説明

インターレス画像を用いた行動解析装置

【課題】養殖漁業を行う現場あるいは漁業関連の研究分野では仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の行動を計測したいとの要望がある。しかし、これまでの計測手法では、微小生物の急激な動きの変化に対応できず行動計測を行う事は難しかった。
【解決手段】本発明は、取得したインターレス画像のなかから特徴的な画像を異常行動として計測すること事を特徴とする。観測される通常行動と異常行動の出現数および時間の変化による出現数の変動を計測し異常行動出現データベース9に記録する。異常行動出現データベース9には通常行動の出現数9aと異常行動の出現数9bが記録される。この異常行動出現データベース9を用いることにより、異常行動の出現数、出現比率、出現数や出現比率の時間的変動を算出し、仔魚、稚魚、プランクトンなどの健康状態を判断する指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の行動解析に利用可能な、行動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖漁業を行う現場あるいは漁業関連の研究分野では仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の動きを計測する事は重要である。これまで、養殖魚の仔魚や稚魚の動きを目視により観測し経験的に仔魚や稚魚の健康に関しての判断を行ったり、プランクトンの動きを目視により観測して仔魚や稚魚の餌となるプランクトンの健康状況の判断がおこなわれていた。また、漁業関連の研究機関では仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の動き目視により観測し、マス目状の用紙に仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の動きを記録することにより行動の解析を行っていた。もしくは、流体の流れを計測するための流れ計測装置や汎用画像処理装置を用いて仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物で行動の計測を行なっていた。
【非特許文献1】小林 他:二次元流れ場の実時間ディジタル画像計測システムの開発、機械学会論文集(B編)55巻509号(1989年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、人間が目視で計測する場合は、人間の力量や疲労具合により測定結果が大きく異なり定量的な計測は行えなかった。また、マス目状の用紙を用いた方法は、長時間の解析や大量データ解析を行う必要から実施が難しく、解析する人間の力量や疲労具合により計測結果に差が出ることがあり定量的な計測を行うことが難しかった。さらに、流れ計測装置や汎用画像処理装置を用いた解析では、対象とするプランクトンや魚などを個別に追跡することにより行動を解析する必要があるが、仔魚、稚魚、プランクトンなどの生物は、流体計測で用いられるトレーサー粒子のように動きが一様でないため、生物特有の急な行動の変化があった場合、対象物を見失い計測ができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上の課題を解決するために、第一発明は、テレビカメラ、DVD、デジタルビデオ、画像ファイル、ハイビジョン画像ファイルなどから得られる画像データを偶数画面と奇数画面からなるインターレス画像として定期的あるいは不定期的に取り込む画像取り込み部と、偶数画面と奇数画面からなるインターレス画像を同時に処理し、取り込んだ偶数行と奇数行の差異をもとに異常行動を検出する異常行動検出機能を備え、画像データ中の仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の位置と時刻の情報をメモリまたはハードディスクに記録し、一定の時間の間に異常行動検出機能が検出した異常行動の出現数、出現比率、出現数や出現比率の時間的変動を算出することにより、仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の異常行動を測定することを特徴としたインターレス画像を用いた行動解析装置である。
【0005】
また、第二発明は、請求項1の行動解析装置で画像データ中の仔魚、稚魚、プランクトンに個別のID番号を付与し、定期的あるいは不定期に対処物のID番号ごとの位置、時刻および異常行動の有無を計測し、異常行動が検出されない場合は定期的あるいは不定期的な時間間隔で取得した画像データから対象とする微小生物の移動しているであろう方向と範囲を微小生物のこれまでの移動方向、移動速度からから決定し、所定時間間隔後の微小生物を画像データよりID番号に関連づけ、異常行動を検出した場合は、微小生物が移動しているであろう範囲の設定を変更して検索を行う事により、複数の微小生物の行動を連続的に追跡する事が可能なインターレス画像を用いた行動解析装置である。
【0006】
さらに、第三発明は、請求項2のインターレス画像を用いた行動解析装置で、単数あるいは複数の対象物の位置座標を個別IDごとにメモリあるいはハードディスクに記録しておき、記録した個別IDごとの時間および位置の変化をもとに対象物の行動を解析、仕分け、行動特徴の抽出を行う機能を特徴とするインターレス画像を用いた行動解析装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、プランクトンや魚などの行動解析を効率良く行うため、偶数画像と奇数画像により構成されているインターレス画像を同時に解析することにより、プランクトンや魚の行動変化の兆候を検知することを特徴とする行動解析装置に関するものである。プランクトンや魚などが行動パターンを変える場合は急激な動作を伴う事が多いという現象に着目し、急激な動作を異常行動の兆候としてとらえ検出する事を特徴とする。この現象を偶数画面と奇数画面が交互に送信されるインターレス画像を偶数画面、奇数画面を同時に表示することにより、行動パターンを変える兆候として使用できる対象物の急激な動作が、対象物の特徴的な画像として観測される。この画像は、急激な行動により画像の偶数画面と奇数画面として計測した対象物の位置が大きくずれるため、対象物の周辺がギザギザした映像として観測されるものである。本発明では偶数画像と奇数画像を同時に処理することにより異常行動の兆候である対象物を撮影した映像に発生する特徴的な画像を検出することにより、異常行動の検出を行う。対象物映像に特徴的な画像が発生した場合、対象物はこれまでの行動と違った行動を取る可能性が高いため、異常行動として検出し、これまで採用していた対象物を追跡するために必要な検索範囲を変更することにより、追跡ミスや追跡誤差を減らす事が可能となる。一般に異常行動の兆候となる特徴的な画像が得られた後は、微小生物の進行方向が大きく変化したり、速度が大きく変化するため検索範囲を広げることにより対応する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の一実施例を、図1に示す。この実施例ではシャーレなどの浅い液体容器に微小生物を入れ、本発明のインターレス画像を用いた行動解析装置で計測する場合のブロック図である。
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1に示した実施例では、微小生物を海水または淡水2と共にシャーレなどの浅い液体容器3に入れ下方からライトまたはレーザー4で光を照射する事により得られる映像をアナログテレビカメラ1aで計測する。アナログテレビカメラの画像信号はアナログ画像デジタル画像変換器5によりデジタル画像信号に変換され、インターレス画像を用いた行動解析装置6に送られる。インターレス画像を用いた行動解析装置6では偶数画面と奇数画面からなるインターレス画像を処理する事により対象となる微小生物の行動解析を行う。インターレス画像を用いた行動解析装置はCPU6a、インターフェース6b、ハードディスク6c、メモリ6d、モニタ6eから構成されておりインターレス画像を用いて微小生物の行動を解析する。
【0010】
図2は、実施例の取得画像の説明図である。一般的な、1/60secの時間間隔で偶数画面、奇数画面が送信される映像を利用する場合について解析方法を述べる。この場合、偶数画面と奇数画面により構成されるインターレス画像は1/30secで送られてくる事になる。行動解析装置では、1/30secごとに取得できる偶数画面と奇数画面を取り込み、解析を行う。実施例を用いて、異常行動が発生していない場合は図2に示すような映像7aが観測される。ここで計測される微小生物は偶数画面と奇数画面を合成することにより画像8aとして計測できる。
【0011】
図3は、実施例の検出を行う異常行動画像の説明図である。実施例では、異常行動が起きた場合には映像7bが観測される。つまり、微小生物の動きが一時的に速くなったため、偶数画面と奇数画面の映像の差が大きくなり、特徴的な画像として観測される。本発明は偶数画面と奇数画面から構成されるインターレス画像を観測する事によりこの特徴的な画像を抽出し、微小生物の異常行動を検出するものである。
【0012】
図4は、実施例での異常行動の出現計測に関する説明図である。請求項1の発明では、実施例を用いて観測される通常行動と異常行動の出現数および時間の変化による出現数の変動を計測し異常行動データベース9に記録する。異常行動データベース9には通常行動の出現数9aと異常行動の出現数9bが記録される。この異常行動出現データベース9を用いることにより、異常行動の出現数、出現比率、出現数や出現比率の時間的変動を算出し、仔魚、稚魚、プランクトンなどの健康状態を判断する指標とする。
【0013】
図5は、実施例の制御コンピュータブロック図とデータベースの説明図である。画像データとしてはアナログテレビカメラの画像だけでなく、デジタルビデオカメラ1bの画像やDVD、デジタルビデオ、画像ファイル、ハイビジョン画像ファイルの使用も可能である。請求項2の発明ではアナログテレビカメラ1aからの映像はアナログ画像デジタル画像変換器5を通って行動解析装置6に送られる。デジタルビデオカメラの画像は直接行動解析装置に送られる。行動解析装置では、画像データ中の仔魚、稚魚、プランクトンに個別のID番号を付与し、定期的あるいは不定期的に対処物のID番号ごとの位置、時間および異常行動の有無を計測し、行動関連づけデータベース10に記録する。このデータベースにはID番号10a、計測時刻10b、水平座標10c、垂直座標10d、異常行動の有無10eが記録され、計測時間が異なる画像間に記録された微小生物の関連づけに用いられる。
【0014】
図6は、実施例のフロー図である。計測を開始するとまずインターレス画像の取り込みを行う。次に対象物のID番号、位置、計測時間を記録する。インターレス画像から特徴的な画像を抽出することにより異常行動であるか通常行動であるがを判断し、通常行動であれば対応する対象物を検出した後新たなインターレス画像の取り込みを行う。インターレス画像の特徴的な映像から対象とする微小生物が異常行動であると判断した場合は、検索範囲を変更し、偶数画面と奇数画面の分離を行う。これは、異常行動が検出された場合は、偶数画面と奇数画面のズレがおおきく、同時に処理した場合に誤差が大きくなる事を避けるためである。偶数画面と奇数画面で対応する対象物を検出した後、新たなインターレス画像の取り込みを行う。
【0015】
図7は実施例の検索範囲決定に関しての説明図である。通常行動を行っている微小生物8aが観測された場合は、過去の運動履歴より、進行方向、進行速度を予測した後、次のインターレス画像を取得し、11aの検索範囲で検索を行い微小生物の映像12aと対応付けをおこなう。これに対し、異常行動が検出された微小生物8bは次に取得する映像でこれまでの運動とは大きく異なった運動を行う可能性が高いため、現在の位置を中心とした検索範囲11bを設定し、微小生物津の映像12bと対応付けをおこなう。インターレス画像を用いた異常行動を検出することによりこれまでの行動と大きく違う行動をした微小生物12bの関連づけが可能となる。
【0016】
図8は実施例の行動分類に用いるデータベースの説明図である。請求項3の発明では単数あるいは複数の対象物の移動座標を個別IDごとに計測時刻の変化に沿って並び替えてメモリあるいはハードディスクに行動解析データベース13として記録する。個別ID13a、計測時刻13b、計測時刻での水平座標13c、計測時刻での垂直座標13dを用いて、個別IDごとの時間に沿った位置座表を取得し、対象となる微小生物の運動速度変化、進行方向の変化などを取得する事ができる。
【0017】
「実施形態の効果」
この実施形態によれば、インターレス画像を用いた単純な処理により複数の微小生物の異常行動を観測できる。また、多数の微小生物の動きを個別に解析でき、個別IDごとの微小生物の動きを解析できるため、漁業関連の研究機関で問題となっている多数の微小生物の行動解析に利用できる。さらに、行動を解析し分類することにより、外形は似ているが、動きが違う仔魚、稚魚、プランクトンなどの同定に利用可能である。
【0018】
「他の実施形態」
図9に示す他の実施形態では、テレビカメラ1aを防水し、ライトやレーザー4を横から照射する事により、大きな水槽での利用が可能となる。
【0019】
図10に示す他の実施形態では、現場で映像のみをデジタルビデオカメラ1bで取得し、後に行動解析装置6で解析を行うものである。現場には、カメラのみを持ち込めば良いため計測作業の繁雑さを避けることができる。また、DVDやハイビジョンディスク(ブルーレイディスク、HDディスク)などを使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明を用いることにより、養殖漁業を行う現場あるいは漁業関連の研究分野で仔魚、稚魚、プランクトンの行動解析が容易になる。仔魚や稚魚の行動は仔魚や稚魚の健康状態を表す指標として利用可能であるため、養殖魚の飼育作業の高度化に貢献できる。また、養殖魚の餌として使用されるプランクトンの行動解析を本発明の実施例で行うことにより養殖魚用餌の安定供給に貢献できる。また、本発明の実施例を用いることにより、漁業関連の学術研究の効率化、スピードアップ化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例のブロック図である。
【図2】実施例の取得画像の説明図である。
【図3】実施例の検出を行う異常行動画像の説明図である。
【図4】実施例で異常行動の出現計測の説明図である。
【図5】実施例の制御コンピュータブロック図とデータベースの説明図である。
【図6】実施例のフロー図である。
【図7】実施例の検索範囲決定の説明図である。
【図8】実施例の行動の分類に用いるデータベースの説明図である。
【図9】防水カメラを用いた他の実施例のブロック図である。
【図10】デジタルビデオを用いた他の実施例のブロック図である。
【符号の説明】
【0022】
1a アナログテレビカメラ
1b デジタルビデオカメラ
2 容器内の海水または淡水
3 液体容器
4 ライトまたはレーザー
5 アナログ画像デジタル画像変換器
6 行動解析装置
6a CPU
6b インターフェース
6c ハードディスク
6d メモリ
6e モニタ
7a 異常行動が観測されていない映像
7b 異常行動が観測された映像
8a 通常行動中の微小生物の映像
8b 異常行動中の微小生物の映像
9 異常行動データベース
9a 通常行動の出現数
9b 異常行動の出現数
10 行動関連づけデータベース
10a 行動関連づけデータベースID番号
10b 行動関連づけデータベース計測時刻
10c 行動関連づけデータベース水平座標
10d 行動関連づけデータベース垂直座標
10e 行動関連づけデータベース異常行動の有無
11a 通常行動時の検索範囲
11b 異常行動時の検索範囲
12a 通常行動時の対応映像
12b 異常行動時の対応映像
13 行動解析データベース
13a 行動解析データベースID番号
13b 行動解析データベース計測時刻
13c 行動解析データベース水平座標
13d 行動解析データベース垂直座標
n 任意のID番号
Tn,m ID番号nのm番目に計測した時刻
Xn,m ID番号nのm番目に計測した水平座標
Yn,m ID番号nのm番目に計測した垂直座標




【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレビカメラ、DVD、デジタルビデオ、画像ファイル、ハイビジョン画像ファイルなどから得られる画像データを偶数画面と奇数画面からなるインターレス画像として定期的あるいは不定期に取り込む画像取り込み部と、偶数画面と奇数画面からなるインターレス画像を同時に処理し、取り込んだ偶数行と奇数行の差異をもとに異常行動を検出する異常行動検出機能を備え、画像データ中の仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の位置と時刻の情報をメモリまたはハードディスクに記録し、一定の時間の間に異常行動検出機能が検出した異常行動の出現数、出現比率、出現数や出現比率の時間的変動を算出することにより、仔魚、稚魚、プランクトンなどの微小生物の異常行動を測定することを特徴としたインターレス画像を用いた行動解析装置。
【請求項2】
請求項1のインターレス画像を用いた行動解析装置で、画像データ中の仔魚、稚魚、プランクトンに個別のID番号を付与し、定期的あるいは不定期的に対象物のID番号ごとの位置、時間および異常行動の有無を計測し、異常行動が検出されない場合は定期的あるいは不定期的な時間間隔で取得した画像データから対象とする微小生物の移動しているであろう方向と範囲を微小生物のこれまでの移動方向、移動速度からから予測し、所定時間間隔後の微小生物を画像データよりID番号に関連づけ、また、異常行動を検出した場合は、微小生物が移動しているであろう範囲の設定を変更して検索を行う事により、微小生物特有の急激な行動の変化にも対応可能であり、かつ複数の微小生物の行動を連続的に追跡する事が可能なインターレス画像を用いた行動解析装置。
【請求項3】
請求項2のインターレス画像を用いた行動解析装置で、単数あるいは複数の対象物の計測時刻、位置座標を個別IDごとにメモリあるいはハードディスクに記録しておき、記録した個別IDごとの時刻および位置座標の変化をもとに対象物の行動を解析、仕分け、特徴の抽出を行う機能を特徴とするインターレス画像を用いた行動解析装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−272614(P2007−272614A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98133(P2006−98133)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】