説明

インサート

【課題】高い安全性とインサートの収納、運搬に要する収容空間を格段に嵩低くし、併せて特に2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業を大変能率よく、簡便に行えるようにする。
【解決手段】型枠17に固定される少なくとも2本の固定釘3が下面から突設され、コンクリートスラブ16内に埋設されて、吊りボルトなどの被吊下げ物を吊り下げるための釘抜型インサートにおいて、2つのインサート1の下面を互いに対向させて重ね合わせた際に、両者を組み付け可能とすべく、摩擦により前記固定釘3が保持される合成樹脂製の保持面6Aがこのインサート1の本体2に備わっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠に固定される固定釘が下面から突設され、コンクリートスラブ内に埋設されて、吊りボルトなどの被吊下げ物を吊り下げるためのインサートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種インサートは、コンクリート内に埋設されるインサート本体の下面に、1ないし複数本の固定釘が突設された構成である。そして、このインサートの保管、運搬のためにこれを梱包するには、ケース内に多数のインサートをそのまま投入して収納していた。
【0003】
しかし、ケース内にそのまま投入して収納していたので、インサートが嵩張り、収納効率が悪いことは言うまでもなく、釘先が勝手気ままに任意な方向に向いて収納されているために、作業者の手に刺さって負傷するなどの危険性もある。
【0004】
そこで、これらの欠点を改良すべく、2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせた際に、両者を組付可能とすべく、他方のインサートの固定釘を挿入できる釘挿入部を設けた構造が提案されている(特開2001−073467号公報)。
【0005】
この提案は、収納時のインサートの嵩張りを解消するとともに、各釘先が他方のインサートの本体に収納されるので、安全に取り扱える点で大変有効な提案である。
【特許文献1】実開平05−021003号公報
【特許文献2】特開平07−300904号公報
【特許文献3】特開平10−110474号公報
【特許文献4】特開2000−328666号公報
【特許文献5】特開2001−073467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の提案によると、インサートにこの固定釘の収納部を新たに設ける必要があるために、製造コストが嵩む問題点がある。また、特に大きな問題点として、固定釘の収納部は当然のことながら位置が固定されているために、2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業が概して面倒で、手間を要し、効率的な重ね合わせ作業を行い難く、せっかくの嵩低く収納できるという利点が相殺されてしまう問題点がある。
【0007】
本発明者は、この従来の提案などを更に発展的に改良し、収納時のインサートの嵩張りを解消するとともに、各釘先が他方のインサートの本体に収納されるので、安全に取り扱えるという当初の開発コンセプトを守り、特に2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業を大変能率よく、簡便に行え、更にはコンパクトに形成でき、もって嵩低く収納できるという利点を真に高からしめんとするべく鋭意改良を加えた結果、満足する製品が得られたので、ここに提案する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高い安全性とインサートの収納、運搬に要する収容空間を格段に嵩低くし、併せて特に2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業を大変能率よく、簡便に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の技術的な課題を解決するために、本発明の請求項1記載のインサートは、型枠に固定される少なくとも二本以上の固定釘が下面から突設され、コンクリートスラブ内に埋設されて、吊りボルトなどの被吊下げ物を吊り下げるためのインサートにおいて、2つのインサートの下面を互いに対向させて重ね合わせた際に、両者を組み付け可能とすべく、前記固定釘を摩擦により保持する合成樹脂製の保持面がこのインサートの本体に備わっていることを特徴とする。
【0010】
このインサートでは、2つのインサートの下面を互いに対向させて重ね合わせて、一方のインサートに設けられた合成樹脂製の保持面に他方のインサートの固定釘を掏り動かすようにしながら、2つのインサートの下面が互いに近づく方向に押し付け、最終的にインサートの本体の下面が互いに接当するまで押し付ける。このとき、保持面と固定釘とは摩擦によって互いが一体に組み付けられることになる。
【発明の効果】
【0011】
したがって、この発明は以下の効果を奏する。
本発明のインサートは、単に本体の合成樹脂製の保持面と固定釘の摩擦のみで2つのインサートを一体に組み付けることができるので、2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業を大変能率よく、簡便に行え、作業能率の大幅な改善を図ることができる。
【0012】
しかも、本体の合成樹脂製の保持面のみで達成できるので、構造が簡素であり、併せて従来の固定釘を収納するための釘収納円筒部を備え、そのために大きく横外方へ張り出す幅広い座板を必要としないので、この意味でインサートそのものも嵩低く形成でき、インサートの収納、運搬に要する収容空間を格段に嵩低くできるようになった。また、2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせると、少なくとも、釘先は本体の外周面に沿って位置しているため、単体のインサートに比べて、釘先が勝手気ままに任意な方向に向いて収納されるおそれもなく、安全性も高めることができる。その結果、この2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせたセット物を、例えば少し厚手のビニール袋などにも収納でき、保管、運搬に際して大変取り扱い易くなった。
【0013】
以上の構成において、この発明では、請求項2に記載のように、保持面はインサートの本体から横外方へ張り出して設けられた座板の外表面であるのが望ましい。
特別な構造を新たに付加することなく、一般的には本来的に備えている合成樹脂製の座板、つまり外向きフランジを利用するので、構造が簡素で、嵩低く、しかも廉価に提供できるからである。
【0014】
また、請求項3に記載のように、外表面はインサートの本体の中心から固定釘に至る寸法を半径として描かれる仮想円の直径よりも前記固定釘が前記インサートの本体との摩擦により保持されるに足る大きさの寸法で描かれる仮想円上に位置するように形成されのが望ましい。
2つのインサートの下面を互いに対向させて重ね合わせる際に、固定釘の位置合わせが格段に簡便になり、2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業を一層能率よく、しかも一層簡便に行え、作業能率の一層の改善を図ることができるからである。つまり、従来の固定釘の挿入部(挿入孔や凹入部で形成)を備えた構造では、一々、固定釘と挿入部との位置合わせを行わねばならず、組み付け作業が大変煩わしく、また作業時間も大幅に長くなり、効率が大変悪くなるが、本発明ではこの懸念がなくなるからである。
【0015】
更に、請求項4に記載のように、外表面は本体に設けられた固定釘収納円筒部間を繋ぐ部分円弧部分であるのが望ましい。
少なくともこの固定釘収納円筒部間のいずれの場所においても、一方の固定釘とこれに対向する他方の外表面を摩擦によって保持して、組み付けることができるため、2つのインサートの下面を互いに対向させて重ね合わせる際に、一方の固定釘を位置合わせする作業の煩わしさが格段に改善され、2つのインサートの重ね合わせ作業を格段に能率よく、しかも簡便に行え、作業能率の一層の改善を図ることができるからである。
【0016】
また、本発明に係るインサートは、別の観点から、請求項5に記載のように、中央にアンカー体嵌合孔が備わった円筒形の本体とその下端から横外方に張り出した座板と前記本体の外周部に周方向に一定の間隔を置いて配される釘収納円筒部とが合成樹脂素材によって一体に形成されて本体と、ほぼ上半部が前記釘収納円筒部の釘孔に収納保持される固定釘と上端部に鍔部が一体に備わり前記円筒形の本体のアンカー体嵌合孔に嵌合固定されたアンカー体とから成るインサートにおいて、前記座板はこれら釘収納円筒部間を繋ぎ、且つ、その外周面は部分円弧に形成され、この部分円弧は本体の中心から釘に至る寸法を半径として描かれる仮想円の直径よりも前記固定釘がこの座板の外周面との摩擦により保持されるに足る大きさの寸法で描かれる仮想円上に位置させて形成されるようすることもできる。
【0017】
このインサートでは、請求項1の発明と同様に、従来の固定釘を収納するための釘収納円筒部を備えて、これに固定釘を挿入するものと全く違って、座板の部分円弧状の外周面と固定釘を摩擦によって保持して互いに一体に組み付けることができるので、2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせる作業を大変能率よく、簡便に行え、作業能率の大幅な改善を図ることができる。しかも、この効果を一般的には本来的に備えている座板のみで達成できるので、構造が簡素になった。併せて、従来の固定釘を収納するための釘収納円筒部を備え、そのために大きく横外方へ張り出す幅広い座板を必要としないので、この意味でインサートそのものも嵩低く形成でき、インサートの収納、運搬に要する収容空間を格段に嵩低くできる。また、釘先は剥き出しではあるが、インサートの鍔部の投影下内に存在して横外方へみだりに突出することがなく上手く保護されているので、安全性も高めることができる。因みに、この2つのインサートの下面を対向させて重ね合わせたセット物の50個(インサート単位100個)を、例えば少し厚手のビニール袋などにも収納できるようになったので、保管、運搬に際して大変取り扱い易くなった。更に、少なくともこの固定釘収納円筒部間のいずれの場所においても、一方の固定釘とこれに対向する他方の外表面を摩擦によって保持して、組み付けることができるため、2つのインサートの下面を互いに対向させて重ね合わせる際に、一方の固定釘を位置合わせする作業の煩わしさが格段に改善され、2つのインサートの重ね合作業を格段に能率よく、しかも簡便に行え、作業能率の一層の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明を釘抜型インサートに適用した場合の実施の形態について、図面に従って詳細に説明する。
本発明の釘抜型インサート1は、図1〜9に示すように、基本的には、インサートの本体2と、この本体2に埋設される頭なしの固定釘3(図例では3本であるが、2〜4本、あるいは4本以上でも良い)と、インサートの本体2に装着される金属製のアンカー体4とから構成される。
【0019】
インサートの本体2は全体が合成樹脂の一体物で、図1〜7に示すように、本体円筒部5の下端に円板状の座板6が設けられている。この座板6は横外方に向かって一体に張り出した外向きフランジに形成され、その外周面6Aは鉛直面に形成されている。また、前記本体円筒部5の外周部には、周方向に120度ずつ位相を異ならせて、つまりは互いに等間隔をおいて釘収納筒部7がこの本体円筒部5と軸心を平行にして一体に設けられて構成されている。そして、この釘収納筒部7の下端部の外周には横外方へ突出する横向き部分フランジ上のストッパー7Aが一体に設けられている。
【0020】
更に、図5に示すように、この本体円筒部5はその軸心部を上下に貫いてアンカー嵌合孔8が一体に設けられている。また、前記各釘収納筒部7には、前記固定釘3の下半部3Aを突出させ、上半部を収納保持するための釘孔9が、本体円筒部5の軸心を中心にする同一円周上にそれぞれ設けられている。更に、前記アンカー嵌合孔8の上端には、アンカー体4の先端を挿入し易くするための円錐状の孔10が設けられている。
【0021】
前記座板6の本体円筒部5より横外方へ張り出す部分は、各釘収納筒部7間を繋ぐ形で設けられていて、その外周面6Aが前記本体円筒部5と軸心を中心にする同一円周上に位置するようにした部分円弧として形成される。そして、その張り出し量は、図3に示すように、インサートの本体2の軸心から固定釘3の内方に面する面に至る寸法Dを半径として描かれる仮想円の直径よりもこの固定釘3の内方に面する面3Bが前記座板6の外周面6Aとの摩擦により保持されるに足る大きさの寸法で描かれる仮想円上に位置する寸法に設定されている。
【0022】
つまり、インサートの本体2の軸心から固定釘3の内方に面する面3Bに至る寸法Dよりもインサートの本体2の軸心から前記座板6の外周面6Aに至る寸法dの方がやや大きく、すなわち、この固定釘3がこの座板6の外周面6Aとの摩擦により保持されるに足る大きさの寸法に設定されている。
【0023】
また、前記アンカー嵌合孔8の下端部には分割舌片11が設けられていて、コンクリート打設時にモルタルやセメント溶液などがこのアンカー嵌合孔8内に浸入するのを防止する。これらの分割舌片11は、基端をこのアンカー嵌合孔8の下端部に固定された8枚の三角形状の舌片で、個々に弾性変形可能となるように互いに間にスリット12が設けられている。
【0024】
また、アンカー体4は、図5に示すように、上半部分が閉塞され円筒状の本体13と、円筒状の本体13の上端部に一体に設けられた鍔部14と、更に円筒状の本体13の下半部の中央に穿設された雌ねじ孔15とから構成される。雌ねじ孔15は被吊り下げ物の上端部に設けられた雄ねじが螺合されるものである。
【0025】
前記鍔部14の外周縁は前記インサートの本体2の軸心を中心にして各釘収納筒部7の最外端面を通る同一円周上にあるように、その直径寸法が設定されて形成されている。したがって、この鍔部14の前記本体円筒部5から横外方に張り出す部分の下面と互いに相隣り合う各釘収納筒部7同士の間に囲まれるインサートの本体2の本体円筒部5の外周には、図1、図3〜4に示すように、横断面形状で扇形の凹入空間Sが形成されることになる。
【0026】
したがって、図1、に示すように、前記インサートの本体2の前記各釘孔9に固定釘5を挿入した後、前記アンカー嵌合孔8にアンカー体4の本体13を圧入嵌合させると、固定釘3のほぼ下半部がインサートの本体2の座板6の下面から下方に突出し、また、インサートの本体2の上端面にアンカー体4の鍔部14が覆い被さった状態でこれら三者が一体に組み付けられることになる。
【0027】
次に、以上のように構成された釘抜型インサート1の使用方法について、図8の記載に基づいて、以下説明する。
まず、コンクリートスラブ16を形成する型枠17に前記アンカー体4の鍔部14をハンマーなどで叩いて、固定釘3の座板6の下面から突出した突出部3Aを打ち込む。次に、型枠17の上方にコンクリートを打設し、コンクリートの固化を待って型枠17を取り除く。この型枠17を取り外すとそれと一体で頭なしの固定釘3も抜き取られる。その後、このアンカー体4の雌ねじ孔15に被吊り下げ物の上端部に設けられた雄ねじを螺合する。また、前記釘収納筒部7の下端部外周に設けられたストッパー7Aは、コンクリートスラブ16内にあってアンカーとして働き、型枠16を解体する際にも、コンクリートスラブ16内に釘抜型インサート1をしっかりと固定させ、不用意に引き出されてしまうおそれを上手く防止してくれる。
【0028】
また、以上のように構成された釘抜型インサート1は、保管のために箱等に収納したり、運搬したりする際には、図6に示すように、2つの釘抜型インサート1の各座板6を対向させて、一方の釘抜型インサート1の3本の固定釘3の突出部3Aを、それぞれ他方の釘抜型インサート1の釘収納筒部7の存在部分を除いた座板6の外周面6Aの適宜の箇所に合わせて、互いに接近させるようにして押込む。各固定釘3の前記突出部3Aはこの座板6の外周面6Aとの摩擦に抗しながらスライド移動し、最終的に座板6同士が当接するまで押し付けることで、2つの釘抜型インサート1が一体に組み付けられる。
【0029】
2つの釘抜型インサート1を互いに近接させる際、座板6の外表面6Aと各固定釘3との寸法関係は、前記のように、インサートの本体2の軸心からこの外表面6Aに至る距離が、インサートの本体2の軸心から固定釘3の内方に面する面3B(図3)に至る距離よりもやや長い寸法に設定されているから、互いに押し込めば、必然的にこの外表面6Aと固定釘3との間に摩擦が生じ、この摩擦力によって、2つの釘抜型インサート1は簡単には離脱できなくなるのである。しかも、固定釘3を押し込む場所は、前記釘収納筒部7を除いた以外のこの部分円弧の外表面6Aのいずれの箇所であっても良く、このことによって組み付け作業の格段の効率アップが図られるのである。つまり、相隣り合う釘収納筒部7間のいずれの箇所であっても固定釘6の保持が可能になるので、作業者は位置合わせの煩わしさから開放され、能率の良い組み付け作業が行えるのである。
【0030】
しかも、2つの釘抜型インサート1を一体に組み付けるための構造は、新たに構造物を付加するのではなくて、一般的にはこの種インサートに本来的に備わっている座板6を用いるから、釘抜型インサート1そのものの構造が大変簡素になり、併せて嵩低く構成できる。
【0031】
また、組み付けられた後の2つの釘抜型インサート1は、図3に示すように、平面視において、一方の釘抜型インサート1の固定釘3が他方の釘抜型インサート1の前記鍔部14の前記本体円筒部5から横外方に張り出す部分の下面と互いに相隣り合う各釘収納筒部7同士の間に囲まれるインサートの本体2の本体円筒部5の外周に形成される横断面形状で扇形の凹入空間S内に入り込んでいる状態となる。つまり、固定釘3の先端は、剥き出しではあるが、釘抜型インサート1の鍔部14の投影下内に存在して、横外方へみだりに突出することがなく上手く保護され、安全性の確保に貢献する。
【0032】
次に、この発明の別の実施の形態を、図9の記載に基づき、以下に説明する。
上記の図1〜8に示す構造は、座板6が基本的には円板状である形態を例示しているが、以下の構造ではこの座板6が基本的には矩形(図例では正方形)である例について説明する。
【0033】
この別の実施の形態では、インサートの本体円筒部5、釘収納筒部7、アンカー嵌合孔8、釘孔9、分割片11、更にはアンカー体4の本体13、雌ねじ孔15、 アンダーカット溝16については先に説明した実施例と同様の構成、形状を備えている。
【0034】
そこで、前記座板61は正方形で、インサートの本体円筒部5はその軸心をこの正方形の座板61の中心に合わせて一体に設けられている。そして、前記各釘収納筒部7が共にこの正方形の座板61の4つの辺62の中間点から左右のいずれかの側に設定して、やや偏らせて、前記本体円筒部5の外周に一体に設けられる。
【0035】
そして、前記インサートの本体2の軸心を通る前記各辺62と平行な仮想線分Pと各辺62との間の距離は各固定釘3の内方に面する面と前記仮想線分Pとの間の距離よりもやや長い寸法に設定されている。したがって、いずれの場合にも、2つの釘抜型インサート1を座板61を対向させて組み付ける際には、互いに押し込めば、各釘収納筒部7に邪魔されることもなく、また、必然的にこの座板61の外周面61Aと固定釘3との間に摩擦が生じ、一方の座板61の外周面61Aに摩擦によって固定釘3が保持されるので、2つの釘抜型インサート1を上手く一体に組み付けることができる。
【0036】
また、アンカー体4の鍔部114は、座板61と相似形の正方形で、必然的に前記各釘収納筒部7を覆う大きさに寸法設定されている。したがってこの実施の形態においても、この鍔部141の前記本体円筒部5から横外方に張り出す部分の下面と互いに相隣り合う各釘収納筒部7同士の間に囲まれるインサートの本体2の本体円筒部5の外周には凹入空間S1が形成されることになるので、先の実施の形態と同様に、安全性の確保が可能になる。
【0037】
図9に示す別の実施の形態であっても、基本的には、2つの釘抜型インサート1の座板61を互いに対向させて重ね合わせた際に、両者を組み付け可能とすべく、摩擦により前記固定釘3が保持される合成樹脂製の保持面、つまり座板61の外周面61Aがこのインサートの本体2に備わっていることが肝要である。このことによって、2つの釘抜型インサート1の座板61を対向させて重ね合わせる作業を大変能率よく、簡便に行え、作業能率の大幅な改善を図ることができるからである。しかも、この効果を一般的には本来的に備えている座板61のみで達成できるので、構造が簡素で、釘抜型インサート1そのものも嵩低く形成でき、釘抜型インサート2の収納、運搬に要する収容空間を格段に嵩低くでき、固定釘3の釘先は互いに他方のインサートの本体2によって保護されているので、安全性も高めることができるからである。更に、一方の固定釘3をこれに対向する他方の座板61の外表面61Aを摩擦によって保持して、組み付けることができるため、2つの釘抜型インサート1の座板61を互いに対向させて重ね合わせる際に、一方の固定釘3を位置合わせする作業の煩わしさが格段に改善され、2つの釘抜型インサート1の重ね合わせ作業を格段に能率よく、しかも簡便に行え、作業能率の一層の改善を図ることができるからである。
【0038】
以上の図9に示した別の実施の形態において、図示しないが、インサートの本体2、釘収納筒部7、アンカー体4の本体13の夫々の外形形状を矩形に形成することもできる。また、各図例では型枠17を取り外すとそれと一体で頭なしの固定釘3も抜き取られる所謂釘抜型インサートを例示したが、これに限らず、固定釘3には、例えば皿状の頭部を備えた釘を用いることもできる。この場合、図示しないが、釘孔9の上端に釘の頭部を収納するための、公知の釘頭収納孔を形成すればよい。また、コンクリートスラブ16から突出する釘の先端部分は、これを適宜に切断すればよく、公知の各種手段を採用できる。
【0039】
また、前記座板6の外周面6Aは、図1〜9では鉛直面に形成した例を示しているが、斯かる構成に限らず、例えば、図10(A)に示すように、円直面に対してやや傾斜した面や同図(B)に示すように、上下の中間部分が最大に膨出した弧状に形成されてもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のインサートの一実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】図1に示されるインサートの正面図である。
【図3】図2中A−A断面図である。
【図4】図1中A−A断面図である。
【図5】図1に示されるインサートの分解図である。
【図6】図1に示されるインサートの組み付け作用の斜視図である。
【図7】図6に示される組み付け作用の説明断面図である。
【図8】図1に示されるインサートの作用の説明図である。
【図9】別の実施の形態の図7に対応する断面図である。
【図10】更に別の実施の形態を示し、(A)並びに(B)は共に一部を切欠いた図4に対応する拡大断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…インサート
2…本体
3…固定釘
3A…突出部
4…アンカー体
5…本体円筒部
6、61…座板
6A、61A…外表面
62…辺
7…釘収納筒部
8…アンカー嵌合孔
10…孔
9…釘孔
13…アンカー体の本体
14、141…鍔部
15…雌ねじ孔
16…コンクリートスラブ
17…型枠
D…寸法
d…寸法
S…凹入空間
P…仮想線分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠に固定される少なくとも二本以上の固定釘が下面から突設され、コンクリートスラブ内に埋設されて、吊りボルトなどの被吊下げ物を吊り下げるためのインサートにおいて、2つのインサートの下面を互いに対向させて重ね合わせた際に、両者を組み付け可能とすべく、前記固定釘を摩擦により保持する合成樹脂製の保持面がこのインサートの本体に備わっていることを特徴とするインサート。
【請求項2】
保持面はインサートの本体から横外方へ張り出して設けられた座板の外表面である請求項1記載のインサート。
【請求項3】
外表面は、インサートの本体の中心から釘に至る寸法を半径として描かれる仮想円の直径よりも前記固定釘が前記インサートの本体との摩擦により保持されるに足る大きさの寸法で描かれる仮想円上に位置するように形成されている請求項1又は2のいずれかに記載のインサート。
【請求項4】
外表面は本体に設けられた固定釘収納円筒部間を繋ぐ部分円弧である請求項1〜3のいずれかに記載のインサート。
【請求項5】
中央にアンカー体嵌合孔が備わった円筒形の本体とその下端から横外方に張り出した座板と前記本体の外周部に周方向に一定の間隔を置いて配される釘収納円筒部とが合成樹脂素材によって一体に形成された本体と、ほぼ上半部が前記釘収納円筒部の釘孔に収納保持される固定釘と上端部に鍔部が一体に備わり前記円筒形の本体のアンカー体嵌合孔に嵌合固定されたアンカー体とから成るインサートにおいて、前記座板はこれら釘収納円筒部間を繋ぎ、且つ、その外周面は部分円弧に形成され、この部分円弧は本体の中心から釘に至る寸法を半径として描かれる仮想円の直径よりも前記固定釘がこの座板の外周面との摩擦により保持されるに足る大きさの寸法で描かれる仮想円上に位置させて形成されているインサート。
【請求項6】
固定釘はインサートの本体の中心を挟んで対象位置に配される二本か、周方向に所定間隔を置いて配される三本以上であるかのいずれかである請求項1〜5記載のインサート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−197424(P2009−197424A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38345(P2008−38345)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(599068740)タイガー産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】