インスリン依存性糖尿病の処置のための膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼのインヒビター
本明細書では、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する組成物および方法と、MT1−MMPのインヒビターを用いてインスリン依存性糖尿病(IDDM;I型糖尿病)を処置する組成物および方法とが提供される。本発明は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害するための組成物であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を提供するものである。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2006年2月9日に出願された、米国仮特許出願第60/772,058号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府の支援による研究に関する声明
本発明は、国立保健研究所(National Institutes of Health)により付与された助成金CA83017、CA77470およびRR020843の下で政府支援によりなされた。政府は、本発明に一定の権利を有するものである。
【0003】
発明の背景
T細胞が介在する消耗性の主要な自己免疫疾患として、インスリン依存性糖尿病(IDDM;I型糖尿病)がある(Homann,D.& von Herrath,M.(2004年))。IDDMの病因には、自己免疫性T細胞が活性化し、その後ランゲルハンス島にホーミングすることが関係している。ランゲルハンス島では、T細胞がインスリンを産生するβ細胞を直接破壊する(Mathis,D.ら(2001年))。活性化T細胞においては、細胞表面接着受容体であるCD44が増加する。CD44は、内皮ヒアルロナンとの相互作用を介して、内皮へのT細胞の接着およびその後のトランスマイグレーション現象に関与している(DeGrendele,H.C.ら(1997年))。
【0004】
腫瘍細胞では、CD44が、MT1−MMPのタンパク質分解の標的であることが確認されている。MT1−MMPによる切断を受けて、CD44の細胞外ドメインが細胞表面から遊離し、CD44細胞受容体の機能は不活化される(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。浸潤を促進する多機能の膜結合型酵素であるMT1−MMPは、癌細胞において細胞周囲のタンパク質分解に伴う諸現象の主要なメディエーターの1つとして機能し、細胞表面受容体を直接切断している(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。本明細書は、MT1−MMPのインヒビターを用いてIDDMを処置する組成物および方法を提供するものである。
【非特許文献1】Mori,H.ら、(2002年)EMBO J.21,3949−3959
【非特許文献2】Nakamura,H.ら、(2004年)Cancer Res.64,876−882
【非特許文献3】Suenaga,N.ら、(2005年)Oncogene 24,859−868
【非特許文献4】Egeblad,M.& Werb,Z.(2002年)Nat.Rev.Cancer 2,161−174
【非特許文献5】Sabeh,F.ら、(2004年)J.Cell Biol.167,769−781
【非特許文献6】Seiki,M.(2003年)Cancer Lett.194,1−11
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の簡単な要旨
本明細書は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を細胞に投与することを含む、方法を提供するものである。
【0006】
さらに、本明細書は、被検体のI型糖尿病を処置する方法であって、MT−MMPのインヒビターを含む組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供するものである。
【0007】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する能力があるかどうか候補分子をスクリーニングすることと、膵臓の毛細血管内皮を通過する細胞のトランスマイグレーションを候補分子が阻害できるかどうかを判定することとを含む、方法も提供する。
【0008】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する分子が、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害できるかどうかを判定することを含む、方法も提供する。
【0009】
さらに、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する方法であって、T細胞とMT−MMPのインヒビターを含む組成物とを接触させることを含む、方法も提供する。この方法の細胞は、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する必要がある被検体と認められた被検体の細胞であってもよいし、その被検体に由来する細胞であってもよい。
【0010】
さらに、I型糖尿病の危険性がある被検体を処置する方法であって、MT−MMPのインヒビターを含む組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供する。
【0011】
ここに開示する方法および組成物のさらなる利点に関しては、以下の説明にも記載されており、その説明からある程度理解されるであろうし、あるいは、開示する方法および組成物を実施することで知ることができる。開示する方法および組成物の利点は、添付の特許請求の範囲に具体的に指摘する要素および組み合わせにより実現および達成されるであろう。上述の概要および以下の詳細な説明は、例示的および説明的なものにとどまり、特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではないことを理解すべきである。
【0012】
本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する添付図面は、開示する方法および組成物の諸実施形態を例示し、記述と相まって、開示する方法および組成物の原理を説明するのに役立つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本明細書では、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)インヒビターに関係する組成物および方法を提供する。
【0014】
具体的な実施形態における以下の詳細な説明およびそこに含まれる実施例と、図ならびに図に対する先の説明および以下の説明とを参照することで、開示する方法および組成物を比較的容易に理解することができる。
【0015】
当然のことながら、開示する方法および組成物に関しては、他に記載がない限り、特定の合成方法、特定の解析技法または個別の試薬に限定されるものではなく、したがって、変化しても構わない。また、本明細書に用いる用語は、個々の実施形態を記載することだけを目的としたものであり、限定することを意図するものではないことも理解すべきである。
【0016】
A.材料
開示する方法および組成物に用いることができる、開示する方法および組成物と一緒に用いることができる、開示する方法および組成物の調製に用いることができる、あるいは、開示する方法および組成物の産物である、材料、組成物および成分を開示する。本明細書は、こうした材料および他の材料を開示するものであるが、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などを開示する場合、こうした化合物の個別および全体の様々な組み合わせと順列との具体的な言及を1つ1つ明示的に開示していない場合でも、それぞれを具体的に意図して本明細書に記載していることが理解されよう。たとえば、インヒビターを開示して考察を行い、さらにインヒビターを含む多くの分子に対してなし得る変更を様々に考察する場合、特に異なる指定がない限り、インヒビターのありとあらゆる組み合わせおよび順列と可能である変更とを具体的に意図している。したがって、分子A、BおよびCのクラスを開示するとともに、分子D、EおよびFのクラスおよび分子の組み合わせ例A−Dも開示する場合、それぞれを個々に記載していなくても、それぞれを個別および全体として意図している。このため、この例の場合では(is this example)、AおよびBおよびCと、DおよびEおよびFと、組み合わせ例A−Dとの開示から、組み合わせA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−EおよびC−Fをそれぞれ具体的に意図しており、これらを開示しているものとみなすべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも具体的に意図しており、開示しているものである。よって、たとえば、AおよびBおよびCと、DおよびEおよびFと、組み合わせ例A−Dとの開示から、A−E、B−FおよびC−Eの亜群を具体的に意図しており、開示しているものとみなすべきである。この考え方を、開示組成物の製造方法および使用方法の各ステップを含むが、これに限定されるものではなく、本出願のすべての態様に適用する。以上のとおり、実施可能な追加ステップが多岐にわたる場合、開示方法の任意の特定の実施形態または実施形態の組み合わせにより、こうした追加ステップをそれぞれ実施することができ、かかる組み合わせについては、具体的に意図しており、開示しているものとみなすべきであることが理解されるであろう。
【0017】
1.インヒビター
本明細書で提供する方法では、インヒビターは、天然のMMP組織インヒビター(TIMP)であってもよい。TIMPは、TIMP−2であっても構わない。TIMPは、TIMP−3であってもよい。TIMPは、TIMP−4であって構わない。TIMPの概説に関しては、本教示のため参照によってその全体を本明細書に援用するDissertation of Palosaari,H(Acta Universitatis Ouluensis Medica,D739,ISBN951−42−7077−0)で確認することができる。
【0018】
すべてのTIMPの特色として、12個の保存システイン残基を持ち、相対位置が保存され、成熟タンパク質を産生するために切断される23〜29個のアミノ酸リーダー配列が存在することが挙げられる。TIMPと、TIMP−1とMMP−3との複合体およびTIMP−2とMT1−MMPとの複合体など、MMP−TIMP複合体との結晶構造については、報告がなされている(Gomis−Ruthら1997年,Fernandez−Catalanら1998年)。TIMPは、互いに対向するポリペプチド鎖のN末端半分およびC末端半分からなる細長い連続的なくさび状である(Gomis−Ruthら1997年)。MMPとの複合体において、TIMPは、その辺縁部でMMPの活性部位クレフトに全長にわたって結合している(Fernandez−Catalanら1998年,Gomis−Ruthら1997年)。
【0019】
TIMP−2は、分子量21kDaの非グリコシル化タンパク質である(Stetler−Stevensonら1989年a,Booneら1990年)。TIMP−2には、負電荷を持つ伸長したC末端がある(Booneら1990年)。TIMP−2のプロモーターは、5つのSP1結合部位、2つのAP−2結合部位、1つのAP−1結合部位および3つのPEA−3結合部位など、複数の調節要素を含むものである(De Clerckら1994年,Hammaniら1996年)。TIMP−2は、1.2kbおよび3.8kbの2つのmRNAに転写される(Hammaniら1996年)。
【0020】
ヒトTIMP−2は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むものであり、配列番号3に記載の核酸配列(受託番号BC071586)によってコードされている。したがって、提供する方法のインヒビターは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントを含んでもよい。また、このインヒビターは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントとの相同性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%であるアミノ酸を含んでも構わない。さらに、提供する方法のインヒビターは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントをコードしている核酸を含んでもよい。前述のとおり、提供する方法のインヒビターは、配列番号3に記載の核酸配列を含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号3に記載の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%である核酸を含んでもよく、その核酸は、少なくとも20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチドを含むものである。
【0021】
TIMP−3のポリペプチド配列は、TIMP−1およびTIMP−2の配列との類似性がそれぞれ37%および42%である(Apteら1994年)。C末端の付近には、保存されたグリコシル化部位を持っている。ヒト組換えTIMP−3のキャラクタリゼーションによって、27kDaのグリコシル化種と24kDaの非グリコシル化種の両方があることが明らかにされている(Apteら1995年)。TIMP−3は、グリコシル化形態でも非グリコシル化形態でもECMに局在している(Langtonら1998年)。TIMP−3遺伝子には4つのSP1部位があるが、プロモーターはTATAボックスを持たない(Apteら1994年,Wickら1995年)。この遺伝子から転写されるものに、2.4kb、2.8kbおよび5.5kbの3つのTIMP−3mRNA種があり(Apteら1994年)、これらの種は、ヒト軟骨細胞により構成的に発現される(Suら1996年)。
【0022】
ヒトTIMP−3は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号5に記載の核酸配列(受託番号X76227)によってコードされている。したがって、提供する方法のインヒビターは、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントを含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントとの相同性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%であるアミノ酸を含んでも構わない。提供する方法のインヒビターは、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントをコードしている核酸を含んでもよい。前述のとおり、提供する方法のインヒビターは、配列番号5に記載の核酸配列を含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号5に記載の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%である核酸を含んでもよく、この核酸は、少なくとも20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチドを含むものである。
【0023】
TIMP−4は、分子量が22kDaであり、TIMP−1との同一性が37%、TIMP−2およびTIMP−3との同一性が51%である(Greeneら1996年)。TIMP−4は、生理条件下で最も中性(pH7.4)なTIMPタンパク質であり、等電点は、ヒトTIMP−1、TIMP−2およびTIMP−3の値がそれぞれ8.00、6.45および9.04であるのに対し、7.34である(Wildeら1994年,Greeneら1996年)。TIMP−4遺伝子は、1.4kbのmRNA種に転写される(Olsonら1998年)。TIMP−4は石灰化組織のうち、ヒト軟骨で検出されている(Huangら2002年)。
【0024】
ヒトTIMP−4は、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号7に記載の核酸配列(受託番号NM_003256)によってコードされているものである。したがって、提供する方法のインヒビターは、配列番号6に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントを含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号6に記載のアミノ酸配列との相同性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%であるアミノ酸またはその生物活性フラグメントを含んでも構わない。さらに、提供する方法のインヒビターは、配列番号6に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントをコードしている核酸を含んでも構わない。前述のとおり、提供する方法のインヒビターは、配列番号7に記載の核酸配列を含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号7に記載の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%である核酸を含んでもよく、この核酸は、少なくとも20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチドを含むものである。
【0025】
TIMPはそれぞれ、相互作用性も親和性も異なる比率で標的MMPに結合するが、ほとんどの場合、化学量論的には1:1または2:2である。TIMP−1は、TIMP−2に比べてMMP−1、MMP−3およびMMP−9を効果的に阻害する(Howardら1991年,Baragiら1994年,O’Connellら1994年,Nguyenら1994年)。TIMP−2は、TIMP−1に比べて10倍以上効果的にプロMMP−2を阻害する(Stetler−Stevensonら1989a年,Howardら1991年)。しかしながら、MT1−MMP介在性のプロMMP−2活性化に際し、活性化の増強に必要なTIMP−2の量は微量である一方、高濃度になるとMMP−2を阻害するため、TIMP−2は、MMP−2に対して2つの機能的作用がある(Kinoshitaら1998年)。TIMP−3は、少なくともMMP−2およびMMP−9を阻害する(Butlerら1999年)のに対し、TIMP−4は、特定のMMPに対する著しい選択性がなく、MMPのすべてのクラスに対する優れたインヒビターである(Stratmannら2001年)。TIMP−4は、MT1−MMPを阻害することと活性化MMP−2を阻害することとの両方でMMP−2活性を制御する(Biggら2001年,Hernandez−Barrantesら2001年)。
【0026】
MMPのこれ外のインヒビターは、3つの薬理学的カテゴリー:1)コラーゲンペプチド模倣物および非ペプチド模倣物、2)テトラサイクリン誘導体および3)ビスホスホナートに分類される。MMPインヒビター開発の概説に関しては、本教示のため参照によってその全体を本明細書に援用するHidalgo MおよびEckhardt,J Natl Cancer Inst.93(3):178〜93で確認することができる。
【0027】
ペプチド模倣物MMPのインヒビターは、コラーゲンを切断するためにMMPが結合するコラーゲン部位の構造を模倣して合成された偽ペプチド誘導体である。このインヒビターは、MMPの活性部位で立体特異的に可逆的に結合し、酵素活性化部位で亜鉛原子をキレート化する。いくつかの亜鉛結合基については、活性部位で結合することによりMMPを競合的に阻害する作用があるかどうか検査されている。これらの基には、カルボキシラート、アミノカルボン酸塩、スルフヒドリル、リン酸の誘導体およびヒドロキサマートがある。臨床開発中のMMPインヒビターの大部分は、ヒドロキサマート誘導体である。このため、提供する方法のインヒビターは、ヒドロキサマートまたはヒドロキサマート誘導体であってもよい。よって、本明細書で「ヒドロキサマート」を用いる場合は、ヒドロキサマートその誘導体の両方をいう。非限定的な例として、ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS27023Aからなる群から選択することができる。
【0028】
癌患者で評価された最初のMMPインヒビターであるバチマスタットは、非経口投与で効果を発揮する低分子量のヒドロキサマートである。この化合物は作用は強いが、選択性が比較的低く、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7およびMMP−9の阻害に関するIC50(酵素を50%阻害する濃度)値は、10ng/mL未満である。低分子量の合成MMPインヒビターであるマリマスタットは、バチマスタットと異なり、経口投与で効果を発揮するもので、前臨床試験では、絶対バイオアベイラビリティが20%〜50%である。この薬剤は、MMPの活性部位で亜鉛イオンをキレート化するコラーゲン模倣ヒドロキサマート構造を含むものである。マリマスタットは、バチマスタットと同様、特異性が比較的低く、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7およびMMP−9の活性を阻害し、そのIC50はそれぞれ2.5ng/mL、3ng/mL、115ng/mL、8ng/mLおよび1.5ng/mLである。
【0029】
三次元X線結晶構造解析によるMMP活性部位のコンホメーションに基づいて、いくつかの非ペプチド性MMPインヒビターが合理的に合成されている。こうした分子の中には、前臨床モデルで抗腫瘍活性が明らかになり、臨床開発用に選択されたものもある。MMPインヒビターの合理的な化学的デザインにより、癌および関節炎など、一定の疾患で主に見られるMMPサブタイプに対して特異的阻害活性を持つ化合物の合成が可能になった。たとえば、MMP−2の相対的に選択的なインヒビターとして設計されたのがAG3340、BAY 12−9566およびBMS−275291であるのに対し、骨関節疾患に関係することが多いMMP−1に特異的なものとして設計されたのがRo32−3555であり、このため、関節炎用のRo32−3555が開発中である。AG3340、BAY 12−9566、BMS−275291およびCG S27023Aについては現在、癌患者を対象とした臨床評価を受けている。
【0030】
BAY 12−9566(Bayer)は、MMP−2、MMP−3およびMMP−9の強力なインヒビターである、経口投与で効果を発揮するビフェニル化合物で、IC50は0.13μg/mLである。この化合物は、経口バイオアベイラビリティが70%〜98%で経口投与後に速やかに十分に吸収され、投与後0.5〜2時間でピーク血漿濃度に到達し、腸肝再循環も認められた。健常ボランティアを対象としたBAY 12−9566の薬物動態は、100mg/日までの用量において線形性を示した。この薬剤の反復投与の結果、クリアランスの上昇が認められ、したがって、薬剤曝露量が減少した。
【0031】
AG3340(Agouron Pharmaceuticals,Inc)は、タンパク質構造に基づく薬剤設計プログラムを用いて合成された、非ペプチド性のコラーゲン模倣MMPインヒビターである。この薬剤は、MMP−2、MMP−9、MMP−3およびMMP−13を阻害するもので、IC50は、0.13ng/mL未満である。AG3340は、親油性の低分子量化合物であり、血液脳関門を通過する。この薬物は、2〜100mg/日の用量範囲で1日2用量とする連続経口投与スケジュールに従って投与された。AG3340による処置の結果、深刻な用量規制毒性は認められなかったものの、用量が25mg/日を超えると、筋骨格への影響が現れたため、半分を超える被験者で投与中止が必要となった。この用量では、AG3340をミトキサントロン/プレドニゾンおよびカルボプラチン/パクリタキセルと併用しても安全である。
【0032】
BMS−275291(Bristol−Myers Squibb Co)は、経口投与で効果を発揮する第I相臨床開発中のMMPインヒビターである。前臨床試験において、BMS−275291は、MMP−2およびMMP−9に対して強力な阻害活性を示した。この化合物は、非ペプチド性MMPインヒビターによる筋骨格への作用の一部に関与していると考えられるTNF受容体の細胞外ドメインを切断しない。
【0033】
CGS−27023A(Novartis Pharma AG)は、MMPの広域スペクトルインヒビターである。CGS−21Q23Aは、第I相臨床試験で評価されており、この臨床試験では、150〜600mgの用量範囲で分割投与する連続投与スケジュールに従って経口投与が行われた。1日2回の300mgを超える用量では、大きな毒性作用が見られたが、これは、皮膚毒性および筋骨格毒性であった。薬物動態解析によれば、臨床上許容される用量でCGS−27023を投与すると、MMP−2、MMP−3およびMMP−9のインビトロでのIC50に比べて血漿中濃度が数倍になり、これが、投与後10時間を超えて持続した。
【0034】
テトラサイクリン誘導体は、MMPの活性ばかりでなく産生も阻害するため、変性変形関節症、歯周炎および癌などMMP系が増加する障害を処置する観点から検討が行われている。この薬物ファミリーは、テトラサイクリン、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンなど、古典的テトラサイクリン抗生物質と、抗菌活性を除去(ジメチルアミノ基を「A」環の炭素−4から除去するなど)するために化学修飾された新規のテトラサイクリン類縁体とを含む。これらの薬物は、1)酵素結合部位で亜鉛原子をキレート化することで成熟MMPの活性を遮断すること、2)プロMMPを活性型にするタンパク質分解(proteolitic)の活性化を阻害すること、3)MMPの発現を抑制することおよび4)MMPをタンパク質分解反応および酸化分解反応から保護することなど、複数の機序を介してコラゲナーゼであるMMP−1、MMP−3およびMMP−13と、ゼラチナーゼであるMMP−2およびMMP−9とを阻害するものである。ドキシサイクリンおよびCol−3など、テトラサイクリン誘導体の中には、前臨床の癌モデルで評価が行われ、悪性疾患の患者を対象とした初期の臨床試験が始まっているものもある。
【0035】
ビスホスホナートは、酵素活性の阻害など、MMPに対して様々な阻害作用を与えるものである。また、最もよく用いられるビスホスホナートの1つであるクロドロナートは、HT1080線維肉腫細胞系におけるMT1−MMPタンパク質およびメッセンジャーRNAの発現を阻害し、人工基底膜によりC8161メラノーマ細胞系およびHT1080線維肉腫細胞系の浸潤も減少させるもので、そのIC50は、10〜35μg/mLであった(Teronen OらAnn N Y Acad Sci 1999年;878:453〜65)。
【0036】
ここに提供する方法のインヒビターは、周知のあるいは本明細書で提供するどのようなMT1−MMPインヒビターであってもよく、単独あるいは他のMT1−MMPインヒビターのいずれかと組み合わせても構わない。たとえば、提供する方法のインヒビターは、TIMPとヒドロキサマートとの組み合わせを含んでもよい。したがって、提供する方法のインヒビターは、たとえば、TIMP−2と、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023Aの1つまたは複数との組み合わせを含んでもよい。
【0037】
2.配列類似性
本明細書で論じる場合、相同性および同一性という語は、類似性と同じ意味で用いられることが理解されるであろう。このため、たとえば、2つの非天然配列の間で相同性という語を使用する場合、当然のことながら、これは、必ずしもこの2つの配列間の進化的関係を示すものではなく、むしろその核酸配列間の類似性または関連性を指すものである。進化的に関連した2つの分子間の相同性を決定する方法の多くは、進化的に関連しているか否かにかかわらず、配列類似性の判定のために任意の2つ以上の核酸またはタンパク質に適用されるのが一般的である。
【0038】
一般に、開示された遺伝子およびタンパク質の変異体および誘導体を同定する方法の1つは、既知の個々の配列との相同性によって変異体および誘導体を同定するものであることが理解されるであろう。また、本明細書に開示する個々の配列のこうした同一性については、本明細書の他の部分でも論じられる。全体として、本明細書に開示する遺伝子およびタンパク質の変異体は、明示された配列または天然配列との相同性が少なくとも約70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99パーセントであるのが通常である。当業者ならば、遺伝子などの2つのタンパク質または核酸の相同性の判定法を容易に理解するであろう。たとえば、相同性のレベルが最も高くなるように、2つの配列を整列させた後に相同性の計算を行ってもよい。
【0039】
相同性の計算を、公表されたアルゴリズムにより、別の方法で行うこともできる。比較のための配列の最適なアラインメントに関しては、SmithおよびWaterman Adv.Appl.Math.2:482(1981年)の局地的相同性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch,J.MoL Biol.48:443(1970年)の相同性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988年)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,ウィスコンシン州マディソンのGAP,BESTFIT,FASTAおよびTFASTA)または検査によって得ることができる。
【0040】
核酸の場合は、たとえば、少なくとも核酸アラインメントに関係する材料のために参照によって本明細書に援用するZuker,M.Science 244:48〜52,1989年、JaegerらProc.Natl.Acad.Sci.USA 86:7706〜7710,1989年、JaegerらMethods Enzymol.183:281〜306,1989年に開示されているアルゴリズムにより、同じタイプの相同性を得ることができる。通常、これらの方法のうちどれを用いてもよいが、場合によっては、これら種々の方法の結果が異なる可能性があることが理解されるであろう。とはいえ、これらの方法の少なくとも1つで同一性が見つかれば、その配列が、明示された同一性を有しているものとされ、本明細書に開示されているものであることを、当業者ならば、理解するであろう。
【0041】
たとえば、本明細書で使用する場合、別の配列に対して特定のパーセント相同性を持つものとして記載された配列は、上記の計算法の1つまたは複数のいずれかで計算した場合に、その記載された相同性を持つ配列を指す。たとえば、Zukerの計算法により第2の配列に対する第1の配列の相同性を80パーセントであると計算した場合、他の計算法のいずれかで計算して第2の配列に対する第1の配列の相同性が80パーセントでなくても、本明細書で規定する場合、第2の配列に対する第1の配列の相同性は、80パーセントである。別の例では、Zukerの計算法とPearsonおよびLipmanとの両方の計算法により第2の配列に対する第1の配列の相同性を80パーセントであると計算した場合、SmithおよびWatermanの計算法、NeedlemanおよびWunschの計算法、Jaegerの計算法または他の計算法のいずれかで計算して第2の配列に対する第1の配列の相同性が80パーセントでなくても、本明細書で規定する場合、第2の配列に対する第1の配列の相同性は、80パーセントである。さらに別の例では、各計算法により第2の配列に対する第1の配列の相同性を80パーセントであると計算した場合(実際には、計算法が異なれば、計算される相同性パーセンテージも異なる場合が多いが)、本明細書で規定する場合、第2の配列に対する第1の配列の相同性は、80パーセントである。
【0042】
3.組成物
本明細書に開示するMT1−MMPなどのMT−MMPのインヒビターを、本明細書で提供する方法の標的または被験者に投与することができる1種または複数種の物質と併用してもよい。たとえば、MT1−MMPなどのMT−MMPの開示したインヒビターを、IDDMの被検体に投与できる当該技術分野において公知の1種または複数種の物質と併用してもよい。MT1−MMPの開示したインヒビターを、T細胞に投与できる1種または複数種の物質と併用してもよい。この物質は、マーカーでもよいし、治療物質でもよいし、標的物質でもよい。治療物質は、標的組織(膵臓、膵島など)に所望の作用を与える任意の化合物、分子または合成物を含むものである。標的物質は、アプタマー、抗体またはそのフラグメントを含むものである。一例を挙げると、標的物質は、T細胞を標的とするものである。したがって、標的物質は、CD44を標的としても構わない。
【0043】
本明細書では、薬学的に許容されるキャリア中にMT1−MMPなどのMT−MMPのインヒビターを含む組成物を提供する。インヒビターは、公知のまたは本明細書に開示した任意のMMPインヒビターの単独でもよいし、組み合わせでよい。このため、インヒビターは、天然のMMP組織インヒビター(TIMP)であっても構わない。TIMPは、TIMP−2であってもよい。TIMPは、TIMP−3であってもよい。TIMPは、TIMP−4であってもよい。さらに、インヒビターは、ヒドキサマートであっても構わない。ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023Aからなる群から選択される。したがって、インヒビターは、AG3340でもよい。
【0044】
4.薬学的キャリア
薬学的に許容されるキャリア中の開示した組成物に関しては、インビボで投与することができる。「薬学的に許容される」とは、材料が生物学的にまたはその他の点で好ましいこと、すなわち、望ましくない生物学的作用を何か引き起こしたり、その材料を含む医薬組成物の他の成分のいずれかと有害相互作用を引き起こしたりすることなく、材料を被検体に投与できることをいう。当然ながら、キャリアについては、当業者において周知である活性成分の分解および被検体への副作用がある場合、これを最小限にとどめるように選択することになる。
【0045】
好適なキャリアおよびその製剤に関しては、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第19版)A.R.Gennaro編,Mack Publishing Company,Easton,PA1995年に記載されている。一般に、薬学的に許容される塩を製剤において適切な量で使用して製剤を等張にする。薬学的に許容されるキャリアの例として、生理食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液があるが、これに限定されるものではない。溶液のpHは、好ましくは約5〜約8、一層好ましくは約7〜約7.5である。さらに、キャリアは、マトリックスがフィルム、リポソームまたは微小粒子などの形状製品の形をとる、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなど、徐放性製剤を含むものである。たとえば、投与経路および投与する組成物の濃度次第で、特定のキャリアが一層好ましいものになり得ることが当業者には明らかであろう。たとえば、キャリアは、ヒトアルブミンまたはヒト血漿であってもよい。
【0046】
医薬組成物は、キャリア、増粘剤、希釈薬、バッファー、保存剤、表面活性剤および目的の分子を加えた同種のものを含んでもよい。さらに、医薬組成物は、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬および同種のものなど1種または複数種の活性成分を含んでもよい。
【0047】
B.方法
本明細書は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を細胞に投与することを含む、方法を提供するものである。提供する方法の細胞は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する必要がある被検体の細胞であってもよいし、その被検体に由来する細胞であってもよい。
【0048】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、細胞外基質成分の分解に関与している酵素のファミリーである。これまで報告されている16種のタンパク質のうち、10種類は通常、可溶性分子として検出されている。MMPタンパク質の中には、膜内在性タンパク質であることが明らかにされており、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)と呼ばれているものもある。現在では、MT−MMPファミリーは、MT1−MMP、MT2−MMPおよびMT3−MMP(それぞれMMP14、MMP15およびMMP16とも呼ばれる)という少なくとも3つのメンバーからなっていることが知られている。これらのタンパク質はそれぞれ、細胞表面に局在化させるC末端の膜貫通ドメインを含んでいるが、独立に発現するものである。また、これらのタンパク質は、触媒ドメインに8アミノ酸の挿入を含むという点で、MMPファミリーの他のメンバーと異なる。MT1−MMPは、プロゼラチナーゼ A(MMP−2、72kdaのIV型コラゲナーゼ)を切断して活性型にするのに関与していると考えられるが、MT2−MMPおよびMT3−MMPも、酵素前駆体MMP−2の活性化に関わっている。したがって、提供する方法のMT−MMPインヒビターは、MT1−MMP、MT2−MMP、MT3−MMPまたはその組み合わせのインヒビターであってもよい。このため、このインヒビターは、MT1−MMPのインヒビターであって構わない。一態様では、インヒビターは、MT1−MMPに特異的である。別の態様では、インヒビターは、MT1−MMP、MT2−MMPおよびMT3−MMPに特異的である。別の態様では、インヒビターは、非特異的にMMPを阻害することができる。
【0049】
「阻害する(inhibit)」「阻害すること(inhibiting)」および「阻害(inhibition)」とは、活性、反応、病態、疾患またはこれ以外の生物学的パラメータを抑えることを意味する。これには、活性、反応、病態または疾患の完全な消失を含めてもよいが、これに限定されるものではない。さらに、これには、たとえば、正常レベル、天然レベルまたは対照レベルと比べて活性、反応、病態または疾患が10%抑制されたことを含めてもよい。したがって、抑制は、たとえば、天然レベルまたは対照レベルとの比較で、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%の抑制であってもよいし、その間の任意の量の抑制であってもよい。
【0050】
さらに、本明細書は、被検体のI型糖尿病を処置する、阻害するまたは予防する方法であって、MT−MMPのインヒビター組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供するものである。
【0051】
疾患または病態のある被検体において、「処置する」または「処置」という語は、疾患もしくは病態および/または疾患もしくは病態の症状または作用の一部または全部を変化させる、を変える、抑制する、寛解させる、解消するまたは消失させるように試みて、被検体に作用するという意味で用いる。たとえば、処置は、疾患または病態の症状または作用を抑制する方法であってもよい。さらに、処置は、疾患もしくは病態の症状または影響ばかりではなく疾患または病態自体を抑制する方法であってもよい。処置は、たとえば、正常レベルまたは天然レベルから抑制されていれば、どのような抑制でもよく、疾患、病態または疾患もしくは病態の症状の完全な消失であってもよいが、これに限定されるものではない。たとえば、疾患がある被検体または対照被検体の天然レベルと比べて、同じ被検体の疾患の1つまたは複数の症状が10%抑制されれば、開示したI型糖尿病を処置する方法を処置とみなす。したがって、抑制は、正常レベル、天然レベルまたは対照レベルとの比較で10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%の抑制であってもよいし、その間の任意の量の抑制であってもよい。本明細書で使用する場合、「予防する」とは、何かが起こることを防止する、回避する、防ぐ、妨げる、止める、遅延させるまたは邪魔することをいい、特に事前の計画または措置によるものを指す。
【0052】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する能力があるかどうか候補分子をスクリーニングすることと、膵臓の毛細血管内皮を通過する細胞のトランスマイグレーションを候補分子が阻害できるかどうかを判定することとを含む、方法も提供する。
【0053】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する分子が、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害できるかどうかを判定することを含む、方法も提供する。
【0054】
さらに、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する方法であって、T細胞とMT−MMPのインヒビターを含む組成物とを接触させることを含む、方法も提供する。この方法の細胞は、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する必要がある被検体と認められた被検体の細胞であってもよいし、その被検体に由来する細胞であってもよい。
【0055】
さらに、I型糖尿病の危険性がある被検体を処置する方法であって、MT−MMPのインヒビターを含む組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供する。
【0056】
本明細書で使用する場合、「被検体」としては、動物、植物、バクテリア、ウイルス、寄生虫およびこれ以外の核酸を有する生体または実体が挙げられるが、これに限定されるものではない。被検体は、脊椎動物、さらに具体的に言えば、哺乳類(ヒト、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、非ヒト霊長類、雌ウシ、ネコ、モルモットまたは齧歯類など)、魚、トリまたは爬虫類もしくは両生類であってもよい。被検体は、無脊椎動物、さらに具体的には節足動物(昆虫および甲殻類など)に対して可能である。この語は、特定の年齢または性別を示すものではない。したがって、性別を問わず、成人および新生児の被検体ならびに胎児を含むことを意図している。患者とは、疾患または障害に悩む被検体をいう。「患者」という語は、ヒト被検体および動物被検体を含むものである。糖尿病ならびに開示する方法および組成物の文脈では、被検体は、糖尿病であるあるいは糖尿病になる可能性がある被検体であることが理解されるであろう。
【0057】
本明細書で提供する方法の被検体は、I型糖尿病であると診断されていてもよい。1型糖尿病の徴候および症状は、血液中のグルコース量が増加する高血糖症と呼ばれる病態に関係している。1型糖尿病の最も多い症状として:排尿の増加と、強い口渇と、食欲亢進にもかかわらず体重が減少することと、疲労と、感染症に対する高感受性とが挙げられる。糖尿病の検査では、血液サンプルの採取および血液内のグルコース(糖)濃度の測定が行われる。随時血糖検査では、いつでも血液サンプルを採取して試験を行うことができる。American Diabetes Association(ADA)によれば、随時血糖値が200mg/dlを超えて糖尿病の典型的な症状を伴う場合、糖尿病であることが示唆される。空腹時血糖検査では、少なくとも8時間飲食をしない(水を除く)期間を経てから血液サンプルを採取する。血液は、ほとんどの場合、朝食前の早朝に採取される。ADAによれば、空腹時血糖値が2回にわたり126mg/dl以上である場合、糖尿病であることが示唆される。空腹時血糖検査は、糖尿病の診断に用いられる最も一般的な検査である。経口糖負荷試験では、最初に空腹時血糖(blood sugar)を測定する。次いで、同じ人物に甘い飲料を飲んでもらう。その後、30分ごとに2時間にわたり血糖値を測定する。2時間後の血糖値が140mg/dl未満であれば、正常とみなされる。2時間後の血糖値が200mg/dlを超えると、糖尿病であることが示唆される。2時間後の血糖値が140〜200mg/dlであれば、耐糖能異常(または前糖尿病)であることが示される。このような人については将来、糖尿病のモニターおよびスクリーニングを行う必要がある。また、耐糖能異常は、心疾患の危険因子でもある。血糖値が180mg/dlを超えて上昇すると、グルコースは、尿に出始める。糖が尿に出たら、血糖検査を受けるべきである。体がエネルギー生成のため過剰な脂肪を分解し始めると、尿にケトンが出る。ケトンにより、脂肪が脂肪細胞から遊離するのを防ぐのに十分なインスリンがないことが示される。ケトンが認められる場合は、重篤で死に至ることもある、1型糖尿病の合併症が示唆されていることもある。
【0058】
提供する方法は、ランゲルハンス島周囲の毛細血管内皮へのT細胞の固定化を強めるものである。CD44は、内皮ヒアルロナンとの相互作用を介して、内皮へのT細胞の接着に関わっている。CD44は、腫瘍細胞におけるMT1−MMPによるタンパク質分解の標的であり、腫瘍細胞においてMT1−MMPの切断により、CD44の細胞外ドメインは細胞表面から遊離し、CD44細胞受容体機能が不活化される。提供する方法では、MT1−MMPを阻害し、したがって、CD44介在性のT細胞の接着を促進させる。このため、一態様では、本方法の結果、ランゲルハンス島周囲の毛細血管内皮へのT細胞の固定化は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%進む可能性がある。別の態様では、提供する方法のインヒビターは実質的に、膵島内皮にT細胞を固定化するものである。
【0059】
提供する方法では、T細胞の膵臓へのホーミングが減少する可能性がある。ランゲルハンス島を破壊するには、まずインスリン特異的CD8+T細胞(IS−CD8+細胞)が膵島にホーミングしなければならない。たとえば、ホーミングには、受容体が介在する可能性がある。提供する方法は、MT1−MMPを阻害し、CD44介在性のT細胞の接着を促進する。このCD44による接着が強化されれば、T細胞の膵臓へのホーミングが阻害される。したがって、この方法の結果、T細胞の膵臓へのホーミングが少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%抑制される。
【0060】
本明細書で使用する場合、「標的(targeting)」または「ホーミング」という語は、非標的の化合物または組成物と比べて、T細胞または開示した組成物などの標的化合物または標的組成物が、ある部位または位置で優先的に移動、結合および/または蓄積することを指してもよい。たとえば、T細胞においては、「ホーミング」とは、T細胞の標的組織への移動をいう。被検体へのインビボ投与においては、「標的」または「ホーミング」は、非標的の組織、細胞および/または構造と比べて、開示した組成物などの化合物または組成物が、たとえば、標的組織、標的細胞および/または標的構造に優先的に移動、結合および/または蓄積することを指してもよい。
【0061】
本明細書で使用する場合、「標的組織」という語は、被検体への投与後にT細胞または開示した組成物など、標的化合物または標的組成物が蓄積する予定の部位をいう。たとえば、本明細書に開示した主題の方法は、子宮内膜症を含む標的組織を用いるものである。
【0062】
本明細書に開示する場合、提供する方法のインヒビターは、機能的な膵島の再生も促進するものである。IDDMの病因には、自己免疫性T細胞が、活性化した後にランゲルハンス島にホーミングすることが関係している。膵島では、T細胞がインスリンを産生するβ細胞を直接破壊する。提供する方法は、T細胞の膵臓へのホーミングを阻害するものである。提供する方法は、膵島細胞の破壊を阻害する以外に、機能的な膵島を再生させるものである。したがって、この方法の結果、機能的な膵島が少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%再生することがある。
【0063】
提供する方法のT細胞は、インスリン特異的CD8陽性T細胞(IS−CD8+細胞)であってもよい。NODマウスはMHCクラスIの発現が欠落していて自然発症糖尿病を発病しにくいため、NOD/LtJ(NOD)マウスでは、この疾患の発病のためにCD8+細胞が必要となる。MHCクラスI分子の場合、前糖尿病状態のNODマウスの膵臓浸潤内に確認されるインスリン特異的CD8+T細胞は、インスリンB鎖アミノ酸の15〜23(配列番号1)番目のペプチドを認識する。
【0064】
1.投与
開示した組成物については、希望するのが局所処置あるいは全身処置であるか、および処置する領域に応じて、多くのやり方で投与することができる。投与は、局所(点眼、経膣、直腸、経鼻など)、経口、吸入または非経口(たとえば、点滴静注、皮下注射、腹腔内注射または筋肉内注射)であってもよい。したがって、開示した組成物を、経口、非経口(静脈内など)筋肉内注射、腹腔内注射、経皮、体外、局所または局所鼻腔投与もしくは吸入投与などの同種もので投与してもよい。
【0065】
通常、組成物の非経口投与を用いる場合は、注射を特徴とする。注射剤に関しては、溶液もしくは懸濁液、注射前の液体懸濁液に好適な固形、あるいはエマルジョンとして従来の形態で調製することができる。最近になって見直された非経口投与のアプローチでは、ゆっくりとした放出または徐放性放出のシステムを用いるため、一定の投与量が保たれる。参照によって本明細書に援用する米国特許第3,610,795号などを参照されたい。
【0066】
材料については、(たとえば、微小粒子、リポソームまたは細胞に組み込んで)溶液中、懸濁液中にあってもよい。こうした材料は、抗体、受容体または受容体リガンドを介してT細胞などの特定の細胞型を標的にしてもよい。
【0067】
非経口投与製剤(preparations)は、無菌の水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンを含むものである。非水性溶媒の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。水性キャリアには、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは生理食塩水および緩衝培地などの懸濁液がある。非経口投与のビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液または固定油がある。静脈内投与のビヒクルには、流動栄養補液、電解質補液(リンゲルデキストロース液をベースとしたものなど)および同種ものがある。たとえば、抗菌物質、酸化防止剤、キレート化剤および不活性ガスならびに同種のものなど、保存剤およびその他の添加剤が存在しても構わない。
【0068】
局所投与の剤形には、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤および粉剤がある。従来型の薬学的キャリア、水性、粉体または油性の基剤、増粘剤および同種のものが必要になる、あるいは、望ましい場合もある。
【0069】
経口投与組成物には、粉体または顆粒、水培地または非水系培地の懸濁液または溶液、カプセル、サッシェまたは錠剤がある。増粘剤、矯味矯臭剤、希釈薬、乳化剤、分散助剤または結合剤が望ましい場合もある。
【0070】
この組成物の中には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸およびリン酸などの無機酸との反応ならびにギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸およびフマル酸などの有機酸との反応、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基と反応ならびにモノアミン、ジアミン、トリアルキルアミンおよびアリールアミンならびに置換エタノールアミンなどの有機塩基との反応で形成される、薬学的に許容される酸付加塩または塩基付加塩として投与することができるものもある。
【0071】
i.核酸送達
本明細書に開示する場合、提供する方法は、被検体の細胞に外来のDNAを投与することと取り込むことと(すなわち、遺伝子の導入またはトランスフェクション)を含んでもよい。たとえば、開示したインヒビターをコードしている核酸を細胞に送達してもよい。開示した核酸は、裸のDNAまたはRNAの形であってもよいし、核酸を細胞に送達するベクター内にあってもよく、したがって、抗体をコードしているDNAフラグメントは、プロモーターの転写制御下にあってもよいことを当業者ならばよく理解するであろう。ベクターは、アデノウイルスベクター(Quantum Biotechnologies,Inc.(Laval,カナダケベック州)などの市販の製剤(preparation)であっても構わない。核酸またはベクターの細胞への送達は、種々の機構により行うことができる。一例として、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO−BRL,Inc.,メリーランド州ゲーサーズバーグ(Gaithersburg))、SUPERFECT(QIAGEN,ドイツヒルデン(Hilden))およびTRANSFECTAM(Promega Biotec, Inc.,ウィスコンシン州マディソン(Madison))ならびに当該技術分野における手順標準に準じて開発されたこれ以外のリポソームなど、市販されているリポソーム製剤(preparations)を用いてリポソームにより送達することができる。さらに、開示した核酸またはベクターを、Genetronics,Inc.(カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego))から市販されている技術であるエレクトロポレーションおよびソノポレーションマシン(SONOPORATION machine)(ImaRx Pharmaceutical Corp.,アリゾナ州トゥーソン(Tucson))によりインビボで送達することもできる。
【0072】
一例として、組換えレトロウイルスゲノムをパッケージングすることができるレトロウイルスベクター系など、ウイルス系によりベクターを送達することができる(PastanらProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:4486,1988年;MillerらMol.Cell.Biol.6:2895,1986年を参照のこと)。その後、この組換えレトロウイルスを用いて感染させることにより、その感染細胞に所望のMT−MMPインヒビターをコードしている核酸(またはその活性フラグメント)を送達してもよい。言うまでもなく、この変質した核酸を哺乳類細胞に導入する具体的な方法は、レトロウイルスベクターの使用に限定されるものではない。こうした手順については、アデノウイルスベクター(MitaniらHum.Gene Ther.5:941〜948,1994年)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(GoodmanらBlood 84:1492〜1500,1994年)、レンチウイルスベクター(NaidiniらScience 272:263〜267,1996年)、シュードタイプレトロウイルスベクター(AgrawalらExper.Hematol.24:738〜747,1996年)を使用するなど、他の技法も広く用いられている。さらに、リポソーム送達ならびに受容体を介した機構および他のエンドサイトーシス機構など、物理的形質導入技法も用いられている(たとえば、SchwartzenbergerらBlood 87:472〜478,1996年を参照こと)。この開示した組成物および方法を、これらまたは他の繁用されている遺伝子移入方法のいずれかとともに用いてもよい。
【0073】
一例として、核酸をアデノウイルスベクターで被検体の細胞に送達する場合、アデノウイルスのヒトへの投与量は、1回の注射につき約107〜109プラーク形成単位(pfu)までの幅があってもよいが、1012pfuという高投与量でもよい(Crystal,Hum.Gene Ther.8:985〜1001,1997年;AlvarezおよびCuriel,Hum.Gene Ther.8:597〜613,1997年)。被検体には単回注射してもよいし、追加注射が必要な場合は、無期限に6ヶ月(あるいは、当業者が決定する他の適切な時間間隔)おきにおよび/または処置効果が確立されるまで繰り返してもよい。
【0074】
核酸またはベクターの非経口投与を用いる場合は通常、注射を特徴とする。注射剤に関しては、溶液もしくは懸濁液、注射前の液体懸濁液に好適な固形、あるいはエマルジョンとして従来の形態で調製することができる。最近になって見直された非経口投与のアプローチでは、ゆっくりとした放出または徐放性放出のシステムを用いるため、一定の投与量が保たれる。治療用化合物に好適な剤形および様々な投与経路のさらなる考察については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第19版)A.R.Gennaro著,Mack Publishing Company,ペンシルベニア州イーストン(Easton),1995年を参照されたい。
【0075】
2.治療用途
組成物を投与するのに有効な投与量およびスケジュールについては、経験的に決定してもよいが、かかる決定は、当該技術分野の技術の範囲内で行うものである。組成物の投与量範囲は、障害の症状に影響を与え、所望の作用を得るのに十分な投与量範囲である。投与量は、不要な交差反応、アナフィラキシー反応および同種のものなど、副作用を引き起こすほど多くしてはならない。通常、投与量は、患者の年齢、病態、性別および疾患の程度、投与経路またはその治療法に他の薬剤が含まれるかどうかにより異なるものであり、当業者が決定しても構わない。投与量については、任意の禁忌事象が認められた場合、医師が個別に調節してもよい。投与に関しては、多様であってもよく、1日あるいは数日間にわたり、毎日単回投与または反復投与を行ってもよい。一定のクラスの医薬品の適切な投与量については、ガイダンスを文献で確認することができる。単独使用の場合、提供した組成物の典型的な1日投与量は、上述の要因に応じて、約1mg/kg体重から約10mg/kg体重など、1日あたり約1mg/kg体重から最大100mg/kg体重あるはそれ以上までの幅があってもよい。
【0076】
AG3340などのヒドロキサマート抗癌剤によるMT1−MMPの薬理学的阻害は、IDDM患者に好ましい結果をもたらす。このインヒビターは、血液中のT細胞の細胞表面に結合したMT1−MMPに直ちにアクセするため、IDDMに必要とされるインヒビターは低濃度である。対照的に、癌のMMPの阻害に必要なインヒビターは、血管新生が不十分な腫瘍への送達を要するため高濃度である。さらに、IDDMを対象としたMMPインヒビターの必要投与量は、副作用(side effects)を引き起こすと考えられるレベル未満でもある。
【0077】
IDDMを処置する、阻害するまたは予防する開示した組成物を投与した後、治療用組成物の有効性を、当業者に周知の様々な方法で評価することができる。たとえば、当業者ならば、血糖(blood sugar)の低下を観察すれば、本明細書に開示した組成物が被検体のIDDMの処置または阻害に有効であることを理解するであろう。
【0078】
C.定義
当然のことながら、開示する方法および組成物は、記載した特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されるものではなく、変更が可能である。また、本明細書に用いる用語は、個々の実施形態を説明するためだけのものであって、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものでないことも理解されるであろう。
【0079】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形である「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数についての言及を含むことに留意しなければならない。したがって、たとえば、「インヒビター(an inhibitor)」とは、複数のかかるインヒビターを含み、「インヒビター(the inhibitor)」とは、当業者に公知の1種または複数種のインヒビターおよびその等価物等をいうものであり、以下同様である。
【0080】
「任意の(optional)」または「任意に(optionally)」とは、後に記載する現象、状況または材料が起こっても起こらなくてもよいこと、あるいは、存在しても存在しなくてもよいこと、さらに、その記載が、その現象、状況または材料が起こるまたは存在する場合と、それが起こらないまたは存在しない場合とを含むことを意味する。
【0081】
本明細書では、範囲を、「約(about)」を前置したある特定の値からおよび/または「約」を前置した別の特定の値までと表すことができる。このように範囲を表す場合、その範囲も明確に意図しており、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、一方の特定の値からおよび/または他方の特定の値までの範囲を開示しているとみなされる。同様に、先行詞「約」を用いることにより値を近似値として表す場合、特定の値は、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、明確に意図した別の実施形態を形成しており、その実施形態を開示しているとみなすべきであることも理解されるであろう。さらに、各範囲の端点は、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、他方の端点との関連でも他方から切り離しても意味があることも理解されるであろう。最後に、個々の値および明示的に開示した範囲内に含まれる各値の下位の範囲もすべて、明確に意図しており、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、開示しているとみなすべきであることを理解されたい。こうした実施形態の一部または全部を明示的に開示している特殊な場合であっても、上記を適用する。
【0082】
他に記載がない限り、本明細書に使用した技術用語および科学用語はすべて、開示した方法および組成物が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本方法および組成物の実施または試験では、本明細書に記載したものと類似または同等の任意の方法および材料を用いることもできるが、特に有用な方法、装置および材料は、記載したとおりである。本明細書に引用する刊行物および刊行物に記載の材料については、参照により本明細書に明確に援用する。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明によるかかる開示に対し、先行する権利がないと認めているものと解釈してはならない。任意の参考文献が従来技術を構成することを自認するものではない。参考文献の考察は、著者が主張する内容を記載したものであり、出願人は、引用文献の正確性および妥当性に異議を申し立てる権利を留保する。本明細書では多くの刊行物に言及しているが、かかる言及は、こうした文献のいずれかが当該技術分野の共通一般知識の一部をなすことを承認するものではないことが明らかに理解されるであろう。
【0083】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」という語および「comprising」および「comprises」などのこの語の変形は、「含むが、これに限定されるものではない」を意味し、たとえば、他の添加剤、成分、整数またはステップを除外することを意図しているものではない。
【0084】
当業者ならば、通常の実験だけで、本明細書に記載する方法および組成物の具体的な実施形態の等価物を多数認識するか、確認することができるであろう。かかる等価物については、下記の特許請求の範囲により包含されることを意図している。
【実施例】
【0085】
D.実施例
以下の実施例は、本明細書で特許請求している化合物、組成物、製品、装置および/または方法の製造方法および評価方法の完全な開示および説明を当業者に提示するもので、純粋に例示的なものを意図しており、本開示を限定することを意図するものではない。数字(量、温度など)に対する正確性を確保するように努力したが、一部に誤差および偏差があることを考慮すべきである。他に記載がない限り、部は重量部であり、温度は℃単位または周囲温度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0086】
1.実施例1:制癌剤により膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼを阻害すると、糖尿病誘発T細胞の膵臓へのホーミングが干渉される。
【0087】
材料および方法
マウスおよび細胞−NOD/LtJ系統のNODマウスをJackson Laboratoryから入手した。IS−CD8+T細胞(NODマウスの膵臓に由来するTGNFC8クローンのインスリン特異的CD8陽性Kd拘束性T細胞)(Wong,F.S.ら(2003年))を、5%ウシ胎児血清と、2×10−5Mβ−メルカプトエタノールと、20mMペニシリン−ストレプトマイシンと、3mg/mlのL−グルタミンと、5単位/ml組換えマウスインターロイキン−2とを補充したクリック培地で維持した(Savinov,A.Y.ら(2003年))。IS−CD8+細胞を3週間ごとに、L15YLVCGERG23(配列番号1)インスリンB鎖ペプチド(10μg/ml)を注入した放射線放射線照射NOD脾細胞(2000ラド)と混合した(Wong,F.S.ら(1999年))。
【0088】
NODマウスへの糖尿病の導入−IS−CD8+細胞を、AG3340(50μMまたは21μg/ml)を用いる場合と用いない場合とで2時間インキュベートし、次いで5〜8週齢の放射線照射(事前に725ラドで24時間)マウス(1×107細胞/動物)に静脈内注射した。マウスを21日間モニターした。細胞の注射後0、2、4、6、8および10日目に、マウスにAG3340(30mg/kgまたは1mg/kg)またはリン酸緩衝生理食塩水単独の腹腔内注射を行った。糖尿病の発現を、尿中のグルコース濃度をDiastix(登録商標)ストリップ(Bayer)で評価して確認した。3日間連続して尿中のグルコース濃度が>2000mg/dlのマウスを糖尿病とみなした。AG3340(分子量=421Da)を入手した。尿中のグルコース濃度は、血液中のグルコース濃度と密接に連動する(Traisman,H.S.およびGreenwood,R.D.(1973年))。尿中のグルコースの測定は、NODマウスの糖尿病の発生を調査するのに一般に受け入れられている方法である(Pomerleau,D.P.ら(2005年))。
【0089】
蛍光追跡および形態計測解析−トラフィッキング試験のため、IS−CD8T細胞を、5%ウシ胎児血清および蛍光色素である0.0075mg/mlの1,1’−ジドデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロラート(DiI;Molecular Probes,オレゴン州ユージーン(Eugene))を含む完全なクリック培地において、1×107細胞/mlで37℃にて30分間暗所でインキュベートした。インキュベーション後、この細胞をリン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し、過剰なDiIを除去した。標識IS−CD8+細胞(1×107細胞)を0.2mlのリン酸緩衝生理食塩水に加えて、放射線照射(事前に725ラドで24時間)NODマウスに静脈内注射した。DiI標識細胞を注射してから24時間後、マウスを屠殺した。脾臓および膵臓を切除し、0.1M過ヨウ素酸−リシン−パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液で固定した。次いでこの臓器をスクロース飽和させ、OCT化合物(Sakura Finetek Inc.,Torrance,カリフォルニア州)で凍結成形を行い、凍結切断片を作成した。膵臓全体の中で厚さ7μmのクリオスタット切片を、Leica CM1900クリオトームを用いて60μm間隔で調製した。膵島内のDiI標識CD8+細胞の分布を蛍光顕微鏡を用いて調べた。マウス1匹(4〜5マウス/実験群)あたり少なくとも100個の島を調べた。凍結切片では、膵島特有の形態を容易に確認できる。個々の膵島に関係する領域内のDiI標識細胞を計数した(代表的な画像である図3を参照のこと;膵島に関係する領域を白の実線で示し、膵島の境界を白の点線で示す)。膵島の境界と比較して各IS−CD8+標識細胞の位置を判定した。膵島の境界内に局在する標識細胞を「内側」とみなし、膵島に隣接するが膵島の境界の外側の標識細胞を「エントランス」とみなした。この方法については、かなり詳細に報告されている(これらの方法を教示しているためその全体を本明細書に参照して援用するSavinov,A.Y.ら(2003年)およびSavinov,A.Y.ら(2001年)を参照のこと)。
【0090】
MT1−MMP−CATによる細胞の処置−MT1−MMP(MT1−MMP−CAT;3μg)の触媒ドメインを、50mMのHEPES0.2mlと、10MmのCaCl2と、0.5mMのMgCl2と、50μMのZnCl2と、0.01%Brij−35緩衝液(pH6.8)とに加えたIS−CD8+細胞(1×107細胞)とともに37℃にて2時間同時インキュベートした。指示により、このサンプルにGM6001(50μM;Chemicon,カリフォルニア州テメキュラ(Temecula))を加えた。処理後に、この細胞を放射線照射マウスに注射するか、あるいは、DiI標識、ウエスタンブロッティング、FACS分析およびこれ以外の解析手順に用いた(Savinov,A.Y.ら(2003年);Deryugina,E.I.ら(2001年);Rozanov,D.V.ら(2001年))。
【0091】
ウエスタンブロッティング−0.1mg/mlスルホ−NHS−LC−ビオチン(Pierce,イリノイ州ロックフォード(Rockford))により、IS−CDS+細胞表面を4℃にて1時間ビチオン化した。ビオチンを除去するため洗浄した後、細胞を、無血清の無添加クリック培地でMT1−MMP−CATとともに2時間同時インキュベートした。次いでこの細胞を、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2およびフッ化フェニルメチルスルホニル(1mM)と、アプロチニンと、ペプスタチンと、ロイペプチン(各1μg/ml)とを含むプロテアーゼインヒビター混合物を加えたリン酸緩衝生理食塩水に加えた50mMのN−オクチル−β−D−グルコピラノシドに溶解させた。ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジンアガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルを、CD44(クローンIM7.8.1)抗体を用いたウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインおよび細胞可溶化物における残りの膜アンカー型CD44の細胞を判定した。
【0092】
MT1−MMP依存性MMP−2の活性化およびゼラチンザイモグラフィー−IS−CD8+細胞(1×106)を、無血清の無添加クリック培地において2%ゼラチンでコーティングしたプラスチックに4時間接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。こうした実験条件下、大部分の細胞は、ゼラチンに結合した。4時間して、培地サンプル(それぞれ30μL)を採取し、ゼラチンザイモグラフィーで解析し(Deryugina,E.I.ら(2001年))、IS−CD8+細胞で自然に合成されたMMP−2のタンパク質分解活性および活性化状態を確認した。指示により、細胞に外部から精製プロMMP−2(20ng)を加えた。プロMMP−2については、HT1080線維肉腫細胞系から得たp2AHT2A72細胞のコンディション培地から単離し、続いてE1AおよびMMP−2cDNAをトランスフェクトした(Strongin,A.Y.ら(1995年))。
【0093】
モノクローナル抗体およびFACS分析−IS−CD8+細胞を、MT1−MMP(Ab815;Chemicon)モノクローナル抗体、CD44(クローンIM7.8.1)モノクローナル抗体、CD3(クローン17A2)モノクローナル抗体、CD49d(クローン SG31)モノクローナル抗体(すべてBD Biosciences,メリーランド州ロックビル(Rockville)製)およびCD29モノクローナル抗体(Chemicon)で染色し、続いてフルオレセインイソチオシアナートまたはフィコエリトリンコンジュゲート二次抗体(BD Biosciences)で染色してから、FACScanフローサイトメータ(Becton Dickinson,ニュージャージー州フランクリンレイクス(Franklin Lakes))で解析した。CD44レベルを判定するため、IS−CD8+細胞をさらに可溶性蛍光標識ヒアルロン酸(Sigma,St.Louis,ミズーリ州)で染色した。IS−C8+細胞をフィコエリトリンまたはフルオレセインイソチオシアナート−コンジュゲート抗CD8抗体(Sigma)で対比染色した。
【0094】
結果
MT1−MMPはCD44の細胞をシェディングする−MT1−MMPによるT細胞のCD44のタンパク質分解が、T細胞の接着およびその後のトランスマイグレーションおよび膵臓へのホーミングを制御していると判定した。MT1−MMP抗体およびCD44抗体ならびにフルオレセインイソチオシアナート標識ヒアルロナンを用いたFACS分析から、懸濁液に加えたIS−CD8+細胞では、細胞表面に結合したMT1−MMPおよびCD44が高レベルで存在することが示された(図1A)。IS−CD8+細胞は、Kd主要組織適合性複合体クラスI分子の場合、インスリンB鎖由来のL15YLVCGERG23(配列番号1)ペプチドを認識する(Wong,F.S.ら(1999年))。IS−CD8+細胞を注射すると、致死量以下で放射線照射したNOD/LtJマウスに1週間で糖尿病が誘発される(Savinov,A.Y.ら(2003年))。NODマウスは、IDDMの最良の動物モデルとして広く用いられている(Delovitch,T.L.およびSingh,B.(1997年))。MT1−MMPに対するAb815抗体はプロテアーゼのヒンジドメインを認識するため、FACS試験では、酵素前駆体と、活性酵素型と、MT1−MMPとメタロプロテイナーゼ−2の組織インヒビターなどのメタロプロテイナーゼの組織インヒビターとの不活性な複合体とは識別されない。
【0095】
CD44のレベルは、触媒として強力な外部の精製MT1−MMP−CATと同時インキュベートした大半のIS−CD8+細胞で大きく減少した(図1A)。この処置は、CD3、CD8、CD29およびCD49など、他のT細胞受容体のレベルあるいはT細胞の生存状況には影響を与えなかった。こうした観察結果を裏付けるため、IS−CD8+細胞表面を膜非透過性ビオチンで標識してから、さらにMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートを行った。次に遊離した可溶性CD44フラグメントをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲し、ウエスタンブロッティングにより検出した。こうした研究から、MT1−MMP−CATをIS−CD8+細胞とともに同時インキュベートする過程で、MT1−MMP−CATは、量は少なくても、CD44の細胞の消化したフラグメントを大量に遊離させ、細胞表面に結合したCD44の残留レベルを低下させた。こうしたデータは、図1Aに示したFACS分析の結果と整合している。CD44の切断におけるMT1−MMPの関与を裏付けるように、GM6001により、MT1−MMP−CATの作用は消失した(図1B)。さらに、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートしたIS−CD8+細胞を蛍光DiI色素で標識し、次いで放射線照射NODマウスに注射した。24時間して、IDDMにおける標識細胞を計数した(Delovitch,T.L.およびSingh,B.(1997年))。MT1−MMPに対するAb815抗体はプロテアーゼのヒンジドメインを認識するため、FACS試験では、酵素前駆体と、活性酵素型と、MT1−MMPとメタロプロテイナーゼ−2の組織インヒビターなどのメタロプロテイナーゼの組織インヒビターとの不活性な複合体とは識別されない。
【0096】
CD44のレベルは、触媒として強力な外部の精製MT1−MMP−CATと同時インキュベートした大半のIS−CD8+細胞で大きく減少した(図1A)。この処置は、CD3、CD8、CD29およびCD49など、他のT細胞受容体のレベルあるいはT細胞の生存状況には影響を与えなかった。こうした観察結果を裏付けるため、IS−CD8+細胞表面を膜非透過性ビオチンで標識してから、さらにMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートを行った。次に遊離した可溶性CD44フラグメントをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲し、ウエスタンブロッティングにより検出した。こうした研究から、MT1−MMP−CATをIS−CD8+細胞とともに同時インキュベートする過程で、MT1−MMP−CATは、量は少なくても、CD44の細胞の消化したフラグメントを大量に遊離させ、細胞表面に結合したCD44の残留レベルを低下させた。こうしたデータは、図1Aに示したFACS分析の結果と整合している。CD44の切断におけるMT1−MMPの関与を裏付けるように、GM6001(MT1−MMPの強力なヒドロキサマートインヒビター)により、MT1−MMP−CATの作用は消失した(図1B)。
【0097】
さらに、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートしたIS−CD8+細胞を蛍光DiI色素で標識し、次いで放射線照射NODマウスに注射した。24時間して、ランゲルハンス島の標識細胞を計数した。MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解は、細胞のホーミングを約4.5分の1に減少させ、マウスの糖尿病の発現をほぼ2倍遅らせる(図1C)。こうした結果から、外部のMT1−MMP−CATによりT細胞のCD44が切断されると、膵臓内皮のヒアルロナンに接着する能力があるIS−CD8+細胞の数が減少することが示された。結果として、MT1−MMP−CATとの同時インキュベーション後、トランスマイグレートする細胞の数も減少した。
【0098】
MT1−MMPは、接着IS−CD8+細胞において活性化される−内在性のMT1−MMPは、非接着IS−CD8+細胞に潜伏しているが、IS−CD8+細胞が接着すると、MT1−MMPの活性化、CD44の切断およびT細胞のトランスマイグレーションに対する刺激が誘発される。したがって、IS−CD8+細胞には、ゼラチンに接着した場合に限り、MT1−MMPにより直接活性化されることが知られている酵素MMP−2を活性化できる作用があった(図2)。非接着細胞は、MMP−2を活性化しなかった。同様に、CD44タンパク質分解フラグメントが培地に遊離することが検出されたのは、接着IS−CD8+細胞においてのみであった。非接着細胞のCD44は、そのままの状態が続いた。GM6001は、接着細胞においてMMP−2の活性化とCD44のシェディングとの両方を遮断した(図2)。これらの結果から、MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解は、糖尿病誘発細胞が基層に接着した場合のみに起こるものであることが示される。接着後、活性化MT1−MMPは、CD44の切断が可能となり、この現象により、T細胞の遊離が促進され、続いて内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションおよびランゲルハンス島へのホーミングが見られる。逆に、MT1−MMPを阻害すれば、T細胞の接着が亢進され、トランスマイグレーションの効率が低下する可能性がある。
【0099】
MT1−MMPを阻害すれば、ISCD8+細胞の糖尿病誘発性が抑制される−T細胞によるトランスマイグレーション、ホーミングおよび糖尿病発症におけるMT1−MMPの役割を確認するため、別の有力なヒドロキサマートインヒビターであるAG3340(Shalinsky,D.R.ら(1999年))を用いた。AG3340は、ナノモル以下の範囲のKiでMT1−MMPを阻害する。AG3340は、癌の第I〜III相臨床試験で用いられた(Hande,K.R.ら(2004年))。AG3340を評価するため、新たな糖尿病NODマウスから単離したIS−CD8+細胞および脾細胞(Savinov,A.Y.ら(2003年))を用いた。この細胞をAG3340とともに同時インキュベートし、あるいは、処置を行わず、次いでNODマウスに注射し、その後AG3340(30mg/kgおよび1mg/kg)または溶媒単独(対照)を投与した。AG3340は対照と比較して、1mg/kgという低濃度で糖尿病の発現を約2倍遅らせた(図3A)。
【0100】
同様に、AG3340は、膵臓内皮のヒアルロナンにしっかりと接着したままのIS−CD8+細胞の数を増加させて、T細胞のランゲルハンス島への侵入プロセスを大きく遅らせた。AG3340とともに同時インキュベートし、DiIで標識したIS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。24時間して、標識IS−CD8+細胞を膵島周囲および膵島内側の両方で計数した(図3Bおよび図3C)。AG3340の存在下では、膵島のエントランスでT細胞を検出し、膵島内側で確認した細胞は少数であった。AG3340の非存在下では、この状況が消失し、T細胞は、効率的に膵島にトランスマイグレートした。これらの所見から、T細胞MT1−MMPの阻害は、齧歯類の一般に認められたIDDMモデルにおける糖尿病の発現を遅らせるうえで重要であることが示される。MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解が血管外遊出を制御する推定機序を図3Dに説明してある。
【0101】
2.実施例2:自然発症1型糖尿病においてT細胞膜プロテイナーゼを標的とする
材料および方法
マウスおよび細胞−NOD/LtJ系統のNODマウスをJackson Laboratoryから入手した。IS−CD8+T細胞(NODマウスの膵臓に由来するTGNFC8クローンのインスリン特異的CD8陽性Kd拘束性T細胞)(Wong,F.S.ら(1996年))を、5%FCSと、2×10−5Mβ−メルカプトエタノールと、20mMペニシリン−ストレプトマイシンと、3mg/mlのL−グルタミンと、5U/ml組換えマウスIL−2とを補充したクリック培地で維持した(Savinov,A.Y.ら(2003年))。IS−CD8+細胞を3週間ごとに、L15YLVCGERG23(配列番号1)インスリンB鎖ペプチド(10μg/ml)を注入した放射線照射NOD脾細胞(2000ラド)と混合した(Wong,F.S.ら(1999年))。
【0102】
新たな糖尿病NODマウス−NODマウスは、生後およそ5ヶ月で糖尿病を発症した。自然発症糖尿病の発現を、尿中のグルコース濃度をDiastix(登録商標)ストリップ(Bayer)で評価して確認した。3日間連続して尿中のグルコース濃度が>2000mg/dlのマウスを糖尿病とみなした。尿中のグルコース濃度は、血液中のグルコース濃度と密接に連動する(Traisman,H.S.& Greenwood,R.D.(1973年)。尿中のグルコースの測定は、NODマウスの糖尿病の発生を調査するのに一般に受け入れられている方法である(Pomerleau,D.P.ら(2005年))。糖尿病の発生後、インスリン(15〜20U/kg;2〜3日ごとに1回注射)をマウスに皮下注射した。対照動物(マウス6匹/群)にはインスリンを単独投与し、実験群(マウス5匹/群)にはインスリンの皮下投与と一緒にAG3340を腹腔内投与した(1mg/kg;2〜3日ごとに1回注射)。AG3340(分子量=421D)を用いた。注射を40日間継続して、その後マウスを屠殺した。白血球および粒状のβ細胞を、パラホルムアルデヒド固定パラフィン包埋の膵臓切片ごとにそれぞれH&Eおよびアルデヒドフクシンで染色した。膵島(≧100/マウス)を以下のとおりスコア評価した:0、病変なし;1は膵島周囲の白血球凝集に加えて管周囲の浸潤;2は膵島の破壊が<25%;3は膵島の破壊が>25%;および4は膵島の全体的な破壊。ホルモン産生細胞を同定するため、この切片をインスリンに対する抗体(Linco Research,モンタナ州セントチャールズ(St.Charles))およびグルカゴンに対する抗体(DacoCytomation,カリフォルニア州カーピンテリア(Carpinteria))で染色し、続いて種特異的西洋わさびペルオキシダーゼ−コンジュゲート二次抗体および3,3’−ジアミノベンジジン基質で染色した。
【0103】
蛍光追跡および形態計測解析−トラフィッキング試験のため、IS−CD8+T細胞を、5%FCSおよび蛍光色素である0.0075mg/mlの1,1’−ジドデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロラート(DiI;Molecular Probes)を含む完全なクリック培地において、1×107細胞/mlで37℃にて30分間暗所でインキュベートした。インキュベーション後、この細胞をPBSで3回洗浄し、過剰なDiIを除去した。標識IS−CD8+細胞(1×107細胞)を0.2mlのPBSに加えて、放射線照射(事前に725ラドで24時間)NODマウスに静脈内注射した。DiI標識細胞を注射してから24時間後、マウスを屠殺した。指示により、DiI標識IS−CD8+T細胞を静脈内注射する30分前に、CD44に対する機能阻害抗体IM7.8.1(BD Biosciences)およびAG3340をそれぞれNODマウスに静脈内注射(それぞれ0.1mg/動物および1mg/kg)した。24時間して、脾臓および膵臓を切除し、0.1M過ヨウ素酸−リシン−パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液で固定した。次いでこの臓器をスクロース飽和させ、OCT化合物(Sakura Finetek Inc.)で凍結成形を行い、凍結切断片を作成した。膵臓全体の中で厚さ7μmのクリオスタット切片を、Leica CM1900クリオトームを用いて60μm間隔で調製した。膵島内のDiI標識CD8+細胞の分布を、蛍光顕微鏡を用いて調べた。マウス1匹あたり(各実験群につきマウス4〜5匹)少なくとも100個の膵島を調べた。凍結切片では、膵島特有の形態を容易に確認できる。個々の膵島に関係する領域内のDiI標識細胞を計数した。膵島の境界と比較して各IS−CD8+標識細胞の位置を判定した。膵島の境界内に局在する標識細胞を「内側」とみなし、膵島に隣接するが膵島の境界の外側の標識細胞を「エントランス」とみなした。
【0104】
ウエスタンブロッティング−0.1mg/mlスルホ−NHS−LC−ビオチン(Pierce)により、IS−CDS+細胞表面を4℃にて1時間ビチオン化した。ビオチンを除去するため洗浄した後、この標識細胞を無血清培地において2%I型コラーゲン/ゼラチンでコーティングしたプラスチックに4時間接着させるか、あるいは、懸濁液中で保持した。こうした実験条件下、大部分の細胞は、ゼラチンに結合した。指示により、この細胞にTIMP−1およびTIMP−2(それぞれ100ng/ml)およびAG3340(50μMまたは21μg/ml)を加えた。次いでこの細胞を、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2およびフッ化フェニルメチルスルホニル(1mM)と、アプロチニンと、ペプスタチンと、ロイペプチン(各1μg/ml)とを含むプロテアーゼインヒビターカクテルを加えたPBSに加えた50mMのN−オクチル−β−D−グルコピラノシドに溶解させた。ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジンアガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルを、CD44(クローンIM7.8.1)抗体を用いたウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインおよび細胞可溶化物の残りの膜アンカー型CD44の細胞を判定した。
【0105】
MT1−MMP依存性MMP−2の活性化およびゼラチンザイモグラフィー−IS−CD8+細胞(1×106)を、無血清の無添加クリック培地において2%ゼラチンでコーティングしたプラスチックに4時間接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。18時間して、培地サンプル(それぞれ30μL)を採取し、ゼラチンザイモグラフィーで解析(Deryugina,E.I.ら(2001年))し、IS−CD8+細胞で自然に合成されたMMP−2のタンパク質分解活性および活性化状態を確認した。指示により、細胞に外部から精製プロMMP−2(20ng)、TIMP−1およびTIMP−2(それぞれ100ng/ml)ならびにAG3340(50μMまたは21μg/ml)を加えた。プロMMP−2については、HT1080線維肉腫細胞系から得たp2AHT2A72細胞のコンディション培地から単離し、続いてE1AおよびMMP−2cDNAをトランスフェクトした(Strongin,A.Y.ら(1995年))。
【0106】
結果および考察
CD44は、糖尿病誘発T細胞における主要な接着受容体である−T細胞のホーミングにおけるCD44の役割を定量的に評価するため、NODマウスに725ラドで放射線照射を行った。24時間して、CD44に対する機能阻害抗体およびAG3340をそれぞれマウスに注射した。30分後、この注射に続いて、蛍光色素DiIで標識したIS−CD8+T細胞を静脈内注射した。細胞を注射してから24時間後にマウスを屠殺した。膵臓を切除し、凍結切断片を作成した。膵島内のDiI標識IS−CD8+細胞の分布を、蛍光顕微鏡を用いて調べた。個々の膵島に関係する領域内のDiI標識細胞を計数した。図4は、IS−CD8+細胞が対照マウスの膵島内側に効率的ホーミングする一方で、CD44機能を遮断すると、T細胞のホーミングの効率が大幅に低下したことを示す。このように、CD44介在性の接着(Weiss,L.ら(2000年))は、T細胞の膵島へのホーミングにおいて極めて重要な役割を果たしていることが確認された。また、AG3340も(接着T細胞においてMT1−MMPによるCD44のタンパク質分解を阻害することで)T細胞のホーミングを50%低下させた。代表的な画像は、抗CD44とAG3340との主な違いを示すもので、前者はT細胞の接着を抑制し、そのためDiI標識細胞のホーミングを減少させたのに対し、後者は膵島のエントランスで膵臓内皮に接着したT細胞の作用を失わせた。
【0107】
MT1−MMPとCD44のシェディングとの因果関係−次に、CD44のシェディングにおけるMT1−MMP活性の意義を判定し、接着IS−CD8+細胞におけるこの2つの因果関係を特定した。こうした目的のため、膜非透過性ビオチンでIS−CD8+細胞表面をビオチン化し、次いでこの標識細胞をゼラチンコーティングプラスチックに接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。その後、この細胞を溶解させ、ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジン−アガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルをウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインと細胞可溶化物の残りの膜アンカー型CD44の細胞との両方の量を測定した。また、培地サンプルをゼラチンザイモグラフィーで解析し、IS−CD8+細胞で自然に合成されたMMP−2の活性化状態を確認した。MMP−2は、MT1−MMPにより直接活性化されることが知られている酵素である(Egeblad,M.& Werb,Z.(2002年);Strongin,A.Y.ら(1995年))。指示により、細胞に外部から精製プロMMP−2を補充した。この細胞サンプルにTIMP−2(MT1−MMPの強力なインヒビター)、TIMP−1(MT1−MMPの弱いインヒビター)およびAG3340をそれぞれ加えて、MT1−MMPの役割と細胞表面に結合した他のプロテアーゼによると推定される個々の作用とを区別した(Will,H.ら(1996年))(図5)。
【0108】
実施例1の観察結果と一致して、内在性MT1−MMPは非接着細胞に潜伏していたが、T細胞が接着すると、MT1−MMPの活性化が誘発され、続いてMMP−2の活性化およびCD44の切断が見られた。したがって、IS−CD8+細胞には、ゼラチンに接着した場合に限り、MMP−2を活性化する作用があった。非接着細胞は、MMP−2を活性化しなかった。同様に、CD44フラグメントが培地に遊離することが検出されたのは、接着IS−CD8+細胞においてのみであった。非接着細胞のCD44は、そのままの状態が続いた。AG3340およびTIMP−2はそれぞれ、接着細胞におけるMMP−2の活性化およびCD44のシェディングを完全に遮断した。これに対し、TIMP−1は、MMP−2の活性化に何ら影響を及ぼさなかった。TIMP−1では、軽微ながら特記すべきCD44タンパク質分解の阻害作用が示された。こうした結果から、MT1−MMPは、T細胞のCD44のシェディングにおける唯一のメディエーターではなく、主要な個別メディエーターであることが確認された。これ以外のプロテアーゼ(ADAMなど)(中村博幸ら(2004年))も、CD44のタンパク質分解に関与している。しかしながら、こうした他のプロテアーゼを合わせた作用は、MT1−MMPの作用に比べると小さい(図5)。
【0109】
自然発症IDDMにおいてMT1−MMPによるCD44のタンパク質分解を阻害する−AG3340に治療上の翻訳作用があるかどうかを評価するため、このインヒビターを、自然発症糖尿病を発症したNOD雌マウスに用いた。対照動物にはインスリンを単独投与し、実験群には、インスリンと一緒にAG3340を投与した。使用したAG3340の用量は、癌の第I相試験で用いる最低投与量よりも1桁少なくした(Hande,K.R.ら(2004年))。40日して、膵臓を切除して切片を作成し、膵島を解析して、観察した膵島炎に応じて分類した。さらに、切片をインスリンおよびグルカゴンに対する抗体で染色し、生存している膵島および新たに形成された膵島の機能性を確認した(Luo,X.ら(2005年))。
【0110】
AG3340による短期処置は、明らかな糖尿病NODマウスを正常血糖に回復させるには不十分であった。しかしながら、膵島炎の重症度は、対照と比較して顕著で確かな低下を示した(図6)。AG3340により、正常な膵島および膵島周囲の膵島炎が限定的である膵島の数が増加した。面白いことに、AG3340により、膵実質に膵島様構造が新規形成された。こうした小さい再生膵島では、単核細胞浸潤が見られず、インスリン(図6)およびグルカゴンが産生されたため、ホルモン分泌α細胞およびβ細胞の機能再生が明らかになった。反対に、未処理の対照では、集中的な単核細胞浸潤、膵島の明らかな破壊およびホルモン産生の大幅な減少が見られた。これらの所見は、養子移入したT細胞の血管外遊出においてAG3340がCD44−MT1−MMP軸をコントロールする役割と整合している。全体として、こうした結果から、AG3340には、膵島を破壊する自己免疫を効果的にコントロールし、インスリン産生β細胞およびランゲルハンス島の機能再生を刺激することで、糖尿病の予防効果があったことが示される。
【0111】
3.実施例3:1型糖尿病におけるT細胞膜プロテイナーゼおよびCD44の役割の規定
IDDMにおけるT細胞MT1−MMPの特異的な役割:糖尿病雄性および高脂肪食雌性のZucker糖尿病肥満ラットにおいて、MMP−2、MMP−12およびMT1−MMPは、非糖尿病の痩せたラットと比較して上方制御された(Zhou,Y.P.ら2005年)。膵島の細胞外基質分子のターンオーバーを低下させることでβ細胞塊を保護しているものとして、PD166793[(S)−2−(4’−ブロモ−ビフェニル−4−スルホニルアミノ)−3−メチル−酪酸](MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−13およびMT1−MMPに対するこのインヒビターのEC50値はそれぞれ、6100nM、47nM、12nM、7200nM、7900nM、8nMおよび240nMと広範囲にわたる)O’Brien,P.M.ら2000年;Peterson,J.T.ら2001年)が考えられる。
【0112】
T細胞MT1−MMPの特異的役割を検証し、さらにIDDMのNODモデルにおける他のMMPの潜在的意義を解明するため、AG3340に加えて2つのインヒビターEGCGおよびSB−3CTを用いた。EGCGおよびSB−3CTはともにMT1−MMPの弱いインヒビターであるが、MT1−MMPと異なるMMPを標的とする能力がある。これら2つのインヒビターがCD44シェディングを強力に阻害するかどうかを判定するため、膜非透過性スルホ−NHS−LC−ビオチンでIS−CD8+T細胞表面をビオチン化した。次いでこの標識細胞をゼラチンコーティングプラスチックに接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。その後この細胞を溶解させ、ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジン−アガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルをウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインおよび細胞可溶化物の残りの膜アンカー型CD44の細胞の量を測定した。さらに、培地サンプルをゼラチンザイモグラフィーで解析し、MMP−2の活性化状態を確認した。MMP−2は、MT1−MMPにより直接活性化されることが知られている酵素である(Strongin,A.Y.ら1995年)。指示により、細胞にAG3340、SB−3CTおよびEGCGを補充した(図7)。内在性MT1−MMPは、非接着細胞に潜伏していたが、T細胞が接着すると、MT1−MMPの活性化が誘発され、続いてMMP−2の活性化およびCD44の切断が見られた。非接着細胞は、MMP−2を活性化しなかったことから、効果的にCD44のシェディングを行う能力がない。AG3340は、固着T細胞においてMMP−2の活性化およびCD44のシェディングの両方を完全に阻害した。一方、SB−3CT(MT1−MMPの弱いインヒビター)が、MMP−2活性化、CD44のシェディングのいずれにもまったく影響を及ぼさなかったのに対し、EGCGは、500mMという非常に高濃度とした場合に限られるが、CD44のタンパク質分解に何ら顕著な作用を及ぼすことなくMMP−2の活性化を部分的に阻害した。
【0113】
これに対し、SB−3CTは、MMP−2によるα1−アンチトリプシン(感受性が高く入手しやすいMMPのタンパク質基質)のタンパク質分解を阻害し(Li,W.ら2004年;Mast,A.E.ら1991年)、この61kDaのセルピンを、α1−アンチトリプシン分子のN末端部分に相当する55kDaの分解フラグメントに変換する作用が非常に強かった。したがって、SB−3CTは、インビトロにおいてナノモル範囲の濃度でα1−アンチトリプシンの切断を完全に遮断した(図7)。
【0114】
SB−3CTおよびEGCGの抗糖尿病性をAG3340の抗糖尿病性と対比して判定するため、各インヒビターを必要な濃度でNODマウスに腹腔内注射した。IS−CD8+細胞を蛍光色素であるジドデシル−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロラート(DiI)で前標識し、次いでNODマウスに静脈内注射した。24時間して、標識IS−CD8+細胞を膵島周囲および膵島内側の両方で計数した(図8)。AG3340の非存在下では、T細胞は、効率的に膵島にトランスマイグレートした。AG3340の存在下では、この状況が消失し、膵島のエントランスで検出されるT細胞が多くなり、膵島内側で認められた細胞は数分の1になった。反対に、SB−3CTおよびEGCGでは、どちらもAG3340よりもはるかに高濃度で用いたが、IS−CD8+細胞のホーミングに影響を及ぼさなかった。
【0115】
これらの結果をさらに裏付けるため、IS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。細胞注射の30分前に、各インヒビターまたはPBS(対照)のいずれかをマウスに腹腔内投与した。マウスが糖尿病を発症するまで、インヒビターの注射を1日おきに続けた。AG3340は、対照と比べて1mg/kgという低濃度で糖尿病の発現をおよそ2倍遅らせた(図9)。反対に、SB−3CTおよびEGCG(どちらもMT1−MMPを除くMMPの強力なインヒビター)を投与したマウスでは、移入糖尿病の発現に遅れは見られなかった。
【0116】
NODマウスの移入糖尿病モデルでは、MT1−MMPのアンタゴニストであるAG3340だけが、臨床的に関連する作用を示した。MMPインヒビターは広範囲の特異性を示すため、AG3340、SB−3CTおよびEGCGを同時に評価する場合、認められる結論としては、T細胞MT1−MMPは、IDDMにおいて重要な役割を果たしている一方で、どちらもSB−3CTにより効率的に阻害されるMMP−2およびMMP−9など、他のすべてのMMPを合わせた作用は、重要性がはるかに小さいということにとどまった。こうした結果から、糖尿病誘発T細胞の血管内皮細胞間隙遊走およびランゲルハンス島へのホーミングの効率性に関与するMT1−MMP−CD44軸の機能的重要性が認められる。
【0117】
IDDMのMT1−MMPを標的にする潜在的な臨床的意義:AG3340をインスリンとともに低投与量で注射すると、T細胞の糖尿病誘発の効率が低下し、T細胞が内皮に固定化され、糖尿病誘発T細胞のランゲルハンス島へのホーミングが抑制され、急性糖尿病NODマウスの膵島炎および単核細胞浸潤が軽減された。これらを合わせた現象により、新たに発症したIDDMの糖尿病NODマウスにおけるインスリン産生β細胞の回復が促進された。再生した機能性β細胞の発生源は、β細胞自体ではなく血管内皮前駆幹細胞である。
【0118】
インスリンを産生するβ細胞が再生されたことを証明するため、NODマウスにIDDMを発生させた。次いで疾患マウスに40日間インスリンを単独投与するか、あるいは、インスリンをAG3340と一緒に投与した。その後インスリン注射を中断した。疾患の発現後にインスリンを投与したマウスは、およそ2〜3日で高血糖になり、その後NIHガイドラインに従ってマウスを屠殺した。一方、インスリンをインヒビターと一緒に投与したマウスは、インスリン産生β細胞のプールを回復した。インスリン注射を中止しても、このβ細胞プールはこうしたマウスの生存には十分なものであり、外部のインスリンを用いなくても正常血糖/軽度の高血糖の状態が数週間続いた。
【0119】
E.参考文献
【0120】
【数1】
【0121】
【数2】
【0122】
【数3】
【0123】
【数4】
【0124】
【数5】
【0125】
【数6】
【0126】
【数7】
F.配列表
【0127】
【数8】
【0128】
【数9】
【0129】
【数10】
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1A】図1は、MT1−MMPがCD44を過剰にタンパク質分解すると、T細胞が膵島にホーミングする割合が低下し、マウスにおける糖尿病の発現が遅れることを示す。図1Aは、IS−CD8+細胞のFACS分析結果を示す。IS−CD8+細胞をMT1−MMP抗体およびCD44抗体で染色し、続いてフルオレセインイソチオシアナート−コンジュゲート二次抗体で染色し、その後FACS分析に付した。CD44を可溶性蛍光標識ヒアルロン酸で染色した場合も、類似の結果を得た。左のパネルは、MT1−MMPの染色である(太線はMT1−MMP;点線はアイソタイプコントロール)。右のパネルは、CD44の染色である(太線は未処理細胞;点線は、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートされた細胞)。
【図1B】図1Bは、MT1−MMPがCD44の細胞をシェディングし、その可溶性フラグメントを培地に放出させることを示す。IS−CD8+細胞表面をビオチン化し、次いでMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートした。その後、この細胞をN−オクチル−β−Dグルコピラノシドで溶解させ、プロテアーゼインヒビター混合物を追加した。ビオチン標識CD44を細胞可溶化物から捕獲し、捕獲サンプルを、CD44抗体を用いたウエスタンブロッティングで調べて、遊離した可溶性CD44細胞外ドメイン(培地)および残りの膜アンカー型CD44(細胞)を判定した。指示により、このサンプルにGM6001を加えた。
【図1C】図1Cは、MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解により、IS−CD8+細胞の糖尿病誘発性が低下することを示す。左のパネルでは、細胞をMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートし、蛍光色素DiIで標識し、次いでNODマウスに注射した。24時間して、膵臓のクリオスタット切片ごとに膵島の標識細胞数を計数した。右のパネルでは、MT1−MMP−CATで処理済みおよび未処理のIS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。糖尿病の発生率は、未処理の細胞では、100%(6匹中6匹)、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートした細胞では、70%(10匹中7匹)であった。
【図2】図2は、タンパク質分解活性MT1−MMPがMMP−2を活性化し、接着IS−CD8+細胞におけるCD44の細胞を切断することを示す。IS−CD8+細胞をゼラチンでコーティングしたプラスチックに固着させるか、あるいは、溶液中で保持した。上のパネルでは、懸濁液中のゼラチンコーティングプラスチックに固着した細胞(A)および非固着細胞(NA)を精製MMP−2(MMP−2単独;細胞なし)とともに同時インキュベートした。4時間して、培地サンプルを採取し、ゼラチンザイモグラフィーで解析してMMP−2のタンパク質分解活性および活性化状態を確認した。T細胞で自然に合成されたMMP−2の活性化を観察するため、左の2つのサンプルには外部からMMP−2を加えなかった。P、IおよびEは、MMP−2の68kDaの酵素前駆体、64kDaの中間体および62kDaの活性成熟酵素である。下のパネルでは、細胞表面をビオチン化してゼラチン固着させるか、あるいは、懸濁液中で保持した。細胞可溶化物および培地のアリコートをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲した。捕獲サンプルのCD44を、CD44抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した。
【図3A】図3は、ヒドロキサマートインヒビターであるAG3340が、MT1−MMPを不活化し、T細胞におけるCD44のシェディングを遮断し、移入を受けたNODマウスの糖尿病の発現を遅らせることを示す。図3Aは、AG3340が、養子移入を受けたNODマウスの糖尿病の発現を遅らせることを示す。IS−CD8+の細胞および脾細胞をそれぞれNODマウスに静脈内注射した(それぞれマウス1匹あたり細胞1×107個およびマウス1匹あたり細胞1.5×107個;マウス6匹/群)。細胞の注射後の0、2、4、6、8および10日目に、マウスにAG3340の腹腔内注射を行った(30mg/kgおよび1mg/kg)。
【図3B】図3Bは、AG3340が、IS−CD8+細胞のランゲルハンス島へのトランスマイグレーションを阻害することを示す。IS−CD8+細胞を、AG3340(50μMまたは21μg/ml)を用いておよび用いずに2時間同時インキュベートし、次いでDiIで標識した。次にこの標識細胞をNODマウスに静脈内注射した。24時間して、膵臓全体の中で、膵島のエントランスおよびランゲルハンス島内の標識細胞をそれぞれうちクリオスタット切片ごとに計数した。nは、各実験群における膵島の総数である。
【図3C】図3Cは、DiI標識IS−CD8+細胞の注射を受けたNODマウスから得たランゲルハンス島の代表的な画像を示す。画像は、注射の24時間後に撮ったものである。膵島は、点線で囲んである。白色の実線は、DiI標識細胞を計数した、膵島に関連する領域を示す。下のパネルは、細胞をAG3340とともにプレインキュベートしたものであり、上のパネルは、無処理細胞のものである。IS−CD8+細胞が膵島に入り込むのをAG3340がブロックしている点に留意されたい。
【図3D】図3Dは、MT1−MMPのタンパク質分解が血管外遊出におけるT細胞のCD44の機能性を動的に制御することを示す。MT1−MMPは、低レベルの場合、T細胞のヒアルロナンリッチ内皮への接着を刺激する。T細胞の接着後、T細胞MT1−MMPは活性化される。MT1−MMP活性は高レベルになると、CD44の欠損の原因になる。この現象により、T細胞の血管内皮細胞間隙遊走が刺激される。CD44の過剰が持続すると、T細胞のホーミングおよび血管外遊出が抑制される。
【図4】図4は、CD44が、糖尿病誘発IS−CD8+T細胞のランゲルハンス島へのホーミングに大きな役割を果たしていることを示す。CD44に対する機能阻害抗体IM7.8.1およびAG3340をそれぞれNODマウスに静脈内注射した。30分して、この注射に続いてDiI標識IS−CD8+T細胞を静脈内注射した。24時間後、膵島のエントランスおよびランゲルハンス島内の標識細胞をそれぞれ、蛍光顕微鏡を用いて膵臓のクリオスタット切片ごとに計数した。マウス1匹あたり少なくとも100島(マウス4〜5匹/群)を調べた。結果を左のパネルにまとめてある。*および**は、フィッシャーの検定でp<0.05であった。代表切片は、未処理動物のT細胞の効率的なホーミングと、機能阻害CD44抗体の著しい阻害作用と、膵島のエントランスでのAG3340によるT細胞の固定化とを示す。
【図5】図5は、阻害解析から、内因性MT1−MMPがIS−CD8+T細胞の細胞表面のCD44を切断することが確認されることを示す。上のパネルでは、細胞表面をビオチン化し、次いで無血清培地においてIコラーゲン/ゼラチンでコーティングしたプラスチックに接着させるか(接着、A)、あるいは、懸濁液中で保持した(非接着、NA)。指示により、この細胞に、TIMP−1(100ng/ml;MT1−MMPの弱いインヒビター)と、どちらもMT1−MMPの非常に強力なインヒビターであるTIMP−2(100ng/ml)およびAG3340(50μM)とを加えた。細胞可溶化物および培地のアリコートをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲した。捕獲サンプルのCD44を、CD44細胞外ドメインに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した。下のパネルは、MMP−2を解析するため、無血清培地において接着細胞および非接着細胞をそれぞれ18時間インキュベートしたものを示す。この細胞に精製MMP−2(20ng;MMP−2単独;細胞なし)を加えた。MMP−2の活性化を、培地のアリコートのゼラチンザイモグラフィーで解析した。ウエスタンブロッティング実験(上の2つのパネル)では、外的なMMP−2を用いなかった。
【図6A】図6は、AG3340が膵島炎を抑制し、自然発症糖尿病のNODマウスにおける膵島の再生を刺激することを示す。自然発症糖尿病の発症後、インスリン(15〜20U/kg;2〜3日ごとに1回注射)をマウスに皮下注射した。対照動物(マウス6匹/群)にはインスリンを単独投与したのに対し、実験群(マウス5匹/群)には、インスリンの皮下投与と一緒にAG3340を腹腔内投与した。各注射を40日間続けてから、マウスを屠殺した。膵臓の切片において、白血球および粒状のβ細胞をそれぞれH&Eおよびアルデヒドフクシンで染色した。膵島の膵島炎の重症度(≧100/マウス)をスコア評価した(0は病変なし;1は膵島周囲の白血球凝集に加えて管周囲の浸潤;2は膵島の破壊が<25%;3は膵島の破壊が>25%;および4は膵島の全体的な破壊)。*および**は、フィッシャーの検定でそれぞれp=0.042およびp=0.037であった。膵臓切片の代表的な画像は、インスリン抗体で染色した対照マウスおよびAG3340処理したマウスのものである。対照では、膵島の単核細胞浸潤および膵島炎の広がりが見られることと、AG3340を投与したマウスでは、膵島周囲炎が抑えられているとともに小型の再生インスリン陽性膵島が形成されていることに留意されたい。
【図6B】図6は、AG3340が膵島炎を抑制し、自然発症糖尿病のNODマウスにおける膵島の再生を刺激することを示す。自然発症糖尿病の発症後、インスリン(15〜20U/kg;2〜3日ごとに1回注射)をマウスに皮下注射した。対照動物(マウス6匹/群)にはインスリンを単独投与したのに対し、実験群(マウス5匹/群)には、インスリンの皮下投与と一緒にAG3340を腹腔内投与した。各注射を40日間続けてから、マウスを屠殺した。膵臓の切片において、白血球および粒状のβ細胞をそれぞれH&Eおよびアルデヒドフクシンで染色した。膵島の膵島炎の重症度(≧100/マウス)をスコア評価した(0は病変なし;1は膵島周囲の白血球凝集に加えて管周囲の浸潤;2は膵島の破壊が<25%;3は膵島の破壊が>25%;および4は膵島の全体的な破壊)。*および**は、フィッシャーの検定でそれぞれp=0.042およびp=0.037であった。膵臓切片の代表的な画像は、インスリン抗体で染色した対照マウスおよびAG3340処理したマウスのものである。対照では、膵島の単核細胞浸潤および膵島炎の広がりが見られることと、AG3340を投与したマウスでは、膵島周囲炎が抑えられているとともに小型の再生インスリン陽性膵島が形成されていることに留意されたい。
【図7】図7は、AG3340が、MT1−MMPと、IS−CD8+T細胞におけるCD44のシェディングとを阻害することを示す。上のパネルは、MMP−2のゼラチンザイモグラフィーを示す。細胞のMT1−MMPによるMMP−2の活性化を解析するため、接着細胞および非接着細胞をそれぞれ無血清培地で18時間インキュベートした。この細胞に精製MMP−2(20ng)を加えた。MMP−2の活性化を、培地のアリコートのゼラチンザイモグラフィーで解析した結果、68kDaのMMP−2酵素前駆体が62kDaのMMP−2成熟酵素に変換されることが観察された。指示により、この細胞にAG3340、SB−3CTおよびEGCGを18時間加えた。真ん中のパネルは、CD44のウエスタンブロッティングを示す。細胞表面をビオチン化してから、無血清培地において、Iコラーゲン/ゼラチンでコーティングしたプラスチックに接着させるか(接着、A)、あるいは、懸濁液のままにしておいた(非接着、NA)。指示により、この細胞にAG3340、SB−3CTおよびEGCGを加えた。細胞可溶化物および培地のサンプルをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲した。捕獲サンプルのアリコート(それぞれ総タンパク質50μg)のCD44を、CD44細胞外ドメインに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した。下のパネルは、低濃度のSB−3CTがMMP−2を阻害することを示す。α1−アンチトリプシンをMMP−2とともにインキュベートした。消化したサンプルを、SDS−ゲル電気泳動を還元して解析した。指示により、このサンプルにSB−3CTを図に示した濃度で加えた。
【図8】図8は、AG3340が、IS−CD8+T細胞の膵島内ホーミングを阻害することを示す。NODマウスにAG3340、SB−3CTおよびEGCGをそれぞれ注射した。30分して、各注射に続いてDiI標識IS−CD8+T細胞を注射した。24時間後、蛍光顕微鏡で膵臓のクリオスタット切片を調べた。DiI標識細胞は、膵島のエントランスまたはランゲルハンス島内に位置しており、これを計数した。マウス1匹あたり少なくとも100島(マウス4〜5匹/群)を調べた。膵島については、蛍光の減弱および緻密で高密度な構造など、その形態学的特徴から容易に見分けることができる。DiI標識細胞を注射したNODマウスから得たランゲルハンス島の代表的な画像を示す。
【図9】図9は、AG3340が、IS−CD8+T細胞の血管内皮細胞間隙遊走を阻害し、NODマウスの移入糖尿病の発症を遅らせることを示す。図9Aは、AG3340が、IS−CD8+細胞のランゲルハンス島へのトランスマイグレーションを阻害することを示す。マウスには、この細胞を注射する30分前に、AG3340、SB−3CT、EGCGまたはPBSのいずれかを投与しておいた。IS−CD8+細胞をDiIで標識してから、NODマウスに注射した。24時間して、膵臓全体の中で膵島内にある標識細胞をクリオスタット切片ごとに計数した。図9Bは、AG3340が、養子移入を受けたNODマウスの糖尿病の発現を遅らせることを示す。IS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。マウスには、糖尿病を発現するまで(およそ1〜2週間)、AG3340、SB−3CTおよびEGCGあるいはPBSを1日おきに1回投与した。SB−3CT(60mg/ml)、EGCG(50mg/ml)およびAG3340(50mg/ml)の原液については、50%DMSOで製造しておいた。注射の直前に、EGCGおよびSB−3CTをそれぞれPBSで4mg/mlの濃度に希釈した。AG3340をPBSで濃度0.4mg/mlになるように希釈した。PBS含有3.%DMSOをビヒクル対照として用いた。Diastixの試薬ストリップで尿中グルコース濃度を測定して、糖尿病の発現を毎日モニターした。3日連続して尿中グルコース濃度が≧2000mg/dlであるマウスを糖尿病とみなした。*および**は、フィッシャーの検定でそれぞれp=0.02およびp=0.015であった。
【背景技術】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2006年2月9日に出願された、米国仮特許出願第60/772,058号の利益を主張する。
【0002】
連邦政府の支援による研究に関する声明
本発明は、国立保健研究所(National Institutes of Health)により付与された助成金CA83017、CA77470およびRR020843の下で政府支援によりなされた。政府は、本発明に一定の権利を有するものである。
【0003】
発明の背景
T細胞が介在する消耗性の主要な自己免疫疾患として、インスリン依存性糖尿病(IDDM;I型糖尿病)がある(Homann,D.& von Herrath,M.(2004年))。IDDMの病因には、自己免疫性T細胞が活性化し、その後ランゲルハンス島にホーミングすることが関係している。ランゲルハンス島では、T細胞がインスリンを産生するβ細胞を直接破壊する(Mathis,D.ら(2001年))。活性化T細胞においては、細胞表面接着受容体であるCD44が増加する。CD44は、内皮ヒアルロナンとの相互作用を介して、内皮へのT細胞の接着およびその後のトランスマイグレーション現象に関与している(DeGrendele,H.C.ら(1997年))。
【0004】
腫瘍細胞では、CD44が、MT1−MMPのタンパク質分解の標的であることが確認されている。MT1−MMPによる切断を受けて、CD44の細胞外ドメインが細胞表面から遊離し、CD44細胞受容体の機能は不活化される(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。浸潤を促進する多機能の膜結合型酵素であるMT1−MMPは、癌細胞において細胞周囲のタンパク質分解に伴う諸現象の主要なメディエーターの1つとして機能し、細胞表面受容体を直接切断している(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。本明細書は、MT1−MMPのインヒビターを用いてIDDMを処置する組成物および方法を提供するものである。
【非特許文献1】Mori,H.ら、(2002年)EMBO J.21,3949−3959
【非特許文献2】Nakamura,H.ら、(2004年)Cancer Res.64,876−882
【非特許文献3】Suenaga,N.ら、(2005年)Oncogene 24,859−868
【非特許文献4】Egeblad,M.& Werb,Z.(2002年)Nat.Rev.Cancer 2,161−174
【非特許文献5】Sabeh,F.ら、(2004年)J.Cell Biol.167,769−781
【非特許文献6】Seiki,M.(2003年)Cancer Lett.194,1−11
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の簡単な要旨
本明細書は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を細胞に投与することを含む、方法を提供するものである。
【0006】
さらに、本明細書は、被検体のI型糖尿病を処置する方法であって、MT−MMPのインヒビターを含む組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供するものである。
【0007】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する能力があるかどうか候補分子をスクリーニングすることと、膵臓の毛細血管内皮を通過する細胞のトランスマイグレーションを候補分子が阻害できるかどうかを判定することとを含む、方法も提供する。
【0008】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する分子が、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害できるかどうかを判定することを含む、方法も提供する。
【0009】
さらに、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する方法であって、T細胞とMT−MMPのインヒビターを含む組成物とを接触させることを含む、方法も提供する。この方法の細胞は、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する必要がある被検体と認められた被検体の細胞であってもよいし、その被検体に由来する細胞であってもよい。
【0010】
さらに、I型糖尿病の危険性がある被検体を処置する方法であって、MT−MMPのインヒビターを含む組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供する。
【0011】
ここに開示する方法および組成物のさらなる利点に関しては、以下の説明にも記載されており、その説明からある程度理解されるであろうし、あるいは、開示する方法および組成物を実施することで知ることができる。開示する方法および組成物の利点は、添付の特許請求の範囲に具体的に指摘する要素および組み合わせにより実現および達成されるであろう。上述の概要および以下の詳細な説明は、例示的および説明的なものにとどまり、特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではないことを理解すべきである。
【0012】
本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する添付図面は、開示する方法および組成物の諸実施形態を例示し、記述と相まって、開示する方法および組成物の原理を説明するのに役立つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本明細書では、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)インヒビターに関係する組成物および方法を提供する。
【0014】
具体的な実施形態における以下の詳細な説明およびそこに含まれる実施例と、図ならびに図に対する先の説明および以下の説明とを参照することで、開示する方法および組成物を比較的容易に理解することができる。
【0015】
当然のことながら、開示する方法および組成物に関しては、他に記載がない限り、特定の合成方法、特定の解析技法または個別の試薬に限定されるものではなく、したがって、変化しても構わない。また、本明細書に用いる用語は、個々の実施形態を記載することだけを目的としたものであり、限定することを意図するものではないことも理解すべきである。
【0016】
A.材料
開示する方法および組成物に用いることができる、開示する方法および組成物と一緒に用いることができる、開示する方法および組成物の調製に用いることができる、あるいは、開示する方法および組成物の産物である、材料、組成物および成分を開示する。本明細書は、こうした材料および他の材料を開示するものであるが、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などを開示する場合、こうした化合物の個別および全体の様々な組み合わせと順列との具体的な言及を1つ1つ明示的に開示していない場合でも、それぞれを具体的に意図して本明細書に記載していることが理解されよう。たとえば、インヒビターを開示して考察を行い、さらにインヒビターを含む多くの分子に対してなし得る変更を様々に考察する場合、特に異なる指定がない限り、インヒビターのありとあらゆる組み合わせおよび順列と可能である変更とを具体的に意図している。したがって、分子A、BおよびCのクラスを開示するとともに、分子D、EおよびFのクラスおよび分子の組み合わせ例A−Dも開示する場合、それぞれを個々に記載していなくても、それぞれを個別および全体として意図している。このため、この例の場合では(is this example)、AおよびBおよびCと、DおよびEおよびFと、組み合わせ例A−Dとの開示から、組み合わせA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−EおよびC−Fをそれぞれ具体的に意図しており、これらを開示しているものとみなすべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも具体的に意図しており、開示しているものである。よって、たとえば、AおよびBおよびCと、DおよびEおよびFと、組み合わせ例A−Dとの開示から、A−E、B−FおよびC−Eの亜群を具体的に意図しており、開示しているものとみなすべきである。この考え方を、開示組成物の製造方法および使用方法の各ステップを含むが、これに限定されるものではなく、本出願のすべての態様に適用する。以上のとおり、実施可能な追加ステップが多岐にわたる場合、開示方法の任意の特定の実施形態または実施形態の組み合わせにより、こうした追加ステップをそれぞれ実施することができ、かかる組み合わせについては、具体的に意図しており、開示しているものとみなすべきであることが理解されるであろう。
【0017】
1.インヒビター
本明細書で提供する方法では、インヒビターは、天然のMMP組織インヒビター(TIMP)であってもよい。TIMPは、TIMP−2であっても構わない。TIMPは、TIMP−3であってもよい。TIMPは、TIMP−4であって構わない。TIMPの概説に関しては、本教示のため参照によってその全体を本明細書に援用するDissertation of Palosaari,H(Acta Universitatis Ouluensis Medica,D739,ISBN951−42−7077−0)で確認することができる。
【0018】
すべてのTIMPの特色として、12個の保存システイン残基を持ち、相対位置が保存され、成熟タンパク質を産生するために切断される23〜29個のアミノ酸リーダー配列が存在することが挙げられる。TIMPと、TIMP−1とMMP−3との複合体およびTIMP−2とMT1−MMPとの複合体など、MMP−TIMP複合体との結晶構造については、報告がなされている(Gomis−Ruthら1997年,Fernandez−Catalanら1998年)。TIMPは、互いに対向するポリペプチド鎖のN末端半分およびC末端半分からなる細長い連続的なくさび状である(Gomis−Ruthら1997年)。MMPとの複合体において、TIMPは、その辺縁部でMMPの活性部位クレフトに全長にわたって結合している(Fernandez−Catalanら1998年,Gomis−Ruthら1997年)。
【0019】
TIMP−2は、分子量21kDaの非グリコシル化タンパク質である(Stetler−Stevensonら1989年a,Booneら1990年)。TIMP−2には、負電荷を持つ伸長したC末端がある(Booneら1990年)。TIMP−2のプロモーターは、5つのSP1結合部位、2つのAP−2結合部位、1つのAP−1結合部位および3つのPEA−3結合部位など、複数の調節要素を含むものである(De Clerckら1994年,Hammaniら1996年)。TIMP−2は、1.2kbおよび3.8kbの2つのmRNAに転写される(Hammaniら1996年)。
【0020】
ヒトTIMP−2は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むものであり、配列番号3に記載の核酸配列(受託番号BC071586)によってコードされている。したがって、提供する方法のインヒビターは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントを含んでもよい。また、このインヒビターは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントとの相同性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%であるアミノ酸を含んでも構わない。さらに、提供する方法のインヒビターは、配列番号2に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントをコードしている核酸を含んでもよい。前述のとおり、提供する方法のインヒビターは、配列番号3に記載の核酸配列を含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号3に記載の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%である核酸を含んでもよく、その核酸は、少なくとも20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチドを含むものである。
【0021】
TIMP−3のポリペプチド配列は、TIMP−1およびTIMP−2の配列との類似性がそれぞれ37%および42%である(Apteら1994年)。C末端の付近には、保存されたグリコシル化部位を持っている。ヒト組換えTIMP−3のキャラクタリゼーションによって、27kDaのグリコシル化種と24kDaの非グリコシル化種の両方があることが明らかにされている(Apteら1995年)。TIMP−3は、グリコシル化形態でも非グリコシル化形態でもECMに局在している(Langtonら1998年)。TIMP−3遺伝子には4つのSP1部位があるが、プロモーターはTATAボックスを持たない(Apteら1994年,Wickら1995年)。この遺伝子から転写されるものに、2.4kb、2.8kbおよび5.5kbの3つのTIMP−3mRNA種があり(Apteら1994年)、これらの種は、ヒト軟骨細胞により構成的に発現される(Suら1996年)。
【0022】
ヒトTIMP−3は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号5に記載の核酸配列(受託番号X76227)によってコードされている。したがって、提供する方法のインヒビターは、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントを含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントとの相同性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%であるアミノ酸を含んでも構わない。提供する方法のインヒビターは、配列番号4に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントをコードしている核酸を含んでもよい。前述のとおり、提供する方法のインヒビターは、配列番号5に記載の核酸配列を含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号5に記載の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%である核酸を含んでもよく、この核酸は、少なくとも20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチドを含むものである。
【0023】
TIMP−4は、分子量が22kDaであり、TIMP−1との同一性が37%、TIMP−2およびTIMP−3との同一性が51%である(Greeneら1996年)。TIMP−4は、生理条件下で最も中性(pH7.4)なTIMPタンパク質であり、等電点は、ヒトTIMP−1、TIMP−2およびTIMP−3の値がそれぞれ8.00、6.45および9.04であるのに対し、7.34である(Wildeら1994年,Greeneら1996年)。TIMP−4遺伝子は、1.4kbのmRNA種に転写される(Olsonら1998年)。TIMP−4は石灰化組織のうち、ヒト軟骨で検出されている(Huangら2002年)。
【0024】
ヒトTIMP−4は、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含み、配列番号7に記載の核酸配列(受託番号NM_003256)によってコードされているものである。したがって、提供する方法のインヒビターは、配列番号6に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントを含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号6に記載のアミノ酸配列との相同性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%であるアミノ酸またはその生物活性フラグメントを含んでも構わない。さらに、提供する方法のインヒビターは、配列番号6に記載のアミノ酸配列またはその生物活性フラグメントをコードしている核酸を含んでも構わない。前述のとおり、提供する方法のインヒビターは、配列番号7に記載の核酸配列を含んでもよい。さらに、このインヒビターは、配列番号7に記載の核酸配列との配列同一性が少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%である核酸を含んでもよく、この核酸は、少なくとも20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチドを含むものである。
【0025】
TIMPはそれぞれ、相互作用性も親和性も異なる比率で標的MMPに結合するが、ほとんどの場合、化学量論的には1:1または2:2である。TIMP−1は、TIMP−2に比べてMMP−1、MMP−3およびMMP−9を効果的に阻害する(Howardら1991年,Baragiら1994年,O’Connellら1994年,Nguyenら1994年)。TIMP−2は、TIMP−1に比べて10倍以上効果的にプロMMP−2を阻害する(Stetler−Stevensonら1989a年,Howardら1991年)。しかしながら、MT1−MMP介在性のプロMMP−2活性化に際し、活性化の増強に必要なTIMP−2の量は微量である一方、高濃度になるとMMP−2を阻害するため、TIMP−2は、MMP−2に対して2つの機能的作用がある(Kinoshitaら1998年)。TIMP−3は、少なくともMMP−2およびMMP−9を阻害する(Butlerら1999年)のに対し、TIMP−4は、特定のMMPに対する著しい選択性がなく、MMPのすべてのクラスに対する優れたインヒビターである(Stratmannら2001年)。TIMP−4は、MT1−MMPを阻害することと活性化MMP−2を阻害することとの両方でMMP−2活性を制御する(Biggら2001年,Hernandez−Barrantesら2001年)。
【0026】
MMPのこれ外のインヒビターは、3つの薬理学的カテゴリー:1)コラーゲンペプチド模倣物および非ペプチド模倣物、2)テトラサイクリン誘導体および3)ビスホスホナートに分類される。MMPインヒビター開発の概説に関しては、本教示のため参照によってその全体を本明細書に援用するHidalgo MおよびEckhardt,J Natl Cancer Inst.93(3):178〜93で確認することができる。
【0027】
ペプチド模倣物MMPのインヒビターは、コラーゲンを切断するためにMMPが結合するコラーゲン部位の構造を模倣して合成された偽ペプチド誘導体である。このインヒビターは、MMPの活性部位で立体特異的に可逆的に結合し、酵素活性化部位で亜鉛原子をキレート化する。いくつかの亜鉛結合基については、活性部位で結合することによりMMPを競合的に阻害する作用があるかどうか検査されている。これらの基には、カルボキシラート、アミノカルボン酸塩、スルフヒドリル、リン酸の誘導体およびヒドロキサマートがある。臨床開発中のMMPインヒビターの大部分は、ヒドロキサマート誘導体である。このため、提供する方法のインヒビターは、ヒドロキサマートまたはヒドロキサマート誘導体であってもよい。よって、本明細書で「ヒドロキサマート」を用いる場合は、ヒドロキサマートその誘導体の両方をいう。非限定的な例として、ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS27023Aからなる群から選択することができる。
【0028】
癌患者で評価された最初のMMPインヒビターであるバチマスタットは、非経口投与で効果を発揮する低分子量のヒドロキサマートである。この化合物は作用は強いが、選択性が比較的低く、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7およびMMP−9の阻害に関するIC50(酵素を50%阻害する濃度)値は、10ng/mL未満である。低分子量の合成MMPインヒビターであるマリマスタットは、バチマスタットと異なり、経口投与で効果を発揮するもので、前臨床試験では、絶対バイオアベイラビリティが20%〜50%である。この薬剤は、MMPの活性部位で亜鉛イオンをキレート化するコラーゲン模倣ヒドロキサマート構造を含むものである。マリマスタットは、バチマスタットと同様、特異性が比較的低く、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7およびMMP−9の活性を阻害し、そのIC50はそれぞれ2.5ng/mL、3ng/mL、115ng/mL、8ng/mLおよび1.5ng/mLである。
【0029】
三次元X線結晶構造解析によるMMP活性部位のコンホメーションに基づいて、いくつかの非ペプチド性MMPインヒビターが合理的に合成されている。こうした分子の中には、前臨床モデルで抗腫瘍活性が明らかになり、臨床開発用に選択されたものもある。MMPインヒビターの合理的な化学的デザインにより、癌および関節炎など、一定の疾患で主に見られるMMPサブタイプに対して特異的阻害活性を持つ化合物の合成が可能になった。たとえば、MMP−2の相対的に選択的なインヒビターとして設計されたのがAG3340、BAY 12−9566およびBMS−275291であるのに対し、骨関節疾患に関係することが多いMMP−1に特異的なものとして設計されたのがRo32−3555であり、このため、関節炎用のRo32−3555が開発中である。AG3340、BAY 12−9566、BMS−275291およびCG S27023Aについては現在、癌患者を対象とした臨床評価を受けている。
【0030】
BAY 12−9566(Bayer)は、MMP−2、MMP−3およびMMP−9の強力なインヒビターである、経口投与で効果を発揮するビフェニル化合物で、IC50は0.13μg/mLである。この化合物は、経口バイオアベイラビリティが70%〜98%で経口投与後に速やかに十分に吸収され、投与後0.5〜2時間でピーク血漿濃度に到達し、腸肝再循環も認められた。健常ボランティアを対象としたBAY 12−9566の薬物動態は、100mg/日までの用量において線形性を示した。この薬剤の反復投与の結果、クリアランスの上昇が認められ、したがって、薬剤曝露量が減少した。
【0031】
AG3340(Agouron Pharmaceuticals,Inc)は、タンパク質構造に基づく薬剤設計プログラムを用いて合成された、非ペプチド性のコラーゲン模倣MMPインヒビターである。この薬剤は、MMP−2、MMP−9、MMP−3およびMMP−13を阻害するもので、IC50は、0.13ng/mL未満である。AG3340は、親油性の低分子量化合物であり、血液脳関門を通過する。この薬物は、2〜100mg/日の用量範囲で1日2用量とする連続経口投与スケジュールに従って投与された。AG3340による処置の結果、深刻な用量規制毒性は認められなかったものの、用量が25mg/日を超えると、筋骨格への影響が現れたため、半分を超える被験者で投与中止が必要となった。この用量では、AG3340をミトキサントロン/プレドニゾンおよびカルボプラチン/パクリタキセルと併用しても安全である。
【0032】
BMS−275291(Bristol−Myers Squibb Co)は、経口投与で効果を発揮する第I相臨床開発中のMMPインヒビターである。前臨床試験において、BMS−275291は、MMP−2およびMMP−9に対して強力な阻害活性を示した。この化合物は、非ペプチド性MMPインヒビターによる筋骨格への作用の一部に関与していると考えられるTNF受容体の細胞外ドメインを切断しない。
【0033】
CGS−27023A(Novartis Pharma AG)は、MMPの広域スペクトルインヒビターである。CGS−21Q23Aは、第I相臨床試験で評価されており、この臨床試験では、150〜600mgの用量範囲で分割投与する連続投与スケジュールに従って経口投与が行われた。1日2回の300mgを超える用量では、大きな毒性作用が見られたが、これは、皮膚毒性および筋骨格毒性であった。薬物動態解析によれば、臨床上許容される用量でCGS−27023を投与すると、MMP−2、MMP−3およびMMP−9のインビトロでのIC50に比べて血漿中濃度が数倍になり、これが、投与後10時間を超えて持続した。
【0034】
テトラサイクリン誘導体は、MMPの活性ばかりでなく産生も阻害するため、変性変形関節症、歯周炎および癌などMMP系が増加する障害を処置する観点から検討が行われている。この薬物ファミリーは、テトラサイクリン、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンなど、古典的テトラサイクリン抗生物質と、抗菌活性を除去(ジメチルアミノ基を「A」環の炭素−4から除去するなど)するために化学修飾された新規のテトラサイクリン類縁体とを含む。これらの薬物は、1)酵素結合部位で亜鉛原子をキレート化することで成熟MMPの活性を遮断すること、2)プロMMPを活性型にするタンパク質分解(proteolitic)の活性化を阻害すること、3)MMPの発現を抑制することおよび4)MMPをタンパク質分解反応および酸化分解反応から保護することなど、複数の機序を介してコラゲナーゼであるMMP−1、MMP−3およびMMP−13と、ゼラチナーゼであるMMP−2およびMMP−9とを阻害するものである。ドキシサイクリンおよびCol−3など、テトラサイクリン誘導体の中には、前臨床の癌モデルで評価が行われ、悪性疾患の患者を対象とした初期の臨床試験が始まっているものもある。
【0035】
ビスホスホナートは、酵素活性の阻害など、MMPに対して様々な阻害作用を与えるものである。また、最もよく用いられるビスホスホナートの1つであるクロドロナートは、HT1080線維肉腫細胞系におけるMT1−MMPタンパク質およびメッセンジャーRNAの発現を阻害し、人工基底膜によりC8161メラノーマ細胞系およびHT1080線維肉腫細胞系の浸潤も減少させるもので、そのIC50は、10〜35μg/mLであった(Teronen OらAnn N Y Acad Sci 1999年;878:453〜65)。
【0036】
ここに提供する方法のインヒビターは、周知のあるいは本明細書で提供するどのようなMT1−MMPインヒビターであってもよく、単独あるいは他のMT1−MMPインヒビターのいずれかと組み合わせても構わない。たとえば、提供する方法のインヒビターは、TIMPとヒドロキサマートとの組み合わせを含んでもよい。したがって、提供する方法のインヒビターは、たとえば、TIMP−2と、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023Aの1つまたは複数との組み合わせを含んでもよい。
【0037】
2.配列類似性
本明細書で論じる場合、相同性および同一性という語は、類似性と同じ意味で用いられることが理解されるであろう。このため、たとえば、2つの非天然配列の間で相同性という語を使用する場合、当然のことながら、これは、必ずしもこの2つの配列間の進化的関係を示すものではなく、むしろその核酸配列間の類似性または関連性を指すものである。進化的に関連した2つの分子間の相同性を決定する方法の多くは、進化的に関連しているか否かにかかわらず、配列類似性の判定のために任意の2つ以上の核酸またはタンパク質に適用されるのが一般的である。
【0038】
一般に、開示された遺伝子およびタンパク質の変異体および誘導体を同定する方法の1つは、既知の個々の配列との相同性によって変異体および誘導体を同定するものであることが理解されるであろう。また、本明細書に開示する個々の配列のこうした同一性については、本明細書の他の部分でも論じられる。全体として、本明細書に開示する遺伝子およびタンパク質の変異体は、明示された配列または天然配列との相同性が少なくとも約70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99パーセントであるのが通常である。当業者ならば、遺伝子などの2つのタンパク質または核酸の相同性の判定法を容易に理解するであろう。たとえば、相同性のレベルが最も高くなるように、2つの配列を整列させた後に相同性の計算を行ってもよい。
【0039】
相同性の計算を、公表されたアルゴリズムにより、別の方法で行うこともできる。比較のための配列の最適なアラインメントに関しては、SmithおよびWaterman Adv.Appl.Math.2:482(1981年)の局地的相同性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch,J.MoL Biol.48:443(1970年)の相同性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988年)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,ウィスコンシン州マディソンのGAP,BESTFIT,FASTAおよびTFASTA)または検査によって得ることができる。
【0040】
核酸の場合は、たとえば、少なくとも核酸アラインメントに関係する材料のために参照によって本明細書に援用するZuker,M.Science 244:48〜52,1989年、JaegerらProc.Natl.Acad.Sci.USA 86:7706〜7710,1989年、JaegerらMethods Enzymol.183:281〜306,1989年に開示されているアルゴリズムにより、同じタイプの相同性を得ることができる。通常、これらの方法のうちどれを用いてもよいが、場合によっては、これら種々の方法の結果が異なる可能性があることが理解されるであろう。とはいえ、これらの方法の少なくとも1つで同一性が見つかれば、その配列が、明示された同一性を有しているものとされ、本明細書に開示されているものであることを、当業者ならば、理解するであろう。
【0041】
たとえば、本明細書で使用する場合、別の配列に対して特定のパーセント相同性を持つものとして記載された配列は、上記の計算法の1つまたは複数のいずれかで計算した場合に、その記載された相同性を持つ配列を指す。たとえば、Zukerの計算法により第2の配列に対する第1の配列の相同性を80パーセントであると計算した場合、他の計算法のいずれかで計算して第2の配列に対する第1の配列の相同性が80パーセントでなくても、本明細書で規定する場合、第2の配列に対する第1の配列の相同性は、80パーセントである。別の例では、Zukerの計算法とPearsonおよびLipmanとの両方の計算法により第2の配列に対する第1の配列の相同性を80パーセントであると計算した場合、SmithおよびWatermanの計算法、NeedlemanおよびWunschの計算法、Jaegerの計算法または他の計算法のいずれかで計算して第2の配列に対する第1の配列の相同性が80パーセントでなくても、本明細書で規定する場合、第2の配列に対する第1の配列の相同性は、80パーセントである。さらに別の例では、各計算法により第2の配列に対する第1の配列の相同性を80パーセントであると計算した場合(実際には、計算法が異なれば、計算される相同性パーセンテージも異なる場合が多いが)、本明細書で規定する場合、第2の配列に対する第1の配列の相同性は、80パーセントである。
【0042】
3.組成物
本明細書に開示するMT1−MMPなどのMT−MMPのインヒビターを、本明細書で提供する方法の標的または被験者に投与することができる1種または複数種の物質と併用してもよい。たとえば、MT1−MMPなどのMT−MMPの開示したインヒビターを、IDDMの被検体に投与できる当該技術分野において公知の1種または複数種の物質と併用してもよい。MT1−MMPの開示したインヒビターを、T細胞に投与できる1種または複数種の物質と併用してもよい。この物質は、マーカーでもよいし、治療物質でもよいし、標的物質でもよい。治療物質は、標的組織(膵臓、膵島など)に所望の作用を与える任意の化合物、分子または合成物を含むものである。標的物質は、アプタマー、抗体またはそのフラグメントを含むものである。一例を挙げると、標的物質は、T細胞を標的とするものである。したがって、標的物質は、CD44を標的としても構わない。
【0043】
本明細書では、薬学的に許容されるキャリア中にMT1−MMPなどのMT−MMPのインヒビターを含む組成物を提供する。インヒビターは、公知のまたは本明細書に開示した任意のMMPインヒビターの単独でもよいし、組み合わせでよい。このため、インヒビターは、天然のMMP組織インヒビター(TIMP)であっても構わない。TIMPは、TIMP−2であってもよい。TIMPは、TIMP−3であってもよい。TIMPは、TIMP−4であってもよい。さらに、インヒビターは、ヒドキサマートであっても構わない。ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023Aからなる群から選択される。したがって、インヒビターは、AG3340でもよい。
【0044】
4.薬学的キャリア
薬学的に許容されるキャリア中の開示した組成物に関しては、インビボで投与することができる。「薬学的に許容される」とは、材料が生物学的にまたはその他の点で好ましいこと、すなわち、望ましくない生物学的作用を何か引き起こしたり、その材料を含む医薬組成物の他の成分のいずれかと有害相互作用を引き起こしたりすることなく、材料を被検体に投与できることをいう。当然ながら、キャリアについては、当業者において周知である活性成分の分解および被検体への副作用がある場合、これを最小限にとどめるように選択することになる。
【0045】
好適なキャリアおよびその製剤に関しては、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第19版)A.R.Gennaro編,Mack Publishing Company,Easton,PA1995年に記載されている。一般に、薬学的に許容される塩を製剤において適切な量で使用して製剤を等張にする。薬学的に許容されるキャリアの例として、生理食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液があるが、これに限定されるものではない。溶液のpHは、好ましくは約5〜約8、一層好ましくは約7〜約7.5である。さらに、キャリアは、マトリックスがフィルム、リポソームまたは微小粒子などの形状製品の形をとる、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなど、徐放性製剤を含むものである。たとえば、投与経路および投与する組成物の濃度次第で、特定のキャリアが一層好ましいものになり得ることが当業者には明らかであろう。たとえば、キャリアは、ヒトアルブミンまたはヒト血漿であってもよい。
【0046】
医薬組成物は、キャリア、増粘剤、希釈薬、バッファー、保存剤、表面活性剤および目的の分子を加えた同種のものを含んでもよい。さらに、医薬組成物は、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬および同種のものなど1種または複数種の活性成分を含んでもよい。
【0047】
B.方法
本明細書は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を細胞に投与することを含む、方法を提供するものである。提供する方法の細胞は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する必要がある被検体の細胞であってもよいし、その被検体に由来する細胞であってもよい。
【0048】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、細胞外基質成分の分解に関与している酵素のファミリーである。これまで報告されている16種のタンパク質のうち、10種類は通常、可溶性分子として検出されている。MMPタンパク質の中には、膜内在性タンパク質であることが明らかにされており、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)と呼ばれているものもある。現在では、MT−MMPファミリーは、MT1−MMP、MT2−MMPおよびMT3−MMP(それぞれMMP14、MMP15およびMMP16とも呼ばれる)という少なくとも3つのメンバーからなっていることが知られている。これらのタンパク質はそれぞれ、細胞表面に局在化させるC末端の膜貫通ドメインを含んでいるが、独立に発現するものである。また、これらのタンパク質は、触媒ドメインに8アミノ酸の挿入を含むという点で、MMPファミリーの他のメンバーと異なる。MT1−MMPは、プロゼラチナーゼ A(MMP−2、72kdaのIV型コラゲナーゼ)を切断して活性型にするのに関与していると考えられるが、MT2−MMPおよびMT3−MMPも、酵素前駆体MMP−2の活性化に関わっている。したがって、提供する方法のMT−MMPインヒビターは、MT1−MMP、MT2−MMP、MT3−MMPまたはその組み合わせのインヒビターであってもよい。このため、このインヒビターは、MT1−MMPのインヒビターであって構わない。一態様では、インヒビターは、MT1−MMPに特異的である。別の態様では、インヒビターは、MT1−MMP、MT2−MMPおよびMT3−MMPに特異的である。別の態様では、インヒビターは、非特異的にMMPを阻害することができる。
【0049】
「阻害する(inhibit)」「阻害すること(inhibiting)」および「阻害(inhibition)」とは、活性、反応、病態、疾患またはこれ以外の生物学的パラメータを抑えることを意味する。これには、活性、反応、病態または疾患の完全な消失を含めてもよいが、これに限定されるものではない。さらに、これには、たとえば、正常レベル、天然レベルまたは対照レベルと比べて活性、反応、病態または疾患が10%抑制されたことを含めてもよい。したがって、抑制は、たとえば、天然レベルまたは対照レベルとの比較で、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%の抑制であってもよいし、その間の任意の量の抑制であってもよい。
【0050】
さらに、本明細書は、被検体のI型糖尿病を処置する、阻害するまたは予防する方法であって、MT−MMPのインヒビター組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供するものである。
【0051】
疾患または病態のある被検体において、「処置する」または「処置」という語は、疾患もしくは病態および/または疾患もしくは病態の症状または作用の一部または全部を変化させる、を変える、抑制する、寛解させる、解消するまたは消失させるように試みて、被検体に作用するという意味で用いる。たとえば、処置は、疾患または病態の症状または作用を抑制する方法であってもよい。さらに、処置は、疾患もしくは病態の症状または影響ばかりではなく疾患または病態自体を抑制する方法であってもよい。処置は、たとえば、正常レベルまたは天然レベルから抑制されていれば、どのような抑制でもよく、疾患、病態または疾患もしくは病態の症状の完全な消失であってもよいが、これに限定されるものではない。たとえば、疾患がある被検体または対照被検体の天然レベルと比べて、同じ被検体の疾患の1つまたは複数の症状が10%抑制されれば、開示したI型糖尿病を処置する方法を処置とみなす。したがって、抑制は、正常レベル、天然レベルまたは対照レベルとの比較で10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%の抑制であってもよいし、その間の任意の量の抑制であってもよい。本明細書で使用する場合、「予防する」とは、何かが起こることを防止する、回避する、防ぐ、妨げる、止める、遅延させるまたは邪魔することをいい、特に事前の計画または措置によるものを指す。
【0052】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する能力があるかどうか候補分子をスクリーニングすることと、膵臓の毛細血管内皮を通過する細胞のトランスマイグレーションを候補分子が阻害できるかどうかを判定することとを含む、方法も提供する。
【0053】
さらに、分子を同定する方法であって、MT−MMP活性を阻害する分子が、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害できるかどうかを判定することを含む、方法も提供する。
【0054】
さらに、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する方法であって、T細胞とMT−MMPのインヒビターを含む組成物とを接触させることを含む、方法も提供する。この方法の細胞は、T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する必要がある被検体と認められた被検体の細胞であってもよいし、その被検体に由来する細胞であってもよい。
【0055】
さらに、I型糖尿病の危険性がある被検体を処置する方法であって、MT−MMPのインヒビターを含む組成物を被検体に投与することを含む、方法も提供する。
【0056】
本明細書で使用する場合、「被検体」としては、動物、植物、バクテリア、ウイルス、寄生虫およびこれ以外の核酸を有する生体または実体が挙げられるが、これに限定されるものではない。被検体は、脊椎動物、さらに具体的に言えば、哺乳類(ヒト、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、非ヒト霊長類、雌ウシ、ネコ、モルモットまたは齧歯類など)、魚、トリまたは爬虫類もしくは両生類であってもよい。被検体は、無脊椎動物、さらに具体的には節足動物(昆虫および甲殻類など)に対して可能である。この語は、特定の年齢または性別を示すものではない。したがって、性別を問わず、成人および新生児の被検体ならびに胎児を含むことを意図している。患者とは、疾患または障害に悩む被検体をいう。「患者」という語は、ヒト被検体および動物被検体を含むものである。糖尿病ならびに開示する方法および組成物の文脈では、被検体は、糖尿病であるあるいは糖尿病になる可能性がある被検体であることが理解されるであろう。
【0057】
本明細書で提供する方法の被検体は、I型糖尿病であると診断されていてもよい。1型糖尿病の徴候および症状は、血液中のグルコース量が増加する高血糖症と呼ばれる病態に関係している。1型糖尿病の最も多い症状として:排尿の増加と、強い口渇と、食欲亢進にもかかわらず体重が減少することと、疲労と、感染症に対する高感受性とが挙げられる。糖尿病の検査では、血液サンプルの採取および血液内のグルコース(糖)濃度の測定が行われる。随時血糖検査では、いつでも血液サンプルを採取して試験を行うことができる。American Diabetes Association(ADA)によれば、随時血糖値が200mg/dlを超えて糖尿病の典型的な症状を伴う場合、糖尿病であることが示唆される。空腹時血糖検査では、少なくとも8時間飲食をしない(水を除く)期間を経てから血液サンプルを採取する。血液は、ほとんどの場合、朝食前の早朝に採取される。ADAによれば、空腹時血糖値が2回にわたり126mg/dl以上である場合、糖尿病であることが示唆される。空腹時血糖検査は、糖尿病の診断に用いられる最も一般的な検査である。経口糖負荷試験では、最初に空腹時血糖(blood sugar)を測定する。次いで、同じ人物に甘い飲料を飲んでもらう。その後、30分ごとに2時間にわたり血糖値を測定する。2時間後の血糖値が140mg/dl未満であれば、正常とみなされる。2時間後の血糖値が200mg/dlを超えると、糖尿病であることが示唆される。2時間後の血糖値が140〜200mg/dlであれば、耐糖能異常(または前糖尿病)であることが示される。このような人については将来、糖尿病のモニターおよびスクリーニングを行う必要がある。また、耐糖能異常は、心疾患の危険因子でもある。血糖値が180mg/dlを超えて上昇すると、グルコースは、尿に出始める。糖が尿に出たら、血糖検査を受けるべきである。体がエネルギー生成のため過剰な脂肪を分解し始めると、尿にケトンが出る。ケトンにより、脂肪が脂肪細胞から遊離するのを防ぐのに十分なインスリンがないことが示される。ケトンが認められる場合は、重篤で死に至ることもある、1型糖尿病の合併症が示唆されていることもある。
【0058】
提供する方法は、ランゲルハンス島周囲の毛細血管内皮へのT細胞の固定化を強めるものである。CD44は、内皮ヒアルロナンとの相互作用を介して、内皮へのT細胞の接着に関わっている。CD44は、腫瘍細胞におけるMT1−MMPによるタンパク質分解の標的であり、腫瘍細胞においてMT1−MMPの切断により、CD44の細胞外ドメインは細胞表面から遊離し、CD44細胞受容体機能が不活化される。提供する方法では、MT1−MMPを阻害し、したがって、CD44介在性のT細胞の接着を促進させる。このため、一態様では、本方法の結果、ランゲルハンス島周囲の毛細血管内皮へのT細胞の固定化は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%進む可能性がある。別の態様では、提供する方法のインヒビターは実質的に、膵島内皮にT細胞を固定化するものである。
【0059】
提供する方法では、T細胞の膵臓へのホーミングが減少する可能性がある。ランゲルハンス島を破壊するには、まずインスリン特異的CD8+T細胞(IS−CD8+細胞)が膵島にホーミングしなければならない。たとえば、ホーミングには、受容体が介在する可能性がある。提供する方法は、MT1−MMPを阻害し、CD44介在性のT細胞の接着を促進する。このCD44による接着が強化されれば、T細胞の膵臓へのホーミングが阻害される。したがって、この方法の結果、T細胞の膵臓へのホーミングが少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%抑制される。
【0060】
本明細書で使用する場合、「標的(targeting)」または「ホーミング」という語は、非標的の化合物または組成物と比べて、T細胞または開示した組成物などの標的化合物または標的組成物が、ある部位または位置で優先的に移動、結合および/または蓄積することを指してもよい。たとえば、T細胞においては、「ホーミング」とは、T細胞の標的組織への移動をいう。被検体へのインビボ投与においては、「標的」または「ホーミング」は、非標的の組織、細胞および/または構造と比べて、開示した組成物などの化合物または組成物が、たとえば、標的組織、標的細胞および/または標的構造に優先的に移動、結合および/または蓄積することを指してもよい。
【0061】
本明細書で使用する場合、「標的組織」という語は、被検体への投与後にT細胞または開示した組成物など、標的化合物または標的組成物が蓄積する予定の部位をいう。たとえば、本明細書に開示した主題の方法は、子宮内膜症を含む標的組織を用いるものである。
【0062】
本明細書に開示する場合、提供する方法のインヒビターは、機能的な膵島の再生も促進するものである。IDDMの病因には、自己免疫性T細胞が、活性化した後にランゲルハンス島にホーミングすることが関係している。膵島では、T細胞がインスリンを産生するβ細胞を直接破壊する。提供する方法は、T細胞の膵臓へのホーミングを阻害するものである。提供する方法は、膵島細胞の破壊を阻害する以外に、機能的な膵島を再生させるものである。したがって、この方法の結果、機能的な膵島が少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%再生することがある。
【0063】
提供する方法のT細胞は、インスリン特異的CD8陽性T細胞(IS−CD8+細胞)であってもよい。NODマウスはMHCクラスIの発現が欠落していて自然発症糖尿病を発病しにくいため、NOD/LtJ(NOD)マウスでは、この疾患の発病のためにCD8+細胞が必要となる。MHCクラスI分子の場合、前糖尿病状態のNODマウスの膵臓浸潤内に確認されるインスリン特異的CD8+T細胞は、インスリンB鎖アミノ酸の15〜23(配列番号1)番目のペプチドを認識する。
【0064】
1.投与
開示した組成物については、希望するのが局所処置あるいは全身処置であるか、および処置する領域に応じて、多くのやり方で投与することができる。投与は、局所(点眼、経膣、直腸、経鼻など)、経口、吸入または非経口(たとえば、点滴静注、皮下注射、腹腔内注射または筋肉内注射)であってもよい。したがって、開示した組成物を、経口、非経口(静脈内など)筋肉内注射、腹腔内注射、経皮、体外、局所または局所鼻腔投与もしくは吸入投与などの同種もので投与してもよい。
【0065】
通常、組成物の非経口投与を用いる場合は、注射を特徴とする。注射剤に関しては、溶液もしくは懸濁液、注射前の液体懸濁液に好適な固形、あるいはエマルジョンとして従来の形態で調製することができる。最近になって見直された非経口投与のアプローチでは、ゆっくりとした放出または徐放性放出のシステムを用いるため、一定の投与量が保たれる。参照によって本明細書に援用する米国特許第3,610,795号などを参照されたい。
【0066】
材料については、(たとえば、微小粒子、リポソームまたは細胞に組み込んで)溶液中、懸濁液中にあってもよい。こうした材料は、抗体、受容体または受容体リガンドを介してT細胞などの特定の細胞型を標的にしてもよい。
【0067】
非経口投与製剤(preparations)は、無菌の水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンを含むものである。非水性溶媒の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。水性キャリアには、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは生理食塩水および緩衝培地などの懸濁液がある。非経口投与のビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース液、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液または固定油がある。静脈内投与のビヒクルには、流動栄養補液、電解質補液(リンゲルデキストロース液をベースとしたものなど)および同種ものがある。たとえば、抗菌物質、酸化防止剤、キレート化剤および不活性ガスならびに同種のものなど、保存剤およびその他の添加剤が存在しても構わない。
【0068】
局所投与の剤形には、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤および粉剤がある。従来型の薬学的キャリア、水性、粉体または油性の基剤、増粘剤および同種のものが必要になる、あるいは、望ましい場合もある。
【0069】
経口投与組成物には、粉体または顆粒、水培地または非水系培地の懸濁液または溶液、カプセル、サッシェまたは錠剤がある。増粘剤、矯味矯臭剤、希釈薬、乳化剤、分散助剤または結合剤が望ましい場合もある。
【0070】
この組成物の中には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸およびリン酸などの無機酸との反応ならびにギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸およびフマル酸などの有機酸との反応、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基と反応ならびにモノアミン、ジアミン、トリアルキルアミンおよびアリールアミンならびに置換エタノールアミンなどの有機塩基との反応で形成される、薬学的に許容される酸付加塩または塩基付加塩として投与することができるものもある。
【0071】
i.核酸送達
本明細書に開示する場合、提供する方法は、被検体の細胞に外来のDNAを投与することと取り込むことと(すなわち、遺伝子の導入またはトランスフェクション)を含んでもよい。たとえば、開示したインヒビターをコードしている核酸を細胞に送達してもよい。開示した核酸は、裸のDNAまたはRNAの形であってもよいし、核酸を細胞に送達するベクター内にあってもよく、したがって、抗体をコードしているDNAフラグメントは、プロモーターの転写制御下にあってもよいことを当業者ならばよく理解するであろう。ベクターは、アデノウイルスベクター(Quantum Biotechnologies,Inc.(Laval,カナダケベック州)などの市販の製剤(preparation)であっても構わない。核酸またはベクターの細胞への送達は、種々の機構により行うことができる。一例として、LIPOFECTIN、LIPOFECTAMINE(GIBCO−BRL,Inc.,メリーランド州ゲーサーズバーグ(Gaithersburg))、SUPERFECT(QIAGEN,ドイツヒルデン(Hilden))およびTRANSFECTAM(Promega Biotec, Inc.,ウィスコンシン州マディソン(Madison))ならびに当該技術分野における手順標準に準じて開発されたこれ以外のリポソームなど、市販されているリポソーム製剤(preparations)を用いてリポソームにより送達することができる。さらに、開示した核酸またはベクターを、Genetronics,Inc.(カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego))から市販されている技術であるエレクトロポレーションおよびソノポレーションマシン(SONOPORATION machine)(ImaRx Pharmaceutical Corp.,アリゾナ州トゥーソン(Tucson))によりインビボで送達することもできる。
【0072】
一例として、組換えレトロウイルスゲノムをパッケージングすることができるレトロウイルスベクター系など、ウイルス系によりベクターを送達することができる(PastanらProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:4486,1988年;MillerらMol.Cell.Biol.6:2895,1986年を参照のこと)。その後、この組換えレトロウイルスを用いて感染させることにより、その感染細胞に所望のMT−MMPインヒビターをコードしている核酸(またはその活性フラグメント)を送達してもよい。言うまでもなく、この変質した核酸を哺乳類細胞に導入する具体的な方法は、レトロウイルスベクターの使用に限定されるものではない。こうした手順については、アデノウイルスベクター(MitaniらHum.Gene Ther.5:941〜948,1994年)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(GoodmanらBlood 84:1492〜1500,1994年)、レンチウイルスベクター(NaidiniらScience 272:263〜267,1996年)、シュードタイプレトロウイルスベクター(AgrawalらExper.Hematol.24:738〜747,1996年)を使用するなど、他の技法も広く用いられている。さらに、リポソーム送達ならびに受容体を介した機構および他のエンドサイトーシス機構など、物理的形質導入技法も用いられている(たとえば、SchwartzenbergerらBlood 87:472〜478,1996年を参照こと)。この開示した組成物および方法を、これらまたは他の繁用されている遺伝子移入方法のいずれかとともに用いてもよい。
【0073】
一例として、核酸をアデノウイルスベクターで被検体の細胞に送達する場合、アデノウイルスのヒトへの投与量は、1回の注射につき約107〜109プラーク形成単位(pfu)までの幅があってもよいが、1012pfuという高投与量でもよい(Crystal,Hum.Gene Ther.8:985〜1001,1997年;AlvarezおよびCuriel,Hum.Gene Ther.8:597〜613,1997年)。被検体には単回注射してもよいし、追加注射が必要な場合は、無期限に6ヶ月(あるいは、当業者が決定する他の適切な時間間隔)おきにおよび/または処置効果が確立されるまで繰り返してもよい。
【0074】
核酸またはベクターの非経口投与を用いる場合は通常、注射を特徴とする。注射剤に関しては、溶液もしくは懸濁液、注射前の液体懸濁液に好適な固形、あるいはエマルジョンとして従来の形態で調製することができる。最近になって見直された非経口投与のアプローチでは、ゆっくりとした放出または徐放性放出のシステムを用いるため、一定の投与量が保たれる。治療用化合物に好適な剤形および様々な投与経路のさらなる考察については、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第19版)A.R.Gennaro著,Mack Publishing Company,ペンシルベニア州イーストン(Easton),1995年を参照されたい。
【0075】
2.治療用途
組成物を投与するのに有効な投与量およびスケジュールについては、経験的に決定してもよいが、かかる決定は、当該技術分野の技術の範囲内で行うものである。組成物の投与量範囲は、障害の症状に影響を与え、所望の作用を得るのに十分な投与量範囲である。投与量は、不要な交差反応、アナフィラキシー反応および同種のものなど、副作用を引き起こすほど多くしてはならない。通常、投与量は、患者の年齢、病態、性別および疾患の程度、投与経路またはその治療法に他の薬剤が含まれるかどうかにより異なるものであり、当業者が決定しても構わない。投与量については、任意の禁忌事象が認められた場合、医師が個別に調節してもよい。投与に関しては、多様であってもよく、1日あるいは数日間にわたり、毎日単回投与または反復投与を行ってもよい。一定のクラスの医薬品の適切な投与量については、ガイダンスを文献で確認することができる。単独使用の場合、提供した組成物の典型的な1日投与量は、上述の要因に応じて、約1mg/kg体重から約10mg/kg体重など、1日あたり約1mg/kg体重から最大100mg/kg体重あるはそれ以上までの幅があってもよい。
【0076】
AG3340などのヒドロキサマート抗癌剤によるMT1−MMPの薬理学的阻害は、IDDM患者に好ましい結果をもたらす。このインヒビターは、血液中のT細胞の細胞表面に結合したMT1−MMPに直ちにアクセするため、IDDMに必要とされるインヒビターは低濃度である。対照的に、癌のMMPの阻害に必要なインヒビターは、血管新生が不十分な腫瘍への送達を要するため高濃度である。さらに、IDDMを対象としたMMPインヒビターの必要投与量は、副作用(side effects)を引き起こすと考えられるレベル未満でもある。
【0077】
IDDMを処置する、阻害するまたは予防する開示した組成物を投与した後、治療用組成物の有効性を、当業者に周知の様々な方法で評価することができる。たとえば、当業者ならば、血糖(blood sugar)の低下を観察すれば、本明細書に開示した組成物が被検体のIDDMの処置または阻害に有効であることを理解するであろう。
【0078】
C.定義
当然のことながら、開示する方法および組成物は、記載した特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されるものではなく、変更が可能である。また、本明細書に用いる用語は、個々の実施形態を説明するためだけのものであって、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものでないことも理解されるであろう。
【0079】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形である「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数についての言及を含むことに留意しなければならない。したがって、たとえば、「インヒビター(an inhibitor)」とは、複数のかかるインヒビターを含み、「インヒビター(the inhibitor)」とは、当業者に公知の1種または複数種のインヒビターおよびその等価物等をいうものであり、以下同様である。
【0080】
「任意の(optional)」または「任意に(optionally)」とは、後に記載する現象、状況または材料が起こっても起こらなくてもよいこと、あるいは、存在しても存在しなくてもよいこと、さらに、その記載が、その現象、状況または材料が起こるまたは存在する場合と、それが起こらないまたは存在しない場合とを含むことを意味する。
【0081】
本明細書では、範囲を、「約(about)」を前置したある特定の値からおよび/または「約」を前置した別の特定の値までと表すことができる。このように範囲を表す場合、その範囲も明確に意図しており、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、一方の特定の値からおよび/または他方の特定の値までの範囲を開示しているとみなされる。同様に、先行詞「約」を用いることにより値を近似値として表す場合、特定の値は、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、明確に意図した別の実施形態を形成しており、その実施形態を開示しているとみなすべきであることも理解されるであろう。さらに、各範囲の端点は、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、他方の端点との関連でも他方から切り離しても意味があることも理解されるであろう。最後に、個々の値および明示的に開示した範囲内に含まれる各値の下位の範囲もすべて、明確に意図しており、文脈上特に他の意味に解すべき場合を除き、開示しているとみなすべきであることを理解されたい。こうした実施形態の一部または全部を明示的に開示している特殊な場合であっても、上記を適用する。
【0082】
他に記載がない限り、本明細書に使用した技術用語および科学用語はすべて、開示した方法および組成物が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本方法および組成物の実施または試験では、本明細書に記載したものと類似または同等の任意の方法および材料を用いることもできるが、特に有用な方法、装置および材料は、記載したとおりである。本明細書に引用する刊行物および刊行物に記載の材料については、参照により本明細書に明確に援用する。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明によるかかる開示に対し、先行する権利がないと認めているものと解釈してはならない。任意の参考文献が従来技術を構成することを自認するものではない。参考文献の考察は、著者が主張する内容を記載したものであり、出願人は、引用文献の正確性および妥当性に異議を申し立てる権利を留保する。本明細書では多くの刊行物に言及しているが、かかる言及は、こうした文献のいずれかが当該技術分野の共通一般知識の一部をなすことを承認するものではないことが明らかに理解されるであろう。
【0083】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」という語および「comprising」および「comprises」などのこの語の変形は、「含むが、これに限定されるものではない」を意味し、たとえば、他の添加剤、成分、整数またはステップを除外することを意図しているものではない。
【0084】
当業者ならば、通常の実験だけで、本明細書に記載する方法および組成物の具体的な実施形態の等価物を多数認識するか、確認することができるであろう。かかる等価物については、下記の特許請求の範囲により包含されることを意図している。
【実施例】
【0085】
D.実施例
以下の実施例は、本明細書で特許請求している化合物、組成物、製品、装置および/または方法の製造方法および評価方法の完全な開示および説明を当業者に提示するもので、純粋に例示的なものを意図しており、本開示を限定することを意図するものではない。数字(量、温度など)に対する正確性を確保するように努力したが、一部に誤差および偏差があることを考慮すべきである。他に記載がない限り、部は重量部であり、温度は℃単位または周囲温度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0086】
1.実施例1:制癌剤により膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼを阻害すると、糖尿病誘発T細胞の膵臓へのホーミングが干渉される。
【0087】
材料および方法
マウスおよび細胞−NOD/LtJ系統のNODマウスをJackson Laboratoryから入手した。IS−CD8+T細胞(NODマウスの膵臓に由来するTGNFC8クローンのインスリン特異的CD8陽性Kd拘束性T細胞)(Wong,F.S.ら(2003年))を、5%ウシ胎児血清と、2×10−5Mβ−メルカプトエタノールと、20mMペニシリン−ストレプトマイシンと、3mg/mlのL−グルタミンと、5単位/ml組換えマウスインターロイキン−2とを補充したクリック培地で維持した(Savinov,A.Y.ら(2003年))。IS−CD8+細胞を3週間ごとに、L15YLVCGERG23(配列番号1)インスリンB鎖ペプチド(10μg/ml)を注入した放射線放射線照射NOD脾細胞(2000ラド)と混合した(Wong,F.S.ら(1999年))。
【0088】
NODマウスへの糖尿病の導入−IS−CD8+細胞を、AG3340(50μMまたは21μg/ml)を用いる場合と用いない場合とで2時間インキュベートし、次いで5〜8週齢の放射線照射(事前に725ラドで24時間)マウス(1×107細胞/動物)に静脈内注射した。マウスを21日間モニターした。細胞の注射後0、2、4、6、8および10日目に、マウスにAG3340(30mg/kgまたは1mg/kg)またはリン酸緩衝生理食塩水単独の腹腔内注射を行った。糖尿病の発現を、尿中のグルコース濃度をDiastix(登録商標)ストリップ(Bayer)で評価して確認した。3日間連続して尿中のグルコース濃度が>2000mg/dlのマウスを糖尿病とみなした。AG3340(分子量=421Da)を入手した。尿中のグルコース濃度は、血液中のグルコース濃度と密接に連動する(Traisman,H.S.およびGreenwood,R.D.(1973年))。尿中のグルコースの測定は、NODマウスの糖尿病の発生を調査するのに一般に受け入れられている方法である(Pomerleau,D.P.ら(2005年))。
【0089】
蛍光追跡および形態計測解析−トラフィッキング試験のため、IS−CD8T細胞を、5%ウシ胎児血清および蛍光色素である0.0075mg/mlの1,1’−ジドデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロラート(DiI;Molecular Probes,オレゴン州ユージーン(Eugene))を含む完全なクリック培地において、1×107細胞/mlで37℃にて30分間暗所でインキュベートした。インキュベーション後、この細胞をリン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し、過剰なDiIを除去した。標識IS−CD8+細胞(1×107細胞)を0.2mlのリン酸緩衝生理食塩水に加えて、放射線照射(事前に725ラドで24時間)NODマウスに静脈内注射した。DiI標識細胞を注射してから24時間後、マウスを屠殺した。脾臓および膵臓を切除し、0.1M過ヨウ素酸−リシン−パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液で固定した。次いでこの臓器をスクロース飽和させ、OCT化合物(Sakura Finetek Inc.,Torrance,カリフォルニア州)で凍結成形を行い、凍結切断片を作成した。膵臓全体の中で厚さ7μmのクリオスタット切片を、Leica CM1900クリオトームを用いて60μm間隔で調製した。膵島内のDiI標識CD8+細胞の分布を蛍光顕微鏡を用いて調べた。マウス1匹(4〜5マウス/実験群)あたり少なくとも100個の島を調べた。凍結切片では、膵島特有の形態を容易に確認できる。個々の膵島に関係する領域内のDiI標識細胞を計数した(代表的な画像である図3を参照のこと;膵島に関係する領域を白の実線で示し、膵島の境界を白の点線で示す)。膵島の境界と比較して各IS−CD8+標識細胞の位置を判定した。膵島の境界内に局在する標識細胞を「内側」とみなし、膵島に隣接するが膵島の境界の外側の標識細胞を「エントランス」とみなした。この方法については、かなり詳細に報告されている(これらの方法を教示しているためその全体を本明細書に参照して援用するSavinov,A.Y.ら(2003年)およびSavinov,A.Y.ら(2001年)を参照のこと)。
【0090】
MT1−MMP−CATによる細胞の処置−MT1−MMP(MT1−MMP−CAT;3μg)の触媒ドメインを、50mMのHEPES0.2mlと、10MmのCaCl2と、0.5mMのMgCl2と、50μMのZnCl2と、0.01%Brij−35緩衝液(pH6.8)とに加えたIS−CD8+細胞(1×107細胞)とともに37℃にて2時間同時インキュベートした。指示により、このサンプルにGM6001(50μM;Chemicon,カリフォルニア州テメキュラ(Temecula))を加えた。処理後に、この細胞を放射線照射マウスに注射するか、あるいは、DiI標識、ウエスタンブロッティング、FACS分析およびこれ以外の解析手順に用いた(Savinov,A.Y.ら(2003年);Deryugina,E.I.ら(2001年);Rozanov,D.V.ら(2001年))。
【0091】
ウエスタンブロッティング−0.1mg/mlスルホ−NHS−LC−ビオチン(Pierce,イリノイ州ロックフォード(Rockford))により、IS−CDS+細胞表面を4℃にて1時間ビチオン化した。ビオチンを除去するため洗浄した後、細胞を、無血清の無添加クリック培地でMT1−MMP−CATとともに2時間同時インキュベートした。次いでこの細胞を、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2およびフッ化フェニルメチルスルホニル(1mM)と、アプロチニンと、ペプスタチンと、ロイペプチン(各1μg/ml)とを含むプロテアーゼインヒビター混合物を加えたリン酸緩衝生理食塩水に加えた50mMのN−オクチル−β−D−グルコピラノシドに溶解させた。ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジンアガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルを、CD44(クローンIM7.8.1)抗体を用いたウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインおよび細胞可溶化物における残りの膜アンカー型CD44の細胞を判定した。
【0092】
MT1−MMP依存性MMP−2の活性化およびゼラチンザイモグラフィー−IS−CD8+細胞(1×106)を、無血清の無添加クリック培地において2%ゼラチンでコーティングしたプラスチックに4時間接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。こうした実験条件下、大部分の細胞は、ゼラチンに結合した。4時間して、培地サンプル(それぞれ30μL)を採取し、ゼラチンザイモグラフィーで解析し(Deryugina,E.I.ら(2001年))、IS−CD8+細胞で自然に合成されたMMP−2のタンパク質分解活性および活性化状態を確認した。指示により、細胞に外部から精製プロMMP−2(20ng)を加えた。プロMMP−2については、HT1080線維肉腫細胞系から得たp2AHT2A72細胞のコンディション培地から単離し、続いてE1AおよびMMP−2cDNAをトランスフェクトした(Strongin,A.Y.ら(1995年))。
【0093】
モノクローナル抗体およびFACS分析−IS−CD8+細胞を、MT1−MMP(Ab815;Chemicon)モノクローナル抗体、CD44(クローンIM7.8.1)モノクローナル抗体、CD3(クローン17A2)モノクローナル抗体、CD49d(クローン SG31)モノクローナル抗体(すべてBD Biosciences,メリーランド州ロックビル(Rockville)製)およびCD29モノクローナル抗体(Chemicon)で染色し、続いてフルオレセインイソチオシアナートまたはフィコエリトリンコンジュゲート二次抗体(BD Biosciences)で染色してから、FACScanフローサイトメータ(Becton Dickinson,ニュージャージー州フランクリンレイクス(Franklin Lakes))で解析した。CD44レベルを判定するため、IS−CD8+細胞をさらに可溶性蛍光標識ヒアルロン酸(Sigma,St.Louis,ミズーリ州)で染色した。IS−C8+細胞をフィコエリトリンまたはフルオレセインイソチオシアナート−コンジュゲート抗CD8抗体(Sigma)で対比染色した。
【0094】
結果
MT1−MMPはCD44の細胞をシェディングする−MT1−MMPによるT細胞のCD44のタンパク質分解が、T細胞の接着およびその後のトランスマイグレーションおよび膵臓へのホーミングを制御していると判定した。MT1−MMP抗体およびCD44抗体ならびにフルオレセインイソチオシアナート標識ヒアルロナンを用いたFACS分析から、懸濁液に加えたIS−CD8+細胞では、細胞表面に結合したMT1−MMPおよびCD44が高レベルで存在することが示された(図1A)。IS−CD8+細胞は、Kd主要組織適合性複合体クラスI分子の場合、インスリンB鎖由来のL15YLVCGERG23(配列番号1)ペプチドを認識する(Wong,F.S.ら(1999年))。IS−CD8+細胞を注射すると、致死量以下で放射線照射したNOD/LtJマウスに1週間で糖尿病が誘発される(Savinov,A.Y.ら(2003年))。NODマウスは、IDDMの最良の動物モデルとして広く用いられている(Delovitch,T.L.およびSingh,B.(1997年))。MT1−MMPに対するAb815抗体はプロテアーゼのヒンジドメインを認識するため、FACS試験では、酵素前駆体と、活性酵素型と、MT1−MMPとメタロプロテイナーゼ−2の組織インヒビターなどのメタロプロテイナーゼの組織インヒビターとの不活性な複合体とは識別されない。
【0095】
CD44のレベルは、触媒として強力な外部の精製MT1−MMP−CATと同時インキュベートした大半のIS−CD8+細胞で大きく減少した(図1A)。この処置は、CD3、CD8、CD29およびCD49など、他のT細胞受容体のレベルあるいはT細胞の生存状況には影響を与えなかった。こうした観察結果を裏付けるため、IS−CD8+細胞表面を膜非透過性ビオチンで標識してから、さらにMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートを行った。次に遊離した可溶性CD44フラグメントをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲し、ウエスタンブロッティングにより検出した。こうした研究から、MT1−MMP−CATをIS−CD8+細胞とともに同時インキュベートする過程で、MT1−MMP−CATは、量は少なくても、CD44の細胞の消化したフラグメントを大量に遊離させ、細胞表面に結合したCD44の残留レベルを低下させた。こうしたデータは、図1Aに示したFACS分析の結果と整合している。CD44の切断におけるMT1−MMPの関与を裏付けるように、GM6001により、MT1−MMP−CATの作用は消失した(図1B)。さらに、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートしたIS−CD8+細胞を蛍光DiI色素で標識し、次いで放射線照射NODマウスに注射した。24時間して、IDDMにおける標識細胞を計数した(Delovitch,T.L.およびSingh,B.(1997年))。MT1−MMPに対するAb815抗体はプロテアーゼのヒンジドメインを認識するため、FACS試験では、酵素前駆体と、活性酵素型と、MT1−MMPとメタロプロテイナーゼ−2の組織インヒビターなどのメタロプロテイナーゼの組織インヒビターとの不活性な複合体とは識別されない。
【0096】
CD44のレベルは、触媒として強力な外部の精製MT1−MMP−CATと同時インキュベートした大半のIS−CD8+細胞で大きく減少した(図1A)。この処置は、CD3、CD8、CD29およびCD49など、他のT細胞受容体のレベルあるいはT細胞の生存状況には影響を与えなかった。こうした観察結果を裏付けるため、IS−CD8+細胞表面を膜非透過性ビオチンで標識してから、さらにMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートを行った。次に遊離した可溶性CD44フラグメントをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲し、ウエスタンブロッティングにより検出した。こうした研究から、MT1−MMP−CATをIS−CD8+細胞とともに同時インキュベートする過程で、MT1−MMP−CATは、量は少なくても、CD44の細胞の消化したフラグメントを大量に遊離させ、細胞表面に結合したCD44の残留レベルを低下させた。こうしたデータは、図1Aに示したFACS分析の結果と整合している。CD44の切断におけるMT1−MMPの関与を裏付けるように、GM6001(MT1−MMPの強力なヒドロキサマートインヒビター)により、MT1−MMP−CATの作用は消失した(図1B)。
【0097】
さらに、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートしたIS−CD8+細胞を蛍光DiI色素で標識し、次いで放射線照射NODマウスに注射した。24時間して、ランゲルハンス島の標識細胞を計数した。MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解は、細胞のホーミングを約4.5分の1に減少させ、マウスの糖尿病の発現をほぼ2倍遅らせる(図1C)。こうした結果から、外部のMT1−MMP−CATによりT細胞のCD44が切断されると、膵臓内皮のヒアルロナンに接着する能力があるIS−CD8+細胞の数が減少することが示された。結果として、MT1−MMP−CATとの同時インキュベーション後、トランスマイグレートする細胞の数も減少した。
【0098】
MT1−MMPは、接着IS−CD8+細胞において活性化される−内在性のMT1−MMPは、非接着IS−CD8+細胞に潜伏しているが、IS−CD8+細胞が接着すると、MT1−MMPの活性化、CD44の切断およびT細胞のトランスマイグレーションに対する刺激が誘発される。したがって、IS−CD8+細胞には、ゼラチンに接着した場合に限り、MT1−MMPにより直接活性化されることが知られている酵素MMP−2を活性化できる作用があった(図2)。非接着細胞は、MMP−2を活性化しなかった。同様に、CD44タンパク質分解フラグメントが培地に遊離することが検出されたのは、接着IS−CD8+細胞においてのみであった。非接着細胞のCD44は、そのままの状態が続いた。GM6001は、接着細胞においてMMP−2の活性化とCD44のシェディングとの両方を遮断した(図2)。これらの結果から、MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解は、糖尿病誘発細胞が基層に接着した場合のみに起こるものであることが示される。接着後、活性化MT1−MMPは、CD44の切断が可能となり、この現象により、T細胞の遊離が促進され、続いて内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションおよびランゲルハンス島へのホーミングが見られる。逆に、MT1−MMPを阻害すれば、T細胞の接着が亢進され、トランスマイグレーションの効率が低下する可能性がある。
【0099】
MT1−MMPを阻害すれば、ISCD8+細胞の糖尿病誘発性が抑制される−T細胞によるトランスマイグレーション、ホーミングおよび糖尿病発症におけるMT1−MMPの役割を確認するため、別の有力なヒドロキサマートインヒビターであるAG3340(Shalinsky,D.R.ら(1999年))を用いた。AG3340は、ナノモル以下の範囲のKiでMT1−MMPを阻害する。AG3340は、癌の第I〜III相臨床試験で用いられた(Hande,K.R.ら(2004年))。AG3340を評価するため、新たな糖尿病NODマウスから単離したIS−CD8+細胞および脾細胞(Savinov,A.Y.ら(2003年))を用いた。この細胞をAG3340とともに同時インキュベートし、あるいは、処置を行わず、次いでNODマウスに注射し、その後AG3340(30mg/kgおよび1mg/kg)または溶媒単独(対照)を投与した。AG3340は対照と比較して、1mg/kgという低濃度で糖尿病の発現を約2倍遅らせた(図3A)。
【0100】
同様に、AG3340は、膵臓内皮のヒアルロナンにしっかりと接着したままのIS−CD8+細胞の数を増加させて、T細胞のランゲルハンス島への侵入プロセスを大きく遅らせた。AG3340とともに同時インキュベートし、DiIで標識したIS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。24時間して、標識IS−CD8+細胞を膵島周囲および膵島内側の両方で計数した(図3Bおよび図3C)。AG3340の存在下では、膵島のエントランスでT細胞を検出し、膵島内側で確認した細胞は少数であった。AG3340の非存在下では、この状況が消失し、T細胞は、効率的に膵島にトランスマイグレートした。これらの所見から、T細胞MT1−MMPの阻害は、齧歯類の一般に認められたIDDMモデルにおける糖尿病の発現を遅らせるうえで重要であることが示される。MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解が血管外遊出を制御する推定機序を図3Dに説明してある。
【0101】
2.実施例2:自然発症1型糖尿病においてT細胞膜プロテイナーゼを標的とする
材料および方法
マウスおよび細胞−NOD/LtJ系統のNODマウスをJackson Laboratoryから入手した。IS−CD8+T細胞(NODマウスの膵臓に由来するTGNFC8クローンのインスリン特異的CD8陽性Kd拘束性T細胞)(Wong,F.S.ら(1996年))を、5%FCSと、2×10−5Mβ−メルカプトエタノールと、20mMペニシリン−ストレプトマイシンと、3mg/mlのL−グルタミンと、5U/ml組換えマウスIL−2とを補充したクリック培地で維持した(Savinov,A.Y.ら(2003年))。IS−CD8+細胞を3週間ごとに、L15YLVCGERG23(配列番号1)インスリンB鎖ペプチド(10μg/ml)を注入した放射線照射NOD脾細胞(2000ラド)と混合した(Wong,F.S.ら(1999年))。
【0102】
新たな糖尿病NODマウス−NODマウスは、生後およそ5ヶ月で糖尿病を発症した。自然発症糖尿病の発現を、尿中のグルコース濃度をDiastix(登録商標)ストリップ(Bayer)で評価して確認した。3日間連続して尿中のグルコース濃度が>2000mg/dlのマウスを糖尿病とみなした。尿中のグルコース濃度は、血液中のグルコース濃度と密接に連動する(Traisman,H.S.& Greenwood,R.D.(1973年)。尿中のグルコースの測定は、NODマウスの糖尿病の発生を調査するのに一般に受け入れられている方法である(Pomerleau,D.P.ら(2005年))。糖尿病の発生後、インスリン(15〜20U/kg;2〜3日ごとに1回注射)をマウスに皮下注射した。対照動物(マウス6匹/群)にはインスリンを単独投与し、実験群(マウス5匹/群)にはインスリンの皮下投与と一緒にAG3340を腹腔内投与した(1mg/kg;2〜3日ごとに1回注射)。AG3340(分子量=421D)を用いた。注射を40日間継続して、その後マウスを屠殺した。白血球および粒状のβ細胞を、パラホルムアルデヒド固定パラフィン包埋の膵臓切片ごとにそれぞれH&Eおよびアルデヒドフクシンで染色した。膵島(≧100/マウス)を以下のとおりスコア評価した:0、病変なし;1は膵島周囲の白血球凝集に加えて管周囲の浸潤;2は膵島の破壊が<25%;3は膵島の破壊が>25%;および4は膵島の全体的な破壊。ホルモン産生細胞を同定するため、この切片をインスリンに対する抗体(Linco Research,モンタナ州セントチャールズ(St.Charles))およびグルカゴンに対する抗体(DacoCytomation,カリフォルニア州カーピンテリア(Carpinteria))で染色し、続いて種特異的西洋わさびペルオキシダーゼ−コンジュゲート二次抗体および3,3’−ジアミノベンジジン基質で染色した。
【0103】
蛍光追跡および形態計測解析−トラフィッキング試験のため、IS−CD8+T細胞を、5%FCSおよび蛍光色素である0.0075mg/mlの1,1’−ジドデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロラート(DiI;Molecular Probes)を含む完全なクリック培地において、1×107細胞/mlで37℃にて30分間暗所でインキュベートした。インキュベーション後、この細胞をPBSで3回洗浄し、過剰なDiIを除去した。標識IS−CD8+細胞(1×107細胞)を0.2mlのPBSに加えて、放射線照射(事前に725ラドで24時間)NODマウスに静脈内注射した。DiI標識細胞を注射してから24時間後、マウスを屠殺した。指示により、DiI標識IS−CD8+T細胞を静脈内注射する30分前に、CD44に対する機能阻害抗体IM7.8.1(BD Biosciences)およびAG3340をそれぞれNODマウスに静脈内注射(それぞれ0.1mg/動物および1mg/kg)した。24時間して、脾臓および膵臓を切除し、0.1M過ヨウ素酸−リシン−パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液で固定した。次いでこの臓器をスクロース飽和させ、OCT化合物(Sakura Finetek Inc.)で凍結成形を行い、凍結切断片を作成した。膵臓全体の中で厚さ7μmのクリオスタット切片を、Leica CM1900クリオトームを用いて60μm間隔で調製した。膵島内のDiI標識CD8+細胞の分布を、蛍光顕微鏡を用いて調べた。マウス1匹あたり(各実験群につきマウス4〜5匹)少なくとも100個の膵島を調べた。凍結切片では、膵島特有の形態を容易に確認できる。個々の膵島に関係する領域内のDiI標識細胞を計数した。膵島の境界と比較して各IS−CD8+標識細胞の位置を判定した。膵島の境界内に局在する標識細胞を「内側」とみなし、膵島に隣接するが膵島の境界の外側の標識細胞を「エントランス」とみなした。
【0104】
ウエスタンブロッティング−0.1mg/mlスルホ−NHS−LC−ビオチン(Pierce)により、IS−CDS+細胞表面を4℃にて1時間ビチオン化した。ビオチンを除去するため洗浄した後、この標識細胞を無血清培地において2%I型コラーゲン/ゼラチンでコーティングしたプラスチックに4時間接着させるか、あるいは、懸濁液中で保持した。こうした実験条件下、大部分の細胞は、ゼラチンに結合した。指示により、この細胞にTIMP−1およびTIMP−2(それぞれ100ng/ml)およびAG3340(50μMまたは21μg/ml)を加えた。次いでこの細胞を、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2およびフッ化フェニルメチルスルホニル(1mM)と、アプロチニンと、ペプスタチンと、ロイペプチン(各1μg/ml)とを含むプロテアーゼインヒビターカクテルを加えたPBSに加えた50mMのN−オクチル−β−D−グルコピラノシドに溶解させた。ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジンアガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルを、CD44(クローンIM7.8.1)抗体を用いたウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインおよび細胞可溶化物の残りの膜アンカー型CD44の細胞を判定した。
【0105】
MT1−MMP依存性MMP−2の活性化およびゼラチンザイモグラフィー−IS−CD8+細胞(1×106)を、無血清の無添加クリック培地において2%ゼラチンでコーティングしたプラスチックに4時間接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。18時間して、培地サンプル(それぞれ30μL)を採取し、ゼラチンザイモグラフィーで解析(Deryugina,E.I.ら(2001年))し、IS−CD8+細胞で自然に合成されたMMP−2のタンパク質分解活性および活性化状態を確認した。指示により、細胞に外部から精製プロMMP−2(20ng)、TIMP−1およびTIMP−2(それぞれ100ng/ml)ならびにAG3340(50μMまたは21μg/ml)を加えた。プロMMP−2については、HT1080線維肉腫細胞系から得たp2AHT2A72細胞のコンディション培地から単離し、続いてE1AおよびMMP−2cDNAをトランスフェクトした(Strongin,A.Y.ら(1995年))。
【0106】
結果および考察
CD44は、糖尿病誘発T細胞における主要な接着受容体である−T細胞のホーミングにおけるCD44の役割を定量的に評価するため、NODマウスに725ラドで放射線照射を行った。24時間して、CD44に対する機能阻害抗体およびAG3340をそれぞれマウスに注射した。30分後、この注射に続いて、蛍光色素DiIで標識したIS−CD8+T細胞を静脈内注射した。細胞を注射してから24時間後にマウスを屠殺した。膵臓を切除し、凍結切断片を作成した。膵島内のDiI標識IS−CD8+細胞の分布を、蛍光顕微鏡を用いて調べた。個々の膵島に関係する領域内のDiI標識細胞を計数した。図4は、IS−CD8+細胞が対照マウスの膵島内側に効率的ホーミングする一方で、CD44機能を遮断すると、T細胞のホーミングの効率が大幅に低下したことを示す。このように、CD44介在性の接着(Weiss,L.ら(2000年))は、T細胞の膵島へのホーミングにおいて極めて重要な役割を果たしていることが確認された。また、AG3340も(接着T細胞においてMT1−MMPによるCD44のタンパク質分解を阻害することで)T細胞のホーミングを50%低下させた。代表的な画像は、抗CD44とAG3340との主な違いを示すもので、前者はT細胞の接着を抑制し、そのためDiI標識細胞のホーミングを減少させたのに対し、後者は膵島のエントランスで膵臓内皮に接着したT細胞の作用を失わせた。
【0107】
MT1−MMPとCD44のシェディングとの因果関係−次に、CD44のシェディングにおけるMT1−MMP活性の意義を判定し、接着IS−CD8+細胞におけるこの2つの因果関係を特定した。こうした目的のため、膜非透過性ビオチンでIS−CD8+細胞表面をビオチン化し、次いでこの標識細胞をゼラチンコーティングプラスチックに接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。その後、この細胞を溶解させ、ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジン−アガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルをウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインと細胞可溶化物の残りの膜アンカー型CD44の細胞との両方の量を測定した。また、培地サンプルをゼラチンザイモグラフィーで解析し、IS−CD8+細胞で自然に合成されたMMP−2の活性化状態を確認した。MMP−2は、MT1−MMPにより直接活性化されることが知られている酵素である(Egeblad,M.& Werb,Z.(2002年);Strongin,A.Y.ら(1995年))。指示により、細胞に外部から精製プロMMP−2を補充した。この細胞サンプルにTIMP−2(MT1−MMPの強力なインヒビター)、TIMP−1(MT1−MMPの弱いインヒビター)およびAG3340をそれぞれ加えて、MT1−MMPの役割と細胞表面に結合した他のプロテアーゼによると推定される個々の作用とを区別した(Will,H.ら(1996年))(図5)。
【0108】
実施例1の観察結果と一致して、内在性MT1−MMPは非接着細胞に潜伏していたが、T細胞が接着すると、MT1−MMPの活性化が誘発され、続いてMMP−2の活性化およびCD44の切断が見られた。したがって、IS−CD8+細胞には、ゼラチンに接着した場合に限り、MMP−2を活性化する作用があった。非接着細胞は、MMP−2を活性化しなかった。同様に、CD44フラグメントが培地に遊離することが検出されたのは、接着IS−CD8+細胞においてのみであった。非接着細胞のCD44は、そのままの状態が続いた。AG3340およびTIMP−2はそれぞれ、接着細胞におけるMMP−2の活性化およびCD44のシェディングを完全に遮断した。これに対し、TIMP−1は、MMP−2の活性化に何ら影響を及ぼさなかった。TIMP−1では、軽微ながら特記すべきCD44タンパク質分解の阻害作用が示された。こうした結果から、MT1−MMPは、T細胞のCD44のシェディングにおける唯一のメディエーターではなく、主要な個別メディエーターであることが確認された。これ以外のプロテアーゼ(ADAMなど)(中村博幸ら(2004年))も、CD44のタンパク質分解に関与している。しかしながら、こうした他のプロテアーゼを合わせた作用は、MT1−MMPの作用に比べると小さい(図5)。
【0109】
自然発症IDDMにおいてMT1−MMPによるCD44のタンパク質分解を阻害する−AG3340に治療上の翻訳作用があるかどうかを評価するため、このインヒビターを、自然発症糖尿病を発症したNOD雌マウスに用いた。対照動物にはインスリンを単独投与し、実験群には、インスリンと一緒にAG3340を投与した。使用したAG3340の用量は、癌の第I相試験で用いる最低投与量よりも1桁少なくした(Hande,K.R.ら(2004年))。40日して、膵臓を切除して切片を作成し、膵島を解析して、観察した膵島炎に応じて分類した。さらに、切片をインスリンおよびグルカゴンに対する抗体で染色し、生存している膵島および新たに形成された膵島の機能性を確認した(Luo,X.ら(2005年))。
【0110】
AG3340による短期処置は、明らかな糖尿病NODマウスを正常血糖に回復させるには不十分であった。しかしながら、膵島炎の重症度は、対照と比較して顕著で確かな低下を示した(図6)。AG3340により、正常な膵島および膵島周囲の膵島炎が限定的である膵島の数が増加した。面白いことに、AG3340により、膵実質に膵島様構造が新規形成された。こうした小さい再生膵島では、単核細胞浸潤が見られず、インスリン(図6)およびグルカゴンが産生されたため、ホルモン分泌α細胞およびβ細胞の機能再生が明らかになった。反対に、未処理の対照では、集中的な単核細胞浸潤、膵島の明らかな破壊およびホルモン産生の大幅な減少が見られた。これらの所見は、養子移入したT細胞の血管外遊出においてAG3340がCD44−MT1−MMP軸をコントロールする役割と整合している。全体として、こうした結果から、AG3340には、膵島を破壊する自己免疫を効果的にコントロールし、インスリン産生β細胞およびランゲルハンス島の機能再生を刺激することで、糖尿病の予防効果があったことが示される。
【0111】
3.実施例3:1型糖尿病におけるT細胞膜プロテイナーゼおよびCD44の役割の規定
IDDMにおけるT細胞MT1−MMPの特異的な役割:糖尿病雄性および高脂肪食雌性のZucker糖尿病肥満ラットにおいて、MMP−2、MMP−12およびMT1−MMPは、非糖尿病の痩せたラットと比較して上方制御された(Zhou,Y.P.ら2005年)。膵島の細胞外基質分子のターンオーバーを低下させることでβ細胞塊を保護しているものとして、PD166793[(S)−2−(4’−ブロモ−ビフェニル−4−スルホニルアミノ)−3−メチル−酪酸](MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−13およびMT1−MMPに対するこのインヒビターのEC50値はそれぞれ、6100nM、47nM、12nM、7200nM、7900nM、8nMおよび240nMと広範囲にわたる)O’Brien,P.M.ら2000年;Peterson,J.T.ら2001年)が考えられる。
【0112】
T細胞MT1−MMPの特異的役割を検証し、さらにIDDMのNODモデルにおける他のMMPの潜在的意義を解明するため、AG3340に加えて2つのインヒビターEGCGおよびSB−3CTを用いた。EGCGおよびSB−3CTはともにMT1−MMPの弱いインヒビターであるが、MT1−MMPと異なるMMPを標的とする能力がある。これら2つのインヒビターがCD44シェディングを強力に阻害するかどうかを判定するため、膜非透過性スルホ−NHS−LC−ビオチンでIS−CD8+T細胞表面をビオチン化した。次いでこの標識細胞をゼラチンコーティングプラスチックに接着させるか、あるいは、溶液中で保持した。その後この細胞を溶解させ、ビオチン標識CD44を、ストレプトアビジン−アガロースビーズで細胞可溶化物および培地のアリコートから捕獲した。捕獲サンプルをウエスタンブロッティングで調べて、培地サンプル中の遊離した可溶性CD44細胞外ドメインおよび細胞可溶化物の残りの膜アンカー型CD44の細胞の量を測定した。さらに、培地サンプルをゼラチンザイモグラフィーで解析し、MMP−2の活性化状態を確認した。MMP−2は、MT1−MMPにより直接活性化されることが知られている酵素である(Strongin,A.Y.ら1995年)。指示により、細胞にAG3340、SB−3CTおよびEGCGを補充した(図7)。内在性MT1−MMPは、非接着細胞に潜伏していたが、T細胞が接着すると、MT1−MMPの活性化が誘発され、続いてMMP−2の活性化およびCD44の切断が見られた。非接着細胞は、MMP−2を活性化しなかったことから、効果的にCD44のシェディングを行う能力がない。AG3340は、固着T細胞においてMMP−2の活性化およびCD44のシェディングの両方を完全に阻害した。一方、SB−3CT(MT1−MMPの弱いインヒビター)が、MMP−2活性化、CD44のシェディングのいずれにもまったく影響を及ぼさなかったのに対し、EGCGは、500mMという非常に高濃度とした場合に限られるが、CD44のタンパク質分解に何ら顕著な作用を及ぼすことなくMMP−2の活性化を部分的に阻害した。
【0113】
これに対し、SB−3CTは、MMP−2によるα1−アンチトリプシン(感受性が高く入手しやすいMMPのタンパク質基質)のタンパク質分解を阻害し(Li,W.ら2004年;Mast,A.E.ら1991年)、この61kDaのセルピンを、α1−アンチトリプシン分子のN末端部分に相当する55kDaの分解フラグメントに変換する作用が非常に強かった。したがって、SB−3CTは、インビトロにおいてナノモル範囲の濃度でα1−アンチトリプシンの切断を完全に遮断した(図7)。
【0114】
SB−3CTおよびEGCGの抗糖尿病性をAG3340の抗糖尿病性と対比して判定するため、各インヒビターを必要な濃度でNODマウスに腹腔内注射した。IS−CD8+細胞を蛍光色素であるジドデシル−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロラート(DiI)で前標識し、次いでNODマウスに静脈内注射した。24時間して、標識IS−CD8+細胞を膵島周囲および膵島内側の両方で計数した(図8)。AG3340の非存在下では、T細胞は、効率的に膵島にトランスマイグレートした。AG3340の存在下では、この状況が消失し、膵島のエントランスで検出されるT細胞が多くなり、膵島内側で認められた細胞は数分の1になった。反対に、SB−3CTおよびEGCGでは、どちらもAG3340よりもはるかに高濃度で用いたが、IS−CD8+細胞のホーミングに影響を及ぼさなかった。
【0115】
これらの結果をさらに裏付けるため、IS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。細胞注射の30分前に、各インヒビターまたはPBS(対照)のいずれかをマウスに腹腔内投与した。マウスが糖尿病を発症するまで、インヒビターの注射を1日おきに続けた。AG3340は、対照と比べて1mg/kgという低濃度で糖尿病の発現をおよそ2倍遅らせた(図9)。反対に、SB−3CTおよびEGCG(どちらもMT1−MMPを除くMMPの強力なインヒビター)を投与したマウスでは、移入糖尿病の発現に遅れは見られなかった。
【0116】
NODマウスの移入糖尿病モデルでは、MT1−MMPのアンタゴニストであるAG3340だけが、臨床的に関連する作用を示した。MMPインヒビターは広範囲の特異性を示すため、AG3340、SB−3CTおよびEGCGを同時に評価する場合、認められる結論としては、T細胞MT1−MMPは、IDDMにおいて重要な役割を果たしている一方で、どちらもSB−3CTにより効率的に阻害されるMMP−2およびMMP−9など、他のすべてのMMPを合わせた作用は、重要性がはるかに小さいということにとどまった。こうした結果から、糖尿病誘発T細胞の血管内皮細胞間隙遊走およびランゲルハンス島へのホーミングの効率性に関与するMT1−MMP−CD44軸の機能的重要性が認められる。
【0117】
IDDMのMT1−MMPを標的にする潜在的な臨床的意義:AG3340をインスリンとともに低投与量で注射すると、T細胞の糖尿病誘発の効率が低下し、T細胞が内皮に固定化され、糖尿病誘発T細胞のランゲルハンス島へのホーミングが抑制され、急性糖尿病NODマウスの膵島炎および単核細胞浸潤が軽減された。これらを合わせた現象により、新たに発症したIDDMの糖尿病NODマウスにおけるインスリン産生β細胞の回復が促進された。再生した機能性β細胞の発生源は、β細胞自体ではなく血管内皮前駆幹細胞である。
【0118】
インスリンを産生するβ細胞が再生されたことを証明するため、NODマウスにIDDMを発生させた。次いで疾患マウスに40日間インスリンを単独投与するか、あるいは、インスリンをAG3340と一緒に投与した。その後インスリン注射を中断した。疾患の発現後にインスリンを投与したマウスは、およそ2〜3日で高血糖になり、その後NIHガイドラインに従ってマウスを屠殺した。一方、インスリンをインヒビターと一緒に投与したマウスは、インスリン産生β細胞のプールを回復した。インスリン注射を中止しても、このβ細胞プールはこうしたマウスの生存には十分なものであり、外部のインスリンを用いなくても正常血糖/軽度の高血糖の状態が数週間続いた。
【0119】
E.参考文献
【0120】
【数1】
【0121】
【数2】
【0122】
【数3】
【0123】
【数4】
【0124】
【数5】
【0125】
【数6】
【0126】
【数7】
F.配列表
【0127】
【数8】
【0128】
【数9】
【0129】
【数10】
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1A】図1は、MT1−MMPがCD44を過剰にタンパク質分解すると、T細胞が膵島にホーミングする割合が低下し、マウスにおける糖尿病の発現が遅れることを示す。図1Aは、IS−CD8+細胞のFACS分析結果を示す。IS−CD8+細胞をMT1−MMP抗体およびCD44抗体で染色し、続いてフルオレセインイソチオシアナート−コンジュゲート二次抗体で染色し、その後FACS分析に付した。CD44を可溶性蛍光標識ヒアルロン酸で染色した場合も、類似の結果を得た。左のパネルは、MT1−MMPの染色である(太線はMT1−MMP;点線はアイソタイプコントロール)。右のパネルは、CD44の染色である(太線は未処理細胞;点線は、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートされた細胞)。
【図1B】図1Bは、MT1−MMPがCD44の細胞をシェディングし、その可溶性フラグメントを培地に放出させることを示す。IS−CD8+細胞表面をビオチン化し、次いでMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートした。その後、この細胞をN−オクチル−β−Dグルコピラノシドで溶解させ、プロテアーゼインヒビター混合物を追加した。ビオチン標識CD44を細胞可溶化物から捕獲し、捕獲サンプルを、CD44抗体を用いたウエスタンブロッティングで調べて、遊離した可溶性CD44細胞外ドメイン(培地)および残りの膜アンカー型CD44(細胞)を判定した。指示により、このサンプルにGM6001を加えた。
【図1C】図1Cは、MT1−MMPによるCD44のタンパク質分解により、IS−CD8+細胞の糖尿病誘発性が低下することを示す。左のパネルでは、細胞をMT1−MMP−CATとともに同時インキュベートし、蛍光色素DiIで標識し、次いでNODマウスに注射した。24時間して、膵臓のクリオスタット切片ごとに膵島の標識細胞数を計数した。右のパネルでは、MT1−MMP−CATで処理済みおよび未処理のIS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。糖尿病の発生率は、未処理の細胞では、100%(6匹中6匹)、MT1−MMP−CATとともに同時インキュベートした細胞では、70%(10匹中7匹)であった。
【図2】図2は、タンパク質分解活性MT1−MMPがMMP−2を活性化し、接着IS−CD8+細胞におけるCD44の細胞を切断することを示す。IS−CD8+細胞をゼラチンでコーティングしたプラスチックに固着させるか、あるいは、溶液中で保持した。上のパネルでは、懸濁液中のゼラチンコーティングプラスチックに固着した細胞(A)および非固着細胞(NA)を精製MMP−2(MMP−2単独;細胞なし)とともに同時インキュベートした。4時間して、培地サンプルを採取し、ゼラチンザイモグラフィーで解析してMMP−2のタンパク質分解活性および活性化状態を確認した。T細胞で自然に合成されたMMP−2の活性化を観察するため、左の2つのサンプルには外部からMMP−2を加えなかった。P、IおよびEは、MMP−2の68kDaの酵素前駆体、64kDaの中間体および62kDaの活性成熟酵素である。下のパネルでは、細胞表面をビオチン化してゼラチン固着させるか、あるいは、懸濁液中で保持した。細胞可溶化物および培地のアリコートをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲した。捕獲サンプルのCD44を、CD44抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した。
【図3A】図3は、ヒドロキサマートインヒビターであるAG3340が、MT1−MMPを不活化し、T細胞におけるCD44のシェディングを遮断し、移入を受けたNODマウスの糖尿病の発現を遅らせることを示す。図3Aは、AG3340が、養子移入を受けたNODマウスの糖尿病の発現を遅らせることを示す。IS−CD8+の細胞および脾細胞をそれぞれNODマウスに静脈内注射した(それぞれマウス1匹あたり細胞1×107個およびマウス1匹あたり細胞1.5×107個;マウス6匹/群)。細胞の注射後の0、2、4、6、8および10日目に、マウスにAG3340の腹腔内注射を行った(30mg/kgおよび1mg/kg)。
【図3B】図3Bは、AG3340が、IS−CD8+細胞のランゲルハンス島へのトランスマイグレーションを阻害することを示す。IS−CD8+細胞を、AG3340(50μMまたは21μg/ml)を用いておよび用いずに2時間同時インキュベートし、次いでDiIで標識した。次にこの標識細胞をNODマウスに静脈内注射した。24時間して、膵臓全体の中で、膵島のエントランスおよびランゲルハンス島内の標識細胞をそれぞれうちクリオスタット切片ごとに計数した。nは、各実験群における膵島の総数である。
【図3C】図3Cは、DiI標識IS−CD8+細胞の注射を受けたNODマウスから得たランゲルハンス島の代表的な画像を示す。画像は、注射の24時間後に撮ったものである。膵島は、点線で囲んである。白色の実線は、DiI標識細胞を計数した、膵島に関連する領域を示す。下のパネルは、細胞をAG3340とともにプレインキュベートしたものであり、上のパネルは、無処理細胞のものである。IS−CD8+細胞が膵島に入り込むのをAG3340がブロックしている点に留意されたい。
【図3D】図3Dは、MT1−MMPのタンパク質分解が血管外遊出におけるT細胞のCD44の機能性を動的に制御することを示す。MT1−MMPは、低レベルの場合、T細胞のヒアルロナンリッチ内皮への接着を刺激する。T細胞の接着後、T細胞MT1−MMPは活性化される。MT1−MMP活性は高レベルになると、CD44の欠損の原因になる。この現象により、T細胞の血管内皮細胞間隙遊走が刺激される。CD44の過剰が持続すると、T細胞のホーミングおよび血管外遊出が抑制される。
【図4】図4は、CD44が、糖尿病誘発IS−CD8+T細胞のランゲルハンス島へのホーミングに大きな役割を果たしていることを示す。CD44に対する機能阻害抗体IM7.8.1およびAG3340をそれぞれNODマウスに静脈内注射した。30分して、この注射に続いてDiI標識IS−CD8+T細胞を静脈内注射した。24時間後、膵島のエントランスおよびランゲルハンス島内の標識細胞をそれぞれ、蛍光顕微鏡を用いて膵臓のクリオスタット切片ごとに計数した。マウス1匹あたり少なくとも100島(マウス4〜5匹/群)を調べた。結果を左のパネルにまとめてある。*および**は、フィッシャーの検定でp<0.05であった。代表切片は、未処理動物のT細胞の効率的なホーミングと、機能阻害CD44抗体の著しい阻害作用と、膵島のエントランスでのAG3340によるT細胞の固定化とを示す。
【図5】図5は、阻害解析から、内因性MT1−MMPがIS−CD8+T細胞の細胞表面のCD44を切断することが確認されることを示す。上のパネルでは、細胞表面をビオチン化し、次いで無血清培地においてIコラーゲン/ゼラチンでコーティングしたプラスチックに接着させるか(接着、A)、あるいは、懸濁液中で保持した(非接着、NA)。指示により、この細胞に、TIMP−1(100ng/ml;MT1−MMPの弱いインヒビター)と、どちらもMT1−MMPの非常に強力なインヒビターであるTIMP−2(100ng/ml)およびAG3340(50μM)とを加えた。細胞可溶化物および培地のアリコートをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲した。捕獲サンプルのCD44を、CD44細胞外ドメインに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した。下のパネルは、MMP−2を解析するため、無血清培地において接着細胞および非接着細胞をそれぞれ18時間インキュベートしたものを示す。この細胞に精製MMP−2(20ng;MMP−2単独;細胞なし)を加えた。MMP−2の活性化を、培地のアリコートのゼラチンザイモグラフィーで解析した。ウエスタンブロッティング実験(上の2つのパネル)では、外的なMMP−2を用いなかった。
【図6A】図6は、AG3340が膵島炎を抑制し、自然発症糖尿病のNODマウスにおける膵島の再生を刺激することを示す。自然発症糖尿病の発症後、インスリン(15〜20U/kg;2〜3日ごとに1回注射)をマウスに皮下注射した。対照動物(マウス6匹/群)にはインスリンを単独投与したのに対し、実験群(マウス5匹/群)には、インスリンの皮下投与と一緒にAG3340を腹腔内投与した。各注射を40日間続けてから、マウスを屠殺した。膵臓の切片において、白血球および粒状のβ細胞をそれぞれH&Eおよびアルデヒドフクシンで染色した。膵島の膵島炎の重症度(≧100/マウス)をスコア評価した(0は病変なし;1は膵島周囲の白血球凝集に加えて管周囲の浸潤;2は膵島の破壊が<25%;3は膵島の破壊が>25%;および4は膵島の全体的な破壊)。*および**は、フィッシャーの検定でそれぞれp=0.042およびp=0.037であった。膵臓切片の代表的な画像は、インスリン抗体で染色した対照マウスおよびAG3340処理したマウスのものである。対照では、膵島の単核細胞浸潤および膵島炎の広がりが見られることと、AG3340を投与したマウスでは、膵島周囲炎が抑えられているとともに小型の再生インスリン陽性膵島が形成されていることに留意されたい。
【図6B】図6は、AG3340が膵島炎を抑制し、自然発症糖尿病のNODマウスにおける膵島の再生を刺激することを示す。自然発症糖尿病の発症後、インスリン(15〜20U/kg;2〜3日ごとに1回注射)をマウスに皮下注射した。対照動物(マウス6匹/群)にはインスリンを単独投与したのに対し、実験群(マウス5匹/群)には、インスリンの皮下投与と一緒にAG3340を腹腔内投与した。各注射を40日間続けてから、マウスを屠殺した。膵臓の切片において、白血球および粒状のβ細胞をそれぞれH&Eおよびアルデヒドフクシンで染色した。膵島の膵島炎の重症度(≧100/マウス)をスコア評価した(0は病変なし;1は膵島周囲の白血球凝集に加えて管周囲の浸潤;2は膵島の破壊が<25%;3は膵島の破壊が>25%;および4は膵島の全体的な破壊)。*および**は、フィッシャーの検定でそれぞれp=0.042およびp=0.037であった。膵臓切片の代表的な画像は、インスリン抗体で染色した対照マウスおよびAG3340処理したマウスのものである。対照では、膵島の単核細胞浸潤および膵島炎の広がりが見られることと、AG3340を投与したマウスでは、膵島周囲炎が抑えられているとともに小型の再生インスリン陽性膵島が形成されていることに留意されたい。
【図7】図7は、AG3340が、MT1−MMPと、IS−CD8+T細胞におけるCD44のシェディングとを阻害することを示す。上のパネルは、MMP−2のゼラチンザイモグラフィーを示す。細胞のMT1−MMPによるMMP−2の活性化を解析するため、接着細胞および非接着細胞をそれぞれ無血清培地で18時間インキュベートした。この細胞に精製MMP−2(20ng)を加えた。MMP−2の活性化を、培地のアリコートのゼラチンザイモグラフィーで解析した結果、68kDaのMMP−2酵素前駆体が62kDaのMMP−2成熟酵素に変換されることが観察された。指示により、この細胞にAG3340、SB−3CTおよびEGCGを18時間加えた。真ん中のパネルは、CD44のウエスタンブロッティングを示す。細胞表面をビオチン化してから、無血清培地において、Iコラーゲン/ゼラチンでコーティングしたプラスチックに接着させるか(接着、A)、あるいは、懸濁液のままにしておいた(非接着、NA)。指示により、この細胞にAG3340、SB−3CTおよびEGCGを加えた。細胞可溶化物および培地のサンプルをストレプトアビジンアガロースビーズで捕獲した。捕獲サンプルのアリコート(それぞれ総タンパク質50μg)のCD44を、CD44細胞外ドメインに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングで解析した。下のパネルは、低濃度のSB−3CTがMMP−2を阻害することを示す。α1−アンチトリプシンをMMP−2とともにインキュベートした。消化したサンプルを、SDS−ゲル電気泳動を還元して解析した。指示により、このサンプルにSB−3CTを図に示した濃度で加えた。
【図8】図8は、AG3340が、IS−CD8+T細胞の膵島内ホーミングを阻害することを示す。NODマウスにAG3340、SB−3CTおよびEGCGをそれぞれ注射した。30分して、各注射に続いてDiI標識IS−CD8+T細胞を注射した。24時間後、蛍光顕微鏡で膵臓のクリオスタット切片を調べた。DiI標識細胞は、膵島のエントランスまたはランゲルハンス島内に位置しており、これを計数した。マウス1匹あたり少なくとも100島(マウス4〜5匹/群)を調べた。膵島については、蛍光の減弱および緻密で高密度な構造など、その形態学的特徴から容易に見分けることができる。DiI標識細胞を注射したNODマウスから得たランゲルハンス島の代表的な画像を示す。
【図9】図9は、AG3340が、IS−CD8+T細胞の血管内皮細胞間隙遊走を阻害し、NODマウスの移入糖尿病の発症を遅らせることを示す。図9Aは、AG3340が、IS−CD8+細胞のランゲルハンス島へのトランスマイグレーションを阻害することを示す。マウスには、この細胞を注射する30分前に、AG3340、SB−3CT、EGCGまたはPBSのいずれかを投与しておいた。IS−CD8+細胞をDiIで標識してから、NODマウスに注射した。24時間して、膵臓全体の中で膵島内にある標識細胞をクリオスタット切片ごとに計数した。図9Bは、AG3340が、養子移入を受けたNODマウスの糖尿病の発現を遅らせることを示す。IS−CD8+細胞をNODマウスに注射した。マウスには、糖尿病を発現するまで(およそ1〜2週間)、AG3340、SB−3CTおよびEGCGあるいはPBSを1日おきに1回投与した。SB−3CT(60mg/ml)、EGCG(50mg/ml)およびAG3340(50mg/ml)の原液については、50%DMSOで製造しておいた。注射の直前に、EGCGおよびSB−3CTをそれぞれPBSで4mg/mlの濃度に希釈した。AG3340をPBSで濃度0.4mg/mlになるように希釈した。PBS含有3.%DMSOをビヒクル対照として用いた。Diastixの試薬ストリップで尿中グルコース濃度を測定して、糖尿病の発現を毎日モニターした。3日連続して尿中グルコース濃度が≧2000mg/dlであるマウスを糖尿病とみなした。*および**は、フィッシャーの検定でそれぞれp=0.02およびp=0.015であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を前記細胞に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する必要がある被検体の細胞またはその被検体由来の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インヒビターは、天然のMMP組織インヒビター(TIMP)またはヒドキサマートである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023 Aからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロキサマートは、AG3340である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記TIMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記TIMPは、TIMP−2である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、ランゲルハンス島周囲の毛細血管内皮へのT細胞の固定化を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、T細胞のホーミングの減少を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記インヒビターは、機能的な膵島の再生を促進する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記T細胞は、インスリン特異的CD8陽性T細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記インヒビターは、実質的に前記T細胞を膵島内皮に固定化する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
被検体のI型糖尿病を処置する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項15】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記被検体は、I型糖尿病と診断される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記インヒビターは、内在性のMMP組織インヒビター(TIMP)またはヒドキサマートである、請求項14に記載の方法
【請求項18】
前記ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023 Aからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒドロキサマートは、AG3340である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記TIMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4からなる群から選択される、請求項17に記載の方法
【請求項21】
前記TIMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記TIMPは、TIMP−2である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記インヒビターは、前記T細胞を膵島内皮に固定化する、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記インヒビターは、機能的な膵島の再生を促進する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
分子を同定する方法であって、
MT1−MMP活性を阻害する作用について候補分子をスクリーニングすることと、
膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを前記候補分子が阻害できるかどうかを判定することと
を含む、方法。
【請求項26】
分子を同定する方法であって、MT1−MMP活性を阻害する分子が、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害できるかどうかを判定することを含む、方法。
【請求項27】
T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する方法であって、前記細胞と膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物とを接触させることを含む、方法。
【請求項28】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞は、膵臓の毛細血管内皮にT細胞を固定化する必要がある被検体と認められた被検体の細胞またはその被検体由来の細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
I型糖尿病の危険性がある被検体を処置する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項31】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項30に記載の方法。
【請求項1】
膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を前記細胞に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害する必要がある被検体の細胞またはその被検体由来の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インヒビターは、天然のMMP組織インヒビター(TIMP)またはヒドキサマートである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023 Aからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロキサマートは、AG3340である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記TIMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記TIMPは、TIMP−2である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、ランゲルハンス島周囲の毛細血管内皮へのT細胞の固定化を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、T細胞のホーミングの減少を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記インヒビターは、機能的な膵島の再生を促進する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記T細胞は、インスリン特異的CD8陽性T細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記インヒビターは、実質的に前記T細胞を膵島内皮に固定化する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
被検体のI型糖尿病を処置する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項15】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記被検体は、I型糖尿病と診断される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記インヒビターは、内在性のMMP組織インヒビター(TIMP)またはヒドキサマートである、請求項14に記載の方法
【請求項18】
前記ヒドロキサマートは、BB−94、BB−1101、BB25−16、SE205、AG3340およびCGS 27023 Aからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ヒドロキサマートは、AG3340である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記TIMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4からなる群から選択される、請求項17に記載の方法
【請求項21】
前記TIMPは、TIMP−2、TIMP−3およびTIMP−4からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記TIMPは、TIMP−2である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記インヒビターは、前記T細胞を膵島内皮に固定化する、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記インヒビターは、機能的な膵島の再生を促進する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
分子を同定する方法であって、
MT1−MMP活性を阻害する作用について候補分子をスクリーニングすることと、
膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを前記候補分子が阻害できるかどうかを判定することと
を含む、方法。
【請求項26】
分子を同定する方法であって、MT1−MMP活性を阻害する分子が、膵臓の毛細血管内皮を通過するT細胞のトランスマイグレーションを阻害できるかどうかを判定することを含む、方法。
【請求項27】
T細胞を膵臓の毛細血管内皮に固定化する方法であって、前記細胞と膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物とを接触させることを含む、方法。
【請求項28】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞は、膵臓の毛細血管内皮にT細胞を固定化する必要がある被検体と認められた被検体の細胞またはその被検体由来の細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
I型糖尿病の危険性がある被検体を処置する方法であって、膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)のインヒビターを含む組成物を前記被検体に投与することを含む、方法。
【請求項31】
前記MT−MMPは、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT1−MMP)である、請求項30に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2009−533318(P2009−533318A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554488(P2008−554488)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/061796
【国際公開番号】WO2007/092899
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(591180152)ザ バーナム インスティテュート (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/061796
【国際公開番号】WO2007/092899
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(591180152)ザ バーナム インスティテュート (8)
【Fターム(参考)】
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