してもよい。
【0066】
(6)例えば母材21と合成樹脂材との親和性が高く、母材21と合成樹脂材とを直接に接することで、インサート部材と樹脂材との間に十分な接着強度が得られる場合には、メッキ層22を除去して母材露出部25が露出した状態とすればよく、母材露出部25の表面を粗化しなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明を適用した実施形態1に係るコネクタの一部切欠斜視図
【図2】製造用金型のインサート成形時の断面図
【図3】レーザ光照射により凹部を形成する工程を示す概略断面図
【図4】凹部内に樹脂材が進入した状態を示す概略断面図
【図5】実施形態2において、凹部内に樹脂材が進入した状態を示す概略断面図
【図6】格子状パターンの格子間隔と、引張せん断応力との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0068】
10…コネクタ(インサート部品)
13…端子金具(インサート部材)
21…母材
22…メッキ層
25…母材露出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の母材の表面にメッキ層が形成されてなるインサート部材を樹脂材で覆ってなるインサート部品の製造方法であって、
前記メッキ層を所定のパターンで除去することにより前記母材表面を露出させて母材露出部を形成し、その後、前記インサート部材をインサート成形することを特徴とするインサート部品の製造方法。
【請求項2】
前記母材露出部の表面は粗化加工されていることを特徴とする請求項1記載のインサート部品の製造方法。
【請求項3】
前記メッキ層は、前記インサート部材にレーザ光を照射することにより除去されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のインサート部品の製造方法。
【請求項4】
前記パターンは格子状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインサート部品の製造方法。
【請求項5】
前記パターンの格子間隔は、2mm以下であることを特徴とする請求項4記載のインサート部品の製造方法。
【請求項6】
前記パターンは、前記インサート部材のうち前記樹脂材で覆われる領域の全体のメッキ層を除去するものであり、且つ、前記メッキ層が除去された前記母材露出部の表面は梨地状に粗化加工されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインサート部品の製造方法。
【請求項7】
金属製の母材の表面にメッキ層が形成されてなるインサート部材を樹脂材で覆ってなるインサート部品であって、
前記インサート部材のうち前記樹脂材に覆われた部分には、前記メッキ層が存在せず前記樹脂材に直接に接する母材露出部が形成されていることを特徴とするインサート部品。
【請求項8】
前記母材露出部の表面は粗化加工されていることを特徴とする請求項7記載のインサート部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−227163(P2007−227163A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47111(P2006−47111)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】