説明

インジェクションノズル

【課題】 ディーゼルエンジンなどの内燃機関用の燃料は噴射装置の一種である高圧型コモンレールの燃料噴射圧力の高圧化に対応して、インジェクションノズルを長期にわたって高い応答性を維持できるようにする。
【解決手段】 ディーゼルエンジンの高圧型コモンレールのインジェクションノズル1の先端構造を、その先端内孔部に配置されたノズルの噴出孔11を間欠的にカバーするニードル2の先端部22を金属ガラスによって形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンなどの内燃機関用の燃料噴射装置の一種である高圧型コモンレールのインジェクションノズル、とくに、その先端部を金属ガラスによって形成したインジェクションノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関、とりわけディーゼルエンジンの直噴エンジンは、1サイクルで1回の燃料噴射であり、燃焼効率が低いものであった。
【0003】
これに対して、近年、システム中に与圧部を設けることによって、あらかじめ、システム中を高気圧の燃料ガスで満たしておき、ニードルバルブを電子制御で開閉させることによって、1サイクル中に適時・適量の燃料をシリンダー内に例えば5回噴射することによって完全燃焼を行うことが可能になった。このシステムは、コモンレールシステムと称されている。
【0004】
このシステムを、さらに、高性能化するためには、第1には、燃料噴射圧力の高圧化と、その第2には、そのためのインジェクションノズルの応答性の向上が必要である。
【0005】
前記燃料噴射圧力の高圧化については、現在、係るコモンレールシステムの内圧は180〜200MPa程度であるが、さらに、高圧化することよって噴射される燃料液滴を微細化することができ、完全燃焼させることができる。そのため、さらに250〜300MPaまで高圧力化が進むことが予想されている。
【0006】
図3は、ディーゼルエンジンの高圧型コモンレールのインジェクションノズルの先端部の断面構造を示す。同図において、インジェクションノズル1は、その内孔に配置されたニードル2を、電子制御によって上下動させて、燃料噴射孔11を開閉させて燃料ガスを噴霧する仕組みとなっている。
【0007】
この燃料噴射孔11の開閉を適切に保つためには、ノズル1の先端部とニードル2の加工精度を高くし、さらに高い圧力でニードル2を押さえつけることによってニードル2に僅かに弾性変形を生じさせて噴射孔11のシール性を保っている。
【0008】
ところが、このインジェクションノズルの先端部とニードルとは、鍛造合金鋼が使用されている。そのために、長期の使用によって表面の劣化が発生し、燃料漏れを発生して本来の適時・適量の燃料供給ができなくなり、燃料の完全燃焼を阻害することになる。そして、この問題は、コモンレールの高圧化により燃料漏れの拡大をもたらし、頻繁な部材の交換の必要性を生じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−88201号公報
【特許文献2】国際公開番号 WO2009/041221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、内燃機関、とりわけディーゼルエンジンの高圧型コモンレールの燃料噴射圧力の高圧化に対応して、インジェクションノズルを、長期にわたって高い応答性を維持できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、インジェクションノズルの先端部を金属ガラスによって形成することによって、その課題を達成した。
【0012】
金属ガラスとしては、(Zr41Be23Ti14Cu12Ni10)または(Zr55Al10Ni5Cu30)の組成を有するものが使用できるが、金属ガラスは、従来から使用されてきた鍛造合金鋼(SUS316L)と比較して、高強度と高弾性変形能と高耐摩耗性とを有し、高耐食性であって、その上、超精密鋳造性を有する。具体的には、ステンレス網の引張り強度が650MPaであるのに対して、金属ガラスの引張り強さは1700MPaであり、また、ヤング率GPaとしてはステンレス網のヤング率が204GPaであるのに対して、金属ガラスのヤング率は86GPaである。
【0013】
本発明は、低ヤング率を有する金属ガラスをインジェクションノズルの先端部に適用することによって、あたかも、このインジェクションノズルの先端部にゴムのような弾力を持たせることによって、燃料噴射圧力の高圧化と、高い応答性と、高いシール性とを併せ持たせたものである。
【0014】
したがって、本発明においては、金属ガラスの低ヤング率という特性を利用する点から云えば、金属ガラスに代えて、金属ガラスと同等の低ヤング率を有するゴムメタルもTi合金もインジェクションノズルの先端部に適用することもできる。
【0015】
この金属ガラスをインジェクションノズルの先端部に適用するに当たっては、ニードルバルブを含めて、インジェクションノズル全体を金属ガラスによって作成することも可能ではあるが、経済的には、先端部のみを金属ガラスによって作成し、インジェクションノズルの基部をSUS316Lのような鍛造合金鋼で作成し、先端部の結晶金属と接合する必要があるが、この接合に際しては、特許文献1に開示された一部切欠き空間を有する開先による電子ビーム溶接のような高エネルギービームによる継ぎ手のような接合技術を適用することができる。
【0016】
その溶接に際しては、さらに、特許文献2に開示されているような、開先を先端部の金属ガラス側にずらして溶接することによって、結晶金属の溶け込みを抑えることができ、溶接箇所における結晶金属の溶け込みによる金属ガラスの特性の劣化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
従来に比べ、ほぼ1/3の負荷で、シール性と耐摩耗性、それに、小型化による高い応答性を向上せしめて、噴射圧の高圧化を可能にし、これによって、インジェクションノズルの長期にわたるメンテナンスフリー化を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるインジェクションノズルの先端構造を示す。
【図2】インジェクションノズルのニードルの基部と先端部との溶接態様を示す。
【図3】従来のインジェクションノズルの先端構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明によるディーゼルエンジンの高圧型コモンレールのインジェクションノズル1の先端構造を示すもので、その先端内孔部に配置され、ノズルの噴出孔11を間欠的にカバーするニードル2の先端部22を金属ガラスによって形成したものである。
【0021】
図2は、SUS316Lからなるニードルバルブ2の基部21を、予め成形した金属ガラスからなる先端部22の接合側と当接して、高エネルギービーム3によって溶接する状態を示す。
【0022】
その溶接に際しては、当接面からニードル2の基部21側に切欠空間を形成し、当接面から金属ガラスからなる先端部22の側に高エネルギービーム3の照射位置をシフトして溶接を行った。
【0023】
これによって、図1に示す金属ガラスからなる先端部22と結晶金属からなる基部21とが溶接部23によって一体化したニ−ドル2が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
メンテナンスフリーの高圧対応高性能燃料噴射装置およびそれに用いるインジェクションノズルの開発に寄与する。
【0025】
高性能燃料噴射装置の開発(実現)によって、我が国におけるディーゼル車の排ガス規制をクリアすることが可能となり、ディーゼルエンジンハイブリッド車の普及に貢献する。
【符号の説明】
【0026】
1 インジェクションノズル
11 燃料噴射孔
2 ニードルバルブ
21 基部 22 先端部 23 溶接部
3 高エネルギービーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内孔に配置されたニードルバルブを電子制御によって上下動させて、ノズルの噴射口を開閉し燃料ガスを噴霧するインジェクションノズルにおいて、
少なくともニードルバルブの先端部を金属ガラスによって形成したインジェクションノズル。
【請求項2】
金属ガラスが、(Zr41Be23Ti14Cu12Ni10)または、(Zr55Al10Ni5Cu30)の組成を有するZr基の金属ガラスからなる請求項1に記載のインジェクションノズル。
【請求項3】
前記ニ−ドルが、結晶金属からなる基部に金属ガラスからなる先端部を開先継手溶接によって作成したニ−ドルである請求項1に記載のインジェクションノズル。
【請求項4】
前記開先継手溶接が、開先を先端部の金属ガラス側にずらしてビーム照射による溶接である請求項3に記載のインジェクションノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97721(P2012−97721A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248712(P2010−248712)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(000143628)株式会社黒木工業所 (17)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】