説明

インスリン初期分泌促進剤

下記一般式(1)で表されるトリテルペン及び/又は下記一般式(2)で表されるトリテルペンからなるインスリン初期分泌促進剤を提供する。
【化1】


[式中、RはCOOH基等、R11及びR12はCHOH基等、Xは水素原子又はOH基、X11、X12、X21及びX22はOH基等をそれぞれ表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン初期分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バナバ(Lagerstroemia speciosa Linn.又はPers.)は、フィリピンを始め、インド、マレーシア、中国南部及びオーストラリアなどの東南アジアに広く生育するミソハギ科の植物である。特許文献1には、バナバ葉を熱水あるいは有機溶媒で抽出したバナバエキスを主成分とする抗糖尿病剤が提案されており、その抗糖尿病作用は、糖尿病マウスを用いた動物実験で確認されている。
【特許文献1】特開平5−310587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
糖尿病治療においては、インスリンを食直後すばやく分泌させ、しかも血中グルコースが上昇しない時にはインスリンの過剰分泌を引き起こさないことが理想的である。しかし、今までの抗糖尿病剤や、スルホニル尿素薬、ビグアナイド薬、チアゾリジン誘導体、フェニルアラニン誘導体等の糖尿病治療のための合成薬剤ではこのような理想的な血糖上昇抑制及びインスリン分泌調整は困難であった。
【0004】
また、このような抗糖尿病剤や合成薬剤は、血糖を下げることは出来ても、低血糖を招いたり、インスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)や肝臓への副作用を生じさせたりといった問題があり、特にインスリン分泌臓器である膵臓の疲弊は避けられないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、食事を取ったときのみ素早くインスリン初期分泌を促進し、血糖上昇を抑制し、その結果、理想的な血糖上昇抑制及びインスリン分泌調整が可能となる、副作用の少ない、インスリン初期分泌促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の(i)〜(x)のインスリン初期分泌促進剤を提供する。
(i)下記一般式(1)で表されるトリテルペン及び/又は下記一般式(2)で表されるトリテルペンからなるインスリン初期分泌促進剤。
【化1】

[式中、RはCOOH基、CHO基、CH基又はCHOH基、R11及びR12はそれぞれ独立にCH基、CHOH基又はCOOH基、Xは水素原子又はOH基、X11、X12、X21及びX22は、それぞれ独立に水素原子、OH基又はアシル基、をそれぞれ表す。但し、X11、X12、X21及びX22のうちの2つは水素原子、他の2つはOH基又はアシル基でなければならず、X11及びX12は同時にOH基又はアシル基ではない。なお、X11及びX12、又は、X21及びX22は一緒になって=O基を形成していてもよい。]
(ii)RがCOOH基である、(i)のインスリン初期分泌促進剤。
(iii)R11及びR12の少なくとも一方がCHOH基である、(i)又は(ii)のインスリン初期分泌促進剤。
(iv)XがOH基である、(i)〜(iii)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。
(v)X11、X12、X21及びX22のOH基の少なくとも1つがエステル化されている、(i)〜(iv)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。ここで、エステル化試薬の炭素数は1〜12が好ましく、1〜6がより好ましい。
(vi)X11、X12、X21及びX22のOH基の少なくとも1つがエーテル化されている、(i)〜(iv)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。ここで、エーテル化試薬の炭素数は1〜12が好ましく、1〜6がより好ましい。
(vii)X11、X12、X21及びX22のうちの2つが同一のアシル基である、(i)〜(iv)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。
(viii)前記アシル基がRCO−で表される基(但し、Rは、炭素数1〜17のアルキル基又は置換若しくは未置換アリール基である。)である、(i)〜(vii)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。ここで、RCO−で表される基の具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、トリオイル基、サリチロイル基、シンナモイル基、ナフトイル基、フタロイル基、フロイル基が挙げられる。
(ix)前記アシル基がアセチル基である、(i)〜(viii)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。
(x)糖依存性である、(i)〜(ix)のいずれかのインスリン初期分泌促進剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、インスリンを食直後すばやく分泌させ、しかも血中グルコースが上昇しない時にはインスリンを余分に分泌させないという、血糖上昇抑制、インスリン抵抗性改善、肥満防止、中性脂肪抑制に効果のあるインスリン初期分泌促進剤が提供される。すなわち、インスリン初期分泌を促進することにより、食後血糖値を下げ、同時にインスリン分泌過剰を防止するインスリン初期分泌促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、糖負荷試験中の血中インスリン値の変化を示すグラフである。(a)はコロソリン酸を投与した場合のグラフであり、(b)はプラセボを投与した場合のグラフである。
【図2】図2は、血糖値の変化を示すグラフである。
【図3】図3は、血糖値の変化を示すグラフである。
【図4】図4は、血糖値の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、血糖値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のインスリン初期分泌促進剤として適用可能なトリテルペンには、以下に例示された化合物1)〜100)が含まれる。
【0010】
ウルサン型ペンタサイクリックトリテルペン類(Ursane−type Pentacyclic Triterpenes)として、以下の化合物が挙げられる。
1)Desfontainic acid
2)2,19a−Dihydroxy−3−oxo−1,12−ursadien−28−oic acid
3)2x,20b−Dihydroxy−3−oxo−12−ursen−28−oic acid
4)2a,3a−Dihydroxy−12,20(30)−ursadien−28−oic acid
5)2a,3b−Dihydroxy−12,20(30)−ursadien−28−oic acid
6)2b,3b−Dihydroxy−12−ursen−23−oic acid
7)2a,3a−Dihydroxy−12−ursen−28−oic acid
8)1a,2a,3b,19a,23−Pentahydroxy−12−ursen−28−oic acid
9)2a,3b,7a,19a,23−Pentahydroxy−12−ursen−28−oic acid
10)1b,2a,3a,19a−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
11)1b,2a,3b,19a−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
12)1b,2b,3b,19a−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
13)2a,3b,6b,19a−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
14)2a,3b,6b,23−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
15)2a,3b,7a,19a−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
16)2a,3a,7b,19a−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
17)2a,3b,13b,23−Tetrahydroxy−11−ursen−28−oic acid
18)2a,3a,19a,23−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
19)2a,3b,19a,23−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
20)2a,3a,19a,24−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
21)2a,3b,19a,24−Tetrahydroxy−12−ursen−28−oic acid
22)2a,3b,23−Trihydroxy−11−oxo−12−ursen−28−oic acid
23)2a,3b,24−Trihydroxy−12,20(30)−ursadien−28−oic acid
24)2a,3b,27−Trihydroxy−28−ursanoic acid
25)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−ursene−23,28−dioic acid
26)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−ursene−24,28−dioic acid
27)1b,2b,3b−Trihydroxy−12−ursen−23−oic acid
28)2a,3b,6b−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
29)2a,3a,19a−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
30)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
31)2a,3a,23−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
32)2a,3b,23−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
33)2a,3a,24−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
34)2a,3b,24−Trihydroxy−12−ursen−28−oic acid
35)2a,3b,27−Ursanetriol
36)12−Ursene−1b,2a,3b,11a,20b−pentol
37)12−Ursene−1b,2a,3b,11a−tetrol
38)12−Ursene−2a,3b,11a,20b−tetrol
39)12−Ursene−2a,3b,11a−triol
40)12−Ursene−2a,3b,28 triol
【0011】
活性物質オレアナン型ペンタサイクリックトリテルペン類(Oleanane−type Pentacyclic Triterpenes)としては、以下の化合物が挙げられる。
41)2a,3b−Dihydroxy−12,18−oleanadiene−24,28−dioic acid
42)2a,3b−Dihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
43)2b,3b−Dihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
44)2b,3b−Dihydroxy−12−oleanene−28,30−dioic acid
45)2b,3b−Dihydroxy−12−oleanen−23−oic acid
46)2b,3b−Dihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
47)2a,3a−Dihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
48)2a,3b−Dihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
49)2a,3b−Dihydroxy−13(18)−oleanen−28−oic acid
50)12b,13b−Epoxy−2a,3b,21b,22b−tetrahydroxy−30−oleananoic acid
51)13,28−Epoxy−2a,3b,16a,22b−tetrahydroxy−30−oleananoic acid
52)13b,28−Epoxy−2a,3b,16a,22b−tetrahydroxy−30−oleananoic acid
53)12−Oleanene−2a,3a−diol
54)12−Oleanene−2a,3b−diol
55)13(18)−Oleanene−2a,3a−diol
56)13(18)−Oleanene−2b,3b−diol
57)18−Oleanene−2a,3b−diol
58)18−Oleanene−2a,3a−diol
59)12−Oleanene−2a,3b,16b,21b,22a,28−hexol
60)12−Oleanene−1b,2a,3b,11a−tetrol
61)12−Oleanene−2b,3b,23,28−tetrol
62)12−Oleanene−2a,3b,11a−triol
63)12−Oleanene−2b,3b,28−triol
64)12−Oleanene−2a,3b,23−triol
65)13(18)−Oleanene−2a,3b,11a−triol
66)2b,3b,6b,16a,23−Pentahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
67)2b,3b,16b,21b,23−Pentahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
68)2b,3b,16a,23,24−Pentahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
69)2b,3b,13b,16a−Tetrahydroxy−23,28−oleananedioic acid
70)2b,3b,16b,21b−Tetrahydroxy−12−oleanen−24,28−dioic acid
71)2b,3b,16a,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−24,28−dioic acid
72)2b,3b,22b,27−Tetrahydroxy−12−oleanen−23,28−dioic acid
73)2a,3b,6b,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
74)2b,3b,6a,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
75)2b,3b,6b,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
76)2b,3b,16b,21b−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
77)2b,3b,16a,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
78)2a,3b,19a,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
79)2a,3b,19b,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
80)2a,3b,19a,24−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
81)2a,3b,21b,23−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
82)2a,3b,23,24−Tetrahydroxy−12−oleanen−28−oic acid
83)2b,3b,23−Trihydroxy−5,12−oleanadien−28−oic acid
84)2a,3a,24−Trihydroxy−11,13(18)−oleanadien−28−oic acid
85)2a,3b,13b−Trihydroxy−28−oleananoic acid
86)2b,3b,16a−Trihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
87)2a,3b,18b−Trihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
88)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
89)2a,3b,19b−Trihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
90)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−oleanene−24,28−dioic acid
91)2a,3b,19b−Trihydroxy−12−oleanene−24,28−dioic acid
92)2b,3b,23−Trihydroxy−12−oleanene−28,30−dioic acid
93)2b,3b,27−Trihydroxy−12−oleanene−23,28−dioic acid
94)2a,3b,18b−Trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
95)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
96)2a,3b,19a−Trihydroxy−12−oleanen−29−oic acid
97)2a,3b,21b−Trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
98)2a,3a,23−Trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
99)2a,3a,24−Trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
100)2a,3b,30−Trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid
【0012】
上述した化合物は、バナバ葉(Lagerstroemia Speciosa、Linn.又はPers.)、ビワ、ムクロジ等に由来するものが好ましい。バナバ葉から一般式(1)又は(2)で表されるトリテルペンを得る場合は、バナバ葉をアルコール等で抽出してバナバエキスを得(必要によりさらに濃縮してバナバエキス濃縮物としてもよい)、このエキスを精製する方法を採用することが好適である。
【0013】
抽出はバナバ葉の生葉又は乾燥物を用いることが好ましく、生葉の乾燥方法としては、自然乾燥、風乾、強制乾燥等の方法が採用できる。乾燥は、いわゆるトーステッドドライにより水分含量が20重量%以下、好ましくは10重量%以下となるように行うのが、微生物の生育を防止しかつ保存安定性のために望ましい。乾燥したバナバ葉は、そのまま抽出してもよいが粉砕又は細断して抽出してもよい。
【0014】
以上のように調製したバナバ葉を、熱水又はメタノール、エタノール等のアルコール等の抽出溶媒で抽出してバナバエキスを得ることができるが、この場合においては、エキス中に上述したトリテルペンが一定の割合で含有されるような条件を採用することが好ましい。このような抽出方法としては、以下の方法1〜3が例示できる。
【0015】
方法1:乾燥したバナバ葉の粉砕化物(原料)にエタノール又はエタノール水溶液(エタノール含量50〜80重量%)を原料に対して5〜20重量倍、好ましくは8〜10重量倍加えて、常温〜90℃好ましくは約50〜85℃の温度で30分〜2時間加熱還流する。この抽出を2〜3回繰り返す。
【0016】
方法2:乾燥したバナバ葉の粉砕化物に対して3〜20重量倍のメタノール又はメタノール水溶液(メタノール含量50〜90重量%)を加え、方法1と同様に加熱還流して抽出する。抽出の操作は、常温〜65℃の範囲の温度で30分〜2時間実施するのが好適である。抽出操作は、1回に限らず2回以上繰り返して行うことができる。
【0017】
方法3:乾燥したバナバ葉の粉砕化物に対して3〜20重量倍の熱水を加え、50〜90℃、好ましくは60〜85℃の温度で30分〜2時間加熱還流して抽出を行う。
【0018】
上記したバナバエキスの抽出の方法1〜3は、適宜組み合わせることもできる。例えば、方法1及び方法2を組み合わせて実施することもできる。これらの方法のうち、好ましいのは方法1及び方法2であり、特に好ましいのは方法1である。
【0019】
バナバエキスは、取扱いを容易にするため、濃縮・乾燥してバナバエキス濃縮物に加工するのが一般的である。抽出後の濃縮及び乾燥は、濃縮物が高い温度で長時間保持されると活性成分が劣化することがあるので、比較的短時間で行うことが望ましい。そのために減圧下にて濃縮及び乾燥を行うのが有利である。上記の方法で得られた抽出液を濾過して60℃以下の温度で減圧下濃縮し、得られた固形状物を50〜70℃の温度で減圧下(濃縮時よりも高い減圧下)にて乾燥する。こうして得られた固形物を粉砕して粉末状濃縮物を得る。バナバエキス濃縮物は、粉末形態に限らず錠剤形態あるいは顆粒形態のいずれに加工してもよい。このような方法で得られたバナバエキス濃縮物は、コロソリン酸、バナバポリフェノール及びその他の有効成分を含有している。
【0020】
このようにして得られたバナバエキス又はバナバエキス濃縮物から、一般式(1)又は(2)で表されるトリテルペンを精製するが、この精製は公知の手法が採用できる。例えば、バナバエキスからコロソリン酸を精製する場合は、以下の手段を採用することができる。
【0021】
すなわち、バナバエキスを水に懸濁した後、エーテルやヘキサン等に分配してまず低極性成分を除く。水層をダイアイオンHP−20カラムクロマトグラフィー等を用いて、水、メタノール及びアセトンにて順次溶出する。さらに、コロソリン酸が含まれているメタノール溶出画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーにて分離、精製を行い,コロソリン酸を単離する。エーテルやヘキサン等で低極性成分を除き,ダイアイオンHP−20カラムクロマトグラフィー等で分離した方が精製は容易であるが(特にエキス量が多い場合)、必ずしも必須ではなく、抽出エキスを直接シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離し、最終的に高速液体クロマトグラフィーにて精製をすることも可能である。
【0022】
バナバエキス又はバナバエキス濃縮物から単離、精製したトリテルペンはそのまま用いても良いが、アシル化(例えばアセチル化)して用いてもよく、その後脱アシル化(例えば脱アセチル化)して用いてもよい。例えば、コロソリン酸の場合、アシル化(例えばアセチル化)した後脱アシル化して用いるのが好ましい。アシル化(例えばアセチル化)した後脱アシル化すると、非常に純度の高い(略100%)コロソリン酸を得ることができる。
【0023】
コロソリン酸をアセチル化するには、例えば、まず、バナバエキスから単離、精製したコロソリン酸を無水ピリジンに溶解し、無水酢酸を加えて、室温にて12時間程度放置した後、反応溶液に氷水を加え、クロロホルムにて複数回(3回程度)抽出する。そして、クロロホルム層を硫酸ナトリウムにて脱水し、ろ過して硫酸ナトリウムを除いた後、クロロホルムを減圧下留去して、ヘキサンにて再結晶することによりアセチルコロソリン酸を得ることができる。また、コロソリン酸を脱アシル化する方法としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリで加水分解する方法が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
以下の試験により、コロソリン酸がインスリン初期分泌促進作用を有していることを確認した。ダブルブラインド・クロスオーバー方式により、コロソリン酸又はプラセボ投与後に糖負荷試験を行い、血中インスリン値(IRI:immunoreactive insulin)を測定した。IRIが有意に変化したかどうかは、有意水準(p値)を0.05としてStudentのt検定により判断した。
【0026】
まず、被験者である境界型糖尿病の患者31名に対して、コロソリン酸(純度99%以上、10mg)又はプラセボを経口投与し、その直後に採血し、そのときの血中インスリン値を0分での値とした。採血後、ただちにグルコース75gを被験者に経口投与して糖負荷試験を開始し、30分、60分、90分、120分及び180分経過後に採血を行い、血中インスリン値を測定した。
【0027】
図1は、糖負荷試験中の血中インスリン値の変化を示すグラフである。横軸は糖負荷試験開始後の時間(分)を表わし、縦軸はIRI(μU/mL)を表わす。(a)はコロソリン酸を投与した場合のグラフであり、(b)はプラセボを投与した場合のグラフである。
【0028】
図1から明らかなように、コロソリン酸を投与すると、プラセボを投与した場合に比べて、糖負荷試験開始30分後において有意に血中インスリン値の上昇が認められた。また、その一方で、糖負荷試験開始120分後において有意に血中インスリン値の低下が認められた。
【0029】
以上より、コロソリン酸はインスリン初期分泌を促進することが明らかとなった。また、血糖が上昇しない時にはインスリンを余分に分泌させないことも明らかとなった。さらに、コロソリン酸が糖依存性のインスリン初期分泌促進剤であることが示唆された。
【0030】
(実施例2)
被検動物として、遺伝的2型糖尿病モデル動物であるKK−Ayマウス(日本クレア株式会社)を用いた。KK−Ayマウスは、8週齢で血糖値が300mg/100mLのものを用いた。動物飼育室条件は実験期間中を通じて恒温(22±2℃)、明暗周期は12時間(明周期:9時〜21時)とした。餌(CE−2、日本クレア株式会社)と水(水道水)はアドリブで与えた。被検物質は注射筒及び経口ゾンデ針を用いてKK−Ayマウスに強制的に投与した。被検物質の投与量は全て10mg/kgとした。投与直前、4時間及び7時間(tormentic acidについては投与直前及び4時間)に、眼底より採血を行った。血糖値の測定にはグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0031】
本実施例における被検物質は、
corosolic acid(コロソリン酸)(バナバ葉より単離した)、
maslinic acid(マスリン酸)(バナバ葉より単離した)、
asiatic acid(LKT Laboratoriesより購入した)、
2a,19a−dihydroxy−3−oxo−urs−12−en−28−oic acid(ビワカルスより単離した)、
ursolic acid(ウルソール酸)(LKT Laboratoriesより購入した)、
oleanolic acid(オレアノール酸)(LKT Laboratoriesより購入した)、
a−amyrin(α−アミリン)(LKT Laboratoriesより購入した)、
b−amyrin(β−アミリン)(LKT Laboratoriesより購入した)、
hederagenin(ヘデラゲニン)(LKT Laboratoriesより購入した)、
18b−glycyrrhetinic acid(和光純薬工業株式会社より購入した)
sapindoside B(ムクロジより単離した)、及び
tormentic acid(ビワカルスより単離した)である。
【0032】
血糖値の測定は、各被検物質について4匹のKK−Ayマウスを用いて行った。測定結果は平均値±標準誤差で示した。血糖値が有意に変化したかどうかは、有意水準(p値)を0.05としてStudentのt検定により判断した。血糖値の変化を図2〜5に示す。
【0033】
図2〜5から明らかなように、前記一般式(1)又は(2)で表されるトリテルペンであるcorosolic acid、asiatic acid、2a,19a−dihydroxy−3−oxo−urs−12−en−28−oic acid及びtormentic acidは有意な血糖降下作用を示した。maslinic acidについては、有意な血糖降下は見られなかったものの、血糖値は明らかな減少傾向を示した。一方、前記一般式(1)又は(2)で表されるトリテルペンではないursolic acid、oleanolic acid、a−amyrin、b−amyrin、hederagenin、18b−glycyrrhetinic acid及びsapindoside Bには明らかな血糖降下が見られなかった。
【0034】
前記一般式(1)又は(2)で表されるトリテルペンであるcorosolic acid、asiatic acid、2a,19a−dihydroxy−3−oxo−urs−12−en−28−oic acid、tormentic acid及びmaslinic acidによる血糖降下作用は、実施例1より、いずれも糖依存性のインスリン初期分泌促進作用によるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のインスリン初期分泌促進剤は糖尿病治療・予防薬として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリテルペン及び/又は下記一般式(2)で表されるトリテルペンからなるインスリン初期分泌促進剤。
【化1】

[式中、RはCOOH基、CHO基、CH基又はCHOH基、R11及びR12はそれぞれ独立にCH基、CHOH基又はCOOH基、Xは水素原子又はOH基、X11、X12、X21及びX22は、それぞれ独立に水素原子、OH基又はアシル基、をそれぞれ表す。但し、X11、X12、X21及びX22のうちの2つは水素原子、他の2つはOH基又はアシル基であり、X11及びX12は同時にOH基又はアシル基とならない。なお、X11及びX12、又は、X21及びX22は一緒になって=O基を形成していてもよい。]
【請求項2】
がCOOH基である、請求項1に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項3】
11及びR12の少なくとも一方がCHOH基である、請求項1又は2に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項4】
がOH基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項5】
11、X12、X21及びX22のOH基の少なくとも1つがエステル化されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項6】
11、X12、X21及びX22のOH基の少なくとも1つがエーテル化されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項7】
11、X12、X21及びX22のうちの2つが同一のアシル基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項8】
前記アシル基がRCO−で表される基(但し、Rは、炭素数1〜17のアルキル基又は置換若しくは未置換アリール基である。)である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項9】
前記アシル基がアセチル基である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。
【請求項10】
糖依存性である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインスリン初期分泌促進剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/027891
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514108(P2005−514108)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013836
【国際出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(598169491)株式会社ユース・テクノコーポレーション (9)
【Fターム(参考)】